説明

洗浄タンク装置及び水洗式便器

【課題】便器洗浄を良好に行うことができる洗浄タンク装置及び水洗式便器を提供する。
【解決手段】水洗式便器に備えられる洗浄タンク装置10は、便鉢2及び便鉢2の下流側に連通する便器排水路3を有する便器本体1に連通する排水口12が設けられた洗浄タンク本体11を備えている。排水口12はフロート弁20により開閉される。洗浄タンク本体11には、ボールタップ30により洗浄水が供給される。洗浄タンク本体11は、第1貯留部14と第2貯留部15とを有している。第2貯留部15は、第1連通孔16Aが貫設された隔壁16により、上貯留部15A及び下貯留部15Bの上下に区画されている。下貯留部15Bは第1貯留部14に連通し、上貯留部15Aは吸排気路8を介して便器排水路3に接続可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄タンク装置及び水洗式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の水洗式便器が開示されている。この水洗式便器は、便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体と、洗浄タンク装置とを備えている。洗浄タンク装置は、便鉢に連通する排水口が設けられた洗浄タンク本体と、排水口を開閉するフロート弁と、洗浄タンク本体に洗浄水を供給する給水装置とを備えている。洗浄タンク本体内には、軸方向が上下方向になるように中空管が配置されている。中空管は、下端が洗浄タンク本体内に開口し、上端が洗浄タンク本体内に貯留される洗浄水の最高水位よりも上方まで伸びている。中空管の上端は吸排気通路を介して便器排水路に連通されている。
【0003】
この水洗式便器では、便器洗浄を行うためにフロート弁が開弁されると、洗浄タンク本体内の洗浄水の水位が低下するとともに、中空管内の水位も低下するため、便器排水路の空気が吸排気管を介して中空管に吸引される。これにより、便鉢から便器排水路に流入する洗浄水は勢いを増し、増加する。このため、サイホン作用が確実に発生し、汚物を便器本体外に排出することができる。
【0004】
【特許文献1】実開平5−57080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の水洗式便器では、洗浄タンク本体内の洗浄水の水位の低下と同じように中空管内の水位は低下する。このため、便器洗浄が開始され、洗浄タンク本体からの洗浄水の流出が終了するまでの間、中空管は便器排水路の空気を略一定の強さで吸引する。このため、この水洗式便器では、便器洗浄途中で便器排水路の空気の吸引を強くしてサイホン作用を強化させることができず、便器本体からの汚物の排出性能を向上させる効果が小さい。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便器洗浄を良好に行うことができる洗浄タンク装置及び水洗式便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の洗浄タンク装置は、便鉢及び該便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体に連通する排水口が設けられた洗浄タンク本体と、該排水口を開閉する排水弁と、該洗浄タンク本体に洗浄水を供給する給水装置とを備えた洗浄タンク装置において、
前記洗浄タンク本体は、第1貯留部と、第1連通孔が貫設された隔壁により、上貯留部及び下貯留部の上下に区画された第2貯留部とを有し、
該下貯留部は該第1貯留部に連通し、該上貯留部は吸排気路を介して前記便器排水路に接続可能であることを特徴とする。
【0008】
この洗浄タンク装置では、排水弁が開弁され、洗浄タンク本体に貯留された洗浄水が排水口から便器本体に流出して便器洗浄が行われる。この便器洗浄の初期においては、主に第1貯留部に貯留された洗浄水が便器本体に流出する。この間、第2貯留部において、上貯留部に貯留された洗浄水は、第1連通孔の流動抵抗を受けながら、下貯留部にゆっくりと流下する。このため、第2貯留部に貯留された洗浄水の減少は少ない。よって、第2貯留部に貯留された洗浄水の減少により便器排水路から吸引される空気も僅かである。
【0009】
その後、上貯留部に貯留された洗浄水の全てが第1連通孔を通じて下貯留部に流下すると、洗浄水に比べて空気は第1連通孔を通過する際の流動抵抗が小さいため、第1連通孔から空気が勢いよく下貯留部に流入し、下貯留部に貯留された洗浄水は一気に流出する。また、下貯留部に貯留された洗浄水が一気に減少するため、便器排水路から空気が一気に吸引される。つまり、排水口から便器本体に流出する洗浄水の流量を増加させつつ、便器排水路からの空気の吸引流量も増加させることができる。このため、サイホン作用を強化するとともに継続させることができ、便器本体からの汚物の排出を確実に行うことができる。
