説明

注入可能な架橋されたポリマー調製物およびその使用

損傷した組織の修復を促進するための組成物であって、架橋されたアルギン酸塩溶液であり、(一定条件下で)無限に液体形態で維持されることができ、インビボでのみゲル化する組成物。この架橋されたアルギン酸塩溶液は組織修復のために用いられる理想の材料である。心筋梗塞後の心臓組織中に前記材料を注入することにより組織再生が誘導された。本発明はかかる注入可能な溶液、並びに組成物およびそれらの調製方法を提供する。本発明は架橋されたアルギン酸塩溶液の様々な使用方法、とりわけ、心臓組織の再生のための、新生血管形成の誘導のための、SDF−1発現を増大させるための、および幹細胞の走化性を導くための使用方法も提供する。組織修復のためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボでヒドロゲルを形成する架橋されたポリマー(特に、アルギン酸塩)を有効成分として含有する注入可能な医薬組成物に関連する。本発明はまた、注入可能な架橋されたアルギン酸塩調製物の様々な使用、および、前記調製物を用いる処置方法(特に、心臓組織損傷の修復および心臓不整脈の除去)に関連する。
【背景技術】
【0002】
本出願明細書を通して言及されるすべての刊行物は、それらにおいて引用されるすべての参考文献を含めて、全体が本明細書中に参考として組み込まれる。
【0003】
心筋梗塞(MI)は心筋の急性損失をもたらし、また、左心室(LV)のリモデリングを誘導する負荷状態の突然の増大をもたらす[Sutton,M.G.およびSharpe,N.(2000)、Circulation、101:2981〜2988;Mann,D.L.(1999)、Circulation、100:999〜1008;Jugdutt,B.I.(2003)、Circulation、108:1395〜1403]。LVリモデリングの初期段階は梗塞域の拡大を伴い、これにより、早期の心室破裂または動脈瘤形成が生じ得る。後期のリモデリングはLV全体を伴い、時間依存的な拡張、瘢痕への境界域心筋の漸増、心筋形状の乱れ、および壁の肥大に関連する。後期のリモデリングは、収縮機能の進行性悪化、心不全および死をもたらす[Sutton,M.G.およびSharpe,N.(2000)、同上;Mann,D.L.(1999)、同上;Jugdutt,B.I.(2003)、同上]。進行性の心室リモデリングの中断または逆転は心不全治療の重要な目的である。しかしながら、心臓発作の悲惨な影響を最小限に抑えるための現在の臨床的介入は、しばしば、不可逆的な損傷、LVリモデリング、ならびに心不全および死のその後の発生を防止するために十分ではない[Khand,A.U.他(2001)、Eur.Heart J.、22:153〜164;Jessup,M.およびBrozena,S.(2003)、N.Engl.J.Med.、348:2007〜2018;Redfield,M.M.(2002)、N.Engl.J.Med.、347、1442〜1444]。しかしながら、この十年間に、本発明者らを含むいくつかの研究グループは、実験的な心筋梗塞部への胎児心筋細胞または新生児心筋細胞の細胞懸濁物の直接的な注入は心臓のリモデリングおよび機能を改善させたことを示している[Etzion,S.他(2001)、J Mol Cell Cardiol、33:1321〜1330;Leor,J.他(2003)、Expert Opin.Biol.Ther.、3:1023〜39]。他の研究グループは、骨格性筋芽細胞(骨髄由来の細胞)または胚性幹細胞を使用することによってそのような勇気づける発見を繰り返した。最近の報告では、内因性の心臓幹細胞が、特定の環境のもとでは心筋において増殖できる場合があり、また、骨髄から心臓に遊走し、心臓疾患後における修復におそらくは寄与し得ることが示唆されている[Beltrami,A.P.他(2003)、Cell、114:763〜776]。
【0004】
動物モデルにおける心臓細胞移植の有望な結果は、LV壁の構造、厚さおよび弾力性を維持した細胞外マトリックス(ECM)の再構築に起因すると部分的には考えられている[Etzion,S.他(2001)、J Mol Cell Cardiol、33:1321〜1330]。しかしながら、細胞移植法は、局所的な心臓構造が細胞接種を支援できない場合、臨床的な利益がほとんどないと考えられる。これは、局所的な心臓構造が存在しないか、またはひどく損なわれているためである。組織工学の概念により、この問題が、失われている構造基盤または損なわれた構造基盤(ECM)に取って代わり、自己の細胞または埋め込まれた細胞に一時的な支援を提供する生体適合材料の3D足場を使用することによって解決されるかもしれない[Leor,J.他、Circulation(2000)、102:III56〜61]。
【0005】
以前に、本発明者らは、心筋細胞が接種されたアルギン酸塩足場の、梗塞した心筋への埋め込みにより、LVのリモデリングおよび機能不全がいかに防止され得るかを示した[Leor,J.他(2000)、同上]。しかしながら、この方法は、適切な細胞がないこと、手術処置の危険性、全身麻酔、ならびにLV中隔壁および内壁への限定された操作のために制限されるかもしれない。本研究の目的は、新規なアルギン酸塩系生体適合材料の注入により、治癒および自己修復のための生物学的な足場を提供しながら、LVの構造および機能が急性MI後において効率的に保持され得るかどうかを調べることであった。今回、本発明者らは、この方法を使用するための証拠を示し、また、この方法が、広く利用されている方法を上回る利点を有することを示唆する。
【0006】
生物ポリマーの注入は、今までのところ、同時移植可能な細胞の生着を支援し、かつ促進するために使用されている。
【0007】
以前には、注入可能なアルギン酸塩配合物は、ゆっくり重合するアルギン酸カルシウムゲルの配合に基づいていた[国際特許出願公開WO94/25080]。これらの配合物は、新しい軟骨を生じさせるために、注入によって非常に多数の軟骨細胞を送達するために使用されていた。膀胱尿管逆流の内視鏡処置がアルギン酸塩−軟骨細胞の注入によって試みられていた。しかしながら、このシステムの機能は満足できるものではなかった。
【0008】
細胞を含有する注入可能な組成物が、好適な細胞を培地My99に懸濁し、この細胞懸濁物を等量の2%アルギン酸ナトリウム溶液と混合し、その後、ゲルを形成させるために、固体の硫酸カルシウム粉末を加えて、アルギン酸塩の架橋を開始させることによって作製されていた。そのような組成物は典型的には、懸濁物1mLあたり200mgの量で不溶性の硫酸カルシウムとともに、ヒドロゲルにおいて1%のアルギン酸ナトリウムを含有する。少量の塩化カルシウムが細胞懸濁物から組成物に持ち込まれることがある。経験では、そのような懸濁物は1時間程度の変化が見られない潜伏期を有し、その後、粘度が急速に増大して、比較的硬い、実に脆いゲルを粘度増大の半時間以内にもたらすことが示されている[国際特許出願公開WO94/25080]。
【0009】
しかしながら、上記タイプのヒドロゲル−細胞懸濁物の粘稠度は、必要としている患者への注入という目的のためには全く満足できるものではない。場合により、このヒドロゲル−細胞懸濁物は、患者に注入され得る前に硬化する。特に、臨床試験におけるその使用を許さない、これらの注入可能な細胞−アルギン酸塩配合物の欠点は、配合時の成分の分布が不良であることによるロット間での一定しない成績である。
【0010】
米国特許第6134334号は、薬物送達システムとして、または、具体的には角膜保護組成物もしくは剥離性角膜防御組成物として使用され得る、ゲル化物質を含有する注入することができない水性医薬用ビヒクルを記載する。
【0011】
国際特許出願公開WO99/15211は、注入時にPOLYTEF(商標)テフロンペーストと類似する粘稠度を有する注入可能な組成物を記載する。
【0012】
米国特許第5709854号は、インビボでゲル化し、組織形成を促進させるために使用される、細胞およびポリマーの注入可能な溶液を記載する。具体的には、この注入可能なアルギン酸塩溶液は、硫酸カルシウムを使用して重合された。このアルギン酸塩溶液は、限られた時間のみ(4℃で30分間〜45分間)液体であり、軟骨細胞を含有し、軟骨再生のために使用された。
【0013】
他の様々な注入可能なポリマー医薬組成物が記載されている。例えば、米国特許第6129761号は、注入による細胞送達のために使用されるゆっくり重合するヒドロゲルを記載する。具体的には、この刊行物は、ポリマーがとりわけアルギン酸塩であり得る細胞−ポリマー懸濁物を記載しており、細胞の埋め込みを改善するために意図される。
【0014】
米国特許第6171610号は、ヒドロゲルおよび組織前駆体細胞を含む液体ヒドロゲル組成物による新しい組織の生成を記載する。
【0015】
これらの参考文献に記載される技術では、細胞が必ず使用される。このことは相当の欠点であり得る。そのうえ、このような注入可能なポリマーを調製する方法(例えば、国際特許出願公開WO94/25080に記載される方法)は、本発明において提供される方法とは異なる。
【0016】
負のLVリモデリングを防止し、かつ、心筋梗塞後において心臓の機能を保持する注入可能な生物ポリマーが、Karen L.Christman[組織成長を操作することに関する国際会議、ピッツバーグ(ペンシルバニア州、米国)、2003年3月17日〜20日]によって記載された。この著者は、注入可能なフィブリンのりが、有害な心室リモデリングおよび心臓機能の悪化を防止するための内壁支持体および/または組織工学用足場として役立ち得ることを述べた。この刊行物は、無細胞組成物を使用することを提案する一方で、インビボでは、フィブリンのりがほんの約7日間しかフィブリンのりとして保持され得ないこと、そのうえ、フィブリンのりは免疫原性であり、かつ血栓形成性であることに留意しなければならない。これらは、組織再生のかなり長い期間において明らかな欠点である。
【0017】
国際特許出願公開WO97/44070(本発明者らによる)は、除去されているか、または損傷している組織の置換または修復のためのマトリックス、基質または足場として使用される埋め込み可能な多糖(例えば、アルギン酸塩)スポンジを記載する。この刊行物に記載されるスポンジは注入することができず、手術による介入を必要とする。手術を避けることは大きな利点である。
【0018】
米国特許第5776445号は、涙液と接触したときに溶解相からゲル相への変化を受ける、特定の割合のグルクロン酸を有するアルギン酸塩を含む眼用送達システムを記載する。
【0019】
損傷した組織の修復を促進させるための組成物を求めた研究において、本発明者らは、注入可能なポリマー溶液が有用であり得ることを見出した。より具体的には、本発明者らは、(一定の条件のもとで)無限に液体形態で維持することができ、かつインビボでゲル化するだけである新規なヒドロゲル(すなわち、架橋されたアルギン酸塩)を開発した。従って、本発明の新規なヒドロゲルは、組織修復のために使用される最適な材料として役立ち得る。
【0020】
従って、非免疫原性で、非酵素的に分解可能な生体侵食性ポリマーを含有するそのような注入可能な溶液、ならびにその調製方法を提供することは本発明の目的の1つである。前記ポリマーは、水分子を捕捉する構造化された網目組織を生じさせるために、共有結合による結合、イオン結合または水素結合によって架橋することができる。
【0021】
前記ポリマーがアルギン酸塩(特に、架橋されたアルギン酸塩)であるそのような注入可能な溶液を含む組成物を提供することは本発明のさらなる目的である。
【0022】
さらに、本発明の別の目的は、組織の修復および再生を促進させるための、特に、損傷した心臓組織の修復のための、注入可能な溶液の調製における前記架橋されたアルギン酸塩の使用である。
【0023】
本発明のこれらの目的および他の目的は、説明が進むにつれて明らかになる。
【発明の開示】
【0024】
本明細書中に記載されるように、本発明者らは、固体ゲルを形成する体内の所望する位置に注入されるまでは液体として流動し、しかし、十分な粘稠度を依然として維持する架橋されたアルギン酸塩生体適合材料を開発した。最も驚くべきことに、この架橋されたアルギン酸塩生体適合材料の注入は、細胞の同時移植を必要とすることなく、損傷した心筋の再生およびその機能の増大を促進させる。従って、心臓の梗塞部を処置するためのこれらの注入可能なポリマー溶液の使用は、心筋梗塞(MI)および慢性心不全(CHF)の処置において、胚性細胞の移植に基づく処置に代わる効率的な代替法であり得る。
【0025】
従って、第1の局面において、本発明は、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたポリマー溶液に関する。本発明によって使用される好ましいポリマーは、例えば、多糖のようなヒドロゲル形成ポリマーである。より好ましくは、前記多糖はアルギン酸塩である。
【0026】
1つの実施形態において、本発明のアルギン酸塩溶液は、混合物が、均質な架橋されたアルギン酸塩生体適合材料を得るために均質化されている間に二価または多価のカチオン(カルシウムイオンまたは他のイオン)により架橋される。本明細書中において規定されるように、典型的な架橋された溶液は0.1%〜4%(w/v)のアルギン酸塩を含む。そのうえ、架橋された溶液は貯蔵安定性である。すなわち、架橋された溶液は、その溶液形態およびシリンジ注入性を長期間にわたって維持する。通常、架橋されたアルギン酸塩溶液は、室温または室温以下の温度で、少なくとも24時間の期間にわたって、または7日間にわたって、または実に1年もの長い期間にわたって安定である。
【0027】
別の局面において、本発明は、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩溶液を調製する方法を提供し、この場合、前記方法は、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または任意の他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、好適な架橋剤を用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、前記架橋剤の水溶液を加えることによって架橋する工程
を含む。
【0028】
従って、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液を調製する方法の1つの具体的な実施形態において、前記架橋剤はカルシウムイオンであり、好ましくは、2%(w/v)のグルコン酸カルシウム溶液によって提供されるカルシウムイオンである。
【0029】
従って、本発明はまた、本明細書中に記載される方法によって調製される架橋されたアルギン酸塩溶液を提供する。
【0030】
本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液は、損傷した心臓組織の修復および再生を促進させるために使用することができる。
【0031】
さらなる局面において、本発明は、本明細書中に規定されるような架橋されたポリマー溶液を有効成分として含む組成物を提供する。架橋されたポリマー溶液において使用され得るポリマー(組成物に含まれる有効成分)の例には、多糖などのヒドロゲル形成ポリマーがある。好ましくは、ポリマーはアルギン酸塩である。
【0032】
本発明の方法によって調製される注入可能な調製物は、心筋梗塞後における損傷した心臓組織の処置のために、かつ/または、慢性心臓疾患の処置のために特に好適である。特に、本発明の方法によって製造される注入可能な調製物は、心筋事象後において左心室壁を厚くするために意図される。
【0033】
本発明の組成物の1つの実施形態において、前記損傷は、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷からなる群から選択される。
【0034】
別の実施形態において、本発明の組成物は、心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における使用のためのものであり、この場合、前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される。あるいは、本発明の組成物は、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈の処置において、また、治療的血管形成において使用することができる。
【0035】
本発明の組成物はまた、幹細胞の走化性を導き、損傷した心筋に幹細胞を向かわせることにおける使用のためのものである。
【0036】
さらなる実施形態において、本発明の組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する。この場合、前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される。
【0037】
本発明の組成物のさらにさらなる実施形態において、組成物はさらに、心臓の血管形成および再生を促進させることができる細胞(好ましくは、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、始原細胞、幹細胞または他の好適な細胞)を含む。
【0038】
なおさらなる局面において、本発明は、損傷した組織の修復および再生を促進させるための医薬組成物の調製における本発明の架橋されたポリマー溶液の使用を提供する。好ましくは、前記架橋されたポリマーはアルギン酸塩であり、前記組織は心臓組織であり、より好ましくは左心室壁である。前記損傷は様々な起源(例えば、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷)に由来し得る。
