説明

法面保護工の補修方法

【課題】老朽化した法面保護工を新たなロックボルトの設置作業を伴うことなく補修可能な、施工性の良好な補修方法を提供する。
【解決手段】ロックボルト1の頭部側に頭部部材2を螺合させて連結し、その頭部部材2の外面に形成した雌ネジに対して締付ナット6を螺合して法面上に設置する構造物12を締付け固定するとともに、補修時には、前記頭部部材2の内部に形成した雌ネジに対して延長ボルト4を螺合させて連結し、さらに前記構造物12上に補修用構造物14を構築した上、前記延長ボルト4に対して締付ナット16を螺合し、その延長ボルト4を介して補修用構造物14を締付け固定することにより補修する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面の保護のために実施した法面保護工の老朽化などに対応するための補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7〜図9はこの種の従来の法面保護工の補修方法を示したものである。図7は法面保護工における老朽化の状態を例示したものである。この例では、法面を形成する地盤101とロックボルト102に螺合した締付ナット103の下部の座金104との間に設置された法枠などの構造物105に老朽化によるクラック106が入った場合を例示したものである。このような場合、締付ナット103を外して老朽化した構造物105を交換するなどの補修を実施しようとすると、その補修作業の間、構造物105に対する締付ナット103の締付力がなくなるため、構造物105が不安定になるといった危険を招くおそれがあった。このため、従来の補修方法としては、図8に示したように地盤101に設置した既存の構造物105の上に補修用構造物107を構築し、その上で、図9に示したように新たなロックボルト108を設置して、このロックボルト108に螺合した締付ナット109により、座金110を介して補修用構造物107や既存の構造物105を締付け固定するという補修方法が知られている。しかしながら、この従来の補修方法の場合には、新たなロックボルト108の設置作業が付加されるため、施工性に問題があった。
【0003】
さらに、他の従来の補修方法として、法面上にモルタルやコンクリートを吹付けたり打設して形成した既存の構造物より上方へ突出した位置に支持手段(受圧体)を備えたロックボルトを設置し、その既存の構造物上に新たな構造物を形成して、それらの既存の構造物と新たに形成する構造物との一体化を前記支持手段によって図るという補修方法も知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この従来の補修方法の場合にも、既存の構造物上に突出する位置に支持手段を備えたロックボルトを設けるための設置作業が付加されるため、施工性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3148923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、新たなロックボルトの設置作業を伴うことなく、老朽化した法面保護工の補修作業が可能な、施工性の良好な補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、前記課題を解決するため、ロックボルトの頭部側の雄ネジに対して頭部部材をその内部に形成した雌ネジを螺合させて連結し、該頭部部材の外面に形成した雌ネジに対して締付ナットを螺合して法面上に設置する構造物を締付け固定するとともに、補修時には、前記頭部部材の内部に形成した雌ネジに対して延長ボルトをその外面に形成した雄ネジを螺合させて連結し、さらに前記構造物上に補修用構造物を構築した上、前記延長ボルトの外面に形成した雄ネジに対して締付ナットを螺合して、その延長ボルトを介して補修用構造物を締付け固定することにより、老朽化した法面保護工を補修するという技術手段を採用した。なお、前記頭部部材の内部に形成する雌ネジを該頭部部材を貫通させて形成し、その頭部部材の雌ネジの一側を前記ロックボルトの頭部側の雄ネジに螺合して該頭部部材をロックボルトに対して連結するとともに、補修時には、前記雌ネジの他側に前記延長ボルトをその外面に形成した雄ネジを螺入して連結するようにしてもよい。因みに、ここで構造物とは、法面上に設置される法枠や受圧板などの構造物を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る法面保護工の補修方法によれば、補修時に、その法面に設置された既存のロックボルトを活用し、既存のロックボルトの頭部側に連結された頭部部材に対して延長ボルトを螺合連結して、既存の構造物上に構築した補修用構造物を締付け固定するという技術手段を採用したので、従来の補修作業において必要とされた新たなロックボルトの設置作業を省略できることから、施工性が大幅に向上されるとともに、工事費の削減にも有効である。しかも、その補修作業において、既存の締付ナットを外す必要はないので、構造物が不安定になるといった危険も回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明における頭部部材と延長ボルトとの連結構造を例示した説明図である。
