説明

波長可変光源装置

【課題】簡易な構成の波長可変光源装置を提供すること。
【解決手段】波長可変光源装置は、光源と、前記光源から出射される光線が入射され、印加される電圧に応じて前記光線を偏向して出力する光偏向素子と、前記光偏向素子から出力される光線が入射され、当該光線の入射角に応じて当該光線のうちの特定の波長の光線を共鳴反射する共鳴フィルタとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長可変光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、波長可変光源は数多くの分野で利用されており、近年波長可変範囲の広帯域化、波長挿引の高速化などが進められている。
【0003】
波長可変光源の利用範囲の一つとして、光干渉トモグラフィ(OCT)が挙げられる。光干渉トモグラフィは、生体や各種構造物の断層像を光干渉を利用して測定する技術であり、無侵襲で数10マイクロメートルの高分解能での測定が可能であることから、広く利用されている。
【0004】
基本的な光干渉トモグラフィの測定原理は、図1に示すように、低コヒーレンスの光源を使用して、マイケルソン干渉計を構成する。光源からビームを、ビームスプリッタで分割し、分割された一方の光(物体光)は測定物の表面に至り、内部に侵入して屈折率の境界や散乱物で反射、散乱される。分割されたもう一方の光(参照光)は、参照ミラーで反射される。それぞれの反射、散乱光は再びビームスプリッタを介して光検知器に至る。このとき、物体光と参照光の経路長が等しくなったとき、2つの光が強め合うため光検知器において信号強度が得られる。しかし光源の時間的コヒーレンスが高ければ、物体光と参照光の経路長が等しくない場合でも干渉の強め合いが発生してしまい、物体の層構造を測定することは困難になる。そのために、光源の時間的コヒーレンス長が低くして、深さ方向の解像度が高めている。経路長が一致した領域の情報が得られるため、参照ミラーを光軸方向に機械的に走査することにより、物体の断層構造を得ることができる。
【0005】
一方、機械的走査を必要としない方法として、フーリエドメイン(FD)−OCTと呼ばれる技術がある。FD−OCTには2つの方式があり、一つが分光器型(SD)−OCT、もう一つが光走査型(SS)−OCTである。SD−OCTは、干渉光を分光して、干渉スペクトルを分光器(CCDアレイ)で検出し、フーリエ変換を行って反射光強度分布信号を得る。また、SS−OCTは、光源に波長可変レーザを用いて、光周波数を挿引し、干渉信号をフーリエ変換して反射光強度分布信号を得る。
【0006】
上記フーリエドメイン(FD)−OCTにおいては、機械的走査がないため、測定を高速化することが可能である。
【0007】
分光器型(SD)−OCTでは、低コヒーレンス光源から発せられる広いスペクトル幅をもつ光を用い、干渉スペクトルをグレーティング、プリズムなどにより分光し、1次元CCDアレイで検出を行う。参照ミラーの走査がなく、1回の光強度測定で深さ方向の情報を得ることが可能であるが、ピクセル数の多いディテクタが必要となり、システムが高価になる、ディテクタにより測定できる範囲が限定されてしまう、という問題が生じる。
【0008】
光走査型(SS)−OCTでは、通常広いスペクトル幅を持つ光源から、波長選択フィルタやグレーティングを使って特定波長を選択し、共振器構造を形成することにより特定波長を増幅して出射する。このとき、グレーティング角度の回転などにより増幅させる選択波長を変化させることにより、出射波長を走査することが可能になる。しかし、共振器構造により特定波長を増幅する方法では、装置が大型化する、発振する波長のモードの調整に精密な制御が必要になる、という問題が生じる。
【0009】
図2は、従来の光源装置を示す図である。図2に示す光源装置は、波長走査型の光源装置であり、光源21、光偏向させるミラー22、及び回折格子23を含み、ミラー22の回転により回折格子23に入射させる角度を変化させ、回折格子23と光源21の間で外部共振器を構成して特定波長を増幅させて光出射させている。外部共振器モードの跳びのない、安定した光出力を得るために、外部共振器長、ミラー22と回折格子23の間の距離やミラー22の角度を駆動部22Aによって精密に調整している(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の光源装置は、光源21、ミラー22、及び回折格子23で外部共振器を構成している。このため、安定した光出力を得るためには、ミラー22の精密な角度調整及び位置合わせを駆動装置22Aで行う必要があり、光学系の調整が複雑になるという課題があった。
【0011】