【0039】
従って、さらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたポリマー溶液を必要性のある対象に投与することを含む、損傷した組織を処置する方法を提供する。好ましくは、前記ポリマーは、架橋されたアルギン酸塩である。
【0040】
1つの実施形態において、処置される前記組織は心臓組織であり、好ましくは左心室壁である。本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液または組成物は、不整脈惹起性物質を除去するために、損傷した心筋に投与されるはずである。
【0041】
1つのさらなる局面において、本発明はまた、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、SDF−1の発現を増強する方法を提供する。
【0042】
別のさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるようなアルギン酸溶液、架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、幹細胞の走化性を導くか、または、損傷した心筋に向かわせる方法を提供する。
【0043】
さらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、血管新生を誘導する方法を提供する。
【0044】
なおさらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、治療的血管形成を誘導する方法を提供する。
【0045】
さらに、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全、虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される状態を防止する方法を提供する。
【0046】
もう1つのさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象の除去部位に投与することを含む、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈を処置する新規な代替方法を提供する。
【0047】
そのため、本発明の究極的なさらなる局面において、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の収縮性を改善する方法が提供される。
【0048】
本発明のもう1つの局面は、心臓細胞の増殖を誘導する方法であり、この方法は、インビボまたはインビトロにおいて、前記細胞を本発明の架橋されたアルギン酸溶液または組成物と接触させることを含む。
【0049】
最後に、本発明は、
(a)本発明において規定されるような架橋されたポリマー溶液またはその組成物;
(b)必要としている患者の心臓部位に(a)のポリマー溶液を投与するための手段;
(c)前記ポリマー溶液をどのように使用するかの指示マニュアル;
を含む、損傷した組織を修復するためのキットを提供する。
【0050】
本発明によって提供されるキットの1つの実施形態において、前記ポリマーは好ましくは、架橋されたアルギン酸塩である。
【0051】
本発明によって提供されるキットの別の実施形態において、架橋されたポリマーを投与するための前記手段は、18G〜27Gのニードルを有するシリンジ、電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルを含む、ガイドワイヤを有する心臓送達デバイスを含む任意の好適な経皮心臓送達システム、および、左心室腔、動脈または静脈の冠状系を介して心筋を評価するために設計された任意の経皮心臓デバイスのいずれかであり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
図1は1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩水溶液(LF5/60の粘度=40cP)の定常剪断粘度に対するカルシウムイオン添加の影響を示すグラフである。図1A:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。図1B:0.4%(w/v)のカルシウムイオン。略号:visc.、粘度;S.R.、剪断速度。
図2は1%(w/v)のLVGアルギン酸塩水溶液(LVGの粘度=127cP)の定常剪断粘度に対するカルシウムイオン添加の影響を示すグラフである。略号:visc.、粘度;S.R.、剪断速度。
図3は1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩溶液の機械的スペクトルおよびカルシウムイオン架橋の効果を示すグラフである。図3A:カルシウムイオンなし。図3B:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。図3C:0.4%(w/v)のカルシウムイオン。略号:Freq.、振動数
図4は1%(w/v)のLVGアルギン酸塩溶液の機械的スペクトルおよびカルシウムイオン架橋の効果を示すグラフである。図4A:カルシウムイオンなし。図4B:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。略号:Freq.、振動数
図5は超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図5A:LV拡張期の大きさ、Mモード(アルギン酸塩)。図5B:LV拡張期の大きさ、Mモード(対照)。図5C:LV収縮期の大きさ(アルギン酸塩)。図5D:LV収縮期の大きさ(対照)。図5E:LV拡張期の面積(アルギン酸塩)。図5F:LV拡張期の面積(対照)。図5G:LV収縮期の面積(アルギン酸塩)。図5H:LV収縮期の面積(対照)。略号:B.、基準;2mo.、2ヶ月。
図6は2−D超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図6A:AW2−D(アルギン酸塩)。図6B:AW2−D(対照)。図6C:LV拡張期の大きさ2−D(アルギン酸塩)。図6D:LV拡張期の大きさ2−D(対照)。図6E:LV収縮期の大きさ2−D(アルギン酸塩)。図6F:LV収縮期の大きさ2−D(対照)。略号:B.、ベースライン;2mo.、2ヶ月。
図7は超音波心臓造影法によるLV機能を示すグラフである。図7A:LV縮まり率(アルギン酸塩)。図7B:LV縮まり率(対照)。図7C:LV面積変化率(アルギン酸塩)。図7D:LV面積変化率(対照)。略号:B.、ベースライン;2mo.、2ヶ月;T、時間。
図8はアルギン酸塩生体適合材料は集中的な血管新生を誘導し、瘢痕厚さを増大すること示す写真である。図8A:正常な心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入。α−SMA抗体により、血管新生(矢印)および筋繊維芽細胞が同定される。図8B:梗塞した心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入は、瘢痕を有する数多くの筋繊維芽細胞を明らかにし、瘢痕の厚さを増大させた(12.5倍の倍率)。図8C:集中的な血管新生(褐色の染色)を示す図8Bの高倍率像(100倍)。図8D:図8Bの高倍率像(200倍)は多くの筋繊維芽細胞および集中的な血管新生(褐色の染色)を明らかにした。
略号:Norm、正常。
図9は梗塞した心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入はSDF−1(幹細胞に対する化学誘因物質)の発現を高めることを示す写真である。抗SDF−1抗体により免疫染色されたスライド切片の顕微鏡検査により、SDF−1タンパク質(褐色の色)の強い発現が、内皮細胞、SMC、繊維芽細胞において明らかにされ、また、予想外ではあったが、境界域の心筋細胞において明らかにされた。図9A:架橋されたアルギン酸塩生体適合材料による処置群から得られたサンプルの抗SDF−1染色(200倍)。図9B:対照(培養培地により処置された)から得られたサンプルの抗SDF−1染色(200倍)。図9C:梗塞した心筋と正常な心筋との間の境界域における染色された筋細胞に焦点を合わせた、アルギン酸塩生体適合材料による処置群から得られたスライド切片の抗SDF−1染色。略号:Cont.、対照。
図10は血管形成の(面積あたりの血管数での)定量を示すグラフである。略号:Ves.、血管;Alg、アルギン酸塩;cont.、対照。
図11はアルギン酸塩生体適合材料の注入は細胞の複製および再生を梗塞した心筋において誘導することを示す写真である。LAD閉塞後8週目の抗Ki67抗体による免疫染色。図11A:アルギン酸塩の注入を受けているブタは、DNA活性を有する内皮細胞(矢印)を高頻度で明らかにした。図11B:境界域の検査は、Ki67染色が陽性であるいくつかの筋細胞(細い矢印)、内皮細胞および繊維芽細胞を明らかにした。対照的に、生理的食塩水を受けている動物(データは示されず)では、梗塞域内のみ、繊維芽細胞の形態学を有し、Ki67との反応性を有する細胞が高頻度で存在した。略号:myoc.、心筋;Inf.、梗塞。
図12は注入可能な組織工学は虚血性僧帽弁逆流を逆転させることを示す図である。図12A:僧帽弁の輪状拡張を伴う虚血性僧帽弁逆流の概略図。図12B:左心室の全体的な幾何形状の変化および僧帽弁尖の拘束を伴う虚血性僧帽弁逆流の概略図。図12C:梗塞したLVの後外側セグメント(矢印)へのアルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入は、変位した乳頭筋の位置を以前の輪の方に戻して、拘束およびMRを軽減する。図12D:アルギン酸塩注入の概略図。
図13はポリマーは注入部位における細胞の保持を増大させ、血管形成を高めることを示すアルギン酸塩−筋芽細胞懸濁物の注入の写真である。図13A:抗デスミン抗体による免疫染色により、多核性筋芽細胞が同定された(褐色の染色、400倍)。図13B:アルギン酸塩溶液を伴う筋芽細胞懸濁物の注入により処置された心臓のH&E染色切片により、血管新生、および、赤血球で満たされた機能的な血管が明らかにされた(400倍)。図13C:4週間後の心筋内の筋芽細胞の生存および存在位置。抗骨格性早性ミオシン重鎖抗体による免疫染色により、注入部位における骨格性横紋化筋細胞(矢印)が明らかにされた(400倍)。
図14はアルギン酸塩生体適合材料の注入は、梗塞した心筋への幹細胞の呼び寄せを増強することを示す写真である。ヒト始原細胞についてのHLA−DR免疫染色(褐色の色)は、瘢痕組織(輸注後1週間)において、注入されたCD133+の始原体細胞が、架橋されたアルギン酸塩生体適合材料が注入された部位に向かい、その部位に定着したことを明らかにした。
下記の略号が本明細書において使用される:
BMP: 骨形態形成タンパク質
bFGF: 塩基性繊維芽細胞増殖因子
CHF: 慢性心不全
2−D: 二次元
DDW: 2回蒸留水
ECM: 細胞外マトリックス
EDA: 拡張期終期面積
ESA: 収縮期終期面積
GPC: ゲル浸透クロマトグラフィー
IGF: インスリン様増殖因子
LA: 左心房
LAD: 左前下行
LV: 左心室
LVEF: LV駆出率
LVID: LV内部大きさ
MALLS:多角度レーザー光散乱
MHC: ミオシン重鎖
MI: 心筋梗塞
Mn: 分子数
MR: 僧帽弁逆流
Mw: 分子量
PD: 多分散度
PM: 乳頭筋
SDF: 間質細胞由来因子
SMA: 平滑筋アクチン
TGF: トランスフォーミング増殖因子
VEGF: 血管内皮細胞増殖因子
WMSI: 壁運動スコア指数
【0053】
動物モデルにおける心臓細胞移植または組織工学の有望な結果は、LV壁の構造、厚さおよび弾力性を維持する細胞外マトリックス(ECM)の再構築に起因すると部分的には考えられている。本発明者らは、架橋されたアルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入によるECMの操作が、治癒および自己再生のための足場を提供しながら、LVの構造および機能を効率的に保持し得るかどうかを調べてきた。
【0054】
驚くべきことに、本発明者らは、下記の実施例において示されるように、ラットモデルにおける梗塞した心筋に注入されたとき、架橋されたアルギン酸塩の溶液の注入による、心筋梗塞後のLVの拡張および心筋機能不全の弱化が、胚性心筋細胞の移植によって達成される弱化と同等であったことを見出した。
【0055】
従って、心臓の梗塞部を処置するための注入可能なポリマー溶液の使用は、心筋梗塞(MI)および慢性心不全(CHF)の処置において、得ることが困難な胚性細胞の使用に代わる効率的な代替であり得る。
【0056】
この目的のために、本発明者らは、固体ゲルを形成する体内の所望する位置に注入されるまでは液体として流動し、しかし、十分な粘稠度を依然として維持する架橋されたアルギン酸塩生体適合材料を開発した。この架橋されたアルギン酸塩は、0℃〜30℃の間で変化する温度において、好ましくは、(21℃〜25℃の間である)室温において、体外ではその流動可能な形態で無限に保つことができ、そして、注入部位においてのみ、固体または半固体のゲルマトリックスを形成する。
【0057】
(下記において詳しく記載されるような)そのレオロジー挙動に基づいて、本明細書中において開発された架橋されたアルギン酸塩生体適合材料は、(実施例1において示されるように)永続的な架橋を有さず、また、強く振動数に依存し、G’−G”クロスオーバーを有し、かつ、低い振動数では液体として流動する点で強い共有結合性ゲルとは区別される絡み合った網目組織として定義される。
【0058】
従って、第1の局面において、本発明は、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたポリマー溶液に関する。
【0059】
剪断弱化挙動は、より低い剪断速度ではニュートン流体よりも粘性であり、より大きい剪断速度では粘性がさらになくなる溶液に特徴的である。べき乗則の関係を示す溶液は、その粘度が、その剪断速度が増大するに従って低下する溶液である。
【0060】
そのような性質を有する溶液を達成するために、本発明の架橋されたポリマー溶液は、ニュートン挙動を示し、かつ、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答がその弾性応答よりも大きいポリマー前駆体溶液から調製される。ニュートン挙動を示すポリマー溶液はまた、ニュートン流体(すなわち、一定の温度および圧力においてすべての剪断速度で一定の粘度を有し、また、変形率が、流体に加えられた応力に正比例する流体)とも呼ばれる。架橋したとき、溶液の弾性応答は、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になる。
【0061】
前記の加えられた小さい変形の振動周期は0.01Hz〜100Hzの粘弾性限界の範囲内であり、好ましくは、約0.1Hz〜10Hzの範囲内である。
【0062】
本発明によって使用される好ましいポリマーは、例えば、多糖のようなヒドロゲル形成ポリマーである。
【0063】
より好ましくは、前記多糖はアルギン酸塩である。アルギン酸塩は、カルシウムイオンなどの二価カチオンにより架橋されたとき、固体または半固体のゲルを形成するまで粘度の増大を受ける水溶性多糖である。
【0064】
実施例1において例示されるように、前記アルギン酸塩は様々なMwを有することができ、好ましくは10Kダルトン〜300Kダルトンの間の範囲にあり、より好ましくは25Kダルトン〜250Kダルトンの間の範囲にある。
【0065】
本発明のポリマー溶液の架橋は、水分子を捕捉する構造化された網目組織を生じさせるために、共有結合、イオン結合および水素結合のいずれかによって行うことができる。
【0066】
1つの実施形態において、アルギン酸塩溶液は、混合物が、均質な架橋されたアルギン酸塩生体適合材料を得るために均質化されている間に二価カチオンまたは多価カチオン(カルシウムイオンまたは他のイオン)により架橋される。
【0067】
本明細書中において規定されるように、典型的な架橋された溶液は0.1%〜4%(w/v)のアルギン酸塩を含み、好ましくは0.5%〜2%のアルギン酸塩を含む。そのうえ、架橋された溶液は貯蔵安定性である。すなわち、架橋された溶液は、その溶液形態およびシリンジ注入性を長期間にわたって維持する。通常の場合、架橋されたアルギン酸塩溶液は、室温または室温以下の温度で、少なくとも24時間の期間にわたって、好ましくは、少なくとも7日間にわたって、より好ましくは、1年までの期間にわたって安定である。
【0068】
本明細書中で使用される用語のシリンジ注入性は、溶液がその流体的特性を維持し、かつ、(シリンジおよびニードルを用いて)注入によって、(カテーテルまたはシャントを介して)カテーテル法によって、あるいは、電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルを含む、ガイドワイヤを有する心臓送達デバイスを含む任意の好適な経皮心臓送達システム、そして同様に、左心室腔、動脈または静脈の冠状系を介して心筋を評価するために設計された任意の経皮心臓デバイス、ならびに、必要としている対象の身体の任意の部分に流体を投与するための任意のさらなる好適な方法および手段(特に、非外科的方法)によって投与され得ることを意味するように理解しなければならない。従って、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液は、本明細書中上記に詳しく記載される手段のいずれかによって、必要としている対象に投与することができる。
【0069】
