説明

波長変換部材およびこれを備える発光装置、ならびに蛍光体

【課題】蛍光体粒子の周囲を覆う樹脂等の媒体についても考慮して、該蛍光体粒子の該媒体における分散性を向上させた波長変換部材を提供する。また、該波長変換部材において、蛍光体粒子の分散性を制御し、半導体発光素子と組み合わせ、色むらが無く発光効率の良好な発光装置を提供する。
【解決手段】蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆してなりコーティング材料粒子の平均粒子径は、蛍光体粒子の平均粒子径の1/10以下とする複合蛍光体、を備える波長変換部材およびこれを用いた発光装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換部材およびこれを備える発光装置、ならびに蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)などの半導体発光素子から発する光を蛍光体によって変換する発光装置は小型であり、消費電力が白熱電球よりも少なく、さらに白色など使用目的に応じた色の発光が可能であるため、液晶ディスプレイ、携帯電話若しくは携帯情報端末等のバックライト用光源、室内外広告等に利用される表示装置、各種携帯機器のインジケータ、照明スイッチまたはOA(オフィスオートメーション)機器用光源等に利用することができ、高効率化あるいは高信頼化などの開発が行われている。
【0003】
今まで、青色または青紫色の光または紫外光を発光する半導体発光素子と、蛍光体とを組み合わせた発光装置の開発が行われているが、これに用いる蛍光体として、主にさまざまな酸化物や硫化物の蛍光体が用いられている。
【0004】
しかしながら蛍光体によっては、たとえば硫化物を含む蛍光体は、空気中の水分と反応して加水分解するおそれがある。このような蛍光体の劣化によって、発光装置の耐用年数が低下する。その対策として特許文献1に酸化物および硫化物系蛍光体粒子表面に耐水コーティング被膜を有する蛍光体が開示されている。
【0005】
また特許文献2には紫外線による劣化および水分による劣化の対策として、金属アルコキシドまたはポリシラザン等のセラミック前駆体を有機溶媒中に溶解してゾルを形成する工程と、粒状の蛍光体にゾルを噴霧して、蛍光体表面に金属アルコキシドまたはセラミック前駆体の被膜を形成する工程と、たとえば120〜160℃の温度範囲で被膜を焼成して蛍光体の表面にガラスまたはセラミックからなる被覆層を形成する被膜の製法が開示されている。
【0006】
また、酸化物や硫化物系蛍光体に代わり、近年、酸窒化物や窒化物蛍光体の例が特許文献3および特許文献4に開示されている。これらの蛍光体はたとえば390nmから420nmの波長の光で励起され高効率の発光が得られるうえ、安定性および耐水性が高く、また使用温度の変化による発光効率の変動が少ない等の優れた特性を有するものが多い。
【0007】
この窒化物蛍光体の耐熱性をさらに高めるため、窒化金属系または酸窒化金属系材料の被膜を設けることが、特許文献5に開示されている。それによれば、酸窒化物系蛍光体として(Sra、Ca1-axSiyz{(2/3)x+(4/3)y-(2/3)z}:Eu(x=2、y=5)を製造する際にベーク劣化しやすいため、この蛍光体粒子を、N元素を含有する被膜によって覆う。N元素を含有する被膜としては、窒素とアルミニウム、ケイ素、チタン、ホウ素、ジルコニウム等の金属とを含む窒化金属系材料、ポリウレタン、ポリウレア等のN元素を含有する有機樹脂が用いられる。このN元素を含む被膜を形成していない窒化物系蛍光体は、200〜300℃に加熱することによって急激に発光効率が低下するのに対し、N元素を含有する被膜を設けることにより、窒化物系蛍光材料の窒素の分解を、窒素を供給することによって低減して、耐熱性が向上したとされている。
【0008】
また、蛍光体の化学的安定性及び耐熱性を向上させるという目的以外に、蛍光体粒子表面に被膜を形成する例としては、樹脂への分散性を高めることを目的としたものが、特許文献6に開示されている。金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆するというもので、その方法は、金属酸化物を構成する金属を中心原子とし、フッ素を配位子とする金属錯イオンと水を含有する処理溶液を蛍光体粒子に接触させ、金属錯イオンが水と反応して生成されるフッ化物イオンが蛍光体粒子の表面にエッチング作用し、蛍光体粒子の表面の欠陥部分を除去することができると共に、ネッキングして凝集体となっている蛍光体粒子を解離させるものである。さらに引き続いて、蛍光体粒子の表面で金属錯イオンが、水と反応して生成される金属酸化物で蛍光体粒子の表面を被覆するというものである。この処理により、樹脂への分散性を高めることができると共に、蛍光特性を高めることができるとされている。
【0009】
以上のように、従来において蛍光体粒子に被膜を設ける理由は、蛍光体の化学的安定性および耐熱性を向上させるというものであった。また最近になって、蛍光体粒子の樹脂等への媒体に対する分散性の向上を目的とするものも開示されつつある。
【0010】
特に該被膜は蛍光体粒子の樹脂等の封止体への分散性に影響を与えることは十分に考えられる。たとえば、蛍光体粒子を樹脂中に分散させた時に、樹脂中で蛍光体粒子の2次凝集が起こり、この影響で蛍光の色むらまたは発光効率の低下が考えられる。
【0011】
さらに、2種以上の蛍光体粒子を樹脂等の媒体に分散させる場合、それぞれの蛍光体粒子の媒体に対する分散性が異なることがある。特に蛍光体粒子の平均粒子径が大きく異なる場合、粒径の大きな蛍光体粒子が沈降してしまい、発光効率を低下させる原因となる。
たとえば、緑色蛍光体粒子と赤色蛍光体粒子を樹脂に分散させた時に、緑色蛍光体粒子が沈降した場合、緑色蛍光体が発した緑色光を赤色蛍光体が再吸収してしまい、発光効率を低下させることとなる。
【特許文献1】特開2002−223008号公報
【特許文献2】特開2002−173675号公報
【特許文献3】特開2002−363554号公報
【特許文献4】特開2003−206481号公報
【特許文献5】特開2004−161807号公報
【特許文献6】特開2006−232949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記を鑑みて本発明は、蛍光体粒子の周囲を覆う樹脂等の媒体についても考慮して、該蛍光体粒子の該媒体における分散性を向上させた波長変換部材を提供することを目的とする。
【0013】
また、該波長変換部材において、蛍光体粒子の分散性を制御し、半導体発光素子と組み合わせ、色むらが無く発光効率の良好な発光装置を提供することを目的とする。
【0014】
また、分散性のよい複合蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆してなり、コーティング材料粒子の平均粒子径が蛍光体粒子の平均粒子径の1/10以下とする複合蛍光体を備える波長変換部材に関する。
【0016】
本発明の波長変換部材において、さらに、蛍光体粒子を備えることが好ましい。
