説明

波長選択素子

【課題】偏光成分毎に波長選択特性を調整可能な波長選択素子を提供することができる。
【解決手段】波長選択素子10は、透光性を有する誘電体とされた基板12上に、金属膜14を積層した構成とされている。金属膜14は、該金属膜14の面方向に直交する方向に貫通した複数の貫通孔14Aを備えている。貫通孔14Aは、金属膜14の平面における、X方向と該X方向に直交するY方向との2方向に沿って格子状に配列されている。また、貫通孔14Aの金属膜14の面方向の断面形状は、本実施の形態では、該X方向に延伸した2辺と該Y方向に延伸した2辺との4辺からなる矩形状とされている。また、この金属膜14に設けられた貫通孔14Aの、該X方向の配列周期と、該Y方向の配列周期と、は、異なる配列周期とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の波長帯成分の光を選択的に透過する波長選択特性を示す素子としては、高分子材料を用いた素子が知られており、液晶プロジェクタなどの画像投影装置等に適用されている。この高分子材料を用いた素子としては、光吸収特性を有する色素顔料を分散した樹脂材料(カラーレジスト)を用いたものが知られている。
【0003】
このような高分子材料を用いた波長選択特性を示す素子は、材料のコストが比較的低く、また、大量生産に適したプロセスを適用できる利点がある。しかしながら、高分子材料を用いた波長選択特性を示す素子は、透過対象の波長帯毎にカラーレジストを用意して、フォトリソグラフィー及び現像のパターニング工程を繰り返し行う必要があった。このため、透過対象の光の波長帯の設定数と同数のパターニング工程が必要であり、容易に特定の波長選択特性を示す素子を得ることは難しかった。
【0004】
また、高分子材料を用いた素子では、カラーレジストに含まれる色素顔料の特性によって、波長選択特性が定まる。このため、透過対象の波長帯域の選択の自由度が色素顔料の特性によって制限される、という問題があった。また、上記カラーレジストに用いられる材料は、紫外線に対する耐光性が低く、長期使用により特性劣化や透明度低下が生じるといった問題があった。
【0005】
一方、波長選択特性を示す素子としては、無機材料の多層膜を用いた素子も知られている(非特許文献1参照)。
非特許文献1には、厚み方向の中央部に共振層を配置し、この共振層を反射層で挟んだ構成の素子が開示されている。非特許文献1では、共振層を挟む反射層を、高屈折率材料及び低屈折率材料を光学厚み1/4波長の周期で交互に積層した積層体とすることで、広帯域の非透過帯をつくる層としている。そして、非特許文献1では、透過対象の波長帯の設定数に対応する回数のフォトリソグラフィー及びエッチングのパターン形成工程を行って共振層の厚みを調整している。そして、この共振層のパターニングによって、該非透過帯の中の特定の波長帯を透過する素子としている。
【0006】
このような無機材料の多層膜を用いた素子は、高分子材料を用いた素子に比べて、波長選択性の向上や、透過させる波長帯成分の設計の自由度を向上させることができる。また、無機材料の多層膜を用いた素子は、高分子材料を用いた素子に比べて、耐光性及び耐温度特性に優れることから、素子の適用範囲を拡大することが出来る。
【0007】
しかしながら、無機材料の多層膜を用いた素子においても、透過対象の波長帯の設定数に対応する回数のフォトリソグラフィー及びエッチングのパターン工程を繰り返し実行する必要がある。このため、容易に特定の波長選択特性を示す素子を得ることは難しかった。
【0008】
一方、無機材料を用いた波長御選択特性を示す素子としては、単層の無機材料を用いた素子が提案されている(特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3参照)。
【0009】
特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3には、支持層やガラス基板上に、透過光波長と同程度の周期で配列された微細な孔を有する単層の金属薄膜を設けた構成が開示されている。これらの文献では、このような単層の無機材料層すなわち、単層の金属薄膜に設けられた孔の配列周期を調整することによって、金属薄膜と支持層またはガラス基板との界面における表面プラズモンのカップリングモードを調整し、透過光波長の選択制御を可能としている。このため、これらの文献に開示された技術によれば、波長選択自由度や、透過対象の波長帯成分の設計の自由度が向上する。また、これらの文献に開示された技術によれば、単層の無機材料層である金属薄膜に設けた孔の配列周期で、透過光波長の選択制御を実現するので、容易に波長選択特性を示す素子が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、近年、光学的なセンシングの用途を中心として、偏光成分毎に波長選択特性を調整可能な素子の実現要求が高まっている。しかしながら、上記特許文献1、非特許文献2、及び非特許文献3に開示された素子では、偏光成分毎に波長選択特性を調整することは出来なかった。
