説明

治療装置とその作動方法

【課題】管腔等の臓器内壁の広い範囲にわたって効率的に治療用物質を供給する。
【解決手段】臓器A内に挿入されて、臓器A内の領域を液密状態に区画する区画手段3,5と、該区画手段3,5により区画された領域内の空間D容積を減少させる容積減少手段4と、該容積減少手段4により容積が減少させられた領域内に液状の治療用物質Cを供給する治療用物質供給手段12とを備える治療装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療装置とその作動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、管腔内に、外面に治療用物質を搭載した膨張可能なバルーンを収縮状態で挿入し、挿入後にバルーンを膨張させて、その外面を管腔内壁に密着させることにより、管腔内壁の患部に治療用物質を投与する治療装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−148887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の治療装置では、バルーンの外面に搭載した治療用物質を、膨張したバルーンの外面に接触した管腔内壁の患部に投与するので、バルーンが接触しない位置に配置されている患部には治療用物質を供給することができず、患部が管腔内壁の広い範囲にわたる場合には、十分に供給することができないという不都合がある。
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、管腔等の臓器内壁の広い範囲にわたって効率的に治療用物質を供給することができる治療装置とその作動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、臓器内に挿入されて、臓器内の領域を液密状態に区画する区画手段と、該区画手段により区画された前記領域内の空間容積を減少させる容積減少手段と、該容積減少手段により容積が減少させられた前記領域内に液状の治療用物質を供給する治療用物質供給手段とを備える治療装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、臓器内に挿入された区画手段によって液密状態に区画された患部を含む領域内の空間容積を容積減少手段によって減少させた状態で、治療用物質供給手段によって、区画された領域内に液状の治療用物質を供給することにより、治療用物質を領域内の臓器内壁全面に行き渡らせて、広範囲にわたる患部に治療用物質を投与することができる。
この場合に、領域内の空間容積が容積減少手段によって減少させられているので、区画手段によって区画されただけの領域内に供給する場合と比較して、より少ない治療用物質により、臓器内壁の広い範囲にわたって効率的に治療用物質を供給することができる。
【0007】
上記発明においては、前記容積減少手段が、前記区画手段によって区画された前記領域内において膨張させられる容積減少バルーンと、該容積減少バルーン内に膨張用媒体を供給する媒体供給手段とを備えていてもよい。
このようにすることで、区画手段によって区画された領域内に収縮状態で挿入された容積減少バルーンに対して、媒体供給手段の2より膨張溶媒体を供給して容積減少バルーンを膨張させることにより、該空間内の容積を簡易に減少させることができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記容積減少バルーンの外面に、該外面を周方向の少なくとも一部において前記臓器内壁に対して離間させる間隔形成手段を備えることが好ましい。
このようにすることで、容積減少バルーンを膨張させても、間隔形成手段によって形成される隙間によって、容積減少バルーンの外面と臓器内壁とが全周にわたって密着することが回避され、容積減少バルーンによって領域内の空間が液密状態に区画されてしまうことを防止できる。これにより、領域内の容積減少バルーンを挟むいずれか一方の空間に治療用物質を供給することにより、領域内の空間全体に治療用物質を行き渡らせることができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記間隔形成手段が、前記容積減少バルーンの外面を不連続に変化する形状とすることにより構成されていてもよい。
このようにすることで、容積減少バルーンの外面と臓器内壁とを周方向の少なくとも一部において簡易に離間させることができる。例えば、容積減少バルーンの外面に、表面を不連続に変化させた形状の凹凸を設けたり、容積減少バルーン自体の形状を不連続な形状とすればよい。
【0010】
