波長可変フィルタ
【課題】高コスト化を招くことなく透過ピーク波長の設定分解能を向上させた波長可変フィルタを提供する。
【解決手段】偏光子の相互間に配置された液晶セル300と、この液晶セル300に印加する交流電圧の振幅を振幅制御部221により制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御部220とを備えた波長可変フィルタにおいて、波長制御部220は、前記交流電圧の周波数を制御して透過ピーク波長を可変とする周波数制御部222を備え、この周波数制御部222から出力される周波数情報と、振幅制御部221から出力される振幅情報とを乗算器224により乗算し、アンプ225にて増幅することにより、液晶セル300に印加する矩形波交流電圧を生成する。これにより、波長可変フィルタの透過ピーク波長の設定分解能を高める。
【解決手段】偏光子の相互間に配置された液晶セル300と、この液晶セル300に印加する交流電圧の振幅を振幅制御部221により制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御部220とを備えた波長可変フィルタにおいて、波長制御部220は、前記交流電圧の周波数を制御して透過ピーク波長を可変とする周波数制御部222を備え、この周波数制御部222から出力される周波数情報と、振幅制御部221から出力される振幅情報とを乗算器224により乗算し、アンプ225にて増幅することにより、液晶セル300に印加する矩形波交流電圧を生成する。これにより、波長可変フィルタの透過ピーク波長の設定分解能を高める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を用いて透過ピーク波長を可変とした波長可変フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の波長可変フィルタは種々提供されている。
例えば、図10は特許文献1や非特許文献1に記載されたものと同等の波長可変フィルタの全体構成図であり、いわゆる修正型液晶リオフィルタ(Lyot-filter)と呼ばれているものである。
図10において、11〜14は偏光子、21〜23は偏光子11〜14の相互間に配置された液晶セル、31〜33は液晶セル21〜23に交流電圧v1〜v3をそれぞれ印加する電圧源である。
【0003】
液晶セル21〜23には、ネマティック液晶を用いた電界制御複屈折セル(ECBセル)が使用されており、互いに平行な偏光子11,12の間に、光軸と透過軸との角度が45°になるように液晶セル21を配置して第1平行ニコル液晶セルが構成される。同様に、互いに平行な偏光子12,13の間に液晶セル22を配置して第2平行ニコル液晶セルが構成されると共に、所望の波長以外の透過光を排除するために、互いに垂直な偏光子13,14の間に液晶セル23を配置して垂直ニコル液晶セルが構成されている。
何れの場合においても、液晶セルは、応答性を向上させるために位相差フィルム(図中では特に図示していない)と重ね合わされて光学補償されるベンド配向の液晶セル(OCBセル)として用いることが好ましい。
この液晶可変フィルタでは、液晶セル21〜23(第1,第2平行ニコル液晶セル、垂直ニコル液晶セル)に印加される交流電圧v1〜v3の振幅をリオフィルタの複屈折条件に適合するように制御することで、鋭いピークを有する透過光のスペクトルを得ると共に、上記交流電圧v1〜v3の組合せを変化させて透過ピーク波長を可変としている。ここで、交流電圧v1〜v3としては、例えば周波数が1kHzの矩形波交流電圧が用いられる。
【0004】
なお、図11は、上記波長可変フィルタの透過ピーク波長を総合特性として600nmに設定した場合の、各液晶セル21〜23の透過特性(それぞれチャンネルCH1〜CH3とする)を示した図である。
【0005】
【特許文献1】特開2000−267127号公報(段落[0005],[0006]、図5等)
【非特許文献1】内田龍男,「液晶を用いた波長可変フィルター」,応用物理第64巻第5号,1995年,p.451〜p.455
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧(周波数:1kHz)との関係を示している。一般に、印加電圧と透過ピーク波長とはリニアの関係になく、図示するように、印加電圧が低い場合には僅かな電圧差で透過ピーク波長が大きく変化する。
すなわち、波長可変フィルタに交流電圧を印加する代表的な駆動ユニットは、12bitのD/Aコンバータを備え、最大で±10Vfs(fs:サンプリング周波数)の分解能による電圧出力が可能であるが、透過ピーク波長を所定値に設定するための分解能が特に低電圧領域において十分ではない。例えば、現状の電圧分解能では出力電圧の最小幅が(10/4096)V≒0.0024V程度であり、この駆動ユニットを用いて波長可変フィルタを駆動したとしても、波長の設定分解能は1nm程度に過ぎない。
