治療剤を送達可能な眼科用デバイスおよびその使用
IOLは数百万人に視力の改善をもたらしたが、続発性白内障または後嚢混濁(PCO)などの眼病の原因になり得る。白内障の手術後、眼内に挿入され、所望量の治療剤をある期間に亘って送達する眼科用デバイスを提供することは、非常に望ましい。本発明は、治療剤を担持した眼科用デバイスを対象とする。該デバイスは、眼に治療剤を長期間放出する。該眼科用デバイスは、典型的に、治療剤の担持に特に望ましい眼科材料で形成されている、および/または、該治療剤は、典型的に、眼科材料への担持に特に望ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本願は、米国特許法§119に基づき、米国仮特許出願第61/082,352号(2008年7月21日)に対する優先権を主張する。この仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、治療剤を担持した眼科用デバイスに関する。より特定すれば、本発明は、該デバイスが、該デバイスを眼に適用した後で、治療剤(例えば、抗炎症剤、抗増殖剤、免疫抑制剤またはそれらの任意の組合せ)を眼に長期間送達できるように治療剤を担持している、眼科用デバイス(例えば、眼内レンズ(IOL))に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、眼内レンズ(IOL)を個体の眼内に内部送達する白内障手術などの眼科手術の件数が、着実に増加してきた。IOLは、開発され、眼の様々な箇所に挿入されてきており、自然の眼の水晶体がもたらす視力を補助もしくは矯正するために使用でき、または自然の眼の水晶体に置き換わることができる。自然の水晶体に置き換わることなく視力を補助または矯正するレンズを、通常有水晶体レンズと称する一方、自然の水晶体に置き換わるレンズを、通常無水晶体レンズと称する。有水晶体レンズは、前眼房(AC)(AC有水晶体レンズ)または後眼房(PC)(PC有水晶体レンズ)の中に配置することができる。
【0004】
IOLは数百万人に視力の改善をもたらしたが、IOLは欠点も示し得る。特に、IOLは、続発性白内障または後嚢混濁(PCO)などの眼病の原因になり得る。
【0005】
PCOの回避を補助するために、抗炎症剤または抗増殖剤などの治療剤を、IOLを眼内に挿入した後、眼に投与することができる。こうした治療剤は、通常、軟膏または点眼液などの局所送達法により送達される。しかし、このような方法は少なくとも2つの重大な欠点を有する。第1に、局所送達されるこうした治療剤は、眼の各部分が、眼の後部内への治療剤の浸透を阻害する重要な生理的障壁として作用できるので、眼内の標的箇所に到達することが困難となり得る。第2に、こうした局所送達法の効果は、典型的に、軟膏または点眼液を眼に適用するための処方された投与計画に対する個人の遵守度に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした欠点に鑑みれば、白内障の手術後、眼内に挿入され、所望量の治療剤をある期間に亘って送達する眼科用デバイスを提供することは、非常に望ましい。このようなデバイスは、PCOの回避を補助する薬剤を送達するために使用できよう。その上、術後または別の時に眼内にこのようなデバイスを挿入することは、緑内障、黄斑浮腫、網膜症、黄斑変性、慢性炎症、感染症などの他の眼科疾患または眼病を阻害する治療剤を送達するために、追加または代替として使用できる。
【0007】
このようなデバイスを有効に開発するには、治療剤を所望の期間に亘り該デバイスから継続的または周期的に放出する機構が、存在する必要がある。しかし、長期の放出期間の間、治療剤の放出を制御することは、極めて困難になり得る。有利なことに、特定の眼科材料とそうした材料からの治療剤の放出との間に、ある関係が発見されており、その関係を利用して所望の放出期間を与えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、眼科材料で少なくとも部分的に形成されている眼科用デバイスを対象とする。眼科材料は、典型的に、アクリル性、疎水性またはその両方である。眼科材料は、典型的に、治療剤を担持している。本発明の好ましい実施形態では、治療剤および眼科材料は、該材料への該薬剤の担持を補助するため、および眼科材料からの治療剤の放出の延長を補助するために疎水性である。
【0009】
眼科用デバイスは、眼内での配置、または眼の外表面上での配置に適切になり得る。好ましい実施形態では、眼科材料で部分的または完全に形成されると見込まれる眼科用デバイスは、IOL、またはIOLと共に眼内に配置するのに適したデバイスである。
【0010】
本発明の特徴および発明的態様は、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、および簡単な説明を次にする図面を読めば、より明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図2】図2は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図3】図3は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図4】図4は、本発明のある態様による複数の眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図5】図5は、本発明のある態様による複数の眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図6】図6は、本発明のある態様による薬物放出の指標としての経時的蛍光強度のグラフである。
【図7】図7は、本発明のある態様による異なる薬物の薬物放出の比較グラフである。
【図8】図8は、本発明のある態様による例示的な眼科用デバイスの描写図である。
【図9】図9は、本発明のある態様による例示的な別の眼科用デバイスの描写図である。
【図10】図10は、本発明のある態様による例示的な別の眼科用デバイスの描写図である。
【図11】図11は、本発明のある態様によるコーティング眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図12】図12は、本発明のある態様によるコーティング眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、個体の眼の上に、しかしより好ましくは眼内に配置するのに適切な眼科材料で少なくとも部分的に形成されている、眼科用デバイスの提供を前提とする。該デバイスは、人体の箇所に、またはその内部にも配置してもよいが、該デバイスは、眼科用途に特に望ましい。
【0013】
該デバイスの眼科材料は、眼に送達しようとする治療剤の担持に適している。眼科材料は、眼内レンズ(IOL)としての使用にも適し得るが、下記で更に考察するように、該材料は、IOLとして、または別の形状で供給してもよい。該材料、または該材料の1種もしくは複数の構成要素は、典型的に相対的に疎水性であり、好ましくは治療剤も、ある程度の疎水性を示す。好ましい一実施形態では、該材料は、無水晶体IOLとして供給され、治療剤は、白内障の手術後に存在し得る炎症を軽減するために、相当量の抗炎症剤を含む。
【0014】
眼科材料は、好ましくは、疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方で構成されるポリマー材料である。眼科材料は、典型的にアクリル性でもあり、アクリル性とは、本明細書で使用する場合、該材料が少なくとも1種のアクリレートを含むことを意味する。眼科材料は、以下で更に説明するように、他の成分も含むことができる。
【0015】
疎水性構成要素は、単一のモノマーまたは複数の異なるモノマーで構成することができ、そうしたモノマーは、ホモポリマーまたはコポリマーいずれかであり得るポリマーを形成することができる。疎水性構成要素に含まれる各モノマーは、疎水性であろう、または形成された後の眼科材料に疎水性を与えることになろう。好ましくは、疎水性構成要素の実質的な割合(例えば、少なくとも60、80もしくは95重量%、または全体)がアクリレートで形成されている。疎水性構成要素に適切なモノマーには、それだけに限らないが、2−エチルフェノキシメタクリレート、2−エチルフェノキシアクリレート、2−エチルチオフェニルメタクリレート、2−エチルチオフェニルアクリレート、2−エチルアミノフェニルメタクリレート、2−エチルアミノフェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、2−フェニルエチルアクリレート、3−フェニルプロピルメタクリレート、3−フェニルプロピルアクリレート、4−フェニルブチルメタクリレート、4−フェニルブチルアクリレート、4−メチルフェニルメタクリレート、4−メチルフェニルアクリレート、4−メチルベンジルメタクリレート、4−メチルベンジルアクリレート、2−2−メチルフェニルエチルメタクリレート、2−2−メチルフェニルエチルアクリレート、2−3−メチルフェニルエチルメタクリレート、2−3−メチルフェニルエチルアクリレート、2−4−メチルフェニルエチルメタクリレート(24-methylphenylethyl methacrylate)、2−4−メチルフェニルエチルアクリレート、2−(4−プロピルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−プロピルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルメタクリレート、2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルアクリレート、2−(4−メトキシフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−メトキシフェニル)エチルアクリレート、2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルアクリレート、2−(2−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(2−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(3−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(3−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(4−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(4−ブロモフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−ブロモフェニル)エチルアクリレート、2−(3−フェニルフェニル)エチルメタクリレート、2−(3−フェニルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−フェニルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−フェニルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−ベンジルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−ベンジルフェニル)エチルアクリレート、それらの組合せなどが挙げられる。好ましい実施形態では、疎水性構成要素は、フェニルアクリレート類またはフェニルメタクリレート類、特に2−フェニルエチルアクリレート(PEA)、2−フェニルエチルメタクリレート(PEMA)からなる群から選択されるものである、1種または複数のモノマーを含む、またはそうしたモノマーから実質的に完全に形成されている(即ち、少なくとも90重量%)。
【0016】
疎水性構成要素の疎水性は、典型的に、液滴法に従って測定することができる。疎水性を測定するために、眼科用デバイスの硬化手順に従って、疎水性構成要素の成分を、および疎水性構成要素だけを硬化させることにより、固体の平坦な基材を形成することができる。このような硬化のために、硬化剤の量は、必要であれば当然調節することができる。詳細には、疎水性構成要素は、典型的に、眼科用デバイス中の全硬化性材料のある比率(%)を占めると見込まれ、硬化剤の量は、眼科用デバイスを形成する全硬化剤と同じ比率(%)になるように調節することができる。次いで液滴法に従って、1滴の水を基材の表面上に置く(または、ある一定の距離から落下させる)。この液が定着したとき、その接触角をゴニオメーターで測定する。本発明のために、この接触角を50°より大にする補助となる成分、特にモノマーは、疎水性構成要素の一部と見なされており、このようにして測定される接触角は、50°より大、より典型的には55°より大、更に可能であれば60°より大であるのが好ましい。
【0017】
親水性構成要素は、含まれる場合、単一のモノマーまたは複数の異なるモノマーで構成することができ、そうしたモノマーは、ホモポリマーまたはコポリマーのいずれかであり得るポリマーを形成することができる。親水性構成要素の各モノマーは、親水性であるか、または形成された後の眼科材料に親水性を与えなければならない。疎水性構成要素と同様に、親水性構成要素の実質的な割合(例えば、少なくとも60、80もしくは95重量%、または全体)は、アクリレートで形成されていることが好ましい。親水性構成要素に適切なモノマーには、それだけに限らないが、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、グリセリルメタクリレート、グリセリルアクリレート、ポリエチレンオキシドのモノおよびジメタクリレート、ならびにポリエチレンオキシドのモノおよびジアクリレートが挙げられる。好ましい実施形態では、親水性構成要素は、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などのヒドロキシアルキルアクリレートまたはメタクリレートである、1種または複数のモノマーを含む、またはそうしたモノマーから実質的に完全に形成されている(即ち、少なくとも90重量%)。