そこで、本発明は、簡易な構成の波長可変光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施の形態の一観点の波長可変光源装置は、光源と、前記光源から出射される光線が入射され、印加される電圧に応じて前記光線を偏向して出力する光偏向素子と、前記光偏向素子から出力される光線が入射され、当該光線の入射角に応じて当該光線のうちの特定の波長の光線を共鳴反射する共鳴フィルタとを含む。
【発明の効果】
【0013】
簡易な構成の波長可変光源装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】光干渉トモグラフィ装置の構成を示す図である。
【図2】従来の光源装置を示す図である。
【図3】実施の形態の波長可変光源装置を示す図である。
【図4】実施の形態の波長可変光源装置100の光偏向素子34を示す図である。
【図5】実施の形態の波長可変光源装置100の光偏向素子34を示す図である。
【図6】実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36として用いる共鳴フィルタを示す図である。
【図7】実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36としての共鳴フィルタにおける反射光の波長と反射率の関係を示す図である。
【図8】実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36として用いる共鳴フィルタにおいて、入射角度と共鳴反射した光線の波長及び反射率との関係を示すシミュレーション結果である。
【図9】実施の形態の変形例の反射素子36Aを示す図である。
【図10】実施の形態の変形例の反射素子36Bを示す図である。
【図11】実施の形態の変形例の反射素子36C、36Dを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の波長可変光源装置を適用した実施の形態について説明する。
【0016】
図3は、実施の形態の波長可変光源装置を示す図である。
【0017】
実施の形態の波長可変光源装置100は、光源31、コリメートレンズ32、集光レンズ33、光偏向素子34、集光レンズ35、反射素子36、集光レンズ37、光出力部38、及び信号発生部39を含む。
【0018】
光源31は、スペクトル幅の広い光線を出力できる光源であればよく、例えば、スーパールミネッセントダイオードを用いる。スーパールミネッセントダイオードは、広い波長帯域を持ちながら高輝度性を備えた光源である。スーパールミネッセントダイオードは、例えば、図3中の破線の枠内に示すように、波長(λ)に対する強度I(Intensity)が略一定の帯域が広い光源である。
【0019】
コリメートレンズ32は、光源31から出射された光線を平行光にするレンズである。
【0020】
集光レンズ33は、コリメートレンズ32によって平行光にされた光線を光偏向素子34に入射させる前に集光して適切なビーム径にするレンズである。
【0021】
光偏向素子34は、集光レンズ33で集光された光線が入射され、信号発生部39によって印加される電圧に応じて光線を偏向して出力する素子である。光偏向素子34によって光線が偏向される角度は、信号発生部39から光偏向素子34に入力される信号(電圧)によって調整される。
【0022】
光偏向素子34は、電気光学効果を有する強誘電体材料で形成される光導波路を有し、光導波路内に、強誘電体材料の一部が分極反転されたパターン部(分極反転パターン部)を備える。光偏向素子34に入射した光線は、光導波路領域を通過する。
【0023】
光偏向素子34の光導波路は、強誘電体材料の電気光学効果により、信号発生部39から印加される電圧によって屈折率を変化させる。図3には、強誘電体の分極反転パターン部としてプリズム形状の例を示す。このような分極反転パターン部に信号発生部39から入力される電圧を印加することにより、光導波路内を通過する光線を偏向する。光偏向素子34は、信号発生部39によって生成される電圧信号が入力されることにより、光偏向作用を示す。なお、光偏向素子34の詳細については、図4及び図5を用いて後述する。
【0024】
集光レンズ35は、光偏向素子34で偏向された光線を適切なビーム径に集光して反射素子36に入射させる。
【0025】
なお、コリメートレンズ32、集光レンズ33、及び集光レンズ35は、光学素子を構成する。
【0026】
反射素子36は、光偏向素子34で偏向され、集光レンズ35で集光された光線のうち、特定の波長の光線を共鳴反射する共鳴フィルタである。反射素子36の詳細については後述する。
【0027】
集光レンズ37は、反射素子36で反射された光を集光して適切なビーム径にする。
