説明

治療装置

【課題】紫外線レーザを用いるタイプのX線発生装置において、X線の発生の安定化を図る。
【解決手段】紫外線レーザ発生装置51から放出される紫外線レーザを電子線放出素子20の紫外線レーザ受光面21に照射し、電子線放出素子20において紫外線レーザ受光面21と異なる電子線放出面23から放出される電子線を金属片25へ照射し、該金属片25からX線を発生させるX線発生方法において、紫外線レーザを制御して紫外線レーザ受光面21の物質の変性を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
省スペース、省エネルギー、可搬性及びX線による被爆量を最小化すること等の要請からX線発生装置を小型化する開発が進められている。
X線発生装置は、電子源から放出された電子線を、高電位発生源によって生成した高電界により高エネルギーに加速し、その電子線を金属片へ照射させ、この金属片からX線を放出させる構造が一般的である。
例えば特許文献1に記載のX線発生装置では、電子源として、電界放射型カーボンナノチューブカソードを用いた小型X線管及びこのX線管へ高電圧超短パルスを印可するための高電位発生源および高周波同軸ケーブルが利用されている。
また、ペルチェ素子により焦電体を加熱して焦電体から放出される電子を銅片へ照射し、銅片からX線を放出するタイプのX線発生装置も提案されている(非特許文献1)
本件発明に関連する技術として非特許文献2〜4も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3090910号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Published online 31 January 2005 in Wiley InterScience. DOI: 10.1002/xrs.800
【非特許文献2】焦電結晶とレーザー光を用いたX線源の開発、第44回X線分析討論会、2008年10月18日、P21
【非特許文献3】Nd:YAGレーザー誘起によるLi批03結晶からの電子放出 第57回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(2010)
【非特許文献4】Electron emission form LiNO3 crystal excited by ultraviolet laser, J. Vac. Sci. Technol. B 28(2), Mar/Apr 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のX線発生装置はいずれも小型化の要請を達成するものであるが、本発明者の検討によれば、下記の課題が存在する。
小型X線発生装置の一つの用途として、これを体内へ挿入してガン細胞へ直線X線を照射して行うガン治療がある。かかる見地から電界放射型カーボンナノチューブカソードを用いるタイプを検討すると、このタイプではカソードへ高電圧の印加が必要なので、たとえ絶縁性の同軸ケーブルを用いるとしても、治療現場での使用に抵抗感がある。
また、焦電体を用いるタイプではペルチェ素子の上に焦電体が載置され、このペルチェ素子で焦電体を加熱して当該焦電体から電子を放出させている。したがって、ペルチェ素子へ印加する電圧に高電圧を必要としない。しかしながら、昇温状態の焦電体からは冷却時にも電子の放出が継続するので、X線発生のオン・オフ制御が困難になる。電子非放出の状態まで焦電体全体を完全に冷却するのには時間を要するからである。
非特許文献3及び非特許文献4に開示の方法においても安定して、例えばガン治療用として充分な強度のX線を放出させることは困難であった。
【0006】
本発明者は先の出願(PCT/JP2010/002489)において焦電体へ紫外線レーザを照射することにより焦電体から電子線を放出させる方式の新規なX線発生装置を提案している。
本発明者は当該X線発生装置につき更に検討を重ね、X線の発生の安定化を図ってきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は紫外線レーザを用いるタイプのX線発生装置において、X線の発生の安定化を図ることを一つの目的とする。
本発明者は紫外線レーザを焦電体へ照射したとき焦電体において紫外線レーザの受光面が変色することに着目した。この変色の原因として焦電体自体の材料の変性ないし脱離、若しくは焦電体雰囲気の気体粒子の変性吸着等が考えられるが、何れにしても焦電体の紫外線レーザ受光面において紫外線レーザのエネルギーを吸収して変成した物質はイオン化されやすく、焦電体の紫外線受光面の電位が不安定となる。その結果、焦電体において紫外線受光面と反対側の面、即ち電子線放出面の電位も不安定になるのではないかと考えた。
