説明

注射用インテリジェントゲル及びその製造方法

【課題】薬物分子を覆った磁気感受性ナノカプセルの薬物キャリアゲルとなることもでき、外部の磁場、電場及び超音波等の非接接触力方式により、カプセルの破裂を制御して薬物を注射用インテリジェントゲル中に放出する際、長時間作用及び多段階性の薬物放出を行うことができる注射用インテリジェントゲル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の注射用インテリジェントゲル及びその製造方法によると、改質後のキトサンに塩基性構造安定剤及び希釈溶液を加え、キトサン溶液を中性に近づくよう調整して人体のpH値に近づけ、低温下で可流動状態のキトサンゾルを形成し、人体温度に戻ったとき不可流動のキトサンゲルを形成することができる。また、キトサン溶液中に高分子電解液を加えた後、カルシウムイオンまたは調整酸性溶液を加える方式で、可流動状態のキトサンゾルを不可流動のキトサンゲルに変化させることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注射用ゲル及びその製造方法に関するものであって、特に人体への注射に適用され、長時間作用及び段階性の放出効果を有する薬物キャリアの注射用インテリジェントゲル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般の注射用ゲル(例えば、ヒアルロン酸)は価格が非常に高く、応用上一定の制限があり、保湿及び美容手術の充填物を主としている。医用生体工学においては、キトサン(キチン)をゲルにしたものは既にあるが、単なる注射用に過ぎず、主な用途は細胞を運搬する骨修復材或いは人体の潤滑剤として用いられる。
【0003】
キトサンはキチンがもととなっており、キトサンの溶解性がキチンの応用範囲を広げている。このように、近年では、キトサンを基質とした生物医用材料が次第に注目されており、多くの製品が研究開発されている。しかし、キトサンは水に溶けにくく、吸水性も悪いため、pH値が中性に近づく環境では沈殿し、固体ヒドロゲルを形成せず、生物医学の応用においてより制限を受ける。現在、注射用のキトサンを薬物キャリアとする研究は少なく、全て未改質のキトサン材料に関するもののみで、特性の更なる進歩は見られず、薬物放出の制御性を付与することができない。つまり、即時性の病状に対して最も適時性の高い抑制と制御を与えることができないのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の問題を顧みて、本発明の主な目的は注射用インテリジェントゲル及びその製造方法を提供することである。改質後のキトサンは熱に敏感である特性を有し、低温下で注射でき、温度が再び上昇した後人体中で固化するキトサンゲルを形成し、薬物分子を覆う磁気感受性ナノカプセルを結合し、非接触力式の外部磁場、電場、超音波刺激で内部で覆われた薬物分子の放出を制御し、即時的な放出制御を掌握できるだけでなく、患者の生活に大きな利便性をもたらすことができる。
【0005】
本発明のもう1つの目的において提供する注射用インテリジェントゲル及びその製造方法は、例えばアルギン酸塩の高分子電解液を利用して改質後のキトサンは可流動状態のキトサンゾルを形成し、カルシウムイオン或いは調整酸性溶液を加えた後固化のキトサンゲルに変化し、注射可能となり、薬物を覆う磁気感受性ナノカプセルを結合し、非接触力式の外部磁場、電場、超音波刺激で内部で覆われた薬物分子の放出を制御し、即時的な放出制御を掌握できるだけでなく、患者の生活に大きな便利性をもたらすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明が提供する注射用インテリジェントゲル及びその製造方法は、疎水性或いは親・疎水性両性改質を経た0.1〜10%(w/v)のキトサン溶液を提供し、4〜20℃の低温下でキトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の塩基性構造安定剤と80〜99.5%(w/v)の希釈溶液を加え、pH値を調整し、中性に近いキトサンゾルを形成し、キトサンゾルの温度が低温から30〜40℃に再び上昇した時、固状のキトサンゲルを形成するステップを含む。
【0007】
本発明に基づき製造した注射用インテリジェントゲルは、そのpH値を人体に近い値にまで調整し、温度に敏感であるため注射可能になる特性を実現し、低温では可流動状態のキトサンゾルになり、温度が再び上昇したら不可流動状態のキトサンゲルになることができる。注射用インテリジェントゲルを生成後、簡単な攪拌によって薬物を覆う磁気感受性ナノカプセルを混合し、非接触力制御によって長時間作用及び段階性の薬物放出を可能にする医療素子が得られる。他にも、注射用インテリジェントゲルは手術の必要無く人体内に放置することができ、生物分解可能なので、旧式の生物医療素子のような手術で取り出すときの二次傷害を回避できる。このため、医用生体工学、慢性疾患、美容充填物等の分野で極めて利用性が高い。
