治療用アピラ−ゼ構築物、アピラ−ゼ作用物質、及び製造方法
本発明は、優れた薬物動態学的、薬力学的及び薬化学的性質を有し、かつ簡略化された手順を用いて精製することができる、改良型アピラ−ゼ(EN−アピラ−ゼ)の新しいクラスを提供する。本発明はさらに、このようなEN−アピラ−ゼを生産するために細胞を形質転換するための核酸構築物を提供する。EN−アピラ−ゼ構築物は、シグナル配列、リンカ−、及び可溶性アピラ−ゼをコ−ドする配列を含む。また、アピラ−ゼの調製物、並びに培養細胞でのアピラ−ゼの生産方法及びその精製方法も提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月13日に出願された米国特許出願第61/294,695号の優先権を主張するものである。この文書の内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、新規なアピラ−ゼ類並びに血栓性疾患又は炎症関連疾患を治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アピラ−ゼ類(エクトATPジホスホヒドロラ−ゼ)は、ATPからADPへの、及びADPからAMPへの代謝を触媒する一群の酵素である。最初に知られたヒトアピラ−ゼであるCD39は、もともとは活性型リンパ球及び内皮細胞の細胞表面タンパク質として同定された。in vitro及びin vivo試験の両方において、CD39はADPのレベルを調節することから心血管の健康において重要なアピラ−ゼであることが明示された。例えば、アピラ−ゼは、細胞外ADPを代謝することによって血小板凝集を阻害することが知られている。血小板上のADP受容体と不可逆的に結合するクロピドグレル(Clopidogrel)(プラビックス(Plavix))とは異なり、ヒトアピラ−ゼは、血小板それ自体に損傷を与えたり、通常の血小板機能を妨げたりすることがなく、過度の血小板活性化を示す患者へのより安全なアプロ−チを提供する。
【0004】
既知のヒトCD39ファミリ−の中で、CD39L3は、CD39(エクトATDP’ア−ゼ)とCD39L1(エクトATP’ア−ゼ)の中間の生化学的活性をもつエクトアピラ−ゼ(エクトATPDア−ゼ)として知られている。SmithとKirley(Biochemica et Biophysica Acta(1998)1386:65−78)によって、CD39L3は主にヒト脳組織中に存在することが確認された。
【0005】
具体的には、ヒトCD39L3は、配列番号1に示される529アミノ酸のタンパク質であり、59132.42ダルトンの推定分子量を有する。CD39L3の等電点は6.233である。7つの推定グリコシル化部位と13個のシステイン残基が存在する。配列番号1に基づいた、N末端の43残基とC末端の44残基は、膜貫通ドメインの一部であると考えられる。この酵素の触媒コアは凡そ44番目のアミノ酸と238番目のアミノ酸の間にあり、これらの残基を含む、このタンパク質及び関連アピラ−ゼの可溶性形態がChenらによって調製され、記載されている(米国特許第7,247,300号)。さらに、67番目の残基アルギニンをグリシンで、及び/又は69番目の残基トレオニンをアルギニンで置換することにより、米国特許第7,390,485号に記載されるように、ADP’ア−ゼ活性の増強を含む、さらなる望ましい特性を付与することが明らかになっている(ここで、残基番号は配列番号1として示される野生型ヒトCD39L3における番号を指す)。
【0006】
ProtParam解析から、CD39L3とCD39はどちらも約520個のアミノ酸から成り、約6.0のpIをもつことが示されている。CD39L3とCD39はまた、互いに類似したアミノ酸組成を共有し、また、N末端及びC末端の膜貫通領域の間にある細胞外ATP/ADPア−ゼ部分の約440アミノ酸残基を含む、共通の構造モチ−フをもっている。CD39L3は3番染色体に、そしてCD39は10番染色体に存在するが、それらの全体的なイントロン及びエクソンの構造は同一であって、それぞれエクソンが10個存在する。
【0007】
バイオインフォマティクス解析から、CD39L3はCD39の脳に特異的なアイソザイム又はアイソエンザイムであることが示唆されている。アイソザイム又はアイソエンザイムはそれぞれの対応する酵素と同じ調節特性を持たないこともあり、むしろそれがさらされている厳密な環境に最適となるようにその酵素的性質を調整している。ノ−ザンブロット試験では、CD39L3が脳と腎臓で高度に発現されているのに対し、CD39は胎盤と脾臓で発現していることが示されている。この解析結果は、ヒト脳におけるアイソエンザイムCD39L3の発現が、主要な血栓調節因子としてのCD39の活性を補完していることを示唆している。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、より長い半減期、より高い安定性、より高い溶解性、又はより高い純度などの改良された治療特性を示す、新しいクラスのアピラ−ゼ化合物、及びそれらの調製物を提供する。また、高濃度のそのような改善された調製物であって実質的に同質なものに容易に精製できる形態を調製する方法も開示される。
【0009】
発明の開示
優れた薬物動態学的特性を有しかつ培養液から比較的容易に精製される、新しいクラスのアピラ−ゼ(「EN−アピラ−ゼ」又は「改良型アピラ−ゼ」)を調製した。
【0010】
CD39L3糖タンパク質の可溶性形態をコ−ドするヌクレオチド配列をシグナル配列に適切に連結し、かつ、チャイニ−ズハムスタ−卵巣細胞において適切な条件下で発現される発現ベクタ−を適切にデザインすることによって、アピラ−ゼの改良形態が得られることを見いだした。このような改良型アピラ−ゼは、増加したグリコシル化及びシアル化によると思われる低い等電点、及び、精製を容易にし、より均質なサンプルを与えるN末端での均一な切断により特徴づけられる。一般的に、EN−アピラ−ゼは、67番目及び/又は69番目における変異体を含み、配列番号1の可溶性形態である。可溶性形態は、前述の変異体、及び、配列番号1のおよそ49番目から485番目の長さを有するものである。通常、それらは3〜4.5の範囲の等電点を有し、かつ高度にグリコシル化されている。
【0011】
したがって、一態様において、本発明はEN−アピラ−ゼに関し、ここで当該EN−アピラ−ゼは可溶性CD39L3又はそのホモログであり、同様なN末端を有し、かつ約3.0〜約4.5の範囲の平均等電点を有する;及び/又は、ここで当該EN−アピラ−ゼは、アピラ−ゼアッセイによる測定で、ウサギ又はブタのin vivoにおけるHEK sol−CD39L3−01の半減期の少なくとも2倍の半減期を有する。
【0012】
別の態様において、本発明は、シグナル配列、リンカ−、及び可溶性アピラ−ゼをコ−ドするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関し、ここで、リンカ−はそのC末端にEVLP配列を有し、かつ、前記リンカ−又はその一部は天然の可溶性アピラ−ゼ中に存在する配列であってもよい。本発明はまた、この構築物を含有するCHO細胞、並びにこれらの細胞を培養することによるEN−アピラ−ゼの生産方法に関する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、EN−アピラ−ゼを取得するためのCHO細胞培養システムに関し、前記培養システムは、培養の間、約2mMのグルタミン濃度及び7.4のpHを維持する培地を調整すること、並びに、培養5日目に培養物の温度を37℃から34℃にシフトさせること、を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、sol−CD39L3 R67G T69R発現用のpAPT8742のマップである。
【図2】図2は、発現レトロベクタ−構築物pCS−APT−WPRE(new ori)を示す。
【図3】図3は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における生存細胞密度を示す。
【図4】図4は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における細胞の生存率を示す。
【図5】図5は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における発現レベルを示す。
【図6】図6は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのOptiCHO(商標)培地における生存細胞密度を示す。
【図7】図7は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのOptiCHO(商標)培地における細胞生存率を示す。
【図8】図8は、PFCHO LSにおける発現レベルを示す。
【図9】図9は、クロ−ン350の25世代にわたるEN−アピラ−ゼ産生の安定性を示す。
【図10】図10A及び10Bは、HEK−sol−CD39L3−01及びEN−アピラ−ゼの等電点を示す。
【図11】図11は、2つのイオン交換クロマトグラフィ−を用いたEN−アピラ−ゼの精製方法が進行していることを示す。
【図12】図12は、HEK−sol−CD39L3−01のウサギを用いたin vivoにおける半減期の測定結果を示す。
【図13】図13は、EN−アピラ−ゼの半減期と比較した、HEK−sol−CD39L3−01のウサギにおける半減期を示す。
【図14】図14は、図13の結果を、血小板凝集を阻害する能力についてex vivo試験で示したものである。
【図15】図15は、ブタで行ったことを除いて図13の結果に相当する結果を示す。
【図16】図16は、ブタで行ったことを除いて図14の結果に相当する結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人らは、特別にデザインした組換え材料及び方法を用いることによって、グリコシル化が増加したことに起因すると考えられる優れた薬物動態学的特性を示すEN−アピラ−ゼの調製物を取得できることを見いだした。得られたEN−アピラ−ゼは、低い等電点、均質なN末端、増加したグリコシル化、及び、長いin vivo半減期を有している。
【0016】
本発明のEN−アピラ−ゼは可溶性CD39L3又はそのホモログである。可溶性CD39L3は、配列番号1において、膜貫通ドメインに相当するN末端の少なくとも約43アミノ酸及びC末端の少なくとも約44アミノ酸が欠失した配列により表される。アピラ−ゼは、可溶性CD39L3又はJeongら(米国特許第7,390,485号)により教示されたADPア−ゼ増強型アピラ−ゼ、すなわち、67番目のアルギニン残基がグリシンで、及び/又は、69番目のトレオニン残基がアルギニンで置換されたものであってもよい(ここで、残基番号は配列番号1で表されるCD39L3における番号を指す)。
【0017】
可溶性CD39L3の「ホモログ」には、ADP’ア−ゼ及びATP’ア−ゼ活性を保持し、かつ/又は、配列番号1の49−485番目のアミノ酸と80%又は90%又は95%相同である、1〜5個の保存的置換を有する配列を含む。一実施形態において、ホモログは配列番号1で表されるCD39L3の52番目及び53番目に該当するタンデム・プロリン残基を含んでなる。
【0018】
代表的な可溶性CD39L3アピラ−ゼホモログは、配列番号1において以下の置換を有する配列番号1の49−485番目のアミノ酸残基を含む:R67G T69R;T69R;R67G;R69A T69R;R67A T69H;R67A P69K;R67G T69H;R69G T69K;T69H;T69K;及びR69A。ホモログには、52番目からのPPG残基より始まる配列を含む、配列番号1の一部又は上述の変異体が含まれていてもよい。
【0019】
CD39L3をコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号2に示す。可溶性CD39L3のアミノ酸配列を配列番号3に示し、それをコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号4に示す。T67G T69R変異体である可溶性CD39L3のアミノ酸配列を配列番号5に、それをコ−ドする配列を配列番号6に示す。非改良型のアピラ−ゼであるHEK−SOL−CD39L3−01を調製するために用いた核酸構築物によりコ−ドされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に、それに対応するコ−ドを有するヌクレオチド配列を配列番号8に示す。一実施形態であるEN−アピラ−ゼを産生する核酸構築物によりコ−ドされるアミノ酸配列を配列番号9に、それをコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号10に示す。
【0020】
分泌シグナル配列
本発明のEN−アピラ−ゼは培地に分泌される形で生産され、したがって、それらの生産用の核酸構築物にはシグナル配列が含まれる。
【0021】
本発明のシグナル配列は、適切な細胞系においてタンパク質の分泌をもたらすことが知られている任意のシグナル配列であり得る。さらに、例えば、Otsukiら,DNA Research(2005)12:117−126,“Signal Sequence and Keyword Trap in silico for Selection of Full−Length Human cDNAs Encoding Secretion or Membrane Proteins from Oligo−Capped cDNA Libraries”に記載されているように、分泌シグナル配列として機能する配列を同定及び予測するためのin silico法が存在している。
【0022】
例として、分泌シグナル配列は表1に記載の配列のいずれかであり得る。
【0023】
【表1】
【0024】
リンカ−部分
配列EVLPを有するアピラ−ゼの所望のN末端の配列を提供することによって、Eで表されるグルタミン酸残基のすぐ上流に均一なN末端が生成されるように、チャイニ−ズハムスタ−卵巣(CHO)細胞内で切断されることを見いだした。しかし、この配列において、グルタミン酸残基はアスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)又はアスパラギン(N)で置換されていてもよい。このような配列で表される連結はCHO細胞内のプロテア−ゼに対して耐性である。
【0025】
以下の実施例に示す核酸構築物のように、実際には、リンカ−配列はアピラ−ゼ配列の一部であり得る。よって、EVLP配列は、産生されたEN−アピラ−ゼのN末端となる。このようなものも例示的核酸構築物によりコ−ドされたアピラ−ゼのアミノ酸配列に含まれる。
【0026】
可溶性アピラ−ゼのアミノ酸配列にかかわらず、上述のようにリンカ−配列をカルボキシ末端に含むことにより、アピラ−ゼが培養培地に分泌されるときにE、D、Q又はN残基の上流で確実に切断される。E、D、Q又はN残基の上流に0〜10個のアミノ酸、好ましくは1〜5個のアミノ酸を含むシグナル配列の下流の追加の配列が存在してもよい。
【0027】
したがって、シグナル配列及びリンカ−部分と適切に組み合わせることにより、アピラ−ゼ核酸構築物は、CHO細胞に形質転換されたとき、単一の強力なシグナルペプチダ−ゼ切断部位をもつ翻訳産物を産生し、そして均質なN末端をもつアピラ−ゼを分泌する。「均質」は「実質的に均質」を含み、例えば、EN−アピラ−ゼ分子の約80%、又は90%、95%もしくは99%以上が同じN末端をもつようにプロセシングされることを含む。
【0028】
EN−アピラ−ゼは、配列番号7をコ−ドする核酸構築物で形質転換されたHEK細胞により産生されたアピラ−ゼ(すなわち、調製Aに記載されるHEK−sol−CD39L3−01)よりも、かなり多くの糖鎖を含んでいる。EN−アピラ−ゼは、約3.0〜約4.5の範囲のpIを有する哺乳動物細胞培養液中で産生され、分泌される。理論に縛られることなく、本出願人は次のように考える:N末端アミノ酸配列の変更はN末端のエンドペプチダ−ゼプロセシングを変化をさせ、結果としてグリコシル化を変更するのに十分な構造的変化をもたらす。さらに、構造的変化とグリコシル化の組合せは、EN−アピラ−ゼの予期せぬ薬物動態学的特性に寄与する。等電点の低下は、増加したグリコシル化においてシアル酸含量が増加したことによると考えられる。
【0029】
本発明のEN−アピラ−ゼの優れた、予期しない特性の一つは、イオン交換クロマトグラフィ−によって容易に精製することができる糖タンパク質産物である。以下に示すように、EN−アピラ−ゼは2ステップのイオン交換プロトコルにより約90%又はそれ以上に精製することができる。