【0010】
したがって、本発明の洗浄タンク装置は、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0011】
第2貯留部は、洗浄タンク本体内に軸方向が上下方向になるように配置された筒体と、筒体の上下方向の中間部の内側面に設けられた隔壁とにより形成され得る。この場合、洗浄タンク本体内に隔壁を有する筒体を配置するだけで、洗浄タンク本体は第1貯留部と第2貯留部とを容易に有することができる。また、既存の洗浄タンク本体に対しても、筒体を後付けすることにより、便器洗浄性能を向上させることができる。
【0012】
隔壁は第2連通孔が貫設され、第2連通孔は下貯留部に収納されたフロートにより閉塞可能であり得る。この場合、上貯留部に貯留された洗浄水の全てが第1連通孔を通じて下貯留部に流下すると、下貯留部に貯留された洗浄水の水位が低下し始める。これにより、フロートが下降し、第2連通孔が開放されるため、第2連通孔を介しても、空気が勢いよく下貯留部に流入することができる。このため、下貯留部に貯留された洗浄水はさらに勢いよく流出する。また、下貯留部に貯留された洗浄水がさらに勢いよく減少するため、便器排水路から空気がより勢いよく吸引される。つまり、排水口から便器本体に流出する洗浄水の流量をさらに増加させつつ、便器排水路からの空気の吸引流量もさらに増加させることができる。よって、サイホン作用をさらに強化するとともに継続させることができ、便器本体からの汚物の排出をより確実に行うことができる。
【0013】
第1連通孔には、開口面積を可変可能な絞り機構が設けられ得る。この場合、上貯留部に貯留された洗浄水が第1連通孔を通じて下貯留部に流下し終えるまでに要する時間を変更することができる。このため、排水口から便器本体に流出する洗浄水の流量を増加させるタイミング及び便器排水路からの空気の吸引流量を増加させるタイミングを容易に変更することができ、これらタイミングを便器洗浄に最適にすることができる。
【0014】
吸排気路は吸排気タンクを介装し、吸排気タンクの内部は変形可能な隔膜によって第1室と第2室とに区画され、第1室は上貯留部に連通し、第2室は便器排水路に連通し得る。この場合、第2貯留部に貯留された洗浄水が減少することにより第1室内の空気が吸排気路を介して第2貯留部に吸引される。これにより、隔膜が変形し、第1室の容量が減少するとともに、第2室の容量が増加するため、便器排水路の空気を第2室内に吸引することができる。また、隔膜により、上貯留部と便器排水路とは完全に遮断されているため、便器排水路内の臭気を含んだ空気等が洗浄タンク本体内へ拡散されることを確実に防止することができる。
【0015】
本発明の水洗式便器は、便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体と、請求項1乃至5のいずれか1項記載の洗浄タンク装置とを備え、
該便器排水路に設けられた吸排気口に前記吸排気路を介して前記上貯留部が接続され、
該便鉢の上部開口の周縁に設けられたリム通水路に前記排水口が連通されていることを特徴とする。
【0016】
この水洗式便器では、便器洗浄の初期に第1貯留部に貯留された洗浄水がリム通水路に流出する。このため、大流量の洗浄水が便鉢及び便器排水路に流入し、サイホン作用を発生させることができる。この後、所定のタイミングで、排水口からリム通水路へ流出する洗浄水の流量が増加するとともに、便器排水路からの空気の吸引流量も増加する。よって、サイホン作用が強化されるとともに継続されるため、便鉢内に残留する汚物、特に浮遊汚物を効果的に排出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の洗浄タンク装置を備えた水洗式便器を具体化した実施例1〜4を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1の水洗式便器は、図1に示すように、便器本体1と洗浄タンク装置10とを備えている。便器本体1は、便鉢2と、便鉢2の下流側に連通する便器排水路3とを有している。便鉢2と便器排水路3とにより封水部4が形成されている。封水部4よりも下流側の便器排水路3には、上方に向けて開口する吸排気口3Aが設けられている。吸排気口3Aは、後述する第2貯留部15の上貯留部15Aに吸排気路8を介して接続されている。便器排水路3の下流端には、径寸法を狭める絞り部6が設けられている。便鉢2の上部開口の内周縁には、リム通水路5が形成されている。
