波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造
【課題】平水中抵抗を増加させることなく波浪中抵抗増加を低減させる波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を提供すること。
【解決手段】船舶10の船首部11に設けたアンカー用のボルスター20と、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップ30とを備え、波浪中抵抗増加低減ステップ30を、ボルスター20の下方で船首部11における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中におけるボルスター20による抵抗増加を低減したことを特徴とする。
【解決手段】船舶10の船首部11に設けたアンカー用のボルスター20と、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップ30とを備え、波浪中抵抗増加低減ステップ30を、ボルスター20の下方で船首部11における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中におけるボルスター20による抵抗増加を低減したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平水中抵抗を増加させることなく波浪中抵抗増加を低減させる波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、波浪中抵抗低減、波浪による揺れ低減、又は波浪衝撃の緩和などを目的として船体に構造物を取り付けることが提案されている。
例えば、特許文献1では、波浪中抵抗増加を低減する目的で船首から船央にかけて張り出しフィンを設けることが開示されている。この張り出しフィンは、船体の船首部、又は船尾部、あるいはその両者に略水平に設けるものであり、船体の喫水線より高い位置に設けている。波浪中には、張り出しフィンが水中に没したり空中に出たりするようになり、張り出しフィンが水中を移動する場合には船体が流体から抵抗を受けることで、船体の上下揺れや縦揺れに対して減衰力となることを狙っており、船体運動の低減によって波浪中抵抗増加を低減している。
また、特許文献2では、波浪による船舶の縦揺れを低減する目的で船首端から左右両舷側部に沿いながら後方へゆくにしたがい低下するように傾斜した帯状突起を設けることが開示されている。この帯状突起は、満載喫水線よりも上方の船体外板面に、海水との相互作用で造波減衰力の増大をもたらすように設けられ、波浪中を航行する際の船体のピッチングやヒービングなどの船体運動を抑制するものである。
【0003】
また、特許文献3では、波浪時の振動及び騒音を低減する目的で船首部に後方を低くした板状質量部材を設けることが開示されている。この板状質量部材は、空気浮上型高速艇のように高速度で航行する船舶に関し、特に波浪時の船体振動や騒音の発生を軽減させるもので、高速艇における波浪衝撃力を緩和することで振動や騒音を防止している。
また、特許文献4では、スプレー波の発生を防止する目的で船首部に水平なスプレー防止フィンを設けることが開示されている。スプレー波は、砕波を起こすとき船体に対する砕波抵抗を増加させるとともに砕波雑音の発生や視界を悪くすることもあることから、スプレー波が発生した後ではなく、スプレー防止フィンによってスプレー波の発生を未然に防止している。従って、スプレー波の発生自体を防止するために、スプレー防止フィンは喫水面すれすれに設け、船首先端から船体の両側面にわたって設けている。
【0004】
また、特許文献5では、強烈な波浪衝撃を緩和する目的で船首部から後方に向かって下方に傾斜した条溝を設けることが開示されている。この条溝は、喫水線よりも上の船首部外面に平行に複数設けることで、強烈な波浪衝撃による船首外板の凹損を防止している。
また、特許文献6では、船首に当たる波浪の砕波による船体抵抗の増加を減少する目的で水平な防波フェンダーを設けることが開示されている。短波長不規則波は、波高に随って適宜段階の防波フェンダーにより騰勢を消去され、各防波フェンダーの下面に沿って両船側に流れ、エネルギー損となる砕波を生じさせないものである。
【0005】
また、特許文献7では、船首部の波浪衝撃緩和を図る目的で、フレア角が30度以上の外板に突起体を設けることが開示されている。特許文献7は、その前提条件としてフレア角が30度以上の外板を形成することで甲板面積を広くとる船舶に関するものであり、このフレア角が30度以上の外板では損傷率が飛躍的に大きくなるために、外板への波浪による衝撃を緩和するために突起体を設けている。
また、特許文献8では、造波抵抗が少なく横安定性に優れた高速横安定性船体構造を提供する目的で船首部から船尾部に向かって延びる波返し材を設けることが開示されている。この波返し材は、高速船特有のスプレーのはい上がり防止のためのものであり、スプレーのはい上がりを衝突させて反作用力による高速走行時の横安定性を図ることからも船体に対して十分な長さが必要なものである。
また、特許文献9では、波の発生を防止する目的で水平方向の波抑制板体を設けることが開示されている。この波抑制板体は船尾部に設けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−267293号公報
【特許文献2】特開2004−136780号公報
【特許文献3】特開平6−144345号公報
【特許文献4】特開2001−247075号公報
【特許文献5】実願昭48−76880号(実開昭50−23880号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和50年3月18日特許庁発行)公報
【特許文献6】実願昭58−15796号(実開昭59−121293号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和59年8月15日特許庁発行)公報
【特許文献7】実願昭59−78054号(実開昭60−189486号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和60年12月16日特許庁発行)公報
【特許文献8】特開平6−122390号公報
【特許文献9】特開平9−175478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
船首にアンカー用のボルスターを備えた船舶では、ボルスターへの波の影響により波浪中抵抗が増加してしまうが、ボルスターによる波浪中抵抗増加を低減させることは今まで着目されていない。
また、航行時には船首部において静的水位が上昇するため、この航行時の静的水位上昇位置より下方に位置する構造物は流体抵抗を受けて平水中抵抗を増加させてしまう。
特許文献1から9に開示された構造は、いずれもボルスターによる波浪中抵抗増加を低減させるものではなく、また静的水位上昇位置に着目したものも存在しない。
【0008】
そこで本発明は、平水中抵抗を増加させることなく波浪中抵抗増加を低減させる波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載に対応した波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造においては、船舶の船首部に設けたアンカー用のボルスターと、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップとを備え、波浪中抵抗増加低減ステップを、ボルスターの下方で船首部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中におけるボルスターによる抵抗増加を低減したことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、ボルスターに向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップによって押し分けられるため、ボルスターへの波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定したことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップの下面への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップの損傷を防止することができる。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの船舶の前後方向の幅をボルスターの幅よりも大きく設定したことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、ボルスターへの波の衝突を確実に低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの船首部の表面からの突出寸法をボルスターの突出寸法よりも小さく設定したことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、ボルスターとしての本来の機能を損なうことなく、ボルスターへの波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップへの波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
