説明

洋上風力発電施設およびその施工方法

【課題】洋上風力発電施設における基礎の簡略化を実現する。
【解決手段】海底面より立設して海面上に突出させたタワー1の頂部に風車2を設けてなる洋上風力発電施設において、当該施設全体の鉛直荷重を支持可能な直接基礎3を海底面に設置して該直接基礎上にタワーを設置し、直接基礎の周囲の海底地盤とタワーとの間に複数のアースアンカー4を放射状に設置して、該アースアンカーにより当該施設全体に作用する水平荷重を支持する。タワーの基端を直接基礎に対して相対回転可能な状態でピン接合しても良い。その施工に際しては、海底面に直接基礎を施工した後、その上方の海面上に作業足場を設置し、該作業足場上からタワーの立設工程と相前後して直接基礎の周囲の海底地盤に定着孔を削孔し、該定着孔内にアースアンカーの一端部を定着して該アースアンカーの他端部をタワーの基部に定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風力発電施設に係わり、特に海底地盤に設ける基礎を簡略化し得る洋上風力発電施設およびその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タワー頂部に設けた風車を風力で回転させることにより発電を行う大規模な風力発電施設においては、施設全体を安定に支持するための頑強な基礎が不可欠である。
特に、風車を海面上に設置する洋上風力発電施設における基礎は当然に海底地盤に設けられるものであるから、それは風力や地震力に対してはもとより波力に対しても施設全体を充分に安定に支持し得る構造形式のものであることが必要である。そのため、洋上風力発電施設の基礎としては、たとえば特許文献1に示されているように、大規模なコンクリートケーソン基礎や、単杭(モノパイル)ないし群杭による杭基礎、あるいはジャケット式の基礎とされることが従来一般的であり、立地条件によっては基礎の周囲に防波堤や消波ブロック等を設置する必要もある。
【特許文献1】特開2006−37397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
いずれにしても、洋上風力発電施設は風が強くしたがって必然的に波も高いことが通常である洋上に設置されるものであるから、そのような洋上からの海底地盤面に対する基礎の施工は容易に行えるものではない。勿論、その施工に際しては大型の作業台船等の特殊な土木機材を必要とし、必然的に地上に設置する場合に比べて多くの工費と工期を要するものとならざるを得ない。
【0004】
上記事情に鑑み、本発明は基礎を簡略化し得て工費削減と工期短縮を実現し得る有効適切な洋上風力発電施設およびその施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の洋上風力発電施設は、海底面より立設して海面上に突出させたタワーの頂部に風車を設けてなる洋上風力発電施設であって、当該施設全体の鉛直荷重を支持可能な直接基礎が海底面に設置されて、該直接基礎上にタワーが設置されるとともに、前記直接基礎の周囲の海底地盤と前記タワーの基部との間に複数のアースアンカーが放射状に設置されて、該アースアンカーにより当該施設全体に作用する水平荷重が支持されてなることを特徴とするものである。
本発明の洋上風力発電施設においては、タワーの基端を直接基礎に対して相対回転可能な状態でピン接合することが考えられる。
【0006】
本発明の施工方法は、上記の洋上風力発電施設を施工するに際して、海底面に直接基礎を施工した後、該直接基礎上方の海面上に作業足場を設置し、該作業足場上から直接基礎上にタワーを立設するとともに、タワーの立設工程と相前後して前記作業足場上から直接基礎の周囲の海底地盤に定着孔を削孔して該定着孔内にアースアンカーの一端部を定着し、少なくともタワーの基部を施工した段階で該アースアンカーの他端部をタワーの基部に定着することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、施設全体の自重すなわち鉛直荷重のみを直接基礎により支持することとし、施設全体に作用する風力や地震力、波力等の水平力による水平荷重は直接基礎とは独立に設けたアースアンカーにより支持するものであり、それにより簡略な直接基礎と簡略なアースアンカーを設置することで足り、従来に比べて基礎の構造およびその施工を大幅な簡略化でき、工費削減および工期短縮を充分に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1〜図2は本発明の実施形態である洋上風力発電施設とその施工方法の概要を示すものである。