【0028】
光出力部38は、集光レンズ37を経て反射素子36から入射する光を集光し、集光された光を外部装置(例えば、OCT等)に出力する。光出力部38としては、例えば、光ファイバを用いることができる。
【0029】
以上のような実施の形態の波長可変光源装置100では、光源31から出射される光線は、コリメートレンズ32、集光レンズ33を通って適切なビーム径に集光され、光偏向素子34の端面に入射する。光偏向素子34は、信号発生部39からの電圧印加による電気光学効果によって強誘電体材料の屈折率を変化させ、光導波路内を通過する光線を偏向する。
【0030】
このように光偏向素子34によって偏向された光線は、集光レンズ35によってビーム形状(又はビーム径)が適切な形状にされ、光反射素子36で反射される。光線は、光反射素子36で特定波長のみが共鳴反射によって反射され、集光レンズ37を経て光出力部38に入射する。これにより、信号発生部39から印加される電圧信号に応じて波長が選択された光線を光出力部38から外部装置(例えば、OCT等)に出力することができる。
【0031】
次に、実施の形態の波長可変光源装置100の光偏向素子34について説明する。
【0032】
図4及び図5は、実施の形態の波長可変光源装置100の光偏向素子34を示す図である。図4は光偏向素子34の断面を示し、図5は平面視における光偏向素子34を示す。図4に示す断面は、図5におけるA−A矢視断面であり、光偏向素子34の長手方向における中心軸における断面を示す。光偏向素子34の長手方向における中心軸は、図5の破線上にある。
【0033】
光偏向素子34は、基板41、接着層42、下部電極層43、下部クラッド層44、コア層45、上部クラッド層46、上部電極層47、及び分極反転領域48を有する。
【0034】
基板41の上には、接着層42により、下部電極層43、下部クラッド層44、コア層45、上部クラッド層46、及び上部電極層47の積層体が接着されている。分極反転領域48は、コア層45の中央部に形成されている。下部クラッド層44、コア層45、上部クラッド層46、及び分極反転領域48は、光導波路(薄膜光導波路)を構成する。
【0035】
基板41は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)製の基板を用いることができる。これは、後述するコア層45としてもニオブ酸リチウム(LiNbO)を用いるため、両者の材料を揃えることで、熱膨張による影響を低減させるためである。
【0036】
接着層42、例えば、アクリル系の樹脂接着剤である。
【0037】
下部電極層43は、接着層42によって基板41に接着されており、例えば、チタン(Ti)製の電極であればよい。下部電極層43の厚さは、例えば、200nmである。下部電極層43は、信号発生部39に接続されており、信号発生部39から電圧が印加される。下部電極層43は、後述する上部電極層47と同様に、平面視で分極反転領域48が形成される領域を覆うように形成されている。
【0038】
下部クラッド層44は、下部電極層43の上に形成されている。下部クラッド層44は、導波路の下面側において、コア層45よりも屈折率が低い層でありコア層45との界面で光線を全反射して閉じこめるために設けられている。下部クラッド層44は、例えば、酸化タンタル(Ta)を成膜することによって作製することができ、その厚さは、例えば、1μmでよい。
【0039】
コア層45は、下部クラッド層44の上に形成されており、下部クラッド層44よりも屈折率の高い層である。コア層45としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)を用いることができる。コア層45は、例えば、10μm程度の厚さで形成される。
【0040】
コア層45の中央部には、図5に示すように、平面視で三角形のプリズム状の分極反転領域48が形成されている。図5には、分極反転領域48を7つ示す。このため、図4に示す断面では、7つの分極反転領域48とコア層45矢印で示す光線の進行方向において交互に現れるように構成されている。
【0041】
上部クラッド層46は、コア層45の上側に形成されている。上部クラッド層46は、コア層45よりも低い屈折率を有する。これにより、上部クラッド層46は、コア層45との界面でコア層45内を伝搬する光線を全反射して閉じこめている。上部クラッド層46は、例えば、酸化タンタル(Ta)を成膜することによって作製することができ、その厚さは、例えば、1μmでよい。
【0042】
上部電極層47は、上部クラッド層46の上側において、図5に示すように平面視で分極反転領域48を覆う領域に形成されている。上部電極層47は、例えば、チタン(Ti)製の電極であればよい。上部電極層47の厚さは、例えば、200nmである。上部電極層47は、信号発生部39に接続されており、信号発生部39から電圧が印加される。