また、上記発明においては、前記容積減少手段が、前記区画手段によって区画された前記領域内を減圧する吸引手段であってもよい。
このようにすることで、吸引手段の作動により、区画手段によって区画された領域内が減圧されて、臓器を収縮させることにより、簡易に領域内の空間容積を減少させることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記区画手段が、収縮状態で前記臓器内に挿入され、膨張させられることにより前記臓器内壁に全周にわたって密着させられる区画用バルーンであってもよい。
このようにすることで、収縮状態で臓器内に導入した区画用バルーンを膨張させることにより、該区画用バルーンを該臓器内壁に全周にわたって密着させて、臓器内を容易に液密状態に区画することができる。
【0012】
また、本発明は、臓器内に挿入された状態で、区画手段が臓器内の領域を液密状態に区画する区画ステップと、前記領域内の空間容積を容積減少手段が減少させる容積減少ステップと、該容積減少ステップにおいて容積が減少させられた前記領域内に、治療用物質供給手段が液状の治療用物質を供給する供給ステップとを含む治療装置の作動方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、管腔等の臓器内壁の広い範囲にわたって効率的に治療用物質を供給することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る治療装置を示す縦断面図である。
【図2】図1の治療装置の第1の変形例を示す縦断面図である。
【図3】図1の治療装置の第2の変形例を示す縦断面図である。
【図4】図1の治療装置の第3の変形例であって、管腔状の臓器に挿入した状態を示す縦断面図である。
【図5】図4の治療装置においてバルーン間の空間から空気を排気している状態を示す縦断面図ある。
【図6】図4の治療装置において、図5の状態から空間内に治療用物質を供給した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る治療装置とその作動方法について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る治療装置1は、図1に示されるように、例えば、内視鏡2の鉗子チャネル2aを介して食道等の管腔状の臓器A内に導入される装置であって、間隔をあけて一列に配列される3つのバルーン3,4,5と、各バルーン3,4,5にそれぞれ接続された3つの配管6,7,8と、各配管6,7,8を介して、3つのバルーン3,4,5内に独立して媒体B(例えば、生理食塩水)を供給する3つのポンプ9,10,11と、中央のバルーン4近傍に液状の治療用物質Cを供給する供給手段12とを備えている。
【0016】
両端の2つのバルーン3,5(区画用バルーン:区画手段)は、それぞれ、内視鏡2の鉗子チャネル2aの内径より細く収縮可能であるとともに、供給された媒体Bによって膨張させられることにより、臓器Aの内径より大きく膨張可能な寸法を有している。これらのバルーン3,5は、膨張させられた際に滑らかに連続する略球形の外面形状となるように構成されている。
【0017】
中央のバルーン4(容積減少バルーン:容積減少手段)は、内視鏡2の鉗子チャネル2aの内径より細く収縮可能であるとともに、供給された媒体Bによって膨張させられることにより、臓器Aの内壁に接触する大きさまで膨張可能な寸法を有している。このバルーン4は、その外面に複数の突起4aを有している。
【0018】
これらの突起4aは、周方向に間隔をあけて複数配置されており、バルーン4の外面を周方向に不連続に変化する形状とするもので、バルーン4が膨張させられると最初に突起4aの先端が臓器A内面に接触させられることにより、突起4a間においてバルーン4の外面と臓器A内面との間に隙間を形成するようになっている。
【0019】
また、3つのバルーン3,4,5の外面は親水性処理が施されており、臓器Aの内面に押し付けられてもこれに癒着しないようになっている。
配管6,7,8,13は、例えば、4重管状に形成され、最小の内径の配管6が先端側のバルーン3に接続し、2番目の内径の配管7が中間のバルーン4に接続し、3番目の内径の配管13が、両端のバルーン3,5に挟まれた間の空間Dに開口し、最大の内径の配管8が基端側のバルーン5に接続している。
【0020】
ポンプ9,10,11は、3番目の内径の配管13を除く3本の配管6,7,8の基端側にそれぞれ接続され、各バルーン3,4,5内に媒体を送るようになっている。
供給手段12は3番目の内径の配管13と、該配管13の基端側に接続された治療用物質C供給用のシリンジ14とによって構成されている。治療用物質Cは、例えば、幹細胞等の細胞を含む細胞懸濁液、あるいは、薬剤である。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る治療装置1の作動方法について以下に説明する。