【0008】
また、本発明が提供する注射用インテリジェントゲル及びその製造方法は、疎水性或いは親・疎水性両性改質を経た0.1〜10%(w/v)のキトサン溶液を提供し、キトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の高分子電解液及び80〜99.5%(w/v)の希釈溶液を加え、pH値を調整し、中性に近いのキトサンゾルを形成し、続いて、キトサン溶液中にカルシウムイオン(Ca2+)或いは調整酸性溶液を加え、固状のキトサンゲルを形成するステップを含む。この製造によって生成した注射用インテリジェントゲルはキトサン/アルギン酸塩のそれぞれの混合後、即時にゲル状態を形成し、注射可能な特性を有するだけでなく、更に進んで薬物を覆う磁気感受性ナノカプセルと結合し、非接触力によって長時間且つ段階性の薬物放出を行う。インテリジェントゲルの機械的性質(storage modulus)と筋肉のサイズは近く、且つ筋肉組織間との相互適合性は比較的優れており、人体の移動或いは行動パターンによりナノゲル構造の損傷が生じるとき、自己治癒によってもともとの薬物放出メカニズムを保持でき、人体活動の影響を受け難い。このため、医用生体工学、慢性疾患、美容充填物等の分野で広く応用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に基づき製造した注射用インテリジェントゲルは、注射可能な特性以外に、キトサンは特殊な改質を経て、従来のキトサンゲルよりも優れた保水性を有する。また、本発明は注射用インテリジェントゲル中に磁気感受性ナノカプセルを加えることで、薬物の作用を保存する。ナノ粒子或いは薬物分子が人体組織中に固定される以外にも、非接触式の外部磁場、電場、超音波刺激により、内部で覆われた薬物分子を制御して長時間作用及び多段階式の薬物放出を行う。本発明の特性は、慢性疾患の治療に用いることができ、口服、皮下注射、筋肉注射、直腸注射、或いは腹膜注射方式による投薬を可能にする。
【0010】
他にも、注射用インテリジェントゲルは手術の必要無く人体内に放置することができ、生物分解可能で、この特性は生物の体内でその分解速度を自然或いは外部により制御することができ、旧式の生物医療素子のような手術で取り出すときの二次傷害を回避できる。このため、医用生体工学、慢性疾患、美容充填物等の分野で極めて利用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が提供する注射用インテリジェントゲルの製造方法のフローチャートである。
【図2】本発明が提供するもう1種類の注射用インテリジェントゲルの製造方法のフローチャートである。
【図3】本発明が提供する注射用インテリジェントゲルの段階性の磁場刺激下における薬物放出の紫外−可分光器計測結果であり、40.1キロヘルツ(kHz)の磁場強度の下での、反復切換(on−off)反応パターンである。
【図4】本発明が提供する注射用インテリジェントゲルの流動特性図である。
【図5】本願の参考写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の目的、特徴、その他の効果の更なる理解のために、以下に図面を参照しながら詳しく説明する。
【0013】
図1は本発明が提供する注射用インテリジェントゲルの製造方法のフローチャートである。
【0014】
まず、ステップS100では、疎水性或いは親・疎水性両性改質を経た0.1〜10%(w/v)のキトサン溶液を提供する。本発明中では、除去分子量50kDa〜250kDa、脱アセチル化95%のキトサン粉末を使用し、ハロ酢酸類を用いて親水性改質を行い、炭素数2〜12の長炭素鎖の酸無水物を用いて疎水性改質を行う。ハロ酢酸類は例えばクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、或いはブロモクロロ酢酸である。酸無水物は例えば無水酢酸或いはヘキサン酸無水物である。改質したキトサン溶液は負電荷ゼタ電位(negative charge zeta potential)、生物分解性及び自己組織化(self−assemble)によりミセルを形成する能力を有する。
【0015】
そしてステップS200では、4〜20℃の低温下でキトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の塩基性構造安定剤(basic structural stabilizer)を加える。その塩基性構造安定剤は例えばゲニピン(genipin)、β-グリセロリン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)或いはその組合せの中の1つである。このステップでは、キトサン溶液の溶剤は、水或いは水と油類の混合物から組成でき、80〜99.5%(w/v)の希釈溶液中に1〜20%の有機溶剤(油類)を加える。油類は例えばジメチル・スルホキシド(DMSO)、アルコール(alcohol)、グリコール(glycol)、或いはグリセリン(glycerin)である。
