説明

波長変換膜および光電変換装置

【課題】変換効率が優れたアップコンバージョン機能を有する波長変換膜および光電変換装置を提供する。
【解決手段】波長変換膜において、マトリクス層内の第1の量子ドットおよび第2の量子ドットは第1の量子ドットに多重光を照射して励起される第1の基底エネルギー準位が第2の量子ドットに多重光を照射して励起される第2の基底エネルギー準位より大きい。マトリクス層はバンドギャップが第1の基底エネルギー準位よりも大きい誘電体または有機材料で構成される。第1の量子ドットと第2の量子ドットを接合させた場合、そのエネルギーバンド構造がタイプIIをなし、各量子ドットの周囲のマトリクス層は選択的なトンネル障壁を形成し、かつマトリクス層内の輝尽性発光材の発光遷移するエネルギー準位差より高いエネルギー準位でのエネルギー遷移確率が高くなるミニバンドを形成し、輝尽性発光材にエネルギー遷移させてアップコンバージョンさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アップコンバージョン機能を有する波長変換膜および光電変換装置に関し、特に、2種類の量子ドットと輝尽性発光材とを有する波長変換膜および光電変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、太陽電池について研究が盛んに行われている。太陽電池のうち、P型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPN接合型太陽電池、ならびにP型半導体、I型半導体およびN型半導体を接合して構成されるPIN接合型太陽電池は、構成している半導体の伝導帯と価電子帯との間のバンドギャップ(Eg)以上のエネルギーをもつ太陽光を吸収し、価電子帯から伝導体へ電子が励起されて、価電子帯に正孔が生成し、太陽電池に起電力が発生するものである。
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池は、バンドギャップが単一であり、単接合型太陽電池と呼ばれる。
【0003】
PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池においては、バンドギャップより小さいエネルギーの光は吸収されることなく透過してしまう。一方、バンドギャップより大きなエネルギーは吸収されるが、吸収されたエネルギーのうち、バンドギャップより大きいエネルギー分はフォノンとして熱エネルギーとして消費される。このため、PN接合型太陽電池およびPIN接合型太陽電池のような単一バンドギャップの単接合型太陽電池は、エネルギー変換効率が悪いという問題点がある。
【0004】
この問題点を改善するために、バンドギャップの異なる複数のPN接合、PIN接合を積層し、エネルギーの大きな光から順次吸収されるような構造とすることにより、広範囲の波長域で吸収し、かつ熱エネルギーへの損失を低減し、エネルギー変換効率を改善させる多接合太陽電池が開発されている。
しかし、この多接合太陽電池は、複数のPN、PIN接合を電気的に直列接合しているため、出力電流は各接合で生成されている最小の電流となる。このため、太陽光スペクトル分布に偏りが生じ、一つのPN接合、PIN接合の出力が低下すると、太陽光スペクトル分布の偏りに影響されない接合の出力も低下し、太陽電池全体として出力が大幅に低下するという課題がある。また、良質な結晶品質を有しハンドギャップの異なる半導体を良質な結晶品質をたもちつつ接合しなければならないために、結晶格子長がほぼ等しい材料にて材料選択をしなければならないことから、材料選択の幅が狭く作成が困難である。
【0005】
このために、結晶Si太陽電池のような単接合型太陽電池において、強化ガラスやEVA等の樹脂に希土類の微粒子及び希土類の錯体、例えば、Yb3+−Ln3+(Ln3+=Tb3+,Ce3+)共添加ガラス)を添加することにより、単接合型太陽の分光感度特性に適した波長分布に太陽光を波長変化させるダウンコンバージョン膜が知られており、さらに、ダウンコンバージョン膜等を用いて、太陽光発電効率を改善する方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1等)。
【0006】
特許文献1には、光により起電力を生じる光起電層を備え、光起電層の光の入射面側に波長変換組成物からなる波長変換層が設けられた光起電装置が開示されている。
波長変換層は、紫外領域の太陽光線を可視光領域に変換するものであり、波長変換層は、光硬化性樹脂と、光硬化性樹脂内に分散された酸化物微粒子と、酸化物微粒子中に分散された波長変換物質とを備える。波長変換物質としては、紫外、近赤外などの光起電装置が吸収できない波長領域の光を、光起電装置が吸収し発電できる波長領域の光に波長変換する物質であれば、特に制限はされないが、希土類元素を含有する物質、遷移金属を含有する物質、半導体微粒子、シリコンナノクリスタル、有機色素等が挙げられることが開示されており、これらは、単独で用いても、併用しても良く、希土類元素としては、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、ジスプロジウム(Dy)、ネオジウム(Nd)が好ましいことが開示されている。
また、特許文献1には、赤外領域の太陽光線を可視光領域に変換する波長変換層も開示されている。
【0007】
非特許文献1には、Si太陽電池の表面にダウンコンバージョン膜を設けること、Si太陽電池の裏面にアップコンバージョン膜を設けることが開示されている。
【0008】
また、エネルギー保存則の観点から通常起こりえない、長波長の光子を吸収して短波長の光子を放出させるために、量子ドットと希土類イオンや金属イオンを組み合わせた構成や、2種類の半導体材料組み合わせたMQW構造を形成することにアップコンバージョン膜及び素子が提案されている(特許文献2、特許文献3)。
これに加え、波長変換層(アップコンバージョン膜)を用いることにより太陽光による発電効率を改善することが、特許文献1に開示されている。
【0009】
特許文献2には、半導体量子ドットと、半導体量子ドットを包含した母体とを有する輝尽性発光素子が開示されており、この量子ドットは、IV族、III−V族、II−VI族、I−VII族等の半導体量子ドットを含む半導体、希土類イオンや金属イオン等のイオン結晶、ガラス又はポリマー材料からなるものである。
【0010】
特許文献3には、量子ドットを用いて、特に長波長の光を吸収し、短波長の光を発生させるアップコンバージョン素子が開示されている。この特許文献3には、n形半導体(例えば、n形GaAs)層に、量子ドットが形成された母体からなる層が形成され、この層にp側透明電極または半透明電極が形成されたアップコンバージョン素子が開示されている。量子ドット/母体の組合せとして、GaAs/AlAs,InP/GaIn1−XP,InAs/GaAsが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−219551号公報
【特許文献2】特開2000−219877号公報
【特許文献3】特開2001−196627号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar Cell 90 (2006) 2329-2337
