説明

波長変換型太陽電池モジュールおよびその製造方法

【課題】 蛍光物質を太陽電池モジュールに適用したときに、発電効率を維持又は向上する安価で発電効率に優れる波長変換型太陽電池モジュールとその製造方法を提供する。
【解決手段】 太陽電池モジュールの製造方法において、太陽電池セル受光面に、蛍光物質を2次元的に設ける工程を有する波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。蛍光物質が、球状蛍光体であると好ましく、また、ユーロピウム錯体であると好ましい。この製造方法により製造された太陽電池モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換型太陽電池モジュールおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、発電に寄与しない波長域の光を、蛍光物質(発光材料ともいう)を用い、発電に寄与する波長域の光に波長変換することにより発電効率を高くし得る波長変換型太陽電池モジュールとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン結晶系の太陽電池モジュールは、以下のような構成である。太陽光を受光する側から、保護ガラス、太陽電池封止材、太陽電池セル、裏面用封止材、バックフィルムの構成となっている。
表面の保護ガラス(カバーガラスともいう)は、耐衝撃性を重んじて強化ガラスが用いられており、封止材(通常、エチレン−ビニルアセテートコポリマーを主成分とする樹脂、充填材ともいう)との密着性をよくするために、片面はエンボス加工による凹凸模様が施されている。
【0003】
また、その凹凸模様は内側に形成されており、太陽電池モジュールの表面は平滑である。なお、太陽光の導入効率を高めるため、外側にも凹凸形状が施されている場合もある。また、保護ガラスの下側には太陽電池セル、タブ線を保護封止するための封止材及びバックフィルムが設けられている。
【0004】
蛍光物質を用い、太陽光スペクトルのうち、発電に寄与の少ない紫外域又は赤外域の光を波長変換することにより、発電に寄与の大きい波長域の光を発光する層を太陽電池受光面側に設ける手法は、例えば、特許文献1など多数提案されている。
また、特許文献2には、波長変換材料として、蛍光物質である希土類錯体を封止材中に含有させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−328053号公報
【特許文献2】特開2006−303033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2などに記載の、発電に寄与の少ない波長域の光を発電に寄与の大きい波長域の光に波長変換する方法では、波長変換層に蛍光物質が含有されている。この蛍光物質としては有機蛍光体、有機金属錯体、無機蛍光体等が用いられており、高価である。また、波長変換層を封止材として用いる場合、セル保護の観点からその膜厚は600μm程度必要とされる。
【0007】
しかし、十分な波長変換効果を持った蛍光物質を含む封止材を600μmの厚さで作製すると、蛍光物質の含有量が多くなり、コスト高になるのを免れず、工業的に利用するには必ずしも適当なものとはいえない。
【0008】
本発明は、蛍光物質を太陽電池モジュールに適用したときに、発電効率を維持又は向上しつつ、安価で発電効率に優れる波長変換型太陽電池モジュールとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、太陽電池セル受光面に、2次元的に蛍光物質(球状蛍光体)を均一に分散させ設けたところ、封止材内部に均一に、3次元的に分散させた場合と比較し、入射した太陽光に対する発電される電力の割合(発電効率)が、セル表面にだけ分散した場合、全体に分散させた場合よりも高い発電効率を示すという結果が得られた。この結果に鑑み、太陽電池モジュール作製時に太陽電池セル受光面に球状蛍光体を付着させて形成することで、発電効率を維持又は向上しつつ、低コスト化が実現できることを見出した。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0010】
<1> 太陽電池モジュールの製造方法において、太陽電池セル受光面に、蛍光物質を2次元的に設ける工程を有する波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
<2> 前記蛍光物質が球状蛍光体である前記<1>に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
<3> 前記蛍光物質が、ユーロピウム錯体である前記<1>又は<2>に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
<4> 前記蛍光物質が、ビニル化合物をモノマー化合物とする樹脂粒子に内包されている、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
<5> 前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法により製造された太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蛍光物質を2次元的に太陽電池セル受光面に設けた太陽電池を太陽電池モジュールに適用したときに、発電効率を向上しつつ、安価で発電効率に優れた波長変換型太陽電池モジュールとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の太陽電池モジュールを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の波長変換型太陽電池モジュールは、少なくとも、太陽電池セルと、この太陽電池セルの受光面に2次元的(平面的)に設けた蛍光物質、望ましくは球状蛍光体を有する。
【0014】
