説明

法面の緑化工法および法面緑化構造

【課題】法面上の柵状体内の植生基材に植え付けられた樹木苗を鹿等の獣類による植物の食害を防止できる法面の緑化工法および法面緑化構造を提供する。
【解決手段】法面2上に網状体1を張設し、網状体1上に鉄筋を格子状に配置し、格子状の鉄筋上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて、膨出体を形成する。植生基材の収容域を形成する柵状体8を、膨出体による格子状の枠内に立ち上げて、柵状体8内と膨出体による格子状の枠内に植生基材を吹き付け、柵状体8内に収容された植生基材に、植物bを植え付ける。一端側の係止部11を網状体1に係止させ、他端側の係止部12を柵状体8に係止させた状態で支柱支持体13を柵状体8内に設置し、支柱支持体13に設けられた支持部14で下部L又は中間部を、法面2上から延設された線状体で上部Hを支持させた状態で立設された支柱16により上部Cを保持されたカバー体17で植物bを覆う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、法面の緑化工法および法面緑化構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
法面上に植生基材の収容域を形成する柵状体を立ち上げて設置し、この柵状体内に植物種子を含む植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に、樹木苗、草花苗、蔓性植物の少なくとも一種を植え付ける法面の緑化工法として、下記特許文献1に示すものがある。
【0003】
これは、法面を立体的に緑化させ法面の樹林化を簡易に達成することができる点で大変有益な工法である。
【0004】
上記法面の緑化工法によれば、図14に示すように、植生基材9が降雨のために流亡することが格子状の膨出体6によって防止され、かつ、植生基材9に含まれる植物種子が膨出体6による格子状枠内と柵状体8内とで発芽・生育することに加えて、膨出体6の格子状枠内に設置された柵状体8の多数の開口部aからも植物種子が発芽・生育する。このようにして膨出体6の格子状横枠の上方部位において、柵状体8から立体的に植物種子が発芽・生育することで、法面2を法面直下から見た場合、膨出体6による格子状横枠が上記の立体的に発芽・生育した植物b,cによって覆い隠されることで、さらには、生育した植物b,cが膨出体6の格子状横枠に覆い被さることで、法面2の景観が良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−287143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年は鹿やカモシカなどの獣類による樹木の食害が深刻な問題となってきており、特に苗木は食害の被害に遭遇しやすく、格子状の膨出体が施工されるような急斜面であっても食害被害が懸念される。そこで植え付けた苗木に保護カバーを装着するといった何らかの食害防止対策を講じる必要があるが、上述の通り傾斜の厳しい現場では、そもそもが不安定なだけではなく、風雨や雪の影響も大きいため植え付けられた苗木が保護カバーと共に転倒して倒壊するおそれもあり、安定した食害防止対策が未だ確立されるに至っていない。
【0007】
この発明は、法面上に植生基材の収容域を形成する柵状体を立ち上げて設置し、この柵状体内に前記植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に樹木苗を植え付けるとともに、鹿等の獣類による植物の食害対策を図るため支柱により上部を保持されたカバー体で樹木苗を覆い、例えば法面が岩盤のような硬質のものであっても支柱と植物の倒壊を防止することができる法面の緑化工法および法面緑化構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明は、法面上に植生基材の収容域を形成する柵状体を立ち上げて設置し、この柵状体内に前記植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に植物を植え付ける法面の緑化工法であって、