【0008】
そこで本発明者は焦電体の受光面において紫外線レーザによる物質の変性を防止することにより紫外線レーザ受光面(第1の面)における電位を安定化させてみたところ、電子線が安定して放出され、その結果、安定してかつ強い強度のX線発生を観察できた。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
紫外線レーザ発生装置と、
外紫外線レーザ発生装置から放出される紫外線レーザを受光する紫外線レーザ受光面と、電子線放出面とを備え、前記紫外線レーザ受光面と前記電子線放出面とを異なる面とする電子線放出素子と、
前記紫外線レーザ受光面の物質が前記紫外線レーザにより変性することを防止する変性防止手段と、を備えてなるX線発生装置。
【0009】
このように規定される第1の局面のX線発生装置によれば、例えば焦電体のような電子線発生素子(以下、単に素子ということがある)へ紫外線レーザを照射してもその紫外線レーザ受光面において物質変化が何ら生じない、即ち物質のイオン化が生じないので、素子における当該紫外線レーザ受光面の電位が安定する(ゼロ電位ではない)。その結果、素子の電子線放出面の電位も安定し、もって当該電子線放出面から安定して電子線が放出されることとなる。この電子線は金属片へ照射され、金属片からX線が放出される。
【0010】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、第1の局面に規定のX線発生装置において、前記変性防止手段は紫外線レーザの単位パルス強度を1,000μジュール以下とし、単位パルスの幅を100ns以下とする紫外線レーザ照射制御装置を備える。
【0011】
本発明者の検討によれば、紫外線レーザの単位パルスの強度を比較的低くすることにより素子の紫外線レーザ受光面において物質が変性する(イオン化する)ことを防止できる。その一方で、紫外線レーザの単位パルスの幅を100ns以下とし、単位パルスの強度を低くおさえつつ単位時間あたりに加える紫外線レーザのエネルギーの総量を充分な大きさに確保している。
ここにおいて単位パルスの強度は紫外線レーザ受光面に存在すると考えられる物質(素子の構成物質及び受光面周囲の気体物質)が変性しない強さとし、単位時間あたりに加える紫外線レーザのエネルギーの総量は素子の電子線放出面から電子線を放出させるのに充分な量とする。
紫外線レーザの単位パルスの強度及び単位時間あたりに加えるべき紫外線レーザのエネルギーの総量は、素子の材料及び/又はその雰囲気に応じて適宜設定可能であるが、例えば紫外線レーザの単位パルス強度を1,000μジュール以下とし、かつ単位パルスの幅を100ns以下とすることが好ましい。それぞれの下限は紫外線レーザの波長および単位時間当たりに加えられる発振周波数およびエネルギー総量により制限される。
【0012】
この発明に用いられる素子は、焦電体としてのLiNbO単結晶やLiTaO単結晶等を挙げることができる。その他PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)等の強誘電体の物質を用いることができる。本発明者の検討によれば、このように制御した紫外線レーザを素子へ照射しても、原理的には素子の温度はほとんど変わらない。なお、照射の位置ズレ等により素子が昇温することがあったが、そうするとX線の放出量が低下した。
その場合、(1)紫外線レーザの照射を停止するか、単位時間当たりの照射エネルギーを低下させる、及び/又は(2)素子を冷却することにより、X線の放出量が回復した。なお、(2)素子の冷却方法として、低温物質(ペルチェ素子等)を電子線放出素子に接触若しくは近接すること、冷媒を電子線放出素子の周囲に循環させること等の任意の方法を採用できる。
素子の温度を制御するため、素子の温度を計測する温度計を配設することが好ましい。
更に本発明者の検討によれば、紫外線レーザを制御することにより、素子において紫外線レーザ受光面の雰囲気は特に制限されず、大気に晒しておいてもよいことがわかった。この場合においても、素子の電子線放出面及びそれに対向する金属片は真空中に存在させる必要がある。
【0013】