【0018】
親水性構成要素の親水性は、疎水性構成要素について説明したのと同様にして測定することができる。本発明のために、親水性の接触角を40°未満に押し下げる補助となる成分、特にモノマーは、疎水性構成要素の一部と見なされており、このようにして測定される接触角は、40°未満、より典型的には35未満、更に可能であれば30°未満であるのが好ましい。
【0019】
本発明の眼科用デバイスは、追加として多様な更なる成分を含むことができるが、そうした成分は、以下で更に説明するように、疎水性または親水性成分の一部となることも、ならないこともある。このような成分には、制限なしに、柔軟剤、UV吸収剤、重合剤、硬化剤および/または架橋剤、それらの組合せなどを含むことができる。
【0020】
複数の異なる化合物が、必要に応じて眼科用デバイスを重合し、架橋して、ポリマーマトリックスを形成するために、重合剤、硬化剤および/または架橋剤として使用できると想定している。例えば、ベンゾフェノンペルオキシドもしくはペルオキシカーボネート(例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(bis-(4-t-butulcyclohexyl)peroxydicarbonate))などの過酸化物、またはアゾビスイソブチロニトリル(azobisisobytyronitrile)などのアゾニトリルなどを使用して、重合を開始し、および/または疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方を架橋してもよい。適切な架橋剤には、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレートなども含むことができる。好ましい架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)および1,4−ブタンジオールジアクリレート(BDDA)である。一般に、利用する任意の重合開始剤、架橋剤またはその両方の量は、本発明の眼科材料の約10%(w/w)以下となろう。
【0021】
眼科材料に含まれる任意の紫外線吸収物質は、典型的に、紫外光(即ち、約400nmより短い波長の光)を吸収するが、相当量の可視光は吸収しない化合物であろう。紫外線吸収化合物は、モノマー混合物中に組み入れ、モノマー混合物が重合したときにポリマーマトリックス中に捕捉することができる。適切な紫外線吸収化合物には、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの置換ベンゾフェノン、ならびに2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールおよびO−メチルチヌビンPなどのスズ化合物が挙げられる。UV吸収剤は、物理的捕捉だけでもポリマーマトリックス中に捕捉され得る、または反応させてマトリックス中に入れることもなし得る。
【0022】
紫外線吸収物質に加えて、本発明の眼科材料で作製される眼科用デバイスは、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5470932号に開示された黄色色素など、着色色素を含んでもよい。
【0023】
眼科用デバイスは、重合および/または架橋を介して典型的に形成される。詳細には、眼科材料の成分を混ぜ合わせ、ポリマー形成構成要素、特に疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方を重合し、好ましくは架橋することにより、ポリマーマトリックスを形成する。必ずしも必要ではないが、好ましくは、重合および/または架橋工程中に熱を使用する。本発明の眼科材料は熱可塑性材料であり得ると一般に想定されるが、このような材料は熱硬化性であるのが一般に好ましい。
【0024】
追加の成分は、眼科材料の疎水性構成要素または親水性構成要素の一部となることも、ならないこともある。明確にするために、こうした成分、特に紫外線吸収剤ならびに重合剤および/または架橋剤は、こうした構成要素と反応して(即ち、化学的に反応して)ポリマーマトリックス中に入るならば、疎水性または親水性構成要素の一部であると単に見なすべきであり、該成分は、眼科用デバイスの形成時に不可欠な疎水特性または親水特性を示す。したがって、例えば、架橋剤1,4−ブタンジオールジアクリレートは、典型的に、反応してポリマーマトリックス中に入ると思われるので、疎水性構成要素の一部と見なされようし、それは不可欠な疎水特性を示す。対照的に、ポリマーマトリックスに物理的に捕捉されるに過ぎない(その中へ反応しない)スズUV吸収剤は、疎水性または親水性構成要素いずれかの一部とは見なされなかろう。
【0025】
重合および架橋の前のある時点および/またはその最中に、眼科材料は、典型的に、その材料を眼科用デバイスに成形するために、型枠内に配置される。一般に、眼科材料は、眼の上の局所配置、または眼の中の硝子体内配置もしくは硝子体内デポー注射に適した任意の所望の形状に、成形できると想定している。眼科用デバイスおよび/または眼科材料は、眼内に部分的に(例えば、プラグとして)、または眼内に実質的に完全に(例えば、眼内レンズまたはレンズ関連構成要素として)配置することができる。極めて好ましい実施形態では、眼科材料は、1つまたは複数の凸面および屈折率が、人の眼に対する視力の補助または付与に適切なIOLに成形される。該IOLは、AC有水晶体、PC有水晶体または無水晶体のものになりえよう。該デバイスは、IOLの支持部として成形し得ることも想定している。実例のために、図8は、眼内レンズ12および支持部14を有する眼内レンズアセンブリー10を示し、その一方または両方が、本発明の眼科材料で形成される眼科用デバイスとなり得る。本発明の眼科用デバイスは、IOLもしくは支持部の一部となり得るか、またはIOLから離れており、IOLと共に、もしくはIOLなしに眼内に挿入し得る材料塊(例えば、ディスク)となり得ると想定している。やはり実例のために、図9は、IOLと共に眼内に配置し得るリング形状のディスク18を示す。
【0026】
図10に例示されている好ましい一実施形態では、眼科材料は、水晶体嚢伸張リング24として成形することができる。このような実施形態では、伸張リング24は、水晶体嚢26上の張力および/またはその中の空間を維持するために、眼の水晶体嚢26内に配置される。このようなリング24は、水晶体嚢26内に配置されたIOL28を実質的に取り囲むことができ、有利なことに、典型的に、IOL28を介した視覚の障害となるのを回避するであろう。
【0027】
本発明の眼科材料は、眼内で生分解性または非生分解性であることが可能になり得ると理解されよう。しかし、眼科材料は、眼内での寿命が長い構造の一部であり、そのため典型的に、眼内で非生分解性であることが、一般に好ましい。
【0028】
眼科用デバイスが形成された後、治療剤を眼科用デバイスに会合させることにより、そのデバイスを眼に適用した際、長期間に亘り治療剤を放出させることができる。有利なことに、本発明の疎水性構成要素は、特にその構成要素がアクリル性の場合、疎水性治療剤に対して親和性を示し、その薬剤は、他の材料からその薬剤が解離するより実質的に遅い速度で、水性環境において疎水性構成要素から解離する傾向があることが判明した。したがって、疎水性構成要素は、長期間に亘り治療剤を眼または他の水性環境に送達するために、使用することができる。
【0029】
疎水性治療剤は、本明細書では、特に、その薬剤を可溶化する補助剤なしに水性媒体中に浸漬した際、そのような水性媒体に難溶である任意の薬剤(例えば、水性組成物中で投与する濃度で媒体中に完全には溶解しない)と定義される。一般に、該治療剤は、1種または複数の薬剤を含み得ると想定される。好ましい部類の治療剤には、眼科薬、特に疎水性および/または低溶解性の眼科薬が含まれる。非限定的な例には、抗緑内障剤、抗血管形成剤、抗感染症剤、抗炎症剤、抗増殖剤、成長因子および成長因子阻害剤、免疫抑制剤、ならびに抗アレルギー剤が挙げられる。抗緑内障剤には、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロールおよびカルテオロールなどのβ遮断薬、ピロカルピンなどの縮瞳薬、ブリンゾラミドおよびドルゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤、トラボプロスト、ビマトプロストおよびラタノプロストなどのプロスタグランジン、セロトニン作動薬(seretonergics)、ムスカリン様作動薬、ドーパミン作動性アゴニスト、ならびにアプラクロニジンおよびブリモニジンなどのアドレナリン作動性アゴニストが含まれる。抗血管形成剤には、酢酸アネコルタブ(RETAANE(商標)、Alcon(商標)Laboratories,Inc.、Fort Worth、Tex.)および受容体チロシンキナーゼ阻害剤が含まれる。抗感染症剤には、シプロフロキサシン、モキシフロキサシンおよびガチフロキサシンなどのキノロン、ならびにトブラマイシンおよびゲンタマイシンなどのアミノグリコシドが含まれる。抗炎症剤には、スプロフェン、ジクロフェナク、ブロムフェナク、ケトロラク、ネパフェナク、リメキソロンおよびテトラヒドロコルチゾールなどの非ステロイド性およびステロイド性抗炎症剤が含まれる。抗増殖剤には、制限なしに、コルヒチン、マイトマイシンC、メソトレキセート、ダウノマイシン(daynomycin)、ダウノルビシンおよび5−フルオロウラシルが含まれる。増殖因子には、制限なしに、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、神経増殖因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)およびトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)が含まれる。免疫抑制剤には、制限なしに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリン)および哺乳類ラパマイシン標的(MTOR)阻害剤(例えば、シロリムス、ザタロリムス、エベロリムス、テムシロリムス)が含まれる。抗アレルギー剤には、オロパタジンおよびエピナスチンが含まれる。眼科薬は、マレイン酸チモロール、酒石酸ブリモニジンまたはジクロフェナクナトリウムなどの医薬として許容される塩の形態で存在してもよい。当業者には理解されようが、ネパフェナクなどの非ステロイド抗炎症剤(NSAID)は、続発性白内障の予防の補助に特に望ましい。
【0030】
治療剤は、粒子または他の形態で眼科材料および/またはデバイスに適用することができる。治療剤またはその一部が粒子形態であれば、一実施形態では、粒子を摩砕し、さもなくば機械加工して微小サイズにすることが望ましくなり得る。粒子を機械加工してサブミクロンまたは更にナノ粒子にすることが、望ましいことさえあり得る。
【0031】
一般に、治療剤は、比較的高い分配係数logP(PCLogP)をもつように、ある程度の疎水性を示すことが好ましいが、その分配係数は、Sangster, James(1997年)Octanol-Water Partition Coefficients,Fundamentals and Physical Chemistry、Wiley Series in Solution Chemistry 2巻、Chichester、JohnWiley & Sons Ltd. [ISBN 978-0471973973] に従って決定することができる。治療剤は、典型的には少なくとも1.0、より典型的には少なくとも1.6、一層典型的には少なくとも2.0、更に可能であれば少なくとも2.5となるPCLogPをもつことになろう。2種以上の疎水性薬剤で構成される治療剤については、その薬剤が共に、前記の値より大きいPCLogPをもつことが好ましい。
【0032】
治療剤を眼科用デバイスに適用するために、複数の異なる手順を採用し得る。一般に、治療剤は、眼科用デバイスの眼科材料と反応して、結合を形成し得ると想定される。代替または追加として、治療剤は、眼科材料と接触してまたは直接隣接して治療剤を維持する傾向のある他の力により、眼科材料と会合してもよい。理論には拘らないが、こうした力は、疎水性相互作用、ファンデアワールス力、物理的捕捉、水素結合力、電荷力またはそれらの任意の組合せであると考えられる。
【0033】
好ましい一実施形態では、治療剤は、アセトン、メタノール、ベンゼン、トルエン、アルコールなどの溶媒、それらの組合せなどに溶解して、治療剤溶液を形成する。眼科材料、眼科用デバイスまたはその両方は、ある期間その溶液中に沈め、浸けられる。その後、眼科材料、眼科用デバイスまたはその両方を溶液から取り出し、例えば、加熱および/または真空条件下で乾燥することにより、ある量の治療剤が眼科材料上に配置される。該デバイスに適用された後、該薬剤は、典型的に、眼科材料で形成された外部に面する周囲表面上一帯に配置されても、該薬剤は、内表面上一帯にも配置してもよい。
【0034】
眼科材料上に配置される治療剤の量は、治療剤自体およびその薬剤の所望の用量に応じて、広範囲に変化し得る。一般に、眼科材料上に配置される治療剤の総量は、少なくとも約0.01μg、典型的には約1mg未満である。治療剤が、完全にまたは実質的に完全に、ネパフェナクなどのNSAIDである非常に好ましい実施形態では、眼科用デバイスは、IOL(例えば、無水晶体IOL)または水晶体嚢中に配置されるリング(例えば、水晶体嚢伸張リング)であり、治療剤の量は、典型的には少なくとも約5ng、より典型的には少なくとも約10μgであり、典型的には約10mg未満、より典型的には約500μg未満である。
【0035】
眼科材料の疎水性構成要素が、疎水性治療剤を誘引する傾向がある一方、親水性構成要素は、含まれている場合、同じ誘引力を示さない。したがって、疎水性構成要素を含めると、眼科材料および/またはデバイスによる治療剤の放出を加速する傾向があることが判明した。したがって、好ましい実施形態では、眼科用デバイスおよび材料は、治療剤の所望の排出または放出プロファイルを実現するために、ある均衡の疎水性および親水性アクリレートを含むことができる。親水性構成要素をより多量に含めることにより、治療剤の放出を加速することができる。
