説明

治療計画装置及び治療計画装置の治療計画を用いた粒子線治療装置

【課題】粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することを目的としたものである。
【解決手段】荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34と、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4とを備えた粒子線治療装置に対する治療計画を作成する治療計画装置であって、荷電粒子ビーム1が照射される照射対象40のディスタル形状に応じて柱状の照射野44を配置するとともに、照射対象40の内側に柱状の照射野45を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野44、45が敷き詰められた状態を初期状態として、照射対象40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野44、45の配置を調整する最適化計算部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素等の重粒子線や陽子線に代表される荷電粒子線を、癌等の患部に照射し治療を行う医療装置(以下「粒子線治療装置」)において用いられる治療計画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線治療装置に先行して開発された医療装置であるX線等放射線を用いて治療を行う医療装置においては、多方向から強度を調整した放射線を照射することにより患部を均等に高線量で治療し、周辺組織の被曝を軽減するものが提案されている。ここで、患部に対して多方向から照射することを、多門照射という。
【0003】
多門照射にはいくつかの手法が提案されており、シーメンスを中心としたstep and shootを行うIMRT (Intensity-Modulated Radiotherapy、強度変調放射線治療)(非特許文献1、非特許文献2)及びELEKTAを中心としたIMAT(Intensity-Modulated Ark Therapy)(非特許文献3)などが挙げられる。
【0004】
照射方向毎にX線の強度分布の空間パターンを変化させて患部だけに高い吸収線量を与えるコンペンセータを複数個備え、照射方向毎に自動でコンペンセータを変更して多門照射を行う放射線照射装置が特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−37214号公報(図17〜図21)
【非特許文献1】Chui CS, SpirouSV. Inverse planning algorithms for external beam radiation therapy. Med Dosim 2001;26(2):189-197
【非特許文献2】Keller-ReichenbecherMA, Bortfeld T, Levegrun S, et al. Intensity modulation with the "step and shoot" technique using a commercial MLC: a planning study. Multileafcollimator. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1999;45(5):1315-1324.
【非特許文献3】Yu CX. Intensity-modulated arc therapy with dynamic multileaf collimation: an alternative to tomotherapy. Phys Med Biol. 1995;40(9):1435-1449.
【非特許文献4】強度変調放射線治療に関する緊急声明. JASTRO NEWSLETTER 2002;63(3):4-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線等放射線治療装置においてIMRTは、頭頸部や前立腺などについて数多くの臨床応用がなされ、優れた成績をあげている反面、過照射等の問題も指摘されている。非特許文献4によれば、IMRTは治療計画内容によっては、一回線量や総線量を意識して増加するかしないかにかわらず、結果的に過照射による正常組織の有害事象をもたらしたり、逆に保守的になり、過少線量照射による不十分な治療効果の危険性が生じたりすると警告している。
【0007】
この過照射の原因のひとつは、照射自由度不足によるものと考えられる。非特許文献1乃至非特許文献4に示されたX線等放射線治療装置によるIMRTの最終的な照射野は、(1)照射エネルギー、(2)照射角度、(3)マルチリーフコリメータ(以下「MLC」)等による横方向の照射野制限および(4)照射線量(重み)をパラメータとして、複数の照射を重ね合わせることにより実現する。ここに、深さ方向の照射野制限器はない。
【0008】
深さ方向の照射野制限器には、粒子線治療装置で使われるボーラスがあげられる。深さ方向における患部の変化形状は、ディスタル形状とよばれている。ボーラスは、このディスタル形状に合わせて加工されたエネルギー変調器であり、患者毎にポリエチレンまたはワックスを加工して作成する。ボーラスを備えた照射装置は、例えば特許文献1の図21に示され、照射野の形状を患部のディスタル形状に合わせることができる。
【0009】
しかし、粒子線治療装置において多門照射に1つのボーラスをそのまま適用することはできない。まず、IMRTの場合、複数の照射方向それぞれに対してボーラスを準備しなければならい。特許文献1の放射線照射装置はボーラスに相当するコンペンセータを自動で移動できるものの、ボーラスの加工の手間及び費用がかかる問題があった。また、IMATの場合はさらに難しく、刻一刻と変化する照射角度に応じてボーラスの形状を動的に変化させなければならない。現在、ボーラスではこの動的な形状変化を実現できない。
【0010】
したがって、X線等放射線治療装置におけるIMRTの技術を、従来のワブラーシステムを有する粒子線治療装置にそのまま適用しようとすると、複数のボーラスを用いなければならない問題は同様に存在する。ボーラスを用いることなく深さ方向の照射野を制限する、すなわち照射自由度を上げることができないので、ボーラスを用いずに過照射問題を解決することはできなかった。
【0011】