本実施形態の洋上風力発電施設は、完成状態を図2に示すように、海底面より立設して海面上に突出させたタワー1の頂部に風車2を設けたものであるが、特にその基礎の構造に特徴を有するものである。
【0009】
すなわち、本実施形態の洋上風力発電施設は、海底地盤面に設けた直接基礎3上にタワー1を立設して、その直接基礎3により施設全体の鉛直荷重を支持するとともに、直接基礎3とは独立に複数のアースアンカー4を設けて、施設全体に作用する風力や地震力、波力等の水平力による水平荷重はそれらのアースアンカー4によって支持するものとしている。
【0010】
アースアンカー4はタワー1を中心としてその周囲に放射状に設置されてステイ(支索)として機能するものであって、それぞれの一端部が直接基礎3の周囲の海底地盤中に定着されるとともに、他端部がタワー1の所望位置に連結されて斜めに張設されたものである。
それらアースアンカー4はタワー1の全方向への転倒を防止するように設ければ良く、少なくとも等間隔(120°間隔)で3方向に設ければ良いが、いずれにしても個々のアースアンカー4の引っ張り強度や所要本数および設置位置は、この施設全体に作用することが想定される水平荷重に抗してタワー1の全方向への転倒を確実に防止し得るように適宜設定すれば良く、必要であれば上下方向に多段に設けても良い。
【0011】
なお、図示例の場合にはタワー1への定着位置がほぼ海面位置とされて、アースアンカー4のほぼ全長が海中に没するものとなっているが、アースアンカー4をステイとして機能させてタワー1の転倒を有効に防止するためには、タワー1に対するアースアンカー4の定着位置はタワー1の頂部に近い方が有利であり、またアースアンカー4の傾斜角度は緩い(水平に近い)方が有利であるから、風車2の回転と干渉しない範囲で、あるいはこの施設の近傍を船舶が航行することが想定される場合には船舶の航行に支障を来さない範囲で、タワー1に対するアースアンカー4の定着位置は可及的に頂部に近い位置とし、かつ海底地盤に対するアースアンカー4の定着位置はタワー1から可及的に遠い位置とすることが好ましい。
また、アースアンカー4は海中や海上に設置されるのでその腐食対策が必要であり、したがってその素材としては充分な耐腐食性を有するものとするか、あるいは少なくとも海中に没する範囲はシース管により被覆してグラウトを充填する等の腐食防止対策を講じると良い。
【0012】
以上のように、アースアンカー4によってタワー1の転倒を防止する構造としたことにより、直接基礎3には水平荷重に対する耐力を見込む必要はなく、したがって直接基礎3は単に施設全体の鉛直荷重を負担し得る簡略な構造のものであれば良い。したがって、本実施形態における直接基礎3としては、図示しているように単なる鉄筋コンクリート造のべた基礎で充分であり、その寸法と所要強度は施設全体の自重と海底地盤の地耐力に応じて設計すれば良い。
具体的には、たとえば2400kW級の風力発電施設の場合、その全自重は300ton程度であるから、地耐力が10t/mである場合には直接基礎3の所要面積は30m程度で充分である。
【0013】
また、本実施形態では直接基礎3は鉛直荷重を支持するものであれば良いことから、図3に示すようにタワー1の基部を直接基礎3に対してピン支承5によって実質的に相対回転可能な状態でピン接合することも考えられる。この場合、タワー1から直接基礎3への曲げモーメントの伝達がなく、したがって直接基礎3およびそれへのタワー1の接合部の構造をより簡略化することが可能となる。
【0014】