【0036】
治療剤の放出速度は、使用する治療剤および眼科材料の性質に応じて、広範囲に変化し得る。その上、治療剤の放出速度は、眼科用デバイスが適用される個体に応じて、少なくともある程度変化し得る。しかし、一定の基準の放出速度は、平衡塩類溶液(BSS)中に眼科用デバイスを浸漬し、放出量を様々な時間間隔で測定することにより、開発することができる。このような測定の詳細は、下記の実施例および比較データにおいて考察されている。本発明の場合、BSSは、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2・H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2・3H2O)およびクエン酸ナトリウム二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)からなる無菌の生理的な平衡塩類溶液である。BSSは、眼の組織に対して等張である。各1mlには、次のもの、即ち塩化ナトリウム0.64%、塩化カリウム0.075%、塩化カルシウム0.048%、塩化マグネシウム0.03%、酢酸ナトリウム0.39%、クエン酸ナトリウム0.17%、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸(pHの調節用)が含有され、残りは水である。
【0037】
本発明の場合、一般に、治療剤の重量で80%未満または更に50%未満が、少なくとも3日、より典型的には少なくとも1週、更により典型的には少なくとも2週、可能であれば少なくとも30日、更に可能であれば少なくとも90日または180日の期間に亘って、BSS中で眼科用デバイスから放出されることが望ましく、治療剤の重量で50%超または更に80%超が、730日未満、より典型的には365日未満、更により典型的には180日未満、更に可能であれば90日未満の期間に亘って、BSS中に放出されることが好ましい。治療剤が、完全にまたは実質的に完全に(即ち、少なくとも90重量%)、ネパフェナクなどの非ステロイド抗炎症薬である好ましい実施形態では、治療剤の重量で80%未満または更に50%未満が、少なくとも2日、より典型的には少なくとも1週、更により典型的には少なくとも10日の期間に亘って、BSS中で放出されることが望ましく、治療剤の重量で50%超または更に80%超が、180日未満、より典型的には45日未満、更により典型的には25日未満、更に可能であれば15日未満の期間に亘って、BSS中で放出されることが好ましい。
【0038】
眼科材料と治療剤との誘引力の利用に加えて、またはその代替として、コーティングを用いて、眼科用デバイスに治療剤を担持する補助とすることができる。このようなコーティングは、特定の眼科材料に対する治療剤の担持量を増減させ、および/または眼科材料からの治療剤の放出速度を増減させることができる。このようなコーティングは、眼科用デバイスを形成する眼科材料と治療剤との間に誘引力が殆どまたは全くない場合に、該デバイスに治療剤を適用するためにも使用することができる。
【0039】
一実施形態では、治療剤をコーティング中に混合し、そのコーティングを眼科材料および/またはデバイスに施す(例えば、その上にディップコーティングする)。代替の実施形態では、コーティングを眼科材料および/またはデバイスに施した(例えば、その上にディップコーティングする)後、上記の溶媒/治療剤技法または他の技法を用いて、治療剤をコーティング上に直接塗布する。
【0040】
コーティングは、多種の材料で形成できるが、好ましくは1種または複数のポリマーを含む。一実施形態では、コーティングは、典型的には生体適合性の1種または複数のポリマーを含む水性コーティングである。好ましくは、1種または複数の該ポリマーは、眼科用デバイスと共に眼に適用された後、ある期間に亘って治療剤を放出するだけのために、該薬剤を捕捉するマトリックスを形成することができる。このようなマトリックスは、コーティングおよび/またはコーティングを施した眼科用デバイスを加熱することにより、形成することができる。潜在的に適切なコーティングの例は、共にあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6238799号および第6866936号に開示されている。1つの適切なコーティングは、LubrilASTの商品名で販売され、AST(Advanced Surface Technology)Products,Inc.、9 Linnell Circle、Billerica、MA、01821から商業的に入手できる。一実施形態では、ポリマーマトリックスを有するコーティングの使用によって、疎水性の眼内インプラント(例えば、アクリルのIOLまたはリング)から親水性薬物(例えば、ジクロフェナクナトリウム:logP=1.1、コルヒチン:logP=1.3、およびマイトマイシンC:logP=0.44)を送達する方法を得ることができる。
【0041】
眼科用デバイスからの治療剤の長期放出は、被包をアクリレートまたは他の疎水性ポリマーで作製した、薬物封入済みのナノスフェア、マイクロスフェアまたはリポソームの直接担持により実現できることも想定されている。追加または代替として、治療剤を予備処理することにより、ナノサイズまたはマイクロサイズの粒子を実質的に均一なサイズ/形状で形成でき、次いで、該粒子を眼科用デバイスに担持すると、治療剤の制御された長期放出がもたらされよう。
【0042】
その上更に、レーザーまたは他のエネルギーの焦点を眼科材料に合わせることにより、該材料を加熱して、放出速度を変えること、および/または眼科用デバイスによる治療剤放出のために追加の細孔を開けることができることも、想定されている。なお更に、眼科用デバイスを作製する工程において、適当な工程条件を適用することにより、該デバイスの材料内部にマイクロもしくはナノポケットまたは空胞を形成できることも、想定されている。次いで、該ポケットまたは空胞は、薬物担持量を増加させる付加的貯留部として機能することができる。マイクロまたはナノポケット/空胞のサイズおよび密度は、インプラントの光学性能に影響しないように制御することができる。
【0043】
有利なことに、本発明の眼科用デバイスは、コーティングと共にまたはそれなしで使用されようと、ある期間に亘って放出されている治療剤の全く望ましい放出プロファイルを与えることができる。その上、特に眼科用デバイスが眼内に配置されている(例えば、IOLまたは水晶体嚢伸張リングとして)場合、本発明の眼科用デバイスは、眼の眼内領域へ治療剤を非常に効率的に供給することができる。更に、本発明の治療剤担持眼科用デバイスを装着しても、光学的および/または機械的性能の損失は、あったとしてもごく僅かであることが判明した。
【実施例】
【0044】
(実施例および比較データ)
一体成形の疎水性軟質アクリルIOLを、2−フェニルエチルアクリレート(PEA)65%、2−フェニルエチルメタクリレート(PEMA)30%、1,4 ブタンジオールジアクリレート(BDDA)3.2%およびO−メチルチヌビンP(OMTP、UV吸収剤)1.8%から形成し、A1IOLと命名した。一体成形の疎水性軟質アクリルIOLを、PEA80%、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15%、BDDA3.2%およびOMTP1.8%から形成し、A2IOLと命名した。37℃における相当含水量を、A1およびA2IOLに対してそれぞれ0.25%および1.4%と決定した。直径6mmおよび厚さ1mmのディスクも、上記の配合に従って作製し、同様にA1およびA2ディスクと命名した。ディスクの表面積は75.36mm2である。A1材料で形成されたサイズ9mmの眼内リングインプラントも、作製し、A1眼内インプラントと命名した。リングインプラントの表面積は121.62mm2である。
【0045】
(実施例1)
ネパフェナクの10mg/mL薬物溶液を5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1IOLを、この薬物溶液中に室温(RT約23℃)で48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持IOLを薬物溶液から取り出し、ブランクのメタノール溶媒で濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持IOLをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。1、12、30および75日での薬物放出の総量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、その結果を図1に図示している。
【0046】
(実施例2)
ネパフェナクの10.23mg/mLを5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1眼内インプラントを、この溶液中にRTで48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持ディスクを溶液から取り出し、5:1アセトン/メタノール溶液(薬物なし)できれいに濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持ディスクをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。BSSを26日間毎日取り替えた、薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図2に図示している。
【0047】
(実施例3)
ネパフェナクの10.23mg/mLを5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1ディスクおよびA2ディスクを、この溶液中にRTで48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持ディスクを溶液から取り出し、5:1アセトン/メタノール溶液(薬物なし)中できれいに濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持ディスクをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。BSSを1週間毎日取り替えた。A1およびA2ディスクからの薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図3に図示している。
【0048】
(実施例4)
治療剤の取込みおよび放出に関して他のアクリルIOLを評価するために、A2配合におけるPEAとHEMAとの比率を変えて、軟質でより疎水性からより硬質で親水性までのIOL材料に亘る広範囲の材料物性を有する、アクリルコポリマーディスクを得、その詳細は以下の表Aに示す。取込み試験は、5:1アセトン/メタノール溶液中のネパフェナク2.5mg/mLにディスク試料をRTで48時間浸漬した後、1:1アセトン/メタノール混合物(薬物なし)で洗浄して表面薬物を除去することにより、行った。薬物放出試験は、37℃のBSS0.5mL中で個別に試料をインキュベートすることにより、行った。BSSを10日間毎日取り替えた。薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図4に図示している。
【0049】
【表1】
見て分かるように、より疎水性のアクリレート材料は、より親水性のアクリレート材料より薬物取込み量が高いが、材料の薬物放出はより遅い。
【0050】
(実施例5)
異なるIOLおよびコンタクトレンズの薬物の担持および放出を比較するために、アクリルIOL、シリコーンIOLおよび親水性コンタクトレンズを含む市販レンズを用いた試験を行った。各レンズ材料の薬物担持能力を最大化するために、溶液成分を制限した。にも拘わらず、薬物の溶液濃度および担持時間は、レンズ材料に関係なく同じであった。薬物の担持条件は、下記の表Bに示してある。薬物放出試験は2週間まで行い、その結果を図5に示している。
【0051】
【表2】
見て分かるように、シリコーンIOLおよびヒドロゲルコンタクトレンズの薬物担持能力は、アクリルIOLより有意に小さかった。それに加え、担持薬物が、シリコーンおよびヒドロゲルレンズから最初の2、3日以内に速やかに放出された。対照的に、アクリルレンズは、より多くの薬物を保持し、長期間の間徐々に薬物を放出することができた。
【0052】
(実施例6)
アセトン中のクルクミン薬5mg/mLにIOLを12時間浸漬することにより、A1IOLに薬物を担持した。アセトンおよびBSSで表面洗浄した後、ニュージーランドシロウサギの両目一方内に、そのIOLを無水晶体IOLとして移植した。移植の前に、ウサギの天然水晶体を、水晶体乳化吸引による標準的な白内障除去手順に従って除いた。インプラントのないもう一方の眼は、対照として役立てた。ウサギを異なる時期に犠牲にし、眼を取り出した。試料の各眼にあるクルクミン薬物分子からの蛍光発光を、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で画像化し、高分解能の薬物分布像を得た。その結果を図6に図示しており、眼の領域AおよびC(強膜外側部)、眼の領域B(角膜および前房部)および眼の領域D(中心窩および黄斑部)が明確に示されている。
【0053】
(実施例7)
ネパフェナク(PClogP=2.1)2.5mg/mLおよびジクロフェナクナトリウム(PClogP=1.1)2.5mg/mLの溶液を、共に作製した。A1およびA2ディスクを、各溶液中の更新薬物を求めて4時間浸漬した。BSSにおける各日薬物放出試験は、2週間行った。担持および放出薬物量は、図7に図示してある。見て分かるように、疎水性の高いA1材料が、疎水性の低いA2材料より、ネパフェナクおよびジクロフェナクナトリウムの両薬物を多量に担持する。両材料は、疎水性薬物のネパフェナクを多量に取り込むが、疎水性の低いジクロフェナクナトリウムの取込みはごく限られている。