本発明は、これらの課題を解決することを目的としたものである。すなわち、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することを目的としたものである。より具体的には、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系と、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置とを備えた粒子線治療装置に対する治療計画を作成する治療計画装置である。荷電粒子ビームが照射される照射対象のディスタル形状に応じて柱状の照射野を配置するとともに、照射対象の内側に柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部とを有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る治療計画装置は、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じて敷き詰めて、照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図2】図1のエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図3】図1の深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図4】本発明の治療計画装置における治療計画の作成方法を示すフローチャートである。
【図5】図4のステップST1を説明する図である。
【図6】本発明の治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。
【図7】本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。
【図9】本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。
【図10】本発明の実施の形態5による粒子線治療装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
本発明の特徴である柱状スキャニング照射でのIMRTを考える。通常のスポットスキャニングの考え方は、患部を3次元的にスポットにて、あたかも点描するかのごとく照射するものである。スポットスキャニングはこのように自由度の高い照射方法であるが、反面、患部全体を照射するのに要する時間が長い。IMRTは多門照射であるから、さらに照射時間がかかってしまう。そこで、スポットよりも深さ方向へブラッグピークBP(Bragg Peak)を拡大し、柱状の照射野を生成する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。粒子線照射装置58は、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4と、荷電粒子ビーム1に垂直な方向であるX方向及びY方向に荷電粒子ビーム1を走査するX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11と、位置モニタ12a、12bと、線量モニタ13と、走査電磁石電源32と、粒子線照射装置58の照射系を制御する照射制御装置33とを備える。X方向走査電磁石10、Y方向走査電磁石11、走査電磁石電源32は、荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34である。なお、荷電粒子ビーム1の進行方向はZ方向である。柱状照射野生成装置4は、荷電粒子ビームの進む方向に向かって手前から荷電粒子ビームのエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整するエネルギー変更装置2と、荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する深さ方向照射野拡大装置3とを有する。この患部40の深さ方向、すなわち照射方向における幅を拡大したブラッグピークBPは、拡大ブラッグピークSOBP(Spread-Out Bragg Peak)と呼ばれる。ここでは、拡大ブラッグピークSOBPの照射方向における幅をSOBPの幅と呼ぶ。
【0017】
X方向走査電磁石10は荷電粒子ビーム1をX方向に走査する走査電磁石であり、Y方向走査電磁石11は荷電粒子ビーム1をY方向に走査する走査電磁石である。位置モニタ12a、12bはX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11で走査された荷電粒子ビーム1が通過する通過位置を検出する。線量モニタ13は荷電粒子ビーム1の線量を検出する。照射制御装置33は、図示しない治療計画装置で作成された治療計画データに基づいて、患部40における柱状照射野やその照射位置を制御し、線量モニタ13で測定された線量が目標線量に達すると荷電粒子ビームを停止する。走査電磁石電源32は照射制御装置33から出力されたX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11への制御入力(指令)に基づいてX方向走査電磁石10及びY方向走査電磁石11の設定電流を変化させる。
【0018】
図2はエネルギー変更装置を示す構成図である。図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。エネルギー変更装置2は、幅方向(X方向)に厚さが階段状に変化するレンジシフタ9、レンジシフタ9を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源2
0に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。
