説明

治療薬を含有する新規な温度感受性リポソーム

活性薬剤の送達のための温度感受性リポソームおよびその組成物を開示するものであり、上記リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロールおよび少なくとも1つのリゾ脂質を含み、当該リポソームのゲル−液相転移温度は39.0℃〜45℃である。特定の実施形態では、上記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、上記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、上記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リポソームは各種治療薬の送達に用いられる。例えば、アクチノマイシン(特許文献1)、アントラサイクリン(特許文献2)およびビンカアルカロイド(特許文献3)等の抗腫瘍薬はリポソームに封入される。より最近では、活性薬剤を含有する温度感受性リポソームが調製され、対象内の特定の標的に活性薬剤を送達するために用いられている(特許文献4および特許文献5、ならびに非特許文献1。使用時、温度感受性リポソームは対象に送達され、当該対象内の標的領域が加熱される。温度感受性リポソームが加熱された領域に達すると、ゲル−液相転移が起こり、活性薬剤が放出される。この技術を成功させるためには、対象内で達成可能な温度範囲のゲル−液相転移温度を有するリポソームが必要である。
【0002】
当該分野では、対象内で達成可能な温度でゲル−液相転移が起こり得る抗腫瘍薬等の治療薬を封入するように処方したリポソームに対する要望が依然として存在する。本発明は、この要望およびその他の要望を満たすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,993,754号明細書
【特許文献2】米国特許第4,863,739号明細書
【特許文献3】米国特許第4,952,408号明細書
【特許文献4】米国特許第6,200,598号明細書
【特許文献5】米国特許第6,726,925号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yatvinら、Science(1979)204:188
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの実施形態では、本発明は温度感受性リポソームを提供する。本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロールおよび少なくとも1つのリゾ脂質(lysolipid)を含む。本発明の温度感受性リポソームは、一般に、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する。随意に、本発明の温度感受性リポソームは、1つ以上のさらなる脂質成分を含んでもよく、例えば、PEG化リン脂質を含んでもよい。本発明に係る温度感受性リポソームはまた、1つ以上の活性薬剤、例えば、治療薬、造影剤、診断薬およびそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0006】
特定の実施形態では、上記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、上記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、上記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)であり、上記温度感受性リポソームは、PEG化リン脂質、例えば、PEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)またはPEG−5000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG5000)を含む。本発明の温度感受性リポソームは、ゲル−液相転移温度が約39℃〜約45℃の範囲内であれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、リゾ脂質およびPEG化リン脂質を任意の比率で含んでもよい。典型的には、本発明のリポソームは、下記の材料を下記の範囲の重量比で含んでもよい:ホスファチジルコリン60〜80:ホスファチジルグリセロール6〜12:リゾ脂質6〜12:PEG化リン脂質4〜15:活性薬剤1〜30。例えば、本発明の温度感受性リポソームは、DPPC、DSPG、MSPC、DSPE−PEG2000および活性薬剤を60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の重量比で含んでもよい。
【0007】
本発明の温度感受性リポソームは1つ以上の活性薬剤を含んでもよい。当業者に公知の任意の活性薬剤を本発明の温度感受性リポソームと組み合わせて用いて対象内の選択部位に当該活性薬剤を送達するようにしてもよい。本明細書で用いる対象は任意の哺乳動物であり、特には、ヒト、ネコまたはイヌである。1つの実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは1つ以上の抗癌剤を含む。適切な抗癌剤の例としては、アルキル化剤、代謝拮抗薬、紡錘体毒植物アルカロイド、細胞毒性抗腫瘍抗生物質、アントラサイクリン系抗生物質、植物アルカロイド、タキソール誘導体、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体もしくはその断片、光増感剤、キナーゼ阻害剤、抗腫瘍酵素および酵素の阻害剤、アポトーシス誘導物質、生物的反応修飾物質(biological response modifier)、抗ホルモンレチノイド、ならびに白金含有化合物が挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、タキサン、例えば、ドセタキセルを含んでもよい。他の特定の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、カルボプラチンまたはシスプロアチン(cisploatin)等の白金化合物を含んでもよい。
【0008】
本発明はまた、活性薬剤を含む本発明の温度感受性リポソームを含む医薬組成物も提供する。そのような医薬組成物では、本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロール、少なくとも1つのリゾ脂質を含み、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する。本発明の医薬組成物に用いる温度感受性リポソームは、PEG化リン脂質をさらに含んでもよい。
【0009】
本発明の医薬組成物に用いる適切な温度感受性リポソームの一例では、上記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、上記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、上記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)であり、上記温度感受性リポソームは、PEG化リン脂質、例えば、PEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)を含む。本発明のそのような温度感受性リポソームは、ゲル−液相転移温度が約39℃〜約45℃の範囲であれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、リゾ脂質およびPEG化リン脂質を任意の比率で含んでもよい。典型的には、本発明の医薬組成物に用いるリポソームは、下記の材料を下記の範囲の重量比で含んでもよい:ホスファチジルコリン60〜80:ホスファチジルグリセロール6〜12:リゾ脂質6〜12:PEG化リン脂質4〜15:活性薬剤1〜30。例えば、本発明の温度感受性リポソームは、DPPC、DSPG、MSPC、DSPE−PEG2000および活性薬剤を60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の重量比で含んでもよい。
【0010】
任意の活性薬剤を本発明の医薬組成物、例えば、治療薬および/または造影剤に含めてもよい。1つの実施形態では、活性薬剤は抗癌剤としてもよい。適切な抗癌剤の例としては、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、アントラサイクリン系抗生物質、植物アルカロイド、タキソール誘導体、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、光増感剤、キナーゼ阻害剤および白金含有化合物が挙げられるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、アントラサイクリン系抗生物質、例えば、ドセタキセルを含んでもよい。特定の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、白金含有化合物、例えば、カルボプラチンまたはシスプラチンを含んでもよい。
【0011】
本発明はまた、本発明の温度感受性リポソームを用いて対象の疾患を処置する方法も提供する。そのような温度感受性リポソームは、典型的には、当該疾患の処置に使用可能な1つ以上の活性薬剤を含む。本発明に係る処置を必要とする対象の疾患を処置する方法は、活性薬剤を含む感温性リポソームを含む治療有効量の医薬組成物を上記対象に投与する工程を含んでもよく、この場合、上記リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロール、少なくとも1つのリゾ脂質を含み、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する。そして、上記対象の病変組織の一部または全てを含む部分は、上記リポソームのゲル−液体転移の発生に十分な温度まで加熱されることにより、上記活性薬剤を上記病変組織と近接した位置で放出する。本発明の方法に用いる温度感受性リポソームはまた、PEG化リン脂質、例えば、DSPE−PEG2000またはDSPE−PEG5000を含んでもよい。
【0012】
本発明の方法に用いる温度感受性リポソームの一例では、上記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、上記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、上記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)である。本発明の方法に用いるそのような温度感受性リポソームは、ゲル−液相転移温度が約39℃〜約45℃の範囲であれば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、リゾ脂質およびPEG化リン脂質を任意の比率で含んでもよい。典型的には、本発明の処置法に用いるリポソームは、下記の材料を下記の範囲の重量比で含んでもよい:ホスファチジルコリン60〜80:ホスファチジルグリセロール6〜12:リゾ脂質6〜12:PEG化リン脂質4〜15:活性薬剤1〜30。例えば、本発明の温度感受性リポソームは、DPPC、DSPG、MSPC、DSPE−PEG2000および活性薬剤を60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の重量比で含んでもよい。