【非特許文献2】Phys. Stat. Sol.(c)3.No.3 373-379(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
波長変換層(アップコンバージョン膜)は、単接合型太陽電池のバンドギャップにて吸収できなかった光を利用するため、1.0eV以下の比較的低バンドギャップの量子ドットを形成することが望まれる。
しかしながら、非特許文献2に開示のように希土類酸化物量子ドットによる断熱された粒子単体としてアップコンバージョン機能を発現は実用化されつつあるが、薄膜としては、粒子単体ほど断熱されないがためにフォノン振動による熱エネルギーとして損失や、励起子が粒子間を移動する際の再結合損失の発生により、アップコンバージョン機能が効率よく発現できていない。
【0014】
上述の特許文献2に開示のように、単純に半導体量子ドットと希土類イオンや金属イオン等のイオン結晶をガラス又はポリマー材料に含有した輝尽性発光素子では、希土類イオンや金属イオン等のイオン結晶は、吸収断面積が小さいために励起確率が低く、光エネルギーの変換効率が悪い。このため、光子エネルギーを優先的に半導体量子ドットで吸収し希土類イオンや金属イオンにエネルギー遷移させ発光してエネルギーを放出することが好ましい。
また、希土類イオンや金属イオンのΔEC(輝尽性発光材の発光遷移するエネルギー準位差)より小さい長波長の光子を吸収して発光させるには、長波長の光子を半導体量子ドットにて多段階的に吸収しΔECより高エネルギーした後に、希土類イオンや金属イオンに遷移する必要がある。
さらに、低エネルギー側へのエネルギー遷移確率が通常高いため、効率よく量子ドットにて長波長の光子を多段的に吸収してΔECより高エネルギーにアップコンバージョンさせるには、低エネルギー側へのエネルギー遷移確率より、高エネルギー側へエネルギー遷移確率が高くなるバンド構造、材料構成にする必要がある。
このため、特許文献3に開示されているような量子井戸構造が検討されているものの、エネルギーギャップが小さい量子井戸部分での再結合や界面再結合がしやすく、アップコンバージョンさせることは難しい。
【0015】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、変換効率が優れたアップコンバージョン機能を有する波長変換膜および光電変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、マトリクス層と、前記マトリクス層内に設けられた第1の量子ドットと、前記マトリクス層内に設けられた第2の量子ドットと、前記マトリクス層内に設けられた輝尽性発光材とを有し、前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは、前記第1の量子ドットに多重光を照射したときに励起される第1の基底エネルギー準位が、前記第2の量子ドットに多重光を照射したときに励起される第2の基底エネルギー準位より大きく、前記マトリクス層は、バンドギャップが前記第1の基底エネルギー準位よりも大きい誘電体または有機材料で構成されており、前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットを接合させた場合、そのエネルギーバンド構造がタイプIIをなし、各量子ドットの周囲の前記マトリクス層は、前記マトリクス層の前記バンドキャップと各量子ドット間距離、前記マトリクス層の厚さとの組合せにより選択的なトンネル障壁を形成し、かつ前記輝尽性発光材の発光遷移するエネルギー準位差ΔECより高いエネルギー準位でのエネルギー遷移確率が高くなるミニバンドを形成させ、前記マトリクス層内に設けられた前記輝尽性発光材にエネルギー遷移させることにより、アップコンバージョンさせることを特徴とする波長変換膜を提供するものである。
【0017】
前記エネルギーバンド構造において、伝導帯ミニバンドと価電子帯ミニバンド間の最小エネルギー準位差をΔEABとしたとき、ΔEAB≧ΔECであり、前記第2の量子ドットに長波長の光が吸収され、前記マトリクス層から短波長の光を発生させることが好ましい。
また、前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは直径が2〜20nmであり、前記第1の量子ドットおよび第2の量子ドットは、それぞれ前記マトリクス層の厚さ方向に所定の距離をあけて層状に交互に配置されていることが好ましい。
【0018】
また、前記輝尽性発光材は、少なくとも前記マトリクス層の厚さ方向において隣接する第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドット間のほぼ中間に配置されていることが好ましい。
さらに、前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは、間接遷移半導体で構成されていることが好ましい。
さらにまた、前記マトリクス層は、バンドギャップが3eV以上の無機材または有機物からなり、前記輝尽性発光材は、希土類イオンまたは金属イオンからなることが好ましい。
また、実効屈折率をnとするとき、実効屈折率nは、1.8≦n≦4であることが好ましい。
また、前記第1の量子ドットは、SiGe(1−x)(X>0.7)からなり、前記第2の量子ドットは、SiGe(1−x)(X<0.7)からなるものであり、前記希土類イオンはYb3+イオン、Er3+イオン、またはTm3+イオンであり、金属類イオンはMnイオンであることが好ましい。
前記マトリクス層は、SiO、SiNまたはSiCからなることが好ましい。
【0019】
また、上記波長変換膜が、光電変換層の光の入射側とは反対側に配置されていることを特徴とする光電変換装置を提供するものである。
前記波長変換膜は、長波長光を透過させ、短波長光を反射させる光閉じ込め機能を有することが好ましい。
また、誘電体または有機物からなる第1の層と、上記波長変換膜からなる第2の層とが積層された積層構造を有し、前記第1の層および前記第2の層は、それぞれ厚さが光学波長オーダであり、前記第1の層の実効屈折率をnaとし、前記第2の層の屈折率をnbとするとき、0.3<|nb−na|であることを特徴とする光電変換装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、変換効率が優れたアップコンバージョン機能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)および(b)は、本発明の実施形態の波長変換膜の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。
【図2】本発明の実施形態の波長変換膜のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態の波長変換膜の発光強度および従来の波長変換膜の発光強度を示すグラフである。
【図4】太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを示す模式図である。
【図5】反射防止膜の構成の違いによる反射率の違いを示すグラフである。
