説明

注射可能な医薬調製剤の製法

【課題】薬剤のほんの少量が作用部位に到達し、薬剤は、その分布に基づき、身体の健康な組織上に副作用を引き起こすことが起こる。
【解決手段】本発明は、作用物質、スペーサー分子及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子から成り、身体に加えた後に、蛋白質結合性分子を介して体液−又は組織成分に共有結合する、治療的及び/又は診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤の製法に関し、従って、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で、作用物質の遊離下に分解可能である作用物質の輸送形が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用物質、スペーサー分子及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子から成り、身体に加えた後に、蛋白質結合性分子を介して体液‐又は組織成分に共有結合する、治療的及び/又は診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤の製法に関し、従って、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で、作用物質の遊離下に分解可能である作用物質の輸送形態が存在する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている薬剤の大部分は、低分子化合物であり、全身投与後に高い血漿‐及び全クリアランスを示す。更に、これらの薬剤は、浸透経過に基づき、身体の組織構造中に侵入し、通例、均一の生体分布を示す。この2つの特性によって、薬剤のほんの少量が作用部位に到達し、薬剤は、その分布に基づき、身体の健康な組織上に副作用を引き起こすことが起こる。これらの欠点は、高い細胞毒ポテンシャルを有する薬剤、例えば、細胞分裂抑制剤、免疫抑制剤又はウイルス分裂抑制剤において特に顕著である。
【0003】
低分子薬剤の選択性を改善するために、いくつかの方法、例えば、主構造の化学的誘導体化、プロドラッグとしての処方又は担体分子への薬剤のカップリングが行なわれる。本発明は、薬剤を身体固有の巨大分子に化学的に結合させたような構想から出発する。一般に、細胞分裂抑制剤を、血漿蛋白質、主に一定の担体分子、例えばヒト血漿アルブミン及びヒト血漿トランスフェリンに結合させ、次いで投与される複合体が公知である。この公知の蛋白質複合体は、生体外で、"1容器法"で、細胞分裂抑制剤を血漿蛋白質にカップリングさせ(DE4122210A1)、生じるアルブミン‐細胞分裂抑制剤‐複合体を得るか、又は、先ず細胞分裂抑制剤を好適なスペーサー分子で誘導体化させ、生じる生成物を単離し、第2工程で、このように誘導体化された細胞分裂抑制剤をマレインイミド基を介して蛋白質にカップリングさせ(DE19636889A1及びPCT/DE97/02000)、生じるアルブミン‐細胞分裂抑制剤‐複合体を単離することによって製造される。この2つの方法は、病原体を含有し得る血漿蛋白質を使用するという欠点を有する。前記の蛋白質‐作用物質‐複合体の他の欠点は、その不充分な安定性及び貯蔵性及びその製造の工業的経費である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】ドイツ国4122210号公報
【特許文献2】ドイツ国19636889号公報
【特許文献3】PCT/ドイツ国97/02000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの欠点を克服する課題が本発明の基礎にある。この課題は、注射可能な担体液中に溶かされる治療的及び/又は診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤の製法によって解決され、この方法は、治療的及び/又は診断的に有効な物質として、スペーサーによって結合されている作用物質及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子基から成る化合物を使用し、この際、スペーサー又は作用物質とスペーサーとの間の結合は、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で分解可能であることを特徴とする。分解の際に、作用物質又は作用物質の誘導体が遊離される。作用物質誘導体とは、作用物質を包含するが、付加的にスペーサーの一部又は作用物質がそれを介して蛋白質結合性分子と結合された基の一部を含有していてよい物質のことである。作用物質の有効性は、誘導体としてのその遊離によって影響されるべきではない。殊に、作用物質又はその誘導体は、遊離後に初めてその有効性を発揮する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来受け入れられていたような、作用物質を一定の担体と限定条件下に結合させ、かつこの生成物を適用することは必要ではなく、スペーサーによって相互に結合されている薬物学的作用物質及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子から成る治療的及び/又は診断的に有効な物質を、注射可能な薬剤として直接使用することが可能であるという驚異的な確信に基づく。それというのも、この薬剤は、身体に加えた後に、作用物質の目的細胞又は目的組織に達する作用物質の輸送形態を生体内で形成させるように、蛋白質結合性分子を介して、体液‐又は組織成分、主に血漿蛋白質に共有結合するからである。本発明により、治療的及び/又は診断的に有効な物質において、スペーサー分子又は作用物質とスペーサー分子との間における結合は、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で分解可能であるので、結局、作用物質は、目的に合わせて所望の目的部位で遊離される。
【発明の効果】
【0007】
本発明により得られる治療的及び/又は診断的に有効な物質の注射可能な医薬調製剤は、その蛋白質結合特性に基づき、決定的に、作用物質の薬物速度論的プロフィールを変化させ、改善させる。この治療的及び/又は診断的に有効な物質が体液中に到達すると、これは、体液‐又は組織成分、有利に血漿蛋白質、更に有利には血漿アルブミンに共有結合して、その結果、作用物質を目的部位に輸送し、かつ/又は作用物質を投与形で遊離させる巨大分子のプロドラッグとして存在することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明により得られる治療的及び/又は診断的に有効な物質は、次の一般構造を有する作用物質W、スペーサー分子SM及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子PMから成る:
【0009】
【化1】