請求項5記載に対応した波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造においては、船舶の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップを備え、波浪中抵抗増加低減ステップを、船体側部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減したことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップによって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けたことを特徴とする。静的水位上昇位置の最大高さ位置では、波浪中には波浪中抵抗増加低減ステップに波がかぶってしまうことが多く発生してしまうが、請求項6に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを最大高さ位置よりも後方に設けることで水中に没することがないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
請求項7記載の本発明は、請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、静的水位上昇位置の低下率変化範囲で波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
請求項8記載の本発明は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、船舶の後方に向かって高くしたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップの下面に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を推力に利用することができる。
請求項9記載の本発明は、請求項5から請求項8のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定したことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、ボルスターに向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップによって押し分けられるため、ボルスターへの波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
なお、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定した場合には、波浪中抵抗増加低減ステップの下面への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップの損傷を防止することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの船舶の前後方向の幅をボルスターの幅よりも大きく設定した場合には、ボルスターへの波の衝突を確実に低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの船首部の表面からの突出寸法をボルスターの突出寸法よりも小さく設定した場合には、ボルスターとしての本来の機能を損なうことなく、ボルスターへの波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップへの波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、本発明の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップによって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けた場合には、波浪中抵抗増加低減ステップが水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けた場合には、静的水位上昇位置の低下率変化範囲で波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、船舶の後方に向かって高くした場合には、波浪中抵抗増加低減ステップの下面に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を推力に利用することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定した場合には、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、
【図2】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図1における要部概念E−E矢視図
【図3】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念斜視図
【図4】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフ
【図5】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の速度影響を示すグラフ
【図6】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の波高影響を示すグラフ
【図7】本発明の第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図
【図8】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図7における要部概念F−F矢視図
【図9】実験結果に基づく静的水位上昇位置を示す要部概念側面図
【図10】同実験に用いた喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示す図
【図11】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフ
【図12】本発明の第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、
【図13】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図12における要部概念G−G矢視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図1は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図2は図1における要部概念E−E矢視図、図3は同要部概念斜視図である。
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船首部11に設けたアンカー用のボルスター20と、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップ30とを備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ30は、ボルスター20の下方で船首部11における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中におけるボルスター20による抵抗増加を低減している。
【0013】
静的水位上昇位置とは、平水中(波の無い状態)での船舶の走行時に生じる水面の盛り上がり位置のことであり、船舶10には設計時に代表的な船舶速度として航海速力が設定されており、静的水位上昇位置は船舶10毎に設定されている航海速力での速度によって生じるものとしている。
静的水位上昇位置Aは、特に船首部11において喫水線Cよりも盛り上がり、滑らかに下降して喫水線Cに近づくような状態となる。
波浪中抵抗増加低減ステップ30の船舶10の前後方向の幅W1は、ボルスター20の幅W2よりも大きく設定している。図示の場合には、波浪中抵抗増加低減ステップ30の前端は、ボルスター20の前端位置とボルスター20の中心位置との間に配置し、波浪中抵抗増加低減ステップ30の後端は、ボルスター20の後端位置よりも後方に配置している。
【0014】
なお、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。また、ボルスター20が図示の場合よりも船舶10の後方側に位置させる場合には、波浪中抵抗増加低減ステップ30の前端は、ボルスター20の前端位置よりも前方に配置する。