【0019】
洗浄タンク装置10は、排水口12が下面に設けられた洗浄タンク本体11と、排水口12を開閉する排水弁であるフロート弁20と、洗浄タンク本体11に洗浄水を供給する給水装置であるボールタップ30とを備えている。
【0020】
洗浄タンク本体11の排水口12は、便器本体1のリム通水路5に洗浄水路7を介して接続されている。洗浄タンク本体11には、後述するフロート弁20よりも下流側の洗浄水路7に一端が接続され、他端が洗浄タンク本体11の洗浄水の最高水位L1よりも上方に伸びて開口するオーバーフロー管13が設けられている。
【0021】
洗浄タンク本体11は、第1貯留部14と、第2貯留部15とを有している。第2貯留部15は、軸方向が上下方向となるように洗浄タンク本体11内に配置された筒体17内に形成されている。筒体17内は、上下方向の中間部の内側面に設けられ、第1連通孔16Aが貫設された隔壁16により、上貯留部15Aと下貯留部15Bとに区画されている。筒体17の下端開口は洗浄タンク本体11の下面近傍で下方に向いて開口し、下貯留部15Bと第1貯留部14とは連通している。また、筒体17の上端には、開口18Aが貫設された上部壁18が設けられている。開口18Aは吸排気路8を介して便器排水路3の吸排気口3Aに接続している。このように、第1貯留部14と第2貯留部15とを洗浄タンク本体11に容易に形成することができる。また、既存の洗浄タンク本体に対しても、筒体17を取り付けることにより、第1貯留部14と第2貯留部15とを容易に形成することができる。
【0022】
吸排気路8は、吸排気タンク80を介装している。吸排気タンク80内は、変形可能な隔膜81によって第1室82と第2室83とに区画されている。第1室82は上貯留部15Aに連通し、第2室83は便器排水路3に連通している。このように、隔膜81により、上貯留部15Aと便器排水路3とは完全に遮断されているため、便器排水路3内の臭気を含んだ空気等が洗浄タンク本体11内へ拡散されることを確実に防止することができる。
【0023】
フロート弁20は、玉鎖23が連結された弁体であるゴム玉21と、排水口12に設けられた弁座22とを有している。玉鎖23の上端は、図示しない洗浄レバーに連結されている。洗浄レバーが操作されると、ゴム玉21は引き上げられ、排水口12から洗浄水が流出する。
【0024】
ボールタップ30は、先端が洗浄タンク本体11内に洗浄水を吐水すると水口31Aである給水管31と、給水管31の途中に設けられた開閉弁32と、先端が浮玉33に接続され、開閉弁32を開閉するアーム34とから構成されている。給水管31の上流端は便器本体1が据え置かれるトイレルームに引き出された水道管に接続された図示しない止水栓に接続されている。洗浄タンク本体11内に貯留された洗浄水の水位が最高水位L1より低下し、浮玉33が下降すると、開閉弁32は開弁され、吐水口31Aから洗浄水が洗浄タンク本体11内に吐水される。
【0025】
このような構成を有する実施例1の水洗式便器における便器洗浄について説明する。
【0026】
便器洗浄の待機状態では、図1に示すように、洗浄タンク本体11には、洗浄水が最高水位L1まで貯留されている。このため、ボールタップ30の開閉弁32は閉弁されている。便器本体1の封水部4は洗浄水で水封されている。吸排気タンク80内は、第1室82の容量が最大にされ、第2室83の容量が最小にされている。
【0027】
この水洗式便器の使用者が用便後、封水部4に存在する沈降汚物E1やトイレットペーパー等の浮遊汚物E2を便器本体1から排出するために図示しない洗浄レバーが操作され、便器洗浄が開始される。
【0028】
図2に示すように、洗浄レバーが操作されると、ゴム玉21が玉鎖23により引き上げられ、弁座22から浮上し、排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に洗浄水が流出する。これにより、第1貯留部14の水位は低下し始める。また、ボールタップ30の浮玉33も下降するため、開閉弁32が開弁され、ボールタップ30の吐水口31Aから洗浄水が洗浄タンク本体11内に吐水される。なお、ボールタップ30の吐水口31Aから供給される洗浄水の流量よりも、排水口12から流出する洗浄水の流量の方が多いため、洗浄タンク本体11内の洗浄水の水位は低下し続ける。
【0029】
図5に示すように、便器洗浄の開始直後(S〜T時点)は、排水口12から流出する洗浄水の流量は急激に増加する。これは、図2に示すように、洗浄タンク本体1の第1貯留部14に貯留された洗浄水が一気に排水口12から流出するためである。第1貯留部14の水位L20は急激に低下する一方、第2貯留部15の上貯留部15Aに貯留された洗浄水は、第1連通孔16Aの流動抵抗を受けながら下貯留部15Bに流下するため、上貯留部15Aの水位L30はゆっくりと低下する。
