説明

注射製剤

【課題】化合物(I)の長時間作用を有する薬物投与形態として、少なくとも1週間、より好ましくは2、3又は4週間、さらに好ましくは6週間以上の期間、治療量で化合物(I)を放出する、持続性注射製剤を提供する。
【解決手段】一次粒子の平均粒子径が1〜50μmである7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩を有効成分として含む、注射製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩を含有する持続性注射製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩(以下、化合物(I)という)は、ドパミンD受容体パーシャルアゴニスト作用(D受容体パーシャルアゴニスト作用)、セロトニン5−HT2A受容体アンタゴニスト作用(5−HT2A受容体アンタゴニスト作用)及びアドレナリンα受容体アンタゴニスト作用(α受容体アンタゴニスト作用)を有し、更にそれらの作用に加えてセロトニン取り込み阻害作用(あるいはセロトニン再取り込み阻害作用)を併用することが知られており(特許文献1)、中枢神経疾患(特に統合失調症)に対して広い治療スペクトラムを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−316052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
統合失調症等の中枢神経疾患において、長時間作用を有する薬物投与形態は、患者のコンプライアンスを増大させ、それによって治療における再発率を低下させることができる点で有用である。
【0005】
本発明は、化合物(I)の長時間作用を有する薬物投与形態として、少なくとも1週間、より好ましくは2、3又は4週間、さらに好ましくは6週間以上の期間、治療量で化合物(I)を放出する、持続性注射製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が上記課題に鑑み鋭意検討を行ったところ、特定の一次粒子の平均粒子径を有する化合物(I)を注射製剤として用いることにより、少なくとも1週間、好ましくは2、3又は4週間、さらに好ましくは6週間以上の期間、治療量で化合物(I)を放出することができることを見出した。本発明は上記知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成されたものであり、下記に掲げるものである。
【0007】
項1.一次粒子の平均粒子径が1〜50μmである7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩を有効成分として含む、注射製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化合物(I)の長時間作用を有する薬物投与形態として、少なくとも1週間、好ましくは2、3又は4週間、更に好ましくは6週間以上の期間、治療量で化合物(I)を放出する、持続性注射製剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】試験例1において、ラットにおける実施例1〜7の注射製剤による化合物(I)の平均血漿中濃度対時間プロファイルを示すグラフである。
【図2】試験例2において、イヌにおける実施例3の注射製剤による化合物(I)の平均血漿中濃度対時間プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の注射製剤は、一次粒子の平均粒子径が約1〜約50μmである7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩(化合物(I))を有効成分として含む。なお、本発明の注射製剤は、注射用水を含む形態で用いられる懸濁液である。
【0011】
化合物(I)の一次粒子の平均粒子径が小さいほど、持続放出期間が短くなる。例えば、一次粒子の平均粒子径が約1μmである場合、化合物(I)は、3週間未満、好ましくは2週間の期間、放出される。一次粒子の平均粒子径が約1μmを超える場合、化合物(I)は、少なくとも2週間、好ましくは約3〜4週間、6週間以上(例えば、8週間)の期間、放出される。従って、本発明によれば、化合物(I)放出期間は、凍結乾燥製剤における化合物(I)の粒子径を変化させることによって変化させることができる。
【0012】
より具体的には、化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、化合物(I)の所望の放出制御特性を有する注射製剤を製造するために必須である。所望の放出制御を実現するために、注射製剤中、例えば、懸濁液を凍結乾燥後、再懸濁した場合であれば、再懸濁液中の化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、約1〜約50μm、好ましくは約1〜約30μm、より好ましくは約1〜約20μmを有する。