【0030】
本発明のEN−アピラ−ゼは、以下に示すように、HEK−sol−CD39L3−01と比較して、長い循環半減期を有する。EN−アピラ−ゼは、HEK−sol−CD39L3−01の半減期の少なくとも約2倍又は少なくとも約4倍又は少なくとも約5倍又は少なくとも約8倍のウサギ又はブタにおける半減期(T1/2)を有する。このような半減期の増加は、一般に非経口投与されるEN−アピラ−ゼなどの治療薬にとって特に有用である。
【0031】
EN−アピラ−ゼの生産方法
本発明のEN−アピラ−ゼは、上述のようなシグナル配列の制御下、改良された性質をもたらす培養条件で、CHO細胞を用いて生産することができる。このような条件として適したものには、培地中で約2mMのグルタミン含量を維持すること、約7.4のpHを維持すること、及び培養5日後に温度を37℃から34℃に変更することが含まれる。これらのパラメ−タは変動してもよいが、最適なEN−アピラ−ゼの生産のためには、これらの条件が確実に成功をもたらす。例えば、グルタミン含量は約1.5mMと4mMの間、好ましくは2〜3mMを維持すべきである。pHは約7.0と7.8の間、好ましくは7.2と7.6の間を維持すべきである。温度は約31〜36℃、好ましくは33〜35℃に下げるべきである。これは培養開始後4〜6日の間に行うことができる。
【0032】
用途
本発明のEN−アピラ−ゼは、少なくとも一般的なアピラ−ゼの用途、より具体的にはCD39化合物、CD39L1〜8のいずれか(例えば、CD39L3化合物)の用途として有用な治療薬である。EN−アピラ−ゼは抗血小板薬、抗血栓薬として、また、抗炎症性タンパク質及び内皮細胞(EC)保護タンパク質として有用である。さらに、EN−アピラ−ゼは、2010年1月13日出願の「Apyrase Therapy for Bleeding Conditions」と題する米国仮特許出願第61/294,725号(その全体が参照により本明細書に援用される)に教示される症状に対して治療上有用である。EN−アピラ−ゼによって効果的に治療される症状には、機械的又は薬理的傷害により引き起こされた損傷からの出血の症状が含まれる。
【0033】
いくつかの生物学的状態では、本発明のEN−アピラ−ゼは複数の機能により治療的な役割を果たす。例えば、EN−アピラ−ゼの抗炎症及び抗血栓機能は様々な症状において予期しない治療効果をもたらす。
【0034】
また、血栓症においては炎症誘発性の成分が関与し、そのために生物学的に機能性の物質が血小板と好中球との相互作用によって合成される(Inflammation:Basic principles and Clinical Correlates,第3版,Gallin,J.I.,及びSnyderman,R.(1999)pp.77−95参照)。血小板の活性化はADP及びATPを放出させる。細胞外ATPは炎症誘発性のインタ−フェロン−γ及びIL−2の分泌を誘導することが実証されている(Langston,H.ら,J.Immunol.(2003)170:2962−2970)。最近の研究では、ランゲルハンス細胞上のCD39は皮膚における炎症と免疫を調節していることが明らかになっている(Granstein,R.,Nature Medicine(2002)8:336−338)。したがって、EN−アピラ−ゼとその生物学的活性誘導体のATP’ア−ゼ活性は、血管損傷部位での炎症及び/又は免疫反応を間接的に低下させ、当該治療を受けている患者に臨床的有効性をもたらすと考えられる。
【0035】
アドレナリン作動性神経では、ATPとノルエピネフリンが小胞内に一緒に貯蔵されており、神経伝達時に双方が同時に放出される。過度のノルエピネフリン放出は、心臓突然死を引き起こすことがある虚血性心不全と再灌流不整脈の主な原因である(Levi,R.及びSmith,N.,J.Pharmacol Exp.Ther.(2000)292:825−830)。交感神経終末で放出されたATPの加水分解はノルエピネフリン放出の抑制につながる(Sesti,C.ら,J.Pharmacol.Exp.Ther.(2002)300:605−611)。よって、EN−アピラ−ゼのATP’ア−ゼ活性は、心臓保護効果を示し、治療を受けた患者の致命的不整脈を予防すると考えられる。
【0036】
特定の臨床状況では、生物学的に活性なEN−アピラ−ゼ又はその生物学的誘導体の遅い速度で長期間放出する必要があることがある。このような状況においては、例えばヒドロゲル又は他の薬学的に許容可能な重合性ゲル中に、EN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体を封入する必要がある。さらに、可溶性EN−アピラ−ゼの血中半減期を長引かせて、その有効性を高めるために、ポリエチレングリコ−ル(PEG)を付加することが可能である。これにより、EN−アピラ−ゼを予防薬として用いる場合、単回のボ−ラス投与において、EN−アピラ−ゼの保護効果を長期間にわたって維持することを可能にすると考えられる。タンパク質の半減期を変更するための、その他のタンパク質修飾には、例えば、アルブミンコンジュゲ−ト化、IgG融合分子、及びタンパク質のグリコシル化パタ−ンの変更が含まれる。
【0037】
また、本発明においては、特定の医療処置又は事例で、循環する本発明のアピラ−ゼ活性を阻害することが必要となりうることが想定される。そのような阻害剤は、例えば、薬学的に許容される酵素阻害剤(例えば、ADP類似体)、薬学的に許容されるカルシウムキレ−ト剤、本発明のアピラ−ゼに特異的な抗体であり得る。他の医療処置として、例えば、輸血又は血小板輸血が含まれる。
【0038】
EN−アピラ−ゼ及びその生物学的活性誘導体は、ATP及び/又はADPのAMPへの加水分解が臨床的に良い結果を生むような臨床状況(ATP及び/又はADP濃度が異常に高い疾患状態を含む)において有用である。EN−アピラ−ゼとその生物学的活性誘導体は、血小板又は活性型血小板が疾患の進行において重要な役割を果たしている臨床状況(例えば、腫瘍の転移)で効果的である(Bakewell,S.J.ら,PNAS(2003)100:14205−14210)。
【0039】
投与されたEN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体の臨床上及び生物学上の有効性は、投与後所定の時間間隔をおいて容易に評価することができる。例えば、EN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体の投与は、血小板数に変化がない設定で、出血時間の延長を促進する。さらに、EN−アピラ−ゼの酵素活性又は代謝産物について、血液サンプルを直接測定することにより、循環血液中の該分子の存在を知ることができる。EN−アピラ−ゼの生化学的機能を評価するための当技術分野で公知の方法と組み合わせた、血液サンプルの精密なサンプリングに基づいて、このタンパク質の半減期を推定することが可能である。生物学的に活性なEN−アピラ−ゼ又は生物学的に活性な誘導体の存在についての他の臨床的に関連するアッセイも利用することができる。
【0040】
本発明アピラ−ゼの有効性のin vitro及びin vivo検証方法
EN−アピラ−ゼの生化学的機能は、当業者に利用可能な多数の方法により評価することができる。例えば、精製されたEN−アピラ−ゼのATP’ア−ゼ及びADP’ア−ゼ酵素活性は、8mM CaCl2、200μM 基質(ATP’ア−ゼに対してはATP、ADP’ア−ゼに対してはADP)、50mM イミダゾ−ル、及び50mM Tris,pH7.5を含有する1mL溶液中37℃で測定可能である(Picherら,Biochem.Pharmacol.(1988)51:1453)。この反応を停止させ、0.25mlのマラカイトグリ−ン試薬を添加することにより遊離の無機リン酸を測定することができる(Baykovら,Anal.Biochem.(1988)171:266)。630nmでの分光光度分析に基づき、1単位のATP’ア−ゼ(又はADP’ア−ゼ)は37℃で毎分1μモルの無機リン酸の遊離に相当する。Km及びkcatなどの、この酵素の主要な速度定数は、例えばミカエリス・メンテンの式に、デ−タを当てはめることによって取得できる。生化学的機能のモニタリングに有用なその他のアッセイは、これに限定するものではないが、放射分析アッセイ、HPLCアッセイ(両方ともGayle IIIら, J.Clin Invest.(1998)101:1851−1859に記載されている)、又は放射TLCアッセイ(Marcus,A. J.ら, J.Clin Invest.(1991)88:1690−1696に記載されている)を含む。
【0041】
EN−アピラ−ゼ又は誘導体の生物学的機能は、ex vivo方法でもin vivo方法でも評価することができる。EN−アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能をモニタリングするのに有用なex vivo方法としては、例えば、血小板凝集アッセイが挙げられる(Pinsky,D.J.ら,J.Clin Invest.(2002)109:1031−1040;Ozaki,Y,Sysmex J.Int.(1998)8:15−22)。
【0042】
EN−アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能を評価するのに有用なin vivo方法としては、以下が挙げられる:マウス脳梗塞モデル、このモデルでは出血時間、梗塞体積、血流、神経学的欠損、脳内出血、及び死亡が測定される(Pinsky,D.J.ら,前掲;Choudhri,T.F.ら,J.Exp.Med.(1999)90:91−99)、マウス肺虚血/再灌流モデル(Fujita,T.ら,Nature Med.(2001)7:598−604)、再灌流脳梗塞のヒヒモデル(Huang,J.ら,Stroke(2000)31:3054−3063)、Cd39−/−マウス(Pinsky,D.J.ら,J.Clin Invest.(2002)109:1031−1040)、並びにPCIのヨ−クシャ−・ハンプシャ−ブタモデル(Maliszewski,C.R.ら,PCT WO00/23094(2000))及びウサギモデル(Herbertm,J−M.ら,Thromb Haemost(1998)80:512−518;Fishman,J.ら,Lab Invest(1975)32:339−351;Sarembockら,Circulation(1989)80:1029−1040)。その他の方法が、血栓調節因子としてのADP’ア−ゼ増強型アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能を評価するために、当業者に公知であり得る。
【0043】
EN−アピラ−ゼの治療用組成物
本発明は、生物学的に有効な量のEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体を薬学的に許容される投与量で含む組成物を提供する。EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の治療用組成物は、症状発症前、症状発症中又は症状発症後の患者に臨床的に投与することができる。EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の症状発症後投与は、例えば、脳梗塞の発症後0〜48時間の間に行うことができる。治療効果を達成するためのEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与は、例えば、ボ−ラス注射、筋肉内、皮下、吸入、連続注入、持続放出、又は他の薬学的に許容される技術により実施し得る。特定の臨床状況では、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体を単回の有効量として投与する必要があり、または、最大1週間もしくは1ヶ月以上の間、毎日投与してもよい。理想的には、EN−アピラ−ゼは、生理学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有する薬学的に許容される形態で患者に投与される。そのような希釈剤及び賦形剤には、中性緩衝食塩水、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸)、低分子量ポリペプチド(例えば、10アミノ酸以下のポリペプチド)、アミノ酸、炭水化物(例えば、グルコ−ス、デキストロ−ス、スクロ−ス、又はデキストラン)、キレ−ト剤(例えば、EDTA)、安定剤(例えば、グルタチオン)が含まれる。さらに、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の補基質、例えばカルシウム(Ca2+)を、該酵素の活性を最大化するために投薬時に投与してもよい。このような担体及び希釈剤は、推奨される投与量及び濃度で患者に無毒性であるように選択される。本発明ではまた、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体は、単独でのEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の効果を相乗的に高める他の薬剤と一緒に投与することが想定される。例えば、アスピリン、ヘパリンもしくはビバリルジンなどの他の抗血小板薬又は抗凝固剤をEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体と一緒に投与することにより、再灌流の改善、治療時間枠の拡張、再閉塞の防止、及び微小血管の血栓症の防止といった追加の効果が想定される。さらに、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与は、血栓溶解薬(Activase(登録商標)、TNKase(商標)、吸血コウモリプラスミノ−ゲン活性化因子、ウロキナ−ゼ、ストレプトキナ−ゼ、スタフィロキナ−ゼ、及びアンクロッド)の効力を改善しかつその有効投与量を低下させると想定される。さらにまた、本発明において、例えばADP増強型アピラ−ゼと血栓溶解薬(例えば、TNKase)との操作可能な融合ポリペプチドは、急性心筋梗塞(AMI)、経皮的冠動脈形成術(PCI)及び急性虚血性脳卒中(AIS)のための理想的な治療上の解決策を提供すると想定される。
【0044】
EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与量は、年齢、人種、体重、身長、性別、治療期間、投与方法、EN−アピラ−ゼの生物学的活性、及び症状又は他の臨床的変数の重症度に応じて大幅に変化しうる。有効投与量は、熟練した医師や他の医療関係者によって決定され得る。
【0045】
本明細書で引用する刊行物は、引用した主題について参照することにより本明細書に援用される。
【0046】
調製A
ヒト腎細胞由来HEK293T細胞でのsol CD39L3の生産
HEK 293T細胞株を、配列番号7の発現をもたらす核酸構築物で安定的に形質転換した。この配列は、マウスIgGκ由来のシグナル配列(下線)に連結された可溶性CD39L3 R67G T69R変異体を示す。この配列を挿入して、図1に示したプラスミドpAPT8742を得た。分泌されたタンパク質産物を本明細書では「HEK−sol−CD39L3−01」と呼ぶ。
【0047】
形質転換体を無血清懸濁培養に順応させて、3Lスピナ−フラスコに接種するまで継続的により大きなフラスコに分割した。細胞を3〜4日ごとに分割し、順化培地中のアピラ−ゼを回収した。前臨床検証のために十分な量のタンパク質を生産し、かつ商業規模でのアピラ−ゼ製造の実現可能性を判断するために、パイロット研究を30Lバイオリアクタ−で実施した。典型的な30Lバイオリアクタ−に0.5×106細胞/mLの細胞を接種すると、5〜6日間でHEK 293T細胞は典型的には3.5×106細胞/mL以上に増殖し、2〜3mg/Lのアピラ−ゼを産生した。DEAE、サイズ排除及びヘパリンアフィニティ−カラムを含む精製プロセスを開発し、これによりアピラ−ゼの回収率を30%とするに至った。
【0048】
形質転換HEK293T細胞の培養物から回収した順化培地は、バッファ−を平衡化バッファ−に交換した後に10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化したDEAEカラムにかけた。アピラ−ゼ画分は10mM Tris−HCl,pH7.4/100mM NaClを用いて溶出した。平衡化バッファ−にバッファ−を交換後、溶出画分を10mM Tris−HCL,pH7.4で平衡化したヘパリンカラムにかけた。アピラ−ゼを10mM Tris−HCl,pH7.4/30mM NaClで溶出し、Amicon撹拌式セル濃縮装置(Millipore社)を用いて濃縮した。
