説明

洗浄タンク装置及び水洗式便器

【課題】大型化せず、便器洗浄を良好に行なうことができる洗浄タンク装置及び水洗式便器を提供する。
【解決手段】洗浄タンク装置10は、便器排水路3内の空気を吸引する吸気装置40を備えている。吸気装置40は、吸気室41、吸気口42、弁室43、弁体44、フロート部材45及び吸着部材47を保持した保持部46を具備している。吸気室41は、側面部41Aと上面部41Bとにより形成されている。吸気口42は、吸気室41に連通し、上下方向に開口している。弁室43は、便器排水路3に吸気路6を介して連通している。弁体44は、弁室43内に収納され、吸気口42を開閉可能である。フロート部材45は、貯水室25内における洗浄水の最高水位よりも低い設定水位以下で下降する。保持部46は、フロート部材45の昇降に連動して昇降し、吸着部材47を保持している。吸着部材47は弁体44と引き付け合って吸気口42を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄タンク装置及び水洗式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の洗浄タンク装置が開示されている。この洗浄タンク装置は、洗浄タンク本体と、給水装置と、便器排水路内の空気を吸引する吸気装置とを備えている。洗浄タンク本体は、開閉弁により開閉可能な排水口を有し、便器本体の洗浄に利用される洗浄水を貯留可能である。洗浄タンク本体の排水口は、便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を有する便器本体に連通されている。給水装置は洗浄タンク本体内に洗浄水を供給可能である。吸気装置は、洗浄タンク本体内に配置され、上端が閉鎖され下端が開口したブースと、ブース内であって洗浄タンク本体内の最高水位より上方まで延びた吸気路とから構成されている。吸気路は便器排水路に連通されている。
【0003】
この洗浄タンク装置では、排水口の開閉弁を開弁し、便器洗浄を開始すると、洗浄タンク本体内に貯留された洗浄水が排水口から便器本体に流出する。これにより、洗浄タンク本体内の洗浄水の水位は低下する。この際、吸気装置のブース内では、吸気路を介して便器排水路内の空気が吸引されて、洗浄水の水位が低下する。つまり、ブース内の洗浄水の水位の低下にしたがって吸気装置は便器排水路内の空気を吸引する。便器洗浄の際に吸気装置が便器排水路内の空気を吸引することによって、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させ、そのサイホン作用を促進させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−42217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の洗浄タンク装置では、便器洗浄が開始されてから所定量の洗浄水が洗浄タンク本体の排水口から便器本体へ流出し、排水口の開閉弁が閉弁されるまでの間、ブース内の洗浄水の水位は略一定の速度で低下する。つまり、この吸気装置は便器洗浄の開始と同時に便器排水路内の空気の吸引を開始する。このため、洗浄タンク本体内から流出した洗浄水により便器排水路内へ洗浄水が流入する前から吸気装置は便器排水路内の空気を吸引することになる。便器排水路内にサイホン作用を発生させるためには、便器排水路内に所定流量の洗浄水が流入する状態でなければならず、それ以前に便器排水路内の空気を吸引してもサイホン作用の発生に寄与するものではない。
【0006】
また、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させるためには、サイホン作用の発生時に吸気装置によって便器排水路内の空気を勢い良く吸引することが望ましい。この吸気装置において空気を勢い良く吸引するためにはブースの容量を大きくしなければならない。このため、便器排水路内の空気を勢い良く吸引しようとすれば洗浄タンク本体が大型化してしまうおそれがある。
【0007】