【0043】
分極反転領域48は、コア層45の中央部の一部が平面視で三角形のプリズム状に形成される分極反転領域である。分極反転領域48は、電圧印加時にコア層45とは反対の極性で屈折率が変化するように構成される領域である。このような分極反転領域48は、例えば、電気光学結晶に分極反転技術により形成される。
【0044】
分極反転領域48の屈折率変化は、分極反転によってコア層45とは正負逆転するので、図5に示す7つの分極反転領域48のように三角形形状の屈折変化部分ができることにより、光線は偏向する。
【0045】
このような光偏向素子34を作製するためには、例えば、分極反転領域48を形成した厚さ300μm程度のニオブ酸リチウム(LiNbO)の結晶を用意し、このニオブ酸リチウム(LiNbO)層の一方の面に下部クラッド層44及び下部電極層43を形成し、他方の面を研磨することによって厚さ10μmのコア層45を作製することができる。研磨は、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法によって行えばよい。
【0046】
また、このようにして作製したコア層45、下部クラッド層44、下部電極層43の積層体を接着層42によって基板41に接着する。
【0047】
さらに、下部クラッド層44、下部電極層43の積層体を接着層42によって基板41に接着した後に、コア層45の上に上部クラッド層46及び上部電極層47が形成される。以上により、光偏向素子34が完成する。
【0048】
光偏向素子34において、導波路面内の光の偏向は、コア層45及び分極反転領域48に信号発生部39から電圧を印加することによって行う。電圧印加時に分極反転領域48とされていない領域(分極反転領域48の周囲のコア層45)に屈折率の差が生じるため、コア層45に入射された光線は、導波路面内で偏向される。ここでコア層45及び分極反転領域48に信号発生部39から印加される電圧による屈折率の変化分Δnは、次の式(1)で与えられる。
【0049】
Δn=(−1/2)×(r×n×V/d) ・・・(1)
ここで、rは電気光学定数(ポッケルス定数)、nはコア材料の屈折率、Vは電圧、dはコア層45の厚さである。
【0050】
導波路面内での光線の偏向を低消費電力で動作させるためにはdを小さく、つまりコア層45を薄くすることで達成される。そのため、本実施の形態では、コア層45の厚さを約10μmに設定した。
【0051】
上部電極層47には信号発生部39(図3参照)から下部電極層43との間に電圧が印加される。これにより、上部電極層47と下部電極層43との間にある下部クラッド層44、コア層45、分極反転領域48、及び上部クラッド層46に電圧が印加され、コア層45と分極反転領域48の屈折率がポッケルス効果によって変化する。
【0052】
これにより、導波路内を伝搬する光線を偏向することができる。例えば、下部電極層43を接地して上部電極層47に−150Vから+150Vの電圧を印加することにより、導波路の面内方向に約−5°(図5において中心軸より左側に約5°)から約+5°(図5において中心軸より右側に約5°)の偏向角度が得られる。
【0053】
このようにして作製された光偏向素子34は、任意の周波数において複雑な偏向動作が可能であるため、100kHz程度までの周波数であれば、柔軟な偏向が可能になる。そのため、ある波長領域のみ挿引速度を変化させたり、飛び飛びの任意波長を出力するといった波長変化も可能となる。
【0054】
次に、反射素子36として用いる共鳴フィルタについて説明する。
【0055】
本実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36として用いる共鳴フィルタは、入射光の波長と同等程度かそれ以下のサイズの凹凸部によって、入射光のうちの特定波長の光を共振さることによって反射する共鳴反射を利用している。このような共鳴フィルタについては、例えば、文献(R.Magnusson and S.S.Wang, Transmission band pass guided-mode resonance filters, Appl. Opt. Vol.34, No.35, 8106(1995))に記載されている。
【0056】
この共鳴フィルタは、回折格子の寸法と光線の波長との関係に基づく共鳴現象を利用しており、導波路の構造の最適化により、帯域の狭い反射型の波長フィルタを実現している。
【0057】
図6は、実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36として用いる共鳴フィルタを示す図であり、図6(A)は側面図、図6(B)は斜視図である。