本発明の波長変換部材において、複合蛍光体は、蛍光体粒子の表面を噴霧乾燥によってコーティング材料粒子で被覆してなることが好ましい。
【0017】
本発明の波長変換部材において、蛍光体粒子は、酸窒化物または窒化物であることが好ましい。
【0018】
本発明の波長変換部材において、酸窒化物は、Si、Al、O、Nおよび一種若しくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むことが好ましい。
【0019】
本発明の波長変換部材において、酸窒化物は、Ceを賦活したJEM蛍光体、Euを賦活したβサイアロン蛍光体、Ce賦活したαサイアロン蛍光体、およびEu賦活したαサイアロン蛍光体から選択される1種を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の波長変換部材において、窒化物は、Ca、Si、Al、Nおよび一種もしくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むことが好ましい。
【0021】
本発明の波長変換部材において、窒化物は、Euを賦活したCaAlSiN3を含むことが好ましい。
【0022】
本発明の波長変換部材において、コーティング材料粒子は、金属酸化物を含むことが好ましい。
【0023】
本発明の波長変換部材において、コーティング材料粒子は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムから選択される1種を含むことが好ましい。
【0024】
本発明の波長変換部材において、コーティング材料粒子は、二酸化ケイ素を含むことが好ましい。
【0025】
本発明の波長変換部材において、コーティング材料粒子は、シリコーンレジンを含むことが好ましい。
【0026】
本発明の波長変換部材において、蛍光のピーク波長が500nm以上600nm未満の第1蛍光体と、蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下の第2蛍光体とが、媒体中に分散され、第1蛍光体および第2蛍光体の少なくとも1つが複合蛍光体であることが好ましく、該第2蛍光体が蛍光体粒子であることがさらに好ましく、該第2蛍光体が、媒体における厚み方向の下層の領域に分散してなることが特に好ましい。
【0027】
本発明の波長変換部材において、蛍光のピーク波長が500nm以上600nm未満の第1蛍光体と、蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下の第2蛍光体と、蛍光のピーク波長が400nm以上500nm未満の第3蛍光体とが、媒体中に分散され、第1蛍光体、第2蛍光体および第3蛍光体の少なくとも1つが複合蛍光体であることが好ましく、該第2蛍光体が、蛍光体粒子であることがさらに好ましく、該第2蛍光体が、媒体における厚み方向の下層の領域に分散してなることが特に好ましい。
【0028】
本発明の波長変換部材において、媒体の厚み方向に、第1蛍光体が、中層の領域に分散しており、第2蛍光体が、下層の領域に分散しており、第3蛍光体が、上層の領域に分散してなることが好ましい。
【0029】
本発明の波長変換部材において、第1蛍光体は、蛍光体粒子が二酸化ケイ素またはシリコーンレジン粒子で被覆されてなる複合蛍光体であり、第3蛍光体は、蛍光体粒子が酸化イットリウム、酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムで被覆されてなる複合蛍光体であることが好ましい。
【0030】
本発明の波長変換部材において、媒体は、シリコーン樹脂であることが好ましい。
本発明は、上述した波長変換部材と、半導体発光素子と、を備える発光装置に関する。
【0031】
本発明の発光装置において、半導体発光素子の発光ピーク波長が440nm以上470nm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の発光装置において、半導体発光素子の発光ピーク波長が390nm以上420nm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の発光装置において、半導体発光素子が、GaN系半導体であることが好ましい。
【0034】
本発明は、蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆されてなる複合蛍光体であって、コーティング材料粒子の平均粒子径は、蛍光体粒子の平均粒子径の1/10以下である複合蛍光体に関する。
【0035】
本発明の複合蛍光体において、蛍光体粒子は、酸窒化物または窒化物であることが好ましい。
【0036】
本発明の複合蛍光体において、酸窒化物は、Si、Al、O、Nおよび一種若しくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むことが好ましい。
【0037】
本発明の複合蛍光体において、酸窒化物は、Ceを賦活したJEM蛍光体、Euを賦活したβサイアロン蛍光体、Ce賦活したαサイアロン蛍光体、およびEu賦活したαサイアロン蛍光体から選択される1種を含むことが好ましい。
【0038】
本発明の複合蛍光体において、窒化物は、Ca、Si、Al、Nおよび一種もしくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むことが好ましい。
【0039】
本発明の複合蛍光体において、窒化物は、Euを賦活したCaAlSiN3を含むことが好ましい。
【0040】
本発明の複合蛍光体において、コーティング材料粒子は、金属酸化物を含むことが好ましい。
【0041】
本発明の複合蛍光体において、コーティング材料粒子は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムから選択される1種を含むことが好ましい。
【0042】
本発明の複合蛍光体において、コーティング材料粒子は、二酸化ケイ素を含むことが好ましい。
【0043】
本発明の複合蛍光体において、コーティング材料粒子は、シリコーンレジンを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、蛍光体が均一に分散した波長変換部材を提供することができる。また、本発明の波長変換部材において、色むらが無い波長変換部材を提供できる。そして、該波長変換部材と半導体発光素子とを組み合わせた発光装置としたときに、また発光効率の良好な発光装置を提供できる。そして、分散性のよい複合蛍光体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本願の図面において、同一の符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0046】
<第1実施形態>
図1は、本発明における第1実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。図2は、本発明における波長変換部材に備えられる複合蛍光体の模式的な断面図である。図3は、本発明における波長変換部材に備えられるβサイアロンからなる蛍光体粒子をコーティング粒子としての酸化イットリウム粒子で被覆した複合蛍光体のSEM像写真である。