【0010】
本発明により得られる物質は、付加的に標識基又は標識された元素又は分子を有することができ、その場合に、この物質は診断目的のために特に好適である。有利なマーカーは、1種以上の放射性核種、1種以上の放射性核種を包含するリガンド、1種以上の陽電子放射剤、1種以上のNMR‐造影剤、1種以上の蛍光化合物又は/及び1種以上の近IR‐範囲の造影剤である。
【0011】
本発明の意味における診断剤は、例えば、前記の標識された作用物質又は1種以上の蛍光化合物及び/又は1種以上の近IR‐範囲の造影剤である。
【0012】
作用物質は、細胞分裂抑制剤、サイトカイン、免疫抑制剤、ウイルス分裂抑制剤、抗リウマチ剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質、抗菌剤、シグナル伝達抑制剤、血管新生抑制剤又はプロテアーゼ抑制剤である。
【0013】
本発明による注射可能な治療的及び/又は診断的に有効な物質の製造のための有利な細胞分裂抑制剤は、アントラサイクリン系のドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン及びアメタントロン及び類似誘導体、アルキル化剤系のクロラムブシル、ベンダムスチン、メルファラン及びオキサザホスホリン及び類似誘導体、抗代謝剤系のメトトレキサート、5‐フルオロウラシル、5’‐デスオキシ‐5‐フルオロウリジン及びチオグアニン及び類似誘導体、タキサン系のパクリタキセル及びドセタキセル及び類似誘導体、カムプトテシン系のトポテカン、イリノテカン、9‐アミノカムプトテシン及びカムプトテシン及び類似誘導体、ポドフィロトキシン誘導体のエトポシド、テニポシド及びミトポドジド及び類似誘導体、ビンカアルカロイド系のビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン及びビノレルビン及び類似誘導体、カリチェアミシン、マイタンシノイド及び一般式I〜XIIの化合物である:
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、Xは、スペーサー分子SM又は蛋白質結合性分子PMを表わす]。
【0016】
本発明の治療的及び/又は診断的に有効な物質の製造のための有利なサイトカインは、インターロイキン2、インターフェロンα‐2a、インターフェロンα‐2b、インターフェロンβ‐1a、インターフェロンβ‐1b、インターフェロンγ‐1b及び類似誘導体である。使用されるサイトカインは、i.d.R.遺伝子技術的に製造された薬剤である。
【0017】
本発明の方法のための有利な免疫抑制剤は、シクロスポリンA及び類似誘導体、及びタクロリムス(FK506)及び類似誘導体である。
【0018】
本発明の方法のための特に好適な抗リウマチ剤は、メトトレキセート及び類似誘導体である。
【0019】
本発明の方法のための有利な鎮痛剤は、サリチル酸誘導体、例えばアセチルサリチル酸及び類似誘導体、酢酸‐又はプロピオン酸残基を有する薬剤‐誘導体、例えばジクロフェナク又はインドメタシン又はイブプロフェン又はナプロキセン、及びアミノフェノール誘導体、例えばパラセタモールである。
【0020】
本発明の方法のための有利な抗真菌剤は、アムホテリシンB及び類似誘導体である。
【0021】
本発明の方法のための有利な抗ウイルス剤は、ヌクレオシド同族体、例えばアシクロビル、ガンシクロビル、インドキシウリジン、リバビリン、ビダリビン、ジドブジン、ジダノシン及び2’,3’‐ジデスオキシシチジン(ddC)及び類似誘導体、及びアマンタジンである。
【0022】
本発明の方法のための有利な抗生物質は、スルホンアミド、例えばスルアニルアミド、スルファカルバミド及びスルファメトキシジアジン及び類似誘導体、ペニシリン類、例えば6‐アミノペニシラン酸、ペニシリンG及びペニシリンV及び類似誘導体、イソオキサゾイルペニシリン(例えば、オキサシリン、クロキサシリン、フルクロキサシリン)及び類似誘導体、α‐置換のベンジルペニシリン(例えば、アンピシリン、カルベニシリン、ピバンピシリン、アモキシシリン)及び類似誘導体、アシルアミノペニシリン(例えばメズロシリン、アズロシリン、ピペラシリン、アパリシリン)及び類似誘導体、アミジノペニシリン、例えばメシリナム、異型β‐ラクタム、例えばイミペナム及びアズトレオナム、セファロスポリン、例えばセファレキシン、セフラジン、セファクロル、セファドロキシル、セフィキシム、セフポドキシム、セファゾリン、セファゼドン、セフロキシン、セファマンドル、セフォチアム、セホキシチン、セフォテタム、セフメタゾル、ラタモキセフ、セフォタキシン、セフトリアキソン、セフチゾキシム、セフモノキシム、セフタジジム、セフスロジン及びセフォペラゾン及び類似誘導体、テトラサイクリン類、例えばテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、デメクロサイクリン、ロリテトラサイクリン、ドキシサイクリン及びミノサイクリン及び類似誘導体、クロラムフェニコール類、例えばクロラムフェニコール及びチアムフェニコール及び類似誘導体、ジャイレース阻害剤、例えばナリキシジン酸、ピペミド酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン及びエノキサシン及び類似誘導体、及び結核剤、例えばイソニアジド及び類似誘導体である。
【0023】
スペーサー分子SMは、脂肪族炭素鎖及び/又は脂肪族炭素環及び/又は少なくとも1種の芳香族体から成る有機分子である。1種以上の脂肪族炭素鎖/‐環は、有利に1〜12個の炭素原子から成り、これは、酸素原子によって部分的に代えられていてよく、かつ場合により殊に1個以上の水溶性基、例えばスルホン酸‐、アミノアルキル‐又はヒドロキシ基によって置換されていてよい。芳香族体は、有利に、例えば前記の水溶性基で場合により置換されていてよいベンゾール環である。脂肪族炭素鎖は、より良好な水溶性のために、酸素原子を含有してよく、そのために、有利にオリゴエチレンオキシド‐又は‐プロピレンオキシド鎖、例えばジエチレングリコール‐、トリエチレングリコール‐又はジプロピレングリコール鎖から誘導される。
【0024】