紫外線レーザ受光面での物質の変性が顕著な素子を使用した場合、紫外線レーザに対して安定であり、かつ紫外線レーザを透過させる保護膜で当該紫外線レーザ受光面を気密に被覆することが好ましい。かかる保護膜として、使用する紫外線波長に対しての吸収が限りなく少ない材料を使用する事が大切である。これは紫外線を吸収する事による素子の昇温を防止する事となる。例えばYAGレーザの4倍波である266nm波長の紫外線を使用する場合には、合成石英ガラス、フッ化マグネシウム等の90%以上を透過する無機材料を用いることが好ましい。この保護膜を使用する場合は、紫外線吸収が僅かではあるが存在するため、冷却機能を設置する事が望ましい。また保護膜には導電性を持つもの、または絶縁体でも誘電体のように誘電分極するものであるものが望ましい。また保護膜の厚さがnm以下であれば、導電性材を僅かでも接触させる事が必要となる。この際、導電性材自体は他の導体に接触させる事は避けることが望ましい。この処置は、導体の持つ抵抗率により必要性の度合いが異なるが、なるべく接触させない方が望ましい。即ち、電気的にはアースから絶縁される状況を作り出す事が必要である。これは、素子の持つ自発分極の電荷を外部より補償するための電荷の移動が容易にかつ迅速に行われる事を促進する必要なためである。また導体によるアース線を経由した外部擾乱により起こる急激な温度変化を防ぐ事にもなる。
【0014】
紫外線レーザ発生装置として、例えばYAGレーザ発振機を用いることができる。この紫外線発振機で発生された紫外線を紫外線用の光ファイバの一端へ導入し、光ファイバの他端を素子の紫外線レーザ受光面へ対向する。III族窒化物系化合物半導体からなる紫外線発生レーザダイオード若しくは発光ダイオードを用いることもできる。より高出力が必要な場合はエキシマレーザ発信機を用いることが好ましい。
【0015】
紫外線レーザの波長は300nm以下とすることが好ましい。かかる短波長の紫外線はその殆どが焦電体最表面に吸収されるので高いエネルギー変換効率を確保できるからである。紫外線レーザの波長は使用する電子線放出素子の持つバンドギャップエネルギーよりも大きなエネルギーを持つ波長とする。電子線放出素子の紫外線レーザ受光面の全面に対し均等な強度で紫外線レーザを照射することが好ましい。エネルギーの集中による物質の変性を防止するためである。
【0016】
紫外線レーザは、電子線放出素子において金属片と対向する面と反対側の面へ照射することが好ましい。
これにより、金属片、電子線放出素子及び紫外線発生部を直列に配置可能となり、装置の組みつけが容易になる。
棒状の焦電体を電子放出素子として用いるとき、棒状体の一端を金属片へ対向させ、その他端へ紫外線レーザを照射する。
電子線放出素子において金属片と対向する面(電子放出面)に微細加工を施してその表面に突起を形成し、電子放出の促進を図ることができる。
金属片には銅若しくは銅合金の薄板を採用することができる。勿論、照射された電子に対応してX線を放出できれば銅以外の金属、例えばアルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いることができる。
【0017】
電子線放出素子を支持する部材は、電子線放出に影響を与えないものであれば任意に選択できる。例えば、電子線放出素子の側面(紫外線レーザ受光面、電子線放出面以外の面)を絶縁体で支持することが可能である。また、紫外線レーザ受光面を導電性支持部材へ片もちの状態で固定してもよい。この場合、導電性支持部材は電気的に浮遊させること(アースしないこと)が好ましい。かかる構成を採用することにより、装置の構成が簡素化され、小型軽量化の要請に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態のX線発生装置の構造を示すブロック図である。
【図2】他の実施の形態のX線発生装置の構造を示すブロック図である。
【図3】実施の形態のエネルギー変換システムを示すブロック図である。
【図4】実施例のX線発生装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施例のX線発生装置の出力チャートである。
【図6】同じく他の出力チャートである。
【図7】異なる焦電体を用いたときの出力チャートである。
【図8】同じく他の出力チャートである。
【図9】チャンバ内の詳細を示す断面図である。
【図10】SUS板の各接続状態におけるX線の出力状態を示すチャートである。
【図11】SUS板に対する焦電体の接続態様、X線の出力チャート及び温度変化を示す。
【図12】SUS板に対する焦電体の他の接続態様、X線の出力チャート及び温度変化を示す。
【図13】SUS板に対する焦電体の他の接続態様、X線の出力チャート及び温度変化を示す。
【図14】SUS板に対する焦電体の他の接続態様、X線の出力チャート及び温度変化を示す。