【0054】
溶液中の様々な薬物濃度およびそうした溶液における様々な浸漬時間量を用いた実験を介して、該眼科用デバイスに担持する治療剤の量を変えることができることが見出された。しかし、眼科材料の疎水性および/または治療剤の疎水性が、典型的に、該デバイスに各量の薬剤を担持する能力を決定する最優先の要因であった。
【0055】
(実施例8)
IOLをLubrilASTコーティング/薬物溶液でコーティングした。ジクロフェナクをコーティング溶液と直接混合し、IOLをコーティング/薬物溶液中でディップコーティングした。コーティングの配合は、コーティング/薬物溶液中のPVPの濃度が、重量で20%、14%、5%および2%となるように変更した。ジクロフェナクの濃度は、31mg/mLの一定に維持した。レンズは、単一層のコーティングでディップコーティングし、65℃のオーブンで4時間乾燥した。前記したのと同じように、レンズをBSS中で試験し、分光計を用いて測定した。
【0056】
図11で分かるように、薬物放出速度は、PVP含量が減少するにつれ減少することが判明した。20%PVP含量では、薬物の98.2%が5日後に平均して放出された(n=3)。しかし、2%PVPでは、全薬物の71.9%だけが、5日後に平均して放出された(n=3)(図2C)。その上、1日基準で放出されるジクロフェナクの量は、PVP含量の影響を有意に受けた。図12で分かるように、2%PVPを用いたコーティングにより、ジクロフェナクは4日間定常的な速度で放出されたが、他の濃度は、1日の放出後に有意に減少した。したがって、PVP含量の減少は、5日間に亘る薬物の放出期間を有意に延長する。
【0057】
(実施例9)
ジクロフェナクのコーティング溶液を変更して、コーティング中に組み入れた様々な薬物濃度について、放出速度を決定した。濃度の範囲には、コーティング溶液に対してジクロフェナク5.2、14.9、42.8および80.1mg/mLが含まれていた。各濃度に対して計算した全薬物担持量は、それぞれ0.5453、1.636、4.699および8.795mgである。ジクロフェナクは、50mg/mLまで水に溶解する。コーティングの安定性についての濃度の効果、および放出速度に対する効果を決定するために、上記の範囲外の濃度を1つ選定した。他の濃度がコーティング溶液中に容易に溶解したのに対し、その高濃度は、溶液中の非溶解結晶の存在で示されるように、溶解しなかった。架橋剤の含量は、全てのコーティングについて1.5%であった。レンズは、各コーティングを7層にコーティングした。コーティングの厚さは、コーティングレンズの乾重量測定値で示されるように、有意な相違がなかった。
【0058】
前記したのと同じように、レンズをBSS中で試験し、分光計を用いて測定した。各コーティングの放出速度は、最初の3日間で有意に異なっていた。4日目から10日目に、薬物放出速度は横ばいとなり、この期間を通してほぼ一致したままであった。その他の濃度に対する10日間期末近くの薬物レベルも、この提案試験法の検出限界未満に低下した。
【0059】
(実施例10)
コルヒチンの放出速度を、2.6、10.5、30.3および61.2mg/mLを含む濃度の範囲のコーティングについて得た。各レンズのコーティング内に含有される薬物量は、コーティング後のレンズの重量増加、ならびに乾燥後のコーティングについて公知の収縮および重量の変化に基づいて計算した。2.6mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.0316mgを含有していた。10.5mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.116mgを含有していた。30.3mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.336mgを含有していた。61.2mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.694mgを含有していた。インビトロ試験に基づくと、LECの移動を示す結果に基づいて、コルヒチンの標的濃度は0.0005mg/mLであり、増殖は、0.0005mg/mLもの低い濃度で阻害された。この分析法を用いたコルヒチンの検出限界は、0.0083mg/mLであった。薬物濃度は、各試料について8日間得られた。しかし、8日後に、全ての濃度が検出限界未満になった。この時点で、試験溶液を取り替え、レンズを更に18日間(合計28日)浸漬することにより、測定可能な薬物濃度を得た。インビトロの薬物放出データによれば、2.6mg/mLのコーティング溶液をコーティングしたレンズは、8日間こうした量を放出した後、検出限界未満になることを示している。10.5mg/mLのコーティング溶液、ならびにより高濃度のコーティング溶液をコーティングしたレンズは、少なくとも8日間0.0083mg/mLを超える量を放出した。様々な薬物濃度レベルを担持したコーティングについて、コルヒチン放出を37℃のBSS中で28日後に検出した(n=3)。
【0060】
(実施例11)
各レンズのコーティング内に含有される薬物量を、前記した方法に従って計算した。2mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、マイトマイシンC(MMC)をおよそ0.138mg含有していた。インビトロ試験に基づくと、LECの移動を示す結果に基づいて、MMCの標的濃度は0.0005mg/mLであり、増殖は、0.0005mg/mLもの低い濃度で阻害された。この分析法を用いたMMCの検出限界は、0.010mg/mLであった。11日後、MMCは、検出限界を超えるレベルでコーティングから放出され続けた。最初の2日間の薬物放出後、薬物放出速度は有意に変化していない。レンズに担持した全MMCのおよそ20%は、37℃のBSSに浸漬して11日後に残っている。MMCは、37℃のBSS中で水和して11日までコーティングから放出される(n=3)。11日後のレベルは、この方法のMMCに対する検出限界未満である。
【0061】
(実施例12)
アクリレートレンズ(ACRYSOFT(登録商標)IIレンズ)に、異なる6種の治療剤、アスコルビン酸、アスピリン、コルヒチン、ネパフェナク、ケトロラクおよびリドカインを別々に担持した。レンズからの各治療剤の放出を、HPLCを用いて7日の期間に亘り決定した。放出された薬物濃度は、Waters2699PDA検出器およびSymmetry(登録商標)C18カラム(4.6×75mm)を備えたWaters2695Separations Moduleを用いて測定した。較正曲線は、各薬物について様々な濃度(10、50、100、500、1000μg/ml)を用いて作成した。
【0062】
アセトンおよび濃度3mg/mlの治療剤から作製した治療剤溶液を用いて、レンズに担持した。レンズは、この溶液中に90分間浸漬した。格子状メッシュ上にこの溶液を注ぎ出し、レンズを回収し、レンズを密閉チャンバー内で終夜風乾した。翌日、レンズをアセトン:メタノール(1:1)溶液中に5分間浸漬し、軽く渦流撹拌した。次いで、レンズを取り出し、約2時間風乾した。次いで、レンズを50℃で終夜真空乾燥した。治療剤担持レンズ(各薬物に対しレンズ1個)をEppendorfチューブに入れ、そこにHPLC等級の水0.5mlを添加した。そのディスクを37℃の5%CO2でインキュベートし、放出媒体を期間7日間に亘り24時間ごとに取り替えた。放出媒体中の薬物量を、HPLCを用いて分析した。
【0063】
様々な条件を試み、HPLC法を各治療剤について最適化した。
【0064】
ネパフェナクは、実質的に上記の通りHPLC法に従って試験した。
【0065】
アスコルビン酸の場合、移動相が、蒸留水および2mMの1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、メタノールならびに氷酢酸[55:44.5:0.5(v/v)]を含んでいた。標準液は移動相中で作製した。注入容量は25μlで、流速は0.5ml/分であった。検出波長は263nmに固定した。
【0066】
アスピリンの場合、移動相が、メタノール、氷酢酸、蒸留水[30:2:68(v/v)]を含んでいた。標準液は水中で作製し、注入容量は25μlであった。試料の流速は1ml/分に維持し、検出は254nmで実施した。
【0067】
コルヒチンの場合、移動相が、アセトニトリルおよび3%酢酸[60:40(v/v)]を含み、標準液は移動相中で作製した。HPLCの流速は1ml/分に維持し、注入容量は25μlであった。検出は245nmで実施した。
【0068】
ケトロラクの場合、移動相が、アセトニトリルおよび0.2%v/v氷酢酸[40:60(v/v)]を含んでいた。標準液はメタノール中で作製し、注入容量は20μlであった。流速は1ml/分に維持し、検出波長は313nmに設定した。
【0069】
リドカインの場合、移動相が、メタノール350ml、蒸留水150ml、氷酢酸10mlおよびドデシル硫酸ナトリウム1.6gの混合物を含んでいた。移動相は、0.22μmのフィルターでろ過した。リドカイン標準液は移動相中で作製した。注入容量は25μlに、流速は1ml/分に設定した。検出は250nmで実施した。
【0070】
レンズからの治療剤の7日後の総放出量を下記の表1にまとめてある。
【0071】
【表3】
上記の表に示されるように、治療剤のLogP値がより高い(即ち、より大きい親油性または疎水性を示す)と、レンズからの治療剤の放出量が望ましいことを示す。
【0072】
出願者は、本開示の中に引用した全参考文献の全内容を明確に組み込んでいる。更に、ある量、濃度、または他の値もしくはパラメーターを、ある範囲、好ましい範囲、または好ましい高い値および好ましい低い値のリストとして示す場合、これは、範囲が別々に開示されているか否かに関わらず、任意の範囲上限または好ましい値と任意の範囲下限または好ましい値との任意の一対から形成される、全ての範囲を明確に開示するものと理解されたい。ある範囲の数値を本明細書で挙げる場合、特に指示のない限り、その範囲は、その両端値、ならびにその範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図している。本発明の範囲は、ある範囲を定義する際に挙げた特定の値に限定されることを意図していない。
【0073】
本発明の他の実施形態は、本明細書の検討、および本明細書に開示した本発明の実施から、当業者には明らかとなろう。本明細書および本実施例は、単なる例示と見なされることを意図しており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲およびその等価物により示される。
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本願は、米国特許法§119に基づき、米国仮特許出願第61/082,352号(2008年7月21日)に対する優先権を主張する。この仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、治療剤を担持した眼科用デバイスに関する。より特定すれば、本発明は、該デバイスが、該デバイスを眼に適用した後で、治療剤(例えば、抗炎症剤、抗増殖剤、免疫抑制剤またはそれらの任意の組合せ)を眼に長期間送達できるように治療剤を担持している、眼科用デバイス(例えば、眼内レンズ(IOL))に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、眼内レンズ(IOL)を個体の眼内に内部送達する白内障手術などの眼科手術の件数が、着実に増加してきた。IOLは、開発され、眼の様々な箇所に挿入されてきており、自然の眼の水晶体がもたらす視力を補助もしくは矯正するために使用でき、または自然の眼の水晶体に置き換わることができる。自然の水晶体に置き換わることなく視力を補助または矯正するレンズを、通常有水晶体レンズと称する一方、自然の水晶体に置き換わるレンズを、通常無水晶体レンズと称する。有水晶体レンズは、前眼房(AC)(AC有水晶体レンズ)または後眼房(PC)(PC有水晶体レンズ)の中に配置することができる。
【0004】
IOLは数百万人に視力の改善をもたらしたが、IOLは欠点も示し得る。特に、IOLは、続発性白内障または後嚢混濁(PCO)などの眼病の原因になり得る。
【0005】
PCOの回避を補助するために、抗炎症剤または抗増殖剤などの治療剤を、IOLを眼内に挿入した後、眼に投与することができる。こうした治療剤は、通常、軟膏または点眼液などの局所送達法により送達される。しかし、このような方法は少なくとも2つの重大な欠点を有する。第1に、局所送達されるこうした治療剤は、眼の各部分が、眼の後部内への治療剤の浸透を阻害する重要な生理的障壁として作用できるので、眼内の標的箇所に到達することが困難となり得る。第2に、こうした局所送達法の効果は、典型的に、軟膏または点眼液を眼に適用するための処方された投与計画に対する個人の遵守度に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こうした欠点に鑑みれば、白内障の手術後、眼内に挿入され、所望量の治療剤をある期間に亘って送達する眼科用デバイスを提供することは、非常に望ましい。このようなデバイスは、PCOの回避を補助する薬剤を送達するために使用できよう。その上、術後または別の時に眼内にこのようなデバイスを挿入することは、緑内障、黄斑浮腫、網膜症、黄斑変性、慢性炎症、感染症などの他の眼科疾患または眼病を阻害する治療剤を送達するために、追加または代替として使用できる。
【0007】
このようなデバイスを有効に開発するには、治療剤を所望の期間に亘り該デバイスから継続的または周期的に放出する機構が、存在する必要がある。しかし、長期の放出期間の間、治療剤の放出を制御することは、極めて困難になり得る。有利なことに、特定の眼科材料とそうした材料からの治療剤の放出との間に、ある関係が発見されており、その関係を利用して所望の放出期間を与えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、眼科材料で少なくとも部分的に形成されている眼科用デバイスを対象とする。眼科材料は、典型的に、アクリル性、疎水性またはその両方である。眼科材料は、典型的に、治療剤を担持している。本発明の好ましい実施形態では、治療剤および眼科材料は、該材料への該薬剤の担持を補助するため、および眼科材料からの治療剤の放出の延長を補助するために疎水性である。
