説明

治療用栄養組成物又は組合せ、及びそれらの使用方法

【課題】ミトコンドリア機能を改善する目的のための栄養組成物の提供。
【解決手段】ミトコンドリア機能不全重篤患者に、非経口的に送達される組合せである。組成物は、臨床的に有効になるような十分な濃度の、グルタミン前駆体分子と抗酸化剤とを含む。組合せは、脂質又は炭水化物の非存在下で調製してもよい。食事量が制限される状態の患者に利益を与えるために小容量で調製してもよい。組合せを含む組成物又は単位投与形態、並びに組合せ、組成物、若しくは単位投与形態の投与方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために用いることができる栄養組成物に関する。より具体的には、本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するための、高濃度のアミノ酸、抗酸化物質、又はこれらの組合せを含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養失調と免疫状態との変化の関係については長年認識されてきた。さらに、ある種の救命救急診療における状況によっては、栄養不足を悪化させて、患者の免疫機構を低下させ、且つ感染合併症、臓器機能不全、及び死をもたらす危険性がより高くなる。結果的に、ここ数十年の間、グルタミン、アルギニン、オメガ−3脂肪酸、その他の栄養素の免疫調節の特性について実験的研究が行われてきた。これらの栄養素が1又は2以上補完された栄養処方がいくつか開発されており、現在利用可能である。「免疫増強栄養法(immunonutrition)」、「免疫増強食(immune-enhancing diets)」、及び他の用語がこれらの製品を表現するために用いられてきた。残念ながら、救命救急診療の場において、かかる栄養素が重要な臨床結果をもたらす効果について、十分な科学的な理解がないまま、これらの製品の開発が行われてきた。
【0003】
様々な基質又は栄養素の治療での有益な点は、宿主に内在する病態生理によって、並びに基質が、細胞免疫機能、及び/又は炎症性メディエーターの合成、及び/又は活性酸素種(ROS)の産生、及び/又はミトコンドリア機能に、基質が影響を与えるものか否かによって、変化するものとなろう。最低レベルの主要な栄養素(グルタミン、アルギニン、及びオメガ−3脂肪酸)が、免疫能力に必要とされる。しかしながら、特に、アルギニンは過剰な一酸化窒素(NO)を産生し、オメガ−3脂肪酸はエイコサノイド合成を行うので、過剰量のこれらの栄養素は免疫抑止効果をもたらすこともあり、臨床結果を悪化させることもある。
【0004】
このようにいろいろな、変化に富んだ治療反応があるので、外科患者(若しくはAIDS、肥満、その他の患者)の免疫増強栄養法の臨床試験をもってして、重篤患者の結果に一般化することはできない。一般的には、待機的手術(elective surgical)患者では、サイトカインの活性化は最小となり、細胞防御機能がある程度抑制され、後天的感染症罹患及び死亡率が高くなる外科的ストレスをもたらす。その結果、細胞防御システムを刺激する栄養素は、待機的手術患者の感染合併症を減らすかもしれない。対照的に、重篤な病気に関連する全身性炎症反応に対する付随する変化は、より激しく、複雑であり、変わりやすく、明確に定義されていない。
【0005】
推奨されている非経口的な栄養摂取又は微量栄養素の標準投与量は、健常者の所要量と代謝に基づいているので、重篤患者にはほとんど意味をもたないものである。ビタミンC、ビタミンE及びセレンは大量投与されると、いくぶんかの自動酸化促進剤(pro-oxidant)としての特性を示す(Abuja PM: When might an antioxidant become a prooxidant? Acta Anaesthesiol Scand 1998; 42 (Suppl 112):229-230;Spallholz JE: The negative effects of excessive amounts of naturally occurring selenium. The Selenium-Tellurium Development Association 1998, February)。それゆえ、量が多ければよい結果を生むということには必ずしもならない。臨床結果に有益な効果をもたらす微量栄養素の所望の投与量を決定するための調査がさらに必要であり、特に、グルタミンと組み合せる場合に必要となる。さらに、溶解度及び安定性が制限されている問題があるため、重篤患者、特に食事量が制限される患者(patients with volume-restricted conditions)に多量の遊離グルタミンを提供するには、いくつかの困難がある。
【0006】
ミトコンドリア機能障害は、様々な要因により、重篤患者にとって問題となりうる。かかる要因の例としては、活性酸素種(ROS)による損傷又は、治療用化合物の有毒な副作用を挙げることができるが、これらに限定されない。ガン患者などの別の患者群は、ガン治療プロトコールの副作用として、ミトコンドリア機能障害を経験する場合もある。AIDS/HIV患者などの別の患者群は、抗ウイルス治療プロトコールの副作用としてミトコンドリア機能障害を経験する場合もある。さらに、ミトコンドリア機能障害に遺伝的に罹患しやすい別の患者群もある。したがって、ミトコンドリア機能を改善する方法は、重篤患者及びミトコンドリア機能障害に罹患している患者に利益をもたらすことができる。
【0007】
それゆえ、主要栄養素と、重篤疾患の治療又はミトコンドリア機能の改善のために、有益な結果を提供できる、かかる主要栄養素の送達経路とを決定する必要がある。
【非特許文献1】Abuja PM: When might an antioxidant become a prooxidant? Acta Anaesthesiol Scand 1998; 42 (Suppl112):229-230
【非特許文献2】Spallholz JE: The negative effects of excessive amounts of naturally occurring selenium. The Selenium-Tellurium Development Association 1998, February
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の総説)
本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために、用いることができる栄養組成物に関する。より具体的には、本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するための、高濃度のアミノ酸、抗酸化物質、又はこれらの組合せを含む組成物の使用に関する。
【0009】
本発明の目的は、改良された治療用の栄養組成物、治療用の栄養組合せ、又はそれらの使用方法を提供することである。
【0010】
本発明の態様においては、組成物は、短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり約35〜約380グラム、又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテン、及びこれらの組合せからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物として提供される。
【0011】
上記組成物は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために、非経口的に送達することができる。
【0012】
本発明の態様においては、単位投与形態は、合計容積が約50〜約1000ミリリットルであって、短鎖ペプチドとして提供される、溶液1リットルあたり約35〜約380グラム、又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテン、及びこれらの組合せからなる群から選択される抗酸化剤とを含む単位投与形態として提供される。
【0013】
上記単位投与形態は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために非経口的に送達することができる。
【0014】
本発明の態様においては、組合せは、短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり約35〜約380グラム、又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテン、及びこれらの組合せからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組合せとして提供される。いくつかの実施例では、組合せの構成要素(component)は、同時に送達されるが、別の実施例では、構成要素は、別々の時期に送達される。いくつかの実施例では、組合せの構成要素は、同じ投与方法で送達されるが、別の実施例では、構成要素は、異なる投与方法で送達される。
【0015】
上記の組合せは、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために非経口的に送達することができる。
【0016】
ある実施例では、単位投与の合計容積は、約50〜約1000ミリリットル、又はその間の任意の範囲若しくは量でよい。例えば、合計容積は、約200〜約500ミリリットルでよい。別の実施例では、合計容積は、約1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、250、200、150、100、若しくは50ミリリットル、又はその間の任意の容積でよい。
【0017】
ある実施例では、セレンは、溶液1リットルあたり、約400〜約10000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度で使用できる。例えば、セレン濃度は、1リットルあたり約1000〜約4000マイクログラムでよい。別の実施例では、セレンは、溶液1リットルあたり、約400、600、800、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、8000、9000、若しくは10000マイクログラム、又はその間の任意の濃度で使用できる。
【0018】
ある実施例では、グルタミンは、溶液1リットルあたり、約35〜約380グラム、又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度で使用できる。例えば、グルタミン濃度は、溶液1リットルあたり約50〜約150グラムでよい。別の実施例では、グルタミンは、溶液1リットルあたり、約35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、115、120、125、130、135、140、150、160、170、180、190、200、250、300、若しくは350グラム、又はその間の任意の濃度で使用できる。
【0019】
ある実施例では、本発明の組成物、組合せ、単位投与形態は、脂質又は炭水化物を存在させずに調製してもよい。
【0020】
本発明の一態様においては、治療を必要とする重篤患者に、本発明の組成物又は組合せを投与することを含む、重篤患者の治療方法を提供する。例えば、本発明の組成物は、体重1kgあたり約0.3gのグルタミン〜約0.9gのグルタミン、又はその間の任意の範囲若しくは量が、一日量として非経口的に患者に投与される。別の例では、本発明の組成物としては、約400〜約2000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量のセレンが、一日量として投与される。
【0021】
