説明

油脂臭の新規脱臭法及びその組成物

油脂、例えば高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物に、カロチノイド類例えばキサントフィル類を含有させて成る、油脂臭の脱臭が施された組成物、並びに油脂にカロチノイド類を含有させることを特徴とする、油脂臭の脱臭法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂とカロチノイド類を組み合わせることを特徴とする油脂臭の新規脱臭法、さらに、新規脱臭が施された組成物に関するものである。
【背景技術】
ヒトの高度不飽和脂肪酸の生合成経路には、代表的な2つの系列、オメガ3系とオメガ6系がある(オメガとは、脂肪酸のメチル基末端から数えて最初の二重結合がある炭素までの数を示している)。そして、オメガ6系高度不飽和脂肪酸としてリノール酸、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸及びアラキドン酸などが、オメガ3系高度不飽和脂肪酸としてα−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などが知られている。
これら高度不飽和脂肪酸、例えば、アラキドン酸は、血液や肝臓などの重要な器官を構成する脂肪酸の約10%程度を占めており(例えば、ヒト血液のリン脂質中の脂肪酸組成比では、アラキドン酸は11%、エイコサペンタエン酸は1%、ドコサヘキサエン酸は3%)、細胞膜の主要構成成分として膜の流動性の調節に関与し、体内の代謝で様々な機能を示す一方、プロスタグランジン類の直接の前駆体として重要な役割を果たす。
特に最近は、乳幼児栄養としてのアラキドン酸の役割、神経活性作用を示す内因性カンナビノイド(2−アラキドノイルモノグリセロール、アナンダミド)の構成脂肪酸として注目されている。そして、アラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物については、最近、特開2003−48831号公報「脳機能の低下に起因する症状あるいは疾患の予防又は改善作用を有する組成物」において、加齢動物をモリス型水迷路試験に供して、加齢に伴う学習能の低下をアラキドン酸及び/又はアラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物を投与することにより改善することが明らかにされている。
次に、オメガ3系高度不飽和脂肪酸として、エイコサペンタエン酸(以下「EPA」と称する)及びドコサヘキサエン酸(以下「DHA」と称する)については、動脈硬化症、血栓症などの生活習慣病の予防効果や抗ガン作用、学習能の増強作用など多くの生理機能を有していることが知られ、医薬品、特定保健用食品での利用が試みられている。
オメガ6系高度不飽和脂肪酸はリノール酸を、オメガ3系高度不飽和脂肪酸はα−リノレン酸を前駆体として生体内で生合成される。ただ、ヒトはリノール酸及びα−リノレン酸を生合成することはできないため、植物性食品から摂取して、不飽和化と炭素鎖長の延長を繰り返し、例えば、リノール酸を前駆体とするオメガ6系高度不飽和脂肪酸の場合は、γ−リノレン酸、ジホモ−γ−リノレン酸、アラキドン酸に変換される。したがって、通常はリノール酸及びα−リノレン酸を富む食品を摂取すればアラキドン酸、EPA及びDHAは十分生合成される。しかし、生活習慣病患者やその予備軍、乳児、老人では生合成に関与する酵素の働きが低下し、これら高度不飽和脂肪酸は不足しがちとなり油脂として、直接に摂取することが望まれる。
高度不飽和脂肪酸は炭素数18以上、二重結合が2つ以上をもつ脂肪酸であり、自動酸化されやすく酸化臭を生じる。一般に脱臭原理の基づく方法として、(1)吸着法(活性炭、ゼオライト)、(2)溶解法(シリカゲルなどの脱臭剤)、(3)分解法(バイオ分解、酸化分解(オゾンO)、加水分解(光触媒OH)、イオン分解(酸素クラスターイオン)、燃焼法(酸化触媒法・直接法))及び(4)凝固法(高分子化合物で包んで落とす)が知られている。
そして、油脂の脱臭法には、活性炭のような「物理的脱臭」が有効で、油脂を食品に供するための精製工程に脱臭操作が組み込まれている。しかし、高度不飽和脂肪酸を高含有する油脂の場合、魚油を例にとっても明らかなように油脂臭を完全に取り除くことはできず、健康を維持するために常用するとなると油脂臭を我慢し続ける必要がありかなりの無理があった。また、常用可能を目指して高精度の脱臭を施す場合にはコストアップにつながり、実用的な手法ではありえなかった。
そして、油脂をカプセル化すれば摂取時の油脂臭は防ぐことができるが、摂取後の戻り臭があり、実際には油脂そのものを脱臭する必要があった。脱臭の別な方法として、中和(異なった複数の臭気による相殺方法)やマスキング(別な臭いでごまかす)が知られているが、食品として供するためには嗜好のある臭い(マスキングの場合は香り)を使用するのには問題があり、また、油脂に可溶な香りである必要もあり、全く新しい脱臭法の開発が望まれていた。
したがって、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂に対する常用する食品への適応に適した新規脱臭法の開発並びに新規脱臭法を施された組成物の開発が望まれていた。
【特許文献1】 特開2003−48831号公報
【発明の開示】
従って本発明は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂とカロチノイド類を組み合わせることを特徴とする油脂臭の新規脱臭法、さらに、新規脱臭が施された組成物に関するものである。
本発明者等は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂の脱臭効果を認める脂溶性素材を鋭意研究した結果、驚くべきことに、カロチノイド類に脱臭効果を有することを明らかにした。