また、この吸気装置では、便器洗浄の開始から終了までの間、便器排水路内の空気は略一定の強さで吸引される。このため、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させるために吸気装置のブースの容量を大きくして便器排水路内の空気を勢い良く吸引する場合には、便器洗浄の後半においても吸気装置が便器排水路内の空気を勢い良く吸引することになる。便器洗浄の後半において便器排水路内に流入する洗浄水の流量が減少した状態で便器排水路内の空気を勢い良く吸引しすぎると、便器排水路内の洗浄水が不足し、サイホン作用が早期に終了するおそれがある。この場合、便器本体からの汚物等の排出が不十分になるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、大型化せず、便器洗浄を良好に行なうことができる洗浄タンク装置及び水洗式便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の洗浄タンク装置は、便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を備えた便器本体を洗浄する洗浄水を貯留し、開閉弁により開閉可能な排水口を有した洗浄タンク本体と、洗浄タンク本体内に洗浄水を供給する給水装置と、便器排水路内の空気を吸引する吸気装置とを備えた洗浄タンク装置であって、
前記吸気装置は、連通口が貫設され、前記洗浄タンク本体内を区画した側面部と、この側面部の上端に連結された上面部とにより形成された吸気室と、
連通口より上方に設けられ、吸気室に連通し、上下方向に開口した吸気口と、
吸気口の周縁部から上方に延びて形成され、前記便器排水路に吸気路を介して連通する弁室と、
弁室内に収納され、吸気口を開閉可能な弁体と、
前記吸気室と区画されて前記洗浄タンク本体内に形成され、前記給水装置から直接的に洗浄水が供給される貯水室内に配置され、貯水室内における洗浄水の最高水位よりも低い設定水位以下で下降するフロート部材と、
フロート部材の昇降に連動して前記弁室に沿って昇降し、前記弁体との間隔が設定範囲内に近づくと引き付け合って前記吸気口を開放する吸着部材を保持した保持部とを具備していることを特徴とする。
【0010】
この洗浄タンク装置では、便器洗浄の開始時、吸気口は弁体により閉鎖されている。洗浄タンク本体の排水口の開閉弁が開弁され、便器洗浄が開始されると、洗浄タンク本体内に貯留された洗浄水が排水口から便器本体へ流出し、貯水室内の洗浄水の水位が低下し始める。一方、吸気室内の洗浄水の水位は、吸気口が弁体により閉鎖されているため、最高水位のまま低下しない。その後、貯水室内の洗浄水の水位が設定水位以下に低下するとフロート部材が下降し始める。フロート部材の下降に伴って、吸着部材を保持した保持部も下降する。保持部とともに下降する吸着部材は、弁体が設定範囲内に近づくと弁体と引き付け合う。これにより、弁体が吸気口から移動し、吸気口は開放される。吸気口が開放されるまで、吸気室内には空気が流入しないため、吸気室内の洗浄水の水位は最高水位のまま低下していない。このため、吸気口が開放された時には、吸気室内と貯水室内とは大きな水頭差が生じている。この水頭差により吸気口が開放されると吸気室内の洗浄水の水位は急激に低下する。これにより、この吸気装置は便器排水路内の空気を勢い良く吸引する。このように、この洗浄タンク装置では、吸気装置を大型化しなくても、便器排水路内の空気を勢い良く吸引することができる。
【0011】
また、便器洗浄が開始されてから吸気口が開放されるまでにタイムラグが設けられるため、吸気口が開放された時点において洗浄タンク本体内から便器本体へ流出した洗浄水により、便器排水路内に所定流量の洗浄水が流入している状態にすることができる。つまり、便器排水路内に所定流量の洗浄水が流入している状態で吸気装置が便器排水路内の空気を吸引するため、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させることができる。
【0012】
また、吸気口が開放された後、時間の経過とともに吸気室内の洗浄水の水位と貯水室内の洗浄水の水位との高低差は小さくなるため、吸気装置の吸引流量も徐々に小さくなる。このため、便器洗浄の後半において、吸気装置の吸引流量が大きすぎることが原因で便器排水路内のサイホン作用が終了してしまうことを防止し、サイホン作用を継続させることができる。
【0013】