本発明の一態様においては、治療を必要とする患者に、本発明の組成物又は組合せを投与することを含む、ミトコンドリア機能を改善する方法を提供する。例えば、本発明の組成物は、体重1kgあたり約0.3gのグルタミン〜約0.9gのグルタミン、又はその間の任意の範囲若しくは量が、一日量として非経口的に患者に投与される。別の実施例では、本発明の組成物としては、約400〜2000マイクログラム、又はその間の任意の範囲若しくは量のセレンが、一日量として投与される。いくつかの実施例では、患者は、ミトコンドリア機能障害に関連した細胞変性を起こしていることもある。
【0022】
本発明の利点は、組成物は、少量で処方することができ、それゆえに食事量が制限される状態の患者に投与できることである。
【0023】
本発明の総説は、必ずしも本発明の特徴のすべてを記載しているわけではない。
【0024】
本発明の上述の特徴及び他の特徴は、添付の図表により参照される、後述の記載によりより明らかとなるであろう。
【0025】
(発明の詳細な説明)
本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するために用いることができる栄養組成物に関する。より具体的には、本発明は、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能を改善するための、高濃度のアミノ酸、抗酸化物質、又はこれらの組合せを含む組成物の使用に関する。
【0026】
下記の記述は、好ましい実施形態を示す。
【0027】
以前に行われたいくつかの無作為の試験では、重篤患者に経腸的に主要栄養素を提供した場合の治療効果を明らかに示すことはできなかった(Novak et al. Glutamine supplementation in serious illness: A systematic review of the evidence, Crit. Care Med. 2002;30;2022-29)。しかしながら、サイトカインと白血球の活性化、及び活性酸素種の形成のソースとしての胃腸管が果たす役割を考慮すると、胃腸管の内腔に直接的に主要栄養素を提供することは筋が通っている。理論に縛られることは望まないが、治療効果が観察されない理由は、経腸的に提供され、経腸的栄養製品と組み合さった場合、病人は、経腸栄養を受け入れる(tolerate)のが難しく、それゆえ、主要栄養素を摂取することが制限されるのかもしれない。いくつかの実施例では、本発明は、例えば脂質や炭水化物のような栄養サプリメントに一般的に含まれる主要栄養素の存在を必要とせずに、高濃度の主要栄養素を非経口的に送達することで、経腸的(若しくは非経口的)な栄養素の供給とこれらの主要栄養素の供給とを切り離している(dissociate)。しかしながら、かかる主要栄養素は、特定の患者又は患者群に利益をもたらすために、本発明の組成物と併せて、又は添加して使用することができる。
【0028】
本発明の態様においては、短鎖ペプチドとして提供される、溶液1リットルあたり約35〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、セレン、ビタミンC、亜鉛、ビタミンE、ベータカロテン、及びこれらの組合せからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物に関する。ある実施例では、2以上の抗酸化剤を選択してもよい。いくつかの実施例では、組成物は、患者に非経口的に送達することができる。さらに、別の実施例では、組成物は、重篤患者を治療するために用いることができる。さらには、組成物は、ミトコンドリア機能障害を罹患している患者のミトコンドリア機能障害を治療するため、又はミトコンドリア機能を改善するために用いることができる。本発明のいくつかの実施例では、組成物は、重篤患者及びミトコンドリア機能障害を罹患している患者の両方の治療のために用いることができる。
【0029】
本発明のある実施例では、組成物は、重篤患者又はミトコンドリア機能障害に罹患している患者に非経口的に送達されるものであって、短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり約35〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテン、及びこれらの混合物からなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物である。別の実施例としては、抗酸化剤は、1リットルあたり約1000〜約4000マイクログラムの濃度のセレンであり、グルタミンの濃度は、溶液1リットルあたり約50〜約100グラムである。また別の実施例では、組成物は、2以上の抗酸化剤を含んでもよい。さらに別の実施例では、本発明の組成物を含む単位投与形態は、約50〜約1000ミリリットル又はその間の任意の範囲若しくは量の合計容積を有する。例えば、合計容積は、約1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、250、200、150、100、若しくは50ミリリットル又はその間の任意の容積である。さらに、脂質、炭水化物、又は脂質及び炭水化物の両方が、組成物に存在しないことが好ましい。
【0030】
「重病(critical illness)」、「救命救急診療(critical care)」、「重篤(critically ill)」、又は他のバリエーションは、集中治療室(ICU)での治療が必要な患者、又は瀕死の状態にある、若しくは多臓器機能不全を発症している患者、例えば多臓器機能不全又は多臓器機能不全に関連する兆候を示している患者に関するものであることが、当業者には理解されるであろう。
【0031】
理論に縛られることは望まないが、活性酸素種(ROS)は、重篤な病気で基礎となる病態生理で重要な役割を果たすものであると考えられる。ROSは、細胞の構成要素に直接的なダメージを与えるだけでなく、炎症カスケードをさらに活性化するサイトカインの放出を誘発する(Grimble RF. Nutritional Antioxidants and the modulation of inflammation: Theory and practice, New Horizons 1994;2: 175-185)。フリーラジカルは、炎症性サイトカイン(例えば、TNF、IL−1、IL−6、IL−18)を放出する、常在のマクロファージ又はクッパー細胞を活性化することができる。これらの炎症促進性(pro-inflammatory)メディエーターは、順々に、炎症細胞(単球及び白血球)の活性化と細胞組織及び臓器への流入とを誘発するものであり、且つ直接的にミトコンドリア機能障害を引き起こし、虚血、細胞障害を起こすこともある。さらに、活性化されたクッパー細胞もまた、大量の酸素フリーラジカルを産生し、かかる酸素フリーラジカルによって、炎症の悪循環、細胞活性化、及びROS産生が生じる。
【0032】
非常に単純化されたモデルでは、微生物の侵入に対する宿主反応は、2つに分類される。即ち、1)先天性(非特異的)免疫と適応(特異的)免疫との両方を含む細胞防御、及び2)全身性炎症反応である。細胞防御機能は、多形核(polymorphonuclear)の顆粒球(granulocytes)、マクロファージ、及びリンパ球、並びにこれらの増殖様式のすべての機能を含む。一方、全身性炎症反応は、免疫適格細胞(immune competent cells)により誘発され、細胞組織レベルで主に働く。全身性炎症反応は、メディエーター、フリーラジカル、並びに代謝作用、内皮細胞、血小板、及び血管系と気管支系の平滑筋に対して活性化した免疫細胞の作用により特徴づけられる。
【0033】
様々な基質又は栄養素の治療効果は、患者に内在する病態生理、又は、基質が細胞免疫機能、炎症性メディエーターの合成、ROSの産生、ミトコンドリア機能、又はこれらの組合せに影響を与えるか否かによって、変化するものとなろう。例えば、アルギニンの場合は過剰な一酸化窒素(NO)の産生、オメガ−3脂肪酸の場合はエイコサノイド合成により、これらの栄養素の量が過剰になると免疫抑止効果を有することもあり、臨床結果を悪化させることになるかもしれない。別の例としては、全身性炎症反応をさらに刺激する栄養素は、重篤患者では有害となりうる。理論に縛られることは望まないが、重篤患者は、同一の患者又は患者群に共存する、過剰炎症(hyperinflammation)と細胞免疫機能障害によって特徴付けられるように思われる。したがって、重篤患者にとっては、炎症反応を付随して増大させることなく、細胞防御(特異的及び非特異的免疫機能)を増強し、活性酸素種を改善する栄養素が望まれる。
【0034】
本発明のある実施例では、グルタミン、抗酸化剤、又はこれらの組合せを提供し、過剰炎症、細胞免疫機能障害、又は酸化的ストレスなどを減少、軽減することにより、重篤患者に利益をもたらす場合もある。さらに、重篤患者と同様その他の患者群、例えばガン患者又はAIDS患者もミトコンドリア機能の改善の利益を享受しうる。
【0035】
本発明の一態様においては、組合せは、短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり約35〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、及び1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテンからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物として提供される。ある実施例では、組合せはグルタミンと2以上の抗酸化剤を含むこともある。
【0036】
いくつかの実施例では、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せを、重篤患者の治療のために非経口的に送達してもよいが、別の実施例では、組合せを、ミトコンドリア機能を改善するために非経口的に送達するために用いてもよい。
【0037】
組合せの構成要素は、同一の組成物で処方される必要はない。ある実施例では、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せを、同一の組成物で処方してもよいが、別の実施例では、グルタミンと抗酸化剤を、別の組成物で処方してもよい。さらに別の実施例では、グルタミンと抗酸化剤の用量の一部分を、同一の組成物で提供し、残りの部分を別の組成物で提供してもよい。
【0038】
組合せの構成要素は、同一の投与方法を用いて送達する必要はない。ある実施例では、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せを、同一の投与方法を用いて送達してもよいが、一方でグルタミンと抗酸化剤を含む組合せを、別の投与方法を用いて送達してもよい。ある実施例では、グルタミンと抗酸化剤は、非経口的に送達される。別の実施例では、グルタミンは、非経口的に送達される一方、抗酸化剤は、経腸的に送達される。さらに別の実施例では、グルタミンと抗酸化剤の投与の一部分を、同一の投与方法(例えば、非経口的に)で提供し、残りの部分を、別の投与方法(例えば、経腸的に)で提供してもよい。
【0039】
ある実施例では、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せは、同時に送達されるのに対し、別の実施例ではグルタミンと抗酸化剤は、別の時に送達される。別の実施例では、数日間に及ぶ治療プロトコールにおいて、グルタミンと抗酸化剤は、一定期間の間に同時に送達してもよいし、別の期間に別々に送達してもよい。グルタミンと抗酸化剤は、毎日(24時間ごとに)送達されるのが典型である。しかしながら、便宜上、効率上、実用上、当業者であればグルタミンと抗酸化剤の組合せを、様々な時間ごと、例えば、これらに限定されないが、72時間、48時間、36時間、24時間、12時間、6時間、若しくは3時間、又はその間の任意の期間ごとに容易に投与することができる。
