説明

油類検出用および/または回収用用具

【課題】 (1)(イ)特開2005−069944号公報記載の多孔質袋状物または(ロ)親油性合成樹脂よりなる織布または不織布のすくなくとも一端に、(2)水より油を優先的に吸収する膜状物、を接合させてなる油類検出用および/または回収用用具の提供。
【解決手段】
(A)(イ)その中に油分吸収性材料を収納した多孔質袋状物、
または、
(ロ)親油性合成樹脂よりなる織布または不織布
のすくなくとも一端に、
(B)その膜状物上に0.5mlの水をスポイトで滴下したとき水滴が膜状物に吸収され
始めるまでの時間が15秒以上であり、膜状物上に0.5mlの油をスポイトで滴下
したとき油滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が5秒以下である膜状物
の少なくとも一部を接合させたものであることを特徴とする油類検出用および/または回収用用具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や油槽所、ガソリンスタンド等の地下埋設タンク及びそれからの配管等から漏洩した石油類、土壌調査等でボーリングした井戸へ浸出した油類あるいは地下水と共に浸出した汚染油などの有無の判定(すなわち油類の検出)および/または回収に有用な用具に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、油槽所、ガソリンスタンド等の地下埋設タンクがある施設では、地下タンクなどからの油分の漏洩を早急に見つける目的で定期点検の実施が法律で義務付けられている。その対応策としては、管もしくは井戸内の地下水を、適当な容器に採取するか吸引ポンプに接続したチューブで回収してチェックするという方法や漏洩検知棒を管もしくは井戸に挿入して検知棒を目視で確認する方法が行なわれていた。
時にはタンク内のガソリン残量等を測定する時に用いる検尺を活用し、それにオイルペースト(三共化学)を塗布し、オイルペーストの変色により漏洩油の有無を判定する方法が取られていた。また、もう1つの方法としては検知管のガスを検知する方法も知られている(JIS K01028、JIS K010210.1、EPA 4030、EPA 4035など参照)。
【0003】
従来の方法において検知管や井戸から漏洩油を回収する(分析に必要な量を採取するのが主な目的)方法では、漏洩油が充分存在する場合には容易に検知出来るが、漏洩の初期のように油量が少ない場合には判定が困難であり、とくに目視による判定が困難な場合には、分析機器を用いた分析が必要であった。一方、検知棒、検尺は計器類の整備と共に使用される機会が減少しているのが現状である。また、前記オイルペーストは塗布してから時間が経過するにつれ赤色に発色し、時としては漏洩油が付着して発色したのか否かの判定を困難にする場合もある。ガス検知の場合には正確を期すためには捕集バッグに採取しなければならず、ガス検知は簡易ではない。漏洩油が地下水に浸出している場合は地下水と同時に回収する方法が取られているが、地下水が存在することも検知できる条件の一部となっており、これらいずれの方法も漏洩油の存在をすばやく判定する充分な方法とは言い難い。
【0004】
また、大型タンクや容器、配管、その接合部などからの油漏れを検知するための技術として、特許文献1では、(a)揮発性溶剤、(b)濡れると透明になり乾燥すると不透明になる白色無機粉末、(c)着色顔料、とを主成分とする漏洩検査剤を検査物表面に塗布し、その色調の変化をチェックする技術が提案されており、特許文献2では、通気性フィルムとその上に設けられた色調の濃い着色層と、該着色層上に設けられた濡れると透明になり乾燥すると不透明になる白色層よりなる漏洩検査材を検査物表面に貼り付け、その色調の変化をチェックする技術が開示されており、特許文献3では、粒径が10μm以下の油溶性染料0.1〜5重量%と白色微粉末5〜70重量%を含有する水系分散型油用検査剤を検査物表面に塗布し、その色調の変化をチェックする技術が提案されており、特許文献4では、粒径が10μm以下の油溶性染料0.1〜5重量%、分散剤0.05〜5重量%、白色微粉末5〜70重量%、および水系バインダー0.5〜50重量%を含有する水系分散型油用漏洩検知塗料を検査体に塗布し、その色調の変化をチェックする技術が開示されており、特許文献5では、耐熱性と通液性とを有する可撓性シート材に、前記各種の油用漏洩検知剤を検査体の表面に均一厚さに付着させ、その色調の変化をチェックする技術が開示されている。しかしながら、これらの技術は、いずれもタンクや配管などの検査体に検知剤を接触させてその色調の変化をチェックする技術であり、地下に漏洩している油分を検知しようという技術思想ではない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−142166号公報
【特許文献2】特開平10−185742号公報
【特許文献3】特開平11−030594号公報
【特許文献4】特開平11−044604号公報
【特許文献5】特開2001−221705公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前述の欠点を解消するため先に出願した特願2003−30192号発明を更に改良した油類検出用および/または回収用用具を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(1)(イ)特開2005−069944号公報記載の多孔質袋状物または(ロ)親油性合成樹脂よりなる織布または不織布のすくなくとも一端に、(2)水より油を優先的に吸収する膜状物、を接合させてなる油類検出用および/または回収用用具に関する。