本発明の架橋されたアルギン酸塩生体適合材料は流動可能であり、18G〜27Gのニードルを介して身体組織(例えば、梗塞した心筋)に注入することができる。あるいは、上記に記載されるような他の好適な心臓送達システムを使用することができる。注入部位(インビボ)において、この架橋された生体適合材料はゲルを形成し、固体または半固体になる。
【0070】
本明細書中において示されるように、ゲルが、液体(通常、ヒドロゲルの場合には水)が散在する網目組織からなることに留意することは重要である。ゲルを定義する2つの一般的な基準は、(i)ゲルは液体を含有しなければならないこと、および(ii)ゲルはサンプル全体に広がる網目組織を有しなければならないということである。
【0071】
別の局面において、本発明は、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩溶液を調製する方法を提供し、この場合、前記方法は、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または任意の他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、好適な架橋剤を用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、前記架橋剤の水溶液を加えることによって架橋する工程
を含む。
【0072】
架橋は、イオンを使用することによって、またはpHを変化させることによって、または温度を変化させることによって達成することができる。イオン性の架橋剤には、金属カチオン(例えば、カルシウム、銅、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、スズ、亜鉛、クロムなど)、二官能性、三官能性および四官能性の有機カチオンが含まれる。ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)およびカチオン性多糖類などのポリイオンを使用することができる。
【0073】
従って、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液を調製する方法の1つの具体的な実施形態において、前記架橋剤はカルシウムイオンであり、好ましくは、2%(w/v)のグルコン酸カルシウム溶液によって提供されるカルシウムイオンである。
【0074】
架橋度により、注入したときにインビボで形成される固体貯留物の侵食速度が決定されることに留意しなければならない。注入可能な溶液におけるポリマーの濃度はその分子量に依存し、また、意図された架橋度に依存する。調製の設計は、液体/固体の適切な相転移を達成するために必要な要因(例えば、ポリマーのMwおよび濃度、ならびに架橋剤の濃度など)を考慮に入れなければならない。そのような設計は製薬分野の当業者の能力の範囲内である。実施例1は、本発明のポリマー溶液を達成するための好ましい条件の例示である。
【0075】
本発明によって使用される架橋されたポリマーは、インビボでゲル化し、従って、注入部位においてヒドロゲル貯留体を形成することができる生体適合性ポリマーでなければならない。ポリマーは、非酵素的に分解可能で、かつ生体侵食性でなければならない。最も重要なことは、ポリマーは好ましくは非免疫原性であることである。下記の実施例において示されるように、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液は、この溶液が注入された実験動物のいずれもが、架橋されたアルギン酸塩に対する免疫反応の徴候を何ら示さなかったため、非免疫原性である。
【0076】
従って、本質的には、本発明は、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩溶液を調製する方法で、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または任意の他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、均一な溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、好適な体積の2%(w/v)グルコン酸カルシウム溶液を加えることによってカルシウムイオンにより架橋する工程
を含む方法を提供する。
【0077】
必要に応じて、工程(a)で得られるアルギン酸塩溶液は、一連の好適なメンブランフィルター(例えば、1.2μm、0.45μmおよび0.2μmのナイロンフィルター)によりろ過することができ、その後、工程(b)に進むことができる。
【0078】
従って、本発明はまた、本明細書中に記載される方法によって調製される架橋されたアルギン酸塩溶液を提供する。
【0079】
予想外にも、本発明者らは、架橋されたアルギン酸塩生体適合材料のみの注入により、損傷した心筋の再生およびその機能の増大を、細胞同時移植に対する必要性を伴うことなく促進させ得るこ
とを見出した。
【0080】
その結果として、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液は、損傷した心臓組織の修復および再生を促進させるために使用することができる。
【0081】
さらなる局面において、本発明は、本明細書中に規定されるようなポリマー溶液を有効成分として含む組成物を提供する。
【0082】
ポリマー溶液において使用され得るポリマー(組成物に含まれる有効成分)の例には、多糖などのヒドロゲル形成ポリマーがある。好ましくは、ポリマーはアルギン酸塩である。
【0083】
本発明の方法によって調製される注入可能な調製物は、心筋梗塞後における損傷した心臓組織の処置のために、かつ/または慢性心不全の処置のために特に好適である。特に、本発明の方法によって製造される注入可能な調製物は、心筋事象後において左心室壁を厚くするために意図される。
【0084】
その結果として、本発明の組成物は、損傷した組織(好ましくは心臓組織、特に左心室壁)の修復および再生を促進させるために使用することができる。
【0085】
本発明の組成物の1つの実施形態において、前記損傷は、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷からなる群から選択される。
【0086】
別の実施形態において、本発明の組成物は、心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における使用のためのものであり、この場合、前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される。
【0087】
また、本発明の注入可能な調製物は、不整脈から生じる組織損傷の処置のために好適であり得ることが予想される。電気化学的な位置決めを使用して、本発明の注入可能な調製物は、「バイオ除去」のために、すなわち、不整脈の病巣および経路への注入による心臓不整脈の除去のために使用することができる。
【0088】
肥厚による心臓の順応は患者を心不全および潜在的には致死性不整脈に罹りやすくさせ得る。不整脈の機構は限局性またはリエントリー性のいずれかとして記載される。リエントリーは単純な概念であり、最も臨床的に重要な不整脈の機構である。リエントリーにより、その発生点に戻る経路上の心筋を通る電気的活性化の波面の進行が記述される。これにより、1サイクルのリエントリー回路が完成し、そして、ある種の臨界的な条件が存在するならば、伝導が何度も繰り返してその回路の周りで継続して、規則的な不整脈をもたらす。
【0089】
類似する巡回伝導経路をもたらす構造的変化が存在する何らかの状態では、それが先天的(例えば、補助的経路により媒介される頻脈、房室結節リエントリー性頻脈、および、おそらくは心房粗動など)または後天的(例えば、心筋梗塞後の心室性頻脈など)であったとしても、リエントリー性不整脈の潜在的可能性が存在する。対照的に、構造的な心臓疾患の多くの形態において存在するように、心筋の電気的性質の重篤かつ全体的な破壊が存在するときには、リエントリー波面が、一定の経路に従うことなく心筋を介して目的もなく蛇行して流れ、細動を生じさせ得る。限局性不整脈の基礎となる機構は、心筋の他の部分に広がる一群の細胞の異常な迅速かつ自発的な電気的活動である。
【0090】
アルギン酸塩生体適合材料の注入によるカテーテル除去の目的は、リエントリー回路を横断し、かつ遮断するか、または病巣を除去する最も安全かつ最も操作可能な地点を突き止め、その地点を除去することによって不整脈を除くことである。この技術では、心臓の関係した部分からの電気的シグナルを記録するために、X線透視装置による誘導のもとでの心臓への電極カテーテル(一時的なペーシングワイヤと酷似する、電極をその先端に有する絶縁されたワイヤ)の経皮導入を伴う。不整脈の機構が明らかにされると、電極カテーテルの1つが、除去エネルギー(高周波電流、これは予測可能であり、効果的であり、かつ十分に寛容される)が、不整脈の原因を破壊する限局化された瘢痕を生じさせるために送達される重要な部位に進められる。まとめると、架橋されたアルギン酸塩がリエントリー性経路または不整脈病巣に注入され、これにより、線維形成、および不整脈回路の妨害がもたらされる。
【0091】
従って、代替として、本発明の組成物は、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈の処置において使用することができる。
【0092】
本発明の組成物の別の使用は治療的血管形成においてである。
【0093】
本発明の組成物はまた、幹細胞の走化性を導き、損傷した心筋に向かわせることにおける使用のためのものである。
【0094】
さらなる実施形態において、本発明の組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する。この場合、前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される。
【0095】
様々な増殖因子をさらなる治療薬剤として使用することができ、例えば、血管形成刺激因子および血管再生増強因子(例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、TGFファミリーのメンバー、骨形態形成タンパク質(BMP)、血小板由来増殖因子、アンギオポイエチン、および他の因子(例えば、筋原性因子、転写因子、サイトカインおよびホメオボックス遺伝子産物など))を使用することができる。
【0096】
サイトカイン、増殖因子および血管形成因子を、組織再生を高めるために、生分解性のマイクロ粒子またはナノ粒子にカプセル化することができ、また、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液のような生体適合材料に埋め込むことができる。注入されたとき、インビボでゲル化する本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液の注入によって作製される足場のような、細胞マトリックスを模倣することができる足場は、下記の実施例において示されるように、直接的な血管再生だけでなく、新しい心筋の成長を刺激する潜在的能力を有する。
【0097】
本発明の組成物のさらにさらなる実施形態において、組成物はさらに、心筋の血管形成および再生を促進させ得る細胞(好ましくは、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、始原細胞、幹細胞または他の好適な細胞)を含む。
【0098】
実施例6において示されるように、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液と一緒での筋芽細胞の注入は、注入部位における移植された筋芽細胞の保持を高め、血管形成および機能的な血管の形成を誘導した。筋芽細胞は、骨格性横紋を見せる多核性繊維に分化した。
【0099】
医薬組成物の調製はこの分野では十分に知られており、多くの論文および教本に記載されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Gennaro A.R.編、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1990、特にその1521頁〜1712頁)を参照のこと。
【0100】
なおさらなる局面において、本発明は、損傷した組織の修復および再生を促進させるための医薬組成物の調製における本発明のポリマー溶液の使用を提供する。好ましくは、前記ポリマーは、架橋されたアルギン酸塩であり、前記組織は心臓組織であり、より好ましくは左心室壁である。前記損傷は様々な起源(例えば、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷)に由来し得る。
【0101】
従って、さらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるようなポリマー溶液を必要性のある対象に投与することを含む、損傷した組織を処置する方法を提供する。好ましくは、前記ポリマーは、架橋されたアルギン酸塩である。
【0102】
1つの実施形態において、処置される前記組織は心臓組織であり、好ましくは左心室壁である。本発明の架橋されたアルギン酸塩または組成物は、不整脈惹起性基質を除去するために、損傷した心筋に投与されるはずである。
【0103】
本発明において、本発明者らは、広範囲のMIのラットモデルにおける梗塞した心筋への、アルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入により、LVの拡張および心筋の機能不全が弱まることを初めて示している(実施例2)。この結果は、重篤な心筋損傷の後においてLVの幾何形状および機能を保持するための、また、LVの機能不全を防止するための注入可能な生体適合材料足場の概念の証拠および新規な選択肢を提供している。この研究は、適切な数の機能的なドナー細胞を心臓組織工学のために達成する際の様々な困難に対する実行可能な代替法を示唆している[Etzion,S.他(2001)、Am J Cardiovasc Drugs、1:233〜244]。さらに、そのような代替法は、血管新生およびSDF−1生存因子の発現を誘導することによって、細胞の保持、定着および生存を改善するために細胞送達と一緒に使用することができる。
【0104】
アルギン酸塩生体適合材料の注入が組織の修復および再生をどのように生じさせるかの機構は明らかではない。おそらくは、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液の注入は、心室のサイズを安定化させ、瘢痕の厚さを増大させることによって壁応力を低下させる。この機構は、この心筋領域において、梗塞の拡大を阻害することができ、かつ、動脈瘤形成を妨げることができる。あるいは、アルギン酸塩注入の好都合な効果は、その制約された機械的性質を超えていることがあり、部分的には血管新生および再生の誘導に関係づけられ得る。
【0105】
壁応力の同時増大を伴うLVの拡大および球状変形はLVリモデリングの病理発生における重要な要素である[SuttonおよびSharpe(2000)、同上;Mann(1999)、同上]。このことが、進行性の左心室拡張および変形を是正することを目指す網状移植片移植による受動的な外部からの閉じ込めのための理論的根拠である。MIまたは拡張型心筋症の動物モデルまたは患者を使用するいくつかの研究では、心筋の構造および機能に対する受動的な心臓閉じ込めの有益な効果が明らかにされている[Kelley,S.T.他、Circulation、1999、99:135〜142;Pilla,J.J.他(2002)、Circulation、106:I207〜211;Saavedra,W.F.他(2002)、J Am Coll Cardiol、39:2069〜2076;Lembcke,A.他(2004)、Eur J Cardiothorac Surg、25:84〜90]。心臓拡大を抑制することに加えて、包囲効果は、領域的な心室壁応力および心筋活動を低下させることが仮定される。注入された生体適合材料が、傷害を受けたECMに取って代わり、遊走中の細胞または埋め込まれた細胞が自身のECMを産生し、より強固な瘢痕をもたらすまで、一時的な足場を提供することが可能である。
【0106】
本研究における興奮させる新しい発見は、アルギン酸塩の注入により処置された心臓の梗塞域および境界域における強いSDF−1発現である。SDF−1は、幹細胞の呼び寄せおよび走化性の重要な調節因子である。この効果は、注入された生体適合材料により、血管新生および心筋の再生に関係する幹細胞を注入部位に引き寄せるシグナル伝達系が活性化されることを示唆している。
【0107】
従って、1つのさらなる局面において、本発明はまた、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、SDF−1の発現を増強する方法を提供する。
【0108】
