説明

注入装置および同装置用アクチュエータ

【課題】患者の体内へ投薬の流体を送達するための注入装置を提供する。
【解決手段】注入装置は、入口と、出口と、流体が入口から出口へ流れるように延びるピストンチャンネルと、後退及び前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、これらを収容する筐体とを備える。アクチュエータが後退位置のとき、入口からの流体を充填するピストンチャンバが形成され、アクチュエータが後退から前進位置まで移動するとき、ピストンチャンバ内の流体が出口へ流される。アクチュエータは、ピストンチャンネル内で移動可能な、入口端と出口端とを有するピストンとを有する。また、装置は、入口に連通する第1の流体チャンバと、出口に連通する第2の流体チャンバとを有し、ピストンが、入口から出口へと流体が流れるように、入口端から出口端までの外表面の中の溝を有し、溝は、ピストンの周囲のつる巻き状の溝である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入装置に関し、さらに詳細には注入装置の駆動機構において使用するためのアクチュエータに関するものであり、このアクチュエータは、注入装置の定期的な洗浄を容易にし、かつ注入ポンプの入口貯槽からこのポンプの出口チャンバまでの流体の流れを全体的に向上させるように構成される。
【背景技術】
【0002】
注入装置は、注入媒体(例えば、インシュリンのような医薬品)を患者に送達するために使用され得る。このような装置は、注入媒体の所定の用量を患者の体内の、例えば、静脈系の中、脊柱の中、または腹膜腔の内部の特定の部位へ送達するために、患者の体内に移植されるように設計され得る。
【0003】
上述した種類の知られた注入装置は、鉄材料から製作された往復動ポンプ動作要素を備える駆動機構を含む。この往復動ポンプ動作要素は、電機子部分に結合されるピストン部分を備えるアクチュエータを含む。ピストン部分は、ソレノイドコイルが交互に付勢および消勢されるとき、ピストンチャネルの内部を往復動するように構成される。すなわち、ソレノイドが付勢されるとき、アクチュエータが止め部材に到達するまで、磁束がそれを非常に迅速に(すなわち、2〜3ミリ秒台で)移動する。これは、ポンプの前進行程に対応し、注入媒体の所定の用量を出口チャンバから患者に送達することになる。ソレノイドが消勢されるとき、磁束の欠如は、ばねの力によりアクチュエータがその原位置に復帰することを可能にする。これは、次にピストンチャンバ内の圧力を降下させる。ピストンチャンバ内の低下した圧力は、ピストンチャンバを再充填するために、注入媒体を貯槽からアクチュエータピストンとピストンシリンダ壁との間の環状部を介して流動させ、よって貯槽とピストンチャンバとの間の圧力を均等化してポンプにその次のポンプ動作または送達行程の準備をさせる。これは再充填行程と呼ばれる。アクチュエータピストンとピストンンシリンダとの間の環状部は非常に小さく(すなわち、径方向にして約3.80から約6.35マイクロセンチメートル(150から250マイクロインチ)台にあり)、約1から2秒の間の時間を要する出口チャンバ再充填過程をもたらす。対照的に、ポンプの前進(送達)行程は、再充填過程よりも約500倍の速さである。
【0004】
時間経過に伴い、インシュリンのようなタンパク質薬物は変性して流体経路の表面、例えば、アクチュエータピストンとピストンシリンダとの間の環状部を形成する表面の上にタンパク質の付着をもたらす。このような付着物は、弁の漏れを引き起こし、可動部分の動作を妨害し、および/または別様に装置性能を低下させるおそれがある。典型的には、このような付着物は、移植されたポンプを溶剤(例えば、水酸化ナトリウム(NaOH))で洗浄して付着物を溶解させることによって定期的に(例えば、1年に1回)除去される。
【0005】
洗浄手順は、典型的に次のように実行される。最初に、注入装置の貯槽に所望の緩衝液または洗浄溶液が充填される。この装置は患者の皮膚の近傍に移植されるので、貯槽は第1の注射器を利用して充填される。第2の注射器が、負の差圧を生成し、したがってポンプを介して流体を引き込むのを助けるために、装置の出口に係合する。ポンプ自体は、この手順中、ポンプを介して流体を流動させるのを補助するために動作している。インシュリンの場合には、洗浄手順が少なくとも1ccの洗浄流体を入口貯槽からポンプの出口まで約10分で輸送することになるのが既定の目標である。継続時間にして10分未満の洗浄サイクルでは、すべての付着物を溶解できないことになるおそれがあり、10分を超える洗浄サイクルでは、患者に過度の不快感をもたらすおそれがある。洗浄手順は、異なる流体に関してポンプの貯槽を数回空にしかつ再充填することを伴う多段階作業を含むし、異なる薬物療法には異なる洗浄薬剤の使用が必要になる。他のタンパク質薬物には異なる洗浄回数および/または容積が必要になり得ることが理解されるべきである。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,573,994号明細書
【特許文献2】米国特許第4,697,622号明細書
【特許文献3】米国特許第5,167,633号明細書
【特許文献4】米国特許第5,176,644号明細書
【特許文献5】米国特許第5,514,103号明細書
【特許文献6】米国特許第6,652,510号明細書
【特許文献7】米国特許第6,805,693号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、アクチュエータピストンの表面とピストンシリンダ壁との間の空間または環状部は径方向にして約3.80から約5.08マイクロセンチメートル(約150〜200マイクロインチ)であり、かなり緊密な嵌め合いであり、この環状部を経由してピストンチャンバを再充填するには約1から2秒を要する。環状部の壁上に生じる、上述した種類の付着物は流体の流れを制限し、よって流体がピストンチャンバを再充填するのに要する時間を増大させ、それが、次に行程回数を減少させて適正な洗浄手順を長引かせ、例えば、それは望ましい10分ではなく、30分以上掛かり得る。付着物の蓄積は非常に甚だしいのでポンプをロック状態にさせる。この場合には、1/4〜1/2ccの洗浄流体を通すのに30分を超える時間を要する。これは、ポンプを実効的なものにするには十分ではあり得ない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様によれば、流体を送達するための装置が提供される。患者の体内へ投薬の流体を送達するための注入装置であって、筐体と、前記筐体の中にあって前記流体を受け取るための入口と、前記筐体の中にあって前記流体を排出するための出口と、前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記流体が前記入口から前記出口へ流れるように延びるピストンチャンネルと、前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記入口から受け取った前記流体を充填するようなピストンチャンバが形成され、前記アクチュエータが前記後退位置から前記前進位置まで移動するとき、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体が前記出口へ押し流され、前記アクチュエータは、電機子と、前記電機子に結合され、前記電機子により前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能なピストンであって、軸方向に沿って延び、入口端と出口端とを有するピストンと、を有し、前記筐体の中にあって、前記ピストンチャンネルの上部に位置し、前記入口と前記第1の流体チャンバ内に位置する前記ピストンの前記入口端とが連通するように形成される第1の流体チャンバと、前記ピストンチャンネルの下部に位置し、前記出口と前記第2の流体チャンバ内に位置する前記ピストンの前記出口端とが連通するように形成される第2の流体チャンバとを有し、前記ピストンが、前記入口から前記出口へと流体が流れるように前記第1の流体チャンバと前記第2の流体チャンバとの間の流路として形成された、前記入口端から前記出口端までの外表面の中の溝を有し、前記溝は、前記ピストンの周囲のつる巻き状の溝であることを特徴とする。
【0009】
