説明

治療用アンテナペディア−抗体分子およびその使用法

アンテナペディア(Antennapedia)またはその断片と組み合わせた抗体またはその断片は、有効な治療剤である。本発明は、アンテナペディアとそのカルボキシル末端またはそのアミノ末端で融合されたまたは化学的に結合された抗体または抗体断片(「積荷-担体」構築物)の構築を説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は全体として、細胞への分子の送達に関し、かつより具体的にはアンテナペディア(Antennapedia (Antp))またはAntpの断片を含有する治療用抗体-タンパク質結合体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
遺伝子アンテナペディア(Antp)は、ショウジョウバエ(Drosophila)胚において前後方向の形態形成を制御することが示されている転写因子をコードする。アンテナペディアのタンパク質配列は、特異的なDNA標的エレメントに結合する60アミノ酸のモチーフ(ホメオドメイン)の存在により特徴付けられる。アンテナペディア相同体は、ほぼすべての多細胞生物において見出されおり、かつ非常に高度のアミノ酸配列同一性を示す。ヒトおよびショウジョウバエのアンテナペディアタンパク質は、1個の保存的アミノ酸置換についてのみホメオドメインの配列が異なる。
【0003】
アンテナペディアおよびそのホメオドメインは、哺乳動物細胞の細胞質膜を横断して移行する(translocate)ことができることが観察されている。移行は細胞のエンドサイトーシスに依存せず、かつ4℃および37℃の両方で移行が起きることが報告されている。Dアミノ酸で作製されたホメオドメイン合成ペプチドもまた、細胞質膜を横断することができる。この知見は、Antpが受容体媒介機構を通して移行する可能性を除外すると考えられる。小さなウイルス配列を培養細胞の細胞質中に運搬する(vehiculate)ため、およびインフルエンザウイルスの核タンパク質に対するMHCクラスI拘束性細胞傷害免疫応答を誘発するために、この特性が活用されている。しかしながら、現在までのところ、Antpのホメオドメインは小さな合成ペプチドを輸送するために使用されているのみである。
【0004】
ショウジョウバエ アンテナペディアまたはHIV-1のTatなどの塩基性ペプチドは、連結されたペプチドおよびペプチド模倣分子の細胞内部移行を促進することができる。切断型HIV-1 Tatタンパク質塩基性ドメインは、原形質膜を通って急速に移行し、かつ細胞核に蓄積する。細胞貫通特性を賦与された非天然塩基性ペプチドもまた合成されている。これらのペプチドは、集合的にタンパク質導入ドメイン(protein transduction domain)(PTD)と呼ばれる。PTDに結合されたペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびタンパク質は、効率的に内部移行することが注目されており、かつその生物学的作用は、いくつかの細胞および動物モデルにおいて検出されている。細胞内タンパク質標的を直接攻撃できるため、生物学的に活性を有する巨大分子の細胞内送達のためのこの非侵襲的アプローチは、潜在的に非常に強力な戦略である。
【0005】
抗体およびその組換え断片の高い特異性および長い活性半減期のために、それらは選択の標的剤に対しての優れた候補である。一本鎖可変断片(scFv)およびモノクローナル抗体(mAb)は、VHドメインおよびVLドメインと一緒になって連結する機能的な3次元立体配座を採ることができる。標準的なIgG抗体の分子量は150,000 Daであり、およびscFv抗体の分子量は30,000 Daであり、従って、より小さなscFv分子と同様にIgG全体を内部移行させることが潜在的に可能である。細胞内での一本鎖mAbの発現は、組換えDNAトランスフェクション技術を用いて効率的に得ることができるが、標的細胞のDNA構築物への低い一般的な接触性は、抗体レベルの薬理学的調節の欠如と共に、治療的適用の観点から限界をもたらしている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、アンテナペディアと組み合わせた抗体またはその断片が有効な治療剤であるという独創性に富んだ発見に基づく。本発明は、アンテナペディアとそのカルボキシル末端またはアミノ末端で組換えで融合されたまたは化学的に結合された抗体または抗体断片(「積荷-担体」構築物)の構築を説明する。驚くべきことに、Antpは大きな複合分子である抗体を輸送することができる。
【0007】
細胞膜を貫通することができるアンテナペディア-抗体または抗体断片の結合体または構築物は、革新的な治療剤の可能性を劇的に広げる。蛍光標識した(fluoresceinated)抗体-Antp構築物の内部移行を、無傷のヒト培養細胞において共焦点顕微鏡で観察した(実施例参照)。培養培地における数時間のインキュベーションの後に、細胞質および核の区画の両方について、蛍光強度を個々の細胞において測定した。構築物の濃度レベルは、細胞外培養培地の濃度に対し、細胞質、核、および核小体において実質的により高かった。組換えのベクターまたはタンパク質を導入することにより細胞において遺伝子機能を静めることは、細胞生物学において主要な目標であり、マイクロインジェクション、赤血球ゴースト融合、またはエレクトロポレーションなどの様々な侵襲的技術により最初は達成された。本発明は、細胞への送達のための核酸構築物およびタンパク質結合体を提供する。
【0008】
本明細書において説明するPTDをIgG抗体およびscFv抗体に融合する段階は、細胞内標的の機能を効率的に阻害することができる「細胞透過性」抗体の作製を可能にする。これらの特徴は、治療的観点から本発明の分子をより有効にする。
【0009】
Antpのホメオドメインは、断片(例えば、scAb)を含む抗体を移行させるために使用され得る。本発明の鍵となる利点の1つは、Antpホメオドメインが機能的なかつ調節性の抗体を細胞に移行させるために使用され得ることである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】蛍光標識した抗体の細胞への輸送を示す。ヒト胎児の腎臓(293)細胞。