【図2】同連結構造における延長ボルト装着後の状態を示した説明図である。
【図3】本発明に係る補修作業の手順を示した作業説明図である。
【図4】同補修作業の手順を示した作業説明図である。
【図5】同補修作業の手順を示した作業説明図である。
【図6】同補修作業の手順を示した作業説明図である。
【図7】従来の法面保護工における老朽化の状態を例示した説明図である。
【図8】従来の補修作業の手順を示した作業説明図である。
【図9】同補修作業の手順を示した作業説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ロックボルト側の具体的な構成に拘束されることはなく、種々の種類のロックボルトに対して広く適用することが可能である。また、法面上に設置される法枠や受圧板などの構造物の老朽化に対して広く適用することが可能である。本発明に適用される頭部部材の材質に関する特段の制約はなく、ステンレス棒鋼などで形成することも可能である。その頭部部材の内部に形成する雌ネジに関しては、該頭部部材を貫通させて形成し、その雌ネジの一側をロックボルトとの連結に使用し、他側を補修時における延長ボルトとの連結に使用するようにすれば、前記雌ネジの形成が単純化され、加工性の向上に有効である。また、頭部部材の途中まで両側から有底状に雌ネジを形成し、一側をロックボルトとの連結に使用し、他側を補修時における延長ボルトとの連結に使用することも可能であり、その場合に、両側の雌ネジの具体的な形態を変えることも可能である。なお、頭部部材の外面に形成する雄ネジは、その頭部部材の外周面の軸線方向の一部に形成するようにしてもよいし、全長に形成するようにしてもよい。
【実施例】
【0010】
図1及び図2は本発明における頭部部材と延長ボルトとの連結構造を例示した説明図である。図1は延長ボルトを装着する前の状態を示した片側断面図であり、図2は延長ボルトの装着後の状態を示した片側断面図である。図示のように、本発明では、地盤に形成された設置孔内に設置されるロックボルト1の頭部側の雄ネジに対して頭部部材2をその内部に形成した雌ネジ3を螺合させて連結する連結構造を採用している。その頭部部材2の内部に形成する雌ネジ3は、本実施例の場合には、該頭部部材2を貫通した状態に形成してあり、その雌ネジ3の一側をロックボルト1との連結に使用し、他側を補修時における延長ボルト4との連結に使用する。また、頭部部材2の上部は、地盤より上方へ突出した状態に設置され、本実施例は、その頭部部材2の外面に形成された雄ネジ5に螺合した締付ナット6によって、受圧板7を締付け固定する場合を例示したものである。なお、本実施例では、頭部部材2の上半部に雄ネジ5を形成し、下半部の外面には外方へ突出したリブ8を形成して、その周囲に充填されるグラウト材との係合により頭部部材2をより的確に固定するように構成している。因みに、本実施例では、前記雌ネジ3を頭部部材2を貫通するように形成した場合を例示したが、前述のように、頭部部材2の両側から途中まで有底状に雌ネジを形成し、下側をロックボルト1との連結に使用し、上側を補修時における延長ボルト4との連結に使用する形態も可能である。
【0011】
しかして、前記受圧板7の設置作業においては、図1に示したように、地盤に形成される削孔などの設置孔内に、ロックボルト1をその頭部側に頭部部材2を連結した状態に設置し、その地盤より上方へ突出した頭部部材2の上部に対して受圧板7を通した状態に設置する。しかる後、その受圧板7の上方へ突出した頭部部材2の雄ネジ5に対して締付ナット6を螺合し、受圧板7を地盤に対して締付け固定するとともに、受圧板7の下方のロックボルト1と設置孔の内壁との間の空間部へのグラウト材の充填が行われる。そして、補修作業に際して延長ボルト4を使用する場合には、図2に示したように、頭部部材2の内部に形成した雌ネジ3に対して延長ボルト4の外面に形成した雄ネジを螺合することにより、簡便に連結することができる。
【0012】
次に、図3〜図6に例示した実施例に基づいて、本発明に係る補修作業の手順に関して説明する。図3は補修作業を実施する前の老朽化した法面保護工の状態を示したものである。図示のように、以下の本実施例では、本発明の適用例として、法面からなる地盤9に形成した削孔などの設置孔10の内部に、前記ロックボルト1をその頭部側に前記頭部部材2を連結した状態で設置し、座金11より上方へ突出した頭部部材2の雄ネジ5に対して締付ナット6を螺合して、その座金11と地盤9との間に設置した法枠などの構造物12を締付け固定することにより法面を保護する形態の法面保護工を、補修の対象とする場合を例示しながら説明することとする。なお、図中13は老朽化により補修対象である既存の構造物12に生じたクラックを示したものである。
