説明

泥土の処理装置及び方法

【課題】河川、湖沼等の水底の被処理泥土中の有機物を分解して環境を改善する。
【解決手段】被処理泥土3上に多孔体の第1電極11を設置する。第2電極12を第1電極11が接する水と連続する水中に設置する。第1電極11と第2電極12を物理的かつ電気的に接続し、好ましくは外部回路13にて接続する。更に好ましくは、第2電極12に酸素供給手段20を接続する。外部回路13に燃料電池等の直流電源30を設けてもよい。第1電極11の表面上では、被処理泥土3中の有機物の酸化反応が起きる。第2電極12の表面上では、上記酸化反応に伴ない発生した水素イオンと外部回路13からの電子により還元反応が起きる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、河川、湖沼、海洋等の水底に堆積したヘドロ等の有機物を含む泥土を処理する装置及び方法に関し、特に被処理泥土中の有機物を酸化分解(燃焼)させて環境改善を行なう装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘドロは、河川、湖沼、海洋等の水場の底に堆積した有機物を含む泥である。水中の溶存酸素が十分であれば、好気的な微生物が活性化し、上記有機物を水と炭酸ガスに分解する。一方、溶存酸素量が十分でないときは、嫌気的な微生物が活性化し、有機物をメタンなどに分解したり、有機物中に存在する硫黄化合物を還元し硫化水素などの悪臭ガスを放出したりする。そのため、水質の劣化を招く。さらに、低酸素状態では、被処理泥土からリンが水中に溶出して水質が富栄養化し、植物プランクトン(アオコ)が大量に発生して水質が悪化することがある。
【0003】
このような水質悪化を防止するために、空気等の酸素含有気体を散気管から水中にバブリングして好気環境にすることが知られている(非特許文献1参照)。特許文献1では、水中に攪拌装置を設置してその内部に水を取り込み、かつ地上から空気を送り込んで攪拌している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3849986号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「高濃度酸素水生成装置を用いる汽水湖貧酸素水塊の水質改善及び湖底の底質改善」、清家泰、平成22年3月、平成19年度〜平成21年度科学研究費補助金[基盤研究(A)]研究成果報告書(研究課題番号19201016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のバブリングや攪拌をヘドロ等の水底の被処理泥土中で行なうと、被処理泥土が水中に舞い上がってしまう。被処理泥土より上方の水中でバブリングや攪拌を行なうと、酸素の泡は上方へ拡散するため、被処理泥土の周辺はなかなか好気環境にならない。しかも、水中の溶存酸素量には限界があり、バブリングや攪拌をいくら行なっても、酸素が平衡圧力以上に水に溶存することはない。したがって、バブリングや攪拌だけで水底を環境改善するのは容易でなく効率が悪い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明装置は、水底の被処理泥土中の有機物を分解する処理装置であって、
前記被処理泥土上に設置された多孔体の第1電極と、
前記第1電極が接する水と連続する水中に設置され、かつ前記第1電極と物理的かつ電気的に接続された第2電極と、を備えたことを特徴とする。
本発明方法は、水底の被処理泥土中の有機物を分解する処理方法であって、
前記被処理泥土上に設置した多孔体の第1電極の表面上で前記有機物の酸化反応を起こさせ、
前記第1電極が接する水と連続する水中に配置するとともに前記第1電極と物理的かつ電気的に接続した第2電極の表面上で、前記酸化反応に伴ない発生した水素イオンと電子により水素イオンの還元反応(水素イオンと酸素分子と電子とで水が生成される反応を含む)を起こさせることを特徴とする。
ここで、「物理的かつ電気的に接続」とは、第1電極と第2電極が外部回路を介して接続されているか、又は第1電極と第2電極が直接的に接続されていることを言う。第1電極と第2電極は、互いに離れ、かつ外部回路にて接続されていてもよい。更に、第1電極と第2電極は、水中を流れる水素イオン等の荷電粒子を介して電気化学的に接続される。
