説明

洗浄性能予測方法及び基板洗浄方法

【課題】洗浄条件を変えることによって、洗浄効果が如何に変化するかを、実際に洗浄を行うことなく、容易に予測することができるようにする。
【解決手段】第1洗浄条件で基板を洗浄する時の、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸からの距離と面積換算として定義した相対速度量とをXY座標としてプロットした第1洗浄点までの第1距離を求め、第2洗浄条件で基板を洗浄する時の、前述と同様な第2洗浄点までの第2距離を求め、第2距離が第1距離よりも長いときに第2洗浄条件で基板を洗浄した方が第1洗浄条件で基板を洗浄した時よりも洗浄後に残るディフェクト数が少ないと予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液の存在下で、半導体ウエハ等の基板の表面に円柱状で長尺状に延びるロール洗浄部材を接触させながら、基板及びロール洗浄部材を共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する時の洗浄性能予測方法及び基板洗浄方法に関する。
【0002】
本発明の洗浄性能予測方法及び基板洗浄方法は、例えば半導体ウエハ表面を洗浄したり、LCD(液晶ディスプレイ)装置、PDP(プラズマディスプレイ)装置及びCMOSイメージセンサ等を製造する時に基板表面を洗浄したりする時に適用される。
【背景技術】
【0003】
近年の半導体デバイスの微細化に伴い、基板上に物性の異なる様々な材料の膜を形成してこれを洗浄することが広く行われている。例えば、基板表面の絶縁膜内に形成した配線溝を金属で埋めて配線を形成するダマシン配線形成工程においては、ダマシン配線形成後に化学機械的研磨(CMP)で基板表面の余分な金属を研磨除去するようにしており、CMP後の基板表面には、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などの水に対する濡れ性の異なる複数種の膜が露出する。
【0004】
CMPによって、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などが露出した基板表面には、CMPに使用されたスラリの残渣(スラリ残渣)や金属研磨屑などが存在し、基板表面の洗浄が不十分となって基板表面に残渣物が残ると、基板表面の残渣物が残った部分からリークが発生したり、密着性不良の原因になるなど信頼性の点で問題となる。このため、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などの水に対する濡れ性の異なる膜が露出した基板表面を高い洗浄度で洗浄する必要がある。
【0005】
CMP後の基板表面を洗浄する洗浄方法として、洗浄液の存在下で、半導体ウエハ等の基板の表面に円柱状の長尺状に延びるロール洗浄部材(ロールスポンジまたはロールブラシ)を接触させながら、基板及びロール洗浄部材を共に一方向に回転させて基板の表面を洗浄するスクラブ洗浄が知られている(特許文献1参照)。この種のスクラブ洗浄において、ロール洗浄部材は、一般に、基板の直径よりもやや長い長さを有しており、接触洗浄面となる洗浄エリア内に基板の回転軸と直交する位置に配置される。そして、基板表面を、その直径方向の全長に亘ってロール洗浄部材に接触させながら、回転軸を中心に基板を回転させてロール洗浄部材に擦り付けることで洗浄特性を得るようにしている。
【0006】
基板面内での洗浄能力のばらつきを小さくして、高い洗浄効果が得られるようにするため、回転軸を中心に相反する方向に回転する2つの洗浄ブラシ(ロール洗浄部材)を備え、2つの洗浄ブラシを個別に回転中の基板表面に接触させて基板表面をスクラブ洗浄するようにした基板洗浄技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−308374号公報
【特許文献2】特開2010−212295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の一般的なCMP処理が施される半導体デバイス構造は、配線部の金属としてタングステンやアルミニウムが、絶縁部の絶縁膜として酸化膜がそれぞれ主に使用された構造であった。CMP処理により表面に露出される配線(タングステンなど)や絶縁膜(酸化膜)の表面特性は親水性であり、基板表面を、ロール洗浄部材を使用したスクラブ洗浄する場合、親水性膜を用いた洗浄度評価が広く行われていた。
【0009】
近年、ダマシン配線にあっては、配線金属として銅が、絶縁膜として、誘電率が低い、いわゆるLow−k膜が採用されるようになってきている。この銅及びLow-k膜は、表面特性が疎水性であることから、CMPによって、銅及びLow-k膜が露出した基板表面を、ロール洗浄部材を使用したスクラブ洗浄で洗浄しようとすると、基板表面の濡れ性の不均一性が拡大して、基板表面を高い洗浄度で洗浄することが困難となる。
【0010】
つまり、図1に示すように、CMP後のLow-k膜の表面に対する酸性洗浄液の接触角(Low-k膜表面と液滴の接線とのなす角度)は40.9°になり、Low-k膜の表面に対する中性洗浄液の接触角は43.0°に、Low-k膜の表面に対するアルカリ性洗浄液の接触角は46.1°になる。このように、Low-k膜は、各種洗浄液に対する接触角が25°を超えるため、Low-k膜の表面特性は疎水性であることが判る。
【0011】
また、図2に示すように、CMP後のLow-k膜及び銅の表面に対する洗浄液Aの接触角は、それぞれ43.0°及び32.6°となり、Low-k膜及び銅の表面に対する洗浄液Bの接触角は、それぞれ46.1°及び58.8°となる。このため、Low-k膜の表面のみならず、銅の表面特性も、洗浄液に対する接触角が25°を超える疎水性であることが判る。
【0012】