また、この吸気装置では、所定量の洗浄水が洗浄タンク本体の排水口から便器本体へ流出し、排水口の開閉弁が閉弁されるまで、便器排水路内の空気を吸引し続ける。このように、サイホン作用が発生している間、吸気装置は便器排水路内の空気を吸引し続け、便器排水路内の空気を少なくしている。これにより、便器排水路内の洗浄水の流れが空気の残留により邪魔され難く、便器排水路内の汚物等の搬送を良好に行なうことができる。
【0014】
したがって、本発明の洗浄タンク装置は、大型化せず、便器洗浄を良好に行なうことができる。
【0015】
前記弁体と前記吸着部材とは、一方が永久磁石等の磁力を有する物体から形成され、他方が鉄等の強磁性体から形成され得る。この場合、吸気装置の吸気口の開閉機構を弁体と非接触で構成することができるため、吸気装置の空気漏れを防止することができる。
【0016】
前記吸気口は、前記吸気室内における洗浄水の最高水位よりも上方に形成され得る。この場合、吸気口及び弁体が洗浄水に水没しないため、洗浄水に添加される洗浄液等により吸気口と弁体とが固着してしまうことを防止することができる。また、吸気室内において洗浄水の水位の変化を最大に利用することができるため、吸引装置が便器排水路から空気を充分に吸引することができる。
【0017】
前記フロート部材は、前記吸気室を形成する前記側面部の外側面に案内されて昇降し得る。この場合、フロート部材をスムーズに昇降させるためのガイドを別に設ける必要がなくなる。このため、洗浄タンク本体の大型化を防止することができるとともに、洗浄タンク装置の製造を容易に行なうことができる。
【0018】
前記フロート部材と前記保持部とは、長さ調整可能な支持部材を介して連動可能であり得る。この場合、支持部材の長さを変更することにより、フロート部材が下降する水位を変更することができる。つまり、吸気装置が便器排水路内の空気の吸引を開始するタイミングを変更することができる。このため、水洗式便器の種類に応じて便器排水路内の空気の吸引を最適なタイミングで開始することができ、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させることができる。
【0019】
前記保持部は、最も下降した際、前記吸着部材と前記弁体とが引き付け合うことができない位置に吸着部材を下降させることにより、弁体が前記吸気口を閉鎖し得る。この場合、寒冷地等において洗浄タンク本体の水抜きを行った場合、便器排水路に連通する吸気口を弁体で閉鎖することができる。このため、便器排水路からの臭気の逆流等を防止することができる。
【0020】
前記弁室内には、前記弁体が設定高さ以上に上昇しないように返し部が設けられ、前記保持部が最も上昇した際、弁体は前記吸着部材と引き合わず、前記吸気口を閉鎖し得る。この場合、弁体により吸気口を閉鎖した便器洗浄の開始前の状態に吸気装置を待機させることができる。
【0021】
前記弁体は球形状であり、前記吸気口の周縁上部は内側に傾斜する傾斜面に形成され得る。この場合、弁体により吸気口をスムーズに開閉することができる。
【0022】
本発明の水洗式便器は、便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を備えた便器本体と、上記の洗浄タンク装置とを具備し、
前記便器排水路に吸気路及び前記弁室を介して前記吸気口が連通され、前記便鉢の上部開口の内周縁に設けられたリム通水路に前記排水口が連通されていることを特徴とする。この水洗式便器では、上述したように、洗浄タンク装置が大型化せず、便器洗浄を良好に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の水洗式便器を示す概略図である。
【図2】便器洗浄前の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図3】吸気口が開放される前の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図4】吸気口が開放された直後の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図5】吸気を開始した直後の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図6】吸気途中の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図7】水抜き時の実施例1の吸気装置を示す断面図である。
