説明

注射用生体材料

組織修復および回復のためのトロポエラスチンから形成される注射用生体材料組成物。組成物は、注射を可能にする流動性を有する物質を提供するのに有効な量にて、多糖または多糖誘導体の形態である癒着制御薬剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロポエラスチンに関し、生体材料を用いた組織修復および回復に関する。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、機能についてある程度の弾性を必要とする皮膚、血管、肺および他の組織および臓器に主に見られる細胞外マトリックスタンパク質である。トロポエラスチン分子上のリジン残基が他のトロポエラスチン分子上のリジン残基と架橋する場合に古典的に形成され、多かれ少なかれ水溶液に不溶性である塊を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エラスチン、トロポエラスチンおよび関連するタンパク質は、組織修復および回復などの医学的適用に有用であると予想され、注射により組織に投与することができる高固体含有量の当該タンパク質を有する組成物について特に必要性がある。生体材料から形成される微粒子は国際公開公報WO99/11196および国際公開公報WO2008/058323に言及されているが、高固体含有量の当該タンパク質と、注射による組織送達を可能にするのに十分な流動性とを有し、より小さな微粒子構造を有する組成物は知られていない。一つの課題は、高固体含有量では、トロポエラスチンは臨床および化粧品用途に用いられる可変ゲージの針により送達することができない塊を形成することである。
【0004】
高固体含有量のトロポエラスチンまたは他の弾性材料と、組成物を注射により組織に送達することを可能にする流動性とを有する組成物についての必要性がある。
【0005】
本明細書における先行文献の参照は、この先行技術がオーストラリアまたは他の任意の管轄における一般常識の一部を形成するとか、あるいは、この先行技術が当業者により関連するものと確かめられ、理解され、みなされるものと合理的に予期しうるとかという認識または示唆のいずれの形態としても取られないし、取るべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの具体的態様にて、トロポエラスチンから形成される注射用組成物であって、組成物がトロポエラスチン含有物質を含み、該物質がさらに、組成物の注射を可能にする流動性を有する物質を提供するのに有効な量の薬剤を含む、組成物を提供する。トロポエラスチン含有物質は微粒子または非微粒子であってよい。
【0007】
いくつかの具体的態様にて、トロポエラスチンから形成される複数の微粒子を含む液相を含み、液相が、微粒子の癒着を軽減するのに有効な量の溶解した癒着制御薬剤を有する、組織欠損を修正するための注射用組成物が提供される。
【0008】
いくつかの具体的態様にて、溶解した癒着制御薬剤を有する液相中にてトロポエラスチンをコアセルべート化またはポリマー化する工程を含む、トロポエラスチンから形成される微粒子を製造する方法が提供される。
【0009】
本明細書において、文脈がそうでないとする場合を除き、用語「含む(comprise)」、および「含む(comprising)」、「含む(comprises)」および「含む(comprised)」などの該用語の改変は、さらなる添加物、薬剤、整数または工程を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】Figure 1A:トロポエラスチンの2 mg/mL溶液をアルカリで処理した後(実施例1)、37℃にて4時間インキュベーションすることにより製造した、1μmの推定直径を有するトロポエラスチンから形成される微粒子のSEMイメージ。
【0011】
【図1B】Figure 1B:トロポエラスチンの10 mg/ml溶液をアルカリで処理した後、実施例2に記載の癒着制御薬剤の非存在下37℃にてインキュベーションした場合に生成される弾性材料塊のイメージ。生成された材料は、注射に適さない高密度の弾性塊である。
【0012】
【図2】Figure 2:トロポエラスチンの50 mg/mL溶液を1% (w/v) CMCの存在下0.05% (v/v)グルタルアルデヒドで処理した後、37℃にて24時間インキュベーションすることにより製造したトロポエラスチンから形成される小球のSEMイメージ。
【0013】
【図3】Figure 3:トロポエラスチンの50 mg/ml溶液を1% (w/v)中粘性HAの存在下0.05% (v/v)グルタルアルデヒドで処理した後、37℃にて16時間インキュベーションすることにより製造したトロポエラスチンから形成される癒着した小球のSEMイメージ。
【0014】
【図4A】Figure 4A:10 mg/mLトロポエラスチン溶液を1% (w/v) HAの存在下塩基で処理した後、37℃にて終夜インキュベーションすることにより製造した約1〜4μmの見掛け直径範囲のトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0015】
【図4B】Figure 4B:25 mg/mLトロポエラスチン溶液を1% (w/v) HAの存在下塩基で処理した後、37℃にて終夜インキュベーションすることにより製造した約1〜4μmの見掛け直径範囲のトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0016】
【図4C】Figure 4C:50 mg/mLトロポエラスチン溶液を1% (w/v) HAの存在下塩基で処理した後、37℃にて終夜インキュベーションすることにより製造した約1〜10μmの見掛け直径範囲のトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0017】
【図4D】Figure 4D:75 mg/mLトロポエラスチン溶液を1% (w/v) HAの存在下塩基で処理した後、37℃にて終夜インキュベーションすることにより製造した約0.5〜20μmの見掛け直径範囲のトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0018】
【図5】Figure 5:(○) 10 mg/mLトロポエラスチン;(●) 25 mg/mLトロポエラスチン;(□) 50 mg/mLトロポエラスチン;および(■) 75 mg/mLトロポエラスチンを1 % (w/v) HAの存在下アルカリで処理した後、37℃にて終夜インキュベーションすることにより製造した小球(小球直径(μm) vs.カウントされた小球の百分率)のサイズ分布。Figures 4A-4DのSEMイメージからデータを得る。
【0019】
【図6】Figure 6Aおよび6B:100 mg/mLトロポエラスチン溶液を1 % (w/v) CMCの存在下0.05% (v/v) GAで処理した後、37℃にて4時間撹拌することにより製造した可変サイズのトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0020】
【図7】Figure 7Aおよび7B:100 mg/mLトロポエラスチン溶液を1 % (w/v) CMCの存在下アルカリで処理した後、37℃にて4時間インキュベーションすることにより製造したトロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。Figure 7Cおよび7D:100 mg/mLトロポエラスチン溶液を1 % (w/v) CMCの存在下アルカリで処理した後、37℃にて4時間撹拌しながらインキュベーションすることにより製造し、4℃にて16時間冷蔵した後1 M HClで溶液を中和した、トロポエラスチンから形成される癒着した小球から作られた材料のSEMイメージ。
【0021】
【図8】Figure 8Aおよび8B:100 mg/mLトロポエラスチン溶液を1.5% (w/v) キサンタンゴムの存在下0.05% (v/v) GAで処理した後、37℃にて4時間撹拌することにより作られた材料のSEMイメージ。
【0022】
