説明

治療上の低体温を誘導するための呼吸器装置

本発明は、患者の体温を調節するための、特に治療上の低体温を誘導するための方法および装置を提供する。本装置の種々の実施形態が記載される。本装置は、呼吸ガス源(圧縮呼吸ガス混合物の形態でもよい)、熱交換器もしくは他の加熱および/または冷却装置、および呼吸インターフェイス(呼吸マスク、または気管内チューブなど)を含む。任意に、本装置は、機械式呼吸装置、薬剤を呼吸ガス中に導入するための噴霧器、体温プローブ、およびフィードバック制御装置などのさらなる特徴を含んでもよい。本装置は、空気、または特定の呼吸ガス混合物(He/O、またはSF/Oなど)を用いて、伝熱速度を上昇させることができる。加えて、本装置は、微細氷粒を呼吸ガス流中に導入して、伝熱速度をさらに上昇させるための氷粒生成装置を含んでもよい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、2004年1月22日出願の米国仮特許出願第60/538,789号の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般に、患者の体温を選択的に修正および調節するための装置および方法に関する。より詳しくは、本発明は、患者の肺との熱交換によって、患者の体温を上昇および低下させるための呼吸器装置、および方法に関する。本呼吸器装置は、患者に、熱容量を高めるための氷粒または凍結ミストを運ぶ呼吸ガスを呼吸させることによって、治療上の低体温を迅速に誘導する。本呼吸ガスは、空気、または特定のガス混合物であってもよい。このガス混合物は、酸素(約20%以上の濃度)、およびより効果的な熱交換のための高い熱容量(Cp)を有するガス(ヘリウム、または六フッ化硫黄など)を含む。
【背景技術】
【0003】
本発明の呼吸器装置は、低体温または高体温の患者を治療するために、および種々の状態(急性心筋梗塞および突発性脳卒中を含む)を治療するために治療上の低体温を誘導するために有用である。
【0004】
ヒトは、熱帯性動物であると考えられる。ヒト動物の正常な機能は、体温約37℃(98.6゜F)を必要とする。身体は、温度の小さな上下変動に対しては、組込まれた温度調節系(皮膚内の温度センサーによって制御される)を活性化することにより自己補償することができる。体温の上変動に対する応答は、発汗の開始である。これにより、水分が、体組織から体表面へ移動する。水分が表面に達すると、それは、蒸発し、多量の熱を運び出す。ヒトが高温環境にある期間に亘り暴露された際に喉が渇くことに対する説明は、発汗によって失われた流体を補充しなければならないことである。体温の下変動に対する応答は、震えである。これは、熱を発生させるための身体の試行である。震えは、大規模に生じる筋肉組織の自発的でない伸縮である。この筋肉活動は、摩擦によって熱を生じる。
【0005】
低体温は、35℃未満の核心温度として定義される。低体温はまた、身体が機能を効果的に維持するのに十分な熱を発生することができない場合の正常より低い温度の臨床状態と考えられる。多くの変数が、低体温の発現に寄与する。年齢、健康、栄養、身体サイズ、疲労、曝露、曝露時間、風、温度、湿度、投薬、および麻酔物は、熱の生成を減少させるか、熱損失を増大させるか、または熱安定性を損なわせる場合がある。伝熱、対流、放射、蒸発、および呼吸による熱損失に対する健康な個体の補償応答は、曝露によって打ち消される場合がある。投薬は、温度調節を損なう場合がある。急性または慢性の中枢神経系プロセスは、温度調節の効果を減少する場合がある。
【0006】
軽度の低体温は、核心温度が34〜35℃である場合である。患者は、依然として、警戒状態にあり、かつ自助可能であり、さらに激しい震えが始まる。患者の動作は、しかし、ややぎこちなくなり、寒さは、いくらかの痛みおよび不快感をもたらす。
【0007】
中度の低体温は、患者の核心温度が31〜33℃である場合である。震えは、緩まるか、または停止し、筋肉は硬化し始め、さらに精神錯乱および無気力が始まる。言語は、ゆっくりとなり、あいまいとなり、かつろれつが回らなくなり、呼吸は、ゆっくりとなり、かつ浅くなり、場合によっては眠気および奇態が生じる。
【0008】
重度の低体温は、核心温度が31℃未満に低下した場合である。皮膚は冷え、場合によっては色が青みを帯びた灰色であり、眼は、見開かれる。患者は、非常に衰弱し、顕著なぎこちなさを見せ、言語があいまいになり、消耗して見え、場合によっては酔って見え、問題があることを認めず、場合によっては助けを拒絶する。意識を除々に失う。明らかな呼吸が、殆どまたは全くない場合がある。患者は、顕著に硬直し、意識不明となり、場合によっては死んだように見える。