【図8】便器洗浄前の実施例2の吸気装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の洗浄タンク装置及び水洗式便器を具体化した実施例1及び2を図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<実施例1>
実施例1の水洗式便器は、図1に示すように、便器本体1と便器本体1の後部上面に載置された洗浄タンク装置10とを具備している。便器本体1は便鉢2及び便鉢2の下流側に連通する便器排水路3を備えている。また、便鉢2の上部開口の内周縁にはリム通水路4が設けられている。
【0026】
洗浄タンク装置10は、洗浄タンク本体20、給水装置であるボールタップ30及び吸気装置40を備えている。洗浄タンク本体20は、便器本体1を洗浄する洗浄水を貯留し、開閉弁であるフロート弁21により開閉可能な排水口22を有している。排水口22は、洗浄タンク本体20内であって、後述する貯水室25側の底部に貫設されている。フロート弁21は玉鎖23を介して図示しない洗浄ハンドルに連結されている。排水口22は洗浄水路5を介してリム通水路4に連通されている。便器洗浄の際、用便者等が洗浄ハンドルを操作することにより、フロート弁21が玉鎖23によって引き上げられる。これにより、洗浄タンク本体20内に貯留された洗浄水を排水口22からリム通水路4に流出させることができる。洗浄タンク本体20は、排水口22より下方の洗浄水路5に連通されたオーバーフロー管24を有している。オーバーフロー管24は、後述する貯水室25内であって、その最高水位LA1よりも上方に立ち上げられている。
【0027】
ボールタップ30は、この水洗式便器が設置されるトイレルームに引き出された給水管に接続された吐水管31と、吐水管31に設けられた開閉弁32とを有している。吐水管31は洗浄タンク本体20内に形成された後述する貯水室25内に直接的に洗浄水を吐水可能に設けられている。開閉弁32は、洗浄タンク本体20内であって、貯水室25内の洗浄水の水位の変化にしたがって昇降する浮玉33により開閉駆動される。つまり、浮玉33が下降すると開閉弁32が開弁され、吐水管31から洗浄タンク本体20内の貯水室25内に洗浄水が直接的に吐水される。また、開閉弁32は、貯水室25内の洗浄水の水位が最高水位LA1まで上昇すると、浮玉33の上昇により閉弁する。
【0028】
吸気装置40は、図1〜図7に示すように、吸気室41、吸気口42、弁室43、弁体44、フロート部材45及び吸着部材47を保持した保持部46を具備している。
【0029】
吸気室41は、洗浄タンク本体20内を区画し、上下方向に延びる円筒状の側面部41Aと、この側面部41Aの上端に連結された上面部41Bとにより形成されている。上面部41Bは洗浄タンク本体20内の洗浄水の最高水位(後述する貯水室25の最高水位LA1及び吸気室41内の最高水位LB1)より僅かに上方に配置されている。側面部41Aの下端部には連通口41Cが横方向を向いて貫設されている。洗浄タンク本体20内には吸気室41と区画された貯水室25が形成されている。吸気室41と貯水室25とは連通口41Cを介して連通されている。
【0030】
吸気室41の上面部41Bの中央部には、上方に延びる円筒部41Dが形成されている。円筒部41Dの上端外縁には外側に延びた鍔部41Eが形成されている。円筒部41Dの内側面の中間部には吸気口42が上下方向に開口して設けられた仕切り部42Aが形成されている。吸気口42は吸気室41内における洗浄水の最高水位LB1よりも上方に形成されている。このため、吸気口41及び弁体44が洗浄水に水没せず、洗浄水に添加される洗浄液等により吸気口41と弁体44とが固着してしまうことを防止することができる。また、吸気室41内において洗浄水の水位の変化を最大に利用することができるため、吸引装置40が便器排水路3から空気を充分に吸引することができる。
【0031】
吸気口42の周縁上部は、内側に傾斜する傾斜面に形成され、弁体44の弁座部42Bとされている。このため、弁体44の移動がスムーズに行われ、吸気口42の開閉をスムーズに行うことができる。