【0008】
本発明の第1は、
(A)(イ)その中に油分吸収性材料を収納した多孔質袋状物、
または、
(ロ)親油性合成樹脂よりなる織布または不織布
のすくなくとも一端に、
(B)その膜状物上に0.5mlの水をスポイトで滴下したとき水滴が膜状物に吸収され
始めるまでの時間が15秒以上であり、膜状物上に0.5mlの油をスポイトで滴下
したとき油滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が5秒以下である膜状物
の少なくとも一部を接合させたものであることを特徴とする油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第2は、前記多孔質袋状物がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれた合成樹脂よりなるものである請求項1記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第3は、前記親油性合成樹脂がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれた合成樹脂よりなるものである請求項1記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第4は、前記油分吸収性材料が珪藻土、白土、炭、活性アルミナ、シリカゲルおよびこれらの混合物よりなる群から選ばれたものである請求項1または2記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第5は、前記(B)の膜状物が、多孔質合成樹脂製フィルムである請求項1〜4いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第6は、前記(B)の膜状物が、ASTM D570による吸水率0.7%以下である請求項1〜5いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
本発明の第7は、前記(B)の膜状物が、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレンおよびポリ塩化ビニリデンよりなる群から選ばれた材料で構成されたものである請求項1〜6いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具に関する。
【0009】
前記(A)の役割は分析に必要な量の油分を回収する点にあり、前記(B)の役割は、肉眼で直ちに油分の存否を識別する点にある。
【0010】
前記(A)の(イ)における油分吸収性材料としては、珪藻土、白土(酸性白土、ベントナイトなど)、炭(活性炭を含む)、活性アルミナ、シリカゲルなどの多孔性無機材料およびこれらの混合物、あるいは炭化を進行させた木材、植物繊維、親油性木質、人工的に作られた中空糸等の多孔性有機材料およびこれらの混合物、前記無機材料と有機材料の混合物などを挙げることができる。前記炭は、水にぬれた状態であってもさらに油を吸収するという不思議な能力を有する。多孔性物質はその空隙に吸収した油分を保持するため、吸収された油分は簡単に再放出されることもなく、分析に使用する場合には油類を吸着した多孔性物質を加熱して油分を脱着させたり、溶剤により油分を抽出する等の方法を用いて分析用試料作成をすることができる。前記油分吸収性材料は、顆粒状、繊維状など、多孔質袋状物に収納、保持されやすく、かつ吸収に有利な大きさであることが好ましい。
【0011】
好ましい油分吸収性材料としては、前記炭のほかに、粒子径が100μm〜10mm、好ましくは100μm〜5mmの範囲に収まる粒子群が全体の50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、とくに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上を占め、かつそのうちの粒子径3mmを超えるものが少なくとも5重量%(粒子径が100μm〜10mmの範囲に収まる粒子総量に対して)、好ましくは10重量%、とくに好ましくは15重量%を占め、粒子径1mm以下のものが35重量%以下(粒子径が100μm〜10mmの範囲に収まる粒子総量に対して)を占める珪藻土粒子からなる油分吸収性材料を挙げることができる。
【0012】
本発明における前記粒子径が100μm〜10mm、好ましくは100μm〜5mmの範囲、言い換えれば粒子径が100μm以上の大きさをもつものであれば、被吸収液が粒子間隙にたいへん流れ込みやすくなり、見かけの吸収速度が向上することが分った。とくにこの範囲に収まる粒子群は、10mm以下、好ましくは5mm以下のもの100%(ここにおける%はいずれも重量基準である)、3mm以下のもの70〜90%、2mm以下のもの40〜60%、1mm以下のもの15〜35%であることが好ましい。このような分布で、いろいろの粒子径の粒子が混在することにより、被吸収液に対する見かけの吸収速度が非常に速くなるものと推定される。被吸収液はその後粒子間隙から徐々に粒子の細孔にしみこむものと推定される。これに対して100μm以下の微粒子のみからなる吸収材は粒子間隙があまりにも小さいため、急速に粒子間隙に浸透することができず、結果的に個々の微粒子内部に浸透するにもたいへん時間がかかるものと考えられる。また、被吸収液の粘度がC重油のように高いものである場合には、粒子径が3mmを超えるものを少なくとも5重量%含有させることが望ましい。これにより、粘度の高い被吸収液もスムースに粒子間隙に浸透できるようになる。