総合的な洗浄特性は、洗浄液による洗浄能力と物理洗浄能力との総和洗浄能力と、基板表面に残渣等が再付着するのを抑制する再付着抑制能力との効果である。表面状態が疎水性である場合、濡れ性が劣ることから、物理洗浄性の向上が非常に重要である。ロール洗浄部材を使用して物理洗浄を行うスクラブ洗浄においては、ロール洗浄部材の接触による基板表面の汚染も懸念(考慮)しなくてはならない。つまり、極力汚染を最小限に留め、洗浄能力を確保することで、本来の除去目的とする対象物(ディフェクトなど)を除去するようにすることが好ましい。
【0013】
そこで、ロール洗浄部材を使用して物理洗浄を行うスクラブ洗浄によって、酸化膜の親水性表面を想定した基板表面の洗浄に対して、疎水性表面を想定した基板表面の洗浄を実施したところ、同一の洗浄条件でありながら、基板表面に残存するディフェクト数に大きな差が見受けられた。
【0014】
図3は、洗浄液に対する接触角の異なる各種の基板表面を、洗浄液を使用したスクラブ洗浄で洗浄した時の、接触角測定による接触角と、洗浄後の基板表面に残存するディフェクト数との相関データを示す。図3に示すように、基板表面の特性の違い、つまり基板表面の特性が親水性であるか疎水性であるかにより、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数が大きく異なり、基板表面が疎水性である程、ディフェクト数が増大する。
【0015】
洗浄後に基板表面上に残存するディフェクトは、半導体デバイスの歩留まり低下を招くことから、表面状態が疎水性である半導体デバイスにおけるCMP研磨後の基板表面等、たとえ表面状態が疎水性であっても、基板表面を高い洗浄度で洗浄して基板表面に残存するディフェクト数を低減できるようにした基板洗浄方法の開発が強く望まれる。
【0016】
なお、特許文献2に記載のように、同一のブラシ回転軸上で相反する方向に回転する2つの洗浄ブラシ(ロール洗浄部材)を備えると、2つの洗浄ブラシを個別に制御する必要があって、洗浄装置の構造が複雑となるばかりでなく、洗浄装置の制御が煩雑となる。
【0017】
また、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を、該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで基板の表面に接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法では、洗浄エリア内は同一の洗浄モードではなく、洗浄エリア内にロール洗浄部材と基板の相対速度が逆方向である洗浄エリアや相対速度が順方向である洗浄エリアが存在し、洗浄条件により相対速度が無いエリアが存在したりするなど、非常に複雑な洗浄形態を採る。このため、洗浄条件を変えることによって、洗浄効果が如何に変化するかを、実際に洗浄を行うことなく、予測することが困難であった。
【0018】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、洗浄条件を変えることによって、洗浄効果が如何に変化するかを、実際に洗浄を行うことなく、容易に予測することができるようにした洗浄能力予測方法を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、たとえ表面特性が疎水性であっても、基板表面を高い洗浄度で効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減できるようにした基板洗浄方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の洗浄性能予測方法は、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄するに際し、ロール洗浄部材及び基板を所定の回転速度で回転させる第1洗浄条件で基板を洗浄する時の、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸からの距離と面積換算として定義した相対速度量とをXY座標としてプロットした第1洗浄点までの第1距離を求め、前記第1洗浄条件と異なる第2洗浄条件で基板を洗浄する時の、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸からの距離と面積換算として定義した相対速度量とをXY座標としてプロットした第2洗浄点までの第2距離を求め、前記第2距離が前記1距離よりも長いときに第2洗浄条件で基板を洗浄した方が第1洗浄条件で基板を洗浄した時よりも洗浄後に残るディフェクト数が少ないと予測する。
【0020】
本発明の基板洗浄方法は、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
0<a<L/6
(D+D)≧8L
であって、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい相対運動逆エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sと、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい相対運動順エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sとの合計の面積Sを相対速度量とした時、
S≧2000L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させる。
【0021】
本発明の他の基板洗浄方法は、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
L/6≦a≦L/2
(D+D)≧8L
であって、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい相対運動逆エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sと、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい相対運動順エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sとの合計の面積Sを相対速度量とした時、
