説明

波長選択スイッチ

【課題】集光レンズの温度変化による屈折率変化を用いて、集光レンズの焦点距離を変化させ、温度が変化した際に変化する分散量を補正できる波長選択スイッチを提供すること。
【解決手段】波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、入力部からの光を受光し、光を波長ごとに分散させる分散素子と、波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、集光要素からの分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、温度変化が生じた場合、分散素子が温度変化に伴って変化する分散量によって変化するビームスポット位置ずれを集光要素の温度特性による焦点距離の変化によって補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、激増するインターネットトラフィックを収容するため、波長分割多重通信(WDM:Wavelength Division Multiplexing)を中核としたネットワークの光化が急ピッチで進んでいる。そして、任意の波長を任意の方向に切り替え可能とする波長選択スイッチが注目されている。
【0003】
図22、図23は、それぞれ波長選択スイッチ100の概略構成を示す図である。図22は、入出力ポートアレイ110を側面から見た図である。図23は、波長選択スイッチ100を上面から見た図である。
【0004】
波長選択スイッチ100は、入出力ポートアレイ110、レンズアレイ120、分散素子130、集光レンズ140、偏向素子150から構成される。入出力ポートアレイ110は、複数のポートにより構成される。そして、各ポートは、入力ポートまたは出力ポートとして機能する。
【0005】
入力ポートから出射した光は、分散素子130により波長毎に分散される。そして、集光レンズ140によって、偏向素子150上に集光される。偏向素子150は、一般的に複数のMEMSミラーで構成されている。MEMSミラーを傾ける事によって、入力ポートから出射された光は、出力ポートに入射する。MEMSミラーに関しては、例えば、光周波数間隔が100GHzの場合、約40個のMEMSミラーを配列する。また、光周波数間隔が50GHzの場合、約80個のMEMSミラーを配列する。
【0006】
波長選択スイッチの性能を示す指標の1つとして、透過帯域がある。透過帯域は、各波長に対応したMEMSミラーに集光する光のビームスポット径ωと、MEMSミラーの幅Wの比率(W/ω)が大きいほど、広くなる。また、透過帯域は、MEMSミラーの位置に対するビームスポットのずれが小さいほど広くなる。
【0007】
透過帯域(透過帯域幅)が広いと、対応可能なビットレートの上限を引き上げることが可能になる。なぜなら、高ビットレートの光はスペクトル幅が広がるが、透過帯域が広ければ、広がった分のスペクトル幅も透過帯域幅内に収まるからである。
【0008】
また、透過帯域が広いと、波長選択スイッチを多段に接続した場合でも、帯域ずれの蓄積量が小さい。このため、波長選択スイッチの多段接続数を増やすことが可能になる。このように、波長選択スイッチの透過帯域を広くすることで、良好な伝送特性を確保することが可能である。
【0009】
また、波長選択スイッチを構成する各要素は、温度特性を有している。初期設定時にMEMSミラー上での集光位置を、MEMSミラー中心に集光するように一致させたとしても、使用環境等によって温度が変化すると、集光位置がMEMSミラー中心位置から変動してしまう。これにより、透過帯域幅が狭くなってしまうという問題がある。
【0010】
使用環境等の温度変化によって、集光位置が各MEMSミラーの中心位置から変動する現象は、波長選択スイッチを構成する部材の膨張などに起因する。部材の中でも、温度変化により最も特性の変動量が大きいのは分散素子130である。
【0011】
分散素子130は、一般的に回折格子で構成されている。回折格子の基材は、温度によって伸縮する。そして、回折格子の溝のピッチが変化する事により生じる集光位置の変動が最も大きい。
【0012】
図24は、温度変化が発生し、回折格子の溝のピッチが変化し、これにより、集光位置が変動する様子を実線(通常時の光)で示す光路と破線(温度変化が発生した時の光)で示す光路と、それぞれ示している。
【0013】
図25は、回折格子の基材を線膨張係数の小さい材質である石英で構成した時、溝のピッチが1ミクロン、集光レンズの焦点距離が200mmである場合の、各波長の集光位置の変動量を示している(横軸:温度、縦軸:集光位置の変動量)。
【0014】
温度が25℃〜75℃に変化した場合、集光位置が13.5〜15.5ミクロン程度変動する事となる。ここで、集光位置のずれを補正する構成として、例えば特許文献1に示されるような、集光レンズ140の一端のみを固定部材によって固定し、その固定部材の伸縮によって、変動量を補正する構成がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−249786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
集光レンズ140の一端のみを固定部材によって固定し、変動量を補正したとしても、完全に補正できるのは、1つのMEMSミラーに集光する変動量のみである。
【0017】
このため、図25からも分かるように、集光位置の変動量は波長によって異なる。このため、全ての波長域において、集光位置のずれ(変動量)を完全に補正する事はできないという問題があった。
【0018】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、集光レンズの温度変化による屈折率変化を用いて、集光レンズの焦点距離を変化させ、温度が変化した際に変化する分散量を補正できる波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のある態様に係る波長選択スイッチは、
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
入力部からの光を受光し、光を波長ごとに分散させる分散素子と、
波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、
集光要素からの分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、
光偏向部材によって偏向された分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、
温度変化が生じた場合、分散素子が温度変化に伴って変化する分散量によって変化するビームスポット位置ずれを集光要素の温度特性による焦点距離の変化によって補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、集光レンズの温度変化による屈折率変化を用いて、集光レンズの焦点距離の変化により、温度が変化した際に変化する分散量を補正できる波長選択スイッチを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】波長選択スイッチにおける温度変化の影響を説明するための概略構成を示す側面図である。
【図2】その上面から見た構成を示す上面図である。
【図3】分散素子及び集光レンズを拡大して示す図である。
【図4】ミラーアレイの斜視構成を示す図である。
【図5】X軸方向に並んだ3つのミラー素子18m1、18m2、18m3を正面から見た図である。