【0019】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対5、6に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石5は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石6は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石5は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石6は、軌道変更用の偏向電磁石5によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。レンジシフタ9の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石7と軌道平行用の偏向電磁石8により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用の偏向電磁石7は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石8は、軌道変更用の偏向電磁石7によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0020】
エネルギー変更装置2の動作について説明する。エネルギー変更装置2に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対5、6によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さのレンジシフタ9の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下されて所望のエネルギーになる。このようにして所望のエネルギーに変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対7、8によりエネルギー変更装置2に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。エネルギー変更装置2は、エネルギーに変更し飛程を変更する際にレンジシフタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対7、8により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0021】
図3は深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。深さ方向照射野拡大装置3は、幅方向(X方向)に異なった高さの概三角柱で構成され、すなわち異なる厚さ分布の山を複数有するように構成されたリッジフィルタ19、リッジフィルタ19を荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石15、16、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源23、リッジフィルタ19を通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石17、18、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源24、照射制御装置33から入力されるSOBP指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電源23に送信する変更制御装置25を備える。変更制御装置25は、第2の偏向電磁石電源24も制御する。
【0022】
荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上を上流側偏向電磁石対15、16に入射される。荷電粒子ビーム1の軌道は、図2の紙面の水平方向(X方向)に移動される。偏向電磁石15は軌道偏向用の偏向電磁石であり、偏向電磁石16は軌道平行用の偏向電磁石である。軌道変更用の偏向電磁石15は、入射された荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して所定の角度θだけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石16は、軌道変更用の偏向電磁石15によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸に対して平行する軌道に偏向する。リッジフィルタ19の下流側では、軌道偏向用の偏向電磁石17と軌道平行用の偏向電磁石18により荷電粒子ビーム1はビーム軸14(Z軸)上に戻される。軌道変更用の偏向電磁石17は、荷電粒子ビーム1の軌道をZ軸に対して(360度−所定の角度θ)だけ傾くように偏向する。軌道平行用の偏向電磁石18は、軌道変更用の偏向電磁石17によりZ軸に対して傾けられた軌道をZ軸上の軌道に偏向する。
【0023】
深さ方向照射野拡大装置3の動作について説明する。深さ方向照射野拡大装置3に導入された荷電粒子ビーム1は、上流側偏向電磁石対15、16によりZ軸からX方向に所定の距離離れたZ軸に平行な軌道上を進む。そして、所定の厚さ分布を有するリッジフィルタ19の部分を荷電粒子ビーム1が通過することにより、エネルギーが厚さに比例する分だけ低下され、結果として強さの変化する多種のエネルギーが混ざった粒子線ビームになる。荷電粒子ビーム1が通過するリッジフィルタ19の山の高さに応じてSOBPの幅が変更できる。このようにして所望のSOBPの幅に変更された荷電粒子ビーム1は、下流側偏向電磁石対17、18により深さ方向照射野拡大装置3に入射されたときの元の軌道の延長線上に戻される。深さ方向照射野拡大装置3は、SOBPの幅を変更する際にリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、下流側偏向電磁石対17、18により偏向される電粒子ビーム1の軌道は、ビーム軸14上に戻る場合に限らず、ビーム軸14に平行でビーム軸14の方へ戻る場合、ビーム軸14に平行でなくてもビーム軸14の方へ戻るものでもよい。
【0024】
粒子線照射装置58を回転ガントリに搭載することにより、粒子線照射装置58の照射系が患者台の回り自由に回転でき、患部40に対して多方向からの照射が可能となる。回転ガントリは粒子線照射装置58の照射系を回転させ、照射方向を回転させる。すなわち、このことにより、多門照射を行える。また、粒子線照射装置58におけるリッジフィルタ19を用いてXY方向よりもZ方向に大きく照射野を拡大するようなものとしたことにより、患部40に対して柱状の線量分布(図5参照)でビームを照射することができる。
【0025】
