説明

治療装置及び治療方法

【課題】 全身の疲労の治療を行う治療装置を提供する
【解決手段】被験者に振動圧を付加する複数のスピーカー/センサ100−1〜100−nを備える。また、被験者を外気圧より陰圧にした状態にする気密室10及び真空ポンプ部290を備える。そして、それぞれのスピーカー/センサ100−1〜100−nの振動圧の出力の分布を調整する制御部200を備える。この上で、制御部200は、身体の複数の部位に同時に同じ程度の振動圧がかかるように、前記それぞれのスピーカー/センサ100−1〜100−nを調整する。これにより、被験者の全身を疲労回復させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療装置及び治療方法に係り、特に音波を含む振動圧と陰圧とを用いた治療装置及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労のメカニズムについてはまだ完全に解明されていない。
疲労や疾患の原因の1つとして、日々の活動をとおして体内に生じた老廃物をはじめとした不要な物質が体内に蓄積し、これが血流を阻害する等、体の機能を低下させることがあげられるのではないかと考えられる。
ここでいう「老廃物をはじめとした不要な物質」とは、例えば新陳代謝やエネルギー代謝等によって生じた代謝産物のうち、生体に不要な物質であるアンモニア、尿素、尿酸等の窒素化合物や乳酸、活性酸素、あるいはアポトーシスや組織の損傷等により生じた、壊死した細胞等を含み、日々の生活をとおして体内に生じた物質の内、体外に排泄されるべきもの全てを含む(以下、これらをまとめて「老廃物」と呼ぶ)。
【0003】
たとえば、長時間思考した際には、頭部に疲れを感じるが、これは思考することにより脳でエネルギー代謝等が活発となり、その結果脳組織に老廃物が多く生じたためと考えられる。
体内に生じたこれらの老廃物は、体の働きにより体外に排泄されるが、この老廃物を排泄する働きのうち最大のものが循環器系の働きと考えられる。老廃物は、循環器系、すなわち心臓及び動脈系の働きで血流により組織から洗い流され、疲労しても、休息することにより疲労が回復する理由の一つは、この間体の組織に蓄積した老廃物が洗い流されるためである。
【0004】
しかし、何らかの原因によりストレスや活動量等が増加した場合には、組織でのエネルギー代謝等が増加するため、代謝産物である老廃物も増加する。そして、この老廃物の増加の量やスピードが循環系の老廃物の排泄能力を上回るような場合には、老廃物が組織に蓄積していき、その結果、凝りや慢性の疲労状態等が生じ、さらにそれが続く場合には病気の一因になると考えられる。
【0005】
ここで、疲労に対する治療として、マッサージや鍼灸、電気療法等の各種理学療法がある。これらの療法は、血流を改善すること等により循環器系等による老廃物の除去を促進し、疲労を改善させると考えられる。
しかし、体内の老廃物を直接除去できれば、より高い治療効果を得ることができると思われる。
【0006】
皮膚は体表面を覆う人体の中で最大の器官である。皮膚の主な生理作用として、外部環境に対する保護作用や知覚作用等があげられるが、排泄作用も重要な作用の一つである。皮膚により、体内の水分をはじめとする必要な成分が体外に漏出することが阻止される一方、老廃物等は汗や脂として汗腺等から排泄される。つまり、皮膚には選択性があり、体内に不要な老廃物等は排泄し、必要なものは体内に残すという濾過機能があると考えられる。
一般に、濾過が行われる場合、フィルター(濾紙)をはさんだ圧力差が濾過の速度を左右し、この圧力差が大きければ大きいほど濾過は促進されるという性質がある。これを皮膚にあてはめ、皮膚を濾過の際のフィルターと考えると、皮膚の内部と外部の圧力差が大きいほど、すなわち体内の圧が大きく、体外の圧が小さいほど皮膚の濾過作用が促進され、皮膚をとおして老廃物の体外への排泄が促進されると推測される。ここで、体内の圧力は血圧、体外の圧力は外気圧と考えられる。
すなわち皮膚の排泄作用を促進するためには、血圧を維持したまま外気圧を低下させる必要があると考えられる。
【0007】
実際に、外気圧を低下させ、血圧との圧格差を大きくすることにより皮膚の濾過機能を高め、それを治療に利用していると考えられる治療法として、プハン(吸い玉)という器具を用いた「吸い玉療法」と呼ばれる代替療法があげられる。これは、ガラスや硬質のプラスチックのカップ(吸引カップ)の内部を陰圧にして皮膚の表面に吸着させ治療を行うもので、この治療により、血流の改善効果や皮膚からの老廃物の排泄促進効果等があるとされている。この治療の原理は、前述のように、皮膚の一部を陰圧(大気圧より低い圧力)にし、皮膚の内外の圧格差を大きくすることにより皮膚の排泄作用を促進するのではないかと推測される。陰圧にした皮膚には、カップの形に一致した紫色の「斑」ができ、これは、皮膚からの老廃物の排泄の促進によって生じたのではないかと考えられる。
【0008】
ここで従来の吸い玉療法を改良した吸引カップとして特許文献1を参照すると、減圧により変形して潰れる変形部を有するとともに、吸引カップの内面に変形時に吸引カップ内に吸引された被痩身部を押圧する押圧部を有し、この押圧部が被痩身部を押圧する吸引カップが記載されている(以下、従来技術1とする。)。
この従来技術1の吸引カップを用いることで、被痩身部の無駄な皮下脂肪を散逸させ、これを効果的に取り除くことができ、また患部内部の鬱血を取り除いて肩こり等を解消することができる。
【0009】
また、特許文献2を参照すると、気密可能な気密部と、この気密部の排気口に連通して気密部内の気圧を減圧する減圧ポンプと、前記気密部の気圧が予め定められた閾値気圧を下回る過減圧となることを防止する過減圧防止装置とを備えた調圧装置であって、前記気密部が、矩形状のパネルを組み合わせて互いの接合部分の気密性を確保した6面体状の筐体に構成されており、前記減圧ポンプを制御する減圧制御手段を更に備え、前記減圧制御手段が、前記閾値気圧以上の減圧状態と常圧又は前記減圧状態よりも高く常圧よりも低い広範常圧状態との間を、予め定められた時間内で1回以上繰り返し制御するものであることを特徴とする調圧装置が記載されている(以下、従来技術2とする。)。
従来技術2は、空気浴を行うために均一かつ正確な温度変化を被験者に与えるに最適な調圧装置を得、均一かつ正確な温度変化を被験者に与える空気浴を行う調圧法を得ることができるという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−169829号公報
【特許文献2】特開2010−167252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術1の吸引カップにおいては吸引を行うことのできる範囲、及び時間は限られていた。この理由として、皮膚の広範囲を強い陰圧下におくことや長時間陰圧下におくことが体へ大きな負担をもたらすためであった。
また、従来技術2の装置は、体からの老廃物の排泄促進作用が強くなく、疲労回復の効果があまり得られなかった。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の治療装置は、被験者を疲労回復させるための治療装置であって、前記被験者に振動圧を付加する複数の振動圧付加手段と、前記被験者を大気圧より陰圧にした状態にする陰圧化手段とを備えることを特徴とする。
本発明の治療装置は、複数の前記振動圧付加手段の振動圧の出力の分布を調整する調整手段を備え、前記調整手段が、身体の複数の部位に同時に同じ程度の振動圧がかかるように、それぞれの前記振動圧付加手段を調整することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記被験者の脈拍や血圧を検知するセンサ手段を更に備えることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記調整手段が、前記センサ手段で検知した値を基に、前記陰圧や前記振動圧の出力を調節することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記センサ手段が、前記被験者の体表面の温度、血流量、及び硬度のいずれかを含む前記被験者の体表面の状態を検知することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記センサ手段が、前記被験者の位置を3次元的に把握するための複数のサーモメーターを備えることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記センサ手段が、前記被験者の体表面からのマイクロ波の反射を検知し、前記被験者の体表面の硬度を計測することを特徴とする。
本発明の治療装置は、リアルタイムでそれぞれの前記センサ手段の出力を描画するモニター手段を備えることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記被験者を仰向け又は俯せで載置するメッシュ状の寝台を更に備え、前記振動圧付加手段を前記被験者を周りを取り囲むように複数配置することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記調整手段が、複数の前記サーモメーターの情報を解析することにより前記被験者の体表面の動きを捉え、前記振動圧を加えた際の前記被験者の体表面の動きから、前記被験者の体表面の硬度を測定することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記調整手段が、治療毎に治療中の前記被験者の血圧、脈拍を含むバイタルサインの推移を含むデータを蓄積し、該データをデータベース化し、前記被験者に対応する設定を行うことを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記振動圧付加手段が、前記被験者に音波を当てる音波発生手段であることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記調整手段が、アクティブ・ノイズ・コントローラを用いて、音波の位相を打ち消したり、逆に重ね合わせて増強したりすることにより音波の強さの違いを強調し、又は前記被験者に付加した音波、又は付加された後の音波の反響を含むアーチファクトを除去するよう音波の出力を調整することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記センサ手段が、非接触で前記被験者の検知を行うことを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記振動圧付加手段が、前記被験者に向けて液体を噴射する液圧付加手段であることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記調整手段が、前記液体の出力を調整し、断続的に液圧による振動圧が加わるように調整することを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記被験者の体表面の少なくとも一部を取り囲む柔軟なシートを備え、前記液圧付加手段が、前記シートの外側から前記被験者の体表面に向かい液体を断続的に噴射し、前記被験者の体表面に振動圧を加えることを特徴とする。
本発明の治療装置は、前記センサ手段が、前記シートの位置提示手段の位置を読み取って、前記シートの形状や変形位置を測定し、前記被験者の体表面の状態を検知することを特徴とする。
本発明の治療装置は、各治療ごとに装置内を滅菌する滅菌手段を備えることを特徴とする。
本発明の治療方法は、被験者を疲労回復させるための治療方法であって、陰圧化手段により、前記被験者を大気圧より陰圧の状態にし、複数の振動圧付加手段により、前記被験者に振動圧を付加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、陰圧化手段により患者を大気圧より低い気圧下におくと同時に、患者の全身に複数のスピーカーから発せられる断続音による音波を投射し、又は液体を介した断続的な圧力(液圧)を加え、体表面を振動させることにより、患者に負担をかけることなく、患者の全身の疲労を回復させる治療装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの外観を示す概念図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの制御ブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る気圧・音場制御処理のフローチャートである。
【図4A】本発明の第1の実施の形態に係る音波による振動圧の付加の概念図である。
【図4B】本発明の第1の実施の形態に係る音波による振動圧の付加の概念図である。
【図4C】本発明の第1の実施の形態に係る音波による振動圧の付加の概念図である。
【図4D】本発明の第1の実施の形態に係る音波による振動圧の付加の概念図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るモニターの概念図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る治療装置Yの外観を示す概念図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る気密室12の内部を示す概念図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係る振動付加ユニット102−1の概略断面図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態に係る振動付加ユニット102−1による振動圧の付加の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1の実施の形態>
医師である本発明の発明者は、従来より日常の診療などをとおして、疲労の問題は医学的に非常に重要で、様々な疾患のもとになっているのではないかと考えていた。しかし人間の疲労のメカニズムや疲労回復のメカニズムについては、非常に注目されているところであるがまだ完全には解明されていない。
上述したように、従来から、疲労に対する治療としてマッサージや整体、鍼灸、低周波治療器等の各種理学療法があり、それぞれ効果的ではあるものの、同時に限界や副作用の危険等があることも事実である。つまり疲労に対する決定的な治療法はまだ見つかっていなかった。
そこで、本発明者は、疲労に関する医学的仮説を基に、鋭意実験と開発を進め、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xを発明した。治療装置Xは、従来の疲労に対する治療器とは全く異なる機序により疲労回復をはかることを目的としている。また疲労回復のみならず、様々な疾患の治療にも有効と考えられる。
この治療装置Xでは、患者を圧力チャンバー内におき、患者の外気圧を大気圧より低く保つと同時に、断続音を全身に加えることによるバイブレーション効果により、患者に負担をかけることなく皮膚の排泄作用を促進させ、体内の老廃物を皮膚をとおして除去することができ、疲労に対する治療、各種疾患の治療等に効果的である。
【0017】
〔本発明の治療装置の治療原理の基となる理論〕
以下で、この治療装置の原理のもととなっている、本発明者が考案した疲労や疾患と老廃物の体内への蓄積との関係についての医学的仮説について説明する。
【0018】
(体組織への老廃物の蓄積と、疲労との関係について)
前述のように、日々の様々な活動、あるいは新陳代謝等により体内に老廃物が生じる。活動量の増加、ストレスの増加等により老廃物の量が増加し、それが循環器系による処理能力を上回ると、組織等に老廃物が蓄積していくと考えられる。この蓄積した老廃物が体へ悪影響を及ぼすことにより、疲労や疾患の一因となると考えられる。
組織への老廃物の蓄積により最も影響を受けるのが、血液循環であると考えられる。組織に老廃物が蓄積すると、その組織を環流する末梢の動脈や毛細血管で血流が妨げられ血管抵抗が増大する。このため血液循環における効率が低下し、生体が組織に今までどおりに血液を送るためにはより強い圧力が必要となる等、生体が必要とするエネルギーが増加する。この状態を生体は疲労として感知するのではないかと推測する。
【0019】
(「凝り」について)
一般に、凝りとは、筋肉の使い過ぎや緊張等で血行不良が生じ、筋肉に酸素や栄養分が不足し、疲労物質等が蓄積することにより生じる筋肉の一次的な変化(硬化)と考えられている。
【0020】
(本発明の治療装置の原理的な仮説)
このような一般的な凝りの概念に対して、本発明者は、上述のように診察や実験等を通じ、別の仮説を考えるに至った。
本発明者の仮説は、凝りが、疲労に伴う血行不良に対して、生体が血流を維持しようとする過程で、二次的な筋肉の硬化等が起きることにより生じる、というものである。
【0021】
すなわち、前述のようにストレス、活動量の増加等で組織への老廃物の蓄積が増加すると、その組織を環流する末梢の動脈や毛細血管において、蓄積した老廃物により血流が妨げられ血管抵抗が増大する。このため、老廃物の蓄積前に比べて生体は組織に血流を送りにくくなる。よって、生体がその組織の血流を維持しようとすれば、必然的に血管の収縮力を強めて血流量を増加させようとしたり、血流の流速を維持するために、血管を収縮させて血管内腔の断面積を小さくする等の変化が生じるのではないかと思われ、それが筋肉の硬化、いわゆる「凝り」なのではないかと考えられる。
つまり、凝りとは、まだ詳細な機構は不明なものの、組織への疲労物質の蓄積に伴う血管抵抗の増大に抗して血流を維持しようとする過程で、生体の働きにより二次的に生じているのではないかと考えられる。
そして、凝りは自律神経によりコントロールされていると推測され、自律神経が組織への老廃物の蓄積による血流の低下の程度を感知して、老廃物の蓄積が多く、血流の低下の大きい組織の血管、筋肉等をより強く収縮させることにより血流を保っていると考えられる。
【0022】
さらに、本発明者の凝りについての更なる仮説を述べる。
(1)凝りは全身性に生じる。
ヒトの体には、横紋筋以外にも平滑筋、心筋等の筋組織があり、内蔵や動脈等体のほぼ全ての組織に筋組織が存在している。仮に、これらの平滑筋組織、心筋等にも凝りが存在すると考えると、凝りはほぼ全身のすべての組織に存在していると考えられる。これは、例えば、内臓や脳といった組織でも同様である。
【0023】
(2)凝りは相対的なものである。
