説明

洗浄タンクの排水弁装置とその施工方法及びそれに用いるスペーサ部材

【課題】洗浄水排出の際の排出水量を容易に少なく調整し得て節水を果たすことができ、しかもコンパクトな洗浄タンクにも支障無く適用し得て内部干渉等の問題を生じることの無い排水弁装置を提供する。
【解決手段】洗浄タンクの排水弁装置において、タンク底部10及び排水弁18とは別体の部材であって、筒状のスペーサ部54を有するスペーサ部材52を、タンク側の弁座14と排水弁18との間に介装して、閉弁時の排水弁18の位置及び洗浄タンク内の洗浄水の排水高さ位置をスペーサ部54の高さに応じて可変となす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は洗浄タンクの排水弁装置とその施工方法及びそれに用いるスペーサ部材に関し、詳しくは洗浄タンク内の洗浄水の排出水量を調節可能な排水弁装置とその施工方法及びそれに用いるスペーサ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄タンク内部に貯えた洗浄水を排水弁の開弁により排出し、便器洗浄を行う排水弁装置として、従来図9に示すようなものが知られている。
同図において200は洗浄タンクで、その上部に蓋を兼用した手洗鉢202が設けられている。この手洗鉢202からは手洗吐水管204が起立する形態で設けられている。
手洗吐水管204からの手洗水は手洗鉢202に落下した後、手洗鉢202の底部の排水孔を通じて洗浄タンク200内部に落下する。
【0003】
206は洗浄タンク200内部に配設されたボールタップで、浮玉208の昇降に連動して給水及び給水停止を行う。
即ち、浮玉208が下降するとボールタップ206の弁部が開かれて吐水管210を通じ洗浄タンク200内部に給水が行なわれる。
また一方洗浄タンク200内部の水面Wの上昇につれて浮玉208が上昇し、そしてその水面Wが設定満水位に達すると、ボールタップ206の弁部が閉じて給水を停止する。
【0004】
このボールタップ206からはまた、図示しない蛇腹管から成る導水管が延び出していて、その先端部が手洗吐水管204に接続され、洗浄タンク200への給水時に、併せてこの導水管を通じて手洗吐水管204への給水が行われる。
【0005】
洗浄タンク200のタンク底部にはフロート弁から成る排水弁216が設けられており、その排水弁216に対して、洗浄タンク200の壁部200Aに設けられた洗浄ハンドル220と一体に回転するL字状の作用レバー222の先端部が、鎖224を介して連結されている。
この排水弁装置では、洗浄ハンドル220が回転操作されると排水弁216が洗浄タンク200のタンク底部に設けられた弁座(タンク側弁座)218から浮き上がって開弁し、ここにおいて洗浄タンク200内の洗浄水が排水口226を通じて便器に向け排出される。
【0006】
図9に示す洗浄タンク装置において、浮玉208の昇降運動は連動アーム236を介してボールタップ206の弁部に伝えられ、その弁部が開閉動作させられる。
而して浮玉208と連動アーム236とはボルト234にて連結されており、そのボルト234の浮玉208に対するねじ込み量を調節することで、浮玉208の位置を上下に調節することができる。
そしてこれにより、洗浄タンク200内の満水時における洗浄水の貯水量を調節することができる。
【0007】
詳しくは、ボルト234のねじ込み量の調節によって浮玉208の位置を上側に移動させると、洗浄タンク200内への給水の際にボールタップ206の弁部が遅く閉じるようになり、洗浄タンク200内により多くの水が給水される。
また逆に浮玉208の位置を下側に移動させると、洗浄タンク200内への給水の際にボールタップ206の弁部が早く閉じるようになり、洗浄タンク200内への給水量が少なく調節される。
【0008】
従って浮玉208の位置をボルト234により上側又は下側に調節することで、満水時における洗浄水の水面Wの位置を上下に調節することができる。
即ち洗浄タンク200への洗浄水の貯水量を調節することができる。
例えば大洗浄時において10L(リットル)の洗浄水が排出される状態となっているとき、浮玉208の位置を下側に移動させることによってその洗浄水の排出水量を例えば8Lに調節して節水を行うことが可能である。
同様にして現在大洗浄時において8Lの洗浄水が排出される状態となっている場合、浮玉208の位置を更に下側に移動させることによって、洗浄水の排出水量を6Lに調節し、節水を行うといったことも可能である。
【0009】
しかしながらこのようにして洗浄水の排出水量を大幅に少なくした場合、満水時における水面Wの位置が大幅に低下し、これに伴なって排水口226から洗浄水を排出する際の水の勢いが弱くなってしまう。
そしてこれにより便器洗浄の際の洗浄能率が低下し、便器洗浄を良好に行えなくなってしまうといった問題が生ずる。
【0010】