S≧1300L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させる。
【0022】
本発明の更に他の基板洗浄方法は、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、洗浄エリア上にロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点が存在しないようにロール洗浄部材と基板を共に一方向に回転させる。
【0023】
洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
(D+D)≧4L
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることが好ましい。
【0024】
前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を上底、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を下底、洗浄エリアの長さL(mm)を高さとした台形の面積Sを相対速度量とした時、
S≧600L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることが更に好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の洗浄性能予測方法によれば、洗浄条件を変えることによって、洗浄効果が如何に変化するかを、実際に洗浄を行うことなく、容易に予測して、最適な洗浄条件を選定することが可能となる。しかも、一般に高額で評価に負荷がかかるなLow-k膜にあっても、容易に準備できる一般的な疎水性膜おいて、実際に研磨を行うことなく予測した洗浄効果を適用して、洗浄特性の結果である基板表面に残存するディフェクトを把握することが可能となる。
また、本発明の基板洗浄方法によれば、たとえ表面特性が疎水性であっても、基板表面を高い洗浄度で効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】CMP後のLow-k膜の表面に対する代表的な酸性洗浄液、中性洗浄液及びアルカリ性洗浄液による接触角を示す図である。
【図2】CMP後のLow-k膜及び銅の表面に対する洗浄液A及び洗浄液Bによる接触角を示す図である。
【図3】洗浄液に対する接触角の異なる各種の基板表面を、洗浄液を使用したスクラブ洗浄で洗浄した時の、接触角測定による接触角と、洗浄後の基板表面に残存するディフェクト数との相関データを示すグラフである。
【図4】本発明の洗浄性能予測方法及び基板洗浄方法に使用されるスクラブ洗浄装置の一例を示す概要図である。
【図5】図4に示すスクラブ洗浄装置のロール洗浄部材と基板との関係を示す概要図である。
【図6】図4に示すスクラブ洗浄装置のロール洗浄部材と基板との関係を示す平面図である。
【図7】(a)は、順方向洗浄エリアにおける基板とロール洗浄部材をそれらの回転速度と共に示す断面図で、(b)は、逆方向洗浄エリアにおける基板とロール洗浄部材をそれらの回転速度と共に示す断面図である。
【図8】洗浄エリア上に洗浄方向が逆転する逆転点が存在する時の相対速度量(面積)の求め方の説明に付する図である。
【図9】洗浄エリア上に洗浄方向が逆転する逆転点が存在しない時の相対速度量(面積)の求め方の説明に付する図である。
【図10】基板上のLow-k膜の表面と基板上の他の一般的な疎水性膜の表面を図4に示す基板洗浄装置を用いて洗浄する際の洗浄条件と、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を示す図である。
【図11】基板上のLow-k膜表面と基板上の他の一般的な疎水性膜表面を図10に示す洗浄条件で洗浄した時の洗浄条件と基板表面に残存するディフェクト数との関係を示すグラフである。
【図12】基板上のLow-k膜表面を洗浄した時の洗浄条件と、基板表面に残存するディフェクト数及び各洗浄条件の相対速度量を、ロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点までの基板の回転軸からの距離の洗浄エリアの長さに対する関係と共に示すグラフである。
【図13】洗浄条件におけるロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点までの基板の回転軸からの距離と相対速度量との関係を示す図である。
【図14】洗浄条件における洗浄点をX−Y平面にプロットして、X−Y平面の原点からと洗浄点までの距離を求める原理の説明に付する図である。
【図15】図14に示すX−Y平面の原点からと洗浄点までの距離と、該洗浄点に対応する洗浄条件で基板上のLow-k膜表面を洗浄した時に基板表面に残存するディフェクト数との関係を示すグラフである。
【図16】本発明の洗浄性能予測方法の一例を示すフローチャートである。
【図17】基板上の一般的な疎水性膜表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を、洗浄条件、各洗浄条件における相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸から距離と洗浄エリアの長さの比(a/L)、1秒当りの相対移動距離と1秒当りの相対移動距離(D+D)、及び相対速度量(S)を共に示す図である。
【図18】基板上のLow-k膜表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を、洗浄条件、各洗浄条件における相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸から距離と洗浄エリアの長さの比(a/L)、1秒当りの相対移動距離と1秒当りの相対移動距離(D+D)、及び相対速度量(S)を共に示す図である。