【図6】(a)は、SiOのマトリクス層中のSiの量子ドットの含有量と屈折率との関係を示すグラフであり、(b)は、SiOのマトリクス層中のSiの量子ドットの間隔と屈折率との関係を示すグラフである。
【図7】SiO膜/波長変換膜(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換膜は屈折率が1.80である。
【図8】SiO膜/波長変換膜(Si量子ドット/SiO2Mat)/Si基板の反射率を示すグラフであり、波長変換膜は屈折率が2.35である。
【図9】本発明の実施形態の光電変換装置を示す模式的断面図である。
【図10】(a)は、本発明の他の実施形態の光電変換装置を示す模式的断面図であり、(b)は、波長変換層の他の構成の要部を示す模式的斜視図である。
【図11】従来の波長変換膜を示す模式的断面図である。
【図12】従来の波長変換膜のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【図13】従来の他の波長変換膜のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の波長変換膜および光電変換装置を詳細に説明する。
図1(a)および(b)は、本発明の実施形態の波長変換膜の製造方法を工程順に示す模式的断面図である。図2は、発明の実施形態の波長変換膜のエネルギーバンド構造を示す模式図である。
【0023】
図1(b)に示すように、本実施形態の波長変換膜10は、マトリクス層14内に、第1の量子ドット16、第2の量子ドット18および輝尽性発光材20が設けられている。波長変換膜10は、例えば、基板12上に形成されている。
波長変換膜10においては、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18は、それぞれ、複数の波動関数が重なり合うミニバンドを形成するように、マトリクス層14の厚さ方向Hにおいて所定の間隔あけて層状に交互に配置されており、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18により多重量子井戸構造が構成される。
後に詳細に説明するように、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18により、伝導帯側で一部を除き、複数の波動関数が重なり合うミニバンドが形成されている。しかしながら、伝導体側に限定されるものではなく、価電子帯側の一部を除き、複数の波動関数が重なり合うミニバンドが形成されていてもよい。
【0024】
第1の量子ドット16および第2の量子ドット18は、それぞれ直径dが2〜20nmであり、好ましくは2nm〜15nmであり、より好ましくは2nm〜5nmである。また、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18は、粒径(直径d)のバラツキσ(標準偏差)が、1<σ<d/5nmであることが好ましく、より好ましくは、1<σ<d/10nmである。なお、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18の粒径(直径d)はバラツキの範囲で異なっていてもよい。
第1の量子ドット16および第2の量子ドット18は、それぞれ隣り合う粒子との間隔が20nm以下である。また、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18においては、厚さ方向Hの間隔も20nm以下であることが好ましい。
【0025】
第1の量子ドット16および第2の量子ドット18は、例えば、間接遷移半導体で構成されるものである。この間接遷移半導体として、例えば、第1の量子ドット16にはSiQD(量子ドット)、SiGe(1−x)QD(量子ドット)(X>0.7)が用いられ、第2の量子ドット18には、GeQD(量子ドット)、SiGe(1−x)QD(量子ドット)(X<0.7)が用いられる。
【0026】
後に詳細に説明するが、第1の量子ドット16および第2の量子ドット18により、複数の波動関数が重なり合うミニバンドを形成する。
ここで、ミニバンドとは、各量子ドット(量子井戸)が形成している準位が隣接する量子ドット(量子井戸)と重なり合い、エネルギー準位を形成したものである。
また、第1の量子ドット16に多重光(太陽光(AM1.5))を照射したときに励起される第1の基底エネルギー準位は、第2の量子ドット18に多重光(太陽光(AM1.5))を照射したときに励起される第2の基底エネルギー準位より大きい。なお、後に詳細に説明するが、例えば、図2において、第1の基底エネルギー準位は、準位SB1であり、第2の基底エネルギー準位は、準位SB2(基底バンド)である。
【0027】
厚さ方向Hにおいて隣接する第1の量子ドット16および第2の量子ドット18の間に、例えば、厚さ方向Hの略中間の位置に輝尽性発光材20が配置され、マトリクス層内14の20wt%(質量%)以下に含有されている。輝尽性発光材20の配置は、厚さ方向Hの略中間の位置に限定されるものではない。
輝尽性発光材20は、例えば、Ybで構成される。輝尽性発光材20は、例えば、希土類イオンまたは金属イオンで構成されるものである。希土類イオンは、例えば、Yb3+イオン、Er3+イオンまたはTm3+イオンであり、金属類イオンは、例えば、Mnイオンであり、2種類以上の輝尽性発光材を組合せてもよい。
【0028】
マトリクス層14は、バンドギャップ(Egmat)が第1の基底エネルギー準位(例えば、図2に示す準位SB2)よりも大きい誘電体または有機材料で構成されている。マトリクス層14は、厚さ方向Hで隣接する第1の量子ドット16および第2の量子ドット18間では、トンネリング障壁(トンネル障壁)となり、第2の量子ドット18間、すなわち、マトリクス層14の厚さ方向Hと直交する幅方向wでは、第2の量子ドット18の障壁となる。
本実施形態においては、第1の量子ドット16、第2の量子ドット18の各量子ドットの周囲のマトリクス層14は、マトリクス層14のバンドキャップ(Egmat)と各量子ドット間距離、マトリクス層14の厚さとの組合せにより、マトリクス層14の厚さ方向Hと直交する幅方向wでは、第2の量子ドット18の障壁となるように選択的なトンネル障壁を形成する。
なお、マトリクス層14は、バンドギャップが3eV以上の無機材または有機物からなるものであり、例えば、SiO、SiNまたはSiCで構成される。
【0029】
次に、波長変換膜10の製造方法について説明する。
まず、基板12上に、SiO層32、SiO/Yb層34、SiO層32、Si/SiO層36、SiO層32、SiO/Yb層34、SiO層32、SiGeO層38、SiO層32、SiO/Yb層34、SiO層32、Si/SiO層36、SiO層32、SiO/Yb層34、SiO層32、SiGeO層38、SiO層32、SiO/Yb層34、SiO層32の順で形成して、積層体30を得る。
SiO層32、SiO/Yb層34、Si/SiO層36、SiGeO層38の厚さは、例えば、3〜6nmである。
【0030】