【0047】
以下、図1、図2および図3に基づいて説明する。図1に示す発光装置30は、基体35と、その表面に形成されたn型電極36およびp型電極37と、n型電極36およびp型電極37に電気的に接続された半導体発光素子34と、傾斜面にミラーを含む樹脂枠38と、半導体発光素子34を封止するとともに半導体発光素子34から発した光を蛍光に変換する波長変換部材39とを備える。波長変換部材39は、媒体24に第1蛍光体21、第2蛍光体22および第3蛍光体23が、適宜分散されて形成される。これらの第1蛍光体21、第2蛍光体22および第3蛍光体23については、後述する。
【0048】
半導体発光素子34から発する励起光を波長変換部材39における蛍光体が吸収することによって蛍光を発光し、波長変換部材39で所望の色の光に変換され、発光装置30から所望の色の光が放出される。また、半導体発光素子34の波長は、波長変換部材39に分散させる蛍光体の種類に応じて適宜選択することができる。
【0049】
次に、本実施形態にかかる波長変換部材39について詳述する。該波長変換部材39は、第1蛍光体、第2蛍光体および第3蛍光体の少なくとも一つとして、複合蛍光体を備える。本実施形態において、第1蛍光体、第2蛍光体および第3蛍光体のいずれかが複合蛍光体であればよい。
【0050】
図2に示すように、本実施形態において該複合蛍光体20とは、蛍光体粒子11のまわりに複数のコーティング材料粒子10が付着し、蛍光体粒子11をコーティング材料粒子10で少なくとも一部被覆してなるものをいう。そして、本実施形態において、蛍光体粒子11とだけ述べる場合には、該蛍光体粒子11は、コーティング材料粒子10で被覆されていないものを示すものとする。
【0051】
本発明における複合蛍光体20は、蛍光体粒子11のまわりをコーティング材料粒子10で被覆したものである様子は、図3にも示される。ここで、本実施形態において複合蛍光体20は、分散性の悪い蛍光体粒子11をコーティング材料粒子10で被覆したものである。また、分散性の良い蛍光体粒子11は、コーティング材料粒子10で被覆する必要はない。本実施形態における分散性は、蛍光体粒子11の材料と媒体24の材料との間の相溶性をもって判断される。具体的には、蛍光体粒子の沈降速度、沈降高さ等で判断することができる。
【0052】
本実施形態において、コーティング材料粒子10の平均粒子径は、蛍光体粒子11の平均粒子径の1/10以下である必要がある。コーティング材料粒子10の平均粒子径が蛍光体粒子11の平均粒子径よりも小さいほど、分子間引力および静電引力により、コーティング材料粒子10が蛍光体粒子11に引きつけられ易いとの理由から蛍光体粒子11の表面にコーティング材料粒子10が付着し易い。
【0053】
また、蛍光体粒子11をコーティング材料粒子10で被覆する方法は、限定されないが、複合蛍光体20は、蛍光体粒子11の表面を噴霧乾燥によってコーティング材料粒子10で被覆してなることが好ましい。これは、該複合蛍光体20の機械的ダメージを抑制することができることから、該複合蛍光体20の発光効率の低下が少ないためである。
【0054】
蛍光体粒子11は、酸窒化物または窒化物であることが好ましい。酸窒化物または窒化物蛍光体は、高効率の発光が得られる上、安定性および耐水性が高く、使用温度の変化による発光効率の変動が少ないためである。酸窒化物の中では、Ce賦活したαサイアロン蛍光体、Eu賦活したβサイアロン蛍光体、Ce賦活したJEM蛍光体、またはEu賦活したαサイアロン蛍光体が好ましく、Si、Al、O、Nおよび一種若しくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むものも好ましい。また、窒化物の中では、Ca、Si、Al、Nおよび一種もしくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含むものが好ましく、耐環境性に優れており、かつ希土類等の発光中心を賦活することにより、高効率で発光するため、CaAlSiN3が特に好ましい。そして、蛍光体粒子11の平均粒子径は特に制限されるものではないが、5〜30μmであることが好ましい。
【0055】
なお、蛍光体粒子11の形状は、特に制限はなく、球状、直方体状、多角形体状あるいは空孔や突起を有していてもよいが、球状であることが好ましい。
【0056】
第1工程で用いられるコーティング材料粒子10は、単一の材料から構成されるものであっても、複数の材料から構成される混合物であってもよいが、金属酸化物を含むことが好ましい。金属酸化物は、一般に透明かつ安定であるためである。そして、金属酸化物の中でも、蛍光体の光の取り出し効率を考慮すると、蛍光体の屈折率と媒体となるシリコーン樹脂の屈折率との中間の屈折率を有するとの理由から酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、および酸化イットリウムから選択される1種を含むことが特に好ましい。また、コーティング材料粒子10は、二酸化ケイ素またはシリコーンレジンを含んでいてもよい。
【0057】
分散性に劣る蛍光体粒子11であっても、該蛍光体粒子11をコーティング材料粒子10で被覆することで、媒体24における凝集および沈降を防止することができる。そして、本実施形態の波長変換部材39において、媒体24中での第1蛍光体、第2蛍光体および第3蛍光体の分散状態が均一になり、半導体発光素子34とを組み合わせた発光装置30としたときに、色むらが無くまた発光効率の良好な発光装置30を得ることができる。
【0058】
複合蛍光体20は、たとえば蛍光体自身の比誘電率よりも高い比誘電率を有する金属酸化物をコーティング材料粒子10として用いた場合、媒体24に分散させたときのゼータ電位が大きくなり、したがって分散性が向上する。また、コーティング材料粒子10が蛍光体粒子11に付着し被覆することによって、蛍光体粒子11表面における励起状態の電子が、発光を伴う遷移によって非励起状態にならずに、表面準位を介して非発光遷移することにより非励起状態になる過程つまり非発光過程の要因となる表面準位を低減することができる。またコーティング材料粒子10は、蛍光体粒子11の保護膜として働くため、複合蛍光体20は、発光効率および色度の長期安定性に優れている。
【0059】
なお、コーティング材料粒子10は、吸光度が低く、安定な化合物であることが好ましい。コーティング材料粒子10で被覆することによってなる複合蛍光体20を媒体24に混ぜた時の分散性が良いためである。
【0060】
ここで、本実施形態において、第1蛍光体21とは、蛍光のピーク波長が500nm以上600nm未満の蛍光体のことをいう。第2蛍光体22とは、蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下の蛍光体のことをいう。第3蛍光体23とは、蛍光のピーク波長が400nm以上500nm未満の蛍光体のことをいう。
