説明

波長選択スイッチ

【課題】AWGを2つないし1つに統合し交差導波路の数が少なく、交差導波路の数がスイッチ状態にほとんど依存しないグリッドレス型1×2波長選択スイッチを提供する。
【解決手段】1つの入力導波路から入力されたN波長分割多重信号を波長分割して、N個の出力導波路へと出力する第1のアレイ導波路回折格子101と、N個の出力導波路からの出力光が並列に入力される1入力2出力の光スイッチをN個有する光スイッチアレイと、隣接する波長の光を出力する2つの光スイッチからの出力光が並列に入力される2入力1出力の波長カプラをN−P(Pは1以上の整数)個有する波長カプラアレイと、N+P個の入力ポートを有し、入力された光を2つの出力ポートの少なくとも1方から出力する第2のアレイ導波路回折格子103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチ(WSS)に関し、詳細には、光通信ネットワークノードにおいて光スイッチを実現する導波路型光干渉計回路を用いた波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、従来の光回路型グリッドレス波長選択スイッチ(WSS)の模式図を示す(非特許文献1参照)。グリッドレス波長選択スイッチとは、1つのポートから取り出す連続した波長域においてはスペクトル応答が平坦なWSSのことである。帯域が可変であることからグリッドレスと呼ばれる。
【0003】
図1に示す波長選択スイッチは、分光器1001、1×2スイッチアレイ1002、第1の合波器1003、第2の合波器1004からなる。まず波長多重信号が分光器1001に入射し、波長分割多重(WDM)信号の各チャネルに分解される。その後各チャネルはそれぞれ異なる1×2スイッチに入力される。1×2スイッチアレイ1002で図示上側にスイッチされた信号は、第1の合波器1003の波長ごとに定められた入力ポートへ入射し、合波されることでOutput#1へ出力される。一方で、1×2スイッチアレイ1002で図示下側にスイッチされたチャネルは、第2の合波器1004の波長ごとに定められた入力ポートへ入射し、Output#2へ出力される。このようにして、任意の波長チャネルの出力ポートをOutput#1・Output#2のどちらかに選ぶことが可能となり、波長選択スイッチとして動作する。分光器・合波器としては公知技術であるアレイ導波路回折格子(AWG)が用いられる。
【0004】
AWGのアレイ導波路本数をM、自由スペクトル領域(FSR)をチャネル間隔で割ったものをN0として、N0≧Mが成り立つように設計すると、本例のようにAWGで分光し、再びAWGで合波したときに、波長に対して平坦な透過スペクトルを得ることができる。この技術を用い、グリッドレスなWSSが実現されている。これは非特許文献2で報告されている公知技術である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. R. Doerr, L. L. Buhl, L. Chen, and N. Dupuis, “Monolithic Gridless 1 x 2 Wavelength-Selective Switch in Silicon, ” OFC 2011, PDPC4, 6-10 March 2011.
【非特許文献2】C. R. Doerr, et. al, IEEE Photon. Technol. Lett., vol. 11, no. 5, pp. 581 - 583, May 1999.