従って本発明は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂とカロチノイド類を組み合わせることを特徴とする油脂臭の新規脱臭法、さらに、新規脱臭が施された組成物を提供する。
従って、本発明は、油脂にカロチノイド類を含有させて成る、油脂臭の新規脱臭が施された組成物を提供する。本発明は更に、油脂にカロチノイド類を含有させることを特徴とする、油脂臭の脱臭法を提供する。
前記組成物又は方法において、好ましくは、前記油脂は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物であり、例えば、高度不飽和脂肪酸酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質である。前記高度不飽和脂肪酸は、例えば、オメガ6系高度不飽和脂肪酸及び/又はオメガ3系高度不飽和脂肪酸及び/又はオメガ9系高度不飽和脂肪酸である。
上記オメガ6系不飽和脂肪酸は、例えば、9,12−オクタデカジエン酸(リノール酸)18:2ω6、6,9,12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)[18:3ω6]、8,11,14−エイコサトリエン酸(ジホモ−γ−リノレン酸)[20:3ω6]、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)[20:4ω6]、7,10,13,16−ドコサテトラエン酸22:4ω6又は4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸[22:5ω6]であり;上記オメガ3系不飽和脂肪酸は、例えば、9,12,15−オクタデカトリエン酸(α−リノレン酸)[18:3ω3]、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)[18:4ω3]、11,14,17−エイコサトリエン酸(ジホモ−α−リノレン酸)[20:3ω3]、8,11,14,17−エイコサテトラエン酸[20:4ω3]、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸[20:5ω3]、7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸[22:5ω3]又は4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸[22:6ω3]であり;そして上記オメガ9系不飽和脂肪酸は、例えば、6,9−オクタデカジエン酸[18:2ω9]、8,11−エイコサジエン酸[20:2ω9]又は5,8,11−エイコサトリエン酸(ミード酸)[20:3ω9]である。
前記組成物又は方法において、オメガ6系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドは、例えば、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物を培養して得られた菌体から抽出したものである。前記オメガ3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドは、例えば、魚油である。前記カロチノイド類は、例えばカロチン類又はキサントフィル類、例えば、β−カロチン、α−カロチン、β−クリプトキサンチン、α−クリプトキサンチン、γ−カロチン、リコペン、ルテイン、フコキサンチン、カプサンチン、ゼアキサンチン、フィトフルエン、フィトエン、カンタキサンチン、アスタキサンチンである。
前記組成物及び方法において、好ましくは、油脂を構成する高度不飽和脂肪酸に対するカロチノイド類の割合は0.00001〜0.1であり、例えば0.0001〜0.01であり、更に好ましくは0.001〜0.01である。前記組成物は、例えば、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品又は老人用食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂とカロチノイド類を組み合わせることを特徴とする油脂臭の新規脱臭法、さらに、新規脱臭が施された組成物に関するものである。
本発明の対象となる油脂には、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物を利用することができる。高度不飽和脂肪酸とは、炭素数18以上で、二重結合を2以上有する脂肪酸を示し、9,12−オクタデカジエン酸(リノール酸)[18:2ω6]、6,9,12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)[18:3ω6]、8,11,14−エイコサトリエン酸(ジホモ−γ−リノレン酸)[20:3ω6]、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)[20:4ω6]、7,10,13,16−ドコサテトラエン酸[22:4ω6]、又は4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸[22:5ω6]であるオメガ6系の高度不飽和脂肪酸;
9,12,15−オクタデカトリエン酸(α−リノレン酸)[18:3ω3]、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)[18:4ω3]、11,14,17−エイコサトリエン酸(ジホモ−α−リノレン酸)[20:3ω3]、8,11,14,17−エイコサテトラエン酸[20:4ω3]、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸[20:5ω3]、7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸[22:5ω3]、又は4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸[22:6ω3]であるオメガ3系の高度不飽和脂肪酸;さらに、