その一端側の係止部を法面側に固定させ、他端側の係止部を前記柵状体側に係止させた状態で支柱支持体を前記柵状体内に設置し、さらに前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱により上部を保持されたカバー体で前記植物を覆うことを特徴とする法面の緑化工法を提供する(請求項1)。
【0009】
また、この発明は別の観点から、法面上に網状体を張設し、この網状体の上に鉄筋を格子状に配置し、かつ、この格子状の鉄筋上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて、格子状の膨出体を形成する一方、植生基材の収容域を形成する柵状体を、前記膨出体による格子状の枠内に立ち上げて設置し、この柵状体内と前記膨出体による格子状の枠内に植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に、植物を植え付ける法面の緑化工法であって、
その一端側の係止部を前記網状体に係止させ、他端側の係止部を前記柵状体に係止させた状態で支柱支持体を前記柵状体内に設置し、さらに前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱により上部を保持されたカバー体で前記植物を覆うことを特徴とする法面の緑化工法を提供する(請求項2)。
【0010】
そして、この発明は、前記支柱支持体には、前記植物を覆った状態の前記カバー体の下部を掛止するための掛止部を設ける請求項1または2に記載された法面の緑化工法を提供する(請求項3)。
【0011】
また、この発明はさらに別の観点から、法面上に立ち上げて設置され植生基材の収容域を形成する柵状体と、この柵状体内に収容された植生基材に植え付けられた植物と、その一端側の係止部を法面側に固定させ、他端側の係止部を前記柵状体側に係止させた状態で前記柵状体内に設置された支柱支持体と、前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱と、前記支柱により上部を保持された状態で前記植物を覆うカバー体とを備えていることを特徴とする法面緑化構造を提供する(請求項4)。
【0012】
さらに、この発明は、法面上に張設された網状体と、
この網状体の上に格子状に配置された鉄筋上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて形成された格子状の膨出体と、
前記膨出体による格子状の枠内に立ち上げて設置され植生基材の収容域を形成する柵状体と、
この柵状体内と前記膨出体による格子状の枠内に吹き付けられた植生基材と、
前記柵状体内に吹き付けられ収容された植生基材に植え付けられた植物と、
その一端側の係止部を前記網状体に係止させ、他端側の係止部を前記柵状体に係止させた状態で前記柵状体内に設置された支柱支持体と、
前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱と、
前記支柱により上部を保持された状態で前記植物を覆うカバー体とを備えていることを特徴とする法面緑化構造を提供する(請求項5)。
【0013】
そして、この発明は、前記支柱支持体には、前記植物を覆った状態の前記カバー体の下部を掛止するための掛止部を設けてある請求項4または5に記載された法面緑化構造を提供する(請求項6)。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、法面上に植生基材の収容域を形成する柵状体を立ち上げて設置し、この柵状体内に前記植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に植物を植え付けるにあたり、支柱支持体の一端側の係止部を法面側に固定させ、支柱支持体の他端側の係止部を前記柵状体側に係止させた状態で支柱支持体を前記柵状体内に設置し、さらに前記支柱支持体に設けられた支持部で支柱の下部又は中間部を支持させ、前記支柱により上部を保持されたカバー体で前記植物を覆うとともに、法面上から延設された線状体で前記支柱の上部を支持させている。したがって、前記カバー体により鹿等の獣類による植物の食害を防止でき、しかも風雨や雪が作用しても、支柱は、その上部と下部、又はその上部と中間部とでの支持によって立設状態を強固に保ち続けることができ、転倒防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の第1の実施形態における法面緑化工程の前半部分を示す斜視図である。