次に、積層体30を、例えば、窒素雰囲気中にて約900℃、10分アニールを行う。これにより、SiGe(1−x)QD(X>0.7)からなる第1の量子ドット16、SiGe(1−x)QD(X<0.7)からなる第2の量子ドット18、Yb3+からなる輝尽性発光材20が形成され、図1(b)に示す波長変換膜10が形成される。
なお、波長変換膜10において、第1の量子ドット16とマトリクス層14との界面、第2の量子ドット18とマトリクス層14との界面、およびマトリクス層14の欠陥の発生を防止するため、その製造工程においてパッシベーション工程を有することが好ましい。この場合、パッシベーション工程は、波長変換膜10を硫化アンモニウム溶液またはシアン溶液に浸すか、または波長変換膜10を水素ガス、フッ化水素ガス、臭素化水素ガスまたはリン化水素ガスのガス雰囲気にて熱処理することによりなされる。
例えば、プラズマ水素処理にて、水素終端を実施する場合、処理条件は、例えば、H流量300l/分、真空度0.9Torr、マイクロ波2.5KW、基板温度300℃、処理時間30分である。
【0031】
なお、SiO層32は、例えば、Siをリアクティブスパッタにより酸化させることにより形成される。SiO層32の成膜条件としては、例えば、到達真空度を3.0×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)とし、ターゲットにSiを用い、投入電力を100W、成膜圧力を0.35Pa、Arガス流量を15sccm、Oガス流量を0.35sccm、成膜時間を2分とする。
【0032】
SiO/Yb層34は、例えば、SiOターゲット表面に、表面積比率がYb:SiO=1:1000となるペレット(1mm角小片)をのせた状態で、スパッタすることにより形成される。SiO/Yb層34の成膜条件としては、例えば、到達真空度を3.0×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)とし、ターゲットにSiOターゲット表面に表面積比率がYb:SiO=1:1000となるペレット(1mm角小片)を用い、投入電力を100W、成膜圧力を0.35Pa、Arガス流量を15sccm、Oガス流量を0sccm、成膜時間を2分とする。
【0033】
SiO/Yb層34上のSiO層32は、例えば、SiOをスパッタすることにより形成される。SiO/Yb層34上のSiO層32の成膜条件としては、例えば、到達真空度を3.0×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)とし、ターゲットにSiOを用い、投入電力を100W、成膜圧力を0.35Pa、Arガス流量を15sccm、Oガス流量を1sccm、成膜時間を2分とする。
【0034】
Si/SiO層36は、例えば、SiとSiOを共スパッタすることにより形成される。Si/SiO層36の成膜条件としては、例えば、到達真空度を3.0×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)とし、ターゲットにSi、SiOを用い、投入電力をSiでは100W、SiOでは200W、成膜圧力を0.35Pa、Arガス流量を15sccm、Oガス流量を0sccm、成膜時間を4分とする。
【0035】
SiGeO層38は、例えば、SiとGeとの共リアクティブスパッタにより形成される。SiGeO層38の成膜条件としては、例えば、到達真空度を3.0×10−4Pa以下、基板温度を室温(RT)とし、ターゲットにGe、Siを用い、投入電力をGeでは50W、Siでは100W、成膜圧力を0.35Pa、Arガス流量を15sccm、Oガス流量を0.5sccm、成膜時間を20秒とする。
【0036】
また、SiO層32、SiO/Yb層34およびSiO/Yb層34上のSiO層32は、例えば、SiOをスパッタしつつ、SiO/Yb層34形成時に、Ybをスパッタすることにより形成することができる。
【0037】
本実施形態の波長変換膜10において、第1の量子ドット16と第2の量子ドット18を接合させた場合、図2に示すようなタイプII型(タイプII構造)に近い形態のエネルギーバンド構造となる。第1の量子ドット16により、量子井戸22a、23a、22b、23bが形成され、第2の量子ドット18により、量子井戸24a、25a、24b、25b、24c、25cが形成される。
量子井戸24a、22a、24b、22b、24cは、それぞれ準位SB1を有し、量子井戸24a、24b、24cは、さらに準位SB2(基底準位)を有する。
また、量子井戸25a、23a、25b、23b、25cは、それぞれ準位SB3、準位SB4を有する。
【0038】
図2に示すように、価電子帯側では、量子井戸24a、22a、24b、22b、24cは、重なり合う準位SB1があり、ミニバンドが形成される。
伝導体側では、量子井戸25a、23a、25b、23b、25cは、重なり合う準位SB3、準位SB4があり、ミニバンドが形成される。
なお、準位SB1、準位SB3、準位SB4は、ミニバンドの準位を示す。
【0039】
一方、価電子帯側において、量子井戸24aと量子井戸24bとの間の量子井戸22aには、量子井戸24a、24bの準位SB2(基底準位)と重なり合う準位がない。また、量子井戸24bと量子井戸24cとの間の量子井戸22bには、量子井戸24b、24cの準位SB2(基底準位)と重なり合う準位がない。
ここで、準位SB2は、第2の量子ドット18(Ge量子ドット(量子井戸))の基底バンドであり、本実施形態では、全体のバンド構造としてタイプII構造をとっており、上述のように、隣接する第1の量子ドット18(Si量子ドット(量子井戸))には、重なり合う準位がないためにミニバンドを形成することができない。
このように、量子井戸24a、24bおよび量子井戸24b、24cの準位SB2(基底準位)においてはミニバンドが形成されない領域Dがある。この領域Dでは、マトリクス層14がトンネリング障壁となる。領域Dを設けることにより、量子井戸の厚さ方向Hにおける正孔(ホール)hの移動が抑制される。なお、ミニバンドが形成されてない領域Dは、価電子帯に設けることに限定されるものではなく、伝導帯側に形成してもよい。伝導帯側に設ける場合、正孔(ホール)hではなく電子eの移動が抑制される。
【0040】
図2において、Egmatは、マトリクス層14のバンドギャップを示し、EgSiは、第1の量子ドット16のバンドギャップを示し、EgGeは第2の量子ドット18のバンドギャップを示す。各バンドギャップは、Egmat>EgSi>EgGeの関係にある。
図2に示すように、本実施形態において、輝尽性発光材20の発光遷移するエネルギー準位差をΔECとし、2光子吸収以で励起された伝導帯ミニバンドと価電子帯ミニバンド間の最小エネルギー準位差をΔEABする。
この場合、ΔEAB≧ΔECである。波長変換膜10では、第2の量子ドット18に長波長の光Luが吸収されて、マトリクス層14から短波長光Lsが放出される。
ここで、ΔEABは、伝導帯ミニバンドと価電子帯ミニバンド間の最小エネルギー準位差であり、準位SB1−準位SB3間である。なお、準位SB1がない場合には、ΔEABは、準位SB1−準位SB4間である。
【0041】
