説明

治療薬または消毒薬としての相乗的組成物の使用

本発明の対象は、治療薬または消毒薬としてのビタミン、金属イオンおよび表面活性物質からなる組成物の使用である。この組成物は、従来はその効率的なDNA分解に基づいて、汚染除去剤として公知である。ところで、該薬剤が意外にも、幅広い消毒作用と同時に良好な相容性を有しており、従ってその他の使用分野、たとえば消毒または創傷管理のために適切であることが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質(界面活性剤)からなる組成物の新規の使用に関する。本発明はさらに、少なくとも1の有効成分および慣用の担体および/または助剤を含有する治療薬または消毒薬に関する。
【0002】
発明の背景
多くの分野において、生物学的および有機的な不純物、たとえばタンパク質、DNAおよび微生物を完全に、ある表面から除去することが必要である。このためにはしばしば、いわゆる汚染除去剤が使用されるが、これはタンパク質および核酸による汚染を分解し、かつ除去するものである。微生物自体のみでなく、個々のDNA分子もまた、ある作用を示し、ひいては感染につながるか、または微生物の感染性および病原性を増強しうることが公知である。従ってこれらは、遺伝情報の完全な破壊または不活性化を行うために、DNA除染の過程で排除される必要がある。この場合、効果的な汚染除去のためには、遊離のDNA分子を修飾、変性または分解する必要がある。特に有効な汚染除去は、できる限り完全なDNA分解を行う場合に行われる。公知の除染溶液は多くの場合、攻撃的な化学物質を含有している。従って表面清浄化のためのDNA分解のための薬剤中では、たとえば次亜塩素酸ナトリウムまたは界面活性剤と燐酸または水酸化ナトリウムまたはアジ化ナトリウムからなる混合物が使用される。これらの攻撃的な溶液は、部分的にタンパク質の恒久的な修飾につながり、部分的に酸化による損傷を生じうる。従ってこれらは装置、器具および作業表面上での汚染除去のため、つまりDNA分解のために使用されるのみであり、しかもこれらの攻撃的な化学薬品に対して不感受性である材料からなるものにおいて使用されるにすぎない。
【0003】
微生物の撲滅は通常、消毒の形で行う。これは一般に、生物の、および生物以外の表面、組織および空間の、微生物、たとえば細菌、マイコバクテリア、真菌、酵母、胞子、プリオンおよび/またはウイルスの有効で不可逆的な不活性化、死滅または除去であると理解される。消毒以外に、完全なDNA分解、特に耐性菌の回避のための完全なDNA分解が望ましい。まさに創傷管理の分野において、および多くの消毒の適用において、有害な微生物のタンパク質、酵素または核酸の完全な分解および不活性化は有意義である。しかしこのことは、従来から公知の、DNA分解のための攻撃的な薬剤に基づいて不可能であった。
【0004】
創傷の治癒においては目下、アルギン酸塩からなるハイドロアクティブな被覆材、またはポリウレタンをベースとするポリマー発泡体、または医用生体材料、たとえばカルボキシメチルセルロースまたは還元/酸化されたセルロースおよびコラーゲンからなる繊維フィラメントもしくはこれらの複合材が使用されている。これらの担体材料は多くの場合、殺菌作用または静菌作用を達成し、かつ同時に創傷中の湿潤環境を安定化するために銀イオンがドープされている。この官能性は吸収される湿分および創傷破砕片(デブリ)の程度および量、ならびにゲル形成する調製物によって規定される。銀イオン放出の規定の特性は、適用される技術(積層、埋め込み等)に依存して所望の殺菌性につながる。
【0005】
銀の抗菌作用は100年以上前から公知であり、創傷被覆に関しては目下、ある程度のルネッサンスを迎えている。この場合、使用可能な代替法がないために、銀の(銀イオンの形での)欠点を甘受している。静菌剤としての銀の使用の限界はその間にも既に周知となっているが、これには以下の点が該当する:
銀の抗菌作用は、全ての微生物にとって同様に良好であるわけではなく、時間的に著しく遅れて開始される(銀の微量作用性)。
【0006】
銀イオンは負荷下(創傷分泌物中の高いタンパク質含有率および高い微生物菌数)では、次第にその抗菌特性を失い、このことは包帯を交換する間隔が高頻度になり、ひいては初期の治療コストが高いことによって補うことができるにすぎない。
【0007】
血漿中への銀イオンの移行は、開放創の場合には望ましくない。というのも、銀の生物学的利用能では、有害な毒性作用も現れうるからである。
【0008】
血中での高い銀イオン濃度は、血液凝固の増大ひいては血栓症の危険につながる。
【0009】
