説明

波長変換器および発光装置ならびに照明装置

【課題】 発光効率を向上できる波長変換器および発光装置ならびに照明装置を提供する。
【解決手段】 光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器19であって、透明マトリクス中に、赤色に発光する蛍光体、青色に発光する蛍光体および緑色に発光する蛍光体を分散してなるとともに、赤色に発光する蛍光体および緑色に発光する蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などの光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器、または波長変換器を搭載した発光装置、ならびに該発光装置を具備した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以下「LEDチップ」とも言う)は、小型で電力効率が良く鮮やかに発色する。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特徴を有するため、液晶等のバックライト光源および蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
【0003】
LEDチップは、LEDチップの光の一部を蛍光体で波長変換し、当該波長変換された光と波長変換されないLEDの光とを混合して放出することにより、LEDの光とは異なる色を発光する発光装置に応用されている。
【0004】
このような発光装置としては、例えば、青色LEDチップ上に(Y,Gd)(Al,Ga)12の組成式で表されるYAG系蛍光体等の黄色に発光する蛍光体を配置したものが知られている。
【0005】
この発光装置では、LEDチップから発する光が黄色成分の蛍光体に照射されると、黄色に発光する蛍光体は励起されて可視光を発し、この可視光が出力として利用される。ところが、LEDチップの明るさを変えると、青色と黄色との光量比が変化するため、白色の色調が変化し、演色性に劣るといった問題があった。
【0006】
そこで、このような課題を解決するために、LEDチップとして400nm以下のピークを有する紫色LEDチップを用いるとともに、波長変換器には3種類の蛍光体を高分子樹脂中に混ぜ込んだ構造を採用し、紫色光を赤色、緑色、青色の各波長に変換して白色を発光することが提案されている(特許文献1参照)。これにより、演色性を向上することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発光装置では、励起光400nm付近の紫外域領域に対する赤色に発光する蛍光体の量子効率が低いため、白色光の発光効率を向上できないという問題があった。
【0008】
このような状況を鑑み、赤色に発光する蛍光体の開発が行われてきており、従来、Ba3−x−yEuMnMgSiの化学式で表される赤色に発光する珪酸塩系蛍光体が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0009】
また、発光素子400nm以下にピーク波長を有するLEDチップと組み合わせて用いることができる黄色乃至緑色(以下、黄緑色という)に発光する蛍光体として、Euを含む蛍光体の開発が行なわれている(特許文献2参照)。
【0010】
この特許文献2には、Sr2−x−yBaEuSiO4で表される蛍光体が開示されており、Si 1モルに対するSrのモル比と、Baのモル比と、Euのモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siが2の蛍光体が開示されている。
【特許文献1】特開2002−314142号公報
【特許文献2】特開2004−115633号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイエティ(Journal of Electrochemical Society)、1968年、P773-778
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された波長変換器の赤色に発光する蛍光体として、非特許文献1に記載されたBa3−x−yEuMnMgSiの化学式で表されるアルカリ土類金属珪酸塩系化合物を、また緑色に発光する蛍光体として、特許文献2に記載されたSr2−x−yBaEuSiO4の化学式で表されるアルカリ土類金属珪酸塩系化合物を、それぞれ用いたとしても、未だ赤色蛍光体および緑色蛍光体の量子効率が低く、発光装置の発光効率が低いという問題があった。
【0012】
本発明は、発光効率を向上できる波長変換器および発光装置ならびに照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の波長変換器は、光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器であって、透明マトリクス中に、赤色に発光する蛍光体、青色に発光する蛍光体および緑色に発光する蛍光体を分散してなるとともに、前記赤色に発光する蛍光体および前記緑色に発光する蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、前記青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなることを特徴とする。
【0014】
このような波長変換器では、赤色に発光する蛍光体および緑色に発光する蛍光体が、アルカリ土類金属珪酸塩からなり、さらに青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなるため、赤色に発光する蛍光体(以下、赤色発光蛍光体ということもある)、緑色に発光する蛍光体(以下、緑色発光蛍光体ということもある)および青色に発光する蛍光体(以下、青色発光蛍光体ということもある)を、透明マトリクスを形成する材料中に混合し、固化させる際に、アルカリ土類金属珪酸塩はハロりん酸塩よりもはるかに比重が大きいため、アルカリ土類金属珪酸塩からなる蛍光体粒子はハロりん酸塩からなる蛍光体粒子よりも沈降速度が速く、波長変換器の一方側に偏って存在する傾向にある。
【0015】
従って、例えば、LED等の発光素子側にハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体がくるように波長変換器を配置することにより、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が波長変換器内の発光素子に近い方に多く分布し、アルカリ土類金属珪酸塩からなる赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が発光素子から遠い方に分布しやすくなり、青色発光の蛍光体粒子により波長変換された青色の光が、赤色発光の蛍光体粒子および緑色発光の蛍光体粒子に当たり、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の蛍光体粒子に吸収されるため、赤色蛍光体および緑色蛍光体の量子効率を向上することができる。
【0016】
ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体の発光エネルギーを効率よくアルカリ土類金属珪酸塩からなる蛍光体にエネルギー移動することができるため、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の量子効率を向上することができる。
【0017】
本発明の波長変換器は、前記赤色に発光する蛍光体が、M(MはBa、またはBaとSr、あるいはBaとCa)、Eu、Mg、MnおよびSiを必須成分として含有し、前記Si 1モルに対する前記Euのモル比が0.14以下、前記Si 1モルに対する前記Mnのモル比が0.07以下であるとともに、主結晶がEuおよびMnを含有するM3MgSi28結晶であることを特徴とする。
【0018】
この赤色発光蛍光体は、前記M3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜33°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、MMgSi結晶の2θ=27.7°〜29.2°で検出されるピークのX線回折強度をBとし、MSiO結晶の2θ=29.2°〜30.8°で検出されるピークのX線回折強度をCとし、MMgSiO4結晶の2θ=28.0°〜29.4°で検出されるピークのX線回折強度をDとしたとき、B/(A+B+C+D)が0.1以下、C/(A+B+C+D)が0.1以下、D/(A+B+C+D)が0.26以下であることが望ましい。このような波長変換器では、赤色に発光する蛍光体の量子効率を高くすることができる。
【0019】
本発明の波長変換器は、前記緑色に発光する蛍光体が、M(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)、EuおよびSiを含有するとともに、主結晶が(M,Eu)SiO4で表されることを特徴とする。
【0020】