【0009】
低体温を治療するための簡単な方法は、非常に早い時期から知られている。これらの方法には、患者を毛布に包む方法、暖かい流体を経口投与する方法、および患者を温水浴中に浸す方法が含まれる。これらの簡単な方法でさえ、低体温が非常に重度でない場合には、効果的であることがある。しかし、これらの簡単な方法では効果が限定される。患者を毛布に包む方法は、結局は、患者自身の熱生成によって、その身体を復温する。低体温の中度の場合においてさえ、もしくは疾病または傷害患者の場合においては、患者は、単に、非常に衰弱しているか、または疲労しているので、十分な熱を生成できない場合がある。暖かい流体の経口投与は、患者が流体を飲込む意識があり、かつそれを飲込むことができることを必要とする。意識の喪失は、低体温の早期に起こることから、この方法はまた、中度の場合に限定される。患者を温水浴中に漬ける方法は、簡単に実行できないことが多い。例えば、手術を受ける患者を漬けることは、明らかに、望ましくないであろう。さらに、浸漬技術は、時間がかかり、それは、暖の効果が実現される前に、暖を患者の皮膚表面から身体の芯中に移動させることを必要とする点で効果的でない場合がある。他の装置は、患者の血液を直接温めることができる。これらの方法は、血液を患者から取出し、血液を外部の加温装置中で暖め、そして血液を患者中に戻して供給することを含む。これらの方法は、上述した簡単な方法のどれよりもずっと効果的であるものの、それらには、他の理由で欠点がある。先ず、関連装置は、全く取扱い難い。第二に、一時的であっても、既に衰弱した患者から相当量の血液を取出すことにはいくらかの危険が含まれる。事実、血液が、先ず、外部装置中で暖めるために取出される際に体温のさらなる低下が経験されることが多い。最後に、特殊なカテーテルが、患者の血液を直接温めるのに用いられる。しかし、それらのカテーテルは、訓練されたスタッフが、装置を患者の中枢血管に挿入することを必要とする。それらの医師は、特定設備においてのみ有効であり、救急時には有効でないか、または救急室において必ずしも有効であるとは限らない。それらの機器はまた、非常に高価であり、したがって全ての介護者にとって有効でない。
【0010】
高体温は、異常な高い体温の状態である。それは、高温環境に対する曝露、過運動、または発熱に起因する場合がある。身体の核心温度は、発熱により38〜41℃の範囲であり得、曝露および過運動の場合には、実質的にそれより高い場合もある。低体温のように、高体温は、深刻な状態であり、致命的な場合がある。また、低体温のように、高体温を治療するための簡単な方法、例えば患者を冷水浴中に浸す方法または冷たい流体の投与は、長く知られている。一般に、高体温を治療することは、低体温を治療することと同様に難しい。
【0011】
最近の医学報告には、心筋梗塞および虚血卒中の結果として(それぞれ)生じる灌流が低減されている心筋および脳などの組織の酸素消費を低減するための手段として制御された低体温を用いることが示されており、これにより、梗塞領域の損傷を低減し、それを減少させる。医学報告にはまた、心臓手術または介入心臓学法において、処置中およびその後の心臓および脳における虚血および/または塞栓からの損傷を低減するために、制御された低体温を予防的に使用することが示されている。
【0012】
次の特許および特許出願には、患者の体温に影響を及ぼすための装置および方法が記載されている。本明細書に引用されるこれらおよび全ての他の特許および特許出願は、その全てが参照により本明細書に援用される。
【0013】
特許文献1(噴霧ミストを用いて、患者の体温を変えるための方法)−本体温低下法は、噴霧ミストを、患者の体温が低下されるまで、患者の体温未満の温度で投与することを含む。
【0014】
特許文献2(噴霧ミストを用いて、患者の体温を変えるための方法)−本体温低下法は、噴霧ミストを、患者の体温が低下されるまで、患者の体温未満の温度で投与することを含む。
【0015】
特許文献3(患者の体温を上昇または低下させるための非歓血法)−例えば出血性ショックを治療するために体温を上昇または低下させる方法は、酸素および六フッ化硫黄ガス混合物を、過呼吸によって投与することを含む。
【0016】
特許文献4(患者の体温を上昇または低下させるための六フッ化硫黄および酸素を含む組成物)−例えば出血性ショックを治療するために体温を上昇または低下させる方法は、酸素および六フッ化硫黄ガス混合物を、過呼吸によって投与することを含む。