このような傾向、すなわち前記油分吸収材料がどのような材料であるにせよ、粒子径が少なくとも100μmより大きいものの方が粒子間隙が大きいので、被吸収液が粒子間隙に浸透しやすくなり、見かけの吸収速度が向上すると考えられる。しかも100μm以下のような小さい粒子径のものは被吸収液と接触するとダマを形成しやすいが、粒子径が大きいものほど被吸収液が高粘度のものであってもダマを形成し難いという好ましい傾向を示す。このことは参考例3および参考例4をみれば明らかである。
【0013】
前記(A)の(イ)における多孔質袋状物としては、不織布や織布、とりわけ不織布で作った袋が好ましい。これらの不織布や織布を構成する素材としては、合成樹脂とりわけポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれた親油性合成樹脂が好ましい。多孔質袋状物の大きさはとくに制限するものではないが、検知管中に投入して検査することを考えると検知管に投入できるサイズであることが好ましい。これらの点を考慮すると、通常横1.5〜5cm、縦2〜5cm、厚さ(吸収性材料を収納したときのもっとも厚みのある部分の厚さ)2〜10mmである。
【0014】
前記(A)の(ロ)における親油性合成樹脂は、前記(A)の(イ)における多孔質袋状物を構成する合成樹脂と同様なものであることが好ましく、具体的には、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれたものが好ましい。
【0015】
前記(B)の油吸収材料は、その膜状物上に0.5mlの水をスポイトで滴下したとき水滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が15秒以上、好ましくは20秒以上、とくに好ましくは30秒以上であり、膜状物上に0.5mlの油をスポイトで滴下したとき油滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が5秒以下、好ましくは3秒以下、とくに好ましくは1秒以下という物性をもつ膜状物である。
【0016】
前記(B)の膜状物は、多孔質合成樹脂製フィルム、合成樹脂製織布または合成樹脂製不織布であり、前記合成樹脂としては、ASTM D570による吸水率0.7%以下であるものが好ましい。具体的な合成樹脂として好ましいものは、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ塩化ビニリデンを挙げることができる。
なお、吸水率0.7%以下の合成樹脂の代表的なものは、以下のとおりである。
樹脂名 吸水率(%)
ポリプロピレン <0.01〜0.03
ポリエチレン <0.015
ポリ塩化ビリニデン <0.1
ポリカーボネート 0.2
ポリエチレンテレフタレート 0.6
【0017】
前記(B)の膜状物としては、多孔質合成樹脂フィルムがとくに好ましい。多孔質合成樹脂フィルムとしては、連続気泡をもつ合成樹脂製、たとえばポリプロピレン製やポリエチレン製のマイクロポーラスフィルムを挙げることができる。多孔質合成樹脂フィルムは、白色系でも、有色系でもよく、油が付着するとその光透過性が増大することを利用して白色であれば透明になったり、有色であればその色が濃くなったりして、油との接触部分の色の変化が織布や不織布の場合より顕著であるため、肉眼的にも容易に油の存在を検知できる。
前記連続気泡をもつ合成樹脂製マイクロポーラスフィルムとしては、例えば住友スリーエム株式会社の商品名「3Mマイクロポーラスフィルム」を挙げることができる。これは最大径0.3μmの微細孔を無数にもつポリプロピレン製多孔質フィルムであり、微細孔は全体の35%を占めるものであり、化粧品市場において「あぶらとり紙」として市販されているものを転用することができる。
【0018】
前記(B)の膜状物を構成する合成樹脂製の織布または不織布の例としては、東洋紡績株式会社が工業用カートリッジエアーフィルター「BESTSHOT」として市販しているポリエステル不織布、同社製ポリエステル長繊維不織布である商品名エクーレ、ミリポア社製の疎水性デュラポアフィルター(商品名)(ポリ四弗化エチレン製やポリ塩化ビリニデン製)などを挙げることができる。これらの商品の吸水率は、前述の樹脂そのものの吸水率とは必ずしも同一ではない。その理由はメーカーにより何らかの処理がほどこされている場合があるからである。しかしこれらの商品の吸水率はいずれも0.7%を下廻るものである。
【0019】
住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン)をはじめとする下記材料上に室温下で0.5mlの水または油をスポイトで滴下した。滴下した水または油が吸収され始めるまでの時間を下に示す。水や油が吸収され始める時点は、水滴または油滴が小さくなり始めるので容易に判別することができ、水滴と油滴の吸収され始める時間の差が余りにも大きいので、この判断は実際には非常に簡単である。なお、油としては、JIS 2号ガソリンおよびJIS 2号軽油を用いて調べたが、いずれも同一の結果を示したので、表中では「油」と表現した。
【表1】