波長変換型太陽電池モジュール作製時に、太陽電池セルの受光面に、2次元的に蛍光物質、好ましくは球状蛍光体を散布、固定化などにより設けることで蛍光物質(球状蛍光体)の含有量を減らすことができ、従来のものよりも製造コストが抑えられる。また、このような構造の波長変換型太陽電池モジュールとすると蛍光物質(球状蛍光体)の含有量を減らしたにも拘らず、発電効率が向上する。この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0015】
太陽電池モジュールに光が入射すると、太陽電池セル受光面に設けられた球状蛍光体(蛍光物質)が、励起波長の光を吸収する。このとき、封止材の膜厚方向に均一に球状蛍光体が分散していると、膜厚方向の光の吸収は、封止材の膜厚方向に深くなるにつれて大きくなり、強度が減衰する。そのため、封止材の膜厚方向の深い部分に存在する球状蛍光体は、励起波長が弱くなっており、十分な発光が得られず波長変換への寄与が少なくなるものと考えられる。一方、球状蛍光体が、太陽電池セル表面に接触できるように2次元的に均一に分散している場合、励起光は、膜厚方向に深くなっても減衰せず、太陽電池セル表面に接触した球状蛍光体に励起光が届きやすく、かつ発光は、太陽電池セルへ効率よく導入されると考えられる。
【0016】
更に、球状蛍光体の含有量の低減は、球状蛍光体による光の散乱を抑え、可視光透過率を増大させる。これらにより、太陽電池セルに到達する光量が増加し、太陽電池モジュールの光利用効率が高くなり、発電効率を向上させることができる。また、球状蛍光体が、太陽電池セル表面に接触するように位置することで、効率よく波長変換された光が太陽電池セルに導入されると考えられる。
【0017】
太陽電池セル受光面に設ける蛍光物質または球状蛍光体の濃度は、蛍光体の種類などによって適宜調整することが望ましい。一般には、蛍光物質または球状蛍光体の量は、太陽電池モジュール1m当たり0.01〜100gであることが好ましく、0.1〜10gであることがより好ましい。0.01g以上とすることで、波長変換効率がより充分なものとなり、また、100g以下とすることで、太陽電池セルに到達する光量の低下をより抑えることができる。
【0018】
更に、本発明の太陽電池モジュールを、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の太陽電池モジュールの概略断面図である。
図1の太陽電池モジュールでは、太陽電池セル10の受光面側の表面に、保護ガラス(カバーガラスともいう)20を備える。保護ガラス20としては特に制限されないが、耐衝撃性を考慮して強化ガラスが好んで用いられる。なお、封止材(充填材ともいう)との密着性を向上させるために、保護ガラス20の封止材側の表面はエンボス加工による凹凸模様が施されることが好ましい。保護ガラス20の受光側表面は平滑であってもよいし、太陽光の導入効率を高めるため、凹凸形状が施されていてもよい。
【0020】
保護ガラス20と太陽電池セル10との間には、太陽電池封止材30を備える。図1における球状蛍光体40は、太陽電池セル10受光面側に、2次元的に均一に設置され、設けられている。
【0021】
太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル10の裏面側にはバックフィルム50を備える。バックフィルム50と太陽電池セル10との間には、モジュール裏面からの衝撃などから太陽電池セルを保護封止するための裏面用封止材35を備える。裏面用封止材35は、太陽電池セルを保護封止できるものであれば特に制限されない。
【0022】
図1では図示しないが、更に本発明の太陽電池モジュールでは、反射防止膜など通常太陽電池モジュールに設けられる部材を有していてもよい。
【0023】
<太陽電池封止材>
以下では、本発明の波長変換型太陽電池モジュールに用いる物質について、詳細に説明する。
【0024】
(蛍光物質)
本発明に用いられる蛍光物質と球状蛍光体中の蛍光物質としては、通常の太陽電池で利用可能な波長域外の光を、太陽電池で利用可能な波長域に変換可能な化合物であれは、特に制限されない。例えば、希土類金属の有機錯体を好ましく挙げることができる。中でも波長変換効率の観点から、ユーロピウム錯体およびサマリウム錯体の少なくとも1種であることが好ましい。
また有機錯体を構成する配位子としては特に制限はなく、用いる金属に応じて適宜選択することができる。中でもユーロピウムおよびサマリウムの少なくとも1種と錯体を形成可能な配位子であることが好ましい。
【0025】
本発明では、配位子を限定するものではないが、中性配位子である、カルボン酸、含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、β−ジケトン類、およびホスフィンオキサイドから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
また希土類錯体の配位子として、一般式 RCOCHRCOR(式中、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はそれらの置換体を、Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はアリール基を、Rはアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アラルキル基又はそれらの置換体をそれぞれ示す)で表わされるβ−ジケトン類を含有してもよい。
【0026】