【0011】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、偏光成分毎に波長選択特性を調整可能な波長選択素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、入射光に含まれる特定の波長帯成分の光を選択的に透過する波長選択素子であって、透光性を有する誘電体である第1の基板と、前記第1の基板上に積層され、厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有する金属膜と、を備え、前記貫通孔は、前記金属膜の面上の互いに直交する第1の方向及び第2の方向の2方向に沿って格子状に配列され、前記貫通孔における前記金属膜の面方向に沿った断面形状が、前記第1の方向に延伸した2本の第1の辺、及び前記第2の方向に延伸した2本の第2の辺、の4辺からなる矩形状であり、前記貫通孔における前記第1の辺の延伸方向の長さ及び前記第2の辺の延伸方向の長さが、前記特定の波長帯成分の光の波長より短く、且つ前記貫通孔における前記第1の方向の配列周期と前記第2の方向の配列周期とが互いに異なることを特徴とする波長選択素子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏光成分毎に波長選択特性を調整可能な波長選択素子を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1の実施の形態の波長選択素子を示す模式図であり、(A)は、第1の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した平面図であり、(B)は、第1の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した(A)のA−A’断面図である。
【図2】図2は、第1の実施の形態の波長選択素子の、偏光角0°及び偏光角90°の各々における波長選択特性の測定結果を示す線図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態の波長選択素子について、配列周期Px/配列周期Pyを変化させたときの、偏光角90°の成分における光透過率のピークの変化を示す線図である。
【図4】図4は、第1の実施の形態の波長選択素子について、貫通孔14AのX方向の辺の長さDx/配列周期Pxを変化させたときの、偏光角90°の成分における光透過率のピークの変化を示す線図である。
【図5】図5は、第1の実施の形態の波長選択素子における、偏光成分毎の透過波長ピークを示す線図である。
【図6】図6は、第2の実施の形態の波長選択素子を示す模式図であり、(A)は、第2の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した平面図であり、(B)は、第2の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した(A)のA−A’断面図である。
【図7】図7は、第2の実施の形態の波長選択素子における、偏光成分毎の透過波長ピークを示す線図である。
【図8】図8は、第3の実施の形態の波長選択素子を示す模式図であり、(A)は、第3の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した平面図であり、(B)は、第3の実施の形態の波長選択素子を模式的に示した(A)のA−A’断面図である。
【図9】図9は、図8(B)に示す波長選択素子の一部の領域Qを拡大して示した模式図である。
【図10】図10は、金属膜と格子状領域の一部を拡大して示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる波長選択素子の一の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に示す、本実施の形態の波長選択素子10は、入射光に含まれる特定の波長帯成分を選択的に透過する素子である。この波長選択素子10は、基板12上に、金属膜14を積層した構成である。金属膜14は、該金属膜14の厚み方向に貫通した複数の貫通孔14Aを備えている。
【0017】