【0013】
1つの実施形態では、本発明は、処置を必要とする対象の癌を処置する方法であって、抗癌剤を含む感温性リポソームを含む治療有効量の医薬組成物を上記対象に投与する工程方法を含み、上記リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロール、少なくとも1つのリゾ脂質を含み、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する。適切な抗癌剤の例としては、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、アントラサイクリン系抗生物質、植物アルカロイド、タキソール誘導体、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、光増感剤、キナーゼ阻害剤および白金含有化合物が挙げられるがこれらに限定されない。1つの実施形態では、上記抗癌剤は、アントラサイクリン系抗生物質、例えば、ドセタキセルであってもよい。特定の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、白金含有化合物、例えば、カルボプラチンまたはシスプラチンを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の例示的な温度感受性リポソームのゲル−液相転移を示す示差走査熱量測定(DSC)トレースである。
【図2】凍結乾燥したリポソーム調製物中の凍結防止剤の量に応じた粒度のグラフである。
【図3】凍結乾燥した本発明のリポソームを再水和した際の様々な凍結温度における当該リポソームの含水量に応じた粒度のグラフである。
【図4】図4Aは、再水和した本発明のリポソームの粒度に対する静置効果のテストに用いたプロトコルの概略図である。図4Bは、再水和した本発明のリポソームの1時間の粒度分布を示すグラフである。
【図5】温度感受性カルボプラチンリポソームの粒度分布の線グラフである。
【図6】温度感受性カルボプラチンリポソームの粒度分布の棒グラフである。
【図7】37℃(白抜きの菱形)および42℃(黒塗りの菱形)における時間に応じた薬物放出の線グラフである。
【図8】様々な温度におけるカルボプラチンの放出を5分(青)および10分(マゼンタ)の場合について示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、1つ以上のホスファチジルコリンを含む。本発明の実施に際して使用可能な適切なホスファチジルコリンの例としては、1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DLPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)および1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0016】
本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、1つ以上のホスファチジルグリセロールを含む。適切なホスファチジルグリセロールの例としては、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DMPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DPPG)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DSPG)および1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(POPG)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、1つ以上のリゾ脂質を含む。本明細書で用いる「リゾ脂質」とは、グリセロール部分に共有結合したアシル鎖を1つだけ含むホスファチド酸(1,2−ジアシル−sn グリセロ−3−リン酸塩)の任意の誘導体を指す。ホスファチジン酸の誘導体としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジルエタノールアミンが挙げられるがこれらに限定されない。本発明の実施に際しては、当業者に公知の任意のリゾ脂質を用いてもよい。
【0018】
本発明の温度感受性リポソームは、典型的には、1つ以上のPEG化リン脂質を含む。適切なPEG化リン脂質の例としては、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−350](mPEG350PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−550](mPEG550PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−750](mPEG750PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−1000](mPEG1000PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](mPEG2000PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−3000](mPEG3000PE)、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−5000](mPEG5000PE)、PEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)およびPEG−5000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG5000)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0019】
活性薬剤
本発明の温度感受性リポソームは、1つ以上の活性薬剤を含むように処方してもよい。本明細書で用いる「活性薬剤」は、対象内の特定の部位に送達されるべき任意の化合物を含む。本発明の実施に際しては、任意の活性薬剤を用いてもよい。
【0020】
本発明の温度感受性リポソーム中の活性薬剤として抗癌剤を用いてもよい。適切な抗癌剤の例としては以下が挙げられる。
【0021】
アルキル化剤、例えば、窒素マスタード類(例えば、クロラムブシル、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、ニトロソウレア類(例えば、カルムスチン、フォテムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン)、白金含有化合物(例えば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、BBR3464)、ブスルファン、ダカルバジン、メクロレタミン、プロカルバジン、テモゾロマイド、チオテパおよびウラムスチン。
【0022】
例えば、葉酸(例えば、アミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド)、プリン代謝(例えば、クラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、メルカプトプリン、ペントスタチン、チオグアニン)、ピリミジン代謝(例えば、カペシタビン、シタラビン、フルオロウラシル、フロクスウリジン、ゲムシタビン)を標的とする代謝拮抗薬。
【0023】
紡錘体毒植物アルカロイド、例えば、タキサン類(例えば、ドセタキセル、パクリタキセル)およびビンカ(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン)。
【0024】
細胞毒性/抗腫瘍抗生物質、例えば、アントラサイクリン系抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、バルルビシン、カリノマイシン(carinomycin)、Nアセチルアドリアマイシン、ルビダゾン(rubidazone)、5−イミドダウノマイシン、N30アセチルダウノマイシンおよびエピルビシン)、ブレオマイシン、マイトマイシンおよびアクチノマイシン。
【0025】
トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、カンプトテシン類(例えば、カンプトテシン、トポテカン、イリノテカン)、ポドフィルム(例えば、エトポシド、テニポシド)。
【0026】
モノクローナル抗体またはその断片、例えば、アレムツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、ゲムツズマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、トシツモマブおよびトラスツズマブ。
【0027】
光増感剤、例えば、アミノレブリン酸、アミノレブリン酸メチル、ポルフィマーナトリウムおよびベルテポルフィン。
【0028】
キナーゼ阻害剤、例えば、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブおよびバンデタニブ。
【0029】
酵素類、例えば、アスパラギナーゼ、ペガスパルガーゼおよび酵素阻害剤、例えば、ヒドロキシウレア。
【0030】
アポトーシス誘導物質、例えば、三酸化ヒ素、ベルケイド(Velcade)およびジェナセンス(Genasense)。
【0031】
生物的反応修飾物質、例えば、デニロイキンディフティトックス。
【0032】
抗ホルモン、例えば、酢酸ゴセレリン、酢酸ロイプロリド、トリプトレリンパモ酸塩(triptorelin pamoate)、酢酸メゲストロール、タモキシイフェン(Tamoxiifen)、トレミフェン、フルベストラント、テストラクトン、アナストロゾール、エキセメスタンおよびレトロゾール。
【0033】
レチノイド類、例えば、9−cis−レチノイン酸およびオールトランスレチノイン酸。
【0034】
さらなる実施形態では、本発明の温度感受性リポソームは、1つより多くの抗新生物剤含むようにすることができるか、または本発明の方法において、各々が異なる活性薬剤、例えば、異なる抗癌剤を含む1つより多くの温度感受性リポソームを用いることができる。
【0035】
本発明の実施に際して使用可能なさらなる活性薬剤としては、抗生物質、抗真菌剤、抗炎症薬、免疫抑制剤、抗感染症薬、抗ウイルス剤、抗寄生虫剤および駆虫化合物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
活性薬剤を含む本発明の温度感受性リポソームは、このリポソームが温度感受性を維持するとともに、上記活性薬剤を適切な温度、例えば、39℃〜45℃で放出可能であれば、上記脂質および活性薬剤を任意の比率で含んでもよい。ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール:リゾ脂質:PEG化リン脂質:活性薬剤の重量比の適切な範囲は、60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30である。ホスファチジルコリン:ホスファチジルグリセロール:リゾ脂質:PEG化リン脂質:活性薬剤の適切な重量比の例としては、
【0037】
【化1】