本発明の他の態様においては、患者の体内へ投薬の流体を送達するための注入装置であって、筐体と、前記筐体の中にあって前記流体を受け取るための入口チャンバと、前記筐体の中にあって前記流体を排出するための出口チャンバと、前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記チャンネルの上部に位置する前記入口チャンバから、前記チャンネルの下部に位置する前記出口チャンバへ延びるピストンチャンネルと、前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記出口チャンバと前記ピストンチャンネルとを封止する弁部材を有する弁組立体と、を備え、前記アクチュエータは、前記入口チャンバの中に配置された電機子と、前記電機子に結合され、前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能な溝付きピストンであって、入口端と、出口端と、外部表面と、前記入口端と前記出口端の間に前記流体が流れる流路として形成された前記外部表面の中の溝とを有する溝付きピストンと、を備え、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記弁部材と前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルによって、前記溝を介して前記入口チャンバから受け取った前記流体を充填するようなピストンチャンバが形成され、前記後退位置から前記前進位置までの前記アクチュエータの移動が、前記ピストンチャンバの容積を減少させて前記ピストンチャンバ内の圧力を増大させ、この圧力増大により、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体を前記出口チャンバへ排出するよう前記弁部材が開き、前記溝は、前記アクチュエータが前記後退位置から前記前進位置まで移行する間に、前記ピストンチャンバから前記流体の逆洩れを招くような少なくとも1つのつる巻きと深さと幅とピッチとを有し、前記前進位置から前記後退位置までの前記アクチュエータの移動が、前記弁部材を閉じさせ、次の前進行程に備えて、前記入口チャンバから前記溝を通って前記ピストンチャンバに前記流体を引き込む負圧を生成することを特徴とする。
【0010】
本発明のさらに他の態様においては、患者の体内に流体のたんぱく質薬物を送達するための移植可能な注入装置であって、封止され密閉された生体適合性材料からなる筐体と、前記筐体の中にあって前記流体のたんぱく質薬物を受け取るための入口チャンバと、前記筐体の中にあって前記流体のたんぱく質薬物を排出するための出口チャンバと、前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記チャンネルの上部に位置する前記入口チャンバから、前記チャンネルの下部に位置する前記出口チャンバへ延びるピストンチャンネルと、前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、を備え、前記アクチュエータは、前記入口チャンバの中に配置された電機子と、前記電機子に結合され、前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能な溝付きピストンであって、入口端と、出口端と、外部表面と、前記入口端と前記出口端の間に前記流体のたんぱく質薬物が流れる第1の流路として形成された前記外部表面の中の溝とを有する溝付きピストンと、を備え、さらに、前記注入装置は、前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルとの間には、前記入口チャンバと前記出口チャンバの間に前記流体のたんぱく質薬物が流れる第2の流路として形成された環状空間と、前記筐体の内部の弁組立体であって、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記出口チャンバと、前記ピストンチャンネル、前記第1の流路及び前記第2の流路とを封止する弁部材を有する弁組立体と、を備え、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記弁部材と前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルによって、前記溝と前記環状空間を介して前記入口チャンバから受け取った前記流体のたんぱく質薬物を充填するようなピストンチャンバが形成され、前記後退位置から前記前進位置までの前記アクチュエータの移動が、前記ピストンチャンバの容積を減少させて前記ピストンチャンバ内の圧力を増大させ、この圧力増大により、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体のたんぱく質薬物を前記出口チャンバへ排出するよう前記弁部材が開き、前記前進位置から前記後退位置までの前記アクチュエータの移動が、前記弁部材を閉じさせ、次の前進行程に備えて、前記入口チャンバから前記溝を通って前記ピストンチャンバに前記流体のたんぱく質薬物を引き込む負圧を生成し、前記溝は、前記流体のたんぱく質薬物によって前記第2の流路にたんぱく質付着物が堆積しても、前記第1の流路が維持されるような形状に構成されることを特徴とする。
【0011】
全体を通して同様の参照数字が同様の要素を指す以下の図面と共に、本発明の実施形態を以降に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】先行技術に従う移植可能な注入装置の等角投影図である。
【図2】図1に示された移植可能な注入装置用の駆動機構の等角投影図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に従う駆動機構の断面図である。
【図4】図3に示された駆動機構の実施形態の分解組立図である。
【図5】図3および4に示された駆動機構で使用するための、電機子および溝付きピストンを含むアクチュエータの実施形態の等角投影図である。
【図6】静止状態にある、図3に示された駆動機構の簡略化された断面図である。
【図7】前進状態にある、図3に示された駆動機構の簡略化された断面図である。
【図8】後退状態にある、図3に示された駆動機構の簡略化された断面図である。
【図9】本発明の実施形態に従うピストン溝の断面図である。
【図10】本発明の実施形態に従うピストン溝の断面図である。
【図11】本発明の実施形態に従うピストン溝の断面図である。
【図12】溝付きおよび溝なしアクチュエータピストンに関して、差圧と容積引込みとの間の関係を例示するグラフである。
【図13】溝付きおよび溝なしアクチュエータピストンに関して、行程容積とパルス周期との間の関係を例示するグラフである。
【図14】第1および第2の逆向きのつる巻き状の溝を有するアクチュエータピストンの一部の等角投影図である。
【図15】非常に数少ない巻回を備えるつる巻き状の溝を有するアクチュエータピストンの一部の等角投影図である。
【図16】複数の長手の直線溝を有するアクチュエータピストンの一部の等角投影図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の詳細な説明は、現時点で企図された最も適切な、本発明を実施する様式である。この説明は限定する意味に取られるべきでなく、単に本発明の一般原理を例示する目的のためにある。さらには、本発明の先の背景技術で提示された理論のいずれによっても、または本発明の以下の詳細な説明によって限定されることを意図するものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって最も適切に画定される。
【0014】
上で論じたように、本発明の実施形態は、注入装置と、この装置の入口貯槽から装置の出口までの流体の流れを向上させ、かつこの装置の定期的な洗浄を容易にするアクチュエータを含む駆動機構とに関する。
【0015】
図1は、先行技術の教示に従う移植可能な注入装置10を示す。例示された装置10は、患者の中へ、例えば、腹部領域内に、すなわち、皮膚と腹壁との間に外科的に移植されるように構成される。ポンプに連結されたカテーテルが、例えば、注入媒体を患者の静脈系中の、脊柱内部の、または腹膜腔中の特定の部位に送出することによって、注入媒体を患者に送達することができる。後述するように、装置10の実施形態は、移植後の長期使用および洗浄を向上させるための本発明の1つ以上の態様に従って構成される。しかし、本発明の他の実施形態は、適切なカテーテル装置または同様物を介して患者につながる外部注入装置として実施され得る。本発明のさらに他の実施形態は、他の状況で、例えば、媒体を他の適切な環境の中へ送達するために使用されてもよい。したがって、本明細書では、本開示を簡略化する目的のために、「患者」という用語は、インプラントまたは連結が医療目的のために行われるかどうかに関係なく、移植可能な装置が移植されたり、または外部装置が連結されたりする任意の環境を指す。また、本明細書では、「注入媒体」という用語は、駆動装置によって送達される任意適切な媒体を指す。
【0016】
装置10は、概ね円盤形状の筐体14を含む。概ね円形の円盤形状をした実施形態が図1に例示されているが、本発明の他の実施形態には、限定するものではないが、楕円、長円、長方形、または他の湾曲したもしくは多角形の形状を含めて、他の形状の筐体が使用されてもよいことが理解されよう。移植可能な装置では、筐体14は生体適合性材料から作製され、ほとんどの場合に、インプラント手術中および移植後に患者の外傷を軽減するために相対的に小さい直径および厚さを有する。
【0017】
