説明

注射可能コラーゲン生成物の最終滅菌

皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質を滅菌する方法であって、これらの物質に悪影響を及ぼすことなく(すなわち、皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質が、最終滅菌の前後で同じ特性を保持する)活性な生物的汚染物質または病原体のレベルを低減させる方法が開発された。一実施形態において、放射線に感受性を有する皮膚充填剤または注射可能コラーゲン物質を滅菌するための方法は、上記充填剤および物質を放射線から保護する工程、ならびに上記充填剤または注射可能物質を滅菌するのに有効な時間および速度で適切な放射線量の放射線で、上記充填剤または物質を照射する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2005年5月19日に米国特許商標庁において出願された、米国特許出願第60/682,507号の優先権を主張している。
【背景技術】
【0002】
(発明の分野)
本発明は、注射可能コラーゲン物質および皮膚充填剤を滅菌するための方法に関する。
【0003】
(発明の背景)
活性化合物の化学的特性、物理的特性または生理学的特性が、しばしば化合物を取り囲む環境中の変化により著しく変更されるため、生物学的に活性な化合物を滅菌することがしばしば困難となっている。例えば、pH、イオン強度または温度の変化が、化合物の性質の可逆的または不可逆的変化をもたらし得る。
【0004】
放射線滅菌は、高い浸透能力、比較的低い化学反応性、および温度、圧力、真空度または湿度を制御する必要性のない瞬時効果の利点を有する。放射線滅菌は、種々の製品に対し、工業において広く使用されており、線量レベルも放射線滅菌の生物学的効果もともに周知である。一般的に、電子ビーム滅菌およびγ滅菌は、微生物を殺すことに関して同様に有効であると認められている。放射線は、微生物を効果的に殺すには申し分ないが、一般的に、タンパク質、DNA、RNA等の構造を変更し、生物学的に不活性にする。したがって、生物学的に活性な化合物の化学的特性、物理的特性または生理学的特性に有害な影響を及ぼすことなく、生物学的に活性な化合物を効果的かつ安全に滅菌するための簡単な方法に対する重大な必要性が依然として存在する。
【0005】
ヒト用の多くの注射可能コラーゲン物質は、無菌プロセスにより調製され、最終滅菌を受けることができない。したがって、それらの注射可能コラーゲン物質は、好ましくない、潜在的に危険な生物的汚染物質または病原体(例えば、ウイルス、細菌(細胞間および細胞内細菌(例えば、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、ナノバクテリア、クラミジア、リケッチア)を含む)、酵母菌、糸状菌、真菌、単細胞または多細胞寄生生物、および/または単独でまたは組み合わせて有害反応を引き起こし得る同様な病原体を含み得る。したがって、注射可能コラーゲン物質中の生物的汚染物質はいずれも、その生成物を使用する前に不活性化されることが最も重要である。この不活性化は、上記物質が患者に直接的に投与される場合に特に重要である。
【0006】
注射可能コラーゲン物質を生成するための大抵の手順が、1種以上の特定の生物的汚染物質または病原体について出発物質をスクリーニングまたは試験する方法を含んでいた。生物的汚染物質または病原体の検査で陽性反応を示す物質は捨てられる。スクリーニング手順の例としては、出発物質(例えば、ヒト胎盤)中の特定のウイルスについての試験が挙げられる。その場合、製造プロセスは、初期原料からの汚染物質および/または病原体の除去もしくは不活性化の工程を包含しなければならない。
【0007】
市販されているほとんどの注射可能コラーゲン生成物は、初期コラーゲン溶液の濾過などの手段により最初に滅菌し、次いで、完全な無菌条件下で加工される物質から作製される。このプロセスを用いて10−6SALの無菌性保証レベル(SAL(sterility assurance level))を達成するのは非常に困難である。γ線照射または電子ビーム(e−beam)照射を用いた結果ははるかに良くなるが、これらの方法を用いると、コラーゲン物質がしばしば害される。
【0008】