波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31は、水平面Bより上方向に30°以上の角度αに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。ここではボルスター20の突出寸法H2は、ボルスター20の下端における寸法である。ボルスター20は、アンカーの一部や鎖等が船体に擦れ、アンカーの下降や上昇に支障を来したり、船体を損傷することを防止する目的で設けられているが、波浪中抵抗増加低減ステップ30の突出寸法H1をボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定することにより、アンカーが波浪中抵抗増加低減ステップ30に引っ掛かったり損傷したりすることが無く、ボルスター20としての本来の機能を果たせる。
【0015】
図4は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフである。
実験は、本出願人の水槽(長さ150m)で実施した。
模型船は、船長3.5mとし、実船として船長190m程度を想定した。波状態は、実船換算波高3m、波長船長比0.5を想定し向波とした。また、計画速力は1.5m/s(21knot)とした。
また波浪中抵抗増加低減ステップ30は、実船スケールとして幅W1が5m、高さが1.5mを想定し、角度αを32°とした縮尺モデルを用いた。
【0016】
図4において、比較例1は波浪中抵抗増加低減ステップ30を持たないものであり、実施例1は波浪中抵抗増加低減ステップ30を取り付けたものである。
図4における縦軸は波高を使って無次元化した抵抗増加係数(KAW)であり、実施例1は比較例1に対して10%の波浪中抵抗増加低減率の効果があることが分かった。
以上のとおり実験結果によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを備えることで、波高3m相当、向波、計画速力21knotで波浪中抵抗増加10%減の見込みであることが明らかとなった。
【0017】
図5は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の速度影響を示すグラフである。
図5における実施例1は、図4における実施例1と同一条件による実験値であり、実施例2及び実施例3は実施例1と試験速度を変更したものである。なお、比較例1は、図4における比較例1と同一条件による実験値であり、比較例2及び比較例3は実施例2及び実施例3と試験速度を同じとしたものである。
【0018】
実施例1は試験速度を1.5m/s(21knot)としたのに対して、実施例2は試験速度1.3m/s(19knot)、実施例3は試験速度1.1m/s(15knot)とした。
図5に示すように、速度が計画速力より低い場合においても、船首造波が抑えられ低減効果は小さくなるが、抵抗が増加することがないことを確認できた。
【0019】
図6は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の波高影響を示すグラフである。
図6における実施例1は、図4及び図5における実施例1と同一条件による実験値であり、実施例4及び実施例5は実施例1と試験波高を変更したものである。なお、比較例1は、図4及び図5における比較例1と同一条件による実験値であり、比較例4及び比較例5は実施例4及び実施例5と試験波高を同じとしたものである。
実施例1は波高換算3m、としたのに対して、実施例4は波高2m、実施例5は波高4m、とした。
図6に示すように、波高3m相当の波高から多少変化した場合でも、抵抗低減効果が認められた。
【0020】
第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、ボルスター20に向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップ30によって押し分けられるため、ボルスター20への波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ30を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
【0021】
なお、波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31の角度を水平面より上方向に30°以上に設定しているので、波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップ30の損傷を防止することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船舶10の前後方向の幅W1をボルスター20の幅W2よりも大きく設定しているので、ボルスター20への波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船首部11の表面からの突出寸法H1をボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定しているので、ボルスター20としての本来の機能を果しつつ、ボルスター20への波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップ30への波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
【0022】
以下に、本発明の第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図7は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図8は図7における要部概念F−F矢視図である。なお、上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。また、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。この図7の第2の実施形態における静的水位上昇位置は、船舶10の設計時の航海速力を図1の場合よりも大きく想定した試験速度としているので、図1における静的水位上昇位置よりも高いレベルとなっている。
【0023】
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップ40を備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ40は、船体側部における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減している。
波浪中抵抗増加低減ステップ40の下面41は、水平面Bより下方向に角度βに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ40の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。なお、船体側部の波浪中抵抗増加低減ステップ40は、ボルスター20の本来の機能を損なうおそれのない場合は、突出寸法H1を突出寸法H2と同等もしくは大きく設定することもできる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40は、船舶10の後方に向かって低くしている。ここで波浪中抵抗増加低減ステップ40の後方への傾斜角は、波浪中抵抗増加低減ステップ40の設置位置における静的水位上昇位置Aの傾斜角と同等か、この位置における静的水位上昇位置Aの傾斜角よりも大きな角度とする。
【0024】
次に、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップの設置位置について図9及び図10を用いて説明する。
図9は、実験結果に基づく静的水位上昇位置を示す要部概念側面図、図10は同実験に用いた喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示す図である。なお、図9、図10の横軸における文字は、実船としてのセクション番号を示している。また、図10の縦軸における数値は、実船としての水平方向距離を船幅で割った値を示しているが船幅の中心をゼロとして片側だけを示している。図10では、喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示している。
【0025】
実験は、本出願人の水槽(長さ150m)で実施した。模型船は、船長3.5mとし、実船として船長190m程度を想定した。波状態は、実船換算波高3m、波長船長比0.5を想定し向波とした。また、速度は1.6m/s(22knot)とした。
【0026】
図に示すように、静的水位上昇位置Aは、船首部11において最大高さが形成され、この最大高さ位置から後方に向かって徐々に低下して喫水線Cに近づくが、低下率が大きく変化する低下率変化範囲Dが存在することが分かる。本実験では最大高さ位置は、船首部11先端に生じているが、条件によっては船体の後方にずれることもある。本実験では、喫水線Cにおける船首先端FPからS.S.9.6の位置で低下率変化範囲Dが始まり、低下率変化範囲Dは、喫水線Cにおける船首先端FPからS.S.9.26の位置までとなっている。
波浪中抵抗増加低減ステップ40は、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方であり、更には静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けることが好ましい。