【0016】
上述の比率に基づいて、pH値を5〜9の範囲に調整し、人体に近いpH値の注射用インテリジェントゲルを生成できる。温度感知が4〜20℃の低温時は、注射用インテリジェントゲルは可流動状態のキトサンゾル(sol)になり、注射可能な特性を得られる。キトサンゾルが低温から30〜40℃の人体体温近い温度に戻ったとき、不可流動状態(固状)のキトサンゲル(gel)になる。
【0017】
また、図2は本発明が提供するもう1種類の注射用インテリジェントゲルの製造方法のフローチャートである。
【0018】
ステップS100の後、S300ではキトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の高分子電解液を加える。高分子電解液は例えばアルギン酸塩である。上述の高分子電解液は負電荷ゼタ電位をもたらすとともに可分解性を有し、中性環境の下で溶解し、キトサン溶液と混合するとき固体コロイド或いは沈殿を形成しない。このステップでは、キトサン溶液の溶剤は、水或いは水と油類の混合物から組成でき、80〜99.5%(w/v)の希釈溶液中に1〜20%の有機溶剤(油類)を加える。油類は例えばジメチル・スルホキシド(DMSO)、アルコール(alcohol)、グリコール(glycol)、或いはグリセリン(glycerin)である。前述の比率に基づいて、pH値を5〜9の範囲に調整し、人体に近いpH値の注射用インテリジェントゲルを生成できる。このとき、注射用インテリジェントゲルは可流動状態のキトサンゾルになり、注射可能な特性を得られる。
【0019】
ステップS400では、キトサン溶液中にカルシウムイオン(Ca2+)或いは調整酸性溶液を加え、キトサンゲルゾルは不可流動体(固状)のキトサンゲル(gel)に変化する。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の注射用インテリジェントゲルの製造方法の具体実施例の詳細を説明する。
【0021】
まず、親・疎水性の両性改質をしたキトサン(Amphiphilic Chitosan,CHC)粉末を合成する。そのステップは以下のとおりである。
1. 1000mlの三角フラスコに20gのキトサン(chitosan)を入れ、200mlのイソプロパノール(Isopropanol)を加えて30分間攪拌すると、上澄み液ができる。
2. 次に、5分ごとに5ml13.3Nの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を加え、合計10回50mlを加える。
3. 30分間攪拌した後、100gのクロロ酸を5等分に分け5分以内にフラスコに加えるが、このとき加える速度が速すぎてクロロ酸の溶解が不完全にならないよう気をつける。
4. 油浴を60℃まで加熱する。4時間反応させた後、吸気濾過方式で生成物を収集し、水とメチルアルコール(体積比1:9)で生成物を濾過しながら洗浄する。
5. 続けて、60℃のオーブン内で1日加熱乾燥させる。生成物は白色又は黄色がかった帯淡黄色のN.O-カルボキシメチルキトサン(N.O−carboxymethyl chitosan,NOCC)であり、水に溶ける。
6. 4gのNOCCを250mlの反応フラスコに取り、100mlの純水を添加し1日間完全に攪拌溶解させる。
7. 50mlのメチルアルコールを加え均一に混合した後、さらに2.8mlのヘキサン酸無水物(Hexanoyl anhydride)を加え24時間反応させる。
8. 反応が終わった溶液を透析袋によって収集し、まず水とアルコール(1:4)で1日透析を行い、純アルコールを用いて2日間透析を行い酸及びイオンを除去する。
9. 生成物を収集した後、60℃で1日加熱乾燥させる。生成物は両性改質したキトサン粉末(6C)である。
【0022】
製造した注射用インテリジェントゲルは、ここでは(a)両性改質したキトサン(CHC)及び(b)CHC/アルギン酸塩ゲルを例として挙げる。
【0023】
(a)CHCゲル。本実施例ではβ-グリセロリン酸ナトリウムの電気陰性度及びpH値が塩基性に近づく特性を利用して、注射用インテリジェントゲルを中性に調整し、人体のpH値7.4付近に合わせることができ、β-グリセロリン酸ナトリウムは余分な水酸基(−OH)を有しキトサンとともに水素結合安定ゲル構造を形成する。他にも、β-グリセロリン酸ナトリウム或いはゲニピン(genipin)等の架橋剤は、体温下では親・疎水性の両性改質したキトサン高分子と架橋を進め、キトサンゲルは含水溶液中にある状況でも水分子の浸入のせいでゲル構造が徐々に緩むようなことはなく、長時間含水溶液中にある状況でも良好な物理性質を維持できる。その製造ステップは以下のとおりである。