【0040】
ROS、若しくは酸素フリーラジカルの活性の弊害の一つは、ミトコンドリアDNA(mtDNA)への直接的な損傷である。mtDNAの損傷の蓄積は、細胞の効果的な酸化的リン酸化反応を不可能とし、それにより生体エネルギーが欠乏する細胞としうる。時間の経過とともにミトコンドリアDNAの損傷は蓄積し、ミトコンドリアと細胞の機能障害を誘因し、その後潜在的に臓器不全、及び最終的には死を招くおそれがある。さらに、高齢の患者では、酸化を保護する(oxidant-protective)酵素である、スーパーオキシドジスムターゼ及びカタラーゼの減少がしばしば観察される。それに応じて、多くの患者で、ROSの悪影響は、ROSからの防御を必要とする酵素とミトコンドリア代謝産物の同時減少を伴うことがある。
【0041】
ミトコンドリアは、哺乳類の生命を維持するのに必要なエネルギーの90%以上を産生する。したがって、ミトコンドリア機能障害は細胞の維持能及び再生能を妨げる場合もあり、細胞死を招くことさえある。
【0042】
ミトコンドリア機能障害は、有害な結果を導くことが知られており、例えば、カルシウム緩衝作用障害(impaired calcium buffering)、フリーラジカルの生成、ミトコンドリア透過性遷移の活性化、及び二次的興奮毒性を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0043】
アメリカの統合ミトコンドリア病財団(United Mitochondrial Disease Foundation, Inc.)(www.umdf.org)によると、ミトコンドリア機能障害は、脳、心臓、肝臓、骨格筋、腎臓、並びに内分泌系及び呼吸器系の細胞に最もダメージを与えることが観察されている。神経、膵島細胞、心臓細胞及び筋肉細胞などの高エネルギーを要求する寿命の長い細胞組織の細胞は、特にミトコンドリア機能障害に対して脆弱である。どの細胞が影響を受けるかによるが、症状の例としては、運動制御の欠如、筋衰弱及び筋肉痛、胃腸障害、嚥下障害、低成長、心臓病、肝臓病、肥満、呼吸合併症、発作、視覚障害、聴覚障害、乳酸アシドーシス、発育遅延及び感染症への感受性増大を挙げることができる。
【0044】
ミトコンドリア機能障害に関連する細胞変性は、様々な病気の重要な要因となる。ミトコンドリア機能障害が、いくつかの病気の重要な要因であることは知られており、例としては、進行性小児ポリオジストロフィー(アルパース病)、NADHデヒドロゲナーゼ(NADH−CoQレダクターゼ)欠乏症(複合体I欠乏症)、ユビキノンシトクロームCオキシドレダクターゼ欠乏症(複合体III欠乏症)、呼吸鎖の複合体IVの欠損により引き起こされるシトクロームCオキシダーゼ欠損症(複合体IV欠損症、COX欠損症)、慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、キーンズ・セイアー症候群(KSS)、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、ミオクローヌス癲癇(Myoclonic Epilepsy)及び、赤色ぼろ線維病(Ragged-Red Fiber Disease)(MERRF)、神経障害(Neuropathy)、運動失調(Ataxia)、及び網膜色素変性症(NARP)を挙げることができるが、これらに限定されない。さらに別の変性疾患が、米国特許出願公開20020173543号(出願日2001年12月14日)に記載のとおり、ミトコンドリア機能障害に関連することが知られており、かかる疾患としては、アルツハイマー病、真性糖尿病、パーキンソン病、ニューロン虚血及び心虚血、ハンチントン病、及び他の関連のポリグルタミン病、脊髄と延髄の筋萎縮症(spinalbulbarmuscular atrophy)、マチャド−ジョセフ病(SCA−3)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubro-pallidoluysian atrophy)(DARPLA)、及び脊髄小脳失調(spinocerebellar ataxias)、筋失調症(dystonia)、レーベル遺伝性視神経症、統合失調症(schizophrenia)、並びにミトコンドリア脳症(encephalopathy)、乳酸アシドーシス、及び脳卒中(MELAS)などの筋変性(myodegenerative)障害を挙げることができる。さらに、ミトコンドリア機能障害は、例えばガン治療、又はエイズやHIVの患者の抗レトロウイルス薬による治療などの治療上の措置において有毒な副作用を起こす可能性がある。例えば、ほとんどの抗生物質(テトラサイクリン、エリスロマイシン、及びクロラムフェニコールが含まれるが、これらに限定されない)、及び抗ウイルス剤は、ミトコンドリア機能障害を起こしうる。したがって、本明細書に記載されている組成物、組合せ、又は単位投与形態は、ミトコンドリア機能障害と一般に関連した、さまざまな遺伝的疾患及び後天的疾患による様障害を治療するのに有用となる。
【0045】
米国特許出願公開第20020173543号は、ミトコンドリア機能障害の様々な結果を記載しており、例としては、(i)ATP産生の減少、(ii)高活性のフリーラジカル(例えば、スーパーオキシド、ペルオキシ亜硝酸(peroxynitrite)及びヒドロキシルの各ラジカル、並びに過酸化水素の生成の増加、(iii)細胞内部のカルシウムのホメオスタシスの妨害、(iv)アポトーシスカスケードを開始させる要因の放出、を挙げることができるが、これらに限定されない。米国特許出願公開第20020173543号は、ミトコンドリアの完全性(integrity)のアッセイ法をいくつか記載しており、例としては、(i)2−、4−ジメチルアミノスチリル−N−メチルピリジニウム(DASPMI)を用いた、ミトコンドリア透過性転移(MPT)アッセイ法、(ii)ミトコンドリア保護剤で処理した細胞のアポトーシスのアッセイ法、(iii)単離したミトコンドリアの電子伝達系のアッセイ法、を挙げることができる。本明細書に記載されているように、ミトコンドリアDNAと核DNAのレベルを、ミトコンドリア機能をアッセイするために比較することができる。さらに別のアッセイ法が、当業者に知られている。
【0046】
本発明者らは、グルタミン、抗酸化剤、又はこれらの組合せが、ミトコンドリア機能を改善することができ、重篤患者、及び、例えばガン患者若しくはある種の神経変性病に罹患している患者等別の患者グループにも、利益をもたらすことができることを見い出した。
【0047】
アミノ酸のグルタミンは、体内で窒素輸送の中心的役割を果たし、急速に分裂する細胞、特にリンパ球の燃料であり、グルタチオンの前駆体であり、且つ他の多くの代謝機能を有する。通常の生理条件下では、グルタミンは、ヒトの体内で多量に合成されるので、必須アミノ酸ではないと考えられている。
【0048】
グルタミンは、異化病(catabolic disease)の患者では、条件によっては必須アミノ酸となることもある。いくつかの研究では、過激な運動後、大手術の後(Blomqvist BI, Hammarqvist F, von der E, Wernerman J: Glutamine and alpha-ketoglutarateprevent the decrease in muscle free glutamine concentration and influence protein synthesis after total hip replacement, Metabolism 1995;44:1215-1222)、及び重篤な病気の間に(Parry-Billings M, Evans J, Calder PC, NewsholmeEA: Does glutamine contribute to immunosuppressionafter major burns? Lancet 1990;336:523-525)、グルタミンのレベルが減少することが示されている。
【0049】
動物での研究では、グルタミンの欠乏は、腸内上皮の完全性(intestinal epithelial integrity)の欠如に関連する一方、グルタミンの補給は、完全非経口栄養の間の腸粘膜の萎縮を減少させ、且つ腸内外双方のIgAのレベルを維持する。しかしながら、動物モデルでのバクテリアの移行(translocation)に関しては、非経口的な、又は経腸的なグルタミン補給処方の研究は、入り混じった結果を示した。いくつかの研究では減少したが、別の研究では、何らそのような効果は示されなかった。
【0050】
グルタミンの補給は、胃腸管の構造を維持し、腸透過性を減少させ、骨格筋を維持し、窒素バランスを改善し、及び免疫細胞機能を増強する点で人に利益をもたらすことが示唆されてきた(Novak et al. Glutamine supplementation in serious illness: A systematic review of the evidence Crit Care Med 2002;30;2022-29)。しかしながら、重篤患者のための臨床的に有意な投与と投与の経路は、いまだ確立されていない。さらに、臨床応用での遊離L−グルタミンの使用は、物理的及び化学的特性ゆえに不都合がある。まず、グルタミンは、乾熱滅菌及び長期保存の間に、環化反応及びアンモニア遊離により不安定になる。次に、遊離グルタミンは、水への溶解度が低く(36g/L H0、20℃)、重篤患者、特に食事量が制限される状態の患者に、十分なグルタミンを投与することが難しい。
【0051】
本発明のいくつかの実施例では、前駆体グルタミン分子の形態では、遊離グルタミンのみを用いるよりも、より高い濃度のグルタミンを提供することができる。したがって、本発明の組成物は、溶液1リットルあたり約35グラム〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のグルタミンを含む前駆体グルタミン分子を含む。例えば、グルタミン濃度は、溶液1リットルあたり約50〜150グラムでよい。別の例としては、グルタミンの濃度は、溶液1リットルあたり約35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、115、120、125、130、135、140、150、160、170、180、190、200、220、240、260、280、300、320、340、360、若しくは380グラム又はその間の任意の濃度でよい。
【0052】
グルタミン濃度の上限は、他の要因の中でも、各々の特異的前駆体グルタミン分子の溶解特性により決定できる。例えば、アラニン−グルタミンジペプチドは、20℃で1リットルあたり568gの溶解度を有する。このジペプチドの飽和溶液は、1リットルあたり約380gの濃度でグルタミンを含む。別の例としては、グリシン−グルタミンジペプチドの飽和溶液(20℃で1リットルあたり154gの溶解度)は1リットルあたり約110gの濃度でグルタミンを含む。
【0053】
遊離グルタミンよりも高い溶解度を有する前駆体グルタミン分子を使用することで、グルタミンが補給されている完全非経口栄養に関して、1.5〜2リットルの容積よりも、より小さい容積でより多量のグルタミンを送達できる。本発明の単位投与形態は、合計容積としては、約50〜約1000ミリリットル又はその間の任意の範囲若しくは量が一般的であろう。例えば、合計容積は、約200〜約500ミリリットルである。別の例としては、単位投与形態の合計容積は、約500、450、400、350、300、250、200、150、100、若しくは50ミリリットル又はその間の任意の容積でよい。
【0054】