β−ジケトン類としては、具体的には、アセチルアセトン、パーフルオロアセチルアセトン、ベンゾイル−2−フラノイルメタン、1,3−ジ(3−ピリジル)−1,3−プロパンジオン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルアセトン、5−クロロスルフォニル−2−テノイルトリフルオロアセトン、ビス(4−ブロモベンゾイル)メタン、ジベンゾイルメタン、d,d−ジカンフォリルメタン、1,3−ジシアノ−1,3−プロパンジオン、p−ビス(4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1,3−ヘキサンジノイル)ベンゼン、4,4´−ジメトキシジベンゾイルメタン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、ジナフトイルメタン、ジピバロイルメタン、ビス(パーフルオロ−2−プロポキシプロピオニル)メタン、1,3−ジ(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(トリフルオロアセチル)−d−カンファー、6,6,6−トリフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−ヘキサンジオン、1,1,1,2,2,6,6,7,7,7−デカフルオロ−3,5−ヘプタンジオン、6,6,7,7,8,8,8−ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタンジオン、2−フリルトリフルオロアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、3−(ヘプタフルオロブチリル)−d−カンファー、4,4,5,5,6,6,6−ヘプタフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ヘキサンジオン、4−メトキシジベンゾイルメタン、4−メトキシベンゾイル−2−フラノイルメタン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン、2−ナフトイルトリフルオロアセトン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、5,6−ジヒドロキシ−1,10−フェナントロリン、1−フェニル−3−メチル−4−ベンゾイル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−(4−ブチルベンゾイル)−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−イソブチリル−5−ピラゾール、1−フェニル−3−メチル−4−トリフルオロアセチル−5−ピラゾール、3−(5−フェニル−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)−2,4−ペンタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、3−[3´,5´−ビス(フェニルメトキシ)フェニル]−1−(9−フェナンチル)−1−プロパン−1,3−ジオン、5,5−ジメチル−1,1,1−トリフルオロ−2,4−ヘキサンジオン、1−フェニル−3−(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン、3−(t−ブチルヒドロキシメチレン)−d−カンファー、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1,2,2,3,3,7,7,8,8,9,9,9−テトラデカフルオロ−4,6−ノナンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−オクタンジオン、2,2,6−トリメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,2,7−トリメチル−3,5−オクタンジオン、4,4,4−トリフルオロ−1−(チエニル)−1,3−ブタンジオン(TTA)、1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(N−メチル−3−ピロール)−1,3−プロパンジオン(BMPP)、1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(p−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオン(BMDBM)、1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオン、べンゾイルアセトン、ジべンゾイルアセトン、ジイソブチロイルメタン、ジビパロイルメタン、3−メチルペンタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルペンタン−3,5−ジオン、2−メチル−1,3−ブタンジオン、1,3−ブタンジオン、3−フェニル−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−2,4−ペンタンジオン、1,1,1−トリフロロ−5,5−ジメチル−2,4−ヘキサンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2−アセチルシクロペンタノン、2−アセチルシクロヘキサノン、1−ヘプタフロロプロピル−3−t−ブチル−1,3−プロパンジオン、1,3−ジフェニル−2−メチル−1,3−プロパンジオン、または1−エトキシ−1,3−ブタンジオン等が挙げられる。
【0027】
希土類錯体の中性配位子の含窒素有機化合物、含窒素芳香族複素環式化合物、ホスフィンオキサイドとしては、たとえば、1,10−フェナントロリン、2,2´−ビピリジル、2,2´,6,2″−ターピリジル、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジル)ベンズイミダゾール、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフィンオキサイド、トリ−n−オクチルホスフィンオキサイド、トリ−n−ブチルホスフェート等が挙げられる。
【0028】
上記のような配位子を有する希土類錯体として、中でも波長変換効率の観点から、例えば、Eu(TTA)phen「(1,10−フェナントロリン)トリス「4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオナト]ユウロピウム(III)]、Eu(BMPP)phen「(1,10−フェナントロリン)トリス[1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(N−メチル−3−ピロール)−1,3−プロパンジオナート]ユウロピウム(III))]、Eu(BMDBM)phen[(1,10−フェナントロリン)トリス[1−(p−t−ブチルフェニル)−3−(p−メトキシフェニル)−1,3−プロパンジオナート]ユウロピウム(III))]、等を好ましく利用できる。