明らかではあるが、循環している幹細胞は、SDF−1の勾配の方に向かう移動能力を示すインビトロ実験[Kollet,O.他、Blood、2001、97:3283〜3291;Lapidot,T.およびPetit,I.(2002)、Exp Hematol、30:973〜981]によって明確に明らかにされるように、SDF−1濃度の高い病巣に向かう。免疫不全マウスの脾臓および骨髄へのヒトSDF−1の注入は脾臓および骨髄への移植されたヒト幹細胞の迅速な呼び寄せを生じさせた[Kollet他(2001)、同上]。他のデータは、幹細胞の呼び寄せが骨髄に限定されないだけでなく、傷ついた心臓においてもまた見出され得るというSDF−1の概念と一致する[Askari,A.T.他、Lancet、2003、362:697〜703;Pillarisetti,K.およびGupta,S.K.、Inflammation、2001、25:293〜300]。従って、SDF−1は、これらの呼び寄せ効果を引き起こすことにおいて重要な役割を有し得る。SDF−1は、CXCR4を介して、血管形成をインビボで誘導する[Salcedo,R.他、Am J Pathol、1999、154:1125〜1135;Tachibana,K.他、Nature、1998、393:591〜594;Salvucci,O.他、Blood、2002、99:2703〜2711]。SDF−1およびCXCR4は直接的に細胞の生存を高める[Broxmeyer,H.E.他(2003)、J.Leukoc.Biol.、73:630〜638;Yamaguchi J−I他(2003)、Circulation、107:1322〜1328]。Yamaguchiおよび共同研究者ら[Yamaguchi他(2003)、同上]は、血管新生に対するSDF−1の影響が、移植された内皮始原体細胞(EPC)の補充および取り込みを高めるその能力に由来するようであることを示した。別の研究において、Askariおよび共同研究者らは、顆粒球コロニー刺激因子による幹細胞の可動化と組み合わせられた、SDF−1を発現する遺伝子組み換えされた心臓繊維芽細胞の移植は、低下した心筋機能を回復させ得ることを示した[Askari他(2003)、同上]。さらに、SDF−1は、CXCR4を介して始原体細胞の生存/抗アポトーシスを直接的に高める[Broxmeyer,H.E.他(2003)、同上;Yamaguchi他(2003)、同上]。
【0109】
従って、別のさらなる局面において、本発明は、架橋されたアルギン酸溶液、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、幹細胞の走化性を導くか、または、損傷した心筋に向かわせる方法を提供する。
【0110】
リモデリング過程の不可欠な成分は心筋梗塞瘢痕内における血管新生の発達である。正常な状況のもとでは、梗塞床毛細管網目組織に対する血管新生の寄与は、収縮性代償のために要求される組織成長と足並みをそろえるためには不十分であり、また、肥厚しているが、成長可能な心筋のより大きな要求を支えることができない。肥厚した心筋細胞に対する酸素および栄養分が比較的不足することは、進行性の梗塞拡大および線維性置換をもたらす、他の場合には成長可能な心筋の死における重要な病因的要因であり得る。ヒトおよび動物モデルの両方における梗塞血管床の遅い再灌流は心室リモデリングに著しい利益を与えるため、血管新生は、肥厚しているが、他の場合には成長可能な心筋細胞の喪失を妨げることによって心臓機構を改善し得る。
【0111】
処置された心臓の顕微鏡検査(図8A〜図8D)では、アルギン酸塩の注入により、梗塞した心筋において、多くの筋繊維芽細胞が補充され、集中的な血管形成が促進されたことが明らかにされた。梗塞周囲領域に向かう血流の回復が全体的なより良好な梗塞治癒と関連し得ることが考えられる[Kocher,A.A.他(2001)、Nat Med、7:430〜436]。血液が満たされた冠状動脈血管床によってもたらされる「起立力」としての血管新生足場の有益な役割がSalisbury他[Salisbury,P.F.他(1960)、Circ Res、8:794〜800]によって最初に示唆されており、Braunwald[Braunwald,E.、Circulation、1989、79:441〜444]の研究の結果によってさらに裏付けられている。さらに、HaleおよびKlonerは、遅く再灌流されたラットの梗塞部における(放射状応力に対する増大した抵抗性を示す)厚くなっている瘢痕を報告した[Hale,S.L.およびKloner,R.A、Am Heart J、1988、116:1508〜1513]。
【0112】
まとめると、広範囲のMIの後における血管新生は細胞死を防止し、生存性を維持し、かつ、LVのリモデリングおよび機能不全を防止することができる[Kocher他(2001)、同上;Abbate,A.他、J Cell Physiol、2002、193:145〜153;Abbate,A.他、Circulation、2002、106:1051〜1054]。それにより、LVの拡張および機能不全を防止する生物学的な足場および受動的な抑制がもたらされ得る。
【0113】
上記で議論された結果を考慮して、さらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、血管新生を誘導する方法を提供する。
【0114】
急性MIに由来する筋肉損傷の程度を低下させるための様々な試みが多くの方法で成功しており、しかし、梗塞後の瘢痕化、リモデリング、拡張、およびその後の心不全の問題が残っている。残念ながら、梗塞を制限する現代の方法(例えば、早期再灌流、洗練された線維素溶解性の抗血小板処置、および心筋保護など)の利点はすべてが、それらの明らかな限界に近づきつつある。その結果、研究者は、最初の損傷を制限または防止することにもっぱら集中するのではなく、古い梗塞した心筋を新しい組織により置換することを目指した新しい方法を積極的に開発し続けている。治療的血管形成が、従来の経皮的方法または外科的方法を容易に受けつけない症候性虚血性心臓疾患を処置することに対する潜在的に新しい方法として出現している。「選択肢がない」そのような患者が、閉塞性冠状動脈疾患の処置のために照会された全患者の12%もの多くを表し得る。新しい血管の形成および側副循環を誘導することによって、治療的血管形成は、虚血性組織の灌流および生存性、治癒を高め、進行性の心筋損傷を防止する。
【0115】
従って、なおさらにさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、治療的血管形成を誘導する方法を提供する。
【0116】
血管新生および血管形成のこれらの用語は本明細書中では交換可能に使用される。
【0117】
さらに、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全、虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される状態を防止する方法を提供する。
【0118】
もう1つのさらなる局面において、本発明は、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象の除去部位に投与することを含む、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈を処置する新規な代替方法を提供する。
【0119】
本発明の架橋されたアルギン酸塩は、心筋収縮の特性(例えば、力、最大圧力、強さ、駆出時間および心拍出量など)によって定義される収縮期機能を改善するために使用することができる。
【0120】
そのため、本発明の究極的なさらなる局面において、本発明において規定されるような架橋されたアルギン酸溶液または組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の収縮性を改善する方法が提供される。
【0121】
興味深いことに、本発明者らは、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液が注入されたとき、心筋細胞が、増殖するように誘導されたことを明らかにしている。このことは、Ki67(細胞増殖マーカー)に対して反応性の抗体が、梗塞した心臓において陽性に反応した実施例4において例示された。このことは、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液は、細胞増殖または細胞分裂、および、その結果としてDNA合成を誘導することができることを示唆している。すなわち、架橋されたアルギン酸塩溶液は、細胞周期に再び入るように周りの組織を誘発する。
【0122】
従って、本発明のもう1つの局面は、心臓細胞の増殖を誘導する方法であり、この方法は、インビボまたはインビトロにおいて、前記細胞を本発明の架橋されたアルギン酸溶液または組成物と接触させることを含む。
【0123】
最後に、本発明は、
(a)本発明において規定されるようなポリマー溶液またはその組成物;
(b)必要としている患者の心臓部位にポリマー溶液を投与するための手段;
(c)前記ポリマー溶液をどのように使用するかの指示マニュアル;
を含む、損傷した組織を修復するためのキットを提供する。
【0124】
本発明によって提供されるキットの1つの実施形態において、前記ポリマーは好ましくは、架橋されたアルギン酸塩である。
【0125】
本発明によって提供されるキットの別の実施形態において、ポリマーを投与するための前記手段は、18G〜27Gのニードルを有するシリンジ、電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルを含む、ガイドワイヤを有する心臓送達デバイスを含む任意の好適な経皮心臓送達システム、および、左心室腔、動脈または静脈の冠状系を介して心筋を評価するために設計された任意の経皮心臓デバイスのいずれかであり得る。
【0126】
本明細書中に示されるようなインシチュー組織工学のこの概念の重要な利点は、カテーテルに基づく方法を用いて、従って、手術による開胸に対する必要性を避けて、インプラント、または、インプラントを形成する前駆体物質(本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液のような物質)を導入するための実現可能性である。従って、本研究は、アルギン酸塩の注入は、幹細胞の呼び寄せ、定着および自己修復のための環境を生じさせ得る新しい選択肢であることを示唆する。
【0127】
本発明は請求項によって定義され、その内容は、本明細書の開示に含まれるように読まなければならない。
【0128】
開示および記載されている場合、本発明は、本明細書中に開示される特定の例、プロセス工程および材料に限定されないことを理解しなければならない。そのようなプロセス工程および材料は幾分か変化し得るためである。
【0129】
本明細書中で使用される用語は、特定の実施形態を記載するために使用されるのみであり、また、本発明の範囲は、添付された請求項およびその均等物によってのみ限定されるため、限定であることが意図されないこともまた理解しなければならない。本明細書および添付された請求項において使用されるように、“a”、“an”および“the”の単数形態は、内容が明らかに別途指示しない限り、複数の指示体を包含することに留意しなければならない。
【0130】
本明細書および下記の請求項を通して、内容が別途要求しない限り、語「含む(comprise)」および変化形(例えば、「comprises」および「comprising」など)は、言及された完全体または段階または一群の完全体もしくは段階を含むことを意味し、しかし、何らかの他の完全体または段階または一群の完全体もしくは段階の排除を意味しないことが理解される。
【0131】
下記の実施例は、本発明の様々な局面を実施する際に本発明者らによって用いられた技術を表す。これらの技術は本発明の実施のための好ましい実施形態を例示する一方で、本開示に照らして、当業者は、数多くの改変が、本発明の精神および意図された範囲から逸脱することなく行われ得ることを理解しなければならない。
【実施例】
【0132】
実験手法
本研究は、ベングリオン大学動物管理使用委員会およびテルアビブ大学Sheba医療センターのガイドラインに従って行われ、アメリカ心臓学会および「実験室動物の管理および使用のためのガイド」(保険福祉省、NIH刊行物番号85−23)の方針に合致している。
【0133】
架橋されたアルギン酸塩生体適合材料の調製
アルギン酸ナトリウム(3kDa〜300kDaの範囲にあるMw;FMC Biopolymers、Drammen、ノルウェー)を2回蒸留水(DDW)に溶解して、2%(w/v)の最終濃度にした。このアルギン酸塩溶液を、よりなめらかな溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、2%(w/v)のグルコン酸カルシウム溶液(D−グルコン酸、ヘミカルシウム塩;Sigma)を加えることによってカルシウムイオンにより架橋する。架橋されたアルギン酸塩溶液の粘度は、カルシウムイオンおよびアルギン酸塩の重量比を変化させることによって、そしてまた、ポリマーの分子量および組成(M/G比)を慎重に選択することによって操作することができる。それにもかかわらず、すべての場合において、架橋されたアルギン酸塩溶液は、注入することを可能にする粘度を有した。架橋はホモジナイザーによって行われた。
【0134】
架橋されたアルギン酸塩の典型的な注入溶液は1%(w/v)のアルギン酸塩および0.3%(w/v)のグルコン酸カルシウムからなり、例えば、1mLの2%(w/v)のアルギン酸塩、0.3mLの2%(w/v)グルコン酸カルシウム溶液、および0.7mLの水を混合して、2mLの架橋されたアルギン酸塩組成物を作製することによって調製される。架橋されたアルギン酸塩は、その後、使用まで4℃で置かれる。ブタにおいて、1mL〜5mLの間で、本発明の架橋されたアルギン酸塩が注入される。0.2mL〜5mLの間で、架橋されたアルギン酸塩をヒトに注入することができる。しかし、最適な注入量および注入頻度は、処置中の患者を担当する専門家によって決定されなければならない。
【0135】
本発明者らによって開発されたプロセスは、アルギン酸塩ゲルを調製するために使用された以前の方法とは実質的に異なる。1つの方法において、アルギン酸塩ゲルが、アルギン酸ナトリウム溶液をCaClの濃縮液に滴下して加えることによって調製された。このプロセスは、主として液滴の表面における、アルギン酸塩の小液滴の迅速かつ広範囲の架橋を伴う。カルシウムイオンが液滴内に拡散するに従い、アルギン酸塩は粘性の溶液から高度に架橋された固体ゲルに急速に変化する。そのような配合は、通常的には、細胞のカプセル化のために使用され、半透過性膜を形成させるために、アルギン酸塩と正荷電ポリマーとの間での別の反応を伴うことが多い[Lim,F.およびSun,A.M.(1980)、人工内分泌膵臓としてのマイクロカプセル化された膵島、Science、210:908〜910]。対照的に、本発明の方法では、カルシウムイオン溶液が、激しい撹拌を使用してアルギン酸塩水溶液により分散され、これにより、カルシウムが架橋することによって維持されるアルギン酸塩生体適合材料の均質な絡み合った網目組織が得られる。
【0136】
国際特許出願公開WO94/25080に記載される方法(この方法は注入可能なアルギン酸塩のために主に適用される)では、硫酸カルシウムが固体粒子として、アルギン酸塩溶液に加えられる。従って、アルギン酸塩のゲル化速度は硫酸カルシウムの溶解性に依存し、硫酸カルシウムの溶解性は塩の粒子サイズに依存する。通常、塩粒子は、その溶解性速度に影響を及ぼす広範囲のサイズ分布を有する(粒子が小さいほど、粒子は速く溶解する)。このことは、アルギン酸塩のゲル化の制御不能なプロセス、および不均一なゲルの形成をもたらす。対照的に、本発明者らによって開発された方法は、レオロジー研究によって示されるように、均一な互いに浸透し合う網目組織物の製造を可能にする。
【0137】
アルギン酸塩の分子量を測定するためのGPC−MALLS
様々なサンプルを、Waters606ポンプと、その後に直列につながれた2つのPSS Supremaゲル浸透カラムとを含むクロマトグラフィーシステムで分離した。カラムの説明:大きさ、300x8mm;粒子サイズ、10mm;多孔性、3000Aおよび10000A。流速は0.5mL/分であった。カラムは、Techlab K−4の制御された加熱炉の内側で25℃の一定の温度で保たれた。このクロマトグラフィーシステムは、632.8nmで作動するHe/Neレーザー、K5屈折セル、および14°〜163°の角度での18個の検出器を備えるDawn DSP(Wyatt Technology Corporation)多角度レーザー光散乱(MALLS)光度計に取り付けられた。濃度を、校正された干渉分光法屈折計Optilab DSP(Wyatt Technology Corporation)によってモニターした。データ処理およびモル質量の計算を、Wyatt ASTRAソフトウェア(バーション4.7)を用いて行った。各サンプルは、再現性を保証するために3回注入された。アルギン酸塩のdn/dcは、Wyatt dn/dcソフトウェアによって制御されるOptilab DSPを用いて測定されたとき、0.155mL/g(水性緩衝液)であることが見出された。緩衝液水溶液を、0.1MのNaNO、0.02%(w/v)のNaNおよび10mMのイミダゾールが補充された超純水(0.055μs/cm、USF SERAL Purelab RO75、それに続くUSF SERAL Purelab UV)から調製した。緩衝液をNaNOにより滴定してpH7.0にし、0.1μmのフィルター(Gelman Sciences VacuCap60)によりろ過した。
【0138】
レオロジー測定
レオロジー測定を、コーンプレートモード(1°および4°のコーン角度、60mmおよび40mmの直径をそれぞれ有する)で操作されるCarriMed CLS50制御の応力レオメーター(CarriMed Instruments Ltd.、Dorking、英国)において行った。小さい振幅の振動剪断の実験(0.1Hz〜10Hz)を線形粘弾性限界内で行った。振動数走査を、サンプルに対する損傷を防止するためにできる限り低い応力で行った。応答の直線性を、線形の粘弾性を確認するために連続してモニターした。
【0139】
MIのラットモデルおよび注入