次に、柱状スキャニング照射でIMRTを行う方法を説明する。図4は本発明の治療計画装置における治療計画の作成方法を示すフローチャートであり、図5は図4のステップST1を説明する図であり、図6は治療計画の最適計算における初期状態を求める模式図である。図5及び図6は、4門(90度間隔)で照射する場合の例である。治療計画装置は、荷電粒子ビーム1が照射される患部(照射対象)40のディスタル形状に応じて柱状の照射野を配置するとともに、患部(照射対象)40の内側に柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、患部(照射対象)40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部を有する。
【0026】
まず、図5に示すように柱状の照射野である柱状照射野44a、44b、44c、44dを、患部40のディスタル形状に合わせて敷き詰めていく(ステップST1)。これをすべての門(照射方向)に対して行う。このとき、柱状の照射野が重なってしまってもよい。重なった部分に関しては、後ほど説明する。図5(a)は照射方向43aからの照射における患部40のディスタル形状に合わせて柱状照射野44aを敷き詰めていく例であり、図5(b)は照射方向が照射方向43bの際の柱状照射野44bを示し、図5(c)は照射方向が照射方向43cの際の柱状照射野44cを示し、図5(d)は照射方向が照射方向43dの際の柱状照射野44dを示す。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(a)のようになる。
【0027】
すべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST2)。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。残りの照射対象の領域がある場合は、残りの照射対象の領域に対して、残りの照射対象のディスタル形状に合うよう、2周目の敷き詰め作業を行う(ステップST3)。図6(b)に示すように、照射方向が照射方向43cの場合は柱状照射野45cを敷き詰めていく。このとき、2周目の柱状照射野は、1周目の柱状照射野とSOBPの幅を変えてもよい。すべての門(照射方向)で完了したときの照射野の配置例は図6(c)のようになる。図6(c)において、柱状照射野45aは照射方向が照射方向43aの場合であり、柱状照射野45bは照射方向が照射方向43bの場合であり、柱状照射野45dは照射方向が照射方向43dの場合である。
【0028】
2周目におけるすべての門(照射方向)で完了したら、残りの照射対象の領域があるかを判定する(ステップST4)。残りの照射対象の領域がある場合は、ステップST3へ移り、柱状の照射野が患部すべてを覆うように繰り返す。残りの照射対象の領域がない場合はステップST5へ移る。
【0029】
ステップST5では、柱状の照射野が敷き詰められた照射プランを初期値として最適化計算を行う。最適化計算が終了したら、評価関数により評価を行う(ステップST6)。評価関数の値が臨床的にみて許容できるものかを判定し、許容できないと判定した場合はステップST5に戻り、最適化計算を行う。評価関数の値が臨床的にみて許容できる範囲内にあれば終了する。
【0030】
ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、オーバードーズ(線量超過)を防ぐために、患部40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整する。前述した柱状の照射野が重なっている部分は、オーバードーズ(線量超過)になってしまうので、最適化作業は柱状の照射野が重なっている部分を解消、あるいは少なくするように柱状の照射野の配置を変更する。
【0031】
ステップST1〜ST4の作業は、治療計画装置の照射野配置部でまず行う。次に治療計画装置について説明する。治療計画装置については、医療安全のための放射線治療計画装置の運用マニュアル(熊谷孝三、日本放射線技師会出版会)が詳しい。治療計画装置には広範な役割があるが、簡単に言えば治療シミュレータである、といえる。また、治療計画装置の役割のひとつに最適化計算がある。ステップST5及びST6に示した治療計画の最適化作業は、治療計画装置の最適化計算部で行われる。最適化計算は、IMRTにおける逆方向治療計画(インバースプランニング)での最適なビーム強度の検索に使用される。
【0032】
前記運用マニュアルによれば、最適化計算には、現在までに次のようなものが試されたとのことである。初期のIMRT最適化計算で使用されたフィルタ逆投影法、確率論的方法に分類される擬似的な焼きなまし、遺伝的アルゴリズム、ランダム検索技術と、現在多くの治療計画装置に実装されている決定論的方法に分類される勾配法である。
【0033】
勾配法は、計算は高速であるが、局所的な最小(極小)に捕らえられると抜け出せない性質がある。しかし、現在では、勾配法が臨床IMRT治療計画を実施する多くの治療計画装置に採用されている。
【0034】
勾配法において、求める最適とは異なる別の極小値に捕らえられてしまうことを防ぐには、他の遺伝的アルゴリズムやランダム検索技術と組み合わせて使うことも有効である。他には、最適化計算の初期値(解の候補として初めに与える値)が、求める最適解に近ければよいことが経験的にわかっている。
【0035】
そこで、本発明では、ステップST1〜ST4で作成された照射プランを、最適化計算の初期値として使う。従来のIMRTに比べて、患部のディスタル形状に合うように深さ方向の照射自由度が高いため、ステップST1〜ST4で作成された照射プランは最適な照射に十分近い。
【0036】
最適化計算は、必ずある評価関数を最小にするような解を計算する。治療計画装置の場合、前記運用マニュアルに示されているように、物理的最適化の基準である評価関数は、以下のように示される。
【数1】


ここでDmin、Dmaxは指定した線量制限である。uはDminに対する重み係数であり、wはDmaxに対する重み係数である。b(数式(1)では矢印付きで示したが、矢印なしで示す。以後、数式(1)関連の説明において同じ。)はビームレットの強度の関数であり、d(b)はビームレットの強度の関数bとしたボクセルiの線量である。[x]はx>0ではx、それ以外では0となる。Nはボクセルの最大数である。
【0037】
このように、治療計画装置において最適化計算を行うため、例えば初期値においては柱状の照射野が重なってオーバードーズ(線量超過)になっても、得られた治療計画においては、調整される。
【0038】