なお、図1中に、矢印X、矢印Y、及び矢印Zで示した矢印は、直交座標系を示している。この直交座標系におけるXY平面は、基板12及び金属膜14の積層方向に直交する面、及び基板12及び金属膜14の各々の面に平行な面である。また、該直交座標系における矢印Z方向は、波長選択素子10への光の入射方向を示している。この矢印Z方向は、貫通孔14Aの貫通方向(金属膜14の厚み方向)と同じ方向である。
【0018】
以下では、波長選択素子10に入射する光を、入射光と称して説明する。また、本実施の形態の波長選択素子10では、波長選択素子10には、入射光として、偏光角0°(図1中、矢印0°方向)及び偏光角90°(図1中、矢印90°方向)の双方の振動成分を含む偏光が入射するものとして説明する。
【0019】
基板12は、透光性を有する誘電体である。なお、本実施の形態において「透光性を有する」とは、入射光に対する透過率が80%以上であることを示している。
【0020】
基板12は、透光性を有する誘電体であれば、公知の何れの材料から構成してもよい。基板12の構成材料としては、例えば、SiOガラスや、石英ガラスや、BK7及びパイレックス(登録商標)等の硼珪酸ガラス、CaF、Si、ZnSe、AlOなどの光学結晶材料等が挙げられる。
【0021】
基板12の厚みとしては、物理的に安定で透光性を失わない範囲であれば、いかなる厚みであってもよい。
【0022】
金属膜14は、金属薄膜または金属板によって構成する。この金属膜14に用いられる金属は、いかなる金属であってもよく、波長選択素子10の適用分野や、設計要件に応じて適宜選択する。金属膜14に用いられる金属としては、具体的には、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)等が挙げられる。
なお、本実施の形態では、金属膜14には、一例として、アルミニウム(Al)を用いる場合を説明するが、このような構成材料に限られない。
【0023】
この金属膜14の厚みとしては、波長選択素子10を透過する波長帯成分の光が貫通孔14Aを介して伝播しうる厚みであればよい。
【0024】
この金属膜14上に複数設けられた貫通孔14Aは、金属膜14の上記XY平面における、互いに直交する上記X方向及び上記Y方向の2方向に沿って格子状に配列されている(詳細後述)。これらの複数の貫通孔14Aにおける、金属膜14の面方向(XY平面)に沿った断面形状は、上記X方向に延伸した2辺(第1の辺)と上記Y方向に延伸した2辺(第2の辺)と、の4辺からなる矩形状とされている。すなわち、貫通孔14Aの断面形状は、該貫通孔14Aの上記2方向の配列方向の内の一方の配列方向に延伸した2辺と、他方の配列方向に延伸した2辺と、の4辺からなる矩形状とされている。また、金属膜14上に設けられた複数の貫通孔14Aの大きさ(すなわち4辺の長さ)及び形状は、互いに同じ大きさ及び形状である。
【0025】
貫通孔14Aの上記矩形形状の4辺を構成する、上記X方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDx(図1参照)、及び上記Y方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDy(図1参照)は、波長選択素子10を透過する波長帯成分の光の波長より短い長さである。
【0026】
なお、本実施の形態では、これらの貫通孔14Aの上記矩形形状の4辺の内の、X方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDxと、Y方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDyと、は異なっており、長さDx<長さDyの関係を示す形態を説明する。しかし、これらの辺の長さは、同じであってもよく(長さDx=Dy)、また、長さDyが長さDxより長い形態(長さDx>長さDy)であってもよい。
【0027】
この金属膜14上に複数設けられた貫通孔14Aは、上述のように、金属膜14の上記XY平面における互いに直交する2方向(上記X方向と上記Y方向)に沿って格子状に配列されている。そして、さらに、本実施の形態の波長選択素子10では、この貫通孔14Aの、上記X方向の配列周期と、上記Y方向の配列周期と、は異なる配列周期である。
【0028】
この貫通孔14Aの「X方向の配列周期」とは、詳細には、貫通孔14AにおけるY方向に延びる2辺のうちの1辺から、X方向に隣接する貫通孔14AにおけるY方向に延びる2辺のうちの該1辺に対応する位置に配置された1辺までの長さを示している(図1中、Px参照、以下、配列周期Pxと称する)。また、貫通孔14Aの「Y方向の配列周期」とは、貫通孔14AにおけるX方向に延びる2辺のうちの1辺から、Y方向に隣接する貫通孔14AにおけるX方向に延びる2辺のうちの該1辺に対応する位置に配置された1辺までの長さを示している(図2中、Py参照、以下、配列周期Pyと称する)。