それゆえ、本発明は、グルタミンの効果的な投与を、より小さい容積で実現することで重篤患者に利益をもたらす。効果的な投与の例は、1日の投与量として、体重1kgあたり約0.3gのグルタミンから体重1kgあたり約0.9gのグルタミン又はその間の任意の範囲若しくは量である。別の例は、体重1kgあたり約0.4gのグルタミンから体重1kgあたり約0.8gのグルタミン、或いは体重1kgあたり約0.5gのグルタミンから体重1kgあたり約0.7gのグルタミン又はその間の範囲であって、任意の投与量で始まるものであり、例えば、体重1kgあたり0.35、0.4、0.45、0.5、若しくは0.55gのグルタミンを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0055】
グルタミンは、患者の体内で、前駆体グルタミン分子から遊離することができる。前駆体グルタミン分子の例としては、アルキル基、カルボキシ基、アセチル基、エステル基、若しくはアミド基で誘導体化されたグルタミンを挙げることができるが、これらに限定されない。前駆体グルタミン分子の好ましい形態は、グルタミンを含む短鎖ペプチドである。短鎖ペプチドの長さは、2残基から約10残基が好ましく、例としては、ジペプチド若しくはトリペプチドを挙げることができる。様々な残基、及び様々残基の長さから構成される短鎖ペプチドの混合物が予想される。例えば、本発明の組成物は、アラニン−グルタミン−グルタミン、グリシン−グルタミン−グリシン、グリシン−グルタミン−グルタミン、グリシン−グルタミン、アラニン−グルタミン、アルギニン−グルタミン、プロリン−グルタミン、セリン−グルタミン、バリン−グルタミン、及びこれらの任意の組合せから選択される短鎖ペプチドを含むことができる。したがって、別のアミノ酸が同様に高濃度になることを必要とせずに、所望の高濃度のグルタミンが得られる。
【0056】
さらに、一緒に用いられるグルタミンを含む短鎖ペプチドにおいて、グルタミンの合計濃度が重篤患者の治療のために十分に高いならば、単一のタイプの前駆体グルタミン、又は異なる前駆体グルタミンの任意の組合せを用いることができる。例えば、アルファ−ケトグルタル酸を、グルタミンを含む短鎖ペプチドと組み合せることができる。別の例としては、カルボキシ基で誘導化された前駆体グルタミン分子は、遊離グルタミンと、2〜5残基の範囲の長さのグルタミンを含む短鎖ペプチドの混合物とを組み合せることができる。
【0057】
当業者であれば、グルタミンを含む短鎖ペプチドを得ることができる様々な原料(source)を認識するであろう。例えば、酵素が触媒するジペプチドの合成は、求電子試薬としてN−末端が保護されたアミノ酸エステルと、求核試薬として遊離グルタミンと、植物フィシン(ficin)プロテアーゼ(Furst P: New developments in glutamine delivery, Amer Soc Nutritional Sci 2001:2562s-2568s)とを用いて行うことができる。また、グルタミンを含む短鎖ペプチドが、例えば、イナゴマメ(carob)のタンパク質(米国特許番号5849335号、1998年12月15日付与)のように、もともとグルタミンに富んだタンパク質の加水分解物から単離できる。またさらに、グルタミンを含む短鎖ペプチドは、認識されているプロテアーゼ切断部位によって分離されるグルタミンを含む配列の繰返し単位を有するタンパク質を調製するために設計された形質転換(transgenic)細胞又は生物から得ることができる(米国特許番号6649746号、2003年11月18日付与)。さらに言えば、グルタミンを含むジペプチドは、市販されており、例えば、ディペプティベン(登録商標)、グラミン(登録商標)、インテスタミン(登録商標)(Fresenius Kabi社製、Uppsala, Sweden)を挙げることができる。
【0058】
ディペプティベン(登録商標)は、グルタミンを含むジペプチド、N(2)−L−アラニル−L−グルタミンである。100mLのディペプティベン(登録商標)は、20gのN(2)−L−アラニル−L−グルタミン(=8.20gのL−アラニン、13.46gのL−グルタミン)を含む。かかるジペプチドは、水に非常によく溶け(20℃で568g/L H0)、乾熱滅菌及び保存の間も安定している。対照的に、遊離グルタミンの物理的及び化学的特性は、(20℃で36g/L H0、溶解度が小さく、保存特性も低い)水溶液中での使用の妨げになる。それゆえ、ala−glnジペプチドは、遊離グルタミンにおける不都合な点がなく、臨床応用で遊離グルタミンの前駆体としての役目を果たす短鎖ペプチドの例としてあげることができるが、これらに限定されない。
【0059】
ディペプティベン(登録商標)は、非経口的に投与でき、静脈内注入(intraveous infusion)が好ましい。静脈内注入の後、ジペプチドala−glnは、速やかに加水分解して、アミノ酸であるL−グルタミンとL−アラニンになる。これは、体内のほとんどすべての部分に存在する高ペプチダーゼ活性により裏付けられる。いくつかの研究では、静脈内注入の後のヒトでのala−glnジペプチドの加水分解は、遊離アラニンと遊離グルタミンの量を測定することによって、実証された。健常者のボランティアに異なる量のala−glnジペプチドをボーラス注入したところ、半減時間が2.4〜3.8分の間であることと、血漿クリアランス率が1.92L/分であることとが報告された。分布(distribution)容積は、細胞外構成部分の容積と同等であった。健常者のボランティアの体重1kgごとに1時間に24mgのala−glnを4時間連続して注入したところ、グルタミンとアラニンの等モル血漿濃度の急速な上昇が観察された。注入時間を通じて、血漿中にはほんの微量のala−glnしか観察されなかった。注入終了15分後にはジペプチドは、もはや血漿中に検出されなかった。さらに、尿中にはala−glnは検出されなかった。他のアミノ酸の濃度には影響がなかった。ala−gln溶液は、耐容性がよく、自覚的不快感は報告されなかった(Albers S, Wernermann J, Stehle P, Vinnars E, Furst P. Availability of amino acids supplied by constant intravenous infusion of synthetic dipeptides n healthy volunteers. Clinical Science 1989;76:643-648)。
【0060】
グラミンは、30.27g/Lのグリシル−L−グルタミン(gly−gln)を含むアミノ酸溶液である。ala−glnジペプチドと同様に、gly−glnは、乾熱滅菌及び保存の間も安定している。gly−glnの溶解度(20℃で154g/L H0)は、ala−glnの溶解度(568g/L)よりも小さいが、遊離グルタミンの溶解度(36g/L)の約5倍である。グラミンは、非経口的に投与されてもよく、静脈内注入が好ましい。
【0061】
いくつかの実施例では、本発明の組成物は、非経口的又は経腸的なサプリメントの組合せで使用されてもよい。例えば、インテスタミンは、経腸的なサプリメントで、ジペプチドとしてグルタミンと、抗酸化剤(インテスタミン100mlあたり、60μgのセレン、4mgの亜鉛、2mgのベータカロテン、100mgのビタミンE、及び300mgのビタミンC)とを含む。推奨一日量(RDD)は、容積500ml未満の栄養素を送達する。結果的に、製品は、経腸的な耐容性が制限され、グルタミンと抗酸化剤の供給が必要である重篤患者の食事療法(dietary management)用に設計された。推奨一日量である500mlは、ジペプチドとして提供される30gのグルタミンを送達する。インテスタミンは、非経口的又は経腸的栄養に対する、経腸的サプリメントとして用いられる。
【0062】
無作為臨床試験の結果からインテスタミンの投与は、安全であり、重症膵炎の患者でも耐容性がよかった。さらに、いくつかの観察による研究により、サプリメントを含む腸内のグルタミンは手術直後の状況で、耐容性がよく、インテスタミンと多量の微量栄養素の供給は、5日間で手術後の低い血漿値を正常に戻すことに関連することが示された(Berger MM, Goette J, StehleP, Cayeux M, Chiolero R, Schroeder J. Enteral absorption of a solution with high dose antioxidants and glutamine early after upper gastrointestinal surgery. ClinNutr 2002, Vol.21, Supplement 1, p17)。
【0063】
本発明の一態様は、抗酸化剤の投与に関連し、例としては、セレン、ビタミンC、亜鉛、ビタミンE、ベータカロテン、又はこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0064】
セレンは、グルタチオンの酵素機能における不可欠な補因子であり、細胞免疫機能に好影響を与える。セレンは、セレノシステインを含む他のセレンタンパク質をとおして、別の効果を与えることもある。哺乳類には、約20の既知のセレンを含んだタンパク質が存在する。セレンは、セレノシステインアミノ酸としてタンパク質に挿入される。これらのタンパク質は、遺伝子発現の制御を含む抗酸化活性、即ち酸化還元安定(redox stabilizing)特性、が新たに発見された、一連のタンパク質である。
【0065】
セレン元素の一日あたりの推奨摂取量は、Pharmacological Basis of Therapeutics, Ninth Edition, page 1540, The McGraw-Hill Companies, 1996に報告されているように1日に10〜75mgの範囲である。セレンをより多く投与すると、重篤患者の治療において、又はミトコンドリア機能の改善のために有意な効果をもたらす。本発明は、重篤患者又はミトコンドリア機能障害を罹患している患者に一日量として、約400〜約2000マイクログラム/日を投与することを含む。投与量は、約400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、若しくは2000マイクログラム/日又はこれらの量の間の任意の投与量が有用である。
【0066】
セレンは、本発明の組成物、組合せ、又は単位投与形態に、セレン元素として、或いはセレン元素の前駆体として、毒性のない有機若しくは無機の塩、キレート又は他のセレン化合物を組み込むことができる。本発明の組成物、組合せ又は単位投与形態中では、セレンを、体内で吸収することができるいくつかの毒性のない、有機若しくは無機セレン化合物の1つとして用いてもよい。
【0067】
無機セレン組成物の例としては、亜セレン酸又はセレン酸のアニオンの形態のセレンを含む脂肪族金属塩を挙げることができる。有機セレン化合物は、一般に無機化合物よりも毒性が弱い。有機セレン化合物の例としては、セレンシスチン、セレンメチオニン、鎖中に、約7から11の炭素原子のあるモノ−、及びジ−カルボン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。セレンアミノ酸キレートも用いてもよい。さらに、市販されているセレン化合物を用いてもよい。
【0068】
本発明の組成物、組合せ、又は単位投与形態は、食事量が制限される状態の患者に対して効果的な投与量を供給するために高濃度のセレンを含む。例えば、セレンは、溶液1リットルあたり、約400マイクログラム〜約10000マイクログラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度である。例えば、セレンの濃度は、1リットルあたり、約1000〜約4000マイクログラムである。セレンの濃度の例としてはさらに、溶液1リットルあたり、約400、600、800、1000、1200、1400、1600、1800、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3200、3400、3600、3800、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、8000、9000若しくは10000マイクログラム又はその間の任意の濃度であるが、これらに限定されない。