【0008】
第1電極の表面上では、被処理泥土中の固形の有機物が細菌によって酸化されて分解される。有機物としては、セルロース(C6H10O5)n、グルコース(C6H12O6)、フルクトース(C6H12O6)等の糖類の他、乳酸(C2O3H3)、酪酸(C4H8O2)、酢酸(C2H4O2)等の有機酸が挙げられるが、これ等に限るものではない。分解に寄与する微生物としては、例えば鉄還元細菌等の嫌気性細菌が挙げられる。鉄還元細菌は、鉄分及び有機物が存在する嫌気環境下において活性化し、鉄分を還元するとともに有機物を酸化して分解することでエネルギーを得る。好気性の微生物によって有機物を分解してもよい。有機物の分解に伴って炭酸ガス(CO2)の他、水素イオン(H+)や電子(e-)が生成される。水素イオンは、多孔体の第1電極を透過して水中に拡散する。電子は、第1電極に取り込まれ、外部回路又は直接接続からなる物理的電気的接続手段を通って第2電極へ流れる。第1電極と第2電極との間には静電場が形成される。この静電場によって前記水素イオンを第2電極に吸い寄せることができる。第2電極は、前記水素イオンの拡散方向の下流側に配置されることが好ましく、前記第1電極より高酸素濃度の場所に配置されることがより好ましい。この第2電極の表面上において、前記水素イオン(好ましくは更に酸素)が前記電子(e-)を受け取って還元される。このようにして、電子が第1電極から第2電極へ流れることで、被処理泥土中の有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促すことができる。これによって、被処理泥土中の有機物を燃焼させて被処理泥土を浄化でき、水底の環境を改善できる。被処理泥土の内部又は近傍でバブリング等を行なう必要はない。したがって、泥土が水中に舞い上がって水が濁るのを防止できる。更には、被処理泥土中の有機物からエネルギーを生産できる。前記外部回路に負荷を設けてもよい。負荷によって被処理泥土中の有機物の燃焼エネルギーを取り出して利用したり、消費したりすることができる。
【0009】
前記第2電極が、前記第1電極より水流の下流側に配置されていることが好ましい。これによって、前記水素イオンが、前記静電場だけで移動するよりも早い移動速度で第1電極から第2電極へ水流に乗って流れるようにできる。第2電極の表面上では、流れ着いた水素イオンと、第2電極中の電子と、更に好ましくは水中に溶存する酸素とから水を生成する反応を起こさせることができる(第1、第2、第6実施形態参照)。或いは、水素イオンと電子とにより水素分子を生成する反応を起こさせることができる(第3〜第5実施形態参照)。ひいては、第1電極の表面上で有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促進させることができる。
【0010】
前記処理装置は、前記第2電極に酸素含有気体を供給する酸素供給手段を更に備えていることが好ましい。これによって、第2電極の周辺の酸素濃度を確実に高めることができる。そして、第2電極の表面上で酸素と水素イオンが電子を受け取って水を生成する反応を確実に起こすようにできる。ひいては、第1電極の表面上で有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促進させることができる。酸素供給手段からの酸素は上記還元反応に消費されるため、第2電極の周辺の水中の溶存酸素量が飽和するのを防止でき、酸素供給のロスを抑制できる。
【0011】
前記第2電極が、多孔体にて構成されていることが好ましい。これによって、第2電極の単位体積当たりの比表面積を大きくできる。したがって、第2電極の表面上における還元反応を一層促進させることができる。
【0012】
前記第1電極を前記第2電極に対して高電位にする直流電源を設けてもよい。この場合、前記第1電極と前記第2電極は、互いに離れ、かつ外部回路によって物理的かつ電気的に接続されている。前記外部回路に前記直流電源を設けることが好ましい。これによって、有機物の酸化で生じた電子が第1電極に速い速度で取り込まれるようにできる。したがって、第1電極の表面上における有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を確実に促進させることができる。更に、水素イオンが第2電極に確実に到達するようにでき、第2電極上での水素イオンを還元させて水素イオンを生成できる。この還元反応には酸素が不要である。したがって、酸素を供給する必要がない。酸素と水素イオンによる還元反応の速度が遅くても、有機物の分解速度を大きくできる。