蛋白質結合性分子PMは、有利に、マレインイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルジチオ基、N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル‐又はイソチオシアネート‐基である。ジスルフィド基、ビニルカルボニル基、アジリジン基又はアセチレン基であってもよい。ジスルフィド基は、通例、チオニトロ安息香酸(例えば、5’‐チオ‐2‐ニトロ安息香酸)が交換可能な基を表わすことによって有利に活性化されている。この基は、場合により置換されていてよい。マレインイミド‐、ピリジルジチオ‐又はN‐ヒドロキシスクシンイミドエステル‐基は、場合によりアルキル又は前記の水溶性基で置換されていてよい。PMは、蛋白質結合特性を有し、即ち、生理的環境内で、蛋白質表面上で一定のアミノ酸に共有結合する。この際、マレインイミド‐、ハロゲンアセトアミド‐、ハロゲンアセテート‐、ピリジルジチオ‐基、ジスルフィド基、ビニルカルボニル基、アジリジン基又はアセチレン基は、蛋白質表面上で、有利にシステインのHS‐基と反応し、N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル‐及びイソチオシアネート基は、有利に蛋白質表面上のリシンのアミノ基と反応する。
【0025】
本発明の方法によって、注射可能な医薬調製剤として製造される治療的及び/又は診断的に有効な物質は、腸管外投与によって血管中に入り、PMを介して蛋白質に結合することができる。血漿蛋白質、殊に血漿アルブミンへの結合が有利に行なわれる。生理的環境中で、治療的及び/又は診断的に有効な物質は、マレインイミド‐、ハロゲンアセトアミド‐、ハロゲンアセテート‐、ピリジルジチオ‐基、ジスルフィド基、ビニルカルボニル基、アジリジン基又はアセチレン基を介して、殊にアルブミンの遊離システイン‐34と反応し、この方法で、共有結合されることが判明した。N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル‐又はイソチオシアネート‐基を有する薬物学的活性物質は、有利に、アルブミン又は他の血漿蛋白質の蛋白質表面上のリシンのε‐アミノ基に結合する。血漿蛋白質、例えばアルブミン又はトランスフェリンは、全身循環内で、著しく長い半減期を有する(19日間まで‐Peters,T.Jr.(1985):Serum albumin.Adv.Protein.Chem.37,161‐245)。巨大分子に対する悪性、伝染性又は炎症性組織の血管壁の高められた透過性に基づき、血漿アルブミンは有利にこれらの目的組織に到達する(Maeda,H.;Matsumura,Y.Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Sys.(1989),6,193‐210)。それによって、アルブミンにカップリングした作用物質は、目的とする作用部位に到達することができる。更に、血管中での血漿蛋白質への作用物質の共有結合は、作用物質が身体の健康な組織構造中に拡散され、又は腎臓を経て排泄され、又はこれが非結合作用物質と同程度に害を与えることを阻止する。それによって、作用物質の薬物速度論的プロフィールは変更され、改善される。それというのも、その作用は、作用部位での富化によって高められ、同時に身体の健康な組織への毒性作用が減少されるからである。
【0026】
本発明により使用される治療的及び/又は診断的に有効な物質は、スペーサー分子中又はSMとWとの間に、一定の化学結合を含有する。この結合は、pH‐依存性で、有利に酸に不安定で、分解可能又は加水分解可能であり、又はこれは身体中で酵素的に分解される少なくとも1個の結合、有利にペプチド結合を有する。
【0027】
加水分解によって作用物質の遊離下に分解される結合は、例えば、エステル結合又は白金‐ジカルボキシレート‐錯体で存在するような金属錯体結合であり、この際、ジアムミンジアクオ‐白金(II)‐錯体が遊離される。酸に不安定で分解可能な結合は、アセタール‐、ケタール‐、イミン‐、ヒドラゾン‐、カルボキシヒドラゾン‐又はスルホニルヒドラゾン結合又はシス‐アコニチル結合又はトリチル基含有基であり、この際、トリチル基は置換されている又は非置換であってよい。有利な治療的/診断的に重要な酸に不安定な結合は、例えば、Kratz et al.(1990)Crit.Rev.Ther.Drug.Car.Sys.16(3),245‐288に記載されている。実現されたペプチド結合中のペプチド配列は、通例、約2〜30個のアミノ酸から成る。この際、このペプチド配列は、有利に身体中の一定の酵素(次から標的酵素と表示する)の基質特異性によって切断され、従って、ペプチド配列又はこの配列の一部は、身体中の酵素によって認識され、ペプチドは分解される。本発明のもう1つの実施態様により、酵素的に分解可能な結合は、ペプチド結合ではない結合から成る。例は、病気特異性酵素、例えばグルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ、グルクロニダーゼ、ガラクトシダーゼによって、作用物質又は作用物質誘導体を遊離させるカルバメート結合である。言うまでもなく、酵素的に分断可能な結合が、ペプチド配列及びペプチド結合ではない前記の結合の1種から構成されていることも可能である。標的酵素は、身体固有の酵素であるか、又は微生物中に存在する又はそれにより生成される酵素であってよい。
【0028】
標的酵素は、通例、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、プラスミノーゲンアクチベーター及びペプチダーゼ、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)又はシステインプロテアーゼであり、これらは、病気、例えばリウマチ様関節炎又は癌において、より強力に生成又は活性化され、このことは、極端な組織崩壊、炎症及び転移に繋がる。標的酵素は、殊に、プロテアーゼとして前記の病的経過で関係しているMMP2、MMP3及びMMP9である(Vassalli,J.,Pepper,M.S.(1994),Nature 370,14‐15,Brown,P.D.(1995),Advan Enzyme Regul.35,291‐301)。
【0029】
本発明の治療的及び/又は診断的に有効な物質の標的酵素である更なるプロテアーゼは、炎症性及び悪性疾患で鍵酵素として同定されているカテプシン、殊にカテプシンB、H及びLである。
【0030】
前記の結合タイプは、作用物質又は相応する活性誘導体が、作用部位で、細胞外及び/又は細胞内で、複合体の取込後に、細胞を通じて遊離され、その治療的及び/又は診断的作用を発揮することができることを保証する。
【0031】
分解は、作用物質そのものではなく作用物質の誘導体が分解されるように行なうこともできる。従って、そのような誘導体は、作用物質及びそれに結合した、スペーサー分子から由来する基を、どの位置で所望の分解が行なわれるかに応じて含有する。
【0032】
本発明の方法で使用される治療的及び/又は診断的に有効な物質は、後記の一般的記載により製造することができる:
HOOC‐基を有する作用物質は、次のようにして誘導体化される:
【0033】
【化3】