【0058】
反射素子36は、基板61、導波路層62、低屈折率層63、及び周期構造層64を含む。
【0059】
基板61は、例えば、合成石英ガラス、シリコン、石英、又はサファイア等で作製される。
【0060】
導波路層62は、屈折率の高い高屈折率材料で形成すればよく、例えば、酸化チタン(TiO)、五酸化二タンタル(Ta)、又はハフニウム酸化物(HfO)で形成すればよい。
【0061】
低屈折率層63は、導波路層62よりも屈折率の低い材料で構成される層であり、例えば、二酸化シリコン(SiO)、又は酸化マグネシウム(MgO)等で作製される。
【0062】
ここで、基板61、導波路層62、及び低屈折率層63を上述の材料を用いて均一な層として形成することは、例えば、スパッタリングや蒸着等の一般的な薄膜形成方法で可能である。なお、基板61、導波路層62、及び低屈折率層63を無機材料ではなく、有機材料で作製することも可能である。
【0063】
周期構造層64は、共鳴フィルタのサブ波長構造部であり、低屈折率層63よりも屈折率の高い層で作製される。周期構造層64は、例えば、導波路層62と同様に、酸化チタン(TiO)、五酸化二タンタル(Ta)、又はハフニウム酸化物(HfO)で形成すればよい。
【0064】
周期構造層64は、例えば、フォトリソグラフィーとエッチングにより形成することができる。本実施の形態では、電子ビームでの描画によってフォトレジストを用いて光線の波長以下の周期構造をパターニングし、フォトレジストをマスクとしてドライエッチングで酸化チタンをエッチングして形成する。
【0065】
上述のように、反射素子36では、相対的に低い屈折率nLを持つ低屈折率材料で構成される基板61上に、相対的に高い屈折率nHを持つ高屈折率材料で構成される導波路層62を形成している。
【0066】
基板61と導波路層62の屈折率は、nL<nHとなっている。図6に示す反射素子36では、入射光が共鳴反射を起こすためには、周期構造層64側からの光の入射が必要である。この微細な凹凸状の周期構造層64により、反射素子36に入射した光線のうち周期構造層64と共鳴する波長成分のみが、導波路層62の導波モードとカップリングし、共鳴反射することになり、それ以外の波長では光は透過する。
【0067】
図6に示すように、周期構造層64は、凹凸構造が周期pで一方向に配列した周期構造を有する。周期構造層64のグレーティングの幅は、周期に対してFF倍(0<FF<1)で定義する。このような周期構造層64においては、偏向方向に対する依存性が発生するため、周期構造層64のグレーティングに平行な電場振動を有する成分をTE偏光(図6(B)参照)、グレーティングに垂直な電場振動を有する成分をTM偏光(図6(B)参照)と呼ぶことにする。
【0068】
本実施の形態では、波長可変光源装置100に用いる共鳴フィルタについて、厳密結合波解析(RCWA)によって設計を行った。
【0069】
図6に示すように、反射素子36は、基板61上に、導波路層62、低屈折率層63、及び周期構造層64が積層して形成されている。
【0070】
基板61の屈折率nsを=1.51、導波路層62の屈折率nHを2.23、低屈折率層63の屈折率nLを1.44、周期構造層64は導波路層62と同質の材料で屈折率を1.51とした。
【0071】
ここで、反射素子36としての共鳴フィルタにおける反射光の波長と反射率の関係について説明する。
【0072】
図7は、実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36としての共鳴フィルタにおける反射光の波長と反射率の関係を示す図である。
【0073】
図6に示す反射素子36としての共鳴フィルタに角度θで光線が入射したとする。光線の波長は、λ0からλ2までであるとする。
【0074】
このとき、図7(A)に示すように、ほとんどの波長(λ0〜λ2)では共鳴フィルタを光線が透過するのに対して、特定波長λ1(λ0<λ1<λ2)付近では狭帯域で共鳴を起こし、光線が反射する。
【0075】
ここで、共鳴フィルタへの入射光の角度がθ+Δθに変わると、共鳴反射を起こす波長λ1がシフトする。
【0076】
図7(B)は、入射角度がθ+Δθに変化した場合、共鳴反射の発生する光線の波長がλ1Aになることを示している。すなわち、入射角度がθ+Δθとなった場合には、λ1の波長の光は透過し、λ1Aの波長の光が反射されることになる。
【0077】
このようにして、光偏向素子34と共鳴フィルタ36を組み合わせることにより、光偏向素子34によって得られる偏向角に応じて、共鳴フィルタ36で反射させる光の波長を選択することが可能になる。
【0078】