Eu(TTA)Phenの製造法は、例えば、Masaya Mitsuishi, Shinji Kikuchi, Tokuji Miyashita, Yutaka Amano, J.Mater.Chem.2003, 13, 2875−2879に開示されている方法を参照できる。
【0029】
本発明においては、蛍光物質として、特にユーロピウム錯体を用いることで、高い発電効率を有する太陽電池モジュールを構成することができる。ユーロピウム錯体は、紫外線域の光を高い波長変換効率で赤色の波長域の光に変換し、この変換された光が太陽電池セルにおける発電に寄与する。
【0030】
前記蛍光物質は、樹脂粒子に内包されている球状蛍光体であることがより好ましい。前記樹脂粒子を構成するモノマー化合物としては特に制限はないが、光の散乱抑制の観点から、ビニル化合物であることが好ましい。
また前記蛍光物質を樹脂粒子に内包する方法としては、通常用いられる方法を特に制限なく用いることができる。例えば、前記蛍光物質と樹脂粒子を構成するモノマー化合物の混合物を調製し、これを重合することで調製することができる。具体的には、例えば、蛍光物質およびビニル化合物を含む混合物を調製し、ラジカル重合開始剤を用いてビニル化合物を懸濁あるいは乳化重合することで、蛍光物質が内包された球状樹脂粒子(球状蛍光体)を構成することができる。尚、本発明において球状蛍光体とは、蛍光物質を含んだビニル化合物を重合して得られる状態のものを指す。
【0031】
前記球状蛍光体の平均粒子径は、光利用効率向上の観点から0.1μm〜600μmであることが好ましく、1μm〜300μmであることがより好ましく、10μm〜250μmであることがさらに好ましい。
球状蛍光体の平均粒子径は、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS13320)を用いて行なうことができる。
【0032】
本発明においてビニル化合物とは、エチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であれば特に制限はなく、重合反応した際にビニル樹脂、特にアクリル樹脂又はメタクリル樹脂になり得るアクリルモノマー、メタクリルモノマー、アクリルオリゴマー、メタクリルオリゴマー等を特に制限なく用いることができる。本発明において好ましくは、アクリルモノマー、およびメタクリルモノマー等が挙げられる。
【0033】
アクリルモノマー、およびメタクリルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、これらのアルキルエステルが挙げられ、またこれらと共重合し得るその他のビニル化合物を併用してもよく、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
アクリル酸アルキルエステル、およびメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸無置換アルキルエステルおよびメタクリル酸無置換アルキルエステル;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート;多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステル又はメタクリル酸置換アルキルエステル;等が挙げられる。(なお、(メタ)アクリレートは、アクリレートとそれに対応するメタクリレートを示す。)
【0035】
また、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルと共重合し得るその他のビニル化合物としては、アクリルアミド、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種単独でも、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明におけるビニル化合物としては、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、およびメタクリル酸エチルから選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0037】
本発明においてはビニル化合物を重合させるためにラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、特に制限なく通常用いられるラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、過酸化物、アゾ系ラジカル開始剤等が好ましく挙げられる。具体的には、熱により遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物が好ましい。
有機過酸化物としては例えば、イソブチルパーオキサイド、α,α´ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−s−ブチルパーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルネオデカノエート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ビス(エチルヘキシルパーオキシ)ジカーボネート、t−ヘキシルネオデカノエート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクニックパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイル)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオノイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサノン、2,2−ビス(4,4−ジブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α,α´ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ジラウロイルパーオキサイド等を使用することができる。