凝りの程度は、組織への老廃物の蓄積の程度や、組織の血流の状態等に応じて、自律神経により全身的にコントロールされる相対的なものと考えられる。そして、凝りの程度、すなわち凝りの際の筋肉の硬度は、老廃物の蓄積量に相関し、老廃物の蓄積量が多く、血流の鬱滞の強い組織ほど大きく、あるいは血流の需要の多い組織ほど大きくなるのではないかと考えられる。つまり、凝りは生体が組織へ血流を供給しようとする過程で全身性に、二次的に生じ、その程度は自律神経により調節され、その組織の老廃物の蓄積の程度や、その組織が必要とする血流量等の要因によって規定されていると考えられる。
【0024】
以上の凝りに関する仮説をまとめると、凝りは、組織への老廃物の蓄積により血流が妨げられた場合に、生体が血流を保とうとする働きにより二次的に、全身性に生じ、凝りの分布や強さは、老廃物の蓄積の状態等に応じて、自律神経系によって厳密にコントロールされているというものである。
本実施形態に係る治療装置Xは、これらの仮説を基に、本発明者が鋭意実験を行い、確かに効果のある装置として発明するに至ったものである。
【0025】
〔疲労の治療の概念について〕
疲労の治療については、全身の捉え方として、一般的な医学における各臓器ごと、あるいは各分野ごとの捉え方に加えて、全身を一体として捉えて診断、治療を行うことが重要と思われる。
【0026】
その理由として、疲労は全身性に生じるため、疲労の局在を臓器別等に厳密に分けることが困難なことがあげられる。さらに、疲労が回復する過程でも、同様に全身性に回復していく経過をとるためである。
したがって、従来技術1のように、肩等凝りが強い特定の部位の疲労物質だけを減圧して取り除いたとしても、全身性の疲労物質を取り除かないかぎり、完全に疲労を解消することはできない。
このため、本発明の発明者は、全身の疲労物質を同時に一体として治療する技術を発明するに至った。本実施形態の治療装置Xは、全身を大気圧よりも低い気圧下に置き、同時に全身に断続音を付加する等の、断続的な振動を付加することにより、循環血液量を増加させ、全身の皮膚を通して老廃物の体外への排泄を効果的に行うことができる治療装置である。
【0027】
〔本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの概要〕
ここで、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの概要について説明する。
本実施形態の治療装置Xの原理は、患者を大気圧よりも低い気圧下に置くことにより、患者の外気圧と体内の圧(=血圧)の差を増大させ、皮膚を介した体外と体内の圧格差を拡大させることにより、皮膚の排泄機能、濾過機能を高め、体内の老廃物を皮膚を通して除去することにある。
しかし、ただ単に患者を大気圧よりも低い気圧下に置くだけでは、後述のような理由から、患者の体に大きな負担がかかってしまい、治療が困難である。
このため、本発明の発明者は、鋭意実験と研究を行い、患者の外気圧を大気圧よりも低下させると同時に、患者の体表面に、断続的に音波等により、振動を付加して、体表面を振動させるようなバイブレーションを加えることが有効であることを見いだした。すなわち、外気圧が低下した状態であっても、同時に体表面に適切な強さのバイブレーションを加えると、後述のようにこのバイブレーションが心臓や動脈系のポンプ作用を助ける働きをし、体への負担が軽減されるため治療が可能となる。
【0028】
ここで、治療の際に外気圧を低下させることによる、いわゆる「減圧症」の危険性について考慮しなければならない。減圧症は、潜水病ともいい、身体の組織や体液に溶けていた気体が、環境圧の低下により体内で気化して気泡を発生し、血管を閉塞して発生する。減圧症は、スキューバダイビングやケーソン工事等により、高圧環境下で体内に溶け込んでいた窒素が、急浮上等により急速に周囲の圧力が低下することにより気泡化するケースが典型的であるが、何らかの原因で、通常の気圧から急激に気圧が下がった場合にも減圧症になる場合があるとされている(Wikipediaを参照)。
このため、本実施形態の治療装置Xにおいては、患者の外気圧を低下させる場合には、低下させる範囲や速度に十分に注意し、それらが減圧症の危険のない範囲に収まるように調整することができる。
【0029】
以上をまとめると、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xによる治療においては:
(1)患者の外気圧を大気圧よりも低下させ、同時に患者の体表面に断続音を付加することによるバイブレーションを加える。
(2)この際、外気圧と、体表面に加えるバイブレーションの強さを適切に設定することで、患者に負担をかけることなく外気圧を低下させることができ、且つ、患者の循環器系の働きを増強することができる。なお、減圧症に対する配慮が必要である。
(3)外気圧と患者の体内の圧(血圧)の格差が大きくなるため、上述の濾過の原理により、皮膚からの老廃物の排泄作用を促進させ、治療効果を得ることができる。
以下で、図面を参照して、本実施形態に係る治療装置Xの構成について、詳しく説明する。
【0030】
〔本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの外観〕
図1の概念図を参照して、本発明の治療装置Xの構成の概要について説明する。
図1のように、治療装置Xは、患者が横たわる気密室10と、真空ポンプと音場(振動)制御を行い患者のモニタリングをするためのポンプ振動圧制御部20とが、耐圧機能をもち各種配線を備えたホース15により接続されている。
気密室10は、例えば、実際に治療を受ける患者1名が横たわることが可能な、所定の広さをもつ小さな部屋のような構造をしている。この気密室10は、ロックをすると気密性の高い構造になり、内部の気圧を患者の健康を損なわない程度に自由に変化させることができる。また、気密室10内には、患者が壁面と接することなく横になることができるメッシュ状の寝台150が備えられている。そして、その寝台150の周囲を、スピーカー/センサ100−1〜100−nが取り囲むように備えられている。気密室10の壁は、音を吸収しやすい構造とする。
気密室10は、患者が寝台150に横たわった時点で、治療者、又は技術者であるポンプ振動圧制御部20の操作者がヒンジ160等を曲げて患者を包み込むように閉じ、機密になるようにロックする。あるいは、普通の部屋のドアのような構造でもよい。
この上で、操作者がポンプ振動圧制御部20を作動させると、気密室10の内部の気圧が、ゆっくりと大気圧よりも低下していき、同時にスピーカー/センサ100−1〜100−nから低周波の規則的な断続音が発せられる。
ポンプ振動圧制御部20は、各種センサのデータを、複数のモニターに表示する。操作者は、これらの複数のモニターを閲覧して、治療の進捗状況等を確認することができる。
【0031】
〔治療装置Xの制御構成〕
次に、図2のブロック図を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの制御構成について説明する。
上述のように、本実施形態の治療装置Xは、気密室10と、ポンプ振動圧制御部20とが、ホース15で接続されている。
以下で、これらの各部の構成をさらに詳しく説明する。
【0032】
(気密室10の構成)
気密室10(陰圧化手段)は、主にスピーカー/センサ100−1〜100−n(音波発生手段、センサ手段、振動圧付加手段)、寝台150(寝台、センサ手段)と、体重センサ155(センサ手段)と、気圧センサ190とを含んで構成される。各部位が備えるセンサは、共通のバスで接続されて、光ファイバーや各種電気コードと端子が含まれたホース15を介して、ポンプ振動圧制御部20に接続されている。
【0033】
スピーカー/センサ100−1〜100−nは、気密室10内の寝台150に横になった患者に向けて、音波を発して音圧(振動圧)を付加するのスピーカーや圧電素子パッド等の音波発生装置と、電波や赤外線の放射素子と小型の半導体のレーダー素子や赤外線センサ等を含む血圧や脈拍や体温や酸素飽和度等の患者の体表面の状態を検知するセンサとを備えたアレイ状の機器である。
スピーカー/センサ100−1〜100−nは、患者の体表面にくまなく音波を加え、センサで身体の各箇所をチェックできるように、患者の身体の周りを取り囲むように複数配列する。また、スピーカー/センサ100−1〜100−nが発生する音としては、低周波の音を、周期的なパルス状に放射して、患者の身体に圧力をかけるようにする。このため、ヘルムホルツ共鳴等を使用する等して、低音域を十分に放射可能な音波発生装置を備えることが好ましい。
また、スピーカー/センサ100−1〜100−nのセンサとして、患者の脈拍や血圧、体温、酸素飽和度等のバイタルサインを非接触で測定できるセンサも備えることができる。さらに、患者の体表面の弾性度や血流の状態を非接触で測定できるセンサも備えることができる。これらは、音波発生装置と一体になった構造が望ましい。
なお、スピーカー/センサ100−1〜100−nは、気密室10の壁面ではなく、寝台150の周囲を取り囲むように配置されていてもよい。この際、各スピーカー/センサ100−1〜100−nは可動するよう構成し、患者との距離を自由に調節することができる、又は患者の体格等により配列を調整可能な構造とすることができる。また、各スピーカー/センサ100−1〜100−nの配列については、ポンプ振動圧制御部20の制御部200により制御できるようにする。患者の体の形に応じて、細かな対応が可能なように、音波発生装置の数はできるだけ多い方がよい。
また、スピーカー/センサ100−1〜100−nのセンサとは別に、患者のバイタルサイン等を取得するセンサを用意することもできる。
【0034】
寝台150は、例えば複数のフレームを有し、フレーム内部に、紐が左右方向及び前後方向に多数張り巡らされ、網の目のような構造となっている寝台である。治療の際に、患者は、この網の目のような紐の上に仰向けに横になり、あたかもハンモックにつり下げられているように横たわり、ベルト等で固定される。
治療中は、患者の体表面に音波が付加されるため、寝台150は、音波にできるだけ影響をおよぼさない構造が望ましい。一方で、治療の際、患者の位置がずれるのを防止するため、寝台150は、体をしっかり固定できなければならない。このため、このような構造をとっている。なお、寝台のフレームについては、治療中、音波による振動を防止するため、圧電素子等により逆位相の音波を付加し、振動を打ち消すことができる。これにより、治療中患者は音波をさえぎるような構造に接触することなく、宙づりになった状態で全身に音波を付加されることができる。また、寝台150には微弱な電流を流して測定する電極を備えており、生体電気インピーダンスを測定して、患者の身体の各部位の体脂肪率を測定可能である。
なお、フレームの構造の上に、もう一つのフレーム構造を備え、このフレームの内部にも、同様に紐が網の目のように張り巡らされて、上のフレームが可動式にとなるよう構成してもよい。この場合、寝台に横になった患者を、上から挟み込むように固定することができる。このように構成では、網の目のような紐により、患者を上下方向から包み込むことができ、宙づりになった状態で、しっかりと固定することができる。
【0035】
体重センサ155は、寝台150のフックに備えられた圧力センサや質量センサを用いた体重計のセンサである。
体重センサ155により、被験者の心拍を検知することもできる。
【0036】
気圧センサ190は、気密室10内の気圧を測定するセンサである。この気圧センサ190は、数ミリヘクトパスカル程度の気圧を検知可能な高精度なセンサを用いることが好適である。
また、気圧センサ190は、真空ポンプ部290を作動させていても、この気圧の測定値が下がらない場合、気密性が保たれていないとしてエラー通知をすることができる。
また、気圧センサ190は、気密室の酸素不足や二酸化炭素濃度の増加を防ぐため、酸素・二酸化炭素センサを更に備えていてもよい。
【0037】
なお、気密室10内には、この他にも、気密室10の壁面が、例えば上下に開閉できるように構成されたヒンジであるヒンジ160を備えている。このヒンジ160から空気が入らないように、ヒンジ160自体も密封された構造で、回転可能であり、ロックされた状態であることを確実に検知するセンサを備えている。さらに、患者が寝台の正しい位置に横になっているか否かを確認できるセンサを備えることができる。加えて、気密室10内には、ロック等を内側から外して気密室10を開閉するための開閉ボタン等も備えられている。
また、後述のように、治療装置Xは、感染症の治療に用いることも可能である。このため、治療装置Xが感染症の治療に用いられることを前提として、気密室10内には、一回の治療ごとに気密室内部を滅菌する滅菌装置、及び医療用の空気浄化装置を備えることもできる。
気密室内部を滅菌する滅菌装置としては、紫外線照射装置を用いることができる。この紫外線照射装置は、滅菌する際は紫外線照射により室内の浮遊菌、付着菌等を滅菌することができる。また、滅菌装置として、公知のオゾン発生装置や放電を用いた装置等を用いることもできる。
また、空気浄化装置は、例えば、公知技術である、内部に加熱室とヒーターを有する空気浄化装置(例えば、特開2002−011083を参照)等を用いることができる。これにより、空気中の病原菌を加熱、燃焼させることにより完全に滅菌し、病原菌が外部に漏れないようにすることができる。
【0038】
なお、感染症の治療をした後、気密室10内を滅菌することに加え、患者も治療後に除菌、消毒することができるよう構成してもよい。
また、気密室10とは別に、治療後外部に接触することなく、所定期間、患者を隔離できるスペースを別途備えてもよい。
【0039】
(ポンプ振動圧制御部20の構成)
ポンプ振動圧制御部20は、主に制御部200(調整手段、制御手段)と、電源部210と、記憶部220と、I/O部230と、表示部240(モニター手段)と、振動圧調整部251(振動圧調整手段、音圧調整手段)と、気圧調整部253(気圧調整手段)と、組織硬化度計算部255(組織硬化計算手段)と、血流分布計算部257(血流分布計算手段)と、入力部260(入力手段)と、真空ポンプ部290(陰圧化手段)、滅菌部295(滅菌手段)とから構成され、各部が共通のバスにより接続されている。
制御部200は、CPU(中央処理装置)、MPU(マイクロ・プロセッシング・ユニット)等であり、各部の制御を行い、記憶部220に記憶された治療プログラムに従って、ハードウェア資源を用いて、気圧・音場制御処理を実行する。
電源部210は、スイッチング電源等であり、各部に電力を供給する。電源部210には、図示しないAC電源コンセント等が備えられており、通常の100V/110V等の家庭用電力源や200V等の産業用電力源を用いて、各部に必要な電力を供給する。
記憶部220は、RAM(ランダム・アクセス・メモリ)、ROM(リード・オンリー・メモリ)、フラッシュメモリ、HDD(ハード・ディスク・ドライブ)等である。記憶部220は、各センサからの値、モニターの表示画像等の各種データと、制御部200が実行するプログラムやデータ等を記憶する。
I/O部230は、シリアルやパラレルやUSB(ユニバーサル・シリアル・バス)等の各種I/Oインターフェイスを備える部位であり、各センサからの値を入力する。加えて、I/O部230は、センサからの値をA/D変換したり、各センサや赤外線ダイオードや電波発生素子等に、電力を供給する機能も備えている。さらに、I/O部230は、寝台150の電極に高周波電流を加えて生体電気インピーダンスを測定する等の機能も備えている。
表示部240は、LCD(リキッド・クリスタル・ディスプレイ)パネル、有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)パネル、小型プリンター等であり、後述するモニターの値等を確認することができる。
振動圧調整部251は、各センサからの値を基に、患者に付加する振動を調整する部位である。本実施形態では、振動圧調整部251は、スピーカー/センサ100−1〜100−nのそれぞれから放射する治療用の音波を調整する計算や制御を行う音圧調整部として機能する。
気圧調整部253は、患者の体重等と気圧センサ190の値等を基に、真空ポンプ部290の出力を調整し、治療用の減圧のための計算や制御を行う部位である。
組織硬化度計算部255は、スピーカー/センサ100−1〜100−n等の各センサからの値を基に、患者の身体の各部位についての組織硬化度を求める計算を行って、モニター画像を作成する部位である。また、組織硬化度計算部255は、マイクロ波による測定、サーモメーターによる治療中の体表面の動きの解析データ等から、組織硬化度を求める計算を行ってもよい。
血流分布計算部257は、スピーカー/センサ100−1〜100−n等の各センサからの値を基に、患者の身体の各部位についての血流分布を求める計算を行って、モニター画像を作成する部位である。
入力部260は、テンキー等の各種ボタンを備えた、治療装置Xの各種制御のための操作者の入力を検知する部位である。また、表示部240は、入力部260と一体のタッチパネルとして備えられていてもよい。
真空ポンプ部290は、公知の真空ポンプである。また、真空ポンプ部290は、減圧したまま、密封された気密室10の空気を入れ換える機能を備えている。さらに、真空ポンプ部290は、酸素の分圧を高めるフィルター等を備えて、高酸素の空気を気密室10に供給する機能を備えることも可能である。
また、滅菌部295は、病原体を除去するための紫外線やオゾンやその他のガスやアルコールの噴霧装置等を用いた滅菌装置、及びHEPAや活性炭を用いたフィルター等を含む病原菌の滅菌手段である。
なお、振動圧調整部251と、気圧調整部253と、組織硬化度計算部255と、血流分布計算部257とは、記憶部220に備えられたプログラムを制御部200が実行することでハードウェア資源を用いて実現することもできる。
【0040】
〔治療装置Xの気圧・音場制御処理〕
次に、図3を参照し、本実施形態の治療装置Xにて、疲労の治療を行う気圧・音場制御処理の手順について説明する。
治療装置Xにおける実際の治療の手順として、概略を説明すると以下のようになる:
まず、ステップS101において、初期状態測定処理を行う。この処理では、患者が装置内に横になり、安静時の体表面の硬度を測定し、この値を基準値(硬度0)とする。
次に、ステップS102において、減圧/音圧付加処理を行う。徐々に外気圧を大気圧よりも低下させていき、同時に体表面全体に音波によるバイブレーションを付加する。このステップでは、最初は体表面の硬度の測定のため、体表面全体に均等な圧の音波を加える。
次に、ステップS103において、センサ取得処理を行う。この処理では、体表面の硬度(硬度i)を測定する。また、この処理では、(硬度i)から(硬度0)をサブトラクトし、体表面全体の凝りの分布、強さを測定する。また、得られたデータに基づいて体表面に加える音波の分布、強さを調整し、凝りの最も強い部分に最も強い音波が加わるように傾斜配分して音波によるバイブレーションを加える。