【図15】単位パルスがmJオーダの紫外線レーザを焦電体へ照射したときの焦電体の温度及び表面電位を測定する装置を示す。
【図16】単位パルスがμJオーダの紫外線レーザを焦電体へ照射したときの焦電体の温度及び表面電位を測定する装置を示す。
【図17】加熱・放冷された焦電体の表面電位を示す。
【図18】加熱・放冷された焦電体へmJオーダの紫外線レーザを照射したときの焦電体の紫外線レーザ受光面の表面電位を示す。
【図19】加熱・放冷された焦電体へmJオーダの紫外線レーザを照射したときの焦電体の電子線放出面の表面電位を示す。
【図20】加熱・放冷された焦電体へμJオーダの紫外線レーザを照射したときの焦電体の紫外線レーザ受光面の表面電位を示す。
【図21】加熱・放冷された焦電体へμJオーダの紫外線レーザを照射したときの焦電体の電子線放出面の表面電位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
図1は実施の形態のX線発生装置1の構造を示す模式図である。このX線発生装置1は人体の消化器官等へ挿入することに好適な構成である。
このX線発生装置1はヘッド部10、ファイバ部40及び制御部50を備えてなる。
ヘッド部10は、凹部14を備えた円筒形の筐体11を備える。筐体11の先端面の中心位置にはベリリウム製のX線透過窓13が備えられる。凹部14の底面の中心位置には紫外線を透過可能な石英ガラスからなる紫外線レーザ透過窓16が配置される、筐体11の内部は10−3〜10−4Torr程度の真空状態に維持される。
筐体11の内部には電子線放出素子としての柱状の焦電体(LiNbO単結晶)20と銅片25とが配置される。紫外線透過窓16、焦電体20、銅片25及びX線透過窓13は同一軸線上に配置されている。
【0020】
図中の符号31は熱電対よりなる温度計、符号33はペルチェ素子、符号35はX線検出器、符号37は光学装置であり、それぞれライン32、34、36、38でコネクタ39につながれている。各ラインは必要に応じて電源線及び信号線を含むものとする。光学装置37は光源及びカメラを備え、筐体11から表出しているものとする。この光源としてLED光源を、カメラとしてCCDをそれぞれ用いることができる。この光学装置37によりヘッド部10を人体の消化器官へ挿入したときに、挿入先の様子を目視で観察可能となる。
コネクタ39は筐体11の凹部14に設けられ、ファイバ部40のコネクト45と接続される。
【0021】
ファイバ部40は胃カメラ等のファイバ部として汎用されるファイバ本体41に光ファイバ43とライン46とを挿通したものである。光ファイバ43は紫外線用のものとし、例えばコア部には石英ガラスを用いることができる。ライン46は電源線と信号線を含むものとする。
ファイバ部40の先端はヘッド部10の凹部14へ嵌合し、両者はガスケット48でシールされる。
【0022】
制御部50は紫外線レーザ発生装置51及びそのドライバ52、並びにヘッド部10内の電気機器31、33、35、37及び39を制御するコントローラ53を備える。符号55はドライバ52及びコントローラ53を制御する制御装置である。
紫外線レーザ発生装置51の光放出部はファイバ部40の基端の光ファイバ43に対向し、この光ファイバ43へ紫外線レーザを入射する。
紫外線レーザ発生装置51としてはYAGパルスレーザ発信機を用いることができ、ドライバ52によりその出力が制限されている。紫外線レーザの波長は電子線放出素子20を活性化(即ち、当該素子20から電子線を放出させること)が可能であれば特に制限されるものではないが、電子線放出素子20の透過波長より短いことが好ましい。
【0023】
紫外線レーザの照射により電子線放出素子20が昇温することがあるので、この例ではペルチェ素子33を電子線放出素子20の近傍に配置し、このペルチェ素子33を冷却することにより、電子線放出素子20を冷却する。冷却効率を上げるために、絶縁体を介して電子線放出素子20へペルチェ素子33を接触させてもよい。
コントローラ53は、予め定められたプログラムに基づき、電子線放出素子20の温度が所定の温度を超えたとき、ペルチェ素子33へ通電してこれを冷却し、もって電子線放出素子20を冷却することができる。電子線放出素子20の温度が所定の温度まで冷却されたら、ペルチェ素子33に対する通電を停止する。
筐体11内へ冷媒を通す熱交換器を内蔵させ、ファイバ部40を介して冷媒を循環させることにより同様の制御を行なうことができる。
【0024】