【図9】Figure 9Aおよび9B:100 mg/mLトロポエラスチン溶液を2% (w/v) HPCの存在下0.05% (v/v) GAで処理した後、37℃にて4時間撹拌することにより作られた材料の写真およびSEMイメージ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、トロポエラスチンがコアセルベート化され、架橋されてエラスチンを形成し、および/またはアルカリポリマー化されて高固体含有量のトロポエラスチンにて弾性材料を形成する場合(引用により本明細書にそのまま組み込まれる国際公開公報WO 2008/058323のように)、外科針を通過することができない塊が形成されることを見いだした。本発明者らは、高固体含有量では、トロポエラスチンモノマーが微粒子または小球に凝集または癒着し、さらにこれが凝集または癒着して注射不可能な塊を形成するため、注射不可能な塊が形成されることを見いだした。本発明者らはさらに、高固体含有量のトロポエラスチンにおける注射不可能な塊の形成は、避けられないならば、癒着制御薬剤の存在下トロポエラスチンをコアセルベート化またはポリマー化することにより減少し、高固体含有量と注射用組成物に必要な流動性とを有する組成物の形成をもたらすことができることを見いだした。さらに、相対量のトロポエラスチンおよび癒着制御薬剤を調節することにより、小球の凝集の程度を制御することができ、従って、注射用途のための所望の流動性を有する所定のサイズまたは構造の凝集した小球の形態にて物質を含むトロポエラスチンを製造することができることを見いだした。注射可能であるが、微粒子または球状構造を実質的に持っていない塊の形態にて物質を含むトロポエラスチンを製造することもできる。この場合、注射可能な物質は、ばらばらの粒子または小球としてよりも変形可能な塊としてうまく記載することができる。これは、架橋またはアルカリポリマー化トロポエラスチンから通常形成される塊は容易に注射することができないので、注目に値する。これらの具体的態様は、臨床または化粧品用途が適用部位に注射することができる移植組織を必要とする場合に特に有利である。
【0024】
I 定義
「トロポエラスチン」が通常リシルオキシダーゼによりリジン残基にて架橋されてエラスチンを形成することができるタンパク質分子に由来する疎水性ドメインの少なくとも一部を含むタンパク質を意味することは理解されよう。トロポエラスチンの多くのイソフォームが知られている(例えば引用により本明細書にそのまま組み込まれる国際公開公報WO 99/03886を参照)。トロポエラスチンは通常、合成直後に架橋されて多かれ少なかれエラスチンを形成する傾向にあるため、組織中に任意の有意な量にて見いだすことができない。トロポエラスチンはGenBankエントリーAAC98394にて示されるエントリーと同一の配列を有することができる。他のトロポエラスチン配列は当分野にて知られており、CAA33627 (Homo sapiens)、P15502 {Homo sapiens)、AAA42271 (Rattus norvegicus)、AAA42272 (Rattus norvegicus)、AAA42268 {Rattus norvegicus)、AAA42269 {Rattus norvegicus)、AAA80155 (Mus musculus)、AAA49082 (Gallus gallus)、P04985 {Bos taurus)、ABF82224 (Danio rerio)、ABF82222 {Xenopus tropicalis)、P11547 (Ovis aries)が挙げられるが、これらに限定されない。トロポエラスチンはまた、これらの配列のフラグメントであってもよい。例は、AAC98394の27〜724のアミノ酸である。トロポエラスチンの別の例は、UniProtKB/Swiss ProtエントリーP15502により記載される。用語トロポエラスチンはまた、ペプチドまたは「ELP」のようなエラスチンをも意味するものである。トロポエラスチンは天然または組換えであってよい。例えば、トロポエラスチンは、例えば引用により本明細書にそのまま組み込まれる国際公開公報WO 00/04043および国際公開公報WO 94/14958、および国際公開公報WO 99/03886に記載される組換え発現系、または固相ペプチド合成などのペプチド合成から得てもよい。
【0025】
「トロポエラスチン相同体」は、トロポエラスチン参照配列と同一ではないが類似している配列を有するタンパク質を意味する。これは参照配列と同一の機能も有する。
【0026】
「エラスチン」は、形成のための弾性を必要とする皮膚、血管、肺および他の組織および臓器に通常見られる細胞外マトリックスタンパク質を意味する。トロポエラスチン分子上のリジン残基が共有的に架橋されて、水溶液に多かれ少なかれ不溶性である塊を形成する場合に形成される。インビボにおけるトロポエラスチン分子の架橋は、古典的に1以上のリシルオキシダーゼにより起こる。トロポエラスチン分子の架橋は、グルタルアルデヒドまたはヘキサメチレンジイソシアネートなどの化学的架橋剤またはタンパク質と反応することができる他の架橋剤によりインビトロにて媒介されてもよい。アミン反応性架橋剤の例としては、グルタル酸ジスクシンイミジル (DSG)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート (BS3)、中性条件下(pH 7)でのエチレングリコールジグリシジルエーテル (EGDE)、トリス-スクシンイミジルアミノトリアセテート (TSAT)、スベリン酸ジスクシンイミジル (DSS)およびβ-[トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィノ]プロピオン酸 (THPP)が挙げられる。カルボキシル反応性架橋剤の例としては、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩 (EDC)および酸性条件下(pH<4)でのエチレングリコールジグリシジルエーテル (EGDE)が挙げられる。トロポエラスチンは種々の形態にて提供することができるため、エラスチン自体はエラスチンの弾性特性に影響する種々の構造から構成されてよい。架橋の程度は、完全である必要はないが、トロポエラスチン分子における潜在的反応性部位のすべてが架橋されている。その代わり、トロポエラスチンは部分的にのみ架橋されていてもよい。
【0027】
「コアセルべーション」および「コアセルベート(coacervating)」は、一般に低温にて水溶液に可溶であるトロポエラスチンが、温度が生理学的範囲に上昇するにつれて凝集し、高密度の粘弾性相を形成する傾向にある工程を意味する。該工程は主に、トロポエラスチンの疎水性ドメイン間の相互作用に起因する。
【0028】
コアセルべーションは一般に、トロポエラスチンからのエラスチンの形成における共有結合的架橋の不可欠な前駆体であると理解される。
【0029】
「弾性材料」は、国際公開公報WO 2008/058323に記載されるように、トロポエラスチンの親水性ドメインに作用するアルカリポリマー化工程によりトロポエラスチンから形成される材料を意味し、該工程は伸縮性、伸張性、弾力性および反跳性である弾性特性を有する固体を形成する不可逆的工程である。弾性材料は、部分的にのみポリマー化されていてもよく;いくつかの具体的態様にて、ポリマー化反応は完全ではない。弾性材料は架橋されていようとなかろうと弾性特性を有し;それゆえ、弾性材料を形成するアルカリポリマー化工程は適宜化学的架橋工程も含んでもよい。
【0030】
「トロポエラスチンから形成される小球」または「トロポエラスチンから形成される微粒子」は、「エラスチン」および「弾性材料」のいずれかまたは両方を含むか、またはこれらからなる粒子を意味する。これらの粒子はさらに、癒着制御薬剤の非存在下にて注射不可能な塊に癒着または凝集する傾向にある。
【0031】
「微粒子構造を実質的に持っていない注射用組成物」は、トロポエラスチンから形成される組成物であり、トロポエラスチンから形成される小球は、組成物の球状または微粒子構造がもはや明らかではないほどに癒着または凝集している。これにもかかわらず、該組成物は注射可能のままである。
【0032】
「癒着制御薬剤」は、一般に臨床または化粧品用途に用いられる内径または口径を有する針またはカニューレを通した正圧により一般に本発明の組成物を送ることができるように、トロポエラスチンから形成される粒子または小球の凝集、クランピング(clumping)または癒着を軽減し、阻害し、そうでなければ制御する化合物または抽出物を意味する。癒着制御薬剤は一般に、エラスチンまたは弾性材料を形成するためのトロポエラスチンのコアセルべーションまたはポリマー化が起こる液相の粘性を増大する。いくつかの具体的態様にて、癒着制御薬剤は、トロポエラスチンから形成される小球が互いにさらに癒着することを制限する。いくつかの具体的態様にて、癒着制御薬剤は、微粒子構造を実質的に持っていないトロポエラスチン含有物質が注射不可能固体を形成することを防ぎ、または阻害する。
【0033】
用語「癒着を軽減するのに有効な量」は、トロポエラスチンから形成される小球の癒着を阻害し、遅延し、遅らせ、または実質的に防ぐのに十分な癒着制御薬剤の量を意味する。すべての小球が他の小球との凝集または癒着を妨げられる必要はない。いくつかの具体的態様にて、該組成物が注射されることを実質的に妨げられないならば、小球のさらなる癒着が起こってもよいことが好ましい。特に、いくつかの具体的態様にて、癒着を防ぐのに有効な量は、微粒子または球状構造を実質的に持っていない注射用組成物を提供する。
