説明

洗剤組成物、これを用いてなる洗剤および光触媒機能の付与方法

【課題】 本発明は、消臭、抗菌、防汚などといった光触媒機能を、衣類、シートなどの繊維構造物に付与する手段を提供する。
【解決手段】 本発明は、光触媒を含有する洗剤組成物であって、光触媒がチタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物、チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物、ならびにチタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物であり、かつ当該洗剤組成物中の界面活性剤の量は5〜70質量%、ビルダーの量は10〜90質量%、当該光触媒の量は1〜15質量%、その他残余(合計100質量%)であることを特徴とする洗剤組成物、それを用いた洗剤及び光触媒機能の付与方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗剤組成物および光触媒機能の付与方法に関し、詳しくは消臭、有害成分の分解、抗菌、殺菌、防かび、防汚などの機能を有する光触媒を含有する洗剤組成物、およびこの洗剤組成物を用いて、衣類や布類などを洗濯し、洗濯物に光触媒を付着させて、その機能を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活が豊かになるに連れて快適性を追求する消費者のニーズに応えるべく、消臭、抗菌、防カビ、防汚などの機能を有する衣類、布、シート材などが製品化されている。例えば繊維に、このような機能を付与するためには適当な薬剤などを原糸への練りこみ、紡績工程における処理、染色時や染色後の後処理のいずれかの工程において添加する必要がある。しかし、これらの薬剤による加工処理は繊維の生産性を低下させたり、加工費が高くなるという問題がある。
【0003】
また、薬剤以外にも最近では光触媒を利用して繊維に消臭、抗菌、防汚といった機能を付与する方法が注目されている。光触媒はバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射すると、光励起されて電子と正孔ができ、この電子と正孔により表面にスーパーオキシドや水酸ラジカルが生成し、強い酸化力を発現して、有害物を酸化分解したり菌やカビを死滅させるものである。光触媒は微量の担持で効果が得られ、その効果は半永久的に持続させることができるため前述の薬剤を使用する方法と比較すると優れた方法となる。例えば、特開2000―119958号公報において、光触媒半導体を繊維構造物に付与する方法が提案されている。
【0004】
しかし、光触媒を繊維に適用する場合は、光が照射される繊維の表面に後加工で光触媒を付着させることが好ましいが、光触媒を固定化するためには適当なバインダーが必要となる。有機系のバインダーを利用する場合は、光触媒の強力な酸化力によりバインダーも分解されるため、光触媒粒子の剥離により効果の低下が起こる。一方、無機系のバインダーを使用する場合は、上記問題は起こらないが外観や風合いの低下を招く可能性がある。また、光触媒機能を有した繊維の用途において、病院関連の白衣、布団カバーやシーツに適用することにより各種効能が期待できるが、このような業務用の用途では洗濯耐久性が要求されるため光触媒を繊維に強固に固定化できなければ、光触媒の効果を持続することは難しくなる。
【0005】
【特許文献1】特開2000−119958号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光触媒を衣服や布類などの繊維構造物に適用するにあたり、特別な加工処理を加えないで、消臭、抗菌、防汚などといった光触媒機能を繊維構造物に付与する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究によれば、光触媒を洗剤組成物に配合し、この光触媒含有洗剤組成物を用いて洗濯すると、洗濯物に光触媒機能を付与できることがわかった。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、光触媒を含有する洗濯用洗剤組成物であって、光触媒がチタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物、チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物、ならびにチタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物であり、洗剤組成物中の界面活性剤の量は10〜90質量%、ビルダーの量は10〜90質量%であり、その顆粒の平均粒子径が500〜2000μm、嵩密度が0.5〜1kg/Lであることを特徴とする洗剤用組成物、好ましくは洗濯用洗剤組成物である。
【0008】
