説明

波長フィルタおよび波長モニタ装置

光を透過する固体材料と、固体材料に形成された略平行に対向する平面と、略平行に対向する平面以外の面で固体材料を接続剤で保持し、上記固体材料よりも強い剛性を有する保持材と、を備え、略平行に対向する平面間で光を共振させ、対向平面間の光路長できまる波長を周期的に選択する波長フィルタであって、固体材料が複屈折材料であるとともに、その光学軸が略平行に対向する平面の法線と所定の角度を有することを特徴とする。これによって、固体材料が保持材に保持された状態であっても、安定した波長弁別特性を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この発明は、波長分割多重伝送(以下、WDMという)方式などに用いられる半導体レーザモジュールから出力されるレーザ光の波長を選択する波長フィルタおよび該波長フィルタを用いてレーザ光の発振波長を測定する波長モニタ装置に関するものである。
【背景技術】
半導体レーザの出力波長を検知する波長モニタ装置として、エタロンフィルタを用いる方式がある。エタロンフィルタは2枚の平行な反射面から構成され、その反射面間で光を共振させることによって特定の波長を透過または反射させる特徴をもつ。特に、ソリッドエタロンフィルタは光学的に透明な材料を用いて光の入出力端面に反射膜をコーティングする構成が可能なため、1つの部品で構成することが可能である。以下では、このソリッドエタロンフィルタを用いた場合の波長モニタ装置について説明する。
上述したように、エタロンフィルタは波長によって透過率が異なる特性を持つため、レーザ光をエタロンに通過させることによって波長情報を強度情報に変換した波長弁別信号が得られる。その際、環境温度変化等の外部環境変化に対し、その波長弁別特性が変化しないことが、高精度に波長をモニタする重要な条件となる。しかし、この波長弁別特性の温度依存性はエタロンフィルタの材料特性によって決まるものであり、屈折率の温度変化dn/dTおよび線膨張係数αを用いて式(1)のように表される。

一般に用いられるエタロン材料としてガラスを挙げることができるが、現状で知られているガラスでは式(1)の右辺の分子がゼロにならない。そのため、エタロン材料としてのガラスは、温度変化により波長弁別特性が変化してしまう問題があった。
そこで、現在までエタロンフィルタの温度無依存化についての様々な研究がなされてきた。このエタロンフィルタの温度無依存化を実現する1つの従来例として、線膨張係数が屈折率の温度に対する変化率を補償するような材料を用いる方法がある(たとえば、特許文献1参照)。図1は、この特許文献1に記載されているエタロンフィルタの軸構造と入射軸方向を示した図である。ここでは、線膨張係数が屈折率の温度に対する変化率を補償するような材料として、エタロンフィルタ100は、たとえば複屈折結晶LiSAF(LiSrAlF)が用いられている。そして、このエタロンフィルタ100のレーザ光入射表面および出射表面には反射ミラー機構が施されている。LiSAF結晶は、一軸性複屈折結晶であるため光学的異方性を示し、光学軸(以下、c軸という)と、このc軸とは屈折率および線膨張係数が異なる2つの軸(以下、a軸、b軸という)を有する。したがって、c軸に対するレーザ光入射角度をθとすると、温度変化によるエタロンフィルタ100の光学長変化は式(2)で表される。