【図6】周波数(横軸)と出力(縦軸)との関係を示す図である。
【図7】波長選択スイッチの常温状態における光路を示す図である。
【図8】波長選択スイッチの高温状態における光路を示す図である。
【図9】波長選択スイッチの高温状態における光路を示す他の図である。
【図10】温度変化時に硝材により焦点距離の変化が異なる様子を示す図である。
【図11】波長λcの光の温度変化による集光位置のずれ量を弾性部材によって補正した時、波長1525nmの光に関する諸元値を掲げる図である。
【図12】第1実施形態に係る波長選択スイッチにおいて、基準となる波長λcを温度変化時に補正する構成を示す図である。
【図13】光学素子の温度変化における屈折率の変化を示す図である。
【図14】光学素子の温度変化における屈折率の変化を示す他の図である。
【図15】常温状態においてミラーアレイのミラー素子に光が集光する様子の拡大図である。
【図16】高温状態においてミラーアレイのミラー素子近傍に光が集光する様子の拡大図である。
【図17】第2実施形態の常温状態においてミラーアレイのミラー素子に光が集光する様子の拡大図である。
【図18】第2実施形態の高温状態においてミラーアレイのミラー素子に光が集光する様子の拡大図である。
【図19】波長1550nmの光に関して、第2レンズを温度変化による焦点距離の変化特性df/dtを有する硝材で構成した場合のΔZの値及び式(18)の値を示す図である。
【図20】第3実施形態に係る波長選択スイッチの概略構成を示す図である。
【図21】第3実施形態に係る波長選択スイッチの変形例を示す図である。
【図22】従来の波長選択スイッチの概略構成を示す図である。
【図23】従来の波長選択スイッチ100の概略構成を示す図である。
【図24】温度変化が発生し、回折格子の溝のピッチが変化し、集光位置が変動する様子を示す図である。
【図25】回折格子の基材を線膨張係数の小さい材質である石英で構成した場合の、各波長の集光位置の変動量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明のある態様にかかる波長選択スイッチの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により、特許請求の範囲に記載された本発明が限定されるものではない。すなわち、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0023】
(第1実施形態)
まず、最初に、波長選択スイッチを構成する部材の温度変化による光路変化を補正する構成について説明する。これは、本実施形態の説明の前提となる構成である。その後に、本実施形態に係る波長選択スイッチについて説明する。
【0024】
図1は、波長選択スイッチ10の概略構成を示す側面図である。図2は、その上面から見た構成を示す上面図である。
【0025】
波長選択スイッチ10は、複数の入出力ポート11とレンズアレイ12、第1レンズ13、第2レンズ14、分散素子15、集光レンズ16、ミラーアレイ17を有している。
【0026】
図3は、図2と同様に上面から見た構成において、分散素子15及び集光レンズ16を拡大して示す図である。
【0027】
まず、常温状態の波長選択スイッチ10の形態について説明する。例えば、入出力ポート11を構成する4つの入力ポート11a、11b、11c、11dと、1本の出力ポート11eが、出力ポート11eを中心に、図1において矢印(紙面縦方向)で示す第1方向に等間隔で並んだ状態で構成されている。ここで、入出力ポート11の本数、入力ポートと出力ポートの並び等はこの状態で限定されるものではない。
【0028】
なお、図1では、簡略化のため、入力ポート11aのみ、光が入力されている様子を簡略化して示している。実際は、複数の入力ポートから、波長多重された光が入力されている。
【0029】
レンズアレイ12は、入出力ポート11を構成する複数のポートにそれぞれ対応した複数のレンズを有している。それぞれの入力ポートから出射した光は、レンズアレイ12のレンズによって、コリメートされた光となる。コリメートされた光は、第1レンズ13に入射し、第1レンズ13によって集光される。第1レンズ13によって集光される光の集光位置に、複数の入力ポートからの光が交わることとなる。
【0030】
集光された光は、集光位置を通過すると、発散して拡がりを持ったビームとなる。拡がったビームは、第2レンズ14に入射する。第2レンズ14の焦点距離はf1である。第1レンズ13によって集光された光の集光位置と、第2レンズ14の位置(主点位置)とは距離f1だけ離れている。これにより、第2レンズ14によって光は、ほぼコリメートされる。
【0031】
第2レンズ14によってコリメートされた光は、分散素子15の方向に出射される。そして、出射した光は、分散素子15に対して、図2において矢印で示す第2方向に、角度α1だけ傾いて入射する。
【0032】
分散素子15は、第2レンズ14でコリメートされた光を、第1方向とは異なる第2方向に、波長に応じて異なる角度に分散させる。つまり、分散素子15に入射する波長多重された光は、各波長に応じて第2方向に且つ異なった角度α2a〜α2eの角度範囲の間で進行する。なお、図2において、α2a・・とは、α2a〜α2eを意味している。
その角度は次式(1)で表される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、
mは回折次数、
dは分散素子15を構成する回折格子のピッチ、
は分散素子15の屈折率、
γは分散素子15の頂角、
λは波長、をそれぞれ示している。
【0035】
図2は、簡略化して5つの波長のみに関して、光が分散される様子を図示している。また、分散素子15は、図1では透過型のイマージョングレーティングを例にあげて分散素子を示しているが、これに限定されるものではない。また、イマージョングレーティングである分散素子15は、透過型および反射型グレーティングのどちらを用いても良い。
【0036】
集光レンズ16の焦点距離は、f2である。これにより、分散素子15により分散された各波長の光は、集光レンズ16によって、ミラーアレイ17のミラー素子18m(ここで、m=a、b、c、d、e・・・・)上にそれぞれ集光される。
【0037】
分散素子15と集光レンズ16との間隔は、焦点距離fだけ離れている事が望ましい。分散素子15と集光レンズ16との間隔が焦点距離fとは異なる位置に配置されると、集光レンズ16から出射する光の角度が波長ごとに異なる。これに対して、分散素子15と集光レンズ16との間隔が焦点距離f2と同一に設定されている場合、集光レンズ16から出射した光は、波長ごとに一致した方向にミラーアレイ17のミラー素子18mに向かって進行する。
【0038】
そして、分散素子15により分散された各波長の光は、ミラーアレイ17の各波長に対応したミラー素子18m上にそれぞれ集光する。集光位置は、複数の入力ポートからの光が交わる位置である。
【0039】
ミラーアレイ17は、図2内において矢印で示す紙面縦方向である第2方向に、複数のミラー素子18m(図2では、m=a、b、c、d、eの5枚のミラー素子)を有している。各ミラー素子18mは少なくとも波長多重された波長の数量分だけ、第2方向に配列されている。
【0040】
仮に、波長の数がλ〜λの18個であるとする。ミラー素子18mは第2方向に18個並んで配置される。そして、各波長のビームの第2方向の中心位置と、その波長に対応したミラー素子18mの第2方向の中心が一致するように設置される。
集光レンズ16によって集光される光の集光位置の第2方向に沿った座標軸をX軸とおくと、X軸は式(2)で表される。
【0041】
【数2】