以上のように構成することで、実施の形態1の治療計画装置によれば、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0039】
柱状の線量分布でビームを照射することの効果について説明する。そもそも、1方向からの照射を前提とする従来の粒子線治療装置において、その照射系における線量分布形成は以下の方法による。ワブラー法を例に説明すると、XY方向へは、ワブラー電磁石と散乱体によって照射野を均一拡大し、患部のXY平面断面形状(あるいはXY平面に投影した形状等)に基づいてMLCにより制限を行う。Z方向へは、リッジフィルタによって照射野を均一拡大し、患部のディスタル形状(最深層形状)に合うようにボーラスにより制限を行う。
【0040】
前述したように、粒子線治療装置における多門照射においては複数のボーラスを用いなければならないので、ボーラスの加工の手間及び費用がかかり、またボーラスを動的に形状変化できず、IMATには適用できなかった。もし、粒子線治療装置における多門照射において、ボーラスを用いなくてもボーラスのように患部のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができれば、ボーラスの加工の手間及び費用の問題が解決でき、IMATへの適用が可能となり、IMRTの過照射問題、すなわち正常組織への不要な照射を格段に減らすことができる。そこで、柱状の線量分布でビームを照射する発明に至った。本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することの最大の効果のひとつは、ボーラスを用いなくても患部40のディスタル形状(最深層形状)に合うように照射野を制限することができ、正常組織への不要な照射を格段に減らすことができることである。
【0041】
本発明における、柱状の線量分布でビームを照射することのもうひとつの最大の効果は、X線等放射線治療装置で用いられる強度変調をしなくても照射野を形成できることにある。ここで強度変調の原理は、簡単に言うと、弱い線量分布を有する照射野を多方向から照射し、重ね合わせにより、最終的により多くの線量が重なった箇所が治療効果を発揮する照射野として線量分布を得るというものである。
【0042】
本発明において照射野の形成は、図6に示すように、柱状の線量を組み合わせて行うことができる。ここで補足するが、本発明においても照射野を重ねて照射をしてもよい。患部の各部分に対してアンダードーズ(線量不足)になることとオーバードーズ(線量超過)になることは許されないが、臨床的に許容できる線量には幅がある。最終的な線量分布が患部の各部分に対して許容できるように、治療計画装置により照射計画を立てていく。
従来のX線等放射線治療装置のように、最終的な照射野を患部のディスタル形状に合うように強度変調をしなくてよいので、治療計画装置による強度変調の最適化の計算が不要となり、すなわち、従来の治療計画に要する時間が長いという問題を解消することができる。また、柱状の線量分布でビームを照射することは、点状に照射することに比べて照射時間が早いというメリットがある。
【0043】
実施の形態1の治療計画装置を用いた粒子線治療装置において多門照射ができるメリットは、いくつかあるが、主に以下の2点である。ひとつは、同じ患部に照射した場合、多門照射の方が粒子線の通過する体表面積が広いため、正常組織である体表面へのダメージを低減できることにある。もうひとつは、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できることにある。
【0044】
以上のように実施の形態1の治療計画装置によれば、加速器により加速された荷電粒子ビーム1を走査する走査照射系34と、荷電粒子ビーム1のブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置4とを備えた粒子線治療装置に対する治療計画を作成する治療計画装置であって、荷電粒子ビーム1が照射される照射対象40のディスタル形状に応じて柱状の照射野44を配置するとともに、照射対象40の内側に柱状の照射野45を敷き詰めて配置する照射野配置部と、照射野配置部により柱状の照射野44、45が敷き詰められた状態を初期状態として、照射対象40への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野44、45の配置を調整する最適化計算部とを有するので、荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大した柱状の照射野を照射対象のディスタル形状に応じて敷き詰めて、照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように柱状の照射野の配置を調整でき、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0045】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2によるエネルギー変更装置を示す構成図である。実施の形態1のエネルギー変更装置2aとは、複数の吸収体26a、26b、26c、26dを用いて、荷電粒子ビーム1のエネルギーを低下して所望のエネルギーに変更し、照射対象である患部40におけるブラッグピークBPの深さ方向(Z方向)の位置(飛程)を調整する点で異なる。
【0046】
エネルギー変更装置2bは、駆動装置27a、27b、27c、27dにより駆動される複数の吸収体26a、26b、26c、26dを有する。吸収体26a、26b、26c、26dは厚さの異なる吸収体である。吸収体26a、26b、26c、26dそれぞれの組み合わせにより、吸収体の合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置22は、駆動装置27a、27b、27c、27dを制御し、それぞれの駆動装置に対応する吸収体26a、26b、26c、26dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過する吸収体の合計の厚さに比例する分だけエネルギーが低下されて所望のエネルギーになる。