【0013】
ここで、“一次粒子の平均粒子径”とは、レーザー光散乱(laser-light scattering;LLS)法によって測定される場合の体積平均直径(volume mean diameter)をいう。粒度分布は、LLS法によって測定され、一次粒子の平均粒子径は、粒度分布から計算される。
【0014】
本発明の注射製剤は、該製剤の単位体積当たりの高い薬物ローディング(drug loadings)を可能にし、従って、少ない注射体積で比較的高い用量の化合物(I)の送達を可能にする(1mLの懸濁液当たり0.1〜600mgの薬物)。
【0015】
本発明において、水性溶媒系に懸濁された化合物(I)の懸濁液は、例えば筋肉内注射により投与された場合、実質的に一定の化合物(I)の薬物血中濃度を維持することができる。その際、大きな“バースト現象(burst phenomenon)”は観察されず、前記化合物(I)懸濁液を使用して、コンスタントな化合物(I)薬物血中濃度を1週間以上維持させることができる。経口投与される化合物(I)を含む製剤のための一日開始用量(daily starting dose)は、0.15〜6mgである。1週間以上の経口投与薬物量と等価の薬物用量を投与するためには、単回用量として、非常に大量の薬物量の投与を必要とする。本発明の化合物(I)を含む注射製剤は、患者にコンプライアンス問題を生じさせることなく、大量の薬物を送達するために、投与することが可能となる。
【0016】
本発明の化合物(I)を含む注射製剤は、化合物(I)の無水物又は溶媒和物(水和物)の結晶形態あるいは両方を含有する混合物を含み得る。
【0017】
本発明の注射製剤は、水性レディー・トゥー・ユーズ懸濁液(aqueous ready-to-use suspension)として投与させることができる。
【0018】
本発明の注射製剤は、注射用水を含む注射製剤の総重量に対して約0.3〜約60重量%、好ましくは約2〜約40重量%、より好ましくは約5〜約20重量%、さらに好ましくは約8〜約15重量%の範囲内の含有量で化合物(I)を含む。
【0019】
本発明の化合物(I)を含む注射製剤は、好ましくは以下の成分を含む:
(a)化合物(I)、
(b)該化合物(I)のためのビヒクル、及び
(c)注射用水。
【0020】
前記化合物(I)のためのビヒクルとしては、例えば、懸濁化剤(suspending agents)、バルキング剤(bulking agents)、浸透圧調整剤、安定化剤、緩衝剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0021】
懸濁化剤(suspending agent)は、注射用水を含む注射製剤の総重量に基づいて、約0.2〜約10重量%、好ましくは約0.5〜約5重量%の範囲内の量で存在する。好適な懸濁化剤の例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、市販のTweens(登録商標)、例えば、Tween20(登録商標)及びTween80(登録商標)(ICI Specialty Chemicals));ポリエチレングリコール類(例えば、Carbowaxs 3350(登録商標)及び1450(登録商標)、並びにCarbopol 934(登録商標)(Union Carbide))及びポリビニルピロリドンが挙げられ、これらは1種又は2種以上を使用してもよい。これらの懸濁化剤は特に限定されないが、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール類及びポリビニルピロリドンが好ましい。化合物(I)のためのビヒクルにおける使用のために好適な他の懸濁化剤としては、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然プロダクト(natural products)、及び界面活性剤(非イオン性及びイオン性界面活性剤を含む)、例えば、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス(cetomacrogol emulsifying wax)、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000のようなマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(polyoxyethylene castor oil derivatives)、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ポリオキシエチレンステアレート、コロイダル二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム(carboxymethylcellulose