ここで、nLは光学長、nはc軸と光軸方向によって作られる面と平行な偏光面をもつレーザ光が感じる屈折率、nabはnに垂直な面と同じ偏光面をもつレーザ光が感じる屈折率、ΔTは温度変化量、dnは単位温度変化あたりの屈折率nの変動量、dnabは単位温度変化あたりの屈折率nabの変動量である。ここで、c軸に対するレーザ光入射角度θを変化させて式(2)がゼロとなる光学長nLが、温度によって変化しない条件、すなわち温度変化によって波長弁別特性が変化しない条件となる。この従来例において、エタロン材料にLiSAF結晶を用いてθ=36.55°に設定することによってエタロンフィルタ100の温度無依存化条件を満たしている。
【特許文献1】 米国特許第6,452,725号明細書
しかし、このエタロンフィルタ100を波長モニタ装置やこの波長モニタ装置を有する半導体レーザモジュールの装置内に組み込む際に、固定されることによってエタロンフィルタ100本体の光学特性が変化してしまう。その結果、エタロンフィルタ100の温度無依存化条件から外れてしまい、波長モニタ装置として用いた場合に温度変化によって波長弁別信号が変化してしまうという問題があった。
また、上記のc軸に対するレーザ光入射角度θによる温度特性の変化は、エタロンフィルタ100の温度無依存化条件を満たす角度θ近辺で大きく変動しているために、入射レーザ光の微細な角度によって容易に温度無依存化条件から外れてしまうという問題点もあった。
この発明は上記に鑑みてなされたもので、ホルダに固定した場合でも温度無依存化条件を満たす波長フィルタおよび該波長フィルタを用いた波長モニタ装置を得ることを目的とする。
【発明の開示】
この発明にかかる波長フィルタは、光を透過する固体材料と、前記固体材料に形成された略平行に対向する平面と、前記略平行に対向する平面以外の面で前記固体材料を接続剤で保持し、前記固体材料よりも強い剛性を有する保持材と、を備え、前記略平行に対向する平面間で光を共振させ、対向平面間の光路長できまる波長を周期的に選択する波長フィルタであって、前記固体材料が複屈折材料であるとともに、その光学軸が前記略平行に対向する平面の法線と所定の角度を有することを特徴とする。
また、この発明にかかる波長モニタ装置は、レーザ光を透過する固体材料と、前記固体材料に形成された略平行に対向する平面と、を有し、前記略平行に対向する平面間で光を共振させ、対向平面間の光路長できまる波長を周期的に選択する波長フィルタと、前記波長フィルタの透過光に基づきレーザ光の発振波長を測定する波長検出手段と、前記波長検出手段と前記略平行に対向する平面以外の面で前記波長フィルタを接続剤で保持し、前記固体材料よりも強い剛性を有する保持材と、を備え、半導体レーザから出力されるレーザ光の波長を検知する波長モニタ装置であって、前記固体材料が複屈折材料であるとともに、その光学軸が前記略平行に対向する平面の法線と所定の角度を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
第1図は、従来の光フィルタの構成を示す図であり、第2図は、この発明の実施の形態1による波長フィルタを示す構成図であり、第3図は、この発明の実施の形態1によるフィルタ単体の状態における光軸とフィルタのc軸との間の角度φと波長特性の温度特性の関係図であり、第4図は、この発明の実施の形態1によるエタロンフィルタ単体の温度特性を示す図であり、第5図は、この発明の実施の形態1によるエタロンフィルタ単体をホルダに固定した場合の温度特性を示す図であり、第6図は、この発明の実施の形態1による光軸とフィルタのc軸との間の角度φと波長特性の温度依存性を示す拡大図であり、第7図は、この発明の実施の形態2による波長モニタ装置を備える半導体レーザモジュールの構成を示す図であり、そして、第8図は、この発明の実施の形態2によるエタロンフィルタ単体の光軸とフィルタのc軸との間の角度φと波長特性の温度依存性を示す図であり、第9図は、この発明の実施の形態2による半導体レーザモジュールの波長モニタ信号特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、添付図面を参照して、この発明にかかる波長フィルタおよび波長モニタ装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
第2図は、この発明の実施の形態1による波長フィルタを示す構成図である。この第2図に示されるように、波長フィルタは、エタロンフィルタ1が接着剤3によってホルダ2上に保持される構成を有する。本実施の形態1では、レーザ光の進行方向(光軸方向)を空間座標においてz軸の方向と定め、空間における上方向をy軸と定め、z軸およびy軸に直交する方向をx軸と定める。
エタロンフィルタ1は、レーザ光の入射面と出射面に反射膜5,6を有し、その材料としては、1種類の一軸性複屈折結晶(たとえば、α−BBO(BaB)結晶、LiIO結晶、CaCO結晶、β−BBO結晶)で形成されている。エタロンフィルタ1として用いられる一軸性複屈折結晶のc軸は、レーザ光の光軸(z軸)に対して所定角度φ傾斜して配置されるように切り出され、その切り出し面は、光軸(z軸)に直交するxy面に平行になるように配置される。
ホルダ2は、エタロンフィルタ1を保持する基板であり、エタロンフィルタ1より大きく、かつエタロンフィルタ1に比して剛性がある素材で形成されている。このようなホルダ2の材料としては、たとえば、CuW基板などを使用することができる。なお、ホルダ2は、エタロンフィルタ1の反射膜5,6が形成される面以外の面を保持する(すなわち、エタロンフィルタ1の光路を塞がない面であればいずれの面でもよい)。
接着剤3は、ホルダ2とエタロンフィルタ1とを接着して固定する。この接着剤3の材料として、たとえば、EMERSON社製の導電性接着剤エコボンドSOLDER56C(商品名)などを用いることができる。
ここで、エタロンフィルタ1を透過したレーザ光の波長に対する透過特性は、エタロンフィルタ1、接着剤3およびホルダ2の温度変化に関係なく一定に保たれる。
つぎに、ホルダ2に接着剤3で固定されたエタロンフィルタ1の温度無依存化条件について説明する。第2図に示されるホルダ2に固定されたエタロンフィルタ1の入斜面5に入射するレーザ光4Aは、x軸に平行なp偏光を有するものとする。また、エタロンフィルタ1において、一軸性複屈折結晶のc軸はyz平面内にあり、光軸はz軸に対して平行であり、c軸は光軸に対して所定の角度(以下、光学軸角度という)φ傾いている。常光線は、c軸と光軸方向によって作られる面に垂直で、しかも光軸に平行な面と同じ振動面を持つので、この場合、レーザ光4Aはエタロンフィルタ1内を常光線として伝播する。
まず、ホルダ2に固定された状態におけるエタロンフィルタ1の温度特性を説明する前に、エタロンフィルタ1単体の温度特性について説明する。エタロンフィルタ1を通過するレーザ光が感じる屈折率の温度特性は常光軸屈折率nを用いて、dn/dTと表すものとする。また、αをc軸に平行な方向の線膨張係数、αはc軸に垂直な方向の線膨張係数とすると、光軸方向の線膨張係数α(φ)は、式(3)のように表される。