この緑色発光蛍光体は、X線吸収端近傍構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)による2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する前記2価のEuイオンの濃度が90%以上であり、さらに、前記Si 1モルに対する前記Mのモル比と、前記Si 1モルに対する前記Euのモル比との合計((M+Eu)/Si)が2未満であることが望ましい。このような波長変換器では、緑色に発光する蛍光体の量子効率を高くすることができる。
【0021】
本発明の波長変換器は、発光素子と、該発光素子が載置された基体と、前記発光素子が発光する光を波長変換する上記波長変換器とを具備してなることを特徴とする。このような発光装置では、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の量子効率を向上することができるため、白色光の発光効率を向上できる。
【0022】
本発明の照明装置は、上記発光装置を複数具備してなることを特徴とする。このような照明装置は、上記発光装置を複数具備してなるため演色性を向上できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の波長変換器では、LED等の発光素子側にハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体がくるように波長変換器を配置することにより、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が波長変換器内の発光素子に近い方に多く分布し、アルカリ土類金属珪酸塩からなる赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が発光素子から遠い方に分布しやすくなり、青色発光の蛍光体粒子により波長変換された青色の光が、赤色発光の蛍光体粒子および緑色発光の蛍光体粒子に当たり、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の蛍光体粒子に吸収されるため、赤色蛍光体および緑色蛍光体の量子効率を向上することができる。
【0024】
本発明の発光装置、照明装置は、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の量子効率を向上することができるため、白色光の発光効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の波長変換器、および波長変換器を搭載した発光装置を図面を用いて説明する。図1は、本発明の発光装置11の一実施形態を示す概略断面図である。図1によれば、本発明の発光装置11は、電極13が形成された基板(基体)15と、基板15上に設けられている発光素子17と、基板15上に発光素子17を覆うように形成された1層の波長変換器19と、光を反射する反射部材21とを備えている。尚、符号22はワイヤ、符号16は接着剤である。
【0026】
波長変換器19は、例えば、透明マトリクス中に、波長が430nmから490nmの蛍光(青色)を発する蛍光体(図示せず)、波長が520nmから570nmの蛍光(緑色)を発する蛍光体(図示せず)、波長が600nmから650nmの蛍光(赤色)を発する蛍光体(図示せず)が含有されており、光源である発光素子17から発せられる光の一部の波長を他の波長に変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力し、ある波長を有する発光素子17の光を他の波長を有する光に変換する。
【0027】
青色を発する蛍光体は、例えば、波長が400nm前後の光で励起される量子効率が高い材料からなる。一方、緑色を発する蛍光体は、例えば、波長が400nmから460nmまでの光で励起される材料からなる。また、赤色を発する蛍光体は、例えば、波長が400nmから460nmだけでなく、550nm付近の光でも励起される材料からなる。
【0028】
波長変換器19は、蛍光体を均一に分散および担持し、かつ蛍光体の光劣化を抑制することができるため、高分子樹脂やガラス材料などの透明マトリクス中に蛍光体を分散して形成することが好ましい。高分子樹脂膜、ゾルゲルガラス薄膜などのガラス材料としては、透明性が高く、かつ加熱や光によって容易に変色しない耐久性を有するものが望ましい。
【0029】
高分子樹脂膜は、材料は特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアリレート、さらにこれら材料の誘導体が用いられる。特に、350nm以上の波長域において高い光透過性を有していることが好ましい。このような透明性に加え、耐熱性の観点から、シリコーン樹脂がより好適に用いられる。
【0030】
ガラス材料は、シリカ、チタニア、ジルコニア、さらにそれらのコンポジット系を例示できる。高分子樹脂膜と比較して、光、特に紫外線に対する耐久性が高く、さらに熱に対する耐久性が高いことから、製品の長寿命化を実現できる。また、ガラス材料は、安定性を向上させることができることから、信頼性の高い発光装置を実現できる。
【0031】
波長変換器19は、ゾルゲルガラス膜などのガラス材料または高分子樹脂膜を用いて、塗布法により形成することができる。一般的な塗布法であれば限定されないが、ディスペンサーによる塗布が好ましい。例えば、液状で未硬化の樹脂、ガラス材料、または溶剤で可塑性を持たせた樹脂およびガラス材料に、蛍光体を混合することにより製造することができる。未硬化の樹脂としては、例えばシリコーン樹脂が使用できる。これらの樹脂は2液を混合して硬化させるタイプのものであっても1液で硬化するタイプのものであっても良く、2液を混合して硬化させるタイプの場合、両液にそれぞれ蛍光体を混練してもよく、あるいはどちらか一方の液に蛍光体を混練しても構わない。また、溶剤で可塑性を持たせた樹脂としては例えばアクリル樹脂を使用することができる。
【0032】
硬化した波長変換器19は、未硬化状態でディスペンサー等の塗布法を使用するなどして、フィルム状に成形したり、所定の型に流し込んで固めることで得られる。樹脂およびガラス材料を硬化させる方法としては、熱エネルギーや光エネルギーを使う方法がある他、溶剤を揮発させる方法がある。蛍光体を混練し、固化する際に、その比重により沈降速度が異なり、比重の大きい方が沈降速度が大きい。従って、従来、固化させる際に、例えば、硬化温度を高めに設定し、すばやく固化することにより、赤、緑、青に発光する蛍光体粒子を均一に分散させることが行われていた。
【0033】
電極13を形成する導体は、発光素子17を電気的に接続するための導電路としての機能を有し、基体15の下面から上面に引き出され、ワイヤ22にて発光素子17と電気的に接続されている。導体としては、例えば、W、Mo、CuまたはAg等の金属粉末を含むメタライズ層を用いることができる。導体は、基板15がセラミックスから成る場合、その上面に配線導体がタングステン(W)またはモリブデン(Mo)−マンガン(Mn)等から成る金属ペーストを高温で熱処理して形成され、基板15が樹脂から成る場合、銅(Cu)または鉄(Fe)−ニッケル(Ni)合金等から成るリード端子がモールド成型されて基板15の内部に設置固定される。
【0034】
基板15は熱伝導性が高く、かつ全反射率の大きいことが求められるため、例えばアルミナ、窒化アルミニウム等のセラミック材料の他に、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂が好適に用いられる。
【0035】
発光素子17は、蛍光体の励起を効率的に行なうことができるため、中心波長が370〜420nmの光を発する半導体材料を備えた発光素子を用いている。これにより、出力光の強度を高め、より発光効率の高い発光装置を得ることが可能となる。
【0036】
発光素子17は、上記中心波長を発するものが好ましいが、発光素子基板表面に、半導体材料からなる発光層を備える構造(図示せず)を有していることが、高い量子効率を有する点で好ましい。このような半導体材料として、ZnSeまたは窒化物半導体(GaN等)等種々の半導体を挙げることができるが、発光波長が上記波長範囲であれば、特に半導体材料の種類は限定されない。これらの半導体材料を有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタシャル成長法等の結晶成長法により、発光素子基板上に半導体材料からなる発光層を有する積層構造を形成すれば良い。発光素子基板は、結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるために、例えば窒化物半導体からなる発光層を表面に形成する場合、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、ZrB、GaNまたは石英等の材料が好適に用いられる。
【0037】