【0034】
この際、エステル化は、当業者に慣用である常法によって行なわれる。
【0035】
更に、例えば、t‐アルキルカルバゼートとの反応及び引き続く酸を用いる分解(DE19636889に記載)によって、HOOC‐基をヒドラジド基に変換すること、及び例えば、特に、DE19636889A1又はPCT/DE97/02000に記載されているように、ヒドラジド基を有する薬剤を、カルボニル成分を含有するPM及びSMから成るスペーサーと反応させることが可能である。
【0036】
【化4】

【0037】
N‐基を有する本発明の作用物質は、次のように誘導体化される:
【0038】
【化5】

【0039】
この際、イミン誘導体への反応は、当業者に慣用の常法によって行なわれる。
【0040】
HO‐基を有する本発明の作用物質は、次のように誘導体化される:
【0041】
【化6】

【0042】
この際、エステル化は、当業者に慣用の常法によって行なわれる。
【0043】
カルボニル成分を有する本発明の作用物質は、次のように誘導体化される:
【0044】
【化7】

【0045】
この際、カルボキシヒドラゾン‐、スルホニルヒドラゾン‐、ヒロラゾン‐又はイミン誘導体への変換は、特に、DE19636889A1又はPCT/DE97/02000に記載されている方法又は当業者に慣用の常法によって行なわれる。
【0046】
更に、作用物質のHO‐基又はNH‐基を、カルボニル成分に変換すること は、例えば、次の一般式:
【0047】
【化8】

【0048】
[式中、Rは、脂肪族炭素鎖及び/又は脂肪族炭素環及び/又は芳香族体であり、Rは、H、アルキル‐、フェニル‐又は置換されたフェニル基である]によ り、カルボン酸を有するカルボニル成分を用いるエステル化又はアミド生成によって可能である。Rは、通例、場合により例えば水溶性基、例えばスルホン酸‐、アミノアルキル‐又はヒドロキシ基によって置換されていてよい1〜12個の炭素原子から成る。芳香族体は、通例、場合により例えば前記の水溶性基で置換されていてよいベンゾール環である。
【0049】
更に、カルボニル成分は、他の化学反応によって、即ち、例えば、好適なカルボニル成分を用いる、作用物質のHO‐又はNH‐基への求電子置換によって 導入することができる。
【0050】
そうして誘導体化され、今やカルボニル成分を有する作用物質を、前記の方法と同様にして、アミノ‐、ヒドラジド‐又はヒドラジン基を有する蛋白質結合性スペーサー分子と反応させて、相応するカルボキシルヒドラゾン‐、スルホニルヒドラゾン‐、ヒドラゾン‐又はイミン誘導体に変換される。その後に、この結合の酸不安定な分解によって、カルボニル成分を有する誘導体化作用物質を遊離させる。
【0051】
蛋白質結合性分子PM及びスペーサー分子SMから成るスペーサーは、例えば、特に、DE19636889A1、U. Beyer et al.Chemical Monthly,128,91,1997,R.S.Greenfield et al.,Cancer Res.,50,6600,1990,T.Kaneko et al.,Bioconjugate Chem.,2,133,1991,Bioconjugate Techniques,G.T.Hermanson,Academic Press,1996 又はUS‐特許4251445に記載されている方法によって製造することができる。
【0052】
ペプチド結合を有する本発明のための治療的及び/又は診断的に有効な物質は、2〜約30個のアミノ酸から成るペプチドを、蛋白質結合性化合物と反応させ、従って、蛋白質結合性分子を、直接又はスペーサーSMを経て、ペプチドのN‐末端に導入させることによって製造することができる。そのような蛋白質結合性ペプチド誘導体の合成は、有利に当業者に慣用の固相合成によって行なわれ、この際、ペプチド構成の最終工程で、カルボン酸を有する蛋白質結合性スペーサー分子を、例えばマレインイミドカルボン酸を、ペプチドカップリングによって、ペプチドのN‐末端に結合させ、引続き、この蛋白質結合性ペプチドを固相から分解させる。そうして得られるペプチド誘導体を、HN‐又はHO‐基を有する作用物質と、 縮合剤、例えばN,N’‐ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN‐シクロヘキシル‐N’‐(2‐モルホリノエチル)‐カルボジイミド メト‐p‐トルオールスルホネート(CMC)、(ベンゾトリアゾル‐1‐イルオキシ)‐トリスピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(pyBOP)又はO‐ベンゾトリアゾル‐N,N,N’,N’‐テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェートの存在下に、かつ場合によりN‐ヒドロキシスクシンイミド又は水溶性N‐ヒドロキシスクシンイミド、例えばN‐ヒドロキシスクシンイミド‐3‐スルホン酸ナトリウム塩又は1‐ヒドロキシベンゾトリアゾルの添加下に、及び/又は塩基、例えばN‐メチルモルホリン又はトリエチルアミンの存在下に反応させて、相応する蛋白質結合作用物質‐ペプチド誘導体を得ることができる:
【0053】
【化9】

【0054】
更に、作用物質のHOOC‐基を経てHN‐又はHO‐基を導入させること が、例えば、アミノ酸(AS)リシン、セリン又はトレオニンを用いて、そのα‐アミノ基を経て又はα‐アミノ基を経て、一般式HN‐(CH‐NHのジアミノ化合物を用いて、又は一般式HN‐(CH‐OH(n=1〜12)のアルコールアミンを用いて誘導体化させることによって可能であり、及びこの誘導体を、引続き前記のペプチド誘導体と反応させて、相応する蛋白質結合作用物質‐ペプチド誘導体を得ることが可能である:
【0055】
【化10】