【0042】
図4は、ミラーアレイ17の斜視構成を示す図である。角度θは、集光レンズ16の光軸と、分散素子15の回折面側の法線と、のなす角である。
図4に示すように、各ミラー素子18mは、それぞれのミラー素子を、Xθ軸まわりと、Yθ軸まわりとの2方向に回転できる。Xθ軸は、ミラー素子をX軸を中心に回転する軸である。Yθ軸は、ミラー素子をY軸を中心に回転する軸である。X軸は第2方向、Y軸は、X軸に直交する第1方向に対応している。
【0043】
各ミラー素子18m上に集光された光は、各ミラー素子18mの反射面に対して斜めに入射する。そして、各入射した光は、ミラー素子18mによって入射方向とは異なった方向に反射される。
【0044】
図2に示すように、ミラーアレイ17は、支柱19と弾性部材20を介して一端のみ固定されている。支柱19は、ミラーアレイ17以外の他の光学素子が一般的に固定される部材と接している構成、もしくは温度変化が起きても伸縮が起きない部材を介して固定されている構成である。
【0045】
ミラーアレイ17は、弾性部材20と支柱19が接している面とは反対側の面と接している。弾性部材20は長さL10である。弾性部材20の長手方向(長さL10)の方向と、ミラーアレイ17の各ミラー素子の中心位置を結んだ線とは、平行である。
【0046】
ミラーアレイ17の各ミラー素子18mによって反射された光は、拡がりを有するビーム形状で集光レンズ16に入射する。集光レンズ16に入射した各波長の光は、コリメート光に変換される。変換された光は、集光レンズ16から分散素子15に向かって進む。各ミラー素子18mの回転角が同じなので、各波長の光は分散素子15上で一点に集まる。
【0047】
分散素子15によって波長多重された光は、コリメート状態を保ったまま第2レンズ14に入射し、第2レンズ14によって集光される。集光された光は、第1レンズ13によって、コリメートされる。コリメートされた光は、出力ポート11eに対応したレンズアレイ12のレンズに入射し、出力ポート11eに集光される。
【0048】
図5は、X軸方向に並んだ3つのミラー素子18m1、18m2、18m3を正面から見た図である。
図5を用いて、波長選択スイッチのミラー素子と透過帯域の関係を説明する。
【0049】
図5において、ビームスポット16aは、分散素子15によって分散される。次に、集光レンズ16によりミラーアレイ17のミラー素子18m2上に集光される。
【0050】
ビームスポット16aに関してみると、中央のミラー素子18m2上において、各々の波長に応じて集光位置が、ビームスポット16b、16cのように、例えば図面において右方向へ変化する。
一般に、ミラー素子18m2の中心にはITUグリッド(ITU(国際電気通信連合によって定められたグリッド規格)の波長に一致する波長のビームが集光するように構成する。
【0051】
つまり、ビームスポット16aの波長がITUグリッドの波長から離れるに従って、ビームスポット16aは、ミラー素子18m2の中心mcから離れた位置に集光することになる。
【0052】
ミラー素子を用いた波長選択スイッチの場合、分散された各波長の光がミラー素子上に集光したときに、ミラー素子端部に入射するビームスポットの一部がミラー素子からはみ出すことによって、透過率が減少する。
【0053】
図6は、周波数(横軸)と出力(縦軸)との関係を示す図である。透過帯域をITUグリッドに対する透過率が±0.5dBとなる周波数領域とすると、従来の波長選択スイッチの場合の透過帯域は、ミラー素子両端で0.5dB分のビームはみ出しが許容制限となる。
【0054】
この場合、図5に示すように、ミラー素子幅W、分散方向のビームスポット径2ω、及び隣接するミラー素子とのミラー素子中心間隔D、のそれぞれのパラメータが決まれば透過帯域は一義的に決まることになる。
【0055】
一般的に、波長選択スイッチ10は、通常の常温状態において組み立てられる。ここで、上述したように、ミラー素子の中心位置に、ITUグリッドの波長に一致する波長のビームが集光するように組み立て時の設計・調整が行われる。
【0056】
さて、ここまでは、常温状態の波長選択スイッチ10の形態について説明した。
ここで、波長選択スイッチは常温状態のみにおいて使用されるのではない。例えば、常温状態よりも温度の高い高温状態の環境(適宜、「高温時」という)、または常温状態よりも温度の低い低温状態の環境(適宜、「低温時」という)において使用される可能性がある。そして、温度が変化した場合であっても、ミラー素子の中心にはITUグリッドの波長に一致する波長のビームスポットがミラー素子に集光するようにしなければならない。
次に、温度が変化した場合の波長選択スイッチについて述べる。
【0057】
まずは、常温状態において、角度α=θとなる波長に着目する。仮に図7のように常温状態に角度α=θとなる波長をλとする。常温状態の波長λの光の集光位置X20は、次式(3)のように表すことができる。
【0058】
【数3】