が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
使用法
本発明の温度感受性リポソームは、任意の適切な経路、例えば、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下、皮内関節内、クモ膜下脳室内、鼻内噴霧、肺吸入、経口投与(oral dministration)および当業者に公知の他の適切な投与経路を用いて対象に投与することができる。本発明の方法を用いて処置可能な組織としては、鼻腔、肺、肝臓、腎臓、骨、軟組織、筋肉、副腎組織および胸部が挙げられるがこれらに限定されない。処置可能な組織には、癌組織または病変もしくは損傷組織と、所望であれば、健常組織の両方が含まれる。39.5℃よりも高い温度まで加熱可能な任意の組織または体液を本発明のリポソームを用いて処置してもよい。
【0039】
本発明の温度感受性リポソームを用いて対象に投与する活性薬剤の用量は、当業者であれば容易に決定でき、長時間にわたって、例えば、約1分〜数時間、例えば、2、3、4、6、24時間またはそれ以上にわたって適切に静脈内投与される。本明細書で用いる「約」は、数値の修飾に用いる場合、10%の可変性を示す。
【0040】
活性薬剤の用量は、当該分野で公知のように、担体に含む活性薬剤に応じて調節してもよい。
【0041】
対象の標的組織は、本発明の温度感受性リポソームの投与前および/または投与中および/または投与後に加熱してもよい。1つの実施形態では、上記標的組織がまず加熱され(例えば、10〜30分)、本発明のリポソームは、その加熱後できるだけすぐに対象内に送達される。他の実施形態では、本発明の温度感受性リポソームが対象に送達され、上記標的組織は、その投与後できるだけすぐに加熱される。
【0042】
上記標的組織を加熱する任意の適切な手段を用いてもよく、例えば、高周波照射の利用、超音波(高密度焦点式超音波であってもよい)の利用、マイクロ波放射の利用、温水槽等の赤外線放射、光、ならびに放射性同位体、電場および磁場および/または上記の組み合わせにより発生されるもの等外部もしくは内部から受ける放射を発生する任意の発生源が挙げられる。
【0043】
本発明またはその任意の実施形態の範囲から逸脱することなく本明細書に記載の方法および用途に対して他の適切な修正および適合を実施可能であることは、当業者には容易に理解できる。本発明を詳述したが、その内容は、例示のみを目的とし、本発明の限定を目的としない以下の実施例を参照することにより、さらに明確に理解できる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
温度感受性タキソテールリポソームの調製および特性評価
下記の原料を用いて本発明のリポソームを調製した:ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、モノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)、PEG化ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−mPEG2000)、NaCl、KCl、NaHPO・12HO、KHPO、ラクトース、CHCl、メタノール、エタノールおよび蒸留水。
【0045】
以下の器具を用いて本発明のリポソームを調製した:水槽、ロータリーエバポレーター、ホモジナイザー−押出機、凍結乾燥機、レーザー光散乱粒度分析器(laser light scattering particle sizer)(Smypatec Nanophox)および温度計。
【0046】
リポソームを含む20mlバッチのドセタキセルの調製法
以下の成分を指定量だけ量り分けする。
【0047】
【表1】