【図19】基板とロール洗浄部材との接触部圧力を変えて基板の表面を研磨した時の該接触圧力と基板表面に残るディフェクト数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図4は、本発明の洗浄性能予測方法及び基板洗浄方法に使用されるスクラブ洗浄装置の一例を示す概要図である。図4に示すように、このスクラブ洗浄装置は、表面を上にして半導体ウエハ等の基板Wの周縁部を支持し基板Wを水平回転させる、水平方向に移動自在な複数本(図では4本)のスピンドル10と、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの上方に昇降自在に配置される上部ロールホルダ12と、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの下方に昇降自在に配置される下部ロールホルダ14を備えている。
【0028】
上部ロールホルダ12には、円柱状で長尺状に延びる、例えばPVAからなる上部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)16が回転自在に支承されている。下部ロールホルダ14には、円柱状で長尺状に延びる、例えばPVAからなる下部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)18が回転自在に支承されている。なお、上記の例では、ロール洗浄部材16,18として、例えばPVAからなるロールスポンジを使用しているが、ロールスポンジの代わりに、表面にブラシを有するロールブラシを使用してもよい。
【0029】
上部ロールホルダ12は、上部ロールホルダ12を昇降させ、上部ロールホルダ12で回転自在に支承した上部ロール洗浄部材16を矢印Fに示すように回転させる、図示しない駆動機構に連結されている。下部ロールホルダ14は、下部ロールホルダ14を昇降させ、下部ロールホルダ14で回転自在に支承した下部ロール洗浄部材18を矢印Fに示すように回転させる、図示しない駆動機構に連結されている。
【0030】
スピンドル10で支持して回転させる基板Wの上方に位置して、基板Wの表面(上面)に洗浄液を供給する上部洗浄液供給ノズル20が配置され、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの下方に位置して、基板Wの裏面(下面)に洗浄液を供給する下部洗浄液供給ノズル22が配置されている。
【0031】
上記構成のスクラブ洗浄装置において、スピンドル10の上部に設けたコマ24の外周側面に形成した嵌合溝24a内に基板Wの周縁部を位置させて内方に押し付けてコマ24を回転(自転)させることにより、基板Wを矢印Eで示すように水平に回転させる。この例では、4個のうち2個のコマ24が基板Wに回転力を与え、他の2個のコマ24は、基板Wの回転を受けるベアリングの働きをしている。なお、全てのコマ24を駆動機構に連結して、基板Wに回転力を付与するようにしてもよい。
【0032】
このように基板Wを水平に回転させた状態で、上部洗浄液供給ノズル20から基板Wの表面(上面)に洗浄液(薬液)を供給しつつ、上部ロール洗浄部材16を回転させながら下降させて回転中の基板Wの表面に接触させ、これによって、洗浄液の存在下で、基板Wの表面を上部ロール洗浄部材16でスクラブ洗浄する。上部ロール洗浄部材16の長さは、基板Wの直径より僅かに長く設定されている。そして、上部ロール洗浄部材16は、その中心軸(回転軸)Oが、基板Wの回転軸Oとほぼ直交する位置に位置して、基板Wの直径の全長に亘って延びるように配置され、これによって、基板Wの全表面が同時に洗浄される。
【0033】
同時に、下部洗浄液供給ノズル22から基板Wの裏面(下面)に洗浄液を供給しつつ、下部ロール洗浄部材18を回転させながら上昇させて回転中の基板Wの裏面に接触させ、これによって、洗浄液の存在下で、基板Wの裏面を下部ロール洗浄部材18でスクラブ洗浄する。上部ロール洗浄部材16の長さは、基板Wの直径より僅かに長く設定されていて、前述の基板Wの表面とほぼ同様に、基板Wの全裏面が同時に洗浄される。
【0034】
上記のようにして、基板Wの表面を上部ロール洗浄部材(以下、単にロール洗浄部材という)16で洗浄する時、図5に示すように、基板Wとロール洗浄部材16は、ロール洗浄部材16の軸方向に沿って基板Wの直径方向の全長に亘って直線状に延びる、長さLの洗浄エリア30で互いに接触し、この洗浄エリア30に沿った位置で基板Wの表面がスクラブ洗浄される。
【0035】
ここに、図6に示すように、基板Wの回転軸Oを中心とした回転に伴う洗浄エリア30に沿った基板の回転速度Vの大きさは、基板Wの回転軸O上でゼロとなり、回転軸Oを挟んで基板Wの回転速度Vの向き(洗浄方向)が互いに逆となる。一方、ロール洗浄部材16の回転に伴う洗浄エリア30に沿ったロール洗浄部材16の回転速度Vの大きさは、洗浄エリア30の全長に亘って一定で、回転速度Vの向き(洗浄方向)も同じとなる。
【0036】
なお、図6は、図5に示すように、洗浄エリア30に沿ってx軸を、基板Wの表面の該x軸に直交する方向にy軸を取り、x−y平面の原点を、基板Wの回転軸Oが通るようにしている。このことは、以下同様である。
【0037】
このため、洗浄エリア30は、基板Wの回転軸Oを挟んで、基板Wの回転速度Vの向きとロール洗浄部材16の回転速度Vの向きが同じとなる、長さLの順方向洗浄エリア32と、基板Wの回転速度Vの向きとロール洗浄部材16の回転速度Vの向きが互いに逆向きとなる、長さLの逆方向洗浄エリア34に分けられる。
【0038】
順方向洗浄エリア32では、図7(a)に示すように、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの相対速度(相対回転速度)の大きさが、両者の回転速度の大きさの差の絶対値となって、相対的に低くなる。一方、逆方向洗浄エリア34では、図7(b)に示すように、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの相対速度(相対回転速度)の大きさが、両者の回転速度の大きさの和となって、相対的に高くなる。このため、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの大きさによっては、図6に示すように、両者の相対速度の大きさがゼロ(V=V)となって、基板Wが洗浄されない領域Mが生じることがある。