ここで、図6に示すような周期構造層64のグレーティングの方向と電場の振動方向が平行になるような入射光とし、ピッチp=600nm、充填率FF=0.5とした。また、導波路層62の厚さをd1、低屈折率層63の厚さをd2、周期構造層64の厚さをd3としたときに、d1=300nm、d2=50nm、d3=50nmとしてシミュレーションを行った。
【0079】
図8は、実施の形態の波長可変光源装置100の反射素子36として用いる共鳴フィルタにおいて、入射角度と共鳴反射した光線の波長及び反射率との関係を示すシミュレーション結果である。
【0080】
図8では、共鳴フィルタへの入射角度を10°〜20°まで1°刻みで変化させると、10nm刻みで波長1250〜1350nmの入射光の共鳴反射が生じるように設定されている。図8に示すように、入射角度に応じて共鳴反射によって反射される光線の波長が変化していることがわかる。
【0081】
図8に示すように、共鳴波長での反射強度はほぼ100%であるため、非常に高い効率で特定波長の光線を出力することができ、かつ、共鳴反射による反射光のスペクトルの半値幅は1nm程度の狭帯域となっているため、共鳴フィルタから出力される光線の波長は、nmオーダーの分解能が得られることが分かる。
【0082】
ここで、図8に示す共鳴反射による反射光のスペクトル特性は一例であり、共鳴フィルタにおいて、スペクトルの線幅や中心波長の設計は、パラメータ(層の厚さ、屈折率、周期)の設定で容易に調整することが可能である。
【0083】
以上のようにして作製された共鳴フィルタは、非常に狭帯域であり、入射角度に応じて特定波長のみを反射することができる。
【0084】
以上、本実施の形態によれば、上述のような光偏向素子34を用いるとともに、反射素子36として上述のような共鳴フィルタを用いることにより、非常に波長分解能の高い波長可変光源を提供することができる。
【0085】
また、薄膜光導波路を有する光偏向素子34と、反射素子36としての共鳴フィルタとを用いることにより、小型化を図った波長可変光源を提供することができる。
【0086】
また、上述のようにして、波長可変光源装置100の出力として最終的に光出力部38から出力する光の波長を、電気光学効果を用いた光線の偏向度合いで選択することにより、従来の光源装置のように物理的な可動部を有しないため、非常に高速で出力光の波長を変更することが可能になるとともに、信号発生部39から光偏向素子34に印加する電圧信号の電圧値をランダムに変化させることで、光出力部38から任意の波長の光線を出力することができる。
【0087】
また、共鳴フィルタによる反射を利用することにより、特定波長の光線を狭帯域でかつ、ほぼ100%での反射率が得られる。これにより、従来のように共振器等を必要としないため、装置の小型化が可能になり、精密な制御を必要としない簡易な構成で十分な光強度を有する波長可変光源を提供することができる。
【0088】
以上では、基板61、導波路層62、低屈折率層63、及び周期構造層64を含む反射素子36を用いる形態について説明したが、反射素子36としてはより簡単な構造の共鳴フィルタを用いてもよい。
【0089】
図9は、実施の形態の変形例の反射素子36Aを示す図である。
【0090】
反射素子36Aとしての共鳴フィルタは、図6に示す共鳴フィルタにおける低屈折率層63と周期構造層64を一体化して、周期構造層73としたものである。反射素子36Aは、基板71、導波路層72、及び周期構造層73を含む。
【0091】
基板71及び導波路層72は、それぞれ、図6に示す基板61及び導波路層62と同様である。
【0092】
図9に示す反射素子36Aとしての共鳴フィルタは、相対的に低い屈折率nLを持つ低屈折率材料で構成される基板71上に、相対的に高い屈折率nHを持つ高屈折率材料で構成される導波路層72が形成され、さらに、導波路層72の上面に低屈折率材料からなる周期構造層73が形成されている。周期構造層73は、凸部73Aを有する。
【0093】
このように、図9に示すような反射素子36Aを図6に示す反射素子36の代わりに用いてもよい。
【0094】
また、図6に示す反射素子36及び図9に示す反射素子36Aの代わりに、図10に示す反射素子36Bを用いてもよい。
【0095】
図10は、実施の形態の変形例の反射素子36Bを示す図である。
【0096】
反射素子36Bは、基板81と、図9に示す導波路層72と周期構造層73を一体とした周期構造層82とを含む。基板81は、図9に示す基板71と同様である。周期構造層82は、基板81よりも屈折率の高い材料で構成され、周期的に形成される凸部82Aを有する。
【0097】