【0029】
なお、本実施の形態では、図1に示すように、貫通孔14Aの配列周期Pxが配列周期Pyに比べて長い場合を説明するが、波長選択素子10では、これらの2方向の配列周期が異なっていればよく、配列周期Pyが配列周期Pxに比べて長い形態であってもよい。
【0030】
これらの貫通孔14Aを金属膜14上に形成する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、エッチング法や、ホログラフィー打出し技術を用いた密着焼付法等が挙げられる。
【0031】
なお、図1には、波長選択素子10の一部を拡大して模式的に示した。このため、図1では、金属膜14には9個の貫通孔14Aのみが設けられた形態を示した。しかし、金属膜14には、波長選択素子10の適用対象に応じた数のさらに多数の貫通孔14Aが設けられていてもよい。
【0032】
このように構成された波長選択素子10では、金属膜14上に入射光が入射すると、該入射光に含まれる特定の波長帯成分が、金属膜14の界面(金属膜14と基板12の界面、及び金属膜14と空気との界面)において表面プラズモンとしてカップリングする。すなわち、入射光に含まれる、表面プラズモンとしてカップリングする特定の波長帯成分のみが、透過光成分として貫通孔14Aを経由して波長選択素子10内を伝播する。
【0033】
ここで、波長選択素子10内を選択的に透過する波長帯成分は、貫通孔14Aの配列周期によって定まる。
【0034】
本実施の形態の波長選択素子10では、上述のように、金属膜14に設けられた貫通孔14Aの断面形状は、貫通孔14Aの一方の配列方向(X方向)に延伸した上記長さDxの2辺と、貫通孔14Aの他方の配列方向(該X方向に直交するY方向)に延伸した上記長さDyの2辺と、の4辺からなる矩形状である。また、貫通孔14Aは、その2方向の配列方向である、X方向の配列周期PxとY方向の配列周期Pyとが、互いに異なる。
【0035】
このため、X方向の配列周期PxとY方向の配列周期Pyによって、波長選択素子10に入射する入射光の偏光角0°及び偏光角90°の各々の偏光成分毎に、金属膜14の界面で表面プラズモンとしてカップリングする波長帯成分を調整することができる。すなわち、本実施の形態の波長選択素子10では、入射光から透過光として抽出されるカップリングする波長帯成分を、偏光成分毎に調整することができる。
【0036】
従って、本実施の形態の波長選択素子10では、偏光成分毎に波長選択特性を調整することができる。
【0037】
なお、本実施の形態の波長選択素子10では、貫通孔14AのX方向の配列周期Pxと、Y方向の配列周期Pyとが異なっていることが必須であるが、以下の関係を示すことが好ましい。
【0038】
具体的には、貫通孔14AにおけるX方向の配列周期Px、及びY方向の配列周期Pyのうちの、より周期の長い一方の配列周期(本実施の形態では配列周期Py)に対する、より周期の短い他方の配列周期(本実施の形態では配列周期Px)の比率は、0.5以上0.9以下の範囲とすることが好ましく、0.6以上0.8以下の範囲とすることが更に好ましい。
【0039】
貫通孔14AにおけるX方向の配列周期PxとY方向の配列周期Pyとの関係を、上記範囲となるように調整することによって、波長帯成分を効率よく選択的に透過させることができる。
【0040】
一例として、基板12をSiOガラスで構成し、金属膜14をAlで構成し、貫通孔14AのX方向の配列周期Px、貫通孔14AのY方向の配列周期Py、貫通孔14AのX方向の辺の長さDx、貫通孔14AのY方向の辺の長さDy、金属膜14の厚みHの各々を、下記値とした波長選択素子10を用意した。
【0041】
配列周期Px:0.4μm,配列周期Py:0.6μm,貫通孔14AのX方向の辺の長さDx:0.2μm,貫通孔14AのY方向の辺の長さDy:0.3μm,金属膜14の厚みH:0.2μm
【0042】
そして、該構成とした波長選択素子10の、偏光角0°及び偏光角90°の各々の偏光成分における波長選択特性を測定し、測定結果を図2に示した。なお、配列周期Px/配列周期Pyの値は、0.66であった(Px/Py=0.4/0.6)。図2に示すように、本実施の形態の波長選択素子10では、偏光成分毎に、透過する光の波長帯域が異なっていることがわかる。このため、波長選択素子10では、偏光成分毎に波長選択特性を調整することができた。
【0043】
また、該構成とした波長選択素子10における、貫通孔14AのX方向の配列周期Pxのみを変化させて、配列周期の比率である配列周期Px/配列周期Pyを変化させたときの、偏光角90°の成分における光透過率のピークの変化を図3に示した。