体に固有の電解質の塩化物割合による粒子の沈殿は、銀沈着症につながる。診断法、たとえば磁気共鳴断層撮影法は、銀を含む創傷被覆により処置した創傷患者の場合には、リスク無しで実施することができない。というのも、Ag+Cl粒子の磁化によって、細動脈中での危険な血管穿孔の危険があるからである。塩化物濃度が高い場合にのみ塩化銀はふたたび溶解される。というのも、銀の二塩化物が形成されるから、つまりAgClCl⇔[AgCl2となるからである。
【0010】
局所的な抗生物質は、選択的に細胞毒性であるために、創傷管理において長年利用されているが、主として創傷中の外来の細菌細胞を攻撃し、ヒトの細胞への作用は僅かである。しかしその欠点は以下のとおりである:
局所的な抗生物質の多数は、特定の細菌に対して有効であるにすぎないが、創傷では多くの場合、異なった種類の細菌コロニーが形成される。
【0011】
いくつかの抗生物質のドナーシステム(Spendersystem)は、しばしば、創傷管理の別の観点、たとえばその高い発生量がしばしば菌の定住の増加と結びついている創傷分泌物の排出を支持するために限定的に適切であるにすぎない。
【0012】
溶液、クリームおよび軟膏は、創傷分泌物を吸収するか、またはその他の方法で処理することができない。
【0013】
さらに、抗生物質の高い使用頻度によって誘発される抵抗性の問題が生じるので、全身的な利用のためにはしばしば保持されていなくてはならない。
【0014】
局所的な防腐剤は、広い作用範囲を有しており、ひいてはほぼ全ての細菌種を撲滅することができるという利点を有している。使用範囲が広いにもかかわらず、通常は局所的な防腐剤に対して、細菌の抵抗性は表れない。臨床医の中には、この広い作用範囲を欠点であるとみなすものもいる。というのも、防腐剤は外来の細胞とヒトの細胞とを区別しないからである。このことによって防腐剤は創傷治癒のための潜在的な危険となる。ただし、防腐剤の有害性に関して引用される多くのデータは、インビトロ試験に基づいており、自然な環境(つまり組織中)での細胞に対する作用の分析に基づいたものではない。治癒中の創傷に対する防腐剤の潜在的な有害作用はおそらくは、その化学作用というよりもむしろ、そのドナーシステムに起因する。目下のインビボ研究によれば、防腐剤は創傷の治癒を遅らせはしないことが判明した。防腐剤のための典型的なドナーシステムは、ガーゼからなり、通常は1日1回〜2回、新たに湿潤される。しかし防腐剤はタンパク質に結合するので、創傷床中では短い作用時間を有するのみである(1〜2分)。創傷中で、防腐剤は迅速に他のタンパク質源(たとえば血液、血清、細胞外マトリックス)により結合され、その場合には細菌の死滅のためにはもはや利用されえない。さらに、ガーゼは、最適に湿った創傷環境を有しておらず、細菌による二次的な生息の物理的な妨げにはならない。
【0015】
要するに、局所的な抗微生物物質はいずれの種類もその利点と欠点とを有していることが確認される。局所的な抗生物質は選択的に細胞毒性であるが、しかし狭い作用スペクトルを有しているにすぎず、耐性菌の発生を促す。局所的な防腐剤は、幅広い作用範囲を有しており、抵抗性が形成される危険が本質的にわずかである一方で、選択的な作用はなく、極めて短い作用時間と劣ったドナーシステムを有しているにすぎない。
【0016】
DE102005020327A1およびWO2006/116983A2はいずれも本発明の基礎となっており、従ってその内容は本出願の内容であるが、これらの刊行物から、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質からなる相乗的混合物を含む除染溶液が公知である。この相乗的混合物は、清浄化すべき表面を処理するために使用される。除染溶液は、処理される表面上でのタンパク質および核酸の不活性化および分解をもたらし、その際、この作用は2〜8.5の全pH範囲において実質的に同じ効率で行われる。この比較的緩和なpH値で作業することができることにより、この溶液は、処理すべき表面を保護する。該溶液の噴霧および/または塗布または該溶液中での浸漬柔軟化によって、タンパク質および核酸は変性され、可溶化され、不活性化され、分解され、かつ除去される。従って該溶液は効果的なDNA分解を示す。
【0017】
しかし周知のとおり、除染溶液は、生物以外の表面、たとえば器具および表面の清浄化のために使用されるにすぎない。その攻撃性に基づいて、該溶液は特に、生物の表面、たとえば皮膚、手または粘膜と接触する場合には常に使用されない。従ってDE102005020327A1に記載されている除染溶液は単に、生物表面以外の表面の処理、つまり汚染除去のために使用されるにすぎない。
【0018】
発明の概要
本発明の課題は、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性化合物を含む組成物の新規の適用分野を開発することである。さらに本発明の課題は、前記の局所的な抗生物質および防腐剤の欠点を回避し、良好な皮膚相容性および材料相容性を有し、かつ創傷の治癒を支持し、かつ促進する治療薬または消毒薬を提供することである。さらに、汚染除去もしくはDNA分解以外に、創傷処理および消毒の改善が可能な薬剤を提供すべきである。