MIモデルは本発明者らによって以前に記載された[Etzion他(2001)、同上;Leor他(1996)、同上]。オスSprague−Dawleyラット(250gまで)を40mg/kgのケタミンおよび10mg/kgのキシラジンの組合せで麻酔し、ラットは挿管され、機械的に通気された。胸部を左開胸術によって開き、心膜を除き、近位左冠状動脈を壁内縫合により永続的に閉塞させた。梗塞後1週間目に、ラットを麻酔し、無菌技術下で胸部を開いた。梗塞した領域を、表面の瘢痕および壁運動の無動に基づいて目視により確認した。ラットを、27ゲージのニードルを使用する100μL〜200μLのアルギン酸塩系生体適合材料または無血清培養培地のいずれかの注入に対して選択した。瘢痕内への注入の後、手術による切開を縫合して閉じた。
【0140】
組織学的検査および免疫組織学的検査
注入後8週で、動物を過剰量のフェノバルビタールで屠殺した。心臓を集め、組織学的検査および免疫組織学的検査のために処理した。隣接するブロックをパラフィンに包埋し、5μmの薄片に切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。連続した切片を、胚性心筋細胞に存在するが、成体の正常な心筋細胞には存在しないα−アクチン平滑筋(SMA)イソ型[Leor,J,他(1996)、Circulation、94:II332〜336]に対する抗体、早性ミオシン重鎖(MHC)に対する抗体(Sigma)、Ki67に対する抗体(Novocastra Ltd)、SDF−1(R&D systems)に対する抗体により免疫標識した。
【0141】
血管新生の評価
梗塞した心筋および梗塞周囲の心筋における血管新生に対するアルギン酸塩注入の影響を、周細胞および細動脈に対する抗α−SMA抗体(Sigma)による代表的なスライド片の免疫組織学的染色によって評価した。低倍率での検査の後、5つの連続した隣接する視野を200倍の倍率で各切片から写真撮影した。血管の数を、コンピュータ処理された画像分析によって顕微鏡写真から評価して、移植群および対照群の心臓において、血管の数を数え、かつ血管密度(1mmあたりの毛細管および細動脈の平均数)を計算した。
【0142】
リモデリングおよび収縮性を評価するための超音波心臓造影法
経胸壁超音波心臓造影法を、MI後24時間以内(ベースラインとなる心エコー図)およびMI後8週においてすべての動物に対して行った。以前の報告では、ラットにおける経胸壁超音波心臓造影法の正確性および再現性が明らかにされている[Etzion他(2001)、同上;Leor,J.他(2000)、同上;Litwin,S.E.他(1994)、Circulation、89:345〜354;Schwarz,E.R.他(1998)、Basic Res.Cardiol、93:477〜486]。心エコー図を、以前に報告されたように、12MHzフェーズドアレイ変換器を備える市販の超音波心臓造影法システム(Hewlett Packard)を用いて行った。測定されたパラメーターは下記の通りであった:LV前壁の厚さ;LV拡張終期の最大の大きさ;Mモードおよび2D画像化における左心室収縮終期の最小の大きさ;ならびに、収縮期機能の尺度としての縮まり率(これはFS(%)=[(LVIDd−LVIDs)/LVIDd]x100として計算された;式中、LVIDはLVの内部の大きさを示し、sは収縮期であり、dは拡張期である)。LV面積の変化指数(%)が[(EDA−ESA)/EDA]x100として計算された(式中、EDAはLV拡張終期の面積を示し、ESAはLV収縮終期の面積を示す)[Mehta,P.M.他(1988)、J.Am.Coll.Cardiol.、11:630〜636]。すべての測定は、3回の連続した心臓周期について平均化され、処置群について知らされていない経験豊かな技師によって行われた。
【0143】
ブタにおける心筋梗塞の発生
心筋梗塞を生じさせるために使用された方法は、以前に記載された方法[Yau,T.M.他(2003)、Ann Thorac Surg、75:169〜176;Watanabe,E.他(1998)、Cell Transplant、7:239〜246]と同じであった。簡単に記載すると、メスSincklaire(ミニ)ブタを使用した(体重、30kg〜40kg)。ブタに対するすべての手術処置は全身麻酔下および連続した心電図記録法モニターリングのもとで行われた。動物は、4%イソフルランによる麻酔誘導の前にケタミン(20mg/kg〜30mg/kg、筋肉内)で準備投薬された。麻酔をイソフルラン(1%〜2.5%)で維持した。右大腿動脈を単離し、導入シースによりカニューレ挿入した。これを介して、X線透視装置による誘導のもとで、心臓カテーテルを左前下行動脈(LAD)の中央部分に入れ、塞栓形成コイル(Boston Scientific、米国)をガイドワイヤによりカテーテルから押し出し、LADの遠位部分に設置した。この手法は血栓を誘導し、これにより、血管造影法および心電図記録法により確認される左心室における心筋梗塞を生じさせた。電気的DCの電気的除細動を必要なときには与えた。
【0144】
僧帽弁逆流(MR)の発生
僧帽弁逆流を、回旋冠状動脈のコイル塞栓形成の後、広範囲の後部MIを生じさせることによって発生させた。
【0145】
アルギン酸塩生体適合材料の注入
アルギン酸塩の注入をMI後7日目〜10日目に行った。ブタに麻酔し、無菌条件下で胸部を開いた。梗塞した領域を、表面の瘢痕および壁運動の異常に基づいて目視により確認した。ブタを、梗塞した心筋への2回〜3回のアルギン酸塩の注入(2.5mLまで)、または対照としての生理的食塩水の注入(2.5mLまで)に無作為に割り当てた。空気を胸部から追い出して、手術による切開を縫合して閉じた。最初の一連の先導実験において、この手法の技術的側面を改善した。移植後8週目に、ブタをフェノバルビタールの過剰量で安楽死させた。心臓を組織学および免疫組織化学のために集め、切片化して、処理した。
【0146】
LVリモデリングおよび機能の超音波心臓造影法評価
超音波心臓造影法を、(2.5MHz)フェーズドアレイ変換器を超音波システム(Sonos5500、Hewlett−Packard、Andover、Massachusetts)とともに使用して、MI直後、移植前、MI後10日目、ならびにMI後の30日目および60日目に麻酔下で行った。画像をVHSビデオテープに記録した。拡張終期および収縮終期のフレームを先端および胸骨近辺の標準的な図から選択した。
【0147】
総LV駆出率(LVEF)を目視により推定した。VL体積を、心内膜境界の>80%が先端の4房室図および2房室図の両方において検出され得るときには一平面内修正シンプソンアルゴリズムを使用して左心室腔を手でなぞることによって、また、心内膜境界の80%が先端の4房室図においてのみ検出され得るときには一平面によって測定した。領域別の心筋評価および壁運動スコア指数を、アメリカ超音波心臓造影法学会によって勧告されるように、セグメントスコア(1=正常、2=運動低下、3=無運動、4=運動異常)を16個の左心室セグメントのそれぞれに割り当てることによって決定した[Schiller,N.B.他(1989)、J.Am.Soc.Echocardiogr.、2:358〜367]。すべてのセグメントスコアを加え、分析されたセグメントの数によって除して、壁運動スコア指数を得た。
【0148】
領域別のLV機能を、標準的な16個のセグメントを使用することによって評価した[Schiller,N.B.他(1989)、J.Am.Soc.Echocardiogr.、2:358〜367]。各セグメントについて、収縮期の壁運動および肥厚化を、下記の半定量的なスコア化システム(1〜4)を使用して目視により段階づけた:1=正常または運動過剰;2=運動低下;3=無動;および4=運動異常。左心室壁の運動スコア指標(WMSI)を、分析されたセグメントの総数によって除された個々のスコアの和を使用して得た。領域別の運動スコア指標を、中央LAD区域(梗塞に関連した動脈区域)のセグメントについて同じ方法によって計算した。研究は1人の経験豊かな観察者によって解釈され、すべての測定が1人の技術者によって個別に得られた。
【0149】
MRを、左心房噴流の偏りの中における噴流の広がりを組み込んだアルゴリズムと、近位領域のサイズとを使用するカラードップラー流動マッピングによって段階づけた。MRは、逆流噴流面積が、ベースライン変動を伴うことなく認められる壁噴流および近位の等速度表面領域の非存在下でLA面積の20%未満を占めたときには軽度と見なされた。MRは、噴流面積がLA面積の40%を超えるすべての患者では重度と見なされた。噴流の偏りまたは相当の近位流動収束半径(噴流面積が20%未満である患者では0.6mm、噴流面積が20%〜40%の間である患者では0.9mm)はMRの程度を1階級上げた。
【0150】
形態学的研究および組織学的研究
心室機能の浸襲的研究が終了した後、心臓を塩化カリウムにより停止させ、速やかに摘出した。心房を除き、心臓の重量を測定した。その後、冠状動脈を100mLの10%ホルムアルデヒドにより灌流し、心臓を、7日間、ホルムアルデヒド溶液中で30mmHgの心室内圧力を用いて拡張期の状態で固定処理し、その後、組織学のために切片化した。固定処理後、心臓を5mm厚の薄片に薄片化し、各切片を写真撮影した。各切片における平均瘢痕長さを心外膜瘢痕長さおよび心内膜瘢痕長さの平均値として計算した。その後、瘢痕面積を、0.5cmを乗じたその切片に対する平均瘢痕長さとして計算した。総瘢痕面積をすべての切片についての瘢痕面積の和として計算した。瘢痕の厚さを各切片において計算し、瘢痕体積を、平均瘢痕厚さを乗じた総瘢痕面積として計算した。一辺が5mmである梗塞域の中心部からの組織立方体をパラフィンに包埋し、ヘマトキシリンおよびエオシンによる染色のために5μmの切片に切断した。免疫組織化学研究のために、組織薄片を、トルエンによる脱パラフィン化の後、100%、95%および70%のエタノールにおいて連続的に水和した。サンプルにおける内因性ペルオキシダーゼをブロッキング処理し、サンプルを抗体により染色した。隣接するブロックをパラフィンに包埋し、5μmの薄片に切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。連続した切片を、SMAに対する抗体、遅性MHCに対する抗体(Sigma)、Ki67に対する抗体(Novocastra Ltd.)、およびSDF−1に対する抗体(R&D Systems)により免疫標識した。
【0151】
統計学的分析
対照群と処置群との間における一変量差を、連続変数についてのt検定を用いて評価した。両群における各ラットはそれ自身の対照として使用されたため、対照群および処置群におけるベースラインと8週目との間での変化を、ペアードt検定を用いて評価した。対照群および処置群におけるベースラインから8週目の変化の比較を、Windows用GraphPad Prism(バージョン4.00)(GraphPad Software、San Diego、California、米国)を使用して、反復測定によるANOVAを用いて行った。ANOVAモデルには、対照対処置およびベースライン対8週目が因子として含められ、また、これら2つの因子の間での相互作用が含められた[Perin,E.C.他(2003)、Circulation、107:2294〜2302]。p≦0.05の確率値を統計学的に有意であると見なした。
【0152】
(実施例1)
注入可能な架橋されたアルギン酸塩生体適合材料の調製およびレオロジー評価
生物ポリマーであるアルギン酸塩の分子量(Mw)およびその多分散度(PD)(分子量の分布範囲の目安)は、得られる絡み合った網目組織の形成速度および構造に対する影響を有し得る。従って、GPC−MALLSを(実験手法において記載されるように)使用して、アルギン酸塩のMwおよびPDを特徴づけた(表1)。
【表1】

【0153】
レオロジー
アルギン酸塩ゲルは、永続的でもなく、また、共有結合による架橋ほど強くない物理的な架橋が形成される物理的ゲルの範疇に含まれる。
【0154】
定常剪断速度
粘度ηは、流れに対する流体の抵抗の尺度である。粘度ηは、剪断速度γに対する剪断応力τの比として定義される。
(1) η=τ/γ
【0155】
流体がすべての剪断速度について式(1)に従うとき、その流体はニュートン性であることを意味する[Ferry,J.D.(1980)、Viscoelastic properties of polymers、John Wiley&Sons]。本明細書中に記載される1%(w/v)のアルギン酸ナトリウム溶液はニュートン性である(表2)。
【表2】

【0156】
カルシウムイオンが加えられたとき、カルシウムイオンはアルギン酸塩の架橋を開始し、これにより、絡み合った網目組織の構造化および形成をもたらす。カルシウムにより架橋されたアルギン酸塩については、変形による大きい定常剪断結果が粘度(η)対剪断速度(γ)のプロットとして表される。図1および図2は、剪断速度とともに変化する見かけの粘度を示す。そのような挙動は剪断弱化および擬似塑性的と呼ばれる。べき乗則の関係(η〜γ−1)がlogη対logγのプロットについて観測された。これは構造化材料に典型的である[Lapasin,R.およびPricl,S.(1995)、Rheology of industrial polysaccharide:Theory and application、London、Blackbie、620頁]。
【0157】
小さい変形の振動測定
材料(本件ではポリマー、すなわち、アルギン酸塩溶液)に関するレオロジー情報を得るために、動的粘弾性測定が使用される。動的粘弾性測定は、材料の構造が乱されず、また、材料の粘性特性および弾性特性の両方についての情報が得られるため、粘度測定法による測定よりも好ましい。測定は、振動数fの正弦波状の応力または歪みをサンプルに加え、その応答を測定することによって行われる。応答は、(i)加えられた応力または歪みと一致する弾性部分と、(ii)一致しない粘性部分とに分けられる。これら2つの成分のために、複素表記法が使用される。複素剪断弾性係数が、下記の式によって定義されるGによって示される:
=G’+jG”
(式中、G’は貯蔵弾性係数(すなわち、弾性部分)であり、G”は損失弾性係数(粘性部分)であり、j=−1)。
【0158】
振動数の関数としての弾性係数のプロットは材料の機械的スペクトルと呼ばれることが多い。振動数依存性を、logG’=nlogf+K(式中、Kは定数である)によって示される、振動数fに対するG’のlog−logプロットにおける傾きnによって表すことができる。物理的ゲルではn>0であり、これに対して、共有結合性ゲルではn=0である。
【0159】
小さい変形の振動測定値が、角振動数の関数として貯蔵弾性係数G’(弾性応答)および損失弾性係数G”(粘性応答)に関して示される。この場合、G’はゲル様(構造化)系の一次指標として使用される。図3および図4は、異なるカルシウムイオン濃度の添加前および添加後における1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩サンプルまたはLVGアルギン酸塩サンプルの機械的スペクトルをそれぞれ示す。1%(w/v)のアルギン酸塩溶液(カルシウムイオンがない場合)の両方について、G”の値がG’の値を超えている。これはランダムコイル多糖溶液の典型的な挙動である。
【0160】
カルシウムイオンを加えたとき、得られた系の機械的スペクトルはG’−G”クロスオーバーを明らかにする。これは「絡み合った網目組織」タイプの物理的ゲルの典型的な特徴である。このタイプのゲルは、(i)永続的な架橋を有しないこと;(ii)強く振動数に依存すること;(iii)G’−G”クロスオーバーを有すること;および(iv)低い振動数では液体として流れることにおいて、強い共有結合性ゲルとは区別される。「強いゲル」は、永続的な網目組織(共有結合的)を有し、ほんのわずかな振動数依存性のみを有する剪断弾性係数を示す[Clark,A.およびRoss−Murphy,S.B.(1987)、生物ポリマーゲルの構造的および機械的な性質、Adv.Poly.Sci.、Springer−Verlag、Berlin、Heidelberg]。弱いゲルは中間的なタイプであり、絡み合った網目組織よりも小さい振動数依存性を有し、10−2rad/s〜10rad/sの振動数においてG’−G”クロスオーバーを有しない。弱いゲルはG’−G”クロスオーバーを有することがあるが、より低い振動数では異なった挙動を示す。
【0161】
(実施例2)
MIのラットモデルにおけるアルギン酸塩生体適合材料と心臓細胞移植との治療効果の比較
広範囲のMIの7日後、ラットを、心筋瘢痕内への、アルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入、胚性心筋細胞(1.5x10個)の埋め込み、または培地注入に無作為に割り当てた。上記で記載されたように、アルギン酸塩生体適合材料はカルシウム架橋され、それにもかかわらず、注入条件のもとでは依然として流動した。超音波心臓造影法研究を埋め込み前ならびに埋め込み後の1ヶ月および2ヶ月において行って、LVリモデリングおよび機能を評価した。心臓を組織学的評価のために埋め込み後2ヶ月において集めた。
【0162】
連続した超音波心臓造影法研究では、架橋されたアルギン酸塩系生体適合材料の注入は瘢痕の厚さを増強し、LVの拡張および機能不全を妨げ、心臓細胞の移植と同等であり、一方で、対照動物は、LV収縮性における進行性の悪化を伴う著しいLV拡張を発生させたことが明らかにされた。結果が表3に要約される。
【表3】

【0163】
これらの結果は、ラットモデルにおける梗塞した心筋への、アルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入により、LVの拡張および心筋の機能不全が弱まることを示唆している。これらの結果は、胚性心筋細胞の移植によって達成される結果と同等である。これらの結果は、MIおよびCHFを処置するための適切な細胞を達成することにおける困難なことに対する実行可能な代替法を示唆している。
