説明

注射用の医薬組成物

【課題】 次に示す化学式1に表される化合物の注射製剤における濃度を向上せしめる手段を提供する。
【解決手段】 1)前記化学式1に構造を示す1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを1質量部に対し2)ベンジルアルコールを0.001〜0.5質量部を含有する医薬用の組成物を提供する。前記化学式1に表される化合物は、RS・SRラセミ体であることが好ましく、医薬用の組成物注射剤であることが好ましく、製剤における、前記化学式1に表される化合物の濃度が5〜10質量%の溶液形態であることが好ましい。
【化1】


化学式1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬用の組成物に関し、更に詳細には、注射剤に好適な医薬用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ニトロイミダゾール誘導体は、癌放射線療法において、放射線抵抗性を有する、低酸素性の癌細胞の、放射線感受性を高め、放射線療法の効果を高める有用な薬剤であることが既に知られている。この様な2−ニトロイミダゾール誘導体の内でも、1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールは、親水性が高く、神経細胞への移行性が殆ど存しないため、中枢毒性のない放射線増感剤として現在臨床試験中である。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3を参照)又、かかる物質においては、この様な低酸素性細胞に対する放射線増感効果以外にも、核酸水酸化物消去作用(例えば、特許文献4を参照)、アポトーシス・シグナル保持作用(例えば、特許文献5を参照)などが存し、癌治療においては有用な薬剤であると言える。
【0003】
かかる1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールは、2つの不斉炭素を有し、RR体、SS体、SR体、RS体の4つの立体異性体が存し、現在臨床応用が考えられているのは、SR体とRS体のラセミ体である。これらの1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールは何れも結晶性に優れる、水溶性も脂溶性も有する、腫瘍親和性が高いなどの特性を有しており、それは非環状糖ヌクレオシド類似構造に起因するものであると言われている。言い換えれば、結晶性と水溶性、脂溶性の両親媒性とは、腫瘍に対する効果と密接に結びついたものであると言える。
【0004】
その反面、結晶性の良さと両親媒性であることとは、水性担体への溶かしやすさの点では、結晶構造を崩して、溶かすために多くの労力を要し、且つ、保存時における結晶の析出の危険性を有するなど、使用性を損なっているとも言える。更に、水溶性を有するとは言うものの、結晶の析出の危険性を回避した溶解度は1〜3質量%程度であり、投与のために必要となるベヒクル量は多くなり、注射剤としての投与は、点滴にならざるを得ず、この点滴投与形態と、かかる化合物の代謝速度の速さと勘案すると、生体利用性の低下が懸念される。更に、化学式1に表される化合物の水性担体溶液の安定性が、室温以上では損なわれやすい為に、5℃などの低温保存しなければならず、低温保存条件が更に溶解性を制限する面も存する。即ち、かかる化合物の効果を向上させる手段として、製剤における有効成分である後記化学式1の化合物の濃度を向上せしめることが示唆されているが、かかる化学式1に表される化合物の溶解度を向上させる手段については全く知られていないのが現状であると言える。
【0005】
ベンジルアルコールは、医薬品の添加物として、水に難溶性の有効成分を溶かす溶媒として使用されることが存する。(例えば、特許文献6を参照)又、毛髪や爪などのケラチン中へ有効成分を浸透せしめる作用を有する。(例えば、特許文献7を参照)しかしながら、後記化学式1に表される化合物との作用については全く知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開平3−223258号公報
【特許文献2】WO1994/014778
【特許文献3】特開2003−321459号公報
【特許文献4】特開2005−27515号公報
【特許文献5】特開平9−77667号公報
【特許文献6】特表2001−503404号公報
【特許文献7】特開2004−010614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこの様な状況下為されたものであり、次に示す化学式1に表される化合物の注射製剤における濃度を向上せしめる手段を提供することを課題とする。
【0008】
【化1】