【0020】
請求項1では、膜状物上に0.5mlの水をスポイトで滴下したとき水滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が15秒以上であり、膜状物上に0.5mlの油をスポイトで滴下したとき油膜が膜状物に吸収され始めるまでの時間が5秒以下であることが膜状物の要件である。この要件のいずれかでもはずれると、検知能力が低下し、油分量が極めて少ない場合には判定が不可能となる場合が生じる。この要件は、言い方を変えれば油分はすぐ吸収するが水はなかなか吸収しない材料ということであり、この膜状物を水面に5〜15秒ほど載置し、これを引き上げたとき膜状物が油分のみを吸収しているようにするための目安が前述の規定であるということができる。前記水吸収開始時間と油分吸収開始時間との間の差が大きいほど検知操作処理をスピーディーにやらなくても充分判定可能である。
【0021】
また、前記合成樹脂が、ASTM D570による測定方法で、その吸水率が0.7%以下であるものを使用することが好ましいとしたのは、このような合成樹脂材料を用いた膜状物であれば、ぼぼ誤りなく請求項1で規定する物性を満足せさることができるからである。
【0022】
前記(A)の(イ)や(ロ)における不織布や織布は一般に白色系が多いが、油が付着するとその光透過性が増大することを利用して、有色の物と白色の不織布や織布を組み合わせると、油との接触後白色の不織布や織布が有色部を反映して肉眼的にも容易に油の存在を判定できるので、白色の前記(A)と有色の前記(B)を組み合わせて本発明の油類検出用および/または回収用用具とすることが好ましい。
【0023】
油類検知のために使用した本発明の油類検出用および/または回収用用具における(B)表面に、石油溶剤で可溶性なマイクロカプセルに色素を含有させた物を塗布することにより、肉眼的に石油製品等の油分が存在するか否かを判定することもできる。
【0024】
本発明の油類検出用および/または回収用用具は、例えば検知棒の先端に取り付けて、ガソリンスタンドなどにある石油製品貯蔵タンクの周囲などに設置されている漏洩検知管、観測用井戸に挿入して、その中に存在する地下水面の油分の検知を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の前記(A)のみでも下記に示す
(1)本発明の油類検出用および/または回収用用具は、この種の従来品に比べて非常に短い間に、たとえば数秒の間に系中の油分を吸収するので、検出や回収の作業が迅速かつ的確に行なうことができる。
(2)本発明の油類検出用および/または回収用用具は、検知管や調査用ボーリング井戸中等に浸出した油分を容易に吸収回収でき、油分が地下水と共に存在する場合でもその回収を容易にする。
(3)本発明の油類検出用および/または回収用用具に吸着した油分は、回収するための作業中には簡単に外部に漏れ出すことがなく、一方、吸着した油分を本発明の油類検出用および/または回収用用具から採取するためには、加熱手段や溶剤抽出手段により容易に達成できる。
(4)本発明の油類検出用および/または回収用用具に吸着した油分は、化学的に何の変化もおきていないから、これを分析したデータの信頼性が高い。
という効果を奏するが、本発明では、前記(B)の膜状物である油吸収材料と併用することにより、まず、前記(B)の膜状物である油吸収材料に油が浸透し、それを伝わってさらに前記(A)の(イ)または(ロ)に油分が浸透することにより、浸透時間が短縮されるという効果が発生する。
また、前記(A)により回収した油分を、ガスクロマトグラフィーで分析することにより、回収油分の組成が推定できるので、これにより濾洩した油が、ガソリンであるのか、軽油であるのか、灯油であるのかを判別できる。したがって、本発明の用具はガソリンスタンドなどにある石油製品貯蔵タンクの油漏洩対策として有効に機能する。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0027】
参考例1
本発明の(B)として使用する東洋紡社製不織布(商品名)ベストショット(ポリエステル製エアーフィルター用として市販)と種々の油分について吸着量を測定し、その結果を下記表2に示す。
【表2】