【0034】
「注射用組成物」は、針またはカニューレを通って流動することができる特性を有する組成物を意味する。典型的には、針またはカニューレは、一般に臨床または化粧品用途にて用いられる内径または口径を有する。いくつかの具体的態様にて、該組成物は、16ゲージ(G)針に対応する内径約1.194 mmを有する針またはカニューレを通して、有意な障害なく、通過する。より好ましくは、該組成物は、21G針を容易に通過する。さらにより好ましくは、該組成物は、27G針を容易に通過する。
【0035】
用語「組織欠損」は、結果的に異常な組織構造および/または機能になる異常性、奇形または欠陥を意味する。組織欠損は、先天性症状(congential condition)、外科的処置、外傷、疾患または他の損傷が原因であるか、一般にこれらに関連してもよい。あるいは、組織欠損は老化に関連してもよい。例としては、組織弾性の欠乏、組織容積の欠乏、組織じわおよびたるみが挙げられる。「組織欠損」はまた、患者が不適切であり、増強したいと考える構造および機能の解剖学上および生理学上正常な範囲内にある組織をも意味することができる。
【0036】
「組織欠損を修正」は、組織を支持し、増強し、膨化し(bulking)または弾性を持たせ、あるいは組織欠損において組織成長を促進するなど、組織構造および/または機能を少なくとも部分的に回復し、および/または増強させることを意味する。
【0037】
用語「治療的有効量」は、組織欠損を変更しまたは修正するのに必要な注射用組成物の量を意味する。有効量は、注射用組成物の成分を吸収または分解する患者の能力、治療すべき病態の性質、治療部位、注射用組成物の組成、トロポエラスチンから形成される小球の濃度および特性、あるいは実質的に微粒子構造を欠乏したトロポエラスチン含有塊の量および性質に応じて変化してもよい。
【0038】
II 組成物および製剤
いくつかの具体的態様にて、組織欠損を修正するための注射用組成物であって、該組成物がトロポエラスチンから形成される多数の粒子または小球を含む液相を含み、該液相が小球の癒着を軽減するのに有効な量の溶解した癒着制御薬剤を有する、組成物を提供する。
【0039】
典型的に、トロポエラスチンから形成される小球の平均サイズは、0.1マイクロメーターから100マイクロメーターの範囲である。小球は球またはミクロスフェアの形態にて提供することができる。好ましいミクロスフェア直径範囲は一般に、約0.05μm〜50μm、好ましくは0.1μm〜25μmである。いくつかの具体的態様にて、小球は実質的に癒着して非微粒子の外観である組成物を提供する。
【0040】
トロポエラスチンは約1.5 mg/mL〜約400 mg/mLの量にて組成物中に含まれる。好ましくは、トロポエラスチンは約5 mg/mL〜約300 mg/mLの量にて含まれる。より好ましくは、トロポエラスチンは約10 mg/mL〜約200 mg/mLの量にて含まれる。
【0041】
本明細書に記載のとおり、各小球はトロポエラスチンから形成され、小球自体がエラスチン、弾性材料または両者を含むことができることを意味する。従って、小球は、共有的に架橋しているか、もしくは架橋していない、トロポエラスチンまたは両者から形成することができる。
【0042】
注射用組成物は典型的には、トロポエラスチンの濃度が約50 mg/mL以下である場合には、より大きな微粒子の外観を有しており、該組成物は別々の、またはより典型的には部分的に凝集または癒着した小球を有する。理論により制約されるものではないが、微粒子の外観は、より低濃度のトロポエラスチンにおける小球癒着または凝集レベルの減少に由来すると考えられる。
【0043】
他の具体的態様にて、組織欠損を修正するための注射用組成物が提供され、該組成物は、トロポエラスチンから形成される凝集小球、および小球の癒着を軽減するのに有効な量にて癒着制御薬剤を含む。
【0044】
注射用組成物は典型的には、トロポエラスチンの濃度が約50 mg/ml以上である場合には、より小さな微粒子を有する。また、理論により制約されるものではないが、トロポエラスチン濃度の増大により、小球癒着または凝集の増大が引き起こされ、微粒子または球状構造が減少した注射用組成物をもたらすと考えられる。
【0045】
本発明の組成物は典型的には、癒着制御薬剤、特に流動性を有するトロポエラスチン含有物質を提供するための薬剤を含む。
【0046】
癒着制御薬剤は一般に、生体適合性であり、例えば低毒性および非免疫原性を示してもよい。癒着制御薬剤は、合成、半合成または天然由来分子であってよい。
【0047】
ある具体的態様にて、癒着制御薬剤は液相に溶解した場合に正味負電荷を有する。別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は液相に溶解した場合に正味負電荷を有する官能基を含む。
【0048】
ある具体的態様にて、癒着制御薬剤は、例えばカルボキシレート、スルフェート、ホスフェートなどの強酸性官能基を含む。別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は、ヒドロキシル官能基を含む。癒着制御薬剤は複数のヒドロキシル官能基を有するポリオールであってよい。
【0049】
いくつかの具体的態様にて、癒着制御薬剤は多糖である。多糖は、グリコシド結合により一緒になった繰り返し単位(典型的には単糖または二糖)から形成される高分子炭水化物構造である。これらの構造は、線形であることが多いが、種々の程度の分岐を含んでいてもよい。多糖は、繰り返し単位のわずかな改変を含む、かなり不均一なものであることが多い。構造に応じて、これらの巨大分子は、そのオリゴ糖構成ブロックと異なる特性を持つことができる。
【0050】
好ましくは、多糖は負に帯電した官能基を含む。別の好ましい具体的態様にて、癒着制御薬剤はイズロン酸、グルクロン酸またはN-アセチルグルコサミン残基を含む多糖である。適切な多糖としては、例えばカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒアルロン酸、キサンタンゴム、グアーガム、β-グルカン、アルギン酸塩、カルボキシメチルデキストランおよびそれらの医薬的に許容される塩が挙げられる。あるいは、多糖は、線形および分岐多糖を含む、ペクチンまたはその誘導体であってよい。
【0051】
別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は、単糖またはオリゴ糖、例えば3'-N-アセチルノイラミニル-N-アセチルラクトサミン、3'-シアリル-N-アセチルラクトサミン、3'-N-アセチルノイラミニル-3-フコシルラクトース、6'-シアリル-N-アセチルラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、グルコース、ラクトース、マルトトリイトール(maltotritol)、スクロース、LS-四糖類bおよびそれらの医薬的に許容される塩およびそれらの医薬的に許容される塩である。他の癒着制御薬剤としては、スクシニル-β-シクロデキストリン、カルボキシメチル-β-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンなどのデキストリンおよびそれらの医薬的に許容される塩が挙げられる。
【0052】
多糖誘導体は、典型的に水素;アルキル;アリール;アルキルアリール;アリールアルキル;酸素、窒素、硫黄または燐原子を含む置換アルキルアリール;酸素、窒素、硫黄、燐、ハロゲン原子または金属イオンを含む置換アリールアルキル;酸素、窒素、硫黄;燐、ハロゲン原子または金属イオンを含む置換ヘテロ環からなる1以上の群を含む置換基またはさらなる側鎖を有する架橋または非架橋多糖を挙げることができるが、これらに限定されず;該置換されている基は、互いに直接結合しているか、またはエーテル、ケト、アミノ、オキシカルボニル、スルフェート、スルホキシド、カルボキサミド、アルキンおよびアルケンからなる群から選択されるメンバーにより分離されていてもよく;該置換基またはさらなる側鎖は、水素、ペプチド、アルデヒド、アミン、アリールアジド、ヒドラジド、マレイミド、スルフヒドリル、活性エステル、エステル、カルボキシレート、イミドエステル、ハロゲンまたはヒドロキシルなどの基で終わるが、これらに限定されない。いくつかの具体的態様にて、多糖誘導体としては、ジビニルスルホン(DVS)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,2,7,8-ジエポキシオクタン(DEO)または当業者に一般に知られている他の架橋剤など(これらに限定されない)の化学的架橋剤を用いて架橋された多糖が挙げられる。
【0053】
癒着制御薬剤はムチンなどの糖タンパク質であってよい。
【0054】