【0032】
仕切り部42Aより上方の円筒部41D内には弁室43が形成されている。弁室43の上端開口43Aは吸気路6を介して便器排水路3の上端部に連通されている。弁室43内には、吸気口42を開閉可能な球形状の弁体44が収納されている。弁体44は鉄製の球体の周りを樹脂被膜して形成されている。弁室43の内側面の上部には内側に突出する返し部43Bが設けられている。返し部43Bは、この高さ以上に弁体44が上昇することを防止している。
【0033】
フロート部材45は、吸気室41を形成する側面部41より一回り大きい径を有する円筒形状に形成されている。フロート部材45は、吸気室41を内側に挿通し、貯水室25内に配置されている。フロート部材45の内側面と吸気室41を形成する側面部41Aの外側面との隙間は僅かであるため、フロート部材45は吸気室41を形成する側面部41Aの外側面に案内されて昇降可能である。このため、フロート部材45をスムーズに昇降させるためのガイドを別に設ける必要がなく、洗浄タンク本体20の大型化を防止することができるとともに、洗浄タンク装置10の製造を容易に行なうことができる。
【0034】
保持部46は、中央部に円筒部41Dを挿通する開口が設けられた円盤状の底板部46Aと、底板部46Aの開口に沿って立ち上がった円筒形状の側壁部46Bと、側壁部46Bの上端内縁から内側に延び、中央部に円筒部41Dを挿通する開口が設けられた円盤状の上板部46Cとにより形成されている。底板部46Aは外周縁部の複数個所から下方に延びて設けられた棒状の支持部材45Aを有している。支持部材45Aの下端にはフロート部材45が連結されている。このように形成された保持部46は、フロート部材45の昇降にしたがって、円筒部41Dに沿って昇降可能である。
【0035】
吸着部材47は円環形状の永久磁石により形成されている。吸着部材47の外径は、保持部46の側壁部46Bの内周面の径よりも僅かに小さく形成されている。また、吸着部材47の内径は、円筒部41Dの外周面の径よりも僅かに大きく、かつ鍔部41Eの外径よりも小さく形成されている。吸着部材47は、中央に形成された貫通孔に円筒部41Dが挿通され、保持部46内に配置されている。保持部46の底板部46Aの上面と上板部46Cとの下面との間隔は、吸着部材47の厚さよりも大きく形成されている。
【0036】
このように形成された吸着部材47は円筒部41Dに沿って昇降可能である。つまり、吸着部材47は、鍔部41Eに係止する位置(最上昇位置)まで上昇可能であり、かつ上面部41B上に重ねられた保持部46の底板部46A上に載置された位置(最下降位置)まで下降可能である。吸着部材47は、円筒部41Dに沿って昇降する際、弁体44との間隔が設定範囲内に近づくと弁体44と引き付け合う。これにより、弁体44が移動し、吸気口42が開放される。
【0037】
最上昇位置に位置していた吸着部材47は、フロート部材45の下降にしたがって下降する保持部46の下降によって、下降する。吸着部材47は下降途中で弁体44と引き付け合うことにより弁体44を移動させ、吸気口42が開放される。その際、図5に示すように、吸着部材47は弁体44との間の引力によりその自重によっては下降しない。さらに保持部46が下降し、吸着部材47が弁体44と引き付け合うができなくなる位置に上板部46Cにより押し下げられることにより、吸着部材47は最下降位置に下降させられる。また、弁体44は、吸着部材47と引き付け合うことができないため、吸気口42を閉鎖する位置に移動する。なお、フロート部材45は、貯水室25内における洗浄水の最高水位LA1よりも低い設定水位LA2以下で下降可能である。
【0038】
最下降位置に位置していた吸着部材47は、フロート部材45の上昇にしたがって上昇する保持部46の上昇によって、保持部46の底板部46Aにより押し上げられて上昇する。吸着部材47は上昇途中で弁体44と引き付け合うことにより弁体44を移動させ、吸気口42が開放される。弁体44は返し部43Bより上方に上昇することができないため、吸着部材47が最上昇位置に上昇させられた状態では、弁体44と吸着部材47とは引き付け合わず、弁体44は落下し、吸気口42が閉鎖される。
【0039】
次に、このように構成された水洗式便器の便器洗浄工程を説明する。
【0040】