【0024】
1. 0.5〜3gのCHC粉末を取って100mlの脱イオン水(DI−water)、リン酸緩衝液(phosphate buffer solution,PBS)、或いは擬似体液(simulated body fluid,SBF)中に溶解させ、0.5〜3%(w/v)のCHC溶液を製造する。
2. CHC溶液中にグリセロール(glycerol)を加え、0〜10%(w/v)のグリセロールを含有するCHC溶液を製造する。
3. 4℃で、既に調合した10mlCHC/グリセロール溶液中に0.1〜1gのβ-グリセロリン酸ナトリウム(β−glycerophasphate)を加え、β-グリセロリン酸ナトリウムを1〜10%(w/v)含有するCHC/グリセロール溶液を製造し、pH値を6.5〜7.4に調整する。このCHC/グリセロール/β-グリセロリン酸ナトリウムの混合液は低温(4〜20℃)下では可流動のゾル(sol)になり、温度が上昇(30〜40℃)すると不可流動のゲル(gel)に変化する。
(b)CHC/アルギン酸塩ゲル。製造ステップを以下に説明する。
1. 2〜4gのアルギン酸ナトリウム(sodium alginate)を取ってそれぞれ100mlの純水に溶解させる。
2. 2gのCHC粉末を100mlの純水中に溶解させ、2%(w/v)のCHC溶液を製造する。
3. 10ml2%のCHC溶液に100ulpH=11のNaOH溶液を加え、CHC溶液のpH値をほぼ塩基性(pH=8.5)に調整する。
4. 10ml2%、3%、4%のアルギン酸ナトリウム溶液にそれぞれ1mlのグリセロールを加える。
5. CHCとアルギン酸ナトリウム溶液はそれぞれの比率(1:1、1:2)で溶液を混合する。
6. 溶液中にカルシウムイオン(Ca2+)を加えるか酸性環境に調整し、不可流動のゲルを形成する。
【0025】
上述の注射用インテリジェントゲルの製造完成後、更に進んで薬物分子を覆う磁気感受性ナノカプセル(nanocapsule)を結合でき、磁場、電場、超音波を利用して薬物放出を制御する特性が得られる。以下に上述のCHCゲルを例としてそのステップを詳細に説明する。
【0026】
まず、磁気感受性シリカ殻層ナノカプセルを作製する必要がある。酸化鉄ナノ粒子及び薬物をジクロロメタンに溶かし、マイクロエマルション法を用いて油相のジクロロメタン(dichloromethane)溶液と水相のポリビニル・アルコール(Polyvinyl Alcohol)水溶液を混合する。ポリビニル・アルコールは一種の界面活性剤であり、超音波振動を180秒行った後、水中油ナノミセルを形成する。そしてテトラエトキシラン(tetraethoxysilane,TEOS)を加え、ゾル・ゲル法によって、含酸化鉄のナノミセルをシリカを用いて加水分解縮合し、或いは酸性環境下で負電荷ゼタ電位キチンを使用して覆い、シリカ・キチン外殻或いはシリカ‐キチン混合の外殻を形成し、コア内は酸化鉄とポリビニル・アルコールの複合構造の磁気感受性ナノカプセルであり、その直径は約50〜200ナノメートル(nm)である。薬物分子は抗癌剤(anti−cancer drugs)、ペプチド(peptides)、或いはたんぱく質(proteins)でもよい。
【0027】
簡単な機械式攪拌を経て、製造した磁気感受性ナノカプセルを計量してキトサンゾル中に加え、均一に混ぜ合わせた後低温(4〜20℃)でpH値を調整し、本来酸性に近かった改質キトサンゾルを人体に近い値に中和し、注射用インテリジェントゲルの人体に対する適合性を高め、37℃のときは液体のゾルからゲルに変化し、人体に注入後中性固体ゲルを形成する目的を達成する。尚且つ、外部の磁場を利用して磁気感受性ナノカプセルが薬物を注射用インテリジェントゲル中に放出するのを制御し、薬物はゲル中で継続して人体に放出され、段階性制御で長時間作用する薬物放出の特性が得られる。
【0028】
続けて、本発明は注射用インテリジェントゲルの薬物放出特性を検証し、将来の応用を検討するために、これを薬物キャリアとして動物の体内に注入することができ、薬物放出の制御効果を達成できる。故に、癲癇の治療モデルとして、実験中では、癲癇発作をコントロールするエトスクシミド(ethosuximide,ESM)の小分子薬物を覆うことにする。この薬物分子はまず磁気感受性ナノカプセルを合成する過程の油相ジクロロメタン(dichloromethane)の中に溶かし、水相を利用して油相を覆ったとき、薬物を酸化鉄ナノ粒子内に取り込み、磁気感受性ナノカプセルを製作する。また紫外−可分光器を用いて、小分子薬物の放出実験を行う。その実験過程は以下のとおりである。
【0029】