6,9−オクタデカジエン酸[18:2ω9]、8,11−エイコサジエン酸[20:2ω9]、又は5,8,11−エイコサトリエン酸(ミード酸)[20:3ω9]であるオメガ9系の高度不飽和脂肪酸を挙げることができる。
例えば、高度不飽和脂肪酸がアラキドン酸である場合には、アラキドン酸を構成脂肪酸とするすべての化合物を利用することができる。
アラキドン酸を構成脂肪酸とする化合物には、アラキドン酸塩、例えばカルシウム塩、ナトリウム塩などを挙げることができる、また、アラキドン酸の低級アルコールエステル、例えばアラキドン酸メチルエステル、アラキドン酸エチルエステルなどを挙げることができる、また、アラキドン酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、リン脂質、さらには糖脂質などを利用することができる。なお、本発明は上記に挙げたものに限定しているわけではなく、アラキドン酸を構成脂肪酸とするすべての化合物を利用することができる。
食品への適応を考えた場合、油脂としてはトリグリセリドの形態が特に望ましい。アラキドン酸を含有するトリグリセリドの天然界の給源はほとんど存在していなかったが、すでにアラキドン酸を含有するトリグリセリドを工業的に利用することが可能となり、食用油脂として供することが可能となった。したがって、本発明の油脂に、構成脂肪酸の一部及び/又は全部がアラキドン酸であるトリグリセリドを含有するトリグリセリド(アラキドン酸を含有するトリグリセリド)を供することができる。アラキドン酸を含有するトリグリセリドとしては、トリグリセリドを構成する全脂肪酸に占めるアラキドン酸の割合に限定はなく、高度不飽和脂肪酸のひとつであるアラキドン酸に起因する油脂臭をカロチノイド類の添加により効果的に脱臭することができる。
アラキドン酸を含有する油脂(トリグリセリド)を工業的に利用するには、アラキドン酸を生産する能力を有する微生物を培養して得られた菌体から油脂を抽出することで利用可能となる。
アラキドン酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)の生産能を有する微生物としては、モルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium)属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicilliu)属、クロドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillu)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、エントモフトラ(Entomophthora)属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、サプロレグニア(Saprolegnia)属に属する微生物を挙げることができる。
モルティエレラ(Mortierella)属モルティエレラ(Mortierella)亜属に属する微生物では、例えばモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等を挙げることができる。
具体的にはモルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)IFO8570、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)IFO8571、モルティエレラ・フィグロフィラ(Mortierella hygrophila)IFO5941、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)IFO8568、ATCC16266、ATCC32221、ATCC42430、CBS219.35、CBS224.37、CBS250.53、CBS343.66、CBS527.72、CBS529.72、CBS608.70、CBS754.68等の菌株を挙げることができる。
これらの菌株はいずれも、大阪市の財団法人醗酵研究所(IFO)、及び米国のアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection,ATCC)及び、Centrralbureau voor Schimmelcultures(CBS)からなんら制限なく入手することができる。また本発明の研究グループが土壌から分離した菌株モルティエレラ・エロンガタSAMO219(微工研菌寄第8703号)(微工研条寄第1239号)を使用することもできる。
アラキドン酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)の生産能を有する微生物を培養する為には、その菌株の胞子、菌糸、又は予め培養して得られた前培養液を、液体培地又は固体培地に接種し培養する。液体培地の場合に、炭素源としてはグルコース、フラクトース、キシロース、サッカロース、マルトース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール等の一般的に使用されているものが、いずれも使用できるが、これらに限られるものではない。