calcium)、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、HPC、HPC−SL、及びHPC−L)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロースフタレート、非結晶性セルロース(noncrystalline cellulose)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイド及びホルムアルデヒドとの4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−フェノールポリマー(チロキサポール(tyloxapol)、スペリオン(superione)、及びトリトン(triton)としても公知)、ポロキサマー(poloxamers)(例えば、Pluronics F68(登録商標)及びF108(登録商標)、これらは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドのブロックコポリマーである);ポロキサミン(例えば、Tetronic 908(登録商標)、Poloxamine 908(登録商標)としても公知、これは、エチレンジアミンへのプロピレンオキサイド及びエチレンオキサイドの連続付加から誘導される四官能性ブロックコポリマーである(BASF Wyandotte Corporation,Parsippany,N.J.));荷電リン脂質(charged phospholipid)、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオクチルスルホサクシネート(DOSS);Tetronic 1508(登録商標)(T−1508)(BASF Wyandotte Corporation)、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル(例えば、Aerosol OT(登録商標)、これはスルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステルである(American Cyanamid));Duponol P(登録商標)、これはラウリル硫酸ナトリウムである(DuPont);Tritons X−200(登録商標)、これはアルキルアリールポリエーテルスルホネートである(Rohm and Haas);Crodestas F−110(登録商標)、これはスクロースステアレート及びスクロースジステアレートの混合物である(Croda Inc.);p−イソノニルフェノキシポリ−(グリシドール)、Olin−10G(登録商標)又はSurfactant 10−G(登録商標)としても公知(Olin Chemicals,Stamford,Conn.);Crodestas SL−40(登録商標)(Croda,Inc.);並びにSA9OHCO、これはC1837CH(CON(CH))−CH(CHOH)(CHOH)である(Eastman Kodak Co.);デカノイル−N−メチルグルカミド;n−デシル β−D−グルコピラノシド;n−デシル β−D−マルトピラノシド;n−ドデシル β−D−グルコピラノシド;n−ドデシル β−D−マルトシド;ヘプタノイル−N−メチルグルカミド;n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド;n−ヘプチル β−D−チオグルコシド;n−ヘキシル β−D−グルコピラノシド;ノナノイル−N−メチルグルカミド;n−ノニル β−D−グルコピラノシド;オクタノイル−N−メチルグルカミド;n−オクチル−β−D−グルコピラノシド;オクチル β−D−チオグルコピラノシド等が挙げられる。
【0022】
これらの懸濁化剤の大部分は、公知の薬学的賦形剤であり、そしてthe American Pharmaceutical Association及びThe Pharmaceutical Society of Great Britainによって共同発行されたthe Handbook of Pharmaceutical Excipientsに詳細に記載されており(The Pharmaceutical Press, 1986)、参照により具体的に組込まれる。懸濁化剤は、市販されておりそして/又は当該分野において公知の技術によって製造することができる。
【0023】
ここで、化合物(I)の一次粒子の平均粒子径が約1μm以上である場合は、カルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩が特に好ましい。
【0024】