一方、排出する洗浄水の水量を少なくして節水を行うための手段として、ペットボトル等の容器を洗浄タンク内に入れて、それによる排除体積分の水量を節水したり、或いはまた洗浄タンク内に排水弁及び排水口を大きく取り囲む仕切りを設けて、洗浄タンク内の残水量を多くし、節水を行うといったことも行われている。
例えば下記特許文献1には、大型の円形のドラムを排水弁や排水口、更にはオーバーフロー管を取り囲むように設け、それによる節水を行うようになしたものが開示されている。
しかしながらこれら何れの場合にも、近年とみにコンパクト化されている洗浄タンクでは、それら容器や仕切部材等が洗浄タンク内の他の部材と内部干渉してしまい、実際にそれらを洗浄タンク内に設けることが困難であるなど、実際への適用が困難化している。
【0011】
【特許文献1】実開平5−10569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景とし、洗浄水排出の際の排出水量を容易に少なく調整し得て節水を果たすことができ、しかもコンパクトな洗浄タンクにも支障無く適用し得て内部干渉等の問題を生じることの無い、排水弁装置とその施工方法及びそれに用いるスペーサ部材を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1は排水弁装置に関するもので、洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置において、前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材であって、筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とするスペーサ部材を備え、該スペーサ部材を前記タンク側弁座と排水弁との間に介装して、閉弁時の前記排水弁の位置及び前記洗浄タンク内の洗浄水の排水高さ位置を前記スペーサ部の高さに応じて可変となしたことを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記排水弁の脱着構造と同じ脱着構造で前記スペーサ部材が前記タンク底部に取り付けられるようになしてあるとともに、更に同じ脱着構造で前記排水弁が該スペーサ部材に取り付けられるようになしてあることを特徴とする。
【0015】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記スペーサ部材のスペーサ部は前記排水弁と同軸に配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記スペーサ部材のスペーサ部は軸方向に伸縮可能とされていることを特徴とする。
【0017】
請求項5は排水弁装置の施工方法に関するもので、洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置の施工方法であって、前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材であって、筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とするスペーサ部材を用い、該スペーサ部材を前記タンク底部に取り付けた上で該スペーサ部材の上側に前記排水弁を取り付けることで排水弁装置を構築することを特徴とする。
【0018】
請求項6は上記排水弁装置に用いられるスペーサ部材に関するもので、このスペーサ部材は、洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置における該排水弁と前記タンク底部との間に介装される、前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材のスペーサ部材であって、筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とすることを特徴とする。
【0019】
請求項7のものは、請求項6において、前記スペーサ部は軸方向に伸縮可能となしてあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0020】
以上のように請求項1の排水弁装置は、タンク底部及び排水弁とは別体をなすスペーサ部材を、タンク側弁座即ちタンク底部と排水弁との間に介装し、閉弁時の排水弁の位置及び洗浄タンク内の洗浄水の排水高さ位置を、スペーサ部材のスペーサ部の高さに応じて可変となしたもので、本発明によれば、本来排水弁を着座させるためのタンク側弁座と排水弁との間にスペーサ部材を支うだけで、洗浄水排出後の洗浄タンク内の残水高さをスペーサ部の高さに応じて高くすることができ、これにより洗浄水の排出水量を少量化し得て節水を果たすことができる。
またこのスペーサ部材は排水弁やオーバーフロー管等をその外側から大きく取り囲むものでないため、近年のコンパクトな洗浄タンク内にも支障無く設けることができる。即ちタンク内の周辺の他部材との内部干渉を特に生ぜしめることなく設けることができる。