【0059】
分散素子15は、回折格子を用いて構成されている。図8、図9は、それぞれ高温時における光路の変化を示す図である。分散素子15は、高温になると回折格子の基材が伸びる。これにより、回折格子の溝のピッチが変化する。さらに分散素子15の屈折率が変化する。このため、角度α2cが変化する。このため、図8、図9のように高温時に角度α2c’≠θとなる。
【0060】
また、集光レンズ16は、高温になると膨張する。これによって集光レンズ16の形状が変化し、かつ、集光レンズ16の材質の屈折率も変化する。このため、焦点距離fからf’へと変化する。このため、高温状態の波長λにおける光の集光位置X70は次式(4)のようになる。
【0061】
【数4】

【0062】
また、常温状態に対する高温状態の集光位置のずれ量は次式(5)で表される。
【0063】
【数5】

【0064】
この時、ミラーアレイ17と接している弾性部材20の長さが、常温状態における長さL10のまま変化がなければ、つまり同じ長さであれば、図8に示すように、集光位置と、ミラーアレイ17のミラー素子18cとは、距離X70だけずれてしまう。
【0065】
ここで、実際には、弾性部材20の長さは、高温状態において長さL10’に変化する。弾性部材20の材質は、次式を満たすような線膨張係数Q10の特性を持った材質を選定している。このため、図9のように、集光位置はミラー素子18cに対してずれることがない。
【0066】
【数6】

【0067】
式(6)において、ΔTは、常温状態に対する高温状態との温度差を示している。式(3)〜式(6)は、常温状態に対する高温状態の場合を説明している。これに限られず、常温状態に対する低温状態においても同様な特性を示す。
【0068】
このように、角度α=θとなる波長λに着目した場合、式(6)を満たすことで、光の集光位置は、ミラー素子18cに対してずれることはない。
【0069】
次に、角度α=θとなる波長λ以外の波長にも着目する。
図25は、上述したように、回折格子の基材を線膨張係数の小さい材質である石英で構成し、溝のピッチが1ミクロン、集光レンズ16の焦点距離が200mmである場合の各波長の光の集光位置の変動量を示している。
【0070】
図25からも分かるように、集光位置の変動量は、波長によって異なる。このため、波長λcの集光位置と、ミラー素子18cの中心位置と、を合わせたとしても、波長λ以外の波長の光に関しては、集光位置と中心位置とを完全にあわせることはできない。
【0071】
これは、分散素子15の温度変化によって、回折格子の溝のピッチおよび屈折率が変化して、出射角α2cが変化したと同時に分散角Ψも変化する為である。例えば波長λの分散素子15から出る光の出射角をα2a、波長λの光の出射角をα2cとすると、波長λの光に対する波長λの光の分散角Ψは次式(7)で表される。
【0072】
【数7】