【0030】
S〜T時点において、排水口12から流出した洗浄水は、リム通水路5から便鉢2内に流下し、便鉢2内の洗浄水の水位を上昇させる一方、封水部4を介して便器排水路3に流入する。便器排水路3に流入した洗浄水は、下流端に設けられた絞り部6により、飛散し、便器排水路3の下流端を塞ぐように水膜を形成する。これにより、便器排水路3内に洗浄水が増加し、サイホン作用が発生する。サイホン作用により、沈降汚物E1等は封水部4から便器排水路3の下流側に確実に排出される。
【0031】
第1貯留部14の容量は、図5に示すように、サイホン作用が発生した(T時点)後に排水口12から流出する洗浄水の流量が減少するように設定されており、第2貯留部15の上貯留部15Aに貯留された洗浄水の全てが第1連通孔16Aを通じて下貯留部15Bに流下するまで(U時点)、便鉢2内の水位は低下する。
【0032】
T〜U時点において、便鉢2内の水位が低下する間に、図3に示すように、沈降汚物E1等は便器本体1から排出される。便鉢2内の水位が低下するに従いサイホン作用による汚物の排出能力は弱まるため、トイレットペーパー等の浮遊汚物E2は、便鉢2の下部に残留してしまうことがある。この浮遊汚物E2を排出するために、便器洗浄の途中でリム通水路5から便鉢2内に流下する洗浄水を増水させ、かつ便器排水路3からの空気の吸引を強力にすることによりサイホン作用による汚物の排出能力を強化する。このようにして、浮遊汚物E2を便器本体1から排出する。
【0033】
つまり、図5に示すU時点において、第2貯留部15の上貯留部15Aの洗浄水の全てが第1連通孔16Aを通じて下貯留部15Bに流下する。すると、図4に示すように、洗浄水に比べて空気は第1連通孔16Aを通過する際の流動抵抗が小さいため、第1連通孔16Aから空気が勢いよく下貯留部15Bに流入し、下貯留部15Bに貯留された洗浄水は一気に流出する。また、下貯留部15Bに貯留された洗浄水が一気に減少するため、吸排気路8を介して吸排気タンク80の第1室82の空気が第2貯留部15に一気に吸引される。これにより、隔膜81が変形し、第1室82の容量が減少するとともに、第2室83の容量が増加する。このため、便器排水路3の空気が第2室83内に勢いよく吸引される。よって、浮遊汚物E2は便器排水路3へ押し込まれるように排出されるとともに、U〜X時点において、便鉢2内の水位は僅かに上昇する。これにより、サイホン作用は継続され、汚物排出能力が強化されるため、浮遊汚物E2を便器本体1から確実に排出することができる。
【0034】
したがって、実施例1の洗浄タンク装置10を備えた水洗式便器は、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0035】
その後、図5に示すように、X〜Y時点において、排水口12から流出する洗浄水の流量が減少するため、便鉢2内の水位は低下し、Y時点において封水が破封してサイホン作用が終了する。Y〜Z時点において、排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に流出した洗浄水により、便鉢2内の水位は上昇し、覆水が完了する。その後、ゴム玉21は弁座22に着座し、排水口12は封鎖される。タンク本体11内には、水位が最高水位L1になるまでボールタップ30により洗浄水が供給される。これにより、水洗式便器は便器洗浄の待機状態に復帰する。
【実施例2】
【0036】
実施例2の水洗式便器は、図6に示すように、便器本体1と洗浄タンク装置40とを備えている。洗浄タンク装置40は、洗浄タンク本体11と、フロート弁20と、ボールタップ30とを備えている。
【0037】
洗浄タンク本体11は、第1貯留部14と第2貯留部15とを有している。第2貯留部15は、軸方向が上下方向となるように洗浄タンク本体11内に配置された筒体17内に形成されている。筒体17内は、上下方向の中間部の内側面に設けられ、第1連通孔46A及び第2連通孔46Bが貫設された隔壁46により、上貯留部15Aと下貯留部15Bとに区画されている。
【0038】
第2連通孔46Bの下方の下貯留部15Bには、球状のフロート41が収納されている。下貯留部15Bの第2連通孔46Bの下方には、フロート41が第2連通孔46Bの下方に位置するように規制する規制壁47が設けられている。規制壁47は、筒体17の内側面から伸び、開口47Hを有する水平壁47Aと、水平壁47Aの端部から上方に伸びた垂直壁47Bとから構成されている。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0039】