上記原料を、CHC1/メタノール(3:1)を用いて55℃で溶解する。次いで、有機溶剤をロータリーエバポレーターで取り除く。これは、55℃で1時間回転蒸発を実施することにより行うことができる。乾燥後、乾燥させた原料に適切な時間、例えば、5分間、窒素ブローを行ってもよい。
【0048】
次いで、乾燥させた原料を再水和する。適切な再水和液は、ラクトースまたは他の安定化材(例えば、糖類)を添加可能なリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。適切な再水和プロトコルは、20mlのPBS−5%ラクトース溶液(pH7.3±0.2)を加え、ロータリーエバポレーターにおいて、大気圧で1時間、50℃で回転させることである。再水和後、上記溶液を減圧しながら脱気して気泡を取り除くことができる。
【0049】
水和後、上記リポソームの粒度を所望の範囲、例えば、100±15nmに調節してもよい。適切な押出プロトコルでは、200nmフィルタを備えたホモジナイザー/押出機を用いて押し出しを3回行う。100nmフィルタに交換し、押し出しを3回行う。最後に、80nmフィルタに交換し、押し出しを3回行う。上記リポソームの粒度分布は、任意の適切な技術を用いて、例えば、光子相互相関分光法(PCCS)およびNanophoxセンサー(Sympatec GmbH)を用いて測定することができる。押出後、上記リポソーム溶液は、0.22μm孔径薄膜フィルタ(Millipore)でろ過することにより滅菌することができる。
【0050】
滅菌後、上記リポソームをバイアルに入れ、凍結乾燥する。凍結乾燥プログラムは以下の通りである:−50℃で2時間、−45℃で1時間、−35℃で10時間、−15℃で5時間、0℃で2時間、10℃で2時間、20℃で6時間。
【0051】
本発明のリポソームの他の適切な調製法は以下の通りである。
【0052】
上記と同じ成分をCHCl/メタノール(3:1)中において55℃で溶解する。上記のように有機溶剤をロータリーエバポレーターで取り除く。上記のように20mlのPBS−5%ラクトース溶液を用いて50℃で再水和する。再水和した原料をホモジナイザーに入れ、15,000psiで5分間処理して粒度を小さくする。均質化した原料を取り出し、100nmフィルタを備えた押出機を用いて、押出を6回行って粒度を100±15nm(100nm×6)まで小さくした後、0.22μmろ過で滅菌する。滅菌後、上記リポソームをバイアルに入れ、凍結乾燥する。
【0053】
分析法
上記リポソームの形態分析は電子顕微鏡法により行うことができる。リポソームをリンタングステン酸でネガティブ染色し、銅メッシュに移した。水分を蒸発させ、試料を電子顕微鏡で観察した。本発明の方法で調製したリポソームを電子顕微鏡で見ると均質であった。
【0054】
上記のように調製したリポソームについて、薬物封入のパーセンテージ(封入%)を測定した。封入%=封入薬物/全薬物×100%。封入%は以下のように判定した:上記リポソーム1mlを6000rpmで5分間遠心分離機にかけた。上清のドセタキセルをHPLCで測定した。上記リポソームのドセタキセル含有量は、リポソームからドセタキセルを抽出し、抽出したドセタキセルをHPLCで測定して判定した。抽出のために、0.1mlのリポソームを水:アセトニトリル(45:55)で0.5mlに希釈した。4mlのtert−ブチルメチルエーテルを加え、30秒間混合した。その混合物混合物300gを15分間遠心分離機にかけた。その有機層3mlを回転蒸発により除去乾燥させた。乾燥させた原料を200μl水:アセトニトリル(45:55)中で再懸濁し、5〜10μlを分析のためにHPLCに注入した。
【0055】
HPLC分析を以下の条件で行った:Venusil C18カラム(逆相C18カラム)を1ml/分の水:アセトニトリル(45:55)の移動相とともに用いた。カラム温度は30℃とした。UV検出を230mnに設定した。この条件下では、薬物検出限界は20〜800ngである。
【0056】
上記プロトコルの試料中のドセタキセルを回収する能力を判定した。上記のように調製した0.1mlのリポソームに、0.1mlのドセタキセル標準溶液を加えた。この試料を水:アセトニトリル(45:55)で0.5mlに希釈した。4mlのtert−ブチルメチルエーテルを加え、試料を30秒間混合した。次いで、この試料300gを15分間遠心分離機にかけた。この有機層3mlを回転蒸発により乾燥させた。200μlの水:アセトニトリル(45:55)を残留物に加えた後、5〜10μlをHPLCに注入する。下記表は各種濃度のドセタキセルに対する回収率を示す。
【0057】
【表2】