次に、ステップS104において、モニター処理を行う。この処理では、体表面に、凝りの状態に応じて傾斜配分して振動圧を加えた状態で体表面の硬度(硬度iii)を測定する。(硬度iii)から(硬度0)をサブトラクトし、ステップS103と同様に体表面全体の凝りの分布、強さを測定する。この際、後述のように、S103で得られた値に比べ測定値にゆがみが生じる場合は修正を行う。
次に、ステップS105において、調整処理を行う。具体的には、ステップS104の測定値に応じて体表面に加える音波の分布、強さを再度調節する。これ以降、同様に体表面の凝りの状態の変化をリアルタイムで測定しながら適切な分布、強さの振動圧を修正しながら加え続ける。そして、一定時間振動圧を加えた後に治療を終了する。
以下で、図3のフローチャートに基き、各ステップについて、より詳細に説明する。
【0041】
(ステップS101)
まず、ポンプ振動圧制御部20の制御部200は、治療装置Xによる治療を始めるにあたり、患者の初期状態を測定する初期状態測定処理を行う。本実施形態の処理装置Xでは、治療前の患者の状態が重要であり、これを測定する。
【0042】
この処理において、まず、制御部200は、心拍の測定を行う。
ここで、治療装置Xによる治療を行う際の患者の状態としては、過度に体力の低下した状態になくある程度リラックスしていて、血圧や脈拍が高すぎず安定していること等が必要である。この理由として、治療装置Xは患者の心臓や動脈系の働きを装置により増強することで治療効果を得るため、治療中に患者の心臓や動脈が効率よく働く必要があり、このためには患者が疲れ過ぎておらずある程度体力が保たれていて、血圧や脈拍が安定した状態にあることが望ましいと考えられるからである。また、治療装置Xでは患者への負担を低く抑えるよう工夫されているが、負担はゼロではない可能性があるからである。
患者の体力や疲労度を判定する一つの目安としては、患者の心拍数が重要と思われ、心拍数が過度に高い場合は治療が困難な可能性が大きいと思われる。
このため、この初期状態測定処理では、各部の初期化の後、スピーカー/センサ100−1〜100−nや、体重センサ155を用いて患者の脈拍を測定する。なお、この際に、別途、図示しない血圧/脈拍計等を用いて患者の心拍数を計測してもよい。
制御部200は、治療前の患者の心拍数が所定数以上であり、当該患者が疲労が蓄積して治療を受けることが望ましくない場合には、エラー表示等を行って、操作者に通知する。なお、この所定数は、患者の血圧や年齢や性別や病歴等のデータを基に、治療の前の患者の心拍数とその後の治療の状態についてデータを集めデータベース化して求めることが可能である。
これにより、患者の治療前の心拍数に応じて自動的に適切な治療が行えるよう制御部200で制御できる。
【0043】
また、疲労が強く、治療が行えない患者について、そのまま一定時間バイタルサインを計測しながら休んでもらい、当該バイタルサインなどのデータベースに基づき、治療可能な状態まで回復したと制御部200により判断された場合、患者に通知され、治療を行うことができる。この際、患者が休めるようなスペースを別に設置してもよい。
【0044】
次に、制御部200は、着衣の影響について測定する。
治療の際、患者は裸又は裸に近い状態であることが望ましく、また頭髪もできるだけ短い方が望ましいと思われる。なぜならば、治療装置Xによる治療の際には体表面に音波を投射したり体表面の状態をモニタリングしたりする必要があるが、患者の衣類や頭髪等が投射する音波やモニターのセンサ等に影響を与え、正確な治療やモニタリングができなくなる危険があるためである。しかし、患者のプライバシーの観点からはできるだけ着衣のまま治療できることが望ましい。したがって、例えばなるべく音波やモニターのセンサに影響をほとんど及ぼさないような素材の服を着用し、実際の治療の際に体表面に音波を投射する際には、衣服による影響を差し引いて、必要な音波を体表面に加えるようにすることが可能である。
このため、患者が着衣のまま気密室10に横たわった後、制御部200は、スピーカー/センサ100−1〜100−nから測定用の音声を照射し、反射した音声をマイク等で取得することで、衣服の影響を測定できる。この測定結果は、各部で計算する際にパラメータとして用いる。
なお、あらかじめ服の情報を記憶部220に記憶させておくこともできる。
【0045】
これらの測定を行った後、操作者が気密室10を気密状態にロックし、ポンプ振動圧制御部20の表示部240で患者の状態を確認し、「スタート」ボタンを押下する。
これにより、ポンプ振動圧制御部20は、具体的に、気圧・音場制御を開始する。
【0046】
(ステップS102)
次に、ポンプ振動圧制御部20の制御部200は、減圧/振動圧付加処理を行う。
具体的には、制御部200は、真空ポンプ部290を作動させて、気密室内をゆっくりと減圧する。また、減圧と同時に体表面全体に断続音の音場(振動圧)を加える。
これらは必ず同時に行う必要がある。つまり、減圧と音波による加圧(振動圧の付加)により、外気圧が低くなることによる患者の体の負担を抑え、心拍数の上昇等を引き起こす危険性を下げることができる。また、気圧を下げず、振動圧のみを付加する場合と比べて、血圧の過度の上昇等の体への負担が生じるのを防ぐことができる。
【0047】
まず、減圧についての処理の詳細から説明する。
制御部200は、外気圧の減圧及び音波による加圧と同時に、非常に小さい値から減圧を開始し、徐々に減圧の値を上げていく。この間、制御部200は、各バイタルサインに係るセンサを用いて、心拍数、血圧等をモニターし、心拍数が過度に上昇しないように、安静を保ったままで治療を行えるように外気圧、加える音波の圧を調整する。
これら外気圧の大きさと加える振動圧の強さの調節については、患者により反応性の個人差が大きく、また心拍の変化等に応じた瞬間的で繊細な調節が必要となる。
したがって、それらは制御部200が自動的に制御する。減圧と音場の制御は、多数の患者の外気圧と加える音波の圧力、心拍数の変化等のデータを蓄積したデータベースを基にして、制御部200が、このデータベースの値を基に、各患者に最適な外気圧と音波の圧力を自動的に加えることができる。
【0048】
なお、操作者が外気圧の大きさや加える振動圧の強さ、加える時間等の数値を設定することもできる。この場合、数値の設定においては、患者の体に負担がかからないように十分配慮し検討することができる。また、検査中に異常等があった場合は速やかに対処するように構成することが必要である。上述のように、外気圧を下げる場合は減圧症に注意する必要がある。
このため、気密室10に、音場の付加を停止し、ゆっくりと気圧を戻すための安全弁や停止スイッチを備えることができる。
【0049】
ここで、減圧と同時に体表面全体に加える音波の詳細について説明する。
減圧/音圧付加処理では、制御部200は、I/O部230を用いて、スピーカー/センサ100−1〜100−nに音声信号を送信する。これにより、スピーカー/センサ100−1〜100−nから音波が放射され、患者の体に音圧(振動圧)が加えられる。
この音は断続音であり、特定の周波数の音波を等間隔のリズムで断続的に繰り返すような音を体表面に与える。この断続音による体表面のバイブレーション効果が、後述のように心臓や動脈の拍動を増強し治療効果を得る。このため低周波の音が望ましいと思われる。具体的な周波数の大きさや、音と音の間隔の長さについては、上述のデータベースの作成と同様に、最適な値を設定可能である。
治療の際は、周波数やリズムの間隔の長さを自由に設定できるようにし、患者の状態に応じて最適な周波数やリズムの音を加えられるようにする。さらに、将来的にはこれらの値もデータベース化し、コンピューター制御で自動的に調整できるようにする。このように音圧付加処理を行うことで、患者は、刺激を体表面で感じ、ドンドンドン……というようなバスドラムを叩いているような音を聴くことになる。
【0050】
〈圧力と振動圧との関係〉
ここで図4A〜図4Dを参照して、気密室10内の圧力を大気圧より下げ振動圧付加をする際の、体内圧力と気密室10内の圧力と振動圧との関係について詳しく説明する。
まず、気圧と人体との関係について述べ、治療装置Xの原理について説明する。
図4Aを参照すると、普段自覚に乏しいが、我々の体には常に大気圧による圧力が加わっている。すなわち、大気圧により体表面には、どの部位にも外側から内側に向かう方向に圧力が加わっている。図4Aにおいては、体外の大気圧を気圧710とし、体表面を皮膚500とする。
一方、我々の体の心臓及び動脈系は、ポンプ作用により血液を体の内部(心臓600)から末梢の組織に向かって送り出しているが、このポンプ作用により血流を体の内部から体表面に向かうように押し出す圧力は大気圧による圧力と反対向きの力である。また、心臓や動脈系のポンプ作用による力は血圧とほぼ等しいと考えられる。この体内の圧力を、血圧610とする。
普段は気圧710と血圧610の二つの力がつり合っている。これらの関係は、例えるならば、風船を膨らまして、風船の大きさを一定に保った時、風船の内部と外部の圧がつり合っているのと同様な状態であると考えられる。
【0051】
次に、図4Bを参照し、外気圧が上昇した場合を考えてみる。
たとえば、人が水中に入ったときには、水圧のため体の外圧が上昇する。すなわち、水圧により、体表面を外部から内側に向かって押す力が増加する。この押す力を水圧720とする。
外気圧の上昇について、先と同様に風船の例えを用いると、膨らませた風船を水中に入れたときには風船の体積が縮小する。つまり、水圧により外部から内部へ向かう力が大きくなるため、この力が内部の空気を圧縮する力になり、それによって内部の体積が減少した状態でバランスがとられる。
人体は風船のように体積が減少することはないが、外部から体表面に加わる圧力は、大気圧下よりも増加するため、これとバランスをとるために血圧を上昇させる。これを血圧620とする。
【0052】
次に、図4Cを参照し、外気圧が低下した場合について考えてみる。
たとえば、高所では外気圧が低下する。この大気圧を気圧730とする。
この際には、図4Bとは反対に大気圧が低下するため、体の表面に加わる外側から内側へ向かう力は小さくなる。このときの血圧が図4Aの血圧610と変わらないと仮定すると、気圧730と血圧610の差の分の力が外向きの力である差分圧力740として働く。つまり、大気圧が低下した場合は、体全体を膨張させようとする方向に圧力が働く。
風船で例えると、風船を気圧の低い場所に持っていくと風船が膨張する。これは、大気圧により風船の表面を外側から内側に押す力よりも、風船内部の空気により風船の表面を内側から外側に押す力の方が大きくなったためである。
人体の場合は、風船のように膨張することはないが、気圧の低い環境下では、常に外向きの、体を膨張させるように働く力である差分圧力740が加わり続けることになる。
上述のように、外部の圧力が上昇した場合は、生体はこれとバランスをとるために血圧を上昇させなければならず、外圧の上昇は、生体にとっては血圧を上昇させるような圧力となる。
同様に、外気圧が低下した場合には、これが生体にとっては血圧を低下させようとする圧力として働くと考えられる。このため、生体は血圧を過度に低下させないように、心拍出量を増加させ、血液の循環量を増やすことにより、血圧を維持しようとすると考えられる。つまり、外気圧が低下した場合には、結果として体全体の血管抵抗が増大するのと同様の負担が体に加わり、心拍出量が増加すると考えられる。
気圧の低い環境下で体への負担が大きくなるのは、このように心拍出量が増加するのが一因である。
【0053】
以上をふまえ、図4Dを参照して、気密室10内の気圧が標準大気圧よりも低く、通常は人体に負担がかかる状況下での、音波による体表面へのバイブレーション付加による効果について説明する。
治療の際、患者の外気圧を標準大気圧より低下させた場合には、先の説明のように、この外気圧の低下が血管抵抗を増大させる圧力として働く。このため、生体は、この圧力に抗して血圧を維持するため、心臓からの血液の拍出量を増加させなければならず、体の負担が増える。治療装置Xでの治療の際に、単に外気圧を低下させただけでは治療ができない理由は、このように、外気圧の低下に伴い体の負担が大きくなるためである。
このような外気圧の低下に伴う体の負担を軽減させるため、治療装置Xによる治療の際には、外気圧を標準大気圧よりも低下させると同時に、体表面全体に、音波によるバイブレーションを加える。これにより、体表面から体の内部に向かう方向に、振動圧による断続的な力が働く。この作用について考えてみる。
【0054】
人間の身体の60〜70%は体液で構成されており、体液は細胞外液と細胞内液に分けられる。細胞内液は、ほぼ静止していると考えることができるが、細胞外液は組織液、血液、リンパ液等として体を循環している。言い換えると、体は細胞内液による静止した流体と、その内部の心臓や動脈等によって循環する、体の内部から体表面に向かう流れのベクトルを有する流体の2重構造になっていると考えることができる。しかし細胞内液は細胞外液に比べ倍以上の量があることから、便宜的に、これらをまとめて体全体を閉じこめられ静止した流体(液体)とみなすこととする。
ここで、治療装置Xでの治療の際に、患者の体表面全体に音波による振動圧750を加えた場合を考える。
体の内部の心臓及び動脈系のネットワークによる流体、すなわち循環系は、上述のように、体の内部から体表面に向かう方向に流れのベクトルを有している。これは心臓及び動脈系の拍動により生じているものと思われる。
これに対して、体表面に加えられたバイブレーションは、「閉じこめられた流体の一部に圧力を加えると、その圧力の増加分は同じ強さで流体のすべての方向に伝わる」というパスカルの原理により、閉じこめられ静止した流体である体の中を均等に伝わっていくものと思われる。心臓及び動脈系である循環系に伝わった音波によるバイブレーションは、心臓や動脈等を振動させ、動脈壁等を断続的に内側に押すように働くと考えられる。これは、拍動と同様の働きであることから、音波によるバイブレーションがうまく働いた場合には、動脈や心臓の拍動を増強し、補助する働きをする。その結果、心臓及び動脈系が血液を送り出す機能が高められ、血液の循環量が増加し、心臓から体表面へ向かう血流の力が強められる。
【0055】
このように、体表面に振動圧によるバイブレーションを加えることにより、心臓及び動脈系によるポンプ機能を助け、心臓からの血液の拍出量を増やすことができる。
したがって、治療の際に、外気圧を低下させると同時に、体表面に適切な大きさの振動圧によるバイブレーションを加えることにより、外気圧の低下による心臓及び動脈系にかかる負担の増加分を、体表面に加えられたバイブレーションによる、心血管系のポンプ作用に対する補助作用で補うことができる。よって、心血管系への負担を低く抑えることができ、なおかつ心血管系からの血液の拍出量を増加させることができる。この際、体内の循環血液量は増加し、血圧も上昇する。しかしながら、外気圧は低下するため、皮膚の内外の圧格差が高まる。これにより、皮膚の排泄機能が高まり、治療効果を得ることができる。
すなわち、本装置により外気圧を低下させ、同時に体表面に適切な振動圧によるバイブレーションを加えることにより、体に負担をかけずに外気圧と血圧の格差を大きくすることができ、これにより皮膚の濾過機能を亢進させ、皮膚からの老廃物の排泄を促進することができる。言い換えれば、本実施形態の治療装置Xで外気圧を低下させ、同時に体表面にバイブレーションを加えることが、生体の生理機能と結びつき、結果的にそれらのエネルギーを循環血液量を増やすエネルギーと、皮膚からの老廃物の排泄を促進させるエネルギーに変換させることができ、治療効果を得ることができると考えられる。
【0056】
(ステップS103)
次に、ポンプ振動圧制御部20の制御部200は、センサ情報取得処理を行う。
治療装置Xで治療を行う際には、外気圧の設定や音波によるバイブレーションの体への加え方について、より細かな制御が必要となる。このため、治療装置Xでは、治療の全経過を通じ、患者の状態を把握するための各種センサを備え、このセンサを通じて患者の状態をリアルタイムに把握し、安全を確保しつつ、外気圧や体へ加える振動圧について細かく設定する。
このセンサ情報取得処理では、効果的に治療を行うためと同時に、安全に治療を行うために欠くことのできないセンサ情報の取得を行う。このセンサ情報により制御部200が制御することで、安全な治療を実現できる。なお、治療装置Xで全身を同時に治療するのも、治療効果とともに安全に治療を行うために必要だからである。
【0057】
〔安全の確保について〕
まず、治療の際に、制御部200による安全の確保が必要な理由について説明する。
治療装置Xによる治療では、疲労の直接の原因となっていると考えられる体内の老廃物を皮膚から直接取り除くことができるため、治療効果は非常に高い。しかし効果が高いが故に体に与える影響も大きいと考えられるため、安全に治療を行うことができるように十分な配慮が必要となる。
たとえば、従来のマッサージ機では極端な使い方をしない限りは、体の特定の部位に対して集中的に使用しても大きな問題が生じることは少ない。これは、治療の前後での血流の改善の程度が本発明の治療装置ほどには大きくないためである。
これに対して、治療装置Xを使い体の特定の部位のみに音波による圧力をかけて治療を行った場合、治療によりその部位の老廃物が集中的に除去され、その部位で血流が改善すると予想される。一方、体全体を還流する血液の量は一定なため、相対的にそれ以外の部位の血流が少なくなる可能性がある。したがって、特定の部位の血流だけが突出して改善されることによる、相対的な他の部位での血流の低下を避ける必要がある。このため、体表面に加える振動圧の強さや分布を厳密に管理し、治療により極端な血流の不均衡等が生じないように調整することで、安全に治療を行うことができる。
【0058】
〔気圧の設定、体表面に加える振動圧の設定〕
実際の治療では、外気圧の設定については、気圧を低下させれば低下させるほど、体への負担が大きくなると考えられる。その理由は、上述したように、気圧が下がれば下がるほど、生体は血圧を維持するために循環血液量をより多く増やさなければならず、負担が増えると考えられるからである。一方、治療効果の面では、外気圧を低下させれば低下させるほど治療効果は高くなる。この理由は、治療装置Xは外気圧と血圧の差を大きくすることにより皮膚の排泄作用、濾過作用を高めて治療効果を得るため、外気圧が低ければ低いほど血圧との格差が大きくなり、治療効果が高くなるためである。これは所定範囲、すなわち血圧を振動圧の補助のもとに、体へ負担をかけずに一定に保つことのできる範囲に限られる。