窒素源としてはペプトン、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、カザミノ酸、コーンスティープリカー、大豆タンパク、脱脂ダイズ、綿実カス等の天然窒素源の他に、尿素等の有機窒素源、ならびに硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を用いることができる。この他必要に応じリン酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅等の無機塩及びビタミン等も微量栄養源として使用できる。これらの培地成分は微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。実用上一般に、炭素源は0.1〜40重量%、好ましくは1〜25重量%の濃度するのが良い。初発の窒素源添加量は0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜6重量%として、培養途中に窒素源を流加しても構わない。
さらに、培地炭素源濃度を制御することでアラキドン酸を45%以上含有する油脂(トリグリセリド)も産生可能となり、油脂として供することができる。具体的な培養は、培養2−4日目までが菌体増殖期、培養2−4日目以降が油脂蓄積期となる。初発の炭素源濃度は1−8重量%、好ましくは1−4重量%の濃度とし、菌体増殖期および油脂蓄積期の初期の間のみ炭素源を逐次添加し、逐次添加した炭素源の総和は2−20%、好ましくは5−15%とする。なお、菌体増殖期および油脂蓄積期初期の間での炭素源の逐次添加量は、初発の窒素源濃度に応じて添加し、培養7日目以降、好ましくは培養6日目以降、より好ましくは培養4日目以降の培地中の炭素源濃度を0となるようにすることで得ることができる。
アラキドン酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)の生産能を有する微生物の培養温度は、使用する微生物によりことなるが、5〜40℃、好ましくは20〜30℃とし、また20〜30℃にて培養して菌体を増殖せしめた後5〜20℃にて培養を続けて高度不飽和脂肪酸を生産せしめることもできる。このような温度管理によっても、生成脂肪酸中の高度不飽和脂肪酸の割合を上昇せしめることができる。培地のpHは4〜10、好ましくは5〜9として通気攪拌培養、振盪培養、又は静置培養を行う。培養は通常2〜30日間、好ましくは5〜20日間、より好ましくは5〜15日間行う。
さらに、本発明の対象となる油脂として、ジホモ−γ−リノレン酸あるいはオメガ9系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)も供することができる。すでに、ジホモ−γ−リノレン酸を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)を効率よく製造する方法が開発されている(特許番号3354581)。さらにオメガ9系高度不飽和脂肪酸(6,9−オクタデカジエン酸(18:2 ω9)、8,11−エイコサジエン酸(20:2 ω9)若しくは5,8,11−エイコサトリエン酸(20:3 ω9))を構成脂肪酸とする油脂(トリグリセリド)を効率良く製造する方法についても、モルティエレラ属モルティエレラ亜属の属する微生物に変異処理を施して得られる、Δ12不飽和化酵素が低下又は欠失している変異株を用いてω9系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を製造する方法が開発されている(特許番号3354582、特開平10−57085、特開平5−91886)。
さらに、本発明の対象となる油脂として、オメガ3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂も供することができる。具体的には、ツナ油、イワシ油、カツオ油、タラ油、亜麻仁油を挙げることができる。さらに、オメガ3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂を効率よく産生する微生物を培養して、抽出して得た油脂も使用することができる。オメガ3高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂の生産能を有する微生物としては、クリプテコデニウム(Crypthecodenium)属、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia)属、ジャポノキトリウム(Japonochytorium)属、ハリフォトリス(Haliphthoros)属を挙げることもできる。
高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂にカロチノイド類を組み合わせることで油脂臭を低下又は軽減又は脱臭することができる。具体的なカロチノイド類として、β−カロチン、α−カロチン、β−クリプトキサンチン、α−クリプトキサンチン、γ−カロチン、リコペン、ルテイン、フコキサンチン、カプサンチン、ゼアキサンチン、フィトフルエン、フィトエン、カンタキサンチン、アスタキサンチンを挙げることができる。
油脂臭の脱臭に必要なカロチノイド類の配合割合は、油脂を構成する高度不飽和脂肪酸の総和に対するカロチノイド類の割合として、0.00001〜0.1とし、好ましく0.0001〜0.01とし、さらに好ましく0.001〜0.01とする。
高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする化合物、より詳細には、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、さらにリン脂質の群から選ばれた少なくともひとつからなる油脂(トリグリセリド)の用途に関しては無限の可能性があり、食品、飲料、化粧品、医薬品の原料並びに添加物として使用することがでる。そして、その使用目的、使用量に関して何ら制限を受けるものではない。