【0007】
透過ピーク波長を更に高精度に測定するためには、D/Aコンバータの分解能を上げるこことが考えられるが、これは、装置全体のコストを上昇させる原因となる。
前述した特許文献1等には、波長の設定分解能を向上させる技術が開示されておらず、その実現が要請されていた。
そこで本発明の解決課題は、高コスト化を招くことなく波長の設定分解能を向上させた波長可変フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る波長可変フィルタは、偏光子の相互間に配置された液晶セルに印加する交流電圧の振幅を制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御手段を備えた波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、前記交流電圧の周波数を制御して前記ピーク波長を可変とする周波数制御手段を備えたものである。
【0009】
請求項2に係る波長可変フィルタは、請求項1に記載した波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、
前記交流電圧の振幅情報と前記周波数制御手段から出力される周波数情報とを乗算して、前記液晶セルに印加する矩形波交流電圧を生成する手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液晶セルに印加する交流電圧の振幅制御に加えて周波数制御を併用することにより、波長可変フィルタの透過ピーク波長を高精度に設定することができる。
特に、振幅制御では印加電圧の低電圧領域で透過ピーク波長の設定分解能が悪いのに対し、振幅制御用のD/Aコンバータの分解能を上げる等の手段を講じなくても、周波数制御の併用によって透過ピーク波長の設定分解能を向上させることが可能である。
また、本発明においては波長可変フィルタの構造を変更することなく既存のものに適用可能であり、構造の複雑化を招くおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
前後するが、まず、図3は、例えば図10の液晶セル23に対し、周囲温度が20℃において透過ピーク波長が600nmとなるように印加電圧の振幅を1.38Vに固定し、その周波数を1kHzから段階的に増加させたときの透過ピーク波長と透過光強度との関係を示している。
【0012】
図3から明らかなように、印加電圧の周波数を高くしていくと透過ピーク波長は長波長側に移動していく。この現象は、図3のように印加電圧が比較的低い場合ばかりでなく、印加電圧を高くした場合にも生じるものであり、印加電圧を10Vとした図4の例でも、周波数を高くするほど透過ピーク波長が長波長側に移動していくことが確認されている。
すなわち、波長可変フィルタに使用される液晶セルにおいて、印加する交流電圧(例えば矩形波電圧)の振幅が一定であっても、周波数を変化させていくと透過ピーク波長が変化することが再現性よく確認されている。
本発明は上記の点に着目してなされたものである。
【0013】
ここで、図5は、最小分解能における電圧幅が0.01Vであり、かつ周波数が1kHzに固定された信号発生器を用いて波長可変フィルタを駆動した場合の分光特性(総合特性)であり、図10における液晶セル23に対しては印加電圧を出発電圧から0.01Vずつ低下させ、他の液晶セルに対しては透過ピーク波長が600nmとなるように印加電圧を固定した場合の分光特性を示している。
一方、図6は、印加電圧を固定するべき液晶セルに対しては透過ピーク波長が600nmになるように印加電圧を固定し、図10における液晶セル23の印加電圧の周波数を1kHzから60kHzまで20kHz刻みで変化させた場合の波長可変フィルタの分光特性である。
【0014】
図5,図6を比較すると、液晶セルに対する印加電圧の周波数を変化させれば(図6)、振幅を変化させた場合(図5)とほぼ同等に透過ピーク波長を変化させることができる。言い換えれば、最小分解能における電圧幅が0.01Vという高精度な駆動ユニットを用いるのに代えて、印加電圧の周波数を制御すれば透過ピーク波長の設定分解能を高めることができ、このような周波数の制御は、例えばダイレクト・ディジタル・シンセサイザ(DDS)によって高精度かつ容易に実現可能である。
【0015】
さて、図1は、本実施形態に係る波長可変フィルタの主要部を示すブロック図であり、主として波長可変フィルタを構成する液晶セル300の透過ピーク波長を制御するために矩形波交流電圧を印加する駆動ユニット200の構成を示している。