【0013】
前記直流電源が燃料電池を含むことが好ましい。更に、前記処理装置が、前記第2電極の上方に被さって前記第2電極からの気体を回収する覆い状の回収部と、前記回収した気体を前記燃料電池の燃料極に供給する燃料供給路とを備えていることが好ましい。第2電極では水素イオンが還元されて水素ガスが発生する。この水素ガスを回収部によって回収し、燃料供給路を経て燃料電池の燃料極に供給する。この水素を燃料にして、燃料電池が起電力を発生させる。したがって、系外からエネルギーを供給しなくても処理装置を十分に自立運転することができる。或いは供給エネルギーを低減できる。
【0014】
前記外部回路に前記燃料電池の出力電流を増幅する電流増幅手段を設けることが好ましい。これによって、第2電極からの水素の回収洩れや燃料電池での使用洩れ等の損失があっても、電流増幅手段によって燃料電池の出力電流を増幅することで、第1、第2電極間の電流を所望に維持できる。これによって、処理装置を継続して自立運転することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電子が第1電極から第2電極へ流れることで、被処理泥土中の有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促すことができる。これによって、水底の環境を改善できる。被処理泥土の内部又は近傍でバブリング等を行なう必要はなく、泥土が水中に舞い上がって水が濁るのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態に係る処理装置を設置した河川の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1実施形態を示したものである。河川1(水場)の川底1b(水底)にヘドロ3(被処理泥土)が堆積している。ヘドロ3には、セルロース(C6H10O5)n、グルコース(C6H12O6)、フルクトース(C6H12O6)、乳酸(C2O3H3)、酪酸(C4H8O2)、酢酸(C2H4O2)などの有機物が含まれている。更に、ヘドロ3には、水酸化鉄(Fe(OH)3)、酸化鉄(Fe2O3)等からなる赤錆が含まれていることが望ましい。赤錆の量が少ないときは、赤錆をヘドロ3中に散布してもよい。通常、川底1bは、河川1の水面1a近くと比べて酸素の濃度が低く、貧酸素環境になっている。そのため、ヘドロ3中では主に嫌気性の微生物が生息ないしは繁殖している。嫌気性の微生物として、例えば鉄還元細菌が挙げられる。
【0018】
処理装置10は、第1電極11と、第2電極12と、外部回路13(物理的電気的接続手段)を備えている。第1電極11は、炭素、金属等の導電性材料にて構成され、かつ多数の透孔11aを有する多孔体になっている。ここでは、第1電極11としてメッシュ状(網状)の炭素繊維が用いられているが、金属のメッシュにて構成されていてもよい。第1電極11は、液体又はイオンに対する透過性を有する多孔構造になっていればよく、メッシュ状に限られず、ウール状でもよく、スポンジ状でもよく、ポーラス状でもよい。
【0019】
更に第1電極11は、好ましくはある程度の面積を有するシート状又は面状になっている。この第1電極11がヘドロ3の上面に被せられている。第1電極11の面積は、ヘドロ3の広さ等を考慮して適宜設定する。第1電極11の下面はヘドロ3に接している。第1電極11の上面は河川1の水と接している。第1電極11の上面の一部にヘドロ3が被さっていてもよい。
【0020】
第2電極12は、炭素、金属等の導電材料にて構成されている。第2電極は、非多孔体でもよいが、好ましくはメッシュ状、ウール状、スポンジ状、ポーラス状等の多孔体になっている。第2電極12の全体形状は、シート状、面状、板状等の二次元形状でもよく、ブロック状、塊状等の三次元形状であってもよい。第2電極12の長辺方向と短辺方向のうち何れか(図では長辺方向)が、上下方向に向けられていることが好ましく、第2電極12の厚さ方向ないしは奥行き方向が水流aに沿っていることが好ましい。