上記dn/dTおよびα(φ)を用いると、常光線に対する波長特性の温度依存性は、式(4)のように表される。

なお、エタロンフィルタ1から出力されるレーザ光4Bの偏光が、y軸に平行なs偏光を有している場合には、レーザ光4Aは、エタロンフィルタ1内を異常光線として伝播している場合である。この場合、レーザ光が感じる屈折率はc軸と光軸との間の角度φの関数で表され、波長特性の温度依存性は式(5)のように表される。

ここで、dn(φ)/dTは異常光線が感じる屈折率n(φ)の温度係数であり、式(6)で表される。

第3図は、エタロンフィルタ1の材料としてCaCO結晶を用いた場合における式(4)および式(5)を用いて算出した異常光線と常光線における光学軸角度φと波長特性の温度特性の関係を示す図である。この計算に用いたCaCOの物性定数は、異常光屈折率nが1.4771で、常光屈折率nが1.6337で、異常光軸方向の屈折率の温度係数dn/dTが1.19×10−5/Kで、常光軸方向の屈折率の温度係数dn/dTが2.10×10−6/Kで、線膨張係数αが−5.70×10−6/Kで、線膨張係数αが2.44×10−6/Kである。この第3図から、光学軸角度φを変化させることによって異常光軸方向は+4pm/℃から+40pm/℃まで、常光軸方向は−7pm/℃から+40pm/℃まで自由に温度特性を設定することができる。たとえば、常光線を用いる場合のCaCO結晶の温度無依存化条件は、常光線の温度特性が0となる点、すなわち光学軸角度φが63度付近として求めることができる。
つぎに、ホルダ2に接着剤3によって固定された状態における一軸性複屈折結晶単体であるエタロンフィルタ1の光学軸角度φに対する温度特性について説明する。ここで、接着剤3の厚さは十分薄いと考えて接着剤3の熱特性を無視した場合を想定する。また、ホルダ2の線膨張係数をαとする。ホルダ2はエタロンフィルタ1より剛性が強いために、エタロンフィルタ1で生じる実効的な線膨張係数α’は、式(7)で表される。

また、ひずみによる屈折率変化(光弾性効果)を考慮するために、常光線が入射した場合のz軸方向の光弾性定数をPzo、x軸方向の光弾性定数をPxoとし(異常光線が入射した場合には、z軸方向の光弾性定数をPze、x軸方向の光弾性定数をPxeとする)、熱膨張によるひずみ量は、エタロンフィルタ1とホルダ2の線膨張係数の差で表されるのでz軸方向のひずみによる屈折率の変化は、常光線の場合には、

と表され、異常光線の場合には、

と表される。また、x軸方向のひずみによる屈折率の変化は、常光線の場合には、

と表され、異常光線の場合には、

と表される。
y軸方向のひずみは無視できるほど小さいと仮定すると、常光線の場合にはΔnxoとΔnzoが屈折率の温度係数に加えられると考えて、常光軸方向の屈折率の温度係数dn’/dTは式(10)で表される。