【0061】
波長変換部材39は、シリコーン樹脂など透明の樹脂等からなる媒体24に、蛍光体粒子をコーティング材料粒子で被覆した蛍光体を複数分散されて構成される。該蛍光体には、第1蛍光体と、第2蛍光体と第3蛍光体とから適宜選択し、混合してから媒体24に分散することができる。媒体25の材料は特に限定されないが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂などの透明樹脂を用いることができ、シリコーン樹脂を用いることが特に好ましい。
【0062】
波長変換部材39はたとえば、媒体24の原料としての液体状のシリコーン樹脂原料に第1蛍光体21としてのEuを賦活したβサイアロンを含む蛍光体、第2蛍光体22としてのEuを賦活したCaAlSiN3を含む蛍光体および第3蛍光体23としてのCeを賦活したαサイアロンを含む蛍光体を加え、均一に混合した後、基体35上に注入し、適宜加熱することで硬化させて作製することができる。蛍光体はコーティング材料粒子で覆われた蛍光体粒子であるため媒体24中で均一に分散できる。
ただし、もともと分散性が良い蛍光体を使用する場合については、必ずしもコーティング材料粒子で被覆する必要はない。
【0063】
また、発光装置30が白色光を発する場合には、半導体発光素子34は、発光ピーク波長390nm以上420nm以下であることが好ましい。該半導体発光素子34と第1蛍光体21と第2蛍光体22と第3蛍光体23との組合わせによって、白色光を発する発光装置30の赤色の再現域が広がり、該白色光としての演色性が向上する。この場合において、該半導体発光素子34の発光ピーク波長は、400nm以上410nm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0064】
また、本実施形態の別の態様において、白色光を発する発光装置30は、第1蛍光体21と第2蛍光体22とを含む波長変換部材39を備えることができる。該発光装置30においては、半導体発光素子34は、440nm以上470nm以下であることが好ましい。該半導体発光素子34と第1蛍光体21と第2蛍光体22との組合わせによって、第3蛍光体23を含まずとも白色光を発する発光装置30の赤色の再現域が広がり、該白色光としての演色性が向上する。この場合において、該半導体発光素子34の発光ピーク波長は、445nm以上460nm以下の範囲であることが特に好ましい。
【0065】
半導体発光素子としては、GaN系半導体からなる発光ダイオード(LED)を用いることが好ましい。それは、高い発光強度が得られるからである。ここで、本発明において、GaN系半導体とは、少なくともGaとNを含み、必要に応じてAl、Inおよびn型ドーパント、p型ドーパントなどを用いた半導体のことを言う。また、半導体発光素子としては、GaN系半導体以外に有機半導体や酸化亜鉛半導体などからなるLEDを用いることも可能であり、その他代わりに半導体レーザを用いてもよい。
【0066】
なお、本発明において半導体発光素子の発光ピーク波長、および蛍光体の発光スペクトルの測定には、たとえば蛍光スペクトル測定装置MCPD−7000(大塚電子製)を用いて行なうことができる。
【0067】
蛍光体粒子をコーティング粒子で被覆した蛍光体を媒体に分散させて作製される波長変換部材と該半導体発光素子とを組み合わせた発光装置は、波長変換部材における蛍光体の分散性の向上により、発光効率および色度の長期安定性に優れている。
【0068】
このように、本発明における蛍光体を分散した波長変換部材と、半導体発光素子を用いることにより、小型で略白色が得られる高効率の発光装置を得ることができる。
【0069】
本実施形態において、2種以上の蛍光体粒子または複合蛍光体を樹脂等の媒体に分散させる場合、発光波長の長い蛍光体を沈降させて、発光波長の短い蛍光体が発する蛍光の再吸収を防ぐことも目的とする。このように蛍光体粒子の分散性を制御することにより、色むらが無く発光効率の良好な発光装置を提供することが可能となる。
【0070】
また、これまで述べた本発明の発光装置は、第1、第2、第3蛍光体の発光スペクトルの半値幅は、たとえば50nm以上とすることで、さらに演色性を良好にすることが可能である。
【0071】
以下の実施形態において、上述した複合蛍光体については、同様のものを適宜組み合わせて用いることができる。
【0072】
<第2実施形態>
図4は、本発明における第2実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【0073】
以下、図4に基づいて説明する。図4において、図1と同一の符号については、該図1と同一部分または相当部分を表わすので、説明は繰り返さない。本実施形態における発光装置40は、波長変換部材49において第1蛍光体21と、蛍光体粒子からなる第2蛍光体22aと、第3蛍光体23とを備える。上述したように、第2蛍光体は蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下であり、赤色の光を発する。そして、本実施形態において、第2蛍光体22aは、媒体24における厚み方向の下層の領域に分散してなる。
【0074】
ここで、該下層の領域に分散するとは、本実施形態において、媒体24における厚み方向の1/3の部分に、波長変換部材49における第2蛍光体22aの40〜100%が存在しているような状態を示す。
【0075】
波長変換部材49は、たとえば、媒体24の原料としての液体状のシリコーン樹脂原料に、第1蛍光体21としてのEuを賦活したβサイアロンを含む複合蛍光体、第2蛍光体22aとしてのコーティング材料粒子で覆われていないEuを賦活したCaAlSiN3を含む蛍光体粒子、および第3蛍光体23としてのCeを賦活したαサイアロンを含む複合蛍光体を加え、均一に混合した後、基体35上に注入し、適宜加熱することで硬化させて作製することができる。
【0076】
加熱により該シリコーン樹脂原料が硬化する間に、第2蛍光体22aの層が、波長変換部材49における媒体24の下層の領域に形成される。該下層の領域の上には、第1蛍光体21と、第2蛍光体23が混ざった層が形成される。上記構造とすることにより、CaAlSiN3赤色蛍光体による、αサイアロン青色蛍光体粒子が発する青色光と、βサイアロン緑色蛍光体粒子が発する緑色光の再吸収が低減できるので、全体として発光効率を向上させることができる。
【0077】
また、発光装置40が白色光を発する場合には、半導体発光素子34は、発光ピーク波長390nm以上420nm以下であることが好ましい。該半導体発光素子34と第1蛍光体21と第2蛍光体22aと第3蛍光体23との組合わせによって、白色光を発する発光装置40の赤色の再現域が広がり、該白色光としての演色性が向上する。この場合において、該半導体発光素子34の発光ピーク波長は、400nm以上410nm以下の範囲であることが特に好ましい。さらに、第2蛍光体22aによる、第1蛍光体21、第3蛍光体23の蛍光の再吸収が低減できるので、全体として発光効率を向上させることができる。
【0078】
<第3実施形態>
