説明

洋上高圧ガス配管構造

【課題】温度条件の過剰仕様を改善して最適化するとともに、配管重量の低減や施工性の向上を実現できる洋上高圧ガス配管構造を提供する。
【解決手段】ガスの液化及び/または液化ガスの再ガス化を行う装置を備えた浮体設備に配設されて気化したガスを取り扱う洋上高圧ガス配管構造において、洋上高圧天然ガス配管14の配管素材として2相ステンレス材を用い、配管素材の溶接部20に、1層目にティグ(TIG)溶接層21を形成した後、炭酸ガスアーク溶接層22とティグ溶接層21とを交互に形成した多層溶接が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば再ガス化装置を備えたLNG船や天然ガス液化精製装置を備えた浮体設備等のように、洋上で高圧ガスを取り扱う装置に適用される洋上高圧ガス配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洋上において液化天然ガス(LNG)を取り扱う装置(設備)を備えた浮体、すなわちLNG液化装置やLNG再ガス化装置を備えたLNG船等の浮体設備(FLNG;Floating Liquefied Natural Gas)が知られている。このような浮体設備の具体例としては、LNG再ガス化装置を備えたLNG船やLNG液化精製装置を備えた浮体等がある。
LNG再ガス化装置を備えているLNG船としては、たとえばFSRU(Floating Storage and Re−gasification Vessel)や、SRV(Shuttle and Re−gasification Vessel)が知られている。
【0003】
浮体設備においては、LNG等が気化した高圧ガスを取り扱う洋上高圧ガス配管(以下、「高圧LNG配管」と呼ぶ)の耐圧強度、耐食性、高圧ガス漏洩時耐低温性を考慮した材質の選定が行われている。標準的な高圧LNG配管には、既存技術であるLNG運搬船の低圧(Max.10BarG)液化天然ガス/天然ガス配管向けとして実績のあるSUS316L(JIS)を適用している。
また、LNG受入用の配管や設備を構築する際に用いられる低温液化ガスの配管構造としては、下記の特許文献に開示された異種材料を溶接する従来技術が知られている。この従来技術は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる配管の間に、インバーからなる配管を溶接するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−103631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来技術において、高圧LNG配管の材質にSUS316Lを選択しているのは、耐極低温(〜−196℃)までの仕様を重視したためであるが、設計温度が常温(〜−0℃)の高圧LNG配管には過剰な仕様となる。
また、SUS316Lは、その材質強度がそれほど高くないため、高圧状態(Max.140BarG)に対応するためには配管の肉厚が厚くなる。この結果、SUS316Lを採用した高圧LNG配管は、溶接時間や重量の増加に加えて、工作性の低下が問題となる。
さらに、上述した高圧LNG配管は、一部が海水に没する区画(陸上へのガス払出装置区画内)に適用される場合もある。このため、上述したSUS316Lでは、海水による孔食など耐腐食性の問題が生じてくる。
【0006】
このように、SUS316Lを採用する従来の高圧LNG配管は、設計温度が過剰な仕様となり、配管重量の増大に加えて、溶接時間や工作性のような施工性にも問題を有している。このような背景から、温度条件の過剰仕様を改善するとともに、配管重量の低減や施工性の向上を実現できる洋上高圧ガス配管構造が望まれる。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、温度条件の過剰仕様を改善して最適化するとともに、配管重量の低減や施工性の向上を実現できる洋上高圧ガス配管構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る洋上高圧ガス配管構造は、天然ガスの液化及び/または液化天然ガスの再ガス化を行う装置を備えた浮体設備に配設されて気化したガスを取り扱う洋上高圧ガス配管構造であって、配管素材として2相ステンレス材を用い、前記配管素材の溶接部に、1層目にティグ(TIG)溶接層を形成した後、炭酸ガスアーク溶接層と前記ティグ溶接層とを交互に形成した多層溶接が施されていることを特徴とするものである。
【0008】
このような洋上高圧ガス配管構造によれば、配管素材として2相ステンレス材を用いることで、洋上高圧ガス配管の薄肉化が可能となる。