また、異常光軸方向の屈折率の温度係数の場合も同様に考えて、式(11)で表される。

これらの式より、エタロンフィルタ1がホルダ2に固定されている場合の波長特性の温度依存性は、常光線の場合には式(12)で表される。

また、異常光線の場合には式(13)で表される。

これらの式(12)および式(13)から、波長特性の温度依存性はともに光学軸角度φの関数であるため、右辺分子をゼロとするような光学軸角度φを選ぶことによって温度無依存化条件を満たすことが可能となる。また、光学軸角度φを調節することによって、エタロンフィルタ1単体ではその温度特性を第3図で示される範囲内で自由に変更することが可能なため、任意の接着剤3およびホルダ2の材料を用いた場合でも、温度無依存化条件を満たすまたは温度無依存化条件に近い条件でエタロンフィルタ1を固定させることができる。さらに、この実施の形態1では、エタロンフィルタ1の下面のみがホルダ2と接続される構成としているが、エタロンフィルタ1への接続は光路を塞がなければどの場所で接続してもよく、たとえば、光軸に対して側面を全て覆うホルダ形状にしても同様の効果を得ることができる。
以上では、ホルダ2に固定されたエタロンフィルタ1の温度無依存化条件を、上記の式(12)および式(13)の特性式を用いて求める場合を説明したが、つぎに、上記の式(12)および式(13)の特性式を用いずに、実験によりホルダ固定時の温度無依存化条件を求める方法について説明する。
第4図は、エタロンフィルタ単体(ホルダに固定していない状態)の温度が変化した場合の波長特性を示しており、また、第5図は、同じエタロンフィルタをホルダに固定した状態における温度が変化した場合の波長特性を示している。これらの図の波長特性を求める実験にあたって、エタロンフィルタ1の材料に、光学軸角度φ=65.7度、厚さ(z軸方向の結晶長さ)約3.6mmのCaCO結晶を用い、ホルダ2の材料として、アルミニウム基板を用い、接着剤3の材料として、EMERSON社製の導電性接着剤エコボンドSOLDER56C(商品名)を適用した。これらの図から、それぞれの温度特性は、0.23pm/℃,0.45pm/℃と求められる。
第6図は、第3図における光学軸角度φ=66度付近の拡大図と、第4図および第5図から得られる温度特性のデータを同時にプロットした図を示している。この第6図から、エタロンフィルタ1をホルダ2に固定したことによって温度無依存化条件を満たす光学軸角度φがずれたことがわかる。すなわち、エタロンフィルタ1単体で求まる温度無依存化条件を満たす光学軸角度φc0=66.0度から、ホルダ2に固定したエタロンフィルタ1の温度無依存化条件を満たす光学軸角度φc1=66.3度へと光学軸角度をずらすことによって、温度変化によって変化しない波長特性を有する構成のホルダ2に固定したエタロンフィルタ1を得ることができる。
なお、この実験では、上述したようにホルダ2としてアルミニウム基板を用い、接着剤3として導電性接着剤を用いたが、これ以外の他の材料からなるホルダ2や他の接着剤3を用いた場合であっても、エタロンフィルタ1のホルダ2への固定による波長特性の温度依存性を測定することによって、上記のように温度無依存化条件を満たす光学軸角度φを求めることができる。
また、この実施の形態1ではエタロンフィルタ1の材料にCaCO結晶を用いた場合を例に挙げて説明したが、他のα・BBO結晶、β・BBO結晶、LiIO結晶などの一軸性複屈折結晶を用いてもよい。その場合でも第3図で示したように、光学軸角度φに対する温度依存性を求めることができ、また式(12)および式(13)を用いてエタロンフィルタ1のホルダ2への固定した場合の温度無依存化条件を満たす光学軸角度φを求めることが可能である。
さらに、この実施の形態1ではホルダ2とエタロンフィルタ1との接続を、接着剤3を用いて行う方法を示したが、他の固定方法として、半田固定やYAG溶接固定でもよい。これらの場合でも、ホルダ2に固定後のエタロンフィルタ1の光学軸角度φを調節することによってホルダ2に固定されたエタロンフィルタ1の温度無依存化を達成することができる。
以上説明したように、この実施の形態1によれば、エタロンフィルタ1単体の光学軸角度φに対する温度特性の変化に、エタロンフィルタ1とホルダ2との剛性の違いによる実効的な線膨張係数とひずみによる光弾性効果による屈折率変化を考慮することによって、エタロンフィルタ1をホルダ2に固定した場合についての温度無依存化条件を満たす構成を得ることが可能になる。つまり、任意の線膨張係数をもつホルダ2の材料や接着剤3の材料をエタロンフィルタ1の固定に使用しても、それぞれの組合せで固定されたエタロンフィルタ1の温度特性から、温度無依存化条件を満たす光学軸角度φを求めることによって、その組合せで固定されるエタロンフィルタ1の温度無依存化条件を得ることができる。これによって、結晶単体の状態においては温度依存性を有するエタロンフィルタ1であっても、ホルダ2に固定された状態では温度無依存化条件を満たす構成にすることも可能である。したがって、このような構成から得られるエタロンフィルタ1の波長特性は温度変化によって影響されることがない。