【0028】
参考例2
各種石油製品を多孔質物質である炭(5mm以下のフレーク状)に、滴らない程度に吸収させ、その吸着量を測定した。その結果を下記表3に示す。
【表3】

【0029】
参考例3
東洋紡社製不織布ベストショット(参考例1のもの)を用いて作った袋に炭(参考例2のもの)を充填して吸収袋〔前記(A)の(イ)の具体例〕を作製した。使用した東洋紡社製不織布ベストショットで作った袋は片面9平方cmの大きさで、その中の炭の量はほぼ0.15gであった。これを用いて、水に浮遊させた各種の油分の吸着能力を測定した。水に浮遊させた油種の違いによる30秒間での吸収量は以下表4に示す通りであった。
【表4】

【0030】
参考例4
東洋紡社製不織布ベストショット(参考例1のもの)と炭(参考例2のもの)とを組み合わせた吸収袋〔前記(A)の(イ)の具体例〕を作製した。使用した東洋紡社製不織布ベストショットは18平方cmで、炭はほぼ0.17gであった。
これを用いて、水に浮遊させた0.5gの各種油の吸収に要する時間を測定した。その結果は以下表5に示す通りであった。
【表5】

【0031】
参考例5
東洋紡社製不織布ベストショット(参考例1のもの)と炭(参考例2のもの)とを組み合わせた吸収袋〔前記(A)の(イ)の具体例〕を作製した。使用した東洋紡社製不織布ベストショットは18平方cmで、炭はほぼ0.17gであった。
水50mlに、ガソリン0.5mlを浮遊させた場合、および軽油0.5gを浮遊させた場合において、前記吸収袋による吸収物の捕捉定量をガスクロマトグラムを用いて測定した。吸収させる時間は30秒とした。吸収させた後、吸収体を密閉できるガラス容器に入れ、10mlの二硫化炭素を加えて2分間振とう抽出した。その二硫化炭素抽出物をガスクロマトに掛け、回収率を測定した。その結果を下記表6に示す。
【表6】

捕捉回収率はほぼ100%であった。
【0032】
参考例6
浮上油の目視的検出限界値を求めて下記の試験を行った。
ガソリンを、水に入れた直径5cmのガラス容器に浮遊させ、そこへ参考例3の油類検出用袋を5秒間浮遊させて回収し目視的にガソリンの付着を判定した。その時併せて臭気も判定した。その結果を下記表7に示す。
【表7】

ガソリンは揮発性が高いので参考例3の油類検出用袋は回収後直ぐに判定して密閉容器に保存する必要がある。
目視判定の+:灰色の斑点が部分的に確認できる。++:灰色の斑点が全体的にはっきり確認できる。
【0033】
参考例7
珪藻土破片を乾燥させ、水分含量を10%以下にした後、破砕して5mmの篩を通過させて、油分吸収性材料を作成した。この油分吸収性材料を目の異なる篩で分別し、各目の通過した珪藻土粒子の割合を下記表8に示す。表中の%は重量基準である。
【表8】