本実施形態に係る治療装置1を用いて管腔状の臓器A、例えば、食道(以下、食道Aとも言う。)を治療するには、内視鏡2の挿入部先端を臓器Aの患部近傍まで挿入した後に、鉗子チャネル2aを介して治療装置1の配管6,7,8,13の先端に配置された3つのバルーン3,4,5を食道A内に挿入していく。
【0022】
治療装置1は、挿入時には、全てのバルーン3,4,5を鉗子チャネル2aの内径よりも小さい外径となるように収縮させておく。これにより、治療装置1は食道A内に容易に挿入され、先端の3つのバルーン3,4,5が鉗子チャネル2aの先端開口から食道Aの患部近傍に配置される。
【0023】
最先端のバルーン3が患部を越えた位置に配置され、最基端のバルーン5が患部の手前位置に配置された状態で中央のバルーン4に接続する配管7を介してポンプ10により媒体Bを供給し、バルーン4を膨張させていく。そして、バルーン4の外面に設けられた突起4aによって食道Aの内壁が押圧されるまでバルーン4が膨張させられた時点で、バルーン4の膨張を停止する。
【0024】
この後に、最先端および最基端の2つのバルーン3,5を膨張させていき、その外面を食道A内面に密着させる。これにより、食道Aの患部近傍の空間Dをその他の空間から液密状態に区画する。
【0025】
そして、この状態で、シリンジ14を作動させて、液状の治療用物質Cを配管13を介して区画された空間D内に供給することにより、この空間Dを満たす。治療用物質Cは、配管13先端の開口から、バルーン3,5によって挟まれる空間Dに供給され、この空間Dを満たしていく。
【0026】
この場合において、この空間Dは、バルーン4を膨張させることによって、その容積を減少させられているので、より少ない量の治療用物質Cを供給するだけで空間D内全体を満たすことができる。また、バルーン4の外面に突起4aを設けることにより、バルーン3,4間の空間とバルーン4,5間の空間とはバルーン4によって完全に仕切られることなく連絡している。
【0027】
したがって、一方のバルーン4,5間の空間に治療用物質Cを供給するだけで、他方のバルーン3,4間の空間にも治療用物質Cを行き渡らせることができる。したがって、空間D内に単一の治療用物質Cの吐出用の開口を設けるだけで済み、構造を簡易にすることができる。また、バルーン4は突起4aを食道A内面に接触させるだけで広い範囲にわたって食道A内面に密着しないので、食道A内面への治療用物質Cの供給がバルーン4によって阻害されずに済むという利点もある。
【0028】
なお、本実施形態においては、バルーン3,5によって液密状態に区画された空間D内に治療用物質Cを吐出することとしたので、該空間D内に空気が封入されている場合には、これを排気するための配管(図示略)をさらに設けることにしてもよい。この場合には、排気用の配管の吸引口を空間D内の上方位置に配置して気体を吸引しながら治療用物質Cを吐出することにすればよい。
また、生理食塩水を充填することで空気を追い出した後に治療用物質を供給することにしてもよい。
【0029】
また、本実施形態においては、バルーン3,5によって区画される空間D内において球形のバルーン4を膨張させることにより空間D内の容積を減少させることとしたが、これに代えて、多角形等、任意の形状のバルーン(図示略)を膨張させることにしてもよい。また、突起4aによりバルーン4の外面と臓器A内面との間の隙間を維持することとしたが、これに代えて、他の任意の不連続に変化する外面形状によって、隙間を維持することにしてもよい。
【0030】
また、3つのバルーン3,4,5を独立して膨張させることとしたが、これに代えて、図2に示されるように、単一の配管15によって3つのバルーン3,4,5を同時に膨張させることにしてもよい。このようにすることで、構造を簡易化することができるとともに、配管15の径寸法を小さくでき、挿入容易性を向上することができる。
【0031】
なお、本実施形態においては、食道A等の管腔状の臓器Aの治療装置1について説明したが、これに代えて、図3に示されるように、膀胱Eのような袋状の臓器Eを治療する治療装置20に適用してもよい。図3に示す例では、尿道を介して膀胱E内まで挿入される内視鏡2の挿入部が、尿道を閉塞して臓器E内の空間を液密状態に密閉する区画手段として機能している。
【0032】
この治療装置20は、臓器E内において膨張させられる単一のバルーン21と、該バルーン21内に媒体Bを供給する配管22と、配管22の基端側に接続されたポンプ23と、他の配管(鉗子チャネル)2aを介して臓器Eとバルーン21との間の空間Dに治療用物質Cを供給するシリンジ25とを備えている。