【図2】上記実施形態において、面緑化工程の後半部分であるカバー体で植物を覆う前の状態を示す構成説明図であって、構成部材である支柱支持体および支柱を省略している。
【図3】上記実施形態で用いる柵状体を示す斜視図である。
【図4】上記実施形態における法面緑化工程の後半部分を示す構成説明図である。
【図5】上記実施形態における法面緑化工程の後半部分を示す平面図である。
【図6】上記実施形態における法面緑化工程の後半部分で用いる構成部材を示す分解斜視図である。
【図7】上記実施形態で用いる支柱支持体を示す斜視図である。
【図8】この発明で用いるカバー体の変形例の成形工程を示す図である。
【図9】この発明の第2の実施形態における法面緑化工程の後半部分を示す構成説明図である。
【図10】この発明の第3の実施形態で用いる支柱支持体を示す斜視図である。
【図11】この発明の第4の実施形態で用いる支柱支持体を示す斜視図である。
【図12】この発明で用いる柵状体の異なる設置状態を示す構成説明図である。
【図13】この発明で用いる柵状体のさらに異なる設置状態を示す構成説明図である。
【図14】従来例の法面緑化状態を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1〜7は、支柱支持体を柵状体内の植生基材上に設置したこの発明の第1の実施形態を示す。図1に示すように、先ずは、合成樹脂製のネットや金網(ラス金網、亀甲金網等)などの網状体1を法面2上に張設し、かつ、短尺の補助アンカー3を打設して網状体1を固定する。そして、この網状体1の上に、一本乃至は複数本(図示例では上下に一本ずつ計2本。)の鉄筋4(図4では便宜上省略している)を格子状に配置するとともに、この鉄筋4を長尺の主アンカー5によって固定するとともに、後述する膨出体6によって囲われる網状体1がモルタルまたはコンクリートによって埋められないようにするために網状体1上に養生シート7を敷き詰める。続いて、前記格子状の鉄筋4を埋め込むようにして、鉄筋4上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて、格子状の膨出体6を形成する。その後、養生シート7を撤去する。この養生シート7の撤去作業は、鉄筋4上に吹き付けたモルタルまたはコンクリートが硬化した後に施される。次いで、予め用意した図3に示す形状の柵状体8を、前記膨出体6による格子状の枠内に立ち上げて設置する。この実施形態では、膨出体6の格子状横枠に沿わせるようにしてその上方部位に、前記柵状体8を立ち上げ設置する。この柵状体8は、後述する植生基材9の収容域を形成する。前記柵状体8は、図1,3,6に示すように、多数の開口部(図示する例では矩形状であるが、菱形など形状は不問であり、要は植生基材9が容易には零れ落ちない程度の大きさであればよい。)aを有する金網を折り曲げて成形されているが、多数の開口部を成形した合成樹脂製の網状体などに変更可能である。具体的には、前記柵状体8は、図3に示すように、膨出体6の格子状横枠に沿う矩形状の網状柵部分8aと、この網状柵部分8aの左右両側に連設されて下側縁が法面2に沿う三角形状の網状柵部分8b,8bとからなり、かつ、法面2に突刺させて固定するためのアンカー8c…を備えている。
【0017】
次に、前記柵状体8による空間部と膨出体6によって囲われた格子状の枠内のそれぞれに、例えば有機堆肥や化学肥料、植物性繊維、保水剤、土壌改良材などに植物種子を混合した植生基材9を吹き付ける。前記植物種子としては、トールフェスク、クリーピングレッドフェスク、ハイランドベントグラス、バーミューダグラス、レッドトップ等の外来の牧草種や、コスモスやカスミソウ、ナデシコ等の草花種、その他、ヤマハギやイタチハギ、コマツナギなどのような樹木種などの少なくとも一種が適宜選択されるのが好ましい。この実施形態におけるその後の施工手順の概要は以下の通りである。(1)前記柵状体8により形成された植生基材9の収容域に樹木苗bを植え付ける前に、図4〜7に示す支柱支持体13を設置し(支柱支持体設置作業)、(2)支柱支持体13の中央に設けられた支持部14を通過するように支柱16を鉛直に突き刺し(支柱立設作業)、(3)樹木苗bを植え付け(樹木苗植栽作業)、(4)カバー体17を支柱16に掛けて樹木苗bを覆い(カバー体被覆作業)、(5)線状体(例えばワイヤー)15a,15bによりカバー体17の上から支柱16を固定する(支柱固定作業)。なお、支柱立設作業と樹木苗植栽作業は作業の順番を逆にしてもよく、また、前記両作業を同時に行ってもよい。さらに、この実施形態では、支柱立設作業の後に樹木苗b植栽作業を行うが、便宜上、図2においては支柱支持体13および支柱16を省略している。