【0019】
前記課題は本発明により、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオン、および少なくとも1の表面活性物質からなる組成物の、
創傷管理のための薬剤、
感染の治療または予防のための薬剤、
消毒薬または
消毒清浄化のための薬剤
としての使用によって解決される。
【0020】
種々のビタミン(天然の抗酸化剤)を金属イオンおよび界面活性剤と組み合わせて使用することは、核酸分子およびタンパク質中の極めて迅速で強力な鎖切断(ストランド破壊)および修飾につながる。この効果は、遺伝形質の形成およびタンパク質の効果的な不活性化および破壊につながり、このことによって特に効果的な汚染除去が達成される。ところで、金属イオン、ビタミンおよび界面活性剤からなる組成物を使用する場合に、DNA分解以外に、意外にも該組成物の幅広い抗微生物作用、抗生物作用、抗ウイルス作用、レブロサイド(levurozide)作用および抗真菌作用も存在することが判明した。従って医学的および治療学的適用における消毒の適用、特に創傷の消毒、創傷治療および外部からの皮膚、粘膜または創傷感染の消毒のためにも使用することが可能である。該組成物は菌を有効に死滅させ、このことによって創傷、皮膚領域および組織を消毒する。創傷治癒は促進されて早まり、その際、該組成物はヒトおよび動物にとって懸念のない成分に基づいて相容性が極めて良好である。
【0021】
従って1実施態様では、本発明による前記組成物の使用は、創傷管理のために行われる。特に有利には該組成物は本発明によれば、創傷治療および/または創傷感染および/または創傷の清浄化のための薬剤として使用される。創傷の手当のための本発明による薬剤の使用はたとえば創傷被覆、有利には包帯、絆創膏および/またはその他の創傷ドレッシング材と結合させて行うことができる。
【0022】
つまり該組成物はたとえば感染の管理、特に二次的な治癒中の創傷の治療を促進するための抗微生物創傷被覆材および洗浄液における治療用の医薬品のためのインテリジェントなシステム溶液でもある。創傷治癒の促進に関する利点は特に感染予防および耐性菌の回避である。この場合、銀イオンによる前記の危険要因が回避される。さらに本発明によれば、担体マトリックスをベースとする新規のドナーシステムを提供することが可能である。これにより、創傷を所望の湿潤環境中で安定化することにより「遅延放出性」の遅延放出剤が可能となる。同時に抗微生物組成物のデポー作用によって創傷の防腐性が最適化され、その際に創傷の治癒が否定的な影響を受けることはない。
【0023】
意想外の皮膚相容性に基づいて、本発明による組成物の使用はさらに、感染の治療または予防、消毒のため、または消毒清浄化のために行うことができる。
【0024】
従って組成物の使用は、別の実施態様では皮膚および手の消毒においても、消毒清浄化においても可能である。意外にも該組成物はDNA分解以外に、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、真菌、酵母、プリオンおよび胞子に対しても大きな効果を有している。菌のDNA分解を考慮すると予想外であった皮膚との相容性によって初めて、皮膚の消毒薬における適用ならびに手の消毒薬における適用、ならびに化粧用の皮膚、手のための清浄剤および手入れ剤における適用が可能となる。
【0025】
この場合、該組成物は化粧用の、消毒用の、あるいはまた医学的もしくは治療学的な治療のための薬剤として使用することができる。化粧用の処置ではたとえば皮膚上もしくは手への適用のためのクリーム、ローション、ゲルまたは軟膏中での使用が可能である。特にニキビを処置するための皮膚の手入れ剤において、皮膚保護用軟膏またはひげそりの後の皮膚へ擦り込むための製品(アフターシェーブローションまたは溶液)中である。たとえば化粧用の処置によるニキビの処置の際に重複しうる治療学的な処置では、該組成物は有利には創傷治療のための薬剤として、たとえば創傷洗浄液または創傷用軟膏として使用することができる。該組成物は治療上、特に感染、たとえば皮膚の外部からの感染または創傷からの感染の処置のために適切である。該薬剤は、予防的には感染の伝播を防止するための薬剤として使用することができる。消毒による清浄化のための組成物の使用の際に、これは衛生用の手洗い、手の清浄化または皮膚の清浄化のための薬剤として使用することができる。この場合、該組成物は意外にも、細菌、マイコバクテリア、胞子、プリオン、酵母および真菌に対しても、ウイルスならびにこれらの菌の混合感染に対しても有効である。
【0026】