【0038】
アゾ系ラジカル開始剤としては、たとえば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2´−アゾビス(2−メチルイソブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2´−アゾビス(イソブチレート)、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0039】
ラジカル重合開始剤の使用量は、前記ビニル化合物の種類や形成される樹脂粒子の屈折率等に応じて適宜選択することができ、通常用いられる使用量で使用される。具体的には例えば、ビニル化合物100質量部に対して0.1〜15質量部で使用することができ、0.5〜10質量部で使用することが好ましい。
【0040】
本発明で用いる球状蛍光体は、上記の蛍光物質及びビニル化合物、必要に応じて過酸化物等のラジカル重合開始剤等を混合して、蛍光物質をビニル化合物中に溶解又は分散し、これを重合することで得られる。混合の方法としては特に制限はなく、例えば、攪拌することで行えばよい。
蛍光物質の好ましい含有量は、ビニル化合物100質量部に対し0.001〜30質量部であることが好ましく、0.01〜20質量部であることがより好ましく、0.01〜10質量部であることが更に好ましい。
【0041】
(封止樹脂)
本発明に用いられる太陽電池封止材は、従来の太陽電池モジュールと同様のセル保護の目的で使用される。封止樹脂の具体的な例としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、これらの共重合体等が挙げられる。
前記封止樹脂は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
前記アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール(PVB樹脂)、変性PVB等が挙げられる。
【0043】
また、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルに由来する構成単位を有するものを意味し、アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸無置換アルキルエステル又はメタクリル酸無置換アルキルエステルや、これらのアルキル基に水酸基、エポキシ基、ハロゲン基等が置換したアクリル酸置換アルキルエステル及びメタクリル酸置換アルキルエステル等が挙げられる。
【0044】
アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルは、アクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1〜10のアルキルエステルが好ましく、炭素数2〜8のアルキルエステルがより好ましい。
アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルとして具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジルなどを例示することができる。
【0045】
(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのほかに、これらと共重合可能な不飽和単量体を用いて共重合体としてもよい。
【0046】
前記不飽和単量体としては、メタクリル酸、アクリル酸のような不飽和酸類;スチレン、α−メチルスチレン、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。
これらの不飽和単量体は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
これらのなかでも、(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、及びメタクリル酸n−ブチルに由来する構成単位を有するものが好ましく、耐久性や汎用性の観点からは、メタクリル酸メチルに由来する構成単位を有するものがより好ましい。
【0048】
共重合体の樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル−エチレン共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下EVAと略称する)等が挙げられる。
【0049】
封止樹脂としては、耐湿性や、コスト、汎用性の点でEVAが好ましく、また耐久性と表面硬度の点からは(メタ)アクリル酸エステル樹脂が好ましい。更に、EVAと(メタ)アクリル酸エステル樹脂との併用が、両者の利点を兼ね備える観点からより好適である。
【0050】
EVAとしては、酢酸ビニル単位の含有率が1〜50質量%であることが好ましく、3〜35質量%であることが、球状蛍光体の封止樹脂への密着性の点から好ましい。
なお、シート成形の観点からは、EVAにおける酢酸ビニル単位の含有率が10〜50質量%であることが好ましく、20〜35質量%であることがより好ましい。
EVAは市販されているものを適用でき、市販品としては、例えば、東ソー株式会社製のウルトラセン、三井・デュポンポリケミカル株式会社製のエバフレックス、旭化成ケミカルズ株式会社製のサンテックEVA、宇部丸善ポリエチレン株式会社製のUBE EVAコポリマー、住友化学株式会社製のエバテート、日本ポリエチレン株式会社製のノバテックEVAなどを挙げることができる。
【0051】
EVAとメタクリル酸メチルを併用する場合には、EVAとメタクリル酸メチルの総量100質量部に対して、EVAの含有率が50質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましい。
【0052】
更に前記封止樹脂は、架橋性モノマーを加えて、架橋構造を有する樹脂としてもよい。