【0027】
図11は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフである。
波浪中抵抗増加低減ステップ40は、実船スケールとして幅4m、後方への傾斜角を20°、下面の角度βを12°とした。
図11において、比較例6は波浪中抵抗増加低減ステップ40を持たないものであり、実施例6は波浪中抵抗増加低減ステップ40を取り付けたものである。
図11における縦軸は波高を使って無次元化した抵抗増加係数(KAW)であり、実施例6は比較例6に対して7.4%の波浪中抵抗増加低減率の効果があることが分かった。
以上のとおり実験結果によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを備えることで、波高3m相当、向波、速度(22knot)で波浪中抵抗増加7%減の見込みであることが明らかとなった。
【0028】
第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップ40によって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方に設けているので、波浪中抵抗増加低減ステップ40が水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
【0029】
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けているので、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dで波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40の下面41の角度を水平面より下方向に設定しているので、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【0030】
以下に、本発明の第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図12は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図13は同図12における要部概念G−G矢視図である。なお、上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。また、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。
【0031】
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップ50を備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ50は、船体側部における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減している。
波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51は、水平面Bより下方向に角度βに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ50の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。なお、船体側部の波浪中抵抗増加低減ステップ50は、ボルスター20の本来の機能を損なうおそれのない場合は、突出寸法H1を突出寸法H2と同等もしくは大きく設定することもできる。
波浪中抵抗増加低減ステップ50は、船舶10の後方に向かって高くしている。なお、波浪中抵抗増加低減ステップ50は、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方であり、更には静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けることが好ましい。
【0032】
第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップ50によって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方に設けているので、波浪中抵抗増加低減ステップ50が水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
【0033】
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けているので、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dで波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51の角度を水平面より下方向に設定しているので、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を船舶10の後方に向かって高くしているので、図12に示すように波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を太矢印で示すように推力に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、船首にボルスターを備えた船舶に用いられ、特にコンテナ船をはじめ、油タンカー、LNG船、又はLPG船などの船舶に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0035】
10 船舶
11 船首部
20 ボルスター
30 波浪中抵抗増加低減ステップ
31 下面
40 波浪中抵抗増加低減ステップ
41 下面
50 波浪中抵抗増加低減ステップ
51 下面
A 静的水位上昇位置
B 水平面
C 喫水線
D 低下率変化範囲
【技術分野】
【0001】
本発明は、平水中抵抗を増加させることなく波浪中抵抗増加を低減させる波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、波浪中抵抗低減、波浪による揺れ低減、又は波浪衝撃の緩和などを目的として船体に構造物を取り付けることが提案されている。
例えば、特許文献1では、波浪中抵抗増加を低減する目的で船首から船央にかけて張り出しフィンを設けることが開示されている。この張り出しフィンは、船体の船首部、又は船尾部、あるいはその両者に略水平に設けるものであり、船体の喫水線より高い位置に設けている。波浪中には、張り出しフィンが水中に没したり空中に出たりするようになり、張り出しフィンが水中を移動する場合には船体が流体から抵抗を受けることで、船体の上下揺れや縦揺れに対して減衰力となることを狙っており、船体運動の低減によって波浪中抵抗増加を低減している。
また、特許文献2では、波浪による船舶の縦揺れを低減する目的で船首端から左右両舷側部に沿いながら後方へゆくにしたがい低下するように傾斜した帯状突起を設けることが開示されている。この帯状突起は、満載喫水線よりも上方の船体外板面に、海水との相互作用で造波減衰力の増大をもたらすように設けられ、波浪中を航行する際の船体のピッチングやヒービングなどの船体運動を抑制するものである。
【0003】
また、特許文献3では、波浪時の振動及び騒音を低減する目的で船首部に後方を低くした板状質量部材を設けることが開示されている。この板状質量部材は、空気浮上型高速艇のように高速度で航行する船舶に関し、特に波浪時の船体振動や騒音の発生を軽減させるもので、高速艇における波浪衝撃力を緩和することで振動や騒音を防止している。
また、特許文献4では、スプレー波の発生を防止する目的で船首部に水平なスプレー防止フィンを設けることが開示されている。スプレー波は、砕波を起こすとき船体に対する砕波抵抗を増加させるとともに砕波雑音の発生や視界を悪くすることもあることから、スプレー波が発生した後ではなく、スプレー防止フィンによってスプレー波の発生を未然に防止している。従って、スプレー波の発生自体を防止するために、スプレー防止フィンは喫水面すれすれに設け、船首先端から船体の両側面にわたって設けている。
【0004】
また、特許文献5では、強烈な波浪衝撃を緩和する目的で船首部から後方に向かって下方に傾斜した条溝を設けることが開示されている。この条溝は、喫水線よりも上の船首部外面に平行に複数設けることで、強烈な波浪衝撃による船首外板の凹損を防止している。
また、特許文献6では、船首に当たる波浪の砕波による船体抵抗の増加を減少する目的で水平な防波フェンダーを設けることが開示されている。短波長不規則波は、波高に随って適宜段階の防波フェンダーにより騰勢を消去され、各防波フェンダーの下面に沿って両船側に流れ、エネルギー損となる砕波を生じさせないものである。
【0005】
また、特許文献7では、船首部の波浪衝撃緩和を図る目的で、フレア角が30度以上の外板に突起体を設けることが開示されている。特許文献7は、その前提条件としてフレア角が30度以上の外板を形成することで甲板面積を広くとる船舶に関するものであり、このフレア角が30度以上の外板では損傷率が飛躍的に大きくなるために、外板への波浪による衝撃を緩和するために突起体を設けている。