X線検出器35が銅片25と紫外線窓13との間に配置される。このX線検出器35の出力はコントローラ53によりモニタされる。X線の放射量が、その予定量より所定の閾値を超えて、大きいときにコントローラ53は信号を制御装置55へ送り、制御装置55はドライバ52へ制御信号を送る。これにより、ドライバ52は紫外線レーザ発生装置51のシャッタを起動させて紫外線レーザ51の放出を止め、また紫外線レーザの出力を低下させる。
X線の放射量がその予定量より閾値を超えて大きいときとは、X線の放射量が予め定められた放射量(閾値)を超えたときの他、X線が本来放出されない場合にたとえ微量でもX線の放出が観察されたときを含むものとする。
【0025】
図2には、他の例のX線発生装置60を示す。なお、図1と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
図2の例では、ヘッド部61において電子線発生素子20の紫外線レーザ受光面21が筐体11から外部へ突出している。このように電子線発生装置20の紫外線レーザ受光面21を大気中に晒しても、図1の例と同様にX線の発生を確認できる。
この例のように紫外線レーザ受光面21を筐体11から外部へ突出させることにより、繰返し使用時に受光面21のクリーンアップを容易に行えるので、ヘッド部60の寿命が向上する。
【0026】
上記の各例において、制御された紫外線レーザを焦電体20へ照射し、焦電体20から電子線を放出させる構成は新規な電子線放出装置を構成する。
この発明において焦電体へ制御された紫外線レーザを照射することにより、焦電体から電子線が放出される原理は現在確認中であるが、少なくも、紫外線レーザの照射を制御することにより、紫外線レーザ受光面が何ら変色していない。即ち、当該受光面の物質は何ら変性していないか、変性していてもその量が極めて少ない。これにより、当該受光面の電位が安定し、もって電子線放射面の電位も安定する。安定した電子線を受けた銅片からは安定したX線が放出される。
【0027】
紫外線レーザ受光面における物質の変性を防止するために、当該受光面を保護膜で被覆することが考えられる。この保護膜は紫外線レーザを透過させ、かつ紫外線レーザに対して安定したものとする。また、保護膜は受光面に気密に密着させる。両者の間に紫外線で変性しやすい物質が存在することを避けるためである。
かかる保護膜としてフッ化マグネシウム等の無機材料を挙げることができる。また、焦電体において受光面近傍の周壁も保護膜を被着させることが好ましい。
【0028】
電子放出素子20へ制御された紫外線レーザを照射すると、当該電子線放出素子から電子線が安定して放出されるとき、電子線放出素子の電子線放出面には高電位が生じている。換言すれば電子線放出素子は電子銃であるとともに、高電位発生素子でもある。電子線放出素子に生じたこの高電位を他のエネルギ(熱、光等)や信号に変換することができる。
図3にはそのためのシステムの構成は示す。
図3において図1と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。図3において符号70は電圧を他のエネルギに変換する変換器であり、符号71は電圧を信号に変換する変換器である。これらの変換器70、71は電子線放出素子20の電子線放出面23に接続される。電子線放出面23には導電体膜76を被覆することが好ましい。
他方、電子線放出素子の紫外線レーザ受光面21は当該面の変性を防止するための保護膜75で保護することが好ましい。
【実施例】
【0029】
次にこの発明の実施例について説明する。
図4は実施例のX線発生装置100の構成を示す模式図である。
即ち、このX線発生装置100はチャンバ101内に電子線放出素子として焦電体(LiNbO)103と銅箔104を配置する。チャンバ101はロータリー真空ポンプ105により5×10−4Torrまで減圧されている。チャンバ101は紫外線レーザを導入するための石英窓107とX線を放出するためのベリリウム窓108とを備える。
紫外線レーザ発生装置としてYAGレーザ装置110を用い、YAGレーザ装置110から放出されたレーザ光はレンズ113により拡散されて焦電体103の端面では断面積が直径5mmの円形となる。
ベリリウム窓108を透過したX線はGM計数管115によりその強度が測定される。
YAGレーザの照射強さを1600mW、30kHzの矩形パルスとしたとき、図5に示すようにX線の発生を観測できた。図5において縦軸がGM計数管のカウント数である。
【0030】
図5の実験ではYAGレーザを連続的に照射している。これに対し、YAGレーザ光を断続的に照射したときの結果を図6に示す。図6より、紫外光のオン・オフに、X線の発生・停止が同期していることがわかる。
