説明

油脂組成物

n−3系の多価不飽和脂肪酸の体内への吸収率、組織への移行率が高く、当該脂肪酸が有する薬理作用を充分に発揮し得る組成物を提供する。 ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれるn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドコサヘキサエン酸等のn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質、α−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、エイコサペンタエン酸(EPA)は、魚油やアザラシなどの海獣油中に多く含まれている。これらはすべてn−3系の多価不飽和脂肪酸であり、共通する薬理作用として、中性脂肪の低下作用や血小板凝集の抑制作用が報告されている。更に、ドコサヘキサエン酸には記憶学習能力の向上、視力の向上、抗炎症作用、血しょうコレステロールの低下、ドコサペンタエン酸には、動脈硬化の防止、癌やリウマチへの症状改善、エイコサペンタエン酸には血液粘度の低下、HDLの増加等の薬理作用が報告されており、有望な健康食品素材として注目されている。
【0003】
しかしながら、これらの脂肪酸は組織への移行性が不十分で、これを摂取しても期待される効果が得られないという問題があり、この問題を解決すべく、ドコサヘキサエン酸及び/又はエイコサペンタエン酸の血中への移行性が高められた組成物(例えば、特許文献1参照)など、当該脂肪酸の体内への吸収を促進させるための研究がなされている。
【0004】
また、エイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸等のn−3系多価不飽和脂肪酸は、天然においては、トリグリセリド(魚油)或いはグリセロリン脂質(オキアミ油)の形態で存在していることが多く、グリセロリン脂質型のものは、トリグリセリド型に比べて摂取時の吸収性が高く、かつ多価不飽和脂肪酸自体の酸化劣化に対する安定性が高いことが報告され、近年、食品等の素材として使用されている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。斯かるグリセロリン脂質型の多価不飽和脂肪酸は、常温では固形又は半固形状であることから、そのまま食品等に用いることはできず、専らリノール酸に溶解させた状態で使用されているが、体内への吸収性、組織への移行性は未だ十分であるとは言えない。また、最近、リノール酸の大量摂取が、心臓病、癌、アレルギー過敏症などの主要な危険因子となっていることが判明し、より有用で安全性の高い油状組成物が望まれている。
【0005】
一方、α−リノレン酸は、アマニ油、シソ油、エゴマ油、キリ油に多く含まれ、9,12,15位にシス二重結合をもつ直鎖脂肪酸であり、アレルギー予防、高血圧予防、乳ガンの予防、学習能力向上、視覚の向上に対して効果があることが知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、グリセロリン脂質型のドコサヘキサエン酸等と、α−リノレン酸又はこれを含む油脂を配合した組成物についてはこれまで知られていない。
【特許文献1】特開2001−120189号公報
【特許文献2】特開2001−186898号公報
【特許文献3】特開平06−70717号公報
【非特許文献1】金田輝之、他1名、「DNAは長寿に寄与できるか」食品と開発,1999年,Vol.34,No.8,p.41−43
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、n−3系の多価不飽和脂肪酸の体内への吸収率、組織への移行率が高く、当該脂肪酸が有する薬理作用を充分に発揮し得る組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、斯かる実情に鑑み、鋭意検討した結果、n−3系多価不飽和脂肪酸の供給源として、当該多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質を用い、これにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を配合して油脂組成物とした場合に、当該多価不飽和脂肪酸の体内への吸収を大幅に向上でき、さらに必要な組織へこれらを適切に移行させることもでき、中枢神経機能改善作用、循環機能改善作用等のn−3系多価不飽和脂肪酸が有する薬理作用を充分に発揮し得ることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれるn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記油脂組成物を含有する飲食品を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記油脂組成物を含有する医薬を提供するものである。
【0011】
また本発明は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する中枢神経機能改善剤を提供するものである。
【0012】
また本発明は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する循環機能改善剤を提供するものである。
【0013】
また本発明は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物を投与することを特徴とする中枢神経機能改善方法を提供するものである。
【0014】
また本発明は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物を投与することを特徴とする循環機能改善方法を提供するものである。
【0015】
また本発明は、中枢神経機能改善剤を製造するためのドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物の使用を提供するものである。