【非特許文献3】S. Suzuki, A. Himeno, M. Ishii, ”Integrated Multichannel Optical Wavelength Selective Switches Incorporating an Arrayed-Waveguide Grating Multiplexer and Thermooptic Switches,” J. Lightw. Technol., vol. 16, no. 4, April, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1の従来例では、以下のような欠点があった。第1に、3つのAWGを含んでいるため回路サイズが大きくなり、ウエハ資源を圧迫する。第2に、複数のAWGの中心波長を一致させる必要があるが、これは困難であり、製造後補償などプロセスが複雑化する。第3に、交差導波路を多数含み、かつスイッチ状態によって通過する交差導波路の数が異なる。非特許文献1の例のように、コア・クラッド間の屈折率コントラストが高い導波路では特に交差クロストークが大きくなる傾向があり、交差を多数通過することで、信号強度が劣化し、クロストークが増大する。屈折率コントラストが低い導波路の場合は、大きな曲げ半径で方向転換しなければならないため、平行に走る導波路を交差させるには広い面積を必要としてしまう。また、信号強度・クロストークレベルがスイッチ状態に依存するとその後にレベル補正の必要が生じ、高コストとなる。
【0007】
非特許文献3に記載されたものは、グリッドレス型ではなく固定グリッド型であるが、上記のうち第2の欠点を克服するため、ループバック導波路を採用し、AWGをただ1つだけ用いた2×2WSSが提案された。この従来例では、AWGの数が減っているものの、そのポート数が1×Nから(2N+2)×(2N+2)となっているため、AWG自体のサイズは大型化しており、第1の欠点の解消に劇的な効果はない。また、第3の欠点は依然残っている。
【0008】
以上を鑑み、本発明の課題は、AWGの規模をほとんど拡大せずに、従来は3つ必要であったAWGを2つないし1つに統合し、なおかつ交差導波路の数が少なく、通過する交差導波路の数がスイッチ状態にほとんど依存しないグリッドレス型1×2波長選択スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、N個の異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)を多重したN波長分割多重信号を入力信号とする1入力2出力の波長選択スイッチであって、1つの入力導波路から入力されたN波長分割多重信号を波長分割して、N個の出力導波路へと出力する第1のアレイ導波路回折格子と、前記N個の出力導波路からの出力光が並列に入力される1入力2出力の光スイッチをN個有する光スイッチアレイであって、該光スイッチアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N)番目の光スイッチは、前記N個の出力導波路のうちの1つの出力導波路からk番目に短い波長λkの光が入力され、該波長λkの光を2つの出力のうちの少なくとも一方から出力する、光スイッチアレイと、前記N個の光スイッチのうちで隣接する波長の光を出力する2つの光スイッチからの出力光が並列に入力される2入力1出力の波長カプラをN−P(Pは1以上の整数)個有する波長カプラアレイであって、該波長カプラアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N−P)番目の波長カプラは、波長λkの光を出力するk番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、波長λk+pの光を出力するk+P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力がされ、該2つの入力を合波して1つの出力から出力する、波長カプラアレイと、前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、前記光スイッチのうち最も短波長λ1の光を出力する第1番目の光スイッチからλpの光を出力する第P番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光を出力する第N番目の光スイッチからλN-P+1の光を出力する第N−P+1番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力とが入力されるN+P個の入力ポートを有し、該N+P個の入力ポートから入力された光を2つの出力ポートの少なくとも1方から出力する第2のアレイ導波路回折格子とを備え、前記第2のアレイ導波路回折格子の入力ポートは、第1番目から第N+P番目の入力ポートが最も長いアレイ導波路に近い側から順次隣接して設けられており、第1番目から第P番目の入力ポートに前記第1番目から第P番目の光スイッチの出力が入力され、第k+P番目の入力ポートに第k番目の波長カプラの出力が入力され、第N+1番目から第N+P番目の入力ポートに前記第