【0017】
特許文献5(患者の体温を上昇または低下させるための六フッ化硫黄および酸素を含む組成物)−例えば出血性ショックを治療するために体温を上昇または低下させる方法は、酸素および六フッ化硫黄ガス混合物を、過呼吸によって投与することを含む。
【0018】
特許文献6(低体温を誘導するための方法)−心拍停止の患者のための低体温誘導治療法は、相変化微粒子スラリーを、低体温状態が患者に誘導されるまで、心拍停止の患者に連続的に投与することを含む。
【0019】
特許文献7(低体温を誘導するための方法)−相変化微粒子スラリーを、低体温状態が誘導されるまで、入院前に内部投与することによる心拍停止患者の結果の向上。
【0020】
特許文献8(低体温を誘導するための方法)−相変化微粒子スラリーを、低体温状態が誘導されるまで、入院前に内部投与することによる心拍停止患者の結果の向上。
【0021】
特許文献9(ヘリウム−酸素混合物を用いる低体温の誘導および復温)−低体温を誘導することによって虚血現象を治療するために有用な組成物は、正常な人の体温と実質的に異なる温度を有するヘリウムおよび酸素を含むガス混合物を含む。
【0022】
特許文献10(体温を変化させるための呼吸ガス混合物)−低体温を誘導することによって虚血現象を治療するために有用な組成物は、正常な人の体温と実質的に異なる温度を有するヘリウムおよび酸素を含むガス混合物を含む。
【0023】
特許文献11(低体温誘導蘇生装置)−事故における心肺蘇生のための低温誘導装置は、担架、ならびに液体酸素および二酸化炭素源を有する。これは、患者を傷害現場から病院へ移動するために移動可能な状態に維持される。
【0024】
特許文献12(低体温脳保全を迅速に誘導するための装置および方法)−低体温脳保全を、液体心肺洗浄液を用いて迅速に誘導するためのアセンブリは、流体溜め、心肺洗浄液を冷却するための熱交換器、洗浄液を循環するための手段、および流出物溜めを含む。
【0025】
特許文献13(混合方式の液体呼吸ガスおよび熱交換)−ガス、および低体温病状を治療するための肺における熱交換法は、ペルフルオロカーボン、およびヘリウムなどのガスを含む含酸素液体を混合する工程を含む。
【0026】
特許文献14(震えを低減しながら体温を調節する方法)−震えを低減するために体温を目標値未満に調節するための方法は、温度検知、信号の生成、信号に基づく温度調節、および薬剤投与を含む。
【0027】
特許文献15(温度調節応答を抑制しながら体温を調節する方法)−温度調節応答を抑制しながら体温を調節する方法は、患者の身体温度を、熱交換装置を用いて調節する工程、および抗温度調節応答剤を患者に投与する工程を含む。
【特許文献1】国際公開第03/059425号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0136402号明細書
【特許文献3】米国特許第6303156号明細書
【特許文献4】欧州特許1089743号明細書
【特許文献5】国際公開第99/66938号パンフレット
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0066304号明細書
【特許文献7】米国特許第6547811号明細書
【特許文献8】国際公開第01/08593号パンフレット
【特許文献9】米国特許出願公開第2003/0131844号明細書
【特許文献10】国際公開第03/047603号パンフレット
【特許文献11】米国特許第5755756号明細書
【特許文献12】米国特許第6149624号明細書
【特許文献13】国際公開第00/18459号パンフレット
【特許文献14】米国特許第6582457号明細書
【特許文献15】米国特許第6572638号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、患者の体温を調節するための、特に治療上の低体温を誘導するための方法および装置を提供する。本装置の種々の実施形態が記載される。本装置は、呼吸ガス源(圧縮呼吸ガス混合物の形態でもよい)、熱交換器もしくは他の加熱および/または冷却装置、および呼吸インターフェイス(呼吸マスク、または気管内チューブなど)を含む。任意に、本装置は、機械式呼吸装置、薬剤を呼吸ガス中に導入するための噴霧器、体温プローブ、およびフィードバック制御装置などのさらなる特徴を含んでもよい。本装置は、空気、または特定の呼吸ガス混合物(He/O、またはSF/Oなど)を用いて、伝熱速度を上昇させることができる。加えて、本装置は、微細氷粒を呼吸ガス流中に導入して、伝熱速度をさらに上昇させるための氷粒生成装置を含んでもよい。