【図1B】蛍光標識した抗体の細胞への輸送を示す。ヒト前立腺癌(PC3)細胞。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、先行送達媒体よりも効率的に抗体またはその断片を細胞中へ輸送するためにAntpのホメオドメインが使用され得るという知見に基づく。そのような融合タンパク質または結合体は、有効な調節性または治療用の組成物を提供する。
【0012】
本明細書において使用される「抗体」とは、B細胞の産物である免疫グロブリンおよびその変異体、ならびにT細胞の産物であるT細胞受容体(TcR)およびその変異体を含む。免疫グロブリンは、免疫グロブリンκおよびλ、α、γ、δ、ε、およびmu定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子により実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドを含むタンパク質である。軽鎖はκまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、mu、α、δ、またはεとして分類され、次にそれらはそれぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを定義する。重鎖のサブクラスもまた公知である。例えば、ヒトにおけるIgG重鎖は、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスのいずれかであり得る。
【0013】
本発明の抗体は、例えば、キメラ、ヒト化、または完全なヒトもしくはマウスの抗体、およびその抗原結合部分であり得る。抗体の種々の形態が本明細書において企図される。例えば、本発明のモノクローナル抗体は、無傷の抗体(すなわち、無傷のFc領域を有する完全長)、実質的に無傷の抗体、その抗原結合部位(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2)、または一本鎖Fv断片を含むか、またはそれらからなってもよい。抗体のすべてのそのような形態が、本明細書においておよび全体を通して「抗体」という用語内に包含されることが理解される。さらに、本発明の抗体は、検出可能な標識で標識化されてもよい。さらに、本発明の抗体は、グリコシル化パターンにおいて異なってもよいが、モノクローナル起源であることが企図される。
【0014】
Antp-Ab結合体は有効な治療用物質であるが、任意で、Antpおよび抗体またはそれらの断片を含む融合ポリペプチドは、薬物、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣薬、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質、糖脂質、リン脂質、リポ多糖類、核酸、プロテオグリカン、炭水化物などのような、5,000ダルトンまたはそれ未満の低分子有機化合物をさらに含み得る。追加の標的剤は、抗新生物剤を含む周知の治療用化合物を含んでもよい。抗新生物標的剤は、パクリタキセル、ダウノルビシン、ドキソルビシン、カルミノマイシン、4'-エピアドリアマイシン、4-デメトキシ-ダウノマイシン、11-デオキシダウノルビシン、13-デオキシダウノルビシン、アドリアマイシン-14-ベンゾエート、アドリアマイシン-14-オクタノエート、アドリアマイシン-14-ナフタレンアセテート、ビンブラスチン、ビンクリスチン、マイトマイシンC、N-メチルマイトマイシンC、ブレオマイシンA2、ジデアザテトラヒドロ葉酸(dideazatetrahydrofolic acid)、アミノプテリン、メトトレキセート、コルヒチン、およびシスプラチンなどを含んでもよい。抗菌剤は、ゲンタマイシンを含むアミノグリコシド、リファンピシン、3'-アジド-3'-デオキシチミジン(AZT)およびアシロビル(acylovir)などの抗ウイルス化合物、フルコナゾールを含むアゾールなどの抗真菌剤、アンホテリシンBおよびカンジシジンなどのプリレ(plyre)マクロライド、アンチモン化合物などの抗寄生虫化合物などを含む。ホルモン標的剤は、ジフテリア毒素などの毒素、CSF、GSF、GMCSF、TNF、エリスロポエチンなどのサイトカイン、インターフェロンまたはインターロイキンなどの免疫調節物質またはサイトカイン、神経ペプチド、HGH、FSH、またはLHなどの生殖ホルモン、甲状腺ホルモン、アセチルコリンなどの神経伝達物質、およびエストロゲン受容体などのホルモン受容体を含む。
【0015】
Antpを、抗体とまたは抗体のアミノ酸残基に対する標的剤と共有結合で連結するために必要な任意の連結部分を含むAntp-抗体標的剤は、少なくとも約1〜300ダルトンのサイズであってもよく、かつ少なくとも約400、500、600、700、800、900、1,000、1,100、1,200、1,300、1,400、1,500、1,600、1,700、1,800、1,900、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、またはさらに5,000ダルトンのサイズであってもよく、さらにより大きいサイズも可能である。
【0016】
別の態様において、本発明は、本発明のAntp-抗体結合体を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。薬学的組成物において、本発明の抗体結合体は活性成分である。好ましくは、薬学的組成物は、本発明の抗体の均質なまたは実質的に均質な集団を含む。治療的使用のための組成物は無菌であり、かつ凍結乾燥されてもよく、任意で適切な希釈剤と共に供給されてもよい。
【0017】
本発明の抗体結合体は、天然または合成のアンテナペディアのホメオドメインを含み得る。ショウジョウバエから取得可能なAntp遺伝子のホメオドメインをSEQ ID NO:1に示す。