【0047】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態2のエネルギー変更装置2bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石5乃至8を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL1を短くできる。装置の長さL1を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。なお、図2における装置の長さL1は、偏向電磁石5の上流側端部から偏向電磁石8の下流側端部までの長さである。
【0048】
実施の形態2のエネルギー変更装置2bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0049】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3による深さ方向照射野拡大装置を示す構成図である。実施の形態1の深さ方向照射野拡大装置3aとは、複数の散乱体28a、28b、28c、28dを用いて、荷電粒子ビームのエネルギーを散乱により多種のエネルギーが混ざった状態にし、すなわち荷電粒子ビーム1のエネルギーの幅を変更し、ブラッグピークBPを深さ方向へ拡大する点で異なる。
【0050】
深さ方向照射野拡大装置3bは、駆動装置29a、29b、29c、29dにより駆動される複数の散乱体28a、28b、28c、28dを有する。散乱体28a、28b、28c、28dは厚さの異なる散乱体である。散乱体28a、28b、28c、28dそれぞれの組み合わせにより、散乱体の合計の厚さを変化させることができる。変更制御装置25は、駆動装置29a、29b、29c、29dを制御し、それぞれの駆動装置に対応する散乱体28a、28b、28c、28dを荷電粒子ビーム1が通過するように、或いは通過しないようにする。荷電粒子ビーム1は、通過する散乱体の合計の厚さに比例する分だけエネルギーの幅が広げられ所望のSOBPの幅になる。
【0051】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の1と同様に、深さ方向へブラッグピークBPを拡大し、柱状の照射野を生成することができる。実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bは、荷電粒子ビーム1を偏向させる必要がないので、実施の形態1のエネルギー変更装置2aに比べて、偏向電磁石15乃至18を無くし、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さL2を短くできる。装置の長さL2を短くできるので、エネルギー変更装置をコンパクトにすることができる。図3における装置の長さL2は、偏向電磁石15の上流側端部から偏向電磁石18の下流側端部までの長さである。
【0052】
実施の形態3の深さ方向照射野拡大装置3bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できるので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0053】
実施の形態4.
図9は、本発明の実施の形態4による柱状照射野生成装置を示す構成図である。実施の形態1の柱状照射野生成装置4aとは、エネルギー変更装置2aと深さ方向照射野拡大装置3aを一体化した点で異なる。
【0054】
柱状照射野生成装置4bは、2つのレンジシフタ9a、9bと、2つのリッジフィルタ19a、19bと、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを荷電粒子ビーム1が通過する位置を移動する上流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石5、6、上流側偏向電磁石対を励磁する第1の偏向電磁石電源20、レンジシフタ9a、9b及びリッジフィルタ19a、19bを通過した荷電粒子ビーム1を元の軌道上に戻す下流側偏向電磁石対を構成する偏向電磁石7、8、下流側偏向電磁石対を励磁する第2の偏向電磁石電源21、照射制御装置33から入力されるエネルギー指令値に基づいて上流側偏向電磁石対による荷電粒子ビームの軌道の移動量を算出し、励磁電流値を第1の偏向電磁石電
源20に送信する変更制御装置22を備える。変更制御装置22は、第2の偏向電磁石電源21も制御する。各機器の動作は実施の形態1と同様なので繰り返さない。
【0055】
レンジシフタ9a、9bは同じ形状、材料のものであり、リッジフィルタ19a、19bは、それぞれ異なった高さの概三角柱で構成された例である。リッジフィルタ19bの概三角柱の高さはリッジフィルタ19aの概三角柱の高さよりも高いので、荷電粒子ビーム1のSOBPの幅は、リッジフィルタ19bを通過した場合の方がリッジフィルタ19aを通過した場合より広くすることができる。
【0056】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bは、荷電粒子ビーム1を2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、2種類の注状照射野を所望の飛程にすることができる。レンジシフタ9a、9bとリッジフィルタ19a、19bに対してそれぞれに上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を設けることがなく、上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を1セットだけ設けているので、実施の形態1の柱状照射野生成装置4aに比べて、荷電粒子ビーム1の照射方向(Z方向)における装置の長さを短くできる。上流側偏向電磁石対と下流側偏向電磁石対を用いて2種類のSOBPの幅で所望のエネルギーに変更するので、SOBPの幅と飛程を変更する際にレンジシフタやリッジフィルタを駆動する駆動音が発生しないメリットがある。なお、2種類よりもさらに多い多種類のSOBPの幅を揃えるには、その種類数に応じたレンジシフタ9とリッジフィルタ19を配置すればよい。
【0057】
実施の形態4の柱状照射野生成装置4bを有する粒子線照射装置(図1参照)は、実施の形態1で示した治療計画装置が作成した治療計画に対応した治療計画に基づいて多門照射を実行できので、実施の形態1と同様に、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることができ、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0058】
実施の形態5.