この駆動ユニット200には、タッチパネル等により入力操作を行う操作部100と、交流電圧が印加される液晶セル300と、温度補償用に周囲温度を測定する温度センサ400とが接続されており、前記操作部100の出力信号と、温度センサ400から温度入力回路230を介して取り込まれた温度検出信号とが、CPU等からなる装置制御部210に入力されている。なお、この実施形態における温度補償動作については後述する。
【0016】
装置制御部210には波長制御部220が接続されており、この波長制御部220は、液晶セル300を備えた波長可変フィルタの透過ピーク波長を高分解能で設定するために、液晶セル300に対する印加電圧の振幅を制御する振幅制御部221と、印加電圧の周波数を制御する周波数制御部222とを備えている。
【0017】
図2は、上記波長制御部220の構成を示すブロック図である。
この波長制御部220において、振幅制御部221はD/Aコンバータ221aを備えており、装置制御部210からのディジタル信号に応じたアナログ信号を印加電圧の振幅情報として出力する。
また、周波数制御部222は、シフトレジスタからなる周波数レジスタ222aと、加算器及びラッチからなるアキュムレータ222bと、セレクタ222cと、レジスタ222dとを備え、その全体は、例えば周知のダイレクト・ディジタル・シンセサイザ(DDS)によって構成されている。
【0018】
周波数制御部222の動作を説明すると、装置制御部210からの信号に基づいて周波数レジスタ222aが印加電圧の周波数を設定し、この周波数設定値は、アキュムレータ222bの後段のラッチからの前回出力と共に前段の加算器に入力される。そして、クロックごとに加算結果がラッチされ、ラッチの出力の所定ビットがアドレスとしてセレクタ222cに送られる。セレクタ222cからは、上記アドレスに対応して周波数設定値に比例した信号が出力され、この信号がレジスタ222dを介し周波数情報としてアナログスイッチ223に出力される。
上記アナログスイッチ223をオンすることにより、レジスタ222dからの周波数情報と振幅制御部221からの振幅情報とが乗算器224により乗算されて矩形波信号が生成され、この矩形波信号をアンプ225により所定値に増幅して液晶セル300に対する印加電圧が生成されるものである。
なお、図2に示した周波数制御部222の構成はあくまで一例であり、装置制御部210からの指令に応じて所望の周波数情報を出力可能であれば、いかなる構成であっても良い。
【0019】
この実施形態では、液晶セル300への印加電圧が矩形波であるため、DDSとしては周波数情報のみを出力できればよく、正弦波を出力させる場合のようにアキュムレータ222bの出力をアドレスとして正弦波データを読み出す必要がないので、正弦波データ用に大容量の波形メモリを備える必要もない。
DDSを用いた前記周波数制御部222において、周波数設定値の分解能を上げることは容易であり、液晶セル300に印加する矩形波交流電圧の周波数を例えば1Hz刻みできめ細かく制御することも可能である。これにより、振幅制御のみによる場合に比べて、図3、図4、図6等に示した透過ピーク波長の設定分解能を大幅に向上させることができる。
【0020】
次に、図1の温度センサ400、温度入力回路230、装置制御部210等によって実行される温度補償動作について簡単に説明する。
図7,図8は、液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を説明するために透過ピーク波長と透過光強度との関係を示した図であり、図7は周囲温度が20℃の場合、図8は50℃の場合である。なお、何れの場合も液晶セルへの印加電圧は1.38V、1kHzに設定されている。
これらの図から明らかなように、液晶セルの一般的な傾向として、周囲温度が上昇すると透過ピーク波長が短波長側に移動する傾向があるので、この温度依存性を何らかの方法によって補償する必要がある。
【0021】
そこで、一つの温度補償方法として、周囲温度T1,T2,T3,……において所定の透過ピーク波長λを得るために液晶セルに印加した電圧V1,V2,V3,……を予め測定し、ある周囲温度、例えばT1を基準として各温度T2,T3,……における差電圧(V2−V1),(V3−V1),……を求めておき、この差電圧を補正電圧として実際の印加電圧に対し加算(または減算)する方法が考えられる。
【0022】
図9は、周囲温度と上記の補正電圧との関係の一例を示しており、周囲温度に応じて予め求めた補正電圧を3次多項式により近似した例である。