【0029】
本発明は、患者の体温を修正および調節するための方法および装置を提供する。本発明にしたがって、患者は、患者に呼吸混合物を供給するマスクを着用する。あるいは、患者に気管内チューブを挿管してもよい。本装置は、自発呼吸する患者、同様に機械的に通気される患者を対象とする。呼吸ガスは、空気でも、または酸素(約20%以上の濃度)、およびより効果的な熱交換のために高熱容量(Cp)を有するガスを含む特定のガス混合物でもよい。混合物は、標準的な、または精製された空気であるか、もしくはより高濃度の酸素(20〜100%)を有する空気であって差し支えない。別の可能な混合物は、酸素およびヘリウムであろう。これは、安全であることが分かっており、潜水夫によって、および喘息などの気道疾患のある患者の治療に用いられる(例えばHELIOXである。これは、酸素20%およびヘリウム80%である)。ヘリウムの比熱容量は、空気の比熱容量よりはるかに高く、したがってヘリウム/酸素混合物を用いることにより、熱流量が向上し、患者の体温を変化させるためのはるかにより効果的な方法が可能にされるであろう。代わりにまたは加えて、混合物には、六フッ化硫黄SFが含まれてもよい。これは、空気よりもはるかに高い比熱容量を有する高密度の非毒性ガスである。本発明は、ガス混合物を限定しない。生体適合性があり、かつ安全であり、さらに温度交換に有用であろうガスの他の組合せを、必要に応じて用いてもよい。
【0030】
他のガスを、混合物に添加してもよい。例えば、二酸化炭素(CO)を、ガス混合物に添加して、患者の呼吸速度の制御を促進してもよい。COの分圧は、過呼吸を誘導する、すなわち患者をより速く呼吸させるであろう。これは、ガス混合物の流量を増大させ、したがって患者の肺内の伝熱速度が向上するであろう。意識のある患者には、ガス混合物の流量を増大させるのに、過呼吸するように求めてもよい。あるいは、例えば、機械的な呼吸装置または類似の装置が用いられる場合には、患者に、正圧および負圧を用いることによって、過呼吸させてもよい。COおよびOの適切なレベルが患者の血液中に維持されることを確実にするようにCOを添加してもよい。呼吸混合物中のより高濃度のCOは、過呼吸に起因するかもしれない低炭酸症を防止するのを促進するであろう。他のガス、例えば亜酸化窒素もまた、呼吸ガス混合物に添加することができる。
【0031】
本発明はまた、吸入ガス圧の調節を可能にするであろう。ガスの加圧は、さらに、ガス混合物の質量流量を、したがって伝熱速度を向上させるであろう。本装置は、患者にとって安全であると知られるところ(例えば1.5〜2気圧)まで、吸入ガスを加圧することが可能であろう。あるいは、本装置は、ガスをパルスで送ってもよい。すなわち、圧力を連続的に高から低へ変化させてもよい。これは、ガスの混合を促進し、伝熱速度を向上させるであろう。
【0032】
代わりにまたは加えて、マスクを通して、または気管内チューブを通して供給される空気の噴流(ガスの高圧塊)はまた、ガスの混合、伝熱速度の向上を促進させるであろう。
【0033】
発明された装置はまた、吸入ガスの湿度を調節するであろう。吸入ガス中の水分の含有量を変化させることは、熱流量に影響を与えるであろう。
【0034】
装置はまた、患者の体温を測定するいかなる公知の方法を用いて、患者の体温を記録するで(患者の直腸に挿入されるプローブ、または患者の皮膚温度を検温するが、それを効果的に分離することができる包帯によって室温から区別されるプローブ、もしくは鼓膜温度を測定するためのIR、または検温するいかなる他の方法を用いることなど)。装置により、記録された体温が、フィードバックとして用いられ、所望の患者の体温に応じて、吸入ガスの温度が調節される。
【0035】
ガスは、冷却または加熱のいかなる公知の方法を用いて、冷却されるか、または加熱される。例えば、熱交換器の外側のガス、および熱交換器の内側の液体またはガスの間の熱交換を可能にする熱交換器系である。他の選択肢は、電気加熱器/冷却器を用いることである。他の選択肢は、ヒートポンプを用いることである。ガスを冷却する他の手段は、ガスが特定の耐圧容器/ボトルの内部に加圧されることである。ガスが高圧からより低圧に開放される際に、熱が放出され、ガスの温度が下がる。
【0036】
伝熱速度は、ガスおよび患者の体温の差によって影響されることから、装置は、安全であることが実証されている非常に低い温度で、ガスを供給するように構成される。
【0037】
