説明

治療用ペプチド

【課題】治療用ペプチド、特に感染症のためのワクチンもしくはその他の治療剤の作製に有用である治療用ペプチドを提供する。
【解決手段】Moraxella catarrhalis外膜タンパク質から単離され、CEACAM受容体に結合するリガンドであって、開示される群から選択されるアミノ酸配列、またはその断片(fragment)、相同体(homologue)、機能等価体(functional equivalent)、誘導体、変性、水酸化、スルホン化、糖修飾もしくはその他の二次的修飾を受けた産物を含む受容体結合ドメインを含むリガンド。該リガンドを含む薬剤とワクチン、そして感染症の治療または予防におけるそれらの使用。リガンドと、感染症の治療または予防におけるその使用。新たな治療用化合物の特定のためのスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用ペプチド、特に感染症のためのワクチンもしくはその他の治療剤の作製に有用である治療用ペプチド、ならびに感染症治療のための潜在的な医薬活性をもつ化合物のスクリーニングに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者はこれまで、癌胎児抗原関連細胞接着分子(Carcinoembryonic antigen related cell adhesion molecules、CEACAMs)が、粘膜系の病原体、特にNeisseria meningitidis、Haemophilus influenza、Moraxella catarrhalisといった呼吸器の病原体の受容体であることを特定してきた。CEACAMsは、癌胎児抗原(CarcinoEmbryonic Antigen)(CEA)ファミリーに属し、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CEA遺伝子ファミリーは、膜表面発現性(CEA)で且つ分泌性(妊娠期特異的糖タンパク質(pregnancy-specific glycoprotein, PSG))のサブファミリーを含む。CEACAM(CEA-related cell adhesion molecules)20として再定義される膜結合型のサブファミリーは、ヒトの異なる組織にもっとも広く発現するCEACAM112などのいくつかの関連糖タンパク質を含む。発明者らにより報告された研究では、CEACAM1を形質移入したチャイニーズハムスターの卵巣(Chinese Hamster Ovary, CHO)細胞が主に用いられた。CEACAM1(以前CD66a、BGPcと名づけられていた)は、4つの細胞外ドメインと、1つのTM領域と、細胞内末端(cytoplasmic tail)の短いもの(S)もしくは長いもの(L)(分子式 NA1BA2-TM-S or L)を含んでいる。加えて、1つもしくはそれ以上の細胞外ドメインをもつ可溶性の切断型タンパク質が用いられた。以前の研究では、Neisseria meningitidis、Haemophilus influenzaの両方がいくつかのCEACAMsのNドメインを主な標的とすることを示していた7,9,10。このようなターゲッティングは、細胞表面への付着ならびに細胞進入を引き起こすと考えられる9。加えて、細菌が病原細胞やTリンパ球、Bリンパ球のCEACAMsに結合すると考えられる。そのような相互作用は、細菌の細胞死8、標的細胞の細胞死、もしくは(N. meningitidisに非常に近縁である)N. gonorrhoeaeがTもしくはBリンパ球のCEACAMsに結合する場合のような免疫機能の阻害を引き起こすと考えられる21,22
【0003】
Moraxella catarrhalisとHaemophilus influenzaにCEACAM結合性リガンドが存在することは、本発明者にとって驚きの発見であった。というのは、CEACAMsは長らくNeisseriaの外膜の不透明性(opacity)に関与するOpaタンパク質と関連があるとされていたものの、Haemophilus influenzaもMoraxella catarrhalisもOpaタンパク質を作らないためである。以後の記述では、本発明は粘膜系、特に呼吸器系の膜への感染、また耳への感染(特に中耳炎)を特に参照して説明するが、感染症やその他の受容体の結合過程にCEACAM受容体が関与する生殖器系粘膜もしくは尿道、またはヒトの感染症において細菌が粘膜表面から播種するようなすべての場所に対して、本発見が同様に有用であることが理解されるであろう。
【0004】
粘膜性病原体であるNeisseria meningitides (Nm)、Haemophilus influenza (Hi)、Moraxella catarrhalis (Mx)は、ヒトに特異的な生物であり、上気道に存在し、そこから播種して重い感染症を引き起こす。異なる血清型の髄膜炎菌株は、健康な人の25%以上の鼻咽腔に保因されている1。しかしながら、かなりの被験者において、生物が粘膜バリアーに侵入し、最も急速に進行し非常に重い病気の一つを引き起こしている。髄膜炎菌感染症の宿主感受性を増加させる詳細な因子は十分に解明されていない。そのうえ、群特異的なワクチンの限定的な保護作用、B型多糖体(group B polysaccharide)の非免疫原性から、宿主感受性の理解と髄膜炎菌に対抗する共通の標的となる顕著なサブカプセル(sub-capsular)の特徴を特定のための基礎的研究の必要性が強調される。本発明者による研究は、髄膜炎菌のコロニー形成の分子基盤、つまりヒトの食細胞はもちろん、(上皮性、内皮性)関門細胞との相互作用の性質の理解をもたらした。近年、共生Neisseriaによる粘膜のコロニー形成の基礎に関する研究が、大部分の無害な移入種(colonisers)とNmのように稀ではあるがひどい病原体の間の違いをもたらす特徴を理解するために、進められている。加えて、共生Neisseriaが、Nmの潜在的なワクチン抗原となっているかが、研究により決定された。
【0005】
健康な人の75%以上がH. influenzaに属す菌株を保因している2。Hibワクチンの結果として、欧米でB型疾病の発生率が劇的に減少したにもかかわらず、分類不能なHi(non-typable Hi、NTHi)菌株により引き起こされる疾病が大きな問題として残っている。NTHiは、喉頭蓋炎、中耳炎、蜂巣織炎、肺炎、心内膜炎、菌血症、そして髄膜炎を含む播種性の感染症はもちろん、局在性の感染症をも引き起こす。中耳炎は小児医学における大きな問題のひとつであり、小児が生まれて1年以内に発症したケースのうち20%以上で、NTHiが原因とされている2,3。NTHiはまた、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease、COPD)や嚢胞性線維症の患者における、急性の再発性、持続性感染にも関与する。何が、これら患者のNTHiによる再発性感染、または小児の中耳炎の多発性発症を決めるのかは未解明である2,3,4
【0006】
ヒトの気道に常在する別の菌である、Moraxella catarrhalisは、Hiと一緒に局在性感染の症例からしばしば単離される。両生物とも、副鼻腔炎と喘息症状の悪化に関係がある5,6。Mxは小児の中耳炎の原因の第3番目である(毎年3、4百万件の原因と見積もられる)。また、成人、特にCOPD患者における下気道の感染症を引き起こす5。稀な場合、播種性の感染症にも関与することがある5。HiとMxは両種とも、持続性感染症を引き起こし、組織に侵入して宿主の免疫機構や抗生物質から逃れると考えられている4。Mxのいくつかの外膜タンパク質が、接着性の観点から研究されている。しかしながら、Mxに対する細胞性受容体はほとんど特定されておらず、多くの病原機構の詳細について研究の余地が残されている4,5,6
【0007】
呼吸粘膜性病原体は、呼吸系上皮細胞との強固な接着の確立を第一に必要とする。これらのヒト向性(human tropic)病原体の標的はヒト特異的な分子であり、研究はin vitroのヒトの組織や器官の培養に頼っている。接着はしばしば、細菌相(bacterial phase-)構造や抗原可変(antigenically variable)構造を介して行われている。加えて、病原体の接着は多面的であり、環境への適応が接着する上で重要な役目をしていることが、少しずつわかってきている。最近の多くの研究において、複雑な細胞の標的機構の様々な段階が明らかにされ始めているのにもかかわらず、環境への応答や宿主-細菌間のクロストークについては研究の余地が残されている。
【0008】
本発明者らによる最近の研究により、Nm7-9とHi10,11は、特定のヒトの細胞表面の受容体CEACAMsをターゲッティングする、一部異なり一部共通する機構をともに持っていることがわかってきた12
【0009】
さらに、本発明者らは最近、Moraxella catarrhalisの臨床分離株もまたヒトCEACAM分子をターゲッティングすることを特定した。加えて、Moraxellaの高分子量の外膜タンパク質が受容体に結合することがわかってきている。呼吸系上皮細胞を含む異なる組織におけるCEACAMsの発現12が実証された24。これらの発見は、CEACAMsを特異的に標的とすることが呼吸系細菌にとっては特別に有利で、収束進化の結果としてCEACAMsを特異的にターゲッティングするようになったことを意味する。
【0010】
ピリ繊毛(pili)(firmbriae)と外膜の不透明(opacity)タンパク質、Opa、Opc15,16はNeisseria meningitidisにより産生される接着因子に含まれる13,14,16。Nmピリ繊毛は、多数のピリ繊毛サブユニットから構成される長い糸状のタンパク質構造である。これらは一般に、被膜性(capsulate)細菌にとって最も重要なアドヘシン(adhesin)と考えられている。というのは、カプセルが部分的または全体的に外膜のリガンドを覆うことでリガンドの機能の効力は減る一方、ピリ繊毛はカプセルを横切り、十分にカプセルに覆われた細菌においても機能性を保持するからである。Opaは抗原可変性ファミリーのタンパク質であり、N. gonorrhoeaeはもちろんN. meningitidiも生産する。髄膜炎菌では、3から4のopa遺伝子座位が、4つの表面に露出したループと、配列の多様性により変化する3つの部位をもつような、関連する膜貫通型タンパク質をコードする16,17。別の膜貫通型タンパク質、Opcは、大部分不変的である15,16。過去12年以上、本発明者らは、Nmピリ繊毛とOpa、Opcの病原可能性の構造的/機能的関係性について研究してきており、Neisseria属の不透明(opacity)タンパク質に対するヒトの受容体を2つ同定した。そのうえ、LPSやその他の因子の細胞毒性における役割だけでなく、細菌とヒトの標的細胞との相互作用における表層のシアル酸の役割についても、本発明者らにより研究された。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ニトロセルロースに固定された3種のMxに対する、CEACAM1-Fc(1μg.ml-1)受容体の可溶性コンストラクトのみ(白色、左端の柱)と、そこにCEACAM1 Nドメイン特異的抗体YTH71.3を混在させた場合(灰色、中央の柱)の、CEACAM1-Fcの相対結合度を示している。CD33-Fcの結合はどの場合も無視可能な範囲であった(黒色、右端の柱)。株1、2、3は、それぞれMX2(ATCC25238)、MX3、MX4(臨床分離株)である。ドットブロット法を行い、反応の強度をNIH Scion Imageプログラムによる濃度測定により、結合の度合いを測定した。