【0044】
図3に示すように、光透過率のピークの現れる範囲は、配列周期Px/配列周期Pyの値が0.5以上0.9以下の範囲であった。このため、波長選択素子10では、配列周期Px及び配列周期Pyの関係を上記範囲内とすることで、偏光成分毎の波長帯成分を効率よく選択的に透過させることができた。
【0045】
なお、上述のように、本実施の形態の波長選択素子10では、貫通孔14Aの上記X方向の配列周期Pxと、上記Y方向の配列周期Pyとが異なっていればよいが、この貫通孔14Aにおける、該X方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDxは、該2辺の延伸方向であるX方向の配列周期Pxより短いことが好ましい。同様に、複数の貫通孔14Aの各々における、上記Y方向の配列方向に沿って長い2辺の長さDyは、該2辺の延伸方向であるY方向の配列周期Pyより短いことが好ましい。
【0046】
具体的には、貫通孔14AのX方向の配列周期Pxに対する、貫通孔14AのX方向の辺の長さDx(Dx/Px)の値は、0.5±10%以下の範囲であることが好ましい。また、貫通孔14AのY方向の配列周期Pyに対する、貫通孔14AのY方向の辺の長さDy(Dy/Py)の値は、0.5±10%以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
上記Dx/Px及び上記Dy/Pyが上記範囲であると、波長選択素子10の透過光として抽出された波長帯成分を、偏光成分毎により高い透過率で選択的に透過させることができる。
【0048】
図4には、上述の値(配列周期Px:0.4um,配列周期Py:0.6um,貫通孔14AのX方向の辺の長さDx:0.2um、貫通孔14AのY方向の辺の長さDy:0.3um,金属膜14の厚みH:0.2um)とした波長選択素子10における、貫通孔14AのX方向の辺の長さDxのみを変化させて、該Dx/Pxの値を変化させたときの、偏光角90°の成分における光透過率のピークの変化を示した。
【0049】
図4に示すように、光透過率のピークは、貫通孔14AのX方向の辺の長さDx/配列周期Px(Dx/Px)値0.5のときに、最大を示すことが確認された。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態の波長選択素子10では、偏光成分毎に波長選択特性を調整することができる。このため、本実施の形態においては、透過する光の波長選択自由度の高い波長選択素子10を提供することができる。
【0051】
また、本実施の形態の波長選択素子10は、金属膜としては、単層の金属膜14を有する簡便な構成である。このため、画像センサのような、3種類の波長帯(3色)以上の多数の波長帯の光を選択的に透過させる素子に波長選択素子10を適用する場合であっても、製造工程におけるコストの増大が抑制され、また、簡便な製造工程で波長選択素子10を作製することができる。
【0052】
また、上述のように構成された本実施の形態の波長選択素子10は、画像センサ、光ビーム集光、走査光学顕微鏡、フォトリソグラフィー、及び画像投影装置等の、特定の波長帯成分の光を選択的に透過する機能を必要とする各種装置に適用される。
【0053】
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態では、貫通孔14Aの設けられた金属膜14を基板12上に積層した構成の波長選択素子10を説明した。
本実施の形態では、波長選択素子10の構成に加えて更に基板16を配けると共に、貫通孔14Aを透光性及び誘電性を有する材料で充填した構成の波長選択素子10Aについて説明する(図6参照)。
【0054】
図6(A)及び図6(B)に示すように、本実施の形態の波長選択素子10Aは、基板12上に、金属膜14、及び基板16を順に積層した構成である。金属膜14は、複数の貫通孔14Aを備えている。また、本実施の形態では、各貫通孔14Aは、基板12と同じ屈折率(第1の屈折率)を有し且つ透光性を有する充填部18(第1の部材)によって充填されている。
【0055】
なお、本実施の形態の波長選択素子10Aは、金属膜14上に更に基板16を設けると共に、金属膜14の貫通孔14Aを充填部18によって充填した以外は、第1の実施の形態で説明した波長選択素子10と同じ構成である。このため、波長選択素子10と同じ機能及び同じ構成である部分には、同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0056】
基板16は、基板12と同様に、透光性を有する誘電体である。基板16は、基板12と同じ屈折率(第1の屈折率)であり、且つ透光性を有する誘電体であれば、いかなる材料から構成してもよい。基板16としては、例えば、基板12を構成する材料として挙げた材料が用いられる。