振動圧の強さについては、大きければ大きいほど、外気圧の低下によって体に加わる負担をより軽減することができる。また効果の面では、振動圧が大きいほど、治療効果が高くなる。加える振動圧の大きさが大きいほど、心臓および動脈系の増強作用が大きくなり、血圧も高くなるからである。しかし、これらの関係も、所定範囲内においてのみ成り立つ。
治療の際の外気圧の大きさや、体表面に加える振動圧の大きさについては、体への負担と効果の両方を考慮し、患者個人個人の状態に応じてきめ細かく設定する。
これらの値の設定は、安全性、効率性を考え、治療を受ける患者の様々なデータと、治療の際に設定する外気圧の大きさや振動圧の大きさ、治療結果等のデータを蓄積し、データベース化し、個々の患者についての至適な設定値を予測できる。
データベースを用いない場合は、設定を操作者が手動で行う必要がある。手動で設定する項目は、定常状態における気圧や加える振動圧の値等最低限の設定でよい。治療の過程のいて、値の設定等について患者により反応性の個人差が出た場合、また心拍の変化等に応じた瞬間的で繊細な調節を行う場合には、制御部200が対応可能である。また、治療を通じて、治療装置Xの操作者(及び医師)が常に患者の状態を監視し、必要に応じて治療過程を修正することも可能である。患者の体調等に異常が生じた場合は、速やかに医療的な処置を行うように通報することも可能である。
【0059】
治療の際の外気圧の設定、振動圧の強さの設定については、特に安全性が重視されるべきである。ここで、治療時間と治療効果は相関関係にあり、治療時間が長いほど治療効果は大きくなると考えられる。したがって、初めて治療装置Xで治療を行う患者の場合、治療の際の気圧の低下の程度、加える振動圧の大きさをより大きくするといった効率重視の治療を短時間行う代わりに、効果を少なく抑えた治療を長時間行うことにより、同等の治療効果を、より安全に得ることが可能である。
実際の治療では、患者が装置内に横になった状態で外気圧を低下させると同時に、体表面全体に振動圧を加えるが、体への過度の負担をさけるため、これらは必ず同時に行う。気圧に関しては、標準大気圧より徐々に気圧を低下させる。振動圧についても、小さい振動圧を加えていき、徐々に振動圧を大きくしていく。気圧と振動圧の値が最適な値に達した時点で、これらの値を固定し、所定時間治療を行う。後述するように、この際、加える音波の強さは、加える体の部位の状態により変化させる。また、これらの過程では、非接触のモニターにより血圧、脈拍等のバイタルサインをリアルタイムでモニターし、体に負担が加わらないよう、外気圧、加える振動圧を調整する。これらの調整については、上述したように、データベースをもとにコンピューター制御により自動的に加えることができるようにする。
【0060】
〔装置内での患者の位置の把握及び音波の照射方法について〕
上述したように、治療装置Xには、スピーカー/センサ100−1〜100−nにそれぞれ、人体の発する赤外線を検知可能な赤外線センサ等を用いたサーモメーターも備えられており、治療の際に装置内の患者の位置を正確に把握するため、これらのサーモメーターを利用する。
すなわち複数のサーモメーターで患者の体表面温度をいくつかの方向から測定し、治療空間内の温度変化を3次元的に把握することにより、患者の体温による温度変化から患者の空間内での位置を正確に把握することができる。それを基に、制御部200は、スピーカー/センサ100−1〜100−nから体表面までの正確な距離を求め、各スピーカーの音圧(振動圧)の強さを計算する。この際、スピーカー/センサ100−1〜100−nの数を基に、体表面の単位体積あたりに加わる振動圧の強さを求める。ここで、振動圧の強さは体表面に対して垂直な方向の強さを評価する。また、体表面に正確に振動圧を加えるために、位相が反対の音波を照射するアクティブ・ノイズ・コントローラの原理も利用し、音波の位相の変化も考慮して患者にかける振動圧の強さを調整する。これにより、音波の反響、心臓の拍動や患者の不意の動きに起因する測定の誤差(以下、「アーチファクト」という。)を打ち消すことができる。このアーチファクトの除去については後述する。さらに、アクティブ・ノイズ・コントローラの原理を用い、音波の位相を打ち消したり、逆に重ね合わせて増強したりすることにより音波の強さの違いを強調することができる。この際に、スピーカー/センサ100−1〜100−nから体表面に付加した音波の強さを調整するのと同時に、体表面で反射された後の後の音波の強さも調整してもよい。加えて、耳に入る音波を打ち消して小さくし、聴力への悪影響を防ぐこともできる。
上述したように、患者の体表面を音波により加圧するため、スピーカー/センサ100−1〜100−nは、装置に横たわった患者を取り巻くように設置される。同じ位置に各種センサも取り付けられ、そのセンサを通して、ポンプ振動圧制御部20の制御部200はセンサ取得処理を行う。センサにより、患者の体へ加える振動圧の強さや分布の情報、体表面の弾性の変化、体表面の血流の変化についての情報を得ることができる(後述)。また治療中に、患者から得られた血圧、脈拍、体温、酸素飽和度等の情報も取得する。各センサから取得した値は、I/O部230を介して制御部200が記憶部220に記憶する。
【0061】
〔体表面への振動圧によるバイブレーションの加え方について〕
音波による振動圧の付加は、体表面全体にくまなく行うことが必要であり、また患者個人個人の体格等に合わせて細かく設定する必要がある。このため、振動圧付加のためのスピーカー/センサ100−1〜100−nの音源はできるだけ多数配置され、体の形等に応じて適正に配置され、個々の患者の体格等に応じて細かく調節ができるようにする。
また後述するように、体表面に加える振動圧の強さは一様ではなく、最も凝りの強い部位に、最も大きい振動圧がかかるように調節する。
【0062】
(ステップS104)
次に、ポンプ振動圧制御部20の制御部200によりモニター処理を行う。記憶部220に記憶した各センサの値から、少なくとも3つのモニター810、820、830を表示部240に描画する(図5)。
【0063】
〔各種モニターについて〕
患者の体表面の状態を、リアルタイムで表示できるモニター800、810、820、830により、その状態に応じて、振動圧の分布を調整することができる。
モニター800は、記憶部220に記憶された各種バイタルサインを計測するプログラムと表示部240へ表示する表示データ等を含み、制御部200によりハードウェア資源を用いて実現される、操作者へ各種情報を報知する部位(以下、「モニター」という。)である。
モニター810は、振動圧調整部251と気圧調整部253とにより構成され、患者の体表面に加えられる振動圧の分布や強さを計測するプログラムと表示部への表示データ等を含むモニターである。
モニター820は、組織硬化度計算部255により構成され、患者の体表面の弾性の変化(凝りの状態)を計測するモニターである。
モニター830は、血流分布計算部257により構成され、患者の体表面の血流の状態を計測するモニターである。
また、治療装置Xでは、治療に際し、体に加わる重力の影響も考慮する必要があり、その補正を行う必要がある。これについては、後に詳しく述べる。
【0064】
〈モニター800について〉
モニター800は、患者のバイタルサインである心拍数、血圧、体温、呼吸数等のバイタルサインのモニターである。モニター800は、治療経過中を通して連続的にバイタルサインを測定して表示する。これらのバイタルサインは、上述したようにスピーカー/センサ100−1〜100−nの各種センサにより、非接触で測定されても、接触させて測定されてもよい。モニター800は、治療ごとのデータを集積し、記憶部220にデータベース化する。このデータベースは、制御部200等による、治療の様々な過程における、各部の制御の際の判断に用いられる。
【0065】
(血圧モニター)
モニター800において、バイタルサインの測定のうち、血圧の非接触のモニターについては、後述のモニター830と同様に、サーモグラフィーを用いて体表面の硬度を計測するモニターにより、任意の振動圧を加えた際の体表面の変異の程度から血圧を測定して解析する。また、接触させて血圧を測定する場合も、できるだけ治療に影響を及ぼさないように、寝台150のセンサや指に装着したセンサ等を用いることも可能である。
【0066】
(心拍数モニター)
モニター800において、バイタルサインの測定のうち、心拍数のモニターが特に重要である。治療中の心拍数の推移は、治療により患者に加わる負担を判断する最も重要なパラメーターであり、いかに心拍数を安定させたまま治療を行うかが非常に重要である。このため、モニター800では、心拍数モニターを全てのモニターの中心として用いる。制御部200等の各部は、治療中に計測された心拍数に応じて、上述の記憶部220のデータベース等により、リアルタイムに気圧や振動圧等を素早く適切に調整する。
具体的には、モニター800において、最初に治療前の心拍数を測定する。この際、制御部200は、治療が可能な状態か否かを、記憶部220のデータベースに記憶された患者の基準となる心拍数を基に判断する。制御部200は、一時的に疲労等により心拍が上昇していると判断した場合は、そのまま所定時間、バイタルサインを計測しながら患者を休ませるよう、治療者に指示する。また、制御部200は、心拍数の計測により治療可能な状態まで回復したと判断した場合、その旨を治療者に通知する。この際、患者が休めるようなスペースを、気密室10とは別に備えていてもよい。
治療が開始されてから、モニター800において、治療経過中に心拍数が上昇した場合は、治療に伴い患者に負担が加わっていると判断される。このため、制御部200は、治療の見直しが行われる。制御部200は、記憶部220のデータベース等を参照して、治療のスピードが速すぎる、外気圧の過度の低下、振動圧の過度の上昇、これらのアンバランス、振動圧を加える部位が不適当等の原因を判断し、心拍数が正常化するまで各設定を修正して治療を続ける。制御部200は、心拍数の上昇の程度によっては、緊急に治療を一時中断することもできる。
【0067】
なお、非接触の心拍数測定、呼吸数測定については、例えば、マイクロ波を用いた公知技術(特開2008−99849号公報等を参照)や非接触式脈拍測定法(特開2012−57962号公報等を参照)等を利用し、体温の測定はサーモグラフィーを利用することが可能である。
また、これらのバイタルサインのモニターは、寝台150に設えられたセンサ等により計測されてもよい。
【0068】
〈モニター810について〉
図5のモニター810は、患者の体表面に加えられる振動圧の分布や強さを計測する、治療中体表面に加えられる振動圧の範囲や強さを監視するモニターである。制御部200は、各スピーカー/センサ100−1〜100−nから出力される振動圧の情報を表示部240のモニター810に表示する。
この際、制御部200は、スピーカー/センサ100−1〜100−nから体表面までの距離、スピーカーの音の強さやスピーカーの数等の情報をもとに振動圧調整部251にて計算した結果を表示する。高速な演算機能を備える振動圧調整部251で計算することにより、リアルタイムで表示することができる。これにより、体表面への振動圧の加わり方を治療者が把握することができる。また、制御部200は各スピーカー/センサ100−1〜100−nと連動して振動圧の分布を調整することができる。
【0069】
また、モニター810は、設定より、体表面に加えられた振動圧のエネルギーの総量を表示する。
この際、制御部200は、治療の際に患者の体表面に垂直に加えられた振動圧のエネルギーの総量を算出し、体表面全体で表示する。この振動圧のエネルギーの総量として、制御部200は、治療を始めてからの総量や、一日の総量等の所定期間の量を算出できる。これにより、治療者は、治療の際、体表面に加えた圧の分布、偏り等の情報を把握することが可能になる。
すなわち、これらの情報により、振動圧の付加の過度の偏りを防止する等の安全確保を行うことができる。また、これらの情報は、後述するように、頚部の治療の際、安全のため常に頚部に加える振動圧のエネルギーの総量を他の部位より高く保つため等の状況において利用できる。
【0070】
〈モニター820について〉
図5のモニター820は、凝りの程度を評価するため体表面の硬度の変化率を示すモニターである。つまり、モニター820は、患者の体表面の弾性の変化(凝りの状態)を計測するモニターである。
具体的に、制御部200は、組織硬化度計算部255を用いて、スピーカー/センサ100−1〜100−nから取得したデータを基に、体表面の硬度の変化率を計算する。
制御部200は組織硬化度計算部255を用いて、例えば公知技術である音波を用いた弾性特性の測定方法(特開2007−192801号、又はWO2007−034802号等を参照)を用いて、皮膚の硬化度を測定することが可能である。
治療の際にはそれぞれのスピーカー/センサ100−1〜100−nについて、安静時の体表面の硬度(弾性)を測定し、その後振動圧を加えた状態の体表面の硬度を測定する。後者から前者を引き算する(サブトラクトする)ことにより、硬度の変化した部位(凝り)のみを抽出することができる。
また、制御部200は、マイクロ波レーダー(特開2008−99849号、特開2012−57962等を参照)等により、治療中の体表面の、振動圧付加による動きを3次元的にとらえて、加えられた圧力を合わせて解析することにより体表面の硬度、及び硬度の変化率を計測する。具体的には、制御部200は、マイクロ波により、体表面に振動圧を加えた際、体表面が体の内側に向かって変位した距離を測定し、その際体表面に加えられた振動圧の大きさと比較して解析することにより、単位体積あたりの硬度、および硬度の変化率を計測する。
さらに、制御部200は、複数のサーモメーター(特開2012−57962号等を参照)を用いて、治療中の体表面の、振動圧付加による動きを3次元的にとらえて、上記と同様に体表面が体の変位した距離と、体表面に加えられた圧の大きさから体表面の硬度、および硬度の変化率を計測することも可能である。この際に、複数のサーモメーターの情報を解析することにより体表面の動きを正確に捉えることができる。つまり、振動圧を加えた際の体表面の動きなどから、体表面の硬度を測定することができる。
制御部200は、この硬度の変化した部位を表示部240に、図5のモニター820のように描画する。この硬度の変化率はリアルタイムに表示できる。
このモニター820により、凝りの強い部位に強い振動圧を傾斜配分して加えられるように調節することができ、効率的で安全な治療を行うことができる。
【0071】
〈モニター830について〉
図5のモニター830では、患者の体表面の血流の状態を把握する。つまり、モニター830は、患者の体表面の血流の状態を計測するモニターである。
モニター830により、モニター820を補うことができ、より安全な治療を行うことができる。
ここで、モニター820は、本発明者の凝りに関する仮説、すなわち、『凝りとは、血流の流れにくくなった組織において、生体が、血流を維持するために組織を硬化させる現象であり、凝りによる組織の硬化の程度は、組織の血流の「流れにくさ」に相関し、血流が流れにくければ流れにくいほど、凝りによる組織の硬度は大きくなる』、という仮説をもとに発明された。よって、特に、モニター830により、「血流が流れにくければ流れにくいほど、凝りによる組織の硬度は大きくなる」ことを測定することで、治療装置Xを正常に機能させることができる。
先に述べたように、血流の状態に応じて組織の硬度を調整するのは自律神経の働きであるため、モニター820は、自律神経により調節される凝りを、間接的にとらえるモニターであるといえる。
このため、もし自律神経が正常に機能せず、「血流が流れにくければ流れにくいほど、凝りによる組織の硬度は大きくなる」という前提が成り立たない、すなわち血流の「流れにくさ」と、凝りに伴う組織の硬度の大きさが相関しない場合には、モニター820が正常に機能しない場合も想定される。つまり、病気や疲労により患者の自律神経の働きが低下して正常に機能しない事態が起こる可能性がある。
また、たとえ自律神経が正常に機能している場合であっても先に述べた「血流が流れにくければ流れにくいほど、凝りによる組織の硬度は大きくなる」という関係について、凝りを調整するのは生体であり、場合によっては、自律神経が正常に働いている場合でも、様々な条件等によって誤差が生じる可能性がある。血流の「流れにくさ」と凝りに伴う組織の硬度の大きさが相関しない場合、モニター820だけでは凝りの状態を正確に表示することができなくなる。
これに対して、モニター830は、患者の体表面の血流の状態を直接測定でき、モニター820のように、測定の際に自律神経の働きの影響を受けることがないため、正確な評価が可能となる。したがって、治療装置Xでは、モニター820とモニター830を組み合わせて用いることにより、より安全に治療が行うことができる。
つまり、モニター830は、モニター820を補うためのモニターであり、万が一モニター820が正常に機能せず、治療に際し、体表面に不適切な振動圧が加えられる危険がある場合、モニター830によりそれを検出し、治療方法を修正することができる。
【0072】
モニター830では以下の測定を行う。
(a)患者の体表面全体の、単位時間あたりの血流量の変化率を測定。
(b)治療に伴う、体の各部位の血流量の格差の変化を測定。
【0073】
モニター830は、(a)として、治療前及び治療中に患者の体表面の血流量の絶対値を経時的に測定し、それをもとに患者の体表面全体の、単位時間あたりの血流量の変化率を測定する。もし治療が適切に行われている場合には、体表面の血流量は部位により程度の違いはあっても、治療に伴い増加すると考えられるため、単位時間あたりの血流量の変化率はプラスになると考えられる。従ってもし変化率がマイナスになる部位があれば、不適切な治療が行われている可能性があると判断され、場合によっては治療の修正が必要になるため、警告等を表示部240に表示する。
ここで、例えば、治療前に血流量の不均衡が顕著であった患者で、治療に伴う血流の改善の過程で血流量の低下していた部位で血流が回復するのに伴い、もともと血流量の大きかった部位で相対的に血流の変化率がマイナスになることもあり得る。また、治療が適切に行われていた場合でも、場合によっては一時的に血流量の変化率がマイナスになる部位が生じることもあり得る。これらの場合でも、モニター830は、警告を表示部240に表示する。
【0074】
モニター830は、(b)として、身体の各部位の血流量の変化を測定する。ここで、先に述べたように、治療装置Xによる治療では、体表面に加える振動圧の強さは凝りの強さに応じて傾斜配分して加えられ、血流が流れにくく、凝りの強い部位ほど強い振動圧が加えられる。このため凝りの強い部位ほど治療効果が高くなり、血流の改善度も大きくなるため、治療経過とともに全身の凝りの程度の格差、血流量の格差は徐々に縮小すると考えられる。従って、治療経過とともに全身の血流量の格差が縮小していけば、適切な治療が行われていると判定され、逆に血流量の格差が増大する部位があれば、治療が不適切に行われている可能性が考えられる。