【図2】MX2のタンパク質のウエスタンブロット。非分離型のもの(非加熱)(レーン1)と10分間煮沸したもの(レーン2)。CEACAM1-Fc(1μg.ml-1)に反応させた後、西洋わさびペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)融合型抗ヒトFc抗体にて受容体の結合を検出した。
【図3】MX2、3、4(それぞれレーン1-3に対応)の変性させたホールセルライセート(whole cell lysate)をCEACAM1-Fc(1μg.ml-1)(a)、抗UspA1ペプチド抗体(10μg.ml-1)(b)、抗UspA2ペプチド抗体(10μg.ml-1)(c)にて反応させたウエスタンブロット。3株において、CEACAM1-Fc結合タンパク質と抗UspA1抗体結合タンパク質が同様の泳動パターンを示していることに注目。約250kDaの非分離型の残留タンパク質(アルカリホスファターゼ法により高感度に検出した)がCEACAM1-Fcに結合している。これらは抗ペプチド抗体に弱くしか認識されないが、これはおそらく合成ペプチドに含まれるエピトープが本来のタンパク質において十分露出せず、複合体の変性に従って露出するためだと考えられる。抗UspA2抗体は、見かけの分子量200kDa以上のタンパク質に結合し、煮沸後も非分離の状態であり、これはA2タンパク質の性質である。
【図4a】MX2のCEACAM1結合タンパク質を電気溶出した後、トリプシン処理したペプチドを質量分析した(4a)。ProFoundタンパク質特定データベースに供したデータの概要を(4b)に示した。特定した上位10個のタンパク質とその可能性の度合いを(4c)に示した。Zスコア2.34を示した最上位候補のUspA1の詳細を(4d)に示した。ここには、適合したペプチドの数、それらのタンパク質中の位置、全長の何%をカバーしているか、適合しなかったペプチドの数が記されてある。
【図4b】MX2のCEACAM1結合タンパク質を電気溶出した後、トリプシン処理したペプチドを質量分析した(4a)。ProFoundタンパク質特定データベースに供したデータの概要を(4b)に示した。特定した上位10個のタンパク質とその可能性の度合いを(4c)に示した。Zスコア2.34を示した最上位候補のUspA1の詳細を(4d)に示した。ここには、適合したペプチドの数、それらのタンパク質中の位置、全長の何%をカバーしているか、適合しなかったペプチドの数が記されてある。
【図4c】MX2のCEACAM1結合タンパク質を電気溶出した後、トリプシン処理したペプチドを質量分析した(4a)。ProFoundタンパク質特定データベースに供したデータの概要を(4b)に示した。特定した上位10個のタンパク質とその可能性の度合いを(4c)に示した。Zスコア2.34を示した最上位候補のUspA1の詳細を(4d)に示した。ここには、適合したペプチドの数、それらのタンパク質中の位置、全長の何%をカバーしているか、適合しなかったペプチドの数が記されてある。
【図4d】MX2のCEACAM1結合タンパク質を電気溶出した後、トリプシン処理したペプチドを質量分析した(4a)。ProFoundタンパク質特定データベースに供したデータの概要を(4b)に示した。特定した上位10個のタンパク質とその可能性の度合いを(4c)に示した。Zスコア2.34を示した最上位候補のUspA1の詳細を(4d)に示した。ここには、適合したペプチドの数、それらのタンパク質中の位置、全長の何%をカバーしているか、適合しなかったペプチドの数が記されてある。
【図5】MX2のUspA1のトリプシン処理した断片のウエスタンブロット。A:二次抗体(BとCで用いたヤギの抗ヒトFcとヤギの抗ウサギIgの混合物)を用いたコントロールブロット。B:CEACAM1-Fcとヤギ抗ヒトFcを反応させたブロット。C: アフィニティー精製したUspA1ペプチド(ETNNHQDQKIDQLGYALKEQGQHFNNR(SEQ ID NO:1))(図6参照)に対するウサギ抗体と抗ウサギIgを反応させたブロット。左にある * は分子量マーカーのレーンを示す。二つの矢印で示されたペプチドは、抗UspA1ペプチド抗体(C)のみでなく、CEACAM1-Fc(B)とも強く反応している。抗UspA1抗体と分子量の低いペプチド(矢頭)との結合から、このCEACAM結合断片がMX2のUspA1の199番目のNから863番目のKに含まれるC末端断片であることが特定された(図6参照)。
【図6】MX2のUspA1タンパク質のアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)。ウサギにおいて抗血清を作製する際に用いたUspA1特異的ペプチドは太文字で示した。CEACAM結合領域はMX2のUspA1の下線の引かれたC末端断片に含まれている。
【図7】CEACAMsと反応するトリプシン処理したペプチドの分離。M. catarrhalisの株MX2を1mg/mlのトリプシンで37℃10分間処理した。トリプシン処理したサンプルをSDS-PAGEに供した。染色後、50kDaの領域を一晩電気溶出した。電気溶出したタンパク質を凍結乾燥し緩衝液に再懸濁しセカンドゲルに供した。ゲルの一部はニトロセルロースにブロットし、CEACAMと反応するペプチドのバンドをCEACAM1-Fcを用いたウエスタンブロットにより特定した(Blot)。”*”はN末端配列決定に用いたペプチドのバンドを意味する。
【図8】MX2のUspA1タンパク質をトリプシン処理したペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO:3)。図の約50kDaのトリプシン処理ペプチド(アミノ酸残基463から863の配列)はCEACAMとUspA1ペプチド(下線を施したアミノ酸残基753から780の配列)に対する抗血清と結合する。約50kDaのCEACAM結合ペプチドのN末端配列は、462アミノ酸残基以降でのトリプシン分解により生じる”ALESNVEEGL”(SEQ ID NO:4)である。
【図9】組み換えペプチドの発現のためのuspA1遺伝子断片の取得のために用いたプライマーの配置の図による表示。CEACAM1結合サイトは、プライマーP4とP7で増幅されるDNAにコードされており、この配列内の付加的なプライマー(A-I)を設計し用いた。
【図10】組み換え断片4-7(SEQ ID NO:5)の配列。下線を施した領域はCEACAM1反応性のトリプシン処理ペプチドのN末端領域である。断片4-7の予想される分子量は約26kDaである。Hisタグ付加型断片4-7の予想される分子量は約28kDaである。切断型のペプチドの位置は”T”と表した(図13参照)。
【図11】組み替えUspA1ペプチドの一般的クローニング、発現、精製方法。pQE30システムにより例示されている。
【図12】pQE30ベクターのマップ。
【図13】CEACAM1-Fcと組み換えポリペプチド4-8(レーン3)、4-T(レーン4)、4-7(レーン5)の結合のブロット。レーン1はトレポネーマコントロール組み換えペプチドであり、レーン2は4-8コンストラクトを持つM15の発現誘導していないライセート。
【図14】組み換えタンパク質の、抗Hisタグ抗体(上)とCEACAM1-Fc(下)との反応性を示すウエスタンブロット。レーン2から4は6-8ペプチドであり、レーン1はコントロールとして4-8である。予想されるペプチドの泳動度を右に示した。両ペプチドとも抗His抗体に結合する。しかし、4-8はCEACAM1-Fcに結合するものの、6-8は結合しない。
【図15】D-8ポリペプチドは、CEACAM1-Fc(レーン1)に結合するが、コントロールとして用いたCD33-Fc(レーン2)には結合しない。もともとのペプチドは抗Hisタグ抗体との反応にて確認された(レーン3)。
【図16】rUspA1断片の相対サイズと位置をあらわす模式図。組み換え体4-7は細菌の阻害に用いた(図17参照)。
【図17】CHO-CEACAM1形質転換体を、ペプチドなし(A)、組み換えコントロールペプチド(トレポネーマペプチド、B)、UspA1 r4-7ペプチド(MX2株に対応する配列、CとD)を記述された各濃度でインキュベートし、2時間後にそれぞれに細菌を加えた。このインキュベートのあと、結合しなかった細菌を洗い落とし結合した細菌を抗M. catarrhalisポリクローナル抗血清とTRITC融合型二次抗体にて検出した。1μg/mlにて、M. catarrhalisの異種(MX1)の有意な阻害がみられ、10μg/mlにて、H. influenzaの結合がM. catarrhalisのUspA1組み換えペプチドにより有意に阻害された。
【図18】組み換えペプチドD-7とD-7のK560I変異体の、円偏光二色性分光法による分析結果。D-7がα-へリックス構造をとる一方、D-7(K560I)がランダムコイル構造をとることがわかる。
【図19】CEACAM1に結合しないD-T領域にまたがる一連の線状のペプチド。D-7のK560に対応するK残基に下線を施してある。
【図20】Mxの10種(TTA24、TTA37、p44、O12E、O35E、O46E、MX2、V1171、MX3、MX4)のUspA1タンパク質のD-7領域のアミノ酸配列のアラインメント。上部には、多数を占めるアミノ酸による配列を示した。
【図21】O35E D-7とMX2 D-7の手作業によるアラインメント。上部には、多数を占めるアミノ酸による配列を示した。
【図22】MegAlign(商標)(DNASTAR Inc.)により決定した、Mx分離株のD-7領域の配列の同一性。
【図23】組み換えペプチドD-7が、同種と異種両方について、CEACAM1を発現する形質転換CHO細胞への結合を阻害している(しかし組み換え体6-8、つまりMX2のUspA1のE659からK863残基は阻害しない)。ペプチドなし(カラム1)、コントロールペプチド(2μg/ml、カラム2)、D-7(2μg/ml、カラム3)にて細胞をインキュベートしたのち、細菌を加え、1時間後接着しなかった細胞を洗浄にて除いた。細胞に接着した細菌は、異となる複数種に対する抗血清とローダミン結合二次抗体を用いて検出した。Mx:Moraxella Nm:Neisseria meningitidis Hi:Haemophilus influenzae
【図24】D-7による細菌のCC1-Fc相互作用の阻害に関する一連の図表。(a)MXと同種のMX2(灰色カラム)と異種のMX1(黒色カラム)への受容体結合の添加量依存的な阻害が、0.001から0.1μg/mlのペプチド濃度にてみられた。CはコントロールペプチドであるD-8Δをあらわす。n=3で平均をとり、CC1-Fc単独に対して*P<0.015。(b)D-8Δ(灰色カラム)ではなく、組み換えD-7(黒色カラム)が同種と異種の両方(それぞれのグラフの上部に示した)に対し、CC1-Fcの結合を阻害する。異なる属からの分離株のホールセルライセートをニトロセルロースに付し、CC1-Fcのみ、またはそこにペプチド(各々2μg/ml)を混在させて反応させた。ペプチドがない場合に対するペプチド存在下の阻害のパーセント量は、NIH Scion Imageソフトウェアを用いた濃度測定にて得た。データは2から3の独立した実験から得た。