N−P+1番目から第N番目の光スイッチの出力が入力されるよう接続されており、前記Pは、N個の互いに異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光を空間的に分離するよう選択されるパラメータであることを特徴とする波長選択スイッチである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、N個の異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)を多重したN波長分割多重信号を入力信号とする1入力2出力の波長選択スイッチであって、N+P+1個の入力ポートと、N+2個の出力ポートを有するアレイ導波路回折格子であって、第1の入力ポートから入力されたN波長分割多重信号を波長分割して、第3から第N+2の出力ポートに接続されたN個の出力導波路へと出力するアレイ導波路回折格子と、前記N個の出力導波路からの出力光が並列に入力される1入力2出力の光スイッチをN個有する光スイッチアレイであって、該光スイッチアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N)番目の光スイッチは、前記N個の出力導波路のうちの1つの出力導波路からk番目に短い波長λkの光が入力され、該波長λkの光を2つの出力のうちの少なくとも一方から出力する、光スイッチアレイと、前記N個の光スイッチのうちで隣接する波長の光を出力する2つの光スイッチからの出力光が並列に入力される2入力1出力の波長カプラをN−P(Pは1以上の整数)個有する波長カプラアレイであって、該波長カプラアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N−P)番目の波長カプラは、波長λkの光を出力するk番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、波長λk+pの光を出力するk+P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力がされ、該2つの入力を合波して1つの出力から出力する、波長カプラアレイとを備え、前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、前記光スイッチのうち最も短波長λ1の光を出力する第1番目の光スイッチからλpの光を出力する第P番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光を出力する第N番目の光スイッチからλN-P+1の光を出力する第N−P+1番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力とが前記アレイ導波路回折格子のN+P+1個の入力ポートのうちの第2番目から第N+P+1番目に入力され、該N+P個の入力光は2つの出力ポートの少なくとも1方から出力され、前記アレイ導波路回折格子は、前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、最も短波長λ1の光からλpの光をそれぞれ出力する第1番目から第P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光からλN-P+1の光を出力する第N番目から第N−P+1番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力され、該N+P個の入力ポートから入力された光を、第1および第2の2つの出力ポートの少なくとも1方から出力し、前記N+P+1個の入力ポートは、第1番目から、最も長いアレイ導波路に近い側から順次隣接して設けられており、第2番目から第P+1番目の入力ポートに前記第1番目から第P番目の光スイッチの出力が入力され、第k+P+1番目の入力ポートに第k番目の波長カプラの出力が入力され、第N+P+1番目から第N+2番目の入力ポートに前記第N番目から第N−P+1番目の光スイッチの出力が入力されるよう接続されており、前記Pは、N個の互いに異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光を空間的に分離するよう選択されるパラメータであることを特徴とする波長選択スイッチ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の波長選択スイッチの概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の波長選択スイッチの概略構成を示す図である。
【図3】第2のAWGの構成を示す図である。
【図4】スイッチアレイ部の構成を示す図である。
【図5】光スイッチを構成するマッハツェンダ干渉器の一例を示す図である。
【図6】波長カプラを構成するマッハツェンダ干渉器の一例を示す図である。
【図7】パラメータPを変化させた場合の光の伝搬の様子を示す図である。
【図8】2つの出力ポートA、Bでの透過率の変化を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の波長選択スイッチの概略構成を示す図である。