図5は、本発明における第3実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【0079】
以下、図5に基づいて説明する。図5において、図1と同一の符号については、該図1と同一部分または相当部分を表わすので、説明は繰り返さない。本実施形態における発光装置50は、波長変換部材59において第1蛍光体21と、蛍光体粒子からなる第2蛍光体22aとを備える。上述したように、第2蛍光体は蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下であり、赤色の光を発する。そして、本実施形態において、第2蛍光体22aは、媒体24における厚み方向の下層の領域に分散してなる。
【0080】
該発光装置50においては、半導体発光素子34は、440nm以上470nm以下であることが好ましい。該半導体発光素子34と第1蛍光体21と第2蛍光体22aとの組合わせによって、第3蛍光体23を含まずとも白色光を発する発光装置50の赤色の再現域が広がり、該白色光としての演色性が向上する。この場合において、該半導体発光素子34の発光ピーク波長は、445nm以上460nm以下の範囲であることが特に好ましい。さらに、第2蛍光体22aによる、第1蛍光体21の蛍光の再吸収が低減できるので、全体として発光効率を向上させることができる。
【0081】
<第4実施形態>
図6は、本発明における第4実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【0082】
以下、図6に基づいて説明する。図6において、図1と同一の符号については、該図1と同一部分または相当部分を表わすので、説明は繰り返さない。本実施形態における発光装置60は、波長変換部材69において複合蛍光体からなる第1蛍光体21と、蛍光体粒子からなる第2蛍光体22aと、複合蛍光体からなる第3蛍光体23とを備える。上述したように、第2蛍光体は蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下であり、赤色の光を発する。そして、本実施形態において、第2蛍光体22aは、媒体24における厚み方向の下層の領域に分散してなる。
【0083】
また、本実施形態においては、媒体の厚み方向に、第1蛍光体21が、中層の領域に分散しており、第2蛍光体22aが、下層の領域に分散しており、第3蛍光体23が、上層の領域に分散してなる。
【0084】
ここで、第2蛍光体22aを効率良く下層の領域に形成するためには、第3蛍光体23におけるコーティング材料粒子として、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウムなどの金属酸化物を使用することが好ましい。二酸化ケイ素またはシリコンレジン粒子を該コーティング材料粒子として使用した場合と比較して、これらの金属酸化物をコーティング材料粒子として用いた場合の方が、分散性が向上するからである。一方、本実施形態においては、第1蛍光体21におけるコーティング材料粒子としては、二酸化ケイ素またはシリコンレジン粒子を選択することができる。
【0085】
このように、コーティング材料粒子の種類により分散性の向上に差があるので、本実施形態においては、コーティング材料粒子の種類を適宜選択することによって、媒体24における各蛍光体の分散性を調整することができる。
【0086】
<第5実施形態:複合蛍光体>
本実施形態について図2に基づいて説明する。本実施形態にかかる複合蛍光体20は、蛍光体粒子11の表面をコーティング材料粒子10で被覆されてなり、コーティング材料粒子10の平均粒子径は、蛍光体粒子11の平均粒子径の1/10以下であるものである。
【0087】
該コーティング材料粒子10および該蛍光体粒子11の材料は、上述したものと同じものを採用することができるので、説明を繰り返さない。
【0088】
また、該複合蛍光体20の製造方法は特に限定されないが、たとえば、以下の第1工程および第2工程を経て作製することができる。
【0089】
≪第1工程≫
本工程では、蛍光体粒子11とコーティング材料粒子10とを含む混合物を溶媒と混合し、スラリーを形成する。該スラリーを構成する蛍光体粒子11とコーティング材料粒子10とは所望のものを選択することができる。蛍光体粒子11およびコーティング材料粒子10を溶媒に混合する順序は特に限定されない。また、蛍光体粒子11とコーティング材料粒子10とが溶媒中で均等に分散されているスラリーを形成するためにスターラーによる撹拌、または超音波による分散を行なうことが好ましい。
【0090】
スラリー形成のために使用される溶媒としては、特に限定されないが、たとえば水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ヘキサン、アセトンおよびトルエン等を挙げることができる。蛍光体粒子11およびコーティング材料粒子10の分散性を考慮すると、蛍光体粒子11およびコーティング材料粒子10との濡れ性が良く、より均一に分散させることができるとの理由からアルコールであることが好ましく、特にエタノールであることが好ましい。
【0091】
≪第2工程≫
本工程では、第1工程で形成したスラリーを噴霧乾燥により乾燥させる。噴霧乾燥とは、スラリーをたとえば5〜50μmの大きさの粒子に噴霧したのちに、該粒子を乾燥させる手法をいう。噴霧乾燥には、噴霧器と乾燥器とを備える噴霧乾燥装置を用いて行なうことが好ましい。噴霧器の形態としては、たとえば、スプレー方式などを挙げることができる。噴霧乾燥には、スプレードライヤー法や真空乾燥法などの手法がある。スプレードライヤー法とは、スラリーを噴霧して形成した粒子をチャンバ内で施回熱風流により乾燥する方法をいう。
【0092】
また、真空乾燥法とは、スラリーを噴霧して形成した粒子を瞬間凍結し、凍結粒子を真空乾燥器で乾燥する方法をいう。
【0093】
噴霧乾燥装置として、操作および設備が簡便であることから、本発明において、第2工程における噴霧乾燥は、スプレードライヤー方式の装置を使用することが好ましい。スプレードライヤー方式を用いた噴霧乾燥装置として、たとえば日本ビュッヒ製ミニスプレードライヤーB−290などを好ましく用いることができる。
【0094】
スプレードライヤー方式でスラリーを噴霧乾燥する際の乾燥温度は特に限定されないが、スラリーの溶媒を十分に蒸発させる必要があることから、100〜200℃で行なうことが好ましい。
【0095】
以上のように、第1工程と第2工程とを経ることにより、蛍光体粒子11の表面をコーティング材料粒子10で被覆した複合蛍光体20を作製することができる。
【0096】
本発明における製造方法により製造された複合蛍光体20は、機械的ダメージの無く発光効率の低下が少ない。また、該複合蛍光体20は粒子径がそろっており、樹脂等に対する分散性に優れている。
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
[実施例]
<実施例1:蛍光体の作製>
以下、図2を参照して説明する。
【0099】
≪第1工程≫