【0021】
第2電極12は、河川1の水中すなわち第1電極11が接する水と連続する水中に配置されている。好ましくは、第2電極12は、河川1の水流方向(矢印aの方向)の第1電極11より下流側に離れて配置されている。第1電極11と第2電極12との離間距離は、最も近い箇所どうし間で0m〜1m程度、最も遠い箇所どうし間で2m〜100m程度が好ましい。更に好ましくは、第2電極12は、河川1の水面1aの近くに配置されている。一般に、水面1aの近くは、川底1bより酸素濃度が高く、富酸素環境になっている。詳細な図示は省略するが、第2電極12は、フロート等で水中に浮かんでいてもよく、水中に設置した支持台の上に支持されていてもよい。第2電極12は、河川1の水流aに対し直交するように配置されていてもよく、水流aと平行に配置されていてもよく、水流aに対し斜めに配置されていてもよい。
【0022】
第1電極11と第2電極12が外部回路13によって物理的かつ電気的に接続されている。外部回路13は、電極11,12どうしを繋ぐ接続配線14と、接続配線14上に設けられた負荷15を含む。負荷15は、ヘドロ3中の有機物の燃焼エネルギーを利用ないしは消費するものであり、その種類に特に限定はなく、発光体、発熱体、駆動体等の種々の負荷を適用できる。負荷15は、水中に設けられているが、水面1aより上に設けられていてもよい。
【0023】
上記のように構成された処理装置10の作用を説明する。
[アノード反応工程]
第1電極11の表面上では、鉄還元細菌等の微生物の代謝によって、ヘドロ3中の有機物が酸化(燃焼)されて分解される。例えば鉄還元細菌は、ヘドロ3中の鉄分を還元しながらヘドロ3中の有機物を酸化して分解する。有機物が分解されることで、炭酸ガス(CO2)と水素イオン(H+)が生成されるとともに、電子(e-)が第1電極11に放出される。
【0024】
例えばグルコース(C6H12O6)の分解の反応式は次式の通りである。
【数1】

このときの第1電極11の標準電極電位E11は、E11=0.0114V.vsh(グルコースの場合)である。ネルンスト電位を考慮した正味の第1電極11の電位E11(V.vsh)は、下式で表される。
【数2】

ここで、Rは気体定数、Tは絶対温度、Fはファラデー定数、[C6H12O6]は1Lあたりのグルコースのモル濃度、[H+]は1Lあたりの水素イオンのモル濃度、PCO2は炭酸ガスの平衡分圧(atm)である。
【0025】
上記の水素イオンは、第1電極11の透孔11aを透過して水中に拡散する。更に水素イオンは、河川1の水流に乗って下流すなわち第2電極12の側へ移動する。上記の電子は、第1電極11に取り込まれ、外部回路13を伝って第2電極12へ流れる。
【0026】
[カソード反応工程]
第2電極12の周辺の水中の酸素濃度は第1電極11より高い。したがって、第2電極12の表面上では、水中の酸素分子と、第1電極11から水中を流れて来た水素イオンが、外部回路13からの電子を受け取って、下式の還元反応を起こす。
【数3】

第2電極12をメッシュ等の多孔体にて構成することで、単位体積当たりの比表面積を大きくでき、第2電極12の表面上での上記反応(式3)を一層促進させることができる。このときの第2電極12の標準電極電位E12は、E12=1.229V.vshである。ネルンスト電位を考慮した正味の第2電極12の酸化還元電位E12(V.vsh)は、下式で表される。
【数4】

【0027】
ここで、PO2は酸素ガスの平衡分圧(atm)である。E12>E11になるため、第1電極11で生成した電子を外部回路13に沿って第2電極12へ確実に流すことができる(電流を外部回路13に沿って第2電極12側から第1電極11側へ流すことができる)。したがって、第1電極11の表面上における、有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応(式1)を確実に進行させることができる。これによって、ヘドロ3を浄化でき、川底1bの環境を改善できる。
【0028】
処理装置10を作動させるためのエネルギー供給は殆ど不要である。むしろ、有機物の分解によって電極11,12間の電位差分のエネルギーが得られる。このエネルギーを負荷15によって取り出し、種々の利用に供することができる。