別の具体的態様にて、癒着制御薬剤はアミノ酸である。好ましくは、アミノ酸は酸性側鎖を有する。適切なアミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸およびそれらの医薬的に許容される塩が挙げられる。
【0055】
別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は脂質または脂肪酸エステルである。適切な脂肪酸エステルとしては、例えばリン脂質、ジパルミトイルホスファチジルコリド(dipalmitoyl phosphatidylcholide)およびモノオレイン酸グリセリルが挙げられる。脂肪酸エステルは、1以上の他の薬剤と併用してもよい。例えば、プロピレングリコールおよびリン脂質は互いに併用してもよい。
【0056】
別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は合成ポリマーである。そのようなポリマーとしては、例えばポリメタクリレート、ポリエチレングリコール、およびポリエチレングリコールサブユニットとの(ブロック)コポリマーが挙げられる。例えば、コポリマー ポロキサマー188およびポロキサマー407は癒着制御薬剤としての使用に適切であることができる。
【0057】
別の具体的態様にて、癒着制御薬剤は界面活性剤である。適切な界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウムおよびポリソルベートが挙げられる。
【0058】
好ましい癒着制御薬剤としては、パントテノール、ポリエチレングリコール、キサンタンゴム、グアーガム、ポリソルベート80、N-アセチルグルコサミンおよびそれらの医薬的に許容される塩が挙げられる。特に好ましい癒着制御薬剤はカルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、キサンタンゴム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースおよびそれらの医薬的に許容される塩である。
【0059】
典型的に、癒着制御薬剤が多糖である場合、薬剤は約0.01〜約10パーセント(w/v)の量にて組成物中に提供される。好ましくは、癒着制御薬剤が多糖である場合、薬剤は約0.5〜約3.5パーセント(w/v)の量にて提供される。
【0060】
癒着制御薬剤がカルボキシメチルセルロースまたはキサンタンゴムである場合、薬剤は約0.01〜10パーセント(w/v)の量にて提供することができる。好ましい具体的態様にて、癒着制御薬剤がカルボキシメチルセルロースまたはキサンタンゴムである場合、薬剤は0.5〜3.5パーセント(w/v)の量にて提供される。
【0061】
癒着制御薬剤がヒアルロン酸である場合、薬剤は約0.01〜10パーセント(w/v)の量にて提供することができる。好ましい具体的態様にて、癒着制御薬剤がヒアルロン酸である場合、薬剤は0.5〜3.5パーセント(w/v)の量にて提供される。
【0062】
癒着制御薬剤がPEGである場合、薬剤は約10〜約90パーセント(w/v)の量にて提供することができる。
【0063】
提供される癒着制御薬剤の有効量は、多くの因子、例えば癒着制御薬剤の特性、組成物中の他の成分の性質および組成物を形成するために用いられる方法に依存することが理解されよう。特に、癒着制御薬剤の有効量は、組成物中のトロポエラスチンの濃度に依存する。理論により制約されるものではないが、組成物中のトロポエラスチン濃度が増大するにつれて、癒着の防止に必要な癒着制御薬剤の量もまた増大すると考えられる。さらに、癒着制御薬剤の性質はその能力に影響し、癒着を制御する。
【0064】
従って、本発明は、トロポエラスチンおよび多糖癒着制御薬剤を含む組成物を提供し、トロポエラスチンと多糖の質量比は約0.05:1〜3000:1である。好ましくは、トロポエラスチンと多糖の比は約0.1:1〜約500:1である。より好ましくは、トロポエラスチンと多糖の比は約0.2:1〜約100:1である。
【0065】
具体的態様にて、本発明は、トロポエラスチンおよびカルボキシメチルセルロースを含む組成物を提供し、トロポエラスチンとカルボキシメチルセルロースの質量比は0.1:1〜約500:1である。いくつかの具体的態様にて、トロポエラスチンとカルボキシメチルセルロースの質量比は約0.2:1〜約100:1である。
【0066】
さらなる具体的態様にて、本発明は、トロポエラスチンおよびキサンタンゴムを含む組成物を提供し、トロポエラスチンとキサンタンゴムの質量比は0.1:1〜約500:1である。いくつかの具体的態様にて、トロポエラスチンとキサンタンゴムの質量比は約0.2:1〜約100:1である。
【0067】
さらなる具体的態様にて、本発明は、トロポエラスチンおよびヒアルロン酸を含む組成物を提供し、トロポエラスチンとヒアルロン酸の質量比は0.1:1〜約500:1である。いくつかの具体的態様にて、トロポエラスチンとヒアルロン酸の質量比は約0.2:1〜約100:1である。
【0068】
ある具体的態様にて、流動性を有するトロポエラスチン含有物質を提供するための薬剤は除外されるか、または該薬剤はPEGもしくはDMSOではない。
【0069】
他の具体的態様にて、本発明の組成物はまた、液相を含んでもよい。「液相」は一般に、注射に適した生物学的に許容される液体ビヒクルを意味することは理解されよう。典型的には、液相の溶媒は水である。好ましい液相としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの水溶液が挙げられる。液相としては、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸などの緩衝液を挙げることができる。別の具体的態様にて、液相は、液相のイオン強度を変化させるための少なくとも一つの薬剤を含む。
【0070】
本発明の組成物は、1以上のさらなる有効薬剤または活性薬剤を含んでもよい。さらなる薬剤は組織修復の刺激などの治療効果を提供することができる。あるいは、さらなる薬剤は、有害な組織応答を防止または制限することができる。さらに、さらなる薬剤は、注射用組成物の安定性または実行可能性に関与することができる。いくつかの具体的態様にて、他の化合物は、希釈剤、担体、賦形剤または同様の化合物として提供される。
【0071】
さらなる薬剤は、組成物の液相中に存在(溶解または懸濁)してもよい。あるいは、さらなる薬剤は、組成物の小球中に存在してもよい。
【0072】
ある具体的態様にて、抗生物質、成長促進剤、抗感染薬、防腐剤、血管形成化合物、抗癌剤、抗炎症剤、プロテアーゼ阻害剤などの薬剤が組成物中に含まれていてもよい。
【0073】
別の具体的態様にて、組織因子、サイトカイン、成長因子などの生物学的因子が組成物中に含まれていてもよい。特に好ましくは、創傷治癒、線維化および肉芽形成に関与する因子である。
【0074】
別の具体的態様にて、細胞、特に創傷治癒に関与する細胞が組成物中に含まれていてもよい。例としては、上皮細胞、線維芽細胞(fibrocyte)、線維芽細胞(fibroblast)、ケラチン生成細胞前駆体、ケラチン生成細胞、筋線維芽細胞、食細胞などが挙げられる。
【0075】
組成物は、組成物が適切な形態にて置かれた容器などの種々の方法にて包装されていてもよい。適切な容器は、当業者によく知られており、ボトル(プラスチックおよびガラス)、シリンジ、サシェ、アンプル、プラスチックバッグ、金属シリンダーなどの物質が挙げられる。容器はまた、パッケージ内容物への不注意なアクセスを防止するための不正開封防止部品を含んでいてもよい。さらに、容器は、容器の内容物を記載するラベルを有していてもよい。ラベルはまた、適切な警告を含んでいてもよい。
【0076】
III 製造方法
別の具体的態様にて、本発明は、溶解した癒着制御薬剤を有する液相中にてトロポエラスチンをコアセルベート化またはポリマー化させる工程を含む、トロポエラスチンから形成される組成物を製造する方法を提供する。
【0077】
本方法の重要な利点は、製造された組成物をさらなる操作または処理工程なしで注射することができることである。これは、本発明の特徴的な側面である。というのも、当分野にて現在知られている多くの注射用生体材料の組成物が注射可能となる前にさらなる処理工程(例えば、洗浄して架橋剤を除去する)を必要とするためである。
【0078】
本方法の別の重要な利点は、本方法から製造される組成物は高いトロポエラスチン固体含有量を含む一方で、組成物の注射特性を維持することである。これもまた、当分野にて知られている他の生体材料含有組成物と比較して、本発明の特徴的な側面である。
【0079】
