洗浄方法及びろ過装置
【課題】薬品洗浄の回数を減少させることで薬品洗浄の繰り返しによる膜の劣化に伴うろ過の効率の低下や性能の低下を軽減させることのできる洗浄方法及びろ過装置を提供する。
【解決手段】少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる中空糸膜100を内部に有するろ過器10と、中空糸膜100の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、原水をろ過することによって中空糸膜の表面に付着した懸濁物200を除去する逆洗時に逆洗用原水をろ過器10に供給する逆洗水製造機16とを備える。
【解決手段】少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる中空糸膜100を内部に有するろ過器10と、中空糸膜100の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、原水をろ過することによって中空糸膜の表面に付着した懸濁物200を除去する逆洗時に逆洗用原水をろ過器10に供給する逆洗水製造機16とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜を利用して表流水や廃液をろ過する洗浄方法及びろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水や井戸水等の表流水を飲料水とするために行われる上水処理や一般産業で排出される廃液を処理する廃液処理には、膜(フィルタ)を使用して処理の対象である原水を処理する水処理装置が用いられている。中空糸膜は、膜の孔径を微細に加工することができるため、単位容量当たりに大きな膜面積を得ることができ、ろ過の対象である原水中の懸濁物や微生物等の捕集性能に優れている。中空糸膜はこのような特徴を有するため、水処理装置で多用されている。
【0003】
一方、水処理装置で使用される膜では、ろ過が繰り返されることによって膜表面に微小な懸濁物や微生物等が蓄積してフィルムを形成し、差圧上昇(定流量ろ過)や流量低下(定圧ろ過)等の問題が生じる。このように膜表面に蓄積された懸濁物等は、定期的に物理洗浄や薬品洗浄で除去される。
【0004】
たとえば、図12(a)に示すように、中空糸膜100を使用して原水をろ過する場合、原水中に含まれる懸濁物200が中空糸膜100の膜外面で捕集された後、懸濁物200が除去された原水は中空糸膜100の内側を通って排出される。なお、図12では、液体の流れを矢印で示している。
【0005】
未使用の中空糸膜100の膜表面には、懸濁物200は蓄積されていない。したがって、未使用の中空糸膜100は、通水直後には、膜の厚みや空孔構造に起因するろ過差圧(ろ材抵抗)を有しているが、このときの差圧は懸濁物200の影響を受けていない。
【0006】
しかし、未使用の中空糸膜100は、ろ過が開始されて通水されることによって原水中の懸濁物200が中空糸膜100に捕集され、中空糸膜100の膜表面には懸濁物200が蓄積されていく。すなわち、ろ過時間が経過した場合や一定量の原水を処理した場合、中空糸膜100の膜表面に懸濁物200が蓄積して、懸濁物200の影響を受けた差圧が生じ、未使用の状態と比較してろ過差圧が上昇する。
【0007】
ろ過差圧が上昇すると、ろ過を停止し、図12(b)に示すように、ろ過差圧を回復させるためにろ過の際とは逆方向から懸濁物が含まれていない清澄な水を流し、中空糸膜100の膜表面に捕集され、蓄積された懸濁物200を除去する逆洗(物理洗浄)を行う。
【0008】
しかしながら、従来の方法で逆洗を行っても、図12(c)に示すように、膜表面には微量の懸濁物が残余したり、細孔内に微粒子が入ることで、未使用と同一の状態まで回復しないのが現状である。
【0009】
例えば、ろ過と逆洗を繰り返した場合のろ過差圧の一例を図13に示すが、中空糸膜100が未使用の状態(図13中のA)からろ過を開始して一定時間が経過した場合又は一定量の原水が処理された場合には、図12(b)で上述したように中空糸膜100の膜表面に懸濁物200が蓄積し、ろ過差圧が上昇する(図13中のB)。
【0010】
ろ過差圧が上昇した時点で逆洗を行うと、中空糸膜100から懸濁物200が除去されてろ過差圧はある程度低下するが(図13中のC)、図12(c)で上述したように、中空糸膜100に蓄積した全ての懸濁物200を除去することはできないため、未使用の状態(図13中のA)の差圧と比較すると差圧は上昇している。また、その後、ろ過と逆洗を繰り返したとき、中空糸膜100の膜表面から除去できない懸濁物200が増加したり、膜表面が劣化するため、差圧は時間経過又は処理量の増加に伴い、上昇していく。
【0011】
したがって、長期間に渡ってろ過を繰り返した場合、中空糸膜100の膜表面に蓄積された懸濁物200を除去するために強酸や強アルカリ溶液あるいは次亜塩素酸ソーダ等の酸化性溶液に浸漬して洗浄(薬品洗浄)するのが一般的である。
【0012】
一方、薬品洗浄は膜を劣化させるため、薬品洗浄を行う頻度を減らすことが望ましい。薬品洗浄の頻度を減らすため、ろ過差圧を上昇させないろ過装置の運転方法の改良、懸濁物の除去方法(物理洗浄)の改良、懸濁物の除去が容易な膜材質の改良等が行われてきた。例えば、膜の材質を改良したり、膜表面を改質することで、微小な懸濁物の蓄積を抑制する様々な技術が検討されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0013】
特許文献1では、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸から感温性を発現する膜を調製し、洗浄時に温水に浸漬して孔径を制御して懸濁物を効率よく洗い落とす方法や感温性分子鎖を膜表面にコーティングして孔径を制御することで洗浄効率を向上させて、差圧上昇や流量低下を抑制する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000‐176260号公報
【特許文献2】特開2002‐346560号公報
【特許文献3】特開平3‐32729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、膜表面に蓄積する懸濁物を除去するために行われる薬品洗浄を繰り返した場合、ろ過に用いられる膜が劣化し、洗浄の後に行われるろ過の効率や性能が低下する問題がある。
【0015】