筐体14は、限定するものではないが、患者に投与されるべき液体医薬品のような、ある一定容積の注入媒体を収容するための貯槽16を含む。筐体14はまた、下で説明する駆動機構18(例えば、ポンプ)、電源13、および制御電子機器20を収納する。ポンプ18は、ポンプ入口22を介して貯槽16から注入媒体を受け取るように構成される。入口構造22は、密閉可能で封止可能な流体流路を筐体14の貯槽部分中の貯槽に設ける。入口構造22は針を受け入れるための穴を含み、この針を経由して、流体が、例えば、下でより十分に論じるように、注入媒体または洗浄流体を本装置10の貯槽16に充填または再充填するために注入装置10に移送される。特定の実施形態では、入口構造22が、充填または再充填動作の後に再封止され、かつ複数回の再充填および再封止動作を可能とするように構成される。入口構造22の1つの実施例が、「Infusion Device and Reservoir for Same」と題され、本願に引用して援用する米国特許第6,652,510号に説明されている。しかし、他の実施形態は、限定するものではないが、それぞれがスリサタパット(Srisathapat)らへの米国特許第5,514,103号および同第5,176,644号、マン(Mann)らへの米国特許第5,167,633号、スウィフト(Swift)への米国特許第4,697,622号、ならびにフィッシェル(Fischell)らへの米国特許第4,573,994号に説明されているものを含めて、他の適切な入口構造を使用することができる。本発明の実施形態に使用可能な貯槽筐体部分および貯槽の代表的な実施例は、上で言及した米国特許第6,652,510号に説明されており、他の実施形態は、限定するものではないが、上で言及した米国特許第5,514,103号、同第5,176,644号、同第5,167,633号、同第4,697,622号、および同第4,573,994号に説明されたものを含めて、他の適切な貯槽構成を使用することができる。
【0018】
ここで図1および2に戻ると、ポンプ18が出口24を有し、この出口24を介して注入媒体が排出される。装置10が患者の中に移植されるか、または外部から患者に連結されるとき、カテーテル12が、排出された注入媒体を患者の血流の中へ、または患者の体内の選択部位に送達するために出口24に連結される。
【0019】
注入装置10は、ポンプのような駆動機構18と、筐体部分14の中に配置された電子制御システム20とを含む。駆動機構18は、注入装置10の貯槽16と出口24との間に連結される。電子制御システム20は、電池のような電源13と、処方された様態で注入媒体を貯槽16から患者に送達するために駆動機構18を制御するための制御電子機器とを含む。駆動機構18は、任意適切な様態で、例えば、プログラムされた計量分注率もしくは計画に従って、またはセンサ、タイマ、もしくは他の適切な供給源からの駆動信号に従って注入媒体を送達するように制御される。
【0020】
特定の実施形態では、駆動機構18および貯槽16は共に気密封止される。このような実施形態では、駆動機構18および制御電子機器20を収納する筐体14が、チタンもしくはチタン合金、または他の生体適合性金属から作製され、他方で筐体14の貯槽部分16は、その材料が必要な密閉性を可能とするようになっている限り、このような金属または生体適合性および注入媒体適合性のプラスチックから作製可能である。
【0021】
駆動機構18は機械的および電磁的構成要素を含み、これらの構成要素は、構成要素が存在しかつ動作する筐体14内部のある一定容積の空間に存在する。この点に関して、駆動機構18は、筐体14の厚さ要件に、よって装置10の厚さ全体に寄与し得る。駆動能力を損なうことなく装置10の厚さを削減または最小化できると、患者の快適さ、外見、および体のインプラント部位を選択する際の融通性に関してかなりの利点を与える。特定の実施形態では、駆動機構18は、相対的に小さい厚さを有するように構成され、よって装置10が相対的に小さい厚さを有することを可能にする。また、特定の実施形態では、装置10は、一旦移植されたら、それが、注入媒体を患者に投与し、患者の体外から定期的に補給され、かつ注入装置の性能を低下させるおそれのある流体経路の表面上に蓄積された望ましくないタンパク質を除去するために定期的に洗浄するために、相対的に長期間機能するように構成される。
【0022】
図2は、先行技術に従う駆動機構18を例示する。駆動機構18は、入口30および出口24を備える、一部が円筒形の円盤形状構成を有する。入口30は、装置10内部の適切な導管(図示せず)を介して、装置10の貯槽16(図1)と流体連通して結合され得る。同様に、出口24は、装置10内部の適切な導管(図示せず)を介して、図1の装置10の出口12と流体連通して結合され得る。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に従う、後退した位置または状態にある駆動機構18の断面図である。下でさらに詳細に説明するように、駆動機構18は、注入媒体が、それぞれ入口30を介して引き込まれかつ出口24から押し出されるように、後退状態と前進状態との間で変化する(移動する)ために電磁および機械力を利用する。図3に示された構成要素の組立体はまた、図4の分解組立図にも示されている。
【0024】
図3および4を参照すると、駆動機構18は、一方の側で中空の環状内部区間34に口を開く筐体部材32を含む。筐体32は、中心ピストンチャンネル38を備える中心ハブ部分36を有する。筐体部材32の底側(図3に示された向きを基準にして)は中空内部区間34に至る開口部を含み、下で説明するように、この開口部を介してコイル線が通過することができる。筐体部材32の底側はまた、出口チャンバおよび出口通路を設けるための凹所および空洞の構成を含む。筐体部材32は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、生体適合性プラスチック、セラミック、ガラスまたは同様物のような不透磁性または低透磁性を有する、概ね剛性の、生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。
【0025】
図3および4に示されたように、コイルカップ40が、筐体32の環状内部区間34の内部に配置される。コイルカップ40は、概ね円筒形状を有し、一方の側で中空環状内部に口を開ける。コイルカップ40は、中心ハブ部分44の中に位置し、環状内部に対して軸方向に延びる内腔42を含む。カップ部材40のハブ部分44は、幅W1を有する端部表面48(または内部磁極表面)を有する内部環状壁46を形成する。カップ部材40は、幅W2を有する端部表面52(または外部磁極表面)を有する外部壁50を有する。外部壁50は、カップ部材40のバックアイアン部分51によってハブ部分44の内部壁46に連結される。下でさらに詳細に説明するように、カップ部材40の開放端で、内部壁46の端部表面48及び外部壁50の端部表面52はそれぞれに、駆動機構の前進行程中に電磁束のための経路を設けるために、電機子上の磁極表面と協働する磁極表面を形成する。特定の実施形態では、下で説明する幾つかの電磁特徴を与えるために、内部磁極表面48の幅W1は、外部磁極表面52の幅W2よりも大きい。
【0026】
コイルカップ40は、組み立てられるとき、筐体部材32の中空内部の中に配置され、筐体32の中心部分36が、図3に示されたようにコイルカップ40のチャンネル42を貫通する。コイル54がコイルカップ40の中空環状内部の中に配置され、かつコイルカップ40の環状内部の軸の周囲に配置される。コイルカップ40には、図3および4に示されたように、コイルリード線が貫通する開口部56が設けられる。コイルカップ40は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、低炭素鋼、鉄、ニッケル、フェライトステンレス鋼、フェライト、他の鉄材料、または同様物のような相対的に高い透磁率を有する概ね剛性の材料から作製される。コイル54は、コイル構成に巻かれた導電線を含む。コイル線は、限定するものではないが、銀、銅、金、または同様物のような任意適切な導電材料を含むことが可能であり、それぞれの巻回が、隣接する巻回および筐体から電気的に絶縁されている。1つの特定の実施形態では、コイル線は、巻線間の最小空間とより多くのコイル巻回数とを実現し、よって電気効率を高めるために正方形または長方形断面を有する。
【0027】
駆動機構18はまた、電機子部分60およびピストン部分62を有するアクチュエータ部材58を含む。アクチュエータ部材58は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、鉄材料、高い耐食性を備えるフェライトステンレス鋼、または同様物のような相対的に高い透磁率を有する、概ね剛性の、生体適合性でかつ注入媒体適合性の材料から作製される。図3、4、および5の実施形態では、アクチュエータ(電機子60およびピストン部分62を備える)が単一の単体構造として形成される。下で説明する他の実施形態では、ピストン部分62が、電機子部分60に対して別体構造であり得る。
【0028】