波長変換膜10においては、価電子帯側において、例えば、第1の量子ドット16を挟んだ第2の量子ドット18の量子井戸24a、24b間、量子井戸24b、24c間のように、隣接する第2の量子ドット18間にミニバンドが形成されない領域Dを設けることにより、例えば、量子井戸24a、24bの準位SB2(基底準位)と重なり合う準位がないため、量子井戸24aの準位SB2にある正孔(ホール)hは、量子井戸24bに移動しにくい。このように、厚さ方向Hの電荷輸送(価電子帯側の場合は正孔(ホール)h、伝導帯側の場合は電子eの移動)を抑制して、上の準位へのエネルギー遷移の確率、すなわち、アップコンバージョンの確率を上げ、選択的に励起エネルギーを取り出すとともに、電荷輸送中の非発光再結合を抑制することができる。
【0042】
波長変換膜10においては、例えば、準位SB1にある、量子井戸24aの正孔(ホール)hが、入射した入射光Lを吸収し、1つ上の準位SB2(基底準位)に上がり、さらに入射光Lを吸収し、量子井戸25aの準位SB3に上がる。このようにして準位を2段階上げる。2段階上げられた準位SB3は、マトリクス層14中の輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位と同じである。そして、電子eが輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))に輸送(遷移)され、準位SB3に相当する準位から価電子帯側の輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位(準位SB1に相当する)に遷移する。このとき、マトリクス層14から、吸収した入射光Lよりも波長の短い短波長光Lsがマトリクス層14から放出される。すなわち、高いエネルギーの光を放出する。波長変換膜10は、このようにしてアップコンバートする。
【0043】
また、例えば、準位SB2(基底準位)にある、量子井戸24aの正孔(ホール)hが、入射した入射光Lを吸収し、1つ上の量子井戸25aの準位SB3に上がり、さらに入射した入射光Lを吸収し、量子井戸25aの準位SB4に上がる。このようにして、準位が2段階上がる。この場合、2段階上の準位SB4と輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位とは同じである。そして、電子eが輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))に輸送され、準位SB4に相当する準位から価電子帯側の輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位(準位SB2に相当する)に遷移する。このとき、吸収した入射光Lよりも、波長の短い短波長光Lsを放出する。すなわち、高いエネルギーの光を放出する。波長変換膜10は、このようにしてアップコンバートする。波長変換膜10は、このようにしてアップコンバートする。
【0044】
また、例えば、ミニバンドSB1にある、量子井戸22bの正孔(ホール)hが、入射した入射光Lを吸収し、バンドギャップEgSiを超えて、量子井戸23bの準位SB3に上がる。この場合、準位SB3と輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位とは同じである。そして、電子eが輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))に輸送され、準位SB3に相当する準位から価電子帯側の輝尽性発光材20(Yb(Yb3+))の準位(準位SB1に相当する)に遷移する。このとき、吸収した入射光Lよりも、短波長光Lsを放出する。すなわち、高いエネルギーの光を放出する。波長変換膜10は、このようにしてアップコンバートする。
【0045】
本発明の波長変換膜10および従来の波長変換膜について、1300nmの波長の光を励起光として、発光強度を調べた。その結果、図3に示すように、本実施形態の波長変換膜10は、例えば、1300nmの波長の光を、約1010nmの波長の光に波長変換することができた。さらに、本発明の波長変換膜10は、従来の波長変換膜に比して十分に大きな発光強度を得ることができ、変換効率が優れたアップコンバージョン機能を有する。なお、図3において符号αは本発明の波長変換膜10を示し、符号βは従来の波長変換膜を示す。
【0046】
なお、従来の波長変換膜とは、図11に示すものである。この従来の波長変換膜100は、基板12上に形成されたマトリクス層102内に、Ge量子ドット104が、マトリクス層104の厚さ方向Hに所定の間隔をあけて層状に複数層設けられたものである。Ge量子ドット104の層間に、Yb粒子106が、層状に設けられており、希土類がドープされたものである。
従来の波長変換膜100のエネルギーバンド構造は、図12に示す構造を有する。図12に示すように、2光子吸収以上で励起されたエネルギー準位は、ドープされた希土類の発光遷移準位エネルギーと等しい。この励起されたエネルギー準位においては、希土類の遷移確率が高いので選択的に遷移し、アップコンバージョン遷移しやすい。しかしながら、従来から、2光子吸収する以前に発光または非発光再結合することがあり、遷移確率を改善する必要がある。
【0047】
これに対して、本実施形態の波長変換膜10においては、上述の構成にすることにより、アップコンバージョンの遷移確率を上げることができ、長波長光を短波長光に、すなわち、低いエネルギーの光を高いエネルギーの光に、従来に比して高い効率で変換することができる。
ここで、図13に示すSiのマトリクス100中にGe量子ドット(図示せず)により量子井戸112が形成された他の従来のエネルギーバンド構造においては、発光経路(非発光再結合を含む)は、励起経路と等しいか多く、光子pを吸収して、2段階遷移以上が必要なアップコンバージョンの確立が低いという問題点がある。また、2光子吸収以上で電子(図示せず)が励起されるものの、量子井戸112間のマトリクス層110の欠陥により、非発光再結合(符号114)が生じる。更には、界面再結合(符号116)も生じる。図13に示すように、他の従来のエネルギーバンド構造においても、遷移確率を改善する必要がある。
【0048】
波長変換膜10の波長変換機能については、波長変換膜10の用途により、適宜そのアップコンバートする波長域および変換後の波長が選択される。
波長変換膜10が、例えば、Eg(バンドギャップ)が1.2eVのシリコン太陽電池の光電変換層上に配置された場合、この1.2eVの2倍以上のエネルギー(2.4eV以上)の波長領域に対して、バンドギャップに相当するエネルギーの波長の光に波長変換する機能を有するものとする。
図4に示すように、太陽光スペクトルと結晶Siの分光感度曲線とを比べると、太陽スペクトルには結晶Siのバンドギャップの波長域の強度が低い。このため、太陽光のうち、結晶Siのバンドギャップのエネルギー(1.2eV)よりも小さい波長領域(長波長光領域)に対して、高いエネルギーの光子、例えば、1.0eVの光(波長約1300nm)に波長変換することにより、光電変換に有効な光を、結晶Siからなる光電変換層に供給することができる。これにより、光電変換装置(太陽電池)の変換効率を高くすることができる。
【0049】