また、本発明は、上記洗剤組成物を用いて洗浄を行い、被洗浄物に光触媒を付着させることを特徴とする光触媒機能の付与方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の主たる効果を列挙すると次のとおりである。
(1)本発明の洗剤組成物で衣類やシーツなどの布類を洗濯することにより、洗濯物中に有効量の光触媒を付着させることができる。これにより、洗濯物に有害成分の分解、臭気成分の脱臭、抗菌、殺菌、防かび、防汚などの光触媒機能を付与することができる。
(2)本発明の光触媒機能の付与方法は、従来技術におけるような特別な加工プロセスを必要とせず、極めて簡便なものである。
(3)洗濯により、繰り返して、光触媒を付着させることができる。このため、光触媒の剥離による性能低下を心配する必要がない。
(4)光触媒と繊維との接触は強固ではないため繊維にダメージを与える心配がない。
(5)バインダーなどを用いないので、光触媒機能が十二分に発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によれば、光触媒を含有する洗剤組成物を用いて洗浄を行い、被洗浄物に光触媒を付着させて光触媒機能を付与する。ここで、洗浄の対象物は、通常、繊維構造物であり、この繊維構造物である洗濯物を洗浄、すなわち洗濯して、洗濯物に光触媒機能を付与するものである。なお、繊維構造物とは、織物、編物、不織布などのほかに、帯状物、紐状物、糸状物などの繊維を含むものを意味し、具体的には、衣類、シーツなどを挙げることができる。
本発明の洗剤組成物において、光触媒含有量は、洗剤組成物の1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%である。光触媒含有量が1質量%未満では繊維構造物への付着量が少なくなり十分な光触媒機能が得られなくなり、また15質量%を超えると、界面活性剤やビルダーの含有量が少なくなり、洗剤本来の機能が低下して、洗浄力が不十分となる。
光触媒としては、光触媒として一般に知られているものから適宜選択して使用することができる。代表例としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化タングステンなどの金属酸化物;チタン酸ストロンチウムなど複合酸化物;硫化カドミウム、硫化亜鉛、炭化ケイ素などの化合物のほか、チタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物、チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物、チタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物などを挙げることができる。これらは単独でも、あるいは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0011】
これら光触媒のなかで、化学的に安定であり紫外線照射により強い酸化力を発現する酸化チタンを使用することが好ましい。また、チタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物、チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物、ならびにチタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物は、優れた光触媒性能を有していながら繊維の劣化を抑制する効果を有しているため好適に用いられる(特開2000−254518号公報参照)。
上記二元または三元系複合酸化物の調製方法には、特に制限はなく、既知の方法により調製することができる。具体的には、例えば、前記特開2000−254518号公報に記載の方法により調製することができる。
【0012】
上記二元または三元系複合酸化物のチタン源としては、塩化チタン、硫酸チタンなどの無機チタン化合物やシュウ酸チタン、テトライソプロピルチタネートなどの有機チタン化合物などから、ケイ素源としては、コロイド状シリカ、水ガラス、四塩化ケイ素などの無機ケイ素化合物やテトラエチルシリケートなどの有機ケイ素化合物などから、またジルコニウム源としては、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなどの無機ジルコニウム化合物や酢酸ジルコニウムなどの有機ジルコニウム化合物などから適宜選択して使用することができる。例えば、チタンとケイ素との二元系複合酸化物を調製する代表的な方法を例示すると、次のとおりである。
(1)四塩化チタンをシリカゾルと共に混合し、アンモニアを添加して沈殿を生成せしめ、この沈殿を洗浄、乾燥後に焼成する方法。
(2)四塩化チタンにケイ酸ナトリウム水溶液を添加して沈殿を生成させ、これを洗浄、乾燥後に焼成する方法。
(3)四塩化チタンの水−アルコール溶液にテトラエチルシリケートを添加し加水分解により沈殿を生成させ、これを洗浄、乾燥後に焼成する方法。