【0164】
(実施例3)
カルシウム架橋されたアルギン酸塩生体適合材料により処置されるMIの動物モデル
合計で39匹のラットが本研究に含まれた。13匹のラットが、MIを誘導するための手術処置の後で死亡した。超音波心臓造影法研究および分析が24匹のラットに対して行われた。15匹のラットがアルギン酸塩生体適合材料の注入により処置され、対照群(n=9)は無血清培養培地の注入を受けた。2匹のラットが、正常な心筋におけるその安全性および影響を調べるために、正常な心臓へのアルギン酸塩の注入を受けた。
【0165】
・超音波心臓造影法による機能的研究
アルギン酸塩生体適合材料の注入は瘢痕厚さを著しく増大させた(表4、p<0.0001)。さらに、アルギン酸塩生体適合材料の注入は、広範囲の前壁MIを合併するLV拡張の典型的な経過を効率的に弱めた(図5、表4)。
【0166】
LV室の内径および面積の増大が認められたが、その増大は、対照動物において観測された増大よりも著しく小さかった(図5および表4)。LVリモデリングに対するアルギン酸塩生体適合材料の有益な効果は、縮まり率およびLV面積変化率の悪化における低下によって反映されるように、LV機能不全の防止に変えられた(図6、表4)。
【0167】
生体適合材料により処置されたラットと比較したとき、対照群は、広範囲の心筋梗塞、LVリモデリングおよび心不全の典型的な経過を示した。LVの拡張期内径および収縮期内径における著しい増大が観測された(図5および図6、表4)。LVの拡張終期腔面積および収縮期腔面積がそれぞれ75%および100%超と著しく増大した(図5および図6、表4;p<0.05)。この過程は、広範囲な前壁MIの後でヒト患者において観測される過程と類似している[Pilla、J.J.他(2002)、Circulation、106:I207〜211]。ベースラインからの進行性のLV拡張にはまた、研究終了時における縮まり率の悪化(ベースラインにおける30±5%から22±3%に;p<0.05)およびLV面積変化率の百分率の悪化(49±5%から38±3%に;p<0.05)によって反映されるLV成績の著しい悪化が伴った。(図7)
【表4】

【0168】
組織学的分析および免疫組織化学的分析
正常な心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入は、α−SMAに対する抗体による免疫染色によって示されるように、集中的な血管形成および筋芽細胞の遊走をもたらした(図8A)。アルギン酸塩の注入により処置された梗塞した心臓の切片の検査では、集中した血管新生、および、梗塞した心筋に存在する数多くの筋繊維芽細胞が示された(図8B、図8C、図8D)。注入可能なアルギン酸塩生体適合材料により処置された動物の抗Ki67抗体による免疫染色(図11)では、内皮内の陽性の染色および梗塞部位における心筋細胞が明らかにされた。このことはDNA活性および複製を示している。従って、アルギン酸塩が、心臓の再生に関連する細胞複製を誘導することは明らかである。
【0169】
抗SDF−1抗体により免疫染色されたスライド片の顕微鏡検査では、SDF−1タンパク質の強い発現が、内皮細胞、SMC、繊維芽細胞において、また、予想外ではあったが、境界域での心筋細胞において明らかにされた(図9)。アルギン酸塩生体適合材料の注入は、非処置動物と比較して、梗塞した部位においてSDF−1の発現を増強させた。SDF−1は幹細胞呼び寄せの重要な調節因子であるため、この効果は、注入された生体適合材料により、血管新生および心筋再生に関係する幹細胞を注入部位に引き寄せるシグナル伝達系が活性化されることを示唆している。
【0170】
処置された動物の梗塞した心筋における血管密度(1mmあたりの毛細管および細動脈の平均数±S.E.)は対照動物よりも著しく大きかった(231±13対180±16;p<0.02;図10)。
【0171】
(実施例4)
アルギン酸塩の注入による心筋梗塞のブタモデルの処置
合計で18匹のブタが本研究に含まれた。周術期死亡率は27%であった(18匹中5匹)。超音波心臓造影法研究および分析が、前壁MIを有する10匹のブタに対して行われた。5匹のブタがアルギン酸塩の注入により処置され、対照群(n=5)はPBSの注入を受けた。4匹のブタが後側部MI(MR研究)に付された。
【0172】
・免疫組織化学
LAD閉塞または回旋閉塞(MR研究)の8週間後、アルギン酸塩の注入を受けているブタでは、Ki67に対して反応性のモノクローナル抗体による免疫染色によって明らかにされるように、高頻度の内皮細胞(図11A)および心筋細胞(図11B)がDNA活性を伴って明らかにされた。対照的に、生理的食塩水を受けている動物では、繊維芽細胞の形態学およびKi67との反応性を有する高頻度の細胞が梗塞域内にのみ認められた。これらの結果は、アルギン酸塩生体適合材料は、成体の心臓ではこの活性を通常の場合には有しない心筋細胞などの細胞において細胞増殖を誘導する能力を有することを示唆している。そのような現象は通常、心臓再生に関連する。
【0173】
(実施例5)
超音波心臓造影法による機能的研究:逆転した心室リモデリングは虚血性僧帽弁学流(MR)を低下させる
虚血性MRは、遅発性死亡率を2倍にする冠状動脈疾患の一般的な合併症である[Lamas、G.A.他(1997)、Circulation、96:827〜833]。広範囲の証拠により、虚血性MRが、乳頭筋(PM)の位置をずらし、僧帽弁尖を先端で拘束し、これにより僧帽弁の閉鎖を制限する左心室のゆがみから生じることが示されている。しかしながら、虚血性MRのための治療は依然として問題である。僧帽弁輪の輪状形成術がバイパス手術時に適用されることが多いが、これは僧帽弁の輪状サイズを減少させ、しかし、拘束による虚血性LVゆがみのより広い問題には直接的には対処していない。従って、その利益は、特にLVリモデリングが手術後も進行し続けているときには、不完全である。不確かな利益、ならびに心房切開および心肺バイパスに対する必要性は手術による修復を躊躇させ得る。外部からのデバイスを使用してPMを正常な位置に戻すことにより、虚血性MRを軽減することができる。
【0174】
本明細書中に示される予備実験では、架橋されたアルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入は、LV機能を損なうことなく、PMを正常な位置に戻し、虚血性MRを軽減することが示される。そのうえ、この比較的簡便な技術は鼓動中の心臓において適用することができる(図12)。
【0175】
(実施例6)
架橋されたアルギン酸塩溶液における骨格性筋芽細胞懸濁物の、ラットの正常な心臓への注入
アルギン酸塩生体適合材料を、血管形成を促進させ、細胞移植物の保持および生存を改善するために心臓の筋肉に注入した。本実施例は、アルギン酸塩生体適合材料の注入が、同時注入された細胞(例えば、骨格性筋芽細胞など)の長期間の保持のために好都合であり得ることを示す。
【0176】
Sprague−Dawley新生児ラットの後肢筋肉に由来する筋芽細胞を、以前に記載された手法[Rosenblatt,J.D.(1995)、In Vitro Cell Dev.Biol.Anim.、31:773〜779]に従って単離し、精製した。集団内の筋芽細胞の割合を確認するために、培養された細胞を、筋芽細胞を染色するデスミン(Sigma)により染色した(図13A)。注入可能なアルギン酸塩溶液を本明細書中上記に記載されるように調製した。
【0177】
オスSprague−Dawleyラット(250gまで)を40mg/kgのケタミンおよび10mg/kgのキシラジンの組合せで麻酔し、ラットは挿管され、機械的に通気された。胸部を左開胸術によって開き、心膜を除き、ラットを、左心室の自由壁筋肉への、27ゲージのニードルを使用する、100μL〜200μLのアルギン酸塩系生体適合材料に懸濁された骨格性筋芽細胞の注入に供した。心臓筋肉内への注入の後、手術による切開を縫合して閉じた。
【0178】
注入後4週で、動物を過剰量のフェノバルビタールにより屠殺した。心臓を集め、組織学的検査および免疫組織学的検査のために処理した。隣接するブロックをパラフィンに包埋し、5μmの薄片に切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した。連続した切片を、早性MHCに対する抗体(Sigma、英国)により免疫標識した。
【0179】
図13A〜図13Cに示されるように、本発明の架橋されたアルギン酸塩溶液と一緒での筋芽細胞の注入は、赤血球の存在(図13B)によって立証され得る機能的な新しい血管の形成によって示されるように、血管新生を誘導した。さらに、アルギン酸塩生体適合材料との同時注入は、移植された筋芽細胞の注入部位での保持を増大させた。筋芽細胞は、骨格性横紋を見せる多核性繊維に分化した。
【0180】
(実施例7)
架橋されたアルギン酸塩生体適合材料の注入は梗塞した心筋への幹細胞の呼び寄せを高める
無胸腺ヌードラットを心筋梗塞にさらし、その後、架橋されたアルギン酸塩生体適合材料を梗塞した組織に注入した。梗塞後1週目に、動物を、ヒト臍帯血由来のCD133+の始原体細胞(2〜4x10個の細胞)の静脈内注入により処置した。輸注後1週間で、心臓を集め、代表的な切片を固定処理または凍結切片化のいずれかに供した。受容心臓におけるヒトドナー細胞の存在を、HLA−DRについての免疫染色によって確認した。HLA免疫染色(図14、褐色の色)では、注入されたドナー細胞が、架橋されたアルギン酸塩を瘢痕組織において注入した部位に向かい、定着したことが明らかにされた。この実験は、架橋されたアルギン酸塩の損傷した組織への注入が幹細胞の呼び寄せを高めたことを明瞭に明らかにしている。このことは、注入部位におけるSDF−1の強い発現と一致している。
【0181】
実施例6および実施例7は、鼓動中の心臓に移植された細胞の保持に対する、架橋されたアルギン酸塩生体適合材料の好都合な効果を示している。対照的に、ポリマーの非存在下での細胞の注入は甚だしい細胞漏出をもたらし、従って、細胞のほとんどが注入部位に保持されず、その一方で同時に、高い割合の細胞死が認められる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩水溶液(LF5/60の粘度=40cP)の定常剪断粘度に対するカルシウムイオン添加の影響を示すグラフである。図1A:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。図1B:0.4%(w/v)のカルシウムイオン。略号:visc.、粘度;S.R.、剪断速度。
【図2】1%(w/v)のLVGアルギン酸塩水溶液(LVGの粘度=127cP)の定常剪断粘度に対するカルシウムイオン添加の影響を示すグラフである。
【図3A−B】1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩溶液の機械的スペクトルおよびカルシウムイオン架橋の効果を示すグラフである。図3A:カルシウムイオンなし。図3B:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。
【図3C】1%(w/v)のLF5/60アルギン酸塩溶液の機械的スペクトルおよびカルシウムイオン架橋の効果を示すグラフである。図3C:0.4%(w/v)のカルシウムイオン。
【図4】1%(w/v)のLVGアルギン酸塩溶液の機械的スペクトルおよびカルシウムイオン架橋の効果を示すグラフである。図4A:カルシウムイオンなし。図4B:0.3%(w/v)のカルシウムイオン。略号:Freq.、振動数
【図5A−C】超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図5A:LV拡張期の大きさ、Mモード(アルギン酸塩)。図5B:LV拡張期の大きさ、Mモード(対照)。図5C:LV収縮期の大きさ(アルギン酸塩)。
【図5D−F】超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図5D:LV収縮期の大きさ(対照)。図5E:LV拡張期の面積(アルギン酸塩)。図5F:LV拡張期の面積(対照)。
【図5G−H】超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図5G:LV収縮期の面積(アルギン酸塩)。図5H:LV収縮期の面積(対照)。
【図6A−C】2−D超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図6A:AW2−D(アルギン酸塩)。図6B:AW2−D(対照)。図6C:LV拡張期の大きさ2−D(アルギン酸塩)。
【図6D−F】2−D超音波心臓造影法によるLVリモデリングを示すグラフである。図6D:LV拡張期の大きさ2−D(対照)。図6E:LV収縮期の大きさ2−D(アルギン酸塩)。図6F:LV収縮期の大きさ2−D(対照)。
【図7A−B】超音波心臓造影法によるLV機能を示すグラフである。図7A:LV縮まり率(アルギン酸塩)。図7B:LV縮まり率(対照)。
【図7C−D】超音波心臓造影法によるLV機能を示すグラフである。図7C:LV面積変化率(アルギン酸塩)。図7D:LV面積変化率(対照)。
【図8】アルギン酸塩生体適合材料は集中的な血管新生を誘導し、瘢痕厚さを増大すること示す写真である。図8A:正常な心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入。α−SMA抗体により、血管新生(矢印)および筋繊維芽細胞が同定される。図8B:梗塞した心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入は、瘢痕を有する数多くの筋繊維芽細胞を明らかにし、瘢痕の厚さを増大させた(12.5倍の倍率)。図8C:集中的な血管新生(褐色の染色)を示す図8Bの高倍率像(100倍)。図8D:図8Bの高倍率像(200倍)は多くの筋繊維芽細胞および集中的な血管新生(褐色の染色)を明らかにした。
【図9】梗塞した心筋へのアルギン酸塩生体適合材料の注入はSDF−1(幹細胞に対する化学誘因物質)の発現を高めることを示す写真である。図9A:架橋されたアルギン酸塩生体適合材料による処置群から得られたサンプルの抗SDF−1染色(200倍)。図9B:対照(培養培地により処置された)から得られたサンプルの抗SDF−1染色(200倍)。図9C:梗塞した心筋と正常な心筋との間の境界域における染色された筋細胞に焦点を合わせた、アルギン酸塩生体適合材料による処置群から得られたスライド切片の抗SDF−1染色。
【図10】血管形成の(面積あたりの血管数での)定量を示すグラフである。
【図11】アルギン酸塩生体適合材料の注入は細胞の複製および再生を梗塞した心筋において誘導することを示す写真である。図11A:アルギン酸塩の注入を受けているブタは、DNA活性を有する内皮細胞(矢印)を高頻度で明らかにした。図11B:境界域の検査は、Ki67染色が陽性であるいくつかの筋細胞(細い矢印)、内皮細胞および繊維芽細胞を明らかにした。
【図12】注入可能な組織工学は虚血性僧帽弁逆流を逆転させることを示す図である。図12A:僧帽弁の輪状拡張を伴う虚血性僧帽弁逆流の概略図。図12B:左心室の全体的な幾何形状の変化および僧帽弁尖の拘束を伴う虚血性僧帽弁逆流の概略図。図12C:梗塞したLVの後外側セグメント(矢印)へのアルギン酸塩に基づく生体適合材料の注入は、変位した乳頭筋の位置を以前の輪の方に戻して、拘束およびMRを軽減する。図12D:アルギン酸塩注入の概略図。
【図13】ポリマーは注入部位における細胞の保持を増大させ、血管形成を高めることを示すアルギン酸塩−筋芽細胞懸濁物の注入の写真である。図13A:抗デスミン抗体による免疫染色により、多核性筋芽細胞が同定された(褐色の染色、400倍)。図13B:アルギン酸塩溶液を伴う筋芽細胞懸濁物の注入により処置された心臓のH&E染色切片により、血管新生、および、赤血球で満たされた機能的な血管が明らかにされた(400倍)。図13C:4週間後の心筋内の筋芽細胞の生存および存在位置。抗骨格性早性ミオシン重鎖抗体による免疫染色により、注入部位における骨格性横紋化筋細胞(矢印)が明らかにされた(400倍)。
【図14】アルギン酸塩生体適合材料の注入は、梗塞した心筋への幹細胞の呼び寄せを増強することを示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたポリマー水溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたポリマー水溶液。
【請求項2】
均一な、架橋されたポリマー水溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたポリマー水溶液。
【請求項3】
前記ポリマーは、共有結合、イオン結合および水素結合のいずれかによって架橋され、これにより水分子を捕捉する構造化された網目組織を生じさせる請求項1または2に記載の溶液。
【請求項4】
前記ポリマーは、二価または多価のカチオンにより架橋される請求項3に記載の溶液。
【請求項5】
前記カチオンは、カルシウム、銅、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、スズ、亜鉛、クロム、または有機カチオン、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)および多糖類である請求項4に記載の溶液。
【請求項6】
前記ポリマーは、ヒドロゲル形成ポリマーである請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項7】
