説明

波付け電線管用の樹脂組成物

【課題】ハロゲン系難燃剤および燐系難燃剤の使用を最小限にとどめるかまたは使用せずに、十分な機械特性と耐燃性とを備えた波付け電線管を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有する管状に成形され、その内部に挿通される電線を保護する波付け電線管用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、高密度ポリエチレン75〜99重量%、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種25〜1重量%を含む樹脂成分100重量部と、表面処理剤として、脂肪酸、脂肪酸塩、またはシラン系もしくはチタネート系のカップリング剤を用いて表面処理された金属水酸化物3〜39重量部とを含有することを特徴とする波付け電線管用の樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高密度ポリエチレンを主成分とする難燃性樹脂組成物で成形された波付け電線管用の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば通信ケーブルなどは、樹脂組成物から成形され表面に凹凸を有する波付け電線管に挿通して保護した状態で設置されている。このような波付け電線管では、圧縮復元性や座屈のしにくさといった機械的強度に加えて、最近では特に難燃性が重視されるようになってきている。
【0003】
従来の耐燃性電線管にはハロゲン系難燃剤が使用されており、燃焼時や焼却時に有害なダイオキシン等の発生のおそれがある。そこで、ハロゲン系難燃剤の代替として燐系難燃剤を使用した難燃性樹脂組成物が提案されているが、燐系難燃剤には毒性の高いものもある。また、赤燐は樹脂に配合する前の単体では爆発の危険性を有するため、製造時の安全性に問題がある。
【0004】
一方、低密度ポリエチレンやエチレン系共重合体に、金属水酸化物や燐系難燃剤を配合したノンハロゲン樹脂組成物が提案されている。しかし、これらのノンハロゲン樹脂組成物から電線管を成形すると、ベース樹脂成分の特性を反映して圧縮復元性や座屈のしにくさなどの機械的強度が不十分になるため、ケーブル保護の目的から好ましくない。
【0005】
そこで、電線管としての機械的強度を得るためにはベース樹脂成分として高密度ポリエチレンを用いるのが有利であると考えられる。しかし、単にベース樹脂成分を高密度ポリエチレンに換えただけでは、難燃剤の均一分散性が悪くなり、かえって機械的強度の大幅な低下を招くという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ハロゲン系難燃剤および燐系難燃剤の使用を最小限にとどめるかまたは使用せずに、十分な機械特性と耐燃性とを備えた波付け電線管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、表面に凹凸を有する管状に成形され、その内部に挿通される電線を保護する波付け電線管用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、高密度ポリエチレン75〜99重量%、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種25〜1重量%を含む樹脂成分100重量部と、表面処理剤として、脂肪酸、脂肪酸塩、またはシラン系もしくはチタネート系のカップリング剤を用いて表面処理された金属水酸化物3〜39重量部とを含有することを特徴とする波付け電線管用の樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤および燐系難燃剤の使用を最小限にとどめるかまたは使用せずに、十分な機械特性と耐燃性とを備えた波付け電線管を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る波付け電線管の一例を図1に示す。図1に示されるように、この波付け電線管の管壁1には山部2と谷部3とが形成されている。これらの構造により管の表面は波形の形状になっている。なお、図1の波付け電線管では山部2および谷部3が螺旋状に形成されているが、管の外周を一周する独立した多数の山部2および谷部3を形成してもよい。
【0010】
本発明者らは、高密度ポリエチレン、酢酸ビニル−エチレン共重合体、水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物を用い、様々な組成で波付け電線管を作製し、燃焼特性および機械特性を評価した。その結果、樹脂成分100重量部に対する水酸化マグネシウムの配合量を25重量部前後に設定した場合に、燃焼特性と機械特性がともに比較的優れた結果が得られることを見出した。また、同様な樹脂組成物を用いて波付け電線管を作製した場合、電線管の肉厚により耐燃焼性が変わることを見出した。本発明はこれらの点に着目してなされたものである。
【0011】
本発明においては、高密度ポリエチレン75〜99重量%、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種25〜1重量%からなる樹脂成分100重量部と、表面処理された金属水酸化物3〜39重量部とを含有する樹脂組成物が用いられる。
【0012】
樹脂成分中の高密度ポリエチレンの配合量が75重量%未満では十分な機械特性が得られない。樹脂成分中の高密度ポリエチレンの配合量が99重量%を超えると耐燃性が不十分になる。高密度ポリエチレンの密度は0.945〜0.970であることが望ましい。ポリエチレンの密度が0.945未満であると電線管の機械特性が不十分になる。密度が0.970を超えるポリエチレンは、コストの安い量販品がないため現実的でない。高密度ポリエチレンのMFRは、0.01〜5g/10分であることが好ましい。
【0013】
樹脂成分中のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の配合量が1重量%未満であると耐燃性が悪化する。樹脂成分中のエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の配合量が17重量部を超えると機械特性が不十分となる。これらの樹脂のうちでは、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体のVAは3〜45が好ましく、MFRは0.2〜80g/10分が好ましい。
【0014】
表面処理された金属水酸化物としては、水酸化マグネシウムが用いられる。水酸化アルミニウムを用いる場合、その熱分解脱水温度が低いことを考慮に入れて混練・押出温度を設定する。押出速度を高めるために押出温度を上げようとする場合には、焼成処理により付着水分を取り除いた水酸化アルミニウムを用いる。水酸化マグネシウムは、その熱分解脱水温度が高いことから、水酸化アルミニウムの場合のような特別な処理を行う必要はない。表面処理剤としては脂肪酸、脂肪酸塩、またはシラン系もしくはチタネート系のカップリング剤が使用される。なお、機械特性を損なわない範囲で表面処理していない金属水酸化物を併用してもよい。