この多項式を図1の装置制御部210に記憶させておき、温度センサ400及び温度入力回路230を介して入力された周囲温度に応じて補正電圧を計算し、振幅制御部221により設定される印加電圧の振幅に上記補正電圧を加算または減算して出力すれば、周囲温度の変化に関わらず所望の透過ピーク波長を有する波長可変フィルタを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の主要部を示すブロック図である。
【図2】図1の主要部を示すブロック図である。
【図3】液晶セルに対する印加電圧の周波数に応じた透過ピーク波長と透過光強度との関係を示す図である。
【図4】液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧の周波数との関係を示す図である。
【図5】液晶セルに対する印加電圧の周波数を一定とし、振幅を可変とした場合の分光特性を示す図である。
【図6】液晶セルに対する印加電圧の振幅を一定とし、周波数を可変とした場合の分光特性を示す図である。
【図7】液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を示す図である。
【図8】液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施形態において温度補償を行うための、周囲温度と補正電圧との関係を示す図である。
【図10】特許文献1等に記載された従来技術を示す構成図である。
【図11】図10に示した波長可変フィルタの総合特性及び液晶セルの透過特性図である。
【図12】液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
100:操作部
200:駆動ユニット
210:装置制御部
220:波長制御部
221:振幅制御部
221a:D/Aコンバータ
222:周波数制御部
222a:周波数レジスタ
222b:アキュムレータ
222c:セレクタ
222d:レジスタ
223:アナログスイッチ
224:乗算器
225:アンプ
230:温度入力回路
300:液晶セル
400:温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶を用いて透過ピーク波長を可変とした波長可変フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の波長可変フィルタは種々提供されている。
例えば、図10は特許文献1や非特許文献1に記載されたものと同等の波長可変フィルタの全体構成図であり、いわゆる修正型液晶リオフィルタ(Lyot-filter)と呼ばれているものである。
図10において、11〜14は偏光子、21〜23は偏光子11〜14の相互間に配置された液晶セル、31〜33は液晶セル21〜23に交流電圧v1〜v3をそれぞれ印加する電圧源である。
【0003】
液晶セル21〜23には、ネマティック液晶を用いた電界制御複屈折セル(ECBセル)が使用されており、互いに平行な偏光子11,12の間に、光軸と透過軸との角度が45°になるように液晶セル21を配置して第1平行ニコル液晶セルが構成される。同様に、互いに平行な偏光子12,13の間に液晶セル22を配置して第2平行ニコル液晶セルが構成されると共に、所望の波長以外の透過光を排除するために、互いに垂直な偏光子13,14の間に液晶セル23を配置して垂直ニコル液晶セルが構成されている。
何れの場合においても、液晶セルは、応答性を向上させるために位相差フィルム(図中では特に図示していない)と重ね合わされて光学補償されるベンド配向の液晶セル(OCBセル)として用いることが好ましい。
この液晶可変フィルタでは、液晶セル21〜23(第1,第2平行ニコル液晶セル、垂直ニコル液晶セル)に印加される交流電圧v1〜v3の振幅をリオフィルタの複屈折条件に適合するように制御することで、鋭いピークを有する透過光のスペクトルを得ると共に、上記交流電圧v1〜v3の組合せを変化させて透過ピーク波長を可変としている。ここで、交流電圧v1〜v3としては、例えば周波数が1kHzの矩形波交流電圧が用いられる。
【0004】
なお、図11は、上記波長可変フィルタの透過ピーク波長を総合特性として600nmに設定した場合の、各液晶セル21〜23の透過特性(それぞれチャンネルCH1〜CH3とする)を示した図である。
【0005】
【特許文献1】特開2000−267127号公報(段落[0005],[0006]、図5等)
【非特許文献1】内田龍男,「液晶を用いた波長可変フィルター」,応用物理第64巻第5号,1995年,p.451〜p.455
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧(周波数:1kHz)との関係を示している。一般に、印加電圧と透過ピーク波長とはリニアの関係になく、図示するように、印加電圧が低い場合には僅かな電圧差で透過ピーク波長が大きく変化する。