上記で検討した困難を考慮すると、注射可能コラーゲン物質の望ましい性質に悪影響を及ぼすことなくこの物質を最終滅菌する方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、注射可能コラーゲン物質に悪影響を及ぼすことなく活性な生物的汚染物質または病原体のレベルを低減させることにより、この物質を滅菌する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質を滅菌する方法であって、この物質に悪影響を及ぼすことなく(すなわち、皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質が、最終滅菌の前後で同じ特性を保持する)活性な生物的汚染物質または病原体のレベルを低減させる方法が開発された。一実施形態において、放射線に感受性を有する皮膚充填剤または注射可能コラーゲン物質を滅菌するための方法は、上記充填剤または物質を放射線から保護する工程、ならびに上記充填剤または注射可能物質を滅菌するのに有効な時間および速度で適切な放射線量の放射線で上記充填剤または物質に照射する工程を包含する。好ましい実施形態において、放射線に感受性を有する皮膚充填剤または注射可能コラーゲン物質を滅菌するための方法は、a)上記充填剤または物質をその凍結温度以下(一般的には0℃以下)の温度で凍結する工程、およびb)上記充填剤または物質を滅菌するのに有効な時間の間、有効な速度で適切な放射線量の放射線で上記充填剤または物質に照射する工程を包含する。この放射線曝露は、上記充填剤または物質の密度に応じて異なるが、好ましくは、5kGyと12kGyとの間であり、より好ましくは、6kGyと8kGyとの間である。これらの放射線量は、上記充填剤または物質に対して10−6SALの無菌性保証レベル(SAL)をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
(皮膚充填剤および注射可能コラーゲン)
本明細書中で一般的に使用される場合、「注射可能コラーゲン」としては、均質または不均質なコラーゲンのペースト、ゲル、溶液または懸濁液であって、注射器、チューブ、または細針またはノズルを通じてコラーゲンを押し出すように設計され、適切なプランジャーまたはシステムを備えた他の容器に含まれるものが挙げられるが、これらに限定されない。この注射可能コラーゲンは、注射、トロカールを通じた外科的適用、または創面上への直接的適用に向けて設計されている。
【0012】
代表的なコラーゲン物質としては、組み換えヒトコラーゲン、組織工学的に作製されたヒトベースコラーゲン(tissue engineered human−based collagen)、ブタコラーゲン、ヒト胎盤コラーゲン、ウシコラーゲン、自己コラーゲン、コラーゲン繊維およびヒト組織コラーゲンマトリックスが挙げられる。適切な種類の皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質としては、組み換えヒトコラーゲンI型、組み換えヒトコラーゲンIII型、組織工学的に作製されたヒトベースコラーゲンI型、ブタコラーゲンI型、ブタコラーゲンIII型、ヒトI型胎盤コラーゲン、ヒトII型胎盤コラーゲン、ヒトIII型胎盤コラーゲンまたはヒトIV型胎盤コラーゲンであって、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)中2%濃度で中性pHのもの、ウシコラーゲンを含む可溶化エラスチンペプチド、ならびにコラーゲンインプラントであるZyderm(登録商標)I、Zyderm(登録商標)II、およびZyplast(登録商標)を含むウシコラーゲンが挙げられるが、これらに限定されない。Zyderm Iは、95%〜98%のI型コラーゲンを含み、その残りとしてIII型コラーゲンを含む。Zyderm Iはまた、0.3%のリドカインを含む。Zyderm Iは、生理的リン酸緩衝塩化ナトリウム溶液に懸濁させた3.5重量%のウシ皮膚コラーゲンである。Zyderm IIは、6.5重量%のウシ皮膚コラーゲンであることを除き、Zyderm Iと同一である。Zyplastは、格子およびより粘度の高い化合物を形成するためにグルタルアルデヒドで架橋させた3.5%のウシ皮膚コラーゲンである。
【0013】
他の皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質としては、ウシコラーゲン中に懸濁させたポリメチルメタクリレートの微小球、患者の組織から調製されたコラーゲン繊維、マトリックスタンパク質(例えば、エラスチンおよび基質成分)を含有する中性pH緩衝剤中に懸濁させた死体皮膚由来のヒト組織コラーゲンマトリックス、凍結乾燥して微粉化した無細胞ヒト死体皮膚、グロビン(ヘモグロビンのタンパク質部分)および培養自己繊維芽細胞が挙げられる。非動物由来の物質としては、非動物由来のhylan gel中に懸濁させたデキストランビーズ、ポリ乳酸、重合および架橋に応じて固体、ゲルまたは液体の形態の人工ポリマーでできたシリコーン、顔面形成外科および顔面再建手術用のシート形態、細長片(strip)形態およびチューブ形態の拡張ポリテトラフルオロエチレン(e−PTFE)が挙げられる。皮膚充填剤としては、Greff,et al.による米国特許第6,231,613号に開示された軟組織増大のための組成物も挙げられ、これらは、約15%未満の平衡含水量を有するポリマーである。例示的なポリマーとしては、酢酸セルロース、エチレンビニルアルコール共重合体ポリアルキル(C〜C)アクリレート、アクリレート共重合体、およびポリアルキルアルカクリレート(polyalkyl alkacrylate)であって、アルキルおよびアルキル基が6個以下の炭素原子を含むものが挙げられる。