【0021】
従って本発明の排水弁装置は、様々な洗浄タンクに対して適用することが可能であり、各種洗浄タンクに応じて節水を果たすことができる。
或いはまた、現場の状況に応じて洗浄タンク内の残水量即ち洗浄水排出時の排出水量をスペーサ部の高さに応じてコントロールすることができる。
また本発明では、満水時における洗浄水の水面の位置を特に下げること無く節水を行うことができるため、洗浄水の排出時の水の勢いを強く確保でき、従って便器に対する洗浄能力を高く維持することができる。
【0022】
本発明では、排水弁の脱着構造と同じ脱着構造でスペーサ部材をタンク底部に取り付け、更に同じ脱着構造で排水弁をスペーサ部材に取り付けるようになすことができる(請求項2)。
このようにすることで、従来タンク底部のタンク側弁座に着座状態にある排水弁を一旦取り外してそこにスペーサ部材を取り付け、そしてそのスペーサ部材に排水弁を取り付けることで、既にある洗浄タンクにおいて洗浄水の排出水量を簡単に調節することが可能となる。
【0023】
ここでスペーサ部材のスペーサ部は、排水弁と同軸に縦に即ち上下に配置しておくことができる(請求項3)。
このようにスペーサ部材を配置することで、かかるスペーサ部材と洗浄タンク内の他部材との干渉をより効果的に回避することが可能となる。
【0024】
これらの場合において、スペーサ部材のスペーサ部は軸方向に伸縮可能となしておくことができる(請求項4)。
この請求項4によれば、スペーサ部の伸縮によりスペーサ部の高さを変化させることができ、これにより洗浄タンク内の洗浄水の節水量、つまり洗浄水の排出水量を、洗浄タンクの種類や大きさ等に応じて、或いはまた洗浄タンクの設置されている現場の状況に応じて適正に且つ簡単に調節することが可能となる。
【0025】
次に請求項5は排水弁装置の施工方法に関するもので、この請求項5の施工方法によれば、洗浄タンク或いは排水弁装置の設置現場において、洗浄タンクの種類や形態或いは現場の状況に応じて、その設置現場で容易に洗浄水の排出水量の調節作業を行うことができる。
【0026】
請求項6及び請求項7はスペーサ部材に関するもので、これらスペーサ部材を用いることで上記請求項1〜請求項5の発明を容易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図2は比較例として従来の排水弁装置を表しており、同図において10は洗浄タンクのタンク底部で、このタンク底部10には円形の排水口12と、排水口12周りから立ち上がる高さの低い円筒形状の弁座(タンク側弁座)14とが設けられている。
16はタンク底部10に設けられた、後述の排水弁18の取付部であって、タンク底部10から起立する立上り部19と、立上り部19の上端部に設けられた軸部20とを有している。
【0028】
上記排水弁18は、小便時に少量の洗浄水を排出するための小洗浄用のフラッパ弁22と、大便時により多量の洗浄水を排出するための大洗浄用のフロート弁24とから成っている。
そしてそれぞれに鎖26,28の一端が接続され、それら鎖26,28の引上げによってフラッパ弁22,フロート弁24が開弁するようになっている。
尚鎖26には浮玉30が取り付けられ、その浮玉30の浮力がフラッパ弁22に働くようにされている。
【0029】
一方フロート弁24は、全体として円筒形状をなしており、その内側に洗浄水の通路32が形成されている。
また円筒部の周壁部の内部には中空部34が形成されており、フロート弁24が中空構造とされている。
そしてその中空部34に空気が封じ込められ、その空気による浮力がフロート弁24に働くようになっている。
【0030】
フラッパ弁22は、開弁によりフロート弁24の上端開口を開放し、洗浄タンク内の洗浄水をフロート弁24の内側の通路32を通じて排出させる。
また閉弁時にはフロート弁24の上端開口を閉鎖し、通路32を通じての洗浄水の排出を停止させる。
このときフラッパ弁22は、その下面に設けられたゴム等の弾性材から成るシート状のパッキン36をフロート弁24の上端に弾性的に着座させて、フロート弁24の上端開口を水密にシールする。
【0031】
一方フロート弁24の下端部には着座部38が設けられており、そこにゴム等の弾性材から成る円形のシート状のパッキン40が保持されている。
フロート弁24は、このパッキン40を弁座14に弾性的に当接させる状態に弁座14に着座し、排水口12を閉鎖する。
また開弁時には排水口12を開放して洗浄タンク内の洗浄水を排水口12から便器に向けて排出させる。
【0032】
フラッパ弁22及びフロート弁24は、それぞれ弁の本体部から延び出すアーム42,44を一体に有している。
フラッパ弁22のアーム42の先端部の下部には、下向きの弾性嵌合孔48が設けられており、この弾性嵌合孔48をフロート弁24のアーム44に設けられた軸部50に対して下向きに且つ回転可能に弾性嵌合させることで、フラッパ弁22がフロート弁24に取り付けられる。
【0033】