図5に、実施例のアクチュエータ部材58の斜視図が示されているが、そこではアクチュエータ部材58の電機子部分60が円形の円盤形状を有し、少なくとも1つの開口部が設けられてもよく、ほとんどの場合に図面に示されたように複数の開口部が設けられている。例示された実施例における開口部は、複数の実質的に円形の開口部66を含む。開口部66間の電機子60の区間68は、環状外部区間(または外部磁極)70を電機子60の内部区間(または内部磁極)72に結合する径方向支柱を概ね形成する。特定の実施形態では、内部磁極表面の幅W1が外部磁極表面の幅W2よりも大きく、カップ部材40の内部壁46上の磁極表面48の幅とカップ部材の外部壁50上の磁極表面52の幅との間の差に対応する。
【0029】
下でさらに詳細に説明するように、電機子60は、電磁束に磁路を設けるためにコイルカップ40の内部壁46および外部壁50と協働する。電機子60上の磁極表面とコイルカップ壁上の磁極表面との間の間隔が、磁路中の間隙を形成する。特定の実施形態では、電機子60の外部磁極の表面70とコイルカップ40の外部壁50の外部磁極の表面52(または下で説明する仕切り74)との間の間隔は、アクチュエータ58が図3に示された後退位置にあるとき、電機子60の内部磁極の表面72とコイルカップ40の内部壁46の磁極表面48(または仕切り74)との間の間隔よりも大きい。
【0030】
電機子60中の径方向支柱68は、電機子60の外部磁極区間70と内部磁極区間72との間に電磁束のための径方向経路を設ける。開口部66は、アクチュエータ58の動きに対して別様であれば注入媒体が生成する恐れのある抵抗を低減するために、アクチュエータ58が後退行程位置と前進行程位置との間で移動されるときに注入媒体が通過するための通路を設ける。開口部の構成は、ほとんどの場合に、電磁束に十分な導体を設けるが、しかもなおアクチュエータ58の動きに対する粘性抵抗を最小化または低減するように設計される。図3を参照すると、アクチュエータ部材58は、ピストン部分62が筐体32の軸方向チャンネル38を貫通し、かつ電機子部分60がコイルカップ40の開口側に隣接して位置決めされるように配置される。アクチュエータばね78が、電機子60とコイルカップ40の開口側との間に間隙を設けるために、アクチュエータ58の電機子部分60をコイルカップ40の開口側から離れる方向へ強制するように位置決めされる。生体適合性でかつ注入媒体適合性の仕切り74が、コイルカップ40の環状表面とコイル54とを封止するのを助けるために、電機子60とコイルカップ40との間でコイルカップ40の開口側を覆って配置される。注入媒体がコイルに接触し得る他の実施形態では、仕切り74は割愛されてもよい。
【0031】
例示された実施形態におけるアクチュエータばね78は、電機子部分60に隣接してアクチュエータ58のピストン部分62の周囲に配置されたコイルばねを含む。コイルバネの一端がアクチュエータ58の電機子部分60に当接し、他方ではコイルばねの対向端が筐体32のピストンチャンネル38中の肩部81に当接する。この様態で、アクチュエータばね78は、アクチュエータ58を図3に示されたその後退位置に向かって強制するために、筐体とアクチュエータ58との間にばね力を与える。
【0032】
例示された実施形態では、ピストン部分62の周囲にかつそれと同軸で配置され、ピストンチャンネル38の内部に一部が配置されたコイルばね78を使用することによって、アクチュエータばねは、駆動機構の厚さ寸法全体に対して寄与が最小限であるかまたは寄与しない。しかし、他の実施形態では、アクチュエータばねが他の適切な形態を有してもよく、アクチュエータ58を図3に示されたその後退位置に向かって強制するのに適切な他の位置に配置されてもよい。アクチュエータばね78は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、MP35Nコバルト鋼、または同様物のような、適切なばね力を発揮する生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。
【0033】
駆動機構18は、筐体部材32の開口側および仕切り74を覆って筐体部材32に取り付く蓋部材80をさらに含む。蓋部材80は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、生体適合性プラスチック、セラミック、ガラス、または同様物のような相対的に低い透磁率を有する(相対的に磁気的に不透明である)概ね剛性の、生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。
【0034】
蓋部材80は、仕切り74と蓋部材80の内部表面との間の内部容積82を形成する。アクチュエータ部材58の電機子部分60は、蓋80が下方の筐体32に取り付けられるときに内部容積82の内部に存在し、電機子60は、図3に示された後退位置と前進行程位置との間を容積82の内部で軸方向へ移動可能である。この動きは、電流がコイル54に通されるときに生成された電磁力の作用と、アクチュエータばね78の機械的な戻り動作とによって生み出される。
【0035】
電機子60の後退位置を設定するために、電機子60が図3に示された完全に後退した位置にあるとき、調整プランジャ84が電機子60に接触するために蓋80の内部に配置される。特定の実施形態では、封止体(例えば、シリコンゴム封止リング)がプランジャ84と蓋部材80との間に配置され得る。他の実施形態では、可撓性のダイヤフラム85(限定するものではないが、薄いチタンシートまたは箔のような)が、蓋80の内側表面に結合可能であり、プランジャ84が貫通する開口部の周囲で封止され得る。ダイヤフラム85は、プランジャ84が調整可能な後退位置の形成を可能にするように撓み、しかもなおプランジャ84と蓋80との間の境界面における漏出を阻止するために封止機能を設ける。他の実施形態では、適正な電機子60位置の設定後に、例えば、プランジャ84を1つ以上の溶着部、接着剤、または他の固着方法で蓋部材80に接着することによって蓋部材80に対して定位置に固定される。
【0036】
蓋部材80は駆動機構18の入口30を含み、この入口30は、下で説明するように内部容積82と流体連通している入口開口部86を有する。入口開口部86は、注入媒体を貯槽から受け取るために注入装置10の貯槽(図1)と流体流連通でつながる。入口開口部86と貯槽との結合は、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、生体適合性プラスチック、セラミック、ガラス、または同様物を含めて、適切な注入媒体適合性の材料から作製された管のような、適切な導管(図示せず)を介することができる。
【0037】
入口開口部86は、この入口開口部86に隣接して蓋部材80の中に形成された入口チャンバ88に流路を設ける。多孔性または網目材料のようなフィルタまたは篩い部材90が、入口チャンバ88の内部に配置される。フィルタまたは篩い部材90は、入口開口部86と容積82に至る入口穴92との間の流路の中に設けられる。媒体が入口を介して内部容積82の中へ流入するのを許容するが、そこから流出するのを許容しないように、一方向弁(図示せず)も入口開口部86と入口穴92との間の流路または入口穴92の中に設けられる。蓋部材82には、除去されるとき、例えば、フィルタ90もしくは入口弁の取付け、交換、または整備、あるいは入口86の整備または洗浄のために、入口チャンバ88に到達することを可能にする入口蓋94が設けられ得る。
【0038】
図3に示されたように、アクチュエータ58のピストン部分62は、筐体32の中の軸方向チャンネル38を貫いて軸方向チャンネル38の端部で出口チャンバ98に向かって延びる。チャンネル38は、ピストン部分62の外径よりも大きい内径を有する。その結果として、環状容積が、軸方向チャンネル38の長さに沿ってピストン部分62と軸方向チャンネル38の壁との間に形成される。注入媒体は、蓋80内部の環状容積82を介して、ピストン部分62の自由端と弁組立体96の弁部材102との間に配置されたピストンチャンバ100に流動し得る。特定の実施形態では、ピストン部分62とチャンネル38の壁との間の径方向間隔が、ピストンチャンバ100を再充填するためにピストンチャンバ100に向かって適切な流量(ピストン部分の戻り行程時に)を供給するが、ピストンチャンバ100から媒体が逆流するのを十分に阻止するほどに小さい流量(ピストン部分の前進行程時に)を供給する。
【0039】
このような結果を実現するためのピストン部分62とチャンネル38の壁との間の実際の径方向間隔は、1つには、これらの構成要素の寸法全体、機構中で生み出された圧力差、および注入媒体の粘性に応じる。特定の実施形態では、径方向間隔は、再充填用の媒体容積が、この間隔を介して逆流する媒体容積よりも約1と4桁との間(ほとんどの場合に、約2桁)大きいように選択される。別法として、または追加的に、径方向間隔は、ピストン部分62の直径Dpとチャンネル38の直径Dcとの比によって形成されてもよく、比Dp/Dcは、ほとんどの場合に約0.990から約0.995の範囲内にある。代表的な実施例として、約10から約15.2マイクロメートル(約400から600マイクロインチ)の全体間隔、ほとんどの場合にピストン部分62の環状回りに約6.35マイクロメートル(約250マイクロインチ)の平均径方向間隙が利用される。