【0014】
(コラーゲン物質の滅菌のための方法)
皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質を、この物質に悪影響を及ぼすことなく活性生物的汚染物質または病原体のレベルを低減させることにより滅菌する方法が開発された。皮膚充填剤および注射可能コラーゲン物質を、γ放射線または電子ビーム放射線を用いて、コラーゲンの生理学的特性に顕著な影響を及ぼすことなく除染または滅菌し得る。この混合物は、混合物内に存在する病原であるあらゆる微生物、ウイルスおよびそれらのポリヌクレオチドフラグメント、DNAまたはRNA(一本鎖であるか二本鎖であるかに関わらない)を不活性化する条件下で照射される。
【0015】
γ線または電子ビーム放射線は、充填剤または物質の密度により異なるが、少なくとも5kGyであることが好ましい。12kGyを超える照射は、充填剤または物質が害され得るため好ましくない。最も好ましい曝露は、約6kGyと8kGyとの間である。
【0016】
放射線に感受性を有する皮膚充填剤または注射可能コラーゲン物質を、放射線から保護するために処理し、次いで、充填剤または注射可能物質を滅菌するのに有効な時間および速度で照射する。好ましい実施形態において、放射線に感受性を有する皮膚充填剤または注射可能コラーゲン物質は、まず、凍結温度以下の温度(一般的には0℃以下)で凍結され、上記充填剤またはコラーゲン物質を滅菌するのに有効な時間の間、有効な速度で適切な放射線で照射される。代替的な実施形態において、凍結防止剤および/またはマンニトール、マンノース、アスコルビン酸、ヒアルロン酸、または他の糖もしくは多糖といった安定剤が、凍結する前の初期のコラーゲン物質に加えられる。これらの保護剤は、凍結しない場合に十分であるということも、照射からの顕著な保護を得るのに必要であるということもないが、好都合であり得る。
【0017】
照射された皮膚充填剤またはコラーゲン物質は、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動および/または示差走査熱量測定により分析されて、最適な照射条件を選択し得、コラーゲン分子の保存された特性を証明し得る。本明細書中で使用される場合、顕著な被害がないということは、25%未満、より好ましくは15%以下のコラーゲン物質または皮膚充填剤しか、悪化または劣化されないことを意味する。
【0018】
適切な注射可能コラーゲン生成物は、均質または不均質なコラーゲンのペースト、ゲル、溶液または懸濁液であって、細針またはノズルを通じてコラーゲン内容物を押し出すように設計され、注射器、チューブ、または適切なプランジャーまたはシステムを備えた他の容器に含まれているものが挙げられるが、これらに限定されない。この注射可能コラーゲンは、注射、トロカールを通じた外科的適用、または創面上への直接的適用に向けて設計されている。本明細書中に記載される方法に従えば、コラーゲンのペースト、ゲル、溶液または懸濁液は、最終滅菌の前後で同じ流動性を保つ。
【0019】
上記皮膚充填剤およびコラーゲン物質は、一旦滅菌されると、治療奉仕者により使用されるまで無菌環境中に維持される。例示的な容器としては、小瓶、皿、小袋、広口瓶、注射器などが挙げられる。この容器は、γ線と電子ビームとの両方に対して透明であることが好ましい。
【0020】
上記の方法は、以下の非限定的な実施例を参照して、さらに理解される。
【実施例】
【0021】
(実施例1.25kGyでの照射に曝露した注射可能コラーゲン生成物のHumallagen)
(材料および方法)
0.3%〜0.5%のヒトI+III型コラーゲン溶液を、pH3(5未満)にて調製し、0.45μmの多孔膜に通して濾過し、次いで、クラス1000の清潔な部屋において層流フード下で処理した。濾過した溶液中に、バクテリアを検出し得なかった。20mMのリン酸ナトリウムの添加により、室温にてpH7.2で、コラーゲンを沈殿させた。密閉した無菌のバケツに入れ、遠心分離によりコラーゲンペーストを得た。次いで、この6%の濃縮コラーゲンペーストを洗浄し、無菌のリン酸緩衝生理溶液(PBS)で3.5%に希釈した。無菌の1ml注射器を、最終コラーゲンペーストで満たした。+4℃での1週間の保管後、ドライアイス中で約−80℃に凍結する前に、各注射器を最後の小袋に詰め、密封した。ポリスチレン製の断熱された箱に入れ、注射器の各層を1インチ厚のドライアイス層で覆った。最終包装の全高は、15インチ未満であり、γ照射まで−20℃にて、またはドライアイス内で保管した。γ照射を24時間未満の間、室温にて実施した。照射線量は、>25kGrayであった。照射後に、一部のドライアイスは依然として包装内に存在しており、注射器は依然として凍結していた。解凍後、注射器を調べた。注射器は害されておらず、試験される前の1週間の間、これらの注射器を室温にて保管した。当業者に周知の硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)手順を用いてコラーゲンペーストを試験した。