発光素子17と波長変換器19の側面には、必要に応じて、光を反射する反射部材21を設け、側面に逃げる光を前方に反射し、出力光の強度を高めることができる。反射部材21の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、金(Au)、鉄(Fe)またはこれらの積層構造物や合金、さらにアルミナセラミックス等のセラミックス、またはエポキシ樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0038】
発光装置は、図1に示すように、波長変換器19を発光素子17上に設置することにより得られる。波長変換器19を発光素子17上に設置する方法としては硬化したシート状の波長変換器19を発光素子17上に設置することが可能である。
【0039】
照明装置は、図1に示すような発光装置を、例えば、基板に複数配置し、これらの発光装置を電気的に接続して構成される。また、基板15の表面に複数の発光素子17、波長変換器19、反射部材21を形成し、複数の発光装置を形成し、これらの発光装置を電気的に接続して照明装置を形成しても良い。
【0040】
そして、本発明の波長変換器は、透明マトリクス中に、赤色発光蛍光体、青色発光蛍光体および緑色発光蛍光体を分散してなるとともに、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、青色発光蛍光体がハロりん酸塩からなるものである。
(赤色発光蛍光体の説明)
赤色発光蛍光体は、アルカリ土類金属珪酸塩からなるもので、例えば、MMgSi:Eu(Mは、Sr、CaおよびBaから選ばれる少なくとも1種)が好適に用いられる。
【0041】
このような赤色発光蛍光体としては、M(MはBa、またはBaとSr、あるいはBaとCa)、Eu、Mg、MnおよびSiを必須成分として含有する蛍光体である。そして、Si 1モルに対するEuのモル比が0.14以下であり、Si 1モルに対するMnのモル比が0.07以下のものである。
【0042】
赤色発光蛍光体は、例えば、M3−aEuMg1−bMnSiの化学組成(但し、aは0<a≦0.264、bは0<b≦0.132、cは1.905≦c≦2.025を満足する値である)を有する。この化学組成で表される蛍光体は、化学量論組成に近く、励起光を赤色に変換することのできる結晶が再現よく形成されるとともに、結晶相の制御を容易に行うことができ、さらに赤色以外の変換光の発生を抑制することができる。
【0043】
Euのモル比aは、M3−aEuMg1−bMnSi中で0<a≦0.264を満たせばよい。しかし、発光中心イオンEu2+のモル比aが小さすぎると、量子効率が小さくなる傾向がある。一方、多すぎても、濃度消光と呼ばれる現象によりやはり量子効率が小さくなる傾向がある。下限としては0.06≦aが好ましい。特には、aは、0.1≦a≦0.2の範囲にあることが望ましい。
【0044】
Mnのモル比は0<b≦0.132を満たせばよい。しかし蛍光体は励起光源の照射を受けて励起したEu2+のエネルギーがMn2+に移動し、Mn2+が赤発光しているものと考えられているため、Mnの組成によりエネルギー移動の程度が異なる。それゆえ高い赤色の量子効率を得るには、0.01≦b≦0.1であることが好ましい。さらに、bは、0.075≦b≦0.1を満足することが望ましい。
【0045】
また、cは、1.905≦c≦2.025を満足すればよい。
【0046】
尚、赤色発光蛍光体は、M3−x−yEuMgMnSiの化学組成(但し、xは0<x≦0.2、yは0<y≦0.1、zは1.905≦z≦2.025を満足する値である)で表される場合もある。
【0047】
そして、赤色発光蛍光体は、主結晶がEuおよびMnを含有するM3MgSi28結晶であり、該M3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜33°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、MMgSi結晶の2θ=27.7°〜29.2°で検出されるピークのX線回折強度をBとし、MSiO結晶の2θ=29.2°〜30.8°で検出されるピークのX線回折強度をCとし、MMgSiO4結晶の2θ=28.0°〜29.4°で検出されるピークのX線回折強度をDとしたとき、B/(A+B+C+D)が0.1以下、C/(A+B+C+D)が0.1以下、D/(A+B+C+D)が0.26以下であることが望ましい。
【0048】
赤色発光蛍光体は、EuおよびMnを含有するMMgSi結晶を主たる結晶とするものであり、Eu、Mnは、励起光を吸収して発光する賦活剤として機能するものである。ここで主結晶とは、A/(A+B+C+D)が0.5よりも大きいものであるが、特には0.695より大きいものであり、さらには0.74以上のものをいう。
【0049】
このように、B/(A+B+C+D)が0.1以下であり、C/(A+B+C+D)が0.1以下であり、D/(A+B+C+D)が0.26以下である蛍光体は、Eu、Mnを賦活剤として含有するMMgSi結晶以外からの緑色発光を抑制でき、赤色の量子効率が高い蛍光体が得られる。
【0050】
一方、B/(A+B+C+D)、C/(A+B+C+D)が0.1よりも大きく、D/(A+B+C+D)が0.26よりも大きい場合には、赤色の量子効率が低くなる。特に、B/(A+B+C+D)が0.0709以下であり、C/(A+B+C+D)が0.0336以下であることが望ましい。MMgSi結晶、MSiO結晶については実質的に存在しないか、生成量が少ない方が望ましい。
【0051】
MgSiO4結晶については、0.04≦D/(A+B+C+D)≦0.26を満足することにより、M3MgSi28結晶単独からなる場合またはD/(A+B+C+D)が0.04よりも小さい場合よりも、却って赤発光蛍光体の量子効率を向上できる。D/(A+B+C+D)の値は、特に赤色の量子効率を向上するという点から、0.08〜0.25であることが望ましい。
【0052】
赤色発光蛍光体では、図2に示すように、Eu、Mnを含有するMMgSi結晶を主たる結晶とするものであり、第2相としてMMgSiO結晶が生成し、異相として、MMgSi結晶、MSiO結晶が生成することがあるが、上記したように、MMgSi結晶、MSiO結晶については実質的に存在しないか、生成量が少ない方が望ましい。尚、図2は、MMgSiO結晶量が増減する複数の蛍光体の粉末X線回折測定結果を示している。
【0053】
赤色発光蛍光体は、図3に示すように、M3MgSi28結晶粒子中にMMgSiO4結晶粒子が存在している。本発明者等は、このような組織とすることにより、MMgSiO4で吸収した光をM3MgSi28結晶に十分にエネルギー伝達することができ、赤色発光蛍光体の量子効率が向上すると考えている。
【0054】
としてはBa、またはBaとSr、あるいはBaとCaの組み合わせがあり、特に、Baが望ましい。
【0055】
がBaのときには、EuおよびMnを含有するM3MgSi28は、2θ=31.5°〜32°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、MMgSi結晶の2θ=27.7°〜28.2°で検出されるピークのX線回折強度をBとし、MSiO結晶の2θ=29.2°〜29.8°で検出されるピークのX線回折強度をCとし、MMgSiO4結晶の2θ=28.0°〜28.4°で検出されるピークのX線回折強度をDとする。
【0056】
そして、MがBaと、SrまたはCaとを組み合わせたものである場合、上記ピークのそれぞれが、MがBaのときより少々高角側に移動し、EuおよびMnを含有するM3MgSi28結晶は2θ=32.0°〜33°で、MMgSi結晶は2θ=28.2°〜29.2°で、MSiO結晶は2θ=29.7°〜30.8°、MMgSiO4結晶は2θ=28.7°〜29.4°で検出される。
【0057】
赤色発光蛍光体は、Ba、Sr、Ca、Mg、Eu、MnおよびSiの元素源化合物と、必要に応じて、塩化アンモニウム、塩化バリウムまたは塩化ストロンチウム等のフラックスを、下記の(A)又は(B)の混合法により調整した混合物を仮焼し、還元雰囲気で熱処理し、洗浄し、乾燥させて篩い分けし、D90が50μm以下の粉体の集合体からなる蛍光体を製造することができる。尚、D90とは累積粒度分布において微粒側から累積90%のときの粒径をいう。
【0058】
(A):ハンマーミル、ロールミル、ボールミルまたはジェットミル等の乾式粉砕機を用いた乾式混合法。
【0059】
(B):水等を加えてスラリー状態又は溶液状態で、粉砕機により混合し、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0060】
これらの混合法の中で、特に、賦活剤の元素化合物においては、少量の化合物を全体に均一に混合、分散させる必要があることから液体媒体を用いるのが好ましく、又、他の元素化合物において全体に均一な混合が得られる面からも、後者湿式混合法が好ましい。
【0061】
仮焼方法としては、アルミナまたは石英製の坩堝またはトレイ等の耐熱容器中で、酸素または窒素等の気体の単独或いは混合雰囲気下で加熱することによりなされる。
【0062】
熱処理方法としてはアルミナまたは石英製の坩堝またはトレイ等の耐熱容器中で、1000℃〜1300℃で、酸素、水素、窒素の混合雰囲気下、1〜24時間、加熱することによりなされる。