上記調製方法のなかでも、方法(1)が特に好ましいものであり、特開平9−70532号公報に示されるような複合酸化物を生成するために高価なアルコキシドを原料とする必要がなく安価で容易な製造方法により優れた光触媒特性を有するチタン−ケイ素二元系複合酸化物を得ることができる。また、チタン源、ケイ素源およびジルコニウム源のモル比を所定量とすることにより、上記と同様にして、チタン系各複合酸化物よりなる光触媒を得ることができる。
【0013】
上記二元または三元系複合酸化物において、チタンの含有量は20〜95モル%、好ましくは50〜85モル%である。また、X線回折による一次粒子径は5〜20nm、好ましくは8〜15nmであり、比表面積は50〜200cm/g、好ましくは100〜180cm/gである。
【0014】
本発明の洗剤組成物において、光触媒を配合する洗剤組成物それ自体については特に制限はなく、一般に知られている洗剤組成物を用いることができる。洗剤組成物中の界面活性剤の量は、通常、5〜70質量%であり、ビルダーの量は10〜90質量%である。必要に応じて、酵素、蛍光剤、漂白剤、香料、ゼオライトなどを配合してもよい。具体的に、本発明の洗剤組成物は、例えば、界面活性剤5〜70質量%、ビルダー10〜90質量%、光触媒1〜15質量%、その他残余(合計100質量%)からなるものである。
上記界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルまたはアルケニルエーテルカルボン酸塩などのアニオン界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルまたはアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのノニオン界面活性剤などを挙げることができる。
上記ビルダーとしては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ゼオライトなどのアルカリ性ビルダー;クエン酸塩、コハク酸塩、ピロリン酸塩、ポリアクリル酸塩、アルミノケイ酸塩などのキレートビルダーなどを挙げることができる。
本発明の洗剤組成物は、通常、混練し、乾燥させて固形物とし、粉砕した後に攪拌造粒機などを用いて顆粒状の洗剤とする。この際、顆粒の平均粒子径が500〜2000μm、嵩密度が0.5〜1.0Kg/L(リットル)となるように調製するのが好ましい。
【0015】
本発明の方法により、光触媒含有洗剤組成物を用いて繊維構造物を洗濯すると、光触媒は、繊維構造物の空隙部などに保持された状態で付着する。このため、光触媒と繊維との接触は強固でなく、繊維自体が変色や脆化などの不具合を発生することはない。
また、洗濯の都度、新たに光触媒を付着することができるので、光触媒をバインダーなどを用いて固定する従来技術を実施する際に発生する、光触媒の剥離による性能低下や洗濯耐久性などの問題が解消される。
【0016】
さらに、光触媒を固定するために樹脂などのバインダーが使用されている場合は、光触媒粒子がバインダーに覆われてガスや菌との接触が不十分になることが考えられるが本発明では光触媒は露出しているため効果的に作用するものである。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(調製例1)
チタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物を以下に述べる方法で調製した。シリカゾル20kg(日産化学製NCS−30)にアンモニア水300kg(濃度25%)と水400kgとを添加して溶液(a)を得た。次に硫酸チタニルの硫酸水溶液180リットル(以下、Lで表示する。)(TiO濃度250g/L、全硫酸濃度1100g/L)を水250kgで希釈して溶液(b)を得た。溶液(a)を攪拌しながら徐々に溶液(b)を滴下して共沈ゲルを生成させ、15時間静置した。得られたゲルをろ過、水洗後、200℃で10時間乾燥し、550℃で6時間焼成した後、ハンマーミルにて粉砕しチタン含有率が85モル%でチタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物の粉体(光触媒TS−1)を得た。得られた粉体のX線回折による一次粒子径、および比表面積を表1に示す。
(調製例2)
チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物を以下に述べる方法で調製した。水1000Lにオキシ塩化ジルコニウム19.3kgを溶解させ、これと硫酸チタニルの硫酸水溶液78L(TiO濃度:250g/L、全硫酸濃度:1100g/L)を混合して混合溶液を得た。次に、この混合溶液を攪拌しながらアンモニア水を徐々に滴下し、pHを7として共沈ゲルを生成し、15時間静置した。得られたゲルをろ過、水洗後、200℃で10時間乾燥し、450℃で6時間焼成してチタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物の粉体(TZ−1)を得た。得られたTZ−1粉体の組成は、Ti/Zrのモル比が80/20であり、X線回折による一次粒子径、および比表面積を表1に示す。