【図25】D-7が、細菌の一連のCEACAM発現細胞株への結合を抑制する図。(a)記述の通りにペプチド(2μg/ml)存在、非存在下でCEACAM1を発現する形質転換CHO細胞をプレインキュベートした後、細菌との相互作用を免疫染色にて分析した。ローダミン標識により可視化することにより、細菌の接着の阻害が、D-7存在下において観察された。(b)生存した数を数えることによる(viable count assay)、細菌のCHO-CEACAM1細胞への結合の阻害の定量分析。標的とする一層の細胞を、コントロールペプチド(2μg/ml;C)もしくは図示したような濃度幅のD-7にてプレインキュベートした。コントロールペプチドと比較したD-7の阻害のパーセンテージの平均を示した(n=3-6,*P<0.05)。aとbにて用いた種は、Mx(MX1)、Nm(C751D)、Hi(THi,Rd)、そしてHi-aeg(A3)である。(c)D-7による、Nm(C751D)の異なるCEACAMsへの結合の阻害。CEACAM1(CC1)、CEAもしくはCEACAM6(CC6)を発現するHeLa細胞を、ペプチドなし、コントロールペプチド(2μg/ml;灰色カラム)、D-7(2μg/ml;黒色カラム)のもとプレインキュベートした。細胞あたりの接着したNmの平均値を、免疫染色法にて染色し、それぞれ20細胞を直接数えて得た。(d)ピリ繊毛とOpaタンパク質による接着を支持するCEACAM1を高いレベルで発現するHeLa細胞株(HeLa-CC1H)は、OpaとOpcのアドヘシンを発現するMC58を由来とする、被嚢性でピリ繊毛を持つh18.18に感染した。細胞接着は、D-7をあらかじめ細胞とインキュベートした場合(pre)と、細菌と同時にインキュベートした場合(sim)において減少が見られたが、D-8Δにおいては見られなかった。(e)CEACAMsを発現することで知られるA549肺上皮細胞と細菌の相互作用の阻害。記述したとおり、ペプチドなし、コントロールペプチド(2μg/ml)、D-7(2μg/ml)にてプレインキュベートした後に、阻害をみた。用いた種は、Mx(MX1)、Nm(C751D)、Hi(Hi-age,A3)。
【図26】アフィニティ精製したD-7に対するウサギ抗体が相同、非相同両種のMxのCEACAM1-Fc(CC1-Fc)への結合を阻害することを示す図。ドットブロット法により、抗体のないコントロールに対する結合量をNIH Scion Imageソフトウェアにて分析した。十分な阻害が、Mx各株にてみられたが、Hi(THi Rd & Hi-aeg A3)、Nm(C751A & C751D)、Ng(P9-13)という別の試みた種ではみられなかった。3回の独立した実験に基づいてデータを作成した。
【図27】N. meningitidisのHMEC1細胞への接着。(A)何も添加せず、(B)コントロールペプチド添加、(C)阻害ペプチドD-7添加。D-7存在下において実質的に完全に阻害していることに注目。
【図28】MX2の4-T断片の配列に対応する、既知のUspA1タンパク質の断片のマルチプルアラインメント。全ての配列において保存されている残基は黒で示した。存在する配列間では全て保存されているが、一つまたはそれ以上の配列でそこに対応する配列を欠いている残基は濃い灰色で示した。相当する残基間に違いのあるものは、薄い灰色で示した。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明は、Moraxellaの外膜タンパク質から単離されCEACAM受容体に結合する高分子量のリガンドが、発明者らにより同定されたことによりもたらされた。
【0013】
このリガンドはSDS-PAGEによる泳動パターンにより特性を調べることができる。それによると、長時間煮沸したとき、約60から150kD間に分子量をもつ単量体に解離されることから、USPファミリーのタンパク質であることが示唆される。
【0014】
該リガンドは、Mx菌株のATCC 25238 (MX2)においてUspA1として特徴づけされ、そのアミノ酸配列が決定された。該リガンドはさらに、受容体結合領域もしくはドメイン、すなわち受容体と結合するペプチドもしくはペプチドに関係した特徴が決定された。
【0015】
従って、本発明は、Moraxella catarrhalisから単離され、CEACAM受容体に結合するリガンドであって、図6に示した配列において残基463から863、527から623、527から668、527から863、427から623、427から668、427から863の配列から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むか、または前記選択されたアミノ酸配列から成る受容体結合ドメインを含むか、または前記受容体結合ドメインから成るポリペプチド、またはその断片(fragment)、相同体(homologue)、機能等価体(functional equivalent)、誘導体、変性、水酸化、スルホン化、糖修飾もしくはその他の二次的修飾を受けた産物を含むか、またはこれらから成るリガンドに関するものである。
【0016】
望ましい一実施態様として、当該リガンドは、図6に示した配列において残基527から623、527から668、427から623の配列から成る群から選択されるアミノ酸配列を含むか、または前記選択されたアミノ酸配列から成るポリペプチド、またはその断片(fragment)、相同体(homologue)、機能等価体(functional equivalent)、誘導体、変性、水酸化、スルホン化、糖修飾もしくはその他の二次的修飾を受けた産物を含むか、またはこれらから成るリガンドである。
【0017】
ここで用いるリガンドという用語は、受容体に結合するすべての分子と、その一部であって受容体結合能を保持する受容体結合ドメインを含むような全ての部分の両方を意味する。そのため「リガンド」は、受容体結合ドメインのみ、即ち、受容体結合に必要な1以上のペプチド領域のみから成る分子を包含する。
【0018】
別の望ましい実施態様として、ポリペプチドは、図6に示した配列において残基427から623の領域内に保存的な配列であって、図27に示したアラインメントで同定された配列を少なくともひとつ含むか、または前記配列のひとつから成る。それゆえ、この実施態様において、ポリペプチドは以下のひとつを含むか、または以下のひとつから成る。:
QHSSDIKTLK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADLTKDIK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADIAKNQA
DIAQNQT
DIQDLAAYNELQD
QTEAIDALNKASS
TAELGIAENKKDAQIAKAQANENKDGIAK
NQADIQLHDKKITNLGILHSMVARAVGNNTQGVATNKADIAK
NQADIANNIKNIYELA
NQADIANNI
NIYELA
【0019】
本発明におけるポリペプチドリガンドは、N末端もしくはC末端のどちらか一方または両末端において、ここに列挙した配列に対するアミノ酸の付加または欠失により修飾を施された配列の受容体結合ドメインであって、CEACAM受容体への結合能が保持されるドメインを含むことが理解されるであろう。従って、本発明はさらに、50、40、30、20、10、5、3もしくは1アミノ酸残基を、N末端もしくはC末端のどちらかまたは両末端において、ここに列挙したアミノ酸配列に加えたか、またはここに列挙したアミノ酸配列から削ったポリペプチドを含むか、または前記ポリペプチドから成るリガンドであって、該修飾されたポリペプチドがCEACAM受容体への結合能を保持し、および/または、非修飾のペプチドに対する免疫応答を誘発するようなリガンドを提供する。好ましくは、560番目のアミノ酸は修飾を受けたペプチド中において保持されることが望ましい。
【0020】
本発明におけるポリペプチドの断片に関しては、CEACAM受容体への結合能を保持するどのようなサイズの断片も、本発明に用いられる。受容体結合に必要な領域のみを含む最小のペプチドを単離することが望ましい。
【0021】
本発明によるポリペプチドリガンドは、既知のMoraxella catarrhalisのUspA1タンパク質由来であり、N末端とC末端のどちらかまたは両末端において短縮したものである。従って、本発明はさらに、すくなくとも(もしくは正確に)N末端から20、30、40、50、60、70、80、100、120、140、160等から520アミノ酸を欠失し、および/または、すくなくとも(もしくは正確に)C末端から20、30、40、50、60、70、80、100、120、140、160、180または200アミノ酸を欠失した、野生型UspA1配列に関するものである。好ましくは、この短縮体はCEACAM結合の機能を保持する。考えられる短縮体は以下の表に示されたものから選択でき、それらは全て、本発明の範囲内である。
【表1】

【0022】
このように短縮され得る既知の野生型UspA1は、ATCC25238(MX2;GenBank accession no.AAD43465)、P44(AAN84895)、O35E(AAB96359)、TTA37(AAF40122)、O12E(AAF40118)、O46E(AAF36416)、V1171(AAD43469)、TTA24(AAD43467)といった株のものである(実施例10、表2参照)。
【0023】
理想的には、この実施態様におけるUspA1短縮体は、図6に示した配列において残基463から863、527から623、527から668、527から863、427から623、427から668、427から863の配列から成る群から選択されるアミノ酸配列、またはその断片(fragment)、相同体(homologue)、機能等価体(functional equivalent)、誘導体、変性、水酸化、スルホン化、糖修飾もしくはその他の二次的修飾を受けた産物を含むか、またはそれから成り、または図27に示したアラインメントで同定され図6に示した配列において残基427から623の領域内に保存的な配列(以下に例)を少なくともひとつ含むか、または前記配列のひとつから成る。
【0024】
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【0025】
ここに記されたポリペプチドリガンドを含む融合タンパク質の作製は都合がよい。従って、別の実施態様において、本発明は、本発明によるポリペプチドリガンドを含む融合タンパク質に関するものである。好ましくは、この実施態様による融合タンパク質は、その全長が、あらゆる既知の全長の配列にたいして50%未満の同一であることが望ましい。
【0026】
相同的なペプチドは配列比較によって同定される。相同的なペプチドは少なくとも60%同一であることが望ましく、より理想的には、その全長が、ここで開示するペプチドの配列もしくはその断片に対して、昇順で優先度をあらわして少なくとも70%、80%、90%、95%、もしくは99%同一であることが望ましい。好ましくは、相同的なペプチドがCEACAM受容体への結合能を保持し、および/または、ここで開示するペプチドの配列またはその断片に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、560番目のアミノ酸または相同的なアミノ酸はリジンである。
【0027】
図20は異なる由来のペプチド配列のアラインメントを示しており、(CEACAM結合能のような)機能を維持しつつ修飾されうる配列の領域があらわされている。