なお、この実施の形態1では半導体レーザからのレーザ光をp偏光に設定し、エタロンフィルタ1へ常光線として入射した場合を説明したが、半導体レーザからのレーザ光をs偏光に設定し異常光線として入射させてもよい。この場合には、式(13)を満たす光学軸角度φを用いることによって、つまりホルダ2に固定された状態における温度無依存化条件を満たす光学軸角度φを用いることによって、同様の効果を得ることができる。
実施の形態2.
この実施の形態2では、実施の形態1に記載のホルダに固定された温度無依存化されたエタロンフィルタを実装した波長モニタ装置を含む半導体レーザモジュールについて説明する。
第7図は、この発明の実施の形態の2による波長モニタ装置を有する半導体レーザモジュールの概略構成を示す模式図である。なお、この実施の形態2では、レーザ光の進行方向(光軸方向)を空間座標においてz軸の方向と定め、空間における上方向を(第3図において紙面に垂直で、手前に向かう方向)y軸と定め、z軸およびy軸に直交する方向をx軸と定め、そして、半導体レーザ10が設置される位置(半導体レーザ10の中心位置)をz軸の原点と定める。
この半導体レーザモジュールは、実施の形態1で説明したホルダに固定されたエタロンフィルタ1を含む波長モニタ装置20と、波長モニタ装置20の下面に接続されるペルチェクーラ16が、外気と遮断させるモジュールパッケージ17内に組み込まれた構成を有する。
波長モニタ装置20は、特定の波長のみを透過させるエタロンフィルタ1、レーザ光を出力する半導体レーザ10、半導体レーザ10の前方(z軸正方向)に設置され、半導体レーザ10から出力されるレーザ光(このレーザ光を以下では、光信号という)のビーム径を調節する第1のレンズ11、半導体レーザ10の後方(z軸負方向)に設置され、半導体レーザ10から出力されるレーザ光のビーム径を調節する第2のレンズ18を有して構成される。
エタロンフィルタ1は、実施の形態1で説明した一軸性複屈折結晶を母材とするエタロンであり、たとえばα−BBO結晶、CaCO結晶、LiIO結晶、β−BBO結晶などで形成されている。また、エタロンフィルタ1のレーザ光入出力端面には反射膜が形成されており、レーザ光入出力端面が光軸に対して垂直となるように設置されている。エタロンフィルタ1のc軸は第2図に示されるようにyz平面内にあり、光軸に対して所定の角度φ傾くように設置されている。
半導体レーザ10は、注入電流または温度を調節することによって波長を変えることができるレーザであり、たとえば活性層中に回折格子を有する分布帰還型(DFB)レーザ、注入電流または温度によって波長を変えることができる波長可変レーザ(DBRレーザ、VCSEL等)、または、電界吸収素子とレーザダイオードを集積したEA・LDなどを採用することができる。エタロンフィルタ1の光信号の入出射面は、光軸に略垂直となるように設けられている。
また、波長モニタ装置20は、第1のレンズ11を通過して入力した光信号を電気信号に変換する第1の受光素子12、第1のレンズ11とエタロンフィルタ1を通過して入力した光信号を電気信号に変換する第2の受光素子13を有して構成される。
これらのエタロンフィルタ1、第1のレンズ11、第1の受光素子12、第2の受光素子13、第2のレンズ18は、キャリア14上に固定されている。このキャリア14は、エタロンフィルタ1より十分に大きく、そして剛性が強い材料によって構成され、実施の形態1でのホルダ2に相当する。
さらにまた、波長モニタ装置20は、温度信号を検出するサーミスタ15を有して構成される。このサーミスタ15は、キャリア14上に直接固定されている。
ペルチェクーラ16は、キャリア14の下面に接続されている。サーミスタ15からの温度信号を用いてペルチェクーラ16を駆動させることによって、キャリア14ごと温度制御を行うことが可能である。これによって、半導体レーザ10の波長を変えることができる。
モジュールパッケージ17の壁には、波長モニタ装置20内の半導体レーザ10から出力され、第2のレンズ18を通過してきたレーザ光を外部に取り出すためのウインドウ19が備えられている。
つぎに、このような構成を有する半導体レーザモジュールの動作について説明する。半導体レーザ10からは、x軸方向に振動する偏光面を有するレーザ光が、z軸の正負両方向に出力される。z軸正方向に出力されるレーザ光(光信号)は、第1のレンズ11によって平行光に調節される。ここで、半導体レーザ10と第1のレンズ11の中心を通る軸が光軸となる。一方のz軸負方向に出力されるレーザ光は、第2のレンズ19によって平行光に調節され、ウインドウ19を通過してモジュールパッケージ17の外部に信号光として出力される。以下では、第1のレンズ11側に出力される光信号をモニタする場合を説明する。