本発明の実施の形態5は、実施の形態1乃至4に示した粒子線照射装置を備えた粒子線治療装置である。図10は本発明の実施の形態5における粒子線治療装置の概略構成図である。粒子線治療装置51は、イオンビーム発生装置52と、イオンビーム輸送系59と、粒子線照射装置58a、58bとを備える。イオンビーム発生装置52は、イオン源(図示せず)と、前段加速器53と、シンクロトロン54とを有する。粒子線照射装置58bは回転ガントリ(図示せず)に設置される。粒子線照射装置58aは回転ガントリを有しない治療室に設置される。イオンビーム輸送系59の役割はシンクロトロン54と粒子線照射装置58a、58bの連絡にある。イオンビーム輸送系59の一部は回転ガントリ(図示せず)に設置され、その部分には複数の偏向電磁石55a、55b、55cを有する。
【0059】
イオン源で発生した陽子線等の粒子線である荷電粒子ビームは、前段加速器53で加速され、シンクロトロン54に入射される。荷電粒子ビームは、所定のエネルギーまで加速される。シンクロトロン54から出射された荷電粒子ビームは、イオンビーム輸送系59を経て粒子線照射装置58a、58bに輸送される。粒子線照射装置58a、58bは荷電粒子ビームを患者の患部(図示せず)に照射する。
【0060】
実施の形態5の粒子線治療装置51は、実施の形態1乃至4に示した粒子線照射装置と、実施の形態1に示した治療計画装置で作成した治療計画に基づいて荷電粒子ビームを患者の患部に照射するので、ボーラスを用いることなく深さ方向への照射自由度を上げることにより、粒子線治療装置におけるIMRTの過照射問題を解決することができる。
【0061】
実施の形態5の粒子線治療装置51は、柱状の線量分布でビームを照射するので、点状に照射することに比べて照射時間が早いというメリットがある。また、多門照射ができるので、同じ患部に照射した場合、正常組織である体表面へのダメージを低減でき、照射してはならない危険部位(脊髄、眼球等)への照射を回避できる。
【0062】
さらに、実施の形態5の粒子線治療装置51においては、多門照射を遠隔で行えるメリットがある。遠隔多門照射とは、技師等が治療室に入って回転ガントリを操作する必要なく、治療室の外から遠隔で、患部への照射方向を多方向に変えて粒子線を照射することである。前述のように、本発明における粒子線治療装置においては、MLCやボーラスを必要としないシンプルな照射系となるため、ボーラスの交換作業及びMLCの形状確認作業が不要となる。その結果、遠隔多門照射が行え、治療時間が大幅に縮まるといった効果が得られる。
【0063】
なお、柱状照射野生成装置4は実施の形態2で示したエネルギー変更装置2bと実施の形態3で示した深さ方向照射野拡大装置3bを使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る治療計画装置は、医療用に用いられる粒子線治療装置に好適に適用できる。本発明に係る粒子線治療装置は、医療において好適に利用できる。特に過照射となってしまうIMRTの問題を解決でき、医療産業の発達に寄与するものである。
【符号の説明】
【0065】
1 荷電粒子ビーム 2 エネルギー変更装置
2a エネルギー変更装置 2b エネルギー変更装置
3 深さ方向照射野拡大装置 3a 深さ方向照射野拡大装置
3b 深さ方向照射野拡大装置 4 柱状照射野生成装置
4a 柱状照射野生成装置 4b 柱状照射野生成装置
5 偏向電磁石 6 偏向電磁石
7 偏向電磁石 8 偏向電磁石
9 レンジシフタ 9a レンジシフタ
9b レンジシフタ 14 ビーム軸
15 偏向電磁石 16 偏向電磁石
17 偏向電磁石 18 偏向電磁石
19 リッジフィルタ 19a リッジフィルタ
19b リッジフィルタ 22 変更制御装置
25 照射野拡大制御装置 26a 吸収体
26b 吸収体 26c 吸収体
26d 吸収体 27a 駆動装置
27b 駆動装置 27c 駆動装置
27d 駆動装置 28a 散乱体
28b 散乱体 28c 散乱体
28d 散乱体 29a 駆動装置
29b 駆動装置 29c 駆動装置
29d 駆動装置 34 走査照射系
40 患部 44a 柱状照射野
44b 柱状照射野 44c 柱状照射野
44d 柱状照射野 45a 柱状照射野
45b 柱状照射野 45c 柱状照射野
45d 柱状照射野 52 イオンビーム発生装置
54 シンクロトロン 58 粒子線照射装置
58a 粒子線照射装置 58b 粒子線照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系と、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置とを備えた粒子線治療装置に対する治療計画を作成する治療計画装置であって、
前記荷電粒子ビームが照射される照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置するとともに、前記照射対象の内側に前記柱状の照射野を敷き詰めて配置する照射野配置部と、
前記照射野配置部により前記柱状の照射野が敷き詰められた状態を初期状態として、前記照射対象への照査線量が所定の範囲に入るように前記柱状の照射野の配置を調整する最適化計算部とを有する治療計画装置。
【請求項2】