【0013】
図4は補修作業の第1段階を示したものである。図示のように、補修作業の第1段階では、既存のロックボルト1に装着した頭部部材2に対する延長ボルト4の連結作業を実施する。この延長ボルト4の頭部部材2に対する連結作業は、前記図1及び図2に基づいて説明したように、延長ボルト4の外面に形成した雄ネジを頭部部材2の内部に形成した雌ネジ3に螺合して締め込むことにより簡便に実施することができる。
【0014】
図5は補修作業の第2段階を示したものである。所期のロックボルト1に対する前記延長ボルト4の連結作業が完了した場合には、この第2段階へ進み、補修対象である既存の構造物12の上部へモルタルやコンクリートからなる補修用構造物14を構築する。この場合、図示のように、補修用構造物14の上方へ延長ボルト4の上部が突出するように施工する。因みに、この補修用構造物14の構築に際して、既存の構造物12の上面の清掃や部分補修、座金11や締付ナット6の錆の除去、清掃などの補助作業を伴う場合もあることはいうまでもない。
【0015】
図6は補修作業の第3段階を示したものである。上述の第2段階で既存の構造物12の上部へ構築したモルタルやコンクリートからなる補修用構造物14が固化した場合には、この第3段階へ進み、図示のように補修用構造物14の上面に座金15を設置した上、上方へ突出した前記延長ボルト4に対して締付ナット16を螺合し、補修用構造物14を締付け固定することにより、補修作業が完了することになる。
【0016】
以上のように、本発明に係る法面保護工の補修方法によれば、既存のロックボルト1の頭部側に装着した頭部部材2に対する延長ボルト4の連結(第1段階)、既存の構造物12上への補修用構造物14の構築(第2段階)、補修用構造物14より上方へ突出した延長ボルト4に対する締付ナット16の螺合及びその締付ナット16による補修用構造物14の締付け(第3段階)という、既存のロックボルト1を活用した3段階からなる簡便な補修作業によって、補修対象である老朽化した法面保護工の補修が可能である。すなわち、従来技術のように新たなロックボルトの設置作業を伴うことなく補修作業が可能なことから、施工性を大幅に向上できるとともに、工事費の削減にも有効であり、しかも、その補修作業において、既存の締付ナットを外す必要はないことから、構造物が不安定になるといった危険も回避できる。因みに、締付ナット16による補修用構造物14の締付けにより、その補修用構造物14の下方に位置する既存の構造物12も間接的に締付け固定されることになる。
【符号の説明】
【0017】
1:ロックボルト、2:頭部部材、3:雌ネジ、4:延長ボルト、5:雄ネジ、6:締付ナット、7:受圧板、8:リブ、9:地盤、10:設置孔、11:座金、12:既存の構造物、13:クラック、14:補修用構造物、15:座金、16:締付ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックボルトの頭部側の雄ネジに対して頭部部材をその内部に形成した雌ネジを螺合させて連結し、該頭部部材の外面に形成した雌ネジに対して締付ナットを螺合して法面上に設置する構造物を締付け固定するとともに、補修時には、前記頭部部材の内部に形成した雌ネジに対して延長ボルトをその外面に形成した雄ネジを螺合させて連結し、さらに前記構造物上に補修用構造物を構築した上、前記延長ボルトの外面に形成した雄ネジに対して締付ナットを螺合して、その延長ボルトを介して補修用構造物を締付け固定することを特徴とする法面保護工の補修方法。
【請求項2】
前記頭部部材の内部に形成する雌ネジを該頭部部材を貫通させて形成し、その頭部部材の雌ネジの一側を前記ロックボルトの頭部側の雄ネジに螺合して該頭部部材をロックボルトに対して連結するとともに、補修時には、前記雌ネジの他側に前記延長ボルトをその外面に形成した雄ネジを螺入して連結するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の法面保護工の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−122412(P2011−122412A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283325(P2009−283325)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】