【0034】
各種燃料油に参考例7の珪藻土10gを用いて吸収を行った時の吸収量を下記表9に示す。
【表9】

【0035】
表10に示す各油1gを完全に吸収するのに必要な参考例7にかかる吸収材の量を測定した。
完全な吸収とは、硫酸紙に油1.0gを秤量し、その上に吸収材を加え、薬匙で攪拌し、またすこしずつ吸収材を加えて薬匙で攪拌するという操作を繰り返した結果、硫酸紙の表面に油が残らず、且つ油を吸収した吸収材がダマにならず紙面にもついていない状態になるまでに使用した吸収材の使用量を求めた。その結果は下記表10に示すとおりである。
【表10】

バイオ忍者(商品名:珪藻土微粉末吸収材70μm以下のもの100%、30μm以下のもの90%)、生珪藻土、焼成珪藻土及びモンモリロナイトはいずれも油を吸収してダマとなり、分散させ粉状にするのに時間が掛かり、その上硫酸紙の表面に油と共にこびりついていた。
稚内珪藻土(商品名)は粒子状なのでダマにはなり難いが使用量が多くなる。
ACライト(商品名)は顆粒状(3mm以下が100%、2mm以下が93%、1mm以下が0%)であり、C重油以外は比較的吸収処理がしやすいが、C重油は団子状になり処理しにくい。完全に油が吸収されずに表面に残るので残油を拭き取らなければならない。
しかも、粒子状や顆粒状にするためには、そのための工程が余分にかかり、コスト高は避けられない。
参考例7のものは吸収が早く、ダマになりにくく、処理時間が短くて済む上、粘性の高いC重油、エンジン油でもダマにならないことがわかる。
【0036】
参考例8
エンジンオイル1.0gに炭及び活性炭を吸収材として全体に被るように掛け、オイルが吸収体全体に吸収されるまでの時間を測定した。使用物質により吸収が異なるので、全体が吸収される量を使用量とした。結果を下記表11に示す。
【表11】

炭の粒度分布は3〜10mm29%、2〜3mm60%、1〜2mm10%、1mm以下1%であった。活性炭Aの粒度分布は260〜520μmで活性炭Bの粒度は100μm以下であった。炭は粒径が大きいのみならず細孔も活性炭より粗い部分もあり、その様な部分での粘性のある油分の吸収が吸収速度を速める要因の一つと考えられる。
【0037】
次に、膜状物の検知能力のテストを行なった参考例9〜17を示す。
【0038】
参考例9
住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン)と水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分・油膜について検知濃度(油膜の厚さで示す)の結果を下記表12に示す。
【表12】

住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルムには白色、青色、水色、桃色等各色の製品が製造、市販されており、それらについて検討したが油分の有無の判定の際に大きな差は見られなかった。
【0039】
参考例10
住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン)と水表面の市販灯油(JIS 1号灯油)の油分・油膜について検知濃度の結果を下記表13に示す。
【表13】

【0040】
参考例11
住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン)と水表面の市販軽油(JIS 2号軽油)の油分・油膜について検知濃度の結果を下記表14に示す。
【表14】

【0041】
参考例12
住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン)と水表面の市販A重油(JIS 1種1号重油)の油分・油膜について検知濃度の結果を下記表15に示す。
【表15】

【0042】
参考例13
東洋紡社製ベストショット(ポリエステル製、目付量240g/m、厚み0.60mm、フラジール通気度20cc/cm/s)と水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分について検知濃度の結果を下記表16に示す。
【表16】

【0043】
参考例14
東洋紡社製エクーレ(ポリエステル)(白色、有色)と水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分について検知濃度の結果を下記表17に示す。
【表17】

エクーレには使用材料のm当たりの重量で複数の製品が存在する。ここで示したのは70g/mのものでそれより軽量でも判定は出来るがやや困難であった。白色と有色(黒色)とでは白色の方が判定はしやすかった。
【0044】
参考例15
ミリポア社製疎水性デュラポアフィルター商品番号HVHP01300(ポリビリニデンフロライド 孔径0.45μm)と水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分検知濃度の結果を下記表18に示す。
【表18】

【0045】
参考例16
ミリポア社製疎水性デュラポアフィルター商品番号LCWP013000(ポリ四沸化エチレン 孔径10.0μm)と水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分検知濃度の結果を下記表19に示す。
【表19】