【0028】
本発明者らは、円偏光二色性(CD)分光法により、ペプチドリガンドのCEACAM結合能にはランダムコイル構造ではなくα-へリックスベースの高次構造が関与することを解明した。従って、さらなる実施態様において、本発明のペプチドリガンドまたは受容体結合ドメインまたはそれらの断片もしくは相同体(homologue)もしくはその他の誘導体は、α-へリックス構造を取る。任意に、該構造はコイルドコイル構造である。好ましくは、CD分光法は、後述の実施例に記述されるように行われる。
【0029】
さらなる実施態様において、本発明は、ここに記述したペプチドまたはそれらの断片と構造的に相同なペプチドを提供する。構造的に相同なペプチドは、上述のように、図18のように円偏光二色性(CD)分光法にてα-へリックスベースの高次構造を示す結果を出すような、相同的なペプチドである。ここに記すペプチドまたはそれらの断片のミモトープ(Mimotope)もまた想定される。ミモトープはD-アミノ酸もしくは非自然性アミノ酸置換体を含むが、α-へリックスベースの高次構造を示すCDの結果といったような、ここで記述するペプチドの機能特性はなお保持している。
【0030】
本発明者らにより明らかにされたα-へリックスベースの高次構造から、ここに開示されるペプチドがCEACAM結合のための適切な高次構造を構築するために、結合する膜に依存しない球状のサブユニット構造をもつことがわかる。従って、さらに別の実施態様において、本発明は、全長のUspA1タンパク質でなく、外膜が存在する必要がないCEACAM受容体に結合可能な本発明のペプチドリガンドまたは受容体結合ドメインを含む球状サブユニット分子を提供する。好ましくは、球状サブユニット分子は200アミノ酸以下から成り、より好ましくは100アミノ酸以下である。
【0031】
構造的、および/または、機能的に等価な受容体結合ドメインもまた、その他のUspA1様タンパク質にて見出される可能性がある。というのは、UspA1、UspA2両タンパク質由来のモザイクエピトープを含み得るハイブリッドタンパク質が、Mxにて見出されるからである23。そのような等価な受容体結合ドメインを含むリガンドもまた、本発明の範囲に属す。
【0032】
ペプチドリガンドのCEACAM結合能は、それが(ワクチンのような)抗原としても、またそれがCEACAM結合を抑える目的で投与されることにより病原体の結合および侵入を阻止する「抗生物質」としても用いられることを意味する。
【0033】
それゆえ、リガンドまたは受容体結合ドメインは、好ましくは感染症の予防または治療のための使用に適している。
【0034】
本発明はまた、本発明におけるリガンドタンパク質、そしてその相同体、断片、多形体(polymorphism)、変性体(degenerate)そしてスプライスバリアントをコードする核酸配列を提供する。
【0035】
本発明のリガンド、またはそれらの組み合わせは、感染症のワクチンまたはその他の予防治療剤に用いることができる。
【0036】
ワクチンまたはその他の予防治療剤は、患者の治療に用いるための薬剤的に許容可能なリガンドの製剤を提供するために、あらゆる既知の補助剤(adjuvant)、媒介物(vehicle)、賦形剤(excipient)、結合剤(binder)、担体(carrier)、防腐剤(preservative)等を含んでよい。
【0037】
本発明はまた、医薬品として用いるための、薬剤的に許容可能なリガンド製剤に関するものである。
【0038】
当該リガンドの薬剤的に許容可能な製剤は、CEACAM受容体が関与するあらゆる疾病、例えば感染症、呼吸器疾患、腫瘍性疾患やその関連症状、血管新生の治療または予防に用いられる。
【0039】
好ましくは、感染症を治療する場合、その感染症は、粘膜、特に呼吸器系の感染症であるか、または粘膜、特に呼吸器系の感染症を経て起こる感染症である。
【0040】
最も好ましくは、当該リガンドは、Neisseria meningitidis、Haemophilus influenza、Moraxella catarrhalisのためのワクチンとして、または、それらの別の予防もしくは治療において使用される。理想的には、当該リガンドは、中耳炎の予防もしくは治療のためのワクチンとして、または、中耳炎の別の予防もしくは治療において使用される。
【0041】
別の側面において、本発明のリガンドはまた、一般にいくつかの粘膜性病原体に対して脆弱な集団や大衆を守る治療用薬剤として用いるための、新たな抑制剤を特定するために用いられる。例えば、この目的のために有用な受容体の類似体を特定するために、当該リガンドが用いられる。
【0042】
それゆえ、本発明はまた、治療用薬剤として用いるための新たな抑制試薬を特定するスクリーニング方法であって、本発明のリガンドを擬態する能力、または前記リガンドに対する相同性について、潜在的な治療用薬剤をスクリーニングする段階を含んだ方法を提供するものである。本発明はさらに上述のスクリーニング法により特定される治療用薬剤を提供するものである。
【0043】
有効なワクチン成分は、生物学的に活性をもつペプチドの擬態物のように、本発明により特定された受容体ターゲッティング機構の情報を用いて作製される。これらは、抑制性やオプソニン作用や殺菌性のある抗体を誘発するのみでなく、粘膜での細菌のコロニー形成/侵入を防ぐことができるであろう。
【0044】
本発明におけるリガンドにより同定された、細菌由来の生物学的活性をもつペプチドは、癌におけるCEACAMsの役割の研究に用いられ、分子の開発はこれらの過程に関与する。これらはまた、抗癌剤としての能力や、血管新生の治療において制御する能力をもつ。
【0045】
本発明のペプチドリガンドの高次構造に関して発明者らによりもたらされた情報は、たとえばプラスチックから、合成的なナノ構造を設計するのに用いられうる。そのような構造は、生物学的分解に耐性であり、非免疫原性であるといった利点がある。それは、CEACAM受容体を遮断することで病原体の結合および侵入を抑制するよう働く「抗生物質」と同じように、特に有用である。
【0046】
さらなる実施態様において、本発明は、病気を引き起こす病原体の細胞標的にCEACAM受容体が関係する病気の治療や予防のための薬物の製造における、CEACAM受容体結合リガンドの使用を提供するものであり、ここにおいて、リガンドは、図6に示した配列において残基463から863、527から623、527から668、527から863、427から623、427から668、427から863の配列から成る群から選択したアミノ酸配列、またはその断片(fragment)、相同体(homologue)、機能等価体(functional equivalent)、誘導体、変性、水酸化、スルホン化、糖修飾もしくはその他の二次的修飾を受けた産物を含むか、またはそれから成るようなリガンドの使用に関するものである。
【0047】
本発明において、この側面の使用に適したその他のリガンドは、図27に示したアラインメントで同定され図6に示した配列において残基427から623の領域内の保存的な配列(以下に例)を少なくともひとつ含むか、または前記配列のひとつから成るポリペプチドである。
【0048】
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【0049】
好ましくは、疾病は、感染症、呼吸器疾患、腫瘍性疾患やその関連症状、血管新生から選択されるものである。
【0050】
上述した薬物は、病原体の粘膜への感染、または粘膜からの侵入の場合に、特に有用である。
【0051】
ここに記述する薬物は、Moraxella catarrhalisが原因となる感染症(疾病)の治療または予防において特に有用である。しかしながら、ここに記述するリガンドは、Neisseria meningitidisやHaemophilus influenzaeが原因となる疾病のようなCEACAM受容体が関係するあらゆる疾病の治療に対する薬物の製造に有用である。
【0052】
特に好ましい実施態様において、前記疾病は中耳炎である。
【0053】
本発明のリガンドはまた、虫歯といったようなその他の口内細菌が原因となる疾病の治療にも用いられる。
【0054】
口内細菌Fusobacterium nucleatumは歯茎疾患に関与するが、中耳炎や死産、まれな場合には菌血症にも関連している。本発明者らによる最近の研究から、Fusobacterium nucleatumのいくつかの単離株がCEACAMsと結合し、CEACAM1のF nucleatumへの結合がここに記述するポリペプチドリガンドにより阻害されることがわかり、このことから、本発明におけるリガンドまたは受容体結合ドメインがこの病原体が原因となる疾病の治療または予防に有効であることが示唆される。
【0055】
本発明による、望ましいポリペプチドリガンドであるD-7の、非カプセル性細菌(データは示していない)またはカプセル性細菌(実施例7)のHeLa-CC1Hとの相互作用を抑える能力、多数のCEACAMsへの結合を抑える能力、そして多数の粘膜性日和見種にたいするその有効性(実施例7)から、D-7が有意な可能性をもつ抗微生物薬剤であることがわかる。加えて、Mxの接着を抑えるような抗体反応を誘起する(実施例8)能力は、単一または(UspA2、Hag/MID、OMPCD、Mcapといったその他のMx抗体とともに)多成分ワクチンの一部という形で、Mxがしばしば関与する中耳炎または肺感染症5を抑制するワクチンの候補としての可能性を示唆する。マウス膀胱炎モデルにおける尿路疾患性Escherichia coliに対する全身性予防接種29のように、アドヘシンベースのワクチンの使用は成功している。
【0056】
本発明に関するリガンドを予防薬として含めることは、特に病原性もしくは抗菌性の耐性種を獲得するリスクが高いというような様々な状況において考慮してよく、直接局所的な処置を行うことにより、もしくは生菌剤(probiotics)を通して導入される。炭水化物-レクチン(carbohydrate-lectin)相互作用により標的組織に接着する細菌の場合、可溶性炭水化物はin vitroと動物実験においてうまく感染を抑えることができた30,31,32。Streptococcus mutansタンパク質SAI/IIの領域のひとつに対応する合成ペプチドの局所的な処置では、人の被験者においてS. mutansによる結合の阻害が観察された。1日に1mg/mlのペプチドで口内洗浄を2週間行った研究では、コロニーの形成を抑えるのにはそれで十分であった33。乳酸菌の形での生菌剤は、多数の感染症を抑えるのに用いられてきた34,35。加えて、組み換えE. coli株が生菌剤として使用されており、この場合LPS遺伝子がシガトキシン(Shiga toxin)受容体の構造的な擬態物をコードするよう改変された。この株のマウスへの経口投与により、E. coliにより作られるシガトキシンによる死亡が抑えられた。局所的に用いられる阻害性ペプチドは、一過的な生菌剤の使用または発現のタイミングや発現量を制御できる発現ベクターの使用により、必要な時期、必要な場所に運ぶことができるという点でさらなる利点がある。このように、抗微生物薬剤の曝露の長さは制御可能である37,38
【0057】