【0018】
前記樹木苗bとしては施工地周辺の生態系に配慮した樹種を選択することが重要であって、クロマツ、アカマツ、ケヤキ、コナラ、シラカシ、アラカシ、タニウツギ、アオキなどを挙げることができ、前記柵状体8に収容された植生基材9を法面2への客土として、ここに前記樹木苗bを植栽することで、法面2の周辺景観との調和や法面2の永続的安定化、自然界への回復などを目的とした樹木の導入による法面2の樹林化が将来的に達成される。なお、現地生態系に配慮し、植生基材に前記植物種子を導入せずに周囲から飛来してくる植物種子によって緑化を図ったり、施工地周辺で採取した表土(埋土種子)を利用することもできる。また、前記樹木苗bの植栽に追加して、草花苗、蔓性植物苗c(図1,2参照)を植え付けてもよい。すなわち、キヅタ、ナツヅタ、ヘデラヘリックス、ヤマブドウなどの蔓性植物苗cを植え付けることで、蔓性植物が膨出体6に絡むようにして生育して、蔓性植物が膨出体6そのものを直接的に覆うことから、法面2の景観的な見栄えが一層良好なものとなる。また、チューリップ、スイセン、サクラソウ、ユリ、シバザクラなどの草花の球根や苗を植え付けることで、美しい花とりどりの見た目に安らぎを覚える法面2の緑化が達成される。なお、この実施形態では、樹木苗bの植栽に追加して、蔓性植物苗c(図1,2参照)を植え付けているが、これには後述するカバー体17を掛けずに、図4,6に示すように、保護対象である前記樹木苗bにのみカバー体17が掛けられる(カバー体17が覆われる)。
【0019】
以下、上述した支柱支持体設置作業、支柱立設作業、樹木苗植栽作業、カバー体被覆作業、支柱固定作業について説明する。図4〜7に示すように、その一端側の係止部11を前記網状体1に係止させ、他端側の係止部12を前記柵状体8の網状柵部分8aに係止させた状態で支柱支持体13を柵状体8内の植生基材9上に設置し、さらに支柱支持体13の中央に設けられた支持部14で下部Lを、そして法面2上からそれぞれ延設された二本の線状体(例えばワイヤー)15a,15bで上部Hを、それぞれ支持させた状態で立設された支柱16により上部Cを保持されたカバー体17で前記樹木苗bを覆うようにしてある。ここで、「支柱支持体13を柵状体8内の植生基材9上に設置する」とは、この実施形態のように、支柱支持体13を植生基材9の上面9aに設置した状態の場合(図4,9参照)のみならず、支柱支持体13を植生基材9に若干埋設した状態の場合も含む。
【0020】
図4〜7において、前記支柱支持体13は、係止棒片18と掛止棒片19とが前記支持部14を交点とする平面視十文字形に形成されており、線材折曲げ装置を用いて、例えば防錆加工を施した適宜太さ(例えば直径4〜5mm)のワイヤー(針金)よりなる一本の線材からいわば一筆書き状に成形して得られるものである。前記係止棒片18は、前記係止部11および前記係止部12がそれぞれ一端および他端に形成されている。前記掛止棒片19は、保護対象である前記樹木苗bを覆った状態の前記カバー体17が鹿等の獣に引き抜かれないよう前記カバー体17の下部が掛止可能な一対の掛止部20,20を有する。掛止部20および20はそれぞれ掛止棒片19の両端に形成されており、各掛止部20は、後述するカバー体17の裾Mの下端部の折り曲げ部分17a(図6参照)を挟持可能な挟持部Sが上下方向(両矢印uで示す方向)(図7参照)に沿って形成された下方開放の凹状部Rが二重に重ね合わされて構成されている。図7に示すように、各掛止部20は、前記支持部14から等間隔Dに位置している。さらに、前記係止棒片18は、前記掛止部20,20とで前記カバー体17の下部を強固に掛止するため前記支持部14から等間隔Dの位置に形成された、掛止部20,20と同一形状の掛止部21,21を有する。なお、前記支柱支持体13を合成樹脂成形加工機で一体成形することも可能である。