【0022】
(結果および考察)
コラーゲンペーストを含む注射器の照射後、ガラス製注射器の色が淡褐色に変化した。注射器の中身は、水相とコラーゲンの塊との間に顕著な相分離はなく、均質に見えた。この中身を細い規格針を通じて押し出し得た。
【0023】
SDS−PAGE分析により決定されるように、コラーゲン分子を25kGyでのγ線照射の間、凍結状態により顕著に保護されている。物質全体の約15%であるごく少量の物質が劣化した。
【0024】
DSC(示差走査熱量測定法)を用いてコラーゲン物質を評価した。再構成された繊維性コラーゲン調製物は、不均質な繊維集団を含み、非繊維性状態の分子を含む可能性がある。繊維性クラスは、充填順序(packing order)、コラーゲン濃度、繊維幅および架橋レベルが互いに異なる3種類以上の区分された種および区分されていない種を代表し得る。繊維性コラーゲン生成物の多様な融解吸熱は、各々異なる融解温度を有する分子クラスおよび繊維クラスを順次融解することによるものである。36℃以下におけるピークは、変性したコラーゲンが存在すること示す。36℃〜40℃における小さな肩(shoulder)は、縮んだかまたは傷ついたコラーゲンの螺旋構造、劣化しているが変性していないコラーゲン分子を示している可能性が高い。非繊維性コラーゲンまたは細かいコラーゲン繊維物質は、40℃〜45℃にて融解し、大きい繊維性コラーゲンクラスは、45℃より高い温度で融解する。
【0025】
【表1】

表1は、非照射の注射可能コラーゲン(Humallagen)およびドライアイス中にて25kGyで照射した注射可能コラーゲン(Humallagen)の両方について、36℃以下におけるピークが存在しないことを示している。このことは、非照射サンプル中には変性した物質が存在しないことを示している。表1はまた、照射プロセス中に生じた変性物質がないことを示している。非照射の注射可能コラーゲン(Humallagen)と比較すると、36℃〜40℃において、わずかに大きな肩が、照射した注射可能コラーゲン(Humallagen)について存在した。このことは、顕著な量の劣化物質は、照射中に生じなかったことを示している。非照射の注射可能コラーゲン(Humallagen)と比較すると、40℃〜45℃において、わずかに大きな面積が、照射した注射可能コラーゲン(Humallagen)について存在した。このことは、照射した注射可能コラーゲン中に、顕著な量の非繊維性コラーゲンまたは細かいコラーゲン繊維物質が存在しないことを示している。非照射の注射可能コラーゲン(Humallagen)の主要融解温度51.373℃と照射した注射可能コラーゲン(Humallagen)の主要融解温度46.473℃との間に差異がある。このことは、コラーゲン繊維クラスの移動があることを示している。生成物の効力に対するこの移動の影響は不明であるが、この融解温度の移動は、ドライアイス中にて25kGyの放射線量での照射後のこの物質の性質に関する顕著な変化を明示している。このデータは、25kGyの放射線量での照射により最適な注射可能コラーゲン生成物(Humallagen)が得られないことを明示している。
【0026】
(実施例2.6kGyおよび12kGyでの照射により滅菌される注射可能コラーゲン生成物のHumallagen)
(材料および方法)
第1の実施例と同様に、3mg/mlのコラーゲン溶液から開始し、0.45μmのフィルターに通して濾過し、注射可能コラーゲン物質に再構成し、更に安定剤を含む注射可能コラーゲン生成物または安定剤を含まない注射可能コラーゲン生成物の小バッチを作成した。1%のヒアルロン酸ナトリウム、10mMのマンノースまたは10mMのアスコルビン酸ナトリウムを安定剤として含む生成物を別々に調製した。これらの材料を1ccのガラス製注射器内に充填し、次いで、実施例1と同様にドライアイス中において、6kGy、12kGyおよび30kGyで照射した。コラーゲン分子を照射被害から保護するための凍結の具体的な有益な効果を示すために、凍結を除いた平行実験を、全ての同じサンプルについて実施した。実施例1に記載される方法と同じ方法を使用した。
【0027】
(結果および検討)
実施例1と同様に、ガラス製注射器の色が、全照射線量において淡褐色に変化した。注射器の中身は、全照射線量における全サンプルについて、水相とコラーゲンの塊との間に顕著な相分離はなく、均質に見えた。全サンプルの中身を、細い規格針を通じて押し出し得た。SDS−PAGEデータは、30kGyにおけるγ線照射の間、コラーゲン分子が凍結状態により顕著に保護されたことを明らかにした。全コラーゲン物質のうちの約15%のみが劣化した。最適な結果が、5kGyまたは12kGyの放射線量において示された。これらの放射線量でのサンプルの劣化は、照射していないコントロールサンプルと同等であった。安定剤の添加は、いくらかの更なる保護を与えるが、顕著なものではなかった。