【0073】
分散角Ψが温度変化によって、一定であれば、すなわち変化しなければ、波長λの集光位置と、ミラー素子18cの中心位置とを合わせると、波長λに限らず、波長λの光の集光位置と、ミラー素子18aの中心位置とも同時に合わせる事が可能である。
【0074】
しかしながら、実際には、分散角Ψは温度によって変化してしまう。その際、仮に、集光レンズ16の焦点距離fの温度による変化がないと考えると、波長λの光の集光位置をミラー素子18cの中心位置に合せても、波長λの光の集光位置はそれに対応するミラー素子18aの中心位置からずれてしまう。波長λと波長λとのミラー素子18c上での集光位置の間隔をWとすると、間隔Wは次式(8)で表される。
【0075】
【数8】

【0076】
このように、波長λの集光位置と、それに対応するミラー素子18aの中心位置とが異なってしまうのは、分散角Ψが温度によって変化するにもかかわらず、集光レンズ16の焦点距離fの温度による変化がないと仮定したからである。
【0077】
実際には、集光レンズ16は、温度変化によって、膨張による形状変化および、材質の屈折率の変化によって焦点距離fは変化する特性を持っている。式(9)を満たすような集光レンズ16の材質を選定する事で、分散角Ψが変化しても、任意の波長の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。
【0078】
図10は、集光レンズ16の焦点距離が200mmの場合、集光レンズ16の材質によって、温度変化時の焦点距離の変化が異なる様子を示す図である。ここでは、図内右側に掲げる9種類の硝材について、変化の様子を示している。
【0079】
材質によっては温度が上昇すると、焦点距離が増加すること、または減少することがある。このような材質の温度による焦点距離の変化を利用して、分散角Ψが変化した事による波長λの光の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。波長λは任意の波長である。このため、その他の波長においても、式(9)を満たすような集光レンズ16を用いることで、いずれの波長においても、光の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。
【0080】
【数9】

【0081】
次に、図11について説明する。まず、以下のようにパラメータを定義する。
分散素子15の温度変化前の分散角をΨ、
分散素子15の温度変化後の分散角をΨ’、
W1=fsinΨ[mm]、
W2=f’sinΨ’[mm]、
W3=fsinΨ’[mm]
【0082】
ここで、温度変化に基づく分散角Ψの変化による、ミラーアレイ17上での、ビームスポット位置のずれ量は、|W1−W2|[mm]と表すことができる。
【0083】
また、仮に、温度の変化によって、集光レンズ16の焦点距離が、fのまま変化せず、分散角Ψのみ変化すると考えた場合、温度変化に基づく分散角Ψの変化による、ミラーアレイ17上での、ビームスポット位置のずれ量は、|W1−W3|[mm]と表すことができる。
【0084】
ここで、分散素子15について以下の条件で構成されている場合を考える。
(1)材質:シリカ(二酸化ケイ素(SiO2)、)、
(2)形成された回折格子のピッチ:1/1000[mm]、
(3)分散素子15の頂角:41度
(4)分散素子15に入射する光の入射角α:17度
(5)温度の変化:20℃から70℃に変化する。
【0085】
この場合、波長1525nmと波長1555nmとにおける分散角Ψは、それぞれ0.7526度から0.7530度に変化する。すなわち、温度の変化により、分散角Ψは、約0.0004度変化する。
【0086】
このとき、分散角Ψの変化によって発生するビームスポットのずれ量|W1−W3|は、1.5ミクロンとなる。
しかしながら、実際には、集光レンズ16の焦点距離fが200mmで材質がN−FK5である場合、温度が20℃から70℃に変化すると、集光レンズ16の焦点距離f’は、200.147mmに変化する。
【0087】
従って、温度の変化に対する、実際のビームスポットのずれ量|W1−W2|は、図11に示すように、集光レンズ16を構成する材質よって異なる。例えば、集光レンズ16の材質がN−FK5である場合では、ビームスポットずれ量|W1−W2|は3.4ミクロンとなり、|W1−W3|よりも大きくなる。
【0088】
これに対して、集光レンズ16の材質がN−ZK7である場合、ビームスポットずれ量|W1−W2|は0.7ミクロンとなり、|W1−W3|よりも小さくなる。このように適切に集光レンズ16の硝材を選定する事により、分散角の変化によって発生するビームスポットのずれ量を、集光レンズ16の温度による焦点距離の変化によって小さくする事が可能となる。
【0089】
次に、基準となる波長λcを温度変化時に補正する他の構成について説明する。なお、波長λcを基準としたのは、常温状態において、角度α=θとなる波長だからである。
【0090】
上記では、ミラーアレイ17上に弾性部材20と支柱19を設置する構成としている。これに限られず、集光レンズ16上に弾性部材と支柱とを設置する構成とすることができる。
【0091】
集光レンズ16は、支柱19と弾性部材20とを介して一端のみ固定されている。支柱19は、集光レンズ16以外の他の光学素子が一般的に固定される部材と接している構成、または温度が変化しても伸縮しない部材を介して固定されている構成である。
【0092】
集光レンズ16は弾性部材20と支柱19が接している面とは反対側の面と接している。弾性部材20は長さL20を有している。弾性部材20の長手方向(長さL20に沿う方向)は、集光レンズ16の光軸とほぼ垂直である。
【0093】
かかる構成によっても、基準となる波長λcに関して、温度変化時に、容易に集光レンズ16の温度変化による焦点距離の変化を利用できる。これにより、温度によって分散角Ψが変化した事によって生じる任意の波長の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。
【0094】
次に、基準となる波長λcを温度変化時に補正する他の構成を説明する。ミラーアレイ17上に弾性部材20と支柱19を設置する構成の代わりに、分散素子15上に弾性部材20と支柱19を設置することができる。
【0095】
分散素子15は、支柱19と弾性部材20を介して一端のみ当て付いている。また、分散素子15が弾性部材20と当て付いている面とは反対側の面から分散素子15と弾性部材20が常に当接するように付勢部材、例えば、ばね材を押し当てる。ばね材と支柱19とは、ばね材の分散素子15に押し当てている側と反対側で固定されている。
【0096】
分散素子15は、温度変化による弾性部材20の伸縮により、分散素子15が回転できるような形状の円柱である回転ガイドに固定されている。そして、回転ガイドは支柱19の穴部に係合され、分散素子15が回転ガイドの中心および、支柱19の穴部の中心を軸に回転できるように構成されている。
【0097】
支柱は分散素子15以外の他の光学素子が一般的に固定される部材と接している構成、または温度変化が起きても伸縮が起きない部材を介して固定されている構成である。分散素子15は、弾性部材20と支柱19が接している面とは反対側の面と接している。弾性部材20は、長さL30を有している。弾性部材20の長手方向(長さL30の方向)は、分散素子15の回折面とほぼ垂直である。高温になると弾性部材20が伸び量ΔLだけ伸びる。伸び量ΔLは次式(10)で表される。
【0098】
【数10】