まず、蛍光体粒子11としてEuを賦活した平均粒子径14μmのβサイアロン緑色蛍光体粒子と、コーティング材料粒子10として平均粒子径0.05μmの酸化マグネシウムと、溶媒としてのエタノールとを準備した。
【0100】
そして、酸化マグネシウム3.75gとエタノール87.5mlとをビーカーに入れ、超音波をかけて酸化マグネシウムをエタノール中に分散させた。そこへβサイアロン緑色蛍光体粒子25gを加えて、さらに超音波をかけて分散させてスラリーを形成した。
【0101】
≪第2工程≫
得られたスラリーをスターラーで攪拌させながら、スプレードライ方式により噴霧温度100℃〜200℃、窒素流量350L/時間で噴霧乾燥を行なった。このとき、噴霧乾燥には装置として日本ビュッヒ製B−290を使用した。そして、βサイアロン緑色蛍光体粒子を酸化マグネシウムで被覆した複合蛍光体20が作製された。
【0102】
このようにして得られた複合蛍光体20において、分散性の評価を以下のようにして実施した。βサイアロン緑色蛍光体粒子および本実施例における複合蛍光体20を、それぞれ0.1gずつとり、それぞれエタノール10gに分散させてゼータ電位を測定した。βサイアロン緑色蛍光体粒子のゼータ電位の絶対値が約25mVであったのみ対して、酸化マグネシウムをコーティングした蛍光体のゼータ電位の絶対値は約60mVと大きくなった。βサイアロン緑色蛍光体粒子を酸化マグネシウムで被覆した複合蛍光体20は、電気的反発力が増して凝集し難くなり、分散性が向上したと考えられた。
【0103】
≪実験:粒度分布測定≫
図8は、βサイアロン緑色蛍光体粒子の粒度分布を示すグラフである。図9は、βサイアロン緑色蛍光体粒子を、酸化マグネシウムでなるコーティング材料粒子で被覆した実施例1における複合蛍光体の粒度分布を示すグラフである。
【0104】
以下、図8および図9に基づいて説明する。実施例1で得られた複合蛍光体20について、粒度分布測定を行なった。測定は、堀場製作所製レーザ回折/散乱方式粒度分布測定装置LA−920を用いた。その結果、ゾルゲル法を用いた場合に起こり易い、蛍光体粒子同士の付着によって粒径が大きくなることはなく、コーティング材料粒子の存在にかかわらず、粒子径のそろった蛍光体を製造することができた。
【0105】
<実施例2:蛍光体の作製>
以下、図2を参照して説明する。
【0106】
≪第1工程≫
まず、蛍光体粒子11としてEuを賦活した平均粒子径18μmのαサイアロン黄色蛍光体粒子と、コーティング材料粒子10として平均粒子径0.05μmの酸化イットリウムと、溶媒としてのエタノールとを準備した。
【0107】
そして、実施例1と同様に、酸化イットリウム3.75gとエタノール87.5mlとをビーカーに入れ、超音波をかけて酸化イットリウムをエタノール中に分散させた。そこへαサイアロン黄色蛍光体粒子25gを加えて、さらに超音波をかけて分散させてスラリーを形成した。
【0108】
≪第2工程≫
第2工程は、実施例1と同様に行ない、そして、αサイアロン黄色蛍光体粒子を酸化イットリウムで被覆した複合蛍光体20が作製された。
【0109】
≪実験:分散性効果≫
このようにして得られた複合蛍光体20において、分散性の評価を以下のようにして実施した。αサイアロン黄色蛍光体粒子および本実施例における複合蛍光体20を、それぞれ0.5gずつとり、それぞれシリコーン樹脂5gに均一に分散させて、ガラス管に入れ、沈降試験を実施した。均一に分散した状態から140時間放置した後、分離した上澄み液の高さを比較した。αサイアロン黄色蛍光体粒子の透明な上澄み液の高さが1mmであったのに対して、本実施例における蛍光体の上澄み液の高さは殆ど0mmであった。このことから、酸化イットリウムをコーティングすることにより、分散性は向上したと考えられる。
【0110】
<実施例3:蛍光体の作製>
以下、図2を参照して説明する。
【0111】
≪第1工程≫
まず、蛍光体粒子11としてEuを賦活した平均粒子径14μmのβサイアロン緑色蛍光体と、コーティング材料粒子10として平均粒子径0.05μmの酸化イットリウム、または酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、または平均粒径1μmのシリコーンレジン粒子と、溶媒としてのエタノールとを準備した。
【0112】
そして、実施例1と同様に、それぞれのコーティング材料粒子3.75gとエタノール87.5mlとをビーカーに入れ、超音波をかけてコーティング材料粒子をエタノール中に分散させた。そこへβサイアロン緑色蛍光体粒子25gを加えて、さらに超音波をかけて分散させてスラリーを形成した。
【0113】
≪第2工程≫
第2工程は、実施例1と同様に行ない、そして、βサイアロン緑色蛍光体粒子を5種それぞれのコーティング材料粒子10で被覆した5種類の複合蛍光体20が作製された。
【0114】
≪実験:分散性評価≫
図10は、分散性の評価を示すグラフである。横軸は、複合蛍光体または蛍光体粒子のメジアン径を示す。縦軸は、透過光量積分値変化率を示す。
【0115】
以下、図10に基づいて説明する。上述のようにして得られた5種類の複合蛍光体20において、分散性の評価を以下のようにして実施した。表面にコーティング材料粒子をコーティングしたβ−サイアロン蛍光体粒子を10wt%の割合で分散させたシリコーン樹脂約1mlをガラス製円筒セルに入れたサンプルを、遠心沈降・光透過方式の分散安定性分析装置(L.U.M社製LUMiSizer612)を用いて分散性の評価を行なった。サンプル中の上澄み液の動きを、サンプルに照射した光が、1時間あたりにサンプルを透過する光量の変化量の積分値で表し、分散性を比較した。
【0116】
図10においては、表面にコーティング材料粒子をコーティングしていないβ−サイアロン蛍光体粒子の縦軸の値を1としている。本実験により、蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆することにより、分散性が向上することが分かった。該複合蛍光体におけるコーティング材料粒子は、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、シリコーンレジン粒子の順に、分散性が良好であった。
【0117】
<実施例4:発光装置の作製>
以下の実施例においては、下記の測定方法を用いた。
【0118】
蛍光体に対して、積分球を用いて全光束発光スペクトル測定および光吸収スペクトル測定を行なった(参考文献:照明学会誌 第83巻 第2号 平成11年 p87−93、NBS標準蛍光体の量子効率の測定、大久保和明 他著)。半導体発光素子の発光ピーク波長、ならびに蛍光体の発光スペクトルおよび蛍光のピーク波長の測定には、蛍光スペクトル測定装置MCPD−7000(大塚電子社製)を用いた。
【0119】
以下、図1を参照して説明する。