このホメオドメインに相同な配列は、脊椎動物、哺乳動物、およびヒトを含む他の生物から単離されており、かつこれらは本発明に含まれる。ホメオドメインは、Joliet et al. (1991) Antennapedia homeobox peptide regulates neural morphogenesis. Proc. Natl. Acad. Sci. 88:1864-1868において記載されている手順を用いる、クローニングなどの標準的な技術を用いて調製され得る。アンテナペディアホメオボックスペプチドは神経の形態形成を制御する。先に示された通り、そのような多細胞生物の配列における相違は、天然において一般に保存的である。しかしながら、これは必ずしも事実でない場合があり、かつ他のそのような配列が本発明に含まれ、例えばそこでは、配列同一性が、ショウジョウバエから取得可能な配列と約50%または以上、例えば、60%、70%、80%、または90%である。配列同一性は、GAPのような市販されているプログラムを用いて決定され得る。
【0018】
加えて、合成または他の変異体は、それらが膜を移行する能力を保持するという条件で使用され得る。合成または他の変異体は、置換により、特に保存的置換により、天然に存在するタンパク質から異なり得る。保存的アミノ酸変化とは、アミノ酸群、すなわち疎水性群、極性群、酸性群または塩基性群の1つに由来するアミノ酸を、同一の群内由来のアミノ酸で置き換えることを意味する。そのような変化の例は、メチオニンによるバリンの置き換えおよびその逆である。そのような変異体は、部位特異的突然変異誘発などの標準的な組換えDNA技術を用いて調製され得る。挿入部が作製されるべき場合、合成DNAは、挿入部位のいずれの側も天然に存在する配列に対応する5'および3'の隣接領域と共に挿入部をコードする。隣接領域は、配列を適切な酵素で切り出し得、かつ合成DNAを切断部にライゲーションし得るように、天然に存在する配列における部位に対応する好都合な制限酵素部位を含有すると考えられる。選択した抗体をコードするDNA配列を用いてコードされた融合タンパク質を作製するために、DNAをその後発明に従って発現させる。Antpを抗体配列の5'末端または3'末端のいずれかでライゲーションする。これらの方法は、DNA配列の操作について当技術分野において公知である多数の標準的な技術の例証となるだけであり、かつ他の公知の技術もまた使用され得る。
【0019】
天然に存在する配列または合成配列の膜を移行する能力は、当技術分野において公知である日常的な方法により試験され得、かつ付随の実施例において例証され得る。膜を移行する能力を保持するホメオドメインのいくつかの変異体は、当技術分野において報告されており、かつこれらは、使用可能になる任意と共に本発明の範囲に含まれる。例えば、EP-B-0 485 578は、Antpのへリックス3配列を含むホメオペプチドを開示し、かつこれらは、参照により本明細書に組み入れられる。WO97/12912は、Antpのへリックス3の実際の配列、およびその変異体を開示する。他の変異体は、例えば、62アミノ酸の、すなわち0位にgluおよび61位にlysを有するホメオドメインを開示するGehring W (1987) Homeo Boxes in the Study of Development. Science 236 1245-1252において開示される。Bloch-Gallego E at al (1993) Antennapedia Homeobox Peptide Enhances Growth and Branching of Embryonic Chicken Motoneurons In Vitro. The Journal of Cell Biology 120(2) 485-492は、運動ニューロンの膜を通って移行しかつ核に到達することが依然としてできたpAntp40P2と呼ばれる変異体を開示する。この変異体においては、40位および41位のロイシン残基およびスレオニン残基が2個のプロリン残基により置き換わった。Le Roux et al (1993) Neurotropic activity of the Antennapedia homeodomain depends on its specific DNA-binding properties. Proc. Natl. Acad. Sci. 90 9120-9124は、ニューロンの膜を通って移行する能力を保持する2個の変異体pAntp 50AおよびpAntp 40P2を開示する。上記のSchutze-Redelmeier M-P et al (1996)は、オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドを培養において細胞の細胞質および核に向けるために16アミノ酸のC末端(第3へリックス)セグメントが使用されていることを開示する。
【0020】
Antpおよび抗体領域をリンカーを介して結合する場合、リンカーは切断可能なリンカー領域であり得る。好ましくは、切断可能なリンカー領域はプロテアーゼで切断可能なリンカーであるが、例えば低分子により切断可能な他のリンカーが使用されてもよい。これらは、臭化シアンにより切断可能なMet-X部位、ヒドロキシルアミンにより切断可能なAsn-Gly、弱酸により切断可能なAsp-Pro、およびとりわけNBS-スカトールにより切断可能なTrp-Xを含む。必要なより穏やかな切断条件のためにプロテアーゼ切断部位が好ましく、例えば、第Xa因子、トロンビン、およびコラゲナーゼにおいて見出される。これらの任意が使用されてもよい。正確な配列が当技術分野において使用可能であり、かつ当業者は適した切断部位を選択することが困難でないと考えられる。例として、第Xa因子により標的とされるプロテアーゼ切断領域はI E G Rである。エンテロキナーゼにより標的とされるプロテアーゼ切断領域はD D D D Kである。トロンビンにより標的とされるプロテアーゼ切断領域はL V P R Gである。好ましくは、切断可能なリンカー領域は細胞内プロテアーゼにより標的とされるものである。
【0021】
Antpは、転写因子を調節し、かつ細胞周期制御を回復することまたは分化を誘導することができる抗体分子を、癌細胞中に輸送するために使用され得る。例えば、機能的なp53分子が上方制御されると多くの癌細胞がアポトーシスを起こすことが理解される。本発明は、遺伝子またはタンパク質を直接的にまたは間接的に調節するために、そのような抗体産物を送達するために使用され得る。
【0022】
本発明の抗体-Antp分子は、抗菌対策および抗ウイルス対策のために有用である。例えば、Antpは、細菌およびバクテリアの複製の重大な段階を妨害する抗体を、ウイルスまたは細菌または他の病原体に感染した細胞の細胞質に輸送するために使用され得る。