【0063】
また、加熱プロセス中の構成成分の蒸発を抑制するために、埋め焼き、マイクロ波焼成を行っても良い。
【0064】
0.04≦D/(A+B+C+D)≦0.26を満足させるには、蛍光体の組成を制御することによっても可能であるが、混合物の仮焼温度、仮焼時間、還元雰囲気での熱処理温度、熱処理時間の条件を変更することによって、同一組成であっても、0.04≦D/(A+B+C+D)≦0.26を満足するように制御できる。
【0065】
仮焼温度、還元熱処理温度の組み合わせは、950℃≦仮焼温度≦1250℃、1150℃≦還元熱処理温度≦1250℃である。仮焼温度保持時間は1〜6時間、還元熱処理保持時間は1〜12時間がよい。仮焼温度と還元熱処理温度の組み合わせが高すぎる場合、第2相のBaMgSiO4結晶が多量に析出し、緑色発光することで赤色の量子効率を低下させる。また、仮焼温度が低すぎる場合、第2相のBaMgSiO4結晶の析出量が少なくなり、エネルギー伝達が少なく、量子効率向上効果が小さい。
(緑色発光蛍光体の説明)
本発明の緑色発光蛍光体は、アルカリ土類金属珪酸塩からなるもので、例えば、複数の蛍光体粒子を含有するとともに、M(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)、EuおよびSiを含有する蛍光体である。この緑色発光蛍光体は(MEu)SiO4で表される結晶を主結晶とし、緑色発光蛍光体のX線吸収端近傍構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)による2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する2価のEuイオンの濃度が90%以上である。
【0066】
さらに、蛍光体は、Si 1モルに対するMのモル比と、Si 1モルに対するEuのモル比の合計((M+Eu)/Si)が2未満である。
【0067】
すなわち、特許文献2のSr2−x−yBaEuSiOで表される蛍光体においては、Si 1モルに対するSr、Ba、Euのモル比の合計(単にモル比の合計ということもある)(Sr+Ba+Eu)/Siが2であるが、2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する2価のEuイオンの濃度が90%以上、すなわち、Eu2+/(Eu2++Eu3+)≧0.9の領域においては、このモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siを2よりも小さくし、さらには1.94以下とすることで、特許文献2に開示されている、モル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2の蛍光体よりも優れた発光効率を実現することができる。
【0068】
ここで言うモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siの値は蛍光体中のSr2−x−yBaEuSiO結晶の構成元素組成から求められる値ではなく、緑色発光蛍光体全体の構成元素組成から求められる値を指す。
【0069】
蛍光を発する理想的な(M,Eu)SiO4結晶、例えば、Sr2−x−yBaEuSiO結晶では、化学量論比がモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2となるため、蛍光体の組成もモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2とすることが望ましいように思われるが、理由については現在のところ不明であるが、むしろモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2ではなく、蛍光体のモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siの値を化学量論比からはずれたモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si<2、特には1.94以下、さらには1.78〜1.94の範囲とすることで量子効率の高い蛍光体が得られることが明らかとなった。特には、1.89〜1.91であることが望ましい。
【0070】
また、xの値は0〜1の範囲で任意に選ぶことが可能であり、x=0の場合黄色、x=1の場合緑色の蛍光体とすることができ、黄色乃至緑色(以下、黄緑色ということもある)を発することができる。ここで、x≦1とすることにより、耐水性を向上できる。
【0071】
この蛍光体において、2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する前記2価のEuイオンの濃度(以下、単に2価Euイオン濃度ということもある)は、Eu2+/(Eu2++Eu3+)≧0.9である。この蛍光体では、2価Euイオン濃度は96%以上であることが望ましい。
【0072】
2価のEuイオン濃度と3価のEuイオン濃度は、蛍光体のXANESによって測定することができ、例えば、Eu2+の全Euに占める割合は、図4に示すように、Eu−L3吸収端のXANESスペクトルを測定することにより算出できる。XANESは、各元素の特性吸収端とその近傍に現れる共鳴吸収ピークの総称で、その元素の価数や構造を敏感に反映している。
【0073】
一般に、希土類のL3吸収端XANESスペクトルに現れる強い共鳴ピークエネルギーは、希土類元素の価数によって決まることが知られており、Euの場合、Eu2+のピークはEu3+のピークより約8eV低いエネルギーを持つので、2つを分離して定量することが可能である。ピーク高さとEu2+、Eu3+の濃度が比例関係にあると仮定して、Eu2+の占有イオン濃度を(Eu2+ピーク高さ)/(Eu2+ピーク高さ+Eu3+ピーク高さ)として定義した。
【0074】
Eu2+/(Eu2++Eu3+)≧0.9とするには、酸化ユーロピウムなどのEu3+を原料として用いた場合、例えば強い還元雰囲気中で加熱処理し、処理に十分な時間をかけてやればよい。このようにEu2+の比率を大きくすることで蛍光体の量子効率を大きくすることができる。
【0075】
しかしながら、この処理には時間がかかるため、融剤を用いて短時間の加熱処理で済ませるのが一般的である。好適に用いられる融剤としてはSrCl、BaCl、NHCl、SrFなどのハロゲン化物、NaOH、KOHなどのアルカリ化合物が挙げられる。特には、SrClが望ましい。
【0076】
なお、融剤は蛍光体の合成後に水洗によって、容易に除去することができる。融剤を用いない場合には、この水洗の工程が不要になるという利点があるが、量子効率は、融剤を用いた場合よりも低下する傾向にある。
【0077】
そして、融剤を除去した場合の緑色発光蛍光体の組成は、融剤を除いて添加したSr、Ba、EuおよびSi源となる原料のSr、Ba、EuおよびSiの比率によって決まり、融剤を除くと加熱処理の前後においてほとんど変化しない。
【0078】
緑色発光蛍光体は、式(M,Eu)SiO(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)で表されるもので、この緑色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子は、400〜460nm前後の光で励起されて、520nmから570nmの蛍光を発するものである。
【0079】
また、本発明の緑色発光蛍光体では、蛍光体粒子は、図5、6に示すように、蛍光体コア5bの表面に無機物の繊維状体5aが多数存在しており、その少なくとも一方の端部は、蛍光体コア5bに埋設されて蛍光体コア5bの表面に固着している。繊維状体5aは、蛍光体コア5bをその直径方向に見ると(図5)、針状の短い繊維が幾重にも折り重なっているように見ることもできる。
【0080】
そして、繊維状体5aの先端部は埋設され埋設部とされ、この埋設部以外の非埋設部は、蛍光体コア5bの表面から所定間隔hをおいて離間している。この間隔hには、蛍光体粒子を樹脂に分散させた場合に、樹脂が充填されることになる。
【0081】
蛍光ピーク波長は原子半径の大きいBaを用いると低波長側に、原子半径の小さいCaを用いると長波長側となり、Ba、Sr、Caの配合比率で波長を制御可能である。
【0082】
以下、本発明の緑色発光蛍光体の製法について説明する。Sr、Ba、Ca、Eu、Siの元素を含む化合物、例えば炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ユーロピウム、シリカの粉末を、各元素のモル比が、例えば、Eu/Si=0.01〜0.1、(M+Eu)/Si=1.78〜1.94となるように各粉末を秤量して蛍光体となる蛍光体原料を用意する。
【0083】
蛍光体原料は、例えば、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物および水酸化物など、焼成処理中に容易に酸化物になるものを好適に用いることができる。以下に、Ba、Sr、Si、Euを含有する蛍光体の製法について説明する。
【0084】