装置10は、酸素源として水面1a近くの富酸素水の酸素を利用するものであり、ヘドロ3の全面にバブリング等で酸素を供給する必要がない。
【0029】
次に、処理装置10の運転初期の過渡状態での反応について述べる。
上記アノード反応工程の反応式1は、ヘドロ3中に鉄還元細菌等の微生物が十分に繁殖した定常状態で起きる反応の一例を表したものである。微生物が少ないときは、第1電極11でも式3の反応が優勢になる。このときの第1電極11の酸化還元電位E11(V.vsh)は、下式で表される。
【数5】

【0030】
第1電極11の周辺の酸素濃度(式5のPO2)は第2電極12の周辺の酸素濃度(式4のPO2)より小さい。したがって、両電極11,12周辺の水素イオン濃度が同じとすると、E12>E11になる。第1電極11の周辺の貧酸素状態によっては、第1電極11の電位E11がE11=100mV〜500mV程度まで下がり、第2電極12の電位E12より十分低くなる(E12>>E11)。よって、過渡状態においても、電子が第1電極11から外部回路13に沿って第2電極12へ流れる(電流が外部回路13上を第2電極12側から第1電極11側へ流れる)。したがって、第1電極11の表面上での有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応が進み、ヘドロ3中の微生物の代謝を促して増殖させることができる。増殖に伴なって、式1の反応が優勢になり、上記定常状態へ移行する。
【0031】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を適宜省略する。
図2は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態の処理装置10Aは、酸素供給手段20を更に備えている。酸素供給手段20は、圧送ポンプ21と、圧送管22と、散気管23を有している。圧送ポンプ21は、河川1の外部(水面1aより上側)に設けられている。圧送ポンプ21から圧送管22が延びている。圧送管22は河川1の内部に挿入されている。圧送管22の先端が分岐して複数(図では2つ)の散気管23に連なっている。各散気管23が第2電極12の下部に埋め込まれている。散気管23の管壁には、多数の散気孔23aが形成されている。
【0032】
第2実施形態の第2電極12は、炭素や金属等の導電材料からなるスポンジ、メッシュ、ウール等の多孔体にて構成され、好ましくは高さと幅と奥行きを有する立体形状(三次元形状)になっている。第2電極12は、第1電極11から離れて配置されており、具体的には第1電極11より水流aの下流側の川底1bのヘドロ3上に設置されている。川底1bは、水面1aの近くに比べて貧酸素環境になっている。第2電極12が、川底1bの近くに(ヘドロ3の少し上に離して)設置されていてもよく、富酸素濃度の場所(例えば水面1aの近く)に配置されていてもよい。
【0033】
第2実施形態では、空気(酸素含有気体)を圧送ポンプ21から圧送管22を経て散気管23へ圧送する。この空気が散気孔23aから泡24になって第2電極12中に吐出(バブリング)される。これによって、第2電極12の表面周辺の酸素濃度が高まる。したがって、式3にて示す還元反応を確実に起こすことができる。第2電極12は、スポンジ等の多孔体であり、単位体積当たりの比表面積が大きいため、式3にて示す還元反応を一層促進させることができる。酸素供給手段20からの酸素は上記反応(式3)に使われるため、第2電極12の周辺の水中の溶存酸素量が飽和するのを防止でき、気泡24中の酸素を水中の溶存酸素へ効率よく移動させることができる。したがって、気泡24が第2電極12より上の水中に抜け出る前に、ないしは気泡24が水面1aに達する前に、気泡24中の酸素を効率よく消費でき、酸素供給のロスを低減できる。ヘドロ3の全面に酸素を供給するためのバブリングは必要なく、電極12内で局所的にバブリングするだけで十分である。したがって、バブリングのエネルギーを小さくすることができる。ヘドロ3を巻き上げることを抑えることもできる。電極11,12間の電位差分のエネルギーを圧送ポンプ21の駆動に供してもよい。
【0034】