より低い濃度でも有用であるが、一般に約1.5 mg/mLより大きな濃度を有するトロポエラスチンの溶液は、所望の完全性の注射用組成物を形成することができる。大抵の適用において、溶液濃度は、約400 mg/mL未満である。それゆえ、約1.5 mg/mL〜約400 mg/mLの濃度を有するトロポエラスチンの溶液が好ましい。より好ましくは、約5 mg/mL〜約300 mg/mLの濃度を有するトロポエラスチンの溶液を用いる。最も好ましくは、約10 mg/mL〜約200 mg/mLの濃度を有するトロポエラスチンの溶液を用いる。
【0080】
液相の塩濃度は、任意のイオン化合物、または溶液の浸透圧に影響しうる低分子量の種などの塩を加えることにより制御することができる。例えば、NaCl、KCl、MgSO4、Na2CO3またはグルコースを用いてもよい。好ましい塩はNaClである。
【0081】
意図がエラスチン(または架橋トロポエラスチン)からなるトロポエラスチンから形成される組成物を形成することである場合、溶液温度は、粘弾性相が形成されるように、約37℃の生理学的範囲まで上昇してもよい。グルタルアルデヒドなどの架橋剤は、このコアセルべーション工程の前に加えてもよく、またはその後に加えてもよい。
【0082】
意図が弾性材料を含むトロポエラスチンから形成される組成物を形成することである場合、約pH 7.5以上のpHは弾性材料を溶液中のトロポエラスチンから形成させるのに十分である。pHは一般に、約pH 13を超えないようにし、これを超えると弾性材料はあまり形成されない。より好ましくは約pH 9〜pH 13のpHが所望である。しかし、最も好ましくは、約pH 10〜pH 11のpHを用いる。他の用いうるpH値としては、8.0、8.5、9.5、10、10.5および11.5が挙げられる。グルタルアルデヒドなどの架橋剤は、pHにおける変化の前に加えてもよく、またはその後に加えてもよい。
【0083】
アルカリ性は、1)直接pH上昇物質をトロポエラスチンの溶液に加える、2)十分な量のpH上昇物質を含む溶液を混合してトロポエラスチンの溶液でアルカリ性とするなどの多くのアプローチにより調節することができる。pH上昇物質は、塩基、緩衝液、プロトン吸着物質であることができる。トリス塩基、NH4OHおよびNaOHなどの例は、pH上昇または制御物質として有用であることが分かった。
【0084】
pHがアルカリ性であり、約9.5未満である場合、塩は本発明の弾性材料を形成するのに必要であってもよい。塩を用いる場合、濃度は一般に、25 mMより高く、200 mMまでであってもよい。好ましくは、塩濃度は、約100 mM〜150 mMである。より好ましくは、塩濃度は、約150 mMである。pHがpH 10以下に減少する(にもかかわらずアルカリ性のままである)につれて、塩は弾性材料の形成をもたらすのに必要であり、pHが減少するにつれて必要な塩の量は増大する。そうであるから、例えば約pH 9〜10では塩が必要であり、例えば約60 mMに相当する塩濃度を溶液に提供すべきである。いくつかの具体的態様にて、溶液は、哺乳動物の等張食塩水の浸透圧に相当する浸透圧(150 mM)以下である。他の具体的態様にて、溶液は15O mMより高い浸透圧を有する。塩濃度もまた、0 mMであってもよい。
【0085】
溶液の塩濃度は、任意のイオン化合物、単価もしくは二価イオン、または溶液の浸透圧に影響しうる低分子量の種などの塩を加えることにより制御することができる。例えば、NaCl、KCl、MgSO4、Na2CO3またはグルコースを用いてもよい。好ましい塩はNaClである。
【0086】
適宜、液相はコアセルべーション中に撹拌してもよい。液相は、機械的手段、例えばマグネチック・スターラー装置の使用、手動混合、またはオービタル・シェーカー上への配置により撹拌してもよい。
【0087】
本発明の方法は、滅菌条件下にて行い、本方法により製造される組成物がインビボでの使用に適していることを確保することができる。
【0088】
別の具体的態様にて、組成物のpHは、生理学的に許容される範囲内の値まで調節することができる。別の具体的態様にて、組成物のイオン強度は、生理学的に許容される範囲内まで調節される。
【0089】
IV 装置およびキット
いくつかの具体的態様にて、組成物は、組成物を入れた容器などの使い捨てまたは再利用可能な装置の形態にて提供してもよい。ある具体的態様にて、装置はシリンジである。装置は、0.1〜10 mlの組成物を入れることができる。より好ましくは、装置は、0.5〜5 mlの組成物を入れることができる。組成物は、例えば架橋された形態での使用に準備ができている状態、または架橋剤(架橋が必要である場合)などのさらなる成分の混合もしくは添加を必要とする状態における装置にて提供してもよい。
【0090】
他の具体的態様にて、上記具体的態様の一つでの使用のためのキットであって、
−本発明の組成物を入れた容器;
−使用のための指示を備えたラベルまたは添付文書
を含むキットが提供される。
【0091】
いくつかの具体的態様にて、キットは、小球に加えて1以上の活性薬剤または有効薬剤を含んでもよい。これらの有効薬剤は上記のとおりである。
【0092】
キットは、容器、および該容器上またはそれに付随してラベルまたは添付文書を含んでもよい。適切な容器としては、例えばボトル、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の物質から形成されてよい。容器には、組成物またはその製剤を入れ、滅菌点検口を有する(例えば容器は皮下注射針により貫通可能な栓を有する静脈注射用バッグまたはバイアルであってもよい)。ラベルまたは添付文書は、組成物が組織膨化などの選択された病態を治療するために用いられることを表示する。ある具体的態様にて、ラベルまたは添付文書は、使用のための指示を含み、組成物が組織欠損から生じる障害または合併症を治療するために使用することができることを表示する。
【0093】
キットは、(a)本発明の組成物を備えた第一容器;および(b)そこに含まれる活性薬剤または有効薬剤を備えた第二容器を含んでもよい。本発明のこの具体的態様におけるキットはさらに、組成物および他の有効薬剤が障害を治療するために用いることができることを表示した添付文書を含んでもよい。あるいは、またはさらに、キットはさらに、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液およびデキストロース溶液などの医薬的に許容される緩衝液を含む第二(または第三)容器を含んでもよい。これはさらに、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針およびシリンジなどの商業およびユーザーの観点から望ましい他の物質を含んでもよい。
【0094】
V 治療方法
いくつかの具体的態様にて、組織欠損、特に軟組織または真皮の増大を必要とする欠陥を修正するための製剤または人工器官の製造における本発明の組成物の使用が提供される。
【0095】
他の具体的態様にて、軟組織または真皮の増大の方法であって、そのような治療を必要とする個体に有効量の本発明の組成物を投与することを含む方法が提供される。
【0096】
本方法による治療に適切な個体は、老化過程の小さな症状、例えば眼および口のまわりの小さなしわ、唇の小さなしわおよび唇容積の小さな減少を示してもよい。あるいは、老化の兆候は、より顕著であってもよい。例えば、個体は、鼻唇溝の深くくぼんだしわおよび深化を伴うより顕著な老化の兆候を示してもよい。さらに、頬骨脂肪体などの顔の構造の萎縮またはたるみがあってよい。さらに、個体は老化のいずれの兆候もない場合にもその外見を良くしたいと望んでもよく、例えば個体はその唇の容積を良くしたいと望んでもよい。いくつかの具体的態様にて、組成物は、経皮、皮内および/または皮下注射してもよい。組成物の注入は、しわもしくはひだの外見を軽減し、あるいは審美的に魅力的な効果を提供する、膨化または充填効果を提供する。
【0097】
組成物が適用されてよい他の組織欠損としては、例えば皮膚疾患(にきび、おたふく風邪、水疱瘡または麻疹など)に由来する皮膚の瘢痕、外傷(損傷またはやけど)または外科手術からの瘢痕が挙げられる。
【0098】
組成物が適用されてよいさらに他の組織欠損としては、レトロウイルス治療の副作用としてのHIV患者の顔領域における皮下脂肪萎縮症などの全組織欠損または萎縮が挙げられる。
【0099】
ある具体的態様にて、括約筋の不全と関連する病態の治療のための本発明の組成物の使用が提供される。この治療に適した個体は、例えば内因性の括約筋欠損、尿失禁、胃腸管逆流性疾患または膀胱尿管逆流現象などの病態または疾患に罹患していてもよい。さらに、この治療形態に適した個体は、便失禁に罹患してもよい。
【0100】