バルキング剤(bulking agent)(冷凍/凍結乾燥保護剤(cryogenic/lyophilize protecting agent)とも呼ばれる)は、注射用水を含む注射製剤の総重量に基づいて、約1〜約10重量%、好ましくは約3〜約8重量%、より好ましくは約4〜約5重量%の範囲内の量で存在する。本明細書中における使用に好適なバルキング剤の例としては、マンニトール、スクロース、マルトース、キシリトール、グルコース、スターチ、ソルビトール等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を使用してもよい。これらのバルキング剤は特に限定されず、化合物(I)の一次粒子の平均粒子径が約1μm以上である製剤のためには、マンニトールが好ましい。キシリトール及び/又はソルビトールは、所望の粒子径が達成及び維持されるように、薬物粒子の結晶成長及び凝集を阻害することによって、化合物(I)を含む製剤の安定性を増強させることができる。
【0025】
浸透圧調整剤は、注射用水を含む注射製剤の総重量に基づいて、約1〜約10重量%の量で存在する。本明細書中における使用に好適な浸透圧調整剤の例としては、マンニトール、スクロース、マルトース、キシリトール、グルコース、スターチ、ソルビトール及びグリセリン等の非電解質タイプの浸透圧調整剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の電解質タイプの浸透圧調整剤が挙げられ、これらは1種又は2種以上を使用してもよい。
【0026】
適切な安定化剤は、例えばアスコルビン酸誘導体(例えばアスコルビン酸、エリスロビン酸、アスコルビン酸ナトリウム)、メチオニンである。
【0027】
緩衝剤(buffer)は、化合物(I)を含む製剤の水性懸濁液のpHを、約6〜約8、好ましくは約7に調整する量で使用される。このようなpHを達成するために、通常、緩衝剤は、タイプに依存して、注射用水を含む注射製剤の総重量に基づいて、好ましくは約0.02〜約2重量%、より好ましくは約0.03〜約1重量%の範囲内、さらに好ましくは約0.08〜約0.2重量%の量で使用される。本明細書中における使用のために好適な緩衝剤の例としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、又はTRIS緩衝剤が挙げられ、これらは1種又は2種以上を使用してもよい。これらの緩衝剤は特に限定されないが、リン酸ナトリウムが好ましい。
【0028】
pH調整剤(pH adjusting agent)は、化合物(I)の水性懸濁液のpHを、約6〜約7.5の範囲、好ましくは約7に調整する量で使用され、そして、化合物(I)の水性懸濁液のpHが、所望の約7の中性pHに達するために上昇される必要があるのか、あるいは低下される必要があるのかに依存して、酸又は塩基が適宜選択される。従って、pHが低下される必要がある場合、酸性pH調整剤、例えば、塩酸又は酢酸、好ましくは塩酸が使用される。pHが上昇される必要がある場合、塩基性pH調整剤、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム又は水酸化マグネシウム、好ましくは水酸化ナトリウムが使用される。
【0029】
上記化合物(I)、及び該化合物(I)のためのビヒクルを注射用水に懸濁させることによって、均質な懸濁液が得られる。
【0030】
なお、本発明の注射製剤は、上記懸濁液をそのまま注射製剤として用いてもよく、また、当該懸濁液を後述のように凍結乾燥を行い、得られる凍結乾燥物を注射用液によって再懸濁し、再懸濁液として用いてもよい。
【0031】
本発明の注射製剤に用いられる、化合物(I)、及び該化合物(I)のためのビヒクルは、凍結乾燥物であっても、粉末混合物であってもよい。凍結乾燥物である場合には、化合物(I)、及び該化合物(I)のためのビヒクルを、水に懸濁させた後、該懸濁液を凍結乾燥させることによって得られる。なお、凍結乾燥物又は粉末混合物中の化合物(I)及びビヒクルの含有割合は、その後注射用水を加えることによって上記の含有割合となるように、適宜調製される。
【0032】
前記凍結乾燥物又は粉末混合物は、使用時に注射用水を加えることによって、注射製剤とすることができる。
【0033】
本発明の化合物(I)を含む注射製剤は、2〜6週間の投薬のために、2.5mL以下、好ましくは2mLの容積中に、送達される約3〜約400mgの化合物(I)が提供される量の注射用水が使用される。
【0034】
本発明の注射製剤の製造方法としては、以下の工程によって製造される方法が挙げられる:
(a)所望の一次粒子の平均粒子径を有する、化合物(I)原末を調製する工程、
(b)該化合物(I)原末のためのビヒクルを調製する工程、
(c)該化合物(I)原末と該ビヒクルを混合する工程。
【0035】
前記工程において、化合物(I)原末と該ビヒクルを混合し、懸濁液を調製した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥物を再懸濁する場合には、以下の工程によって製造される。
【0036】
なお、凍結乾燥前の懸濁液と、凍結乾燥後の凍結乾燥物を再懸濁した再懸濁液での化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、実質的に変化しない。そのため、凍結乾燥前の懸濁液中における化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、凍結乾燥後の凍結乾燥物を再懸濁したものと同じものを用いればよい。