図3は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態の処理装置10Bでは、外部回路13に直流電源30が設けられている。直流電源30の正極31が配線14aを介して第1電極11に接続されている。直流電源30の負極32が配線14bを介して第2電極12に接続されている。直流電源30は、第1電極11を第2電極12に対して高電位にし、外部回路13の第2電極12側から第1電極11側へ電流を流す(電子を外部回路13の第1電極11側から第2電極12側へ流す)。電極11,12間の電位差は、0.1V〜1.2V程度が好ましい。負荷15を可変抵抗器にて構成し、電極11,12間の電位差を調節してもよい。負荷15は、配線14bに設けられているが、配線14aに設けてもよい。直流電源30の内部抵抗が負荷15を構成していてもよい。
【0035】
第3実施形態の第2電極12は、第1電極11が接する水と連続する水中に、第1電極11から空間的に離れて配置されている。好ましくは、第2電極12は、第1電極11より水流aの下流に配置されている。ここでは、第2電極12は、第2実施形態(図2)と同様に、第1電極11より水流aの下流側の川底1bのヘドロ3上に設置されている。第2電極12は、スポンジ、メッシュ、ウール等の多孔体にて構成され、高さと幅と奥行きを有する立体形状(三次元形状)になっていることが好ましい。
【0036】
第3実施形態の処理装置10Bによれば、直流電源30によって第1電極11の電位を高めることで、有機物の酸化時に放出される電子を第1電極11に確実に取り込むことができる。したがって、第1電極11の表面上における有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促進させることができる。また、直流電源30から電子を第2電極12に供給し、第2電極12を低電位にすることで、水中に遊離した水素イオンが第2電極12に確実に到達するようにできる。そして、第2電極12の表面上で、水素イオンが電子を受け取り、下式に示す水素イオンの還元反応が起きる。
【数6】

この還元反応には酸素が不要である。したがって、第2電極12に酸素を供給する必要はなく、酸素供給手段20を省略できる。酸素と水素イオンによる水の生成反応(式3)の速度が遅くても、有機物の分解速度を大きくできる。なお、式6における第2電極12の標準電極電位E12は、E12=0V.vshである。
【0037】
図4は、本発明の第4実施形態を示したものである。第4実施形態は、第3実施形態の具体的態様に係る。この実施形態の処理装置10Cでは、直流電源として燃料電池33が用いられている。(直流電源が燃料電池33を含む。)燃料電池33の空気極34(正極)が配線14aを介して第1電極11に接続されている。燃料電池33の燃料極35(負極)が配線14bを介して第2電極12に接続されている。
【0038】
第2電極12の上側には回収部41が設けられている。回収部41は、第2電極12に被さる覆い状(カバー状、フード状)になっている。回収部41から燃料供給路42が延びている。燃料供給路42の先端は、燃料電池33の燃料極35に接続されている。
【0039】
処理装置10Cでは、燃料電池33の起電力によって第1電極11を第2電極12に対して高電位にできる。これによって、第1電極11では有機物の酸化時に放出される電子を確実に取り込むことができ、ひいては有機物の電子放出反応すなわち酸化分解反応を促進させることができる。第2電極12では、水素イオンの還元反応(式6)が起き、水素ガスが発生する。水素ガスは、泡25になって第2電極12から上方へ拡散する。この水素ガス25を回収部41によって回収する。回収部41を第2電極12に被さる覆い状にすることで、水素ガス25を確実に回収できる。この水素ガスを燃料供給路42を経て燃料電池33の燃料極35に供給する。これによって、燃料電池33が、第2電極12からの水素ガスを燃料にして起電力を発生させることができる。具体的には、空気極34で式3と同じ酸化反応が起き、燃料極35で式6と同じ還元反応が起きる。
【0040】
燃料電池33の起電力は標準電極電位で計算して1.229Vであり、ロスを考慮しても約1Vである。これに対し、第1電極11と第2電極12の間には少なくとも標準電極電位の差E11−E12=0.0114Vに相当する電位差を印加すればよい。したがって、系外からエネルギーを供給しなくても処理装置10Cを十分に自立運転させることができる。
【0041】