架橋性モノマーとしては、例えば、多価アルコールにα,β−不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物(例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(エチレン基の数が2〜14のもの)、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート(プロピレン基の数が2〜14のもの)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAデカオキシエチレンジ(メタ)アクリレート等);グリシジル基含有化合物にα,β−不飽和カルボン酸を付加して得られる化合物(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルトリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート等);多価カルボン酸(例えば、無水フタル酸)と水酸基及びエチレン性不飽和基を有する物質(例えば、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)とのエステル化物;ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、トリレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとシクロヘキサンジメタノールと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステルとの反応物等);等を挙げることができる。
【0053】
特に好ましい架橋性モノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリオキシエチレンジメタクリレートが挙げられる。
なお、上記架橋性モノマーは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
前記封止樹脂は、上記モノマーにラジカル重合開始剤を加えて、加熱又は光照射することで重合し、或いは架橋構造を持たせることができる。
前記ラジカル重合開始剤としては、特に制限なく通常用いられるラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、上述の過酸化物等が挙げられる。
【0055】
前記封止樹脂の重量平均分子量は、流動性の観点から10,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがより好ましい。
【0056】
本発明の波長変換型太陽電池モジュールに用いられる封止材には、上記のほか、必要に応じて、紫外線吸収剤、カップリング剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、防錆剤、加工助剤等を含有してもよい。ただし、紫外線吸収剤は該蛍光物質の励起を妨げる可能性があるので、適宜その配合量を選ぶ必要がある。
【0057】
本発明の波長変換型太陽電池モジュールに用いられる封止材は、例えば、封止樹脂、更に必要に応じてその他の添加剤を溶融混練した組成物をロールや二軸押出機、カレンダー成型機などでシート状に成型して用いることが好ましい。
【0058】
本発明の波長変換型太陽電池モジュールを得るためには、蛍光物質または球状蛍光体を太陽電池セル受光面側表面に接するように配置し、設けることが必要で、モジュール作製の工程上、蛍光物質または球状蛍光体は、太陽電池セル受光面側表面上で固定化されていることが望ましい。本発明は、固定化方法を限定するものではないが、以下のような手法が挙げられる。接着剤を太陽電池セル受光面側表面に塗布し、蛍光物質または球状蛍光体を散布、固定化する方法、接着剤を蛍光物質あるいは球状蛍光体表面に施し、これを太陽電池セル受光面側表面に散布、固定化する方法などである。また、太陽電池セルに接する側の太陽電池封止材の表面に、接着剤を塗布し、蛍光物質または球状蛍光体を散布、固定化する方法、接着剤を蛍光物質あるいは球状蛍光体表面に施し、これを封止材の太陽電池セル受光面側に散布、固定化して太陽電池セルと一体化する方法、前者と後者の併用方法などである。
ここで用いられる接着剤は、その組成は限定されないが、蛍光物質の励起波長域から、可視光域まで幅広い波長域での透明性が要求される。接着材は、接着性の樹脂を主成分とした組成物を溶剤に溶解ないし分散させた溶剤乾燥系でも、熱硬化性接着組成物の熱硬化系配合でもよく、前者の基本組成は、透明樹脂と溶剤、後者は、透明樹脂、架橋性モノマ(オリゴマ)、開始剤、必要に応じて溶剤となる。ここでの組成物は、上記(封止樹脂)のところで挙げたものと同じでよい。
【0059】
<太陽電池モジュール>
本発明において、太陽電池モジュールは、反射防止膜(図示せず)、保護ガラス20、上記説明の太陽電池封止材30、蛍光物質、好ましくは球状蛍光体40、太陽電池セル10、裏面用封止材35、バックフィルム50、セル電極(図示せず)、タブ線(図示せず)等の必要部材から構成される。
【0060】
これらの部材の中で、太陽電池セル10よりも光入射側に存在するものは、反射防止膜(図示せず)、保護ガラス20、太陽電池封止材30、本発明で用いる蛍光物質、好ましくは球状蛍光体40であり、この順に設けられる。
【0061】
本発明の波長変換型太陽電池モジュールにおいて、あらゆる角度から入り込む外部光が反射損失少なく、効率よく太陽電池セル内に導入されるために、蛍光物質または球状蛍光体40の屈折率が、該蛍光物質または球状蛍光体40より光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜、保護ガラス20、太陽電池封止材30等の屈折率より高く、且つ、該蛍光物質または球状蛍光体40よりも反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、セル反射防止膜(図示せず)及びSi等からなる太陽電池セル10の屈折率よりも低くすることが好ましい。
【0062】
反射損失を少なくする観点から上記のように、本発明の波長変換型太陽電池モジュールでは、太陽電池セル10及び太陽電池セル10よりも光入射側に設けられる層および材料(例えば、保護ガラス20、保護ガラス20よりも光入射側に設けられる反射防止膜(図示せず)など)において、太陽電池セル10に近い側に設けた層の屈折率は、それに隣接して光入射側に設けた層の屈折率と同程度か或いはそれよりも高いことが望ましい。