【図10】第2の実施形態で用いられるAWGの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図2に第1の実施形態のN波長多重分割信号の波長選択スイッチの概略構成を示す。図2(a)は平面図であり、図2(b)は側断面図である。図2(b)に示すように、波長選択スイッチは、石英またはシリコンからなる基板108の上に、ともに石英で構成されたクラッド106とコア107が積層されて構成されている。
【0014】
波長選択スイッチは、第1のアレイ導波路回折格子(AWG)101と、スイッチアレイ部102と、第1のAWG101およびスイッチアレイ部102を接続するN本の導波路からなる第1の導波路群104と、第2のAWG103と、スイッチアレイ部102および第2のAWG103を接続するN+P本の導波路からなる第2の導波路群105とを備えて構成される。第1の導波路群104は第1のAWGの出力ポートF1,F2,…,FNに接続され、第2の導波路群105は、第2のAWGの入力ポートG1,G2,…,GN+Pに接続されている。N本の導波路群104と、スイッチアレイ部102と、N+P本の導波路群105を通過する複数の光のパス(チャネル経路)はすべて等長となるよう構成される。ここでPは、後述するように、各チャネルのスイッチ状態を空間的に十分に分離するよう選択される任意の整数である。
【0015】
第1のAWG101は、波長選択スイッチの入力側に設けられており、N個の異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光が多重された1つの入力光を互いに波長の異なるN本の光に分離する。第1のAWG101には、入力側に1本の導波路が接続され、出力側のN個の出力ポートF1,F2,…,FNにN本の導波路からなる第1の導波路群104が接続されている。
【0016】
第2のAWG103は、波長選択スイッチの出力側に設けられており、N+P個の導波路から入力される光を合波して、2つの出力ポートから出力する。入力側にN+P個の入力ポートG1,G2,…,GN+Pを有し、出力側に2つのポートを有する。
【0017】
第1のAWG101および第2のAWG103がグリッドレスな特性を得るためには、分光・合波を行った際の透過率が波長に対して平坦である必要がある。そのためには、第1のAWG101および第2のAWG103は、非特許文献2で述べられているように、AWGのアレイ導波路本数をM、自由スペクトル領域(FSR)をチャネル間隔で割ったものをN0としたとき、N0≧Mが成り立つように構成される。
【0018】
また、第2のAWG103の2つの出力ポートを、最も短いアレイ導波路に近い側(図2において下側)からポートA、ポートBとすると、AWGの基本的特性から、ある波長の出力をポートAからポートBに、すなわち図示の上方向にずらすためには、入力側のポートを最も短いアレイ導波路に近い側(図2において下側)のポートにずらせば良い。本実施形態では、このずれ量が入力導波路P本分であるように第2のAWG103が構成される。具体的には、図3に示す第2のAWG103において次式(1)を満足するように設計する。図3では、第1スラブ導波路32の出力側に接続されるアレイ導波路設置間隔がd1であり、第2スラブ導波路34の入力側に接続されるアレイ導波路設置間隔がd2である。また、図3に示されるように、第1スラブ導波路32の入力側に接続される導波路間隔はD1であり、第2のスラブ導波路34の出力側の2つの出力ポートA,Bの間隔はD2である。さらに第1スラブ導波路、第2スラブ導波路の長さはそれぞれf1、f2である。
【0019】
【数1】

【0020】
以上の性質を用いて、第2のAWG103において波長λ1〜λNがポートAに出力されるための入力側の波長割り当てを波長対応Aで、ポートBに出力されるための波長割り当てを波長対応Bであらわし、それぞれ破線で囲って図2内に示した。
【0021】
本発明の波長選択スイッチでは、任意の波長の光が所望のポートから出力されるように、スイッチアレイ部102により、第2のAWG103への入力導波路を切り替えている。スイッチアレイ部102は、N本の入力、N+P本の出力を有するスイッチ列であり、導波路Fkに入力される波長λkの光を、導波路GkかGk+Pのどちらかあるいは両方から、任意のパワー比で出力させることができるスイッチである。k=1,…,Nのすべてのチャネルにおいて独立にスイッチ状態を選択できる。
【0022】
図4にスイッチアレイ部102の内部構成を示す。図4に示すように、スイッチアレイ部102は、N個の1入力2出力の光スイッチS1、S2・・・SNからなる光スイッチアレイ301と、N−P個の2入力1出力の波長カプラC1、C2・・・CN-Pからなる波長カプラアレイ302とを有している。なお、図4に示す例ではパラメータPがP=4である場合を説明している。
【0023】
光スイッチアレイ301の各光スイッチS1、S2・・・SNはそれぞれ、2つの出力を有しており、この2つの出力にそれぞれ導波路が接続されている。それぞれの光スイッチS1、S2・Sk・・SNは、それぞれ波長λkを、導波路ka、kbのどちらかあるいはその両方に導波する(k:1、2、・・・N)。