【0057】
充填部18は、基板12と同様に、透光性を有する誘電体である。充填部18は、金属膜14の貫通孔14A内に充填されることで、金属膜14の厚み方向の一端側が基板12に接合され、他端側が基板16に接合されている。
充填部18としては、基板12と同じ屈折率(第1の屈折率)であり、且つ透光性を有する誘電体であれば、いかなる材料から構成してもよい。充填部18には、例えば、基板12を構成する材料として挙げた材料が用いられる。
【0058】
ここで、第1の実施の形態で説明した波長選択素子10に入射する入射光に含まれる特定の波長帯成分は、金属膜14と基板12の界面、及び金属膜14と空気との界面、の双方において表面プラズモンとしてカップリングする。このカップリングする波長帯域は、金属膜14と基板12との界面と、金属膜14と空気との界面と、では異なる。このため、第1の実施の形態で説明した波長選択素子10では、偏光成分毎に、これらの2種類の界面に対応する2種類の特定の波長帯成分の光が波長選択素子10を透過する。このため、第1の実施の形態で説明した波長選択素子10では、具体的には、図5に示すように、これらの2種類の界面に対応する、2種類の透過波長ピーク(図5中、ピーク21a、ピーク21b参照)が偏光成分毎に得られることになる。
【0059】
一方、本実施の形態の波長選択素子10Aでは、図6に示すように、基板12上の金属膜14上に更に基板16を設けると共に、金属膜14の貫通孔14Aを充填部18によって充填している。
【0060】
このように、金属膜14の空気との界面を基板16にて被覆し、且つ貫通孔14Aを充填部18によって充填した構成とすることで、本実施の形態における波長選択素子10Aでは、偏光成分毎の透過波長ピークを1か所(1種類)とすることができる(図7中、ピーク21a参照)。
【0061】
また、本実施の形態の波長選択素子10Aでは、偏光成分毎の透過波長ピークを1か所とすることができるので、偏光成分毎の透過波長ピークが複数である場合に比べて、波長選択素子10の透過光として抽出される波長帯成分を、偏光成分毎により高い透過率で透過させることができる(図5及び図7参照)。
【0062】
(第3の実施の形態)
上記第2の実施の形態では、金属膜14を介して基板12に対向して基板16を配置すると共に、貫通孔14Aを透光性及び誘電性を有する充填部18で充填した波長選択素子10Aについて説明した(図6参照)。
【0063】
本実施の形態では、第2の実施の形態で説明した波長選択素子10Aの基板12及び基板16に変えて、後述する基板13及び基板17を用いた場合を説明する(図8参照)。
【0064】
図8(A)及び図8(B)に示すように、本実施の形態の波長選択素子10Bは、基板13上に、金属膜14、及び基板17を順に積層した構成である。金属膜14は、複数の貫通孔14Aを備えている。また、この貫通孔14Aは、充填部18(第1の部材)によって充填されている。
【0065】
なお、本実施の形態の波長選択素子10Bは、基板12に変えて基板13を用い、基板16に変えて基板17を用いた以外は、第2の実施の形態で説明した波長選択素子10Aと同じ構成である。このため、波長選択素子10Aと同じ機能及び同じ構成である部分には、同じ符号を付与して詳細な説明を省略する。
【0066】
基板13は、基板領域13B上に格子状領域13Aを積層した構成である。これらの領域は、連続相とされている。この格子状領域13Aは、金属膜14との界面に沿った層状の領域である。このため基板13は、金属膜14から遠い側に基板領域13Bが配置され、金属膜14に接する側に、該基板領域13Bに連続して格子状領域13Aが配置されている。
【0067】
基板17は、基板領域17B上に格子状領域17Aを積層した構成である。これらの領域は、連続相とされている。この格子状領域17Aは、金属膜14との界面に沿った層状の領域である。このため基板17は、金属膜14から遠い側に基板領域17Bが配置され、金属膜14に接する側に、該基板領域17Bに連続して格子状領域17Aが配置されている。
【0068】
基板領域13B及び基板領域17Bは、第1の実施の形態で説明した基板12と同様に、透光性を有する誘電体である。またこれらの基板領域13B及び基板領域17Bは、同じ屈折率である。基板領域13B及び基板領域17Bとしては、透光性を有する誘電体であり同じ屈折率であれば、いかなる材料から構成してもよい。基板領域13B及び基板領域17Bとしては、例えば、基板12を構成する材料として挙げた材料が用いられる。
【0069】
なお、本実施の形態の波長選択素子10Bにおいては、充填部18は、これらの基板領域13B及び基板領域17Bと同じ屈折率である。