第1のレンズ11を通過したレーザ光(光信号)は、そのビーム断面の半分(図7において、光軸よりx軸正方向側の信号光の領域)は直接に第1の受光素子12に入力される。第1の受光素子12は、z軸方向に沿って第1のレンズ11とエタロンフィルタ1との間に、光信号のビーム断面の半分が入力されるように、かつ光軸に対して入力端面が傾いて配置されている。第1の受光素子12は、エタロンフィルタ1を通過しない半導体レーザ10からの光信号を受光してその強度を検知し、パワーモニタ信号を出力する。このパワーモニタ信号は半導体レーザ10の出力強度に比例しているため、この信号を用いて半導体レーザ10への注入電流を制御することによって、半導体レーザ10から出力されるレーザ光を任意の出力強度に安定化することができる。また、図に示されるように第1の受光素子12はエタロンフィルタ1に比して半導体レーザ10側に配置されるため、エタロンフィルタ1から出力される所定の波長特性を有する透過光が入力端面に入射することのない構成となっている。
第2の受光素子13は、エタロンフィルタ1の後段(z軸正方向)に光軸に対して入力端面を傾けて配置されている。第2の受光素子13は、半導体レーザ10から出力され、第1の受光素子によって受光されなかった信号光の残りのビーム断面成分のうち、エタロンフィルタ1を通過する成分を受光する。そして、その強度を検知し、波長モニタ信号を出力する。この波長モニタ信号は、通過したエタロンフィルタ1の波長特性に基づいた波長弁別特性を示す。したがって、この波長モニタ信号によって求まる波長と安定化させたい目標波長との誤差信号を用い、半導体レーザ10への注入電流または温度を制御することによって、半導体レーザ10から出力されるレーザ光の波長を安定化することができる。また、この波長モニタ信号を第1の受光素子12で出力されるパワーモニタ信号で規格化することによって、半導体レーザ10からのレーザ光強度変化に依存しない規格化波長モニタ信号が得られ、この規格化波長モニタ信号を用いることで一層高精度な半導体レーザ10から出力されるレーザ光の波長安定化を実現することができる。
第8図は、エタロンフィルタ1としてα−BBO結晶単体を用いたときの常光線と異常光線についての光学軸角度φに対する波長特性の温度依存性を示す図である。用いた物性定数は、異常光屈折率nは1.53003で、常光屈折率nは1.6502で、異常光軸方向の屈折率の温度係数dn/dTは−1.60×10−5/Kで、常光軸方向の屈折率の温度係数dn/dTは−9.15×10−6/Kで、線膨張係数αは7.17×10−6/Kで、線膨張係数αは1.92×10−6/Kである。
この第8図からα−BBO結晶の光学軸角度φをyz面内で0度〜90度変化させることによって、異常光軸方向は+9.5pm/℃から+21pm/℃まで、常光軸方向は+2.5pm/℃から+21pm/℃まで自由にその温度特性を設定することができる。以下の説明では、エタロンフィルタ1の光学軸角度φとして、90度に設定した場合を例に挙げる。
この実施の形態2では、エタロンフィルタ1内に入射するレーザ光(光信号)は、実施の形態1と同様にエタロンフィルタ1内を常光線として伝播するので、上記条件においては、エタロンフィルタ1の結晶単体は2.5pm/℃と低い温度特性を有する。また、この光学軸角度φ(=90度)では光学軸角度φの変化による温度依存性が少ないため、レーザ光角度ずれによる温度特性の変化が少ない。さらに、エタロンフィルタ1の光学軸角度φが垂直に設定されており、かつ入射端面もまた垂直に配置されているために、光軸ずれに対する波長特性の変化も抑制されている。
また、エタロンフィルタ1の厚さ(z軸方向の結晶長さ)を約3.6mmとし、波長特性の周期間隔であるFSR(自由スペクトル間隔)を25GHzに設定することによって、ITU・T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)グリッドの25GHz間隔に対応させることができる。
さらに、エタロンフィルタ1はキャリア14上に接着剤(たとえば、EMERSON社製の導電性接着剤エコボンドSOLDER56C(商品名))で固定されているので、実施の形態1で説明したように、エタロンフィルタ1とキャリア14との剛性の違いによる実効的な線膨張係数とひずみによる光弾性効果による屈折率変化を考慮すると、この状態においては温度無依存化条件付近にある。
サーミスタ15とペルチェクーラ16によってキャリア14上の部品が所定の温度に制御されている状態で、モジュールパッケージ17外の温度を変化させても、モジュールパッケージ17の温度は外部の温度変化に沿って変化していくが、モジュールパッケージ17内のキャリア14上では、その構成から理想的には温度変化は起こらない。しかし、実際にはサーミスタ15と各部品との間に熱抵抗が存在するために各部品で微量の温度変化が生じる。
この実施の形態2の波長モニタ装置20の構成では、外気を−20℃から+70℃まで変化させた場合には、エタロンフィルタ1上で約2℃の温度変化が生じる。そのため、エタロンフィルタ1に温度依存性がある場合には、その波長特性が変化してしまい、波長モニタ信号が正確な値を示さなくなる。