【0069】
セレンは、抗酸化剤の1例であるがこれに限定されることなく、重篤患者の治療のため、又はミトコンドリア機能の改善のため、前駆体グルタミン分子と組み合せて用いることができる。本発明の組成物、組合せ、又は単位投与形態は、限定なく、あらゆるタイプの抗酸化剤が含まれる。例えば、抗酸化剤は、セレン、ベータカロテン、ビタミンE、ビタミンC、亜鉛、及びこれらの組合せからなる群から選択されてもよい。セレンの例証として、本発明は、重篤患者又はミトコンドリア機能障害に罹患している患者が、有意な臨床効果を得られるように、推奨許容量(RDA;recommended dietary allowances)又は健常者が耐容できる上限摂取レベル(UL)よりも多い投与量の別の抗酸化剤を意図している。例えば、RDA値とUL値は、ナショナルアカデミーが発行する食事摂取基準報告(Dietary Reference Intake reports)で決定される(報告は、www.nap.eduでアクセスできる)。本発明は、少なくともRDAレベルよりも高い濃度の抗酸化剤を含む。いくつかの例では、抗酸化剤の濃度は、ULよりも高い。
【0070】
ベータカロテンは、脂質抗酸化作用を有する天然プロビタミンAである。また、ベータカロテンは、脂溶性であり、循環脂質(circulating lipids)中で濃縮される。インビトロでは、ベータカロテンは、鎖を切断する例外的なタイプの脂質抗酸化剤である。共役二重結合がたくさんあるため、ベータカロテンは、ラジカルをうまく捕捉する抗酸化剤としてのふるまいを示す。本発明において、ベータカロテンの投与は、1日に10mg〜1000mg又はその間の任意の範囲若しくは投与量で提供してもよい。
【0071】
ビタミンE(アルファ−トコフェロール)は、脂溶性ビタミンである。酸化修飾から脂質を防御する脂質抗酸化剤として、主に機能する。ビタミンEの水溶性誘導体(例えば、開示されている米国特許番号6022867号及び6645514号)は公知であり、水性組成物に使用できる。さらに、安定した水混和性エマルジョンもまた、ビタミンEの溶解度を増加させるために使用できる。本発明において、ビタミンEの投与は、1日に500mg〜3000mgの範囲、又はその間の任意の範囲若しくは投与量で提供してもよい。
【0072】
ビタミンCは、水溶性抗酸化剤であり、コラーゲンの産生に重要な意味を持ち、それゆえ創傷治癒に必要とされる。さらに、ビタミンCは、脂溶性のビタミンAとビタミンEと脂肪酸を酸化〜防御する手助けをする。ビタミンCは、鉄の吸収においても必要とされる。本発明において、ビタミンCの投与は、1日に1000mg〜5000mgの範囲又はその間の任意の範囲若しくは投与量で提供してもよい。
【0073】
亜鉛は、不可欠な微量ミネラルであり、抗酸化作用を有する。亜鉛は、生物細胞(cellular biology)において重要な役割を果たし、転写、翻訳、イオン輸送、その他の重要な細胞内の各過程に実質的に関与する。本発明において、亜鉛の投与は、1日に20mg〜200mgの範囲又はその間の任意の範囲若しくは投与量で提供してもよい。
【0074】
ヒトでは、活性酸素種(ROS)又は活性窒素−酸素種(RNOS)により誘導される細胞傷害から細胞組織を防御するために設計された複雑な内因性(endogenous)防御システムがある。スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、及びグルタチオンペルオキシダーゼ(セレン、亜鉛、マンガン、及び鉄などの補因子を含む)、スルフヒドリル基供与体(即ちグルタチオン)、及びビタミン(ビタミンE、C及びベータカロテンを含むが、これらに限定されない)が、機能的に重複する防御メカニズムのネットワークを形成する。重篤患者においては、かかる防御メカニズムは、ROSとRNOSの産生増加と除去能力の減少による局所的な又は全身の不均衡により圧倒されうるということが一層明らかになっている。さらに、多くの研究により、抗酸化剤の内因性の低「貯蔵(stores)」は、フリーラジカルの生成の増加と、全身性炎症反応の増大、引き続いて起こる細胞傷害と、重篤な病気による罹患率の増加とより高い死亡率とに関連している証拠を提供している(Alonso de Vega JM, Diaz J, Serrano E, et al. Oxidative stress in critically ill patients with systemic inflammatory response syndrome. Crit Care Med 2002;30:1782-1786)。本発明は、循環する抗酸化剤の減少を是正し、それによりミトコンドリア機能障害を起こしうる毒性のある酸素フリーラジカルの過度の産生に対抗する、外因性(exogenous)の抗酸化性微量栄養素の効果的な投与を提供する。さらに、外因性の抗酸化剤は、経腸的栄養素又は非経口的栄養素という文脈の外側で、例えば炭水化物又は脂質の非存在下で、選択的に提供することができる。
【0075】
それゆえ、本発明のある実施例は、組成物、組合せ、又は単位投与形態は、短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり約35〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量のグルタミンと、1リットルあたり約400〜約10000マイクログラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレン、1リットルあたり約1000〜約20000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンC、1リットルあたり約20〜約800ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度の亜鉛、1リットルあたり約500〜約12000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のビタミンE、1リットルあたり約20〜約4000ミリグラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のベータカロテンからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物、組合せ、又は単位投与形態として提供される。いくつかの実施例では、抗酸化剤は、1リットルあたり約1000〜約4000マイクログラム又はその間の任意の範囲若しくは量の濃度のセレンであり、グルタミンの濃度は、溶液1リットルあたり約50〜約150グラム又はその間の任意の範囲若しくは量である。いくつかの実施例では、組成物、組合せ、又は単位投与形態を、重篤患者若しくはミトコンドリア機能障害に罹患している患者に非経口的に送達してもよい。さらに、脂質、炭水化物、又は脂質と炭水化物の両方とも存在しないこともある。この組成物、組合せ、又は単位投与形態は、現在市販されている非経口的な栄養組成物よりも非常に小さい容量で処方されてもよく、食事量が制限される状態の患者に処方するために用いてもよい。
【0076】
本発明のある実施例では、重篤患者、又はミトコンドリア機能障害に罹患している患者を治療するために、高濃度のグルタミン、抗酸化剤、若しくはこれらの組合せを含む組成物、組合せ、又は単位投与形態に関する。したがって、治療は、短鎖ペプチドとして提供される、溶液1リットルあたり約35〜約380グラム又はその間の任意の範囲若しくは量、例えば、短鎖ペプチドとして提供される、溶液1リットルあたり約35グラム以上のグルタミンと、セレン、ビタミンC、亜鉛、ビタミンE、ベータカロテン、及びこれらの組合せからなる群から選択される抗酸化剤とを含む組成物、組合せ、又は単位投与形態を、治療を必要としている重篤患者に、又はミトコンドリア機能障害を罹患している患者のミトコンドリア機能を改善するために、投与することを含む。
【0077】
いくつかの実施例では、本発明の組成物又は組合せは、投与を容易にする単位投与形態にて調製してもよい。単位投与形態は、重篤患者又はミトコンドリア機能障害を罹患している患者の治療のために都合のよい量のグルタミンと抗酸化剤であり、通常の投薬の一部として、患者に投与できる。単位投与形態は、任意の便利な形態でよく、乾燥固体(dry-solid)、凍結乾燥粉末(lyophilized powder)、凍結乾燥されたもの(freeze-dried)、又は液体を挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、グルタミンと抗酸化剤を含む組成物は、投与の前に、適当な容量の食塩水に容易に溶解することができる個人ごとに計量された固体として保存することができる。別の例としては、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せは、2つの別々に前もって計量された容量にて包装され、保存することができ、その後直接に患者に投与できる。
【0078】
本発明の組成物、組合せ、又は単位投与形態は、非経口的使用の薬剤形態の調製で採択されている従来技術により調製される。本発明の組成物と単位投与形態は、非経口的送達のために処方されるのが一般的であるが、他の投与様式もグルタミン、抗酸化剤、又はその組合せの送達を増加させるために用いてもよい。本発明の組成物は、1000ミリリットル未満の容積を有する単位投与形態の液体形態で投与されるのが好ましい。例えば、容積は、約1000、900、800、700、600、500、450、400、350、300、250、200、150、100、若しくは50ミリリットル又はその間の任意の容積である。別の実施例では、容積は、約50ミリリットル〜約500ミリリットル又はその間の任意の範囲若しくは容積である。
【0079】
実施例に記載されているように、本発明の組成物、組合せ、又は単位投与形態は、患者に投与され、いくらかの利益が観察された。例えば、患者の、核DNA(nDNA)と比較したミトコンドリアDNA(mtDNA)のレベルをモニターするアッセイ法を用いることで、グルタミンとセレンを含む組合せは、ミトコンドリア機能を改善することが示された。別の実施例では、患者は、酸化的ストレスのマーカーの減少及びグルタチオンレベルの維持などにより示唆されるように、酸化的又はフリーラジカルによる損傷からの回復が改善されたことを示すように思われる。さらに別の実施例では、グルタミンと抗酸化剤を含む組合せが、患者に投与され、臓器機能又は炎症性サイトカインのレベルに明確な副作用を示さなかった。
【0080】
本発明は、さらに以下の実施例を用いて説明される。
【実施例1】
【0081】
ディペプティベン(登録商標)中の亜セレン酸(selenious acid)/生理食塩水の混合剤(admixtures)の適合性(compatibility)
【0082】
完全非経口栄養のように、大容量溶液で栄養素を送達することは、食事量が制限される患者の使用を制限する。それゆえ、グルタミンとセレンの組合せの臨床応用を拡大するためには、この組合せを小容量で提供することが可能であるか否かを決定する必要がある。亜セレン酸は、不溶性であるセレン元素に還元され、微粒子物質(particle matter)を形成することもあるという問題点があった。それゆえ、連続的な静脈内注入によるセレンとグルタミンジペプチドとを提供することの適合性を調査した。
【0083】
A.試験設計
【0084】
1.試験調製物
【0085】
以下の試験調製物が用いられた。
