説明

注入外管及び土壌・地下水の浄化方法

【課題】浄化処理の進行状況を簡単に知ることができ、土壌や地下水の浄化処理を容易かつ確実に行うことが可能な注入外管及び土壌・地下水の浄化方法を提供する。
【解決手段】外管12と内管13と、多段に設けた複数の注入口14a,14bとを有し、外管と内管とを相対的に移動させることによって注入口開閉可能とした注入外管11を、井戸15内に挿入する工程と、注入外管を充填材により固定する工程と、複数のパッカ18間に噴出口19を有する注入内管を挿入する工程と、注入口を開く工程と、基部開口をシールする工程の後に、パッカを膨出させて噴出口及び注入口を介して土壌中に浄化剤を注入し、注入口及び噴出口を介して土壌中の液体又は気体を吸引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入外管及び土壌・地下水の浄化方法に関し、詳しくは、汚染された土壌や地下水に含まれる汚染物質を除去して浄化する際に使用される注入外管の構造及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種汚染物質で汚染された土壌や地下水を浄化する方法として、排出側へだけ通過しやすい弁を持つ多段の注入口を有する外管を土壌に挿入し、周囲に充填剤を充填し、該管内には、噴出口を持つ内管を上下の注入口をパッカにてシールし、噴出口を介して目的とする注入口より浄化剤を地層内に加圧注入し、一段の注入が完了した後、深さ方向へ内管を移動し、順次加圧注入工程を繰り返すことにより、浄化剤を汚染地層へ供給して浄化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平8−80484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の方法では、浄化処理の進行状況を知るためには、別途観測用の井戸を設置したりする必要があり、手間が掛かっていた。また、土壌内は、難透水性〜透水性土壌が地層として幾重にも積み重なっており、複雑に絡んだ地層毎(同じ透水性レベルの地層毎)に浄化することが困難であった。
【0004】
そこで本発明は、浄化処理の進行状況を簡単に知ることができ、土壌や地下水の浄化処理を容易かつ確実に行うことが可能な注入外管及び土壌・地下水の浄化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の注入外管は、汚染された土壌・地下水を浄化する浄化剤を土壌中に注入するために使用する注入外管であって、先端が閉塞された外管と、該外管の内面に外面が摺接する内管とを有し、前記外管と内管とにそれぞれ多段に設けた複数の注入口を、外管と内管とを相対的に移動させることによって開閉可能に形成したことを特徴としている。
【0006】
また、本発明の土壌・地下水の浄化方法は、上記構成の注入外管を用いた土壌・地下水の浄化方法であって、穿孔した井戸内に前記注入外管を挿入する工程と、該注入外管の外周に充填材を充填して井戸内に注入外管を固定する工程と、軸方向に間隔を空けて設けた複数のパッカ間に噴出口を有する注入内管を挿入する工程と、前記注入外管の内管を外管内で移動させて前記注入口を開く工程と、前記噴出口をあらかじめ設定した位置に配置した状態で前記注入外管の基部開口と前記注入内管の基部との間をシールする工程と、前記パッカを膨出させて前記噴出口の両側をシールする工程と、前記注入内管の基部に接続した浄化剤供給手段から注入内管内に浄化剤を供給し、前記噴出口及び前記注入口を介して土壌中に浄化剤を注入する工程と、前記注入内管の基部に接続した吸引手段により注入内管内を吸引し、前記注入口及び前記噴出口を介して土壌中の液体又は気体を吸引する工程とを含むことを特徴としている。
【0007】
さらに、本発明の土壌・地下水の浄化方法は、前記吸引手段により吸引した液体又は気体を分析し、該分析結果に基づいて前記浄化剤の種類又は注入条件を変更すること、前記浄化剤の注入及び前記液体又は気体の吸引を、前記注入外管の異なる位置で繰り返し行うこと、一つの注入外管から前記浄化剤を注入するとともに、該注入外管の近傍に設置した他の注入外管で液体又は気体を吸引することを特徴としている。
【0008】