【0049】
精製アピラ−ゼのN末端解析をエドマン分解で実施したところ、3種類の異なるN末端欠失を示した。シグナルから予測された切断は、配列番号7の21番目であるaspをN末端として生じさせるはずである。回収されたタンパク質は、lys(30番目)をN末端とするものが27%、glu(32番目)をN末端とするものが40%、及びval(33番目)をN末端とするものが33%であった。
【実施例】
【0050】
実施例1
改良型アピラ−ゼの生産のための核酸構築物
アピラ−ゼ核酸構築物は、sol−CD39L3 R67G T69Rに基づくEN−アピラ−ゼをコ−ドするようにデザインした。シグナル配列はウシα−ラクトアルブミンのシグナルペプチドを用いた。アピラ−ゼ部分は配列番号1の49番目の残基から開始しており、そのコ−ドされたシグナル−アピラ−ゼ融合体を配列番号9に示す。
【0051】
最後の発現レトロベクタ−プラスミドに挿入されたEN−アピラ−ゼ核酸構築物の配列を、以下の表2に示す。この核酸構築物をレトロウイルスベクタ−に挿入した。その結果得られた図2に示すベクタ−において、この核酸構築物を「APT」で示す。
【0052】
DNA断片を宿主プラスミドにクロ−ニングするために用いたMfeI及びXhoI制限酵素部位の位置を示す。最初の19コドンはシグナルペプチドをコ−ドしている。最終核酸構築物のDNA配列決定時に、サイレント変異が2879番目の位置で検出された(予測されるAATの代わりにAAC)。このコドンには二重下線を引いた。最終的なベクタ−はpCS−APT−WPRE(new ori)とした(図2)。
【0053】
【表2A】
【0054】
【表2B】
【0055】
実施例2
pCS−APT−WPRE(new ori)によるCHO細胞の形質転換
チャイニ−ズハムスタ−卵巣(CHO)生産細胞株は、実施例1で構築したレトロベクタ−によるCHO親細胞株の形質導入を2ラウンド行うことによって作製した。プ−ルした形質導入細胞の集団をsCHO−S/sC−APT−R 2Xと命名した。プ−ルした集団細胞株のサンプルを各形質導入後に凍結保存した。プ−ルしたsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞の集団を極めて低い細胞密度(培地200μLあたり約0.5又は0.75個の生存細胞)に希釈して96ウェルマイクロタイタ−プレ−トに播種し、単一細胞を起源とするクロ−ン細胞株を確立した。合計560個のクロ−ンを14日間培養後、マラカイトグリ−ンアッセイによりEN−アピラ−ゼの産生についてのスクリ−ニングを行った。EN−アピラ−ゼ産生に基づく上位24クロ−ンを96ウェルプレ−トから24ウェルプレ−トに移して拡大培養した。24個のうち20個のクロ−ンが拡大培養においても生存しており、これを凍結保存した。
【0056】
20個のクロ−ンを、T175フラスコを用いた3重試験(triplicate)で生産性についてスクリ−ニングした。選ばれた上位5個のクロ−ンは、クロ−ン176、248、290、350及び372であった。選択されたsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞のクロ−ン株は、自律複製能のあるレトロウイルス(RCR)、マイコプラズマ汚染、及びバイオバ−デンについて陰性結果となるか試験した。
【0057】
上述で作製された細胞株は、以下に概説するすべての試験のために指数増殖期の間、3〜4日ごとに継代され、PFCHO LS培地(Hyclone社)及びCD OptiCHO(商標)培地(Invitrogen社)の両方で90%以上の生存率を維持していた。細胞を各培地に300,000細胞/mlの細胞密度で播種して、Multitron振とう培養器内で150rpmの速度で培養した。初期温度の設定を37℃とした。温度は、条件2及び4においては、5日目に31℃にシフトした。CO2の設定は5%とし、供給添加物はHyCloneサプリメントR15.4及びPS307、並びにグルタミンとした。
【0058】
以下に概説する4つの異なる条件で、各クロ−ンにつき125mL振とうフラスコ(全容量50mL)を用いた2重試験を行った。PFCHO LS中のクロ−ン番号248の細胞は、条件1及び2で試験するのに十分な細胞数しかなかった。振とう物を14日目に回収した。
条件1
0日目:3g/L PS307
2日目:3g/L PS307 + 3mM グルタミン
4日目:3g/L R15.4 + 3mM グルタミン
6日目:12g/L R15.4
条件2
0日目:3g/L PS307
2日目:3g/L PS307 + 3mM グルタミン
4日目:3g/L R15.4 + 3mM グルタミン
5日目:31℃に温度シフト
6日目:12g/L R15.4
条件3
0日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4
2日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
4日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
6日目:5g/L PS307 + 5g/L R15.4
条件4
0日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4
2日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
4日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
5日目:31℃に温度シフト
6日目:5g/L PS307 + 5g/L R15.4
【0059】
各種条件及び培地から得られた結果を図3〜図8に示す。細胞密度はPFCHO LS培地(クロ−ン番号176)では60×105細胞/mLで、OptiCHO(商標)培地(クロ−ン番号176)では160×105細胞/mLでピ−クに達した。
【0060】
これらの結果は、EN−アピラ−ゼを生産するためにCHO細胞を培養する上で有用な種々の条件を示している。これらの結果はまた、生産性が細胞密度に直接関連しないことを示している。
【0061】
OptiCHO(商標)培養物における温度シフトの追加は、全体的な力価の大幅な増加を生じさせた。これにより、クロ−ン番号350の好ましい培養方法としてOptiCHO(商標)での条件2又は4のいずれかを選択することとした。
【0062】
実施例3
10Lバイオリアクタ−でのタンパク質収量を増やすための細胞培養条件の改善
背景: 予備実験において、PowerCHO(登録商標)−2培地が振とうフラスコにおけるEN−アピラ−ゼの高い収率と良好なグリコシル化をもたらすことが示されている。2つの異なる条件について、pHを7.4に維持した10Lバイオリアクタ−(容器1及び2)で実施した。別の10Lバイオリアクタ−(容器3)では、容器2と同じ条件で、pHを7.0まで自然に低下させて実施した。
【0063】
材料及び方法: 細胞株CHO−S−APT−Rクロ−ン番号350を、10L Braunバイオリアクタ−へのスケ−ルアップのために、指数増殖期の間、3〜4日ごとに継代した。細胞を3つの10Lバイオリアクタ−内のPowerCHO(登録商標)−2培地(Lonza社)に約300,000〜400,000細胞/mlの細胞密度で播種した。本実験においては、フェドバッチ(fed−batch)サプリメントとして、HyClone PS307(12%(w/v)溶液)、AGT CD CHO 5X Feed Medium Complete(Invitrogen社)、AGT CD CHO 5X Feed Medium Complete+12.5g/L ガラクト−ス(Invitrogen社)、45%グルコ−ス溶液、20%グルコ−ス/ガラクト−ス溶液、200mM L−グルタミン、L−アスパラギン(15g/L)/L−セリン(10g/L)の50X溶液、L−チロシン(4g/L)/L−シスチン(2g/L)の50X溶液を用いた。
条件1
D0:3g/L PS307 + 2mM グルタミン
D1:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D2:3g/L PS307 + グルコ−ス(5g/Lに)+ グルタミン(2mMに)
D3:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D4:3g/L R15.4/PS307(1:1)+ グルタミン(2mMに)+ グルコ−ス(5g/Lに)
D5:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D5:34℃に温度シフト
D6:12g/L R15.4
D6:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを4g/Lに維持
D7〜D16:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを4g/Lに維持
実験を通してpH7.4に維持する。
条件2
D0:3g/L PS307
D1:グルタミンを2mMに維持
D3:30%v/v(AGT CD 5X Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)+ 1X L−アスパラギン(0.3g/L)/L−セリン(0.2g/L)+ 1X L−チロシン(80mg/L)/L−シスチン(40mg/L)+ 3mM グルタミン(初期設定により、2日目又は3日目にVCD>10×105細胞/mlのとき)
D4〜D5:グルタミンを2mMに維持
D5:34℃に温度シフト
D6〜D16:グルコ−スレベルが〜5g/Lであるとき、10%(v/v)(AGT CD 5X Feed Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)を供給
D6〜D16 10% 5X Feed後:グルコ−スレベルが〜3g/Lであるとき3g/L グルコ−ス/ガラクト−スを供給
実験を通してpH7.4に維持する。
条件3
D0:3g/L PS307
D1:グルタミンを2mMに維持
D3:30%v/v(AGT CD 5X Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)+ 1X L−アスパラギン(0.3g/L)/L−セリン(0.2g/L)+ 1X L−チロシン(80mg/L)/L−シスチン(40mg/L)+ 3mM グルタミン
D4〜D5:グルタミンを2mMに維持
D5:34℃に温度シフト
D6〜D16:グルコ−スレベルが〜5g/Lであるとき、10%(v/v)(AGT CD 5X Feed Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)を供給
D6〜D16 10% 5X Feed後:グルコ−スレベルが〜3g/Lであるとき、3g/L グルコ−ス/ガラクト−スを供給
pHを7.0±0.05に自然に移行させる
【0064】
結果: 容器3では、細胞密度が最高のピ−クに達した(70×105細胞/mL)。容器1及び2では、48×105細胞/mLでピ−クに達した。容器1は14日目に、容器2は16日目に、容器3は15日目に回収した。すべての容器の回収時の生存率は<50%であった。容器2及び3の最大タンパク質レベル(活性アッセイ)は回収時に55mg/Lであった。容器1は回収時のタンパク質レベルが51mg/Lであった。グルコ−スはいずれの容器においても律速要因とはならなかった。容器2及び3では運転終了時のグルタミンレベルは低かった。乳酸レベルは、容器1及び2では高かった(〜6g/L)一方、容器3では<2.5g/Lであった。アンモニウムレベルは容器1及び2では10mM以下にとどまり、容器3では〜16mMであった。
【0065】
結論: 全体的に、タンパク質レベルは条件2及び3で良好であった。乳酸レベルは容器1及び2でかなり高く、その結果pHを維持するために1Lを超える塩基を添加した。容器3では実験全体を通して、pHを維持するために200mLの塩基しか必要としなかった。塩基の添加はまた、浸透圧(デ−タは示さず)を容器3(〜365mmol/kg)よりかなり高くさせた(容器1では〜540mmol/kg、及び容器2では〜500mmol/kg)。タンパク質解析から、タンパク質の品質は本研究で用いた3つの条件間で差がないと考えられる。
【0066】
実施例4
EN−アピラ−ゼを発現する形質転換CHO細胞の安定性
実施例2の方法で作製したCHO細胞株を解凍し、CD OptiCHO(商標)培地を用いて125ml振とうフラスコで培養した。このCHO細胞は、これまでPF CHO LS培地で増殖させていたため、その培養物を新しい培地に順応させるため、振とうフラスコで5回の継代培養を行った。本実験においては、順応後の細胞を世代0とした。細胞を連続継代により継続培養した。本実験では、約10、15及び20世代の連続培養後の細胞を比較することを計画した。世代9、17及び24で、細胞のサンプルを凍結させた。培養の終了時に、世代0、9、17及び24からの細胞のサンプルを解凍し、そのサンプルを用いて最終バッチ培養を行って、同じ実験における異なる世代の細胞株のEN−アピラ−ゼ産生を比較した。最終培養では、プロセス開発中に行ったような添加及び温度シフトは行わなかった。マラカイトグリ−ンADP加水分解活性アッセイによって測定されたアピラ−ゼの発現レベルは、それぞれ世代0及び24に関して同程度であることが示された。
【0067】
挿入遺伝子の安定性を比較するために、0、9、17又は24世代後のCHO細胞のサンプルをDNA単離のために使用した。ゲノムDNAについてリアルタイムPCRを行ったところ、挿入遺伝子の数は、次の40世代を超えてその細胞株において維持されていた。異なる世代のコピ−数のPCRに基づいた指数は、異なる世代間で大きな差がなかった。
【0068】
実施例5
細胞培養におけるタンパク質生産の安定性
実施例2の培養物を125ml振とうフラスコの50mLの培地中で培養した。6mM L−グルタミン(HyCloneカタログ番号SH30034.01、ロット06263003)を含むCD OptiCHO(商標)培地(Gibcoカタログ番号12681−011、ロット06291004、有効期限08/30/07)を、全体を通して使用した。細胞株(継代6)を解凍し、これを用いて培養を開始した。細胞株はこれまでPF CHO LS培地で培養されていたため、細胞を新しい培地に順応させるためCD OptiCHO(商標)培地で5回継代して培養した。最初に培養物を2.5×105生存細胞/mLの標的密度で播種した。細胞数をCedex(商標)計測器(Innovatis社、ドイツ)を用いて計測し、培養物を新鮮な培地で標的密度に希釈することによって、週に2回細胞を継代した。リサ−チセルバンクサンプルのための毎週の細胞数デ−タを表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
計算:
世代数(G):G=LN(総細胞数÷播種した総細胞数)0.69
【0071】
世代0、10、15及び20の直接比較:上述のように約0、10、15又は20世代の培養後に、各振とうフラスコからの細胞を凍結培地(46.25% 順化培地、46.25% 新鮮培地、7.5% DMSO(Sigmaカタログ番号D2650、ロット46K2381))中で凍結させた。バイアルは、−80℃に1〜7日間置いた後、貯蔵用の液体窒素に移した。
【0072】
20世代にわたる培養が完了したとき、CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後の出発細胞株(世代0)、世代9、世代17及び世代24のバイアルから得た凍結細胞を解凍した。それぞれのサンプルについて、CD OptiCHO(商標)培地を用いて、約250,000細胞/mLから開始するように125mL振とうフラスコに3重試験で接種した。培養物を37℃、5%CO2雰囲気下、140rpmで振とうしながら増殖させた。タンパク質解析のため培養14日目にサンプルを回収した。アピラ−ゼの生産レベルは、前述したマラカイトグリ−ン活性アッセイを用いて推量した。
【0073】
結果
世代0、9、17及び24の細胞を用いた最終培養:以下の結果は、出発細胞株(CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後の世代0のリサ−チセルバンクサンプル)と9、17及び24世代後の細胞株とを対照比較した、サンプルのアピラ−ゼ発現についての解析結果を示す。各世代のサンプは3重試験で培養し、結果の平均値を計算した。エラ−バは各世代のサンプルの標準偏差を示す。図9は、4つの世代レベルそれぞれの14日目のタンパク質生産の平均値を示す。
【0074】