実際には体表面の血流量を測定し、そのうち血流量の最も大きい部位を基準Aとし、その他の部位の、Aに対する相対的な血流量a、b、c……を求める。適切な治療が行われた場合、治療経過とともに全ての部位においてAとの血流量の差は縮小していく。このため、相対的な血流量a、b、c……は程度の違いはあるものの、全て増加していくと考えられる。従って、体の各部位のAに対する相対的な血流量の経時的な変化率a'、b'、c'……を測定した場合、全てがプラスになると考えられる。もし、マイナスの部位があれば、その部位では治療経過とともにAとの血流の格差が拡大していると考えられるため、不適切な治療が行われている可能性が考えられるため、モニター830は、表示部240に警告を表示する。
【0075】
より具体的に説明すると、図5のモニター830は、血流の情報を得るためのモニターで、体表面全体の血流の状態をリアルタイムで表示できる。
体表面の血流量を測定する方法として、スピーカー/センサ100−1〜100−nのレーザードップラー(例えば、特表2005−515818号公報を参照)を用いたセンサを利用する。
モニター830の表示部240への表示方法としては、レーザードップラーの原理を用いて体表面全体の血流量を測定し、さらに、治療経過中に血流量の経時的な変化を測定することにより、(a)として、患者の体表面全体の、単位時間あたりの血流量の変化率を測定する。また、血流量の最も大きい部位を基準Aとし、Aの血流量の経時的な変化を測定する。さらに、その他の部位のAに対する相対的な血流量を求め、この相対的な血流量を経時的に測定することにより(b)として、患者の体表面全体の単位時間あたりの相対的な血流量の変化率(最も血流量の大きい部位に対する)を測定する。
なお、モニター830における血流の測定において、近赤外線分光法の原理を応用してもよい。近赤外線分光法では、通常は指や腕等に接触させて血流を測定する。このため、装置を小型化する等により、治療になるべく影響を及ぼさないように構成することが好適である。また、近赤外線分光法は、血流の定性的測定のみ行い、定量的な測定は行えないため、血流の変化率を求めることが好適である。
【0076】
〈モニター820とモニター830との関係について〉
モニター820は凝りそのものの状態を正確に捉えることができるため、凝りの程度に応じ音波の強さをリアルタイムに正確に調整して加えることができるため効率的な治療を行うことができる一方、先に述べたように自律神経の働きに左右される。
また、一方、モニター830は血流の絶対値を計測できるため、自律神経の働きに左右されず血流のより正確な状態を測定することができる。しかし、モニター830は、凝りの部位、強さ等を正確に測定することはできない。従って二つを組み合わせることにより安全に有効な治療を行うことができる。
モニター820、モニター830の組み合わせ方としては、基本的にモニター820を基準にして治療を行い、モニター830は、治療中の血流の状態を補助的に監視に用いることができる。モニター820とモニター830の測定結果に矛盾が生じた場合は、モニター820が正常に機能していないとして、モニター830の測定結果に基づいて、治療を修正することができる。
また、最初からモニター820とモニター830を組み合わせて用い、両方のモニターの測定値に基づいて治療を行うこともできる。
【0077】
ここで、モニター820を基準にして、モニター830を補助的な監視に用いる具体例に説明する。
治療中は、モニター820で患者の体表面の弾性の変化(凝りの状態)を測定しながら治療を行う一方、補助的にモニター830で、(a)患者の体表面全体の、単位時間あたりの血流量の変化率、及び(b)患者の体表面全体の、単位時間あたりの相対的な血流量の変化率を測定する。治療中、先に述べたようにモニター830の(a)あるいは(b)の測定値がマイナスになる等して治療が不適切と判断された場合は、治療を修正するよう警告を表示し、修正するよう制御部200がより振動圧・気圧を制御する。すると、モニター820を基準にして行われていた治療が、一時的にモニター830を基準にした治療に切り替わる。その上で、モニター830を基準にして、例えば最も血流量の小さい部位に最も大きい振動圧を加える等のように、加える振動圧の強さや分布が修正され、治療が行われる。そしてその後の治療経過で、モニター820とモニター830の測定値のずれが解消され、モニター820が再び正常に測定できると判断されれば、自動的にモニター820の測定値に基づいた治療に切り替わる。
なお、モニター830は後述のように、重力による治療効果への影響を補正する場合にも用いられる。
【0078】
また、凝りの強い部位ほど、体表面への振動圧付加後の血流の改善度が高いと考えられる。このため、モニター820による体表面の硬度の変化率と、モニター830による血流の変化率等を組み合わせて、凝りの程度を判定し、これにより凝りの程度の測定の精度を高めることができる。つまり、凝りの程度を判定する際に、血流の変化率も合わせて評価できる。
また、凝りの状態を把握するために他のパラメーター等により、測定の精度を高めることもできる。
【0079】
(ステップS105)
ポンプ振動圧制御部20の制御部200により装置内部の気圧の設定、患者の体表面へ加える振動圧の強さの設定等を行う。
【0080】
気圧の設定は、患者の血圧や脈拍等のバイタルサインをモニターしながら、体にできるだけ負担が加わらないよう、体表面に加える振動圧によるバイブレーションの大きさを考慮しながら気密室10により調整する。この際、制御部200によるコントロールのもと、真空ポンプ部290を用いて装置内部の気圧を大気圧から徐々に低下させる。これらの調整は、基本的にはコンピュータ制御により自動的に行うが、場合によって操作者が任意に調節することもできる。また制御部200は安全機能を備えており、治療中、患者の血圧や脈拍に異常が生じた場合等には、緊急に気密室10のロックを解除することも可能である。
【0081】
患者の体表面に加える振動圧の調整は、制御部200により、各種モニターの値を参照しながら行われる。振動圧は体表面全体に加わるように調整されるが、その際の振動圧の強さは一様ではなく、患者の体の凝りの程度に応じて加える音波の強さを傾斜配分し、最も凝りの強い部分に最も強い振動圧を加える形で行われる。これらの調節もコンピューター制御により行う。
【0082】
ここで、患者の体表面に音波によるバイブレーションを加える際に、最も凝りの強い部分に最も強い振動圧を加える必要性について説明する。
〔凝りについて〕
凝りの程度は組織への老廃物の蓄積の程度や、その組織の血流の需要に関係する。この「組織への老廃物の蓄積の程度や、その組織の血流の需要」をひとまとめにして、その組織における「血流の流れにくさ」と考えると、組織への老廃物の蓄積が多ければ多いほど、あるいはその組織の血流の需要が大きくなれば大きくなるほど、相対的にその組織の「血流の流れにくさ」は大きくなる。
組織の血流の流れにくさが大きければ大きいほど、凝りに伴う筋肉の硬化の程度が大きくなると考えられ、安静時には組織の血流の流れにくさはその組織への老廃物の蓄積の程度にほぼ相関し、凝りに伴う筋肉の硬化の程度も同様にその組織への老廃物の蓄積の程度にほぼ相関する。このような変化は、体中のどの組織でも同様に起こっていると考える。治療装置Xによる治療方法は、この仮定を用いて制御することで実現できる。
【0083】
〔体表面の治療効果の変化のつけ方について〕
実際の治療で体表面の部位により治療効果に変化をつける場合には、治療の際の外気圧は全ての体表面で一定であるから、体表面に加える振動圧の大きさにより調整する必要がある。つまり、より大きな治療効果を得たい部位に、より大きな振動圧を加えるように調整することとなる。これは、体表面の単位体積あたりの治療効果は加える振動圧の強さに相関し、ある一定の範囲内では、大きな振動圧を加えれば加えるほどその部位の治療効果が大きくなると考えられるためである。
【0084】
〔体表面の音波によるバイブレーションの強さの変化のつけ方について〕
疲労した患者の体の組織には様々な程度に老廃物が蓄積していると考えられ、それに伴い体の各部位の凝りの程度も様々であると考えられる。今仮に、患者の体の凝りの程度の異なった各部位をA、B、C…とし、Aを最も凝りの強い部位とし、A>B>C…の順に凝りの強さは小さくなっていくものとする。この時、先に述べた仮説からそれぞれの部位の血流はA>B>C…の順に流れにくくなる。
この患者に対し、治療のため体表面に音波によるバイブレーションを加える場合の加え方について以下で説明する。
【0085】
〔加える振動の強さをランダムにした場合〕
この場合、A、B、C…の各部位にどのような大きさの振動圧が加わるかは決まっていない。仮に、Bに最も大きい振動圧が加わった場合、Bにおいて最も治療効果が高くなるため、Bの血流の改善度が最も高くなりBの血流量は増加する。しかし循環血流量は一定であるため、AではBの血流量が増加することにより、相対的に血流量がさらに低下する可能性がある。この場合、もともと血流量の少ないAの血流がさらに悪化する。また、仮にBの血流が改善しても、Aの血流が悪化することにより全体としては血流の状態は悪化すると考えられる。Cに最も大きい振動圧が加わった場合も同様である。つまり、治療の際に加える音波の強さをランダムにした場合は、音波の加え方によっては血流の状態が悪化するため、好ましくない。
【0086】
〔加える音波の強さを均等にした場合〕
治療によってA、B、C…の各部位に均等な強さの振動圧を加えた場合には、理論的には各部位で同等の治療効果が得られ、各部位の血流の流れにくさは同等に改善するため、ランダムにした場合のように治療に伴い血流の状態が悪化することはなく比較的安全に治療を行うことができると考えられる。しかし、実際には複雑な形をした体表面のどの部位にも完全に均等な振動圧を加え続けることは、技術的に大変難しい。少しでも振動圧の加え方に格差が生じれば、たとえそれがわずかなものであっても治療が進むにつれ増幅され、大きな違いになることも考えられるため、その場合には血流の不適切な格差の増大につながり危険であると考えられる。
【0087】
〔凝りの強さに応じて、体表面に加える音波の強さを傾斜配分して加え、凝りの最も強い部分に最も強い音波を加える場合〕
そこで、本実施形態の治療装置Xでは、最も凝りの強いAに最も強い音波が加えられ、B、C…へも凝りの程度に応じて2番目、3番目に強い音波が加えられる。
このため、Aで最も治療効果が高くなり、それに伴い全体の血流が最も効率的に改善し、B、C…各部位の血流も治療により確実に改善し、ランダムに振動圧を加えた場合のように、治療により相対的に血流が低下する部位は生じない。また、治療が進むにつれA、B、C…間の血流の流れにくさの格差は縮小するため、安全に、効率よく治療を行うことができる。また、常に最も血流の流れにくい部位をモニターしそこに最も大きい振動圧を加えることができるため、仮に治療中に一時的に不適切な振動圧の加え方が生じても、絶えず修正されるため、均等に振動圧を加えた場合のようにその誤差が治療の経過とともに拡大することはない。
以上の理由から、治療装置Xでは安全に効果的に治療を行うため、治療の際に凝りの強さに応じて体表面に加える音波の強さを傾斜配分して加え、凝りの最も強い部分に最も強い音波を加えることが好適である。
【0088】
なお、体表面に付加する振動圧は、上述のように、凝りの強い部位により強い振動圧を加えるよう構成されている。
しかしながら、上述のモニター820、830等の情報から、例えば凝りの程度に違いが少ない場合は、体全体に均等な圧を加え、凝りの程度に違いが生じた場合にそれに応じて振動圧に違いをつけるような構成も可能である。
これにより、治療状況に合わせて、臨機応変に振動圧を加えることができ、より治療効果を高めることができる。
【0089】
〔硬度の変化率の測定について〕
前述のように、治療の際には体表面に加える音波の強さを傾斜配分して、凝りの最も強い部位に最も強い音波を加える必要があるが、このためには患者の体表面全体の凝りの分布や程度を評価できなくてはならない。
凝りの程度を評価する指標として体表面の硬度の測定値を用いる。しかし、体表面の硬度には体を構成する様々な器官、臓器の硬度が含まれており、単純に体表面の硬度を測定しただけではその様々な硬度の中から凝りによる硬化だけを評価することは難しく、また凝りの程度を正確に評価することも難しいと考えられる。このため、治療装置Xにより凝りをモニター、評価する際には体表面の「硬度の変化率」を測定する。以下でこの方法について説明する。
【0090】
まず、体を構成する器官、臓器の中で硬度が変化するものとして筋肉(横紋筋、平滑筋を含む)、海綿体等があげられる。このうち海綿体については別に述べる。
筋肉の硬度が変化するのは、(1)運動等の随意的な筋肉の収縮、(2)振戦等の不随意運動、(3)心臓の拍動等の自律神経の働きによる筋肉の収縮、(4)凝りによる筋肉の収縮、硬化等の場合である。
筋肉の硬度の測定の際に、患者を安静に保ち随意的な筋肉の収縮が起こらないようにすることで、「(1)運動等の随意的な筋肉の収縮」の影響をなくすことができる。また、「(2)振戦等の不随意運動」、「(3)心臓の拍動等の自律神経の働きによる筋肉の収縮」等の影響については、後述のようなアーチファクトを除去するシステムにより抑えることができる。したがって、安静な状態で「(4)凝りによる筋肉の収縮、硬化」の程度のみを変化させることができれば、硬度の変化率を測定することにより凝りの程度を評価することができると考えられる。「(5)凝りによる筋肉の収縮、硬化」の程度を変化させる方法として、安静な状態で患者の循環血液量を増加させることがあげられる。
仮に、患者の体の凝りの程度の異なった各部位をa、b、c……zとする。aは最も凝りが強く血流が流れにくい部位とし、a>b>c>…zの順に凝りの強さは小さくなり血流も流れやすくなり、zは最も凝りが小さく血流の流れやすい部位とする。
患者の体を循環する血流が増加した場合、体の各組織ではそれまでより多くの血流が流れようとするため、相対的に各組織の血流に対する抵抗が強まる。このため先に述べた仮説から、生体は血流を押し出す力をより強めるため、あるいは血流の流速を維持するため組織の筋肉、血管等をより強く収縮させることになり、凝りによる筋肉の収縮が強まると考えられる。これは程度の違いはあれ体全体に起こると考えられる。さらに増加した分の血流は、最も血流の流れやすい部位であるzへより多く流れようとし、反対に最も血流の流れにくいaへは流れにくいと考えられる。結果として循環血液量が増加すればするほど、aからzまでの体の各部位の血流量の格差は拡大し、a、b、c……zの血流の流れにくさの格差も相対的にさらに大きくなる。先に述べたように、凝りは血流の流れにくい部位ほど大きくなると考えられることから、a>b>c>……zの順に凝りの程度がさらに強くなる。結果として循環血液量を増加させた場合、体全体の凝りが強まり、その強まり方はもともと凝りが強かった部位でより大きく、もともと凝りが弱かった部位ではより小さいと考えられる。つまり、循環血液量を増加させる前後の「凝りの硬度の変化率」は循環血液量を増加させる前の凝りの程度に相関し、もともと凝りが強かった部位で循環血液量を増加させた後硬度がより大きくなり、変化率が大きくなる。したがって循環血液量を増加させる前後で体表面全体の硬度の変化を測定し、その変化率を求めれば凝りの分布、程度を知ることができる。
また安静な状態で患者の循環血液量を増加させる方法としては、治療装置Xにより患者の外気圧を標準大気圧よりも低下させ、同時に体表面に音波によるバイブレーションを加えることがあげられる。つまり、治療装置Xで治療を行うステップS101の工程では、凝りを測定することができる。なお、この凝りの測定では、体表面の硬度を正確に測定するため、患者の体表面に加える振動圧の大きさを、全ての体表面で同じ強さにする必要がある。
【0091】
〔具体的な凝りの測定方法について〕
(1)治療前の患者の体表面の硬度を測定する(硬度α)
(2)治療装置Xで患者の外気圧を大気圧より低下させ、同時に体表面に均等な強さで断続音を加える。これにより、先に述べたように体を循環する血液量が増加し、体全体の凝りの強さが強まると考えられる。この際の体表面の硬度を測定する(硬度β)。
(3)(硬度β)から(硬度α)を引き算(サブトラクション)する。すると、硬度の変化しない要素(骨、軟骨等)の情報は相殺され、筋肉の硬度が変化した部分の情報だけを抽出することができると考えられる。この場合、安静の状態で行っており、随意的な筋肉の収縮は起こっていないものと仮定すると凝りだけを硬度の変化した部位として抽出することができる。よって、凝りの変化率の絶対値を測定することにより、変化率の大きい部位ほど強く凝っていると考えられることから、凝りの強さを評価することができる。
(4)こうして得られた凝りの分布や凝りの強さの状態に応じて、先に述べたように、最も凝りの強い部位に最も大きな振動圧が加わるように、音波の強さや照射部位を調節して体表面に加える。
(5)一定時間の音波照射後の体表面の硬度(硬度γ)から(硬度α)をサブトラクトすると、一定時間の音波照射後の凝りの状態を測定できる。同様に、治療中の体表面の硬度(硬度δ)、(硬度ε)…からそれぞれ(硬度α)をサブトラクトすることにより、リアルタイムに凝りの状態を測定することができ、得られたデータに基づき適切な振動圧を加えることができ、安全で効果的な治療を行うことができる。
【0092】
〔体表面の硬度の測定方法の調整〕
〈体表面の硬度の測定誤差について〉
先に述べた凝りの評価のための体表面の硬度の測定について、硬度βの測定の際に体表面に加えられる音波の強さは均一である。一方、硬度γ以降の測定の際は、体表面に加えられる音波の強さは、凝りの最も強い部分に最も強い音波が加わるように調整されるため不均一となる。このため硬度βの測定値と異なり、体表面の硬度の測定値に誤差が生じることが考えられる。
すなわち、硬度γ以降の測定値は、硬度βの測定値と異なり凝りの強い部分により強い振動圧が加えられた状態での評価である。体表面に強い振動圧が加えられた場合、先に述べたようにその部位では音波によるバイブレーション効果により心臓や動脈のポンプ作用が強められ、血流が増加する。このため相対的に血管抵抗が増大し、凝りが強まると考えられる。従って硬度γ以降の測定値は、硬度βの測定値よりも凝りの強い部位の硬度が過大評価される。具体的には、治療前の測定で凝りの程度がAと測定された部位について、治療中の測定では過大評価されA+xと評価される可能性がある。このため過大評価された値A+xを、正確な値Aに修正する。なお、この過大評価された分の値+xは治療中に加えられた振動圧の強さに相関し、加えられた振動圧の強さが大きければ大きいほど、つまりその部位の凝りが強ければ強いほど過大評価される値+xも大きくなるので、これを基に、制御部200が修正する。