受容体の結合ドメインへのターゲッティングの阻害は、細菌の接着を擬態するものであり、本来の共生細菌のリガンドの結合への影響以上に有害な影響がでることはなさそうである。また、そのような特異的な方法は、CEACAMsに結合するようなものが非常に少ないその他の共生ミクロフーラに対しては寛容性を保証する7,10,38。そのうえ、ペプチドの主形態である単量体で一価の性質は、CEACAMsにおいて受容体のクラスター形成を誘導するといったような望ましくないシグナル伝達を引き起こす可能性は低い11,39
【0058】
CEACAMとの相互作用に決定的に関与するアミノ酸のさらなる決定や、in vivoでの寿命ならびに結合を保証しながらサイズを小さくする改変といったような、D-7の改良が視野に含まれる。そのような改変は、天然にないアミノ酸またはD-アミノ酸の組み込みを含み得るであろう33。抗接着性/抗浸潤性の治療に対する抵抗性は起こらないと思われる。というのは、細菌のリガンドに何らかの変化が起こると、細菌自身の機能性、およびこの場合にはコロニー形成や感染の機能の消失が導かれ易いからである。ペプチドの競合作用に起因した、完全に受容体特異性の変化した変異種の出現は、一般の場合ほど頻繁には発生しえないと予想される。というのは、受容体に対する競合作用は自然状態の病原体間にて起こりやすいからである。そのため、D-7はいくつかの病原体に対する抗接着薬剤、ワクチンの候補としての可能性を持っている。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
[Moraxella catarrhalisはUspA1タンパク質を介してヒトCEACAM1-Fcに結合する。]
本実験に用いたMoraxella catarrhalis(Mx)は、American Type Culture Collectionから購入した参考株(ATCC25238、このクローン培養株をMX2と名付けた)はもちろん、臨床分離株(MX3とMX4)を含む。
【0060】
〈受容体オーバーレイ測定法により、MxはCEACAM1-Fc受容体コンストラクトに結合すること示される。〉
M. catarrhalisとCEACAM1の相互作用を評価するため、細菌(約4-8 x 106)をニトロセルロースに塗布し、空気乾燥し3% BSA-PBSTにて非特異的な結合部位をブロッキングした。ニトロセルロース片を、CEACAM1-Fc(1-2μg/ml)のみ、またはCEACAM1-Fc(1-2μg/ml)とCEACAM1 N-domain抗体YTH71.3で覆った。CD33-Fc(1-2μg/ml)をネガティブコントロールとして用いた。キメラのタンパク質コンストラクトを以前に記述された方法11に従って作製した。キメラの受容体の結合を、西洋わさびペルオキシダーゼまたはアルカリフォスファターゼが融合したヤギの抗ヒトFc抗体によって検出した。ブロットは、ジアミノベンジデン(diamino benzidene)と過酸化水素、またはニトロブルー・テトラゾリウム(nitroblue tetrazolium)と5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイルフォスフェート(5-bromo-4-chloro-3-indoylphosphate)を、それぞれ基質に用いて現像した。Mxの全ての株においてCEACAM1-Fcに結合したが、CD33-Fcには結合しなかった(図1)。受容体の結合は、モノクローナル抗体YTH71.3の存在下で阻害され、これより菌株は受容体のN末端ドメインに結合することが示唆された。したがって、全ての株が等しく、CEACAM1のNドメインのみを含んだ切断型N-Fcコンストラクトによく結合する(データは示していない)。
【0061】
〈M. catarrhalisのCEACAM1-Fc結合タンパク質の特定〉
Mx(約3 x 107)のホールセルライセート(whole cell lysate)を、前もって熱処理を行わないものと100℃で10分間熱処理したものを、それぞれ10%ビス-トリス ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)の個々のレーンに供し、180Vで45分間電気泳動を行った。標準的なブロット条件により、ゲルからタンパク質をニトロセルロース膜に転写した。ニトロセルロース膜は上述したとおりの可溶性のキメラコンストラクトで覆った。それぞれの場合において、一つのタンパク質がCEACAM1-Fcに特異的に結合する結果が得られた。ゲルにおけるタンパク質の移動度から、MxのUspA1タンパク質であることが示唆された。というのは、細菌のライセートを熱処理せずに泳動した場合、CEACAM1結合タンパク質は見かけの分子量が200kDa以上となり、ライセートをあらかじめ熱処理すると、CEACAM1結合タンパク質は分子量が約92kDaに小さくなったからである(図2)。
【0062】
〈UspA1に対する抗体はMxのCEACAM1-Fc結合タンパク質に結合するが、類似タンパク質UspA2に対する抗体はそうならない。〉
公表されているM. catarrhalisのUspA1の配列にしたがって、ペプチドを設計した。すなわち、ETNNRQDQKIDQLGYALKEQGQHFNNR (SEQ ID NO:1; UspA1-ペプチド)、そしてKDEHDKLITANKTAIDANKAS (SEQ ID NO:6; UspA2-ペプチド)である。ペプチドは、組み込まれたN末端システイン残基を介してKLHに結合され、14日ごとにウサギに免疫した(ウサギ一羽あたりペプチド200μg)。このとき、初めにフロイント完全アジュバントにて行い、その後フロイント不完全アジュバントにて行った。免疫化0日目と、免疫化以降の14日ごとに、ウサギから採血した。ポリクローナル抗体を、対応するペプチドを結合させたAminoLink Plusカラム(Pierce)を用いて精製した。UspA特異的抗体を1-10μg/mlの濃度にてウエスタンブロットに用い、アルカリフォスファターゼが融合したヤギの抗ウサギ二次抗体にて検出した。ブロットは先に述べた方法により現像した。Mxの3株のSDS-PAGEによるCEACAM1-Fc結合タンパク質の移動度は、UspA1抗体の結合タンパク質と同じであったが、UspA2抗体の結合タンパク質とは異なった(図3)。
【0063】
〈CEACAM1-Fcと共沈降するM. catarrhalisのリガンドはUspA1と特定された。〉
一晩培養した細菌を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(PMSF 1mM、E-64 1μM、ペプスタチンA 1μM、ベスタチン 6 nM、EDTA 100μM)を含み、100mMオクチルβDグルコピラノサイド(octyl βD glucopyranoside)の入ったPBSBに懸濁した。サンプルは4℃で一晩回転させて混合した。その間、100μlのプロテインAが結合したセファロースCL-4B(Sigma)を、20μgのCEACAM1-FcまたはCD33-Fc(コントロール)とともに、4℃で一晩インキュベートし、その後PBSBにて3度洗浄して結合しなかった受容体を除いた。細菌の不溶性物質は、15,000gで30分間遠心分離することで除いた。可溶性抽出物は、それぞれの受容体-プロテインAセファロース複合体と4℃で2時間インキュベートした(受容体コンストラクト1μgに対し5 x108細菌の比率)。50mMオクチルβDグルコピラノサイドとPBSBにより十分に洗浄した後、変性条件下でのSDS-PAGE電気泳動とウエスタンブロッティングにより分析した。
【0064】
CEACAM1-Fcとの共沈降実験において、MX4では約97kDaのタンパク質が強く染色され、MX3では約92kDaのタンパク質が相対的に弱く染色された。共沈降されたタンパク質の分子量は、受容体オーバーレイ実験(図3)でみられたそれに対応した。CD33-Fcによって共沈降したタンパク質はなかった。共沈降したタンパク質はさらに、抗UspA1ペプチド抗体に結合したことから、UspA1と特定された。加えて、ゲルから切断して、MX4のタンパク質をMALDI-TOF質量分析に供した(以降参照)。
【0065】
〈MALDI-TOF質量分析によるCEACAM1リガンドの特定〉
(a)ウエスタンオーバーレイサンプル。MX2とMX3のホールセルライセートをトレンチゲルのSDS-PAGEに供し、CEACAM1-Fc結合リガンドに対応するタンパク質バンドをゲルから電気溶出した。サンプルを濃縮し、2つめのゲルの1レーンに移し電気泳動を行った後、タンパク質のゲル内トリプシン消化を行った。生成したペプチドをMALDI-TOF質量分析によって分析した。MX2のCEACAM結合タンパク質のマススペクトルの1例を示した(図4a)。得られたペプチド分子量をProFoundタンパク質特定サイトに入力し、このタンパク質に対する結果を得た(図4b,c)。この場合、10個のペプチドの分子量が、M. catarrhalisのUspA1のトリプシン処理による予想されるペプチドの分子量と一致し、それはタンパク質の約18%に及んだ(図4d)。2.34というZスコアの推定値は、UspA1であることを強く示唆する(1.65より大きいZスコアは、95%以上である。http:/129.85.19.192/profound_bin/webProFound.exe)。加えて、その他のMX2の非結合性の高分子量のバンドは、同様の分析によりUspA2と特定された。MX3も同様にし、CEACAM1結合、非結合タンパク質は、それぞれUspA1とUspA2と特定された。
【0066】
(b)共沈降サンプル:MX4においてもまた、CEACAM1-Fc共沈降タンパク質(上述のとおり)はMALDI-TOF MSにより全分類検索においてZスコア2.27を示して、UspA1と特定された。
【0067】
それゆえ、本研究において、Moraxella catarrhalisは、記述したような参考株と臨床株において、高分子量タンパク質UspA1を介してヒトのCEACAM1を標的とすることを特定した。
【0068】
〈UspA1の酵素分解と組み替えペプチド〉
(a)UspA1のトリプシン処理ペプチドはCEACAM1-Fcに結合する。
【0069】
MX2細菌懸濁液(1010ml-1)を0.1-1mg/mlの濃度のトリプシン(Sigma)にて処理し、37℃で1-4時間インキュベートした。分解したライセートをSDS-PAGE緩衝液にて分離し、煮沸し電気泳動した。ニトロセルロースに転写した後、ブロットを受容体コンストラクトCEACAM1-Fcで、またはアフィニティ精製した抗UspA1ペプチド抗体で覆った。受容体と反応した小断片は抗UspA1特異抗体とも結合した(図5)。
【0070】
(b)M. catarrhalis MX2株のUspA1のCEACAM結合ドメインの位置
MX2細菌懸濁液を1mg/mlのトリプシンにて37℃で10分間処理した。
【0071】
トリプシン処理したサンプルをSDS-PAGEゲルで泳動した。染色後、50kDaの領域を一晩電気溶出した。電気溶出したタンパク質を凍結乾燥し緩衝液に再懸濁し、二つ目のゲルに供した。ゲルの一部をニトロセルロースにブロットし、CEACAMと反応するペプチドをCEACAM1-Fcを用いたウエスタンブロッティングにて特定した(図7)。
【0072】
約50kDaと約150kDaに相当するペプチドバンドをN末端配列決定に供した。N末端の配列はALESNVEEGL(SEQ ID NO:4)(約50kDaペプチド)とALESNV(SEQ ID NO:7)(約150kDaペプチド)であった。150kDaのタンパク質は、同じN末端配列を有すことから、おそらく50kDaのタンパク質の三量体と考えられた。MX2のUspA1のこのペプチドのN末端配列は図8に示した。