装置は、救急車の救急医療師、または病院外の医療チームなどの救急処置者によって、救急室またはこの治療が必要であるいかなる他の場所にもおけるチームによって、用いられる。本装置の利点には、作動の容易性、および最小限の訓練で作動されるという事実が含まれる。したがって、患者の治療は、救急室またはカテーテル室で行われなければならない他のより観血的な方法と比べて、心臓発作、卒中または他の事象後、はるかにより速やかに始めることができる。これらの状態に対する迅速な治療は、患部組織の虚血損傷および壊死を低減することによって、患者の結果が向上することが示されている。
【0038】
低温/高温ガスは、肺の広大な表面積と接触する。肺中の血液温度は変化し、この血液は左心へ流れ、心臓組織温度を変化させる。左心室から、いくらかの血液が、冠動脈へ流れる(そこでそれは、組織温度に影響を及ぼし続け、代謝および酸素消費を変化させる)。心筋梗塞の場合には、冠動脈中に直接流入するこの冷えた血液の効果は、特に有益である。血液はまた、左心から全身へ流れ、そこでそれはまた、温度を、所望に変化させる。卒中の場合には、冷えた血液の一部分は、脳へ流れ、組織を冷却し、代謝および酸素消費が低減する。これにより、脳に対する虚血損傷が低減される。
【0039】
本装置は、潜在的に、気管支拡張薬および局所(吸入)血管拡張薬などの薬剤、または肺への血流をより良好な伝熱のために増大させる、および低温の呼吸混合物による気管支収縮を防止するいかなる他の処方をも用いることが可能である。本装置はまた、潜在的に、発汗を促進する薬剤、末梢血管拡張剤、および震えを低減または除去する薬剤と組み合わせて用いることが可能である。吸入により投与されことができる他の薬剤は、例えば噴霧器を用いて、呼吸混合物に添加されてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
図1〜2は、患者の体温を調節し、治療上の低体温を誘導するための装置について、種々の実施形態を示す。これらの例は、限定されるものではない。これらの実施形態の特徴は、組み合わされ、他の形態で配置されて、本発明の別の実施形態を構成することができる。
【0041】
図1は、圧縮呼吸ガス源および熱交換器を用いる治療上の低体温を誘導するための装置についての、第一の実施形態の概略図である。本装置には、加圧容器1中に貯蔵された圧縮呼吸ガスの供給源が含まれる。ガスは、熱交換器2、または他の加熱および/または冷却装置を通して、患者が使用しているマスク3へ供給される。必要に応じて、本装置には、ガスを加湿するための加湿器8が含まれて、伝熱が向上される。
【0042】
図2は、圧縮呼吸ガスの断熱冷却を熱交換器の付属物として用いる治療上の低体温を誘導するための装置についての、第二の実施形態の概略図である。本装置には、圧縮呼吸ガスの供給源1および熱交換器2(そこで熱は、熱交換器内にある流体と交換される)が含まれる。熱交換器内の流体温度は、別の加熱および/または冷却装置6によって変えられ、監視される。本装置には、装置5が含まれる。これは、ガスの減圧に起因する低温を用いて、患者の冷却を促進する。温度センサープローブ7は、患者の体温を記録し、加熱および/または冷却装置6と組み合わせたフィードバック制御装置は、それをフィードバックとして用いて、呼吸ガスの所望の温度を決定する。
【0043】
図3は、治療上の低体温を誘導するための装置についての、第三の実施形態の概略図である。この装置には、流体源9、および氷粒または凍結ミストを生成して、呼吸ガス混合物の熱容量を高めるための流体注入装置10が含まれる。流体源9は、好ましくは、生理食塩水(NaCl 0.9%)、またはいかなる他の所望の溶液をも含むであろう。そのために、それは、患者の血液と等張性であろう。あるいは、淡水、例えば蒸留水を用いてもよい。淡水を用いる場合には、NaClを、等張濃度を維持するための適切量で呼吸混合物に添加するか、または患者に経口で、または他の経路で投与してもよい。必要に応じて、本装置は、自発呼吸しない患者に対して特に、機械式呼吸装置11に接続してもよい。本装置は、空気、または上記される特定のガス混合物の一種を用いてもよい。流入する呼吸ガスは、熱交換器12を通って送られて、それは、注入流体の凝固点未満(水の場合には0℃未満、および生理食塩水の場合には−0.52℃未満)の温度に冷却される。熱交換器は、冷凍サイクル、可逆ヒートポンプ、熱電加熱器/冷却器、ドライアイス、液体窒素または他の寒剤、もしくは所望の温度を達成するための他の公知の加熱器/冷却器を用いることができる。
【0044】