図5は、本発明の第5実施形態を示したものである。第5実施形態の処理装置10Dでは、直流電源としての燃料電池33に電流増幅手段50が付加されている。電流増幅手段50は外部回路13に介在されている。この電流増幅手段50は、DC/DCコンバータにて構成されている。DC/DCコンバータ50は、直流入力電圧及び電流を、異なる大きさの直流電圧及び電流に変換して出力する。ここでは、電圧を下げ、電流を大きくする。DC/DCコンバータ50のプラス入力端子51は、燃料電池33の空気極34に接続されている。DC/DCコンバータ50のマイナス入力端子52は、燃料電池33の燃料極35に接続されている。DC/DCコンバータ50のプラス出力端子53は、配線14aを介して第1電極11に接続されている。DC/DCコンバータ50のマイナス出力端子54は、配線14bを介して第2電極12に接続されている。
【0042】
第2電極12から生じた水素ガスの一部が回収部41から漏れたり、燃料供給路42から燃料電池33に供給した水素ガスの一部が燃料として使われずに排出されたりすると、その損失分だけ燃料電池33からの出力電流が電極11,12間の電流より小さくなる。すなわち、燃料電池33から出力される電子のモル数が、第2電極12での水素還元に使われた電子のモル数より小さくなる。
【0043】
一方、燃料電池33からの出力電流は、DC/DCコンバータ50に入力され、DC/DCコンバータ50によって増幅される。これによって、水素の損失があっても、電極11,12間の電流を一定に維持できる。すなわち、DC/DCコンバータ50から第2電極12への電子の供給モル数を、第2電極での水素の還元に使われる電子のモル数に合わせることができる。この結果、処理装置10Dを確実に継続して自立運転できる。
【0044】
DC/DCコンバータ50では、電流の増大分だけ出力電圧が低下する。しかし、端子51,52間の入力電圧は燃料電池33の起電力に略等しく約1Vであり、これが電圧変換によって低下しても、端子53,54間の出力電圧は、電極11,12間の所要電圧差(E11−E12=0.0114V)と比べると十分に大きい。したがって、DC/DCコンバータ50の出力電圧の一部を電極11,12での反応維持に利用すればよく、残余の電圧は負荷15の電圧降下に回して種々の利用に供することができる。
【0045】
図6は、本発明の第6実施形態を示したものである。第6実施形態は、第1電極11と第2電極12の物理的電気的接続手段の変形態様に係る。第6実施形態の処理装置10Eでは、外部回路13が省略されている。これに代えて、面状の多孔体(例えばメッシュシート)からなる第1電極11が、大面積になってヘドロ3を広く覆っている。第1電極11は、ヘドロ3の大部分を覆う面積を有していてもよい。
【0046】
第1電極11における水流aの下流側(図6において右)の端部11yを除く主部分11xは、上面が水中に露出し、水と接している。第1電極11の上記下流側の端部11yの上面には、第2電極12が設置されている。第2電極12は、メッシュ状、ウール状、スポンジ状等の立体形状になっている。第2電極12の底面が第1電極11に直接的に接触することで、第1、第2電極11,12どうしが物理的かつ電気的に接続されている。第1電極11と第2電極12が溶接、クランプ、ネジ等の連結手段で連結されて固定されていてもよい。第1電極11と第2電極12が一体に連なっていてもよい。第1電極11と第2電極12が同じ金属材料にて構成されて同体に連なっていてもよい。第2電極12には、第2実施形態(図2)と同様の酸素供給手段20が接続されている。
【0047】
第6実施形態では、第1電極11の主部分11xの表面上において、有機物が酸化分解されて水素イオンや電子が生成される(式1)。水素イオンは、水流a及び第1、第2電極11,12間の静電場によって水中を第2電極12の側へ流れる。電子は、第1電極11に取り込まれ、端部11yから第2電極12へ流れ込む。多孔体の第2電極12内には酸素供給手段20から空気がバブリングされる。これによって、第2電極12の表面上で、酸素と水素イオンと電子とが反応して水が生成される(式3)。この結果、第1電極11の主部分11xにおける有機物の酸化分解反応を進行させることができ、川底1bの環境を改善できる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、本発明は、河川に限られず、海洋、港湾、湖沼、池、ダム、その他の種々の水場の水底の環境改善にも適用できる。被処理泥土3は、有機物を含むものであればよく、ヘドロに限られず、池や田圃の泥であってもよい。