また、特許文献8では、造波抵抗が少なく横安定性に優れた高速横安定性船体構造を提供する目的で船首部から船尾部に向かって延びる波返し材を設けることが開示されている。この波返し材は、高速船特有のスプレーのはい上がり防止のためのものであり、スプレーのはい上がりを衝突させて反作用力による高速走行時の横安定性を図ることからも船体に対して十分な長さが必要なものである。
また、特許文献9では、波の発生を防止する目的で水平方向の波抑制板体を設けることが開示されている。この波抑制板体は船尾部に設けるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−267293号公報
【特許文献2】特開2004−136780号公報
【特許文献3】特開平6−144345号公報
【特許文献4】特開2001−247075号公報
【特許文献5】実願昭48−76880号(実開昭50−23880号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和50年3月18日特許庁発行)公報
【特許文献6】実願昭58−15796号(実開昭59−121293号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和59年8月15日特許庁発行)公報
【特許文献7】実願昭59−78054号(実開昭60−189486号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和60年12月16日特許庁発行)公報
【特許文献8】特開平6−122390号公報
【特許文献9】特開平9−175478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
船首にアンカー用のボルスターを備えた船舶では、ボルスターへの波の影響により波浪中抵抗が増加してしまうが、ボルスターによる波浪中抵抗増加を低減させることは今まで着目されていない。
また、航行時には船首部において静的水位が上昇するため、この航行時の静的水位上昇位置より下方に位置する構造物は流体抵抗を受けて平水中抵抗を増加させてしまう。
特許文献1から9に開示された構造は、いずれもボルスターによる波浪中抵抗増加を低減させるものではなく、また静的水位上昇位置に着目したものも存在しない。
【0008】
そこで本発明は、平水中抵抗を増加させることなく波浪中抵抗増加を低減させる波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載に対応した波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造においては、船舶の船首部に設けたアンカー用のボルスターと、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップとを備え、波浪中抵抗増加低減ステップを、ボルスターの下方で船首部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中におけるボルスターによる抵抗増加を低減したことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、ボルスターに向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップによって押し分けられるため、ボルスターへの波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定したことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップの下面への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップの損傷を防止することができる。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの船舶の前後方向の幅をボルスターの幅よりも大きく設定したことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、ボルスターへの波の衝突を確実に低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの船首部の表面からの突出寸法をボルスターの突出寸法よりも小さく設定したことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、ボルスターとしての本来の機能を損なうことなく、ボルスターへの波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップへの波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
請求項5記載に対応した波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造においては、船舶の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップを備え、波浪中抵抗増加低減ステップを、船体側部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減したことを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップによって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けたことを特徴とする。静的水位上昇位置の最大高さ位置では、波浪中には波浪中抵抗増加低減ステップに波がかぶってしまうことが多く発生してしまうが、請求項6に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを最大高さ位置よりも後方に設けることで水中に没することがないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
請求項7記載の本発明は、請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けたことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、静的水位上昇位置の低下率変化範囲で波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
請求項8記載の本発明は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップを、船舶の後方に向かって高くしたことを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、波浪中抵抗増加低減ステップの下面に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を推力に利用することができる。
請求項9記載の本発明は、請求項5から請求項8のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造において、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定したことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、ボルスターに向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップによって押し分けられるため、ボルスターへの波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
なお、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定した場合には、波浪中抵抗増加低減ステップの下面への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップの損傷を防止することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの船舶の前後方向の幅をボルスターの幅よりも大きく設定した場合には、ボルスターへの波の衝突を確実に低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの船首部の表面からの突出寸法をボルスターの突出寸法よりも小さく設定した場合には、ボルスターとしての本来の機能を損なうことなく、ボルスターへの波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップへの波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、本発明の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップによって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップを静的水位上昇位置よりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けた場合には、波浪中抵抗増加低減ステップが水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けた場合には、静的水位上昇位置の低下率変化範囲で波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップを、船舶の後方に向かって高くした場合には、波浪中抵抗増加低減ステップの下面に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を推力に利用することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定した場合には、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、