流体液滴の微細噴霧は、冷えた呼吸ガス混合物中に注入されて、微細氷粒の凍結ミストが形成される。流体注入装置10には、オリフィスタイプ噴霧器または超音波噴霧器が含まれて、小さな均一液滴サイズが得られる場合がある。超音波噴霧器は、典型的には、2〜5マイクロメートルの範囲のサイズを有する液滴(したがって氷粒)を生成する。これは、容易に、呼吸ガス混合物の移動流中に懸濁することができる。しかし、より大きな、またはより小さな液滴および氷粒もまた、効果的であろう。必要に応じて、本装置にスクリーンまたはフィルターを、氷粒生成装置から下流に備えて、患者に供給される氷粒のサイズを限定してもよい。呼吸ガス混合物に添加される氷粒の量は、好ましくは、0〜5リットル/時の範囲にある(凍結ミストを生成するために注入される流体の容積として測定される)。0.25〜1リットル/時の範囲の氷粒の流量は、現在のところ、成人患者の低体温を迅速に達成するのに十分であると考えられる。融解熱(液体の水から氷への相変化を達成するのに必要とされる熱)によって、流入する呼吸ガスは、実質的に凝固点未満の温度に冷却されて、流体液滴の効果的な凍結が達成されることが必要である場合がある。加えて、それは、それが呼吸ガス中に注入される前に、流体が、凝固点に近い温度に予め冷却されることが有用である場合がある。さらに別の熱交換器を、この目的のために備えてもよい。必要に応じて、流体注入装置を呼吸ガスの拍動流と合わせることができる。必要に応じて、ファン14を、系内の呼吸ガスを常に循環させるために備えて、流体液滴および氷粒が、呼吸ガスから沈積することを防止してもよい。本装置は、15を絶縁して、導管の外側上の結露または霜の形成を回避し、周囲環境との熱交換を防止することが好ましい。必要に応じて、導管の内部表面を、テフロン(登録商標)または疎水性被膜16で被覆して、流体または氷が、内部表面上に蓄積することを回避してもよい。排液管13は、装置内に蓄積するいかなる流体をも除去するために提供される。必要に応じて、本装置には、薬剤を呼吸ガス流中に導入するための噴霧器18を備えてもよい。
【0045】
他の方法を、氷粒を呼吸ガス混合物に添加するために用いてもよい。例えば、固体の氷を、小さな粒子に粉砕するか、または削って、呼吸ガス混合物流に添加してもよい。あるいは、小さな氷粒を、生成し、予め貯蔵して、例えばスクリュータイプの計量装置、震動供給装置、または呼吸混合物中に供給される氷粒の量を制御するいかなる他の手段をも用いて、呼吸ガス混合物流に添加することができる。水滴、および圧縮ガス、例えば二酸化炭素は、同時に開放することができ、そのために膨張ガスの断熱冷却により、水滴が凍結されて氷粒になるであろう。膨張ガスおよび凍結粒子の得られた混合物を、空気と、および/または酸素および他のガスと混合して、所望の呼吸ガス混合物を生成することができる。代わりにまたは加えて、本装置は、他のタイプの凍結粒子、例えばドライアイス粒子を用いて、呼吸ガス混合物の熱容量を高めてもよい。
【0046】
本装置は、呼吸マスク3、または患者が呼吸するための気管内チューブに接続される。凍結ミストは、呼吸ガスを経て患者の肺中に運ばれる。氷粒は、患者の肺内で溶解し、肺およびそれを通って流れる血液を冷却するための高い伝熱速度を提供する。以下に概略示される伝熱分析は、伝熱速度に対する凍結ミストの有益な効果を示す。本装置は、所望程度の低体温が達成されるまで、このように用いられる。一旦、低体温が達成されると、伝熱速度は、供給される氷粒の量を低減することによって低減され、熱交換器の温度は、体温を維持するように調節することができる。本装置のこの実施形態の一利点は、氷粒によって提供される高い伝熱速度から、極めて低い温度が、患者を効果的に冷却するのに必要ではなく、したがって患者の肺に対する凍結損傷の危険性を軽減することである。保護低体温に対する必要性が無くなった後には、本装置を、患者を平熱まで復温するのに用いてもよい。
【0047】
氷粒の溶解により肺中に形成される流体の量は、容易に、患者によって許容されるであろう。良好な肺機能を有する成人は、容易に、通常プロセスで1リットル/時の流体を肺から除去することができる。したがって、0.25〜1リットル/時の範囲の氷粒の流量は、容易に、数時間の間許容されるであろう。5リットル/時未満の氷粒のより高い流量は、より短期間の長い間許容されることができる。所望により、流体を、肺の通路から周囲組織中へ、およびそこから血流中に押しやるのを促進するのに、正圧の呼吸を用いてもよい。加えて、利尿剤、または肺水腫を治療するための他の薬剤を、必要に応じて、過剰な水を除去するのを促進するために、患者に投与してもよい。
【0048】