前記ポリマーが多糖である請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項7に記載の溶液。
【請求項9】
前記アルギン酸塩は10Kダルトン〜300Kダルトンの間の範囲の、より好ましくは25Kダルトン〜150Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項8に記載の溶液。
【請求項10】
前記溶液は、ニュートン挙動を示し、かつ、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答がその弾性応答よりも大きいアルギン酸塩前駆体溶液を架橋することによって得ることができる請求項9に記載の溶液。
【請求項11】
前記の加えられた小さい変形の振動周期は粘弾性限界の範囲内である請求項10に記載の溶液。
【請求項12】
前記の加えられた小さい変形の振動周期は0.01Hz〜100Hzの範囲内、好ましくは、0.1Hz〜10Hzの範囲内である請求項11に記載の溶液。
【請求項13】
0.1%〜4%(w/v)の架橋されたアルギン酸塩を含む請求項7〜12のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項14】
前記溶液は貯蔵安定性であり、その溶液形態およびシリンジ注入性を長期間にわたって維持する請求項7〜13のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項15】
少なくとも24時間の期間にわたって、好ましくは7日間にわたって、さらに好ましくは1年にわたって貯蔵安定性である請求項14に記載の溶液。
【請求項16】
注入可能である請求項7〜15のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項17】
前記溶液が対象に投与されたときにインビボでゲルを形成する請求項13〜16のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項18】
架橋されたアルギン酸塩水溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩水溶液を調製する方法であって、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、好適な架橋剤を用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、前記架橋剤の水溶液を加えることによって架橋する工程
を含む方法。
【請求項19】
前記架橋剤は、カルシウム、銅、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、スズ、亜鉛、クロム、または有機カチオン、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)および多糖類である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記カルシウムの塩はグルコン酸カルシウムである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
架橋されたアルギン酸塩溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩水溶液を調製する方法であって、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、カルシウムイオンを用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、好適な量の2%(w/v)グルコン酸カルシウム溶液を加えることによって架橋する工程
を含む方法。
【請求項22】
請求項17〜21のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液。
【請求項23】
損傷した心臓組織の修復および再生を促進させるための請求項1〜16および22のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項24】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項23に記載の溶液。
【請求項25】
請求項1〜16および22のいずれか一項に記載の溶液を有効成分として含む組成物。
【請求項26】
損傷した組織の修復および再生を促進させるための請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記組織が心臓組織である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記心臓組織が左心室壁である請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記損傷は、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷からなる群から選択される請求項27〜29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
リエントリー性不整脈の処置における使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
治療的血管形成において使用するための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
幹細胞の走化性および/または幹細胞を向かわせることにおける使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する請求項27〜35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
さらに細胞を含む請求項27〜37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記細胞は、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、始原細胞、幹細胞または心臓の血管形成および再生を促進させることができる他の好適な細胞である請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
損傷した組織の修復および再生を促進させるための医薬組成物の調製における請求項1〜17および23のいずれか一項に記載のポリマー溶液の使用。
【請求項41】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記組織は心臓組織である請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記心臓組織は左心室壁である請求項42に記載の使用。
【請求項44】
前記損傷は心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷および機械的心筋損傷からなる群から選択される請求項41〜43のいずれか一項に記載の使用。
【請求項45】
前記組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する請求項41〜44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される請求項45に記載の使用。
【請求項47】
心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項48】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項48に記載の使用。
【請求項49】
リエントリー性不整脈の処置における使用のための請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項50】
治療的血管形成における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項51】
幹細胞の走化性における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項52】
請求項1〜17および23のいずれか一項に記載の架橋されたポリマー溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、損傷した組織を処置する方法。
【請求項53】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記組織は心臓組織である請求項53に記載の方法。
【請求項55】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、SDF−1の発現を増強する方法。
【請求項56】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、幹細胞の走化性を導くか、または、損傷した心筋に向かわせる方法。
【請求項57】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、血管新生を誘導する方法。
【請求項58】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、治療的血管形成を誘導する方法。
【請求項59】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態を防止する方法。
【請求項60】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項59に記載の方法。
【請求項61】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈を処置する方法。
【請求項62】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の収縮性を改善する方法。
【請求項63】
心臓細胞の増殖を誘導する方法であって、インビボまたはインビトロにおいて、前記細胞を請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含む方法。
【請求項64】
(a)請求項1〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたポリマー溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物;
(b)必要としている患者の心臓部位に架橋されたポリマー溶液を投与するための手段;
(c)前記ポリマー溶液をどのように使用するかの指示マニュアル;
を含む、損傷した組織を修復するためのキット。
【請求項65】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項64に記載のキット。
【請求項66】
架橋されたポリマー溶液を投与するための前記手段は、18G〜27Gのニードルを有するシリンジ、電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルを含む、ガイドワイヤを有する心臓送達デバイスを含む任意の好適な経皮心臓送達システム、および、左心室腔、動脈または静脈の冠状系を介して心筋を評価するために設計された任意の経皮心臓デバイスのいずれかであり得る請求項65に記載のキット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動可能かつ注入可能な架橋されたポリマー水溶液であって、その弾性応答が、粘弾性限界の小さい変形の振動周期下で、その粘性応答と同等またはそれ以上であり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたポリマー水溶液。
【請求項2】
前記ポリマーは、共有結合、イオン結合および水素結合のいずれかによって架橋され、これにより水分子を捕捉する構造化された網目組織を生じさせる請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記ポリマーは、二価または多価のカチオンにより架橋される請求項2に記載の溶液。
【請求項4】
前記カチオンは、カルシウム、銅、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、スズ、亜鉛、クロム、または有機カチオン、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)および多糖類である請求項3に記載の溶液。
【請求項5】
前記ポリマーは、ヒドロゲル形成ポリマーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項6】
前記ポリマーが多糖である請求項5に記載の溶液。
【請求項7】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項6に記載の溶液。
【請求項8】
前記アルギン酸塩は10Kダルトン〜300Kダルトンの間の範囲の、より好ましくは25Kダルトン〜150Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項7に記載の溶液。
【請求項9】
前記溶液は、ニュートン挙動を示し、かつ、粘弾性限界の小さい変形の振動周期下で、その粘性応答がその弾性応答よりも大きいアルギン酸塩前駆体溶液を架橋することによって得ることができる請求項8に記載の溶液。
【請求項10】
前記の加えられた小さい変形の振動周期は0.01Hz〜100Hzの範囲内、好ましくは、0.1Hz〜10Hzの範囲内である請求項9に記載の溶液。
【請求項11】
0.1%〜4%(w/v)の架橋されたアルギン酸塩を含む請求項7〜10のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項12】
前記溶液は貯蔵安定性であり、その溶液形態およびシリンジ注入性を長期間にわたって維持する請求項7〜11のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項13】
少なくとも24時間の期間にわたって、好ましくは7日間にわたって、さらに好ましくは1年にわたって貯蔵安定性である請求項12に記載の溶液。
【請求項14】
前記溶液が対象に投与されたときにインビボでゲルを形成する請求項12〜13のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項15】
流動可能かつ注入可能で均一な、グルコン酸ヘミカルシウムで架橋されたアルギン酸塩水溶液。
【請求項16】
貯蔵安定性であり、その均一な溶液形態およびシリンジ注入性を長期間にわたって維持する請求項15に記載の溶液。
【請求項17】
前記溶液が対象に投与されたときにインビボでゲルを形成する請求項13〜16のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項18】
架橋されたアルギン酸塩水溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩水溶液を調製する方法であって、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、好適な架橋剤を用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、前記架橋剤の水溶液を加えることによって架橋する工程
を含む方法。
【請求項19】
前記架橋剤は、カルシウム、銅、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、スズ、亜鉛、クロム、または有機カチオン、ポリ(アミノ酸)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(アリルアミン)および多糖類である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記カルシウムの塩はグルコン酸カルシウムである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
架橋されたアルギン酸塩溶液であって、その弾性応答が、小さい変形の振動周期が加えられたとき、その粘性応答と同等またはそれ以上になり、かつ、べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す架橋されたアルギン酸塩水溶液を調製する方法であって、
(a)アルギン酸ナトリウムを水または他の好適な水性緩衝液に溶解する工程;
(b)工程(a)で得られたアルギン酸塩溶液を、カルシウムイオンを用いて、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液が得られるまで激しく撹拌しながら、好適な量の2%(w/v)グルコン酸カルシウム溶液を加えることによって架橋する工程
を含む方法。
【請求項22】
請求項17〜21のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、均一な架橋されたアルギン酸塩溶液。
【請求項23】
損傷した心臓組織の修復および再生を促進させるための請求項1〜16および22のいずれか一項に記載の溶液。
【請求項24】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項23に記載の溶液。
【請求項25】
請求項1〜16および22のいずれか一項に記載の溶液を有効成分として含む組成物。
【請求項26】