【0073】
(c)組み換えペプチド
図6に示した配列の残基1から449のアミノ酸配列を含むよう構築されたN末端組み換えMX2ペプチドはCEACAMに結合しない。このことはさらに、図8に示した残基463から863のアミノ酸配列を含み、N末端配列がALESNVEEGL(SEQ ID NO:4)である約50kDaのトリプシン処理ぺプチドがCEACAM結合ドメインを含むことを意味する。
【0074】
[実施例2]
[粘膜性病原体の多重病原性の決定因子における受容体結合ドメインの特定]
N. meningitidisとH. influenzaはリガンドを介してヒトのCEACAM分子をターゲッティングするが、CEACAMのオーバーラップする配列に対して結合する。本発明のMxリガンドもまたNドメインをターゲッティングする。これらの発見は、いくつかの粘膜性病原体のリガンドにおいて同様な特徴が、受容体のターゲッティングに関与するという刺激的な可能性を指し示す。
【0075】
NmとHiのCEACAMとの相互作用は表面に発現する可変ドメインの構造的特徴に影響されることから、それらが空間的形状にとって決定的な同様のアミノ酸配列を含み、受容体に結合可能となり、それらがその他の可変性タンパク質に保存されていることが示唆される。たしかに我々や我々以外の研究から、Opaの2つの高度可変性ループ(HV1とHV2)がCEACAMのターゲッティングに関与することが示唆されている9,18。リガンドと受容体間の相互作用の考えられる決定因子を特定できる力強い技術のひとつに、アプタマー(リガンド結合を阻害する本来の構造により強く関連した配列20)はもちろんミモトープ(結合ドメインを擬態するランダムな配列19)を特定可能なファージディスプレイ法がある。
【0076】
また、CEACAMsに結合するMxリガンドのドメインがその他のCEACAM結合する粘膜性病原体を擬態し、このリガンドの構造的特徴が、NmとHiのリガンドのCEACAMのNドメインターゲッティングに必要な顕著な特徴を特定するために役立つようになることが、本発明により現実的なものとなる可能性が高い。Mxドメインに対する抗体は、受容体の同一、同様または近い位置の領域をターゲッティングできるようなその他のリガンドを特定できる可能性を秘めている。
【0077】
MX2のUspA1の最小限のCEACAM1結合ドメインの特定は既知のタンパク質工学と組み替えDNA技術を用いて行われている。組み換えペプチドは、受容体に結合するMX2のドメインを特定するような上述した受容体オーバーレイ法によってin vitroで検索することが可能である。Hisタグ付加ペプチドはニッケルカラムにより分離可能であり、Hisタグは必要に応じて切り離しでき、さらなる研究のための抗体を得る目的でウサギやマウスを免疫化することに用いられる。
【0078】
生物学的用途のためのペプチドの最適な長さは、受容体結合の抑制といった機能のほかに、免疫学的刺激特性の試験により決定される。
【0079】
[実施例3]
[リガンドとの相互作用に必要な受容体の顕著な特徴]
CEACAMのNドメインはOpaタンパク質との相互作用を行うのに十分であるため、本発明者らはCEACAMのNドメインの接着性のエピトープをさらに調べるためファージディスプレイ法を用いている。本発明者らにより研究された受容体のアラニンスキャニング突然変異誘発(alanine scanning mutagenesis)により得られた、受容体におけるリガンド結合領域の知識は、本研究を後押しした。この場合においてもまた、リガンドオーバーレイ法が、受容体配列をもつキメラファージのバイオパニング(biopanning)(アフィニティ濃縮)に用いることが可能である。
【0080】
受容体の相同体は、生産するOpaの型とは無関係に多数の種を抑制する可能性を秘めている。というのは、我々の研究から、病原体の違いに関わらず、異なるOpaタンパク質が初期の接着において受容体の共通した特徴を必要とすることがすでにわかっているためである9。CEA抗原が腸粘膜から放出され、CEACAMsを標的とすることで知られるE. coliの接着を阻害するということはまた興味深い。これは、生得免疫と腸内病原体が対抗する機構と提案されている12。このように、これらの受容体相同体は治療薬として機能する。
【0081】
[実施例4]
[組み換えCEACAM結合Moraxella catarrhalis UspA1ペプチドの生産]
〈概要〉
UspAの全長に沿ったいくつかの断片のPCR増幅は、図9に示したプライマーを用いて行った。組み換えタンパク質を後述する方法にて得た。一巡目にて、CEACAM1に結合する組み換えペプチドは、プライマーP4とP8にて増幅されたDNAにコードされ、P1とP5間の領域にはコードされないことがわかった。そのうえ、組み換えP4-P7はCEACAMに結合するがP6-P8は結合しなかった。追加のプライマーをP4とP7の領域に用いた。領域D-7はCEACAM結合能を保持した。断片4-7の配列を図10に示した。
【0082】
〈組み換えUspA1ペプチドの一般的クローニング、発現、精製方法〉
UspA1断片1-5はpBADシステムを用いて作製した。必要なPCR産物をpBADベクターにTAクローニングし、E. coliのTOP10株にて増幅した。残りの手順は、pBADをアラビノースにより誘導する例外を除いて、図11に示した。断片4-7は、pBADとpQE30(図11)システムの両方をもちいて作製し、同様にCEACAM結合能をもつ産物を得た。残りの断片は図11に示した方法を用いて作製した。
【0083】
〈ベクターとpQE30発現システム〉
ベクターpQE30(図12)を、E. coli M15株と組み合わせて用いた。M15はpQE30に組み込まれたDNAの転写を制限するリプレッサーをコードするpREP4プラスミドを保持している。1mMのIPTGの添加にて、このリプレッサーの発現が抑えられ、そのためpQE30内のクローン化した断片の転写が行われる。
【0084】
〈クローニング方法〉
まず、PCRアンプライマー(amplimer)をpCR2.1に組み込んだ。これにより、制限酵素(BamHI/PstI)による切断によりアンプライマーが復帰するような、安定したホストが得られ、遺伝子断片の両端が切断されることを保証する。pQE30を同様に切断しゲル精製により回収し、これにより制限酵素サイトの両方が切断されたこともまた保証された。切断したpQE30とUspA1アンプライマーをT4 DNA リガーゼで、16℃で一晩結合させ、CaCl2コンピテントE. coli M15に形質転換した。形質転換体をアンピシリン(100μg/ml)とカナマイシン(25μg/ml)を添加したLB寒天培地にて選択した。4-8コロニーをひろい、抗生物質を含んだLB培地にて生育した。3-4mlの培養液の細菌を遠心分離により回収しアルカリ溶解ミニプレップ法に供した。精製したベクターを上記方法にて切断しuspA1が組み込まれていることを確認した。正しいサイズの挿入部位を含むpQE30をもった細菌を50ml培養液にて生育し、IPTGにより誘導をおこなった(下記参照)。そして、ウエスタンブロッティングにより組み替えタンパク質の生産を調べた。加えて、挿入部位がDNAの正しい領域であることの決定と何らかの配列エラーがないかを調べるため、ベクターの列決定を行った。
【0085】
〈発現と精製〉
pQE30/uspA1コンストラクトを持つM15をLB培地(100μg/mlのアンピシリンと25μg/mlのカナマイシンを添加)にてOD600=0.5になるまで振盪し、その後1mMになるようIPTGを加えた。培養液をさらに3-4時間インキュベートし、細菌を遠心分離により回収した。細菌のペレットを緩衝液B(8M urea, 50mM Tris, 10% ethanol, 2% Tween, 5mM imidazole, pH 7)にて1-3時間可溶化し、膜画分を20,000gで20分遠心分離することで除いた。上清をニッケルレジンと、ロータリーミキサーにて1-2時間インキュベートし、ポリプロピレンカラムに通した。保持されたレジンを5-10mlの緩衝液Bにて洗浄し、結合タンパク質を100mMイミダゾールを加えた緩衝液B 0.5mlにて溶出した。溶出タンパク質は、SDS-PAGEにて確認した後、透析にて尿素やその他の塩を除いた。
【0086】
〈組み換え断片〉
A:断片1-5と1-8。
【0087】
pBADシステムで作製したこれらの断片は、CEACAM1に対して、1-5は結合しなかったが、4-8は結合した。
【0088】
B:pQE30システムを用いて作製した、断片4-8、4-8T、4-7、6-8。
【0089】
断片4-8は、rUspA1の最初に作製した断片であり、ブロットオーバーレイ法により高い親和性にてCEACAM1に結合することがわかった。全長の4-8 rUspA1ペプチドに加えて、より小さい切断型のタンパク質がみつかった。このペプチド(4-Tと命名)もまた、CEACAM1に結合し4-8より低いレベルで発現するようであった(図13)。pQE30/4-Tの配列分析から、ミスマッチ(CAAからTAA)により、Q624残基の位置に停止コドンが入っていることがわかった(図10参照)。
【0090】
ペプチド4-7と6-8は、6-8に二つ目のCEACAM結合サイトが生じているという可能性を排除するために作製した。4-Tペプチドから予想されたように、4-7はCEACAM結合を示したが(図13)、6-8はしめさなかった(図14)。
【0091】
C: pQE30システムを用いて作製した、断片D-8、D-7。
【0092】
rUspA1のD-8(図15)とD-7(データは図示せず)の両断片ともCEACAM1結合を示した。
【0093】
〈組み換えペプチド4-7の生物学的活性〉
M. catarrhalisのMX1株と、H. influenzaのRd株は、CEACAM1を形質転換したチャイニーズハムスターの卵巣(Chinese Hamster Ovary, CHO)細胞に結合する。それらの結合は、M. catarrhalisのUspA1組み換えペプチド4-7により阻害されたが、コントロールペプチドには阻害されなかった(図17)。
【0094】
さらなる実験から、組み換えペプチドD-7が、同種、異種両方の細菌のCEACAM1を発現する形質転換CHO細胞への結合を阻害することがわかった(しかし、組み替え6-8、すなわちMX2のUspA1のE659-K863残基は阻害しなかった)(図23)。ペプチドを含まない(カラム1)、コントロールペプチド(2μg/ml、カラム2)、D-7(2μg/ml、カラム3)による前培養の後、細菌を加え1時間培養後、非接着の細菌を洗浄にて除いた。そして、細胞と相互作用した細菌を個々の種に対する抗血清とローダミン融合型二次抗体にて検出した。Mx:Morazella catarrhalis、Nm:Neisseria meningitidis、Hi:Haemophilus influenzae
[実施例5]
[CEACAM1結合ペプチドの特徴決定]
ペプチドD-7が最も結合力のある組み換えペプチドであることがわかった。それゆえ、MX2の領域D-7(142アミノ酸、図16参照)にCEACAM1結合情報が含まれる。
【0095】
切断型ペプチド4-T(197アミノ酸)は弱い結合を保持する(図13)。それゆえ領域D-TはCEACAM1結合能の領域が含まれる。
【0096】
D-7におけるK560Iの1アミノ酸置換によりCEACAM1結合がほとんど消失することがわかった。