【0028】
【表2】

このコラーゲンサンプルのDSC分析は、コントロールおよび処理サンプルの両方について、36℃以下におけるピークが存在しないことを見出した。このことは、照射プロセスの間に変性した物質が生じないことを明示している。コントロールサンプルと比較すると、処理サンプルについて、36℃〜40℃において僅かに大きな肩が観察された。このことは、全ての放射線量において、照射の間、いくらかの劣化した物質が生じたことを示している。コントロールサンプルと比較すると、処理サンプルについて、40℃〜45℃において僅かに大きな面積が観察された。このことは、いくらかの非繊維性コラーゲンまたは細かい繊維物質が、照射したサンプル全てに存在することを示している。処理した群に関し、ドライアイス中において6kGyで照射した注射可能コラーゲン物質、ドライアイス中において6kGyで照射した1%のヒアルロン酸ナトリウムを含む注射可能コラーゲン、およびドライアイス中において6kGyで照射した10mMのアスコルビン酸ナトリウムを含む注射可能コラーゲンが、この物質の全ての所望の特性を保持する無菌コラーゲン物質をもたらした。これらのサンプルの主要ピークは、コントロールサンプルの主要ピークと同様に>50℃である。このことは、これらのサンプルにおいて、顕著なコラーゲン繊維クラスの移動がないことを示している。このデータは、ドライアイス中において6kGyで照射された注射可能コラーゲン、ドライアイス中において6kGyで照射された1%のヒアルロン酸ナトリウムを含む注射可能コラーゲン、およびドライアイス中において6kGyで照射された10mMのアスコルビン酸ナトリウムを含む注射可能コラーゲンが注射可能コラーゲン生成物(例えば、Humallagen)を滅菌するのに望ましい条件であることを明示している。ドライアイス中において12kGyで照射された注射可能コラーゲンは、47.180℃の融解温度の主要ピークを有する。この融解温度は、コントロールサンプルの融解温度の主要ピーク50.649℃より3.469℃低く、融解温度として受容可能な範囲の限界である。
【0029】
凍結がない場合、3種の放射線量で照射した全てのサンプルが、顕著に害された。全ての注射器内で2相がはっきりと分離した。コラーゲンゲルは縮み、水層の流体により取り囲まれた。大型の針を用いても、注射器からこのコラーゲンゲルを押し出すことは不可能であった。SDS電気泳動法およびDSCデータは、コラーゲン分子の顕著な変化を明示している。
【0030】
(実施例3.6kGyおよび8kGyでの照射により滅菌される注射可能コラーゲン生成物のHumallagen)
注射可能コラーゲン生成物(Humallagen)を、ドライアイス中において6kGyおよび8kGyで照射した。非凍結で非照射のサンプルを、コントロールとして使用した。実施例1に記載される方法と同じ方法が使用された。
【0031】
実施例1および2と同様に、照射後に、ガラス製注射器の色が淡褐色に変化した。注射器の中身は、全サンプルについて、水相とコラーゲンの塊との間に顕著な相分離はなく、均質に見えた。この中身を30gの針を通じて押し出し得た。SDS−PAGE分析により判定される通り、コラーゲン分子は、γ照射の間、凍結状態により顕著に保護された。このデータは、6kGy〜8kGyの照射により劣化した物質が、コラーゲンサンプル中に生じないことを明示している。
【0032】
【表3】

DSCデータは、コントロールサンプルおよび処理サンプルの両方について、36℃以下におけるピークが存在しないことを示している。このことは、照射プロセスの間に変性した物質が生じなかったことを示している。コントロールサンプルと比較すると、全ての処理サンプルについて、36℃〜40℃において僅かに大きな肩が観察された。このことは、照射の間にいくらかの変性した物質が生じたことを示している。コントロールサンプルと比較すると、処理サンプルについて、40℃〜45℃において僅かに大きな面積が観察された。このことは、いくらかの非繊維性コラーゲンまたは細かい繊維物質が、照射した全てのサンプル中に存在することを示している。6kGyで照射されたサンプルの主要なピークは49.307℃であり、コントロールの50.462℃よりも、僅かに1.155℃低い。これは顕著ではない。ドライアイス中において8kGyで照射した注射可能コラーゲン(Humallagen)についての主要ピークは、48.780℃であり、コントロールの50.462℃よりも僅かに1.682℃低い。これは顕著ではない。このデータは、両方の照射したサンプルにおいて、顕著なコラーゲン繊維クラスの移動がないことを示している。したがって、ドライアイス中における6kGyまたは8kGyでの照射は、悪影響なく、注射可能コラーゲン生成物の滅菌をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン物質または皮膚充填剤を滅菌するための方法であって:
a)該コラーゲン物質または皮膚充填剤を凍結する工程、および
b)該コラーゲン物質または皮膚充填剤を、有効量のγ放射線または電子ビーム放射線で照射して、該コラーゲン物質または皮膚充填剤の顕著な劣化を生ずることなく該コラーゲン物質または皮膚充填剤を滅菌する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記コラーゲン物質がコラーゲンである、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記コラーゲンが、組換えヒトコラーゲン、組織工学的に作製されたヒトベースコラーゲン、ブタコラーゲン、ヒト胎盤コラーゲン、ウシコラーゲン、自己コラーゲン、コラーゲン繊維およびヒト組織コラーゲンマトリックスからなる群より選択される、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、注射可能コラーゲン物質が、組換えヒトコラーゲンI型、組換えヒトコラーゲンII型または組換えヒトコラーゲンIII型、単離ヒトベースコラーゲンI型調製物、単離ヒトベースコラーゲンIII型、ブタコラーゲンI型、ブタコラーゲンIII型、ヒトI型胎盤コラーゲン、ヒトII型胎盤コラーゲン、ヒトIII型胎盤コラーゲンまたはヒトIV型胎盤コラーゲン、ウシコラーゲンを含む可溶化エラスチンペプチド、グルタルアルデヒドで架橋したウシ皮膚コラーゲン、コラーゲン繊維、死体皮膚由来のヒト組織コラーゲンマトリックス、凍結乾燥し微粉化した無細胞ヒト死体皮膚、グロビン(ヘモグロビンのタンパク質部分)および培養自己繊維芽細胞からなる群より選択される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記皮膚充填剤が、重合および架橋に応じて固体、ゲルまたは液体の形態の、ポリメチルメタクリレートの微小球懸濁液、デキストランビーズ懸濁液、ポリ乳酸、シリコーンポリマー、発砲ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、エチレンビニルアルコール共重合体ポリアルキル(C〜C)アクリレート、アクリレート共重合体、およびポリアルキルアルカクリレートからなる群より選択され、該アルキルおよびアルキル基が6個以下の炭素原子を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記コラーゲン物質または皮膚充填剤が、マンニトール、マンノース、アスコルビン酸、ヒアルロン酸、糖、多糖、ヒアルロン酸ナトリウムおよびアスコルビン酸ナトリウムからなる群より選択される安定剤を更に含む、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記放射線が、電子ビーム照射である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記放射線が、γ照射である、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記放射線の放射線量が、5kGyと12kGyとの間である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記凍結温度が、−80℃である、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、生物的汚染物質または病原体を除去する工程を更に包含する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記コラーゲン物質または皮膚充填剤が、照射後に10−6SALの無菌性保証レベル(SAL)を達成する、方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載のいずれかの方法による生成物。

【公表番号】特表2008−545461(P2008−545461A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512467(P2008−512467)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/019064
【国際公開番号】WO2006/124988
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(507380023)アルバイオレックス, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】