また、一つの注入外管の複数の異なる位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引を行うとともに、該一つの注入外管の近傍に設置した他の注入外管において、前記一つの注入外管における浄化剤の注入位置及び液体又は気体の吸引位置に応じた位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の注入外管は、井戸内に設置後は、注入口を開いたままの状態にしておくことができるので、注入外管周囲への浄化剤の注入だけでなく、注入外管周囲の液体や気体を吸引する用途にも使用できる。また、本発明の土壌・地下水の浄化方法によれば、注入外管周囲への浄化剤の注入と注入外管周囲からの液体や気体の吸引とを適宜繰り返すことにより、汚染状態や土壌の状態に応じた最適な浄化処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の注入外管を使用して土壌・地下水を浄化する状態を示すもので、図1は浄化剤注入前の状態を示す説明図、図2は浄化剤注入時の状態を示す説明図である。
【0011】
まず、注入外管11は、先端が閉塞された外管12と、該外管12の内面に外面が摺接する内管13とを有する二重管構造であって、前記外管12と前記内管13とには、軸方向の上下多段に複数の注入口14a,14bが設けられている。
【0012】
この注入口14a,14bは、外管12と内管13とを相対的に移動させることによって開閉可能に形成されており、本形態例では、外管12に対して内管12を軸線方向に移動させることにより、外管12の注入口14aと内管13の注入口14bとを上下にずらした閉じ状態(図1)と、内外で合致させた開状態(図2)とに切り換えられるように形成されている。
【0013】
なお、注入口14a,14bの開閉は、外管12に対して内管12を周方向に回動させて行うこともでき、軸方向の移動と周方向の回動とを組み合わせることもできる。また、すべての注入口14a,14bを同時に開閉するようにしてもよいが、一部を開状態とし、他を閉状態とする設定も可能である。
【0014】
このように形成した注入外管11を使用して土壌や地下水の浄化を行うには、まず、浄化する領域内に所定深さ、所定径の井戸15を形成し、その内部に、注入口14a,14bを閉じ状態とした注入外管11を挿入する。次に、注入外管11の周囲に充填材16を充填し、該充填材16を固化させることによって注入外管11を井戸15内に固定する。次に、注入外管11の内部に注入内管17を挿入するとともに、内管13を上下方向に所定量移動させ、注入口14a,14bを合致させて開状態にする。
【0015】
前記注入内管17には、軸方向に間隔を空けて複数のパッカ18,18が設けられており、一対のパッカ18,18間に、注入内管17の内部から浄化剤を噴出する噴出口19が設けられている。注入内管17の基部には、液槽21から注入内管17に浄化剤を供給したり、注入内管17の内部から液体や気体を吸引したりするためのポンプ設備22がフレキシブル管23を介して接続している。
【0016】
なお、注入内管17には、前記パッカ18,18を膨張させたり、収縮させたりするための流体を導入、導出するための配管(図示せず)が設けられている。また、注入内管17を多重管構造にしたり、内部に複数の配管を通したりして複数の流路を形成し、これらに対応するポンプ設備を設けるとともに、各流路にそれぞれ噴出口を設けることにより、一組のパッカ18,18間から複数の浄化剤を噴出するように形成することも可能である。さらに、注入内管17に3個以上のパッカを設けて注入外管11内に複数の区画を形成し、各区画において注入、吸引を任意に行うように形成することもできる。
【0017】
図2に示すように、注入外管11に対する注入内管17の挿入量を所定の位置とし、所定の深さで土壌中に浄化剤を注入できる状態とした後、注入外管11の基部開口と注入内管17の基部とをシール材24にてシールする。次に、適宜な流体を導入して前記パッカ18,18を膨張させることにより、注入内管17の内部を前記噴出口19の上下で気密に仕切った後、浄化剤供給手段でもある前記ポンプ設備22から液槽21内の浄化剤を注入内管17に供給する。これにより、噴出口19から浄化剤Cが噴出し、前記注入口14a,14bを通り、充填剤16の隙間を通って土壌中に注入される。
【0018】
所定量の浄化剤を土壌中に注入し、所定時間経過後に、吸引手段でもある前記ポンプ設備22を吸引に切り換えて注入内管17内の吸引を行う。これにより、注入外管11の周囲の土壌中に存在する液体や気体が前記注入口14a,14bから吸引され、噴出口19、注入内管17を通ってポンプ設備22に吸引される。ポンプ設備22に吸引された液体や気体は、分析装置により成分分析され、浄化対象となっている有害成分の浄化状態を確認し、必要に応じて浄化剤の種類や組成を変更したり、注入位置や注入圧力等の注入条件を変更して浄化処理を繰り返す。
【0019】