【0016】
さらに本発明は、循環機能改善剤を製造するためのドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物の使用を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の油脂組成物は、n−3系の多価不飽和脂肪酸の体内への吸収率及び組織への移行率が高く、当該脂肪酸が有する薬理作用を充分に発揮し得ることから、中枢神経機能改善作用、視力改善作用、循環機能改善作用等を有効に発揮する飲食品又は医薬として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明におけるリン脂質は、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれるn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として有するものである。
ここで、「n−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする」とは、n−3系多価不飽和脂肪酸残基をアシル基として有することを意味し、構成脂肪酸の一部がn−3系多価不飽和脂肪酸であるもの、構成脂肪酸の全てがn−3系多価不飽和脂肪酸であるもの何れであってもよい。
斯かるn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質は、化学的に合成されたもの、オキアミ、イカ、ホタテ等の天然物から抽出されたもの、天然物から抽出され化学処理又は酵素処理等により得られたもののいずれであってもよい(特開2001−186898号公報、特開平9−121879号公報等)。リン脂質の種類としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルカルジオリピン等が挙げられ、好ましくは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリンである。
特に、ドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とするホスファチジルコリン(PC−DHA)、エイコサペンタエン酸を構成脂肪酸とするホスファチジルコリン(PC−EPA)、ドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とするホスファチジルセリン(PS−DHA)、エイコサペンタエン酸を構成脂肪酸とするホスファチジルセリン(PS−EPA)が好ましい。
本発明油脂組成物においては、これらリン脂質を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
本発明におけるα−リノレン酸は、化学的に合成されたものの他、菜種、ひまわり、大豆、アマニ、シソ、エゴマ、キリなどの天然物から抽出又は精製して得られたものでもよい。
【0020】
また、α−リノレン酸を含む油脂としては、菜種油、ひまわり油、大豆油、キャノーラ油、アマニ油、シソ油、エゴマ油、キリ油などが挙げられ、2種以上を混合して用いることもできる。好ましくは、アマニ油、シソ油、エゴマ油、キリ油の1種又は2種以上であり、さらに好ましくは、アマニ油である。斯かる油脂は、リン脂質中のドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸又はエイコサペンタエン酸の生体内への吸収能を向上させる点から、α−リノレン酸1重量部に対して、リノール酸を0〜0.7重量部、さらに0〜0.5重量部、さらに0〜0.25重量部、さらに0〜0.1重量部であるものが好ましく、リノール酸を全く含まないものが特に好ましい。
【0021】
本発明油脂組成物において、リン脂質とα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂の重量比としては、リン脂質1重量部に対して、α−リノレン酸又はα−リノレン酸を含む油脂が0.1〜20重量部、さらに0.25〜10重量部、さらに0.5〜4重量部であるのが好ましく、特に0.75〜2重量部であるのが好ましい。
【0022】
本発明の油脂組成物には、魚介類から抽出された油、例えばマグロ、イワシ、ブリ、ハマチ、アジ、イクラ、オキアミ、ホタテ等から抽出された油、ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等の天然物由来又は化学合成されたその他の油、好ましくは調製が容易なマグロ、イワシ又はオキアミから抽出された油を配合することができる。
【0023】
また、本発明の油脂組成物には、当該油脂組成物が有する中枢神経機能改善作用、視力改善作用又は循環機能改善作用をより高めるための化合物又は生薬を加えることができる。ここで、中枢神経機能改善作用をより高めるための化合物又は生薬としては、例えばウコギ科植物(ニンジン、田七ニンジン等)、エゾウコギ、アルギニン、イチョウ葉、大豆、カルニチン等が挙げられ、視力改善作用をより高めるための化合物又は生薬としては、例えばビルベリー、ブルーベリー、ラズベリー、ルテイン、カシス等が挙げられ、循環機能改善作用をより高めるための化合物又は生薬としては、例えばクエン酸、ゴマ、発芽ゴマ、ルテイン、ニンニク、タマネギ、納豆、エキナセア、ブラックコホシュ等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を適宜加えることができる。特に好適な生薬としては、ニンジン、田七ニンジン、エゾウコギ、ビルベリー、アルギニン、イチョウ葉、ルテインが挙げられる。
【0024】
本発明の油脂組成物には、さらに一般的に用いることができる抗酸化剤を加えることができる。斯かる抗酸化剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、カテキン、アスタキサンチン、セサミン、ポリフェノール類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。好適には、ビタミンEである。