【0031】
図7、図8は、図4に示す装置において、電子線放出素子としてLiTaOを用いたときのX線の出力結果を示す。
焦電係数が大きいほど発生電圧が大きくなるので、LiTaOはLiNbOより低いパワーでの照射が有効になる。
なお、焦電係数はキューリー点直前の温度で最大となる。
なお、LiTaOはLiNbOの各キューリー点は690℃、1200である。
【0032】
図9は実施例のX線発生装置1のチャンバ101内の詳細構成図である。なお、図4と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
この例では一対のSUS板200にそれぞれ貫通孔201、202をあけておいて、紫外線照射側のSUS板200の貫通孔201の周縁部へ焦電体103の紫外線レーザ受光面を、導電性材料を介して、固定する。X線放出側のSUS板200の貫通孔202の周縁部に銅箔104が固定される。一対のSUS板200、200はポリカーボネートからなる絶縁ネジで固定される。
【0033】
(1)紫外線照射側のSUS板200をアースした場合、X線の発生は見られなかった。同様に、(2)紫外線照射側のSUS板200をチャンバ101へ接触させ、チャンバ101を介してアースした場合もX線の発生はみられなかった。
(3)他方、紫外線照射側のSUS板200をアースしなかったときにはX線の発生がみられた。
【0034】
上記(3)のように紫外線照射側のSUS板200をアースしない状態において、当該SUS板200に対する電子線発生素子103の取り付け態様とX線発生効果を図11〜図14に示す。なお、図11〜図14において図9と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
図11の例では(A)に示す通り、SUS板200に対して、合成石英ガラス301及び導電性両面テープ301を介して電子線発生素子103が取り付けられている。この例では、図(B)に示すように、X線の発生が確認できた。図(C)は素子103の温度変化である。
なお、紫外線レーザ照射からX線発生まで約240秒(S0=300秒)のタイムラグがあった。(B)及び(C)に示す時間S1(=1000秒)において紫外線レーザの照射を終了した。
【0035】
図12の例では(A)に示す通り、合成石英ガラス300と素子103との間に絶縁物(絶縁性両面テープ303)を介在させた。この例では、(B)及び(C)に示すように、温度上昇はみられるもののX線の発生がみとめられなかった。
図13の例では(A)に示す通り、SUS板200と合成石英ガラス300との間に絶縁性両面テープ301が介在されている。この例でも、(B)及び(C)に示すように、温度上昇はみられるもののX線の発生は認められなかった。
図14の例では導電性両面テープ301を介してSUS板200へ素子103を直接取り付けている。この例においてX線の発生が認められた((B)参照)。なお、紫外線レーザ照射からX線発生まで約240秒(S3=300秒)のタイムラグがあった。(B)及び(C)に示す時間S4(=720秒)において紫外線レーザの照射を終了した。
図11〜図14の結果より、焦電体103の支持態様として、その紫外線受光面を導電体へ、導電性の状態で、固定することが好ましいことがわかる。
図11〜図14の場合の結果より、焦電体103からの電子線放出、即ちX線発生が焦電体の昇温によるものではないこともわかる。図12、図13の場合、温度上昇はみられるもののX線の発生が検出されなかったからである。
【0036】
次に、紫外線レーザの強さについて検討した結果を図15〜図21に示す。
図15は単位パルスの強度が比較的強い紫外線レーザ(mJレーザ)を焦電体103に照射したときの表面電位と温度を測定する装置を示し、図中の符号315は温度計としての熱電対、符号318は表面電位計を示す。焦電体103の周面をセラミックスのリテーナ319で保持することにより、紫外線レーザに起因する焦電体103の温度上昇を可能な限り排除している。
図16は同じく単位パルスの強度が比較的弱い紫外線レーザ(μJレーザ)を焦電体103に照射する様子を示し、図15と同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。
図15及び図16の場合とも、紫外線レーザの単位時間のパワーは同じである(400mW)。
図15の紫外線レーザを受けた焦電体103の紫外線レーザ受光面は黒変しており、他方図16の紫外線レーザを受けた焦電体103の紫外線レーザ受光面に変色は見られなかった。
【0037】