一方フロート弁24のアーム44の先端部の下部にも下向きの弾性嵌合孔46が設けられており、この弾性嵌合孔46を取付部16における軸部20に下向きに且つ回転可能に弾性嵌合させることで、フロート弁24が取付部16に取り付けられる。
即ちこの弾性嵌合孔46を軸部20に弾性嵌合させることで、フロート弁24及びフラッパ弁22から成る排水弁18全体が取付部16を介してタンク底部10に取り付けられる。
【0034】
上記のように図2は比較例として従来の排水弁装置を表しており、これに対して図1及び図3に本実施形態の排水弁装置が表されている。
図1において、52はタンク底部10及び排水弁18とは別体を成すスペーサ部材であって、円筒形状のスペーサ部54と、これから延び出すアーム55とを有している。
ここでスペーサ部54は排水口12及び排水弁18と同軸に配置してある。
アーム55の先端部の下部には下向きの弾性嵌合孔56が設けられている。
スペーサ部材52は、この弾性嵌合孔56を取付部16の軸部20に対して下向きに且つ回転可能に弾性嵌合させることで取付部16に取り付けられる。
尚この弾性嵌合孔56は、排水弁18詳しくはフロート弁24の弾性嵌合孔46と同じ形状のものである。
【0035】
アーム55における弾性嵌合孔56の上側には、軸部58が一体に設けられている。
そしてこの軸部58に対して、フロート弁24の弾性嵌合孔46を下向きに且つ回転可能に弾性嵌合させることで、フロート弁24つまり排水弁18全体がスペーサ部材52に取り付けられている。
【0036】
スペーサ部54には、下部に円筒形状の小径部60が設けられており、上側の大径部が弁座14と同じ大きさ、即ち同じ外径及び内径とされている。
そして上記小径部60の付根部が、段違い形状の着座部(スペーサ側着座部)62とされ、かかる着座部62が弁座14に着座する状態に、スペーサ部材52が取付部16を介してタンク底部10に取り付けられている。
【0037】
而してこの取付状態の下で、即ち着座部62が弁座14に着座した状態の下で、それらの間が小径部60の外周面に保持されたOリング61にて水密にシールされている。
またスペーサ部54は、排水口12を取り囲んで立ち上がる堰を形成し、この堰の高さ即ちスペーサ部54の高さ分だけ、洗浄水排出後に洗浄タンク内に洗浄水を残水させるものとされている。
【0038】
このスペーサ部54の上端部には排水口(スペーサ側排水口)64及び弁座(スペーサ側弁座)66が形成されている。
この排水口64は、フロート弁24の弁座66への着座(排水弁18の閉弁)によって閉鎖され、またフロート弁24の弁座66からの離座(排水弁18の開弁)によって、洗浄タンク内に開放される。
即ち排水弁18の開弁によって、洗浄タンク内に貯えられた洗浄水がスペーサ部54の排水口64、更に洗浄タンク側の排水口12を通じて便器側へと排出される。
ここでスペーサ側の弁座66は、洗浄タンク側の弁座14と基本的に同形状であり、またスペーサ側の排水口64もまた、洗浄タンク側の排水口12と基本的に同形状である。
【0039】
スペーサ部54には、その内部に爪支持部68が設けられており、この爪支持部68から弾性爪70が立ち下がっている。
これら弾性爪70の下端部には、外向きに折れ曲った掛止爪72が設けられており、これら掛止爪72が洗浄タンク側の円筒部73の下端に掛止することで、スペーサ部54が排水口12から抜け防止される。
【0040】
図1の排水弁装置は次のようにして構築することができる。
例えば図2に示すように排水弁18が予めタンク底部10に取り付けられている場合には、先ず排水弁18の弾性嵌合孔46、詳しくはフロート弁24の弾性嵌合孔46を取付部16の軸部20から上向きに外し、排水弁18をタンク底部10から一旦取り外す。
その上で図1に示しているようにスペーサ部材52を、アーム55の弾性嵌合孔56を取付部16の軸部20に下向きに押し込んで弾性嵌合させ、また併せてスペーサ部54の着座部62を弁座14に着座させることによって、タンク底部10に取り付ける。
【0041】
その後、一旦外した排水弁18をスペーサ部材52の上側に取り付ける。
具体的には、排水弁18におけるフロート弁24のアーム44の弾性嵌合孔46を、スペーサ部材52のアーム55に設けられた軸部58に対し下向きに弾性嵌合させる。
ここにおいてスペーサ部材52の上側に排水弁18が取り付いた状態となる。
【0042】
図1及び図2の比較から明らかなように、本実施形態の排水弁装置において、スペーサ部材52のタンク底部10への脱着構造は、排水弁18のタンク底部10への脱着構造と同じ構造となしてある。
このため、排水弁18に代えて簡単にスペーサ部材52をタンク底部10に取り付けることができる。
更にまた、スペーサ部材52に対する排水弁18の脱着構造も、かかる排水弁18のタンク底部10への脱着構造と同じ構造となしてあるため、スペーサ部材52を取り付けた状態で、排水弁18をスペーサ部材52に対しそのまま取り付けることができる。