【0070】
格子状領域17A及び格子状領域13Aは、図9に示すように、誘電体層20中に、複数の板状部材22を有してなる。この複数の板状部材22は、金属膜14との界面に沿って周期的に配列されている。誘電体層20は、透光性を有する誘電体であり、基板領域13B及び基板領域17Bと同じ屈折率である。誘電体層20としては、例えば、基板12を構成する材料として挙げた材料が用いられる。
【0071】
なお、図8〜図10には、板状部材22を、金属膜14の上記XY平面のX方向に沿って周期的に配列した(一次元配列)構成である場合を示した。しかし、板状部材22の配列方向は、金属膜14の上記XY平面のY方向に沿った方向であってもよいし、X方向及びY方向の2方向に沿った方向(二次元配列)であってもよい。
【0072】
板状部材22は、透過中心波長の1/2より小さい周期で周期的に配列されている。この透過中心波長とは、波長選択素子10を透過する波長帯成分の光の波長の中心(該波長帯の最大波長と最少波長との中心)の波長を示している。
この板状部材22としては、誘電体層20より高い屈折率を有する材料であれば、いかなる材料から構成してもよい。例えば、板状部材22の構成材料としては、TiOが挙げられる。
【0073】
波長選択素子10Bが、このような格子状領域13A及び格子状領域17Aを有する構成であることによって、これらの格子状領域13A及び格子状領域17Aにおける板状部材22のピッチ(板状部材22の配列周期に相当、図9及び図10中、ピッチP参照)、及び板状部材22の幅(板状部材22の配列方向の長さに相当、図9及び図10中、幅W参照)の調整によって、基板13及び基板17における金属膜14に接する領域の屈折率を調整することができる。以下では、基板13及び基板17における金属膜14に接する領域(すなわち、格子状領域13A及び格子状領域17A)の屈折率を、実効的な屈折率と称して説明する場合がある。
【0074】
以下に、周期的に配列された板状部材22のピッチP及び板状部材22の幅Wと、実効的な屈折率nとの関係を示す式を示した。
【0075】
【数1】

【0076】
【数2】

【0077】
【数3】

【0078】
式(1)〜式(3)中、nTE、nTM、n、n、f、w、及びpの各々は、下記意味を示す。
【0079】
TE:偏光角90°(図10中、矢印TE参照)の偏光の実効的な屈折率。
TM:偏光角0°(図10中、矢印TM参照)の偏光の実効的な屈折率。
:格子部材22の屈折率。
:隣接する格子部材22間の領域(媒質)の屈折率。
w:板状部材22の幅W。
p:板状部材22のピッチP。
f:ピッチpと格子幅wとの比(w/p)によって示されるフィルファクター。
【0080】
上記式(1)〜式(3)に示すように、板状部材22のピッチpと板状部材22の幅wとの比であるフィルファクターfを変化させることによって、格子状領域17A及び格子状領域13Aの実効的な屈折率は、板状部材22と誘電体層20の中間の屈折率となるように調整することができる。
また、式(1)〜式(3)に示すように、板状部材22のピッチpと板状部材22の幅wの比であるフィルファクターfを変化させることによって、格子状領域17A及び格子状領域13Aの実効的な屈折率は、入射光の偏光成分によって異なる値となる。
【0081】
このため、波長選択素子10Bが、このような格子状領域13A及び格子状領域17Aを有する構成であることによって、基板13及び基板17における金属膜14に接する領域の実効的な屈折率を容易に調整することができる。具体的には、この格子状領域13A及び格子状領域17Aの実効的な屈折率を増大させるほど、基板13及び基板17を透過する光の波長を、長波長側にシフト(推移)させることができる。
【0082】
従って、本実施の形態の波長選択素子10Bでは、金属膜14における貫通孔14Aの配列周期の調整と、基板17の格子状領域17A及び基板13の格子状領域13Aにおける板状部材22の配列周期の調整と、の双方によって、カップリング条件、すなわち、入射光における波長選択素子10Bを透過する透過波長帯を、偏光成分毎により細かく調整することができる。
また、本実施の形態の波長選択素子10Bでは、波長選択素子10Bの透過対象の波長帯域の設計自由度の大幅な向上を図ることができる。
【0083】
なお、本実施の形態では、図8〜図10に示すように、板状部材22が、金属膜14の上記XY平面のX方向に沿って周期的に配列された一次元配列構成である場合を説明した。このため、実効屈折率には入射光の偏光方向によって違いが生じる。しかし、金属膜14に設けられた貫通孔14Aと同様に、板状部材22をX方向及びY方向の2方向に沿って周期的に配列した二次元配列構成とすれば、この入射光の偏光方向の相違を回避することができる。