図17は図15及び図16に用いた焦電体103の温度と紫外性レーザ受光面側の表面電位との関係を示す。図17に示す通り、焦電体103は加熱されるとその表面電位が変化する。これにより、表面の電子を放出可能となる。加熱には市販のドライアーによる熱風を利用した。
図18に示すように、図17と同一条件で焦電体103を加熱した状態で図15に示す単位パルス強度が比較的強い紫外線レーザを焦電体103に照射したときには、焦電体103の紫外線レーザ受光面側の表面電位はゼロとなった。同様に(図19参照)、電子線放出面側の表面電位もゼロであった。
この状態では電子線の放出はかなわない。
上記を換言すれば、図17と同じ加熱条件により焦電体103の表面をチャージ(焦電体の本来の機能)したにもかかわらず、図18に示す条件で紫外線レーザを照射すると、焦電体103の表面がゼロボルトになり、電子線が放出されなくなり、ひいてはX線も発生しない。
【0038】
他方、図20及び図21に示すように、図17と同一条件で焦電体103を加熱した状態で図16に示す単位パルス強度が比較的弱い紫外線レーザを焦電体103に照射したときには、焦電体103の紫外線レーザ受光面側の表面はチャージ状態となった。
図15〜図21の結果より、紫外線レーザのエネルギーが焦電体の電子線放出、ひいてはX線の発生に影響することがわかる。
紫外線レーザのエネルギーは、焦電体(電子線放出素子)の表面をチャージ状態に維持できるように適宜選択することができる。
本発明者の検討によれば、単位パルス強度を1,000μジュール以下とし、かつ単位パルスの幅を100ns以下とすることが好ましい。
また、単位パルスの強度が1〜100mJであっても、単位パルス幅をpsecまたはfsecとするか、または冷却効果を十分に与える事で焦電体表面の変性を防ぎ、当該表面のチャージ状態を確保できる。ただしmJのパルスエネルギーでは、現在の光ファイバで伝送する事は難しいため、実用的では無い。
【0039】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1、60、100、110 X線発生装置
10 ヘッド部
11 筐体
13 X線透過窓
16 紫外線レーザ透過窓
20、103 電子線放出素子
21 紫外線レーザ受光面
23 電子線放出面
25,104 金属片
41 ファイバ部
43 光ファイバ
51 紫外線レーザ発振機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位パルス強度を1000μジュール以下とし、単位パルスの幅を100ns以下とした紫外線レーザを発生する紫外線レーザ発生装置と、
前記紫外線レーザを伝搬させる光ファイバを備えたファイバ部と、
前記光ファイバから放出される紫外線レーザを受光する紫外線レーザ受光面と、電子線放出面とを備え、前記紫外線レーザ受光面と前記電子線放出面とを異なる面とする電子線放出素子と、前記電子線放出面より放出された電子線を受けてX線を放出する金属片と、を有するヘッド部と、
を備えてなる治療装置。
【請求項2】
前記電子線放出素子の前記紫外線レーザ受光面は大気雰囲気中に存在する、ことを特徴とする請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記電子線放出素子の温度を検出する温度計と、
前記電子放出素子を冷却する冷却装置と、を備え、
前記温度計による検出結果に基づき前記冷却装置を作動させて前記電子線放出素子の温度を調整する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記金属片から放出される前記X線を検出するX線検出器と、
前記紫外線発生装置の出力を停止する紫外線レーザ遮断装置と、を備え、
前記X線検出器により予定外のX線が検出されたとき、前記紫外線レーザ遮断装置は前記紫外線レーザ発生装置からの前記紫外線レーザの放出をストップする、ことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の治療装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−33450(P2012−33450A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179647(P2010−179647)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(506095674)有限会社アドテックセンシングリサーチ (6)
【Fターム(参考)】