組織欠損の性質に応じて他の投与経路が適切であってもよいが、典型的には、組成物は注射により組織欠損の部位に投与される。組成物が注射により投与される場合、種々の針ゲージを用いてよい。用いられるゲージは、他のものの中から、トロポエラスチン含有材料の性質(例えばその粘性)および欠損の性質(例えば注射部位の深度)に依存する。例えば、組成物が組織増大における使用を目的とする場合、針ゲージは一般に、約16G〜31Gの範囲である。典型的には、皮膚充填剤用針ゲージは約25G〜31Gの範囲である。細かいしわ用の表皮注射は、例えば27〜31Gの範囲のゲージの針を用いることができ、25Gまたは27G針などのより大きなゲージ針は、真皮下の深い注射に必要であってよい。失禁適用のために、針ゲージは一般に、約16G〜約21Gである。
【0101】
組成物は、多くの治療に関して投与され、組織欠損を修正し、および/または所望の結果を達成もしくは維持することができる。
【0102】
本明細書において開示され、定義される本発明は、内容または図面に記載され、またはそれから明らかな2以上の個別の特徴のすべての組合せの選択肢まで拡張されることが理解されよう。これらの異なるすべての組合せは、本発明の種々の別の態様を構成する。
【実施例】
【0103】
以下の実施例は、例示であって、何ら本発明を限定するものではない。
【0104】
実施例1:アルカリポリマー化工程を用いた低トロポエラスチン濃度におけるトロポエラスチンから形成される小球の製造
材料および方法
20 mg トロポエラスチンを10 mL リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に4℃にて終夜(推定16時間)溶解し、最終トロポエラスチン濃度2 mg/mlとした。その間、溶液を氷上に置き、溶液の始めのpHを測定し(pH 7.2)、39μl 1 M NaOHを加えて溶液のpHを10.7とした。次いで、得られた溶液を、インキュベーターから取り出し室温にて置く前に、37℃にて4時間15 mLチューブ中にてインキュベーションした。
結果
製造された微粒子は、チューブの側面を被覆する傾向にある。溶液サンプルのSEMイメージ(Figure 1A)は、1μmの推定直径を有する微粒子の存在を示す。球は、エラスチン材料の「粘着性」特性により一緒になって凝集する傾向にある。
【0105】
実施例2:10 mg/ml濃度における癒着制御薬剤の非存在下におけるトロポエラスチンのアルカリポリマー化
材料および方法
50 mg トロポエラスチンを4.9 ml PBSに4℃にて終夜(推定16時間)溶解した。その間、溶液を氷上に置き、溶液の始めのpHを測定し(pH 7.22)、47μl 1 M NaOHを加えて溶液のpHを10.7とした。さらに53μl PBSを加えて、最終濃度10 mg/mLのトロポエラスチン溶液を調製した。次いで、溶液を、インキュベーターから取り出し室温にて置く前に、37℃にて終夜(推定16時間)5 mL平底チューブ中にてインキュベーションした。
結果
Figure 1Bに示されるように、製造された材料は、そのチューブの形状を保持した固体弾性材料であった。得られた固体から分離した4.5 mLより多い液体は、50 mg トロポエラスチン(>40 mg)の大部分が約0.5 mLの液体にて製造された構成物中に存在していたことを示す。すなわち、トロポエラスチンは、出発材料(10 mg/mL)と比較して、癒着制御薬剤の非存在下でのこの濃度におけるトロポエラスチンの高密度の凝集により、固体にて有意により濃縮される。
【0106】
実施例3:化学的架橋を用いた癒着制御薬剤としてのCMCの存在下における小球の製造
材料および方法
300 mg トロポエラスチンを1.5 mL PBS中に終夜4℃にて溶解することにより200 mg/mL トロポエラスチンストック溶液を製造した。終夜、室温にて撹拌しながら2 g CMCを100 mL PBS中に溶解することにより2% (w/v) 高粘性カルボキシメチルセルロース(CMC; Sigma Cat No.C5013)のストック溶液を製造した。
その間、溶液を氷上に置き、トロポエラスチンのストック溶液250μlを200μl PBSおよび2% (w/v) CMC 500μlと混合した。25% (v/v) グルタルアルデヒド (GA)溶液の新鮮なバイアルを氷上に開け、2μl 25% (v/v) GAを、すぐにトロポエラスチン溶液に加える前に、48μl PBSと混合した。50 mg/mL トロポエラスチン、1% (w/v) CMC、0.05% (v/v) GAの得られた混合物を、37℃にて24時間5 mL 平底チューブ中にてインキュベーションする前に、冷却したピペットチップを用いて撹拌した(ピペットチップは-20℃にて終夜置くことにより予め冷却した)。
結果
製造された材料は、3時間インキュベーション後にピンク色を呈し、粘性であり、24時間インキュベーション期間の残りの後も同じままであった。材料は29G針、次いで31G針を通過することができ、針通過の後にはより低粘性となった。材料サンプルのSEMイメージは、0.5〜1μmの範囲の直径を有する小球の均一な混合物を示す(Figure 2)。小球間の低レベルの癒着はこの形成において明らかである。
【0107】
実施例4:化学的架橋を用いた癒着制御薬剤としてのHAの存在下における小球の製造
材料および方法
トロポエラスチンストック溶液
H2O (1 ml) + PBS (0.5 ml)を200 mg凍結乾燥トロポエラスチンに加え、2〜8℃にて維持して溶解した−得られた濃度は、H2O中1/250希釈の280 nmにおけるUV吸光度を測定することにより決定されるように、150 mg/mlであった。濃度は、0.3125 mL/mg.cmの吸光係数を用いて測定した。
ヒアルロン酸(HA)ストック溶液
オートクレーブ処理PBSをHA 1 g(最終容積50 ml)に加え、マグネチック・スターラーで撹拌することによりHAの2%溶液をPBS中に調製した。サンプルを2〜8℃にて貯蔵した。
グルタルアルデヒドストック溶液
25% GAの2μlをPBS 48μlに加え、エッペンドルフチューブ中にて混合することによりグルタルアルデヒドの1 %溶液を調製した。すべてのチップを使用前に<10℃にて冷却した。
試験サンプル調製および組成物
全薬剤を必要となるまで氷上に置いた。ピペットを用いてHA、PBSおよびトロポエラスチンストック溶液の必要量を氷上の5 mlチューブ中にて混合した。マグネチック・スターラーを用いて得られた組成物を2〜8℃にて2分間混合し、遠心分離機にて短く回転し、気泡を除去した。グルタルアルデヒドを加え、マグネチック・スターラーを用いて得られた組成物を2〜8℃にてさらに2分間混合した。撹拌棒を取り出し;サンプルを遠心分離機にて短く回転し、気泡を除去した後、37℃にて16時間インキュベーションした。最終組成:50 mg/ml トロポエラスチン, 1% HA, 0.05%グルタルアルデヒド。
結果
製造した材料は、ピンク色粘性ゲルに見えた。材料は直接31 G針を通過することができ、針を通過した後も外見は変化しなかった。材料サンプルのSEMイメージ(Figure 3)は、約1μmの直径を有する小球の均一な混合物を示す。小球間の明らかな連結性は明らかである。31 G針を通して押し出した後、過剰の水またはPBSによる洗浄後の材料のSEM分析は、材料の構造に変化はないことを示した。
【0108】
実施例5:アルカリ触媒を用いたトロポエラスチンから形成される小球の形成における癒着制御薬剤に対するトロポエラスチンの濃度滴定の効果
材料および方法
300 mg トロポエラスチンを1.5 ml PBSに終夜4℃にて溶解することにより200 mg/mL トロポエラスチンストック溶液を製造した。100mg HAを5 mL PBSに終夜4℃にて溶解することにより2% (w/v) ヒアルロン酸(ヒト臍帯からのHAナトリウム塩;Sigma Cat No.H1876)のストック溶液を製造した。
HAに対するトロポエラスチン濃度の滴定を作成するために、適切な溶液を氷上にて混合することにより次のサンプルを調製した:
サンプルA: 50μl トロポエラスチン溶液 + 450μl PBS + 500μL HA溶液。4μL 1 M NaOHを加えることにより開始pH 6.8を調節してpH 10.7とした。製造した最終溶液は10 mg/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HAである。
サンプルB: 125μL トロポエラスチン溶液 + 375μL PBS + 500μL HA溶液。7μL 1 M NaOHを加えることにより開始pH 6.8を調節してpH 10.3とした。製造した最終溶液は25 mg/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HAである。
サンプルC: 250μL トロポエラスチン溶液 + 250μL PBS + 500μL HA溶液。10.5μL 1 M NaOHを加えることにより開始pH 6.8を調節してpH 10.4とした。製造した最終溶液は50 mg/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HAである。