波長変換膜10は、入射光を閉じ込める機能(以下、光閉込め機能という)、例えば、反射防止機能を有するものであってもよい。この場合、波長変換膜10が配置される光電変換層が、結晶Siの場合には屈折率nPVは3.6である。また、これらが配置される空間の空気の屈折率nairは1.0である。
ここで、波長変換膜10を反射防止膜として考えた場合、例えば、図5に示すように、屈折率が1.9の単層膜(符号A)、屈折率が1.46/2.35の2層膜(符号A)、屈折率が1.36/1.46/2.35の3層膜(符号A)を比較すると、屈折率が2.35のものがあると、反射率を低減することができる。
このように、波長変換膜10において、反射防止機能を発揮するためには、波長変換膜10の実効屈折率nが、光電変換層の屈折率nPV(結晶シリコンで3.6)と、空気の屈折率とのほぼ中間の屈折率とすることができれば、反射防止機能を発揮することができる。
本実施形態では、波長変換膜10の用途等を考慮して、波長変換膜10の実効屈折率nは、例えば、波長533nmにおいて、1.8≦n≦4.0とする。実効屈折率nは、好ましくは、波長533nmにおいて1.8≦n≦2.5である。
【0050】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、基底状態に対して、励起状態のフォトンの存在確率が高くなる反転分布状態を形成するように、量子ドットが配列される必要がある。そこで、量子ドットを上述の如く周期配列とする。この場合、量子ドットの周期間隔が10nm以下であり、好ましくは2nm〜5nmである。これにより、励起状態のフォトンがエネルギー移動できる量子ドットの配列となる。また、エネルギーの局在を生じさせるために、量子ドットの特定の周期間隔が、量子ドットの粒径のバラツキを有する。
【0051】
また、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換膜10において、マトリクス層14の厚さ方向Hと幅方向wの配列を異ならせることにより、エネルギーの局在を生じせることにより実現できる。この場合、量子ドットが上述の周期配列と異なる配列を有し、20nm角以下の3次元量子サイズ空間での粒子密度の偏りを有することにより、フォトンの存在確率を変えることができる。この場合においても、上述のように、量子ドットの粒径バラツキσが、1<σ<d/5nmの範囲で異なること、好ましくは、1<σ<d/10nmである。
【0052】
さらに、光電変換層で利用可能な光に変換するには、波長変換膜10が多層構造である場合、量子ドットの積層方向と、この積層方向と直交する方向の配列が同様な場合、すなわち、量子ドットが波長変換膜10内で、3次元的に上述の周期配列のように均一に等間隔に配列されている場合、量子ドットの粒径の偏りによりエネルギーの局在を生じさせてフォトンの存在確率を変えることにより実現することもできる。この場合でも、量子ドットの粒径がばらつきを有し、量子ドットの粒径のバラツキσが、1<σ<d/5nm、好ましくは1<σ<d/10nmであり、量子ドットは、前述のバラツキの範囲で異ならせる。
【0053】
上述のように、反射防止機能を得るために、波長変換膜10の実効屈折率nを、例えば、光電変換層と空気との中間の値の2.4にする必要がある。そこで、マトリクス層14をSiOで構成し、量子ドットをSiで構成した場合における屈折率をシミュレーション計算により調べた。その結果、図6(a)に示すように、量子ドットの含有量が多くなると屈折率が高くなる。
さらに、量子ドットの間隔と屈折率との関係をシミュレーション計算により調べた。その結果、図6(b)に示すように、屈折率を高くするには、量子ドットの間隔を狭くする必要がある。
図6(a)、(b)に示すように、例えば、波長変換膜10の実効屈折率nを2.4にするには、量子ドットの間隔を狭く、かつ高い密度でマトリクス層14内に配置する必要がある。
【0054】
次に、Si基板上に波長変換膜10を形成し、この波長変換膜10上にSiO膜を形成したものについて反射率を求めた。波長変換膜10は、SiOのマトリクス層14にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)であり、量子ドットの粒径を均一である。このとき、波長変換膜10の屈折率は1.80である。
この場合、図7に示すように、反射率を約10%にすることができる。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
【0055】
また、量子ドットの粒径を不均一にすることにより、充填率を高くし、波長変換膜10の屈折率を2.35と高くした。この場合、波長変換膜10は、SiOのマトリクス層14にSiの量子ドットが設けられたもの(Si量子ドット/SiO2Mat)である。その結果を図8に示す。なお、反射率は、分光反射測定器(日立製U4000)を用いて測定した。
図8に示すように、反射率を図7に比して、更に低くすることができる。このように、量子ドットの充填率を高くすることにより、屈折率が高くなり、その結果、反射率を低くすることができる。このため、波長変換膜10に入射する入射光Lの利用効率を高くすることができる。
【0056】
次に、本実施形態の波長変換膜10を有する光電変換装置について説明する。
図9は、本発明の実施形態の光電変換装置を示す模式的断面図である。
図9に示す光電変換装置40は、基材42上に反射層44が形成されており、この反射層44上に波長変換層46が設けられている。波長変換層46は、上述の波長変換膜10と同様の構成である。この波長変換層46上に第1の透明電極層48が設けられている。
第1の透明電極層48上に光電変換層50が設けられており、この光電変換層50上に第2の透明電極層52が設けられている。
【0057】
さらに、第2の透明電極層52上に光閉込め層54が設けられている。
本実施形態の光電変換装置40においては、光閉込め層54の表面54a側から入射された入射光Lのうち、光電変換層50で光電変換に利用されることなく通り抜けた、例えば、赤外線及び近赤外線の長波長光Luを反射層44で反射させて、波長変換層46に入射させる。この波長変換層46では、利用されなかった長波長光Lu、例えば、波長1300nmの光をアップコンバージョン機能により、光電変換層50で光電変換に利用可能な短波長光Ls、例えば、1000nm程度に変換する。これにより、入射光Lを有効に利用することができるとともに、光電変換層50での入射光Lの利用効率を高くすることができる。
【0058】
基材42は、直接熱プロセスを実施する場合には、比較的耐熱性のある支持基板材料が用いられる。例えば、耐熱性ガラス、石英基板、ステンレス基板、もしくはステンレスと異種金属を積層した金属多層基板、アルミニウム基板、または表面に酸化処理(例えば、陽極酸化処理)を施すことで表面の絶縁性を向上してある酸化被膜付きのアルミニウム基板等が使用される。
【0059】