【0009】
眼科用デバイスは、眼内での配置、または眼の外表面上での配置に適切になり得る。好ましい実施形態では、眼科材料で部分的または完全に形成されると見込まれる眼科用デバイスは、IOL、またはIOLと共に眼内に配置するのに適したデバイスである。
【0010】
本発明の特徴および発明的態様は、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、および簡単な説明を次にする図面を読めば、より明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図2】図2は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図3】図3は、本発明のある態様による眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図4】図4は、本発明のある態様による複数の眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図5】図5は、本発明のある態様による複数の眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出の別のグラフである。
【図6】図6は、本発明のある態様による薬物放出の指標としての経時的蛍光強度のグラフである。
【図7】図7は、本発明のある態様による異なる薬物の薬物放出の比較グラフである。
【図8】図8は、本発明のある態様による例示的な眼科用デバイスの描写図である。
【図9】図9は、本発明のある態様による例示的な別の眼科用デバイスの描写図である。
【図10】図10は、本発明のある態様による例示的な別の眼科用デバイスの描写図である。
【図11】図11は、本発明のある態様によるコーティング眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【図12】図12は、本発明のある態様によるコーティング眼科用デバイスの例示的な経時的薬物放出のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、個体の眼の上に、しかしより好ましくは眼内に配置するのに適切な眼科材料で少なくとも部分的に形成されている、眼科用デバイスの提供を前提とする。該デバイスは、人体の箇所に、またはその内部にも配置してもよいが、該デバイスは、眼科用途に特に望ましい。
【0013】
該デバイスの眼科材料は、眼に送達しようとする治療剤の担持に適している。眼科材料は、眼内レンズ(IOL)としての使用にも適し得るが、下記で更に考察するように、該材料は、IOLとして、または別の形状で供給してもよい。該材料、または該材料の1種もしくは複数の構成要素は、典型的に相対的に疎水性であり、好ましくは治療剤も、ある程度の疎水性を示す。好ましい一実施形態では、該材料は、無水晶体IOLとして供給され、治療剤は、白内障の手術後に存在し得る炎症を軽減するために、相当量の抗炎症剤を含む。
【0014】
眼科材料は、好ましくは、疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方で構成されるポリマー材料である。眼科材料は、典型的にアクリル性でもあり、アクリル性とは、本明細書で使用する場合、該材料が少なくとも1種のアクリレートを含むことを意味する。眼科材料は、以下で更に説明するように、他の成分も含むことができる。
【0015】
疎水性構成要素は、単一のモノマーまたは複数の異なるモノマーで構成することができ、そうしたモノマーは、ホモポリマーまたはコポリマーいずれかであり得るポリマーを形成することができる。疎水性構成要素に含まれる各モノマーは、疎水性であろう、または形成された後の眼科材料に疎水性を与えることになろう。好ましくは、疎水性構成要素の実質的な割合(例えば、少なくとも60、80もしくは95重量%、または全体)がアクリレートで形成されている。疎水性構成要素に適切なモノマーには、それだけに限らないが、2−エチルフェノキシメタクリレート、2−エチルフェノキシアクリレート、2−エチルチオフェニルメタクリレート、2−エチルチオフェニルアクリレート、2−エチルアミノフェニルメタクリレート、2−エチルアミノフェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ベンジルアクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、2−フェニルエチルアクリレート、3−フェニルプロピルメタクリレート、3−フェニルプロピルアクリレート、4−フェニルブチルメタクリレート、4−フェニルブチルアクリレート、4−メチルフェニルメタクリレート、4−メチルフェニルアクリレート、4−メチルベンジルメタクリレート、4−メチルベンジルアクリレート、2−2−メチルフェニルエチルメタクリレート、2−2−メチルフェニルエチルアクリレート、2−3−メチルフェニルエチルメタクリレート、2−3−メチルフェニルエチルアクリレート、2−4−メチルフェニルエチルメタクリレート(24-methylphenylethyl methacrylate)、2−4−メチルフェニルエチルアクリレート、2−(4−プロピルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−プロピルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルメタクリレート、2−(4−(1−メチルエチル)フェニル)エチルアクリレート、2−(4−メトキシフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−メトキシフェニル)エチルアクリレート、2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−シクロヘキシルフェニル)エチルアクリレート、2−(2−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(2−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(3−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(3−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(4−クロロフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−クロロフェニル)エチルアクリレート、2−(4−ブロモフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−ブロモフェニル)エチルアクリレート、2−(3−フェニルフェニル)エチルメタクリレート、2−(3−フェニルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−フェニルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−フェニルフェニル)エチルアクリレート、2−(4−ベンジルフェニル)エチルメタクリレート、2−(4−ベンジルフェニル)エチルアクリレート、それらの組合せなどが挙げられる。好ましい実施形態では、疎水性構成要素は、フェニルアクリレート類またはフェニルメタクリレート類、特に2−フェニルエチルアクリレート(PEA)、2−フェニルエチルメタクリレート(PEMA)からなる群から選択されるものである、1種または複数のモノマーを含む、またはそうしたモノマーから実質的に完全に形成されている(即ち、少なくとも90重量%)。
【0016】
疎水性構成要素の疎水性は、典型的に、液滴法に従って測定することができる。疎水性を測定するために、眼科用デバイスの硬化手順に従って、疎水性構成要素の成分を、および疎水性構成要素だけを硬化させることにより、固体の平坦な基材を形成することができる。このような硬化のために、硬化剤の量は、必要であれば当然調節することができる。詳細には、疎水性構成要素は、典型的に、眼科用デバイス中の全硬化性材料のある比率(%)を占めると見込まれ、硬化剤の量は、眼科用デバイスを形成する全硬化剤と同じ比率(%)になるように調節することができる。次いで液滴法に従って、1滴の水を基材の表面上に置く(または、ある一定の距離から落下させる)。この液が定着したとき、その接触角をゴニオメーターで測定する。本発明のために、この接触角を50°より大にする補助となる成分、特にモノマーは、疎水性構成要素の一部と見なされており、このようにして測定される接触角は、50°より大、より典型的には55°より大、更に可能であれば60°より大であるのが好ましい。
【0017】
親水性構成要素は、含まれる場合、単一のモノマーまたは複数の異なるモノマーで構成することができ、そうしたモノマーは、ホモポリマーまたはコポリマーのいずれかであり得るポリマーを形成することができる。親水性構成要素の各モノマーは、親水性であるか、または形成された後の眼科材料に親水性を与えなければならない。疎水性構成要素と同様に、親水性構成要素の実質的な割合(例えば、少なくとも60、80もしくは95重量%、または全体)は、アクリレートで形成されていることが好ましい。親水性構成要素に適切なモノマーには、それだけに限らないが、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、グリセリルメタクリレート、グリセリルアクリレート、ポリエチレンオキシドのモノおよびジメタクリレート、ならびにポリエチレンオキシドのモノおよびジアクリレートが挙げられる。好ましい実施形態では、親水性構成要素は、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)などのヒドロキシアルキルアクリレートまたはメタクリレートである、1種または複数のモノマーを含む、またはそうしたモノマーから実質的に完全に形成されている(即ち、少なくとも90重量%)。
【0018】
親水性構成要素の親水性は、疎水性構成要素について説明したのと同様にして測定することができる。本発明のために、親水性の接触角を40°未満に押し下げる補助となる成分、特にモノマーは、疎水性構成要素の一部と見なされており、このようにして測定される接触角は、40°未満、より典型的には35未満、更に可能であれば30°未満であるのが好ましい。
【0019】
本発明の眼科用デバイスは、追加として多様な更なる成分を含むことができるが、そうした成分は、以下で更に説明するように、疎水性または親水性成分の一部となることも、ならないこともある。このような成分には、制限なしに、柔軟剤、UV吸収剤、重合剤、硬化剤および/または架橋剤、それらの組合せなどを含むことができる。
【0020】
複数の異なる化合物が、必要に応じて眼科用デバイスを重合し、架橋して、ポリマーマトリックスを形成するために、重合剤、硬化剤および/または架橋剤として使用できると想定している。例えば、ベンゾフェノンペルオキシドもしくはペルオキシカーボネート(例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(bis-(4-t-butulcyclohexyl)peroxydicarbonate))などの過酸化物、またはアゾビスイソブチロニトリル(azobisisobytyronitrile)などのアゾニトリルなどを使用して、重合を開始し、および/または疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方を架橋してもよい。適切な架橋剤には、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート、1,3−プロパンジオールジメタクリレート、アリルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレートなども含むことができる。好ましい架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)および1,4−ブタンジオールジアクリレート(BDDA)である。一般に、利用する任意の重合開始剤、架橋剤またはその両方の量は、本発明の眼科材料の約10%(w/w)以下となろう。
【0021】
眼科材料に含まれる任意の紫外線吸収物質は、典型的に、紫外光(即ち、約400nmより短い波長の光)を吸収するが、相当量の可視光は吸収しない化合物であろう。紫外線吸収化合物は、モノマー混合物中に組み入れ、モノマー混合物が重合したときにポリマーマトリックス中に捕捉することができる。適切な紫外線吸収化合物には、2−ヒドロキシベンゾフェノンなどの置換ベンゾフェノン、ならびに2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールおよびO−メチルチヌビンPなどのスズ化合物が挙げられる。UV吸収剤は、物理的捕捉だけでもポリマーマトリックス中に捕捉され得る、または反応させてマトリックス中に入れることもなし得る。
【0022】
紫外線吸収物質に加えて、本発明の眼科材料で作製される眼科用デバイスは、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5470932号に開示された黄色色素など、着色色素を含んでもよい。
【0023】
眼科用デバイスは、重合および/または架橋を介して典型的に形成される。詳細には、眼科材料の成分を混ぜ合わせ、ポリマー形成構成要素、特に疎水性構成要素、親水性構成要素またはその両方を重合し、好ましくは架橋することにより、ポリマーマトリックスを形成する。必ずしも必要ではないが、好ましくは、重合および/または架橋工程中に熱を使用する。本発明の眼科材料は熱可塑性材料であり得ると一般に想定されるが、このような材料は熱硬化性であるのが一般に好ましい。