薬物のイオン水中の吸収波長の強度を計測し、放出薬剤量を決定する。その中のエトスクシミドの吸収波長は258nmであり、設定条件は自然下で2mlの注射用インテリジェントゲルを15mlの遠心分離管に入れ、また8mlの脱イオン水中にも入れ、それぞれ実験を進める。毎回35分ごとに交流磁場刺激を与え、まだ磁場作用を与えない状況下の薬物の放出速度と、段階性の磁場刺激を与えた状況下での薬物放出の計測結果は図3に示す。そこからわかるのは、注射用インテリジェントゲルは制御性を具えた薬物放出素子として、磁場の制御下で包まれた薬物分子を注射用インテリジェントゲル中に放出することができ、注射用インテリジェントゲルによって緩慢な放出を可能にする。この効果においては、各種薬物及び多方面分野に応用できる。
【0030】
インテリジェントゲル上にせん断力(strain)が加えられ、変形が生じた後、自己復元するという状況を理解するため、続けて図4を参照されたい。G’はゲルの凝固特性を表し、G”はゲルの流動特性を表す。G’がG”より大きいとき、インテリジェントゲルは凝固ゲルになる。しかし、インテリジェントゲルに対して十分な大きさのせん断力(変形力)がかけられ他時、インテリジェントゲルは流動性を有するようになるゾルゲル変化を起こし、このときG’はG”よりちいさくなるため、可塑性の性質を有することになる。
【0031】
図5は注射用インテリジェントゲルの自己治癒のサンプル実例の写真である。(A)は2つの分離した注射用インテリジェントゲルであり、この2つのゲルが相互接合する場合、(B)、(C)が示すように、即時に接合する。言い換えれば、本発明のインテリジェントゲルは専門家によって外力を加えられることで希望の形状に復元される、或いは別にこのゲルを添加することで必要な体積に達する。添加するゲルはもとのゲルと完全な結合を成すことができるので、自己修復の機能を有する。
【0032】
本発明は前述の実施例をもって上記のように開示したが、それは本発明を限定するものではない。本発明の精神から離れない範囲で加えた変更や潤色は全て、本発明の特許保護範囲内に属するものとする。本発明の定める保護範囲は、本願に付する特許請求の範囲を参考にされたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射用インテリジェントゲルの製造方法であって、
疎水性或いは親・疎水性両性改質を経た0.1〜10%(w/v)のキトサン溶液を提供するステップと、
4〜20℃の低温下で前記キトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の塩基性構造安定剤(basic structural stabilizer)及び80〜99.5%(w/v)の希釈溶液を加え、pH値を5〜9に調整し、中性に近いキトサンゾル(sol)を形成し、前記キトサンゾルの温度が低温から30〜40℃に再び上昇した時、固状のキトサンゲル(gel)を形成するステップと、
を含むことを特徴とする注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項2】
前記pH値を調整するステップ中で、さらに水或いは水と油類の混合物を溶剤として加え、前記油類はジメチル・スルホキシド(DMSO)、アルコール(alcohol)、グリコール(glycol)、或いはグリセリン(glycerin)であることを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項3】
前記塩基性構造安定剤はゲニピン(genipin)、β-グリセロリン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)或いはその組合せの中の1つであることを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項4】
前期キトサン溶液は、除去分子量50kDa〜250kDa、脱アセチル化95%のキトサン粉末で生成することを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項5】
前記キトサン溶液はハロ酢酸類を用いて親水性改質を行い、前記ハロ酢酸類はクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、或いはブロモクロロ酢酸であることを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項6】
前記キトサン溶液は炭素数2〜12の長炭素鎖の酸無水物を用いて疎水性改質を行い、前記酸無水物は無水酢酸或いはヘキサン酸無水物であることを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項7】