【0046】
参考例17
市販のPTFEフィルターと水表面の市販ガソリン(JIS 2号ガソリン)の油分検知濃度の結果を下記表20に示す。
【表20】

【0047】
比較参考例1
ニトロ化セルロースフィルター(アドバンテック東洋社製、孔径0.2μm)、グラスフィルターペーパー(アドバンテック東洋社製、商品番号 GS25)、パラフィン紙(東京日本油紙社製)、親水性処理した住友スリーエム社製3Mマイクロポーラスフィルム、セルロースフィルター(ワットマン社製)、植物繊維を利用した紙もしくは油とり紙等は水に接触するとほぼ瞬時に水を吸収し、透明度を増したりして判定を困難にし、使用が不可であった。
【0048】
実施例1
参考例3により得られた吸収袋に住友スリーエム社製商品名3Mマイクロポーラスフィルム(ポリプロピレン製)を熱接着させた。浮上油の目視的検出限界値を求めて下記の試験を行った。
ガソリンを、水に入れた直径5cmのガラス容器に浮遊させ、そこへ本実施例の油類検出用袋を5秒間浮遊させて回収し目視的にガソリンの付着を判定した。判定はフィルムにガソリンが付着するとその透明度が増加することを基準とした。水に浮遊させたガソリンの厚さ(油膜)との判定は以下の表21に示すとおりであった。
【表21】

本実施例に使用したポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム以外にポリエステル不織布でも同様に判定できることを確認した。
【0049】
実施例2
貯蔵石油量や検知管内の漏洩油を検査する目的で使用されている検知棒の先端に多孔質フィルム(3M社製マイクロポーラスフィルム青色)と不織布(東洋紡社製ベストショット)とをインパルス接着させた本発明試験紙(大きさ1cm×5cm)を金属製クリップで固定し、この本発明試験紙部分が検知管内の地下水面に付着するように挿入した。検知棒を引き上げて試験紙を確認すると、多孔質フィルムの色が濃い青色に変化していたため、地下水面付近に油分が存在することがすぐに判別できた。実際に検知管内には地下水があり、その水面上に油膜が確認された。この本発明試験紙を速やかにテフロン(登録商標)パッキン付きのガラス瓶に入れ、ふたをしっかり閉めて分析室に送りガスクロマトグラフィー分析を行った。本発明試験紙の不織布に吸収された油分を有機溶媒で抽出しガスクロマトグラフィー分析を行うことにより、クロマトグラムパターンからこの油分がガソリンである事が判定できた。従ってこの検知管付近でガソリンの漏洩の疑いがあることが推測され、必要な対処を迅速に実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(イ)その中に油分吸収性材料を収納した多孔質袋状物、
または、
(ロ)親油性合成樹脂よりなる織布または不織布
のすくなくとも一端に、
(B)その膜状物上に0.5mlの水をスポイトで滴下したとき水滴が膜状物に吸収され
始めるまでの時間が15秒以上であり、膜状物上に0.5mlの油をスポイトで滴下
したとき油滴が膜状物に吸収され始めるまでの時間が5秒以下である膜状物
の少なくとも一部を接合させたものであることを特徴とする油類検出用および/または回収用用具。
【請求項2】
前記多孔質袋状物がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれた合成樹脂よりなるものである請求項1記載の油類検出用および/または回収用用具。
【請求項3】
前記親油性合成樹脂がポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタンよりなる群から選ばれた合成樹脂よりなるものである請求項1記載の油類検出用および/または回収用用具。
【請求項4】
前記油分吸収性材料が珪藻土、白土、炭、活性アルミナ、シリカゲルおよびこれらの混合物よりなる群から選ばれたものである請求項1または2記載の油類検出用および/または回収用用具。
【請求項5】
前記(B)の膜状物が、多孔質合成樹脂製フィルムである請求項1〜4いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具。
【請求項6】
前記(B)の膜状物が、ASTM D570による吸水率0.7%以下である請求項1〜5いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具。
【請求項7】
前記(B)の膜状物が、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレンおよびポリ塩化ビニリデンよりなる群から選ばれた材料で構成されたものである請求項1〜6いずれか記載の油類検出用および/または回収用用具。

【公開番号】特開2007−64815(P2007−64815A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251884(P2005−251884)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【出願人】(501332688)株式会社 エー・イー・エル (6)
【Fターム(参考)】