【0099】
弾性部材が伸び量ΔLだけ伸びると、分散素子15は回転ガイド44を中心に角度φだけ回転する。その回転量φは次式(11)で表される。
【0100】
【数11】

【0101】
長さL40は、回転ガイドの中心位置から分散素子15と弾性部材20の当て付き箇所までの距離を示している。また、基準となる波長λcの高温状態の分散素子15からの出射角α3c’は次式(12)で表される。
【0102】
【数12】

【0103】
分散素子15の高温状態の入射角は、常温状態の入射角αより、回転量φだけ小さい角度となる。従って、基準となる波長λcの高温状態の集光位置X70は次式(13)を満足する。ここでは、常温状態の集光位置X20との位置ずれをなくす為に、X70=0となるように、最適なφの値を選定している。
【0104】
【数13】

【0105】
基準となる波長λcを温度変化時に補正するために、このような構成を採用したときでも、容易に集光レンズ16の温度変化による焦点距離の変化を利用することができる。これにより、温度によって分散角Ψが変化した事によって生じる任意の波長の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。
【0106】
次に、基準となる波長λcを温度変化時に補正する他の構成を説明する。
図12は、基準となる波長λcを温度変化時に補正する概略構成を示す図である。すなわち、ミラーアレイ17上に弾性部材と支柱を設置する構成に代えて、第2レンズ14と分散素子15の間に補正プリズム50を配置している。補正プリズム50に入射する光の入射角を角度αとし、補正プリズム50の頂角をε、屈折率をnとする。補正プリズム50から出射する光の出射角α5は次式(14)で表される。
【0107】
【数14】

【0108】
従って、分散素子15に入射する光の入射角αは、次式(15)のように入射角α5に回転角ηを加えた値である。
【0109】
【数15】

【0110】
補正プリズム50の屈折率が温度変化によって高温時にn’と変化する。このため、補正プリズム50の出射角αは高温状態でα’に変化する。これにより、分散素子15の入射角αも入射角α’へと変化する。
【0111】
図13、図14は、光学素子の温度変化における屈折率の変化を示した図である。図から明らかなように、補正プリズム50を構成する硝材は、その種類によって、dn/dtの値が正である場合、またはdn/dtの値が負である場合と、様々なdn/dtの値を示すことがわかる。
【0112】
ここで、「dn/dt」は、単位温度あたりの屈折率の変化量を示すものである。温度が上昇することで、屈折率が大きくなる硝材は、dn/dtは正の値をとる。温度が下降することで、屈折率が大きくなる硝材は、dn/dtは負の値をとる。
【0113】
このように様々な補正プリズムのdn/dtの値を示す硝材と頂角εを選定する事で、温度によって変化する分散素子15の入射角α6’の値を自由に変える事が可能となる。
【0114】
基準となる波長λcの高温状態の集光位置X70は、次式(16)で示すことができる。そして、常温状態における集光位置X20との位置ずれをなくす為に、高温状態においてもX70=0となるように、最適な入射角α6c’の値を選定している。
【0115】
【数16】