【図2】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図1における要部概念E−E矢視図
【図3】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念斜視図
【図4】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフ
【図5】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の速度影響を示すグラフ
【図6】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の波高影響を示すグラフ
【図7】本発明の第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図
【図8】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図7における要部概念F−F矢視図
【図9】実験結果に基づく静的水位上昇位置を示す要部概念側面図
【図10】同実験に用いた喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示す図
【図11】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフ
【図12】本発明の第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、
【図13】本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す図12における要部概念G−G矢視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図1は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図2は図1における要部概念E−E矢視図、図3は同要部概念斜視図である。
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船首部11に設けたアンカー用のボルスター20と、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップ30とを備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ30は、ボルスター20の下方で船首部11における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中におけるボルスター20による抵抗増加を低減している。
【0013】
静的水位上昇位置とは、平水中(波の無い状態)での船舶の走行時に生じる水面の盛り上がり位置のことであり、船舶10には設計時に代表的な船舶速度として航海速力が設定されており、静的水位上昇位置は船舶10毎に設定されている航海速力での速度によって生じるものとしている。
静的水位上昇位置Aは、特に船首部11において喫水線Cよりも盛り上がり、滑らかに下降して喫水線Cに近づくような状態となる。
波浪中抵抗増加低減ステップ30の船舶10の前後方向の幅W1は、ボルスター20の幅W2よりも大きく設定している。図示の場合には、波浪中抵抗増加低減ステップ30の前端は、ボルスター20の前端位置とボルスター20の中心位置との間に配置し、波浪中抵抗増加低減ステップ30の後端は、ボルスター20の後端位置よりも後方に配置している。
【0014】
なお、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。また、ボルスター20が図示の場合よりも船舶10の後方側に位置させる場合には、波浪中抵抗増加低減ステップ30の前端は、ボルスター20の前端位置よりも前方に配置する。
波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31は、水平面Bより上方向に30°以上の角度αに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。ここではボルスター20の突出寸法H2は、ボルスター20の下端における寸法である。ボルスター20は、アンカーの一部や鎖等が船体に擦れ、アンカーの下降や上昇に支障を来したり、船体を損傷することを防止する目的で設けられているが、波浪中抵抗増加低減ステップ30の突出寸法H1をボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定することにより、アンカーが波浪中抵抗増加低減ステップ30に引っ掛かったり損傷したりすることが無く、ボルスター20としての本来の機能を果たせる。
【0015】
図4は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフである。
実験は、本出願人の水槽(長さ150m)で実施した。
模型船は、船長3.5mとし、実船として船長190m程度を想定した。波状態は、実船換算波高3m、波長船長比0.5を想定し向波とした。また、計画速力は1.5m/s(21knot)とした。
また波浪中抵抗増加低減ステップ30は、実船スケールとして幅W1が5m、高さが1.5mを想定し、角度αを32°とした縮尺モデルを用いた。
【0016】
図4において、比較例1は波浪中抵抗増加低減ステップ30を持たないものであり、実施例1は波浪中抵抗増加低減ステップ30を取り付けたものである。
図4における縦軸は波高を使って無次元化した抵抗増加係数(KAW)であり、実施例1は比較例1に対して10%の波浪中抵抗増加低減率の効果があることが分かった。
以上のとおり実験結果によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを備えることで、波高3m相当、向波、計画速力21knotで波浪中抵抗増加10%減の見込みであることが明らかとなった。
【0017】
図5は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の速度影響を示すグラフである。
図5における実施例1は、図4における実施例1と同一条件による実験値であり、実施例2及び実施例3は実施例1と試験速度を変更したものである。なお、比較例1は、図4における比較例1と同一条件による実験値であり、比較例2及び比較例3は実施例2及び実施例3と試験速度を同じとしたものである。
【0018】
実施例1は試験速度を1.5m/s(21knot)としたのに対して、実施例2は試験速度1.3m/s(19knot)、実施例3は試験速度1.1m/s(15knot)とした。
図5に示すように、速度が計画速力より低い場合においても、船首造波が抑えられ低減効果は小さくなるが、抵抗が増加することがないことを確認できた。
【0019】
図6は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率の波高影響を示すグラフである。
図6における実施例1は、図4及び図5における実施例1と同一条件による実験値であり、実施例4及び実施例5は実施例1と試験波高を変更したものである。なお、比較例1は、図4及び図5における比較例1と同一条件による実験値であり、比較例4及び比較例5は実施例4及び実施例5と試験波高を同じとしたものである。
実施例1は波高換算3m、としたのに対して、実施例4は波高2m、実施例5は波高4m、とした。
図6に示すように、波高3m相当の波高から多少変化した場合でも、抵抗低減効果が認められた。
【0020】
第1の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、ボルスター20に向かっていく波が波浪中抵抗増加低減ステップ30によって押し分けられるため、ボルスター20への波の衝突を少なくすることができ、波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ30を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
【0021】