【0024】
光スイッチアレイ301の各光スイッチS1、S2・・・SNは、図5に示す移相シフタを集積したマッハツェンダ干渉器を用いて構成することができる。ここで図5を用いて、光スイッチS1の構成について説明する。なお、他の光スイッチS1、S2・・・SNも光スイッチS1と同様に構成することができる。スイッチS1は、2つの1:1カプラ401とその間をつなぐ等長の2本のアーム402からなり、片方のアームに位相を制御することができる位相シフタ403が装備されている。位相シフタ403としては回路上に集積されたヒータを用いることができる。位相シフタ403は、導波路の熱光学効果を誘起することによって、導波路内で生じる位相変化量を制御することができる。図5に示すように、上側の入力ポートから入力された場合、既知の干渉原理により、アーム間に位相差がない場合はクロスポート404に、位相差がπである場合はバーポート405に光が導かれる。位相差がそれ以外の値であるときには、クロスポート404およびバーポート405の両方のポートから光が位相差に応じた比で取り出される。本実施形態では2本のアームの長さを完全に等長としたが、位相シフタ403を駆動しない状態でのスイッチ状態を変えるために、λ/2、λ/4など、波長オーダーの長さの差をつけてもよい。
【0025】
波長カプラアレイ302の波長カプラC1、C2・・・CN-Pは、Pチャネルだけ隔てた波長を合波し、N−P個配置される。図4の上側からC1〜CN-Pと名付けると、Ckは導波路kbを伝搬してきた波長λkと導波路(k+P)aを伝搬してきたλk+Pを合波するよう作られており、その出力は導波路Gk+Pとなる(k:1、2、・・・N)。導波路1a,2a,…,Paは、波長カプラ302を通過せず、そのままそれぞれG1、G2、…、GPとなる。また、導波路(N−P+1)b、(N−P+2)b、…、(N−1)b、Nbも、波長カプラ302を通過せず、そのままそれぞれGN+1,GN+2,…,GN+Pとなる。
【0026】
波長カプラC1、C2・・・CN-Pは、図6に示す非対称型マッハツェンダ干渉器を用いて構成することができる。ここで図6を用いて、波長カプラCkの構成について説明する。なお、他の波長カプラC1、C2・・・CN-Pも波長カプラCkと同様に構成することができる。波長カプラCkは、2つの1:1カプラ401とこれらの2つのカプラ401を接続する長さの異なる2つのアーム501を有する。波長カプラCkは、既知の干渉原理により、インターリーバとして動作する。出力ポートが切り替わる周波数間隔は長いアームと短いアームの長さの差ΔLによって定まる。なお、図6の波長カプラCkでは1出力としてクロスポートに光が出力されている。図6に示すように、第1の入力ポート502は導波路kbと接続され、第2の入力ポート503は導波路(k+P)aと接続される。この波長カプラCkが合波する2つの波長の差を周波数単位で表したものをΔv、真空中の光速をc、導波路の群屈折率をngとすると、出力ポートが切り替わる周波数間隔がΔvとなるためのΔLは、式(2)で与えられる。
【0027】
【数2】

【0028】
ただし、上式(2)で表されるΔLをそのまま用いると、一般的には透過帯域が合波する波長に一致しておらず、波長軸方向にオフセットがある。したがって、わずかにΔLを上式(2)から増減させ、波長軸方向に透過スペクトルをシフトさせ、補正した値を用いる必要がある。この増減分の長さをLsとする。図6に示されるように、波長λkがクロスポートに透過するようにするには、mを正整数として、次式(3)を満たすようなΔLとなるよう構成する。このLsは最大でも1波長以下にすることができ、Δvに与える影響は十分小さい。
【0029】
【数3】

【0030】
本実施形態では、ΔvをAWGのチャネル間隔のP倍に一致させ、Lsが上式(3)を満たしかつその絶対値が最小となるよう構成する。
【0031】
次に本実施形態の波長選択スイッチの動作を説明する。まず、入力光が第1のAWG101によってλ1〜λNに分解される。次に、各波長チャネルはスイッチアレイ部102によってスイッチされる。波長λkが100%導波路kaに導波された場合、出力ポートGkから出力されて導波路105を伝搬し、波長対応Aに従って第2のAWG103に入射するため、そのチャネルの光は出力ポートAから出力される。一方、波長λkが100%導波路kbに導波された場合、出力ポートGk+Pから出力されて導波路105を伝搬し、波長対応Bに従って第2のAWG103に入射するため、出力ポートBから出力される。また、波長λkが50%導波路kaに、50%導波路kbに導波された場合、出力ポートA、出力ポートBのそれぞれから50%ずつ出力されるため、2つの出力導波路に同じ波長チャネルの信号を出力する動作モードであるマルチキャスト動作となる。
【0032】
以下、N個の互いに異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光を空間的に分離するよう選択されるパラメータPについて説明する。図7(a)はP=4の場合、図7(b)はP=1の場合の光の伝搬の様子を描いたものである。破線が各部でのビームスポット形状を表している。