【0025】
本発明の油脂組成物は、n−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質と、α−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂、並びに上述した各種成分を撹拌しながら溶解し、調製することができる。
【0026】
斯くして得られる本発明の油脂組成物は、後記実施例に示すように、リノール酸中に溶解されたPS−DHA、PC−DHA等に比べて、体内への吸収率及び組織への移行率が高く、優れた中枢神経機能改善作用、循環機能改善作用等を発揮する。
従って、本発明の油脂組成物は、中枢神経機能改善作用、循環機能改善作用等を発揮する医薬又は飲食品として有用である。尚、飲食品は、中枢神経機能改善作用、視力改善作用又は循環機能改善作用を発揮する病者用食品、特定保健用食品等とすることができ、必要に応じて、中枢神経機能改善作用、視力改善作用又は循環機能改善作用のために用いられる飲食品である旨の表示を製品、包装又はカタログ等に付した食品とすることができる。
【0027】
本発明の油脂組成物を飲食品として用いる場合の形態としては、固形食品、ゲル状食品、液状食品等のあらゆる飲料又は食品形態とすることが可能であり、例えば、液体、粉末、カプセル、顆粒、タブレット等の形態が挙げられるが、好ましくは、加工が容易なカプセルである。このような飲食品は慣用方法に従って加工することができる。
【0028】
カプセルとして調製する場合、充填内容物として、本発明の油脂組成物以外に、食品に通常使用される添加剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、分散剤、着色剤、香味剤、植物油、長鎖不飽和脂肪酸、中鎖脂肪酸グリセリド類、ポリエチレングリコール類、グリセリン脂肪酸エステル類などの界面活性剤等を用いて調製することができる。カプセル剤の剤形は、ソフトカプセル、硬カプセル、マイクロカプセル等が挙げられるが、好ましくは調製が容易なソフトカプセルである。またゼラチンで構成されるカプセル剤については、不溶化防止のため、充填内容物に大豆レシチン又は卵黄レシチンを加えることが好ましい。
【0029】
ソフトカプセルとして調製する場合、例えばロータリー式全自動ソフトカプセル成型機を用いた打ち抜き法、二枚のゼラチンシート間に充填内溶物を入れ、金型で両面から圧縮して打ち抜く平板法あるいは二重ノズルを用いた滴下法(シームレスカプセル等)等を用いて調製することができる。
【0030】
また本発明による油脂組成物を医薬とする場合には、製剤上許容される担体を加えて常法に従って調製すればよい。医薬の剤形は、特に限定されないが、例えばカプセル剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、散剤及び顆粒剤等が挙げられるが、好ましくは製剤化が容易なカプセル剤である。
【0031】
本発明の中枢神経機能改善剤、循環機能改善剤等の医薬又は飲食品の投与量(有効摂取量)は、一日当りDHAとして、0.5〜25mg/kg体重とするのが好ましく、特に1〜15mg/kg体重、更に2〜8mg/kg体重とするのが好ましい。
以下、実施例により本発明を説明するがこれらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1
離乳直後のICR系雌性マウス(3週齢)をn−3系多価不飽和脂肪酸含有飼料(約3%α−リノレン酸/総脂質)又はn−3系多価不飽和脂肪酸欠乏飼料(約0.04%α−リノレン酸/総脂質)で飼育し、それぞれ正常マウス及びn−3系多価不飽和脂肪酸欠乏マウスを得る。8週齢時に9週齢のICR系雄性マウスと交配させ、第2世代を得る。得られた第2世代は、誕生2日以内に1母獣あたり10匹に間引き、以降も同様の飼料で飼育する。第2世代の7週齢時より、リノール酸(サフラワー油:α−リノレン酸1に対してリノール酸の割合は780)にPS−DHA(ドコサヘキサエン酸を構成脂肪酸とするホスファチジルセリン)を溶解した油脂組成物、及びα−リノレン酸(アマニ油:α−リノレン酸1に対してリノール酸の割合は0.46)にPS−DHAを溶解した油脂組成物を調製し、それぞれ1日量あたり、DHAとして6mg、PSとして9mgを摂取させ、1週間後の血清中のDHA及び、脳内のDHAを測定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、リン脂質のアシル基がDHAである結合体をα−リノレン酸にて溶解させた群は、血清中及び脳内のいずれについてもリノール酸群よりもDHA含量が高くなることが判明した。これは、PS−DHAをα−リノレン酸に溶解することにより、DHA欠乏状態から、DHAが速やかに吸収され、組織に移行していることを示している。最終的には脳組織中の全脂肪酸に対するDHA含量は、約16%となるのであるが、その数値に早く近づくことにより、中枢神経機能に対して、顕著に良好な作用をおよぼすことが推察できる。
【0035】
実施例2
離乳直後のICR系雌性マウス(3週齢)をn−3系多価不飽和脂肪酸含有飼料(約3%α−リノレン酸/総脂質)又はn−3系多価不飽和脂肪酸欠乏飼料(約0.04%α−リノレン酸/総脂質)で飼育し、それぞれ正常マウス及びn−3系多価不飽和脂肪酸欠乏マウスを得る。8週齢時に9週齢のICR系雄性マウスと交配させ、第2世代を得る。得られた第2世代は、誕生2日以内に1母獣あたり10匹に間引き、以降も同様の飼料で飼育する。第2世代の7週齢時より、実施例1にて調製した被験薬物を毎日1回経口投与し、投与開始より、2.5週間後から、4週目までの11日間、ステップ−スルー型学習試験を実施し、結果を表2に示した。
【0036】
(ステップ−スルー型学習試験)