SDS PAGE解析:EN−アピラ−ゼタンパク質を含む培地のサンプルを、生産性試験の14日目に回収した。タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。簡単に説明すると、培地サンプル(20μL)を還元サンプルバッファ−中に調製し、70℃で5分間加熱した。サイズ標準として、SeeBlue(登録商標)Plus 2タンパク質標準物質(Invitrogen社、カタログ番号LC5925)を用いた。サンプルを4〜12%Bis−Tris NuPage(登録商標)ゲル(Invitrogen社、カタログ番号NP0321)にロ−ドし、200Vで60分間電気泳動した。そのゲルを、Gelcode(商標)Blue染料(Pierce社、カタログ番号24592)を用いて室温で45分間染色した。EN−アピラ−ゼの生産は24世代にわたって維持されていた。
【0075】
様々な世代の細胞からにおける挿入遺伝子の安定性を、遺伝子コピ−指数アッセイを用いて比較した。
【0076】
リサ−チセルバンクからのEN−アピラ−ゼ産生CHO細胞株クロ−ン番号350のサンプルを、CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後、世代0サンプルのゲノムDNAを単離するために使用した。クロ−ン番号350の世代9、17及び24のEN−アピラ−ゼ産生CHO細胞株のサンプルもまた、ゲノムDNAを単離するために用いた。対照であるβ1,4ガラクトシルトランスフェラ−ゼに対するEPRの遺伝子コピ−指数を、リアルタイムPCRにより測定した。以下に示した結果は、20世代にわたって遺伝子コピ−指数値に大きな変化がないことを実証している。これは、挿入遺伝子の数が長期にわたる細胞株の継代を通して変化しないことを示している。
【0077】
【表4】
【0078】
数値は3重試験の平均値と標準偏差を表す。
【0079】
実施例6
EN−アピラ−ゼの均質なN末端アミノ酸配列
CHO細胞株からEN−アピラ−ゼを生産するため、上位5個のクロ−ンからクロ−ン350を選択した。pCS−APT−WPRE(new ori)を保有するクロ−ン350のsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞培養物から順化培地を回収し、EN−アピラ−ゼを精製した。精製は、調製Aと同様にDEAE及びヘパリンクロマトグラフィ−を用いて実施した。精製したEN−アピラ−ゼを2−メルカプトエタノ−ルの存在下で4〜12%SDS−PAGEゲルに供し、アピラ−ゼ活性に関連付けられる70kDaの単一バンドを得た。電気泳動の完了後、ゲルを転写バッファ−(25mM ビシン(Bicine)、25mM Bis−Tris、1mM EDTA、0.05mM クロロブタノ−ル、10% メタノ−ル、pH7.2)中に5分間浸漬し、事前に100%メタノ−ルと転写バッファ−に順次浸漬しておいたPVDF膜(Immovilon,Millipore社)と重ね合わせ、XCell II(商標)Blot Module(Invitrogen社)を用いて160mAで1時間タンパク質を転写させた。転写後のPVDF膜を水で洗浄し、Coomassie(登録商標)Brilliant Blue R−250染色溶液(Bio−Rad社)を用いて1分間染色し、蒸留水で洗浄した。
【0080】
染色された70kDaのバンドを切り出し、その膜切片をエドマン配列解析により解析した。N末端のアミノ酸配列は単一の種であり、そのN末端アミノ酸残基は次のように決定された:Glu−Val−Leu−Pro−Pro−Gly−Leu−Lys−Tyr−Gly−Ile;よって、切断は配列番号9の28番目の位置で起こる。HEK−sol−CD39L3−01を産生するHEK293T細胞では、これは産物の40%しかない。
【0081】
実施例7
EN−アピラ−ゼの糖鎖解析
EN−アピラ−ゼとsol CD39L3(HEK−sol−CD39L3−01)からの糖鎖を等電点電気泳動により解析した。EN−アピラ−ゼは実質的により多いグリコシル化を示した。また、CD39L3−01では約5.0〜約6.0の範囲のpIであるのに対して、EN−アピラ−ゼでは約3.0〜4.5の範囲のpIであったことから実証されるとおり、EN−アピラ−ゼはより低い不均一性を示した。図10A及びBを参照されたい。グリコシル化の増加に起因する、より高い分子量がSDS−PAGEにより確認された。
【0082】
実施例8
精製プロトコルの改良
改良された精製プロトコルを、EN−アピラ−ゼの新しい性質に基づいて開発した。調製A及び実施例6で用いたイオン交換(DEAE)及びアフィニティ−クロマトグラフィ−(ヘパリン)の代わりに、2イオン交換クロマトグラフィ−(ANX及びSP)プロトコルを採用した。
【0083】
配列番号10を含むEN−アピラ−ゼ核酸構築物で形質転換したCHO細胞を、上述したような一般的な方法で培養し、培養液を1.4平方フィ−トの60M02 Depth Filter(Cuno社,CT)を通して回収した。フィルタ−は使用前にWFI水で洗浄し、容積回収を最大化するために圧縮空気を吹き付けた。その後、澄んだ培養液を0.2μmフィルタ−で濾過して滅菌バッグに回収した。
【0084】
ウイルスを不活化するため、負荷量(1.6Lの澄んだ培養液、V17)を等量(1.6L)のWFI水で希釈した。Triton(登録商標)X−100の溶液(11%を320mL)を添加し(最終濃度1%)、得られた溶液を周囲温度で30分間静置した。
【0085】
アニオン交換クロマトグラフィ−:ウイルス不活化培養液(3.52L)を、10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化した80mL ANX Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムに13ml/分の流速でアプライした。負荷量をカラムにアプライし、洗浄液を含めたフロ−スル−液を収集した(3.7L)。10mM Tris,140mM NaCl,pH7.4で2回目の洗浄を実施して、洗浄液を回収した(580mL)。10mM Tris,230mM NaCl,pH7.4でタンパク質を溶出し、回収した(500mL)。最後に、1M NaClを用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、回収した(450mL)。
【0086】
バッファ−交換及びカチオン交換クロマトグラフィ−:回収されたANX 140mM−230mM溶出物は、Pellicon Biomax 30(50cm2)を用い、連続モ−ドで20mMクエン酸塩,pH4.80にバッファ−交換した(〜10倍量)。バッファ−交換した負荷量(1.0L)を、20mMクエン酸塩,pH4.80で平衡化した80mL SP−Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(1.2L)。洗浄段階は、20mMクエン酸塩,pH5.10で行い、回収した(220mL)。20mMクエン酸塩,pH6.0を用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(200mL)。
【0087】
収率及び純度解析:EN−アピラ−ゼの収率は、以下に示すように、紫外/可視吸収及びELISAにより80%を超えると計算された。
【0088】
【表5】
【0089】
各精製段階でSDS−PAGE解析を実施した(図11)。YM−30(2ml)遠心濃縮機を用いて20倍に濃縮した後にSDS−PAGEゲルで純度を解析した。
【0090】
実施例9
不均一にグリコシル化されたEN−アピラ−ゼの回収率を改善したEN−アピラ−ゼの精製
実施例2に記載された方法で培養した細胞からの培養液を、1.4平方フィ−トの60M02 Depth Filter(Cuno社,CT)を通して回収した。フィルタ−は使用前にWFI水で洗浄し、容積回収を最大化するために圧縮空気を吹き付けた。その後、澄んだ培養液を0.2μmフィルタ−で濾過して滅菌バッグに回収した。
【0091】
ウイルスの不活化のために、負荷量(100mLの澄んだ培養液、V19)を等量(100mL)のMilli−Q水で希釈した。Triton(登録商標)X−100の溶液(11%を20mL)を添加し(最終濃度1%)、得られた溶液を周囲温度で30分間静置した。
【0092】
アニオン交換クロマトグラフィ−:EN−アピラ−ゼのウイルス不活化培養液(220mL)を、10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化した5mL ANX Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムに5ml/分の流速でアプライした。負荷量をカラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(260mL)。10mM Tris,230mM NaCl,pH7.4でタンパク質を溶出させ、回収した(50mL)。洗浄段階を省略し、直接230mM NaClで溶出すると、アニオン交換クロマトグラフィ−からのアピラ−ゼの大きな損失はなかった。最後に、1M NaClを用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(30mL)。1M NaCl溶出物のウェスタンブロット解析から、この画分中にアピラ−ゼがほとんど検出されないことが示された。
【0093】
バッファ−交換及びカチオン交換クロマトグラフィ−:回収されたANX 230mM溶出物は、1L G25カラムを通して20mMクエン酸塩,pH4.6にバッファ−交換した(〜3倍量)。
バッファ−交換された負荷量(150mL)を、20mMクエン酸塩,pH4.6で平衡化した5mL SP−Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(170mL)。洗浄を20mMクエン酸塩,pH4.8で行い、回収した(40mL)。さらなる成果として、フロ−スル−液のpHを4.8から4.6に下げることによって低分子量の不純物が取り除かれた。アピラ−ゼの一部はpH4.8溶出液中に存在したが、その総量はpH4.6のフロ−スル−液の10%未満であった。別の洗浄を20mMクエン酸塩,pH5.1で実施して、回収した(40mL)。20mMクエン酸塩,pH6.0を用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(40mL)。
【0094】
純度は、Omega 3kDa 2ml遠心濃縮機を用いて20倍に濃縮した後に4〜12%SDS−PAGEゲルで解析した。
【0095】
この精製スキ−ムを用いて、120mM及び/又は140mM NaCl洗浄段階を省くことによってANXクロマトグラフィ−から、不均一にグリコシル化されたEN−アピラ−ゼのほぼ全部が回収された。また、加えて、SPクロマトグラフィ−で0.2pH単位下げることにより、アピラ−ゼのより高い純度(>95%)が達成された。この2ステップ精製により回収されたアピラ−ゼの全体的な回収率は90%を上回った。
【0096】
実施例10
EN−アピラ−ゼは長い半減期及び改善された薬効を示す
sCHO−S/sC−APT−R 2X細胞を4g/Lのグルコ−スと2mMのグルタミンの存在下、pH7.4、34℃で培養した。EN−アピラ−ゼを実施例9の2ステップイオン交換プロセスで精製した。EN−アピラ−ゼは、より豊富なグリコシル化の結果、HEK−sol−CD39L3−01と比較して高い平均分子量を示した。
【0097】
対照として、HEK細胞で発現させたsol−CD39L3の単回ボ−ラスを静脈内に注射した(0.75mg/kg、時点あたりn=3)薬物動態試験をラットで実施した。血清サンプルのADPア−ゼ及びATPア−ゼ活性を試験した。実験デ−タはいずれの酵素活性の二相性指数曲線にも最適に適合する。このアピラ−ゼの分布相の半減期(T1/2)は40分と計算された(図12)。アピラ−ゼ活性の約50%がこの相の間に循環から排除された。このアピラ−ゼの血漿消失T1/2は20時間である。対照的に、EN−アピラ−ゼ(0.25mg/kgで投与)は24時間で初期活性の>50%を保持しており、図13に示すように、有効in vivo活性が>10倍増加した。
【0098】
多血小板血漿のADP誘発性血小板凝集に及ぼすEN−アピラ−ゼとHEK−sol−CD39L3−01の効果により測定される活性アピラ−ゼのレベルを、ウサギへの単回ボ−ラス投与(HEK−sol−CD39L3−01及びEN−アピラ−ゼをそれぞれ0.75mg/kg及び0.25mg/kg)後に、様々な時点で測定した。アピラ−ゼによる血小板凝集の阻害をより正確に推量するために、生理的カルシウム濃度を維持する目的で、血液サンプルにクエン酸ではなくヘパリンを添加した。図14に示すように、可溶性CD39L3(例えば、HEK−sol−CD39L3−01)が6時間でADP誘発性血小板凝集の50%阻害をしか保持なかったのに対し、3分の1の濃度(0.75mg/kgに対して0.25mg/kg)のEN−アピラ−ゼは6時間でADP誘発性血小板凝集の90%阻害を保持したことをデ−タが実証している。
【0099】
EN−アピラ−ゼによる薬物動態の同様の改善は、図15及び16に示すように、ブタにおいても観察された。EN−アピラ−ゼの薬物動態の10倍を超える改善は、その有効量を減らすものと考えられる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2010年1月13日に出願された米国特許出願第61/294,695号の優先権を主張するものである。この文書の内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、新規なアピラ−ゼ類並びに血栓性疾患又は炎症関連疾患を治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アピラ−ゼ類(エクトATPジホスホヒドロラ−ゼ)は、ATPからADPへの、及びADPからAMPへの代謝を触媒する一群の酵素である。最初に知られたヒトアピラ−ゼであるCD39は、もともとは活性型リンパ球及び内皮細胞の細胞表面タンパク質として同定された。in vitro及びin vivo試験の両方において、CD39はADPのレベルを調節することから心血管の健康において重要なアピラ−ゼであることが明示された。例えば、アピラ−ゼは、細胞外ADPを代謝することによって血小板凝集を阻害することが知られている。血小板上のADP受容体と不可逆的に結合するクロピドグレル(Clopidogrel)(プラビックス(Plavix))とは異なり、ヒトアピラ−ゼは、血小板それ自体に損傷を与えたり、通常の血小板機能を妨げたりすることがなく、過度の血小板活性化を示す患者へのより安全なアプロ−チを提供する。
【0004】
既知のヒトCD39ファミリ−の中で、CD39L3は、CD39(エクトATDP’ア−ゼ)とCD39L1(エクトATP’ア−ゼ)の中間の生化学的活性をもつエクトアピラ−ゼ(エクトATPDア−ゼ)として知られている。SmithとKirley(Biochemica et Biophysica Acta(1998)1386:65−78)によって、CD39L3は主にヒト脳組織中に存在することが確認された。
【0005】
具体的には、ヒトCD39L3は、配列番号1に示される529アミノ酸のタンパク質であり、59132.42ダルトンの推定分子量を有する。CD39L3の等電点は6.233である。7つの推定グリコシル化部位と13個のシステイン残基が存在する。配列番号1に基づいた、N末端の43残基とC末端の44残基は、膜貫通ドメインの一部であると考えられる。この酵素の触媒コアは凡そ44番目のアミノ酸と238番目のアミノ酸の間にあり、これらの残基を含む、このタンパク質及び関連アピラ−ゼの可溶性形態がChenらによって調製され、記載されている(米国特許第7,247,300号)。さらに、67番目の残基アルギニンをグリシンで、及び/又は69番目の残基トレオニンをアルギニンで置換することにより、米国特許第7,390,485号に記載されるように、ADP’ア−ゼ活性の増強を含む、さらなる望ましい特性を付与することが明らかになっている(ここで、残基番号は配列番号1として示される野生型ヒトCD39L3における番号を指す)。
【0006】
ProtParam解析から、CD39L3とCD39はどちらも約520個のアミノ酸から成り、約6.0のpIをもつことが示されている。CD39L3とCD39はまた、互いに類似したアミノ酸組成を共有し、また、N末端及びC末端の膜貫通領域の間にある細胞外ATP/ADPア−ゼ部分の約440アミノ酸残基を含む、共通の構造モチ−フをもっている。CD39L3は3番染色体に、そしてCD39は10番染色体に存在するが、それらの全体的なイントロン及びエクソンの構造は同一であって、それぞれエクソンが10個存在する。