(a)所望の一次粒子の平均粒子径を有する、化合物(I)原末を調製する工程、
(b)該化合物(I)原末のためのビヒクルを調製する工程、
(c)該化合物(I)原末と該ビヒクルを混合する工程、
(d)該懸濁液を凍結乾燥して、所望の多型形態(無水物、溶媒和物(水和物)、又は両方の混合物)を含む化合物(I)を有する凍結乾燥物を得る工程。
【0037】
上記方法を行う際に、所望の一次粒子の平均粒子径を有する、化合物(I)原末を調製する方法としては、メディアを用いる湿式ボールミリング法、メディアを用いない湿式粉砕(マントンゴーリー等)等の湿式粉砕法、ジェットミル粉砕法などの乾式粉砕法が使用される。
【0038】
湿式粉砕手法は、好ましくは、湿式ボールミリング(wet ball milling)である。化合物(I)の所望の一次粒子の平均粒子径が約1μmを超える場合、一次懸濁液(混合された化合物(I)−ビヒクル)は、約5〜約15L/時間、好ましくは約8〜約12L/時間、より好ましくは約10L/時間で、単一回(シングルパス)、湿式ボールミルを通過せしめられ、化合物(I)の一次粒子の平均粒子径を所望の範囲内、例えば、約1〜約5μmに縮小させる。
【0039】
ボールミル(例えば、Dynoミル)に加えて、他の低エネルギーミル及び高エネルギーミル(例えば、ローラーミル)を使用することができ、そして高エネルギーミルとしては、例えば、Netzschミル、DCミル及びPlanetaryミルが使用される。
【0040】
使用可能な粒子径減少のための他の技術としては、制御された晶析法(aseptic controlled crystallization)、高剪断ホモジナイゼーション(high shear homogenization)、高圧ホモジナイゼーション(high pressure homogenization)及びマイクロフルイダイゼーション(microfluidization)が挙げられる。
【0041】
このような化合物(I)の粒子径減少のための方法を行うことにより、前述の注射製剤の化合物(I)の一次粒子の平均粒子径を有する微粒子化化合物(I)が得られる。
【0042】
本発明の凍結乾燥した化合物(I)を含む製剤の製造方法を行う際に、全てが無菌状態であることが要求される。すなわち、無菌の化合物(I)及び無菌ビヒクルが無菌的に混合されて無菌懸濁液が形成され、そして無菌懸濁液が無菌凍結乾燥粉末又はケーキを形成するように凍結乾燥されることが好ましい。
【0043】
無菌の微粒子化された化合物(I)原末を得る方法としては、電子線又はγ線による電離放射線照射、UV照射、オートクレーブ等による滅菌、エチレンオキサイドもしくは過酸化水素によるガス滅菌、懸濁粒子ろ過滅菌や、クリーンベンチ内での無菌操作が使用される。
【0044】
懸濁化剤、バルキング剤、緩衝液、必要に応じてpH調整剤及び水を含む化合物(I)原末のためのビヒクルは、調製され、そしてオートクレーブやろ過等により滅菌される。その後、化合物(I)原末及びビヒクルは、無菌的に混合されて、無菌懸濁液が形成される。
【0045】
凍結乾燥サイクルは、適当な冷却速度で約−40℃まで製剤を冷却することを包含するべきである。一次乾燥は、約0℃未満の温度並びに適当な真空及び期間で行われる。
【0046】
得られる凍結乾燥した化合物(I)を含む懸濁液を含むバイアルは、大気圧又は部分真空下で無菌的に栓をされ、そして密封される。
【0047】
化合物(I)は、総注射製剤に基づいて、約0.3〜約60%(w/v)、好ましくは約2〜約40%(w/v)、より好ましくは約5〜約20%(w/v)、さらに好ましくは約8〜約15%(w/v)の範囲内の量で、水性注射製剤中に存在する。
【0048】
好ましい実施形態において、化合物(I)は、約10〜約500mg/製剤2mL、好ましくは約30〜約200mg/製剤1mLを提供するために、水性注射製剤中に存在する。
【0049】
本発明の化合物(I)を含む製剤は、ヒト患者における、統合失調症及び関連障害(例えば、双極性障害及び痴呆)を治療するために使用される。本発明の注射製剤のために使用される好ましい投薬量は、1ヶ月当たり1〜2回で与えられる、化合物(I)の量、約10〜約400mg/mLを含有する単回注射又は複数注射である。注射製剤は、好ましくは筋肉内投与されるが、皮下注射も同様に許容される。
【0050】
本発明の注射製剤は、化合物(I)の体内への持続放出期間が一定に保持されるため、デポ剤(持効性注射製剤)として有用である。また、刺激性も小さく、凍結乾燥物としての安定性にも優れている。
【0051】
本発明の注射製剤によれば、治療が必要な患者へ、治療量の上述の持続性注射製剤を投与することができ、統合失調症及び関連疾患の治療を行うことができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
・実施例1〜7
<1.懸濁液の調製>