つまり、従来一般の洋上風力発電施設においては、施設全体の鉛直荷重のみならず風力、地震力、波力等の水平荷重の全てを基礎により支持してその基礎自体でタワーの転倒を防止するものであることから、その基礎は必然的に頑強で大規模なものとならざるを得ないし、タワーと基礎との接合部は曲げモーメントを有効に伝達可能な構造とする必要があったが、本実施形態の洋上風力発電施設では鉛直荷重と水平荷重を直接基礎3とアースアンカー4により独立に支持する構造としたことから、直接基礎3には水平荷重に対する耐力やタワー1の転倒防止を見込む必要がなく、それ故に充分に簡略な直接基礎3を設けることで充分である。
【0015】
そして、上述したように従来一般の洋上風力発電施設の施工に際しては頑強で大規模なケーソン基礎や杭基礎の構築が必要であることから、必然的にその基礎の施工に多大の工期と工費を要し、またそのために大がかりで特殊な土木機材も必要としていたのであるが、本実施形態の洋上風力発電施設は上記のように簡略な直接基礎3とアースアンカー4とを並設するものであることから、この施設全体の施工もたとえば以下の手順で容易にかつ効率的に行うことが可能である。
すなわち、本実施形態の洋上風力発電施設の施工に際しては、図1に示すように海底地盤面上に単なる平板状の直接基礎3を施工した後にその直接基礎3上に簡便な作業足場6を自立させた状態で設置し、その作業足場6上からの作業により直接基礎3上へのタワー1の立設工程を適宜実施しつつ、それとの並行作業により、あるいはタワーの施工工程と相前後して、直接基礎3の周囲の海底地盤に対してアースアンカーの定着孔7を削孔し、その定着孔7にアースアンカー4の一端部を挿入していけば良い。そして、図2に示すように定着孔7内にグラウト材を充填してアースアンカーの一端部を海底地盤に対して定着するとともに、少なくともアースアンカー4の他端部を定着するべき位置までタワー1の施工が進捗した時点でアースアンカー4の他端部をタワー1に対して定着すれば良い。
【0016】
そのような施工方法によれば、簡略な直接基礎3を設けること以外には作業足場6上から在来工法によってアースアンカー4を施工するだけで良く、したがって海上に簡易な作業足場6を設けるだけで何等特殊な工法や大がかりな土木機材を必要とせず、充分な工費削減と工期短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態である洋上風力発電施設の施工途中の状態を示す概要図である。
【図2】同、完成状態を示す概要図である。
【図3】同、他の実施形態である洋上風力発電施設の概要図である。
【符号の説明】
【0018】
1 タワー
2 風車
3 直接基礎
4 アースアンカー
5 ピン支承
6 作業足場
7 定着孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底面より立設して海面上に突出させたタワーの頂部に風車を設けてなる洋上風力発電施設であって、
当該施設全体の鉛直荷重を支持可能な直接基礎が海底面に設置されて、該直接基礎上にタワーが設置されるとともに、
前記直接基礎の周囲の海底地盤と前記タワーとの間に複数のアースアンカーが放射状に設置されて、該アースアンカーにより当該施設全体に作用する水平荷重が支持されてなることを特徴とする洋上風力発電施設。
【請求項2】
請求項1記載の洋上風力発電施設であって、
タワーの基端が直接基礎に対して相対回転可能な状態でピン接合されてなることを特徴とする洋上風力発電施設。
【請求項3】
請求項1または2記載の洋上風力発電施設の施工方法であって、
海底面に直接基礎を施工した後、該直接基礎上方の海面上に作業足場を設置し、該作業足場上から直接基礎上にタワーを立設するとともに、タワーの立設工程と相前後して前記作業足場上から直接基礎の周囲の海底地盤に定着孔を削孔して該定着孔内にアースアンカーの一端部を定着し、少なくともタワーの基部を施工した段階で該アースアンカーの他端部をタワーの基部に定着することを特徴とする洋上風力発電施設の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−111406(P2008−111406A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296016(P2006−296016)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】