【0007】
バイオインフォマティクス解析から、CD39L3はCD39の脳に特異的なアイソザイム又はアイソエンザイムであることが示唆されている。アイソザイム又はアイソエンザイムはそれぞれの対応する酵素と同じ調節特性を持たないこともあり、むしろそれがさらされている厳密な環境に最適となるようにその酵素的性質を調整している。ノ−ザンブロット試験では、CD39L3が脳と腎臓で高度に発現されているのに対し、CD39は胎盤と脾臓で発現していることが示されている。この解析結果は、ヒト脳におけるアイソエンザイムCD39L3の発現が、主要な血栓調節因子としてのCD39の活性を補完していることを示唆している。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、より長い半減期、より高い安定性、より高い溶解性、又はより高い純度などの改良された治療特性を示す、新しいクラスのアピラ−ゼ化合物、及びそれらの調製物を提供する。また、高濃度のそのような改善された調製物であって実質的に同質なものに容易に精製できる形態を調製する方法も開示される。
【0009】
発明の開示
優れた薬物動態学的特性を有しかつ培養液から比較的容易に精製される、新しいクラスのアピラ−ゼ(「EN−アピラ−ゼ」又は「改良型アピラ−ゼ」)を調製した。
【0010】
CD39L3糖タンパク質の可溶性形態をコ−ドするヌクレオチド配列をシグナル配列に適切に連結し、かつ、チャイニ−ズハムスタ−卵巣細胞において適切な条件下で発現される発現ベクタ−を適切にデザインすることによって、アピラ−ゼの改良形態が得られることを見いだした。このような改良型アピラ−ゼは、増加したグリコシル化及びシアル化によると思われる低い等電点、及び、精製を容易にし、より均質なサンプルを与えるN末端での均一な切断により特徴づけられる。一般的に、EN−アピラ−ゼは、67番目及び/又は69番目における変異体を含み、配列番号1の可溶性形態である。可溶性形態は、前述の変異体、及び、配列番号1のおよそ49番目から485番目の長さを有するものである。通常、それらは3〜4.5の範囲の等電点を有し、かつ高度にグリコシル化されている。
【0011】
したがって、一態様において、本発明はEN−アピラ−ゼに関し、ここで当該EN−アピラ−ゼは可溶性CD39L3又はそのホモログであり、同様なN末端を有し、かつ約3.0〜約4.5の範囲の平均等電点を有する;及び/又は、ここで当該EN−アピラ−ゼは、アピラ−ゼアッセイによる測定で、ウサギ又はブタのin vivoにおけるHEK sol−CD39L3−01の半減期の少なくとも2倍の半減期を有する。
【0012】
別の態様において、本発明は、シグナル配列、リンカ−、及び可溶性アピラ−ゼをコ−ドするヌクレオチド配列を含む核酸構築物に関し、ここで、リンカ−はそのC末端にEVLP配列を有し、かつ、前記リンカ−又はその一部は天然の可溶性アピラ−ゼ中に存在する配列であってもよい。本発明はまた、この構築物を含有するCHO細胞、並びにこれらの細胞を培養することによるEN−アピラ−ゼの生産方法に関する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、EN−アピラ−ゼを取得するためのCHO細胞培養システムに関し、前記培養システムは、培養の間、約2mMのグルタミン濃度及び7.4のpHを維持する培地を調整すること、並びに、培養5日目に培養物の温度を37℃から34℃にシフトさせること、を含んでなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、sol−CD39L3 R67G T69R発現用のpAPT8742のマップである。
【図2】図2は、発現レトロベクタ−構築物pCS−APT−WPRE(new ori)を示す。
【図3】図3は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における生存細胞密度を示す。
【図4】図4は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における細胞の生存率を示す。
【図5】図5は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのPFCHO LS培地における発現レベルを示す。
【図6】図6は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのOptiCHO(商標)培地における生存細胞密度を示す。
【図7】図7は、様々なアピラ−ゼ産生クロ−ンのOptiCHO(商標)培地における細胞生存率を示す。
【図8】図8は、PFCHO LSにおける発現レベルを示す。
【図9】図9は、クロ−ン350の25世代にわたるEN−アピラ−ゼ産生の安定性を示す。
【図10】図10A及び10Bは、HEK−sol−CD39L3−01及びEN−アピラ−ゼの等電点を示す。
【図11】図11は、2つのイオン交換クロマトグラフィ−を用いたEN−アピラ−ゼの精製方法が進行していることを示す。
【図12】図12は、HEK−sol−CD39L3−01のウサギを用いたin vivoにおける半減期の測定結果を示す。
【図13】図13は、EN−アピラ−ゼの半減期と比較した、HEK−sol−CD39L3−01のウサギにおける半減期を示す。
【図14】図14は、図13の結果を、血小板凝集を阻害する能力についてex vivo試験で示したものである。
【図15】図15は、ブタで行ったことを除いて図13の結果に相当する結果を示す。
【図16】図16は、ブタで行ったことを除いて図14の結果に相当する結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人らは、特別にデザインした組換え材料及び方法を用いることによって、グリコシル化が増加したことに起因すると考えられる優れた薬物動態学的特性を示すEN−アピラ−ゼの調製物を取得できることを見いだした。得られたEN−アピラ−ゼは、低い等電点、均質なN末端、増加したグリコシル化、及び、長いin vivo半減期を有している。
【0016】
本発明のEN−アピラ−ゼは可溶性CD39L3又はそのホモログである。可溶性CD39L3は、配列番号1において、膜貫通ドメインに相当するN末端の少なくとも約43アミノ酸及びC末端の少なくとも約44アミノ酸が欠失した配列により表される。アピラ−ゼは、可溶性CD39L3又はJeongら(米国特許第7,390,485号)により教示されたADPア−ゼ増強型アピラ−ゼ、すなわち、67番目のアルギニン残基がグリシンで、及び/又は、69番目のトレオニン残基がアルギニンで置換されたものであってもよい(ここで、残基番号は配列番号1で表されるCD39L3における番号を指す)。
【0017】
可溶性CD39L3の「ホモログ」には、ADP’ア−ゼ及びATP’ア−ゼ活性を保持し、かつ/又は、配列番号1の49−485番目のアミノ酸と80%又は90%又は95%相同である、1〜5個の保存的置換を有する配列を含む。一実施形態において、ホモログは配列番号1で表されるCD39L3の52番目及び53番目に該当するタンデム・プロリン残基を含んでなる。
【0018】
代表的な可溶性CD39L3アピラ−ゼホモログは、配列番号1において以下の置換を有する配列番号1の49−485番目のアミノ酸残基を含む:R67G T69R;T69R;R67G;R69A T69R;R67A T69H;R67A P69K;R67G T69H;R69G T69K;T69H;T69K;及びR69A。ホモログには、52番目からのPPG残基より始まる配列を含む、配列番号1の一部又は上述の変異体が含まれていてもよい。
【0019】
CD39L3をコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号2に示す。可溶性CD39L3のアミノ酸配列を配列番号3に示し、それをコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号4に示す。T67G T69R変異体である可溶性CD39L3のアミノ酸配列を配列番号5に、それをコ−ドする配列を配列番号6に示す。非改良型のアピラ−ゼであるHEK−SOL−CD39L3−01を調製するために用いた核酸構築物によりコ−ドされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に、それに対応するコ−ドを有するヌクレオチド配列を配列番号8に示す。一実施形態であるEN−アピラ−ゼを産生する核酸構築物によりコ−ドされるアミノ酸配列を配列番号9に、それをコ−ドするヌクレオチド配列を配列番号10に示す。
【0020】
分泌シグナル配列
本発明のEN−アピラ−ゼは培地に分泌される形で生産され、したがって、それらの生産用の核酸構築物にはシグナル配列が含まれる。
【0021】
本発明のシグナル配列は、適切な細胞系においてタンパク質の分泌をもたらすことが知られている任意のシグナル配列であり得る。さらに、例えば、Otsukiら,DNA Research(2005)12:117−126,“Signal Sequence and Keyword Trap in silico for Selection of Full−Length Human cDNAs Encoding Secretion or Membrane Proteins from Oligo−Capped cDNA Libraries”に記載されているように、分泌シグナル配列として機能する配列を同定及び予測するためのin silico法が存在している。
【0022】
例として、分泌シグナル配列は表1に記載の配列のいずれかであり得る。
【0023】
【表1】
【0024】
リンカ−部分
配列EVLPを有するアピラ−ゼの所望のN末端の配列を提供することによって、Eで表されるグルタミン酸残基のすぐ上流に均一なN末端が生成されるように、チャイニ−ズハムスタ−卵巣(CHO)細胞内で切断されることを見いだした。しかし、この配列において、グルタミン酸残基はアスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)又はアスパラギン(N)で置換されていてもよい。このような配列で表される連結はCHO細胞内のプロテア−ゼに対して耐性である。
【0025】
以下の実施例に示す核酸構築物のように、実際には、リンカ−配列はアピラ−ゼ配列の一部であり得る。よって、EVLP配列は、産生されたEN−アピラ−ゼのN末端となる。このようなものも例示的核酸構築物によりコ−ドされたアピラ−ゼのアミノ酸配列に含まれる。
【0026】
可溶性アピラ−ゼのアミノ酸配列にかかわらず、上述のようにリンカ−配列をカルボキシ末端に含むことにより、アピラ−ゼが培養培地に分泌されるときにE、D、Q又はN残基の上流で確実に切断される。E、D、Q又はN残基の上流に0〜10個のアミノ酸、好ましくは1〜5個のアミノ酸を含むシグナル配列の下流の追加の配列が存在してもよい。
【0027】
したがって、シグナル配列及びリンカ−部分と適切に組み合わせることにより、アピラ−ゼ核酸構築物は、CHO細胞に形質転換されたとき、単一の強力なシグナルペプチダ−ゼ切断部位をもつ翻訳産物を産生し、そして均質なN末端をもつアピラ−ゼを分泌する。「均質」は「実質的に均質」を含み、例えば、EN−アピラ−ゼ分子の約80%、又は90%、95%もしくは99%以上が同じN末端をもつようにプロセシングされることを含む。
【0028】
EN−アピラ−ゼは、配列番号7をコ−ドする核酸構築物で形質転換されたHEK細胞により産生されたアピラ−ゼ(すなわち、調製Aに記載されるHEK−sol−CD39L3−01)よりも、かなり多くの糖鎖を含んでいる。EN−アピラ−ゼは、約3.0〜約4.5の範囲のpIを有する哺乳動物細胞培養液中で産生され、分泌される。理論に縛られることなく、本出願人は次のように考える:N末端アミノ酸配列の変更はN末端のエンドペプチダ−ゼプロセシングを変化をさせ、結果としてグリコシル化を変更するのに十分な構造的変化をもたらす。さらに、構造的変化とグリコシル化の組合せは、EN−アピラ−ゼの予期せぬ薬物動態学的特性に寄与する。等電点の低下は、増加したグリコシル化においてシアル酸含量が増加したことによると考えられる。
【0029】
本発明のEN−アピラ−ゼの優れた、予期しない特性の一つは、イオン交換クロマトグラフィ−によって容易に精製することができる糖タンパク質産物である。以下に示すように、EN−アピラ−ゼは2ステップのイオン交換プロトコルにより約90%又はそれ以上に精製することができる。
【0030】
本発明のEN−アピラ−ゼは、以下に示すように、HEK−sol−CD39L3−01と比較して、長い循環半減期を有する。EN−アピラ−ゼは、HEK−sol−CD39L3−01の半減期の少なくとも約2倍又は少なくとも約4倍又は少なくとも約5倍又は少なくとも約8倍のウサギ又はブタにおける半減期(T1/2)を有する。このような半減期の増加は、一般に非経口投与されるEN−アピラ−ゼなどの治療薬にとって特に有用である。
【0031】
EN−アピラ−ゼの生産方法
本発明のEN−アピラ−ゼは、上述のようなシグナル配列の制御下、改良された性質をもたらす培養条件で、CHO細胞を用いて生産することができる。このような条件として適したものには、培地中で約2mMのグルタミン含量を維持すること、約7.4のpHを維持すること、及び培養5日後に温度を37℃から34℃に変更することが含まれる。これらのパラメ−タは変動してもよいが、最適なEN−アピラ−ゼの生産のためには、これらの条件が確実に成功をもたらす。例えば、グルタミン含量は約1.5mMと4mMの間、好ましくは2〜3mMを維持すべきである。pHは約7.0と7.8の間、好ましくは7.2と7.6の間を維持すべきである。温度は約31〜36℃、好ましくは33〜35℃に下げるべきである。これは培養開始後4〜6日の間に行うことができる。
【0032】
用途
本発明のEN−アピラ−ゼは、少なくとも一般的なアピラ−ゼの用途、より具体的にはCD39化合物、CD39L1〜8のいずれか(例えば、CD39L3化合物)の用途として有用な治療薬である。EN−アピラ−ゼは抗血小板薬、抗血栓薬として、また、抗炎症性タンパク質及び内皮細胞(EC)保護タンパク質として有用である。さらに、EN−アピラ−ゼは、2010年1月13日出願の「Apyrase Therapy for Bleeding Conditions」と題する米国仮特許出願第61/294,725号(その全体が参照により本明細書に援用される)に教示される症状に対して治療上有用である。EN−アピラ−ゼによって効果的に治療される症状には、機械的又は薬理的傷害により引き起こされた損傷からの出血の症状が含まれる。
【0033】
いくつかの生物学的状態では、本発明のEN−アピラ−ゼは複数の機能により治療的な役割を果たす。例えば、EN−アピラ−ゼの抗炎症及び抗血栓機能は様々な症状において予期しない治療効果をもたらす。
【0034】
また、血栓症においては炎症誘発性の成分が関与し、そのために生物学的に機能性の物質が血小板と好中球との相互作用によって合成される(Inflammation:Basic principles and Clinical Correlates,第3版,Gallin,J.I.,及びSnyderman,R.(1999)pp.77−95参照)。血小板の活性化はADP及びATPを放出させる。細胞外ATPは炎症誘発性のインタ−フェロン−γ及びIL−2の分泌を誘導することが実証されている(Langston,H.ら,J.Immunol.(2003)170:2962−2970)。最近の研究では、ランゲルハンス細胞上のCD39は皮膚における炎症と免疫を調節していることが明らかになっている(Granstein,R.,Nature Medicine(2002)8:336−338)。したがって、EN−アピラ−ゼとその生物学的活性誘導体のATP’ア−ゼ活性は、血管損傷部位での炎症及び/又は免疫反応を間接的に低下させ、当該治療を受けている患者に臨床的有効性をもたらすと考えられる。
【0035】
アドレナリン作動性神経では、ATPとノルエピネフリンが小胞内に一緒に貯蔵されており、神経伝達時に双方が同時に放出される。過度のノルエピネフリン放出は、心臓突然死を引き起こすことがある虚血性心不全と再灌流不整脈の主な原因である(Levi,R.及びSmith,N.,J.Pharmacol Exp.Ther.(2000)292:825−830)。交感神経終末で放出されたATPの加水分解はノルエピネフリン放出の抑制につながる(Sesti,C.ら,J.Pharmacol.Exp.Ther.(2002)300:605−611)。よって、EN−アピラ−ゼのATP’ア−ゼ活性は、心臓保護効果を示し、治療を受けた患者の致命的不整脈を予防すると考えられる。