【0023】
本発明の抗体結合体は、例えば以下であるがそれらに限定されない疾患および障害の処置のために有用である:癌、炎症または炎症性疾患、皮膚科学的障害、発熱、心血管系への影響、出血、凝固および急性期応答、悪液質、食欲不振、急性感染、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再灌流傷害、髄膜炎、片頭痛およびアスピリン依存性抗血栓症;腫瘍増殖、浸潤および蔓延、血管新生、転移、悪性腹水および悪性胸水;脳虚血、虚血性心疾患、変形性関節炎、関節リウマチ、骨粗鬆症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、卒中、血管炎、クローン病および潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍形成、網膜症および外科的創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、過敏症;再狭窄、うっ血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症または内硬化症(endosclerosis)。
【0024】
本明細書において使用される癌という用語は、リンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺胞細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頚部の癌、皮膚または眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌(stomach cancer)、胃部の癌(gastric cancer)、大腸癌、乳癌、子宮癌、ファロピウス管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頚部の癌腫、膣の癌腫、外陰部の癌腫、ホジキン病、食道の癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺の癌、副甲状腺の癌、副腎の癌、軟部組織の肉腫、尿道の癌、陰茎の癌、前立腺癌、膀胱の癌、腎臓または尿管の癌、腎細胞癌、腎盂の癌腫、中皮腫、肝細胞癌、胆道癌、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、神経鞘腫、上衣細胞腫、髄芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫、およびユーイング肉腫などの増殖性疾患を指し、上記の癌の任意の難治性の型、または、1つもしくは複数の上記の癌の組み合わせを含む。
【0025】
Antp-抗体結合体は、例えば、以下を含む様々な活性および疾患のために使用され得る:マクロファージ阻害および/またはT細胞阻害活性、ならびに例として抗炎症活性;抗免疫活性、例えば、炎症に付随しない応答を含む細胞性および/または体液性免疫応答に対する阻害作用;T細胞において上方制御されたfas受容体発現と同様に、細胞外マトリクス成分およびフィブロネクチンに接着するマクロファージおよびT細胞の能力を阻害するため;関節リウマチを含む関節炎、過敏症に付随する炎症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、コラーゲン疾患および他の自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症に付随する炎症、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化性心疾患、再灌流傷害、心拍停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸困難症候群または他の心肺疾患、消化性潰瘍に付随する炎症、潰瘍性大腸炎および胃腸管の他の疾患、肝線維症、肝硬変または他の肝臓疾患、甲状腺炎または他の腺疾患、糸球体腎炎または他の腎臓および泌尿器疾患、耳炎または他の耳鼻咽喉疾患、皮膚炎または他の皮膚疾患、歯周疾患または他の歯の疾患、睾丸炎または睾丸副睾丸炎、不妊症、睾丸の外傷(orchidal trauma)または他の免疫に関連した精巣の疾患、胎盤機能不全、胎盤不全症、習慣性流産、子癇、子癇前症ならびに他の免疫および/または炎症に関連した婦人科疾患、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、眼内炎症、例えば網膜炎または類嚢胞黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、色素性網膜炎、変性眼底疾患の免疫および炎症性構成要素、眼の外傷の炎症性構成要素、感染により引き起こされる眼の炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経障害、過度の瘢痕、例えば緑内障濾過手術後、眼のインプラントに対する免疫および/または炎症反応ならびに他の免疫および炎症に関連した眼の疾患、中枢神経系(CNS)または任意の他の器官の両方において免疫および/または炎症の抑制が有益であると考えられる自己免疫疾患または状態または障害に付随する炎症、パーキンソン病、パーキンソン病の処置由来の合併症および/または副作用、AIDSに関連した痴呆複合症、HIVに関連した脳障害、ドヴィック病、シドナム舞踏病、アルツハイマー病およびCNSの他の変性疾患、状態、または障害、ストークス(stokes)の炎症性構成要素、ポリオ後症候群、精神障害の免疫および炎症性構成要素、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性神経障害、亜急性神経障害、慢性神経障害、ギラン-バレー症候群、シドナム舞踏病、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧迫またはCNS外傷またはCNSの感染の炎症性構成要素、筋萎縮症およびジストロフィーの炎症性構成要素、ならびに中枢および末梢神経系の免疫および炎症に関連した疾患、状態、または障害、外傷後の炎症、敗血症性ショック、感染症、手術の炎症性合併症または副作用、骨髄移植または他の移植の合併症および/または副作用、例えばウイルス担体での感染による遺伝子治療の炎症性および/または免疫合併症および副作用、またはAIDSに付随する炎症を含む望まれない免疫反応および炎症を阻害するため、体液性および/または細胞性の免疫応答を抑制または阻害するため、単球またはリンパ球の量を減少させることにより単球または白血球増殖性疾患、例えば白血病を処置または回復するため、角膜、骨髄、器官、レンズ、ペースメーカー、天然または人工の皮膚組織などの、天然または人工の細胞、組織、および器官の移植の場合における移植片拒絶の予防および/または処置のため。