カルシウム原料としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、蓚酸カルシウム、カルシウムのアルコキシドを使用することができる。
【0085】
また、ストロンチウム原料としては、例えば、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、蓚酸ストロンチウム、ストロンチウムのアルコキシドを使用することができる。
【0086】
また、バリウム原料としては、例えば、酸化バリウム、炭酸バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、硫酸バリウム、酢酸バリウム、蓚酸バリウム、バリウムのアルコキシドを使用することができる。
【0087】
また、シリコーン原料としては、例えば、石英、クリストバライト等の二酸化珪素、シリコーンのアルコキシドを使用することができる。
【0088】
また、ユーロピウム原料としては、例えば、酸化ユーロピウム、塩化ユーロピウム、フッ化ユーロピウムを使用することができる。
【0089】
これらの原料を所定量秤量し、混合し、蛍光体原料を得る。なお、結晶成長を促進させ、発光輝度を向上させるために、蛍光体原料に対して0.1から10質量%のアルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、ハロゲン化アンモニウム、硼素化合物等の低融点化合物を融剤として添加、混合し、原料混合体を得る。融剤とはフラックスとも呼ばれるものである。
【0090】
さらに具体的には、蛍光体粒子は、Ba原料、Sr原料、Ca原料、Eu原料およびSi原料を、下記の(A)群又は(B)群の混合法により調整し、蛍光体原料と融剤とを含有する原料混合体を作製する。
【0091】
(A):ハンマーミル、ロールミル、ボールミルまたはジェットミル等の乾式粉砕機を用いた乾式混合法。
【0092】
(B):水等を加えてスラリー状態又は溶液状態で、粉砕機により混合し、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0093】
これらの混合法の中で、特に、少量の化合物を全体に均一に混合、分散させる必要があることから液体媒体を用いるのが好ましく、又、他の元素化合物において全体に均一な混合が得られる面からも、後者湿式混合法が好ましい。
【0094】
このようにして調整した原料混合体を加熱処理することで、本発明の蛍光体を作製することができる。
【0095】
原料混合体が粉末の場合、原料混合粉末の平均粒径を1μm以下に混合粉砕することが望ましい。これは、融剤を添加し、酸化雰囲気中で熱処理することにより、アパタイト型結晶粉末を十分に生成でき、しかも微粉であるため、Euを含有するアパタイト型結晶粉末の生成率を高め、実質的にEuを含有するアパタイト型結晶粉末と、式MSiO(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)で表される母材粒子粉末とからなる混合粉末を作製することが可能となる。原料混合粉末の平均粒径を1μm以下に混合粉砕するには、混合時間を長くし、混合粉砕した原料混合粉末をメッシュパスし、異常凝集粉を無くす必要がある。
【0096】
この原料混合粉末の酸化雰囲気中での熱処理温度は1000〜1100℃で、2〜5時間行うことが望ましい。アパタイト型結晶粉末は1000℃以上で生成するものの、1100℃を超えると母材粒子の粒成長が生じ、好ましくないからである。
【0097】
酸化雰囲気中での熱処理により、Euは実質的にアパタイト型結晶中に入り、Euとして存在する量を少なくでき、Euを含有するアパタイト型珪酸塩粉末と母材粒子粉末とからなる混合粉末を作製することができる。尚、Euは一部母材粒子中にも入る。
【0098】
アパタイト型結晶とは、(BaSr)2+xEu8−x(SiOCl4−xで表されるアパタイト型珪酸塩であり、Euは3価として存在する。図7は、酸化雰囲気中で熱処理後の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。この図7では、アパタイト型結晶は、母材粒子粉末中に存在したり、母材粒子粉末の周囲に存在することが判る。また、アパタイト型結晶は、母材粒子の粒径よりも非常に小さいことが判る。図8に、X線回折測定結果を示す。このX線回折測定結果とTEM写真から、酸化雰囲気での熱処理により、Euを含有するアパタイト型珪酸塩粉末と母材粒子粉末とからなる混合粉末を作製できることが判る。尚、図8は、Euの添加量を増加した場合である。
【0099】
酸化雰囲気中での熱処理後、メッシュパスを行い、例えば75μm以下の熱処理粉末について、還元雰囲気で熱処理する。
【0100】
Euを含有するアパタイト型結晶粉末と母材粒子粉末とからなる混合粉末であって、異常凝集粉がなく微細な混合粉末を、還元雰囲気中で熱処理することにより、理由は明確ではないが、3価のEuイオンが2価のEuイオンに還元されやすくなり、母材粒子のSr、Baと、アパタイト型結晶中のEuが相互置換し、蛍光体の2価のEuイオン濃度を96%以上と高くすることができる。尚、アパタイト型結晶は、相互置換により蛍光体粒子となる。
【0101】
還元雰囲気での熱処理温度は、1000〜1300℃、処理時間は3〜12時間が望ましい。この後、蒸留水で洗浄し、蛍光体粒子を得ることができる。
【0102】
なお、蛍光体の構成元素の組成比はICP発光分光分析などの手法で測定することができる。
【0103】
また、酸化雰囲気中で熱処理した後、還元雰囲気で、特に1150℃以下の低温で熱処理し、洗浄することにより、図5、6に示したように、蛍光体コア5bの表面に無機物の繊維状体5aを多数存在させることができる。
【0104】
還元雰囲気での熱処理温度が高い場合には結晶化が進行し、洗浄しても繊維状体5aが生成し難くなるからである。特には、1000〜1150℃が望ましい。
【0105】
そして、無機物の繊維状体5aは、例えば、還元雰囲気で熱処理したあと、蒸留水で洗浄することにより蛍光体コア5bの表面に形成させることができる。蒸留水で洗浄する時間は、5〜24時間とし、その洗浄液の温度は10〜50℃であることが望ましい。
【0106】
本発明者等は、繊維状体は、還元雰囲気で熱処理して形成された結晶であり、還元雰囲気中での熱処理温度が低いため、蛍光体コア全体が結晶質となりきれず、繊維状体の結晶の周囲にM、Si、Euを含有する非晶質体が存在しており、洗浄により、蛍光体コア中の非晶質体が溶解し、繊維状体が露出するものと考えている。
【0107】
繊維状体の一部を露出させるためには、洗浄液として水を用いることが望ましい。この水により、融剤が洗浄されるとともに、蛍光体コアの特に非晶質部分が加水分解され、繊維状体が露出するものと考えている。
【0108】
そして、洗浄工程により、蒸留水に溶けやすい蛍光体コア成分が表面より溶出し、繊維状体5aが露出し、さらに洗浄時間を長くすることにより、繊維状体5aの先端部は蛍光体コア5bに埋設されるが(埋設部)、埋設されていない部分(非埋設部)は蛍光体コア5b表面から所定間隔hを置いて離間した形状とすることができる。本発明者等は、蛍光体コア成分は、(M,Eu)SiO4(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)からなり、溶出する成分は非晶質部分であり、繊維状体5aは結晶質からなるものと考えている。即ち、繊維状体5aは無機材料からなるもので、(M,Eu)SiO4(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)で表される結晶質からなると考えている。
【0109】
また、洗浄して繊維状体5aを露出させるため、露出した部分はそのコア側部分が蛍光体コア5bに埋設されていることもあり、洗浄を長くすることにより、両端部を除いて露出した部分がコア表面から離間した状態となることもあるが、少なくとも繊維状体5aの一方の端部は埋設されている。尚、図6の右側に記載したように、一本の繊維状体5aの途中がコアに埋設されている場合もあり、これをコア表面の直径方向から見ると、複数の繊維状体に見えるため、複数の繊維状体として表している。
【0110】
無機物の繊維状体5aは硬化後の樹脂との間でアンカー効果を発現させることができるため、樹脂と蛍光体粒子5との間の接着力が向上し、両者の間で剥離が発生することを抑制することができる。これにより、本発明の蛍光体粒子5を樹脂からなる透明マトリックスに分散させた波長変換器およびこの波長変換器を用いた発光装置は長期の使用によっても白化の発生が抑制され、寿命の長いものとなる。
【0111】
この無機物の繊維状体5aは、蛍光体コア5bの表面からの高さが50nm以上、特に100nm以上の高さとなるように形成することが望ましく、先に記載したように、還元雰囲気での焼結を不十分とし、洗浄工程で蒸留水による洗浄時間を制御することにより、無機物の繊維状体5aの大きさや量を適宜、制御することができる。即ち、還元雰囲気での焼結をある程度強くすると、繊維状体5aの量が多くなり、大きさも大きくなり、また、洗浄時間を長くすることにより繊維状体5aの高さを高くすることができる。なお、繊維状体5aの高さは反射型電子顕微鏡を用いた分析により測定することが可能であることはいうまでもない。