処理装置10の運転初期に鉄還元細菌等の微生物を被処理泥土3に投入してもよい。鉄還元細菌を投入するときは、赤錆をも被処理泥土3に投入することにしてもよい。
電極11,12を白金、その他の金属触媒にて構成してもよい。
直流電源30は、燃料電池33に限られず、太陽電池、乾電池、蓄電池、モータ発電機、化石燃料発電機等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば河川や海洋の水底のヘドロの燃焼処理に適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 河川(水場)
1a 水面
1b 川底(水底)
3 ヘドロ(被処理泥土)
10,10A〜10E 処理装置
11 第1電極
11a 透孔
12 第2電極
13 外部回路
14 接続配線
15 負荷
20 酸素供給手段
21 圧送ポンプ
22 圧送管
23 散気管
23a 散気孔
24 空気の泡
25 水素ガスの泡
30 直流電源
31 正極
32 負極
33 燃料電池(直流電源)
34 空気極(正極)
35 燃料極(負極)
41 回収部
42 燃料供給路
50 DC/DCコンバータ(電流増幅手段)
51 プラス入力端子
52 マイナス入力端子
53 プラス出力端子
54 マイナス出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の被処理泥土中の有機物を分解する泥土処理装置であって、
前記被処理泥土上に設置された多孔体の第1電極と、
前記第1電極が接する水と連続する水中に設置され、かつ前記第1電極と物理的かつ電気的に接続された第2電極と、を備えたことを特徴とする泥土処理装置。
【請求項2】
前記第2電極が、前記第1電極より水流の下流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の泥土処理装置。
【請求項3】
前記第2電極に酸素含有気体を供給する酸素供給手段を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の泥土処理装置。
【請求項4】
前記第2電極が、多孔体にて構成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記第1電極と前記第2電極が、互いに離れ、かつ外部回路にて接続されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の泥土処理装置。
【請求項6】
前記外部回路に、前記第1電極を前記第2電極に対して高電位にする直流電源を設けたことを特徴とする請求項5に記載の泥土処理装置。
【請求項7】
前記直流電源が燃料電池を含み、
更に、前記第2電極の上方に被さって前記第2電極からの気体を回収する覆い状の回収部と、前記回収した気体を前記燃料電池の燃料極に供給する燃料供給路とを備えたことを特徴とする請求項6に記載の泥土処理装置。
【請求項8】
前記外部回路に前記燃料電池の出力電流を増幅する電流増幅手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載の泥土処理装置。
【請求項9】
水底の被処理泥土中の有機物を分解する泥土処理方法であって、
前記被処理泥土上に設置した多孔体の第1電極の表面上で前記有機物の酸化反応を起こさせ、
前記第1電極が接する水と連続する水中に配置するとともに前記第1電極と物理的かつ電気的に接続した第2電極の表面上で、前記酸化反応に伴ない発生した水素イオンと電子により還元反応を起こさせることを特徴とする泥土処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−130892(P2012−130892A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287219(P2010−287219)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】