【0097】
ペプチドD-8の571-632領域が欠失したペプチド(D-8Δ)は、CEACAM1に結合できなかった。
【0098】
D-T領域にまたがる線状にオーバーラップするペプチド(図19)を作成し、CEACAM1への結合能を調べた。どれもCEACAM1に結合しなかった。
【0099】
〈円偏光二色性分光法〉
ペプチドD-7と変異型D-7(K560I)を円偏光二色性(CD)分光法にて分析した。円偏光二色性スペクトルは、室温にてJobin-Yvon CD6 spectropolarimeterにて得た。0.1mg/mlの組み換えD-7とD-7(K560I)のスペクトルを石英キュベットにて測定した。全てのスペクトルはタンパク質の入ってない緩衝液のスペクトルを減算した8回のスキャンの平均であり、Excel(Microsft Inc.)にてプロットした。
【0100】
得られたスペクトルから、D-7はα-へリックス構造をもち、D-7(K560I)はランダムコイル構造をとることがわかった(図18)。何らかの特別な理論により結合することを考えないとすると、MxのUspA1のCEACAM1結合には、α-へリックスベースの構造、特にコイルドコイル構造が必要とされることが提案される。
【0101】
〈概要〉
上述した結果から、発明者らはMxのUspA1のCEACAM1結合は、α-へリックスベースの構造、特にコイルドコイル構造に加えて、D-7の領域が必要であると結論した。
【0102】
MxのUspA1のCEACAM1結合ドメインがα-へリックスベースの高次構造をとり、それが受容体結合に必要であるという発見は、非常に興味深い。Opaタンパク質は、異なった表面露出のループ構造に生じるCEACAM結合ドメインの提示の慎重な認識を必要とする。本発見からD-7が自発的にリフォールディングを行い、CEACAM結合能を持つことが示唆される。D-7において、コイルド構造は球状のサブユニット構造をもちCEACAM1結合のために適切な高次構造を維持している。D-7ペプチドのこの有利な特徴は、ペプチド、その誘導体、相同体、または断片が、サブユニットワクチンとしての特別な有用性、または治療上の特別な有用性を持ちうる。必要とされるα-へリックスベースの高次構造を持つD-7ペプチドの誘導体は、円偏光二色性分光法での固有な「指紋」スペクトルにて特定できるであろう。
【0103】
[実施例6]
[配列分析]
Mx10株UspA1タンパク質のアミノ酸配列のD-7領域のアラインメントを図20に示した。
【0104】
10株のうち6株が配列決定した領域全体で同一であった。株MX3とMX4では、D-7領域のわかりうる(available)配列全体にわたって100%同一であり、全体の同一性はそれぞれ90.85%と88.03%である。ここにおいて、決定されていなかったMX3とMX4のN末端のそれぞれ13と17アミノ酸を含めて評価している。
【0105】
残りのTTA37とO35Eの2種は図20に示すとおり、D-T領域に欠失がある。D-7において欠落を含んだ全体の同一性がそれぞれ70.4%と50%である。手作業で並べて比べると、TTA37は残りの領域の100アミノ酸で同一であり、O35Eは72アミノ酸中71アミノ酸が同一である(図21)。O35EはCEACAM1に結合しないことがわかっている。TTA37はその確認をすることができない。
【0106】
[実施例7]
[D-7の接着阻害能]
{結果}
Mx、Nm、Ng、Hiの同種と異種に対する抗接着薬剤としてのD-7の可能性を、可溶性の受容体を用いて最初に試験した。CEACAM1-Fc(CC1-Fc)をD-7とプレインキュベートし、ニトロセルロースに転写した2種のMxのホールセルライセートに反応させた。組み換えD-7は、異種株MX1と同種株MX2に対するCC1-Fcの結合を濃度依存的に特異的に阻害した(図24a)。阻害は有意で0.01μg/ml以上にてプラトーに達した。CEACAM1に結合しないことがわかった(実施例5)コントロールペプチド(D-8Δ)ではそのような阻害は見られなかった。そのうえ、多数の細菌種に対する阻害効果もわかった。用いた株の大多数が世界中からの臨床分離株である(方法参照)。有意で特異的な阻害が、D-7ではみられたがD-8Δではみられなかった(図24b)。そしてD-7の遮断効果をC、EACAM1を形質移入したチャイニーズハムスターの卵巣(Chinese Hamster Ovary, CHO)細胞(CHO-CEACAM1)を用いて調べた。可溶性受容体と同様に、Mx、Nm、Hi、のCHO-CEACAM1細胞に対する結合の阻害がD-7とのプレインキュベーションを行うことでみられたが、コントロールペプチドとのインキュベーションの場合にはみられなかった(図25a,b)。細菌のCHO-CEACAM1細胞に対する結合の阻害は濃度依存的であり、MxとHiでは0.1μg/ml以上、Nmでは0.2μg/ml以上にて有意であった(図25b)。ほぼ完全な細菌のCHO-CEACAM1細胞に対する結合の抑止が、約2μg/mlの濃度にて得られた(図25a,b)。得られた阻害の度合いから、仮に本実験で用いた細菌のCEACAM相互作用の特異性が、Nm>Mx>Hiであることが示唆される。CEACAM1に加えて、N. meningitidisは、上皮のCEAやCEACAM6(NCA)を含む、その他のヒトCEACAMファミリーのメンバーを標的化することがわかっている9。これは、CEACAM1を優先してターゲッティングする傾向のあるいくつかのMx株やHi株においても同じである(データは示していない)。D-7(2μg/ml)とのプレインキュベーションを行った場合、CEACAM1、6そしてCEAを発現する形質転換HeLa細胞に対するNm
の結合の阻害が確認された。
【0107】
D-7の有効性をさらにHeLa-CC1Hを用いて調べた。HeLa-CC1Hは、高いレベルでCEACAM1を発現する細胞株で、in vivoの上皮細胞の炎症状態をある程度擬態できる。高い受容体の密度により、カプセルの存在にも関わらず、Opaを発現する細菌は標的細胞に接着できる7。それゆえ、このモデルにより、in vivoでカプセルに覆われピリ繊毛をもち外膜タンパク質のOpcはもちろんOpaを発現するといった表現型を示すNm(h18.18)を用いることもできる15,25。まず、h18.18由来のOpa欠損株のHeLa-CC1H結合を調べたところ、相対的に低い(1細胞当り10-20細菌)ことがわかり、この結合はピリ繊毛の発現のおかげであった。予想通り、h18.18のHeLa-CC1H結合は非常に強まり(1細胞当り100-150細菌)、D-7を事前に、もしくは常に処理すると、ピリ繊毛の寄与にも関わらず、h18.18の細胞接着は非常に減少した(図25d)。それに加え、D-7をCEACAMsを発現することで知られる26ヒト肺上皮細胞株A549において調べた。この細胞はその他のMxリガンドの受容体も発現する27ことから選択した。D-7の細菌の減少の効果を調べた。D-8Δではなく、D-7(2μg/ml)存在下において、Nm、HiとA549細胞の相互作用の劇的な減少がみられた(図25e)。結合の減少は、Mx種においてもみられ、比較して相対的に低いものの、有意であった(図25e)。
【0108】
{方法}
〈細菌分離株と培養〉
MxとNmは10%の加熱したウマ血液を添加したBHI寒天上にて培養し、一方HiはLevinthal base添加のブレイン・ハート・インフュージョン(BHI)寒天上にて培養した。Ng種はGC寒天にて培養した。全ての細菌は、CO2インキュベーターにて37℃で16時間以上培養した。Mx種は、中耳炎とCOPDの症例から得た臨床分離株といくつかの国からの代表的な分離株であった。Eagen、c1、f1はそれぞれb、c、f型のカプセルを持ったHiの株で、Rdはd型由来のカプセルのない株である。A930065とNT1株はNTHiである。A3、F2087、F3035、F1947株は、Hi生物群(biogroup)のアエジプチウス(aegyptius)分離株である。Nm分離株C751A、C751B、C751Dは血清型AのC751株の異なる3種のOpaを発現する分離株である。その他の分離株は続く血清型である:PMC17(A)、C311とMC58(B)、C114(C)、PMC2(29E)、PMC4(W135)、PMC10(Y)。Ng分離株P9-13、16、35はP9の株内のOpa変異株であり、その他の臨床分離株は世界各国から集めた。本実験で用いた大多数の株は、以前に記述している10,26,28
【0109】
〈抗体〉
抗ポリヒスチジンのマウスモノクローナル抗体はQiagenから購入し0.2μg/mlで用いた。Mx、Nm、Hiに対するポリクローナル抗血清は標準的プロトコールに沿って多数の種のホールセルライセートを抗原として用いて、ウサギで産生した。本実験にて用いた抗UspA1抗体(R38)は実施例1と参考文献26に示したとおりである。D-7に対するポリクローナル抗血清はNi-NTAレジン(Qiagen; 一回の免疫化当りペプチド100-200μg)に結合させたペプチドにより免疫化することで作製した。補体は56℃で30分間抗血清を熱処理することにより不活性化した。抗D-7抗体はペプチドD-7を結合させたAminoLink Plusカラム(Pierce)にて、製品プロトコールに従ってアフィニティー精製した。
【0110】
〈可溶性受容体コンストラクトと細胞株〉
本実験で用いた可溶性CEACAM-FcとCEACAM1を形質転換したCHO細胞は以前に記述されている11,9。一連のCEACAM分子を発現するHeLa細胞はWolfgang Zimmerman教授(ミュンヘン大学、ドイツ)とScott Gray-Owen博士(トロント大学、カナダ)からいただき、10%ウシ胎児血清(FCS)を含むRPMI 1640にて培養した。A549ヒト肺癌細胞(Flow laboratories)は10%FCSを含むF12 Ham培地にて培養した。CEACAMを高いレベルで発現するHeLa細胞は、Tet-On(商標)(Clontech)遺伝子発現システムにて作製した。ceacam1遺伝子はpTRE-2hyg応答プラスミド(Clontech)に組み込み、制御遺伝子をもったHeLa細胞(Clontech)にFugene-6(Roche)を用いて形質転換した。形質転換体を400μg/mlのハイグロマイシンを用いて選択した。CEACAM発現を行うそれらの形質転換体を、FACSと限界希釈にて選択した。0.25μg/mlドキシサイクリン下のHeLa-CC1Hクローンが最も高い受容体発現を示した。
【0111】
〈受容体オーバーレイ法〉
これらの実験は以前に記述された方法9をもとに以下に示す変更を加えて行った。阻害実験のためにCEACAM1-Fc(0.1μg/ml)をD-7またはコントロールペプチド(0.001-2μg/ml)と室温で1時間プレインキュベートした。続いてブロットにCEACAM1-Fc(0.1μg/ml)を単独、または記述したペプチドとCEACAM1-Fc(0.1μg/ml)をプレインキュベートして反応させた。または、ブロットを精製したウサギの抗D-7抗体(10μg/ml)で1時間反応させた後、受容体(0.1μg/ml)を反応させた。いずれの場合も、受容体結合の度合いをNIH Scion Imageプログラムを用いた濃度分析にて検出した。
【0112】
〈ペプチドD-7による、細菌のCEACAM発現細胞への接着の阻害〉