このような注入操作及び吸引操作を、注入外管11内への注入内管17の挿入量を変更して土壌中の異なる位置でそれぞれ実施することにより、所定領域内の土壌や地下水の浄化を行うことができる。注入操作及び吸引操作は、複数の位置で注入操作を行った後に吸引操作を行うことができ、注入位置と異なる位置から吸引することもできる。
【0020】
図3乃至図7は、土壌・地下水を浄化する操作例をそれぞれ示す説明図である。なお、以下の説明において、前記形態例で示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0021】
まず、図3に示す操作例では、前述のように、外管及び内管を組み合わせた注入外管11の内部に注入内管17を挿入し、所定の浄化剤C1,C2を土壌Sの中に所定の深度でそれぞれ注入した後、土壌中の液体Lや気体Gを所定の深度からそれぞれ吸引して外部に排出するようにしている。
【0022】
図4に示す操作例では、注入内管17に3個以上のパッカを設けた、いわゆるマルチパッカ方式によるマルチパッカ内管を使用し、あらかじめ設定した各深度において、土壌中への浄化剤の注入と、土壌中からの液体や気体の吸引とを交互に繰り返すようにしている。
【0023】
図5に示す操作例では、井戸15を複数形成し、各井戸内に配置した注入外管11の所定の深度から土壌中に浄化剤を注入するとともに、注入深度とは異なる深度で土壌中から液体や気体を吸引するようにしている。
【0024】
図6に示す操作例では、所定の距離をおいて設けた一方の注入外管11aでは上部及び下部で所定の浄化剤C1を土壌中に注入し、他方の注入外管11bでは中間部から他の浄化剤C2を土壌中に注入するとともに、一方の注入外管11aの中間部では土壌中から液体や気体を吸引し、他方の注入外管11bの上部及び下部では土壌中から液体や気体を吸引するようにしている。
【0025】
図7に示す操作例では、所定の距離をおいて設けた2本の注入外管11a,11bにおいて、浄化操作開始時は各注入外管11a,11bの全長にわたって土壌中への浄化剤の注入及び土壌中からの液体や気体の吸引を行い、吸引した液体や気体の分析結果から他方の注入外管11bの近傍で地表近くに存在した汚染領域D1の消滅を確認した後は、一方の注入外管11aの近傍に存在する汚染領域D2の浄化を行うため、注入外管11aでは全長にわたって土壌中への浄化剤の注入及び土壌中からの液体や気体の吸引を行い、他方の注入外管11bでは汚染領域D2に近い部分で土壌中への浄化剤の注入及び土壌中からの液体や気体の吸引を行うようにしている。
【0026】
また、図5乃至図7に示すように、複数の注入外管を使用する場合、浄化対象領域の土壌における地層の難透水性土壌及び透水性土壌の積層状態に応じて、一つの注入外管の複数の異なる深度位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引をそれぞれ行うとともに、該一つの注入外管の近傍に設置した他の注入外管において、前記一つの注入外管における浄化剤の注入位置及び液体又は気体の吸引位置に応じた位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引をそれぞれ行うことにより、複雑に絡んだ地層における同じ透水性レベルの地層毎に最適な条件で浄化を行うことができる。このとき、一つの注入外管から注入する浄化剤と、他の注入外管から注入する浄化剤とは、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。また、地層毎に注入圧力や吸入圧力(真空度)を適宜設定することにより、浄化効果を更に向上させることができ、短時間で最適な浄化処理を行うことができる。
【0027】
このように、土壌や地下水の汚染状況に応じて最適な深度から浄化剤を注入するとともに、最適な深度から土壌中の液体や気体の吸引を行い、さらに、分析結果に応じて浄化剤を変更したり、注入位置や吸引位置を変更したりすることにより、浄化作業を効率よく短時間で行うことができる。したがって、浄化剤に要するコストの削減や工事期間の短縮によるコスト削減を図ることができる。
【0028】
なお、使用する浄化剤は、汚染物質の種類、性状、濃度、土壌の状態等の各種条件に応じて従来から用いられている各種浄化剤を使用することができ、例えば、空気、窒素、高温水、蒸気、酸化剤、還元剤、界面活性剤、微生物活性化剤等を用いることができる。また、注入外管は、浄化処理完了後に地下水位観測孔として利用することができる。
【0029】