なお、波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31の角度を水平面より上方向に30°以上に設定しているので、波浪中抵抗増加低減ステップ30の下面31への波の衝突による衝撃を緩和することができ、波浪中抵抗増加低減ステップ30の損傷を防止することができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船舶10の前後方向の幅W1をボルスター20の幅W2よりも大きく設定しているので、ボルスター20への波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ30の船首部11の表面からの突出寸法H1をボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定しているので、ボルスター20としての本来の機能を果しつつ、ボルスター20への波の衝突を低減するとともに波浪中抵抗増加低減ステップ30への波の衝突を低減することができ、波浪中抵抗増加を低減できる。
【0022】
以下に、本発明の第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図7は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図8は図7における要部概念F−F矢視図である。なお、上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。また、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。この図7の第2の実施形態における静的水位上昇位置は、船舶10の設計時の航海速力を図1の場合よりも大きく想定した試験速度としているので、図1における静的水位上昇位置よりも高いレベルとなっている。
【0023】
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップ40を備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ40は、船体側部における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減している。
波浪中抵抗増加低減ステップ40の下面41は、水平面Bより下方向に角度βに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ40の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。なお、船体側部の波浪中抵抗増加低減ステップ40は、ボルスター20の本来の機能を損なうおそれのない場合は、突出寸法H1を突出寸法H2と同等もしくは大きく設定することもできる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40は、船舶10の後方に向かって低くしている。ここで波浪中抵抗増加低減ステップ40の後方への傾斜角は、波浪中抵抗増加低減ステップ40の設置位置における静的水位上昇位置Aの傾斜角と同等か、この位置における静的水位上昇位置Aの傾斜角よりも大きな角度とする。
【0024】
次に、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップの設置位置について図9及び図10を用いて説明する。
図9は、実験結果に基づく静的水位上昇位置を示す要部概念側面図、図10は同実験に用いた喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示す図である。なお、図9、図10の横軸における文字は、実船としてのセクション番号を示している。また、図10の縦軸における数値は、実船としての水平方向距離を船幅で割った値を示しているが船幅の中心をゼロとして片側だけを示している。図10では、喫水位置における船体形状と静的水位上昇位置の投影形状を示している。
【0025】
実験は、本出願人の水槽(長さ150m)で実施した。模型船は、船長3.5mとし、実船として船長190m程度を想定した。波状態は、実船換算波高3m、波長船長比0.5を想定し向波とした。また、速度は1.6m/s(22knot)とした。
【0026】
図に示すように、静的水位上昇位置Aは、船首部11において最大高さが形成され、この最大高さ位置から後方に向かって徐々に低下して喫水線Cに近づくが、低下率が大きく変化する低下率変化範囲Dが存在することが分かる。本実験では最大高さ位置は、船首部11先端に生じているが、条件によっては船体の後方にずれることもある。本実験では、喫水線Cにおける船首先端FPからS.S.9.6の位置で低下率変化範囲Dが始まり、低下率変化範囲Dは、喫水線Cにおける船首先端FPからS.S.9.26の位置までとなっている。
波浪中抵抗増加低減ステップ40は、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方であり、更には静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けることが好ましい。
【0027】
図11は、本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造による波浪中抵抗増加低減率を示すグラフである。
波浪中抵抗増加低減ステップ40は、実船スケールとして幅4m、後方への傾斜角を20°、下面の角度βを12°とした。
図11において、比較例6は波浪中抵抗増加低減ステップ40を持たないものであり、実施例6は波浪中抵抗増加低減ステップ40を取り付けたものである。
図11における縦軸は波高を使って無次元化した抵抗増加係数(KAW)であり、実施例6は比較例6に対して7.4%の波浪中抵抗増加低減率の効果があることが分かった。
以上のとおり実験結果によれば、波浪中抵抗増加低減ステップを備えることで、波高3m相当、向波、速度(22knot)で波浪中抵抗増加7%減の見込みであることが明らかとなった。
【0028】
第2の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップ40によって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方に設けているので、波浪中抵抗増加低減ステップ40が水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
【0029】
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40を、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けているので、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dで波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ40の下面41の角度を水平面より下方向に設定しているので、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
【0030】
以下に、本発明の第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造について説明する。
図12は本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造を示す要部概念側面図、図13は同図12における要部概念G−G矢視図である。なお、上記実施形態と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。また、図では船舶10の一方の側面だけを示しているが、船舶10の他方の側面も同様の構成となっている。
【0031】
本実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造は、船舶10の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップ50を備えている。波浪中抵抗増加低減ステップ50は、船体側部における静的水位上昇位置Aよりも上方に設けて、波浪中における船体側部の抵抗増加を低減している。
波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51は、水平面Bより下方向に角度βに設定し、波浪中抵抗増加低減ステップ50の船首部11の表面からの突出寸法H1はボルスター20の突出寸法H2よりも小さく設定している。なお、船体側部の波浪中抵抗増加低減ステップ50は、ボルスター20の本来の機能を損なうおそれのない場合は、突出寸法H1を突出寸法H2と同等もしくは大きく設定することもできる。
波浪中抵抗増加低減ステップ50は、船舶10の後方に向かって高くしている。なお、波浪中抵抗増加低減ステップ50は、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方であり、更には静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けることが好ましい。
【0032】