該組成物は、医学用または消毒用の処置のための薬剤として適用濃度で、または濃縮物として使用することができる。皮膚または手の消毒薬としての該薬剤の適用の際に、該薬剤は通常、適用濃度で使用される。表面または器具の消毒のための適用の場合には、濃縮物も製造され、これは適用場所において初めて適用濃度に希釈される。この場合、本願の範囲で記載した濃縮物は、それぞれ製品に関するものである、つまり濃縮物としての提供の場合、濃縮物に関するものであって、希釈した適用溶液に関するものではない。
【0027】
該組成物は、創傷被覆材、有利には包帯、絆創膏および/またはその他の創傷ドレッシング材との組み合わせにおける本発明による使用の特に有利な実施態様で使用することができる。この場合、該組成物はたとえば軟膏または粉末の形で適切な担体材料上に施与することができる。あるいは、もしくは補足的に該組成物は創傷被覆材の中間層もしくは閉じられた層中に導入することもできる。特に有利であるのは創傷被覆材、特に創傷と接触する層を、該組成物で含浸することである。
【0028】
該組成物は本発明による使用の有利な実施態様では、溶解した形で、有利には創傷洗浄液として、または創傷被覆材の湿潤成分として使用することができる。
【0029】
本発明による使用のもう1つの有利な実施態様では、該組成物はさらに、ペースト状で、および/または半固体の形で、有利にはクリーム、ゲルまたは軟膏として使用することができる。
【0030】
該組成物の特に有利な使用は、固体の、および/または乾燥した形で実現することができ、その際、該組成物は、有利には粉末、錠剤、顆粒または含浸物として使用することができる。
【0031】
本発明による使用のもう1つの有利な実施態様では、該組成物は液状の、および/または溶解した形で、フォーム、溶液、濃縮物、エマルション、懸濁液または分散液として使用することができる。
【0032】
使用される組成物は成分を有利には以下の量で含有している:
ビタミン1mM〜1000mM、特に有利には1mM〜500mM、さらに有利には1mM〜300mM、およびとりわけ1mM〜100mM、
金属イオン0.1mM〜100mM、有利には0.4mM〜50mM、特に1mM〜30mM、特に有利には1mM〜10mM、
表面活性物質0.1質量%〜35質量%、有利には0.2質量%〜30質量%、特に0.5質量%〜20質量%、とりわけ有利には0.5質量%〜15質量%。
【0033】
本発明により使用される組成物はさらに有利には0.5〜8.5、特に1〜7、およびとりわけ2〜6もしくは2〜4.5の範囲のpH値を有している。
【0034】
課題はさらに、少なくとも1の有効成分および慣用の担体および/または助剤を含有する治療薬および/または消毒薬によって解決され、この場合、有効成分は、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質からなる少なくとも1の組成物である。本発明による薬剤は、上記の抗微生物系の全ての本質的な利点を有しており、この場合、これらの欠点は有しておらず、かつさらに感染性および病原性との関連で核酸および/またはタンパク質の効果的な除去の付加的な利用性を有する。
【0035】
本発明による薬剤は、3成分系であり、この場合、これらの成分の2つは核酸(DNA/RNA)の効果的な分解のための相乗的な反応をもたらし、3つ目の成分は、これらの複合的な作用を特定の作用箇所(病原菌細胞、損傷されたヒトの細胞)へと輸送する。遺伝物質の分解は最終的に病原体細胞または損傷された(感染した)ヒトの細胞の死滅につながる。この場合、損傷されていないヒトの組織は意外にも、本発明による薬剤によって攻撃されたり、否定的な影響を受けたりすることがない。本発明による薬剤の特性はまさに、その作用メカニズムに基づいて多耐性の病原菌に対しても有効であり、他の抵抗性の発生は許容しないことに基づいて、薬剤の治療上の利用性および経済的な利用性は明らかである。本発明による薬剤は、耐性菌の発生および感染を予防する。このことによってたとえば慢性的な創傷中での多耐性菌の低減および抑制が行われ、かつ病院、老人ホームおよびその他の施設内でのこのような菌による蔓延(MRSA問題)が回避される。この場合、本発明による薬剤は、高い負荷率でも有効である。創傷被覆材中の、または直接に創傷中の創傷菌の迅速な死滅が行われる。従って銀イオンの場合のような微量作用の問題は生じない。本発明による薬剤は選択的に病原体細胞および損傷されたヒトの細胞に作用するが、これに対して健康な組織は損なわれない。核酸の分解以外に、本発明による薬剤は、DNA分解に起因するのみではない殺菌作用も有している。本発明による薬剤は殺菌作用および核酸を分解する能力にもかかわらず、突然変異誘発性ではなく、また細胞毒性でもなく、皮膚および粘膜にとって良好な相容性を示す。
【0036】