すなわち、波長可変フィルタに交流電圧を印加する代表的な駆動ユニットは、12bitのD/Aコンバータを備え、最大で±10Vfs(fs:サンプリング周波数)の分解能による電圧出力が可能であるが、透過ピーク波長を所定値に設定するための分解能が特に低電圧領域において十分ではない。例えば、現状の電圧分解能では出力電圧の最小幅が(10/4096)V≒0.0024V程度であり、この駆動ユニットを用いて波長可変フィルタを駆動したとしても、波長の設定分解能は1nm程度に過ぎない。
【0007】
透過ピーク波長を更に高精度に測定するためには、D/Aコンバータの分解能を上げるこことが考えられるが、これは、装置全体のコストを上昇させる原因となる。
前述した特許文献1等には、波長の設定分解能を向上させる技術が開示されておらず、その実現が要請されていた。
そこで本発明の解決課題は、高コスト化を招くことなく波長の設定分解能を向上させた波長可変フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る波長可変フィルタは、偏光子の相互間に配置された液晶セルに印加する交流電圧の振幅を制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御手段を備えた波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、前記交流電圧の周波数を制御して前記ピーク波長を可変とする周波数制御手段を備えたものである。
【0009】
請求項2に係る波長可変フィルタは、請求項1に記載した波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、
前記交流電圧の振幅情報と前記周波数制御手段から出力される周波数情報とを乗算して、前記液晶セルに印加する矩形波交流電圧を生成する手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液晶セルに印加する交流電圧の振幅制御に加えて周波数制御を併用することにより、波長可変フィルタの透過ピーク波長を高精度に設定することができる。
特に、振幅制御では印加電圧の低電圧領域で透過ピーク波長の設定分解能が悪いのに対し、振幅制御用のD/Aコンバータの分解能を上げる等の手段を講じなくても、周波数制御の併用によって透過ピーク波長の設定分解能を向上させることが可能である。
また、本発明においては波長可変フィルタの構造を変更することなく既存のものに適用可能であり、構造の複雑化を招くおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
前後するが、まず、図3は、例えば図10の液晶セル23に対し、周囲温度が20℃において透過ピーク波長が600nmとなるように印加電圧の振幅を1.38Vに固定し、その周波数を1kHzから段階的に増加させたときの透過ピーク波長と透過光強度との関係を示している。
【0012】
図3から明らかなように、印加電圧の周波数を高くしていくと透過ピーク波長は長波長側に移動していく。この現象は、図3のように印加電圧が比較的低い場合ばかりでなく、印加電圧を高くした場合にも生じるものであり、印加電圧を10Vとした図4の例でも、周波数を高くするほど透過ピーク波長が長波長側に移動していくことが確認されている。
すなわち、波長可変フィルタに使用される液晶セルにおいて、印加する交流電圧(例えば矩形波電圧)の振幅が一定であっても、周波数を変化させていくと透過ピーク波長が変化することが再現性よく確認されている。
本発明は上記の点に着目してなされたものである。
【0013】
ここで、図5は、最小分解能における電圧幅が0.01Vであり、かつ周波数が1kHzに固定された信号発生器を用いて波長可変フィルタを駆動した場合の分光特性(総合特性)であり、図10における液晶セル23に対しては印加電圧を出発電圧から0.01Vずつ低下させ、他の液晶セルに対しては透過ピーク波長が600nmとなるように印加電圧を固定した場合の分光特性を示している。
一方、図6は、印加電圧を固定するべき液晶セルに対しては透過ピーク波長が600nmになるように印加電圧を固定し、図10における液晶セル23の印加電圧の周波数を1kHzから60kHzまで20kHz刻みで変化させた場合の波長可変フィルタの分光特性である。
【0014】
図5,図6を比較すると、液晶セルに対する印加電圧の周波数を変化させれば(図6)、振幅を変化させた場合(図5)とほぼ同等に透過ピーク波長を変化させることができる。言い換えれば、最小分解能における電圧幅が0.01Vという高精度な駆動ユニットを用いるのに代えて、印加電圧の周波数を制御すれば透過ピーク波長の設定分解能を高めることができ、このような周波数の制御は、例えばダイレクト・ディジタル・シンセサイザ(DDS)によって高精度かつ容易に実現可能である。