第3の実施形態による波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造によれば、波浪中抵抗増加低減ステップ50によって波の高さを低く抑えることで波浪中抵抗増加を低減できる。また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を静的水位上昇位置Aよりも上方に設けることで、平水中抵抗が増加することがない。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を、静的水位上昇位置Aの最大高さ位置よりも後方に設けているので、波浪中抵抗増加低減ステップ50が水中に没することが少ないために平水中抵抗を増加させず、また波を打ち返すことで波浪中における抵抗を低減することができる。
【0033】
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dに設けているので、静的水位上昇位置Aの低下率変化範囲Dで波の動きを更に低下させる方向に変化させるために、波の高さ低減を効果的に行える。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51の角度を水平面より下方向に設定しているので、波の打ち返し効果を大きくでき、波浪中抵抗増加の低減効果を高めることができる。
また、波浪中抵抗増加低減ステップ50を船舶10の後方に向かって高くしているので、図12に示すように波浪中抵抗増加低減ステップ50の下面51に作用する波の力によって進行方向に抗力を生じ、この抗力を太矢印で示すように推力に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、船首にボルスターを備えた船舶に用いられ、特にコンテナ船をはじめ、油タンカー、LNG船、又はLPG船などの船舶に広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0035】
10 船舶
11 船首部
20 ボルスター
30 波浪中抵抗増加低減ステップ
31 下面
40 波浪中抵抗増加低減ステップ
41 下面
50 波浪中抵抗増加低減ステップ
51 下面
A 静的水位上昇位置
B 水平面
C 喫水線
D 低下率変化範囲
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船首部に設けたアンカー用のボルスターと、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップとを備え、前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記ボルスターの下方で前記船首部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における前記ボルスターによる抵抗増加を低減したことを特徴とする波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項2】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定したことを特徴とする請求項1に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項3】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの前記船舶の前後方向の幅を前記ボルスターの幅よりも大きく設定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項4】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの前記船首部の表面からの突出寸法を前記ボルスターの突出寸法よりも小さく設定したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項5】
船舶の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップを備え、前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記船体側部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における前記船体側部の抵抗増加を低減したことを特徴とする波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項6】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けたことを特徴とする請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項7】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けたことを特徴とする請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項8】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記船舶の後方に向かって高くしたことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項9】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定したことを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項1】
船舶の船首部に設けたアンカー用のボルスターと、波を押し分ける波浪中抵抗増加低減ステップとを備え、前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記ボルスターの下方で前記船首部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における前記ボルスターによる抵抗増加を低減したことを特徴とする波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項2】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より上方向に30°以上に設定したことを特徴とする請求項1に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項3】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの前記船舶の前後方向の幅を前記ボルスターの幅よりも大きく設定したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項4】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの前記船首部の表面からの突出寸法を前記ボルスターの突出寸法よりも小さく設定したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項5】
船舶の船体側部に波を打ち返す波浪中抵抗増加低減ステップを備え、前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記船体側部における静的水位上昇位置よりも上方に設けて、波浪中における前記船体側部の抵抗増加を低減したことを特徴とする波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項6】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記静的水位上昇位置の最大高さ位置よりも後方に設けたことを特徴とする請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項7】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記静的水位上昇位置の低下率変化範囲に設けたことを特徴とする請求項5に記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項8】
前記波浪中抵抗増加低減ステップを、前記船舶の後方に向かって高くしたことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【請求項9】
前記波浪中抵抗増加低減ステップの下面の角度を水平面より下方向に設定したことを特徴とする請求項5から請求項8のいずれかに記載の波浪中抵抗増加低減ステップを備えた船体構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−173474(P2011−173474A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37886(P2010−37886)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(594197218)内海造船株式会社 (3)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(594197218)内海造船株式会社 (3)
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