【0033】
バルーン21の外面には、上記バルーン4の突起4aと同様の突起21aが多数、間隔をあけて配置されている。
これにより、臓器E内においてバルーン21が膨張させられると、臓器E内に区画された空間D内の容積が減少させられるとともに、突起21aが臓器Eの内面に接触することで、バルーン21の外面と臓器Eの内面との間に隙間が形成されるようになっている。
【0034】
このように構成された治療装置20によれば、袋状の臓器E内の空間容積を減少させて、供給する治療用物質Cの量を低減し、少ない治療用物質Cによって、臓器Eの内面を広い範囲にわたって治療することができる。
【0035】
なお、この治療装置20においても、膨張して略球形となるバルーン21に代えて、他の形態のバルーンを採用してもよい。
また、内視鏡2の挿入部によって尿道を閉塞する区画手段を構成することとしたが、これに代えて、膀胱Eへの尿道の開口近傍において膨張させられるバルーン(図示略)によって尿道の開口を閉塞することにしてもよい。
【0036】
また、上記実施形態においては、バルーン3,5によって区画された空間D内においてバルーン4を膨張させることにより、空間D内の容積を減少させることとしたが、これに代えて、図4〜図6に示されるように、空間D内に開口する配管30と、該配管30の基端側に接続される吸引ポンプ31とを設けることにしてもよい。
【0037】
すなわち、図4に示されるように、臓器A内に挿入したバルーン3,5に媒体Bを供給してこれらのバルーン3,5を膨張させることにより、臓器A内の空間を液密状態に区画した状態で、吸引ポンプ31を作動させる。これにより、図5に示されるように、配管7を介して空間D内の空気Fが排出されて、空間Dの容積が減少させられる。
【0038】
この状態から、図6に示されるように、シリンジ14によって配管13を介して治療用物質Cを供給し、空間D内に充満させる。これにより、上記各実施形態に係る治療装置と同様に、空間D内の容積を減少させて、治療用物質Cの使用量を低減し、効率的に広い範囲にわたる患部の治療を行うことができる。
このように構成することで、中央のバルーン4が不要となり、さらに構成を簡易化することができる。
【符号の説明】
【0039】
A,E 臓器
B 媒体(膨張用媒体)
C 治療用物質
1,20 治療装置
2 内視鏡(区画手段)
3,5 バルーン(区画手段:区画用バルーン)
4 バルーン(容積減少手段:容積減少バルーン)
4a 突起(間隔形成手段)
12 供給手段(治療用物質供給手段)
14 シリンジ(媒体供給手段)
31 吸引ポンプ(吸引手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器内に挿入されて、臓器内の領域を液密状態に区画する区画手段と、
該区画手段により区画された前記領域内の空間容積を減少させる容積減少手段と、
該容積減少手段により容積が減少させられた前記領域内に液状の治療用物質を供給する治療用物質供給手段とを備える治療装置。
【請求項2】
前記容積減少手段が、前記区画手段によって区画された前記領域内において膨張させられる容積減少バルーンと、該容積減少バルーン内に膨張用媒体を供給する媒体供給手段とを備える請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記容積減少バルーンの外面に、該外面を周方向の少なくとも一部において前記臓器内壁に対して離間させる間隔形成手段を備える請求項2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記間隔形成手段が、前記容積減少バルーンの外面を不連続に変化する形状とすることにより構成されている請求項3に記載の治療装置。
【請求項5】
前記容積減少手段が、前記区画手段によって区画された前記領域内を吸引することにより減圧する吸引手段である請求項1に記載の治療装置。
【請求項6】
前記区画手段が、収縮状態で前記臓器内に挿入され、膨張させられることにより前記臓器内壁に全周にわたって密着させられる区画用バルーンである請求項1から請求項5のいずれかに記載の治療装置。
【請求項7】
臓器内に挿入された状態で、区画手段が臓器内の領域を液密状態に区画する区画ステップと、
前記領域内の空間容積を容積減少手段が減少させる容積減少ステップと、
該容積減少ステップにおいて容積が減少させられた前記領域内に、治療用物質供給手段が液状の治療用物質を供給する供給ステップとを含む治療装置の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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