【0036】
特定の臨床状況では、生物学的に活性なEN−アピラ−ゼ又はその生物学的誘導体の遅い速度で長期間放出する必要があることがある。このような状況においては、例えばヒドロゲル又は他の薬学的に許容可能な重合性ゲル中に、EN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体を封入する必要がある。さらに、可溶性EN−アピラ−ゼの血中半減期を長引かせて、その有効性を高めるために、ポリエチレングリコ−ル(PEG)を付加することが可能である。これにより、EN−アピラ−ゼを予防薬として用いる場合、単回のボ−ラス投与において、EN−アピラ−ゼの保護効果を長期間にわたって維持することを可能にすると考えられる。タンパク質の半減期を変更するための、その他のタンパク質修飾には、例えば、アルブミンコンジュゲ−ト化、IgG融合分子、及びタンパク質のグリコシル化パタ−ンの変更が含まれる。
【0037】
また、本発明においては、特定の医療処置又は事例で、循環する本発明のアピラ−ゼ活性を阻害することが必要となりうることが想定される。そのような阻害剤は、例えば、薬学的に許容される酵素阻害剤(例えば、ADP類似体)、薬学的に許容されるカルシウムキレ−ト剤、本発明のアピラ−ゼに特異的な抗体であり得る。他の医療処置として、例えば、輸血又は血小板輸血が含まれる。
【0038】
EN−アピラ−ゼ及びその生物学的活性誘導体は、ATP及び/又はADPのAMPへの加水分解が臨床的に良い結果を生むような臨床状況(ATP及び/又はADP濃度が異常に高い疾患状態を含む)において有用である。EN−アピラ−ゼとその生物学的活性誘導体は、血小板又は活性型血小板が疾患の進行において重要な役割を果たしている臨床状況(例えば、腫瘍の転移)で効果的である(Bakewell,S.J.ら,PNAS(2003)100:14205−14210)。
【0039】
投与されたEN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体の臨床上及び生物学上の有効性は、投与後所定の時間間隔をおいて容易に評価することができる。例えば、EN−アピラ−ゼ又は生物学的誘導体の投与は、血小板数に変化がない設定で、出血時間の延長を促進する。さらに、EN−アピラ−ゼの酵素活性又は代謝産物について、血液サンプルを直接測定することにより、循環血液中の該分子の存在を知ることができる。EN−アピラ−ゼの生化学的機能を評価するための当技術分野で公知の方法と組み合わせた、血液サンプルの精密なサンプリングに基づいて、このタンパク質の半減期を推定することが可能である。生物学的に活性なEN−アピラ−ゼ又は生物学的に活性な誘導体の存在についての他の臨床的に関連するアッセイも利用することができる。
【0040】
本発明アピラ−ゼの有効性のin vitro及びin vivo検証方法
EN−アピラ−ゼの生化学的機能は、当業者に利用可能な多数の方法により評価することができる。例えば、精製されたEN−アピラ−ゼのATP’ア−ゼ及びADP’ア−ゼ酵素活性は、8mM CaCl2、200μM 基質(ATP’ア−ゼに対してはATP、ADP’ア−ゼに対してはADP)、50mM イミダゾ−ル、及び50mM Tris,pH7.5を含有する1mL溶液中37℃で測定可能である(Picherら,Biochem.Pharmacol.(1988)51:1453)。この反応を停止させ、0.25mlのマラカイトグリ−ン試薬を添加することにより遊離の無機リン酸を測定することができる(Baykovら,Anal.Biochem.(1988)171:266)。630nmでの分光光度分析に基づき、1単位のATP’ア−ゼ(又はADP’ア−ゼ)は37℃で毎分1μモルの無機リン酸の遊離に相当する。Km及びkcatなどの、この酵素の主要な速度定数は、例えばミカエリス・メンテンの式に、デ−タを当てはめることによって取得できる。生化学的機能のモニタリングに有用なその他のアッセイは、これに限定するものではないが、放射分析アッセイ、HPLCアッセイ(両方ともGayle IIIら, J.Clin Invest.(1998)101:1851−1859に記載されている)、又は放射TLCアッセイ(Marcus,A. J.ら, J.Clin Invest.(1991)88:1690−1696に記載されている)を含む。
【0041】
EN−アピラ−ゼ又は誘導体の生物学的機能は、ex vivo方法でもin vivo方法でも評価することができる。EN−アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能をモニタリングするのに有用なex vivo方法としては、例えば、血小板凝集アッセイが挙げられる(Pinsky,D.J.ら,J.Clin Invest.(2002)109:1031−1040;Ozaki,Y,Sysmex J.Int.(1998)8:15−22)。
【0042】
EN−アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能を評価するのに有用なin vivo方法としては、以下が挙げられる:マウス脳梗塞モデル、このモデルでは出血時間、梗塞体積、血流、神経学的欠損、脳内出血、及び死亡が測定される(Pinsky,D.J.ら,前掲;Choudhri,T.F.ら,J.Exp.Med.(1999)90:91−99)、マウス肺虚血/再灌流モデル(Fujita,T.ら,Nature Med.(2001)7:598−604)、再灌流脳梗塞のヒヒモデル(Huang,J.ら,Stroke(2000)31:3054−3063)、Cd39−/−マウス(Pinsky,D.J.ら,J.Clin Invest.(2002)109:1031−1040)、並びにPCIのヨ−クシャ−・ハンプシャ−ブタモデル(Maliszewski,C.R.ら,PCT WO00/23094(2000))及びウサギモデル(Herbertm,J−M.ら,Thromb Haemost(1998)80:512−518;Fishman,J.ら,Lab Invest(1975)32:339−351;Sarembockら,Circulation(1989)80:1029−1040)。その他の方法が、血栓調節因子としてのADP’ア−ゼ増強型アピラ−ゼ及び誘導体の生物学的機能を評価するために、当業者に公知であり得る。
【0043】
EN−アピラ−ゼの治療用組成物
本発明は、生物学的に有効な量のEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体を薬学的に許容される投与量で含む組成物を提供する。EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の治療用組成物は、症状発症前、症状発症中又は症状発症後の患者に臨床的に投与することができる。EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の症状発症後投与は、例えば、脳梗塞の発症後0〜48時間の間に行うことができる。治療効果を達成するためのEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与は、例えば、ボ−ラス注射、筋肉内、皮下、吸入、連続注入、持続放出、又は他の薬学的に許容される技術により実施し得る。特定の臨床状況では、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体を単回の有効量として投与する必要があり、または、最大1週間もしくは1ヶ月以上の間、毎日投与してもよい。理想的には、EN−アピラ−ゼは、生理学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有する薬学的に許容される形態で患者に投与される。そのような希釈剤及び賦形剤には、中性緩衝食塩水、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸)、低分子量ポリペプチド(例えば、10アミノ酸以下のポリペプチド)、アミノ酸、炭水化物(例えば、グルコ−ス、デキストロ−ス、スクロ−ス、又はデキストラン)、キレ−ト剤(例えば、EDTA)、安定剤(例えば、グルタチオン)が含まれる。さらに、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の補基質、例えばカルシウム(Ca2+)を、該酵素の活性を最大化するために投薬時に投与してもよい。このような担体及び希釈剤は、推奨される投与量及び濃度で患者に無毒性であるように選択される。本発明ではまた、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体は、単独でのEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の効果を相乗的に高める他の薬剤と一緒に投与することが想定される。例えば、アスピリン、ヘパリンもしくはビバリルジンなどの他の抗血小板薬又は抗凝固剤をEN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体と一緒に投与することにより、再灌流の改善、治療時間枠の拡張、再閉塞の防止、及び微小血管の血栓症の防止といった追加の効果が想定される。さらに、EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与は、血栓溶解薬(Activase(登録商標)、TNKase(商標)、吸血コウモリプラスミノ−ゲン活性化因子、ウロキナ−ゼ、ストレプトキナ−ゼ、スタフィロキナ−ゼ、及びアンクロッド)の効力を改善しかつその有効投与量を低下させると想定される。さらにまた、本発明において、例えばADP増強型アピラ−ゼと血栓溶解薬(例えば、TNKase)との操作可能な融合ポリペプチドは、急性心筋梗塞(AMI)、経皮的冠動脈形成術(PCI)及び急性虚血性脳卒中(AIS)のための理想的な治療上の解決策を提供すると想定される。
【0044】
EN−アピラ−ゼ又は生物学的活性誘導体の投与量は、年齢、人種、体重、身長、性別、治療期間、投与方法、EN−アピラ−ゼの生物学的活性、及び症状又は他の臨床的変数の重症度に応じて大幅に変化しうる。有効投与量は、熟練した医師や他の医療関係者によって決定され得る。
【0045】
本明細書で引用する刊行物は、引用した主題について参照することにより本明細書に援用される。
【0046】
調製A
ヒト腎細胞由来HEK293T細胞でのsol CD39L3の生産
HEK 293T細胞株を、配列番号7の発現をもたらす核酸構築物で安定的に形質転換した。この配列は、マウスIgGκ由来のシグナル配列(下線)に連結された可溶性CD39L3 R67G T69R変異体を示す。この配列を挿入して、図1に示したプラスミドpAPT8742を得た。分泌されたタンパク質産物を本明細書では「HEK−sol−CD39L3−01」と呼ぶ。
【0047】
形質転換体を無血清懸濁培養に順応させて、3Lスピナ−フラスコに接種するまで継続的により大きなフラスコに分割した。細胞を3〜4日ごとに分割し、順化培地中のアピラ−ゼを回収した。前臨床検証のために十分な量のタンパク質を生産し、かつ商業規模でのアピラ−ゼ製造の実現可能性を判断するために、パイロット研究を30Lバイオリアクタ−で実施した。典型的な30Lバイオリアクタ−に0.5×106細胞/mLの細胞を接種すると、5〜6日間でHEK 293T細胞は典型的には3.5×106細胞/mL以上に増殖し、2〜3mg/Lのアピラ−ゼを産生した。DEAE、サイズ排除及びヘパリンアフィニティ−カラムを含む精製プロセスを開発し、これによりアピラ−ゼの回収率を30%とするに至った。
【0048】
形質転換HEK293T細胞の培養物から回収した順化培地は、バッファ−を平衡化バッファ−に交換した後に10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化したDEAEカラムにかけた。アピラ−ゼ画分は10mM Tris−HCl,pH7.4/100mM NaClを用いて溶出した。平衡化バッファ−にバッファ−を交換後、溶出画分を10mM Tris−HCL,pH7.4で平衡化したヘパリンカラムにかけた。アピラ−ゼを10mM Tris−HCl,pH7.4/30mM NaClで溶出し、Amicon撹拌式セル濃縮装置(Millipore社)を用いて濃縮した。
【0049】
精製アピラ−ゼのN末端解析をエドマン分解で実施したところ、3種類の異なるN末端欠失を示した。シグナルから予測された切断は、配列番号7の21番目であるaspをN末端として生じさせるはずである。回収されたタンパク質は、lys(30番目)をN末端とするものが27%、glu(32番目)をN末端とするものが40%、及びval(33番目)をN末端とするものが33%であった。
【実施例】
【0050】
実施例1
改良型アピラ−ゼの生産のための核酸構築物
アピラ−ゼ核酸構築物は、sol−CD39L3 R67G T69Rに基づくEN−アピラ−ゼをコ−ドするようにデザインした。シグナル配列はウシα−ラクトアルブミンのシグナルペプチドを用いた。アピラ−ゼ部分は配列番号1の49番目の残基から開始しており、そのコ−ドされたシグナル−アピラ−ゼ融合体を配列番号9に示す。
【0051】
最後の発現レトロベクタ−プラスミドに挿入されたEN−アピラ−ゼ核酸構築物の配列を、以下の表2に示す。この核酸構築物をレトロウイルスベクタ−に挿入した。その結果得られた図2に示すベクタ−において、この核酸構築物を「APT」で示す。
【0052】
DNA断片を宿主プラスミドにクロ−ニングするために用いたMfeI及びXhoI制限酵素部位の位置を示す。最初の19コドンはシグナルペプチドをコ−ドしている。最終核酸構築物のDNA配列決定時に、サイレント変異が2879番目の位置で検出された(予測されるAATの代わりにAAC)。このコドンには二重下線を引いた。最終的なベクタ−はpCS−APT−WPRE(new ori)とした(図2)。
【0053】
【表2A】
【0054】
【表2B】
【0055】
実施例2
pCS−APT−WPRE(new ori)によるCHO細胞の形質転換
チャイニ−ズハムスタ−卵巣(CHO)生産細胞株は、実施例1で構築したレトロベクタ−によるCHO親細胞株の形質導入を2ラウンド行うことによって作製した。プ−ルした形質導入細胞の集団をsCHO−S/sC−APT−R 2Xと命名した。プ−ルした集団細胞株のサンプルを各形質導入後に凍結保存した。プ−ルしたsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞の集団を極めて低い細胞密度(培地200μLあたり約0.5又は0.75個の生存細胞)に希釈して96ウェルマイクロタイタ−プレ−トに播種し、単一細胞を起源とするクロ−ン細胞株を確立した。合計560個のクロ−ンを14日間培養後、マラカイトグリ−ンアッセイによりEN−アピラ−ゼの産生についてのスクリ−ニングを行った。EN−アピラ−ゼ産生に基づく上位24クロ−ンを96ウェルプレ−トから24ウェルプレ−トに移して拡大培養した。24個のうち20個のクロ−ンが拡大培養においても生存しており、これを凍結保存した。
【0056】
20個のクロ−ンを、T175フラスコを用いた3重試験(triplicate)で生産性についてスクリ−ニングした。選ばれた上位5個のクロ−ンは、クロ−ン176、248、290、350及び372であった。選択されたsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞のクロ−ン株は、自律複製能のあるレトロウイルス(RCR)、マイコプラズマ汚染、及びバイオバ−デンについて陰性結果となるか試験した。
【0057】
上述で作製された細胞株は、以下に概説するすべての試験のために指数増殖期の間、3〜4日ごとに継代され、PFCHO LS培地(Hyclone社)及びCD OptiCHO(商標)培地(Invitrogen社)の両方で90%以上の生存率を維持していた。細胞を各培地に300,000細胞/mlの細胞密度で播種して、Multitron振とう培養器内で150rpmの速度で培養した。初期温度の設定を37℃とした。温度は、条件2及び4においては、5日目に31℃にシフトした。CO2の設定は5%とし、供給添加物はHyCloneサプリメントR15.4及びPS307、並びにグルタミンとした。
【0058】
以下に概説する4つの異なる条件で、各クロ−ンにつき125mL振とうフラスコ(全容量50mL)を用いた2重試験を行った。PFCHO LS中のクロ−ン番号248の細胞は、条件1及び2で試験するのに十分な細胞数しかなかった。振とう物を14日目に回収した。
条件1
0日目:3g/L PS307
2日目:3g/L PS307 + 3mM グルタミン
4日目:3g/L R15.4 + 3mM グルタミン