【0021】
前記支柱16は、例えば竹やプラスチック製の棒体で構成されている。そして、支柱16を円筒状の棒体とした場合、支柱16の両端部分16a,16aを、偏平な舌片形状に形成するのが好ましい。さらに、各端部分16aには、線状体15a,15bが挿通可能な挿通穴hが形成されている。また、膨出体6の格子状横枠の複数箇所(この実施形態では二箇所)には、線状体15aおよび15bの各一端部mが結束可能なフックfが設けられている。なお、複数箇所にフックfを設けなくてもよく、膨出体6の格子状横枠の一箇所にフックfを設けるだけでもよい。この場合は、一本の線状体を用いる。一方、支柱支持体13の中央に設けられた前記支持部14は、嵌込まれた支柱16の外周面16bが滑らずに密着した状態でその位置が支持されるよう略円弧状の四辺dが平面視ループ状に合わさって形成された開口部よりなる。その開口部は、支柱16が滑らずに挟持可能に形成された複数の窪み部分14aを内面に有する。なお、支柱16を強固に嵌合させる支持部14の構成として窪み部分14aを内面に有するものに限定されるものではない。
【0022】
前記カバー体17は伸縮性のある編物や織物からなるネットを用いて下方開口Pを有する傘状の袋体に予め形成されている。前記カバー体17の材質としては、例えば植物由来の生分解素材のものが好ましいが、太陽光の透過を妨げず、通気性の良好で、新たに生じた新芽などが前記カバー体17を通して前記カバー体17の外部に出てしまう機会を少なくするような目合いを有するネットが好ましい。なお、カバー体17に忌避剤を含有させておくのが鹿等の獣類による植物bの食害を防止する上で好ましい。
【0023】
而して、図4〜6に示すように、前記柵状体8による空間部と膨出体6によって囲われた格子状の枠内のそれぞれに植生基材9を吹き付け(なお、図5は、便宜上柵状体8による空間部だけに植生基材9を吹き付けた状態を示している。すなわち、膨出体6によって囲われた格子状の枠内に植生基材9を吹き付ける前の状態を示している)た後、以下の作業が順次施される。
〔支柱支持体設置作業〕
柵状体8の網状柵部分8aおよび網状体1にそれぞれ係止部12および係止部11を係止させた状態で、支柱支持体13を前記柵状体8内の植生基材9の上面9aに固定設置する(なお、図6においては便宜上支柱支持体13設置前に柵状体8内に吹き付けられている植生基材9を省略している)。
〔支柱立設作業〕
支柱支持体13の中央に設けられた支持部14を通過するように支柱16を鉛直に突き刺して、前記支持部14により支柱16の下部Lが支持される。
〔樹木苗植栽作業〕
前記柵状体8による植生基材9の収容域に樹木苗b植え付ける。
〔カバー体被覆作業〕
支柱16により上部Cを保持された傘状の袋体に形成されているカバー体17の頂部C’を支柱16上部Hに位置する端部分16aの上方からその端部分16aに当てがうことにより保護対象である樹木苗b(図4,6には便宜上、柵状体8内に収容された植生基材9に植え付ける植物として保護対象である樹木苗bだけを記載している)を覆うとともに、カバー体17の裾Mの下端部を所定長さK(図6参照)だけ内側に折り曲げ、その折り曲げ部分17aの四箇所を、前記掛止部20,20、21,21に形成した前記挟持部Sに前記掛止部20,20、21,21の下方から挿入することで前記四箇所を掛止部20,20,21,21で挟む。このように、カバー体17の裾Mの複数箇所を掛止部20,20,21,21を介して支柱支持体13に固定することにより、カバー体17が鹿などの獣に引き抜かれないようにすることができる。なお、カバー体17の頂部C’を支柱16上部Hに対して針金等の結束線材で結束するのが好ましい。また、カバー体17を樹木苗bの樹木苗トップの芯芽b’よりも上方まで引っ張って被せることができる。
〔支柱固定作業〕