マンニトール、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム二水和物を、注射用水に加え、攪拌し溶解させた後、0.22μmのフィルターを用いて滅菌濾過により無菌化した。
【0054】
前記溶液とは別に、無菌条件下で湿式ボールミリング法による湿式粉砕(実施例1〜4)又はジェットミル粉砕法による乾式粉砕(実施例5〜7)を行い、各微粒子化化合物(I)を得た。
【0055】
得られた前記溶液に、無菌各微粒子化化合物(I)をそれぞれ添加し、無菌条件下でホモジナイザーを用いて懸濁化し、1N水酸化ナトリウム溶液を用いて、pH7.0になるようにそれぞれ調整した。攪拌下に注射用水を用いて全量を100mLとし、均質な懸濁液をそれぞれ得、以下の化合物(I)を含む懸濁液を調製した(%(w/v))。
【0056】
化合物(I) 10%
マンニトール 4.16%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.832%
リン酸二水素ナトリウム二水和物 0.084%
水酸化ナトリウム溶液、1N pHを7.0とする量
注射用水 100mLとする量
なお、各懸濁液中の化合物(I)の一次粒子の平均粒子径を、粒子径測定を(株)島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置(Laser Diffraction Particle Size Analyzer SALD−3000J又はSALD−3100)により測定した。化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、それぞれ、1.5μm(実施例1)、1.9μm(実施例2)、2.2μm(実施例3)、3.5μm(実施例4)、7.8μm(実施例5)、10.2μm(実施例6)、16.0μm(実施例7)であった。
【0057】
<2.凍結乾燥物の調製>
2mLの上記懸濁液を、滅菌したバイアル中に無菌的に充填し、次いでこれを、滅菌した栓で無菌的に部分的に栓をした。バイアルを凍結乾燥装置(LyoStarII)に搬入し、以下のサイクルに従って凍結乾燥した。
a) 熱処理
プロダクトを、−40℃で凍結させ、少なくとも4時間、−40℃で維持した。
b) コンデンサー
コンデンサーを−50℃以下に冷却した。
c) 一次乾燥
プロダクト温度を約2時間を要して−5℃へ上昇させ、少なくとも40時間一次乾燥を継続した。
d) 無菌窒素を使用して、大気圧又は部分真空下で、バイアルに栓をし、凍結乾燥装置から取り出した。
e) トレイよりバイアルを取り出し、キャップを用いて、巻き締め密栓をした。
【0058】
<3.注射製剤の調製>
前記各凍結乾燥物が封入されたバイアルに、滅菌された注射用液を1.67mL加え、再懸濁化させ、注射製剤を調製した。得られた注射製剤中における化合物(I)の一次粒子の平均粒子径は、<1.懸濁液の調製>で得られた懸濁液中の化合物(I)の一次粒子の平均粒子径と同じであった。
【0059】
・試験例1
実施例1〜7において調製された化合物(I)を含む各注射製剤を、25mg/kgの用量で、雄性ラットの大腿筋中へ注射した。投与後の化合物(I)の血中移行性評価のために、血液サンプルを投与後6時間並びに1、3、6、9、14、21、28、42、及び56日後に採取し、血漿中化合物(I)濃度を測定した。
【0060】
図1に、平均血漿中濃度−時間プロファイルを示す。
【0061】
図1より、化合物(I)水性懸濁液は、少なくとも4週間(28日)は安定した血漿中濃度を示した。また、粒子径が大きくなるにしたがって、化合物(I)の血漿中濃度が持続することが示された。
【0062】
・試験例2
実施例3において調製された化合物(I)を含む注射製剤を、10mg/kgの用量で、イヌの大腿筋中へ注射した。投与後の化合物(I)の血中移行性評価のために、血液サンプルを投与後1時間、6時間、並びに1、4、7、11、14、21、28、及び32日後に採取し、血漿中化合物(I)濃度を測定した。
【0063】
図2に、平均血漿中濃度−時間プロファイルを示す。
【0064】
図2より、化合物(I)水性懸濁液は、少なくとも3〜4週間(28日)は安定した血漿中濃度を示した。また、粒子径が大きくなるにしたがって、化合物(I)の血漿中濃度が持続することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子の平均粒子径が1〜50μmである7−[4−(4−ベンゾ[b]チオフェン−4−イル−ピペラジン−1−イル)ブトキシ]−1H−キノリン−2−オン又はその塩を有効成分として含む、注射製剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−232958(P2012−232958A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104338(P2011−104338)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】