【0116】
このような、基準となる波長λcを温度変化時に補正する構成の場合でも、容易に集光レンズ16の温度変化による焦点距離の変化を利用して、温度によって分散角Ψが変化した事によって生じる任意の波長の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量を合わせることができる。
【0117】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る波長選択スイッチについて説明する。上述した第1実施形態の構成では、温度変化による分散角Ψの変化によるビームスポット位置のズレを、温度変化による集光レンズ16の焦点距離の変化により補正している。
【0118】
これに対して、本実施形態では、後述するように第2レンズ14焦点距離を変化させる事によって生じる集光位置の光の進行方向のずれを第2レンズ14の温度による屈折率の変化によって生じる焦点距離の変化を用いて補正する例である。
【0119】
上述したように、本実施形態において、上述した第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0120】
図15、図16は、それぞれ図1に示す構成と同様に、ミラーアレイ17のミラー素子18mに光が集光する様子の拡大図を示している。図15は常温状態、図16は高温状態を、それぞれ示している。
ここで、それぞれの図には、常温状態に入射角α2=θとなる波長である波長λcの波長のみ示し、他の波長は省略して示している。
【0121】
図16のように、高温状態において集光レンズ16の焦点距離がfからf’へ増加する(f<f’)。集光レンズ16とミラーアレイ17は、常温状態で組み立てられている。集光レンズ16とミラーアレイ17の間隔は常温状態の焦点距離f2である。このため、高温状態においては、集光位置とミラー素子18cの位置との、光の進行方向に対する間隔(光軸に沿った距離)であるΔZだけ光の進行方向に移動する。
【0122】
集光位置がミラー素子からΔZだけ移動すると、図5に示すビームスポット16aの径が大きくなってしまい、透過帯域の幅が小さくなってしまうという問題が起こる。
【0123】
図17、図18は、本実施形態のミラーアレイ17に光が集光する様子の拡大図を示している。図17は常温状態、図18は高温状態を、それぞれ示している。それぞれの図には入射角α=θとなる波長であるλcの波長の光のみ示し、他の波長は省略して示している。
本実施形態では、第1実施形態と同様に、常温状態において組み立てられている。このため、本実施形態において、常温状態では第1実施形態で説明した場合と同様に光が振舞う。
【0124】
次に、本実施形態にかかる波長選択スイッチの高温状態おける動作説明を行う。集光レンズ16を構成する硝材は、図11に示す硝材のうち、温度が上昇すると焦点距離が長くなる材質を選定している。このため、本実施形態では、第2レンズ14に関しては、温度が上昇すると、焦点距離が低下する材質を選定している。
【0125】
第1レンズ13(図17では不図示)によって集光された光は、集光位置を過ぎると光は拡がりを持ったビームとなり、第2レンズ14に入射する。第2レンズ14の焦点距離はfである。常温状態では、光は、第2レンズ14によって、コリメートされる。これに対して、高温状態では第2レンズ14の焦点距離が短くなり、f’へと変化する。
【0126】
ここで、第1レンズ13によって集光された光の集光位置と、第2レンズ14の位置とは、常温状態と同様に距離fだけ離れている。このため、第2レンズ14によってコリメートされる光は、ほんの僅かではあるが収束された光となる。高温状態では、この収束された状態を保ったままの光は、分散素子15の方向に出射される。そして、分散素子15に第2方向に角度αだけ傾いて入射する。
【0127】
分散素子15は、第2方向(図17において紙面左右方向)に、波長に応じて入射光を角度分散させる。図では常温状態に入射角α2=θとなる波長であるλcの波長のみ示し、他の波長は省略して示している。しかしながら、本来、様々は波長の光が分散素子15からそれぞれ違った角度で出射され、角度分散される。
【0128】
分散素子15によって角度分散された光は、集光レンズ16に入射する。そして、集光レンズ16によって、ミラーアレイ17のミラー素子18m上にそれぞれ集光される。常温状態の焦点距離と比較して、高温状態では集光レンズ16の焦点距離がf2’に長くなっている。
【0129】
仮に、集光レンズ16に入射する光が、完全にコリメートされた光の場合を考える。ここで、高温状態では、集光レンズ16の焦点距離はf’に変化する。このため、常温状態においてはミラー素子18c上に集光していた光は、高温状態ではミラー素子18cよりも光の進行方向に進んだ位置に集光する。この理由は、集光レンズ16とミラーアレイ17との間の距離がf’より短いfである為である。
【0130】
実際には、高温状態において集光レンズ16に入射する光は、完全にコリメートされてはおらず、ほんの僅か収束している。このため、集光レンズ16へ入射した光は、焦点距離f’位置ではなく、焦点距離f’よりも、手前(集光レンズ16側)の位置に集光する。
【0131】
ここで、第2レンズ14に関して、高温状態において焦点距離が短くなるf’の値を以下の式(17)を満足するように第2レンズ14の材質を選定する。これにより、高温状態において、集光レンズ16へ入射した光は、およそミラー素子18c上の位置に集光する。
【0132】
【数17】

【0133】
式(17)は、常温状態に対する高温状態の場合を説明している。これに限られず、常温状態に比較して低温な状態とも同様な特性を示す。
式(17)を展開すると、式(18)が得られる。第2レンズ14の材質として、式(18)に示す条件を満足するように選定すると、温度変化時において、集光レンズ16から出射する光は、およそミラー素子上の位置に集光する。
【0134】
【数18】