【0026】
本明細書において使用される場合、「薬学的担体」は、生理学的に適合性である任意およびすべての溶媒、分散媒質、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。好ましくは、担体は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、非経口的投与、脊髄投与または表皮性投与(例えば、注射または注入による)に適する。
【0027】
本明細書において使用される「非経口投与」および「非経口的に投与される」という句は、通常注射による、経腸的および局所的な投与以外の投与の様式を意味し、かつ非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および注入を含む。
【0028】
適切な場合、薬学的組成物は、吸入、坐薬もしくは膣坐薬の形態において、局所的にローション、溶液、クリーム、軟膏もしくは散布剤の形態において、皮膚パッチの使用により、経口的にデンプンもしくは乳糖などの賦形剤を含有する錠剤の形態において、または単独もしくは賦形剤との混合物のいずれかでカプセルもしくは小卵において、または着香剤もしくは着色剤を含有するエリキシル、溶液、もしくは懸濁液の形態においてのうちの任意の1つまたは複数によって投与することができるか、またはそれらは、非経口的に、例えば、陰茎海綿体内に(intracavernosally)、静脈内に、筋肉内に、もしくは皮下に注射することができる。非経口的投与のために、組成物は、他の物質、例えば、溶液を血液と等張にするのに十分な塩または単糖類を含有し得る無菌水溶液の形態において最も良好に使用され得る。頬側投与または舌下投与のために、組成物は、従来の様式で製剤化することができる錠剤または口内錠の形態において投与され得る。本発明のAntp-抗体結合体の送達は、単独で、または他の処置もしくは処置の構成要素との組み合わせで使用され得る。
【0029】
いくつかの態様において、治療的に有効な量のAntp-抗体結合体を対象に投与する段階を含む、対象を処置する方法において、Antp-抗体結合体が単独で使用されるか、またはAntp-抗体結合体および薬学的に許容される担体もしくは賦形剤を含む薬学的組成物が使用され得る。
【0030】
好ましい態様において、対象は哺乳動物である。例示的な哺乳動物は、ヒト、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、マウス、イヌ、ネコ、ウシなどを含む。Antp-抗体結合体で処置され得る疾患は、皮膚、頭頚部、肺、乳、前立腺、卵巣、子宮内膜、子宮頚部、結腸、直腸、膀胱、脳、胃、膵臓の癌、またはリンパ系などの癌を含み、処置され得る。B細胞癌またはT細胞癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、リンパ性または骨髄性の白血病、多発性骨髄腫、肉腫および黒色腫を患う患者が、治療的量の本発明の抗体-薬物結合体の投与により処置され得る。
【0031】
Antp-抗体結合体は、静脈内に、腹腔内に、動脈内に、くも膜下腔内に、膀胱内に、または腫瘍内に投与され得る。結合体は、巨丸剤としてまたは注入剤として繰り返しおよび/または周期的ベース(cyclical basis)で与えられ得る。注入は、副作用の見地から薬物の用量および結合体の許容性に依存して1回または複数回繰り返され得、管理する医師により決定される。当業者は、抗体-薬物結合体の有効量が経験的に決定され得ることを認識すると考えられる。剤は、癌の処置を必要とする対象に、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤との組み合わせで薬学的組成物として投与することができる。ヒトの患者に投与される場合、剤または組成物の全体の毎日の使用量は健全な医学的判断の範囲内で担当の医師により決定されることが理解されると考えられる。任意の特定の患者にとっての特異的な治療的に有効な用量レベルは、以下の様々な要因に依存すると考えられる:達成される細胞応答のタイプおよび程度;使用される特異的なAntp-抗体結合体または組成物の活性;使用される特異的なAntp-抗体結合体または組成物;患者の年齢、体重、全身の健康、性別、および食餌;投与の時間、投与の経路、および剤の排出の割合;処置の持続時間;特異的な剤との組み合わせでまたは同時に使用される薬物;ならびに医学的分野において周知である同様の要因。例えば、望ましい治療効果を達成するために必要とされるレベルより低いレベルにおける剤の用量で開始し、かつ望ましい効果が達成されるまで投与量を徐々に増加させることは、十分当技術分野の範囲内である。
【0032】
1つの態様において、Antp-抗体結合体は、放射線療法、手術、または化学療法を含む他の標準的な療法に先行されて投与されるか、それと同時に投与されるか、またはその後に投与される。
【0033】
1つの態様において、同一の罹患した細胞において異なる標的に影響を及ぼす、抗体およびAntpの2つまたはそれ以上の結合体が投与される。さらに別の態様において、抗体およびアントラサイクリン薬物の結合体が、別の抗体ベースの処置に先行されて投与されるか、それと同時に投与されるか、またはその後に投与される。この追加の抗体ベースの処置は、ありのままの療法を含むように、2つまたはそれ以上の抗体ベースの処置剤の投与を含みことができ、抗体が、単独で投与されるか、または抗体に結合されたもしくは結合されない投与される別の治療剤との組み合わせで投与される。結合は、ここで開示されているリンカーまたは別のタイプのリンカーを使用し得る。2つの抗体ベースの処置剤が投与される場合、これらの処置は、どちらの抗体が投与されようと第2のものは罹患した細胞上の異なる抗原、または同一抗原上の異なるエピトープを標的とする状態である。第2の抗体はまた、別の(異なる)薬物または治療用同位元素と結合され得、従って抗体ベースの併用療法を提供する。この療法が、抗腫瘍作用を増強するかまたは治療用結合体の副作用を予防もしくは緩和するかのいずれかであるサイトカインを用いた前投与、同時投与、または後投与と組み合わされ得ることもまた認識される。