損傷した組織の修復および再生を促進させるための請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記組織が心臓組織である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記心臓組織が左心室壁である請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記損傷は、心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷または機械的心筋損傷からなる群から選択される請求項27〜29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
リエントリー性不整脈の処置における使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
治療的血管形成において使用するための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
幹細胞の走化性および/または幹細胞を向かわせることにおける使用のための請求項27〜30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する請求項27〜35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
さらに細胞を含む請求項27〜37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記細胞は、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、始原細胞、幹細胞または心臓の血管形成および再生を促進させることができる他の好適な細胞である請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
損傷した組織の修復および再生を促進させるための医薬組成物の調製における請求項1〜17および23のいずれか一項に記載のポリマー溶液の使用。
【請求項41】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記組織は心臓組織である請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記心臓組織は左心室壁である請求項42に記載の使用。
【請求項44】
前記損傷は心筋梗塞、虚血性心筋損傷、毒性心筋損傷、炎症性心筋損傷および機械的心筋損傷からなる群から選択される請求項41〜43のいずれか一項に記載の使用。
【請求項45】
前記組成物はさらに、必要に応じてさらなる治療薬剤を含有する請求項41〜44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
前記さらなる治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモン、抗アポトーシス薬物、成長刺激因子および幹細胞刺激因子からなる群から選択される請求項45に記載の使用。
【請求項47】
心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態の防止および/または処置における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項48】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項48に記載の使用。
【請求項49】
リエントリー性不整脈の処置における使用のための請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項50】
治療的血管形成における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項51】
幹細胞の走化性における請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の溶液の使用。
【請求項52】
請求項1〜17および23のいずれか一項に記載の架橋されたポリマー溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、損傷した組織を処置する方法。
【請求項53】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記組織は心臓組織である請求項53に記載の方法。
【請求項55】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、SDF−1の発現を増強する方法。
【請求項56】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、幹細胞の走化性を導くか、または、損傷した心筋に向かわせる方法。
【請求項57】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、血管新生を誘導する方法。
【請求項58】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、治療的血管形成を誘導する方法。
【請求項59】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の損傷、リモデリングおよび機能不全から生じる状態を防止する方法。
【請求項60】
前記状態は、左心室リモデリング、梗塞拡大、心不全および虚血性僧帽弁逆流からなる群から選択される請求項59に記載の方法。
【請求項61】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、限局性不整脈またはリエントリー性不整脈を処置する方法。
【請求項62】
請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物を必要性のある対象に投与することを含む、心筋の収縮性を改善する方法。
【請求項63】
心臓細胞の増殖を誘導する方法であって、インビボまたはインビトロにおいて、前記細胞を請求項8〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたアルギン酸溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含む方法。
【請求項64】
(a)請求項1〜17および22のいずれか一項に記載の架橋されたポリマー溶液または請求項25〜39のいずれか一項に記載の組成物;
(b)必要としている患者の心臓部位に架橋されたポリマー溶液を投与するための手段;
(c)前記ポリマー溶液をどのように使用するかの指示マニュアル;
を含む、損傷した組織を修復するためのキット。
【請求項65】
前記ポリマーはアルギン酸塩である請求項64に記載のキット。
【請求項66】
架橋されたポリマー溶液を投与するための前記手段は、18G〜27Gのニードルを有するシリンジ、電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルを含む、ガイドワイヤを有する心臓送達デバイスを含む任意の好適な経皮心臓送達システム、および、左心室腔、動脈または静脈の冠状系を介して心筋を評価するために設計された任意の経皮心臓デバイスのいずれかであり得る請求項65に記載のキット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたポリマーの水溶液を含む体組織の処置のための治療用組成物であって、前記ポリマー水溶液が(i)室温以下の温度で少なくとも24時間の貯蔵において液体状態を維持することができ、かつ(ii)体組織中への注入後にゲル状態をとることができる治療用組成物。
【請求項2】
前記架橋されたポリマーの水溶液がニードルを介して前記体組織中に投与されることができる請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記ニードルが18ゲージ〜27ゲージの口径を有する請求項2に記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記架橋されたポリマーの水溶液がカテーテルを介して前記体組織中に投与されることができる請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項5】
前記架橋されたポリマーの水溶液が(i)線形粘弾性限界の小さい変形の振動周期下でその粘性応答と同等またはそれ以上の弾性応答を示し、かつ(ii)べき乗則の関係の剪断弱化挙動を示す請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項6】
前記小さい変形の振動周期は0.1〜10Hzの範囲内である請求項5に記載の治療用組成物。
【請求項7】
前記ポリマーが多糖である請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項8】
前記多糖がアルギン酸塩である請求項7に記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記アルギン酸塩は10Kダルトン〜300Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記アルギン酸塩は25Kダルトン〜250Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項11】
前記アルギン酸塩の濃度が0.1%〜4%(w/v)である請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項12】
前記アルギン酸塩の濃度が0.5%〜2%(w/v)である請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項13】
前記ポリマーは、二価または多価のカチオンにより架橋される請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項14】
前記二価または多価のカチオンは前記ポリマー内に均一に分布される請求項13に記載の治療用組成物。
【請求項15】
前記二価または多価のカチオンはカルシウムカチオンである請求項13に記載の治療用組成物。
【請求項16】
前記カルシウムカチオンの濃度が0.028%(w/v)である請求項15に記載の治療用組成物。
【請求項17】
さらに細胞を含む請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項18】
前記細胞は、筋芽細胞、心筋細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、始原細胞および幹細胞からなる群から選択される請求項17に記載の治療用組成物。
【請求項19】
少なくとも一つの治療薬剤をさらに含む請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項20】
前記少なくとも一つの治療薬剤は、抗生物質、増殖因子、抗炎症性薬物、ホルモンおよび抗アポトーシス薬剤からなる群から選択される請求項19に記載の治療用組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の治療用組成物および前記治療用組成物を組織の修復における使用について同定する包装材料を含む製品。
【請求項22】
前記組織が心筋組織である請求項21に記載の製品。
【請求項23】
体組織の処置のためのキットであって、(a)請求項1に記載の治療用組成物、(b)前記治療用組成物を体組織中に投与するのに好適な装置、および(c)体組織の処置における使用についてキットを同定する包装材料を含むキット。
【請求項24】
前記体組織が心筋組織である請求項23に記載のキット。
【請求項25】
前記装置がシリンジを含む請求項23に記載のキット。
【請求項26】
前記シリンジが18ゲージ〜27ゲージの口径のニードルを備えている請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記装置がカテーテルを含む請求項23に記載のキット。
【請求項28】
前記カテーテルが前記治療用組成物の心臓の冠状動静脈内投与に好適である請求項27に記載のキット。
【請求項29】
心臓の冠状動静脈内投与に好適な前記カテーテルが電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルである請求項28に記載のキット。
【請求項30】
体組織の処置のための治療用組成物の製造方法であって、
(a)二価または多価カチオン塩対ポリマー塩の予め決定された比を含む水溶液を準備する工程;および
(b)前記二価または多価カチオン塩の二価または多価カチオンで前記ポリマー塩のポリマーを均一に架橋するのに好適な条件下で前記水溶液を混合し、かつ依然として前記水溶液を架橋されたポリマー水溶液として維持し、それにより体組織の処置のための治療用組成物を製造する工程
を含む方法。
【請求項31】
前記ポリマー塩が多糖の塩である請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記多糖の塩がアルギン酸塩である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ポリマー塩がアルギン酸ナトリウムである請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記アルギン酸ナトリウムは5Kダルトン〜300Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記アルギン酸ナトリウムは25Kダルトン〜250Kダルトンの間の範囲の分子量を有する請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記二価または多価のカチオン塩はカルシウムの塩である請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記カルシウムの塩はグルコン酸カルシウムである請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記比は0.3:1である請求項30に記載の方法。
【請求項39】
前記混合はホモジナイザーを用いることによって行われる請求項30に記載の方法。
【請求項40】
損傷した体組織の処置のための医薬品の製造のための請求項1に記載の治療用組成物の使用。
【請求項41】
前記損傷した体組織が損傷した心筋組織である請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記心筋組織は左心室壁である請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記与えることがニードルを介して行われる請求項40に記載の使用。
【請求項44】
前記ニードルが18ゲージ〜27ゲージの口径を有する請求項43に記載の使用。
【請求項45】
前記与えることが、好適なカテーテルを介して心臓の冠状動静脈内で行われる請求項40に記載の使用。
【請求項46】
前記好適なカテーテルが電気機械的な位置決めカテーテルまたはMRI誘導カテーテルである請求項45に記載の使用。
【請求項47】
心臓の状態の処置のための医薬品の製造のための請求項1に記載の治療用組成物の使用。
【請求項48】
前記心臓の状態は慢性心不全または虚血性僧帽弁逆流である請求項47に記載の使用。
【請求項49】
損傷した心臓組織中に血管形成を誘導するための医薬品の製造のための請求項1に記載の治療用組成物の使用。
【請求項50】
請求項30に記載の方法によって得ることができる架橋したポリマー水溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3A−B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A−C】
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【図5D−F】
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【図5G−H】
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【図6A−C】
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【図6D−F】
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【図7A−B】
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【図7C−D】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2006−525405(P2006−525405A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507619(P2006−507619)
【出願日】平成16年5月4日(2004.5.4)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000371
【国際公開番号】WO2004/098669
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
WINDOWS
【出願人】(505412650)ベン‐グリオン ユニバーシティ オブ ザ ネゲヴ リサーチ アンド デベロップメント オーソリティ (3)
【Fターム(参考)】