【0093】
〈心臓の拍動等の影響について〉
凝りの評価をする場合に、心臓の拍動の影響を考慮する必要がある。心臓は体の内部にあるため、心臓の拍動が、体表面の測定値に与える影響は比較的小さい。しかしながら、拍動によるアーチファクトを除去することで、より正確な測定が可能となる。
具体的には、治療装置Xによる治療は、患者への負担が少ないため、原則として治療の前後で患者の拍動の速さ、強さに大きな変化はないと考えられる。従って、治療の前後で拍動の影響を減算する等の処理により、アーチファクトを打ち消すことができる。
また、心臓の拍動以外に、患者が自分でコントロールできないような持続的な不随意運動(振戦等)に対しても同様に対応することができる。
【0094】
〈随意的な筋肉の収縮によるアーチファクトについて〉
治療中、体を動かす等して一時的に随意的な筋肉の収縮が起こる可能性があり、それによるアーチファクトを打ち消す。
随意的な筋肉の収縮は、基本的には心臓の拍動や振戦等の不随意運動のような規則性はない。また凝りによる筋肉の収縮と異なり、収縮が急におこって急におさまると考えられる。よって、測定値を平均化し、又は単発性に急におこる筋肉の収縮をモニターし、所定の閾値以上のものを除去する。
【0095】
〈海綿体について〉
海綿体は「スポンジ状の勃起性組織で(生殖器に存在し)、内部は蛇行する静脈洞が密集してスポンジ状になっており、性的な興奮や生理現象により静脈洞への血流が多くなると、血流で満たされて膨張して硬くなる。」(Wikipedia参照)組織である。
上述の測定では、体表面の硬度の測定について、硬度が変化するのは筋肉だけとの前提のもとで述べてきたが、実際には海綿体も硬度が変化する。したがって以下のことを考慮する必要がある。
【0096】
治療中、原則として海面体も筋肉と同様に扱うことができる。すなわち、疲労により海綿体へ老廃物が蓄積し凝りが生じた場合、治療装置Xにより筋肉の凝りと同様に治療を行う必要があると考える。しかし海綿体は組織学的に筋肉とは異なっているため、評価や治療について修正を行うことも可能である。
また、海綿体の硬化に伴い血圧や脈拍に影響が生じた場合、海綿体は生殖器でもあるため、筋肉の凝りとは異なる機序、例えば機械的刺激による勃起等により海綿体の硬化が起こった場合、これが誤って凝りと評価される等全体の凝りの評価に影響を与え評価が不正確になる等の悪影響が考えられるため、この補正を行うこともできる。
また、仮に治療中に勃起が起こりそれが血圧や脈拍に影響を与えた場合には、治療自体が困難になる事態も考えられる。その場合は、制御部200は、警告により治療を中止する。
【0097】
なお図5においては、説明の簡略化のために片方の体面のモニターについて説明した。しかし、治療の際にはなるべく多方面から体表面に振動圧を照射する必要があるため、体表面の状態を測定するモニターもなるべく多方面に照射する方向と同数設置することが望ましい。したがって、上述の3つのモニター810、820、830は少なくとも体表面の表(腹側)と裏(背側)、さらには上下左右の6方向で描画可能であり、体表面の状態をもれなく測定できるように設計されている。
【0098】
〔重力の影響に対する調整〕
治療装置Xは、重力が治療効果に与える影響も無視できないと考えられるため、重力の影響を補正する。
【0099】
〈重力による影響について〉
治療装置Xは、治療の際に、外気圧を低下させると同時に体表面に音波によるバイブレーションを加えることで、心臓や動脈系のポンプ作用を増強し、皮膚の排泄作用を増強して治療効果をえる。重力により、治療装置Xが心臓や動脈系のポンプ作用を増強する働きが影響を受け、それが治療効果に影響を与える。その影響は特に患者の上側(腹側)と下側(背側)での治療効果の違いとして現れる。
治療の際に患者の体表面に加えられる音波によるバイブレーションは、先に述べたように体の中を伝わり、心臓や動脈の壁を断続的に内側に押すことにより拍動を増強し、ポンプ機能を増強して、心臓や動脈が血液を押し出す力Aを増強する。この増強された力をA'とする。このA'の大きさは治療効果に相関し、A'が大きければ大きいほど、老廃物の皮膚からの排泄が大きくなるため治療効果は大きくなると考えられる。
心臓や動脈系が、常に血液を心臓から体表面に向かう方向に押し出していることから、A、A'ともに体の中心部から外側に向かう方向に働いている。したがって、患者の上側ではA'は上向きに働き、患者の下側ではA'は下向きに働く。また血液には重力が働き、それにより血液は下向きの重力Gを受ける。この重力GがA'に影響を及ぼし、患者の上側では、GはA'と反対の方向に働くためA'に逆らう形で作用し、A'は弱められる。反対に患者の下側では、GはA'と同じ方向に働くためA'を増強する形で作用し、A'は強められる。したがって、治療の際に患者の上側と下側に同じ大きさの振動圧を加えた場合、上側よりも下側の方が治療効果が大きくなるため、治療が進むにつれてその差が拡大してしまう。したがって、これを修正する必要があり、制御部200は、治療の際に患者の上側に加える振動圧に、重力によるマイナスの影響を考慮して余分に加えることによりバランスをとる。
【0100】
〈重力の影響の補正方法〉
より具体的には、制御部200は、治療の前後で患者の上側(腹側)の体表面の総血流量の改善度と下側(背側)の体表面の総血流量の改善度の格差が大きくなりすぎないように調整するというものである。
治療開始前の患者の上側の体表面の総血流量B1、下側の体表面の総血流量をB2とする。同様に治療開始後単位時間あたり上側の体表面の総血流量をC1、下側の体表面の総血流量をC2とする。C1、C2の値は治療経過とともにいずれも増加するため、B1:C1、及びB2:C2の比、B1/C1、B2/C2はともに治療経過とともに小さくなる。さらに、仮に患者の上側と下側で治療の際に加える振動圧の強さに修正を行わなければ、先に述べたように、患者の下側の方が重力の影響で治療効果がより高まるため、C1よりC2の方がより大きな値となる。従って、B1/C1よりも、B2/C2のほうがより小さな値となり、B1/C1>B2/C2となる。治療の経過中に、B1/C1とB2/C2の比をリアルタイムで測定し、B1/C1に対してB2/C2の値が小さくなりすぎる場合は、重力の影響によりC1とC2の差が増大し、C1に比べてC2が大きくなりすぎていると判断し、体の上側に加える振動圧を増やすことによりC1を大きくしてバランスをとることができるようにする。
しかし、もともと体表面の上側に比べて下側の方が著しく疲労していて凝りが強い場合には、重力の影響がなくても治療に伴い上側より下側の方が血流の改善度が高くなり、上側と下側で血流の改善度に差が生じる可能性がある。この場合は血流の改善度だけでなく、凝りの状態等も考慮して、記憶部220に記憶された所定の計算式により補正する。
【0101】
また、患者の体表面には、基本的に何も接触させないことが望ましいが、体を寝台150に固定する際や、外部センサを装着する際等、接触してしまうことがある。
この場合、接触する部位にセンサーを設置し、接触部位の位置、圧力などの情報を、寝台150のセンサや外部センサに備えられた圧力センサで解析し、治療の際、その圧力を差し引いた振動圧を体表面に加えるよう補正する。
これにより、接触に伴う体表面への影響を、減少させ、極力非接触での治療に近い状態で治療可能となる。
【0102】
〔頚部治療の調整について〕
治療装置Xの治療では、治療をとおして特に頚部の血流が低下することのないよう十分な調整をする。
これは、頚部は非常に重要な臓器で、頚部の血行の状態は、疲労のみならず様々な疾患に大きな影響を与えるためである。頚部は心臓と脳をつなぐ器官である。つまり人間の臓器の中で、最も大量の血液を消費し、なおかつ人間の活動の主要な部分である脳と、そこに大量の血液を供給する心臓の橋渡し役となっており、大量の血流が流れている。加えて頚部はくびれた構造となっており、所定の太さしかなく、例えば血流が低下した場合の側副路が無い。このため、頚部に血流が低下した場合、身体各部に重大な影響を及ぼす。よって、本実施形態の治療装置Xにより、疲労に関係した様々な疾患について、頚部の凝りや血流低下について、特に治療を行う。
具体的には、制御部200は、治療の際、頚部に他の部位よりも常にやや強い音圧が加わるよう設定し、常に頚部の血流を他の部位よりやや高い状態に保つように調整することができる。
一方、治療装置Xは、先に述べたように、治療の際に最も凝りの強い部分に最も効果的な治療を施したり、治療中常に血流の状態等をモニターする等して治療により血流が悪化する部位が生じないようにしている。このため、仮に頚部の血流が相対的に低下するような事態が生じた場合は、警告を表示して停止する。
【0103】
なお、頚部は、上述したように重要臓器で、血流が低下した場合の影響が甚大であり、構造上くびれ等のため頚部表面を正確にモニターしたり、正確に振動圧を加えたりすることが難しい。このため、頚部には専用にスピーカー/センサ100−1〜100−nや他のセンサ等の数を増やす等して、くびれがあっても正確に表面の状態を把握し、振動圧を加えるように構成してもよい。
この場合、上述したように、頚部には常に他の部位より多く振動圧が加わるよう調整する等、安全に治療ができるようにする。
加えて、手、足、男性生殖器等、複雑な形状をしており、体表面を正確にモニターしたり、振動圧を加えたりすることが難しい他の部位にも、スピーカー/センサ100−1〜100−nや他のセンサ等を備えることができる。この場合、スピーカー/センサ100−1〜100−nを小型化し配置を工夫する等により、複雑な形状に対応できる。
【0104】
上述のモニターを用いた調整と、重力の影響に対する調整と、頸部の調整について、制御部200はモニター810、820、830等の値を参照し、これらの血流比等の情報から体表面の各部位にかける振動圧を計算し、加える振動圧の強さや分布を、自動的に変更する。
【0105】
また、制御部200は、スピーカー/センサ100−1〜100−nによる振動圧の付加を、最終的に調整、補正することも可能である。この調整、補正は、例えば、上述したように、治療を通して頚部に加える振動圧の総量を他の部位より常に多く保ち、同部の血流を高く保つように調整するために行う。
加えて、制御部200は、患者の体の中心に近い部分より、例えば下肢や頭部等の体の末梢へ振動圧を加え過ぎ、同部位の血流が増えすぎて、全体の振動圧付加のバランスが崩れないよう調整、補正する。
また、制御部200は、これらの調整、補正について、上述のデータベースを含む他のパラメータを基に行うことも可能である。
【0106】
治療は、一定時間設定された気圧のもとで体表面に音波によるバイブレーションを加えた後、終了となる。終了後制御部200は気密室10のロックを解除し、患者が寝台150から出る。
この治療により、体内の老廃物が皮膚をとおして体外に排泄され治療効果を得ることができる。体への負担を抑えるために、この治療は何回かに分けて行う。
また、1回の治療が終わり、患者が寝台150から出た後、滅菌部295により気密室10内部の滅菌処理を行う。なお、この滅菌処理は、患者が寝台150に入る治療前に行うこともできる。また、治療中に逐次、供給する空気を紫外線等により滅菌することも可能である。
以上により、治療装置Xの気圧・音場制御処理を終了する。
【0107】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
【0108】
〔疲労に対する従来の治療と治療装置Xによる治療の違いについて〕
マッサージや整体、鍼灸、低周波治療器等の各種理学療法は、それぞれ方法は異なるものの、循環器系の働きを補助し、血流を改善することにより疲労回復を助ける効果がある。
ここで、従来のマッサージ機を例にとってみる。マッサージ機での治療では、マッサージ機のアームで凝った筋肉等を圧迫することによって治療効果を得る。この際アームにより圧迫された部位では、筋肉等が押されることによりその部位の血管や組織の圧が高まり、これにより血流が老廃物を押し流す力が増強され血流が改善することにより治療効果が得られる。しかしこの場合、アームが筋肉を圧迫することにより体に加えられた全ての力が血流を増強する力として働くわけではなく、加えられた力の大部分は圧迫した部位の筋肉や組織そのものに吸収される形となり有効には作用せず、また加えられる力が大きい場合には、筋組織を破壊する等してむしろ体に悪影響を及ぼすと考えられる。つまりマッサージ機のアームにより体に加えられる力のうち実際に老廃物を押し流すために有効に作用する力はごく一部であり、このため効率が悪く、体への侵襲を考えると加えることのできる力は限定的となる。
【0109】
一方、本発明の治療装置Xは、音波によるバイブレーションを体表面に加えて治療を行うが、この際この体表面に加えたバイブレーションは、直接老廃物を押し流す力として働くのではなく、心臓及び動脈系の拍動を増強する力として働くことにより間接的に心臓及び動脈系が老廃物を押し流す効果を強める働きをする。さらに、同時に気圧を下げることにより老廃物が直接皮膚や皮下組織等を通って体外に排泄されるため、強力な老廃物の排泄効果が得られる。また治療装置Xでは体表面に圧力を加える方法として音波を用いており、非接触で圧力を加えられる等後述のような様々な利点がある。
ここで体の組織に老廃物が蓄積した状態を、水の流れるホースの中に老廃物が蓄積し、水の流れが滞っている状態に例えてみると、従来のマッサージ機等は、ホースの中の老廃物を取り除くために、ホースを外側から押すことによってその圧力で老廃物を除去しようとしているようなものであった。このため効率が悪く、ホースそのものにも強い力が加わるためホースが損傷する等の悪影響の危険もあった。しかし本発明の治療装置Xは、ホースそのものには大きな力は加えず、音波によるバイブレーションがホースの内部を流れる水(=血流)の流速や圧力を高める働きをし、それによりホース内部の老廃物を水が洗い流す作用を増強する。さらに外気圧を低下させることで、ホースの壁(=皮膚)から内部の老廃物が直接外部に排出されるため、ホースそのものに負担をかけずに老廃物の高い排泄効果を得ることができる。
【0110】
〔治療装置Xの特徴〕
本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xの特徴の一つとして、体の深部への高い治療効果があげられる。
治療装置Xでは実際に振動圧が加えられるのは体表面のみであるが、前述のように加えられた力が心臓や動脈系の働きと連動して体に作用し、振動が体液中をある程度の深さまで伝わると考えられるため、体の表面だけでなく体の深部の老廃物除去効果も高い。したがって全身をくまなく治療することが可能である。また上述のように、治療は各種のモニターにより体の状態を詳細に測定しながら行われるため、安全でかつ一人一人の患者に最適な治療を行うことができる。
また、従来、マッサージ等の理学療法は個々の機械、あるいは治療者により治療内容にばらつきがあり、均質な治療を受けることが難しい側面があった。これに対して、治療装置Xにより、誰でも均質で最適な治療を行ったり受けたりすることができる。
【0111】
〔音波について〕
本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xのさらなる特徴として、体に加える外力として音波を用いていることがあげられる。音波を用いることにより以下のような利点が考えられる。
(1)体表面に、非接触性に圧力を加えることができ、身体に与える侵襲を最小限にすることができる。
(2)体表面のほぼ全ての部位に、広範囲にわたり均等に圧力を加えることができる。
(3)体表面に加える圧力の大きさを、より細かく正確に設定することができる。
【0112】
(4)治療の際に、体表面に圧力を加える手段として音波を用いることにより、非接触性に治療を行うことができるため、例えば従来のマッサージ機のアーム等と比べて筋肉等に与える侵襲を最小限に抑えることができる。
【0113】
(5)治療装置Xでは全身を同時に治療するため、治療の際は体表面全体に圧を加えるように構成されている。
ここで、例えば従来のマッサージ機のアームは、体表面に接触性に圧力を加えている。このため、例えば、体表面の広範囲に接触性に圧を加えるために、マッサージ機の一つ一つのアームを非常に小さくし、アームの数を増やしてアームを体表面全体に配置することにより対応したとしても、体表面に完全に均等に圧を加えることは難しく、圧力の強さにむらができてしまう。
また体表面のうち、例えば頭部や顔、特に眼や耳等の部位には強い力を加えることができないため、マッサージ機のアームのような接触性の構造では、圧を加えるのが困難である。また患者の体格や体表面の状態等には個人差があるため、接触性のマッサージ機のアーム等の構造では患者一人一人の体格や体表面の曲線の状態に応じて適切に圧を加えることが困難である。
これに対して、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xによる音波による加圧では、体表面に広範囲に、均等に圧を加えることができる。また頭部や顔等を含めた体表面全域に圧を加えることができ、患者の体格や体表面の曲線の状態等に応じて圧の加え方を柔軟に変化させることができる。
【0114】
また、体表面に加える圧の大きさを調整する場合も、接触性の構造では困難である。
従来のマッサージ機のアームのような接触性の構造では、各アームにより圧力の変化をつけた場合に、「粗い」圧力変化となり、正確で滑らかに圧力の変化をつけて治療することが難しく、治療の効果や安全性の面で問題があると考えられる。
これに対して、治療装置Xによる治療に際しては、先に述べたように体表面の状態に応じて体表面に加える圧力の大きさに変化をつけることができる。これにより、音波による加圧では圧の強さを非常に小さな値から微調整が可能で、部位によって圧の大きさに変化を付ける場合にも滑らかな圧変化にすることが可能である。
このように体表面への加圧の方法として音波を用いることは非常に有効で理にかなっていると考えられる。
【0115】
〔治療装置Xによる各疾患への応用について〕
なお、本発明の第1の実施の形態に係る治療装置Xは、疲労以外にも様々な疾患に対して適用し、治療効果を得ることができる。
【0116】
〈感染症に対する治療について〉
治療装置Xは皮膚の濾過機能、排泄機能を高め、皮膚を通した体内の老廃物の体外への排泄を促進することにより治療効果を得る。
このため、感染症に罹患した患者に対して、治療装置Xを用いて、体内の病原菌を、老廃物が皮膚から排泄されるのと同じ機序で排泄させることができる。よって、治療装置Xにより画期的な感染症の治療を行うことも可能である。