【0024】
追加の成分は、眼科材料の疎水性構成要素または親水性構成要素の一部となることも、ならないこともある。明確にするために、こうした成分、特に紫外線吸収剤ならびに重合剤および/または架橋剤は、こうした構成要素と反応して(即ち、化学的に反応して)ポリマーマトリックス中に入るならば、疎水性または親水性構成要素の一部であると単に見なすべきであり、該成分は、眼科用デバイスの形成時に不可欠な疎水特性または親水特性を示す。したがって、例えば、架橋剤1,4−ブタンジオールジアクリレートは、典型的に、反応してポリマーマトリックス中に入ると思われるので、疎水性構成要素の一部と見なされようし、それは不可欠な疎水特性を示す。対照的に、ポリマーマトリックスに物理的に捕捉されるに過ぎない(その中へ反応しない)スズUV吸収剤は、疎水性または親水性構成要素いずれかの一部とは見なされなかろう。
【0025】
重合および架橋の前のある時点および/またはその最中に、眼科材料は、典型的に、その材料を眼科用デバイスに成形するために、型枠内に配置される。一般に、眼科材料は、眼の上の局所配置、または眼の中の硝子体内配置もしくは硝子体内デポー注射に適した任意の所望の形状に、成形できると想定している。眼科用デバイスおよび/または眼科材料は、眼内に部分的に(例えば、プラグとして)、または眼内に実質的に完全に(例えば、眼内レンズまたはレンズ関連構成要素として)配置することができる。極めて好ましい実施形態では、眼科材料は、1つまたは複数の凸面および屈折率が、人の眼に対する視力の補助または付与に適切なIOLに成形される。該IOLは、AC有水晶体、PC有水晶体または無水晶体のものになりえよう。該デバイスは、IOLの支持部として成形し得ることも想定している。実例のために、図8は、眼内レンズ12および支持部14を有する眼内レンズアセンブリー10を示し、その一方または両方が、本発明の眼科材料で形成される眼科用デバイスとなり得る。本発明の眼科用デバイスは、IOLもしくは支持部の一部となり得るか、またはIOLから離れており、IOLと共に、もしくはIOLなしに眼内に挿入し得る材料塊(例えば、ディスク)となり得ると想定している。やはり実例のために、図9は、IOLと共に眼内に配置し得るリング形状のディスク18を示す。
【0026】
図10に例示されている好ましい一実施形態では、眼科材料は、水晶体嚢伸張リング24として成形することができる。このような実施形態では、伸張リング24は、水晶体嚢26上の張力および/またはその中の空間を維持するために、眼の水晶体嚢26内に配置される。このようなリング24は、水晶体嚢26内に配置されたIOL28を実質的に取り囲むことができ、有利なことに、典型的に、IOL28を介した視覚の障害となるのを回避するであろう。
【0027】
本発明の眼科材料は、眼内で生分解性または非生分解性であることが可能になり得ると理解されよう。しかし、眼科材料は、眼内での寿命が長い構造の一部であり、そのため典型的に、眼内で非生分解性であることが、一般に好ましい。
【0028】
眼科用デバイスが形成された後、治療剤を眼科用デバイスに会合させることにより、そのデバイスを眼に適用した際、長期間に亘り治療剤を放出させることができる。有利なことに、本発明の疎水性構成要素は、特にその構成要素がアクリル性の場合、疎水性治療剤に対して親和性を示し、その薬剤は、他の材料からその薬剤が解離するより実質的に遅い速度で、水性環境において疎水性構成要素から解離する傾向があることが判明した。したがって、疎水性構成要素は、長期間に亘り治療剤を眼または他の水性環境に送達するために、使用することができる。
【0029】
疎水性治療剤は、本明細書では、特に、その薬剤を可溶化する補助剤なしに水性媒体中に浸漬した際、そのような水性媒体に難溶である任意の薬剤(例えば、水性組成物中で投与する濃度で媒体中に完全には溶解しない)と定義される。一般に、該治療剤は、1種または複数の薬剤を含み得ると想定される。好ましい部類の治療剤には、眼科薬、特に疎水性および/または低溶解性の眼科薬が含まれる。非限定的な例には、抗緑内障剤、抗血管形成剤、抗感染症剤、抗炎症剤、抗増殖剤、成長因子および成長因子阻害剤、免疫抑制剤、ならびに抗アレルギー剤が挙げられる。抗緑内障剤には、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロールおよびカルテオロールなどのβ遮断薬、ピロカルピンなどの縮瞳薬、ブリンゾラミドおよびドルゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤、トラボプロスト、ビマトプロストおよびラタノプロストなどのプロスタグランジン、セロトニン作動薬(seretonergics)、ムスカリン様作動薬、ドーパミン作動性アゴニスト、ならびにアプラクロニジンおよびブリモニジンなどのアドレナリン作動性アゴニストが含まれる。抗血管形成剤には、酢酸アネコルタブ(RETAANE(商標)、Alcon(商標)Laboratories,Inc.、Fort Worth、Tex.)および受容体チロシンキナーゼ阻害剤が含まれる。抗感染症剤には、シプロフロキサシン、モキシフロキサシンおよびガチフロキサシンなどのキノロン、ならびにトブラマイシンおよびゲンタマイシンなどのアミノグリコシドが含まれる。抗炎症剤には、スプロフェン、ジクロフェナク、ブロムフェナク、ケトロラク、ネパフェナク、リメキソロンおよびテトラヒドロコルチゾールなどの非ステロイド性およびステロイド性抗炎症剤が含まれる。抗増殖剤には、制限なしに、コルヒチン、マイトマイシンC、メソトレキセート、ダウノマイシン(daynomycin)、ダウノルビシンおよび5−フルオロウラシルが含まれる。増殖因子には、制限なしに、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、神経増殖因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)およびトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)が含まれる。免疫抑制剤には、制限なしに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリン)および哺乳類ラパマイシン標的(MTOR)阻害剤(例えば、シロリムス、ザタロリムス、エベロリムス、テムシロリムス)が含まれる。抗アレルギー剤には、オロパタジンおよびエピナスチンが含まれる。眼科薬は、マレイン酸チモロール、酒石酸ブリモニジンまたはジクロフェナクナトリウムなどの医薬として許容される塩の形態で存在してもよい。当業者には理解されようが、ネパフェナクなどの非ステロイド抗炎症剤(NSAID)は、続発性白内障の予防の補助に特に望ましい。
【0030】
治療剤は、粒子または他の形態で眼科材料および/またはデバイスに適用することができる。治療剤またはその一部が粒子形態であれば、一実施形態では、粒子を摩砕し、さもなくば機械加工して微小サイズにすることが望ましくなり得る。粒子を機械加工してサブミクロンまたは更にナノ粒子にすることが、望ましいことさえあり得る。
【0031】
一般に、治療剤は、比較的高い分配係数logP(PCLogP)をもつように、ある程度の疎水性を示すことが好ましいが、その分配係数は、Sangster, James(1997年)Octanol-Water Partition Coefficients,Fundamentals and Physical Chemistry、Wiley Series in Solution Chemistry 2巻、Chichester、JohnWiley & Sons Ltd. [ISBN 978-0471973973] に従って決定することができる。治療剤は、典型的には少なくとも1.0、より典型的には少なくとも1.6、一層典型的には少なくとも2.0、更に可能であれば少なくとも2.5となるPCLogPをもつことになろう。2種以上の疎水性薬剤で構成される治療剤については、その薬剤が共に、前記の値より大きいPCLogPをもつことが好ましい。
【0032】
治療剤を眼科用デバイスに適用するために、複数の異なる手順を採用し得る。一般に、治療剤は、眼科用デバイスの眼科材料と反応して、結合を形成し得ると想定される。代替または追加として、治療剤は、眼科材料と接触してまたは直接隣接して治療剤を維持する傾向のある他の力により、眼科材料と会合してもよい。理論には拘らないが、こうした力は、疎水性相互作用、ファンデアワールス力、物理的捕捉、水素結合力、電荷力またはそれらの任意の組合せであると考えられる。
【0033】
好ましい一実施形態では、治療剤は、アセトン、メタノール、ベンゼン、トルエン、アルコールなどの溶媒、それらの組合せなどに溶解して、治療剤溶液を形成する。眼科材料、眼科用デバイスまたはその両方は、ある期間その溶液中に沈め、浸けられる。その後、眼科材料、眼科用デバイスまたはその両方を溶液から取り出し、例えば、加熱および/または真空条件下で乾燥することにより、ある量の治療剤が眼科材料上に配置される。該デバイスに適用された後、該薬剤は、典型的に、眼科材料で形成された外部に面する周囲表面上一帯に配置されても、該薬剤は、内表面上一帯にも配置してもよい。
【0034】
眼科材料上に配置される治療剤の量は、治療剤自体およびその薬剤の所望の用量に応じて、広範囲に変化し得る。一般に、眼科材料上に配置される治療剤の総量は、少なくとも約0.01μg、典型的には約1mg未満である。治療剤が、完全にまたは実質的に完全に、ネパフェナクなどのNSAIDである非常に好ましい実施形態では、眼科用デバイスは、IOL(例えば、無水晶体IOL)または水晶体嚢中に配置されるリング(例えば、水晶体嚢伸張リング)であり、治療剤の量は、典型的には少なくとも約5ng、より典型的には少なくとも約10μgであり、典型的には約10mg未満、より典型的には約500μg未満である。
【0035】
眼科材料の疎水性構成要素が、疎水性治療剤を誘引する傾向がある一方、親水性構成要素は、含まれている場合、同じ誘引力を示さない。したがって、疎水性構成要素を含めると、眼科材料および/またはデバイスによる治療剤の放出を加速する傾向があることが判明した。したがって、好ましい実施形態では、眼科用デバイスおよび材料は、治療剤の所望の排出または放出プロファイルを実現するために、ある均衡の疎水性および親水性アクリレートを含むことができる。親水性構成要素をより多量に含めることにより、治療剤の放出を加速することができる。
【0036】
治療剤の放出速度は、使用する治療剤および眼科材料の性質に応じて、広範囲に変化し得る。その上、治療剤の放出速度は、眼科用デバイスが適用される個体に応じて、少なくともある程度変化し得る。しかし、一定の基準の放出速度は、平衡塩類溶液(BSS)中に眼科用デバイスを浸漬し、放出量を様々な時間間隔で測定することにより、開発することができる。このような測定の詳細は、下記の実施例および比較データにおいて考察されている。本発明の場合、BSSは、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl2・H2O)、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)、酢酸ナトリウム(C2H3NaO2・3H2O)およびクエン酸ナトリウム二水和物(C6H5Na3O7・2H2O)からなる無菌の生理的な平衡塩類溶液である。BSSは、眼の組織に対して等張である。各1mlには、次のもの、即ち塩化ナトリウム0.64%、塩化カリウム0.075%、塩化カルシウム0.048%、塩化マグネシウム0.03%、酢酸ナトリウム0.39%、クエン酸ナトリウム0.17%、水酸化ナトリウムおよび/または塩酸(pHの調節用)が含有され、残りは水である。
【0037】
本発明の場合、一般に、治療剤の重量で80%未満または更に50%未満が、少なくとも3日、より典型的には少なくとも1週、更により典型的には少なくとも2週、可能であれば少なくとも30日、更に可能であれば少なくとも90日または180日の期間に亘って、BSS中で眼科用デバイスから放出されることが望ましく、治療剤の重量で50%超または更に80%超が、730日未満、より典型的には365日未満、更により典型的には180日未満、更に可能であれば90日未満の期間に亘って、BSS中に放出されることが好ましい。治療剤が、完全にまたは実質的に完全に(即ち、少なくとも90重量%)、ネパフェナクなどの非ステロイド抗炎症薬である好ましい実施形態では、治療剤の重量で80%未満または更に50%未満が、少なくとも2日、より典型的には少なくとも1週、更により典型的には少なくとも10日の期間に亘って、BSS中で放出されることが望ましく、治療剤の重量で50%超または更に80%超が、180日未満、より典型的には45日未満、更により典型的には25日未満、更に可能であれば15日未満の期間に亘って、BSS中で放出されることが好ましい。
【0038】
眼科材料と治療剤との誘引力の利用に加えて、またはその代替として、コーティングを用いて、眼科用デバイスに治療剤を担持する補助とすることができる。このようなコーティングは、特定の眼科材料に対する治療剤の担持量を増減させ、および/または眼科材料からの治療剤の放出速度を増減させることができる。このようなコーティングは、眼科用デバイスを形成する眼科材料と治療剤との間に誘引力が殆どまたは全くない場合に、該デバイスに治療剤を適用するためにも使用することができる。
【0039】
一実施形態では、治療剤をコーティング中に混合し、そのコーティングを眼科材料および/またはデバイスに施す(例えば、その上にディップコーティングする)。代替の実施形態では、コーティングを眼科材料および/またはデバイスに施した(例えば、その上にディップコーティングする)後、上記の溶媒/治療剤技法または他の技法を用いて、治療剤をコーティング上に直接塗布する。
【0040】