【0040】
図3の実施形態における弁組立体96は、弁部材102および弁ばね106を含む。弁部材102は出口チャンバ98の内部に配置され、図3に示されたように、アクチュエータ58が後退位置にあるときに軸方向チャンネル38と出口チャンバ98との間の開口部を閉じるように位置決めされる。前進行程時には、弁部材102は軸方向チャンネル38と出口チャンバ98との間の流れ通路を開くように位置決めされる。弁ばね106は、弁部材102を支持するために出口チャンバ98の内部に配置される。ばね106は、弁部材102に対してピストン62に向かう方向へばね力を与え、軸方向チャンネル38と出口チャンバ98との間の開口部を遮断するために、弁部材102を閉鎖位置に向かって強制する。
【0041】
弁部材102は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、生体適合性プラスチック、セラミック、ガラス、金、白金、または同様物のような、概ね剛性の、生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。シリコンゴムまたは他の適切な材料の層が、図3に示された閉鎖位置に弁部材102があるときに、開口部をチャンネル38に封止するのを助けるために、チャンネル38に面する表面上の剛性弁部材材料に取り付けられてもよい。
【0042】
弁ばね106は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、MP35Nコバルト鋼、または同様物のような、適切なばね力を発揮する生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。例示された実施形態では、弁ばね106がコイルばねである。他の実施形態では、限定するものではないが、つる巻状の、平坦な、径方向の、螺旋状の、筒状の、砂時計状の、定ピッチもしくは可変ピッチのばね、または同様物を含めて、他の適切な弁ばね構成が利用され得る。
【0043】
図3に示された実施形態は、出口チャンバ98を密閉するために筐体32に封止された弁蓋110を利用する。弁蓋110は、ほとんどの場合に、限定するものではないが、チタン、ステンレス鋼、生体適合性プラスチック、セラミック、ガラス、金、白金、または同様物のような、概ね剛性の、生体適合性でかつ注入媒体適合性がある材料から作製される。
【0044】
コイル54は、コイルカップ40の環状内部の中へ挿入可能であり、コイルリード線がコイルカップ40中のコイルリード線開口部56を貫通している。コイル54は、コイル54をコイルカップ40に接着するために、かつコイル54を封止または部分的に封止するために、エポキシまたは同様物の充填材料で含浸または部分的に含浸され得る。充填材料はまた、組立後の仕切り板の反りまたは膨れを避けるために仕切り板をコイル部材に接着するために使用されてもよい。
【0045】
コイルカップ40およびコイル54は筐体32の内部の中へ挿入可能であり、コイルリード線(ワイヤリード線または柔軟な導電タブでよい)が筐体32の中のコイルリード線開口部56を貫通する。特定の実施形態では、コイルカップ40および筐体32が、これらの2つの構成要素を一体に接着するために追加的な手段を必要としない緊密摩擦嵌めを設けるように構成される。他の実施形態では、コイルカップ40および筐体32は、限定するものではないが、溶着、鑞付け、または同様な方法を含めて、適切な粘着材料または他の接着方法によって一体に結合され得る。
【0046】
仕切り74は、コイル54、コイルカップ40、および筐体部分組立体を覆って配置される。仕切り74は、限定するものではないが、溶着、鑞付け、半田付け、または同様な方法を含めて、任意の適切な粘着材料または他の接着方法を使って、1つ以上の接着点によって筐体32に接着されてもよいし、または仕切り74の周囲に沿って連続的に固着されてもよい。別法として、または追加的に、仕切り74は、図3に示されたように、蓋80の肩部分によって定位置に保持されてもよい。さらには、上で留意したように、仕切り74は、コイル54中の充填材料によってコイル54に接着されてもよい。特定の実施形態では、仕切り74が、コイルカップ40およびコイル54に対して概ね平坦位置に保持される。この平坦関係を向上させるために、コイルカップ40および筐体32は一体に組み立てられ、次いで、コイル54をコイルカップ40の中に挿入する前にかつ充填材料をコイル54に追加する前に、仕切り接触表面を平坦化するために機械加工され得る。
【0047】
仕切り74がコイル54、コイルカップ40、および筐体32を覆って配置されると、アクチュエータ58は部分組立体に追加され得る。しかし、最初にアクチュエータばね78が、このアクチュエータ58の電機子部分60に隣接してピストン部分62の周囲に配置される。次いで、ピストン部分62の自由端が筐体32の軸方向チャンネル38に通され、アクチュエータ58の電機子端が仕切り74に隣接して配置される。
【0048】
蓋部材80は、次いでアクチュエータ58の電機子端を覆って配置され、筐体32に固着され得る。特定の実施形態では、蓋部材80が、限定するものではないが、接着材料、鑞付け、または同様の方法を含めて、1つ以上の溶着箇所または他の接着方法を使って、1つ以上の接着点によって筐体に接着されてもよいし、または蓋部材80の周囲に沿って連続的に接着されてもよい。入口フィルタ90および入口蓋94は、蓋部材80を部分組立体に追加する前に、この蓋部材と一緒に予め組み立てられ得る。別法として、フィルタ90および入口蓋94は、蓋部材80が筐体32上に組み立てられてから蓋部材80に追加されてもよい。特定の実施形態では、フィルタ90が入口チャンバ88の内部に配置され、次いで、入口蓋94が、限定するものではないが、接着材料、鑞付け、または同様の方法を含めて、1つ以上の溶着箇所または他の適切な接着方法を使って、1つ以上の接着点によって蓋部材80に接着されてもよいし、または入口蓋の周囲に沿って連続的に接着されてもよい。
【0049】
駆動機構18の弁側は、上で説明した構成要素が組み立てられる前または後に組立て可能である。駆動機構18の弁側には、弁部材102が、軸方向チャンネル38に至る開口部に隣接して筐体32の出口チャンバ空洞98の内部に配置される。次いで、弁ばね106が弁部材102に隣接して出口チャンバ空洞98の内部に配置される。次いで、弁蓋110が出口チャンバ空洞98を覆って配置され得る。特定の実施形態では、弁蓋110が、限定するものではないが、接着材料、鑞付け、または同様の方法を含めて、1つ以上の溶着箇所または他の適切な接着方法を使って、1つ以上の接着点によって筐体32に接着されてもよいし、または弁蓋110の周囲に沿って連続的に接着されてもよい。
【0050】
ピストンチャンバ100の容積、アクチュエータばね78の圧縮、および図3に示された後退位置にあるアクチュエータ58の位置は、調整プランジャ84の位置を調整することによって調整され得る。1つの特定の実施形態では、調整プランジャ84が、ねじ/ねじ山様態で調整を可能とするように、蓋部材80中のプランジャ穴の中の対応するねじ山に係合するねじ山付き円筒部材を含む。プランジャ84の下方のダイヤフラム85は、蓋部材80の内側のアクチュエータ58の電機子部分60に接触する。プランジャ84の他端には、蓋部材80の外側から、ねじ回し、アレンレンチ、または同様物のような工具による係合を可能とするために工具係合凹所が設けられ得る。電機子部分60の後退位置を仕切り74に対して調整するために(アクチュエータが図3の後退位置にあるときに、電機子60の磁極区間70および72とコイルカップ40によって形成される磁極区間との間の間隙を調整するために)、適切な工具を使ってプランジャ84を係合および回転させることによって、プランジャ84が蓋部材80の中に繰り出す深さが調整され得る。1つの特定の実施形態では、プランジャ84の調整が製造時に行われる。その実施形態では、調整された位置が、製造時に調整された位置にプランジャ84を溶着するかまたは別様に接着することによって決定および設定される。他の実施形態では、製造後にプランジャ84の調節を可能とするように、プランジャ84が製造時に設定および溶着されない。
【0051】
図6、7、および8は、図3に示された駆動機構18の簡略化された断面図であり、駆動機構18の動作を説明する際に有用であろう。明瞭さのために、主要な機能特徴構造および構成要素のみが例示されているが、これらは、同様の特徴構造および構成要素であることを示すために、図3で使用した参照数字に対応する参照数字によって識別される。
【0052】
図6は、駆動機構18をその静止状態で例示する。すなわち、弁部材102が、ばね106の力の下で完全に繰り出され、ピストンチャンバ100および入口チャンバ88が注入媒体(または場合によっては洗滌媒体)によって実質的に充填され、コイル54が、ばね78の力に打ち勝つ様態で動作停止される(付勢されていないかまたは付勢が不十分である)。駆動機構18は、注入媒体を制御様態で機構の中へ引き込ませかつ機構から押し出させるために、電磁的および機械的な力を利用して後退(図8)位置と前進(図7)位置との間で動作する。後退位置では、ばね78がアクチュエータ58を図8に示されたその後退位置に向かって強制する。コイル54が、ばね78のばね力に打ち勝つために付勢されるとき、アクチュエータ58は図7に示されたその前進行程位置に移動する。後退位置と前進位置との間のアクチュエータの移動は、駆動機構18の内部チャンバおよび容積の内部に差圧を生み出し、媒体を入口86の中へ引き込み、媒体を出口24から押し出す。