また、前記配管素材の溶接部に、1層目にティグ(TIG)溶接層を形成した後、炭酸ガスアーク溶接層と前記ティグ溶接層とを交互に形成した多層溶接を施すことにより、溶接部の施工性の確保と低温に対する靭性の確保が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明によれば、洋上高圧ガス配管の過剰な設計温度仕様を解消することで、耐低温性がSUS316Lに対して劣る2相ステンレス材を採用することで、配管肉厚の薄肉化により配管重量を低減し、現場での施工性を向上することができる。このような洋上高圧ガス配管への2相ステンレス適用は、溶接部の多層溶接により低温状態において必要な靭性を確保しながら、溶接部の施工性向上(溶接時間の短縮)に有効である。
また、2相ステンレス材は、SUS316Lと比較して塩水濃度の高い雰囲気や海水に対する耐腐食性が高いので、たとえばLNG船等のように海洋上で使用される浮体設備に配設される洋上高圧ガス配管に適用すれば、耐久性や信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る洋上高圧ガス配管構造の一実施形態を示す図で、(a)はLNG再ガス化装置を備えたLNG船(浮体設備)に本発明の洋上高圧ガス配管構造を適用した例を示す概略構成図、(b)は多層溶接を施した2相ステンレス材の溶接部構造を示す断面図である。
【図2】LNG液化装置を備えたLNG船(浮体設備)に本発明の洋上高圧ガス配管構造を適用した例を示す概略構成図である。
【図3】本発明で採用した2相ステンレス材(SUS329J4L)及び従来素材(SUS316L)について、圧力毎に必要となる配管の肉厚を示す比較図である。
【図4】シャルピー衝撃試験の試験片を示す図であり、(a)は開先部のみティグ溶接を施して残りの全てに炭酸ガスアーク溶接(CO溶接)を施した場合のシャルピー衝撃試験片、(b)は4層の多層溶接を施した場合の試験片である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る洋上高圧ガス配管構造について、その一実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは液化天然ガス(LNG)を用いて記載するが、用いられるガスはこれに限らない。
図1(a)には、洋上において液化天然ガス(LNG)を取り扱う再ガス化装置や液化精製装置等を備えた浮体設備の一例として、LNG船10が示されている。このLNG船10は、LNGタンク11内に貯蔵されているLNGをガス化した高圧の天然ガスを陸上パイプライン等の船外設備へ供給するものであり、甲板等の船内適所にはLNG再ガス化装置12を備えている。
【0012】
LNGタンク11内のLNGは、再ガス化して陸上施設等に送り出す場合、図示しないLNGポンプによりLNG配管13を通ってLNG再ガス化装置12まで導かれる。
LNG再ガス化装置12は、液体のLNGを気化させて高圧の天然ガスを生成する装置であり、ここで生成された高圧の天然ガスは、LNG船10内に配設された洋上高圧天然ガス配管(以下、「高圧LNG配管」と呼ぶ)14を通って船外へ送り出される。この高圧LNG配管14は、LNGを流す耐極低温(〜−196℃)仕様のLNG配管13とは異なり、通常の運転状態において常温(〜−0℃)の天然ガスを高圧状態(Max.140BarG)で流すものである。なお、LNG配管13の配管素材には、従来と同様に、SUS316Lまたは同等品が使用されている。
【0013】
図示のLNG船10は、船首側に天然ガスを船外へ送り出すため、船体を上下に貫通するガス払出装置区画15を備えている。このガス払出装置区画15は、海面位置付近まで海水が侵入する空間であり、上述した高圧LNG配管14は、海水に接するガス払出装置区画15を通って配設される。なお、図中の符号16は高圧LNG配管14の先端部に取り付けられた接続器具であり、たとえば陸上施設側の受入配管端部に設けられた接続器具との接続に使用される。
【0014】
本実施形態では、高圧LNG配管14に適用する配管素材として、2相ステンレス材を採用する。2相ステンレス材は、オーステナイト及びフェライトの二相組織を持つ二相ステンレス鋼よりなる配管素材であり、強い耐蝕性を有している。
2相ステンレス材の具体例をあげると、SUS329J4L(JIS)、S32506(ANSI)、SUS329J3L(JIS)、S32205(ANSI)及びこれらの相当材がある。
このような2相ステンレス材は、従来素材のSUS316Lと比較して材質強度が高いため、配管の肉厚を薄くすることが可能になる。
【0015】