コーティングは、多種の材料で形成できるが、好ましくは1種または複数のポリマーを含む。一実施形態では、コーティングは、典型的には生体適合性の1種または複数のポリマーを含む水性コーティングである。好ましくは、1種または複数の該ポリマーは、眼科用デバイスと共に眼に適用された後、ある期間に亘って治療剤を放出するだけのために、該薬剤を捕捉するマトリックスを形成することができる。このようなマトリックスは、コーティングおよび/またはコーティングを施した眼科用デバイスを加熱することにより、形成することができる。潜在的に適切なコーティングの例は、共にあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6238799号および第6866936号に開示されている。1つの適切なコーティングは、LubrilASTの商品名で販売され、AST(Advanced Surface Technology)Products,Inc.、9 Linnell Circle、Billerica、MA、01821から商業的に入手できる。一実施形態では、ポリマーマトリックスを有するコーティングの使用によって、疎水性の眼内インプラント(例えば、アクリルのIOLまたはリング)から親水性薬物(例えば、ジクロフェナクナトリウム:logP=1.1、コルヒチン:logP=1.3、およびマイトマイシンC:logP=0.44)を送達する方法を得ることができる。
【0041】
眼科用デバイスからの治療剤の長期放出は、被包をアクリレートまたは他の疎水性ポリマーで作製した、薬物封入済みのナノスフェア、マイクロスフェアまたはリポソームの直接担持により実現できることも想定されている。追加または代替として、治療剤を予備処理することにより、ナノサイズまたはマイクロサイズの粒子を実質的に均一なサイズ/形状で形成でき、次いで、該粒子を眼科用デバイスに担持すると、治療剤の制御された長期放出がもたらされよう。
【0042】
その上更に、レーザーまたは他のエネルギーの焦点を眼科材料に合わせることにより、該材料を加熱して、放出速度を変えること、および/または眼科用デバイスによる治療剤放出のために追加の細孔を開けることができることも、想定されている。なお更に、眼科用デバイスを作製する工程において、適当な工程条件を適用することにより、該デバイスの材料内部にマイクロもしくはナノポケットまたは空胞を形成できることも、想定されている。次いで、該ポケットまたは空胞は、薬物担持量を増加させる付加的貯留部として機能することができる。マイクロまたはナノポケット/空胞のサイズおよび密度は、インプラントの光学性能に影響しないように制御することができる。
【0043】
有利なことに、本発明の眼科用デバイスは、コーティングと共にまたはそれなしで使用されようと、ある期間に亘って放出されている治療剤の全く望ましい放出プロファイルを与えることができる。その上、特に眼科用デバイスが眼内に配置されている(例えば、IOLまたは水晶体嚢伸張リングとして)場合、本発明の眼科用デバイスは、眼の眼内領域へ治療剤を非常に効率的に供給することができる。更に、本発明の治療剤担持眼科用デバイスを装着しても、光学的および/または機械的性能の損失は、あったとしてもごく僅かであることが判明した。
【実施例】
【0044】
(実施例および比較データ)
一体成形の疎水性軟質アクリルIOLを、2−フェニルエチルアクリレート(PEA)65%、2−フェニルエチルメタクリレート(PEMA)30%、1,4 ブタンジオールジアクリレート(BDDA)3.2%およびO−メチルチヌビンP(OMTP、UV吸収剤)1.8%から形成し、A1IOLと命名した。一体成形の疎水性軟質アクリルIOLを、PEA80%、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)15%、BDDA3.2%およびOMTP1.8%から形成し、A2IOLと命名した。37℃における相当含水量を、A1およびA2IOLに対してそれぞれ0.25%および1.4%と決定した。直径6mmおよび厚さ1mmのディスクも、上記の配合に従って作製し、同様にA1およびA2ディスクと命名した。ディスクの表面積は75.36mm2である。A1材料で形成されたサイズ9mmの眼内リングインプラントも、作製し、A1眼内インプラントと命名した。リングインプラントの表面積は121.62mm2である。
【0045】
(実施例1)
ネパフェナクの10mg/mL薬物溶液を5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1IOLを、この薬物溶液中に室温(RT約23℃)で48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持IOLを薬物溶液から取り出し、ブランクのメタノール溶媒で濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持IOLをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。1、12、30および75日での薬物放出の総量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、その結果を図1に図示している。
【0046】
(実施例2)
ネパフェナクの10.23mg/mLを5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1眼内インプラントを、この溶液中にRTで48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持ディスクを溶液から取り出し、5:1アセトン/メタノール溶液(薬物なし)できれいに濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持ディスクをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。BSSを26日間毎日取り替えた、薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図2に図示している。
【0047】
(実施例3)
ネパフェナクの10.23mg/mLを5:1アセトン/メタノール溶液で作製した。A1ディスクおよびA2ディスクを、この溶液中にRTで48時間浸漬し、薬物を取り込んだ。次いで、薬物担持ディスクを溶液から取り出し、5:1アセトン/メタノール溶液(薬物なし)中できれいに濯いで表面薬物を洗い落とした後、50℃で4時間真空乾燥して残存溶媒を除去した。薬物放出試験のために、各薬物担持ディスクをBSS0.5mL中に個別に入れ、37℃でインキュベートした。BSSを1週間毎日取り替えた。A1およびA2ディスクからの薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図3に図示している。
【0048】
(実施例4)
治療剤の取込みおよび放出に関して他のアクリルIOLを評価するために、A2配合におけるPEAとHEMAとの比率を変えて、軟質でより疎水性からより硬質で親水性までのIOL材料に亘る広範囲の材料物性を有する、アクリルコポリマーディスクを得、その詳細は以下の表Aに示す。取込み試験は、5:1アセトン/メタノール溶液中のネパフェナク2.5mg/mLにディスク試料をRTで48時間浸漬した後、1:1アセトン/メタノール混合物(薬物なし)で洗浄して表面薬物を除去することにより、行った。薬物放出試験は、37℃のBSS0.5mL中で個別に試料をインキュベートすることにより、行った。BSSを10日間毎日取り替えた。薬物の1日放出量をHPLCで分析し、その結果を図4に図示している。
【0049】
【表1】
見て分かるように、より疎水性のアクリレート材料は、より親水性のアクリレート材料より薬物取込み量が高いが、材料の薬物放出はより遅い。
【0050】
(実施例5)
異なるIOLおよびコンタクトレンズの薬物の担持および放出を比較するために、アクリルIOL、シリコーンIOLおよび親水性コンタクトレンズを含む市販レンズを用いた試験を行った。各レンズ材料の薬物担持能力を最大化するために、溶液成分を制限した。にも拘わらず、薬物の溶液濃度および担持時間は、レンズ材料に関係なく同じであった。薬物の担持条件は、下記の表Bに示してある。薬物放出試験は2週間まで行い、その結果を図5に示している。
【0051】
【表2】
見て分かるように、シリコーンIOLおよびヒドロゲルコンタクトレンズの薬物担持能力は、アクリルIOLより有意に小さかった。それに加え、担持薬物が、シリコーンおよびヒドロゲルレンズから最初の2、3日以内に速やかに放出された。対照的に、アクリルレンズは、より多くの薬物を保持し、長期間の間徐々に薬物を放出することができた。
【0052】
(実施例6)
アセトン中のクルクミン薬5mg/mLにIOLを12時間浸漬することにより、A1IOLに薬物を担持した。アセトンおよびBSSで表面洗浄した後、ニュージーランドシロウサギの両目一方内に、そのIOLを無水晶体IOLとして移植した。移植の前に、ウサギの天然水晶体を、水晶体乳化吸引による標準的な白内障除去手順に従って除いた。インプラントのないもう一方の眼は、対照として役立てた。ウサギを異なる時期に犠牲にし、眼を取り出した。試料の各眼にあるクルクミン薬物分子からの蛍光発光を、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で画像化し、高分解能の薬物分布像を得た。その結果を図6に図示しており、眼の領域AおよびC(強膜外側部)、眼の領域B(角膜および前房部)および眼の領域D(中心窩および黄斑部)が明確に示されている。
【0053】
(実施例7)
ネパフェナク(PClogP=2.1)2.5mg/mLおよびジクロフェナクナトリウム(PClogP=1.1)2.5mg/mLの溶液を、共に作製した。A1およびA2ディスクを、各溶液中の更新薬物を求めて4時間浸漬した。BSSにおける各日薬物放出試験は、2週間行った。担持および放出薬物量は、図7に図示してある。見て分かるように、疎水性の高いA1材料が、疎水性の低いA2材料より、ネパフェナクおよびジクロフェナクナトリウムの両薬物を多量に担持する。両材料は、疎水性薬物のネパフェナクを多量に取り込むが、疎水性の低いジクロフェナクナトリウムの取込みはごく限られている。
【0054】
溶液中の様々な薬物濃度およびそうした溶液における様々な浸漬時間量を用いた実験を介して、該眼科用デバイスに担持する治療剤の量を変えることができることが見出された。しかし、眼科材料の疎水性および/または治療剤の疎水性が、典型的に、該デバイスに各量の薬剤を担持する能力を決定する最優先の要因であった。
【0055】
(実施例8)
IOLをLubrilASTコーティング/薬物溶液でコーティングした。ジクロフェナクをコーティング溶液と直接混合し、IOLをコーティング/薬物溶液中でディップコーティングした。コーティングの配合は、コーティング/薬物溶液中のPVPの濃度が、重量で20%、14%、5%および2%となるように変更した。ジクロフェナクの濃度は、31mg/mLの一定に維持した。レンズは、単一層のコーティングでディップコーティングし、65℃のオーブンで4時間乾燥した。前記したのと同じように、レンズをBSS中で試験し、分光計を用いて測定した。
【0056】
図11で分かるように、薬物放出速度は、PVP含量が減少するにつれ減少することが判明した。20%PVP含量では、薬物の98.2%が5日後に平均して放出された(n=3)。しかし、2%PVPでは、全薬物の71.9%だけが、5日後に平均して放出された(n=3)(図2C)。その上、1日基準で放出されるジクロフェナクの量は、PVP含量の影響を有意に受けた。図12で分かるように、2%PVPを用いたコーティングにより、ジクロフェナクは4日間定常的な速度で放出されたが、他の濃度は、1日の放出後に有意に減少した。したがって、PVP含量の減少は、5日間に亘る薬物の放出期間を有意に延長する。
【0057】
(実施例9)
ジクロフェナクのコーティング溶液を変更して、コーティング中に組み入れた様々な薬物濃度について、放出速度を決定した。濃度の範囲には、コーティング溶液に対してジクロフェナク5.2、14.9、42.8および80.1mg/mLが含まれていた。各濃度に対して計算した全薬物担持量は、それぞれ0.5453、1.636、4.699および8.795mgである。ジクロフェナクは、50mg/mLまで水に溶解する。コーティングの安定性についての濃度の効果、および放出速度に対する効果を決定するために、上記の範囲外の濃度を1つ選定した。他の濃度がコーティング溶液中に容易に溶解したのに対し、その高濃度は、溶液中の非溶解結晶の存在で示されるように、溶解しなかった。架橋剤の含量は、全てのコーティングについて1.5%であった。レンズは、各コーティングを7層にコーティングした。コーティングの厚さは、コーティングレンズの乾重量測定値で示されるように、有意な相違がなかった。
【0058】
前記したのと同じように、レンズをBSS中で試験し、分光計を用いて測定した。各コーティングの放出速度は、最初の3日間で有意に異なっていた。4日目から10日目に、薬物放出速度は横ばいとなり、この期間を通してほぼ一致したままであった。その他の濃度に対する10日間期末近くの薬物レベルも、この提案試験法の検出限界未満に低下した。
【0059】
(実施例10)
コルヒチンの放出速度を、2.6、10.5、30.3および61.2mg/mLを含む濃度の範囲のコーティングについて得た。各レンズのコーティング内に含有される薬物量は、コーティング後のレンズの重量増加、ならびに乾燥後のコーティングについて公知の収縮および重量の変化に基づいて計算した。2.6mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.0316mgを含有していた。10.5mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.116mgを含有していた。30.3mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.336mgを含有していた。61.2mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、およそコルヒチン0.694mgを含有していた。インビトロ試験に基づくと、LECの移動を示す結果に基づいて、コルヒチンの標的濃度は0.0005mg/mLであり、増殖は、0.0005mg/mLもの低い濃度で阻害された。この分析法を用いたコルヒチンの検出限界は、0.0083mg/mLであった。薬物濃度は、各試料について8日間得られた。しかし、8日後に、全ての濃度が検出限界未満になった。この時点で、試験溶液を取り替え、レンズを更に18日間(合計28日)浸漬することにより、測定可能な薬物濃度を得た。インビトロの薬物放出データによれば、2.6mg/mLのコーティング溶液をコーティングしたレンズは、8日間こうした量を放出した後、検出限界未満になることを示している。10.5mg/mLのコーティング溶液、ならびにより高濃度のコーティング溶液をコーティングしたレンズは、少なくとも8日間0.0083mg/mLを超える量を放出した。様々な薬物濃度レベルを担持したコーティングについて、コルヒチン放出を37℃のBSS中で28日後に検出した(n=3)。