例えば、食品組成物としては、一般食品の他、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦食品又は老人用食品等を挙げることができる。油脂を含む食品例として、肉、魚、またはナッツ等の本来油脂を含む天然食品、スープ等の調理時に油脂を加える食品、ドーナッツ等の熱媒体として油脂を用いる食品、バター等の油脂食品、クッキー等の加工時に油脂を加える加工食品、あるいはハードビスケット等の加工仕上げ時に油脂を噴霧または塗布する食品等が挙げられる。さらに、油脂を含まない、農産食品、醗酵食品、畜産食品、水産食品、または飲料に添加することができる。さらに、機能性食品・医薬品の形態であっても構わなく、例えば、経腸栄養剤、粉末、顆粒、トローチ、内服液、懸濁液、乳濁液、シロップ等の加工形態であってもよい。
【実施例】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定されない。
実施例1. 油脂臭の脱臭効果に対する官能試験
アラキドン酸を構成脂肪酸として25%含有する油脂(トリグリセリド)64重量%とDHAを構成脂肪酸として46%含有する精製魚油(トリグリセリド)36重量%を混合してコントロール油とした。コントロール油に、表1のような濃度でアスタキサンチンやその他色素を添加し、5種類のサンプル油を調製した。臭いの脱臭効果について15名のパネラーで官能試験を行った。コントロール油の臭いを0として、サンプル油の臭いを下記基準で5段階評価した。

結果より、カロチノイド類であるアスタキサンチン、β−カロチンで明らかな脱臭効果が認められた。
なお、コントロール油にアスタキサンチンやその他色素を添加した直後の官能試験のため、油脂の保存中に油脂の酸化を防ぐことで、それに伴う酸化臭を予防するのではというアスタキサンチンの抗酸化効果によるものではないことは明らかであり、脱臭効果という全く新しい事実が発見された。
実施例2. アラキドン酸含有油脂とDHA含有油脂とアスタキサンチン含有ヘマトコッカス藻抽出物を含むソフトカプセルの製造
ゼラチン100重量部及び食品添加物用グリセリン30重量部に水を加え50〜60℃で溶解し、ゼラチン被膜を調製した。次にアラキドン酸を構成脂肪酸として25%含有する油脂(トリグリセリド)62.5重量%とDHAを構成脂肪酸として46%含有する精製魚油(トリグリセリド)36重量%と4.7%アスタキサンチン含有ヘマトコッカス藻抽出物1.5重量%を窒素気流下で混合し、内容物を調製した。これらゼラチン被膜と内容物を用いて、常法によりカプセル成形及び乾燥を行い、1粒当たり248mgの内容物を含有するソフトカプセルを製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂にカロチノイド類を含有させて成る、油脂臭の脱臭が施された組成物。
【請求項2】
前記油脂が高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物が、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、又は高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記高度不飽和脂肪酸が、オメガ6系高度不飽和脂肪酸、オメガ3系高度不飽和脂肪酸もしくはオメガ9系高度不飽和脂肪酸、またはこれらの組合わせである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記オメガ6系不飽和脂肪酸が、9,12−オクタデカジエン酸(リノール酸)18:2ω6、6,9,12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)18:3ω6、8,11,14−エイコサトリエン酸(ジホモ−γ−リノレン酸)20:3ω6、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)20:4ω6、7,10,13,16−ドコサテトラエン酸22:4ω6又は4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸22:5ω6である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記オメガ3系不飽和脂肪酸が、9,12,15−オクタデカトリエン酸(α−リノレン酸)18:3ω3、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)18:4ω3、11,14,17−エイコサトリエン酸(ジホモ−α−リノレン酸)20:3ω3、8,11,14,17−エイコサテトラエン酸20:4ω3、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸20:5ω3、7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸22:5ω3又は4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸22:6ω3である、請求項1〜4のいずれか1項に4記載の組成物。
【請求項7】
前記オメガ9系不飽和脂肪酸が、6,9−オクタデカジエン酸18:2ω9、8,11−エイコサジエン酸20:2ω9又は5,8,11−エイコサトリエン酸(ミード酸)20:3ω9である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記オメガ6系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物を培養して得られた菌体から抽出したものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記オメガ3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが魚油である、請求項1〜4及び6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記カロチノイド類が、β−カロチン、α−カロチン、β−クリプトキサンチン、α−クリプトキサンチン、γ−カロチン、リコペン、ルテイン、フコキサンチン、カプサンチン、ゼアキサンチン、フィトフルエン、フィトエン、カンタキサンチン、アスタキサンチンである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