反射素子36Bにある角度θで光線が入射すると、周期構造層82の凸部82Aを除いた導波路内では、周期構造層82の上に存在する空気の屈折率が周期構造層82の屈折率よりも低いために、導波路内で全反射が生じる。すなわち、図10に示す反射素子36Bでは、周期構造層82の上に存在する空気層が低屈折率層となる。
【0098】
このため、導波路内を全反射しながら伝播する光線のうちの特定波長の成分が共鳴反射を起こし、強い反射光となる。
【0099】
このため、図10に示す反射素子36Bを用いた場合においても、ほとんどの波長では反射素子36Bを光線が透過するのに対して、特定波長の付近では狭帯域で共鳴を起こし、反射する。
【0100】
また、以上では、反射素子36の周期構造層64(図6(A)、(B)参照)がストライプである形態について説明したが、周期構造層64の構造は、ストライプ状には限られない。
【0101】
図11は、実施の形態の変形例の反射素子36C、36Dを示す図である。
【0102】
図11(A)に示すように、反射素子36Cは、基板61、導波路層62、低屈折率層63、及び周期構造層64Aを含む。周期構造層64Aは、平面視において、マトリクス状に配列された矩形状の凸部である。基板61、導波路層62、及び低屈折率層63は、図6に示す反射素子36の基板61、導波路層62、及び低屈折率層63と同様である。
【0103】
図11(B)に示すように、反射素子36Dは、基板61、導波路層62、低屈折率層63、及び周期構造層64Bを含む。周期構造層64Bは、平面視において、マトリクス状に円形の凹部が配列されている。基板61、導波路層62、及び低屈折率層63は、図6に示す反射素子36の基板61、導波路層62、及び低屈折率層63と同様である。
【0104】
図11(A)に示す反射素子36C、又は、図11(B)に示す反射素子36Dを用いても、図6に示す反射素子36を用いる場合と同様に、光偏向素子34によって変更される角度に応じて、特定波長の光線を反射することができる。
【0105】
なお、以上では、光源31としてスーパールミネッセントダイオードを用いる形態について説明したが、光源31はこれに限らず、スペクトル幅の広い光線を出力できる光源であれば他の光源であってもよい。
【0106】
また、以上では、上述のような分極反転技術により屈折率が反転する分極反転領域を形成する形態について説明したが、上部電極層47と下部電極層43の電極形状自体を平面視で三角形形状にすることにより、電極形状に応じた屈折率変化を与える態様としてもよい。
【0107】
以上、本発明の例示的な実施の形態の波長可変光源装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0108】
100 波長可変光源装置
31 光源
32 コリメートレンズ
33 集光レンズ
34 光偏向素子
35 集光レンズ
36 反射素子
37 集光レンズ
38 光出力部
39 信号発生部
41 基板
42 接着層
43 下部電極層
44 下部クラッド層
45 コア層
46 上部クラッド層
47 上部電極層
48 分極反転領域
61 基板
62 導波路層
63 低屈折率層
64 周期構造層
71 基板
72 導波路層
73 周期構造層
73A 凸部
81 基板
82 周期構造層
82A 凸部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0109】
【特許文献1】特開2008−305997号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源から出射される光線が入射され、印加される電圧に応じて前記光線を偏向して出力する光偏向素子と、
前記光偏向素子から出力される光線が入射され、当該光線の入射角に応じて当該光線のうちの特定の波長の光線を共鳴反射する共鳴フィルタと
を含む、波長可変光源装置。
【請求項2】
前記光偏向素子は、電気光学効果を有する導波路を有し、前記導波路に印加される電圧に応じて光線を偏向して出力する、請求項1記載の波長可変光源装置。
【請求項3】
前記光偏向素子は、前記導波路内に分極反転部を有する、請求項1又は2記載の波長可変光源装置。
【請求項4】
前記共鳴フィルタは、
基板と、
前記基板上に形成され、前記基板よりも屈折率の高い高屈折率層と、
前記高屈折率層の上部に所定のピッチで凹凸が形成される凹凸部と
を有する、請求項1乃至3のいずれか一項記載の波長可変光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−53956(P2013−53956A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193060(P2011−193060)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】