実施例2の水洗便器における便器洗浄について説明する。
【0040】
便器洗浄の待機状態では、洗浄タンク本体11には、洗浄水が最高水位L1まで貯留されている。このため、第2連通孔46Bはフロート41により閉塞されている。ボールタップ30の開閉弁32は閉弁されている。便器本体1の封水部4は洗浄水で水封されている。吸排気タンク80内は、第1室82の容量が最大にされ、第2室83の容量が最小にされている。
【0041】
この水洗式便器の使用者が用便後、封水部4に存在する沈降汚物E1やトイレットペーパー等の浮遊汚物E2を便器本体1から排出するために図示しない洗浄レバーが操作され、便器洗浄が開始される。
【0042】
図7に示すように、洗浄レバーが操作されると、ゴム玉21が玉鎖23により引き上げられ、弁座22から浮上し、排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に洗浄水が流出する。これにより、第1貯留部14の水位は低下し始める。また、ボールタップ30の浮玉33も下降するため、開閉弁32が開弁され、ボールタップ30の吐水口31Aから洗浄水が洗浄タンク本体11内に吐水される。なお、ボールタップ30の吐水口31Aから供給される洗浄水の流量よりも、排水口12から流出する洗浄水の流量の方が多いため、洗浄タンク本体11内の洗浄水の水位は低下し続ける。
【0043】
便器洗浄の開始直後は、実施例1の水洗式便器と同様、排水口12から流出する洗浄水の流量は急激に増加し、サイホン作用が発生する。これにより、沈降汚物E1等は封水部4から便器排水路3の下流側に確実に排出される。
【0044】
サイホン作用が発生した後は排水口12から流出する洗浄水の流量は減少し、第2貯留部15の上貯留部15Aに貯留された洗浄水の全てが第1連通孔46Aを通じて下貯留部15Bに流下するまで、便鉢2内の水位は低下する。
【0045】
この間、図8に示すように、沈降汚物E1等は便器本体1から排出される。便鉢2内の水位が低下するに従いサイホン作用による汚物の排出能力は弱まるため、トイレットペーパー等の浮遊汚物E2は、便鉢2の下部に残留してしまうことがある。この浮遊汚物E2を排出するために、便器洗浄の途中でリム通水路5から便鉢2内に流下する洗浄水を増水させ、かつ便器排水路3からの空気の吸引を強力にすることによりサイホン作用による汚物の排出能力を強化する。このようにして、浮遊汚物E2を便器本体1から排出する。
【0046】
つまり、第2貯留部15の上貯留部15Aの洗浄水の全てが第1連通孔16Aを通じて下貯留部15Bに流下する。すると、図9に示すように、洗浄水に比べて空気は第1連通孔16Aを通過する際の流動抵抗が小さいため、第1連通孔46Aから空気が勢いよく下貯留部15Bに流入するとともに、フロート41が下降し、第2連通孔46Bが開放されるため、第2連通孔46Bからも空気が勢いよく下貯留部15Bに流入する。このため、下貯留部15Bに貯留された洗浄水は勢いよく一気に流出する。また、下貯留部15Bに貯留された洗浄水が勢いよく一気に減少するため、吸排気路8を介して吸排気タンク80の第1室82の空気が第2貯留部15に一気に吸引される。これにより、隔膜81が変形し、第1室82の容量が減少するとともに、第2室83の容量が増加する。このため、便器排水路3の空気が第2室83内に勢いよく吸引される。よって、浮遊汚物E2は便器排水路3へ押し込まれるように排出されるとともに、便鉢2内の水位は僅かに上昇する。これにより、サイホン作用は継続され、汚物排出能力が強化されるため、浮遊汚物E2を便器本体1から確実に排出することができる。
【0047】
したがって、実施例2の洗浄タンク装置40を備えた水洗式便器も、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0048】
その後、実施例1の水洗式便器と同様、排水口12から流出する洗浄水の流量が減少するため、便鉢2内の水位は低下し、封水が破封してサイホン作用が終了する。その後に排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に流出した洗浄水により、便鉢2内の水位は上昇し、覆水が完了する。その後、ゴム玉21は弁座22に着座し、排水口12は封鎖される。タンク本体11内には、水が最高水位L1になるまでボールタップ30により洗浄水が供給される。これにより、水洗式便器は便器洗浄の待機状態に復帰する。
【実施例3】
【0049】