【0053】
さらに詳細には、コイル54が動作停止されるとき、アクチュエータ58は、ばね78の力の下でその後退位置(図6および8)に保持される。コイル54が前進行程に続いて直ちに動作停止されるとき、ばね78は、アクチュエータ58を図7に示された前進位置から図8の後退位置まで移動させる。アクチュエータ58の電機子部分60の中の開口部66(図5)は、媒体が通過する通路を設け、よってアクチュエータ58に対する粘性抵抗を低減する。その結果として、アクチュエータ58は、相対的に迅速にその後退位置(図8)に移動することができる。
【0054】
アクチュエータ58が後退するとき、アクチュエータ58のピストン部分62は、ピストンチャンバ100の容積がピストン部分62の端部と弁部材102との間に形成されるように、弁部材102に対して後退させられる。ピストンチャンバ100の容積の形成は、ピストン部分62とチャンネル38の壁との間の環状空間を介して注入媒体(または洗滌流体)を蓋部材80の容積82から引き出して、矢印120によって示されたようにピストンチャンバ100の中へ引き込む負圧を生成する。図示されていないが、所望であればピストンチャンバ100に至る1つ以上の追加的な流路を設けるために、1つ以上のチャンネルがピストン部分62を貫通して設けられてもよい。
【0055】
後退位置では、コイルカップ40の内部および外部壁46および50によって形成された環状磁極表面48および52のそれぞれと、アクチュエータ58の電機子部分60の内部および外部磁極区間72および70のそれぞれの環状表面との間に間隙が形成される。図3を特に参照すると、第1の間隙が、内部カップ部材壁46の環状磁極表面48と内部磁極区間72の環状表面との間に形成される。第2の間隙が、外部カップ部材壁50の環状表面52と外部磁極区間70の環状表面との間に形成される。
【0056】
コイル54が、ばね力78に打ち勝つ様態で付勢されるとき、アクチュエータ58は、間隙を閉じる方向へ強制され、付勢されたコイル54によって生成された電磁束の影響下でその前進位置(図7)に移動する。特に、コイル54は、電磁束を生成するために電流をコイル導体に通すことによって付勢され得る。電磁束は、間隙を横切ってコイルカップ壁を貫通し、かつアクチュエータ58の電機子部分60を貫通して磁路を画定する。電磁束は、ばね78のばね力に打ち勝って電機子60をコイルカップ40に向かって引き付けるために、コイルカップ40の環状表面48および52と、電機子の磁極区間70および72の環状表面との間に引力を与える。
【0057】
アクチュエータ58の電機子部分60がコイルカップ40に向かって引き付けられるとき、アクチュエータ58のピストン部分62は、チャンネル38を介して出口チャンバ98に向かう方向へ軸移動される。コイル54が付勢されていると、ピストン部分62は、機械的な止めに達するまで、例えば、アクチュエータ58が仕切り74、筐体32の一部、または蓋部材80に機械的に接触するまで、電機子60の動作下で移動し続ける。他の実施形態では、この動きは、ばねの戻り力および流体圧が、コイル54の付勢によって与えられた電磁力に打ち勝つまで続行し得る。
【0058】
停止点に向かうピストン部分62の移動は、ピストンチャンバ100内部の圧力が弁ばね106の力に打ち勝つのに十分になるまで、ピストンチャンバ100の容積を低減し、その圧力を増大させる。弁ばね力がピストンチャンバ100内部の圧力によって打ち負かされるとき、弁部材102は、ピストンチャンバ100と出口チャンバ98との間の開口部から離れるように、開放位置に向かって移動させられる。弁部材102が開放位置にあるとき、媒体は、図7の矢印128によって示されているように、出口チャンバ98および出口24を介して排出される。
【0059】
コイル54が動作停止され、ピストン部分62がその後退位置に戻されるとき、ピストンチャンバ100内の圧力は低減し、弁部材102は弁ばね106の作用下で再着座する。これは、出口24を介して流体が駆動機構18の中へ逆流するのを防止する。さらには、上で説明したように、次の前進行程に備えて、媒体をピストンチャンバ100内に引き込むために負圧がこのチャンバ100内で生成される。
【0060】
この様態で、アクチュエータ58をその前進位置(図7)に移動させるためにコイル54を付勢すると、一定の測定容積の媒体が出口24から排出させられる。上で説明したように、コイル54が消勢されるとき、アクチュエータ58は、ばね106の力の下で後退位置(図8)に戻され、追加的な媒体容積が、次の排出動作に備えてピストンチャンバ100の中へ引き込まれる。したがって、コイル54は、制御された電子的なパルス信号によって付勢および消勢されるが、そこでは各パルスが、一定の測定容積の媒体を排出するために駆動機構18を駆動することができる。特定の実施形態では、コイル54が、例えば、センサ信号、タイマ信号、または制御回路に対する他の制御信号入力に応答して、電子的なパルス信号を制御回路から受け取るために、電子的な制御回路(図示せず)に電気的に結合され得る。
【0061】
特定の実施形態では、ピストン62の動きが前進行程の終わりで停止されるとき、ピストン部分62の弁に面する端部は、弁部材102の至近距離にあり、例えば、ピストン径の2から3パーセント(2〜3%)以下の距離だけ弁部材102から離間されている。他の実施形態では、ピストン部分62の弁に面する端部が、前進行程の終わりでは弁部材102と接触している。この様態では、注入媒体中に存在し得るガスが、ピストンチャンバ100の内部で蓄積する可能性がより低くなる。さらに詳細には、幾つかの動作状況では、注入媒体が、ピストンチャンバ100の充填中に、このピストンチャンバ100の中へ移動する恐れがある小泡の形態でガスを含み得る。ガスは液体よりもかなり圧縮性があるので、ピストンチャンバ100内部の過剰なガスは、駆動機構18が自給する能力に悪影響をおよぼすおそれがある。
【0062】
さらに別の実施形態では、ピストン部分62が、前進行程の終わりに弁部材102に接触して弁部材102を押し開くことができる。この実施形態では、ガスがピストン部分62と弁部材102との間に閉じ込められる可能性がより低く、チャンバ100がガス抜きされる可能性がより大きい。
【0063】
既に説明したように、インシュリンのようなタンパク質薬物は変性して流体送達経路の表面上に変性したタンパク質の付着をもたらす。時間経過に伴って、このような付着物は、(1)治療部位に至る送達経路を閉塞させ、(2)可動部分間の遊隙を狭め、よって動作の速度を鈍らせて恐らくは最終的にロック状態を引き起こし、(3)弁接合表面の状態を損なわせて弁が適正に着座しないようにさせ、(4)堆積物を大きくしかつ溜める恐れがある沈殿物凝固域を生み出し、よって流体の流れおよび装置動作にさらなる影響を与える。
【0064】
これらの付着物は、付着物を溶解するために、移植されたポンプを溶剤(例えば、水酸化ナトリウム)で洗浄することによって定期的に(例えば、1年に1回)除去可能である。注入装置の貯槽には、最初に望ましい緩衝液または洗浄溶液が充填される。本装置は患者の皮膚の近傍に移植されるので、貯槽は第1の注射器を利用して充填される。第2の注射器が、負の差圧を生成し、したがってポンプを介して流体を引き出すのを助けるために本装置の出口に係合する。ポンプ自体は、ポンプを介する流体の流れを助けるために、この手順の間動作させられる。洗浄手順は、少なくとも1ccの洗浄流体を入口貯槽からポンプの出口まで約10分で輸送することになるのが既定の目標である。10分未満の継続時間の洗浄サイクルは、すべての付着物を溶解できないことになるおそれがあり、10分を超える洗浄サイクルは、患者に対する過度の不快感を招くおそれがある。洗浄手順は、異なる流体に関して数回ポンプの貯槽を空にしかつ再充填することを伴う多段階作業を含むし、さらに異なる薬物には異なる洗浄剤の使用が必要であり得る。しかし、使用される薬剤、洗浄間の回数、付着物の量および/または同様なことに応じて、他の継続時間も使用される。
【0065】
先に述べたように、アクチュエータピストンとピストンシリンダとの間の間隔または環状部は径方向にして約3.8〜5.1マイクロメートル(約150〜200マイクロインチ)であり、かなり緊密な嵌め合いであり、環状部を経由してピストンチャンバを再充填するのに約1から2秒を要する。しかし、環状部壁上の付着物は流体の流れを制限し、よってピストンチャンバを再充填する時間を増大させるが、それは次に、行程回数を減らし、適正な洗浄手順を長引かせることになり、例えば、望ましい10分ではなく30分以上要するおそれがある。付着物の蓄積は非常に甚だしいのでポンプをロック状態にするおそれがある。この場合では、1/4〜1/2ccの洗浄流体を通すのに30分を超えるおそれがあり、よってポンプを実効的なものにするには十分であり得ない。