【0033】
本実施形態ではP=4を選択しているが、図7(a)の(2)に示すように、導波路群105への出力ポートにおいて、各波長の2つのスイッチ状態を空間的に十分に分離することができる。このようにすれば、図7(a)のW1に示されるように、ポートAとポートBの間のクロストークを低く抑えることができる。
【0034】
一方、P=1と小さくPを設定すると、図7(b)の(3)に示ように、導波路群105への出力ポートにおいて波長対応Aに従った光と波長対応Bに従った同じ波長の光が空間的にオーバーラップしてしまう。これにより、図7(b)のW2に示されるように、ポートAとポートBの間で高いクロストークが発生してしまう。因みに、波長分割多重信号を分解する用途のAWGでは、クロストークを十分低減するため、アレイ本数をM≒3N0程度に選んで設計している。しかし、第1のAWG101および第2のAWG103における条件N0≧Mはこれに反しているので、第1のAWG101、第2のAWG103はクロストークが十分に低減されていない。すなわち、図7(a)(b)の(1)に示されるように、一つの波長が複数の導波路に結合しており、隣同士の出力導波路間では十分に波長分解できていない状態になり得る。このようにパラメータPは、本実施形態のように必ずしも4とは限らないが、十分大きい値に選ぶことによって、このオーバーラップの発生を防止できる。
【0035】
図8に、数値計算によりシミュレートした各ポートからの透過率を示す。N=20、チャネル間隔を100GHzとした。図8(a)はすべてのチャネルをポートBから出力した場合、図8(b)はすべてのチャネルをポートAから出力した場合、図8(c)は短波長側から1000GHz(10チャネル)をポートBに出力、続く600GHz(6チャネル)をマルチキャスト、続く400GHz(4チャネル)をポートAに出力した場合、図8(d)は400GHz間隔のインターリーバとして動作させた場合、の透過スペクトルを示している。本図から、同じポートから取り出される連続したチャネルでは平坦な透過スペクトルが得られており、スペクトルを切り出す幅が可変であることが確かめられた。
【0036】
このように本実施形態の波長選択スイッチによれば、AWGの規模を拡大せずに、従来は3つ必要であったAWGを2つに統合し、なおかつ交差導波路の数が少なく、通過する交差導波路の数がスイッチ状態にほとんど依存しないグリッドレス型1×2波長選択スイッチを提供できる。
【0037】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の波長選択スイッチを図9に示す。本実施形態の波長選択スイッチは、1つのAWGが第1のAWGおよび第2のAWGの機能を兼ね、導波路の長さを調整する等長化導波路807を設ける構成である以外は、第1の実施形態の波長選択スイッチと同様の構成である。AWG801の出力側から出力された光がスイッチアレイ部102を介して分光を行ったAWG801の入力側に再び入力され、同一のAWG801で合波が行われる。AWG801は、N+P+1個の入力ポートとN+2個の出力ポートを有し、第1のスラブ導波路と第2のスラブ導波路が同じ長さである対称AWGである。
【0038】
AWG801は、入力側に、最も長いアレイ導波路に近い側から入力ポートF1,F2,…,FN+P+1を有し、出力側に、最も長いアレイ導波路に近い側から出力ポートG1,G2,…,GN+2を有する。出力ポートF1が、本実施形態の波長選択スイッチの入力ポートからの入力導波路802に接続される。出力ポートG1、G2がそれぞれ出力導波路803、804を介して波長選択スイッチの出力ポートB、出力ポートAに接続される。
【0039】
また、AWG801の出力ポートG3,…,GN+2はN本の接続導波路からなる第1の接続導波路群805を介してスイッチアレイ部102の入力に接続されている。また、スイッチアレイ部102の出力は、N+P本の接続導波路からなる第2の接続導波路群接続導波路806を介して、AWG801の入力ポートF2,…,FN+P+1に接続されている。
【0040】
第1の実施形態と同様に、第1の接続導波路群805、スイッチアレイ部102、第2の接続導波路軍806からなるループバック部分においては、どの波長パスを選んでも長さが等しい必要がある。この条件を満たすため、図9では、第2接続導波路群806には等長化導波路807を有している。この等長化導波路807は第2の接続導波路群806でなく第1の接続導波路群805に含めても構わない。入力光が入力導波路802に入力されたとき、出力ポートG3〜GN+2に出力される波長が、波長選択スイッチが対象とする波長λ1〜λNの光の波長チャネルである。
【0041】