前記キトサンゾルを形成する前記ステップの後、前記キトサンゾルと薬物分子を覆う磁気感受性ナノカプセル(nanocapsule)を混合するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項8】
前記磁気感受性ナノカプセルは酸化鉄のコアで前記薬物分子を覆い、前記コアの外層にコーティングを施して外殻とし、前記外殻はシリカ或いキチンであり、前記コアは酸化鉄とポリビニル・アルコールの複合構造であり、前記薬物分子は抗癌剤(anti−cancer drugs)、ペプチド(peptides)、或いはたんぱく質(proteins)であることを特徴とする、請求項7に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項9】
前記磁気感受性ナノカプセルの直径は50〜200ナノメートル(nm)であることを特徴とする、請求項7に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載された方法で製造した注射用インテリジェントゲル。
【請求項11】
注射用インテリジェントゲルの製造方法であって、
疎水性或いは親・疎水性両性改質を経た0.1〜10%(w/v)のキトサン溶液を提供するステップと、
前記キトサン溶液中に0.1〜10%(w/v)の高分子電解液及び80〜99.5%(w/v)の希釈溶液を加え、pH値を5〜9に調整し、中性に近いのキトサンゾル(sol)を形成するステップと、
前記キトサン溶液中にカルシウムイオン(Ca2+)或いは調整酸性溶液を加え、固状のキトサンゲル(gel)を形成するステップと、
を含むことを特徴とする注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項12】
前記高分子電解液がアルギン酸塩であることを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項13】
前記pH値を調整するステップ中で、さらに水或いは水と油類の混合物を溶剤として加え、前記油類はジメチル・スルホキシド(DMSO)、アルコール(alcohol)、グリコール(glycol)、或いはグリセリン(glycerin)であることを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項14】
前期キトサン溶液は、除去分子量50kDa〜250kDa、脱アセチル化95%のキトサン粉末で生成することを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項15】
前記キトサン溶液はハロ酢酸類を用いて親水性改質を行い、前記ハロ酢酸類はクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、或いはブロモクロロ酢酸であることを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項16】
前記キトサン溶液は炭素数2〜12の長炭素鎖の酸無水物を用いて疎水性改質を行い、前記酸無水物は無水酢酸或いはヘキサン酸無水物であることを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項17】
前記キトサンゾルを形成する前記ステップの後、前記キトサンゾルと薬物分子を覆う磁気感受性ナノカプセル(nanocapsule)を混合するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項18】
前記磁気感受性ナノカプセルは酸化鉄のコアで前記薬物分子を覆い、前記コアの外層にコーティングを施して外殻とし、前記外殻はシリカ或いはキチンであり、前記コアは酸化鉄とポリビニル・アルコールの複合構造であり、前記薬物分子は抗癌剤(anti−cancer drugs)、ペプチド(peptides)、或いはたんぱく質(proteins)であることを特徴とする、請求項17に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項19】
前記磁気感受性ナノカプセルの直径は50〜200ナノメートル(nm)であることを特徴とする、請求項17に記載の注射用インテリジェントゲルの製造方法。
【請求項20】
請求項11に記載された方法で製造した注射用インテリジェントゲル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−56936(P2012−56936A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81575(P2011−81575)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(598139748)國立交通大學 (92)
【Fターム(参考)】