便器洗浄を開始する前は、図1及び図2に示すように、洗浄タンク本体20内には所定量の洗浄水が貯水されている。つまり、貯水室25内には最高水位LA1まで洗浄水が貯水され、吸気室41内には最高水位LB1まで洗浄水が貯水されている。また、吸気装置40の吸気口42は弁体44により閉鎖されている。フロート部材45は、吸着部材47が鍔部41Eに係止した状態まで上昇しているため、上昇することができず、貯水室25内の洗浄水中に水没している。
【0041】
用便者等により洗浄ハンドルが操作され、便器洗浄が開始されると、フロート弁21が玉鎖23を介して引き上げられ、排水口22が開放される。すると、貯水室25内の洗浄水が排水口22からリム通水路4に流出する。この際、貯水室25内の洗浄水の水位は急激に低下する。一方、吸気室41内の洗浄水は、弁体44によって吸気口42が閉鎖されているため、低下せずに最高水位LB1のままである。
【0042】
その後、貯水室25内の洗浄水が排水口22からリム通水路4に流出し続け、貯水室25内の水位が設定水位LA2以下に低下すると、図3に示すように、フロート部材45が下降し始める。これにより、吸着部材47を保持した保持部46も下降し始める。フロート部材45、保持部46及び吸着部材47が下降し始めた当初では、吸着部材47と弁体44とは、その間隔が設定範囲外であるため引き付け合わない。このため、弁体44によって吸気口42は閉鎖されたままであるため、吸気室41内の洗浄水は低下せず最高水位LB1のままである。
【0043】
さらに、貯水室25内の洗浄水が排水口22からリム通水路4に流出し続け、貯水室25内の洗浄水の水位が低下すると、図4に示すように、フロート部材45、保持部46及び吸着部材47がさらに下降する。これにより、吸着部材47と弁体44とが設定範囲内に近づく。すると、吸着部材47と弁体44とが引き付け合い、弁体44が移動して吸気口42が開放される。吸気口42が開放される時点では、吸気室41内と貯水室25内とは大きな水頭差が生じている。この水頭差により吸気口42が開放されると、図5及び図6に示すように、吸気室41内の洗浄水の水位は急激に低下し、貯水室25内の洗浄水の水位と同じ高さになる。この過程において、吸気装置40は吸気路6を介して便器排水路3内の空気を勢い良く吸引する。このように、この洗浄タンク装置10では、吸気装置40を大型化しなくても、便器排水路3内の空気を勢い良く吸引することができる。
【0044】
また、便器洗浄が開始されてから吸気口42が開放されるまでにタイムラグが設けられるため、吸気口42が開放された時点において洗浄タンク本体20の貯水室25内から便器本体1のリム通水路4に流出した洗浄水により、便器排水路3内に所定流量の洗浄水が流入している状態にすることができる。つまり、便器排水路3内に所定流量の洗浄水が流入している状態で吸気装置40が便器排水路3内の空気を吸引するため、便器排水路3内にサイホン作用を確実に発生させることができる。
【0045】
また、吸気口42が開放された後、時間の経過とともに吸気室41内の洗浄水の水位と貯水室25内の洗浄水の水位との高低差は小さくなるため、吸気装置40の吸引流量も徐々に小さくなる。このため、便器洗浄の後半において、吸気装置40の吸引流量が大きすぎることが原因で便器排水路3内のサイホン作用が終了してしまうことを防止し、サイホン作用を継続させることができる。
【0046】
吸気室41内及び貯水室25内の洗浄水の水位が同じ高さになった後も、吸気室41内及び貯水室25内の洗浄水が排水口22からリム通水路4に流出し続ける。吸気室41及び貯水室25内の洗浄水の水位が連通口41Cの上端より下方に低下してしまう直前にフロート弁21が排水口22を閉鎖する。これにより、吸気装置40は便器排水路3内の空気の吸引を終了する。また、便器排水路3内への洗浄水の供給が減少するため便器排水路内のサイホン作用は終了する。このように、この吸気装置40では、所定量の洗浄水が洗浄タンク本体20の排水口22からリム通水路4に流出し、排水口22がフロート弁21により閉鎖されるまで、便器排水路3内の空気を吸引し続ける。このため、サイホン作用が発生している間、吸気装置40は便器排水路3内の空気を吸引し続け、便器排水路内の空気を少なくしている。これにより、便器排水路3内の洗浄水の流れが空気の残留により邪魔され難く、便器排水路3内の汚物等の搬送を良好に行なうことができる。