本発明による薬剤は、化学的に、および毒物学的に全く懸念のない3成分を含有する組成物であり、これらはすべて良好に特性決定されており、組み合わせても突然変異を誘発する潜在性を有さず、病原菌を死滅するのみでなく、その遺伝情報(DNA/RNA)を破壊し、かつ健康なヒトの細胞(粘膜細胞も)を損うことがない。これらの特性に基づいて、特に病原体の遺伝物質(DNA/RNA)を特異的に分解する薬剤の能力にも基づいて、創傷菌の抵抗性の発生および蔓延は不可能となる。
【0037】
特に有利であるのは、本発明による薬剤は0.5〜8.5の全てのpH範囲で実質的に同一の効果で有効であるという事実である。本発明の有利な実施態様では、組成物が1〜7の範囲、有利には2〜6、特に有利には2〜4.5の範囲のpH値を有している。このpH範囲では、本発明による薬剤は長期間にわたって安定しており、かつ核酸の特に効果的な分解が可能になる。
【0038】
さらにpH4〜6の範囲では、本発明による薬剤の皮膚との相容性は最適である。このことによって特に、皮膚および手の消毒のための消毒薬または医薬の使用が可能である。
【0039】
特に有利であるのは、組成物がさらに炭酸塩およびコハク酸の誘導体を、有利にはそれぞれ1mM〜500mMの濃度で含有する緩衝剤系を含んでいることである。この緩衝剤系を本発明による薬剤中で使用する場合、溶解している成分、特に酸性のビタミンに基づいて強酸性の範囲にある溶液のpH値はわずかにたとえば中性または弱塩基性の範囲に上昇され、その際、溶解している金属イオンは沈殿しない。適切な系は特に、ホウ酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、グリシン、酒石酸塩、リン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、酢酸塩の緩衝剤である。
【0040】
本発明による薬剤の有利な実施態様では、含有されているビタミンもしくはその塩または酸性誘導体は、酸化防止剤の特性を有する水溶性ビタミン、たとえば有利にはビタミンC、リボフラビンおよびナイアシンの群から選択される1もしくは複数の化合物および/または該化合物の塩である。これらは有利には1mM〜1000mMの量で、特に1mM〜500mMの量で、好ましくは1mM〜300mMの量で、特に有利には1mM〜100mMの量で使用される。
【0041】
本発明による薬剤のもう1つの有利な実施態様では、含有されている金属イオンは、元素の周期律表の第4周期および/または第I、第IIおよび第VIII副族の2価もしくは3価の金属のイオンである。これらの有機酸および/または無機酸との、または塩基との塩の形で使用される。本発明により有利であるのは、第VIII副族、特に鉄、コバルト、ニッケル、銅または亜鉛から選択される1もしくは複数の化合物であってよい。金属イオンは有利には0.1mM〜100mMの量で、好ましくは0.4mM〜50mM、特に1mM〜30mMの量で、特に有利には1mM〜10mMの量で使用される。
【0042】
本発明により含有される表面活性物質は、たとえばアニオン性、非イオン性、両性もしくはカチオン性の界面活性剤、またはこれら相互の適切な組成物である。特にアルキルエーテルスルフェート、アルキルスルホネートおよび/またはアリールスルホネート、アルキルスルフェート、両性界面活性剤、ベタイン、アルキルアミドアルキルアミン、アルキル置換されたアミノ酸、および/またはイミノ酸、アシル化アミノ酸、および/または両性界面活性剤の組み合わせを使用することができる。基本的に全ての界面活性剤が適切である。本発明によればアニオン性および非イオン性界面活性剤が有利である。特に有利であるのは天然または天然に類似の界面活性剤である。これらは有利には0.1質量%〜35質量%の量で、好ましくは0.2質量%〜30質量%の量で、特に0.5質量%〜20質量%の量で、とりわけ有利には0.5質量%〜15質量%の量で使用される。
【0043】
濃度はそのつど治療薬、消毒薬または化粧品として製造される組成物に対するものである。従って記載の濃度は適用溶液に対するものである。この場合の例外は、表面または器具の消毒のための消毒薬であり、この場合、上記の濃度は濃縮物に関するものであって、希釈された適用溶液に関するものではない。表面および器具の消毒薬は通常、濃縮物として製造され、市販される。適用者において引き続き、この濃縮物を当初の濃縮物の0.25質量%〜20質量%、有利には0.5質量%〜15質量%、特に有利には0.5質量%〜10質量%の希釈範囲に希釈する。
【0044】
本発明による薬剤はさらに別の物質、たとえば規定のpH値を調整するための適切な緩衝物質、たとえばトリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、MES(2(モルホリノ)エタンスルホン酸)、HEPES(2−[4−(2−ヒドロキシ−エチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸および/またはMOPS(3−(N−モルホリノ)−プロパンスルホン酸を含有していてよい。これらの緩衝物質は、1mM〜500mMの量で使用される。