低温プロセスにて形成できる方法では、有機支持基板材料等を使用できる。具体的にはが、飽和ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂基板、架橋フマル酸ジエステル系樹脂基板、ポリカーボネート(PC)系樹脂基板、ポリエーテルスルフォン(PES)樹脂基板、ポリスルフォン(PSF、PSU)樹脂基板、ポリアリレート(PAR)樹脂基板、環状ポリオレフィン(COP、COC)樹脂基板、セルロース系樹脂基板、ポリイミド(PI)樹脂基板、ポリアミドイミド(PAI)樹脂基板、マレイミド−オレフィン樹脂基板、ポリアミド(PA)樹脂基板、アクリル系樹脂基板、フッ素系樹脂基板、エポキシ系樹脂基板、シリコーン系樹脂フィルム基板、ポリベンズアゾール系樹脂基板、エピスルフィド化合物による基板液晶ポリマー(LCP)基板、シアネート系樹脂基板、芳香族エーテル系樹脂基板、酸化ケイ素粒子との複合プラスチック材料、金属ナノ粒子、無機酸化物ナノ粒子、無機窒化物ナノ粒子などとの複合プラスチック材料、金属系・無機系のナノファイバー&マイクロファイバーとの複合プラスチック材料、カーボン繊維、カーボンナノチューブとの複合プラスチック材料、ガラスフェレーク、ガラスファイバー、ガラスビーズとの複合プラスチック材料、粘土鉱物と雲母派生結晶構造を有する粒子との複合プラスチック材料、薄いガラスと上記単独有機材料との間に少なくとも1つの接合界面を有する積層プラスチック材料、無機層(例えば、SiO、Al、SiOxNy)と上記有機層を交互に積層することで、少なくとも1つの接合界面を有するバリア性能を有する複合材料等を使用することができる。
【0060】
反射層44は、光電変換層50、第1の透明電極48および波長変換膜46を透過した光を反射させて波長変換膜46に再度入射させるものであり、光電変換層50で光電変換利用されなかった、例えば、赤外線及び近赤外線を反射させる。
この反射層44は、例えば、厚さが500nmのAl膜により構成される。このAl膜は、例えば、蒸着にて形成される。なお、反射層44は、Au、Ag及び誘電体積層膜で構成することもできる。
【0061】
第1の透明電極層48は、P型透明電極層で構成される。この第1の透明電極層48(P型透明電極層)としては、例えば、CuAlO、CuGaO、CuInO等の組成:ABOと表記する時、AがCu、Agであり、BがAl、Ga、In、Sb、Biとなる合金である。また、このABOで表わされる合金、その固溶系の材料、およびDelafossite型微結晶体、ならびにこれらの材料の2種または3種の合金が用いられる。なお、第1の透明電極層48には、CuAlS、CuGaS、BドープSiC等を用いることができる。
【0062】
第2の透明電極層52は、N型透明電極層で構成される。この第2の透明電電極層(N型透明電極層)としては、例えば、IGZO、a−IGZO(アモルファスIGZO)のバンドギャップと等しいか大きい、Ga、SnO系(ATO、FTO)、ZnO系(AZO、GZO)、In系(ITO、)、Zn(O、S)CdO、もしくは、これらの材料の2種もしくは3種の合金を用いることができる。更に、第2の透明電極層52としては、MgIn、GaInO、CdSb等を用いることもできる。
【0063】
光電変換層50は、例えば、多結晶シリコンまたは単結晶シリコンにより構成されるものである。また、光電変換層50として、CIGS系光電変換層、CIS系光電変換層、CdTe系光電変換層、色素増感系光電変換層、または有機系光電変換層を用いることもできる。
【0064】
光閉込め層54は、光閉込め機能、例えば、反射防止機能を有するものである。この光閉込め層54は、公知の反射防止膜を用いることができる。
【0065】
次に、本実施形態の他の光電変換装置について説明する。
図10(a)は、本発明の他の実施形態の光電変換装置を示す模式的断面図であり、(b)は、波長変換層の他の構成の要部を示す模式的斜視図である。
図10(a)に示す波長変換装置40aは、図9に示す波長変換装置40に比して、波長変換層56の構成が異なり、それ以外の構成は、図9に示す波長変換装置40と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図10(a)に示す波長変換装置40aの波長変換層56は、波長変換部58a(第2の層)と、樹脂部58b(第1の層)とが積層された積層構造を有するものである。
波長変換部58a(第2の層)と樹脂部58b(第1の層)とは、それぞれ厚さが光学波長オーダ(数百nm)である。
波長変換層56は、光電変換層50、第1の透明電極層48を透過した光電変換層50で光電変換に利用されていない長波長光Luを、波長変換層56の表面56aから出射させないようにするものである。すなわち、波長変換層56は、光電変換層50で光電変換に利用されていない長波長光Luを閉じ込めるものである。
なお、長波長光Luを閉じ込める構成としては、例えば、上述の図5に示すように反射防止膜の構成を利用したものとすることができるため、その詳細な説明は省略する。
波長変換層56において、波長変換部58aは、例えば、上記波長変換膜10と同じ構成とすることができる。このため、波長変換部58aについて詳細な説明は省略する。
【0067】
樹脂部58bとしては、誘電体または有機物からなるものであり、例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられ、光を透過するものであれば特に限定されるものではない。
光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂等を用いることができる。
シリコーン樹脂としては、市販のLED用シリコーン樹脂等が挙げられる。エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂としては、例えば、三井化学ファブロ株式会社のソーラーエバ(商標)等を用いることができる。さらには、アイオノマー樹脂なども使用することができる。
【0068】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂またはこれらの水添化物、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート骨格を有するエポキシ樹脂、カルド骨格を有するエポキシ樹脂、ポリシロキサン構造を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0069】
アクリル樹脂としては、2つ以上の官能基を有する(メタ)アクリレートを用いることができる。また、アクリル樹脂として水分散型アクリル樹脂を用いることができる。この水分散型アクリル樹脂とは、水を主成分とする分散媒に分散したアクリルモノマー、オリゴマー、またはポリマーで、水分散液のような希薄な状態では架橋反応がほとんど進行しないが、水を蒸発させると常温でも架橋反応が進行し固化するタイプ、または自己架橋可能な官能基を有し、触媒や重合開始剤、反応促進剤などの添加剤を用いなくとも加熱のみで架橋し固化するタイプのアクリル樹脂である。
【0070】
光電変換装置40aにおいては、光電変換層50を透過した、光電変換層50で光電変換に利用されていない長波長光Luを、波長変換層56の表面56aから出射されることがなく、光電変換層50に再度入射されることがない。しかも、長波長光Luを、波長変換層56の表面56aから発熱させることなく出射させないため、光電変換層50に悪影響を与えることがない。このように、光電変換装置40aにおいては、光電変換層50で光電変換に利用されない長波長光Luの再入射を抑制し、光電変換に利用されない長波長光Luの悪影響を抑制することができる。