a)MicroSe 40μg/mL、Baxter社製10mL、Lot120669(セレン酸(selenium acid)USP(米国薬局方))
b)ディペプティベン(登録商標) Fresenius Kabi社製、100mL、LotSD1667(20%L−アラニル−L−グルタミン(Ala−Gln)注入用の水溶液pH5.4−6.0)
【0086】
ディペプティベン(登録商標)は、グルタミンを含むジペプチド、N(2)−L−アラニル−L−グルタミン(AlaGln)の20%溶液である。ディペプティベン(登録商標)100mLは、20gのN(2)−L−アラニル−L−グルタミン(=8.20gL−アラニン、13.46gL−グルタミン)を含む。かかるジペプチドは、水に非常によく溶け(20℃で568.0g/L H0)、乾熱滅菌及び保存の間も安定した状態を保つ。対照的に、遊離グルタミンは、その物理的及び化学的特性により(溶解度が限定され、保存特性も劣っている)、その水溶液中の使用が妨げられる。それゆえ、AlaGlnジペプチドは、遊離グルタミンの不都合な点がないので、臨床応用で遊離グルタミンの前駆物質としての機能を果たす。ディペプティベン(登録商標)1グラムにつき0.7グラムの遊離グルタミンが存在し、総投与量が1日あたり体重1kgにつき0.35グラムとなる。
【0087】
本研究に用いられるセレンは、亜セレン酸注入(injection)(MICROSe(登録商標)、Sabex Inc社製、ケベック、カナダ)である。完全非経口栄養(total parenteralnutrition)として摂取される、静脈注入用溶液へのサプリメントとして表示されている。MICROSeは1mLあたり、65.36μgの亜セレン酸(40μgセレン/mL相当量)を含む。
【0088】
2.容器とキャリアー溶液
【0089】
以下の容器とキャリアー溶液が用いられた。
・a)250mlの0.9%NaCl USP、LotW4H16C0、
Baxter社製(PVCバッグ)
・b)250mlの0.9%NaCl USP、LotJ4H721、
B.Braun社製(非PVCバッグ)
・c)500mlの0.9%NaCl USP、LotW4H09B1、
Baxter社製(PVCバッグ)
・d)500mlの0.9%NaCl USP、LotJ4H636、
B.Braun社製(非PVCバッグ)
【0090】
3.試験混合剤、その調製、保存条件、及び試料採取
【0091】
試験混合剤を、層流(Laminar flow)条件下で、消毒済注射器を用いて注入ポート経由で、バッグの中の0.9%NaCl USP溶液から、ディペプティベン(登録商標)が後に添加されるそれぞれの容量を抽出して調製した。抽出した生理食塩水の分量を廃棄し、同量のディペプティベン(登録商標)を、消毒済注射器を用いて注入ポート経由で、バッグの中の残りの0.9%NaCl USPに添加した。
【0092】
これらのステップの後、12.5mL(セレン約500μg)のMicroSe(40μg/mL)を消毒済注射器で添加した。
【0093】
非PVCポリオレフィンバッグとPVCバッグという2種類の異なる品質のバッグを250mLと500mLという2つの異なるサイズで用いた。
【0094】
得られた試験試料の組成物を下記の表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
室温で0、24、48、72、及び96時間保存後に試料を採取した。
【0097】
セレンのアッセイの試料を、セレンの沈殿が生じる可能性を除去するために、0.22μmのフィルターで濾過した。
【0098】
過剰量のセレンを加えたストレス混合剤をさらに、表2に示す以下の組成物で調製した。
【0099】
【表2】

【0100】
試験時間:0、96時間後
【0101】
保存条件:室温
【0102】
すべての組成物について、2バッグの試料を分析した。
【0103】
4.試験のパラメーターと方法
【0104】
以下の試験のパラメーターと方法を用いた。
・ヨーロッパ薬局方(Ph. Eur.)による外観
・ヨーロッパ薬局方による変色
・紫外線吸収E4/400(4cmセルで400nmにて吸光)
・ヨーロッパ薬局方による、顕微鏡でしか見ることのできない準可視的(subvisible)粒子状物質
・ヨーロッパ薬局方によるpH
・AP−S542法による(Fresenius KabiAP−542による)、L−アラニル−L−グルタミンアッセイ
・セレンアッセイ(米国薬局方による原子吸光法)
【0105】
4.1 ヨーロッパ薬局方による外観
【0106】
可視的粒子状物質、乳白色(opalescence)/不透過率(opacity)(Ph. Eur. European Pharmacopeia, 8th Edition. Strasbourg, Council of Europe, 2005による)、沈殿、気泡発生(gas bubble generation)に関して試験を行った。
【0107】
4.2 ヨーロッパ薬局方による変色
【0108】
試験溶液の試料を、ヨーロッパ薬局方による標準色溶液と比較した。
【0109】
4.3 紫外線(UV)吸収E4/400(4cmセルで400nmにて吸光)
【0110】
UV/VISダブルビーム分光光度計(Hitachi社製U−2000)を用いて、ヨーロッパ薬局方に対応して測定を行った。4cmのクォーツガラスキュベットが400nmでの吸収を測定するために用いられた。対照溶液として、水について測定を行った。
【0111】
4.4 ヨーロッパ薬局方による、顕微鏡でしか見ることのできない準可視的粒子状物質
【0112】
実験は、ヨーロッパ薬局方の光遮蔽法(light blockage methode)に対応し、微粒子計測器9064(HIAC−ROYCO社製)で行わった。10マイクロメートル(microm)/mL以上の微粒子、及び25マイクロメートル/mL以上の微粒子の量を決定した。溶液は、試験単位に存在する微粒子の平均数が、1mLあたり、10マイクロメートル/mL以上の総数が25、及び25マイクロメートル/mL以上の総数が3を超えないときに試験の要件を満たす。
【0113】
ヨーロッパ薬局方によるpH
【0114】
pHの測定を、ヨーロッパ薬局方に対応するpH計(pH-Meter761 Calimatic、Knick社製)を用いて行った。
【0115】
L−アラニル−L−グルタミン(AlaGln)アッセイ
【0116】
L−アラニル−L−グルタミン(AlaGln)レベルをHPLCで測定した。
【0117】
4.7 セレンアッセイ(米国薬局方による原子吸光分析法)
【0118】
セレンを、米国薬局方により原子吸光分析法で測定した。
【0119】
試料の有機マトリックスの干渉を除外するために水素化方法変異型(Hydride Method variant)を選択した。
【0120】
方法の説明
【0121】
セレンを窒素存在下でアルカリ性の水素化ホウ素ナトリウムで水素化物に還元し、原子吸光分析装置の試料セルに移した。測定を196.0nmで行い、スプリットは2.0nmであった。
【0122】
原子吸光スペクトロメーター272、水素化システムMHS−1及びlampEDLは、すべてPerkin Elmer社製のものを用いた。
【0123】
試薬
・水素化ホウ素ナトリウムp.A. Merck社製(製品番号106371)
・水酸化ナトリウムp.A. Merck社製(製品番号106495)
・塩酸 37%p.A. Merck社製(製品番号100317)
【0124】
3%水酸化ナトリウム及び3%塩酸中の1.5%の水素化ホウ素ナトリウムを、蒸留水を用いて試薬から調製した。
【0125】
試料調製
【0126】
250mlのバッグ内の30μLの混合剤、及び500mlのバッグ内の60μLの混合剤を、5mLの1.5%塩酸に添加した。かかるストレス試料は、前もって水で1:10に希釈された。この試料の溶液に、過剰のアルカリ水素化ホウ素溶液をPerkin Elmer社の推奨する手順に従って添加した。
【0127】
標準品調製
【0128】
40μgのMicroSe、Baxter社製Lot120669は、安定性の試験がされたロットであるが、標準品としても用いられた。この製品のセレンの含有量は、適合性の試験を行う前に、二次的な独立した標準試薬(working standard)を用いて試験がされた。USP規格(95〜105%の告知)による告知を満たすことが105%のセレンにより確認された。
【0129】
実際の使用状況下での方法の安定性
【0130】
3地点における90%、100%、及び110%のセレンの添加量による方法の回収率(recovery)を調査するために、450、500、及び550μgのセレン(11.25、12.50、及び13.75mLのMicroselen40μg/mLの形態で)を、3地点のディペプティベン(登録商標)と0.9%のNaCl USPの混合剤に添加した。
【0131】
測定結果を、(3回の平均及び標準偏差)下記の表3に示す。
【0132】
結果
【0133】
表3の結果は、混合剤は102〜111%の間の回収率と、3.3〜6.3%の間の標準偏差とを示す。これは、希釈した有機マトリックス中の微量元素の分析方法を満たすものである。
【0134】
【表3】

【0135】
4.8経時変化試験
【0136】
研究用の溶液、保存条件、及び試料の調製
【0137】
研究プロトコールでは、臨床的に関連すると考えられている濃度の例をカバーするために、AlaGlnとセレンについて、高濃度と低濃度の異なる範囲を用いる。生理食塩水(0.9%NaCl)の入った異なる二つのサイズ(250mLと500mL)の点滴用バッグ(intravenous bags)を使用した。ポリ塩化ビニル(PVC)と非PVCバッグの両方を、すべての実験で用いた。バッグに添加するディペプティベン(登録商標)の容量を先ず取り出し、250mLのバッグには125mLと200mLのディペプティベン(登録商標)を代わりに入れ、500mLのバッグには125mLと250mLのディペプティベン(登録商標)を代わりに入れた。これらのステップに続き、500μgのセレン(12.5mL MicroSe(登録商標))をすべてのバッグに添加した。これらの標準的な混合剤に加えて、本発明者らは、さらに、過剰量のセレン(125mLのMicroSe(登録商標)、200mLのディペプティベン(登録商標)、及び50mLの食塩水)を多量のセレンの安定性を評価するために添加し、食塩水を含まない溶液(250mLのディペプティベン(登録商標)及び12.5mLのMicroSe(登録商標)のみ)を添加した。すべての試験溶液は、無菌状態の層流条件下で調製された。
【0138】
試料は、その後0、24、48、72、及び96時間の間、室温で保存され、それぞれの時点において、以下の観察と試験を行った。
【0139】
試験のパラメーターと方法
【0140】
すべての試験は、医薬の製造における用いる物質の組成物の共通の基準を設定しているヨーロッパ薬局方(Ph.Eur.;European Pharmacopeia, 8thEdition. Strasbourg: Council of Europe;2005)に基づいて行われた。研究用混合物(study mixtures)は、可視的粒子状物質、乳白色(opalescence)/不透過率(opacity)、沈殿、変色、ガス気泡発生について慎重に調査された。さらに顕微鏡でしか見ることのできない準可視的粒子状物質について、微粒子計測器9064(HIAC-ROYCO社製)で、光遮蔽法で混合物を調査した。10マイクロメートル/mL以上の微粒子の量、及び25マイクロメートル/mL以上の微粒子の量を決定した。ヨーロッパ薬局方により特定されているように、溶液は、試験単位に存在する微粒子の平均数が、1mLあたり、10マイクロメートル/mL以上が25カウント、及び25マイクロメートル/mL以上が3カウントを超えないときに試験の要件を満たす。変色を定量化するために、試料を、紫外線(UV)吸収E4/400(4cmセルで400nmにて吸収)で、UV/VISダブルビーム分光光度計(Hitachi社製U-2000)に供した。それゆえ、4cmクォーツのガラスキュベットを用いて、水を対照溶液として、400nmの吸収を測定した。