サンプルD: 375μL トロポエラスチン溶液 + 125μL PBS + 500μL HA溶液。16μL 1 M NaOHを加えることにより開始pH 6を調節してpH 10.3とした。製造した最終溶液は75 mg/mL トロポエラスチン, 1 % (w/v) HAである。
次いで、すべてのサンプルを37℃終夜(16時間)5 ml平底チューブ中にてインキュベーションした。
結果
サンプルA: 10 mq/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HA, pH 10.7
製造した材料は、18G、21G、25Gおよび3OG針による連続した押出後に3OG針を通過することができる均一な白色液体であった。得られた溶液のSEMイメージ(Figure 4A)は、約1〜4μmの範囲の直径を有するトロポエラスチンから形成される小球を癒着した比較的均一な混合物を示す。
サンプルB: 25 mg/mL トロポエラスチン, 1 % (w/v) HA, pH 10.3
製造した材料は、チューブの下に形成された粘度の高い白色ペーストであり、白色液体により覆われていた。ペーストは残りの溶液中にて混合することができるが;しかし、溶液はかなり不均一なままであり、29G針を詰まらせた−材料は18Gなどのより太いゲージ針を通して押し出すことができそうである[N. B.押出は固定29G針のみにて直接試みた−連続的押出アプローチはここでは試みなかった]。混合後の得られた溶液のSEMイメージ(Figure 4B)は、約1〜4μmの直径範囲を有する癒着した小球の存在を示す。
サンプルC: 50 mq/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HA, pH 10.4
製造した材料は、チューブの下に形成された粘度の高い白色ペースト/固体であった。このペーストは上記液体中にて部分的に混合することができるが、これは多くの固体材料を含む不均一な懸濁液を生じた。材料は18Gなどのより太いゲージ針を通して押し出すことができそうであるが、29G針を通過することはできなかった[N. B.押出は固定29G針のみにて直接試みた−連続的押出アプローチはここでは試みなかった]。混合後の得られた溶液のSEMイメージ(Figure 4C)は、約1〜10μmの直径範囲を有する癒着した小球の存在を示す。
サンプルD. 75 mq/mL トロポエラスチン, 1% (w/v) HA. pH 10.3
製造した材料は、チューブの下に形成された粘度の高い白色ペースト/固体であった。このペーストは上記液体中にて部分的に混合することができるが、これは多くの固体材料を含む不均一な懸濁液を生じた。材料は18Gなどのより太いゲージ針を通して押し出すことができそうであるが、29G針を通過することはできなかった[N. B.押出は固定29G針のみにて直接試みた−連続的押出アプローチはここでは試みなかった]。混合後の得られた溶液のSEMイメージ(Figure 4D)は、約0.5〜20μmの直径範囲を有する癒着した小球の存在を示す。
上記SEMイメージを用いて、小球直径のサイズ分布をFigure 5に示す。トロポエラスチン濃度が増大するにつれて、小球サイズおよび癒着レベルが増大する。
【0109】
実施例6:癒着制御薬剤の存在下での小球の形成における撹拌の効果
材料および方法
222 mg/mL トロポエラスチン溶液は、100 mg トロポエラスチンを450μL PBSに終夜4℃にて溶解することにより製造した。2 g CMCを100 ml PBSに終夜室温にて撹拌しながら溶解することにより2% (w/v)高粘性カルボキシメチルセルロース (CMC; Sigma Cat No.C5013)のストック溶液を製造した。
その間、溶液を氷上に置き、450μL トロポエラスチン溶液を2% (w/v) CMC 500μLと混合した。25% (v/v) グルタルアルデヒド溶液の新鮮なバイアルを氷上にて開け、2μL 25% (v/v) GAを、トロポエラスチン溶液にすぐに加える前に、48μL PBSと混合した。冷却したピペットチップを用いて100 mg/mL トロポエラスチン、1% (w/v) CMC、0.05% (v/v) GAの得られた混合物を撹拌した(ピペットチップを-2O℃にて終夜置くことにより予め冷却した)。混合物を37℃にてインキュベーター中に置き、マグネチック・スターラーを用いて4時間撹拌した。次いで、溶液を撹拌しないで終夜(16時間)冷蔵した。
結果
製造した材料は、始めの4時間37℃にてインキュベーションした後、ピンク色不透明の粘性であった。冷蔵後、材料はわずかに半透明となったが(ピンク色粘性のままであった);しかし、室温まで温めると、もう一度素早く不透明となった。材料は31G針を通過することができた。針通過後、溶液は変化しなかった。
SEMにより視認したとき、サンプル(Figure 6Aおよび6B)はサイズ変化した癒着した小球を示した。
【0110】
実施例7:アルカリポリマー化工程を用いた癒着制御薬剤の存在下における小球の製造
材料および方法
450μl トロポエラスチン (222 mg/ml)を氷上にて500μl 2% CMCに加えた。徹底的に混合した後、溶液のpHを19μl 1 M NaOHで7.1〜10.2に調節した後、サンプルを氷上に置いたまま31μl PBSを加えた。次いで、サンプルを撹拌しながら37℃にて4時間インキュベーションした後、4℃にて貯蔵した。次いで、中性サンプルのために、pHを室温にて1 M HCl 11μlで9.7〜7.4に調節した。得られた溶液は100 mg/mL トロポエラスチン, 1 % (w/v) CMCを含んだ。
結果
製造した材料は、26G〜29G針を通過することができる均一な白色液体であった。アルカリ性溶液のSEMイメージ(Figure 7Aおよび7B)および中和されたアルカリ性溶液(Figure 7Cおよび7D)は、癒着した小球を含む材料を示す。両方の材料は、4℃では半透明の明茶色粘性液体であり、温めると不透明の白色/茶色粘性液体となる。
【0111】
実施例8:癒着制御薬剤の存在下でのトロポエラスチンから形成される微粒子の安定性
実施例4Aおよび実施例6により製造されたサンプルは、60日より長い期間4℃にて貯蔵した。60日より長い期間後でも、材料は注射に従い、その外見はSEMによる判断されるように変化しなかった。
【0112】
実施例9:架橋トロポエラスチンおよびキサンタンゴム(XG)を含む注射用材料の形成
材料および方法
450μl トロポエラスチン (222 mg/ml)を氷上にて500μl 3% XGに加え、徹底的に混合した。25% (v/v) グルタルアルデヒド溶液の新鮮なバイアルを氷上に開け、2μl 25% (v/v) GAをトロポエラスチン溶液にすぐに加える前に、48μl PBSと混合した。次いで、サンプルを撹拌しながら37℃にて4時間インキュベーションした後、4℃にて貯蔵した。得られた混合物は100 mg/mL トロポエラスチン、1.5% (w/v) XG、0.05% (v/v) GAを含んだ。
結果
製造した材料は、4℃では半透明のピンク色粘性ゲルであり、温めると不透明のピンク色ゲルとなった。SEMイメージング(Figure 8Aおよび8B)は、材料が付着物からなることを示す。材料は31G針を通過することができた。針通過後、溶液は変化しなかった。
【0113】
実施例10:架橋トロポエラスチンおよびHPCを含む、広口径針またはカニューレを通した送達用材料の形成
材料および方法
450μl トロポエラスチン (222 mg/mL)を氷上にて500μl 4% ヒドロキシプロピルセルロース (HPC)に加え、徹底的に混合した。25% (v/v) グルタルアルデヒド溶液の新鮮なバイアルを氷上に開け、2μL 25% (v/v) GAをトロポエラスチン溶液にすぐに加える前に、48μL PBSと混合した。次いで、サンプルを37℃にて4時間撹拌しながらインキュベーションした後、4℃にて貯蔵した。得られた混合物は100 mg/mL トロポエラスチン、2% (w/v) HPC1 0.05% (v/v) GAを含んだ。
結果
ピンク色を帯びた軟らかい大きな材料を製造した(Figure 9A)。SEMイメージング(Figure 9B)は、材料が付着物のある程度の証拠として線維質であることを示す。材料は、シリンジを用いて2 mm口径を通過することができた。
【0114】
実施例11−細ゲージ針を通した送達のための形成の最適化
最適化検討は、29G〜31Gの範囲の針ゲージを通した注射に従うトロポエラスチンの形成についてトロポエラスチン:癒着制御薬剤の質量比の可能な限界を確認するために行った。以下の表の太字のサンプルは29/31G針を通過することができなかった。
【0115】
【表1】

a AlkまたはCL:アルカリ性ポリマー化(Alk)または架橋(CL)
b 混合:コアセルべーション中に混合物を撹拌したか?