【0043】
図1に示す排水弁装置においては、図4に示しているように鎖26を引き上げると、フラッパ弁22が開弁して小洗浄が行われる。
一方、図5に示しているように鎖28を引き上げると、フロート弁24即ち排水弁18全体が開弁して大洗浄が行われる。
【0044】
図6は、図1の排水弁装置において洗浄タンク内の洗浄水を排出し終わったときの状態を、図2の排水弁装置と比較して表している。
図6(A)に示しているように図1の排水弁装置では、洗浄タンク内の洗浄水が排出され終わった状態で、洗浄タンク内にはスペーサ部54の高さ分だけ洗浄水が残水する。
一方図6(B)に示しているように図2の排水弁装置では、同様に洗浄タンク内の洗浄水が排出され終わった状態で、洗浄タンク内にはタンク側の弁座14の高さ分だけ洗浄水が残水する。
即ち図1の排水弁装置では、大洗浄時に排出される洗浄水の水量が少量化され、節水が果たされる。
【0045】
以上のような本実施形態の排水弁装置によれば、本来、排水弁18を着座させるためのタンク側の弁座14と排水弁18との間にスペーサ部材52を支うだけで、洗浄水の排出後の洗浄タンク内の残水高さをスペーサ部54の高さに応じて高くすることができ、これにより洗浄水の排出水量を少量化し得て、節水を果たすことができる。
またこのスペーサ部材52は、排水弁18やオーバーフロー管等をその外側から大きく取り囲むものでないため、近年のコンパクトな洗浄タンク内にも支障無く設けることができ、このことによって周辺の他部材との干渉を生じるといった問題は特に生じない。
【0046】
従って本実施形態の排水弁装置は、様々な洗浄タンクに対して適用することが可能であり、各種洗浄タンクに応じて節水を果たすことができる。
或いはまた現場の状況に応じて洗浄タンク内の残水量を、つまり洗浄水排出時の排出水量をスペーサ部54の高さに応じコントロールすることができる。
また本実施形態の排水弁装置は、満水時における洗浄水の水面の位置を特に下げること無く節水を行うことができるため、洗浄水の排出時の水の勢いを強く確保でき、従って便器に対する洗浄能力を高く維持することができる。
【0047】
本実施形態では、排水弁18の脱着構造と同じ脱着構造でスペーサ部材52をタンク底部10に取り付け、更に同じ脱着構造で排水弁18をスペーサ部材52に取り付けるようにしているため、従来タンク底部10のタンク側の弁座14に着座状態にある排水弁18を一旦取り外して、そこにスペーサ部材52を取り付け、そしてそのスペーサ部材52に排水弁18を取り付けることで、簡単に既にある洗浄タンクにおいて洗浄水の排出水量を調節することができる。
またスペーサ部材52のスペーサ部54は排水弁18と同軸に縦に即ち上下に配置してあるため、かかるスペーサ部材52と洗浄タンク内の他部材との干渉をより効果的に回避することができる。
【0048】
また本実施形態の排水弁装置の施工方法によれば、洗浄タンク或いは排水弁装置の設置現場において、洗浄タンクの種類や形態或いは現場の状況に応じて、その設置現場で容易に洗浄水の排出水量の調節作業を行うことができる。
【0049】
図7及び図8は本発明の他の実施形態を示している。
この例は、スペーサ部材52におけるスペーサ部54を軸方向に伸縮可能となし、その高さを連続的に可変となした例である。
詳しくは、この実施形態ではスペーサ部54が、上部54-1と下部54-2とに分割されており、そしてそれらが上部54-1の外周面に形成された雄ねじ74と、下部54-2の内周面に形成された雌ねじ76とによって互いにねじ結合されている。
尚、上部54-1の下端部の外周面にはOリング78が保持されており、このOリング78が、下部54-2の平滑な内周面に対し弾性接触させられることで、それらの間が水密にシールされている。
【0050】
この実施形態では、上部54-1を回転操作することで、上部54-1が下部54-2に対してねじ送りで上下に位置移動させられ、スペーサ部54全体の高さが連続的に変化せしめられる。
従ってこの実施形態では、上部54-1を回転操作してスペーサ部54の高さを変えることで、洗浄タンク内の洗浄水を排出したときの洗浄タンク内の残水量を、そのスペーサ部54の高さ変化に応じて自在に調節することができる。
そのため洗浄タンク内の洗浄水の節水量、つまり洗浄水の排出水量を洗浄タンクの種類や大きさ等に応じて、或いはまた洗浄タンクの設置されている現場の状況に応じて適正に簡単に調節することができる。
【0051】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまで一例示である。
例えば本発明は図9に示すゴム球形式の排水弁を備えた排水弁装置に対して適用することも可能であるし、またその他様々な形態の排水弁装置に適用することが可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態,態様で構成,実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態である洗浄タンクの排水弁装置を示す図である。