第9図は、外気を−20℃,+25℃,+70℃とした場合の波長モニタ信号を示す図である。キャリア14に固定されたエタロンフィルタ1は、結晶単体では2.5pm/℃の温度依存性を示す。しかし、実施の形態1で説明したように温度無依存化条件付近にあるキャリア14に固定されたエタロンフィルタ1では、外気を−20℃から+70℃に変化させて、エタロンフィルタ1自体が約2℃変化した場合でも、キャリア14に固定されたエタロンフィルタ1全体(すなわち、波長モニタ装置全体)では、±1pm以下の波長ドリフトしか生じさせないようにすることができる。
以上説明したように、この実施の形態2によれば、実施の形態1で示したエタロンフィルタ1をキャリア14に接着した状態で波長特性の温度依存性をなくすように、エタロンフィルタ1の材料である一軸性の複屈折結晶のc軸角度を調整した波長モニタ装置20を構成したので、このエタロンフィルタ1は温度無依存化条件またはそれに近い条件を満たすことができる。その結果、波長モニタ信号は、エタロンフィルタ1の温度による変化を除去することができ、半導体レーザ10の発振波長のみに依存した高精度な信号となる。
また、エタロンフィルタ1のα−BBO結晶の光学軸角度φは90度に設定されているため、第8図から明らかなようにこの付近での光学軸角度φの変化による温度特性の変化を少なくすることができるので、レーザ光角度ずれによる温度特性の変化を抑制することができる。さらに、光軸ずれに対する波長特性の変化も抑制することができる。
なお、本実施の形態2におけるエタロンフィルタ1は光軸に対して入出力端面が垂直になるように設置してあるが、垂直でない角度に傾けて設置してもよい。その場合、エタロンフィルタ1の屈折率のため入射光軸に対してエタロンフィルタ1内を伝播する光軸が傾くが、その傾きを考慮して実施の形態1記載の温度無依存化条件を満たすような光学軸角度φに設定すればよい。このように光軸に対して入射面を傾けてエタロンフィルタ1を設置した場合、エタロンフィルタ1からの波長特性をもった反射光が半導体レーザ10に戻らなくなり、より安定したレーザ発振が得られるという効果を有する。また、第1のレンズ11および半導体レーザ10の端面を介した第1の受光素子12および第2の受光素子13への迷光が抑制されるため、パワーモニタ信号および波長モニタ信号も上記反射光の影響を受けない構成となる。
さらに、第1の受光素子12および第2の受光素子13の入力端面を光軸に対して傾けているため、第1の受光素子12および第2の受光素子13からの微量の反射光が第1のレンズ11および半導体レーザ10に戻らなくなり、第1の受光素子12および第2の受光素子13の各入射端面と第1のレンズ11または半導体レーザ10間のエタロン効果を抑制することができる。したがって、より安定なパワーモニタ信号および波長モニタ信号が得られる。
さらにまた、この他にも、実施の形態1に記載の無依存化条件を満たす材料であれば、CaCO結晶、LiIO結晶、β−BBO結晶などの他の任意の一軸性複屈折結晶を用いてもよい。この場合、光学軸角度φを変えることによって、任意に結晶単体の温度依存性を調節することができるため、任意のキャリア14と固定するための手段(たとえば接着剤3)を用いても温度無依存化条件を満足することが可能である。
さらにまた、この実施の形態2では半導体レーザからのレーザ光をp偏光に設定し、エタロンフィルタ1へ常光線として入射した場合を説明したが、半導体レーザからのレーザ光をs偏光に設定し異常光線として入射させてもよい。この場合、式(13)を満たす光学軸角度φを用いる、つまりホルダ固定状態における温度無依存化条件を満たす光学軸角度φを用いることによって、同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、この発明によれば、エタロンフィルタ単体のc軸と光学軸角度φに対する温度特性の変化に、エタロンフィルタとホルダとの剛性の違いによる実効的な線膨張係数とひずみによる光弾性効果による屈折率変化を考慮することによって、ホルダに固定されたエタロンフィルタについての温度無依存化条件を満たす構成を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
この発明は、光ファイバを利用した波長分割多重通信、高密度波長分割多重通信に用いられる光源としての半導体レーザの波長モニタ装置に用いられ、また、この波長モニタ装置に使用される波長フィルタとして用いる場合に適している。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する固体材料と、
前記固体材料に形成された略平行に対向する平面と、
前記略平行に対向する平面以外の面で前記固体材料を接続剤で保持し、前記固体材料よりも強い剛性を有する保持材と、
を備え、前記略平行に対向する平面間で光を共振させ、対向平面間の光路長できまる波長を周期的に選択する波長フィルタであって、
前記固体材料が複屈折材料であるとともに、その光学軸が前記略平行に対向する平面の法線と所定の角度を有することを特徴とする波長フィルタ。
【請求項2】