本発明に従って調製したリポソームの相転移温度を判定した。Q100(TA Instruments,Inc.New Castle DE)を用い、空の密封アルミパンを参照用として示差走査熱量(DSC)測定を行った。脂質濃度を20mg/mlとし、10μlのリポソーム懸濁液を注意深く密封アルミパン内に入れ密封した。走査速度を2℃/分に設定した。図1は、本発明のリポソームで得られたDSCトレースを示す。DSCスペクトルは、タキソテール温度感受性リポソーム相転移温度が約42℃であることを示す。
【0058】
上記方法により調製したリポソームの安定性を、保存中に定期的に粒度を測定して評価した。下記表の結果は、上記のように調製したリポソームは少なくとも3ヶ月間安定することを示す。
【0059】
【表3】

薬物含有量についても監視した。その結果、凍結乾燥後、リポソームは2〜8℃で、少なくとも3ヶ月間安定することが分かった。
【0060】
リポソームの薬物含有量
【0061】
【表4】

薬物封入率についても同様に監視した。その結果、凍結乾燥後、リポソームによる薬物封入量は2〜8℃で、少なくとも3ヶ月間安定することが分かった。
【0062】
薬物封入
【0063】
【表5】

異なる凍結防止剤に対して、凍結乾燥時の粒度に対するそれらの影響についてテストした。ラクトース、トレハロース、スクロースおよびマンニトールをテストした。その結果、ラクトースおよびスクロースは、マンニトールおよびトレハロースよりも効果的であることが分かった。図2は、凍結乾燥した溶液中に存在する凍結防止剤の重量%に応じた粒度のグラフを示す。
【0064】
凍結乾燥のためにリポソームを凍結させる速度およびリポソームの含水量は粒度に影響を与える。図3は、3つの異なる凍結速度におけるリポソームの含水量に応じた粒度のグラフを示す。粒度に影響を与える。
【0065】
再水和媒体もまたリポソーム粒度に影響を及ぼす。水、5%ブドウ糖液(D5W)および0.9%NaClをテストした。0.9%NaClおよび5%ブドウ糖液はリポソーム粒度を維持した。下記表は、3回の独立した測定における2つの異なるリポソーム生成の結果を示す。リポソームの平均直径はナノメートル(nm)で示す。処方F4−1は、以下の成分:DPPC:DSPG:DSPE−PEG:MSPC:ドセタキセルを以下の重量%:71.56:8.15:8.24:8.02:4.00で有し、F4−2は同じ成分を71.78:8.06:8.10:8.07:3.98重量%で有した。
【0066】
【表6】

再水和後のリポソームの安定性を調べた。凍結乾燥したリポソームを0.9%NaClで再水和し、図4Aに概略的に示すようにテストした。粒度分布を動的光散乱装置で1時間かけて繰り返し走査して監視した。その結果、再水和したリポソームの粒子分布は1時間安定することが分かった(図4B)。
【0067】
凍結乾燥したリポソームを各種の温度で9ヶ月間保存した。リポソームの封入%を0、1、3、6および9ヶ月目にテストし、平均粒度を調べた。下記表内の結果は、リポソームが最大9ヶ月間、4℃で安定したことを示す。
【0068】
【表7】