【0045】
本発明による創傷被覆材は、本発明による薬剤と関連付けられている少なくとも1の担体材料を含む。この場合、本発明による薬剤はたとえば軟膏または粉末の形で担体マトリックス上に施与することができる。あるいは、もしくは補足的に該組成物は創傷被覆材の担体マトリックスの中間層もしくは閉じられた層中に導入することもできる。特に有利であるのは、本発明による薬剤による担体マトリックスの含浸である。担体マトリックスはたとえば包帯材料、ガーゼ、不織布またはその他の、創傷の被覆のために適切な材料であってよい。
【0046】
本発明の有利な、かつ好ましい実施態様の記載
本発明を以下の図面、実施例および表により例示的に詳細に説明する:
図1は、本発明による薬剤による微生物中でのゲノムDNAおよび染色体外遺伝情報の効果的な分解を示している(M:マーカー1Kb導体、K:H2Oを用いた比較例、1:70%エタノール、2:0.5%Bacillozid(登録商標)、3:0.5%SDS、4:0.5%アジ化Na+0.5%SDS、5:ビタミンC 100mM+FeCl3 10mM+0.5%SDS、K比較例:滅菌したH2O 5μl)。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による薬剤による微生物中でのゲノムDNAおよび染色体外遺伝情報の効果的な分解を示す。
【0048】
染色体外プラスミドを有する組み換え大腸菌(Escherichia coli)株(YEp351)を、LBamp媒体中で一夜培養した。このE.coli懸濁液5μlあたり、リゾチーム溶液(1mg/ml)5μlで5分間処理し、次いで記載の溶液(1〜5)5μlでさらに5分間、培養した。ブロモフェノールブルーを添加した後に、試料をゲルバッグ中に添加し、電気泳動によりDNA分子を分離した。本発明による薬剤(ビタミンC100mM+FeCl3 10mM+SDS0.5%)を含有する試料5においてのみ、DNA分子の顕著な分解が検出可能であった。滅菌水(K)を用いた比較例および試料3および4では、細胞の崩壊が観察されるので、染色体外プラスミドDNAが放出され、ゲルに移行することができる。試料1および2では、細胞溶解産物およびDNAの沈殿が観察されるので、全てのDNA分子はゲルバッグ中に存在したままである。
【0049】
第1表は、本発明による薬剤の抗微生物作用のための試験を示している。
【0050】
記載の微生物の新鮮なカルチャーを、50μl中106個の細胞数に調整し、次いで水50μlあたり70%エタノールまたは本発明による薬剤(アスコルビン酸100mM、FeCl3 10mMおよびSDS0.5%)を、1:1の比率で混合した。2分間の培養時間の後で、細菌を含有する100μlのバッチを相応する培養プレートに移した。28℃(サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)およびカンディダ・パラシローシス(Candida parasilosis)または37℃(Escherichia coliおよびBacillus subtilis)で1〜3日の培養の後で、成長したコロニーの数を測定した。滅菌水を用いたバッチでは全ての微生物が生存していた。70%エタノールまたは本発明による薬剤を用いたバッチは、コロニーの成長を示さず、このことは、これらの場合には全ての微生物が死滅したことを示している。
【0051】
【表1】

【0052】
抗微生物作用/抗ウイルス作用
S.aureus、P.aeruginosa、E.hiraeおよびE.coliの試験菌を、懸濁試験法で15秒以内に>106倍低減させた。ポリオウイルスを用いた試験によれば、本発明による薬剤の抗ウイルス作用が証明された。本発明による薬剤の作用を血清タンパク質および/またはヒツジリゾチームを添加して試験した殺菌の範囲での負荷試験では、該薬剤の抗微生物作用および抗ウイルス作用を同様に検出することができた。つまり本発明による薬剤は、創傷分泌物、血液およびその他の有機汚染物質の存在下でも有効である。
【0053】
上記の試験以外に、本発明による薬剤の抗微生物作用についてのさらなる試験を実施した。この試験の結果は第2表および第3表に記載されている。本発明による消毒薬は、それぞれ、金属塩、ビタミンおよび界面活性剤からなる組成で一緒に攪拌し、かつ水溶液として調製した。こうして得られた溶液を、記載の適用濃度に希釈した。次いで本発明による消毒薬の、S.aureus、P.aeruginosa、E.coli、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)に対する有効性についての試験を実施した。測定は異なった微生物負荷率で行い、次いでそのつど、15秒後、30秒後および60秒後の減少率の測定を行った。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