【0039】
この基板Wが洗浄されない領域Mは、下記の洗浄方向が逆転する逆転点T及びその周辺部に対応し、基板Wとロール洗浄部材16とが単に接触しているだけで、基板Wのロール洗浄部材16によるスクラブ洗浄が行われず、逆にロール洗浄部材16に付着した残渣等が基板Wの表面に押し付けられて再付着し、基板Wの表面の汚染の原因となると考えられる。
【0040】
ここで、図8に示すように、長さLの洗浄エリア30上に、相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点Tが基板の回転軸Oから距離aの位置に存在する時、この逆転点Tを挟んで、逆方向洗浄エリア34側に位置する相対運動逆エリアの長さをL(mm)、順方向洗浄エリア32側に位置する相対運動順エリアの長さをL(mm)とし、相対速度(相対観点速度)Vreの逆方向洗浄エリア34で最大となる相対速度をV(mm/sec)、相対速度Vrvの順方向洗浄エリア32で最大となる相対速度をV(mm/sec)とする。そして、長さLを底辺とし、相対速度Vによって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとした三角形の面積S(mm)と、長さLを底辺とし、相対速度Vによって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとした三角形の面積Sの合計の面積Srv(=S+S)を相対速度量として、洗浄度の評価に使用する。
【0041】
また、図9に示すように、長さLの洗浄エリア30上に、相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点Tが存在しない(洗浄方向が逆転しない)時、洗浄エリア30の長さL(mm)を高さとし、相対速度Vrvの逆方向洗浄エリア34で最大となる相対速度Vよって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を上底、相対速度Vrvの順方向洗浄エリア32で最大となる相対速度Vをよって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を下底とした台形の面積Sを相対速度量Srv(=S)として、洗浄度の評価に使用する。
【0042】
図10は、基板上のLow-k膜(接触角≧25°)の表面と、基板上の他の一般的な疎水成膜(接触角≧25°)の表面を、図4に示す基板洗浄装置を用いて種々の洗浄条件で洗浄した時の洗浄条件を示す。図10において、洗浄条件Aは、ロール洗浄部材16の回転速度をRa、基板Wの回転速度をWbとしている。洗浄条件B,Cは、ロール洗浄部材16の回転速度を共にRb、基板Wの回転速度をWa,Wcとしている。洗浄条件Dは、ロール洗浄部材16の回転速度を共にRc、基板Wの回転速度をWb,Waとしている。ここで、ロール洗浄部材16の回転速度Ra,Rb,Rcは、Ra:Rb:Rc=1:20:40に設定され、基板Wの回転速度Wa,Wb,Wcは、Wa:Wb:Wc=1:2:3に設定されている。
【0043】
図10は、洗浄条件A,B,D,Eで基板上の一般的な疎水性膜表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を計測した時の結果を、洗浄条件Aで洗浄した時を1とした時のディフェクト数の比率(任意単位)で示している。同様に、洗浄条件B,C,D,Eで基板上のLow-k膜表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を計測した結果を、洗浄条件Bで洗浄した時を1とした時のディフェクト数の比率(任意単位)で示している。
【0044】
図11は、図10に示す各洗浄条件で洗浄した時の該洗浄条件と基板表面に残るディフェクト数との関係を、横軸を洗浄条件、縦軸をディフェクト数(任意単位)として表したグラフである。図11から、基板上の一般的な疎水性膜の表面を洗浄条件A,B,D,Eで洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数は、直線状のラインaに沿って並び、基板上のLow-k膜の表面を洗浄条件B,C,D,Eで洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数は、ラインbに沿って並び、このラインaとラインbはほぼ平行となる。このことから、Low-k膜を洗浄した時と他の一般的な疎水性膜を洗浄した時の間には相関関係があり、一般的な疎水性膜に対する洗浄度を評価することでLow-k膜に対する洗浄度を評価できることが判る。
【0045】
図12は、洗浄条件B,C,D,Eで基板上のLow-k膜表面を洗浄した時に基板表面に残る、ディフェクト測定器で測定したディフェクト数と、各洗浄条件B,C,D,Eに対応する図8及び図9に示す方法で得られる相対速度量Sとを、洗浄条件B,C,D,Eと共に示すグラフである。なお、相対速度量Sは、洗浄条件Cの相対速度量を1とした時の比率(任意単位)で示している。図12の下部には、洗浄条件と、ロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点Tまでの基板の回転軸Oからの距離a(図8参照)の洗浄エリアの長さLに対する関係を示している。
【0046】
図12から、洗浄後に基板表面に残るディフェクト数は、相対速度がゼロなる逆転点Tまでの基板の回転軸Oからの距離aと比例関係がある訳でもなく、相対速度量Sと比例関係がある訳でもないことが判る。このことからも、基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置し、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法においては、洗浄後に基板表面に残るディフェクト数を低減可能とする洗浄特性を予測することが困難であることが判る。