図10はAWG801において入力ポート群Fと出力ポート群Gがスラブ導波路にどのように接続されるかを示す詳細図である。第1のスラブ導波路82の入力導波路81が接続されている側にx軸を、第2のスラブ導波路84の出力導波路85が接続されている側にξ軸を図のようにとる。本図に示されるように、入力ポートF1と出力ポートG1、入力ポートFP+2〜FN+P+1と出力ポートG3〜GN+2はそれぞれx軸とξ軸上で同じ座標にある。入力ポートF2〜FN+P+1と出力ポートG3〜GP+2の導波路配置間隔はともにdであるとする。出力ポートG1と出力ポートG2はPdだけ隔てて配置される。AWGの対称性から、入力ポートFP+2〜FN+P+1にそれぞれ波長λ1〜λNが入射したとすると、それらはすべて出力ポートG1に接続された出力導波路803に出力される。これを波長対応Bとする。また、この波長対応BとAWGの基本的性質から理解されるように、波長対応Bから入力ポートがP本だけずれた、入力ポートF2〜FN+1にそれぞれ波長λ1〜λNが入射したとすると、それらはすべて出力ポートG2に接続された出力導波路804に出力される。これを波長対応Aとする。2つの波長対応関係は図9内に示されている。
【0042】
ここで図9の波長選択スイッチの動作を説明する。入力導波路802に入力された波長λ1〜λNの光は波長分解され、出力ポートG3〜GN+2に出力された後、第1の接続導波路群805を介して入力するスイッチアレイ部102でスイッチ操作を受ける。ここにおける動作は第1の実施形態と同様である。なお、図9では図2と異なりスイッチアレイ部102が180度回転(上下反転)して配置されている。
【0043】
スイッチ操作を受けた光は再び第2の接続導波路群806を介してAWG801の第1スラブ導波路に入射される。もし出力ポートGk+2から出力された波長λkの光が光スイッチアレイ201においてb側にスイッチされているとすると、波長対応Bに従ってAWG801に再入力されるから、出力ポートG1を介してポートBから出力される。一方、a側にスイッチされたとすると、波長対応Aに従ってAWG801に再入力されるから、出力ポートG2を介してポートAから出力される。
【0044】
このように本実施形態の波長選択スイッチによれば、AWGの規模をほとんど拡大せずに、従来は3つ必要であったAWGを1つに統合し、なおかつ交差導波路の数が少なく、通過する交差導波路の数がスイッチ状態にほとんど依存しないグリッドレス型1×2波長選択スイッチを提供できる。
【符号の説明】
【0045】
101 第1アレイ導波路回折格子
102 スイッチアレイ
103 第2アレイ導波路回折格子
104 接続導波路
105 接続導波路
106 クラッド
107 コア
108 基板
301 光スイッチアレイ
1、S2、・・・SN 1入力2出力光スイッチ
302 波長カプラアレイ
1、C2、・・・CNーP 2入力1出力波長カプラ
401 1:1分岐カプラ
402 等長導波路
403 位相シフタ
404 クロスポート
405 バーポート
501 非対称導波路
502 入力ポート
503 入力ポート
801 アレイ導波路回折格子
802 入力導波路
803 出力導波路B
804 出力導波路A
805 接続導波路
806 接続導波路
807 等長化導波路
1001 分光器
1002 1入力2出力光スイッチ
1003 第1の合波器
1004 第2の合波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個の異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)を多重したN波長分割多重信号を入力信号とする1入力2出力の波長選択スイッチであって、
1つの入力導波路から入力されたN波長分割多重信号を波長分割して、N個の出力導波路へと出力する第1のアレイ導波路回折格子と、
前記N個の出力導波路からの出力光が並列に入力される1入力2出力の光スイッチをN個有する光スイッチアレイであって、該光スイッチアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N)番目の光スイッチは、前記N個の出力導波路のうちの1つの出力導波路からk番目に短い波長λkの光が入力され、該波長λkの光を2つの出力のうちの少なくとも一方から出力する、光スイッチアレイと、
前記N個の光スイッチのうちで隣接する波長の光を出力する2つの光スイッチからの出力光が並列に入力される2入力1出力の波長カプラをN−P(Pは1以上の整数)個有する波長カプラアレイであって、該波長カプラアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N−P)番目の波長カプラは、波長λkの光を出力するk番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、波長λk+pの光を出力するk+P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力がされ、該2つの入力を合波して1つの出力から出力する、波長カプラアレイと、
前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、前記光スイッチのうち最も短波長λ1の光を出力する第1番目の光スイッチからλpの光を出力する第P番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光を出力する第N番目の光スイッチからλN-P+1の光を出力する第N−P+1番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力とが入力されるN+P個の入力ポートを有し、該N+P個の入力ポートから入力された光を2つの出力ポートの少なくとも1方から出力する第2のアレイ導波路回折格子とを備え、