前記略平行に対向する平面の法線と光学軸との間の所定の角度は、前記保持材と前記複屈折材料と固定されている状態で前記平面間の光路長の温度係数が所定の値を有するように設定されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の波長フィルタ。
【請求項3】
前記波長フィルタは、前記複屈折材料と前記保持材の線膨張係数の差と前記複屈折材料の屈折率との積と、前記複屈折材料の熱光学係数と、前記保持材と前記複屈折材料間で発生する熱ひずみによる屈折率変化との和の絶対値が最小となるように前記略平行に対向する平面の法線と光学軸との角度が設定されていることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の波長フィルタ。
【請求項4】
前記複屈折材料は、α−BBO結晶、LiIO結晶、CaCO結晶、β−BBO結晶のいずれかであることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の波長フィルタ。
【請求項5】
前記複屈折材料に入射する光は常光軸に揃えた偏光を用い、
複屈折材料がCaCO結晶の場合は、光学軸の光軸に対する角度を約67度付近とし、
複屈折材料がα−BBO結晶の場合は、光学軸の光軸に対する角度を約90度付近とすることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の波長フィルタ。
【請求項6】
レーザ光を透過する固体材料と、
前記固体材料に形成された略平行に対向する平面と、
を有し、前記略平行に対向する平面間で光を共振させ、対向平面間の光路長できまる波長を周期的に選択する波長フィルタと、
前記波長フィルタの透過光に基づきレーザ光の発振波長を測定する波長検出手段と、
前記波長検出手段と前記略平行に対向する平面以外の面で前記波長フィルタを接続剤で保持し、前記固体材料よりも強い剛性を有する保持材と、
を備え、半導体レーザから出力されるレーザ光の波長を検知する波長モニタ装置であって、
前記固体材料が複屈折材料であるとともに、その光学軸が前記略平行に対向する平面の法線と所定の角度を有することを特徴とする波長モニタ装置。
【請求項7】
前記半導体レーザから出力されるレーザ光は、1方向に偏光されたものであり、
前記略平行に対向する平面の法線と光学軸との間の所定の角度は、前記保持材と前記複屈折材料と固定されている状態で前記平面間の光路長の温度係数が所定の値を有するように設定されていることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の波長モニタ装置。
【請求項8】
前記複屈折材料と前記保持材の線膨張係数との差と前記複屈折材料の屈折率との積と、前記複屈折材料の熱光学係数と、前記保持材と前記複屈折材料間で発生する熱ひずみによる屈折率変化との和の絶対値が最小となるように前記略平行に対向する平面の法線と光学軸との角度が設定されていることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の波長モニタ装置。
【請求項9】
前記波長フィルタを構成する前記複屈折材料は、α−BBO結晶、LiIO結晶、CaCO結晶、β−BBO結晶のいずれかであることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の波長モニタ装置。
【請求項10】
前記複屈折材料に入射する光は常光軸に揃えた偏光を用い、
前記複屈折材料がCaCO結晶の場合は、その光学軸の光軸に対する角度を約67度付近とし、
前記複屈折材料がα−BBO結晶の場合は、その光学軸の光軸に対する角度を約90度付近とすることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の波長モニタ装置。
【請求項11】
前記半導体レーザから出射されるレーザ光のビームサイズを調節し、調節されたレーザ光を前記波長フィルタに出力するレンズを備えることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の波長モニタ装置
【請求項12】
前記波長検出手段は、
前記波長フィルタの透過光を検出する第1の光検出器と、
前記半導体レーザから出力されるレーザ光を直接検出する第2の光検出器と、
前記第1および第2の光検出器の検出信号の比を用いて前記レーザ光の発振波長を検出する波長検出部と、
を備えることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の波長モニタ装置。

【国際公開番号】WO2004/083914
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569579(P2004−569579)
【国際出願番号】PCT/JP2003/003345
【国際出願日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】