すなわち、治療装置Xによる治療で患者を標準大気圧より低い気圧下におき、全身に振動圧を加えることにより、全身の皮膚から病原菌が排泄される。これを繰り返すことにより体内から完全に病原菌を除去することが可能になる。
【0117】
治療装置Xが、感染症の治療に有効であった場合、今までの薬物による感染症治療と比較して、以下の点で有利である。
(1)抗生物質における、病原菌の耐性の問題が起こらない。
(2)抗生物質や、抗ウイルス薬等による副作用の問題がない。アレルギー体質の方でも治療を行うことができる。
(3)細菌、ウィルスを問わず、全ての感染症に有効な可能性がある。このため、HIVや多剤耐性菌等、現在薬で根治が難しいとされている病原菌やウィルスの治療を行うことができる可能性がある。HIV等のウィルスの場合、ウィルスで汚染された血球系の細胞も、ウィルスと一緒に除去できる。
(4)免疫を介さず、細菌、ウィルス等を直接体外に排泄できるため、体への負担が少ない。治療期間を短くできる可能性がある。
(5)抗生物質の場合、脳血管関門等のため、頭部に効きにくい場合があるが、そのような問題がない。
(6)体の末梢には血流が達しにくく、抗生物質も効きにくいことがあるが、逆に治療装置Xは末梢で効果を発揮する。
(7)抗生物質等と、治療装置Xとを併用することにより、より効果的な治療が期待できる。
(8)感染症と疲労を合併した症例では、両方を同時に治療することができる。
等の利点が考えられる。
【0118】
〔その他の疾患の治療について〕
他の疾患においても、体に蓄積した疲労物質、あるいは体の中の何らかの有害な物質が疾患の直接的、間接的な原因となっている場合に、治療装置Xでその有害物質を除去することにより治療効果を得ることができる。たとえば、アルツハイマー病(脳内のアミロイド蛋白の除去による治療効果)、膠原病(異常な抗体の除去)、その他各種難病等幅広い適用が期待できる。
【0119】
最後に、治療装置Xが従来の治療と比較して大きな治療効果を発揮することができる理由について考察する。
治療装置Xを使った治療では、疲労を根本的に治療することが可能な上に、難治性の感染症や難病等の各種疾患に対しても効果を発揮すると推測される。なぜこれほど大きな効果を発揮できるかといえば、治療装置Xにより外部からのエネルギーを心臓や動脈系等の循環器系の機能を増強するエネルギーに変換することが出来、心臓や動脈系等の働きを増強することができるからである。
本発明者の仮説では、上述したように、疲労や疾病の原因や増悪因子として、体内に蓄積した老廃物等が大きな役割を担っていると考えられる。これを体から取り除くために最も大きな役割を持っているのが心臓や動脈系等の循環系であり、疲労に対する治療としての各種薬やサプリメント、理学療法、休息等は循環系の働きを助け、その効果を最大限に発揮させることにより回復を助けるためのものである。しかしこれらは循環系の働きそのものを増強するわけではなく、心臓等が働くことのできる仕事量は一定であるため、疲労が著しかったり、蓄積した疲労物質の状態等によっては回復に多くの時間を要したり、回復が困難であったりすると考えられる。
一方、治療装置Xは上述したように、外部のエネルギーを心臓や動脈系の働きを補助するためのエネルギーに変換し、心臓や動脈系の働きを増強し、特にそれらが体内から老廃物を排泄する働きを増強することができるため、より効果的で根本的な治療を行うことができる。疲労の治療を、タンクの中の廃液をポンプで汲みだしている状態に例えると、従来の治療はポンプに潤滑油をさして、ポンプの働きを助けているようなものである。一方、治療装置Xによる治療は、より大きなポンプに交換したり、ポンプを何台も動かすようなものである。
また、治療装置Xのように低圧下で振動圧を加える治療装置による効果として、老廃物の排泄効果の他に、組織への血流を増加させる効果が上げられる。組織への血流量が増加することにより、それだけ組織へ多くの酸素や栄養素を供給することができ、また老廃物を除去することができる。その結果、疲労回復を早めたり、組織の機能を改善させたり、損傷した組織の修復を早めたりする効果が得られる。
これは一般の疾患の治療についても当てはまると考えられる。従来の治療法でも、薬等により循環器系の働き等を調整したり、一時的に高めたりすることはできても、外部からのエネルギーを利用して循環器系の働きそのものを増強できる治療法は存在しなかった。したがって、治療装置Xにより今まで治療が難しかった疾患を治療することができるようになる。
【0120】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態に係る治療装置Yについて説明する。
本実施形態の治療装置Yにおいては、患者の外気圧を大気圧よりも低下させ、同時に患者の体表面に断続的な液圧を付加して振動圧を加えることで、治療を行う。
【0121】
〔本発明の第2の実施の形態に係る治療装置Yの外観〕
図6をすると、治療装置Yは、第1の実施の形態に係る気密室10と同様の気密室11内には、複数の液圧付加ユニット101−1〜101−n(液圧付加手段、振動圧付加手段)が備えられている。被験者(患者)は、体表面を取り囲む柔軟な防水性のシート153を介して、断続的な液圧により振動を付加され、治療される。図6において、図1と同じ符号を付した部位は、同様の構成であることを示している。
すなわち、本発明の実施の形態に係る治療装置Yは、シート153の外側の液圧付加ユニット101−1〜101−nから、体表面に向かい液体を断続的に噴射する。これにより、液圧でシート153が患者の体表面に向かって押され、体表面にバイブレーションを加えることができる。
【0122】
液圧付加ユニット101−1〜101−nは、液体の噴射を制御するアクチュエーターと複数のノズル等を備え、断続的に被験者(患者)に向かって水やオイルやイオン液体等の液体を噴射し、液圧による振動圧を加える。すなわち、液圧付加ユニット101−1〜101−nは、第1の実施の形態におけるスピーカー/センサ100−1〜100−n(図1)と同様に、振動圧付加手段として機能する。
液圧付加ユニット101−1〜101−nは、噴射する液体の速度、圧力、量、広がり等を所定範囲で調整することができ、ノズルの位置も可動に構成される。噴射される液体は、底部から回収され、ホース15を介してポンプ振動圧制御部20が吸引して液圧付加ユニット101−1〜101−nに圧力をかけて送る。このように、液体は循環され繰り返し利用される。
また、液圧付加ユニット101−1〜101−nには、第1の実施の形態のスピーカー/センサ100−1〜100−nと同様に、各種のセンサが複数備えられている。液圧付加ユニット101−1〜101−nは、このセンサの値を用いたポンプ振動圧制御部20の制御により、体表面の任意の場所に、任意の液圧を正確に加えることができる。
【0123】
寝台151は、第1の実施の形態に係る寝台150と同様の患者を吊す手段である。寝台151は、例えば、固いフレームは用いず、ハンモックのようなひも状の構造を用い、固いフレームによる振動圧付加への影響を避ける構造になっていてもよい。つまり、このような構造とすることで、液圧の付加が遮られる箇所を減らす等の効果が得られる。
寝台151は、フレームがないことにより、治療中、患者の体の位置が変化しやすい。このため、液圧付加ユニット101−1〜101−n及び寝台151のセンサで体表面の位置情報を測定し、ポンプ振動圧制御部20により、体の動きによる影響を補正することが好適である。
【0124】
シート153は、患者の周囲を囲む、塩化ビニルやウレタン等の樹脂やゴム等で構成された柔軟な防水性のシートと金属のワイヤー等から構成される部位である。シート153は、治療の際、寝台に横になった患者の全身をすっぽりと包み込む。また、シート153には、患者の呼吸のため、患者の顔に空気を送るチューブ154が備えられている。加えて、シート153外側には複数のワイヤーがついており、シート153はワイヤーにより寝台151に固定される。
患者が包み込まれた状態では、シート153の内部には液体も気体も侵入しない。このため、シート153の外側にある複数の液圧付加ユニット101−1〜101−nのノズルから噴射された液体は、シート153を介して患者に向かって振動圧を与える。シート153は、液圧付加ユニット101−1〜101−nの光学センサで検知可能な反射板や模様等の位置提示手段を備えている。この位置提示手段の位置(三次元座標)を光学センサ等で読み取り、ポンプ振動圧制御部20の各部が、シート153の形状や変形位置を正確に測定する。これによって、液圧に押されたシート153がどの程度、患者の体表面を内側に押したかを計測し、解析することができる。よって、患者の体表面の硬度の測定も可能になる。
なお、シート153の内側に、人体に影響のない微量の金属片や金属箔等の位置提示手段を含ませ、これをマイクロ波レーダー等で測定することで、シート自体の三次元形状や身体に加えられた振動圧や皮膚の硬度等を測定してもよい。さらに、位置提示手段として干渉縞がでるような模様を付加して、光学的に振動圧を正確に測定してもよい。
また、シート153のワイヤーやシート153自体に、圧電素子等による圧力センサを備えて、体表面の硬度を測定してもよい。
【0125】
なお、シート153は、ワイヤーを含まず、薄い膜のみからのような構成であってもよい。この場合、シート153は、隙間無く体表面全体を覆うものの、体表面を圧迫しないよう構成する。
また、シート153として、液体は通さずに空気は通す樹脂等を用いてもよい。また、ゴアテックス(登録商標)のような防水透湿性素材を用いてもよい。この場合、患者は、呼吸できるようマスク等を装着することが好適である。
【0126】
また、シート153は、治療の際、患者と直接接触せずに、体表面から所定の距離に、わずかに離されて患者を包み込むように構成されてもよい。このような構成の場合、シート153は、液体による圧力が無くなると、シート153のワイヤーによる張力やシート153自体の弾性で、速やかに患者の体から離れた元の位置に戻る。この際に、シート153外側のワイヤーの長さや張力は、所定範囲で調整でき、噴射される液体の調整と併せて、体表面に加える振動圧を調整できる。
また、シート153はいくつかに分割されて、患者の周りを取り囲むように装着されるよう構成されてもよい。この場合、例えば、シート153を、上下、左右、前後の6方向に分割して、ベルト等で患者に装着する。これにより、過度な閉塞感を避けることができる。
また、シート153は、袋状の構造であってもよい。この場合、シート153の外部に液体が漏れないように構成し、シート153の袋の内部に液圧付加ユニット101−1〜101−nを備えてもよい。つまり、袋の内部の液圧付加ユニット101−1〜101−nのノズルから液体を噴射し、シート153を介して袋の外側の患者に向かって液圧による振動圧を加える。この際、上述のように、分割された袋状のシート153が、患者に装着されてもよい。このように構成することで、患者が濡れにくく、液体の処理が楽になるという効果が得られる。
【0127】
〔治療装置Yの気圧・水圧制御処理〕
次に、本実施形態の治療装置Yにより、疲労の治療を行う気圧・水圧制御処理の手順について説明する。
治療装置Yにおける気圧・水圧制御処理は、第1の実施の形態に係る気圧・音場制御処理(図3)と同様に、気圧を下げて振動圧を付加する処理を行う。
この際、本発明の第2の実施の形態に係る治療装置Yにおいては、液圧付加手段となる液圧付加ユニット101−1〜101−nが患者を取り囲むように配置されており、これらの複数のノズルから噴射される液体の液圧や噴射のタイミング等を制御して、断続的な液圧による患者への振動圧の付加を制御する。
このため、本実施形態の治療装置Yにおいて、振動圧調整部251(図1)は、液圧調整部(液圧調整手段)として機能する。振動圧調整部251は、各センサからの値を基にして、各ノズルから噴射される液体を調整する計算や制御を行う。
また、組織硬化度計算部255(図1)は、治療中のシート153の位置の変化を計測し、又はシート内に設置された圧センサーの値等から組織硬化度を求める計算を行う。
【0128】
治療装置Yにおける気圧・水圧制御処理では、減圧/振動圧付加処理(図3)と同様の処理において、制御部200は、I/O部230を用いて、液圧付加ユニット101−1〜101−nに制御信号を送信する。
これにより、液圧付加ユニット101−1〜101−nのノズルから液体が噴射され、患者の体に液圧が加えられる。液体は規則的、断続的に噴射され、これにより体表面にバイブレーションが加えられる。液圧の大きさやリズム等は、自由に設定し、これらをデータベースに基づいて自動的に調整することは音圧付加の場合と同様である。
【0129】
また、治療装置Yにおけるセンサ取得処理では、シート153の形状や移動位置をモニターすることにより、上述の第1の実施の形態に係る治療装置Xと同様に、治療中の患者の体表面の振動圧付加による動きを検知して解析する。これにより、患者の体表面の硬度および硬度の変化率を計測することができる。
【0130】
また、治療装置Yにおけるモニター処理では、患者の体表面に加えられる液圧の分布や強さを計測し、治療中体表面に加えられる液圧によるバイブレーションの範囲や強さを監視し、情報を表示部240のモニター810に表示する。
この際、制御部200は、各ノズルから体表面までの距離、ノズルから噴射される液圧の強さやノズルの数等の情報を元に、振動圧調整部251にて計算した結果を表示する。この計算した結果は、第1の実施の形態の音圧と同様に、リアルタイムで表示することができる。また、制御部200は液圧付加ユニット101−1〜101−nの各ノズルと連動して振動圧の分布を調整する。
【0131】
なお、シート153の内部に圧力センサが組み込まれている構成において、体表面にシート153を介して液圧を加えた際に、圧力センサにより体表面の圧力を測定し、加えた圧力と比較する。このようにして、体表面の硬度を測定するために、例えば、特開2011−047711号等に記載のような公知の技術を用いることができる。
また、非接触的な体表面の硬度測定と、圧力センサによる硬度の測定は、使い分けることができる。音波やマイクロ波や光学センサを利用した方法は、治療装置Yのみならず、第1の実施の形態に係る治療装置Xによる音圧付加の際にも用いることが好適である。また、シート153の圧力センサを利用した方法は、治療装置Yによる液圧付加の際に用いられる。また、サーモメーターを用いた方法は、治療装置Xによる音圧付加、及び治療装置Yによる液圧付加の両方の場合で用いることができる。
また、治療装置X及び治療装置Yにおいて、体表面にマイクロ波を照射し、解析することにより体表面の硬度を計測することができる。
【0132】
なお、第1の実施の形態に係る治療装置Xによる音圧付加と、第2の実施の形態に係る治療装置Yによる液圧付加は、それぞれの特徴によって使い分けることができる。
治療装置Xによる音圧付加は、広範囲に均等な振動圧を加えるのに適している。音圧は振動圧の加え方のムラが少なく、体の隅々まで振動圧を加えることができるためである。また、音圧は寝台150等でほとんど遮られず、直接体表面に振動圧を加えられるため効率がよい。また、音圧は非接触性に加えることができ、強すぎないため安全で、負担が少なく、特に体力の落ちた患者等に有効である。なお、音波の性質上、場所によって圧の強さに違いをつける場合、アクティブ・ノイズ・コントローラにより、圧力を加える箇所を調整することで対応できる。この場合でも、体表における音圧はなだらかな差となる。
一方、治療装置Yによる液圧付加は、一カ所に加える振動圧を大きくすることができるため、ピンポイントに大きな圧を加えることができる。つまり、場所によって振動圧の強さに大きな違いをつけることができる。このため、治療の際に特定の部位に強い圧力をかける必要がある場合等に用いることが好適である。また、体力がある患者には、短時間で効果的に振動圧による治療が可能となる。
また、治療装置X又は治療装置Yは、シートの有無の違い、センサーの違いなど構造が異なるため、別々の装置として必要に応じて使い分けることもできる。
【0133】
<第3の実施の形態>
次に、図7〜図9を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る治療装置Zについて説明する。
本実施形態の治療装置Zにおいては、患者の外気圧を大気圧よりも低下させ、同時に患者の体表面に断続的に振動付加ユニット102−1〜102−n(振動圧付加手段)により液体を介した振動圧を付加することで、治療を行う。
本実施形態の治療装置Zの振動付加ユニット102−1〜102−n(図7)と、これらが配置された気密室12(図7)以外の構成は、上述の第1の実施の形態に係る治療装置X、第2の実施の形態に係る治療装置Yと同様である。
【0134】
〔気密室12内の構成〕
図7の概略断面図を参照して、治療時における気密室12内の構成について説明する。気密室12は、複数の振動付加ユニット102−1〜102−nが配置され、これらにより被験者(患者)の体表面に振動圧が付加される。
振動付加ユニット102−1〜102−nは、被験者(患者)の体表面を取り囲むように複数、配置され、それぞれが患者の体表面に接触している。これにより、患者の体表面の任意の位置に、任意の強さの振動圧を加えることができる。また、本実施形態においては、患者は、鉛直方向で下側の振動付加ユニット102−1〜102−nに載置されて治療される。
振動付加ユニット102−1〜102−nは、患者の体表面に向かう方向又は離れる方向に駆動可能である。このため、振動付加ユニット102−1〜102−nを、患者の体表面の状態に応じて調節し、体表面との間で隙間なく密着させることができる。また、振動付加ユニット102−1〜102−nは、体表面に加える圧力も調整できる。この際、下部の振動付加ユニット102−1〜102−nに過度の圧が加わらないように調整される。
【0135】
なお、患者の呼吸のための空気は、第2の実施の形態のチューブ154と同様のチューブ等を通して別途供給するように構成してもよい。
また、患者の身体は、振動付加ユニット102−1〜102−nとは別に、第1の実施の形態に係る寝台150(図1)や第2の実施の形態に係る寝台151(図6)に載置されてもよい。つまり、患者の身体はハンモックのような構造で空間に固定されてもよい。この場合は、下部の振動付加ユニット102−1〜102−nの圧力を、患者の重さ等により調整しなくてもよい。
また、振動付加ユニット102−1〜102−nは、それぞれが密着して患者に接触するように構成してもよい。
また、振動付加ユニット102−1〜102−nのそれぞれの大きさを小さくして、数を多くすればするほど、精度の高い安全な治療が行うことができる。
【0136】
〔振動付加ユニット102−1の構成〕