【0034】
上記で同定された処置の方法の各々は、1つまたは複数の免疫調節物質の投与を追加的に含み得る。これらの免疫調節物質は、インターフェロン、サイトカイン、幹細胞増殖因子、コロニー刺激因子、リンホトキシン、および他の造血因子からなる群より選択され得る。インターフェロンは、好ましくはα-インターフェロン、β-インターフェロン、またはγ-インターフェロンであり、かつ造血因子は、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インターロイキン(IL)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、およびG-CSFからなる群より選択され得る。インターロイキンは、IL-1、IL-2、IL-3、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、およびIL-21からなる群より選択され得る。免疫調節物質または造血因子は、免疫結合体療法の前、間、または後に投与され得る。免疫調節物質は、本発明の投与される結合体の有効性を増強するために投与される。
【0035】
本出願内で使用される「価」という用語は、抗体分子における結合部位の特定された数の存在を意味する。そのように、「二価」、「四価」、および「六価」という用語は、抗体分子における2個の結合部位、4個の結合部位、および6個の結合部位の存在をそれぞれ意味する。本発明による二重特異性抗体は、少なくとも「二価」であり、かつ「三価」または「多価」(例えば、「四価」または「六価」)であり得る。好ましくは、本発明による二重特異性抗体は、二価、三価、または四価である。1つの態様において、該二重特異性抗体は二価である。1つの態様において、該二重特異性抗体は三価である。1つの態様において、該二重特異性抗体は四価である。
【0036】
本明細書において使用される「組換えヒト抗体」という用語は、NSO細胞もしくはCHO細胞などの宿主細胞から、もしくはヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離した抗体、または宿主細胞中にトランスフェクションした組換え発現ベクターを用いて発現させた抗体などの、組換え手段により調製、発現、作製または単離したすべてのヒト抗体を含むよう意図される。そのような組換えヒト抗体は、再配列された形態において可変領域および定常領域を有する。本発明による組換えヒト抗体は、インビボ体細胞超変異に供されている。従って、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に由来しかつそれらに関連しているが、インビボのヒト抗体生殖系列レパートリー内には天然に存在しない可能性がある配列である。本明細書において使用される「可変ドメイン」(軽鎖の可変ドメイン(VL)、重鎖の可変領域(VH))とは、抗体を抗原に結合させることに直接関与する軽鎖および重鎖のペアの各々を意味する。可変のヒト軽鎖および重鎖のドメインは、同一の一般構造を有し、かつ各ドメインは、配列が広範に保存され、3個の「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)により連結された4個のフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域はβ-シート立体配座に適応し、かつCDRはβ-シート構造を連結するループを形成し得る。各鎖におけるCDRはフレームワーク領域により3次元構造において保持され、かつもう一方の鎖由来のCDRと共に抗原結合部位を形成する。
【0037】
本発明によるAntp-抗体は、典型的には組換え手段により生産される。従って、本発明の1つの局面は、本発明による抗体およびAntp、またはその一部(例えば、ホメオドメイン)をコードする核酸であり、かつさらなる局面は、本発明によるAntp-抗体をコードする核酸を含む宿主細胞である。組換え生産のための方法は最先端技術において広範に公知であり、かつその後のAntp-抗体の単離を伴うおよび通常は薬学的に許容される純度への精製を伴う、原核細胞および真核細胞におけるタンパク質発現を含む。上記の通りの抗体の宿主細胞における発現のために、それぞれ改変された軽鎖および重鎖と融合されたAntpをコードする核酸を、標準的な方法により発現ベクター中に挿入する。発現は、CHO細胞、NSO細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、PER.C6細胞、酵母、または大腸菌(E. coli)細胞などの適切な原核または真核宿主細胞において行い、かつ細胞(上清または溶解後の細胞)から抗体を回収する。抗体の組換え生産のための一般的な方法は最先端技術において周知であり、かつ記載されている。(例えば、Makrides, S. C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202;Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282;Kaufman, R. J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-160;Werner, R. G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説論文において。)
【0038】
Antp-抗体は、例えば、Antpについての抗体カラム、プロテインA-Sepharose、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順により、培養培地から適切に分離する。抗体をコードするDNAおよびRNAは、従来の手順を用いて容易に単離し、かつ配列決定する。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAおよびRNAの供給源として役立ち得る。ひとたび単離すると、DNAを発現ベクター中に挿入してもよく、その後、宿主細胞において組換え抗体の合成を得るために、他の方法では免疫グロブリンタンパク質を生産しないHEK293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞などの宿主細胞中に発現ベクターをトランスフェクションする。