油脂を構成する高度不飽和脂肪酸に対するカロチノイド類の割合が0.00001〜0.1である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
油脂を構成する高度不飽和脂肪酸に対するカロチノイド類の割合が0.0001〜0.01である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
油脂を構成する高度不飽和脂肪酸に対するカロチノイド類の割合が0.001〜0.01である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品又は老人用食品である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
油脂にカロチノイド類を含有させることを特徴とする、油脂臭の脱臭法。
【請求項16】
前記油脂が、高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物である、請求項15記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項17】
前記高度不飽和脂肪酸または高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として含んでなる化合物が、高度不飽和脂肪酸のアルコールエステル、高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリド、又は高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするリン脂質である請求項15又は16に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項18】
前記高度不飽和脂肪酸が、オメガ6系高度不飽和脂肪酸、オメガ3系高度不飽和脂肪酸もしくはオメガ9系高度不飽和脂肪酸、又はこれらの混合物である、請求項15〜17のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項19】
前記オメガ6系不飽和脂肪酸が、9,12−オクタデカジエン酸(リノール酸)18:2ω6、6,9,12−オクタデカトリエン酸(γ−リノレン酸)18:3ω6、8,11,14−エイコサトリエン酸(ジホモ−γ−リノレン酸)20:3ω6、5,8,11,14−エイコサテトラエン酸(アラキドン酸)20:4ω6、7,10,13,16−ドコサテトラエン酸22:4ω6又は4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸22:5ω6である、請求項15〜18のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項20】
前記オメガ3系不飽和脂肪酸が、9,12,15−オクタデカトリエン酸(α−リノレン酸)18:3ω3、6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸(ステアリドン酸)18:4ω3、11,14,17−エイコサトリエン酸(ジホモ−α−リノレン酸)20:3ω3、8,11,14,17−エイコサテトラエン酸20:4ω3、5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸20:5ω3、7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸22:5ω3又は4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸22:6ω3である、請求項15〜18のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項21】
前記オメガ9系不飽和脂肪酸が、6,9−オクタデカジエン酸18:2ω9、8,11−エイコサジエン酸20:2ω9又は5,8,11−エイコサトリエン酸(ミード酸)20:3ω9である、請求項15〜18のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項22】
前記オメガ6系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物を培養して得られた菌体から抽出したものである、請求項15〜19のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項23】
前記オメガ3系高度不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドが魚油である、請求項15〜18及び20のいずれか1項に記載の油脂臭の脱臭法。
【請求項24】
前記カロチノイド類が、β−カロチン、α−カロチン、β−クリプトキサンチン、α−クリプトキサンチン、γ−カロチン、リコペン、ルテイン、フコキサンチン、カプサンチン、ゼアキサンチン、フィトフルエン、フィトエン、カンタキサンチン、アスタキサンチンである、請求項15〜23のいずれか1項に記載の油脂臭の新規脱臭法。

【国際公開番号】WO2004/108870
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506858(P2005−506858)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008284
【国際出願日】平成16年6月8日(2004.6.8)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】