【0071】
なお、波長変換装置40aの波長変換層56の波長変換部58aの構成は、上記波長変換膜10に限定されるものではなく、例えば、図10(b)に示す波長変換部60を用いることができる。
この波長変換部60は、マトリクス層62に、量子ドット64が複数周期的に配置されたものである。この場合、例えば、図6(a)、(b)に示すように、量子ドット62の含有量と屈折率の関係を用いて、波長変換部60の屈折率を調整し、樹脂部58bと組み合わせて、例えば、波長変換層56内に長波長光Luを閉じ込めるようにしてもよい。
【0072】
なお、光電変換装置40aにおいて、樹脂部58b(第1の層)の実効屈折率をnaとし、波長変換部58a(第2の層)の屈折率をnbとするとき、0.3<|nb−na|であることが好ましい。この場合、波長変換部58a(第2の層)の屈折率nbは、波長変換膜10の実効屈折率nと同じく、例えば、波長533nmにおいて、1.8≦n≦4.0であり、好ましくは、波長533nmにおいて1.8≦n≦2.5である。
樹脂部58b(第1の層)の実効屈折率naと波長変換部58a(第2の層)の屈折率nbの屈折率差が大きいほど、同じ反射を得るのに層数を少なくすることができる。しかしながら、屈折率差を大きくすると材料選択範囲が狭くなる。波長変換層56の積層数が、例えば、10層程度で、所定の反射率が得られるようにするには、屈折率差は0.3程度である。このため、樹脂部58b(第1の層)の実効屈折率naと波長変換部58a(第2の層)の屈折率nbの屈折率差は、0.3<|nb−na|であることが好ましい。
【0073】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の波長変換膜および光電変換装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
10 波長変換膜
12 基板
14、62 マトリクス層
16 第1の量子ドット
18 第2の量子ドット
20 輝尽性発光材
22a、22b、23a、23b、24a、24b、25a、25b 量子井戸
30 積層体
32 SiO
34 SiO/Yb
36 Si/SiO
38 SiGeO層
40 光電変換装置
42 基材
44 反射層
46、56 波長変換層
48 第1の透明電極層
50 光電変換層
52 第2の透明電極層
54 光閉込め層
58a、60 波長変換部
64 量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス層と、
前記マトリクス層内に設けられた第1の量子ドットと、
前記マトリクス層内に設けられた第2の量子ドットと、
前記マトリクス層内に設けられた輝尽性発光材とを有し、
前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは、前記第1の量子ドットに多重光を照射したときに励起される第1の基底エネルギー準位が、前記第2の量子ドットに多重光を照射したときに励起される第2の基底エネルギー準位より大きく、
前記マトリクス層は、バンドギャップが前記第1の基底エネルギー準位よりも大きい誘電体または有機材料で構成されており、
前記第1の量子ドットと前記第2の量子ドットを接合させた場合、そのエネルギーバンド構造がタイプIIをなし、
各量子ドットの周囲の前記マトリクス層は、前記マトリクス層の前記バンドキャップと各量子ドット間距離、前記マトリクス層の厚さとの組合せにより選択的なトンネル障壁を形成し、かつ前記輝尽性発光材の発光遷移するエネルギー準位差ΔECより高いエネルギー準位でのエネルギー遷移確率が高くなるミニバンドを形成させ、前記マトリクス層内に設けられた前記輝尽性発光材にエネルギー遷移させることにより、アップコンバージョンさせることを特徴とする波長変換膜。
【請求項2】
前記エネルギーバンド構造において、伝導帯ミニバンドと価電子帯ミニバンド間の最小エネルギー準位差をΔEABとしたとき、ΔEAB≧ΔECであり、
前記第2の量子ドットに長波長の光が吸収され、前記マトリクス層から短波長の光を発生させる請求項1に記載の波長変換膜。
【請求項3】
前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは直径が2〜20nmであり、
前記第1の量子ドットおよび第2の量子ドットは、それぞれ前記マトリクス層の厚さ方向に所定の距離をあけて層状に交互に配置されている請求項1または2に記載の波長変換膜。
【請求項4】
前記輝尽性発光材は、少なくとも前記マトリクス層の厚さ方向において隣接する第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドット間のほぼ中間に配置されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の波長変換膜。
【請求項5】
前記第1の量子ドットおよび前記第2の量子ドットは、間接遷移半導体で構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の波長変換膜。
【請求項6】
前記マトリクス層は、バンドギャップが3eV以上の無機材または有機物からなり、前記輝尽性発光材は、希土類イオンまたは金属イオンからなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の波長変換膜。
【請求項7】
実効屈折率をnとするとき、実効屈折率nは、1.8≦n≦4である請求項1〜6のいずれか1項に記載の波長変換膜。
【請求項8】
前記第1の量子ドットは、SiGe(1−x)(X>0.7)からなり、前記第2の量子ドットは、SiGe(1−x)(X<0.7)からなるものであり、前記希土類イオンはYb3+イオン、Er3+イオン、またはTm3+イオンであり、金属類イオンはMnイオンである請求項6または7に記載の波長変換膜。
【請求項9】
前記マトリクス層は、SiO、SiNまたはSiCからなる請求項1〜8のいずれか1項に記載の波長変換膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の波長変換膜が、光電変換層の光の入射側とは反対側に配置されていることを特徴とする光電変換装置。
【請求項11】
前記波長変換膜は、長波長光を透過させ、短波長光を反射させる光閉じ込め機能を有する請求項10に記載の光電変換装置。
【請求項12】
誘電体または有機物からなる第1の層と、請求項1〜9のいずれか1項に記載の波長変換膜からなる第2の層とが積層された積層構造を有し、前記第1の層および前記第2の層は、それぞれ厚さが光学波長オーダであり、
前記第1の層の実効屈折率をnaとし、前記第2の層の屈折率をnbとするとき、0.3<|nb−na|であることを特徴とする光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−45948(P2013−45948A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183699(P2011−183699)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】