【0039】
これらの組成物はまた、保存料、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含有し得る。微生物の存在の予防は、上記の滅菌手順により、ならびに種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの包含の両方により保証され得る。糖、塩化ナトリウムなどのような等張剤を組成物中に含むこともまた望ましい場合がある。加えて、注射可能な薬学的形態の持続性の吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅延させる剤の包含によりもたらされ得る。
【0040】
選択される投与の経路にかかわらず、適した水和形態で使用され得る本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である従来の方法により薬学的に許容される剤形へ製剤化される。
【0041】
本発明の薬学的組成物における活性成分の実際の投与量レベルは、特定の患者、組成物、および投与の様式について、患者に対して毒性であることなく望ましい治療応答を達成するために有効である活性成分の量を得るために変化され得る。選択される投与量レベルは、使用される本発明の特定の組成物の活性、投与の経路、投与の時間、使用される特定の化合物の排出の割合、処置の持続時間、使用される特定の組成物との組み合わせで使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康、および以前の病歴、ならびに医学的分野において周知である同様の要因を含む、様々な薬物動態学的要因に依存すると考えられる。
【0042】
本明細書において使用される場合、「連結された」、「融合された」、または「融合」という用語は互換的に使用される。これらの用語は、化学的結合または組換え手段を含むいかなる手段によっても、2つまたはそれ以上のエレメントまたは構成要素を一緒になって連結することを指す。「インフレーム融合」とは、本来のオープンリーディングフレーム(ORF)の正確な読み枠を維持する様式における、連続的なより長いORFを形成するための2つまたはそれ以上のORFの連結を指す。従って、結果として生じた組換え融合タンパク質は、(セグメントが天然においては通常そのように連結されていない)本来のORFによりコードされるポリペプチドに対応する2つまたはそれ以上のセグメントを含有する単一のタンパク質である。従って、読み枠が融合されたセグメントを通して連続的に作製されるが、例えばインフレームリンカー配列により、セグメントは物理的にまたは空間的に分離され得る。
【0043】
以下の実施例は、本発明を例証するものであるが限定するものではないことが意図される。
【実施例】
【0044】
実施例1
本実施例は、蛍光標識scFv-Antp構築物を例証する。Antp(ホメオドメインペプチド)を有する抗HIS抗体(FITC標識された積荷)を送達のために使用した。共焦点顕微鏡を用いて、ペプチド/積荷構築物の非常に効率的な内部移行を、培養培地に保持した無傷の細胞において観察した。調査した各個々の細胞の多数のスポットにおいて蛍光強度を測定した。
【0045】
最近の研究において、Bcl-XLに対するscFv-TATの培養細胞における貫通が報告された。これらの筆者は、固定剤の存在下において内部移行を研究した(Cohen-Saidon, C., et al. (2003))。しかしながら、他の筆者は、穏やかな条件においてさえ、細胞固定がペプチドの人工的な取り込みを導くことを示している(Richard et al., (2003), J. Biol. Chem. 278:585-590)。
【0046】
この人工産物を認識して、本発明者らは、固定されていない生細胞においてscFv-Antp構築物の内部移行を研究した。焦点面から離れた背景情報の減少と連続切片を収集する可能性との明白な利点を有して、関心対象の領域の局所的蛍光強度を取得した。ペプチドまたは抗体についてマイクロモル範囲の薬理学的に到達可能な濃度を使用した。行った実験は、内部移行が達成されたことを示す(図1Aおよび1B参照)。
【0047】
IgG抗体およびscFv抗体での経験は、10-8〜10-10 M範囲におけるKd値がしばしば達成され得(Hanes, J., Schaffitzel, C., Knappik, A., and Pluckthun, A. (2000) Nat. Biotechnol. 18, 1287-1292)、かつ標的との相互作用の見地から非常に特異的かつ選択的であり得ることを示した。そのため、非常に効率的な内部移行を得たことは特に興味深かった。これらの実験は、Antp-抗体分子がより高い細胞内安定性、ならびに改善された薬力学的特性および薬物動態学的特性を賦与されていることを示す。
【0048】
悪性の新規恒常性(neohomeostasis)を持続する上で潜在的に重要であるシグナル伝達タンパク質の良好な阻害剤を見出すことは、現代の癌治療にとって重大である。膜シグナル伝達タンパク質(の優性の腫瘍性タンパク質タイプ、例えば、上皮成長因子受容体ファミリータンパク質、CD20タンパク質、および他のもの)を標的とするモノクローナル抗体が、現代の抗新生物治療において一般的にかつ着実に広がって使用されている。
【0049】
抗体-Antp核酸構築物は、ベクターを用いて細胞に送達され得る。本明細書において使用される場合、「ベクター」とは、宿主細胞において1つまたは複数の関心対象の遺伝子または配列を送達することができる構築物、および好ましくは発現することができる構築物を意味する。ベクターの例は、ウイルスベクター、裸のDNAまたはRNAの発現ベクター、プラスミドベクター、コスミドベクターまたはファージベクター、カチオン性縮合剤に付随するDNAまたはRNAの発現ベクター、リポソーム、および産生細胞などのある特定の真核細胞にカプセル化されたDNAまたはRNAの発現ベクターを含むが、それらに限定されない。本明細書において使用される場合、「発現制御配列」とは、核酸の転写を指示する核酸配列を意味する。発現制御配列は、構成性もしくは誘導性のプロモーターなどのプロモーター、またエンハンサーであり得る。発現制御配列は、転写される核酸配列に機能的に連結される。