【0060】
(実施例11)
各レンズのコーティング内に含有される薬物量を、前記した方法に従って計算した。2mg/mLの薬物コーティング溶液をコーティングしたレンズは、マイトマイシンC(MMC)をおよそ0.138mg含有していた。インビトロ試験に基づくと、LECの移動を示す結果に基づいて、MMCの標的濃度は0.0005mg/mLであり、増殖は、0.0005mg/mLもの低い濃度で阻害された。この分析法を用いたMMCの検出限界は、0.010mg/mLであった。11日後、MMCは、検出限界を超えるレベルでコーティングから放出され続けた。最初の2日間の薬物放出後、薬物放出速度は有意に変化していない。レンズに担持した全MMCのおよそ20%は、37℃のBSSに浸漬して11日後に残っている。MMCは、37℃のBSS中で水和して11日までコーティングから放出される(n=3)。11日後のレベルは、この方法のMMCに対する検出限界未満である。
【0061】
(実施例12)
アクリレートレンズ(ACRYSOFT(登録商標)IIレンズ)に、異なる6種の治療剤、アスコルビン酸、アスピリン、コルヒチン、ネパフェナク、ケトロラクおよびリドカインを別々に担持した。レンズからの各治療剤の放出を、HPLCを用いて7日の期間に亘り決定した。放出された薬物濃度は、Waters2699PDA検出器およびSymmetry(登録商標)C18カラム(4.6×75mm)を備えたWaters2695Separations Moduleを用いて測定した。較正曲線は、各薬物について様々な濃度(10、50、100、500、1000μg/ml)を用いて作成した。
【0062】
アセトンおよび濃度3mg/mlの治療剤から作製した治療剤溶液を用いて、レンズに担持した。レンズは、この溶液中に90分間浸漬した。格子状メッシュ上にこの溶液を注ぎ出し、レンズを回収し、レンズを密閉チャンバー内で終夜風乾した。翌日、レンズをアセトン:メタノール(1:1)溶液中に5分間浸漬し、軽く渦流撹拌した。次いで、レンズを取り出し、約2時間風乾した。次いで、レンズを50℃で終夜真空乾燥した。治療剤担持レンズ(各薬物に対しレンズ1個)をEppendorfチューブに入れ、そこにHPLC等級の水0.5mlを添加した。そのディスクを37℃の5%CO2でインキュベートし、放出媒体を期間7日間に亘り24時間ごとに取り替えた。放出媒体中の薬物量を、HPLCを用いて分析した。
【0063】
様々な条件を試み、HPLC法を各治療剤について最適化した。
【0064】
ネパフェナクは、実質的に上記の通りHPLC法に従って試験した。
【0065】
アスコルビン酸の場合、移動相が、蒸留水および2mMの1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、メタノールならびに氷酢酸[55:44.5:0.5(v/v)]を含んでいた。標準液は移動相中で作製した。注入容量は25μlで、流速は0.5ml/分であった。検出波長は263nmに固定した。
【0066】
アスピリンの場合、移動相が、メタノール、氷酢酸、蒸留水[30:2:68(v/v)]を含んでいた。標準液は水中で作製し、注入容量は25μlであった。試料の流速は1ml/分に維持し、検出は254nmで実施した。
【0067】
コルヒチンの場合、移動相が、アセトニトリルおよび3%酢酸[60:40(v/v)]を含み、標準液は移動相中で作製した。HPLCの流速は1ml/分に維持し、注入容量は25μlであった。検出は245nmで実施した。
【0068】
ケトロラクの場合、移動相が、アセトニトリルおよび0.2%v/v氷酢酸[40:60(v/v)]を含んでいた。標準液はメタノール中で作製し、注入容量は20μlであった。流速は1ml/分に維持し、検出波長は313nmに設定した。
【0069】
リドカインの場合、移動相が、メタノール350ml、蒸留水150ml、氷酢酸10mlおよびドデシル硫酸ナトリウム1.6gの混合物を含んでいた。移動相は、0.22μmのフィルターでろ過した。リドカイン標準液は移動相中で作製した。注入容量は25μlに、流速は1ml/分に設定した。検出は250nmで実施した。
【0070】
レンズからの治療剤の7日後の総放出量を下記の表1にまとめてある。
【0071】
【表3】
上記の表に示されるように、治療剤のLogP値がより高い(即ち、より大きい親油性または疎水性を示す)と、レンズからの治療剤の放出量が望ましいことを示す。
【0072】
出願者は、本開示の中に引用した全参考文献の全内容を明確に組み込んでいる。更に、ある量、濃度、または他の値もしくはパラメーターを、ある範囲、好ましい範囲、または好ましい高い値および好ましい低い値のリストとして示す場合、これは、範囲が別々に開示されているか否かに関わらず、任意の範囲上限または好ましい値と任意の範囲下限または好ましい値との任意の一対から形成される、全ての範囲を明確に開示するものと理解されたい。ある範囲の数値を本明細書で挙げる場合、特に指示のない限り、その範囲は、その両端値、ならびにその範囲内の全ての整数および分数を含むことを意図している。本発明の範囲は、ある範囲を定義する際に挙げた特定の値に限定されることを意図していない。
【0073】
本発明の他の実施形態は、本明細書の検討、および本明細書に開示した本発明の実施から、当業者には明らかとなろう。本明細書および本実施例は、単なる例示と見なされることを意図しており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲およびその等価物により示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル材料を含む材料塊であって、前記アクリル材料が疎水性アクリレートを実質的な割合で含む、材料塊と、
前記材料塊と会合している治療剤であって、疎水性であり、少なくとも1.0のPCLogPを有する治療剤と
を備え、前記材料塊が、人間の眼の中に挿入されるような形状とされている
眼科用デバイス。
【請求項2】
前記治療剤が少なくとも2.0のPCLogPを有する、請求項1に記載の眼科用デバイス。
【請求項3】
前記疎水性アクリレートがHEMAを含む、請求項2に記載の眼科用デバイス。
【請求項4】
前記アクリル材料が親水性アクリレートを実質的な割合で含む、請求項1、2または3に記載の眼科用デバイス。
【請求項5】
前記親水性アクリレートがPEMAを含む、請求項4に記載の眼科用デバイス。
【請求項6】
前記材料塊が、塩基性塩類溶液中に沈めたとき、治療剤の制御量を放出し、前記疎水性アクリレートおよび前記親水性アクリレートが、治療剤の前記制御量を、少なくとも5日の期間において全治療剤の60%未満とするような量で、前記材料塊中に存在している、請求項4または5に記載の眼科用デバイス。
【請求項7】
前記親水性アクリレートおよび疎水性アクリレートの量が、前記治療剤の所定の放出プロファイルをもたらすように選定されている、請求項4、5または6のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項8】
前記治療剤が抗炎症剤を含む、請求項1から7のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項9】
前記抗炎症剤がネパフェナクである、請求項8に記載の眼科用デバイス。
【請求項10】
前記材料塊が、無水晶体IOL、AC有水晶体IOLおよびPC有水晶体IOLから選択されるIOLである、請求項1から9のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項11】
前記材料塊がIOLの支持部である、請求項1から9のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項12】
前記材料塊が、個体の眼内に少なくとも部分的に配置されている、請求項1から11のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項13】
前記材料塊が、IOLの一部もしくは全体、IOLの支持部、またはIOLと共にもしくはIOLなしに眼内に挿入されている別の一片としての形状をもつ、請求項1から12のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項14】
前記材料塊が、塩基性塩類溶液中に沈めたとき、治療剤の制御量を放出する、請求項1から13のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項15】
前記治療剤の50重量%未満が、少なくとも1週間の期間に亘り、前記眼科用デバイスから前記基本塩類溶液中で放出される、請求項14に記載の眼科用デバイス。
【請求項16】
前記材料塊を、溶媒および前記治療剤を含む溶液中に沈める
ことを含む、請求項1から15のいずれかに記載の眼科用デバイスを形成する方法。
【請求項1】
アクリル材料を含む材料塊であって、前記アクリル材料が疎水性アクリレートを実質的な割合で含む、材料塊と、
前記材料塊と会合している治療剤であって、疎水性であり、少なくとも1.0のPCLogPを有する治療剤と
を備え、前記材料塊が、人間の眼の中に挿入されるような形状とされている
眼科用デバイス。
【請求項2】
前記治療剤が少なくとも2.0のPCLogPを有する、請求項1に記載の眼科用デバイス。
【請求項3】
前記疎水性アクリレートがHEMAを含む、請求項2に記載の眼科用デバイス。
【請求項4】
前記アクリル材料が親水性アクリレートを実質的な割合で含む、請求項1、2または3に記載の眼科用デバイス。
【請求項5】
前記親水性アクリレートがPEMAを含む、請求項4に記載の眼科用デバイス。
【請求項6】
前記材料塊が、塩基性塩類溶液中に沈めたとき、治療剤の制御量を放出し、前記疎水性アクリレートおよび前記親水性アクリレートが、治療剤の前記制御量を、少なくとも5日の期間において全治療剤の60%未満とするような量で、前記材料塊中に存在している、請求項4または5に記載の眼科用デバイス。
【請求項7】
前記親水性アクリレートおよび疎水性アクリレートの量が、前記治療剤の所定の放出プロファイルをもたらすように選定されている、請求項4、5または6のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項8】
前記治療剤が抗炎症剤を含む、請求項1から7のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項9】
前記抗炎症剤がネパフェナクである、請求項8に記載の眼科用デバイス。
【請求項10】
前記材料塊が、無水晶体IOL、AC有水晶体IOLおよびPC有水晶体IOLから選択されるIOLである、請求項1から9のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項11】
前記材料塊がIOLの支持部である、請求項1から9のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項12】
前記材料塊が、個体の眼内に少なくとも部分的に配置されている、請求項1から11のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項13】
前記材料塊が、IOLの一部もしくは全体、IOLの支持部、またはIOLと共にもしくはIOLなしに眼内に挿入されている別の一片としての形状をもつ、請求項1から12のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項14】
前記材料塊が、塩基性塩類溶液中に沈めたとき、治療剤の制御量を放出する、請求項1から13のいずれかに記載の眼科用デバイス。
【請求項15】
前記治療剤の50重量%未満が、少なくとも1週間の期間に亘り、前記眼科用デバイスから前記基本塩類溶液中で放出される、請求項14に記載の眼科用デバイス。
【請求項16】
前記材料塊を、溶媒および前記治療剤を含む溶液中に沈める
ことを含む、請求項1から15のいずれかに記載の眼科用デバイスを形成する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2011−528714(P2011−528714A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520117(P2011−520117)
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/051103
【国際公開番号】WO2010/011585
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月20日(2009.7.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/051103
【国際公開番号】WO2010/011585
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(399054697)アルコン,インコーポレイテッド (102)
【Fターム(参考)】
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