膨出体6の格子状横枠の二箇所に設けたフックf,fに一端部mが結束されている線状体15aおよび15bの各他端部nを支柱16上部Hに位置する上端部分16aに形成してある挿通穴hに挿通して結束する。このように、法面2上から二本の線状体15aおよび15bを延設しており、二つの線状体15aおよび15bが平面視において支柱16の上端16cを頂点とする三角形の二辺を形成するよう二つの線状体15aおよび15bによって支柱16の上部Hが支持されることから、支柱16の立設状態をさらに強固に保ち続けることができる。この際、法面2が岩盤のような硬質法面の場合には、支柱16の端部分(下端部分)16aは法面2に突き刺すことはできず法面2上に当接した状態で支柱16が立設した状態となる。そして、線状体15aおよび15b以外に、図4に二点鎖線で示しているような補助線状体15cをも支柱16および支柱支持体13間、あるいは、支柱16および柵状体8間にわたり架設するのが、支柱16の立設状態を強固に保ち続けることができる点で好ましい。この場合、補助線状体15cの一端部m’を、支柱16上部Hに位置する端部分16aに形成してある挿通穴hに挿通して結束する一方、補助線状体15cの他端部n’を、支柱支持体13の係止部12に結束したり、柵状体8の網状柵部分8aに結束するのが好ましい。
【0024】
図8は、カバー体17の変形例を示している。まず、図8(A)に示すような平面視矩形形状の一枚のネット30をその長手方向に沿って半分に折り返し、図8(B)に示すような折り返したものの上辺31a,31b同士と、左辺32a,32b同士を縫合することにより、下方開口33を有するカバー体17が作成されうる。なお、34は、折り返し箇所、35は、上辺31a,31b同士の縫合箇所、36は、左辺32a,32b同士の縫合箇所である。
【0025】
図9は、二本の線状体15a,15bを、支柱16と網状体1を固定するための短尺の補助アンカー3との間にわたり架設するようにしたこの発明の第2の実施形態を示す。図9において、図1〜8に示した符号と同一のものは同一または相当物である。図9において、線状体15a,15bの一端部mを、補助アンカー3のフック3aに結束する一方、線状体15a,15bの他端部nを、支柱16上部Hに位置する端部分16aに形成してある挿通穴hに結束してある。
【0026】
図10は、カバー体17の裾Mの下端部の折り曲げ部分17a(図6参照)を挟むことができるように安全ピンの形状に形成されている掛止部20,21を備えたこの発明の第3の実施形態を示す。図10において、図1〜9に示した符号と同一のものは同一または相当物である。
【0027】
図11は、支柱支持体13の更なる変形例(この発明の第4の実施形態)を示している。図11において、図1〜10に示した符号と同一のものは同一または相当物である。図11において、支柱支持体13’は、図7に示した前記係止部11および前記係止部12と同じ形状および機能を有する前記係止部11’および前記係止部12’が、それぞれ一端および他端に形成されている係止棒片18’を有するとともに、植物を覆った状態の前記カバー体17が鹿等の獣に引き抜かれないよう前記カバー体17の下部が掛止可能な一対のフック20’,20’を両端に有する掛止棒片19’を有している。そして係止棒片18’と掛止棒片19’は溶接、接着あるいは結束等により一体とされており、また、植物を覆った状態の前記カバー体17が鹿等の獣に引き抜かれないよう前記カバー体17の下部が掛止可能な一対のフック21’,21’がそれぞれ係止棒片18’に溶接、接着等により連設されている。また、前記支柱16の下部Lを支持する支持部14’を係止棒片18’の中間部寄りに形成する一方、掛止棒片19’の中間部を係止棒片18’の中間部に上述したように溶接、接着あるいは結束等により一体化して、係止棒片18’と掛止棒片19’を平面視十文字形に配置してある。なお、支持部14’は円筒状の棒体である支柱16を挿通した際に径方向に延伸して支柱16を押圧しながら支持しうる機能を有するリング体で構成される。また、フック20’,20’、21’,21’をカバー体17の前記折り曲げ部分17a等に直接突き刺すことでカバー体17の下部(裾)Mが掛止される。
【0028】
なお、支柱16の中間部を支持部14により支持するようにしてもよい。また、図12に示すように、膨出体6の格子状横枠に沿わせるようにしてその下方部位に、前記柵状体8を立ち上げ設置してもよい。また、図13に示すように、前記柵状体8を膨出体6の格子状縦枠にも沿わせて設置してもよい。
【0029】
また、上記各実施形態では、支柱支持体を柵状体内の植生基材上に設置した例を示したが、この発明では、植生基材を柵状体内に収容する前に、支柱支持体を柵状体内に設置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 網状体