【0015】
さて、図1は、本実施形態に係る波長可変フィルタの主要部を示すブロック図であり、主として波長可変フィルタを構成する液晶セル300の透過ピーク波長を制御するために矩形波交流電圧を印加する駆動ユニット200の構成を示している。
この駆動ユニット200には、タッチパネル等により入力操作を行う操作部100と、交流電圧が印加される液晶セル300と、温度補償用に周囲温度を測定する温度センサ400とが接続されており、前記操作部100の出力信号と、温度センサ400から温度入力回路230を介して取り込まれた温度検出信号とが、CPU等からなる装置制御部210に入力されている。なお、この実施形態における温度補償動作については後述する。
【0016】
装置制御部210には波長制御部220が接続されており、この波長制御部220は、液晶セル300を備えた波長可変フィルタの透過ピーク波長を高分解能で設定するために、液晶セル300に対する印加電圧の振幅を制御する振幅制御部221と、印加電圧の周波数を制御する周波数制御部222とを備えている。
【0017】
図2は、上記波長制御部220の構成を示すブロック図である。
この波長制御部220において、振幅制御部221はD/Aコンバータ221aを備えており、装置制御部210からのディジタル信号に応じたアナログ信号を印加電圧の振幅情報として出力する。
また、周波数制御部222は、シフトレジスタからなる周波数レジスタ222aと、加算器及びラッチからなるアキュムレータ222bと、セレクタ222cと、レジスタ222dとを備え、その全体は、例えば周知のダイレクト・ディジタル・シンセサイザ(DDS)によって構成されている。
【0018】
周波数制御部222の動作を説明すると、装置制御部210からの信号に基づいて周波数レジスタ222aが印加電圧の周波数を設定し、この周波数設定値は、アキュムレータ222bの後段のラッチからの前回出力と共に前段の加算器に入力される。そして、クロックごとに加算結果がラッチされ、ラッチの出力の所定ビットがアドレスとしてセレクタ222cに送られる。セレクタ222cからは、上記アドレスに対応して周波数設定値に比例した信号が出力され、この信号がレジスタ222dを介し周波数情報としてアナログスイッチ223に出力される。
上記アナログスイッチ223をオンすることにより、レジスタ222dからの周波数情報と振幅制御部221からの振幅情報とが乗算器224により乗算されて矩形波信号が生成され、この矩形波信号をアンプ225により所定値に増幅して液晶セル300に対する印加電圧が生成されるものである。
なお、図2に示した周波数制御部222の構成はあくまで一例であり、装置制御部210からの指令に応じて所望の周波数情報を出力可能であれば、いかなる構成であっても良い。
【0019】
この実施形態では、液晶セル300への印加電圧が矩形波であるため、DDSとしては周波数情報のみを出力できればよく、正弦波を出力させる場合のようにアキュムレータ222bの出力をアドレスとして正弦波データを読み出す必要がないので、正弦波データ用に大容量の波形メモリを備える必要もない。
DDSを用いた前記周波数制御部222において、周波数設定値の分解能を上げることは容易であり、液晶セル300に印加する矩形波交流電圧の周波数を例えば1Hz刻みできめ細かく制御することも可能である。これにより、振幅制御のみによる場合に比べて、図3、図4、図6等に示した透過ピーク波長の設定分解能を大幅に向上させることができる。
【0020】
次に、図1の温度センサ400、温度入力回路230、装置制御部210等によって実行される温度補償動作について簡単に説明する。
図7,図8は、液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を説明するために透過ピーク波長と透過光強度との関係を示した図であり、図7は周囲温度が20℃の場合、図8は50℃の場合である。なお、何れの場合も液晶セルへの印加電圧は1.38V、1kHzに設定されている。
これらの図から明らかなように、液晶セルの一般的な傾向として、周囲温度が上昇すると透過ピーク波長が短波長側に移動する傾向があるので、この温度依存性を何らかの方法によって補償する必要がある。
【0021】
そこで、一つの温度補償方法として、周囲温度T1,T2,T3,……において所定の透過ピーク波長λを得るために液晶セルに印加した電圧V1,V2,V3,……を予め測定し、ある周囲温度、例えばT1を基準として各温度T2,T3,……における差電圧(V2−V1),(V3−V1),……を求めておき、この差電圧を補正電圧として実際の印加電圧に対し加算(または減算)する方法が考えられる。