6日目:12g/L R15.4
条件2
0日目:3g/L PS307
2日目:3g/L PS307 + 3mM グルタミン
4日目:3g/L R15.4 + 3mM グルタミン
5日目:31℃に温度シフト
6日目:12g/L R15.4
条件3
0日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4
2日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
4日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
6日目:5g/L PS307 + 5g/L R15.4
条件4
0日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4
2日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
4日目:1.5g/L PS307 + 1.5g/L R15.4 + 3mM グルタミン
5日目:31℃に温度シフト
6日目:5g/L PS307 + 5g/L R15.4
【0059】
各種条件及び培地から得られた結果を図3〜図8に示す。細胞密度はPFCHO LS培地(クロ−ン番号176)では60×105細胞/mLで、OptiCHO(商標)培地(クロ−ン番号176)では160×105細胞/mLでピ−クに達した。
【0060】
これらの結果は、EN−アピラ−ゼを生産するためにCHO細胞を培養する上で有用な種々の条件を示している。これらの結果はまた、生産性が細胞密度に直接関連しないことを示している。
【0061】
OptiCHO(商標)培養物における温度シフトの追加は、全体的な力価の大幅な増加を生じさせた。これにより、クロ−ン番号350の好ましい培養方法としてOptiCHO(商標)での条件2又は4のいずれかを選択することとした。
【0062】
実施例3
10Lバイオリアクタ−でのタンパク質収量を増やすための細胞培養条件の改善
背景: 予備実験において、PowerCHO(登録商標)−2培地が振とうフラスコにおけるEN−アピラ−ゼの高い収率と良好なグリコシル化をもたらすことが示されている。2つの異なる条件について、pHを7.4に維持した10Lバイオリアクタ−(容器1及び2)で実施した。別の10Lバイオリアクタ−(容器3)では、容器2と同じ条件で、pHを7.0まで自然に低下させて実施した。
【0063】
材料及び方法: 細胞株CHO−S−APT−Rクロ−ン番号350を、10L Braunバイオリアクタ−へのスケ−ルアップのために、指数増殖期の間、3〜4日ごとに継代した。細胞を3つの10Lバイオリアクタ−内のPowerCHO(登録商標)−2培地(Lonza社)に約300,000〜400,000細胞/mlの細胞密度で播種した。本実験においては、フェドバッチ(fed−batch)サプリメントとして、HyClone PS307(12%(w/v)溶液)、AGT CD CHO 5X Feed Medium Complete(Invitrogen社)、AGT CD CHO 5X Feed Medium Complete+12.5g/L ガラクト−ス(Invitrogen社)、45%グルコ−ス溶液、20%グルコ−ス/ガラクト−ス溶液、200mM L−グルタミン、L−アスパラギン(15g/L)/L−セリン(10g/L)の50X溶液、L−チロシン(4g/L)/L−シスチン(2g/L)の50X溶液を用いた。
条件1
D0:3g/L PS307 + 2mM グルタミン
D1:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D2:3g/L PS307 + グルコ−ス(5g/Lに)+ グルタミン(2mMに)
D3:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D4:3g/L R15.4/PS307(1:1)+ グルタミン(2mMに)+ グルコ−ス(5g/Lに)
D5:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを5g/Lに維持
D5:34℃に温度シフト
D6:12g/L R15.4
D6:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを4g/Lに維持
D7〜D16:グルタミンを2mMに維持;グルコ−スを4g/Lに維持
実験を通してpH7.4に維持する。
条件2
D0:3g/L PS307
D1:グルタミンを2mMに維持
D3:30%v/v(AGT CD 5X Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)+ 1X L−アスパラギン(0.3g/L)/L−セリン(0.2g/L)+ 1X L−チロシン(80mg/L)/L−シスチン(40mg/L)+ 3mM グルタミン(初期設定により、2日目又は3日目にVCD>10×105細胞/mlのとき)
D4〜D5:グルタミンを2mMに維持
D5:34℃に温度シフト
D6〜D16:グルコ−スレベルが〜5g/Lであるとき、10%(v/v)(AGT CD 5X Feed Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)を供給
D6〜D16 10% 5X Feed後:グルコ−スレベルが〜3g/Lであるとき3g/L グルコ−ス/ガラクト−スを供給
実験を通してpH7.4に維持する。
条件3
D0:3g/L PS307
D1:グルタミンを2mMに維持
D3:30%v/v(AGT CD 5X Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)+ 1X L−アスパラギン(0.3g/L)/L−セリン(0.2g/L)+ 1X L−チロシン(80mg/L)/L−シスチン(40mg/L)+ 3mM グルタミン
D4〜D5:グルタミンを2mMに維持
D5:34℃に温度シフト
D6〜D16:グルコ−スレベルが〜5g/Lであるとき、10%(v/v)(AGT CD 5X Feed Medium Complete + 12.5g/L ガラクト−ス)を供給
D6〜D16 10% 5X Feed後:グルコ−スレベルが〜3g/Lであるとき、3g/L グルコ−ス/ガラクト−スを供給
pHを7.0±0.05に自然に移行させる
【0064】
結果: 容器3では、細胞密度が最高のピ−クに達した(70×105細胞/mL)。容器1及び2では、48×105細胞/mLでピ−クに達した。容器1は14日目に、容器2は16日目に、容器3は15日目に回収した。すべての容器の回収時の生存率は<50%であった。容器2及び3の最大タンパク質レベル(活性アッセイ)は回収時に55mg/Lであった。容器1は回収時のタンパク質レベルが51mg/Lであった。グルコ−スはいずれの容器においても律速要因とはならなかった。容器2及び3では運転終了時のグルタミンレベルは低かった。乳酸レベルは、容器1及び2では高かった(〜6g/L)一方、容器3では<2.5g/Lであった。アンモニウムレベルは容器1及び2では10mM以下にとどまり、容器3では〜16mMであった。
【0065】
結論: 全体的に、タンパク質レベルは条件2及び3で良好であった。乳酸レベルは容器1及び2でかなり高く、その結果pHを維持するために1Lを超える塩基を添加した。容器3では実験全体を通して、pHを維持するために200mLの塩基しか必要としなかった。塩基の添加はまた、浸透圧(デ−タは示さず)を容器3(〜365mmol/kg)よりかなり高くさせた(容器1では〜540mmol/kg、及び容器2では〜500mmol/kg)。タンパク質解析から、タンパク質の品質は本研究で用いた3つの条件間で差がないと考えられる。
【0066】
実施例4
EN−アピラ−ゼを発現する形質転換CHO細胞の安定性
実施例2の方法で作製したCHO細胞株を解凍し、CD OptiCHO(商標)培地を用いて125ml振とうフラスコで培養した。このCHO細胞は、これまでPF CHO LS培地で増殖させていたため、その培養物を新しい培地に順応させるため、振とうフラスコで5回の継代培養を行った。本実験においては、順応後の細胞を世代0とした。細胞を連続継代により継続培養した。本実験では、約10、15及び20世代の連続培養後の細胞を比較することを計画した。世代9、17及び24で、細胞のサンプルを凍結させた。培養の終了時に、世代0、9、17及び24からの細胞のサンプルを解凍し、そのサンプルを用いて最終バッチ培養を行って、同じ実験における異なる世代の細胞株のEN−アピラ−ゼ産生を比較した。最終培養では、プロセス開発中に行ったような添加及び温度シフトは行わなかった。マラカイトグリ−ンADP加水分解活性アッセイによって測定されたアピラ−ゼの発現レベルは、それぞれ世代0及び24に関して同程度であることが示された。
【0067】
挿入遺伝子の安定性を比較するために、0、9、17又は24世代後のCHO細胞のサンプルをDNA単離のために使用した。ゲノムDNAについてリアルタイムPCRを行ったところ、挿入遺伝子の数は、次の40世代を超えてその細胞株において維持されていた。異なる世代のコピ−数のPCRに基づいた指数は、異なる世代間で大きな差がなかった。
【0068】
実施例5
細胞培養におけるタンパク質生産の安定性
実施例2の培養物を125ml振とうフラスコの50mLの培地中で培養した。6mM L−グルタミン(HyCloneカタログ番号SH30034.01、ロット06263003)を含むCD OptiCHO(商標)培地(Gibcoカタログ番号12681−011、ロット06291004、有効期限08/30/07)を、全体を通して使用した。細胞株(継代6)を解凍し、これを用いて培養を開始した。細胞株はこれまでPF CHO LS培地で培養されていたため、細胞を新しい培地に順応させるためCD OptiCHO(商標)培地で5回継代して培養した。最初に培養物を2.5×105生存細胞/mLの標的密度で播種した。細胞数をCedex(商標)計測器(Innovatis社、ドイツ)を用いて計測し、培養物を新鮮な培地で標的密度に希釈することによって、週に2回細胞を継代した。リサ−チセルバンクサンプルのための毎週の細胞数デ−タを表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
計算:
世代数(G):G=LN(総細胞数÷播種した総細胞数)0.69
【0071】
世代0、10、15及び20の直接比較:上述のように約0、10、15又は20世代の培養後に、各振とうフラスコからの細胞を凍結培地(46.25% 順化培地、46.25% 新鮮培地、7.5% DMSO(Sigmaカタログ番号D2650、ロット46K2381))中で凍結させた。バイアルは、−80℃に1〜7日間置いた後、貯蔵用の液体窒素に移した。
【0072】
20世代にわたる培養が完了したとき、CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後の出発細胞株(世代0)、世代9、世代17及び世代24のバイアルから得た凍結細胞を解凍した。それぞれのサンプルについて、CD OptiCHO(商標)培地を用いて、約250,000細胞/mLから開始するように125mL振とうフラスコに3重試験で接種した。培養物を37℃、5%CO2雰囲気下、140rpmで振とうしながら増殖させた。タンパク質解析のため培養14日目にサンプルを回収した。アピラ−ゼの生産レベルは、前述したマラカイトグリ−ン活性アッセイを用いて推量した。
【0073】
結果
世代0、9、17及び24の細胞を用いた最終培養:以下の結果は、出発細胞株(CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後の世代0のリサ−チセルバンクサンプル)と9、17及び24世代後の細胞株とを対照比較した、サンプルのアピラ−ゼ発現についての解析結果を示す。各世代のサンプは3重試験で培養し、結果の平均値を計算した。エラ−バは各世代のサンプルの標準偏差を示す。図9は、4つの世代レベルそれぞれの14日目のタンパク質生産の平均値を示す。
【0074】
SDS PAGE解析:EN−アピラ−ゼタンパク質を含む培地のサンプルを、生産性試験の14日目に回収した。タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。簡単に説明すると、培地サンプル(20μL)を還元サンプルバッファ−中に調製し、70℃で5分間加熱した。サイズ標準として、SeeBlue(登録商標)Plus 2タンパク質標準物質(Invitrogen社、カタログ番号LC5925)を用いた。サンプルを4〜12%Bis−Tris NuPage(登録商標)ゲル(Invitrogen社、カタログ番号NP0321)にロ−ドし、200Vで60分間電気泳動した。そのゲルを、Gelcode(商標)Blue染料(Pierce社、カタログ番号24592)を用いて室温で45分間染色した。EN−アピラ−ゼの生産は24世代にわたって維持されていた。
【0075】
様々な世代の細胞からにおける挿入遺伝子の安定性を、遺伝子コピ−指数アッセイを用いて比較した。
【0076】
リサ−チセルバンクからのEN−アピラ−ゼ産生CHO細胞株クロ−ン番号350のサンプルを、CD OptiCHO(商標)培地に順応させた後、世代0サンプルのゲノムDNAを単離するために使用した。クロ−ン番号350の世代9、17及び24のEN−アピラ−ゼ産生CHO細胞株のサンプルもまた、ゲノムDNAを単離するために用いた。対照であるβ1,4ガラクトシルトランスフェラ−ゼに対するEPRの遺伝子コピ−指数を、リアルタイムPCRにより測定した。以下に示した結果は、20世代にわたって遺伝子コピ−指数値に大きな変化がないことを実証している。これは、挿入遺伝子の数が長期にわたる細胞株の継代を通して変化しないことを示している。
【0077】
【表4】
【0078】
数値は3重試験の平均値と標準偏差を表す。
【0079】
実施例6
EN−アピラ−ゼの均質なN末端アミノ酸配列
CHO細胞株からEN−アピラ−ゼを生産するため、上位5個のクロ−ンからクロ−ン350を選択した。pCS−APT−WPRE(new ori)を保有するクロ−ン350のsCHO−S/sC−APT−R 2X細胞培養物から順化培地を回収し、EN−アピラ−ゼを精製した。精製は、調製Aと同様にDEAE及びヘパリンクロマトグラフィ−を用いて実施した。精製したEN−アピラ−ゼを2−メルカプトエタノ−ルの存在下で4〜12%SDS−PAGEゲルに供し、アピラ−ゼ活性に関連付けられる70kDaの単一バンドを得た。電気泳動の完了後、ゲルを転写バッファ−(25mM ビシン(Bicine)、25mM Bis−Tris、1mM EDTA、0.05mM クロロブタノ−ル、10% メタノ−ル、pH7.2)中に5分間浸漬し、事前に100%メタノ−ルと転写バッファ−に順次浸漬しておいたPVDF膜(Immovilon,Millipore社)と重ね合わせ、XCell II(商標)Blot Module(Invitrogen社)を用いて160mAで1時間タンパク質を転写させた。転写後のPVDF膜を水で洗浄し、Coomassie(登録商標)Brilliant Blue R−250染色溶液(Bio−Rad社)を用いて1分間染色し、蒸留水で洗浄した。
【0080】
染色された70kDaのバンドを切り出し、その膜切片をエドマン配列解析により解析した。N末端のアミノ酸配列は単一の種であり、そのN末端アミノ酸残基は次のように決定された:Glu−Val−Leu−Pro−Pro−Gly−Leu−Lys−Tyr−Gly−Ile;よって、切断は配列番号9の28番目の位置で起こる。HEK−sol−CD39L3−01を産生するHEK293T細胞では、これは産物の40%しかない。
【0081】
実施例7
EN−アピラ−ゼの糖鎖解析
EN−アピラ−ゼとsol CD39L3(HEK−sol−CD39L3−01)からの糖鎖を等電点電気泳動により解析した。EN−アピラ−ゼは実質的により多いグリコシル化を示した。また、CD39L3−01では約5.0〜約6.0の範囲のpIであるのに対して、EN−アピラ−ゼでは約3.0〜4.5の範囲のpIであったことから実証されるとおり、EN−アピラ−ゼはより低い不均一性を示した。図10A及びBを参照されたい。グリコシル化の増加に起因する、より高い分子量がSDS−PAGEにより確認された。
【0082】
実施例8
精製プロトコルの改良
改良された精製プロトコルを、EN−アピラ−ゼの新しい性質に基づいて開発した。調製A及び実施例6で用いたイオン交換(DEAE)及びアフィニティ−クロマトグラフィ−(ヘパリン)の代わりに、2イオン交換クロマトグラフィ−(ANX及びSP)プロトコルを採用した。
【0083】