【0141】
溶液のpHは、ヨーロッパ薬局方に対応するpH計(pH-Meter761 Calimatic、Knick社製)で決定した。最後に、AlaGln濃度を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて、研究室の標準操作手順に応じて測定した。グルタミンジペプチドは、アイソクラティック逆相C−18HPLC法により、UV検出器を用いて214nmにてリン酸二水素カリウムバッファー(0.05モル濃度)を移動相として、アッセイした。セレンのレベルを測定するための試料は、セレンの沈殿が生じる可能性を除去するために、最初に0.22μmのフィルターで濾過し、それから原子吸光分析法を用いてアッセイした。試料の有機マトリックスの干渉を除外するために、水素化方法変異型(Hydride Method variant)を、ヨーロッパ薬局方により選択した。AlaGlnとセレンの含有量を、それぞれの時点で2回測定し、結果は平均値として示す。初期値又は基礎値(initial or baseline value)(時間=0)は、100%に相当するものとして設定した。
【0142】
結果
【0143】
いずれの時点においても、いずれの混合物にも濁度(turbidity)、変色、準可視的粒子状物質の兆候はなかった。pHは、すべての溶液において、期間中安定していた。AlaGlnとセレンの濃度は、いずれの混合剤においても期間を通じて有意な変化はなかった(表4参照)。
【0144】
【表4】

【0145】
安定性の研究プロトコールは、有効成分のセレンとL−アラニル−L−グルタミンの両方の様々な濃度の混合剤の様々な例をカバーし、サイズ/容量及びパッケージの原材料の異なる材質と共に考慮に入れられる。
【0146】
この互換性の研究は、意図された混合剤/投与量の範囲の臨床研究において、有効成分のL−アラニル−L−グルタミンとセレンは安定であり、非経口の大容量のための通常の規格は、試験期間を通じてすべての試料に適うものであり、96時間以上室温で保存しても有意な変化はないことを示すものである。
【0147】
2つの原料のバッグのシステムであるPVCバッグと非PVCバッグの間には相違はみられず、250mLと500mLのバッグの容積/サイズへの依存も報告されなかった。
【0148】
結果は、有効成分のAlaGlnとセレンを組み合せたときに、96時間以上室温で保存しても栄養素の物理的又は化学的性質にいかなる変化ももたらさないことを示している。2つの原料のバッグシステムであるPVCバッグと非PVCバッグの間には相違はみられず、バッグのサイズ又は生理食塩水の容積の間の相違もなかった。グルタミンジペプチド(AlaGln)とセレンは、室温で最長96時間保存しても溶液中で相性がよいように思われる。単回静脈内投与(single intravenous administraion)として、研究用栄養素を提供することにより、患者にこれらの栄養素を投与することに関連するエラーの危険性が減少する。
【実施例2】
【0149】
重篤患者への、グルタミンジペプチドと抗酸化剤の投与
【0150】
研究設計
単一施設(single center)、非盲検(open-label)、予測制御による臨床試験の範囲のフェーズI投与
【0151】
設定:キングストンジェネラルホスピタル(KGH)、専門治療(tertiary care)集中治療室(ICU)、オンタリオ、カナダ
【0152】
研究集団:低潅流(hypoperfusion)の臨床的兆候(clinical evidence)を呈してICUに入院し人工呼吸器を装着した成人患者(18歳以上)。低体重(50kg未満)の患者と重度の頭部外傷(GCS8未満、又は脳室開窓術の必要がある)を有する患者は、安全上の理由から除外された。
【0153】
低潅流の臨床的兆候は、以下のように定義される。
●1時間以上の昇圧薬(vasopressor)(ノルエピネフリン、エピネフリン、ネオシネフリン、5mg/kg/分以上のドーパミン、又はバソプレッシン)投与の必要性、或いは
●1時間以上の適切な輸液チャレンジ(fluid challenge)を行ったにも関わらずの最高血圧(systolic blood pressure)が90mmHg以下、又は平均動脈圧(mean arterial pressure)が70mmHg未満、或いは
●血中乳酸濃度(≧4mmol/L)の上昇を伴う原因不明のpH7.30以下の代謝性アシドーシス又は5.0以上の塩基過剰。
【0154】
研究介入(study intervention):表5に示すように、患者は、逐次5つのグループのいずれか1つに登録された。
●グループ1:有害反応(adverse events)、臓器機能、及び透析の必要性を含む研究用測定値(study measurement)の基準レベル(baseline rate)を決定するための研究用適格基準を満たす30人の患者。このグループは、グルタミン/セレンを摂取しなかったが、このグループでは、血清中のアンモニア、アミノ酸レベル、グルタチオンペルオキシダーゼ、及び他の機構的な(mechanistic)マーカー(IL−18、TBARS、その他)を除いては、この後のグループと同じ通常の臨床的測定及び生化学的測定が行われた。これらの測定は、有害反応、臓器機能、及び透析の必要性を含む研究用測定値の基準レベルを決定するために用いられた。
●グループ2:続く7人の患者には、標準投与量のディペプティベン(登録商標)、0.5gm/kg/日のグルタミンジペプチド(0.35グラム/kg/日のグルタミン)を経腸的にではなく、静脈内に投与した。
●グループ3:続く7人の患者には、ディペプティベン(登録商標)と0.5gm/kg/日のグルタミンジペプチド(0.35グラム/kg/日のグルタミン)を静脈内に投与し、且つ21.25グラム/日のグルタミンジペプチド(15グラム/日のグルタミン)と、250mLのインテスタミン(表5では、「1/2缶」と表示されている)として鼻腔栄養チューブで注入(nasogastric tube infusion)して経腸的に投与した1日あたり150マイクログラムのセレンを投与した。
●グループ4:続く7人の患者には、ディペプティベン(登録商標)と0.5gm/kg/日のグルタミンジペプチド(0.35グラム/kg/日のグルタミン)とを静脈内に投与し、且つ42.5グラム/日のグルタミンジペプチド(30グラム/日のグルタミン)と、500mLのインテスタミン(表5では、「全缶」(full can)と表示されている)として鼻腔栄養チューブで注入して経腸的に投与した1日あたり300マイクログラムのセレンと投与した。
●グループ5:続く7人の患者には、グループ4と同じ投与量のディペプティベン(登録商標)を非経口的に投与し、且つインテスタミン(表5では、「全缶」と表示されている)を経腸的に投与したが、それに加えて500マイクログラムのセレンを非経口的に投与した(総計800マイクログラム)。
【0155】
【表5】

【0156】
登録後、ディペプティベン(登録商標)と非経口的セレンの投与は、できるだけ速やかに開始され、死亡するまで、又は最大21日間で退院するまで継続された。初期蘇生(initial resuscitation)後、インテスタミンが開始され、栄養補助が中断されるか、死亡若しくはICUから退院するまで継続された。いずれの研究用サプリメントも、患者が前もって決められた安全閾値(safety threshold)に達したときは中断された。最終的な安全閾値は、基準レベルを収集し、分析した後に決定された(グループ1)。グループ内の3/7の患者(42%)が安全閾値に達した場合、さらなる投与の増量は行われず、残りの5人の患者は、従前の投与の範囲で評価された。すべての患者は、治療ガイドライン(clinical practice guidelines)に従った食事を与えられた。即ち、経腸栄養(enteral feeds)が治療として開始された。
【0157】
ディペプティベン(登録商標)は、一日の投与量を、24時間の内少なくとも20時間以上静脈中心ライン(intravenous central line)経由で連続的に投与した。インテスタミンは、一日の投与容量を、24時間の内少なくとも20時間以上、鼻腔チューブ(nasogastric tube)、又は鼻腔経腸栄養チューブ(nasoentericfeeding tube)で注入した。グルタミン/セレンの投与と独立して、すべての患者に、治療ガイドラインにしたがって食事が与えられた。即ち、治療として、経腸栄養(enteral feeds)が開始され、すすめられた。患者が、経腸栄養及びインテスタミンの両方を投与されているときには、栄養チューブの2つのポートに直接取り付けられているチューブを有する2つのポンプを必要とした。或いは、インサイチュで、チューブを2つのポンプから1つの栄養チューブに接続するY字の連結装置が用いられた。胃内残存量が多量の場合に、それに伴う経腸栄養の投与と、腸内研究用薬剤の投与とが遅れた場合には、慣例にしたがって、運動性薬剤(motility agents)と少量の腸栄養を胃内残存量が多量である患者に24時間以内に開始し、危険性の高い患者(継続的に麻酔、変力作用薬(inotrope)を服用している患者、麻痺のある患者、さらにベッドを上昇したときに頭部を支えられない患者)には即時に開始された。
【0158】
アウトカム(outcome):この研究の主要アウトカムは、変化(差分(delta))臓器不全重症度評価(sequential organ failure assessment)(SOFAスコア)である。副次アウトカムは、グルタチオン、グルタチオンペルオキシダーゼ、TBARS、IL−18、血液生化学検査(BUN、AST、ALT、GGT、アンモニア、並びに血漿のアミノ酸及びジペプチドレベル)、経腸栄養の耐容性、人工呼吸器装着時間、入院期間、及び28日目の死亡率である。
【0159】
多臓器機能不全は、重篤患者が死亡に至る最終共通路として認識されている。それぞれの臓器(呼吸器官、腎臓その他)は、臓器不全重症度評価(SOFA 表6参照)のようなスコアリングシステムを用いて、独立して又は総計して考慮することができる。
【0160】
【表6】

【0161】
登録時(研究介入の開始前に)、及びその後ICU内で毎日、それぞれの臓器システムのSOFAと集合体(aggregate)(白血球数、血清中のクレアチニン、動脈血液ガス、吸入酸素フラクション、血圧、昇圧剤の使用、尿排出量、及びグラスゴー昏睡スケール)とにおける、基準レベル、毎日の変化、総変化量を算出するために毎日のパラメーターを測定した。対照グループで観察された変化に基づいて、臓器不全に関連した停止規則を制定し、それを満たすと、研究用の患者は研究介入から撤退した。対照グループを基礎にして、以下のような停止規則を制定した。即ち、SOFAスコアの総計が、基礎疾患に起因せずに基準レベルからSOFAが3を超えて2日以上増加した場合である。腎不全の進行及び/又は透析の開始は、研究介入を停止する基準として考慮されることはなかった。研究介入から撤退したすべての患者は、臓器不全(又は回復(resolution))の進行を評価するために毎日追跡調査(follow)された。
【0162】
上述の測定に加えて、肝臓機能試験(AST、ALT、GGT)と血中尿素窒素の日常の測定を、臨床的に可能な場合にモニターした。日常の治療のための血液検査から、毎日のビリルビンとCRPが必要となった。グループ2、3、及び4では、研究用患者からの14mLの血液を基準レベルとし、研究用プロトコールに従って、月曜日、水曜日、金曜日に12mLの血液と、研究用プロトコールに従って、ディペプティベン(登録商標)及び/又はインテスタミンの中断12時間後に2mLの血液を、週2回(火曜日と木曜日)採取した。この血液は、処理され、保存され、血漿のアンモニア、アミノ酸及びジペプチドレベル、並びにグルタチオン、グルタチオンペルオキシダーゼ、及びT−BARSを含む他のマーカーを測定するために研究所に送られた。最後に患者は、経腸栄養の耐容性、人工呼吸器装着時間、入院期間、及び28日目の死亡率を評価するために追跡調査された。