【図2】図1の比較例としての従来の洗浄タンクの排水弁装置を示す図である。
【図3】図1の排水弁装置を分解して示す図である。
【図4】図1のフラッパ弁の開閉弁状態を示す図である。
【図5】図1のフロート弁の開閉弁状態を示す図である。
【図6】図1及び図2の排水弁装置を、洗浄タンク内の洗浄水を排出し終わったときの状態で比較して示す図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す図である。
【図8】図7の排水弁装置を分解して示す図である。
【図9】従来の洗浄タンクの排水弁装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 タンク底部
12 排水口
14 弁座(タンク側弁座)
18 排水弁
20,58 軸部
46,56 嵌合孔
52 スペーサ部材
54 スペーサ部
54-1 上部
54-2 下部
62 着座部(スペーサ側着座部)
64 排水口(スペーサ側排水口)
66 弁座(スペーサ側弁座)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置において、
前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材であって、筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とするスペーサ部材を備え、
該スペーサ部材を前記タンク側弁座と排水弁との間に介装して、閉弁時の前記排水弁の位置及び前記洗浄タンク内の洗浄水の排水高さ位置を前記スペーサ部の高さに応じて可変となしたことを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置。
【請求項2】
請求項1において、前記排水弁の脱着構造と同じ脱着構造で前記スペーサ部材が前記タンク底部に取り付けられるようになしてあるとともに、更に同じ脱着構造で前記排水弁が該スペーサ部材に取り付けられるようになしてあることを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記スペーサ部材のスペーサ部は前記排水弁と同軸に配置されていることを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記スペーサ部材のスペーサ部は軸方向に伸縮可能とされていることを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置。
【請求項5】
洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置の施工方法であって、
前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材であって、筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とするスペーサ部材を用い、該スペーサ部材を前記タンク底部に取り付けた上で該スペーサ部材の上側に前記排水弁を取り付けることで排水弁装置を構築することを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置の施工方法。
【請求項6】
洗浄タンクにおけるタンク底部の排水口の周りに形成されたタンク側弁座と、下端部に該タンク側弁座への着座部を有し、該着座部の該タンク側弁座への着座及び上向きの離座によって該排水口を開閉する排水弁と、を有する洗浄タンクの排水弁装置における該排水弁と前記タンク底部との間に介装される、前記タンク底部及び排水弁とは別体の部材のスペーサ部材であって、
筒状のスペーサ部を有し、該スペーサ部の下端部に形成されたスペーサ側着座部を前記タンク側弁座に着座させることによって、該スペーサ部とタンク側弁座との間を水密にシールし且つ該スペーサ部によって前記排水口を取り囲んで立ち上がる堰を形成するとともに、該スペーサ部の上端に形成されたスペーサ側弁座に前記排水弁を着座及び上向きに離座させ、該スペーサ部の上端のスペーサ側排水口を開及び閉とすることを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置用のスペーサ部材。
【請求項7】
請求項6において、前記スペーサ部は軸方向に伸縮可能となしてあることを特徴とする洗浄タンクの排水弁装置用のスペーサ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−19655(P2008−19655A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193347(P2006−193347)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】