(実施例2)
本発明のリポソームを用いて得られたin vivo薬物分布と遊離ドセタキセルを用いて得られたin vivo薬物分布を比較した。
【0069】
6匹の雌BALB/cマウス(20±2g)を無作為に3つの群に分けた。それらのマウスを麻酔にかけ、穴を開けた発泡スチロール板に載せた。マウスの一方の脚を穴に通し、板の反対側に引っ張り出した。その板を水槽内に浮かべ、43.5±0.5℃で15分間脚を加熱した。次いで、マウスに対して1用量10mg/kgのリポソームまたは同用量のタキソテール(対照:製造者の仕様書に従って調製)を尾静脈注射した。次いで、各マウスの上記一方の脚を注射後30分間加熱した後、殺処分した。加熱した脚および非加熱の脚の筋肉を切除した。上記の抽出法を用いて固定重量の筋肉組織から薬物を抽出した。抽出した薬物をHPLCにより分析した。その結果を下記表に示す。
【0070】
【表8】

このデータは、感温性リポソームによって、加熱した脚に対して非加熱の脚の2倍以上のドセタキセルが送達されたことを示す。
【0071】
(実施例3)
本発明のリポソームを用いて得られたin vivo薬物分布と非温度感受性ドセタキセル含有リポソームを用いて得られたin vivo薬物分布を比較した。
【0072】
温度感受性リポソームおよび非温度感受性リポソームは、下記表に示す処方に従って作製した。
【0073】
【表9】

6匹の雌BALB/cマウス(20±2g)を無作為に3つの群に分けた。それらのマウスを麻酔にかけ、穴を開けた発泡スチロール板に載せた。マウスの一方の脚を穴に通し、板の反対側に引っ張り出した。その板を水槽内に浮かべ、43.5±0.5℃で15分間脚を加熱した。次いで、マウスに対して1用量10mg/kgのリポソームまたは同用量のタキソテール(対照:製造者の仕様書に従って調製)を尾静脈注射した。次いで、各マウスの上記一方の脚を注射後30分間加熱した後、殺処分した。加熱した脚および非加熱の脚の筋肉を切除した。上記の抽出法を用いて固定重量の筋肉組織から薬物を抽出した。抽出した薬物をHPLCにより分析した。その結果を下記表に示す。
【0074】
【表10】

温度感受性リポソーム群では、加熱組織中の薬物濃度は非加熱組織よりも約2倍高い。ドセタキセル注射(実施例2)および非温度感受性リポソーム群では、加熱組織および非加熱組織の薬物濃度は同じであった。これらの結果により、上記実験条件下で温度感受性リポソームが薬物を組織内に放出したことが分かった。
【0075】
(実施例4)
ルイス肺腫瘍を持つマウスにおいて、本発明のリポソームを用いたドセタキセル送達のin vivo有効性と遊離ドセタキセルのin vivo有効性を比較した。
【0076】
7〜9週齢で体重が20±2gの12匹の雌昆明マウスを用いた。ルイス肺癌細胞(0.1mlのPBS中に3×10個の細胞)を各マウスの右下肢に皮下移植した。処置開始前に腫瘍を直径4〜6mmに成長させた。
【0077】
上記12匹のマウスを腫瘍容積により階層化し、3つの処置群:生理食塩水、遊離ドセタキセルおよび本発明の温度感受性リポソームに無作為に分けた。
【0078】
【表11】

本発明のドセタキセル含有温度感受性リポソームを上記の通り調製し、使用するまで2〜8℃で保存した。処置動物に75mg/mのドセタキセルを本発明の温度感受性リポソームに含めるかまたは製造者の仕様書に従って調製した非リポソームタキソテールとして注射した。
【0079】
腫瘍移植後8日目に処置を開始し、12日目および16日目に処置を繰り返した。ペントバルビタール(80mg/kg)のIP注射により全ての処置群のマウスを麻酔にかけ、容量0.2mlの処置薬を尾静脈注射により投与した。この麻酔投与により、1時間の処置期間の間十分に動きを抑制することができた。
【0080】
生理食塩水群を除く全ての処置群に1用量75mg/mのドセタキセルが同等に与えられた。注射直後、分離した脚の腫瘍を水槽内に30分間入れることができるように特別に設計した容器にマウスを配置した。水槽温度は43℃に設定した。この水槽温度は腫瘍温度を42℃にするように予め調整されている。18日目に全てのマウスを殺処分した。腫瘍を外科的に切除し、腫瘍重量を記録した。腫瘍増殖抑制を以下のように計算した。
【0081】
腫瘍抑制率=(Vs−Vx)/Vs
ここで、Vsは生理食塩水群の腫瘍容積であり、Vxは処置群の腫瘍容積である。
【0082】
結果を下記表に示す。
【0083】
【表12】