【0163】
試料のサイズと時間:対照グループとして前向きコホート(prospective cohort)の患者30人と、KGHで6ヶ月以上投与量変動研究(dose-ranging study)に、前向き登録している患者28人。
【0164】
意義:この投与研究で試験される治療方針によって、グルタミンと抗酸化剤の所望の投与量と持続時間が解明される。これらの結果は、重篤患者にグルタミンと抗酸化剤を補給する大規模な多施設における第IIIフェーズランダム試験に情報を提供するためにさらに用いられる。
【0165】
結果:重篤患者58人は、2年にわたり登録され、投与量を増加させながらグルタミンと抗酸化剤を摂取した(介入の概要は表5参照)。様々な臓器システム(心臓血管(CVS)、中枢神経系(CNS)、凝固、腎臓、肝臓、呼吸作用(P/F比))の毎日のSOFAスコアをグループ1〜5について測定した。SOFAスコアの減少は改善を示す。グループ1〜5の毎日のSOFAスコアの平均を図1A〜1Eにそれぞれ示す。
【0166】
図2A〜2Eは、グループ1〜5の個々の患者の、毎日のSOFAスコアの合計のプロットをそれぞれ示す。図2Fに示す(compiled)回帰直線は、グループ1〜5の毎日の総計SOFAスコアが類似しており、研究介入を通じて類似の減少傾向をたどっていることを示し、グループ2〜5に投与した多量のグルタミンと抗酸化剤に毒性が無く、臓器機能に副作用をもたらさなかったことを示している。グループ2に示されるSOFAスコアの増加(図2Bの6日〜10日の範囲を参照のこと)は、7名中2名の患者の死亡前のSOFAスコアが有意に上昇したことによる。これら2名の患者の死亡とSOFAスコアの増加は、基礎疾患(underlying disease)によるものであり、研究介入とは無関係であることが判明した。
【0167】
グルタミンは窒素供与体であるから、多量のグルタミンは、尿素及びアンモニアを望ましくないレベルにまで増加させるおそれがある。尿素及びアンモニアレベルの測定では、かすかな、しかし有意でない増加を示した。予想通りに、セレンのレベルは、特にグループ5で有意に増加した。しかしながら、これらの化合物のレベルの上昇は、図8の安定したクレアチニンレベル、及び図1A〜EのSOFAスコアの減少に示されるように、腎機能に副作用をもたらすものではなかった。
【0168】
赤血球中のグルタチオン(GSH)含有量、酸化的ストレスマーカー(TBARS)、及びミトコンドリア機能の指標(mtDNA/nDNA)の研究介入の効果を、図3〜図7に示す。
【0169】
図3は、グループ2(図3A)、グループ3(図3B)、グループ4(図3C)、及びグループ5(図3D)での患者の赤血球のグルタチオン(GSH)含有量のプロットを示し、回帰直線は、より大きな文字で示されている。グループ2の回帰直線は、有意なP値(P=0.0336)をもって、GSHのレベルの減少を示した。他のグループ3〜5のいずれも、このような有意な減少は示さない。この結果は、より多量の抗酸化剤の補給を摂取したグループがGSHレベルをより多量に維持していることを意味する。
【0170】
図4は、グループ2(図4A)、グループ3(図4B)、グループ4(図4C)、及びグループ5(図4D)での患者のチオバルビツール酸反応性物質(TBARS)の血漿濃度のプロットを示す。TBARS分析は、酸化的ストレスのマーカーとして用いられる。グループ2〜4のTBARSレベルの回帰直線は、有意なP値に達しなかった。しかしながら、グループ5のTBARS回帰直線は、減少方向へ傾斜し、有意な値(P=0.0278)に達し、より多量の抗酸化剤の補給は酸化的ストレスの回復の改善を可能にすることを示している。
【0171】
図5は、グループ2(図5A)、グループ3(図5B)、グループ4(図5C)、及びグループ5(図5D)での患者のミトコンドリアDNAと核DNAのレベルの比(mtDNA/nDNA)のプロットである。mtDNA/nDNAは、ミトコンドリア機能のアッセイである。グループ3とグループ5の回帰直線は、治療過程の間にミトコンドリア機能の改善を示し、回帰直線は両方とも、有意なP値(それぞれP<0.0001とP=0.0280)を示した。さらに、グループ2〜5の回帰直線を基に単一のプロットに作成したもの(図5E)もまた、有意性を有する(P=0.0012)。
【0172】
図6は、個々の患者のmtDNAとnDNAの比のプロットを示し、より大きな文字で示されている回帰直線により「生存(alive)」又は「終了(expired)」のいずれかに分類される。この結果は、ミトコンドリア機能の改善は明らかに生存率と関連があり、「生存」又は「終了」の患者の回帰直線が有意性を有する(P=0.04)ことを示すものである。
【0173】
図7は、個々の患者のmtDNA/nDNA比のプロットを示し、より大きな文字で示されている回帰直線により、グループ2の患者、又はグループ3、4、及び5の患者のいずれかに分類される。ここでも、回帰直線は、有意性を有した(P=0.033)。この結果は、グループ2と比較して、グループ3、4、及び5のそれぞれのミトコンドリア機能が有意に改善されることを実証することを示すものであり、抗酸化剤とグルタミンの補給は、ミトコンドリア機能を改善することを示唆するものである。
【0174】
これらの図のデータは、グルタミンと抗酸化物質の投与量を増加することで、臓器機能への明白な副作用なしに、ミトコンドリア機能を改善し、酸化的ストレスのマーカーを顕著に減少させ、グルタチオンをより維持が可能であるという効果があることを示すものである。さらに、IL−18の安定したレベルにより裏付けられるように、炎症性サイトカインの悪化はなかった(データは示されていない)。
【0175】
すべての引用は参照により本明細書に援用される。
【0176】
本発明は、1又は2以上の実施形態に関して論述されている。しかしながら、多様な変異又は改変が特許請求の範囲に記述された発明の範疇を超えることなく行われうることは、当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0177】
本発明における前記の又は他の特徴は、添付図面を参照して行う以下の説明により、さらに明らかになるであろう。以下は図面の説明である。
【図1】グループ1/対照(図1A)、グループ2(図1B)、グループ3(図1C)、グループ4(図1D)、及びグループ5(図1E)での患者の様々な臓器システムについて、毎日のSOFAスコアの平均値のプロットを示す(SOFAスコアシステムの概要は表6参照)。
【図2】グループ1/対照(図2A)、グループ2(図2B)、グループ3(図2C)、グループ4(図2D)、及びグループ5(図2E)で、患者の毎日のSOFAスコアの合計値のプロットを示し(SOFAスコアの合計値を計算するために、各患者のそれぞれの臓器システムのSOFAスコアを加算する)、図2(A〜E)の回帰直線は、図2Fで単一のプロットに集約されている。
【図3】グループ2(図3A)、グループ3(図3B)、グループ4(図3C)、及びグループ5(図3D)での患者の赤血球のグルタチオン(GSH)含有量のプロットを示し、図3(A〜D)の回帰直線は、図3Eで単一のプロットに集約されている。
【図4】グループ2(図4A)、グループ3(図4B)、グループ4(図4C)、及びグループ5(図4D)での患者のチオバルビツール酸反応性物質(TBARS、脂質の過酸化指標、及び酸化的ストレスのマーカー)の血漿濃度のプロットを示し、図4(A〜D)の回帰直線は、図4Eで単一のプロットに集約されている。
【図5】図5は、グループ2(図5A)、グループ3(図5B)、グループ4(図5C)、及びグループ5(図5D)での患者のミトコンドリアDNAと核DNA(mtDNA/nDNA、ミトコンドリア機能の指標)のレベルの比のプロットを示し、図5(A〜D)の回帰直線は、図5Eで単一のプロットに集約されている。
【図6】個々の患者のmtDNAとnDNAの比のプロットを示し、より大きな文字で示されている回帰直線により「生存」又は「終了」のいずれかに分類される。
【図7】個々の患者のmtDNA/nDNA比のプロットを示し、より大きな文字で示されている回帰直線により、グループ2の患者、又はグループ3、4、及び5の患者のいずれかに分類される。
【図8】グループ1/対照、グループ2、グループ3、グループ4、及びグループ5での、クレアチニンの血漿濃度(腎臓機能(kidney function)又は腎機能(renal function)の指標)の回帰直線のプロットを示す。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図5E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
短鎖ペプチドとして提供される溶液1リットルあたり35〜380グラムのグルタミンと、
1リットルあたり400〜10000マイクログラムの濃度のセレン、1リットルあたり1000〜20000ミリグラムの濃度のビタミンC、1リットルあたり20〜800ミリグラムの濃度の亜鉛、1リットルあたり500〜12000ミリグラムの濃度のビタミンE、1リットルあたり20〜4000ミリグラムの濃度のベータカロテンからなる群から選択される抗酸化剤と
を含む組成物であって、脂質及び/又は炭水化物が存在しないことを特徴とする患者のミトコンドリア機能を改善するための組成物。
【請求項2】
抗酸化物が、1リットルあたり1000〜4000マイクログラムの濃度のセレンであることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
グルタミンの濃度が、溶液1リットルあたり50〜150グラムであることを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、重篤患者に非経口的に送達されることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の組成物。
【請求項5】
組成物が、非経口的に送達されることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の組成物。
【請求項6】
治療を必要とする重篤患者に対して、非経口的に投与されることを含む、請求項1〜5いずれか記載の組成物。
【請求項7】
体重1kgあたり0.3g〜0.9gのグルタミンが一日量として投与されることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の組成物。
【請求項8】
抗酸化物がセレンであり、組成物が一日量400〜2000マイクログラムで患者に投与されることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の組成物。
【請求項9】
合計容積が50〜1000ミリリットルの単位投与形態である、請求項1〜8のいずれか記載の組成物。
【請求項10】
合計容積が、50〜500ミリリットルであることを特徴とする請求項9記載の組成物。

【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−107023(P2012−107023A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−6251(P2012−6251)
【出願日】平成24年1月16日(2012.1.16)
【分割の表示】特願2007−545807(P2007−545807)の分割
【原出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(507189068)クリティカル ケア コネクションズ インク (2)
【Fターム(参考)】