(調製例3)
チタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物を以下に述べる方法で調製した。調製例1におけるチタンおよびケイ素の二元系複合酸化物の調製において、硫酸チタニルの代わりに硫酸チタニルとオキシ塩化ジルコニウムとの混合溶液を用いた以外は同様にして、チタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物の粉体(TSZ−1)を得た。得られたTSZ−1粉体の組成は、Ti/Si/Zrのモル比が80/16/4であり、X線回折による一次粒子径、および比表面積を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施例1)
市販の酸化チタン(石原産業製ST−01、比表面積320m/g)を光触媒として用い、下記の組成で洗剤組成物を配合し、顆粒化して、光触媒含有洗剤組成物を調製した。
(洗剤組成物)
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ(C=10〜13):20質量%
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(C=12、EO=8):15質量%
アクリル酸−マレイン酸共重合体((株)日本触媒製アクアリックTL−300):20質量%
炭酸ナトリウム:15質量%
ケイ酸ナトリウム:10質量%
ゼオライト(東ソー(株)製A−4型ゼオライト):5質量%
光触媒:15質量%
(実施例2〜4)
実施例1において、光触媒として、酸化チタンの代わりに調製例1、2および3でそれぞれ得られた、光触媒TS−1、TZ−1およびTSZ−1を用いた以外は実施例1と同様にして光触媒含有洗剤組成物を調製した。
(比較例1)
実施例1において、光触媒を添加せず、ゼオライトの配合量を20質量%に変更した以外は実施例1と同様にして比較用洗剤組成物を調製した。
【0020】
実施例1〜4および比較例1で得られた洗剤組成物の平均粒子径および嵩密度を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(実施例5)
実施例1〜4および比較例1で得られた洗剤組成物を用いて洗濯試験を実施した。洗濯物としては木綿のシーツを各洗剤を用いて洗濯し、日干しにしたものを30cm角に切断して試験片とした。光触媒の効果を確認するために脱臭試験を実施した。試験方法は光透過性のある3L試験容器に試験片を入れ、初期アセトアルデヒド濃度が10ppmとなるように調整して、ブラックライトを照射(1.0mW/cm)し、5時間後の容器内のガス濃度を測定した。また、参考として、実施例2の試験片を用いてブラックライトを照射せず暗所で5時間保存した場合も試験した。結果を表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
光触媒含有洗剤組成物を用いた試験片では光触媒の効果によりアセトアルデヒドの分解反応が進行している。自然減衰で濃度が低下している、光触媒が添加されていない洗剤や暗所で試験したものと比較すれば効果は明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を含有する洗剤組成物であって、光触媒がチタンおよびケイ素からなる二元系複合酸化物、チタンおよびジルコニウムからなる二元系複合酸化物、ならびにチタン、ケイ素およびジルコニウムからなる三元系複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の複合酸化物であり、かつ当該洗剤組成物中の界面活性剤の量は5〜70質量%、ビルダーの量は10〜90質量%、当該光触媒の量は1〜15質量%、その他残余(合計100質量%)であることを特徴とする洗剤組成物。
【請求項2】
当該洗剤組成物を顆粒状とした洗剤であって、当該顆粒の平均粒子径が500〜2000μm、嵩密度が0.5〜1kg/L(リットル)であることを特徴とする洗剤。
【請求項3】
請求項1の洗濯用洗剤組成物又は請求項2の洗剤を用いて洗濯を行い、被洗濯物に光触媒を付着させることを特徴とする光触媒機能の付与方法。

【公開番号】特開2006−97030(P2006−97030A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287919(P2005−287919)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【分割の表示】特願2001−61962(P2001−61962)の分割
【原出願日】平成13年3月6日(2001.3.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】