【0084】
そして、板状部材22を上記一次元配列とした構成とするか、上記二次元配列とした構成とするかは、本実施の形態の波長選択素子10Bの適用対象に応じて、適宜選択すればよい。
【0085】
なお、板状部材22の高さ(波長選択素子10Bの厚み方向における板状部材22の長さ、図8及び図10中、高さHa参照)については、特に制限されないが、金属膜14との界面におけるカップリング条件を効果的に調整する観点から、入射光波長以上であることが好ましい。
【0086】
また、本実施の形態では、基板13及び基板17の双方に、格子状領域(格子状領域13A及び格子状領域17A)が設けられた形態を説明した。しかし、基板13と基板17の内の何れか一方の基板にのみ格子状領域が設けられた形態であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
10、10A、10B 波長選択素子
12、13、16、17 基板
13A、17A 格子状領域
14 金属膜
14A 貫通孔
18 充填部
20 誘電体層
22 板状部材
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開2000−111851号公報
【非特許文献】
【0089】
【非特許文献1】IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS,VOL.27,NO.6,(2006)
【非特許文献2】Nature 445,39−46(2007)
【非特許文献3】電子情報通信学会技術研究報告 109(403),129−132,(2010)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光に含まれる特定の波長帯成分の光を選択的に透過する波長選択素子であって、
透光性を有する誘電体である第1の基板と、
前記第1の基板上に積層され、厚み方向に貫通した複数の貫通孔を有する金属膜と、
を備え、
前記貫通孔は、前記金属膜の面上の互いに直交する第1の方向及び第2の方向の2方向に沿って格子状に配列され、
前記貫通孔における前記金属膜の面方向に沿った断面形状が、前記第1の方向に延伸した2本の第1の辺、及び前記第2の方向に延伸した2本の第2の辺、の4辺からなる矩形状であり、
前記貫通孔における前記第1の辺の延伸方向の長さ及び前記第2の辺の延伸方向の長さが、前記特定の波長帯成分の光の波長より短く、
且つ前記貫通孔における前記第1の方向の配列周期と前記第2の方向の配列周期とが互いに異なることを特徴とする波長選択素子。
【請求項2】
前記貫通孔における前記第1の方向の配列周期及び前記第2の方向の配列周期のうちの、配列周期の長い一方の配列周期に対する他方の配列周期の比率が、0.1以上0.9以下である請求項1に記載の波長選択素子。
【請求項3】
前記金属膜を介して前記第1の基板に対向して配置され、透光性を有すると共に前記第1の基板と同じ第1の屈折率を有する誘電体とされた第2の基板と、
前記貫通孔に充填され、透光性を有すると共に前記第1の基板と同じ屈折率を有する誘電体とされた第1の部材と、
を更に備えた請求項1または請求項2に記載の波長選択素子。
【請求項4】
前記貫通孔における前記第1の辺の延伸方向の長さは、前記貫通孔における前記第1の方向の配列周期の0.5倍±10%以下であり、
前記貫通孔における前記第2の辺の延伸方向の長さは、前記貫通孔における前記第2の方向の配列周期の0.5倍±10%以下である請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の波長選択素子。
【請求項5】
前記第1の基板が、前記金属膜に接する面に沿った第1の領域を有し、
該第1の領域は、前記第1の基板と同じ前記第1の屈折率を有する誘電体層中に、該第1の屈折率より高い屈折率を有する複数の板状体を有してなり、
該板状体は、前記特定の波長帯成分の光の透過中心波長の1/2より小さい配列周期で前記金属膜の面に沿って配列された請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の波長選択素子。
【請求項6】
前記第2の基板が前記第1の領域を有する請求項3〜請求項5の何れか1項に記載の波長選択素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−159792(P2012−159792A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20887(P2011−20887)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】