実施例3の水洗式便器の洗浄タンク装置50では、図10に示すように、上貯留部15Aと下貯留部15Bとを区画する隔壁56に貫設された第1連通孔56Aが筒体17の内側面の近傍に設けられている。また、上部壁18には、第1連通孔66Aの上方に下端が開口したネジ孔52が設けられている。ネジ孔52には、軸部にパッキン51Aが嵌められ、先端がとがったボルト51が螺合している。ボルト51の先端部は、ネジ孔52の下端開口から突出し、第1連通孔56Aに対して進退可能である。このため、図11に示すように、ボルト51は、ねじ込み具合により第1連通孔56Aの開口面積を無段階で微調整可能である絞り機構を構成している。他の構成は、実施例1と同様であり、図示を省略するとともに、同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0050】
この洗浄タンク装置50を備えた水洗式便器では、洗浄タンク本体11の上方からボルト51のねじ込み具合を操作して、第1連通孔56Aの開口面積を微調整することができる。これにより、上貯留部15Aに貯留された洗浄水が第1連通孔56Aを通じて下貯留部15Bに流下し終えるまでに要する時間を変更することができる。このため、排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に流出する洗浄水の流量を増加させるタイミング及び便器排水路3からの空気の吸引流量を増加させるタイミングを容易に変更することができ、これらタイミングを便器洗浄に最適にすることができる。また、この水洗式便器の便器洗浄は、実施例1の水洗式便器と同様であり、他の作用効果は実施例1と同様である。
【0051】
したがって、実施例3の洗浄タンク装置50を備えた水洗式便器も、便器洗浄を良好に行うことができる。
【実施例4】
【0052】
実施例4の水洗式便器の洗浄タンク装置60では、図12及び図13に示すように、上貯留部15Aと下貯留部15Bとを区画する隔壁66に湾曲した長円形状の第1連通孔66Aが貫設されている。隔壁66には、第1連通孔66Aに隣接して設けられた貫通孔66Bに軸部62を挿通させた遮蔽板61が取り付けられている。遮蔽板61は、第1連通孔66Aに重なるように軸部62を中心に回動可能である。このため、図13に示すように、遮蔽板61は、回動具合により第1連通孔66Aの開口面積を無段階で調整可能である絞り機構を構成している。軸部62の下部表面には、回動具合が目視できるように矢印が印刷されている。他の構成は、実施例1と同様であり、図示を省略するとともに、同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0053】
この洗浄タンク装置60を備えた水洗式便器では、遮蔽板61の回動具合を調整して、第1連通孔66Aの開口面積を微調整することができる。これにより、上貯留部15Aに貯留された洗浄水が第1連通孔56Aを通じて下貯留部15Bに流下し終えるまでに要する時間を変更することができる。このため、排水口12からリム通水路5を介して便鉢2内に流出する洗浄水の流量を増加させるタイミング及び便器排水路3からの空気の吸引流量を増加させるタイミングを容易に変更することができ、これらタイミングを便器洗浄に最適にすることができる。また、この水洗式便器の便器洗浄は、実施例1の水洗式便器と同様であり、他の作用効果は実施例1と同様である。
【0054】
したがって、実施例4の洗浄タンク装置60を備えた水洗式便器も、便器洗浄を良好に行うことができる。
【0055】
以上において、本発明を実施例1〜4に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨に逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない・
【0056】
例えば、筒体17は第1貯留部14と区画することができればよいため、その外形状は、円形状、角形状等の任意の形状であってもよい。また、筒体17は、上貯留部15A及び下貯留部15Bの容量が所定の大きさに確保することができれば良いため、上下方向で形状が変化したり、上下方向の寸法が左右(前後)方向の寸法よりも短くなったりしてもよい。
第2貯留部15を洗浄タンク本体11の側壁を利用して洗浄タンク本体11と一体的に形成してもよい。
吸排気路8は吸排気タンク80を介装せず、上貯留部15Aと便器排水路3の吸排気口3Aとを接続してもよい。
排水口12を開閉するフロート弁は電気的に駆動されてもよい。この場合、洗浄レバーは、フロート弁を電気的に駆動する駆動装置のスイッチにしてもよい。
洗浄タンク本体11に洗浄水を供給する給水装置は電気的に駆動されてもよい。
便器排水路3の下流端に絞り部6を設けなくてもよい。また、便器排水路3の下流端には、洗浄水が滞留する滞留部を設けてもよい。