抗震え剤および/または抗温度調節応答剤を、所望程度の低体温を達成するのを促進するために、患者に投与してもよい。代わりにまたは加えて、外部加温(温風ブランケットまたは電気毛布によるなど)を、震えを低減するのに適用し、一方内部の低体温を維持してもよい。患者の身体の選択部位を局所加熱することを、震えを抑制するのに、および/または身体の体温調節応答を「だます」のに用いてもよい。
【0049】
加熱または冷却効果を増大させるために、本明細書に記載される装置および方法は、任意の知られた体温調節系(上記に挙げられた特許に記載のものなど)との組合せでも用いることができる。代わりにまたは加えて、外部加熱または冷却を、全伝熱速度を上昇させるのに適用することができる。末梢血管拡張剤および/または発汗を促進する薬剤もまた、皮膚を通る熱損失を増大するために患者に投与してもよい。
【0050】
患者の体温を制御するために、氷粒を呼吸混合物に添加する効果の分析
基線計算および初期動物研究では、患者に供給される呼吸混合物を冷却することにより、核心温度が、時間とともに低下されることが示される。種々のガス混合物に対する初期計算では、患者から呼吸混合物への伝熱速度は、He/O混合物の場合の低くて約10ワット(大気圧、初期温度−30℃、容積流量20リットル/分)〜空気/CO呼吸混合物の場合の高くて117ワット(2atm、初期温度−30℃、容積流量100リットル/分)の範囲であろうことが示される。
【0051】
氷粒を混合物へ添加することの分析では、伝熱速度に対する実質的な寄与が示される。患者にとって許容可能な流体添加の正確なレベルは、いまだ知られていない。そのため、分析は、0.25〜5リットル/時の範囲の氷粒添加速度に対して行なわれた。氷粒は、サイズが小さく、かつ初期温度−30℃を有するものと仮定した。氷粒の加熱は、3段階に分けた。すなわち、1)固体の氷を−30℃から0℃へ加熱する段階、2)固体から液体への相変化を0℃で引起す段階、および3)液体の水を0℃から37℃へ加熱する段階である。種々の氷粒添加速度に対して、次の伝熱速度を得た。
【表1】

【0052】
計算は、氷が、大気圧、初期温度−30℃、および容積流量20リットル/分で、空気と混合されると仮定する。
【0053】
図4は、身体から除去される熱(ワット)を、呼吸混合物に添加される氷粒の速度(リットル/時)の関数として示す棒グラフである。
【0054】
図5は、身体から除去される熱(ワット)のより詳細な内訳を、呼吸混合物に添加される氷粒の速度(リットル/時)の関数として示す棒グラフである。分析では、氷粒の添加は、実質的な効果を有すること、および大部分の伝熱は、氷から液体の水への相変化によって与えられること、さらに最少の寄与は、氷を0℃へ加熱するのに要するエネルギーから生じることが示される。
【0055】
本発明は、例示的な実施形態および本発明を実施するための最良の形態に関して、本明細書に記載されているものの、当業者には、種々の実施形態に関する多くの変更、改良、および副次的組合せ、適合、ならびに変形は、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明に対してなされることができることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】圧縮呼吸ガス源および熱交換器を用いる治療上の低体温を誘導するための装置についての、第一の実施形態の概略図である。
【図2】圧縮呼吸ガスの断熱冷却を熱交換器の付属物として用いる治療上の低体温を誘導するための装置についての、第二の実施形態の概略図である。
【図3】流体源と、氷粒または凍結ミストを生成して、呼吸ガス混合物の熱容量を高めるための流体注入装置とを含む治療上の低体温を誘導するための装置についての、第三の実施形態の概略図である。
【図4】身体から除去される熱(ワット)を、呼吸ガス混合物に添加される氷粒の速度(リットル/時)の関数として示す棒グラフである。
【図5】身体から除去される熱(ワット)のより詳細な内訳を、呼吸ガス混合物に添加される氷粒の速度(リットル/時)の関数として示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸ガス源、
熱を、該源からの呼吸ガス流と交換するように構成された熱交換器、
微細氷粒を呼吸ガス流中に導入するように構成された氷粒生成装置、および
微細氷粒を含む呼吸ガス流を患者に供給するように構成された呼吸インターフェイス
を備えることを特徴とする治療上の低体温誘導装置。
【請求項2】