【0047】
図13は、図12によって得られた各洗浄条件を、ロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点Tまでの基板の回転軸Oからの距離aをX座標、相対速度量SをY座標として、X−Y平面に洗浄点としてプロットしたグラフである。すなわり、洗浄条件Bを座標(a,S)の洗浄点Zとして、洗浄条件Cを座標(a,S)の洗浄点Zとして、洗浄条件Dを座標(a,S)の洗浄点Zとして、洗浄条件Eを座標(a,S)の洗浄点Zとして示している。そして、X−Y平面の原点からの各洗浄点Z,Z,Z,Zまでの距離をL,L,L,Lとして示している。
【0048】
ここに、図14に示すように、例えば洗浄条件Dの洗浄点Zは、X軸方向にはY軸から距離a離れ、Y軸方向にはX軸から距離S離れており、X−Y平面の原点から洗浄点Zまでの距離Lは、下記の式(1)で求められる。同様に、X軸方向にはY軸から距離aα離れ、Y軸方向にはX軸から距離Sα離れ、X−Y平面において、座標(aα,Sα)でプロットされる任意の洗浄条件αの洗浄点ZαのX−Y平面の原点からの距離Lαは、下記の式(2)で表される。
【数1】

【0049】
図15は、図13にて得られた、各洗浄条件B,C,D,Eおける、X−Y平面の原点から各洗浄点Z,Z,Z,Zまでの距離L,L,L,Lを横軸(距離L)、各洗浄条件B,C,D,Eによって洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を縦軸として、X−Y平面の原点から各洗浄点からの距離Lとディフェクト数との関係を示すグラフである。図15の横軸の距離Lは、X−Y平面の原点から各洗浄点Zまでの距離Lを1とした時の比率(任意単位)で示している。また、点B,C,D,Eは、洗浄条件B,C,D,Eを示している。
【0050】
図15から、X−Y平面の原点から各洗浄点Zまでの距離Lの値が大きくなる(L<L<L<L)につれて、基板表面に残るディフェクト数が低減されていることを判る。このことは、X−Y平面の原点から洗浄点Zまでの距離Lの値が大きくなるような洗浄条件の方が、洗浄特性としての洗浄液による洗浄能力と物理洗浄能力との総和洗浄能力と、基板表面に残渣等が再付着するのを抑制する再付着抑制能力との効果による総合的な洗浄特性が向上していることを示している。
【0051】
上記を踏まえて、本発明の洗浄性能予測方法を、図16に示すフローチャート、及び図13を参照して説明する。先ず、ロール洗浄部材の回転速度、基板の回転速度、ロール洗浄部材の条件(直径)及び基板の条件(直径)等の洗浄条件αを決める(ステップ1)。次に、この洗浄条件αを基に、ロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点までの基板の回転軸からの距離aα及び相対速度量Sαを求める(ステップ2)。そして、この距離aαをX座標、相対速度量SαをY座標とした洗浄点Zα(aα,Sα)を、図13に示すように、X−Y平面にプロットし、X−Y平面の原点から洗浄点Zα(aα,Sα)までの距離Lαを求める(ステップ3)。そして、必要に応じて、この洗浄条件αで、例えばCMP後の基板表面を実際に洗浄し乾燥させて、基板表面に残るディフェクト数Dαを把握する(ステップ4)。
【0052】
次に、ロール洗浄部材の回転速度、基板の回転速度、ロール洗浄部材の条件(直径)及び基板の条件(直径)等の、洗浄条件αと条件が異なる洗浄条件βを決める(ステップ5)。この洗浄条件βを基に、ロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなる逆転点までの基板の回転軸からの距離aβ及び相対速度量Sβを求める(ステップ6)。そして、この距離aβをX座標、相対速度量SβをY座標とした洗浄点Zβ(aβ,Sβ)を、図13に示すように、X−Y平面にプロットし、X−Y平面の原点から洗浄点Zβ(aβ,Sβ)までの距離Lβを求める(ステップ7)。
【0053】
そして、X−Y平面の原点から洗浄点Zα(aα,Sα)までの距離Lαと、X−Y平面の原点から洗浄点Zβ(aβ,Sβ)までの距離Lβを比較し(ステップ8)、距離Lαの方が距離Lβよりも大きい(Lα≧Lβ)ときには、ステップ5に戻り、距離Lαの方が距離Lβよりも大きい(Lβ>Lα)ときには、研磨条件βの方が研磨条件αよりも洗浄特性を向上させる洗浄条件である決定する(ステップ9)。これにより、この洗浄条件βで基板表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数Dβは、洗浄条件αで基板表面を洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数Dαより少ない(Dβ<Dα)と予測する。
【0054】
図17は、直径300mmの基板上の一般的な疎水性膜を前記洗浄条件A,B,D,Eで洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を、各洗浄条件A,B,D,Eにおける相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸から距離aと洗浄エリアの長さL(=300mm)の比(a/L)、図8及び図9に示す、1秒当りの相対移動距離Dと1秒当りの相対移動距離Dの和(D+D)、及び図8及び図9に示す方法に求められる相対速度量(S)を共に示している。なお、図17のディフェクト数は、洗浄条件Aで洗浄した時を1.00としたディフェクト数の比率(任意単位)を示している。
【0055】
図18は、直径300mmの基板上のLow-k膜を前記洗浄条件B,C,D,Eで洗浄した時に基板表面に残るディフェクト数を、各洗浄条件B,C,D,Eにおける相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸から距離aと洗浄エリアの長さL(=300mm)の比(a/L)、図8及び図9に示す、1秒当りの相対移動距離Dと1秒当りの相対移動距離Dの和(D+D)、及び図8及び図9に示す方法に求められる相対速度量(S)を共に示している。図18は、洗浄条件B,C,D,Eで洗浄した時に基板表面に残るディフェクトの分布状態の概要をディフェクト数と共に示している。