次に、図7を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る治療装置Zの振動付加ユニット102−1〜102−nの説明をする(以下で、振動付加ユニット102−1を代表例として説明する。)。
図8は、振動付加ユニット102−1の概略断面図である。
振動付加ユニット102−1は、ヘッド部105、エキサイタ110(駆動手段、振動圧発生手段)、温度調整部120(温度調整手段)、センサ130、保持部140を含んで構成される。
ヘッド部105は、柔軟な樹脂等で構成された膜状、半球状、又はドーム状のシートである。ヘッド部105は、第2の実施の形態に係るシート153と同様に被験者(患者)と接触され、体表面に振動を付加する部位である。ヘッド部105の内部は、水やオイルやイオン液体等の液体106で満たされている。
エキサイタ110は、圧電素子や電磁アクチュエータや振動モータ等により構成される振動発生部位である。エキサイタ110は、ヘッド部105内部の液体106に周囲を囲まれるよう配置され、エキサイタ110自体が振動することにより、液体106に任意の強さの振動を発生させることができる。具体的に、エキサイタ110は、I/O部230(図2)を介して接続された制御部200の制御により、ヘッド部105内の液体106に、主に80Hz〜500Hz程度の低周波の振動を発生させる。この振動が液体106内を伝わり、ヘッド部105を介して患者の体表面に伝わることにより、患者の体表面に振動圧が付加される。
温度調整部120は、ヒートシンクやペルチェ素子やファン等を備える温度調整部位である。温度調整部120は、通路125でヘッド部105と連通され、ヘッド部105内の液体106の温度を調整する。温度調整部120は、エキサイタ110の振動により液体106の温度が所定温度以上に上昇した場合には、冷却を行う。また、温度調整部120は、上述の血流や皮膚硬化度のモニターに従って、液体106の温度を暖めて、患者の接触された部位を暖めてもよい。
センサ130は、光学センサや圧力センサや温度センサ等であり、上述の第1の実施の形態に係るスピーカー/センサ100−1〜100−n(図1)や第2の実施の形態に係る液圧付加ユニット101−1〜101−n(図6)と同様に、患者の身体状態を液体106を介して取得する。センサ130の光学センサとしては、患者の皮膚の透過度や脈拍や血流を液体106を介して直接測定するように、赤外線LED等と受光素子を組み合わせて用いることができる。また、センサ130として、例えば、光や音波を皮膚に照射して、その吸収度の違いから皮膚の厚さを測定できるセンサを用いてもよい。なお、センサ130はヘッド部105にも備えられて、患者に直接接触してもよい。これに加えて、センサ130として、別途、患者の身体の各部に対応したサーモメーター等を備えていてもよい。
なお、温度調整部120を用いない構成も可能である。
【0137】
〔治療装置Zの気圧・振動圧制御処理〕
ポンプ振動圧制御部20の各部は、上述したヘッド部105内部に組み込まれたセンサ130により取得されたデータや、サーモメーターのデータ等を解析して、患者の体表面の硬度や硬度の変化率を測定する。また、近赤外線分光法等を用いて、治療に伴う血流量の変化等を測定し、治療に反映させることができる。ポンプ振動圧制御部20は、患者のバイタルサイン等も測定できる。この上で、ポンプ振動圧制御部20は、凝りの最も強い部位に接触した振動付加ユニット102−1〜102−nに、最も強い振動を加える。
【0138】
〔具体的な凝りの治療効果の判定方法について〕
本実施形態の治療装置Zでは、第1及び第2の実施の形態に係るモニター処理(図3)と同様に、治療に伴い、どの程度体内から老廃物が排泄されたかを評価する。
しかしながら、治療装置Zは、凝りの判定方法として体内から排泄された老廃物を直接測定しない。このため、ポンプ振動圧制御部20の各部は、代わりに以下の項目を測定する。
【0139】
(1)治療に伴う、体表面の硬度の変化率の経時的な変化を測定
上述したように、体表面の凝りは、体表面の硬度の変化率で判断する。凝りが強いほど変化率が大きい。治療を通して経時的に体表面の硬度の変化率を測定し、変化率が小さくなっていく場合、凝りは改善していると判断し、変化率が0に近くなった場合に、老廃物が全て除去されたと判断する。
(2)体表面の、凝りの程度の分布の経時的な変化を測定
体表面の凝りの程度は、治療前、部位によりまちまちと考えられる。本治療器では最も凝りの強い部位に、最も大きい振動圧を加えて治療を行うため、治療経過とともに、体表面の各部位の凝りの程度の違いは少なくなっていき、最終的に0に近くなるため、その場合も老廃物が相当程度除去されたと判断する。
(3)体表面の血流の変化率、変化率の部位による差の経時的な変化を測定
治療により、体表面の各部位の血流は改善するため、血流の変化率はプラスとなる。しかし、老廃物が全て除去された場合は、それ以上血流は増加しないため、変化率は0に近くなると思われる。また、血流の変化率の、部位による違いも、先に述べた理由から徐々に小さくなり、最終的に0に近くなる。その場合には、老廃物が全て除去されたと判断する。
(4)治療前後の皮膚の透過度の測定
治療が行われ、老廃物が、皮膚表面から排泄された場合、排泄された老廃物により、皮膚の透過度が減少すると予想される。したがって、治療前後の皮膚の透過度をセンサ130で測定することにより、老廃物の排泄の状況を知ることができる。ここで、治療の前後で皮膚の透過度に変化が無くなった時点で、老廃物が全て除去されたと判断する。
【0140】
ポンプ振動圧制御部20の各部は、これら(1)〜(4)の項目を総合的に判断して、治療効果の判定、治療終了の時期の判定等を行う。
なお、制御部200は、これらの結果を全て記憶部220にデータベース化する。これにより、同一の患者について、より正確に判断できるようになる。さらに、制御部200は、このデータベースを基に、どの程度の付加を加えて、どの程度の期間で治療を行うかといった、個別のケースについても適切な治療計画をたてることができる。
また、制御部200は、例えば感染症の治療の効果判定の際は、血中のウイルス量の測定値などの臨床データ等も参考にして治療の調整を行うことが可能である。
【0141】
以上のように構成することで、本実施形態の治療装置Zは、音波を用いる第1の実施の形態に係る治療装置Xや液流を用いる第2の実施の形態に係る治療装置Yに比べて装置を簡便にでき、コストを低減する効果が得られる。
また、液体106を用いるので、音波に比べて振動圧を大きくすることができ、治療効果も高めることができる。また、患者を治療装置Yのシート153等内に入らせる必用もないため、簡便に治療を行うことができる。
【0142】
なお、振動圧付加手段として、機械的な手段を用いることも可能である。たとえば、機械的なアームや低周波マッサージ機等を、震動付加ユニット102−1〜102−nと同様に複数、患者の体表面を取り囲むよう配置し、当該振動プレートをくまなく体表面に接触させ、任意の体表面に任意に強さの振動を加えることができる。これらの振動プレートとしては、例えば、公知の叩き式マッサージ装置の振動プレートの振動運動を利用することができる(例えば、特開平10−216191を参照)。
なお、この振動プレートも小型化したものを多数用いて、治療効果を高められる。さらに、体表面への負担を軽減するため、振動プレートの体表面と接触する部位に、ゲル状物質(ゼリー状物質)等の衝撃吸収素材を取り付けることもできる。
このように構成することで、装置を簡便に構成することができる。しかしながら、単純に振動手段を多数備えると体表面への侵襲が大きい。このため、振動プレートを小型化して数を多くし、振動の強さを微調整できるようにすることが好適である。また、他の手段と組み合わせて治療を行うこともできる。
【0143】
次に、本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0144】
(実験方法)
第1の実施の形態に係る治療装置Xと同様に、音圧による振動圧の付加を行った。
具体的には、通常の大気圧下(1011hPa)、および高度640mの気圧下(938hPa)において、スピーカーを用いて、体表面に音圧による振動圧を加えた。(i)安静時、(ii)振動圧付加時、及び(iii)付加後の安静時の血圧、脈拍をそれぞれ測定した。また、振動圧付加による、体の凝りの改善の程度について、通常の大気圧下、および高度640mの気圧下それぞれで評価した。
スピーカーはONKYOのD−77MRX(定格インピーダンス6Ω、最大入力150W、定格感度レベル90dB/W/m、定格周波数範囲30〜60kHz)を用い、アンプはpioneer A−636を用い、ラウドネス機能を使い、ボリュームは40dBに固定した。音源として、重低音効果音CD(JUST BOOM TRAX、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社製)を用い、disc2、Track35の重低音の断続音を用いた。
音圧の照射部位は左頚部で、実験の際は、強い凝りの自覚があった。照射部位は、通常の大気圧下、および高度640mの気圧下で、それぞれ同じ部位になるよう調整した。
血圧及び脈拍の測定は、家庭用の血圧計(HEM−7251G、オムロン ヘルスケア株式会社製)を用いて、約1分毎に行った。
高度、気圧はデジタル気圧計(REGULUS BR−88exx、株式会社三王製)で測定した。
測定結果を下記の表1に示す。
【0145】
【表1】

【0146】
(結果)
通常の大気圧下で振動圧を加えた際は、安静時に比べ、血圧、脈拍に大きな違いはみられず、凝りの自覚症状にも大きな変化は見られなかった。
一方、高度640mの気圧下では、安静時に比べ、振動圧付加時に、脈拍には大きな変化が認められなかったにもかかわらず、血圧が上昇し、振動圧付加により凝りの自覚症状が軽減した。
これは、振動圧付加により、循環器系の働きが高められ、老廃物の排泄機能の亢進により、凝りの自覚が軽減したのではないかと推測される。
【実施例2】
【0147】
(実験方法)
通常の大気圧下(1000hPa)、又は高度740mの気圧下(927hPa)で、家庭用電気マッサージ器を用いて、体表面に振動圧を加えた。
(i)安静時、(ii)振動圧付加時、及び(iii)付加後の安静時の血圧、脈拍をそれぞれ測定した。また、振動圧付加による、体の凝りの改善の程度について、通常の大気圧下、および高度740mの気圧下、それぞれで評価した。
マッサージ器は、ハンディータイプの、マッサージヘッドが振動するタイプの家庭用電気マッサージ器(Tappie、スライブ社製)を使用。振動回数は、low(約2700回/分)を用いた。
マッサージ器のマッサージヘッドは、左頚部にあてた。同部位には、実験の際、強い凝りの自覚があった。あてる部位は、通常の大気圧下、及び高度640mの気圧下で、それぞれ同じ部位になるよう調整した。
血圧及び脈拍の測定は、家庭用の血圧計(HEM−7251G、オムロン ヘルスケア株式会社製)で、約1分毎に行った。
高度、気圧はデジタル気圧計(REGULUS BR−88ex、株式会社三王製)で測定した。
測定結果を下記の表2に示す。
【0148】
【表2】

【0149】
(結果)
通常の大気圧下で振動圧を加えた際は、安静時に比べ、血圧、脈拍に大きな違いはみられなかったが、凝りの自覚症状はわずかに改善した。
高度740mの気圧下では、安静時に比べ、振動圧付加時に、血圧が上昇し、凝りの自覚症状が大いに軽減した。脈拍の上昇はわずかであった。
したがって、低気圧下でのマッサージ器による振動圧付加によっても、明らかな治療効果が認められた。
【0150】
なお、実施例1、2では、身体への悪影響を避けるため、実験を通してバイタルチェック等を頻回に行った。また、低気圧下での体表面への振動圧付加は、なるべく短時間にとどめたものの、客観的に把握可能な程度の効果が得られた。
しかしながら、医師や療法士等の操作者の立ち会いのない、安全性が確立されていない状態で低気圧下での体への長時間の振動圧付加等を行うと、予期しない事態を招く恐れがあるため、これを行ってはならない。
【0151】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0152】
10、11、12 気密室
15 ホース
20 ポンプ振動圧制御部
100−1〜100−n スピーカー/センサ
101−1〜101−n 液圧付加ユニット
102−1〜102−n 振動付加ユニット
105 ヘッド部
106 液体
110 エキサイタ
120 温度調整部
125 通路
130 センサ
140 保持部
150、151 寝台
153 シート
154 チューブ
155 体重センサ
160 ヒンジ
190 気圧センサ
200 制御部
210 電源部
220 記憶部
230 I/O部
240 表示部
251 振動圧調整部
253 気圧調整部
255 組織硬化度計算部
257 血流分布計算部
260 入力部
290 真空ポンプ部
295 滅菌部
500 皮膚
600 心臓
610、620 血圧
710、730 気圧
720 水圧
740 差分圧力
750 振動圧
800、810、820、830 モニター
X、Y 治療装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者を疲労回復させるための治療装置であって、
前記被験者に振動圧を付加する複数の振動圧付加手段と、
前記被験者を大気圧より陰圧にした状態にする陰圧化手段とを備える
ことを特徴とする治療装置。
【請求項2】
複数の前記振動圧付加手段の振動圧の出力の分布を調整する調整手段を備え、
前記調整手段は、身体の複数の部位に同時に同じ程度の振動圧がかかるように、それぞれの前記振動圧付加手段を調整する
ことを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記被験者の脈拍や血圧を検知するセンサ手段を更に備える
ことを特徴とする請求項2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記調整手段は、前記センサ手段で検知した値を基に、前記陰圧や前記振動圧の出力を調節する
ことを特徴とする請求項3に記載の治療装置。
【請求項5】
前記センサ手段は、
前記被験者の体表面の温度、血流量、及び硬度のいずれかを含む前記被験者の体表面の状態を検知する
ことを特徴とする請求項4に記載の治療装置。
【請求項6】
前記センサ手段は、
前記被験者の位置を3次元的に把握するための複数のサーモメーターを備える
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の治療装置。
【請求項7】
前記センサ手段は、
前記被験者の体表面からのマイクロ波の反射を検知し、前記被験者の体表面の硬度を計測する
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項8】
リアルタイムでそれぞれの前記センサ手段の出力を描画するモニター手段を備える
ことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項9】
前記被験者を仰向け又は俯せで載置するメッシュ状の寝台を更に備え、
前記振動圧付加手段を前記被験者を周りを取り囲むように複数配置する
ことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項10】
前記調整手段は、
複数の前記サーモメーターの情報を解析することにより前記被験者の体表面の動きを捉え、前記振動圧を加えた際の前記被験者の体表面の動きから、前記被験者の体表面の硬度を測定する
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項11】
前記調整手段は、
治療毎に治療中の前記被験者の血圧、脈拍を含むバイタルサインの推移を含むデータを蓄積し、該データをデータベース化し、前記被験者に対応する設定を行う
ことを特徴とする請求項2乃至10のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項12】
前記振動圧付加手段は、
前記被験者に音波を当てる音波発生手段である
ことを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項13】
前記調整手段は、
アクティブ・ノイズ・コントローラを用いて、
音波の位相を打ち消したり、逆に重ね合わせて増強したりすることにより音波の強さの違いを強調し、又は
前記被験者に付加した音波、又は付加された後の音波の反響を含むアーチファクトを除去するよう音波の出力を調整する
ことを特徴とする請求項12に記載の治療装置。
【請求項14】
前記センサ手段は、非接触で前記被験者の検知を行う
ことを特徴とする請求項3乃至13のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項15】
前記振動圧付加手段は、
前記被験者に向けて液体を噴射する液圧付加手段である
ことを特徴とする請求項2乃至11のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項16】
前記調整手段は、
前記液体の出力を調整し、断続的に液圧による振動圧が加わるように調整する
ことを特徴とする請求項15に記載の治療装置。
【請求項17】
前記被験者の体表面の少なくとも一部を取り囲む柔軟なシートを備え、
前記液圧付加手段は、
前記シートの外側から前記被験者の体表面に向かい液体を断続的に噴射し、前記被験者の体表面に振動圧を加える
ことを特徴とする請求項15又は16に記載の治療装置。
【請求項18】
前記センサ手段は、
前記シートの位置提示手段の位置を読み取って、前記シートの形状や変形位置を測定し、前記被験者の体表面の状態を検知する
ことを特徴とする請求項17に記載の治療装置。
【請求項19】
各治療ごとに装置内を滅菌する滅菌手段を備える
ことを特徴とする請求項1乃至18のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項20】
被験者を疲労回復させるための治療方法であって、
陰圧化手段により、前記被験者を大気圧より陰圧の状態にし、
複数の振動圧付加手段により、前記被験者に振動圧を付加する
ことを特徴とする治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−106940(P2013−106940A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232723(P2012−232723)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【出願人】(511258330)
【Fターム(参考)】