化学式1
【課題を解決するための手段】
【0009】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、前記化学式1に表される化合物の注射製剤における濃度を向上せしめる手段を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、かかる化合物とベンジルアルコールを組み合わせることにより、この様な改善が出来ることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)1)前記化学式1に構造を示す1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを1質量部に対し2)ベンジルアルコールを0.001〜0.5質量部を含有することを特徴とする、医薬用の組成物。
(2)前記化学式1に表される化合物が、化学式2に表される立体構造の異性体と化学式2に表される立体構造の異性体のRS・SRラセミ体であることを特徴とする、(1)に記載の医薬用の組成物。
【0010】
【化2】

化学式2
【0011】
【化3】

化学式3
【0012】
(3)注射剤であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の医薬用の組成物。
(4)製剤における、前記化学式1に表される化合物の濃度が5〜10質量%の溶液形態であることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載の医薬用の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記化学式1に表される化合物の注射製剤における濃度を向上せしめる手段を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(1)本発明の医薬用の組成物の必須成分である1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾール
本発明の医薬用の組成物は、1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを必須成分として含有する。かかる化合物にはRS体、SR体、RR体、SS体の4つの立体異性体が存し、本発明の医薬用の組成物では、これらの光学活性体を使用することも出来るし、光学活性体が混合した、ラセミ体などの混合物を使用することも出来る。特に好ましいものは、SR体とRS体の体であり、これは、このラセミ体の結晶性が良いため、巨大な結晶になりやすく、この様な形態では、溶解せしめるのに困難が存し、本発明の効果が著しい為と、臨床試験において、実際に有効性が確かめられているためである。かかる化合物は、特許文献1或いは特許文献2に記載された方法に従って製造することが出来、例えば、2−ニトロ−1−トリメチルシリルイミダゾールと2−アセトキシメトキシ−1,3,4−トリアセトキシブタンとをルイス酸の存在下縮合させ、しかる後に、ナトリウムメトキシドなどを反応させて脱アセチル化することにより、製造することが出来る。この時、2−アセトキシメトキシ−1,3,4−トリアセトキシブタンの立体特性が、最終生成物の1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールにも反映される。本発明の医薬用の組成物では、かかる1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを医薬用の組成物全量に対しては、好ましくは、5〜10質量%、より好ましくは6〜8質量%含有する。これは少なすぎると、医薬製剤において充分な量の1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを含有することが出来なくなるし、多すぎると本発明の効果が得られず、ベヒクルの溶解しきれない場合が存するためである。尚、本発明の医薬用の組成物の有効成分である、1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールの標準的な投与量は、1回あたり、成人男子1人で1〜10gである。
【0015】
(2)本発明の医薬用の組成物の必須成分であるベンジルアルコール
本発明の医薬用の組成物は、必須成分としてベンジルアルコールを含有することを特徴とする。かかる成分は医薬製剤において既に使用されている成分であり、医薬品グレードのものが市販されていて、かかる医薬品グレードのものを購入して使用することが出来る。かかる成分は本発明の医薬用の組成物に於いては、前記化学式1に表される化合物の水性担体への溶解度を向上せしめるとともに、溶状を安定化し、経時保存における結晶析出などを抑制する作用を有する。この様な作用を発揮するためには、かかる成分は0.01〜5質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.02〜2質量%である。又、化学式1の化合物の量との量比とすれば、化学式1の化合物1質量部に対して、0.001〜0.5質量部を含有することが好ましく、より好ましくは、0.002〜0.2質量部である。この範囲外では、溶状安定化作用を奏しない場合が存する。
【0016】
(3)本発明の医薬用の組成物
本発明の医薬用の組成物は、前記必須成分を含有し、癌の治療用、取り分け、放射線による癌治療における、低酸素性癌細胞の放射線に対する感受性を高める目的で好適に使用される。癌の種類としては、肺ガンや膵癌が好適に例示できる。製剤としては、経口投与製剤、注射製剤何れもが可能であるが、代謝が早いことから注射製剤であることが好ましい。注射製剤としては、点滴投与用の製剤も含み、点滴投与製剤であることが好ましい。これは、有効成分である1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールの投与量が多いため、投与に必要な製剤量が多くなり、一時の投与では危険が生じる場合が存するためである。この様な注射用製剤としては、溶液形態でも、凍乾形態でも特に制限はないが、安定した溶解性が得られる点で、溶液形態であることが好ましい。溶液形態に於いてベヒクルとしては、純水でも、生理食塩水でも、等張処理されていても良いグルコース溶液などが好適に例示できる。
【0017】
本発明の医薬用の組成物には、前記必須成分以外に、必要に応じて、医薬の製剤において通常使用される任意の製剤成分を、本発明の効果を損ねない範囲において、含有することが出来る。この様な任意成分としては、例えば、マクロゴールの様な多価アルコール類、塩化ナトリウムのような等張化剤、リン酸塩のような緩衝塩、結晶セルロースや澱粉のような賦形剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のような非イオン界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウムのようなアニオン界面活性剤、アラビアゴムのような増粘多糖類、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、ヒドロキシプロピルセルロースのような結合剤、「オイドラギット」(登録商標)の様な被覆剤等が例示できる。溶液形態の注射用の医薬組成物において、特に好ましい形態は、必須成分とベヒクル以外の成分を含有しない形態である。
【0018】
本発明の医薬組成物は、前記必須成分や任意成分を常法によって処理することにより製造することが出来る。
【0019】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明するが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0020】
以下に示す処方に従って、本発明の医薬組成物1(溶液形態の注射剤)を作成した。即ち、処方成分を容器に秤込み、手で振とうさせて溶解させた。比較例1として、ベンジルアルコールを水に置換したものを同様に作成した。この時、溶解に要する時間も計測した。作成した製剤は5℃に24時間保管し、製剤の安定性(結晶析出の有無)を確かめた。結果を表1に示す。本発明の注射製剤は、製剤安定性に優れることが判る。
【0021】
化学式1の化合物(ラセミ体) 7 質量%
ベンジルアルコール 2.5質量%
水 残余
【0022】
【表1】