詳細には、太陽電池セル10及び太陽電池セル10よりも光入射側に設けられる層および材料がm層(mは2以上)からなり、前記m個の層のそれぞれの屈折率を、光入射側から順にn、n、・・・、nm−1、nとしたときに、n≦n≦・・・・≦nm−1≦nが成り立つことが望ましい。
【0063】
具体的には、蛍光物質または球状蛍光体40より光入射側に配置される光透過性層、すなわち、反射防止膜の屈折率は、1.25〜1.45、保護ガラス20の屈折率は、通常1.45〜1.55程度、太陽電池封止材30の屈折率は、通常1.45〜1.55程度のものが用いられる。該蛍光物質または球状蛍光体40の反光入射側に配置される光透過性層、すなわち、太陽電池セルのセル反射防止膜の屈折率は、通常1.9〜2.1程度、及び太陽電池セルを構成するSi層等の屈折率は、通常3.3〜3.4程度のものが用いられる。
【0064】
なお、光透過性層のその他の層の好ましい屈折率は、以下に示す通りである。例えば、光透過性層の光入射側から3層をa層、b層、c層としたとき、それぞれの層の屈折率na、nb、ncが、下記式(1)を満たすか、近似していることが好ましい。
nb=(na・nc)0.5 (1)
【0065】
<波長変換型太陽電池モジュールの製造方法>
本発明の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法は、太陽電池セル受光面に、蛍光物質を2次元的に設ける工程を有すること以外は、通常のシリコン結晶太陽電池モジュールの製造方法と同様である。
具体的には、通常のシリコン結晶太陽電池モジュールの製造方法と同様であり、受光面であるカバーガラスの上にシート状の封止材(多くは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を熱ラジカル開始剤で、熱硬化型にしたもの)を載せる。次に、タブ線で接続され、蛍光物質を設けた太陽電池セルを載せ、さらにシート状の封止材を載せ、さらにバックシートを載せて、太陽電池モジュール専用の真空加圧ラミネータを用いてモジュールとする。
【0066】
このとき、ラミネータの熱板温度は、封止材が軟化、溶融し、セルを包み込み、さらに硬化するのに必要な温度となっており、通常、120〜180℃、多くは、140〜160℃でこれらの物理変化、化学変化が起こるように設計されている。
【実施例】
【0067】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」および「部」は質量基準である。
【0068】
[実施例1]
<蛍光物質の合成>
<FTP〔1−(4−フルオロフェニル)−3−(2−チエニル)−1,3−プロパンジオン〕の合成>
水素化ナトリウム0.96g(0.04mol)を秤取し、窒素雰囲気下、脱水テトラヒドロフラン22.5mlを加えた。激しく攪拌しながら、2−アセチルチオフェン2.52g(0.02mol)及び4−フルオロ安息香酸メチル3.70g(0.024mol)を脱水テトラヒドロフラン12.5mlに溶解させた溶液を1時間かけて滴下した。その後、窒素気流下8時間還流させた。これを室温(25℃)に戻し、純水10.0gを加え、更に3N塩酸5.0mlを加えた。有機層を分離し、減圧下で濃縮した。濃縮物を再結晶し、FTPを2.83g(収率57%)得た。
【0069】
<Eu(FTP)Phenの合成>
上記のように合成したFTP556.1mg(2.24mmol)、1,10−フェナントロリン(Phen)151.4mg(0.84mmol)をメタノール25.0gに分散させた。この分散液に、水酸化ナトリウム112.0mg(2.80mmol)をメタノール10.0gに溶解させた溶液を加え、1時間攪拌した。
次いで、256.5mg(0.7mmol)の塩化ユーロピウム(III)6水和物をメタノール5.0gに溶解した溶液を滴下した。室温で2時間攪拌した後、生成した沈殿物を吸引濾過し、メタノールにて洗浄し、これを乾燥することでEu(FTP)Phenを得た。
【0070】
<球状蛍光体の調製>
上記の蛍光物質Eu(FTP)Phen2.14mg(対モノマー0.05%)、ジラウロイルパーオキサイド(LPO)21.4mg(対モノマー0.50%)をメタクリル酸メチル(MMA)42.86gに溶解させた。このモノマー溶液を、ポリビニルアルコール0.42g(対モノマー1.00%)を含んだ300.00gの水溶液に投入し、半月羽根にて350rpmで攪拌しながら、室温にて窒素バブリングした後、窒素気流下、60℃に昇温後、4時間この温度で重合した。その後、残存するラジカル開始剤を消失させる為に、さらに、80℃に昇温し、2時間攪拌し反応を完結させた。室温に戻し、生成した球状蛍光体を濾別し、純水で充分に洗浄し、60℃で乾燥し、球状蛍光体を得た。この球状蛍光体の平均粒子径をレーザー回折散乱粒度分布測定装置、ベックマン・コールター社製、LS13320により測定すると、体積平均径にて104μmであった。
【0071】
<接着剤溶液の調整>
市販のポリ(メタクリル酸メチル)1gを、20gのトルエンにミックスロータを用いて溶解させ、球状蛍光体を太陽電池セル上に固定化するための接着剤溶液とした。
【0072】
<封止シート用樹脂組成物の調製>
太陽電池封止材用の透明樹脂として東ソー株式会社製のエチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA):NM30PWを100質量部、アルケマ吉富株式会社製の過酸化物である熱ラジカル重合開始剤(本実施例では、架橋剤としても働く):ルペロックス101(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン)を1.3質量部、東レ・ダウコーニング株式会社製のシランカップリング剤:SZ6030(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を0.35質量部、日本化成株式会社製の架橋剤:タイク(トリアリルイソシアヌレート) 1.2質量部、BASF(豊通ケミプラス株式会社)製の光安定剤:Tinuvin770DF(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート)を0.12質量部、株式会社エーピーアイコーポレーション製の酸化防止剤:ヨシノックスBHT(ジブチルヒドロキシトルエン):0.007質量部、を90℃のロールミルで混練して、封止シート用樹脂組成物を得た。