(青色発光蛍光体の説明)
青色発光蛍光体はハロりん酸塩からなるものであれば、特に限定されないが、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl17:Eu、Sr10(PO46Cl12:Eu、10(Sr,Ca,Ba,Eu)・6PO4・Cl2、(Sr,Ca,Ba,Mg)5(PO43(Cl,Br):Eu、等が用いられる。なお、青色蛍光体は、〔(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu、〕(MはCa,SrおよびBaから選択される少なくとも1種)が好適に用いられる
本発明の波長変換器では、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体としてアルカリ土類金属珪酸塩系を用い、このアルカリ土類金属珪酸塩系からなる赤色発光蛍光体と緑色発光蛍光体に対して、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体を組み合わせることにより、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体の発光エネルギーを効率よくアルカリ土類金属珪酸塩からなる蛍光体にエネルギー移動することができるため、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の量子効率を向上することができる。
【0112】
すなわち、アルカリ土類金属珪酸塩からなる赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体は、比重が4.5〜5.5×10(kg/m)であり、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体の比重が2.5〜3.5×10(kg/m)であるため、これらを透明マトリクスを形成する材料中に混合し、固化させる際に、アルカリ土類金属珪酸塩はハロりん酸塩よりもはるかに比重が大きいため、アルカリ土類金属珪酸塩からなる蛍光体粒子はハロりん酸塩からなる蛍光体粒子よりも沈降速度が速く、下側に偏って存在する。
【0113】
このため、LED等の発光素子側にハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体が位置するように波長変換器を配置することにより、ハロりん酸塩からなる青色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が波長変換器内の発光素子に近い方に多く分布し、アルカリ土類金属珪酸塩からなる赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体を構成する蛍光体粒子が発光素子から遠い方に分布しやすくなり、青色発光の蛍光体粒子により波長変換された青色の光が、赤色発光の蛍光体粒子および緑色発光の蛍光体粒子に当たり、赤色発光蛍光体および緑色発光蛍光体の蛍光体粒子に吸収されるため、赤色蛍光体および緑色蛍光体の量子効率を向上することができる。
【実施例】
【0114】
(赤色発光蛍光体の作製1)
炭酸バリウム粉末、酸化マグネシウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、炭酸カルシウム粉末、二酸化珪素粉末、酸化ユウロピウム粉末および酸化マンガン粉末、酢酸亜鉛粉末、二酸化ゲルマニウム粉末を用いて、それぞれの構成元素を表1に示すモル比の割合で、ポリポット中で混合し、乾燥後、大気雰囲気下1150℃で3時間仮焼した。
【0115】
その後、12%の水素を含む窒素ガス流下1250℃で9時間過熱することにより熱処理し、洗浄し、乾燥させて篩い分けし、D90が50μm以下の粉体の集合体からなる蛍光体を製造した。
【0116】
なお、試料No.1−16においては、Mをモル比で、炭酸ストロンチウム:炭酸バリウム=0.15:0.85とし、主結晶は(Ba,Sr)MgSiであり、異相は(Ba,Sr)SiOであり、試料No.1−17においては、Mをモル比で、炭酸カルシウム:炭酸バリウム=0.15:0.85とし、主結晶は(Ba,Ca)MgSi、異相は(Ba,Ca)SiOである。
【0117】
また、試料No.1−18においては、モル比で、酢酸亜鉛:酸化マグネシウム=0.15:0.85とし、試料No.1−19においては、モル比で二酸化ゲルマニウム:二酸化珪素=0.15:0.85とした。
【0118】
なお、試料No.1−1〜19の蛍光体は、いわゆるフラックスを用いずに作製したものである。
【0119】
上述の工程で作製した蛍光体のX線回折測定は以下の条件で行った。すなわち、走査範囲の回折角度誤差がΔ2θ=0.05°以下に光学調整された(Cu−Kα)のX線源からなる粉末X線回折装置(マックサイエンス社製MAC M18XCE)を用い、かつ試料偏心に伴う回折角の誤差が標準シリコンの111ピークを用いて、Δ2θ=0.05°以下の角度再現性が保障される条件で粉末X線回折測定を実施した。
【0120】
そして、Eu、Mnを賦活剤として含有する主結晶であるBaMgSiの2θ=31.5°〜32°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、BaMgSi結晶の2θ=27.7°〜28.2°で検出されるピークのX線回折強度をBとし、BaSiO結晶の2θ=29.2°〜29.8°で検出されるピークのX線回折強度をCとし、BaMgSiO結晶の2θ=28.0°〜28.4°で検出されるピークのX線回折強度をDとしたときのA/(A+B+C+D)を主結晶のピーク強度比とし、B/(A+B+C+D)をBaMgSi結晶のピーク強度比とし、C/(A+B+C+D)をBaSiO結晶のピーク強度比とし、D/(A+B+C+D)をBaMgSiO結晶のピーク強度比として表2に記載した。尚、No.1−16、17については、ピークが少し高角側に移動する。
【0121】
また、得られた蛍光体の量子効率は、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。蛍光体の量子効率は、専用セルに蛍光体粉末を充填し、395nmの励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、赤色の量子効率を算出し、結果を表2に記載した。表2中のピーク比の欄の−は、X線回折測定結果でピークを目視にて見いだせなかったことを意味する。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
図9(a)に試料No.1−2のX線回折のパターンを示す。また、図9(b)に試料No.1−7のX線回折のパターンを示す。図中の縦軸はX線回折強度を示し、最大値を1とした相対値で示している。横軸は回折角である。No.1−7では2θ=28.0°〜28.4°でピークが確認でき、BaMgSiO結晶の析出が確認できた。
【0125】
一方、No.2ではBaMgSi結晶、BaSiO結晶、BaMgSiO結晶に由来するピークが非常に小さく、これらの結晶の析出が抑制され、目的とする結晶が精度よく析出していることが確認された。
【0126】
本発明にかかる試料では、MMgSi結晶、MSiO結晶、MMgSiO結晶の析出が抑制されるため、緑色の光の発生が抑制され、赤色の量子効率が高くなることが判る。
【0127】
さらに、D/(A+B+C+D)が0.04〜0.26の範囲内の試料では、特に、35%以上の量子効率が得られることが判る。
【0128】
(赤色発光蛍光体の作製2)
炭酸バリウム粉末および酸化マグネシウム粉末、二酸化珪素粉末、酸化ユウロピウム粉末、酸化マンガン粉末、フラックスとして塩化アンモニウム粉末を用いて、表3の組成となるように秤量し、ポリポット中で混合し、乾燥後、大気雰囲気下1150℃で3時間仮焼した。その後、12%の水素を含む窒素ガス流下1250℃で9時間過熱することにより熱処理し、蛍光体を製造した。
【0129】
上記と同様にして、ピーク強度比と蛍光体の量子効率を求め、表4に記載した。
【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
これらの表3、4から、本発明にかかる試料では、BaMgSi結晶、BaSiO結晶、BaMgSiO結晶の析出が抑制されるため、緑色の光の発生が抑制され、赤色の量子効率が高くなることが判る。特に、D/(A+B+C+D)が0.04〜0.26の範囲内の試料では、35%以上の量子効率が得られることが判る。
【0133】
(赤色発光蛍光体の作製3)
3−aEuMg1−bMnSiの組成式において、a、b、cが表5に示す値となるように、炭酸バリウム粉末、酸化マグネシウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末、二酸化珪素粉末、酸化ユウロピウム粉末および酸化マンガン粉末を調合し、さらにフラックスとして塩化アンモニウムを所定量添加し、ポリポット中で混合し、乾燥後、大気雰囲気下で、表5に示す温度で3時間仮焼し、その後、12%の水素を含む窒素ガス(還元雰囲気下)で表5に示す温度で9時間熱処理し、本発明にかかる蛍光体を作製した。尚、No.3−4の試料では、MとしてBaとSrを用いた。主結晶は(Ba,Sr)MgSiであり、第2相は(Ba,Sr)MgSiOである。