【0056】
標的酵素、例えばMMP2、MMP3、MMP9、カテプシンB、H及びLの基質特異性は公知である(Netzel-Arnett et al.(1993),Biochemistry 32,6427-6432,Shuja,S.,Sheahan,K.,Murname,M.J.(1991),Int.J.Cancer 49,341-346,Lah,T.T.,Kos,J.(1998),Biol.Chem.379,125‐130)。
【0057】
例えば、オクタペプチド(P‐P’)は、MMP2及びMMP9について同定されていて、これは、コラーゲン鎖の分解配列を想定し、特に有効にMMP2及び9によって分解される:
【0058】
【化11】

【0059】
このペプチドは、もっぱらP‐P’‐結合の所で酵素的に分解される。
【0060】
更に、カテプシンBの場合には、配列‐Arg‐Arg‐、Phe‐Lys‐、Gly‐Phe‐Leu‐Gly、Gly‐Phe‐Ala‐Leu又はAla‐Leu‐Ala‐Leuを有する基質特異性ジペプチドが公知である(Werle,B.,Ebert,E.,Klein,W.,Spiess,E.(1995),Biol.Chem.Hoppe-Seyler376,157-164;Ulricht,B.,Spiess,E.,Schwartz-Albiez,R.,Ebert,W.,(1995),Biol.Chem.Hoppe-Seyler376,404-414)。
【0061】
標的酵素にとって重要なペプチド目標切断部位(Peptidsollbruchstelle)を有するペプチド配列は、このペプチド目標切断部位が、例えば、次の配列:
【0062】
【化12】

【0063】
によって多重に繰り返されるように構成されていてもよいか、又は蛋白質結合性分子と重要なペプチド目標切断部位との間の間隔を、例えば、次の配列:
【0064】
【化13】

【0065】
によって拡大させる反復ペプチド配列を組込ませることができる。
【0066】
本発明で使用するための治療的及び/又は診断的に有効な物質にとって、各標的酵素にとって重要なペプチド目標切断部位が、オリゴペプチド中に少なくとも1つ存在するという事実は決定的である。前記のオリゴペプチドは、治療的及び/又は診断的に有効な物質の製造のための代表的な例である。
【0067】
サイトカインを含有する本発明のための治療的及び/又は診断的に有効な物質は、サイトカインを、カルボン酸又は活性化カルボン酸を有する蛋白質結合性基含有スペーサー分子と反応させることによって製造することができる:
【0068】
【化14】