【0056】
なお、図17及び図18において、ロール洗浄部材の回転数Ra,Rb,Rcの関係、及び基板の回転速度Wa,Wb,Wcの関係は、前述の図10に示す場合と同様である。
【0057】
以上から、例えば洗浄条件Cに示すように、洗浄方向が逆転する逆転点Tが存在し、基板の回転軸から逆転点Tまでの距離aが洗浄エリアの長さLに対して1/6より小さい(0<a<L/6)洗浄条件では、逆方向洗浄エリア及び順方向洗浄エリアにおける基板Wとロール洗浄部材16との最大回転速度V,Vから求められる相対移動距離D,Dの和を洗浄エリアの長さLで割った値が8以上((D+D)/L≧8)で、図8に示す、三角形の面積Sと三角形の面積Sとの合計の面積として求められる相対速度量Sが洗浄エリアの長さLに対して2000倍以上(S≧2000(mm))なるように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することで、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数を許容値以下とすることができると考えられる。
【0058】
また、例えば洗浄条件Dに示すように、洗浄方向が逆転する逆転点Tが存在し、基板の回転軸から逆転点Tまでの距離aが洗浄エリアの長さLに対して1/6以上(L/6≦a≦L/2)の洗浄条件では、逆方向洗浄エリア及び順方向洗浄エリアにおける基板Wとロール洗浄部材16との最大相対回転速度V,Vから求められる相対移動距離D,Dの和を洗浄エリアの長さLで割った値が8以上((D+D)/L≧8)で、図8に示す、三角形の面積Sと三角形の面積Sとの合計の面積として求められる相対速度量Sが洗浄エリアの長さLに対して1300倍以上(S≧1300(mm))なるように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することで、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数を許容値以下とすることができると考えられる。
【0059】
この時、逆方向洗浄エリアにおける基板Wとロール洗浄部材16との最大相対速度Vから求められる相対移動距離Dを洗浄エリアの長さLで割った値が6以上(D/L≧6)となるように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することが好ましい。
【0060】
また、例えば洗浄条件Eに示すように、洗浄ライン上に洗浄方向が逆転する逆転点Tが存在しないように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することで、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数を許容値以下とすることができると考えられる。
【0061】
このように洗浄ライン上に洗浄方向が逆転する逆転点Tが存在しない洗浄条件では、逆方向洗浄エリア及び順方向洗浄エリアにおける基板Wとロール洗浄部材16との最大相対回転速度V,Vから求められる相対移動距離D,Dの和を洗浄エリアの長さLで割った値が4以上((D+D)/L≧4)となるように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することが好ましく、図9に示す、台形の面積として求められる相対速度量Sが洗浄エリアの長さLに対して600倍以上(S≧600(mm))なるように、基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定することが更に好ましい。
【0062】
本発明の基板処理方法は、例えば図4に示す基板洗浄装置を使用し、例えば洗浄条件C,D,Eに示す、洗浄後に基板表面に残存するディフェクト数を許容値以下とすることができると考えられる洗浄条件に基板W及びロール回転部材16の回転速度を設定して、基板表面を洗浄する。
【0063】
図19は、基板Wとロール洗浄部材16との接触部圧力を3N、6N及び12Nと変えて基板Wの表面を洗浄した時の該接触圧力と基板表面に残るディフェクト数の関係を示すグラフである。図19の横軸は、接触部圧力が3Nの時を圧力比1.00、接触部圧力が6Nの時を圧力比2.00、接触部圧力が12Nの時を圧力比4.00で示し、縦軸は、接触部圧力が3Nの時のディフェクト数を1.00とした時のディフェクト数の比率(任意単位)を示している。
【0064】
この図19から、物理洗浄を得るために基板Wとロール洗浄部材16との接触部圧力を高めても、洗浄効果が逆に低下することが判る。
これらの結果より、疎水性表面におけるPVAスポンジなどを用いた接触洗浄において、薬液洗浄特性*物理洗浄特性*(再付着防止)=総合的な洗浄特性(効果)と考えた場合に、物理洗浄性を向上する目的で、安易に接触圧力を高めること好ましくないことが判る。よって、Low−k膜などの疎水性表面における接触洗浄では、過度な圧力は洗浄能力を汚染能力が上回ることが懸念されるため、なるべく低圧力領域の6N以下、好ましくは3N以下にて総合的な洗浄特性を得られる他条件の最適化をすることが好ましい。
【0065】
このように基板Wの表面をスクラブ洗浄することで、たとえ基板Wの表面特性が疎水性であっても、基板Wの表面を高い洗浄度で洗浄することができる。つまり、配線金属として銅を、絶縁膜としてLow−k膜をそれぞれ採用してダマシン配線を形成するため、CMPによって、表面が疎水性の銅及びLow−k膜が露出した基板表面であっても、この基板表面を高い洗浄度で洗浄して表面に残存するディフェクト数を低減することができる。
【0066】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0067】
10 スピンドル
12 上部得オールホルダ