温度感受性リポソーム製剤中のドセタキセルの送達および腫瘍の局部加熱の結果、ドセタキセルを単独で送達した場合よりも腫瘍が抑制された。温度感受性リポソームで処置した2匹のマウスでは、腫瘍はほぼ消失した。
【0084】
(実施例5)
カルボプラチンを含む温度感受性リポソームの調製
当業者に公知の任意の技術を用いてリポソームを調製してもよい。1つの適切な技術は以下の通りである。
【0085】
下記表に示す脂質を用いてリポソームを作製した。
【0086】
【表13】

脂質を3mlのクロロホルム中に溶解する。クロロホルムを60℃で減圧しながら回転蒸発させて薄膜を形成する。40分間継続して加熱し、有機溶媒を取り除く。25mlの水を加え、乾燥させた脂質膜を60℃で10分間かけて水和させる。室温で減圧して10分間かけて気泡を取り除く。さらに10分間60℃で加熱する。脂質懸濁液を200nmの薄膜を介して10回押し出す。100nmの薄膜を介して4回押し出す。このようにして調製したリポソームを4℃で保存するようにしてもよい。
【0087】
次いで、当業者に公知の任意の適切な技術を用いて、リポソームに活性薬剤、例えば、カルボプラチンを充填する。1つの適切な技術は以下の通りである。
【0088】
800mgのカルボプラチンおよび1000mgのラクトースを20mlの空のリポソームに対して106mgリポソーム/mlで加える。その混合物を水槽内で60℃で加熱し、300r/分で30分間撹拌する。充填したリポソームを4℃で保存するようにしてもよい。
【0089】
当該分野で公知の任意の技術、例えば、サイズ排除クロマトグラフィまたは透析を用いて、充填したリポソームから余分な薬物を取り除いてもよい。1つの適切な技術以下の通りである。
【0090】
充填したリポソーム溶液を透析袋(分子カットオフ:8000〜14000)に入れてもよい。このリポソーム溶液を、200mlの5%ラクトース溶液を用いて4℃で2時間透析してもよい。透析溶液を新鮮な200mlの5%ラクトース溶液と取り換え、さらに2時間、4℃で透析を行う。充填したリポソームを透析袋から取り出して、4℃で保存してもよい。充填したリポソームは、光に曝さないように保護する必要がある。
【0091】
(実施例6)
カルボプラチン含有リポソームの物理的特性評価
薬物充填リポソームを遊離薬物から分離した後、そのリポソームは、下記表に見られるように、0.04の薬物/脂質比を有し、95nmの平均粒度を有する(図5および図6)。脂質濃度は106mg/mlである。
【0092】
【表14】

カルボプラチンリポソームは医療用途においては希釈する必要があるため、本発明のカルボプラチン含有リポソームの安定性は、5%グルコース溶液および水を希釈剤として用いてテストした。これらの希釈剤におけるリポソーム安定性は、リポソーム10μlを希釈剤990μlにより室温で6時間かけて希釈してテストした。希釈後の薬物漏れを希釈前後の薬物封入を比較して分析した。下記表は、得られた結果を示す。このデータは、カルボプラチンリポソームが水または5%グルコースと親和性があることを示した。
【0093】
【表15】

(実施例7)
カルボプラチン含有リポソームの薬物放出プロファイルの特性評価
カルボプラチン薬物放出プロファイルを37℃および42℃で分析した。詳細な方法は以下の通りである。
【0094】
水槽をそれぞれ38℃および43℃に平衡化した(テスト試料温度は水槽よりも1度低い)。リポソームの1.0mlアリコートを9.0mlの5%グルコース溶液に希釈した。その希釈液5mlを38℃の水槽内で加熱した。希釈液の残りの5mlを43℃の水槽内で加熱した。加熱開始後の各時点で、各温度の200μl試料を採取した。試料は、42℃の試料については0、0.25、0.5、1、2、4、8、16、32、64および128分に採取し、37℃の試料については0、2、8、32および128分に採取した。これらの試料を採取直後に氷水で冷却した。
【0095】
これらの試料を全薬物および遊離薬物濃度について分析した。放出された薬物を下記式により計算した。
【0096】
薬物放出=C遊離/C全×100%
下記表および図7は得られた結果を示す。
【0097】
【表16】

これらのデータは、本発明のリポソームが加熱後に薬物を迅速に放出することをを示す。
【0098】
本発明のリポソームの薬物放出プロファイルをさらに特性評価するために、カルボプラチン含有リポソームの薬物放出についても37℃〜43℃までの各種温度で5分および10分間加熱してテストした。下記表および図8は、放出薬物のパーセンテージを示す。37℃では、薬物の放出はほとんどないが、40℃で開始すると、迅速に薬物が放出される。
【0099】
【表17】

(実施例8)
カルボプラチン含有リポソームの安定性の特性評価
異なる温度での保存時の薬物漏れを評価した。
【0100】
リポソームを−20℃、4℃および25℃で5日または10日間保存した。薬物の封入%を分析した。下記表に示す結果は、本発明のリポソームが4℃で10日間安定することを示す。
【0101】
【表18】