【0069】
スペーサー分子が、N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル‐基(N‐ヒドロキシスクシンイミド又はN‐ヒドロキシスクシンイミド‐3‐スルホン酸ナトリウム塩)を有する場合には、これをサイトカインと直接反応させる。サイトカインとカルボン酸を有する蛋白質結合性基含有スペーサー分子との反応は、縮合剤、例えばN,N’‐ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)又はN‐シクロヘキシル‐N’ ‐(2‐モルホリノエチル)‐カルボジイミド メト‐p‐トルオールスルホネート(CMC)の存在下に、及び場合により、N‐ヒドロキシスクシンイミド又はN‐ヒドロキシスクシンイミド‐3‐スルホン酸ナトリウム塩の添加下に行なわれ、相応する蛋白質結合性サイトカイン誘導体が得られる。そうして誘導体化されたサイトカインの精製は、有利に排除クロマトグラフィーによって行なわれる。前記の反応は、当業者に慣用である(Bioconjugate Techniques,G.T.Hermanson,Academic Press,1996)。
【0070】
治療的及び/又は診断的に有効な物質の合成に続いて、治療的及び/又は診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤を、好適な担体液中で製造する。治療的及び/又は診断的に有効な物質は、有利に凍結乾燥剤として存在し、この際、凍結乾燥の前又は後に、慣用の賦形剤及び/又は製薬学的助剤、例えばポリソルベート、ブドウ糖、乳糖、マンノース、クエン酸、トロメタモール、トリエタノールアミン又はアミノ酢酸を添加することができる。注射可能な医薬調製剤は、蛋白質結合性分子が注射可能な担体液中での溶解によって失活化、分離又は加水分解されないように製造されるべきである。更に、治療的及び/又は診断的に有効な物質中のエステル‐、アセタール‐、ケタール‐、イミン‐、ヒドラゾン‐、カルボキシルヒドラゾン‐又はスルホニルヒドラゾン結合である、酸に不安定な結合は加水分解されないことが保証されるべきである。本発明の範囲で使用される蛋白質結合性分子は、塩基感受性であり、従って、担体液のpH‐値は、8.0のpH‐値を越えてはならない。pH‐値は、pH4.0〜7.0の範囲が有利であり、pH6.0〜H7.0がもっと有利である。更に、担体液は、当然、生理的に認容性であるべきである。
【0071】
有利な担体液は、ほぼ等張の塩緩衝液、例えば燐酸塩‐、酢酸塩‐又はクエン酸塩緩衝液、例えば約0.004モル(M)燐酸ナトリウム、0.15モルNaCl‐pH6.0〜7.0又は0.01モル酢酸ナトリウム、0.14モルNaCl‐pH5.0〜6.5)である。使用される担体液は、等張の塩化ナトリウム溶液であってもよい。塩緩衝液は、慣用の賦形剤及び/又は助剤、例えばポリソルベート、ブドウ糖、乳糖、マンノース、クエン酸、トロメタモール、トリエタノールアミン又はアミノ酢酸を含有することができる。
【0072】
注射可能な担体液中の治療的及び/又は診断的に有効な物質の可溶性は、製薬学的溶剤、例えばエタノール、イソプロパノール、1,2‐プロピレングリコール、グリセロール、マクロゴール、ポリエチレングリコール又はポリエチレンオキシドによって、又は溶解助剤、例えばツィーン、クレモホル又はポリビニルピロリドンによって改善され得る。この目的のために、治療的及び/又は診断的に有効な物質を、製薬学的溶剤又は溶解助剤中に溶かし、引続き、塩緩衝液で希釈し、又は塩緩衝液及び少なくとも1種の製薬学的溶剤又は溶解助剤を含有する担体液を、治療的及び/又は診断的に有効な物質の溶解のために直接使用する。この際、製薬学的溶剤又は溶解助剤の濃度は、薬剤法則(AMG)によって規定されている量を越えない。
【0073】
担体液は、有利に、担体液中の治療的及び/又は診断的に有効な物質の溶解過程が数分間後に終了され、従って、注射可能な医薬調製剤が病床で随意使用されるように選択されるべきである。
【0074】
担体分子、例えば冒頭に挙げた1種の担体分子を、付加的に有効物質と接触させることもでき、この際、有効物質は、この担体分子に結合することができる。従って、本発明は、もう1つの実施態様によって、担体分子と蛋白質結合性の治療的及び/又は診断的に有効な物質とを生体外で一緒にし、引続いて腸管外投与する過程を包含する。この方法で(所望又は必要な場合には)、担体分子、例えばアルブミンに関する治療的及び/又は診断的に有効な物質の選択性を改善することができる。担体分子は、有利に、前記の、殊に血漿蛋白質から選択される。
【0075】
従って、本発明による方法によって製造された治療的及び/又は診断的に有効な物質は、癌疾患、ウイルス疾患、自己免疫疾患、急性又は慢性‐炎症性疾患及び/又は細菌、真菌類又は他の微生物によって引き起される病気の治療に好適である。
【0076】
本発明のもう1つの目的は、少なくとも1種の作用物質を含有する治療的及び/又は診断的に有効な物質であり、この物質は、それが、作用物質とスペーサーによって結合している少なくとも1種の蛋白質結合性分子を有することを特徴とし、この際、スペーサー又はスペーサーと作用物質との間の結合が、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で、作用物質の遊離下に分解可能であり、この際、作用物質は細胞分裂抑制剤ではない。
【0077】
更に、本発明のもう1つの目的は、少なくとも1種の診断剤を含有する診断的に有効な物質であり、この物質は、それが診断剤とスペーサーによって結合している少なくとも1種の蛋白質結合性分子を有することを特徴とし、この際、スペーサー又はスペーサーと診断剤との間の結合が、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で、診断剤の遊離下に分解可能である。前記のように、診断剤は、有利に、1種以上の放射性核種、1種以上の放射性核種を包含するリガンド、1種以上の陽電子放射体、1種以上のNMR‐造影剤、1種以上の蛍光性化合物及び/又は1種以上の近IR‐範囲の造影剤を包含する。
【0078】
本発明のもう1つの実施態様は、本発明による蛋白質結合性の診断的に有効な物質を、場合により、殊に前記のものから選択される担体分子及び製薬学的に認容性の助剤、賦形剤及び/又は希釈剤と一緒に含有する診断用キットに関する。本発明による診断用キットは、有利に、前記の病気の検出のために、又は担体分子及び/又は生体中のその分布の検出のために使用することができる。
【0079】
更に、本発明のもう1つの目的は、注射可能な担体液中に溶解される診断的有効物質を含有する注射可能な医薬調製剤の製法であり、この方法は、診断的有効物質として、診断剤及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子基を包含する化合物を使用することを特徴とする。診断剤は、前記の化合物の1種、例えば、1種以上の放射性核種、1種以上の放射性核種を包含するリガンド、1種以上の陽電子放射剤、1種以上のNMR‐造影剤、1種以上の蛍光化合物又は/及び1種以上の近IR‐範囲の造影剤であってよい。診断剤及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子基は、スペーサーによって結合されていてもよい。この際、スペーサー又は2つの成分を結ぶ結合は、分解不可能であることは有利である。診断的有効物質のための結合の際に存在することができる、身体中で分解不可能な結合の例は、アミド結合、飽和又は不飽和炭素‐炭素‐結合又は炭素とヘテロ原子との間の結合、‐C‐X‐(ここで、Xは、有利にO、N、S又はPである)である。有利な結合は、アミド結合である。治療的有効物質の薬物学的有効性を発揮するために、通例、低分子の作用物質がその分子標的と交互作用をしなければならないので、治療的有効物質の遊離は有利である。それに反して、診断的有効物質においては、蛋白質と結合した診断剤の遊離は、必ずしも必要ではないが、あってもよい。従って、本発明により、診断的有効物質は、付加的に、身体中で分解不可能な結合を介してスペーサー分子に結合すること、又はスペーサー分子SMが存在しないで、蛋白質結合性基に直接結合することができる。
【実施例】
【0080】
本発明を、次の例につき詳説する。
【0081】
例1
DOXO‐HYDの製造
次に記載した薬物学的活性物質(略してDOXO‐HYD)は、細胞分裂抑制剤ドキソルビシン、蛋白質結合性分子PMとしてのマレインイミド基及びスペーサー分子SMとしてのフェニルアセチルヒドラゾンスペーサーから成る。ドキソルビシンとスペーサー分子SMとの間の結合は、酸に不安定なカルボキシヒドラゾン結合である:
【0082】
【化15】