さらに、本発明の土壌・地下水の浄化方法は、外管12と内管13とで形成した前記構成を有する注入外管11に代えて、汚染された土壌・地下水を浄化する浄化剤を土壌中に注入するために使用する注入外管であって、先端が閉塞された外管に複数の注入口を多段に設けるとともに、該注入口を保護する保護材を設け、その保護材を注入口に流れる流体により破断して該注入口を開口可能に形成した注入外管を用いて実施することも可能である。保護材としては、浄化剤を含む任意の流体の圧力や温度によって破断(溶解や分離、分散を含む。)するものを使用することができ、井戸内に挿入した注入外管の周囲に充填される充填剤が注入外管内に侵入することを防止できるものであればよく、例えば合成樹脂シート又はフィルムを注入外管の外面に貼り付けたり、注入口内に粘度を詰め込んだりしたものなどを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】浄化剤注入前の状態を示す説明図である。
【図2】浄化剤注入時の状態を示す説明図である。
【図3】土壌・地下水を浄化する第1の操作例を示す説明図である。
【図4】土壌・地下水を浄化する第2の操作例を示す説明図である。
【図5】土壌・地下水を浄化する第3の操作例を示す説明図である。
【図6】土壌・地下水を浄化する第4の操作例を示す説明図である。
【図7】土壌・地下水を浄化する第5の操作例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
11…注入外管、12…外管、13…内管、14a,14b…注入口、15…井戸、16…充填材、17…注入内管、18…パッカ、19…噴出口、21…液槽、22…ポンプ設備、23…フレキシブル管、24…シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された土壌・地下水を浄化する浄化剤を土壌中に注入するために使用する注入外管であって、先端が閉塞された外管と、該外管の内面に外面が摺接する内管とを有し、前記外管と内管とにそれぞれ多段に設けた複数の注入口を、外管と内管とを相対的に移動させることによって開閉可能に形成したことを特徴とする注入外管。
【請求項2】
請求項1記載の注入外管を用いた土壌・地下水の浄化方法であって、穿孔した井戸内に前記注入外管を挿入する工程と、該注入外管の外周に充填材を充填して井戸内に注入外管を固定する工程と、軸方向に間隔を空けて設けた複数のパッカ間に噴出口を有する注入内管を挿入する工程と、前記注入外管の内管を外管内で移動させて前記注入口を開く工程と、前記噴出口をあらかじめ設定した位置に配置した状態で前記注入外管の基部開口と前記注入内管の基部との間をシールする工程と、前記パッカを膨出させて前記噴出口の両側をシールする工程と、前記注入内管の基部に接続した浄化剤供給手段から注入内管内に浄化剤を供給し、前記噴出口及び前記注入口を介して土壌中に浄化剤を注入する工程と、前記注入内管の基部に接続した吸引手段により注入内管内を吸引し、前記注入口及び前記噴出口を介して土壌中の液体又は気体を吸引する工程とを含むことを特徴とする土壌・地下水の浄化方法。
【請求項3】
前記吸引手段により吸引した液体又は気体を分析し、該分析結果に基づいて前記浄化剤の種類又は注入条件を変更することを特徴とする請求項2記載の土壌・地下水の浄化方法。
【請求項4】
前記浄化剤の注入及び前記液体又は気体の吸引を、前記注入外管の異なる位置で繰り返し行うことを特徴とする請求項2又は3記載の土壌・地下水の浄化方法。
【請求項5】
一つの注入外管から前記浄化剤を注入するとともに、該注入外管の近傍に設置した他の注入外管で液体又は気体を吸引することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の土壌・地下水の浄化方法。
【請求項6】
一つの注入外管の複数の異なる位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引を行うとともに、該一つの注入外管の近傍に設置した他の注入外管において、前記一つの注入外管における浄化剤の注入位置及び液体又は気体の吸引位置に応じた位置で浄化剤の注入及び液体又は気体の吸引を行うことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項記載の土壌・地下水の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−63978(P2010−63978A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231206(P2008−231206)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【出願人】(508273533)新日本グラウト工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】