本発明による薬剤の抗微生物作用の測定によれば、該薬剤は核酸の効果的な分解以外に、良好な殺菌作用を示すことが明らかになった。従って該薬剤は、皮膚の消毒のためにも、手の消毒のためにも容易に使用することができる。高い効果に基づいて、適用は消毒のための清浄化の際に、たとえば製品中で低い濃度で存在する化粧用または衛生用の手洗いの際も可能である。従って健康な皮膚または粘膜の消毒も、創傷領域における、または創傷の周囲の、もしくは罹患した皮膚または粘膜の範囲における消毒も可能である。
【0057】
更なる試験では、本発明による薬剤の抗ウイルス作用を試験した。このために、減少率を1分後、15分後および60分後に測定した。ポリオーマ(Polyoma)ウイルスおよびワクシニア(Vaccinia)ウイルスに対する有効性を測定した。そのつどの試験溶液の組成および測定値の結果は、以下の第4表および第5表に記載されている。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
上記の試験から、本発明による薬剤は、核酸の分解および良好な抗菌作用以外に、意外にも、良好な抗ウイルス作用を示すことが判明した。従って全ての試験したウイルスに対して、極めて良好な減少率が、既に短い作用時間の後でも観察することができた。
【0061】
更なる試験によりさらに、真菌および酵母に対しても本発明による薬剤の高い効果が存在していることが判明した。つまり要するに、測定結果によれば、本発明による薬剤は核酸の分解以外に、皮膚との相容性が良好であり、細菌、マイコバクテリア、ウイルス、真菌、酵母、プリオンおよび胞子に対する良好な有効性を有していることが判明したということが確認できる。従って本発明による薬剤は、種々の菌による負荷が存在し、異なった種類の菌の減少が望まれる領域で適用することができる。
【0062】
皮膚相容性:
本発明による薬剤の個々の成分についての広範囲にわたるデータは、本発明による薬剤の一般に良好な皮膚との相容性を示している。本発明による薬剤中では、それぞれ単独で極めて異なった形で既に化粧品、食品、栄養補助剤、医薬品および薬剤中で使用される成分もしくは物質のみが使用される。本発明による薬剤、つまりビタミン、金属イオンおよび界面活性剤の組み合わせを用いた初めての試験も同様に、異常な皮膚の変化を生じなかった。
【0063】
生体親和性:
本発明による薬剤を、最大濃度でブルース・エームズ試験(Bruce-Ames Test)において、変異原性について試験した。この場合、変異誘発性は確認されなかった。肝細胞抽出物を用いた活性化されたブルース・エームズ試験においても、変異誘発性は示されなかった。本発明による薬剤を鶏卵モデルで初めて試験した場合でも同様に、発達に対する有害な影響は確認することができなかった。
【0064】
材料相容性:
皮膚との相容性以外に、本発明による薬剤を使用する際に、高い材料相容性も重要である。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PMMA、ポリスチレン、PTFE、PVC、シリコーン、ラテックスおよびヴァイトンに対する材料相容性を測定したところ、良好な材料相容性を証明することができた。従って消毒薬の適用は、表面または器具の殺菌のための薬剤としても可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質からなる組成物の、
創傷管理のための薬剤、
感染の治療または予防のための薬剤、
消毒薬、
消毒清浄化のための薬剤
としての使用。
【請求項2】
前記組成物を、創傷の治療および/または創傷の消毒および/または創傷の清浄化のための創傷管理のための薬剤として使用する、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記組成物を、湿布または創傷用被覆、有利には包帯、絆創膏および/またはその他の創傷用ドレッシングと結合させて使用する、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記組成物を、細菌、マイコバクテリア、真菌、酵母、胞子、プリオンおよび/またはウイルスによる感染の治療または予防のための薬剤として使用する、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記消毒薬が、皮膚、粘膜または手のための消毒薬である、請求項1または4記載の使用。
【請求項6】
前記消毒清浄化のための薬剤が、衛生用の手洗い、手の清浄化または皮膚の清浄化のための薬剤である、請求項1記載の使用。