ここで、
は第2レンズ14の焦点距離、
df/dtは、第2レンズ14を構成する硝材に関して、温度変化に対する屈折率変化の割合、
は集光レンズ16の焦点距離、
df/dtは集光レンズ16を構成する硝材に関して温度変化に対する屈折率変化の割合、である。
【0135】
また、以下の例を挙げる。
(1)集光レンズ16を構成する硝材:N−FK5
(2)集光レンズ16の焦点距離f=200mm
(3)仮に第2レンズ14の温度変化による焦点距離の変化は無いとする:df/dt=0
【0136】
このとき、波長1550nmの光は、集光位置とミラー素子18cの位置との、光の進行方向に対する間隔(光軸に沿った距離)であるΔZは147nmである。。ここで、df/dtとは、第2レンズ14の温度変化による焦点距離の変化を意味する。
【0137】
この結果を、図19の最右端の欄に示す。
さらに、図19は、同様に波長1550nmの光に関して、第2レンズ14が特性df/dtが異なる材質により構成した場合のΔZの値および、式(18)の値を示している。
【0138】
図19から明らかなように、式(18)の式を満満足する特性df/dtを有する材質および、その適切な焦点距離を選定する事により、ΔZの値を容易に小さくできる。
【0139】
以上説明したように、第2レンズ14の硝材を、所定の条件に対して最適な材料を選定する。これにより、光の集光位置に関して、ミラーアレイ17を構成する複数のミラー素子上において、光の進行方向に対してのずれ量を無くすことができる。この結果、ミラー素子、例えばミラー素子18c上でのビームスポットを小さくできる。したがって、透過帯域の幅を大きくできる。
【0140】
(第3実施形態)
次に、第3の実施形態に係る波長選択スイッチについて説明する。
図20は、第3の実施形態に係る波長選択スイッチについて説明する図である。本実施形態では、上述した第1実施形態の構成、及び第2実施形態の構成を基本としている。そして、分散素子15を図20のような反射型のイマージョングレーティング35で構成している点が上記第1、第2の実施形態と異なっている。
【0141】
第1実施形態で説明したように、分散素子15を図1のような透過型のイマージョングレーティングで構成した場合、分散角の温度変化は、分散素子15の回折格子のピッチが回折格子の基材が温度変化によって伸縮すること、及び/または、イマージョングレーティング15の材質の温度による屈折率が変化することにより発生する。
【0142】
一方、図20のように、分散素子を反射型のイマージョングレーティング35で構成した場合においても同様に、温度による回折格子のピッチ変化および、イマージョングレーティング35の材質の温度による屈折率変化の影響を受ける。特にイマージョングレーティング35の材質がシリコンやZEONEX(登録商標)の場合、温度による屈折率変化が他のガラスなどの光学素子よりも大きい為、温度による分散角の変化も大きくなる。
【0143】
このように、温度によって、分散素子から出射する光の分散角Ψが大きく変化する場合においても、集光レンズ16の温度による焦点距離の変化を利用できる。これにより、温度によって分散角Ψが変化した事によって生じる任意の波長の光の集光位置と、ミラー素子の位置とのずれ量ΔZを略ゼロ、または小さくできる。
特に、集光レンズ16の硝材として、温度による屈折率変化が大きいシリコンやZEONEX(登録商標)を用いる事も可能であること、また、図21に示すように、集光レンズ36を複数枚のレンズを用いて構成できることがずれ量ΔZを小さくできることに大きく寄与している。
【産業上の利用可能性】
【0144】
以上のように、本発明は、使用温度に関わりなく、安定した特性を有する波長選択スイッチに適している。
【符号の説明】
【0145】
9a、9b、9c ビームスポット
10 波長選択スイッチ
11 入出力ポート
11a、11b、11c、11d 入力ポート
11e 出力ポート
12 レンズアレイ
13 第1レンズ
14 第2レンズ
15 分散素子
16 集光レンズ
17 ミラーアレイ
18m1、18m2、18m3、18a、18b、18c、18d、18e ミラー素子
19 支柱
20 弾性部材
35 イマージョングレーティング
50 補正プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長多重された光を入射させる少なくとも一つの入力部と、
前記入力部からの前記光を受光し、前記光を波長ごとに分散させる分散素子と、
前記波長ごとに分散された分散光を集光する集光要素と、
前記集光要素からの前記分散光を、波長ごとに独立に偏向可能な複数の反射光学素子を有する光偏向部材と、
前記光偏向部材によって偏向された前記分散光を受光する少なくとも一つの出力部と、を備え、
温度変化が生じた場合、前記分散素子が温度変化に伴って変化する分散量によって変化するビームスポット位置ずれを前記集光要素の温度特性による焦点距離の変化によって補正することを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
温度の変化が生じた場合、前記集光要素の温度特性による焦点距離の変化によって、特定波長の集光位置のずれの発生を抑制することを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
前記分散素子に入射する光をほぼコリメート光に変換するコリメート要素を更に備え、
温度変化が生じた場合、前記集光要素の温度変化による焦点距離の変化によって生ずる光の進行方向に沿った方向における集光位置のずれ量を、
前記コリメート要素の温度変化による焦点距離の変化によって、前記集光要素から出射した光の集光位置のずれ量を補正することを特徴とする請求項1または2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
以下の式を満足することを特徴とする請求項3に記載の波長選択スイッチ。

ここで、
は前記コリメート要素の焦点距離、
df/dtは、前記コリメート要素を構成する硝材に関して、温度変化に対する屈折率変化の割合、
は前記集光要素の焦点距離、
df/dtは前記集光要素を構成する硝材に関して温度変化に対する屈折率変化の割合、
である。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−150364(P2012−150364A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10273(P2011−10273)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】