図3は、2相ステンレス材(SUS329L4L)及びSUS316Lについて、同一の圧力条件で必要な配管肉厚(船級規則により計算した最低必要肉厚)を示す比較図である。この比較図によれば、配管径や圧力条件にかかわらず、2相ステンレス材の配管肉厚を半分以下に低減可能なことが分かる。
このような配管肉厚の半減により、溶接開先断面積を25%以下に低減できるため、高圧LNG配管14の配管溶接に要する施工時間の短縮が可能になる。
【0016】
また、高圧LNG配管14に2相ステンレス材を使用すると、従来のSUS316Lと比較して、船舶特有の雰囲気に対する耐腐食性、すなわち、塩分濃度の高い外気による腐食に対して耐腐食性が向上するという利点もある。
また、高圧LNG配管14は、たとえばガス払出装置区画15において海水に没する部分があるため、従来素材のSUS316Lと比較して、海水に対する耐腐食性が向上するという利点もある。
【0017】
一方、上述した2相ステンレス材は、耐低温性を考慮していない材質であるから、高圧天然ガスが漏洩した場合、溶接部の靭性が問題となる。高圧LNG配管14は、内部流体(高圧天然ガス)の初期条件を0℃、115BarGと仮定した場合、漏洩時の配管温度は約−14℃まで低下することがある。このため、靭性を検証するシャルピー衝撃試験の指定試験温度を−20℃に設定すると、2相ステンレス材を使用した高圧LNG配管14の場合、溶接部を全てティグ(TIG)溶接とすれば十分な衝撃値(27J以上)の確保が可能である。
【0018】
ところで、溶接部の全てをティグ溶接にすると溶接作業時間が過大になるため、工作性を考慮すればLNG船10のような船舶へ適用することは困難な状況にある。このため、高圧LNG配管14の溶接部は、ティグ溶接と比較して溶接作業時間を短縮できる炭酸ガスアーク溶接(CO溶接)との組合せが望ましい。
しかし、たとえば図4(a)に示すように、開先部のみティグ(TIG)溶接を適用し、残りの全てにCO溶接を適用した溶接部30から採取した試験片31でシャルピー衝撃試験を実施した場合、熱影響部(HAZ)及び境界部(BOND)では問題がないものの、溶接金属部(DEPO)では、指定試験温度の−20℃にて要求衝撃値を満足できないことが判明した。なお、この試験で使用した材料は、板厚tを22mmとしたSUS329J4Lの厚板である。
【0019】
そこで、本実施形態の高圧LNG配管14では、たとえば図1(b)に示すように、2相ステンレス材の配管素材14a,14a間を連結する溶接部20に、1層目にティグ溶接層21を形成した後、炭酸ガスアーク溶接層22とティグ(TIG)溶接層21とを交互に形成した多層溶接が施されている。この場合、開先側の第1層目をティグ溶接層21とすることで良好なビード(裏波)を形成し、以下炭酸ガスアーク溶接層22及びティグ溶接層21を肉厚方向へ交互に形成した多層溶接を施工する。
【0020】
また、上述した図1(b)の溶接部20は、第1層目となるティグ溶接層21の上に、3層の炭酸ガスアーク溶接層22と2層のティグ(TIG)溶接層21とを形成し、最も外側の最終層を炭酸ガスアーク溶接層22としているが、多層溶接の層数や最終層については、特に限定されることはなく、諸条件に応じて適宜選択すればよい。
【0021】
ここで、多層溶接を施工する場合に好適な各溶接層の厚さを例示すると、1層目のティグ溶接層21は、3〜5回程度ティグ溶接を行って5mm程度の厚さとし、2層目及び4層目の炭酸ガスアーク溶接層22は、2回程度のCO溶接を行って6mm程度の厚さとし、3層目及び5層目のティグ溶接層21は、3回程度のティグ溶接を行って1mm程度の厚さとし、最終層(6層目)の炭酸ガスアーク溶接層22は、5層目のティグ溶接層21を覆い隠す程度とする。
なお、上述した多層溶接は、溶接時間を短縮するため、必要な靭性を確保できる範囲内において、できるだけ炭酸ガスアーク溶接層22の割合を増すことが望ましい。
【0022】
このような多層溶接を採用することにより、たとえば図4(b)に示すような4層の多層溶接を施した溶接部30Aから試験片31Aを採取し、図4(a)と同様の条件でシャルピー衝撃試験を実施した場合、熱影響部(HAZ)及び境界部(BOND)は勿論のこと、上述した溶接金属部(DEPO)でも指定試験温度(−20℃)における要求衝撃値(27J以上)を満足でき、問題が解消されていることを確認できた。
【0023】
上述したシャルピー衝撃試験(シャルピーVノッチ試験)の試験片は、SUS329J4Lの厚板を下記のようにして溶接し、下面2mmの位置から採取したものである。
1)開先形状;60度V開先
2)溶接方法;TIG溶接+CO溶接/多層溶接(TIG溶接+CO溶接)
3)溶接方向;立向方向