前記第2のアレイ導波路回折格子の入力ポートは、第1番目から第N+P番目の入力ポートが最も長いアレイ導波路に近い側から順次隣接して設けられており、第1番目から第P番目の入力ポートに前記第1番目から第P番目の光スイッチの出力が入力され、第k+P番目の入力ポートに第k番目の波長カプラの出力が入力され、第N+1番目から第N+P番目の入力ポートに前記第N−P+1番目から第N番目の光スイッチの出力が入力されるよう接続されており、
前記Pは、N個の互いに異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光を空間的に分離するよう選択されるパラメータであることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項2】
N個の異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)を多重したN波長分割多重信号を入力信号とする1入力2出力の波長選択スイッチであって、
N+P+1個の入力ポートと、N+2個の出力ポートを有するアレイ導波路回折格子であって、第1の入力ポートから入力されたN波長分割多重信号を波長分割して、第3から第N+2の出力ポートに接続されたN個の出力導波路へと出力するアレイ導波路回折格子と、
前記N個の出力導波路からの出力光が並列に入力される1入力2出力の光スイッチをN個有する光スイッチアレイであって、該光スイッチアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N)番目の光スイッチは、前記N個の出力導波路のうちの1つの出力導波路からk番目に短い波長λkの光が入力され、該波長λkの光を2つの出力のうちの少なくとも一方から出力する、光スイッチアレイと、
前記N個の光スイッチのうちで隣接する波長の光を出力する2つの光スイッチからの出力光が並列に入力される2入力1出力の波長カプラをN−P(Pは1以上の整数)個有する波長カプラアレイであって、該波長カプラアレイのうちの第k(k=1、2、・・・N−P)番目の波長カプラは、波長λkの光を出力するk番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、波長λk+pの光を出力するk+P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力がされ、該2つの入力を合波して1つの出力から出力する、波長カプラアレイとを備え、
前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、前記光スイッチのうち最も短波長λ1の光を出力する第1番目の光スイッチからλpの光を出力する第P番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光を出力する第N番目の光スイッチからλN-P+1の光を出力する第N−P+1番目の光スイッチのそれぞれにおける2つの出力のうちの1つの出力であるP個の出力とが前記アレイ導波路回折格子のN+P+1個の入力ポートのうちの第2番目から第N+P+1番目に入力され、該N+P個の入力光は2つの出力ポートの少なくとも1方から出力され、
前記アレイ導波路回折格子は、前記N−P個の前記波長カプラのN−P個の出力と、最も短波長λ1の光からλpの光をそれぞれ出力する第1番目から第P番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力と、前記光スイッチのうち最も長波長λNの光からλN-P+1の光を出力する第N番目から第N−P+1番目の光スイッチの2つの出力のうちの1つの出力とが入力され、該N+P個の入力ポートから入力された光を、第1および第2の2つの出力ポートの少なくとも1方から出力し、
前記N+P+1個の入力ポートは、第1番目から、最も長いアレイ導波路に近い側から順次隣接して設けられており、第2番目から第P+1番目の入力ポートに前記第1番目から第P番目の光スイッチの出力が入力され、第k+P+1番目の入力ポートに第k番目の波長カプラの出力が入力され、第N+P+1番目から第N+2番目の入力ポートに前記第N番目から第N−P+1番目の光スイッチの出力が入力されるよう接続されており、
前記Pは、N個の互いに異なる波長(λ1<λ2<・・・<λN)の光を空間的に分離するよう選択されるパラメータであることを特徴とする波長選択スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−97108(P2013−97108A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238703(P2011−238703)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】