【0134】
本発明にかかる蛍光体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(1000倍)を図3に示す。本発明の範囲内の試料では、第2相のMMgSiO4結晶粒子はM3MgSi28結晶粒子内に存在していた。
【0135】
得られた蛍光体の量子効率は、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。蛍光体の量子効率は、専用セルに蛍光体粉末を充填し、395nmの励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、赤色の量子効率を算出し、結果を表6に記載した。
【0136】
前記蛍光体のX線回折測定は上記と同様にして行った。
【0137】
この結果から、M3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜32°付近で検出されるピークのX線回折強度をAとし、MMgSi結晶の2θ=27.7°〜28.2°でのピークのX線回折強度をBとし、MSiO結晶の2θ=29.2°〜29.8°でのピークのX線回折強度をCとし、MMgSiO4結晶の2θ=28.0°〜28.4°でのピークのX線回折強度をDとしたとき、B/(A+B+C+D)、C/(A+B+C+D)、D/(A+B+C+D)を求め、それぞれ表6に記載した。尚、試料No.3−4については、MがBaの場合よりもピーク位置が少し高角側に移動して検出される。
【0138】
試料では、実質的に主結晶のBa3MgSi28結晶と第2相のBaMgSiO4結晶からなり、MMgSi結晶、MSiO結晶は実質的に存在してなかった。
【0139】
試料のピーク強度比D/(A+B+C+D)と、赤色の量子効率との関係を図10に示す。
【0140】
【表5】

【0141】
【表6】

【0142】
表5、6および図10から、蛍光体では、D/(A+B+C+D)が0.04〜0.26であり、BaMgSiO4結晶からのエネルギー伝達が効率よく起こり、赤色の量子効率が高いことが判る。
【0143】
これに対して、X線回折におけるピーク強度の相対値が0.04〜0.26の範囲外である蛍光体(試料No.3−13)は、BaMgSiO4結晶の析出量が多すぎるため、赤色の量子効率が低いことが判る。
(緑色発光蛍光体の作製1)
緑色発光蛍光体を作製した。まず、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化ユウロピウムの各粉末を、Si 1モルに対するSr、Ba、Eu、Siのモル比率が表7に示す比率となるように調合した。さらに、これらの粉末の総量100質量部に対して、融剤としてSrClを2質量部添加して原料粉末を調整した。
【0144】
さらに、これらの粉末に対して、2−プロピルアルコールと、ジルコニア製のメディアボールをポリポットに入れ、48時間攪拌混合した。
【0145】
得られた混合溶液を目開き190μmのナイロンメッシュを用いてメディアボールを除去しながら排出し、その後110℃にて8時間加熱して2−プロピルアルコールを除去した。
【0146】
次に、2−プロピルアルコールを除去した原料混合粉末をアルミナ製坩堝に入れて、大気雰囲気下1100℃で3時間加熱した。その後、12%の水素を含む窒素ガス流中、1200℃で4.5〜9時間加熱して(M,Eu)SiO4で表される結晶を主結晶とする緑色発光蛍光体を合成した。
【0147】
主結晶については、走査範囲の回折角度誤差がΔ2θ=0.05°以下に光学調整された(Cu−Kα)のX線源からなる粉末X線回折装置(マックサイエンス社製MAC M18XCE)を用い、かつ試料偏心に伴う回折角の誤差が標準シリコンの111ピークを用いて、Δ2θ=0.05°以下の角度再現性が保障される条件で粉末X線回折測定を実施して確認した。
【0148】
また、融剤を添加しない緑色発光蛍光体も作製した。そして、これらの緑色発光蛍光体に対して水洗処理を施した。
【0149】
この水洗処理を施した緑色発光蛍光体をXANES分析し、6977eV付近のピークをEu2+、6985eV付近のピークをEu3+として2価Euイオン濃度(Eu2+/(Eu2++Eu3+)×100)の値を求めた。
【0150】
また、水洗処理を施した緑色発光蛍光体をICP発光分光分析して緑色発光蛍光体の組成比を求め、その結果からモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siを求めたところ、調合組成と変化がなかったため、緑色発光蛍光体の組成は省略した。
【0151】
また、得られた緑色発光蛍光体の量子効率は、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。専用セルに緑色発光蛍光体を充填し、395nmの励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、量子効率を算出した。
【0152】
【表7】

【0153】
表7に示す通り、試料No.4−9、4−10の蛍光体は量子効率が低いことがわかる。また、試料No.4−17の蛍光体では、モル比(Sr+Ba+Eu)/Siが2であり、2価Euイオン濃度が95%であるものの、量子効率が34%と低かった。これに対して、試料No.4−1〜4−8、4−11〜4−16、4−18、4−19の蛍光体は高い量子効率を示した。
(緑色発光蛍光体の作製2)
原料として、SrCO、BaCO、SiO、Euの粉末を用いた。また、融剤として、SrClの粉末を用いた。配合全量100gに対してSrCOを52.3質量%、BaCOを25.5質量%、SiOを15.0質量%、Euを2.2質量%、SrClを5質量%の割合で調合した。Si 1モルに対するSrのモル比は1.419、Baのモル比は、0.518、Euのモル比は0.025であり、モル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siは、1.96であった。
【0154】
そして、これらの粉末に溶剤としてイソプロピルアルコールを200g添加し、ボールミル混合を表8に示す時間行った。
【0155】
次に、80℃で溶剤として用いたイソプロピルアルコールを蒸発させ、乾燥した混合粉について、♯200メッシュパス(目開き75μm)し、表8に示すような平均粒径D50の原料混合粉末を得た。そして、この原料混合粉末を坩堝に入れて大気中1000℃で3時間熱処理した。
【0156】
この後、TEM、およびCu−kα線を用いた粉末X線回折測定により、本発明の試料No.5−1〜5−4については、酸化処理後の粉末が、アパタイト型珪酸塩粉末と母材粒子粉末とからなることを確認した。
【0157】
次に、これらの混合粉末を♯200メッシュパスした後、水素濃度12%(その他は窒素)の還元雰囲気で1200℃で9時間熱処理を施した。尚、試料No.5−6については、還元処理を行わなかった。
【0158】
得られた粉末を粉末の重量の10倍の重量の蒸留水にて、10時間攪拌洗浄し、乾燥器にて水分を除去した。
【0159】
得られた粉末は圧力を掛けてメッシュ等を用いて粉末状にし、蛍光体を作製した。得られた蛍光体について、L3吸収端XANESスペクトルにより、蛍光体の2価イオン濃度を測定し、その結果を表8に記載した。また、上記と同様にして、蛍光体の主結晶を求めたところ、(M,Eu)SiO4で表される結晶であった。
【0160】
そして、この蛍光体の粉末を未硬化のシリコーン樹脂に20質量%添加して、150℃の温度でシリコーン樹脂を硬化させ、厚みが0.8mmの波長変換器を作製した。
【0161】
また、得られた蛍光体の量子効率は、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。専用セルに蛍光体粉末を充填し、395nmの励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、量子効率を算出した。
【0162】
【表8】

【0163】
表8に示すように、試料No.5−5は融剤が添加されていないためアパタイトの生成が抑制され、2価イオン濃度が81%であった。また、試料No.5−6は融剤が添加されているが、還元処理工程がないため2価イオン濃度は0%となった。
【0164】
一方、試料No.5−1〜5−4は融剤の添加、湿式混合により混合粉末の微細化を行い、酸化処理後の混合粉末のメッシュパスを行ったため、還元処理により、2価イオン濃度が96%以上となった。No.5−3、5−5、5−6についてはL3吸収端XANESスペクトル結果を図11に示す。
(緑色発光蛍光体の作製3)
原料として、SrCO、BaCO、SiO、Euの粉末を用いた。また、融剤として、SrClの粉末を用いた。配合全量に対してSrCOを52.3質量%、BaCOを25.5質量%、SiOを15.0質量%、Euを2.2質量%、SrClを5質量%の割合で調合した。Si 1モルに対するSrのモル比は1.419、Baのモル比は、0.518、Euのモル比は0.025であり、モル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siは、1.96であった。