【0066】
これらの問題を克服しかつ洗浄薬剤により効果的な流路を設けるために、アクチュエータピストンの外部表面の中に溝が設けられる。例えば、アクチュエータピストン62には、つる巻き状の溝64が設けられ、図3および5に示されている。溝64は、内腔中の付着物の量に関わりなく、流路が常にアクチュエータピストン62の入口端130からアクチュエータピストン62の出口端132にかけて存在することを保証するのに十分な断面積の、例えば、図9に示された半球断面積を有する。さらには、つる巻き状の溝64は、ほとんどの場合に、アクチュエータピストン62と中心ピストンチャンネル38の表面との間の環状部の中のタンパク質付着物の至近距離にいずれも洗浄薬剤を送達するように構成される。この様態では、洗浄薬剤は、たとえアクチュエータがロック状態であるときでも効果的に付着物に適用することができる。
【0067】
特に、溝64は、環状部中の付着物のいずれにも、その約0.038センチメートル(約0.015インチ)の範囲内に洗浄薬剤を案内するように構成される。この目的のために、このような性質の装置では、ピストンの直径の約1.5〜6%である深さ、ピストンの直径の約3〜30%である幅、ピストンの直径の約8〜70%であるピッチ、および/またはピストン面の面積の約0.2〜0.6%である断面積を有する溝が有用であることが判明している。さらに詳細には、実質的に約0.030センチメートル(0.012インチ)の幅、実質的に約0.009センチメートル(0.0035インチ)の深さ、および約0.064〜0.090センチメートル(約0.025〜0.035インチ)のピッチを有する溝が極めて適切に機能する。この場合には、溝64は、約7つの巻回を有することになる。さらに詳細には、溝64は、ピストンばね78によって占有される領域内で1〜2つの巻回、ピストン62の残りでは5〜6つの巻回を有する。緊密な螺旋経路(すなわち、数多くの巻回)は、洗浄薬剤が環状部中の付着物に到達することをより確実にするが、しかし多すぎる巻回は、それに対応して、ピストンチャンネル内部のピストンの緊密な嵌め合いに関与するより大きな直径のピストン領域が減少するせいで、ポンプ動作行程中に逆漏れを招く恐れがあることが理解されよう。しかし、前進行程は非常に迅速であり(例えば、1.5ミリ秒)、かつ再充填時間は遙かに長いので(例えば、100〜150倍長い)、逆漏れが順方向の流れよりも劇的に少ないことに留意されるべきである。さらには、図5に示された種類のつる巻き状の溝64は、流体の流れを層流から乱流に移行させ、それによって流体の流れを制限する。よって、この溝64は一般に、アクチュエータ58が相対的にゆっくりと移動している(後退している)ときに流路を設け、アクチュエータ58が速く移動している(ポンプ動作をしている)ときに封止動作を行う。
【0068】
アクチュエータピストン62の外部表面中の溝64が、半球断面を有するものとして図9に示されているが、流路中の鋭い縁部(図9の縁部134のような)がタンパク質治療薬物のさらなる変性を引き起こす恐れがあることが知られている。したがって、図10に示された特定の実施形態では、溝64が丸い縁部136を含む断面形状を有する。しかし、多様な断面形状を有する溝が特定の用途および状況に応じて使用可能であり、このようなすべての溝が本発明の範囲内にあると考えられることは明白であるべきである。例えば、図11に示された溝64は、上で説明した理由のために丸い縁部を含むが、全体的により円錐形である断面を有する。
【0069】
溝64は、駆動機構18の動作を幾つかの方式で向上させる。第1に、それは、たとえ流路の表面上に大量のタンパク質付着物が存在していても、流路がポンプの入口86と出口24との間に存在することを保証し得る。これは、たとえ機構18がロック状態になっても、洗浄薬剤が機構18を通過することを可能にする。第2に、それは、同様の寸法の滑らかな溝なしのアクチュエータ再充填時間に比べて、75パーセント以上も再充填時間を大幅に短縮することが可能であり、よってアクチュエータ58によって送り込まれ得る洗浄薬剤の量を増大させる。通常動作下では、動作の増加した回数が注入流量の増大を可能とし、よって治療薬物がより迅速に患者に送達されることを可能にする。
【0070】
図12に示されたグラフは、滑らかなアクチュエータを有する駆動機構(曲線140)および約0.025センチメートル(約0.01インチ)の幅およびその表面中に約0.010センチメートル(0.004インチ)の深さを有する7巻らせん溝を含むアクチュエータを有する駆動機構(曲線142)に関して、入口から出口にわたる差圧(水平軸)と10分間でポンプを介して引き込まれる流体容積(垂直軸)との間の関係を例示する。理解され得るように、約−0.5625kgf/cm2(−8ゲージpsi)よりも大きい差圧では、溝付きアクチュエータの引込み容積が、滑らかなアクチュエータの引込み容積を劇的に上回って増大する。実際に、約−0.9141kgf/cm2(−13ゲージpsi)の差圧では、溝付きアクチュエータの引込みが、溝なしアクチュエータの引込みの2倍を超える。差圧が印加されている間にポンプが動作すれば、ポンプに通される容積は10分で1ccを超えることになる。
【0071】
図13は、標準的な溝なしアクチュエータ(曲線144)、その表面中に約0.006センチメートル(0.0025インチ)の深さのつる巻き状の溝を有するアクチュエータ(曲線146)、およびその中に約0.010センチメートル(0.004インチ)の深さのつる巻き状の溝を有するアクチュエータ(曲線148)に関して、行程再充填容積(垂直軸)とポンプパルス周期(水平軸)との間の関係を例示する。理解され得るように、溝なしアクチュエータに関する行程再充填容積は、約1.0秒でピークに達し、内部に約0.006センチメートル(0.0025インチ)の深さのつる巻き状の溝を有するアクチュエータは約0.6秒でピークに達する。内部に約0.010センチメートル(0.004インチ)の深さのつる巻き状の溝を有するアクチュエータは、約0.2秒でピークに達し、溝なしアクチュエータピストンよりも約5倍速い行程再充填容積を有する。したがって、図13の曲線148を特徴とする溝付きアクチュエータピストンが装備された注入ポンプは、溝なしアクチュエータピストンを有するポンプの速度の約5倍で動作可能である。
【0072】
これまで、本発明の駆動機構/アクチュエータが、特定の実施形態、すなわち、アクチュエータピストンがその表面の中につる巻き状の溝を有するものに従って説明してきた。しかし、異なる構成および/または溝数が使用されてもよいことが理解されるべきである。例えば、図14は、右螺旋溝150および左螺旋溝152によって形成された二重つる巻き状の溝を含むアクチュエータピストン62を例示する。図14に示されているような2つ以上の溝の使用は、溝がより浅くなることを許容し得るが、依然として望ましい結果をもたらす。図15は、より少ない巻回数、恐らくは1巻回未満の巻回を含むつる巻き状の溝154を例示し、図16は、その表面の中に1つ以上の直線溝156を有するアクチュエータピストン62を例示する。巻回数を低減するかまたは直線溝を利用すると、ピストンの前進行程中の逆漏れの増大を招くが、ピストンの前進行程(ポンプ動作)は、後退行程(再充填)よりも依然として実質的に速く、かつ逆漏れは順方向の流れよりも依然として実質的に少ない。最後に、電機子ピストン中の1つ以上の溝に関連して上で説明したように、1つ以上のこのような溝は、流体の流れを促進するために円筒壁の中に設けられる。
【0073】
したがって、タンパク質薬物(例えば、インシュリン)の所定の用量を計量分注し、流体経路表面上に堆積する望ましくないタンパク質を除去するために、洗浄流体の通過を促進するように構成される注入ポンプが提供されている。この注入ポンプは、ピストンの表面およびピストン壁の上のタンパク質蓄積物を溶解するように構成されたアクチュエータを備えるピストンポンプ機構を含む。さらには、本駆動機構は、ポンプの流体経路の壁面上にタンパク質付着物が堆積するにも関わらす、注入ポンプの出口チャンバを再充填するのに要する時間を許容可能な時間に短縮するように構成される。
【0074】
少なくとも1つの例示的な実施形態が、本発明の以上の詳細な説明において提示されているが、膨大な数の変更が存在すること理解されるべきである。これらの1つ以上の実施形態は単に実施例であるに過ぎず、いかなる場合も本発明の範囲、利用可能性、または構成を限定しようとするものではないことも理解されるべきである。以上の詳細な説明は、限定ではなく、本発明の例示的な実施形態を実施するための便利な道路地図を当業者に提供するものであり、添付の特許請求の範囲およびそれらの法律上の均等物において記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が、例示的な実施形態において説明された要素の機能および配置に実施されてもよいことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内へ投薬の流体を送達するための注入装置であって、