集密的な一層の細胞を、2%ウシ胎児血清を添加した199培地にて、ペプチドD-7またはコントロールペプチド(0.1-2μg/ml)存在下、30-60分間37℃で前培養した。一層の細胞は続くペプチドとのプレインキュベーションにて細胞に有害な影響が生じないことを確認した。続いて、一層の細胞を、2%ウシ胎児血清を添加した199培地にて、細胞当り約100-200の割合の細菌を添加して37℃で1時間インキュベートした。非接着の細胞を199培地で4回洗浄して除き、一層の細胞を免疫蛍光検出または、1%サポニンにて溶解し以前に記述されたとおり25に細菌を希釈してプレートアウトしてコロニー形成ユニット(colony forming units,cfu)を検出した。免疫蛍光検出には、細胞を無水メタノールにて10分間固定し、1%ウシ血清アルブミン、0.05%Tweenを含むPBSにて1時間洗浄とブロッキングを行った。接着した細菌は、抗細菌抗血清とローダミン融合二次抗体にて検出した。HeLa-CEACAM発現細胞に接着した細胞の数はオリンパスIX70顕微鏡を拡大率400倍にて直接カウントした。重複した実験からランダムに選んだ20細胞に接着した細菌を数えた後、平均値を求めた。HeLa-CC1Hへの細菌の接着は上述したcfu分析にて検出した。
【0113】
[実施例8]
[抗D-7抗体がMx-CEACAM1相互作用を阻害する]
{結果}
D-7に対するウサギ抗血清は、ホールセルライセートのウエスタンブロットオーバーレイにて、いくつかのMx株のUspA1に交差反応する抗体を含んでいた(データは示していない)。アフィニティー精製した抗体を用いたウエスタンブロッティングから、抗D-7はNmのOpaもしくはHiのP5に結合しないことがわかった(データは示していない)。一連のMx株のホールセルライセートと抗D-7(10μg/ml)をインキュベートした後、CC1-Fcを反応させると、大多数の株で受容体結合に80%を超える顕著な阻害が起こった(図26)。しかしながら、同様の実験でHi、Nm、Ng株では低いレベルの阻害しかみられなかった。このようにD-7に対する抗体はMx感染に対する作用をもつ一方、D-7は幅広いCEACAM標的細菌に対してより一般的な抗細菌ペプチドとなりうる。
【0114】
[実施例9]
[ペプチドD-7による、CEACAM発現ヒト内皮細胞への細菌接着の阻害]
内皮細胞におけるD-7の効果を評価するため、集密した一層のHMEC-1細胞を用いた。ヒト毛細血管内皮細胞をD-7または組み換えコントロール分子(ともに1μg/ml)にて60分間プレインキュベートした。細菌(N. meningitidisのOpaD発現分離株)を細胞当り細菌100個の感染の割合で加え37℃で1時間培養した。その後、非接着の細菌を洗浄にて除き、一層の細胞をメタノールにて室温10分間固定した。接着した細菌はN. meningitidisに対するウサギポリクローナル抗血清と、それに続く抗ウサギTRITC融合二次抗体により検出した。
【0115】
大部分の内皮細胞はペプチドがない場合、接着する細菌は細胞当り30以上であった。コントロールペプチド存在下では、細菌結合の阻害はまったくみられなかった。しかしながら、D-7存在下では、時折1-2個の細菌が結合した細胞があるものの、実質結合は抑止された。
【0116】
このように、D-7は上皮細胞のみでなく内皮細胞に対してもN. meningitidisの接着を仲介するOpa-CEACAMを阻害することができる。
【0117】
[実施例10]
[既知のUspA1タンパク質配列の中の断片”4-T”(MX2のUspA1のアミノ酸残基427-623)配列の保存性]
【表2】

【0118】
すべての全長タンパク質の配列でマルチプルアラインメントを行い、その他の株の対応する断片を特定した
【表3】

【0119】
これらの断片のマルチプルアラインメントは図28に示してある。同一性のパーセンテージは以下に示す。
【表4】

【0120】
領域D-7に関して実施例6で示したとおり、上記の結果から、領域4-Tは異なる種間で高い保存性があり、O35E(85%の同一性)を除いて、調べた全ての株において95%以上の配列同一性であることがわかった。以前に述べたように、O35EはCEACAMに結合しない。従って、図28に示したような配列4-T(427-623)の保存領域を含むか、または前記保存領域から成るペプチドは、病気、特にCEACAM受容体が関係する病気の治療または予防への使用という本発明において望ましいペプチドである。
【0121】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
図6に示した配列において残基527から623の配列、および図28に示した配列アラインメントで同定された保存配列からなる群より選択されたアミノ酸配列を含むか、または前記選択されたアミノ酸配列から成る、単離されたポリペプチド。
【請求項2】
前記保存配列が以下の配列からなる群より選択される請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
QHSSDIKTLK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADLTKDIK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADIAKNQA
DIAQNQT
DIQDLAAYNELQD
QTEAIDALNKASS
TAELGIAENKKDAQIAKAQANENKDGIAK
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NQADIANNI
NIYELA
【請求項3】
切断型UspA1タンパク質である請求項1または請求項2に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
CEACAM受容体に結合する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の単離されたペプチド。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリペプチドと、1以上の薬剤的に容認可能な補助剤、媒介物、賦形剤、結合剤、担体または防腐剤とを含む薬剤。
【請求項6】
感染症の治療または予防のための請求項5に記載の薬剤の使用。
【請求項7】
病気を引き起こす病原体の細胞標的化にCEACAM受容体が関与する病気の治療または予防のための請求項5に記載の薬剤の使用。
【請求項8】
感染症、呼吸器疾患、腫瘍性疾患およびその関連症状、血管新生、虫歯および歯茎疾患の治療または予防のための請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記感染症が粘膜の感染症、または粘膜を介して生じる感染症である請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記感染症がNeisseria meningitidis、Haemophilus influenzaeまたはMoraxella catarrhalisにより引き起こされる感染症である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記感染症がFusobacterium nucleatumにより引き起こされる感染症である請求項9に記載の使用。
【請求項12】
中耳炎の予防または治療のための請求項5に記載の使用。
【請求項13】
治療薬として用いるための新たな阻害試薬の特定のためのスクリーニング法における請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリペプチドの使用であって、前記ポリペプチドを擬態する能力について、または前記ポリペプチドとの相同性について、潜在的治療薬をスクリーニングすることを含む使用。
【請求項14】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリペプチドと、1以上の薬剤的に容認可能な補助剤、媒介物、賦形剤、結合剤、担体または防腐剤とを含むワクチン。
【請求項15】
それを必要としている個体における感染症を治療または予防する方法であって、請求項5に記載の薬剤の有効量を投与することを含む方法。
【請求項16】
実質的に添付図面の図6を参照して明細書中で説明し、かつ前記図に示されたポリペプチド。
【請求項17】
請求項16のポリペプチドを含む、実質的に明細書中に記載された薬剤。
【請求項18】
病気を引き起こす病原体の細胞標的化にCEACAM受容体が関与する病気の治療または予防のための薬剤の製造におけるCEACAM受容体結合リガンドの使用であって、前記リガンドが、図6に示した配列において残基527から623の配列、および図28に示した配列アラインメントで同定された保存配列からなる群より選択されたアミノ酸配列、またはCEACAM受容体結合能を保持するそれらの断片もしくは機能的な等価体を含むか、またはこれらから成る使用。
【請求項19】
保存された配列が以下の配列からなる群より選択される請求項18に記載の使用。
QHSSDIKTLK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADLTKDIK
NVEEGLLDLSGRLIDQKADIAKNQA
DIAQNQT
DIQDLAAYNELQD
QTEAIDALNKASS
TAELGIAENKKDAQIAKAQANENKDGIAK
NQADIQLHDKKITNLGILHSMVARAVGNNTQGVATNKADIAK
NQADIANNIKNIYELA
NQADIANNI
NIYELA
【請求項20】
前記病気が感染症、呼吸器疾患、腫瘍性疾患およびその関連症状、血管新生、虫歯および歯茎疾患から成る群より選択される請求項18または請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記病原体が粘膜に感染する、または粘膜を介して侵入する請求項18から請求項20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記病気を引き起こす病原体が、Neisseria meningitidis、Haemophilus influenzae、およびMoraxella catarrhalisから成る群から選択される請求項18から請求項21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記病気を引き起こす病原体がFusobacterium nucleatumである請求項18から請求項21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
前記病気が中耳炎である請求項22または請求項23に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2012−97099(P2012−97099A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−270450(P2011−270450)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【分割の表示】特願2007−507850(P2007−507850)の分割
【原出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(300002942)ザ ユニバーシティ オブ ブリストル (10)
【Fターム(参考)】