なお、上記の溶接で使用したワイヤーは、「TIG溶接+CO溶接」の場合がTGS−329E(TIG溶接)及びDW−329M(CO溶接)であり、「多層溶接」の場合がTG−329J4L−40(TIG溶接)及びDFW−329J4L(CO溶接)である。
【0024】
このような高圧LNG配管14を採用することにより、従来のSUS316Lを使用した配管と比較して、下記の効果を得ることができる。
1)2相ステンレス材の採用により、高圧LNG配管14の配管肉厚を概ね50%以上薄くできるため、配管重量の低減とともに、溶接時間の短縮等による工作性の向上が可能になる。
2)高圧LNG配管14の溶接部20は、多層溶接の採用によりCO溶接の割合を増すことで、溶接時間の短縮が可能になる。
3)高圧天然ガスの漏洩により高圧LNG配管14の溶接部20が低温状態化した場合でも、溶接部20に多層溶接を採用することにより、溶接部20は規格要求の靭性値を満足することができる。
4)2相ステンレス材はSUS316Lより耐腐食性が高いため、塩分濃度の高い洋上雰囲気に接する高圧LNG配管14の耐久性や信頼性を増すことができる。
5)2相ステンレス材はSUS316Lより耐腐食性が高いため、高圧LNG配管14は、海水に接するガス払出装置区画15等の特殊区画にも対応可能となる。
【0025】
このように、上述した本実施形態によれば、高圧LNG配管14に2相ステンレス材を採用して溶接部20を多層溶接することにより、従来の過剰な設計温度仕様を解消し、配管肉厚の薄肉化による配管重量の低減が可能となる。そして、このような高圧LNG配管14の薄肉化は、溶接部20を多層溶接することにより、低温に対する十分な靭性を確保しつつ、溶接部20の施工性を向上させることができる。
さらに、2相ステンレス材は、塩水濃度の高い雰囲気や海水に対する耐腐食性がSUS316Lより高いので、たとえばLNG船等のように海洋上で使用される浮体設備に配設される高圧LNG配管14に適用することで、装置の耐久性や信頼性が向上する。
【0026】
ところで、上述した実施形態は、洋上でLNGを取り扱う浮体設備の一例として、再ガス化装置12を備えたLNG船10を例示して説明したが、たとえば図2に示すLNG船10Aのように、LNG液化装置17を備えた浮体設備にも適用可能である。この場合の高圧LNG配管14Aは、陸上施設等の船外から高圧の天然ガスを導入してLNG液化装置17へ導く配管流路であり、上述した高圧LNG配管14と同様に、2相ステンレス材を採用して溶接部20が多層溶接されている。
なお、図2に示すLNG船10Aにおいて、図中の符号13AはLNG配管、18は接続器具であり、図1と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0027】
すなわち、上述した本実施形態の高圧LNG配管14,14Aは、LNG再ガス化装置12を備えたLNG船(SRV)10や、LNG液化装置17を備えたLNG船(FSRU)10A等のように、海洋上でLNGを取り扱う浮体設備(FLNG)で高圧の天然ガスを流すのに好適な配管構造である。
なお、本発明は上述した実施形態の高圧天然ガスに限定されることはなく、たとえば液化石油ガス(LPG)が気化した高圧ガス等を取り扱う配管にも適用可能であるなど、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0028】
10,10A LNG船
11 LNGタンク
12 LNG再ガス化装置
13 LNG配管
14,14A 洋上高圧天然ガス配管(高圧LNG配管)
15 ガス払出装置区画
16,18 接続器具
17 LNG液化装置
20 溶接部
21 ティグ溶接層
22 炭酸ガスアーク溶接層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの液化及び/または液化ガスの再ガス化を行う装置を備えた浮体設備に配設されて気化したガスを取り扱う洋上高圧ガス配管構造であって、
配管素材として2相ステンレス材を用い、
前記配管素材の溶接部に、1層目にティグ(TIG)溶接層を形成したことを特徴とする洋上高圧ガス配管構造。
【請求項2】
前記配管素材の溶接部に、1層目にティグ(TIG)溶接層を形成した後、炭酸ガスアーク溶接層と前記ティグ溶接層とを交互に形成した多層溶接が施されていることを特徴とする請求項1記載の洋上高圧ガス配管構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−176670(P2012−176670A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40370(P2011−40370)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】