c HA:ヒアルロン酸
d CMC (med vis):カルボキシメチルセルロース(中粘性)
e CMC (high vis):カルボキシメチルセルロース(高粘性)
f XG:キサンタンゴム
【0116】
実施例12:組織増大における注射用組成物の使用方法
記述
組成物は、細菌の大腸菌種により生成した合成ヒトトロポエラスチンから製造し、pH = 7にてセルロース誘導体の1%溶液の存在下グルタルアルデヒドで化学的に架橋したゲルであり、最終トロポエラスチン濃度100 mg/mLである。
適応
組成物は、鼻唇溝などの中程度から重篤な顔のしわおよびひだの修正のための中〜深度の皮膚注入に適応される。
供給
組成物は、31G x 1/2''針を備えた使い捨てシリンジにて供給される。
治療手順
1. 患者と協議することが不可欠であり、彼らは適応、禁忌、警告、事前注意、治療応答、副作用および治療での投与方法を知らされている。患者の包括的な病歴は治療前であるべきである。
2. 疼痛管理についての患者のニーズを評価する。
3. アルコールまたは他の適切な消毒溶液で処置すべき領域を清潔にする。
4. 注射前に、少量の組成物が針の先に見えるようにプランジャー・ロッドを押す。
5. 組成物は、細いゲージ針(31G x '1/2'')を用いて投与すべきである。針はしわまたはひだの長さに沿って約30°の角度にて挿入する。斜角の角度および方向、注入深度および投与量についての考慮により注射技術は異なってもよい。
組成物が筋肉内に深すぎて注射した場合、効果の期間は短くなる。
6. プランジャー・ロッドに圧力をかけて組成物を注入し、針をゆっくりと後方に引く。しわは持ち上がり、注射の終わりに除去されるべきである。注射は、針が皮膚から引き抜かれる前に止めて、材料が漏れたり、皮膚の表面で終わることを防ぐことが重要である。
7. 注射が完了したら、治療部位は、周辺組織の輪郭に合うように穏やかにマッサージすべきである。
8. 各治療セッションについての典型的な用量は治療部位あたり1 mlである。
正しい注射技術は、治療の最終結果に重要である。
【図1Aand1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を含むトロポエラスチンを含む、トロポエラスチンから形成される注射用組成物であって、物質がさらに、該組成物の注射を可能にする流動性を有する物質を提供するために有効な量の多糖または多糖誘導体の形態である薬剤を含む、組成物。
【請求項2】
物質が非微粒子塊の形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
薬剤が1以上のヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびキサンタンゴムである、先の請求項のいずれか記載の組成物。
【請求項4】
薬剤がヒアルロン酸であり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
薬剤がカルボキシメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
薬剤がキサンタンゴムであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項3記載の組成物。
【請求項7】
薬剤がヒドロキシプロピルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項3記載の組成物。
【請求項8】
薬剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項3記載の組成物。
【請求項9】
物質が微粒子塊の形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
薬剤が1以上のヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびキサンタンゴムである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
薬剤がヒアルロン酸であり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
薬剤がカルボキシメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
薬剤がキサンタンゴムであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項10記載の組成物。
【請求項14】
薬剤がヒドロキシプロピルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項10記載の組成物。
【請求項15】
薬剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項10記載の組成物。
【請求項16】
物質が小球の形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
薬剤が1以上のヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびキサンタンゴムである、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
薬剤がヒアルロン酸であり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項16記載の組成物。
【請求項19】
薬剤がカルボキシメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項16記載の組成物。
【請求項20】
薬剤がキサンタンゴムであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項16記載の組成物。
【請求項21】
薬剤がヒドロキシプロピルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項16記載の組成物。
【請求項22】
薬剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項16記載の組成物。
【請求項23】
溶解した多糖または多糖誘導体の形態である癒着制御薬剤を有する液相中にてトロポエラスチンをコアセルベート化する工程を含む、トロポエラスチンから形成される小球を製造する方法。
【請求項24】
液相がpH7〜13を有する、請求項23記載の方法。
【請求項25】
液相の温度が約37℃である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
液相がさらに塩を含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
液相がさらに、コアセルベート化トロポエラスチンを架橋するための架橋剤を含む、請求項23記載の方法。
【請求項28】
コアセルべーション後、架橋剤を液相に加える、請求項27記載の方法。
【請求項29】
コアセルべーション中に液相を撹拌することを含む、請求項23記載の方法。
【請求項30】
細ゲージ針を通してコアセルベート化トロポエラスチンを押し出して、液相中に形成される小球を分散させることを含む、請求項23記載の方法。
【請求項31】
アルカリ性pHを有し、溶解した多糖または多糖誘導体の形態である癒着制御薬剤を有する液相中にてトロポエラスチンを加熱し、弾性材料から形成される小球を形成させる工程を含む、トロポエラスチンから形成される小球を製造する方法。
【請求項32】
液相がさらに塩を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
架橋剤により弾性材料を架橋することをさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
トロポエラスチンから形成される多数の小球を含む液相を含み、液相が小球の癒着を軽減するのに有効な量にてそこに溶解した多糖または多糖誘導体の形態である癒着制御薬剤を有する、組織欠損を変更するかまたは修正するための注射用組成物。
【請求項35】
薬剤が1以上のヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびキサンタンゴムである、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
薬剤がヒアルロン酸であり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
薬剤がカルボキシメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項35記載の組成物。
【請求項38】
薬剤がキサンタンゴムであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項35記載の組成物。
【請求項39】
薬剤がヒドロキシプロピルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項35記載の組成物。
【請求項40】
薬剤がヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、トロポエラスチンと薬剤の質量比が約0.2:1〜約100:1である、請求項35記載の組成物。
【請求項41】
物質が非架橋トロポエラスチンから形成される、先の請求項のいずれか記載の組成物。
【請求項42】
トロポエラスチンがトロポエラスチンのフラグメントである、先の請求項のいずれか記載の組成物。
【請求項43】
小球がミクロスフェアの形態である、先の請求項のいずれか記載の組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6Aand6B】
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【図7Aand7B】
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【図7Cand7D】
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【図8Aand8B】
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【図9Aand9B】
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【公表番号】特表2012−519713(P2012−519713A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553233(P2011−553233)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000275
【国際公開番号】WO2010/102337
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(500026418)ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー (13)
【Fターム(参考)】