前記照射野配置部は、前記照射対象のディスタル形状に応じて前記柱状の照射野を配置した後に、前記照射対象における前記柱状の照射野が配置されていない内側の形状に応じて前記柱状の照射野を配置することを特徴とした請求項1記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記照射野配置部は、前記柱状の照射野における照射方向の幅であるSOBPの幅を複数使用することを特徴とする請求項1または2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
荷電粒子ビームを発生させ、加速器により所定のエネルギーまで加速するイオンビーム発生装置と、前記イオンビーム発生装置により加速された荷電粒子ビームを輸送するイオンビーム輸送系と、前記イオンビーム輸送系で輸送された荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置と、前記粒子線照射装置の照射方向を回転させる回転ガントリとを備えた粒子線治療装置であって、
前記粒子線照射装置は、前記加速器により加速された荷電粒子ビームを走査する走査照射系と、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大し、柱状の照射野を生成する柱状照射野生成装置とを備え、
当該粒子線治療装置に対する治療計画を作成する治療計画装置は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の治療計画装置であることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項5】
前記柱状照射野生成装置は、前記荷電粒子ビームのエネルギーを変更するエネルギー変更装置と、前記荷電粒子ビームのブラッグピークを拡大する深さ方向照射野拡大装置とを備えたことを特徴とする請求項4記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、前記荷電粒子ビームの前記レンジシフタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該エネルギー変更装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記レンジシフタの所定の厚さを通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項5記載の粒子線治療装置。
【請求項7】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、前記荷電粒子ビームの前記リッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該深さ方向照射野拡大装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項5または6に記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
前記エネルギー変更装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーが低下する吸収体を複数有し、前記吸収体のそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記吸収体の合計の厚さを制御する変更制御装置とを備えたことを特徴とする請求項5記載の粒子線治療装置。
【請求項9】
前記深さ方向照射野拡大装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する厚さによってエネルギーの幅を変更する散乱体を複数有し、前記散乱体のそれぞれを駆動する複数の駆動装置と、前記駆動装置を駆動して前記荷電粒子ビームが通過する前記散乱体の合計の厚さを制御する照射野拡大制御装置とを備えたことを特徴とする請求項5または8に記載の粒子線治療装置。
【請求項10】
前記柱状照射野生成装置は、
前記荷電粒子ビームが通過する方向の厚さが場所によって異なり、通過する荷電粒子ビームのエネルギーを前記厚さに応じて低下するレンジシフタと、
前記レンジシフタの下流側に配置され、前記荷電粒子ビームが通過する位置によって失うエネルギーが異なる厚さ分布を有するリッジフィルタと、
前記荷電粒子ビームの前記リッジフィルタ及びリッジフィルタにおける通過位置を移動する上流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームの軌道を当該柱状照射野生成装置に入射したビーム軸の方へ戻す下流側偏向電磁石対と、前記荷電粒子ビームを前記リッジフィルタの所定の厚さ及び前記リッジフィルタの所定の厚さ分布を通過するように前記上流側偏向電磁石対及び前記下流側偏向電磁石対を制御する変更制御装置を備えたことを特徴とする請求項4記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−212395(P2011−212395A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85994(P2010−85994)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】