便器本体1にジェット口を設け、洗浄タンク本体11の排水口12から流出する洗浄水をジェット口から便器排水路3に向けて噴出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1の水洗式便器を示す模式図である。
【図2】実施例1の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図3】実施例1の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図4】実施例1の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図5】実施例1の洗浄タンク本体の排水口からの流出流量を示すグラフである。
【図6】実施例2の水洗式便器を示す模式図である。
【図7】実施例2の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図8】実施例2の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図9】実施例2の水洗式便器の便器洗浄を示す模式図である。
【図10】実施例3の洗浄タンク装置を示す概略図である。
【図11】実施例3の洗浄タンク装置の一部拡大図である。
【図12】実施例4の洗浄タンク装置を示す概略図である。
【図13】実施例4の洗浄タンク装置の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0058】
1…便器本体
2…便鉢
3…便器排水路
3A…吸排気口
8…吸排気路
10、40、50、60…洗浄タンク装置
11…洗浄タンク本体
12…排水口
14…第1貯留部
15…第2貯留部
15A…上貯留部
15B…下貯留部
16…隔壁
16A…第1連通孔
16B…第2連通孔
17…筒体
20…フロート弁(排水弁)
30…ボールタップ(給水装置)
41…フロート
51…ボルト(絞り機構)
61…遮蔽板(絞り機構)
80…吸排気タンク
81…隔膜
82…第1室
83…第2室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢及び該便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体に連通する排水口が設けられた洗浄タンク本体と、該排水口を開閉する排水弁と、該洗浄タンク本体に洗浄水を供給する給水装置とを備えた洗浄タンク装置において、
前記洗浄タンク本体は、第1貯留部と、第1連通孔が貫設された隔壁により、上貯留部及び下貯留部の上下に区画された第2貯留部とを有し、
該下貯留部は該第1貯留部に連通し、該上貯留部は吸排気路を介して前記便器排水路に接続可能であることを特徴とする洗浄タンク装置。
【請求項2】
前記第2貯留部は、前記洗浄タンク本体内に軸方向が上下方向になるように配置された筒体と、該筒体の上下方向の中間部の内側面に設けられた前記隔壁とにより形成されている請求項1記載の洗浄タンク装置。
【請求項3】
前記隔壁は第2連通孔が貫設され、該第2連通孔は前記下貯留部に収納されたフロートにより閉塞可能である請求項1又は2記載の洗浄タンク装置。
【請求項4】
前記第1連通孔には、開口面積を可変可能な絞り機構が設けられている請求項1乃至3のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項5】
前記吸排気路は吸排気タンクを介装し、
該吸排気タンク内は、変形可能な隔膜によって第1室と第2室とに区画され、
該第1室は前記上貯留部に連通し、該第2室は前記便器排水路に連通する請求項1乃至4のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項6】
便鉢及び該便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体と、請求項1乃至5のいずれか1項記載の洗浄タンク装置とを備え、
該便器排水路に設けられた吸排気口に前記吸排気路を介して前記上貯留部が接続され、
該便鉢の上部開口の周縁に設けられたリム通水路に前記排水口が連通されていることを特徴とする水洗式便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−275364(P2009−275364A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125157(P2008−125157)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】