【0022】
図9は、周囲温度と上記の補正電圧との関係の一例を示しており、周囲温度に応じて予め求めた補正電圧を3次多項式により近似した例である。
この多項式を図1の装置制御部210に記憶させておき、温度センサ400及び温度入力回路230を介して入力された周囲温度に応じて補正電圧を計算し、振幅制御部221により設定される印加電圧の振幅に上記補正電圧を加算または減算して出力すれば、周囲温度の変化に関わらず所望の透過ピーク波長を有する波長可変フィルタを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態の主要部を示すブロック図である。
【図2】図1の主要部を示すブロック図である。
【図3】液晶セルに対する印加電圧の周波数に応じた透過ピーク波長と透過光強度との関係を示す図である。
【図4】液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧の周波数との関係を示す図である。
【図5】液晶セルに対する印加電圧の周波数を一定とし、振幅を可変とした場合の分光特性を示す図である。
【図6】液晶セルに対する印加電圧の振幅を一定とし、周波数を可変とした場合の分光特性を示す図である。
【図7】液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を示す図である。
【図8】液晶セルの透過ピーク波長の温度依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施形態において温度補償を行うための、周囲温度と補正電圧との関係を示す図である。
【図10】特許文献1等に記載された従来技術を示す構成図である。
【図11】図10に示した波長可変フィルタの総合特性及び液晶セルの透過特性図である。
【図12】液晶セルの透過ピーク波長と印加電圧との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
100:操作部
200:駆動ユニット
210:装置制御部
220:波長制御部
221:振幅制御部
221a:D/Aコンバータ
222:周波数制御部
222a:周波数レジスタ
222b:アキュムレータ
222c:セレクタ
222d:レジスタ
223:アナログスイッチ
224:乗算器
225:アンプ
230:温度入力回路
300:液晶セル
400:温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子の相互間に配置された液晶セルに印加する交流電圧の振幅を制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御手段を備えた波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、前記交流電圧の周波数を制御して前記ピーク波長を可変とする周波数制御手段を備えたことを特徴とする波長可変フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載した波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、
前記交流電圧の振幅情報と前記周波数制御手段から出力される周波数情報とを乗算して、前記液晶セルに印加する矩形波交流電圧を生成する手段を備えたことを特徴とする波長可変フィルタ。
【請求項1】
偏光子の相互間に配置された液晶セルに印加する交流電圧の振幅を制御して透過光のピーク波長を可変とする波長制御手段を備えた波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、前記交流電圧の周波数を制御して前記ピーク波長を可変とする周波数制御手段を備えたことを特徴とする波長可変フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載した波長可変フィルタにおいて、
前記波長制御手段は、
前記交流電圧の振幅情報と前記周波数制御手段から出力される周波数情報とを乗算して、前記液晶セルに印加する矩形波交流電圧を生成する手段を備えたことを特徴とする波長可変フィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−322562(P2007−322562A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150772(P2006−150772)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】
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