14 下部ロールホルダ
16 上部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)
18 下部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)
20 上部洗浄液供給ノズル
22 下部洗浄液供給ノズル
30 洗浄エリア
32 順方向洗浄エリア
34 逆方向洗浄エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄するに際し、
ロール洗浄部材及び基板を所定の回転速度で回転させる第1洗浄条件で基板を洗浄する時の、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸からの距離と面積換算として定義した相対速度量とをXY座標としてプロットした第1洗浄点までの第1距離を求め、
前記第1洗浄条件と異なる第2洗浄条件で基板を洗浄する時の、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロとなって洗浄方向が逆転する逆転点までの基板の回転軸からの距離と面積換算として定義した相対速度量とをXY座標としてプロットした第2洗浄点までの第2距離を求め、
前記第2距離が前記1距離よりも長いときに第2洗浄条件で基板を洗浄した方が第1洗浄条件で基板を洗浄した時よりも洗浄後に残るディフェクト数が少ないと予測することを特徴とする洗浄性能予測方法。
【請求項2】
基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、
洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
0<a<L/6
(D+D)≧8L
であって、
前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい相対運動逆エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sと、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい相対運動順エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sとの合計の面積Sを相対速度量とした時、
S≧2000L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項3】
基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、
洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
L/6≦a≦L/2
(D+D)≧8L
であって、
前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい相対運動逆エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sと、前記逆転点を挟んでロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい相対運動順エリアの長さL(mm)を底辺、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を高さとする三角形の面積Sとの合計の面積Srvを相対速度量とした時、
rv≧1300L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項4】
基板の直径を覆う長さのロール洗浄部材を基板の回転軸上に配置させ、基板の表面に該ロール洗浄部材を該ロール洗浄部材の軸方向に沿った洗浄エリアで接触させ、ロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、
洗浄エリア上にロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点が存在しないようにロール洗浄部材と基板を共に一方向に回転させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項5】
洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に小さい順方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度が相対的に大きい逆方向洗浄エリアの最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離をD(mm)、洗浄エリアの長さをL(mm)、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対速度がゼロなって洗浄方向が逆転する逆転点と基板の回転軸との距離をa(mm)とするとき、
(D+D)≧4L
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることを特徴とする請求項4記載の基板洗浄方法。
【請求項6】
前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を上底、前記最大相対速度V(mm/sec)によって求められる1秒当りの相対移動距離D(mm)を下底、洗浄エリアの長さL(mm)を高さとした台形の面積Srvを相対速度量とした時、
rv≧600L(mm
を満たすようにロール洗浄部材と基板を回転させることを特徴とする請求項5記載の基板洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−256800(P2012−256800A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130247(P2011−130247)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】