【0047】
したがって、実施例1の水洗式便器は、大型化せず、便器洗浄を良好に行なうことができる。
【0048】
フロート弁21が排水口22を閉鎖した後も、ボールタップ30の吐水管31から貯水室25内に直接的に洗浄水が吐水される。吸気装置40の吸気口42は開放されているため、連通口41Cを介して吸気室41内にも洗浄水は流入する。このため、貯水室25内及び吸気室41内の洗浄水の水位は同じ高さで上昇する。貯水室25内の洗浄水の水位の上昇にしたがって、フロート部材45は上昇する。フロート部材45が上昇している間は、吸着部材47と弁体44とは引き付け合っており、吸気口42は開放されている。貯水室25内が最高水位LA1となり、吸気室41内が最高水位LB1となると、ボールタップ30の開閉弁32が閉弁される。それと同時に、保持部46の底板部46Aにより、吸着部材47が最上昇位置に上昇される。この状態では、弁体44が返し部43Bより上方に上昇することができないため、吸気部材47と弁体44とは引き付け合うことができず、弁体44が落下して吸気口42が閉鎖される。また、フロート弁21が排水口22を閉鎖してからボールタップ30の開閉弁32が閉弁されるまでの間、ボールタップ30から分岐された図示しない給水路、オーバーフロー管24及び洗浄水路5を介してリム通水路4に洗浄水が供給され、便鉢2内に水封が形成される。このように、便器洗浄が終了するとともに、図1及び図2に示すように、便器洗浄の開始前の状態に水洗式便器を待機させることができる。
【0049】
この水洗式便器において、洗浄タンク本体20の水抜きを行った場合、図7に示すように、洗浄タンク本体20内の洗浄水が殆んど排出されてしまうため、保持部46の底板部46Aが上面部41B上に重なる状態となる。このため、吸着部材47は、保持部46の上板部46Cにより弁体44と引き付け合うことができなくなる位置に押し下げられ、最下降位置に下降させられる。また、弁体44は、吸着部材47と引き付け合うことができないため、吸気口42を閉鎖する位置に移動する。よって、洗浄タンク本体20の水抜き時に便器排水路3からの臭気の逆流等を防止することができる。
【0050】
<実施例2>
実施例2の水洗式便器は、図8に示すように、吸気装置140の支持部材145が長さ調整可能に構成されている。他の構成は、実施例1と同様であり、同一の構成については同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0051】
支持部材145は、保持部46の底板部46Aの外周縁部の複数個所から下方に延びた第1支持部材145Aと、第1支持部材145Aに連結され、下端がフロート部材45に連結された複数の第2支持部材145BAとから構成されている。第1支持部材145Aには垂直方向に並んだ2つのボルト孔N1、N2が設けられている。また、第2支持部材145Bの上端部にはボルトBが挿通される貫通孔Hが設けられている。
【0052】
第1支持部材145Aの上側のボルト孔N1又は下側のボルト孔N2を選択して、第1支持部材145Aと第2支持部材145Bとを連結すると、支持部材145の長さを2段階に調整することができる。これにより、フロート部材45が下降する貯水室25内の洗浄水の水位を変更することができる。これにより、吸気装置140が便器排水路3内の空気の吸引を開始するタイミングを変更することができる。このため、水洗式便器の種類に応じて便器排水路3内の空気の吸引を最適なタイミングで開始することができ、便器排水路内にサイホン作用を確実に発生させることができる。
【0053】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1及び2に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1及び2では、弁体が鉄製であり、吸着部材が永久磁石により形成されていたが、弁体を永久磁石により形成し、吸着部材を鉄製にしてもよい。
(2)実施例1及び2では、弁体が球体であったが、弁体は円盤状、円錐状又はフラッパー形状であってもよい。
(3)実施例1及び2では、吸気室が洗浄タンク本体とは別体であって円筒状の側面部により形成されていたが、吸気室は洗浄タンク本体と一体に形成されていてもよい。また、吸気室の側面部は円筒状でなくてもよい。