配列番号10を含むEN−アピラ−ゼ核酸構築物で形質転換したCHO細胞を、上述したような一般的な方法で培養し、培養液を1.4平方フィ−トの60M02 Depth Filter(Cuno社,CT)を通して回収した。フィルタ−は使用前にWFI水で洗浄し、容積回収を最大化するために圧縮空気を吹き付けた。その後、澄んだ培養液を0.2μmフィルタ−で濾過して滅菌バッグに回収した。
【0084】
ウイルスを不活化するため、負荷量(1.6Lの澄んだ培養液、V17)を等量(1.6L)のWFI水で希釈した。Triton(登録商標)X−100の溶液(11%を320mL)を添加し(最終濃度1%)、得られた溶液を周囲温度で30分間静置した。
【0085】
アニオン交換クロマトグラフィ−:ウイルス不活化培養液(3.52L)を、10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化した80mL ANX Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムに13ml/分の流速でアプライした。負荷量をカラムにアプライし、洗浄液を含めたフロ−スル−液を収集した(3.7L)。10mM Tris,140mM NaCl,pH7.4で2回目の洗浄を実施して、洗浄液を回収した(580mL)。10mM Tris,230mM NaCl,pH7.4でタンパク質を溶出し、回収した(500mL)。最後に、1M NaClを用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、回収した(450mL)。
【0086】
バッファ−交換及びカチオン交換クロマトグラフィ−:回収されたANX 140mM−230mM溶出物は、Pellicon Biomax 30(50cm2)を用い、連続モ−ドで20mMクエン酸塩,pH4.80にバッファ−交換した(〜10倍量)。バッファ−交換した負荷量(1.0L)を、20mMクエン酸塩,pH4.80で平衡化した80mL SP−Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(1.2L)。洗浄段階は、20mMクエン酸塩,pH5.10で行い、回収した(220mL)。20mMクエン酸塩,pH6.0を用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(200mL)。
【0087】
収率及び純度解析:EN−アピラ−ゼの収率は、以下に示すように、紫外/可視吸収及びELISAにより80%を超えると計算された。
【0088】
【表5】
【0089】
各精製段階でSDS−PAGE解析を実施した(図11)。YM−30(2ml)遠心濃縮機を用いて20倍に濃縮した後にSDS−PAGEゲルで純度を解析した。
【0090】
実施例9
不均一にグリコシル化されたEN−アピラ−ゼの回収率を改善したEN−アピラ−ゼの精製
実施例2に記載された方法で培養した細胞からの培養液を、1.4平方フィ−トの60M02 Depth Filter(Cuno社,CT)を通して回収した。フィルタ−は使用前にWFI水で洗浄し、容積回収を最大化するために圧縮空気を吹き付けた。その後、澄んだ培養液を0.2μmフィルタ−で濾過して滅菌バッグに回収した。
【0091】
ウイルスの不活化のために、負荷量(100mLの澄んだ培養液、V19)を等量(100mL)のMilli−Q水で希釈した。Triton(登録商標)X−100の溶液(11%を20mL)を添加し(最終濃度1%)、得られた溶液を周囲温度で30分間静置した。
【0092】
アニオン交換クロマトグラフィ−:EN−アピラ−ゼのウイルス不活化培養液(220mL)を、10mM Tris−HCl,pH7.4で平衡化した5mL ANX Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムに5ml/分の流速でアプライした。負荷量をカラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(260mL)。10mM Tris,230mM NaCl,pH7.4でタンパク質を溶出させ、回収した(50mL)。洗浄段階を省略し、直接230mM NaClで溶出すると、アニオン交換クロマトグラフィ−からのアピラ−ゼの大きな損失はなかった。最後に、1M NaClを用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(30mL)。1M NaCl溶出物のウェスタンブロット解析から、この画分中にアピラ−ゼがほとんど検出されないことが示された。
【0093】
バッファ−交換及びカチオン交換クロマトグラフィ−:回収されたANX 230mM溶出物は、1L G25カラムを通して20mMクエン酸塩,pH4.6にバッファ−交換した(〜3倍量)。
バッファ−交換された負荷量(150mL)を、20mMクエン酸塩,pH4.6で平衡化した5mL SP−Sepharose FF(GE Healthcare社)カラムにアプライし、フロ−スル−液及び洗浄液を回収した(170mL)。洗浄を20mMクエン酸塩,pH4.8で行い、回収した(40mL)。さらなる成果として、フロ−スル−液のpHを4.8から4.6に下げることによって低分子量の不純物が取り除かれた。アピラ−ゼの一部はpH4.8溶出液中に存在したが、その総量はpH4.6のフロ−スル−液の10%未満であった。別の洗浄を20mMクエン酸塩,pH5.1で実施して、回収した(40mL)。20mMクエン酸塩,pH6.0を用いて残りのタンパク質をカラムから取り出し、これも回収した(40mL)。
【0094】
純度は、Omega 3kDa 2ml遠心濃縮機を用いて20倍に濃縮した後に4〜12%SDS−PAGEゲルで解析した。
【0095】
この精製スキ−ムを用いて、120mM及び/又は140mM NaCl洗浄段階を省くことによってANXクロマトグラフィ−から、不均一にグリコシル化されたEN−アピラ−ゼのほぼ全部が回収された。また、加えて、SPクロマトグラフィ−で0.2pH単位下げることにより、アピラ−ゼのより高い純度(>95%)が達成された。この2ステップ精製により回収されたアピラ−ゼの全体的な回収率は90%を上回った。
【0096】
実施例10
EN−アピラ−ゼは長い半減期及び改善された薬効を示す
sCHO−S/sC−APT−R 2X細胞を4g/Lのグルコ−スと2mMのグルタミンの存在下、pH7.4、34℃で培養した。EN−アピラ−ゼを実施例9の2ステップイオン交換プロセスで精製した。EN−アピラ−ゼは、より豊富なグリコシル化の結果、HEK−sol−CD39L3−01と比較して高い平均分子量を示した。
【0097】
対照として、HEK細胞で発現させたsol−CD39L3の単回ボ−ラスを静脈内に注射した(0.75mg/kg、時点あたりn=3)薬物動態試験をラットで実施した。血清サンプルのADPア−ゼ及びATPア−ゼ活性を試験した。実験デ−タはいずれの酵素活性の二相性指数曲線にも最適に適合する。このアピラ−ゼの分布相の半減期(T1/2)は40分と計算された(図12)。アピラ−ゼ活性の約50%がこの相の間に循環から排除された。このアピラ−ゼの血漿消失T1/2は20時間である。対照的に、EN−アピラ−ゼ(0.25mg/kgで投与)は24時間で初期活性の>50%を保持しており、図13に示すように、有効in vivo活性が>10倍増加した。
【0098】
多血小板血漿のADP誘発性血小板凝集に及ぼすEN−アピラ−ゼとHEK−sol−CD39L3−01の効果により測定される活性アピラ−ゼのレベルを、ウサギへの単回ボ−ラス投与(HEK−sol−CD39L3−01及びEN−アピラ−ゼをそれぞれ0.75mg/kg及び0.25mg/kg)後に、様々な時点で測定した。アピラ−ゼによる血小板凝集の阻害をより正確に推量するために、生理的カルシウム濃度を維持する目的で、血液サンプルにクエン酸ではなくヘパリンを添加した。図14に示すように、可溶性CD39L3(例えば、HEK−sol−CD39L3−01)が6時間でADP誘発性血小板凝集の50%阻害をしか保持なかったのに対し、3分の1の濃度(0.75mg/kgに対して0.25mg/kg)のEN−アピラ−ゼは6時間でADP誘発性血小板凝集の90%阻害を保持したことをデ−タが実証している。
【0099】
EN−アピラ−ゼによる薬物動態の同様の改善は、図15及び16に示すように、ブタにおいても観察された。EN−アピラ−ゼの薬物動態の10倍を超える改善は、その有効量を減らすものと考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EN−アピラ−ゼであって、
該EN−アピラ−ゼが、可溶性CD39L3もしくはそのホモログであり、均質なN末端を有し、かつ約3.0〜約4.5の範囲の平均等電点を有すること;及び/又は
該EN−アピラ−ゼが、ウサギもしくはブタのin vivoにおける、アピラ−ゼアッセイで測定された半減期が、HEK sol−CDE39L3−01の半減期の少なくとも2倍であること
を特徴とするEN−アピラ−ゼ。
【請求項2】
形質転換CHO細胞株により産生される、請求項1に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項3】
N末端が配列EVLPを有する、請求項1又は2に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項4】
7番目の位置で開始する配列番号5からなる又はそのホモログである、請求項3に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項5】
シグナル配列、リンカ−、及び可溶性アピラ−ゼをコ−ドするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、該リンカ−がそのC末端として配列EVLPを有し、かつ該リンカ−又はその一部が天然の可溶性アピラ−ゼ中に存在する配列を表している、核酸構築物。
【請求項6】
作動可能に連結された、CHO細胞内で機能するプロモ−タ−をさらに含む、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
可溶性アピラ−ゼが可溶性CD39L3又はそのホモログである、請求項5又は6に記載の核酸構築物。
【請求項8】
可溶性アピラ−ゼが7番目の位置で開始する配列番号5からなる、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含むように改変されたCHO細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞を培養し、その培養培地を回収することを含んでなる、EN−アピラ−ゼの調製方法。
【請求項11】
培養の間、培地が約1.5〜4mMのグルタミン濃度及び7.0〜7.8のpHを維持し、かつ、培養4〜6日目に温度が37℃から31〜35℃にシフトする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
培養の間、培地が約2mMのグルタミン濃度及び7.4のpHを維持し、かつ、培養5日目に温度が37℃から34℃にシフトする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法により調製されるEN−アピラ−ゼ。
【請求項14】
請求項1に記載のEN−アピラ−ゼを含有する医薬組成物。
【請求項15】
請求項13に記載のEN−アピラ−ゼを含有する医薬組成物。
【請求項16】
アピラ−ゼ活性によって恩恵を受ける症状の治療方法であって、そのような治療を必要とする被験者に、有効量の請求項14又は15に記載の医薬組成物を投与することを含んでなる、治療方法。
【請求項17】
請求項1〜4又は13のいずれか1項に記載のEN−アピラ−ゼの精製方法であって、該EN−アピラ−ゼを含む培養培地をアニオン交換クロマトグラフィ−に供すること、続いて該アニオン交換クロマトグラフィ−からのEN−アピラ−ゼ含有溶出液をカチオン交換クロマトグラフィ−で処理して精製することを含んでなる、精製方法。
【請求項1】
EN−アピラ−ゼであって、
該EN−アピラ−ゼが、可溶性CD39L3もしくはそのホモログであり、均質なN末端を有し、かつ約3.0〜約4.5の範囲の平均等電点を有すること;及び/又は
該EN−アピラ−ゼが、ウサギもしくはブタのin vivoにおける、アピラ−ゼアッセイで測定された半減期が、HEK sol−CDE39L3−01の半減期の少なくとも2倍であること
を特徴とするEN−アピラ−ゼ。
【請求項2】
形質転換CHO細胞株により産生される、請求項1に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項3】
N末端が配列EVLPを有する、請求項1又は2に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項4】
7番目の位置で開始する配列番号5からなる又はそのホモログである、請求項3に記載のEN−アピラ−ゼ。
【請求項5】
シグナル配列、リンカ−、及び可溶性アピラ−ゼをコ−ドするヌクレオチド配列を含む核酸構築物であって、該リンカ−がそのC末端として配列EVLPを有し、かつ該リンカ−又はその一部が天然の可溶性アピラ−ゼ中に存在する配列を表している、核酸構築物。
【請求項6】
作動可能に連結された、CHO細胞内で機能するプロモ−タ−をさらに含む、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】
可溶性アピラ−ゼが可溶性CD39L3又はそのホモログである、請求項5又は6に記載の核酸構築物。
【請求項8】
可溶性アピラ−ゼが7番目の位置で開始する配列番号5からなる、請求項7に記載の核酸構築物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の核酸構築物を含むように改変されたCHO細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の細胞を培養し、その培養培地を回収することを含んでなる、EN−アピラ−ゼの調製方法。
【請求項11】
培養の間、培地が約1.5〜4mMのグルタミン濃度及び7.0〜7.8のpHを維持し、かつ、培養4〜6日目に温度が37℃から31〜35℃にシフトする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
培養の間、培地が約2mMのグルタミン濃度及び7.4のpHを維持し、かつ、培養5日目に温度が37℃から34℃にシフトする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法により調製されるEN−アピラ−ゼ。
【請求項14】
請求項1に記載のEN−アピラ−ゼを含有する医薬組成物。
【請求項15】
請求項13に記載のEN−アピラ−ゼを含有する医薬組成物。
【請求項16】
アピラ−ゼ活性によって恩恵を受ける症状の治療方法であって、そのような治療を必要とする被験者に、有効量の請求項14又は15に記載の医薬組成物を投与することを含んでなる、治療方法。
【請求項17】
請求項1〜4又は13のいずれか1項に記載のEN−アピラ−ゼの精製方法であって、該EN−アピラ−ゼを含む培養培地をアニオン交換クロマトグラフィ−に供すること、続いて該アニオン交換クロマトグラフィ−からのEN−アピラ−ゼ含有溶出液をカチオン交換クロマトグラフィ−で処理して精製することを含んでなる、精製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2013−516991(P2013−516991A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549089(P2012−549089)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2011/021187
【国際公開番号】WO2011/088244
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512180805)エイピーティー セラピューティックス,インク. (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際出願番号】PCT/US2011/021187
【国際公開番号】WO2011/088244
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512180805)エイピーティー セラピューティックス,インク. (1)
【Fターム(参考)】
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