【実施例2】
【0023】
実施例1の医薬用の組成物1のベヒクルを変えて、同様に医薬組成物2を作成した。溶解に要した時間は30分であり、5℃保存でも析出物は存しなかった。
【0024】
化学式1の化合物(ラセミ体) 7 質量%
ベンジルアルコール 2.5質量%
生理食塩水 残余
【実施例3】
【0025】
ベンジルアルコールと化学式1の化合物(ラセミ体)の最適量比を求めるために、これらの量比を変えて溶解性を検討した。溶解後5℃に24時間保存して不溶物の析出を見ない状態を以て「溶解」と判定した。化学式1の化合物(ラセミ体)のみでは、6質量%でも「溶解」せず、溶解は5質量%程度と思われる。結果を表2に示す。これより、0.075質量%のベンジルアルコールの添加でも溶解性の改善効果を奏することが判る。
【0026】
化学式1の化合物(ラセミ体) 表2に記載の質量%
ベンジルアルコール 表2に記載の質量%
水 残余
【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は安定な放射線増感のための医薬組成物に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)次に示す化学式1に構造を示す1−(1−ヒドロキシメチル−2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシメチル−2−ニトロイミダゾールを1質量部に対し2)ベンジルアルコールを0.001〜0.5質量部を含有することを特徴とする、医薬用の組成物。
【化1】

化学式1
【請求項2】
前記化学式1に表される化合物が、化学式2に表される立体構造の異性体と化学式2に表される立体構造の異性体のRS・SRラセミ体であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬用の組成物。
【化2】

化学式2
【化3】

化学式3
【請求項3】
注射剤であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の医薬用の組成物。
【請求項4】
製剤における、前記化学式1に表される化合物の濃度が5〜10質量%の溶液形態であることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の医薬用の組成物。

【公開番号】特開2007−77060(P2007−77060A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266146(P2005−266146)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】