【0165】
そして、これらの粉末に溶剤としてイソプロピルアルコールを200g添加し、ボールミル混合を48時間行った。
【0166】
次に、80℃で溶剤として用いたイソプロピルアルコールを蒸発させ、乾燥した原料混合粉末を得た。そして、この原料混合粉末を坩堝に入れて大気中で1100℃の温度で3時間熱処理した。
【0167】
次に、これらの粉末を水素濃度12%(その他は窒素)の還元雰囲気で表9に示す温度で熱処理した。
【0168】
得られた粉末を粉末の重量の10倍の重量(室温)の蒸留水にて、表9に示す時間攪拌洗浄した。さらに、洗浄液の上澄み液を取り除き、乾燥器にて水分を除去した。
【0169】
得られた粉末は圧力を掛けてメッシュ等を用いて粉末状にし、蛍光体を作製した。この蛍光体の主結晶を、上記と同様にして求めたところ、(M,Eu)SiO4で表される結晶であった。また、上記と同様にして2価イオン濃度を求めたところ、試料No.6−1は20%であったが、その他の本発明の試料は90%以上であった。そして、この蛍光体を未硬化のシリコーン樹脂に20質量%添加して、150℃の温度でシリコーン樹脂を硬化させ、厚みが0.8mmの波長変換器を作製した。
【0170】
なお、これらの波長変換器の作製に当たり、シリコーン樹脂に蛍光体粒子を混合した後、30分間静置した後で硬化させ、繊維状体の有無が蛍光体粒子の沈降および作製した波長変換器における蛍光体粒子の偏在に及ぼす影響について反射型電子顕微鏡(SEM)を用いて調べた。波長変換器を切断し断面をSEMにて観察して蛍光体の偏在を確認した。
【0171】
また、得られた蛍光体粒子は、SEMにより、その表面を観察し、繊維状体の有無を確認した。また、波長変換器は、温度サイクルの信頼性試験(−40〜125℃サイクル)を行なって白化の発生の有無を調べた。これらの結果を表9に記載した。
【0172】
【表9】

【0173】
表9から、本発明の範囲外である繊維体3がなかった試料No.6−1は温度サイクルが200サイクルの時点で波長変換器の白化が確認された。試料No.6−1は還元温度が1300℃と高く、結晶性の高い蛍光体が生成され非晶質が少ないために繊維状体5aの生成が見られなかった。
【0174】
一方、本発明の試料No.6−2〜6−6は蛍光体コアの表面に繊維状体5aが存在しており、温度サイクルが800サイクルの時点でも、波長変換器の白化は確認されなかった。
(発光装置)
図1の発光装置11を作製した。基板(基体)15としてアルミナ基板を用い、基板15上に設けられている発光素子17としてサファイア基板に窒化物半導体をエピ形成した発光素子を用い、反射部材21としてアルミニウム(Al)を用いた。
【0175】
先ず、波長変換器を作製した。この波長変換器は、透明マトリクスを構成する材料(シリコーン樹脂信越化学CY52-205)2.4g中に、試料No.1−15の赤色発光蛍光体(量子効率:36.7%、比重:5.0kg/m)を0.101g、試料No.4−4の緑色発光蛍光体(量子効率:44%、比重:4.7kg/m)を0.058g、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POl2:Euからなる青色発光蛍光体(量子効率47.9%、比重:3.0kg/m)を0.441g添加し、攪拌脱泡器で混合して蛍光体ペーストを作製した。このペーストを2枚のガラス基板間で挟み、150℃で30秒間加熱し、厚み0.7mmとなるようにシリコーン樹脂を固化させた。
【0176】
固化後に、波長変換器における蛍光体粒子の分布を走査電子顕微鏡(SEM)により確認したところ、下側に赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体が多く存在し、上側に青色発光蛍光体が多く存在していた。
【0177】
このような波長変換器を、青色発光蛍光体が多く存在する側を発光素子側となるように配置し、発光装置を作製した。一方、青色発光蛍光体が多く存在する側を発光素子側と反対になるように配置した発光装置も作製した。
【0178】
得られた発光装置を全光束測定装置LABSPHEREを用いて、発光効率を測定した。その結果、青色蛍光体が多く存在する側を発光素子側となるように配置された発光装置では、発光率が0.14lm/mWであった。一方、青色発光蛍光体が多く存在する側を発光素子側と反対になるように配置した発光装置では、発光効率が0.12lm/mWであった。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】発光装置の構造を示す概略断面図である。
【図2】蛍光体を粉末X線回折にて測定した結果を示すグラフである。
【図3】M3MgSi28結晶粒子中にMMgSiO4結晶粒子が存在する組織を示すSEM写真である。
【図4】蛍光体のL3吸収端XANESスペクトル結果を示す図である。
【図5】蛍光体コアと繊維状体とを有する蛍光体粒子を説明するSEM写真である。
【図6】図5の繊維状体を説明するための模式図である。
【図7】還元前の混合粉末のTEM写真である。
【図8】酸化処理後のX線回折測定結果である。
【図9】(a)は表1の試料No.1−2のX線回折図であり、(b)は表1の試料No.1−7のX線回折図である。
【図10】ピーク強度比D/(A+B+C+D)と、赤色の量子効率との関係を示すグラフである。
【図11】蛍光体のXANESによる測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0180】
11・・・発光装置
13・・・電極
15・・・基板
17・・・発光素子
19・・・波長変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器であって、透明マトリクス中に、赤色に発光する蛍光体、青色に発光する蛍光体および緑色に発光する蛍光体を分散してなるとともに、前記赤色に発光する蛍光体および前記緑色に発光する蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、前記青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなることを特徴とする波長変換器。
【請求項2】
前記赤色に発光する蛍光体が、M(MはBa、またはBaとSr、あるいはBaとCa)、Eu、Mg、MnおよびSiを必須成分として含有し、前記Si 1モルに対する前記Euのモル比が0.14以下、前記Si 1モルに対する前記Mnのモル比が0.07以下であるとともに、主結晶がEuおよびMnを含有するM3MgSi28結晶であることを特徴とする請求項1記載の波長変換器。
【請求項3】
前記M3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜33°で検出されるピークのX線回折強度をAとし、MMgSi結晶の2θ=27.7°〜29.2°で検出されるピークのX線回折強度をBとし、MSiO結晶の2θ=29.2°〜30.8°で検出されるピークのX線回折強度をCとし、MMgSiO4結晶の2θ=28.0°〜29.4°で検出されるピークのX線回折強度をDとしたとき、B/(A+B+C+D)が0.1以下、C/(A+B+C+D)が0.1以下、D/(A+B+C+D)が0.26以下であることを特徴とする請求項2記載の波長変換器。
【請求項4】
前記緑色に発光する蛍光体粒子が、M(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)、EuおよびSiを含有するとともに、主結晶が(M,Eu)SiO4で表されることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれかに記載の波長変換器。
【請求項5】
X線吸収端近傍構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)による2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する前記2価のEuイオンの濃度が90%以上であり、さらに、前記Si 1モルに対する前記Mのモル比と、前記Si 1モルに対する前記Euのモル比との合計((M+Eu)/Si)が2未満であることを特徴とする請求項4記載の波長変換器。
【請求項6】
発光素子と、該発光素子が載置された基体と、前記発光素子が発光する光を波長変換する請求項1乃至5のうちのいずれかに記載の波長変換器とを具備してなることを特徴とする発光装置。
【請求項7】
請求項6記載の発光装置を複数具備してなることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−238887(P2009−238887A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80840(P2008−80840)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】