【0015】
金属水酸化物の配合量は、樹脂成分100重量部に対して3〜39重量部に設定される。金属水酸化物の配合量が3重量部未満では十分な耐燃性が得られない。金属水酸化物の配合量が39重量部を超えると十分な機械特性が得られない。また、金属水酸化物の配合量が39重量部を超えると、表面の摩擦抵抗が大きくなり、ケーブルを通線することが困難になるため好ましくない。さらに、複数の電線管を、より大口径のプラスチックパイプ内に通す工法を採用する場合、金属水酸化物の配合量が39重量部を超えると、やはり摩擦抵抗のために大口径のプラスチックパイプ内に電線管を通すことが困難になるため好ましくない。
【0016】
本発明の波付け電線管は肉厚を0.75〜1.20mmにすることが好ましい。肉厚が0.75mm未満であると耐燃性と機械特性が悪化する。肉厚が1.20mmを超えると目付量が多くなりコストが高くなるうえに、可とう性も悪化するため好ましくない。JIS C8411に規定されている耐燃性に合格するように、金属水酸化物の配合量に応じて、肉厚を上記の範囲内で適宜変えることが好ましい。特に、金属水酸化物の配合量を少なくするほど、肉厚を厚くするのが好ましい。
【0017】
以上のように本発明によれば、比較的限定された組成範囲内でのみ、機械特性、耐熱性に優れ、製造性にも優れた波付け電線管が得られる。
【0018】
なお、本発明の波付け電線管には、その機械特性を悪化させない範囲で、顔料、酸化防止剤、耐候剤、シリコーン系または含窒素系の難燃剤、表面処理または表面未処理の炭酸カルシウム、クレー、タルクなどの無機質充填材、表面未処理の金属水酸化物、その他の樹脂成分などを適宜配合してもよい。
【実施例】
【0019】
実施例1〜15、17および比較例1〜8
以下の原料を用いた。
高密度ポリエチレン(HDPE−1):出光石油化学製、密度0.962、メルトインデックス(MI)0.11
高密度ポリエチレン(HDPE−2):出光石油化学製、密度0.957、MI0.04
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA):三井デュポン製、MI4.0、VA28
エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA):日本ユニカー製、MI1.6、EA含有量24%
水酸化マグネシウム−1:表面処理あり、協和化学製、商品名マグシーズN1
水酸化マグネシウム−2:表面処理あり、神島化学製
難燃剤:PE用臭素系難燃剤マスターバッチ、大日本インキ製。
【0020】
上記の各成分を表1、表2、表3に示す所定の割合で配合し、押出成形して、各表に示した肉厚を有する内径約16mmの波付け電線管を製造した。
【0021】
得られた波付け電線管について下記試験を行った。
圧縮試験:JIS C8411の圧縮復元試験に準拠。圧縮減少率が7%未満で合格であったものを○、圧縮減少率が7%以上、10%以下で合格であったものを△、圧縮減少率が10%を越え不合格であったものを×で示した。
【0022】
耐燃性試験:JIS C8411の耐燃性試験に準拠。それぞれ3個の試料について試験を行った。残炎時間がいずれも1秒以下で合格であったものを○、残炎時間が1秒を超えるものがあったが、いずれも30秒以内で合格であったものを△、不合格であったものを×で示した。
【0023】
通線性試験:R100mmの曲げを3カ所設けた10mの電線管内にケーブル(VVF、EEF、IV、IE)を挿通して、通線張力を測定した。通線張力が、従来のハロゲン系難燃剤を使用した波付け電線管(比較例4)にケーブルを挿通させたときの張力の2倍以下であった場合を○、2倍を超えるものがあった場合を△とした。ここで、VVF:PVC insulated PVC sheathed cable Flat type;EEF:PE insulated PE sheathed cable Flat type;IV:Indoor PVC insulated wire;IE:Indoor PE insulated wire である。
【0024】
可とう性試験:JIS C8411の可とう性試験に準拠。−15℃で以下の評価を行った。内径16mmの波付け電線管を、138mm径(外径×6)の円筒外周に沿わせて90°屈曲させて保持した後、直線状に戻す。この操作を7回繰り返した後、波付け電線管を屈曲させたまま、その内部に12.2mm径(内径の75%)のゲージを通過させる。ゲージがスムーズに通過した場合を○、変形のためにゲージが通過しにくい場合を△とした。
【0025】
表1〜3から明らかなように、本発明で規定した組成範囲を満たしている各実施例の波付け電線管は、圧縮減少率が小さく、耐燃性に優れ、通線性にも優れている。
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る波付け電線管の一例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0029】
1…管壁
2…山部
3…谷部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸を有する管状に成形され、その内部に挿通される電線を保護する波付け電線管用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物は、
高密度ポリエチレン75〜99重量%、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種25〜1重量%を含む樹脂成分100重量部と、
表面処理剤として、脂肪酸、脂肪酸塩、またはシラン系もしくはチタネート系のカップリング剤を用いて表面処理された金属水酸化物3〜39重量部と
を含有することを特徴とする波付け電線管用の樹脂組成物。
【請求項2】
高密度ポリエチレンは、密度が0.945〜0.970、メルトフローレートが0.01〜5g/10分であることを特徴とする請求項1記載の波付け電線管用の樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2007−204745(P2007−204745A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6579(P2007−6579)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【分割の表示】特願2002−99234(P2002−99234)の分割
【原出願日】平成14年4月1日(2002.4.1)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】