発光装置30は、基体35と、その表面に形成されたn型電極36およびp型電極37と、n型電極36およびp型電極37に電気的に接続された半導体発光素子34と、傾斜面にミラーを含む樹脂枠38と、半導体発光素子34を封止するとともに半導体発光素子34から発した光を蛍光に変換する波長変換部材39よりなる。波長変換部材39は、媒体となるシリコーン樹脂24およびその樹脂中に分散した第1蛍光体21、第2蛍光体22、第3蛍光体23からなる。ここで、第1蛍光体21、第2蛍光体22および第3蛍光体23は、それぞれEuを賦活したβサイアロンからなる緑色蛍光体粒子、Euを賦活したCaAlSiN3からなる赤色蛍光体粒子、Ceを賦活したαサイアロンからなる青色蛍光体粒子について、実施例1に示した方法と同様にして酸化マグネシウム粒子のコーティングを施したものである。
【0120】
半導体発光素子34として、発光ピーク波長が405nmのGaN系半導体の発光ダイオードを用いた。
【0121】
第1蛍光体21の蛍光のピーク波長は540nm、第2蛍光体22の蛍光のピークは650nm、第3蛍光体23の蛍光のピーク波長は490nmであった。
【0122】
波長変換部材39は以下のようにして作製した。液体状のシリコーン樹脂原料に第1蛍光体21、第2蛍光体22および第3蛍光体23を加え、均一に混合した後、基体35上に注入し、120℃で60分の加熱により硬化した。それぞれの蛍光体は、媒体25中により均一に分散することができた。本実施例の発光装置30の発光色は、CIE色度座標上の(x,y)値において、ほぼ白色である色度座標x=0.32、色度座標y=0.35の色であった。また、色の三原色を発光することができ、また各蛍光体の発光スペクトルの半値幅が50nm以上と広かったため、演色性が良好であった。
【0123】
<実施例5:発光装置の作製>
以下、図5を参照して説明する。
【0124】
発光装置50は、基体35と、その表面に形成された電極36、37と、電極36、37に電気的に接続された半導体発光素子34と、傾斜面にミラーを含む樹脂枠38と、半導体発光素子34を封止するとともに半導体発光素子34から発した光を蛍光に変換する波長変換部材59よりなる。波長変換部材59は、媒体となるシリコーン樹脂24およびその樹脂中に分散した第1蛍光体21、第2蛍光体22aからなる。ここで第1蛍光体21は、Euを賦活したβサイアロンからなる緑色蛍光体粒子であり、実施例1に示した方法と同様にして二酸化ケイ素粒子のコーティングを施したものである。また、第2蛍光体22aは、Euを賦活したCaAlSiN3からなる赤色蛍光体粒子であり、この蛍光体粒子には何らコーティングは施されていない。
半導体発光素子34として、発光ピーク波長が450nmのGaN系半導体の発光ダイオードを用いた。
【0125】
第1蛍光体21の蛍光のピーク波長は540nm、第2蛍光体22aの蛍光のピークは650nmであった。
【0126】
波長変換部材59は以下のようにして作製した。液体状のシリコーン樹脂原料に第1蛍光体21、第2蛍光体22aを加え、均一に混合した後、基体35上に注入し、120℃で60分の加熱により硬化した。分散性の比較的良いEuを賦活したCaAlSiN3からなる第2蛍光体である赤色蛍光体粒子にはコーティングを施していないが、分散性が比較的良くないEuを賦活したβサイアロンからなる第1蛍光体である緑色蛍光体粒子は、二酸化ケイ素からなる被膜を有しているため、CaAlSiN3赤色蛍光体粒子よりも分散性が良くなる。この結果波長変換部材は、LEDチップに近い下層側にCaAlSiN3赤色蛍光体粒子の層、上層側にβサイアロン緑色蛍光体粒子が分散した層が形成された。本実施例の発光装置50の発光色は、CIE色度座標上の(x,y)値において、ほぼ白色である色度座標x=0.30、色度座標y=0.30の色であった。また、色の三原色を発光することができ、また各蛍光体の発光スペクトルの半値幅が50nm以上と広かったため、演色性が良好であった。さらに、CaAlSiN3赤色蛍光体粒子が下層にあるため、βサイアロン蛍光体粒子が発する緑色光の再吸収を低減できるので、全体として発光効率が向上した。
【0127】
<比較例>
図7は、比較例における波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【0128】
以下、図7に基づいて説明する。図7において、図1と同一の符号については、該図1と同一部分または相当部分を表わすので、説明は繰り返さない。比較例における発光装置70は、波長変換部材79においてコーティングを施していないEuを賦活したβサイアロンの蛍光体粒子からなる第1蛍光体21aおよび、コーティングを施していないEuを賦活したCaAlSiN3の蛍光体粒子からなる第2蛍光体22aとを備える。
【0129】
実施例5における発光装置と比較例における発光装置とについて発光強度について測定した。すると実施例5における発光装置は、比較例における発光装置と比較して発光強度が約5%向上した。
【0130】
【表1】

【0131】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明における第1実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【図2】本発明における波長変換部材に備えられる複合蛍光体の模式的な断面図である。
【図3】本発明における波長変換部材に備えられるβサイアロンからなる蛍光体粒子をコーティング粒子としての酸化イットリウム粒子で被覆した複合蛍光体のSEM像写真である。
【図4】本発明における第2実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【図5】本発明における第3実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【図6】本発明における第4実施形態に従った波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【図7】比較例における波長変換部材を備える発光装置の模式的な断面図である。
【図8】βサイアロン緑色蛍光体粒子の粒度分布を示すグラフである。
【図9】βサイアロン緑色蛍光体粒子を、酸化マグネシウムでなるコーティング材料粒子で被覆した実施例1における複合蛍光体の粒度分布を示すグラフである。
【図10】実施例3における分散性の評価を示すグラフである。
【符号の説明】
【0133】
10 コーティング材料粒子、11 蛍光体粒子、20 複合蛍光体、21,21a 第1蛍光体、22,22a 第2蛍光体、23 第3蛍光体、24 媒体、30 発光装置、35 基体、34 半導体発光素子、36 n型電極、37 p型電極、38 樹脂枠。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆してなり、前記コーティング材料粒子の平均粒子径が前記蛍光体粒子の平均粒子径の1/10以下とする複合蛍光体、を備える波長変換部材。
【請求項2】