【請求項7】
前記組成物が、ビタミンを1mM〜1000mMの量で、および/または金属イオンを0.1mM〜100mMの量で、および/または表面活性物質を0.1質量%〜35質量%の量で含有しているか、かつ/または前記組成物が、0.5〜8.5の範囲のpH値を有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
前記組成物を、溶解した形または発泡した形で、有利には創傷洗浄液または創傷用被覆の湿潤成分として使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記組成物を、ペースト状の形で、および/または半固体の形で、有利にはクリーム、ゲルまたは軟膏として使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
前記組成物を、固体の形で、および/または乾燥させた形で、有利には粉末、顆粒、錠剤または含浸物として使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
前記組成物が、液状の形で、および/または溶解した形で、有利には溶液、濃縮物、エマルション、分散液、フォームまたは懸濁液として存在する、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
少なくとも1の有効成分および慣用の担体および/または助剤を含有する、治療薬または消毒薬において、該有効成分が、少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質からなる少なくとも1の組成物であることを特徴とする、少なくとも1の有効成分および慣用の担体および/または助剤を含有する、治療薬または消毒薬。
【請求項13】
前記組成物が、0.5〜8.5、特に1〜7、有利には2〜6、特に有利には2〜4.5の範囲のpH値を有していることを特徴とする、請求項12記載の薬剤。
【請求項14】
前記薬剤が、皮膚、粘膜、手、表面または器具のための消毒薬であることを特徴とする、請求項12または13記載の薬剤。
【請求項15】
ビタミンが、1mM〜1000mMの量で、有利には1mM〜500mMの量で、好ましくは1mM〜300mMの量で、特に有利には1mM〜100mMの量で含有されていることを特徴とする、請求項12から14までのいずれか1項記載の薬剤。
【請求項16】
金属イオンが、0.1mM〜100mMの量で、有利には0.4mM〜50mMの量で、特に1mM〜30mMの量で、特に有利には1mM〜10mMの量で含有されていることを特徴とする、請求項12から15までのいずれか1項記載の薬剤。
【請求項17】
表面活性物質が、0.1質量%〜35質量%の量で、有利には0.2質量%〜30質量%の量で、特に0.5質量%〜20質量%の量で、特に有利には0.5質量%〜15質量%の量で含有されていることを特徴とする、請求項12から16までのいずれか1項記載の薬剤。
【請求項18】
請求項12から17までのいずれか1項記載の薬剤と関連づけられている少なくとも1の担体マトリックスを有する創傷用被覆。
【請求項19】
少なくとも1のビタミン、少なくとも1の金属イオンおよび少なくとも1の表面活性物質からなる少なくとも1の組成物の、ヒトまたは動物の体における創傷を治療するための薬剤を製造するための使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−531320(P2010−531320A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513766(P2010−513766)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【国際出願番号】PCT/EP2008/005292
【国際公開番号】WO2009/000551
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510002523)ボーデ ヒェミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】Bode Chemie GmbH
【住所又は居所原語表記】Melanchthonstrasse 27, D−22525 Hamburg, Germany
【出願人】(510002534)マルチバインド バイオテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】multiBIND biotec GmbH
【住所又は居所原語表記】Gottfried−Hagen−Strasse 60−62, D−51105 Koeln, Germany
【Fターム(参考)】