(4)実施例2では、支持部材の長さが2段階に調整可能であったが、支持部材は多段階さらには連続的に長さを調整可能にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は洗浄タンク装置を有する水洗式便器に利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…便器本体
2…便鉢
3…便器排水路
6…吸気路
10…洗浄タンク装置
20…洗浄タンク本体
21…フロート弁(開閉弁)
22…排水口
25…貯水室
30…ボールタップ(給水装置)
40…吸気装置
41…吸気室
41A…側面部
41B…上面部
41C…連通口
42…吸気口
43…弁室
43B…返し部
44…弁体
45…フロート部材
46…保持部
47…吸着部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を備えた便器本体を洗浄する洗浄水を貯留し、開閉弁により開閉可能な排水口を有した洗浄タンク本体と、洗浄タンク本体内に洗浄水を供給する給水装置と、便器排水路内の空気を吸引する吸気装置とを備えた洗浄タンク装置であって、
前記吸気装置は、連通口が貫設され、前記洗浄タンク本体内を区画した側面部と、この側面部の上端に連結された上面部とにより形成された吸気室と、
連通口より上方に設けられ、吸気室に連通し、上下方向に開口した吸気口と、
吸気口の周縁部から上方に延びて形成され、前記便器排水路に吸気路を介して連通する弁室と、
弁室内に収納され、吸気口を開閉可能な弁体と、
前記吸気室と区画されて前記洗浄タンク本体内に形成され、前記給水装置から直接的に洗浄水が供給される貯水室内に配置され、貯水室内における洗浄水の最高水位よりも低い設定水位以下で下降するフロート部材と、
フロート部材の昇降に連動して前記弁室に沿って昇降し、前記弁体との間隔が設定範囲内に近づくと引き付け合って前記吸気口を開放する吸着部材を保持した保持部とを具備していることを特徴とする洗浄タンク装置。
【請求項2】
前記吸気口は、前記吸気室内における洗浄水の最高水位よりも上方に形成されていることを特徴とする請求項1記載の洗浄タンク装置。
【請求項3】
前記フロート部材は、前記吸気室を形成する前記側面部の外側面に案内されて昇降することを特徴とする請求項1又は2記載の洗浄タンク装置。
【請求項4】
前記フロート部材と前記保持部とは、長さ調整可能な支持部材を介して連動可能であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項5】
前記保持部は、最も下降した際、前記吸着部材と前記弁体とが引き付け合うことができない位置に吸着部材を下降させることにより、弁体が前記吸気口を閉鎖することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項6】
前記弁室内には、前記弁体が設定高さ以上に上昇しないように返し部が設けられ、前記保持部が最も上昇した際、弁体は前記吸着部材と引き付け合わず、前記吸気口を閉鎖することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項7】
前記弁体は球形状であり、前記吸気口の周縁上部は内側に傾斜する傾斜面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の洗浄タンク装置。
【請求項8】
便鉢及び便鉢の下流側に連通する便器排水路を備えた便器本体と、請求項1乃至7のいずれか1項記載の洗浄タンク装置とを具備し、
前記便器排水路に吸気路及び前記弁室を介して前記吸気口が連通され、前記便鉢の上部開口の内周縁に設けられたリム通水路に前記排水口が連通されていることを特徴とする水洗式便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−99268(P2011−99268A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255367(P2009−255367)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】