筐体と、
前記筐体の中にあって前記流体を受け取るための入口と、
前記筐体の中にあって前記流体を排出するための出口と、
前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記流体が前記入口から前記出口へ流れるように延びるピストンチャンネルと、
前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、
を備え、
前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記入口から受け取った前記流体を充填するようなピストンチャンバが形成され、前記アクチュエータが前記後退位置から前記前進位置まで移動するとき、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体が前記出口へ押し流され、
前記アクチュエータは、
電機子と、
前記電機子に結合され、前記電機子により前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能なピストンであって、軸方向に沿って延び、入口端と出口端とを有するピストンと、
を有し、
前記筐体の中にあって、前記ピストンチャンネルの上部に位置し、前記入口と前記第1の流体チャンバ内に位置する前記ピストンの前記入口端とが連通するように形成される第1の流体チャンバと、前記ピストンチャンネルの下部に位置し、前記出口と前記第2の流体チャンバ内に位置する前記ピストンの前記出口端とが連通するように形成される第2の流体チャンバとを有し、
前記ピストンが、前記入口から前記出口へと流体が流れるように前記第1の流体チャンバと前記第2の流体チャンバとの間の流路として形成された、前記入口端から前記出口端までの外表面の中の溝を有し、
前記溝は、前記ピストンの周囲のつる巻き状の溝である、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項2】
請求項1に記載の注入装置であって、
前記溝は、前記ピストンの周囲の複数のつる巻き状の溝の一つである、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項3】
請求項2に記載の注入装置であって、
前記複数のつる巻き状の溝は、第1および第2の逆に巻かれたつる巻き状の溝を含む、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項4】
患者の体内へ投薬の流体を送達するための注入装置であって、
筐体と、
前記筐体の中にあって前記流体を受け取るための入口チャンバと、
前記筐体の中にあって前記流体を排出するための出口チャンバと、
前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記チャンネルの上部に位置する前記入口チャンバから、前記チャンネルの下部に位置する前記出口チャンバへ延びるピストンチャンネルと、
前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、
前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記出口チャンバと前記ピストンチャンネルとを封止する弁部材を有する弁組立体と、
を備え、
前記アクチュエータは、
前記入口チャンバの中に配置された電機子と、
前記電機子に結合され、前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能な溝付きピストンであって、入口端と、出口端と、外部表面と、前記入口端と前記出口端の間に前記流体が流れる流路として形成された前記外部表面の中の溝とを有する溝付きピストンと、
を備え、
前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記弁部材と前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルによって、前記溝を介して前記入口チャンバから受け取った前記流体を充填するようなピストンチャンバが形成され、
前記後退位置から前記前進位置までの前記アクチュエータの移動が、前記ピストンチャンバの容積を減少させて前記ピストンチャンバ内の圧力を増大させ、この圧力増大により、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体を前記出口チャンバへ排出するよう前記弁部材が開き、
前記溝は、前記アクチュエータが前記後退位置から前記前進位置まで移行する間に、前記ピストンチャンバから前記流体の逆洩れを招くような少なくとも1つのつる巻きと深さと幅とピッチとを有し、
前記前進位置から前記後退位置までの前記アクチュエータの移動が、前記弁部材を閉じさせ、次の前進行程に備えて、前記入口チャンバから前記溝を通って前記ピストンチャンバに前記流体を引き込む負圧を生成する、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項5】
請求項4に記載の注入装置であって、
前記流体が、たんぱく質薬物であり、
前記溝は、前記ピストンチャンネルの表面上に、前記たんぱく質薬物によってたんぱく質付着物が堆積しても、前記流路が維持されるような形状に構成される、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項6】
患者の体内に流体のたんぱく質薬物を送達するための移植可能な注入装置であって、
封止され密閉された生体適合性材料からなる筐体と、
前記筐体の中にあって前記流体のたんぱく質薬物を受け取るための入口チャンバと、
前記筐体の中にあって前記流体のたんぱく質薬物を排出するための出口チャンバと、
前記筐体の内部のピストンチャンネルであって、前記チャンネルの上部に位置する前記入口チャンバから、前記チャンネルの下部に位置する前記出口チャンバへ延びるピストンチャンネルと、
前記筐体の内部に位置決めされ、後退位置と前進位置との間で移動可能なアクチュエータと、
を備え、
前記アクチュエータは、
前記入口チャンバの中に配置された電機子と、
前記電機子に結合され、前記ピストンチャンネルの内部で軸方向に移動可能な溝付きピストンであって、入口端と、出口端と、外部表面と、前記入口端と前記出口端の間に前記流体のたんぱく質薬物が流れる第1の流路として形成された前記外部表面の中の溝とを有する溝付きピストンと、
を備え、
さらに、前記注入装置は、
前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルとの間には、前記入口チャンバと前記出口チャンバの間に前記流体のたんぱく質薬物が流れる第2の流路として形成された環状空間と、
前記筐体の内部の弁組立体であって、前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記出口チャンバと、前記ピストンチャンネル、前記第1の流路及び前記第2の流路とを封止する弁部材を有する弁組立体と、
を備え、
前記アクチュエータが前記後退位置にあるときに、前記弁部材と前記溝付きピストンと前記ピストンチャンネルによって、前記溝と前記環状空間を介して前記入口チャンバから受け取った前記流体のたんぱく質薬物を充填するようなピストンチャンバが形成され、
前記後退位置から前記前進位置までの前記アクチュエータの移動が、前記ピストンチャンバの容積を減少させて前記ピストンチャンバ内の圧力を増大させ、この圧力増大により、前記ピストンチャンバ内に充填された前記流体のたんぱく質薬物を前記出口チャンバへ排出するよう前記弁部材が開き、
前記前進位置から前記後退位置までの前記アクチュエータの移動が、前記弁部材を閉じさせ、次の前進行程に備えて、前記入口チャンバから前記溝を通って前記ピストンチャンバに前記流体のたんぱく質薬物を引き込む負圧を生成し、
前記溝は、前記流体のたんぱく質薬物によって前記第2の流路にたんぱく質付着物が堆積しても、前記第1の流路が維持されるような形状に構成される、
ことを特徴とする注入装置。
【請求項7】
請求項6に記載の注入装置であって、
前記溝は、前記アクチュエータが前記後退位置から前記前進位置まで移行する間に、前記ピストンチャンバから前記流体の逆洩れを招くような少なくとも1つのつる巻きと深さと幅とピッチとを有する、
ことを特徴とする注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−39430(P2013−39430A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256478(P2012−256478)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【分割の表示】特願2008−536696(P2008−536696)の分割
【原出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(595038051)メドトロニック ミニメド インコーポレイテッド (71)
【Fターム(参考)】