【0050】
ヌクレオチド配列は、確立された組換えDNA技術を用いて様々な他のヌクレオチド配列に連結され得る。例えば、ポリヌクレオチドは、プラスミド、ファージミド、ラムダファージ誘導体、およびコスミドを含む様々なクローニングベクターのいずれかにクローニングされ得る。特に関心対象のベクターは、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクター、および配列決定ベクターを含む。一般に、ベクターは、少なくとも1つの生物において機能的である複製開始点、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択可能なマーカーを含有すると考えられる。他のエレメントは所望の使用に依存し、かつ当業者に明白であると考えられる。
【0051】
ある特定の態様内において、ポリヌクレオチドは、哺乳動物の細胞中への侵入の追加的な容易さを可能にするように、およびその中での発現を可能にするために製剤化され得る。そのような製剤は、以下に説明する通り、治療目的のために特に有用である。当業者は、標的細胞におけるポリヌクレオチドの発現を達成するために多くの様式が存在し、かつ任意の適した方法が使用され得ることを認識すると考えられる。例えば、ポリヌクレオチドは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、またはワクシニアウイルスもしくは他のポックスウイルス(例えば、トリのポックスウイルス)などであるがそれらに限定されないウイルスベクター中に組み入れられ得る。そのようなベクター中にDNAを組み入れるための技術は当業者に周知である。レトロウイルスベクターは追加的に、選択可能なマーカーのための遺伝子(形質導入された細胞の同定または選択を助けるため)を、および/またはベクターを標的特異的にするための、特異的標的細胞上の受容体に対するリガンドをコードする遺伝子などの標的部分を移入されてもまたは組み入れてもよい。標的化はまた、当業者に公知である方法により、抗体を用いて達成され得る。本発明のいくつかの態様は、固有に細胞中への侵入のための細胞貫通ペプチド/移行ペプチドであるAntpと共に本明細書において説明されている。
【0052】
治療目的のための他の製剤は、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油型乳剤、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含む脂質ベースのシステムなどのコロイド状分散システムを含む。インビトロおよびインビボでの送達媒体としての使用のための好ましいコロイドシステムは、リポソーム(すなわち、人工的な膜小胞)である。そのようなシステムの調製および使用は当技術分野において周知である。
【0053】
細胞内標的に対するモノクローナル抗体は、マイクロインジェクション、赤血球ゴースト融合、またはエレクトロポレーションなどのいくつかの技術により、細胞中の遺伝子機能を静めるために基礎研究において広く使用されている。しかしながら、これは、新たな基礎的な生物学的知識を獲得する観点から適したアプローチであるが、薬理学的/治療的観点からは適したアプローチでなく、このため、可逆的でありかつ投与量で調節される作用、および実際的にすべての細胞に入る潜在的能力が、重大な薬理学的に要求されるものである。
【0054】
AntpなどのPTDをscFvおよび無傷の抗体へ融合する段階および/または構築する段階により、細胞において抗原性標的または配列特異的な標的の機能を効率的に阻害できる細胞透過性抗体を作製することが可能である。
【0055】
本発明を上記の実施例に関して説明してきたが、改変およびバリエーションが本発明の趣旨および範囲内に包含されることが理解されるであろう。従って、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Antpまたはその断片に融合されたまたは化学的に結合された抗体またはその断片を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
前記抗体断片がscFvである、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
前記Antpがそのアミノ末端またはカルボキシル末端で融合または結合されている、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体が蛍光標識されている、請求項1記載の抗体。
【請求項5】
請求項1記載の融合タンパク質をコードする、核酸配列。
【請求項6】
請求項5記載の核酸配列を含む、宿主細胞。
【請求項7】
請求項1記載のタンパク質または請求項5記載の核酸配列を細胞に投与する段階を含む、処置の方法。
【請求項8】
前記細胞が癌細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が哺乳動物である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳動物がヒトである、請求項9記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate


【公表番号】特表2012−523244(P2012−523244A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505220(P2012−505220)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000749
【国際公開番号】WO2010/119249
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(510092753)トロジャン テクノロジーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】