本発明のリポソームがろ過により滅菌可能かどうかを判定するために、それらのろ過に対する安定性を分析した。リポソームの2mlアリコートを0.22μmフィルタでろ過した。ろ過前後の薬物封入のパーセンテージを分析した。下記表のデータは、リポソームが少量でろ過可能であることを示す。
【0102】
【表19】

リポソームの長期安定性をリポソームを4℃で保存して評価した。薬物漏れを0、1および2ヶ月間評価した。下記表に示すように、本発明のリポソームは4℃で少なくとも6ヶ月間安定する。
【0103】
【表20】

本明細書において言及した全ての文献、特許および特許出願は、本発明に関連する当業者の水準を示すものであり、本明細書においては、各個別の文献、特許または特許出願が参考として援用されるものとして具体的かつ個別に示された場合と同じ範囲を参考として援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロールおよび少なくとも1つのリゾ脂質を含む温度感受性リポソームであって、該リポソームは約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する、温度感受性リポソーム。
【請求項2】
PEG化リン脂質をさらに含む、請求項1に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項3】
活性薬剤をさらに含む、請求項1に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項4】
前記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、前記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、前記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)である、請求項1に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項5】
PEG化リン脂質をさらに含む、請求項4に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項6】
前記PEG化脂質はPEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)である、請求項5に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項7】
DPPC:DSPG:MSPC:DSPE−PEG2000:活性薬剤を重量基準で60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の比率で含む、請求項1に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項8】
前記活性薬剤は抗癌剤である、請求項7に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項9】
前記抗癌剤は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、紡錘体毒植物アルカロイド、細胞毒性抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体もしくはその断片、光増感剤、キナーゼ阻害剤、抗腫瘍酵素および酵素の阻害剤、アポトーシス誘導物質、生物的反応修飾物質、抗ホルモン、レチノイド、ならびに白金含有化合物からなる群から選択される、請求項8に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項10】
前記抗癌剤はタキサンである、請求項9に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項11】
前記抗癌剤はドセタキセルである、請求項9に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項12】
前記抗癌剤は白金含有化合物である、請求項9に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項13】
前記抗癌剤はカルボプラチンまたはシスプラチンである、請求項9に記載の温度感受性リポソーム。
【請求項14】
活性薬剤を含む温度感受性リポソームを含む医薬組成物であって、該リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロール、少なくとも1つのリゾ脂質を含み、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する、医薬組成物。
【請求項15】
前記リポソームはPEG化リン脂質をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、前記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、前記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記リポソームはPEG化リン脂質をさらに含む、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記PEG化脂質はPEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記リポソームは、DPPC:DSPG:MSPC:DSPE−PEG2000:活性薬剤を重量基準で60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の比率で含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記活性薬剤は抗癌剤である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記抗癌剤は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、紡錘体毒植物アルカロイド、細胞毒性抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体もしくはその断片、光増感剤、キナーゼ阻害剤、抗腫瘍酵素および酵素の阻害剤、アポトーシス誘導物質、生物的反応修飾物質、抗ホルモン、レチノイド、ならびに白金含有化合物からなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記抗癌剤はタキサンである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記抗癌剤はドセタキセルである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記抗癌剤は白金含有化合物である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記抗癌剤はカルボプラチンまたはシスプラチンである、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項26】
処置を必要とする対象の疾患を処置する方法であって、
活性薬剤を含む感温性リポソームを含む治療有効量の医薬組成物を該対象に投与する工程であって、該リポソームは、少なくとも1つのホスファチジルコリン、少なくとも1つのホスファチジルグリセロール、少なくとも1つのリゾ脂質を含み、約39.0℃〜約45℃のゲル−液相転移温度を有する、工程と、
該疾患の全てまたは一部を含む該対象の領域を加熱する工程と、
を包含する、方法。
【請求項27】
前記リポソームはPEG化リン脂質をさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ホスファチジルコリンはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)であり、前記ホスファチジルグリセロールはジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)であり、前記リゾ脂質はモノステアロイルホスファチジルコリン(MSPC)である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記リポソームはPEG化リン脂質をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記PEG化脂質はPEG−2000修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG2000)である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記リポソームは、DPPC:DSPG:MSPC:DSPE−PEG2000:活性薬剤を重量基準で60〜80:6〜12:6〜12:4〜15:1〜30の比率で含む、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記疾患は癌であり、前記活性薬剤は抗癌剤である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記抗癌剤は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、紡錘体毒植物アルカロイド、細胞毒性抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤、モノクローナル抗体もしくはその断片、光増感剤、キナーゼ阻害剤、抗腫瘍酵素および酵素の阻害剤、アポトーシス誘導物質、生物的反応修飾物質、抗ホルモン、レチノイド、ならびに白金含有化合物からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記抗癌剤はタキサンである、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記抗癌剤はドセタキセルである、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
前記抗癌剤は白金含有化合物である、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記抗癌剤はカルボプラチンまたはシスプラチンである、請求項32に記載の方法。

【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−502134(P2011−502134A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531403(P2010−531403)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001846
【国際公開番号】WO2009/062398
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(508055788)セルシオン コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】