【0083】
DOXO‐HYD10.51mgを、1,2‐プロピレングリコール2.0ml中に振とうによって溶かし、引続き、この溶液を燐酸塩緩衝液(燐酸ナトリウム0.004モル、NaCl0.15モル‐pH6.5)8.0mlで希釈し、均一にする(担体液中のDOXO‐HYDの濃度約1300マイクロモル(μM))。そうして製造されたDOXO‐HYDの注射可能な医薬調製剤を、実験動物に直接静脈内投与した(下記参照)。
【0084】
例2
ヒト血漿へのDOXO‐HYDの結合
DOXO‐HYDが血管に入った後に、血漿蛋白質、有利に血漿アルブミンへの結合が起こり、従って、DOXO‐HYDは、特に、酸に不安定なアルブミン‐ドキソルビシン‐複合体として存在する。
【0085】
DOXO‐HYDを有するヒト血漿の37℃での恒温保持調査は、5分間の恒温保持後に、大部分のDOXO‐HYDがアルブミンに共有結合していることを示す。(A)‐遊離ドキソルビシン(B)に対して。この実態を、後記のクロマトグラムに記載する(A及びB)。
【0086】
【表1】

【0087】
この際、恒温保持を行なった後に、血漿試料を、POROS(登録商標)(R) ‐20‐陰イオン交換カラムを通して分離させた(254nmで蛋白質の検出、蛍光によるアントラサイクリンの検出)。
【0088】
例3
生体内でのDOXO‐HYDの有効性
後記の生物学的データは、生体内でのDOXO‐HYDの有効性を、遊離ドキソルビシンに比較して明らかにする:所謂、RENCA(renal cell carcinoma)‐モデルで、ドキソルビシン及びDOXO‐HYDを、ほぼ等毒用量で、抗腫瘍効果に関して相互に比較した(左腎臓で腎臓癌細胞約1百万個の注射10日後の静脈内治療)。
【0089】
動物:Balb/c‐マウス、メス;腫瘍:RENCA、renal cell carcinoma(腎臓細胞癌)
治療:10、13、17及び20日間、静脈内(i.v.)、実験終了24日
【0090】
【表2】

【0091】
この実験の結果を下記に表示する。DOXO‐HYDは、対照群及びドキソルビシン処理群に比較して、極めて良好な抗腫瘍効果を示し、かつ腎臓腫瘍体積及び肺転移数の明らかな減少を達成する。
【0092】
【表3】

【0093】
例4
ヒト血漿中のアルブミンへのDOXO‐EMHCの結合
下記の構造:
【0094】
【化16】

【0095】
を有するドキソルビシンの6‐マレインイミドカプロン酸ヒドラゾン‐誘導体(略してDOXO‐EMHC)1.6mgを、燐酸塩緩衝液(NaCl0.15モル、燐酸ナトリウム0.004モル、pH6.5)1.0ml中に室温で溶かす(溶液2000マイクロモル)。この溶液250μlをヒト血漿1.0mlと共に30秒間37℃で恒温保持し、引続き試料を弱陰イオン交換体(POROS(R)の)を経て分離させる場合に、大部分のDOXO‐EMHCがアルブミンに結合していることが明らかである(下記のクロマトグラムを参照):
【0096】
【表4】

【0097】
例5
ヒト血漿と共に1分間恒温保持した後の、MMP9によって分解可能なドキソルビシン‐マレインイミド‐ペプチド‐誘導体(2)のアルブミンへの結合
ドキソルビシン‐マレインイミド‐ペプチド‐誘導体(2)を、次の反応式により製造した:
【0098】
【化17】

【0099】
この際、マレインイミドグリシンを用いて誘導体化されたオクタペプチドGln‐Gly‐Ala‐Ile‐Gly‐Leu‐Pro‐Gly 1(Mr848、Bachem AG,Schweiz による固相合成によって製造される)を、ドキソルビシンと、次の方法で反応させる:
DMF3ml中のドキソルビシン17.1mgのやや混濁した溶液に、DMF500μl中に溶かした1(トリフルオルアセテート塩として)25mg、DMF200μl中に溶かしたO‐ベンゾトリアゾール‐N,N,N’,N’, ‐テトラメチルウロニウムヘキサフルオルホスフェート(HPTU)33.5mg、DMF100μl中に溶かしたヒドロキシベンゾトリアゾール水和物11.9mg及びN‐メチルモルホリン16.2μlを添加し、この成分を、引続き18時間室温で暗所で撹拌する。DMFを高真空で除去し、固形物をメタノール20ml中に入れ、濾過し、真空中で1mlに濃縮させる。珪酸ゲルを通す精製(酢酸エステル/メタノール2/1)後に、2 5mgが得られる。
【0100】
ヒト血漿を用いる恒温保持調査
2(Mr1374)1.4mgを、燐酸塩緩衝液(NaCl0.15モル、燐酸ナトリウム0.004モル、pH6.5)1.0ml中に、室温で溶かす(溶液1000マイクロモル)。この溶液300μlをヒト血漿1.0mlと共に、60秒間37℃で恒温保持し、引続き、試料を、弱陰イオン交換体(POROS(R)の)を通して分離させる場合に、大部分の2がアルブミンに結合していることが明らかである(下記のクロマトグラムを参照)。
【0101】
【表5】

【0102】
ペプチド配列Gln‐Gly‐Ala‐Ile‐Gly‐leu‐Pro‐Glyを、マトリックスメタロプロテアーゼMMP9によって検知し、イソロイシンとグリシンの間で分解させる。このことは次の実験によって示された:1999年6月10日付けの西ドイツ国特許出願A19926475.9に記載された方法によって製造された、次の構造:
【0103】
【化18】

【0104】
を有する2のアルブミン複合体(略してHSA‐2)の100μM溶液200μlを、トリプシン/アプロチニン活性化MMP9(2mU、Calbiochem,Deutschland 製)と共に30分間37℃で恒温保持した。この時間後のDO XO‐Gln‐Gly‐Ala‐Ileの遊離を、下記のクロマトグラムに記載する。HSA‐2のクロマトグラムは、t=0で(Firma Biorad 製のBiosil 250 SEC カラムを用いるHPLC排除クロマトグラフィーによる分離、λ=495nmで検出)及び活性化MMP9と共に恒温保持時間30分間後に示されている。
【0105】
【表6】