前記呼吸ガス源は、機械式呼吸装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記呼吸ガス源は、環境空気を前記装置へ供給するように構成された機械式呼吸装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記呼吸ガス源は、圧縮呼吸ガスの供給源を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記圧縮呼吸ガスは、酸素およびヘリウムを含有する混合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記圧縮呼吸ガスは、酸素および六フッ化硫黄を含有する混合物を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記氷粒生成装置は、水源と、水の微細液滴を呼吸ガス流中に導入するための噴霧装置とを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記氷粒生成装置は、食塩水源と、食塩水の微細液滴を呼吸ガス流中に導入するための噴霧装置とを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記噴霧装置は、超音波噴霧装置であることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記氷粒生成装置は、水を、噴霧前に冷却するための冷却装置を含むことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記熱交換器は、前記源からの呼吸ガス流を、選択的に冷却または加熱するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】
患者の体温を測定するための温度センサーを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】
患者の測定された体温に基づいて、前記装置の運転を制御するためのフィードバック制御装置を含むことを特徴とする請求項11に記載の装置。
【請求項14】
微細氷粒を呼吸ガス流中に導入する工程、および
微細氷粒を含む呼吸ガス流を患者に供給する工程
を有してなることを特徴とする患者の治療上の低体温誘導方法。
【請求項15】
呼吸ガス流を冷却する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記微細氷粒は、呼吸ガス流を凝固点未満の温度に冷却し、水の微細液滴を呼吸ガス流中に導入することによって、呼吸ガス流中に導入されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記微細氷粒は、呼吸ガス流を凝固点未満の温度に冷却し、食塩水の微細液滴を呼吸ガス流中に導入することによって、呼吸ガス流中に導入されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】
患者の体温を測定する工程、および患者の測定された体温に基づいて、患者への微細氷粒の供給速度を制御する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記呼吸ガスは、酸素およびヘリウムを含む混合物を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記呼吸ガスは、酸素および六フッ化硫黄を含む混合物を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項21】
抗震え剤を患者に投与する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項22】
加熱された呼吸ガス流を患者に供給することによって、患者を復温する工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−518544(P2007−518544A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551474(P2006−551474)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/002600
【国際公開番号】WO2005/070035
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(307000444)
【Fターム(参考)】