【0073】
<封止シートの作製>
上記で得られた、封止シート用樹脂組成物の約25gを離型シートに挟み、ステンレス製スペーサーを用い、熱板を90℃に調整したプレス機により、約600μmの厚みで封止シートを作製した。
【0074】
<裏面用太陽電池封止シートの作製>
上記封止シートの作製と同様の組成で、厚さが450μmとなるように変更した以外は同様の方法で、裏面用太陽電池封止シートを作製した。
【0075】
<球状蛍光体を散布、固定化した太陽電池セルの作製>
起電力を外部に取り出せるようにした太陽電池セルに、上記接着剤溶液を滴下し、一様に延ばして塗布した。そこへ上記球状蛍光体を0.025g均一に散布した。80℃に調整したオーブンで、30分間加熱し、溶剤乾燥、球状蛍光体の固定化をした。
なお、前記起電力を外部に取り出せるようにした太陽電池セルは、日立化成工業株式会社製太陽電池用導電フィルム、CF−105を用い、専用の圧着装置によりタブ線(厚み0.14mm、幅2mm、亜鉛めっきしたもの)を表2本、裏2本接続し、さらにこれら表裏それぞれを横タブ線(日立電線株式会社製、A−TPS 0.23X6.0)を用い、外部取り出し線とした太陽電池セルである。また、起電力を外部に取り出せるようにした太陽電池セルについては、モジュール化する前に、株式会社三永電機製作所製ソーラシミュレータ、XES−155S1、株式会社エーディーシー製電圧電流モニタ、6240A、株式会社エーディーシー製デジタルマルチメータ、7352A、Agilent社製シャッターコントローラ、34970Aを用い、太陽電池I−V特性を得た。Jsc(短絡電流密度)は、JIS−C−8914に準拠して測定し得られたものをJsc(セル)とした。ただし、ソーラシミュレータは、特に300〜450nmスペクトル形状が、自然太陽光と酷似した形状が得られるよう、特別に設計された光学フィルターが装着してある。
【0076】
<波長変換型太陽電池モジュールの作製>
保護ガラスとしての強化硝子(旭硝子株式会社製)の上に、上記太陽電池封止材を載せ、その上に上記球状蛍光体を散布、固定化して設けた太陽電池セルを載せ、さらに裏面用太陽電池封止シート、及びバックフィルムとしてPETフィルム(東洋紡績株式会社製、商品名:A−4300)を載せ、太陽電池用真空加圧ラミネータ(株式会社ネヌ・ピー・シー、LM−50x50−S)を用いて、熱板150℃、真空10分、加圧15分の条件でラミネートし、実施例1の波長変換型太陽電池モジュールを作製した。
【0077】
[比較例1]
<封止シート用樹脂組成物の調製>
実施例1における封止シート用樹脂組成物の調整において、球状蛍光体を1質量部加えた以外は、同様の方法で、封止シート用樹脂組成物を調整した。
【0078】
<波長変換型太陽電池封止材の作製>
上記で得られた、封止シート用樹脂組成物の約25gを離型シートに挟み、ステンレス製スペーサーを用い、熱板を90℃に調整したプレス機により、約600μmの厚みで波長変換型太陽電池封止材を作製した。
【0079】
<波長変換型太陽電池モジュールの作製>
実施例1と同様にして、但し、太陽電池セル受光面に、蛍光物質を2次元的に設けることなく、また、上記の球状蛍光体を封止シートに分散した太陽電池封止材を用いて、比較例1の波長変換型太陽電池モジュールを作製した。
【0080】
〔太陽電池モジュールの評価〕
上記で作製した波長変換型太陽電池モジュールを上記と同様の株式会社三永電機製作所製ソーラシミュレータ、XES−155S1を用い、太陽電池I−V特性を得、JIS−C−8914に準拠して測定し、得られたJsc(モジュール)とした。ΔJscは、この値とあらかじめ測定されたJsc(セル)を用いて、下記式から算出した。
【0081】
ΔJsc = Jsc(モジュール)− Jsc(セル)
【0082】
得られた結果を表1にまとめて示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に見られるように、太陽電池モジュール作製時に太陽電池セル受光面に、蛍光物質(球状蛍光体)を散布、固定化させて設けた波長変換型太陽電池モジュールである実施例1は、封止材の膜厚方向に球状蛍光体を均一に分散させた比較例1に比べ、波長変換効果が約48%も高く発電効率が良くなることが実証された。
【符号の説明】
【0085】
10 太陽電池セル
20 保護ガラス
30 太陽電池封止材
35 裏面用封止材
40 球状蛍光体
50 バックフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池モジュールの製造方法において、太陽電池セル受光面に、蛍光物質を2次元的に設ける工程を有する波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記蛍光物質が、球状蛍光体である請求項1に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記蛍光物質が、ユーロピウム錯体である請求項1又は請求項2に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記蛍光物質が、ビニル化合物をモノマー化合物とする樹脂粒子に内包されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長変換型太陽電池モジュールの製造方法により製造された太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2013−77705(P2013−77705A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216844(P2011−216844)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】