【0106】
例6
ヒト血漿中のアルブミンへのフルオレセインマレインイミドの結合
【0107】
【化19】

【0108】
ヒト血漿1.0mlと共に、フルオレセインマレインイミド‐溶液(燐酸塩緩衝液‐NaCl0.15モル、燐酸ナトリウム0.004モル、pH5.0)100マイクロモル 250μlを5分間恒温保持し、引続き、排除クロマトグラフィーによって(Superdex(R)、Pharamcia)試料を分離した後に、大部分のフルオレセインマレインイミドがアルブミンに結合していることが明らかである(下記のクロマトグラムを参照)。
【0109】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能な担体液中に溶かされる治療的及び/又は診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤を製造するために、治療的及び/又は診断的に有効な物質として、スペーサーによって結合されている作用物質及び少なくとも1種の共有的蛋白質結合性分子基から成る化合物を使用し、この際、スペーサー又は作用物質とスペーサーとの間の結合は、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で分解可能であることを特徴とする、注射可能な医薬調製剤の製法。
【請求項2】
スペーサー又は作用物質とスペーサーとの間の結合は、身体中で、作用物質又は作用物質の誘導体の遊離下に分解可能である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作用物質は、細胞分裂抑制剤、サイトカイン、免疫抑制剤、ウイルス分裂抑制剤、抗リウマチ剤、鎮痛剤、抗炎症剤、抗生物質、抗菌剤、シグナル伝達抑制剤、血管新生抑制剤又はプロテアーゼ抑制剤である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
作用物質は、アントラサイクリン、窒素離脱誘導体、アルキル化剤、プリン‐又はピリミジン拮抗剤、葉酸拮抗剤、タキサン、カンプトテシン、ポドフィロトキシン誘導体、ビンカアルカロイド、カリチェアミシン、マイタンシノイド又はシス‐立体配置の白金(II)‐錯体の群から選択されている、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
診断的に有効な物質は、1種以上の放射性核種、1種以上の放射性核種を包含するリガンド、1種以上の陽電子放射剤、1種以上のNMR‐造影剤、1種以上の蛍光化合物又は/及び1種以上の近IR‐範囲の造影剤を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
蛋白質結合性分子は、場合により置換されていてよい、マレインイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルジチオ‐基、N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル基、イソチオシアネート基、ジスルフィド基、ビニルカルボニル基、アジリジン基又はアセチレン基である、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
スペーサーは、部分的に酸素原子によって代えられていてよく、場合により置換されていてよい1〜12個の炭素原子を有する脂肪族炭素鎖及び/又は脂肪族炭素環及び/又は少なくとも1種の芳香族体を含有する有機分子基である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
作用物質とスペーサーとの間の結合又は蛋白質結合性分子基は、少なくとも1個のペプチド結合を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
付加的に担体分子を使用する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
担体分子と治療的及び/又は診断的に有効な物質とを一緒に合わせることを生体外で行なう、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の作用物質を含有する治療的及び/又は診断的に有効な物質は、スペーサーによって作用物質と結合している少なくとも1種の蛋白質結合性分子基を有し、この際、スペーサー又はスペーサーと作用物質との間の結合は、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で分解可能であり、この際、作用物質は、細胞分裂抑制剤ではないことを特徴とする、少なくとも1種の作用物質を含有する治療的及び/又は診断的に有効な物質。
【請求項12】
少なくとも1種の診断剤を含有する診断的に有効な物質は、スペーサーによって診断剤と結合している少なくとも1種の蛋白質結合性分子基であり、この際、スペーサー又はスペーサーと診断剤との間の結合は、pH‐依存的、加水分解的又は酵素的に身体中で分解可能であることを特徴とする、少なくとも1種の診断剤を含有する診断的に有効な物質。
【請求項13】
腫瘍疾患、ウイルス疾患、自己免疫疾患、急性又は慢性‐炎症性疾患及び細菌、真菌類又は他の微生物によって引き起されている疾患の治療のための、請求項1から10までのいずれか1項に記載の治療的及び/又は診断的に有効な物質の使用。
【請求項14】
請求項5から12までのいずれか1項に記載の診断的に有効な蛋白質結合性物質、場合により担体分子及び製薬学的に認容可能な助剤、賦形剤及び/又は希釈剤を含有する診断用キット。
【請求項15】
腫瘍疾患、自己免疫疾患、急性又は慢性‐炎症性疾患及びウイルス及び/又は微生物によって引き起される疾患の検出及び/又は担体分子及び有機体中でのその分布の検出のための、請求項5から10まで及び12のいずれか1項に記載の診断的に有効な物質又は請求項14に記載の診断用キットの使用。
【請求項16】
注射可能な担体液中に溶かされる診断的に有効な物質を含有する注射可能な医薬調製剤を製造するために、診断的に有効な物質として、診断剤及び少なくとも1種の蛋白質結合性分子基を包含する化合物を使用することを特徴とする、注射可能な医薬調製剤の製法。
【請求項17】
診断剤と蛋白質結合性分子基は、スペーサーによって結合されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
診断剤と蛋白質結合性分子基との間の結合又はスペーサーは分解不可能である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
診断剤及び蛋白質結合性分子基は、アミド結合によって相互に結合している、請求項18に記載の方法。

【公開番号】特開2011−173913(P2011−173913A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102053(P2011−102053)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【分割の表示】特願2001−502882(P2001−502882)の分割
【原出願日】平成12年6月7日(2000.6.7)
【出願人】(501471459)カーテーベー トゥモーアフォルシュングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】KTB Tumorforschungs GmbH
【住所又は居所原語表記】Breisacher Strasse17,D−79106Freiburg,Germany
【Fターム(参考)】