電気ショックを負荷できる暗室と明室からなる装置(小原医科産業、Model PA−M1)を用いた。マウスを明室に入れるとその習性から暗室へ移動するが、暗室では床のグリッドに約36Vの電気ショックが与えられるようになっているので、これを回避するために直ちに明室へ戻ってくる。一度電気刺激を受けたマウスは、そのセッションでは再び電気刺激を受けないようにホームケージに戻す。翌日より、測定時間を最大5分として10日間同様の操作を繰り返し、10日間の失敗回数を指標として各群を評価した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2より、リノール酸を多く含むサフラワー油を用いた場合と比べて、α−リノレン酸を多く含むアマニ油を用いると、10日間の失敗回数が少なくなることが判明した。学習効果は、わずかな差があると、繰り返し行うことにより、相乗的にその差が大きくなることから、表2の差はα−リノレン酸の有用性を十分証明することができた。
【0039】
実施例3 PC−DHAの実施例
実施例1及び2と同様、n−3系多価不飽和脂肪酸欠乏マウス第2世代のICR系マウスを得る。第2世代の雄性マウス10ないし13週齢に、PC−DHAをリノール酸で溶解した油脂組成物、及びPC−DHAをα−リノレン酸で溶解した油脂組成物を調製し、1日当たりDHAとして11mg、PCとして11mgを摂取させ、2時間後の血漿DHAおよび4日間連続摂取後の5日目の血漿ならびに赤血球中のDHAを測定した。結果を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
表3より、実施例1と同様、PC−DHAに対しても、PC−DHAをα−リノレン酸に溶解することにより、DHA欠乏状態から、DHAが速やかに吸収され、組織に移行していることを示している。PC−DHAは、赤血球へ特異的に移行することが知られており、最終的には赤血球中の全脂肪酸に対するDHA含量は約6%となるのであるが、その数値に早く近づくことにより、赤血球の流動性が増す等、循環機能に対して、顕著に良好な作用をおよぼすことが推察できる。
【0042】
実施例4 ソフトカプセル剤の調製
(1)表4に示した各成分をホモジナイザー(10000rpm、5分間)で均一になるように攪拌し、充填内容物を調製した。
【0043】
【表4】

【0044】
(2)ゼラチン45質量%、グリセリン15質量%及び水40質量%からなるゼラチン溶液を80℃で溶解、脱泡した後、約10時間静置してロータリー式ソフトカプセル充填機(オバール6型)を用いて、(1)で調製した充填内容物(A−1及びA−2)を各々360mg充填した。カプセル充填後、温度27℃、湿度50%以下で、皮膜水分8%まで乾燥し、ソフトカプセル剤を製造した。これらのソフトカプセルは、40℃、湿度75%に1週間保存したが、内容物は変化せず、カプセルの崩壊性についても問題は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれるn−3系多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物。
【請求項2】
リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸又はホスファチジルカルジオリピンである請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
α−リノレン酸を含む油脂が、アマニ、シソ、エゴマ及びキリから選ばれる植物由来のものである請求項1又は2記載の油脂組成物。
【請求項4】
魚介類から抽出された油を含むものである請求項1〜3のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項5】
中枢神経機能改善作用、視力改善作用又は循環機能改善作用をもつ化合物又は生薬の1種又は2種以上を含むものである請求項1〜4のいずれか1項記載の油脂組成物。
【請求項6】
化合物又は生薬が、ニンジン、田七ニンジン、エゾウコギ、ビルベリー、アルギニン、イチョウ葉及びルテインから選ばれるものである請求項5記載の油脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の油脂組成物を含有する飲食品。
【請求項8】
中枢神経機能改善、視力改善又は循環機能改善のために用いられる旨の表示を付した請求項7記載の飲食品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項記載の油脂組成物を含有する医薬。
【請求項10】
ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する中枢神経機能改善剤。
【請求項11】
ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する循環機能改善剤。
【請求項12】
ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物を投与することを特徴とする中枢神経機能改善方法。
【請求項13】
ドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物を投与することを特徴とする循環機能改善方法。
【請求項14】
中枢神経機能改善剤を製造するためのドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物の使用。
【請求項15】
循環機能改善剤を製造するためのドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸及びエイコサペンタエン酸から選ばれる多価不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質の1種又は2種以上並びにα−リノレン酸及び/又はα−リノレン酸を含む油脂を含有する油脂組成物の使用。

【国際公開番号】WO2005/061684
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516489(P2005−516489)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019051
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】