2 法面
4 鉄筋
6 膨出体
9 植生基材
8 柵状体
11 一端側の係止部
12 他端側の係止部
13 支柱支持体
14 支持部
16 支柱
15a,15b 線状体
17 カバー体
b 樹木苗(植物)
L 支柱の下部
H 支柱の上部
C カバー体の上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面上に植生基材の収容域を形成する柵状体を立ち上げて設置し、この柵状体内に前記植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に植物を植え付ける法面の緑化工法であって、
その一端側の係止部を法面側に固定させ、他端側の係止部を前記柵状体側に係止させた状態で支柱支持体を前記柵状体内に設置し、さらに前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱により上部を保持されたカバー体で前記植物を覆うことを特徴とする法面の緑化工法。
【請求項2】
法面上に網状体を張設し、この網状体の上に鉄筋を格子状に配置し、かつ、この格子状の鉄筋上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて、格子状の膨出体を形成する一方、植生基材の収容域を形成する柵状体を、前記膨出体による格子状の枠内に立ち上げて設置し、この柵状体内と前記膨出体による格子状の枠内に植生基材を吹き付け、前記柵状体内に収容された植生基材に、植物を植え付ける法面の緑化工法であって、 その一端側の係止部を前記網状体に係止させ、他端側の係止部を前記柵状体に係止させた状態で支柱支持体を前記柵状体内に設置し、さらに前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱により上部を保持されたカバー体で前記植物を覆うことを特徴とする法面の緑化工法。
【請求項3】
前記支柱支持体には、前記植物を覆った状態の前記カバー体の下部を掛止するための掛止部を設ける請求項1または2に記載された法面の緑化工法。
【請求項4】
法面上に立ち上げて設置され植生基材の収容域を形成する柵状体と、 この柵状体内に収容された植生基材に植え付けられた植物と、
その一端側の係止部を法面側に固定させ、他端側の係止部を前記柵状体側に係止させた状態で前記柵状体内に設置された支柱支持体と、
前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱と、
前記支柱により上部を保持された状態で前記植物を覆うカバー体とを備えていることを特徴とする法面緑化構造。
【請求項5】
法面上に張設された網状体と、
この網状体の上に格子状に配置された鉄筋上にモルタルまたはコンクリートを吹き付けて形成された格子状の膨出体と、
前記膨出体による格子状の枠内に立ち上げて設置され植生基材の収容域を形成する柵状体と、
この柵状体内と前記膨出体による格子状の枠内に吹き付けられた植生基材と、
前記柵状体内に吹き付けられ収容された植生基材に植え付けられた植物と、
その一端側の係止部を前記網状体に係止させ、他端側の係止部を前記柵状体に係止させた状態で前記柵状体内に設置された支柱支持体と、
前記支柱支持体に設けられた支持部で下部又は中間部を、法面上から延設された線状体で上部を、それぞれ支持させた状態で立設された支柱と、
前記支柱により上部を保持された状態で前記植物を覆うカバー体とを備えていることを特徴とする法面緑化構造。
【請求項6】
前記支柱支持体には、前記植物を覆った状態の前記カバー体の下部を掛止するための掛止部を設けてある請求項4または5に記載された法面緑化構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−237168(P2012−237168A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108121(P2011−108121)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000231431)日本植生株式会社 (88)
【Fターム(参考)】