さらに、蛍光体粒子を備える請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記複合蛍光体は、前記蛍光体粒子の表面を噴霧乾燥によってコーティング材料粒子で被覆してなる請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記蛍光体粒子は、酸窒化物または窒化物である請求項1〜3のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記酸窒化物は、Si、Al、O、Nおよび一種若しくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む請求項1〜4のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記酸窒化物は、Ceを賦活したJEM蛍光体、Euを賦活したβサイアロン蛍光体、Ce賦活したαサイアロン蛍光体、およびEu賦活したαサイアロン蛍光体から選択される1種を含む請求項4または5に記載の波長変換部材。
【請求項7】
前記窒化物は、Ca、Si、Al、Nおよび一種もしくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む請求項4に記載の波長変換部材。
【請求項8】
前記窒化物は、Euを賦活したCaAlSiN3を含む請求項4または7に記載の波長変換部材。
【請求項9】
前記コーティング材料粒子は、金属酸化物を含む請求項1〜8のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項10】
前記コーティング材料粒子は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムから選択される1種を含む請求項1〜8のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項11】
前記コーティング材料粒子は、二酸化ケイ素を含む請求項1〜8のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項12】
前記コーティング材料粒子は、シリコーンレジンを含む請求項1〜8のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項13】
蛍光のピーク波長が500nm以上600nm未満の第1蛍光体と、
蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下の第2蛍光体とが、
前記媒体中に分散され、
前記第1蛍光体および前記第2蛍光体の少なくとも1つが前記複合蛍光体である請求項1〜12のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項14】
前記第2蛍光体が、前記蛍光体粒子である請求項13に記載の波長変換部材。
【請求項15】
前記第2蛍光体が、前記媒体における厚み方向の下層の領域に分散してなる、請求項13または14に記載の波長変換部材。
【請求項16】
蛍光のピーク波長が500nm以上600nm未満の第1蛍光体と、
蛍光のピーク波長が600nm以上700nm以下の第2蛍光体と、
蛍光のピーク波長が400nm以上500nm未満の第3蛍光体とが、
前記媒体中に分散され、
前記第1蛍光体、前記第2蛍光体および前記第3蛍光体の少なくとも1つが前記複合蛍光体である請求項1〜12のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項17】
前記第2蛍光体が、前記蛍光体粒子である請求項16に記載の波長変換部材。
【請求項18】
前記第2蛍光体が、前記媒体における厚み方向の下層の領域に分散してなる、請求項16または17に記載の波長変換部材。
【請求項19】
前記媒体の厚み方向に、
前記第1蛍光体が、中層の領域に分散しており、
前記第2蛍光体が、下層の領域に分散しており、
前記第3蛍光体が、上層の領域に分散してなる、
請求項16〜18のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項20】
前記第1蛍光体は、前記蛍光体粒子が二酸化ケイ素またはシリコーンレジン粒子で被覆されてなる複合蛍光体であり、
前記第3蛍光体は、前記蛍光体粒子が酸化イットリウム、酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムで被覆されてなる複合蛍光体である、請求項16〜19のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項21】
前記媒体は、シリコーン樹脂である請求項1〜20のいずれかに記載の波長変換部材。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれかに記載の波長変換部材と、半導体発光素子と、を備える発光装置。
【請求項23】
前記半導体発光素子の発光ピーク波長が440nm以上470nm以下である請求項22に記載の発光装置。
【請求項24】
前記半導体発光素子の発光ピーク波長が390nm以上420nm以下である請求項22に記載の発光装置。
【請求項25】
前記半導体発光素子が、GaN系半導体である請求項22〜24のいずれかに記載の発光装置。
【請求項26】
蛍光体粒子の表面をコーティング材料粒子で被覆されてなる複合蛍光体であって、
前記コーティング材料粒子の平均粒子径は、前記蛍光体粒子の平均粒子径の1/10以下である複合蛍光体。
【請求項27】
前記蛍光体粒子は、酸窒化物または窒化物である請求項26に記載の複合蛍光体。
【請求項28】
前記酸窒化物は、Si、Al、O、Nおよび一種若しくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む請求項27に記載の複合蛍光体。
【請求項29】
前記酸窒化物は、Ceを賦活したJEM蛍光体、Euを賦活したβサイアロン蛍光体、Ce賦活したαサイアロン蛍光体、およびEu賦活したαサイアロン蛍光体から選択される1種を含む請求項27または28に記載の複合蛍光体。
【請求項30】
前記窒化物は、Ca、Si、Al、Nおよび一種もしくは二種以上のランタノイド系希土類元素を組成元素として含む請求項27に記載の複合蛍光体。
【請求項31】
前記窒化物は、Euを賦活したCaAlSiN3を含む請求項27または30に記載の複合蛍光体。
【請求項32】
前記コーティング材料粒子は、金属酸化物を含む請求項26〜31のいずれかに記載の複合蛍光体。
【請求項33】
前記コーティング材料粒子は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムから選択される1種を含む請求項26〜31のいずれかに記載の複合蛍光体。
【請求項34】
前記コーティング材料粒子は、二酸化ケイ素を含む請求項26〜31のいずれかに記載の複合蛍光体。
【請求項35】
前記コーティング材料粒子は、シリコーンレジンを含む請求項26〜31のいずれかに記載の複合蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167338(P2009−167338A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9106(P2008−9106)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】