本発明は、薬品洗浄の回数を減少させることで薬品洗浄の繰り返しによる膜の劣化に伴うろ過の効率の低下や性能の低下を軽減させることのできる洗浄方法及びろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る洗浄方法は、少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器を洗浄する洗浄方法であって、前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させるための逆洗用原水を生成する生成工程と、生成された前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給して前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗工程と、逆洗工程によって生じた逆洗排水を前記ろ過器から排出する排出工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るろ過装置は、少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器と、前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、前記逆洗用原水を前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗時に生成した前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給する逆洗水製造機とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、薬品洗浄の回数を減少させることで薬品洗浄の繰り返しによる膜の劣化を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〈第1の実施形態〉
〈中空糸膜〉
本発明の最良の実施形態に係るろ過装置1aで用いられる中空糸膜100について図面を用いて説明する。
【0020】
図1(a)に中空糸膜100の概略図を示し、図1(b)に中空糸膜100の一部の模式図を示す。中空糸膜100には、環境変化に伴って変化する分子鎖100aが重合されている。具体的には、本発明の最良の実施形態に係る中空糸膜100には周囲環境の温度変化によって性質が変化する感温性の分子鎖100aが重合されており、温度変化によって分子鎖100aが伸縮する。
【0021】
例えば、N−イソプロピルアクリルアミドを重合した中空糸膜100の場合、周囲環境が常温である32℃以下では、図2(a)に示すように、分子鎖100aは伸びた状態である。また、周囲環境が高温である32℃以上になると、図2(b)に示すように、分子鎖100aは、収縮する特性を有している。
【0022】
また、この中空糸膜100の膜表面は、温度変化によって伸縮するとともに、親水性/疎水性の変化を発現する。具体的には、上述したN−イソプロピルアクリルアミドを重合した中空糸膜100の場合、32℃以下の常温の状態では、図3(a)に示すように、膜表面は親水性表面100bとなり、32℃以上の高温の状態では、図3(b)に示すように、膜表面は疎水性表面100cに変化する。
【0023】
膜表面での微小な懸濁物の蓄積による差圧の上昇を抑制するため、水中に存在する懸濁物と膜表面での結合を考慮することで、懸濁物の除去の効率を向上することができる。すなわち、水中に存在する多くの懸濁物はカルボキシル基、水酸基及びアミノ基等の親水性の官能基を有しており、膜表面が親水性の場合には、疎水性表面をもつ膜よりも水素結合などの弱い結合が生ずる。
【0024】
すなわち、ろ過時には中空糸膜100の膜表面を親水性表面100bとし、図4(a)に示すように弱い結合性(図4中の点線)で結合させて膜表面に懸濁物200を捕集する。また、逆洗時には中空糸膜100の膜表面を疎水性表面100cとすることで、図4(b)に示すように、膜表面や懸濁物200の間で生じている水素結合などの弱い結合を切った後に逆洗を行うため、除去の効率を向上させることができる。
【0025】
したがって、中空糸膜100に、原水の常温(例えば、5〜25℃程度)時に親水性の性質を有し、高温時に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0026】
なお、上述した中空糸膜100では、感温性物質を重合した例で説明したが、重合する代わりに感温性物質をコーティングしたり、感温性物質で膜を生成してもよい。
【0027】
〈ろ過装置〉
図5を用いて、本発明の第1の実施形態に係るろ過装置1aについて説明する。
【0028】
ろ過装置1aは、図5に示すように、原水をろ過するろ過器10と、ろ過の際に原水をろ過器10に供給するポンプ11と、ポンプ11によってろ過器10に原水を供給するバルブ12及び配管13と、ろ過器10でろ過された処理水を排出するための配管14及びバルブ15と備えている。
【0029】
このろ過器10内には、図1乃至図4を用いて上述した感温性の物質(分子鎖100a)が重合された中空糸膜100を用いて生成された中空糸膜モジュール101が内蔵されている。中空糸膜100に重合されている物質は、ろ過の対象となる常温の原水がろ過器10内に供給された場合に親水性となり、高温の逆洗用原水がろ過器10内に供給された場合に疎水性となる物質である。
【0030】
また、ろ過装置1aは、ろ過器10の逆洗に用いる逆洗用原水を製造する逆洗水製造機16と、逆洗水製造機16で製造された逆洗用原水をろ過器10に供給するバルブ17a,17b及び配管18a,18bとを備えている。この逆洗用原水は、ろ過器10に供給したときに感温性の物質が疎水性となる温度の温水である。例えば、中空糸膜100にN−イソプロピルアクリルアミドを重合している場合、逆洗水製造機16は、ろ過器10に供給したときに32℃〜37℃程度になるような逆洗用原水を製造する。
【0031】
さらに、ろ過装置1aは、逆洗が終了し、ろ過を開始する際に逆洗で使用して中空糸膜100の膜表面から懸濁物200を除去した後の逆洗排水を排出するためのバルブ19及び配管20を備えている。
【0032】
ろ過装置1aでは、バルブ12,15,17a,17b,19の開閉を制御して、ろ過器10内に原水や逆洗用原水を供給したり、ろ過器10から処理水や逆洗排水を排出することで、ろ過や逆洗を行う。
【0033】
《ろ過時》
ろ過時におけるろ過装置1aでは、従来と同様に、図6に示すように、ポンプ11の動作によってろ過器10へ原水が供給される。ろ過器10へ供給された原水は、中空糸膜モジュール101によってろ過される。その後、ろ過装置1aでは、ろ過によって原水中の懸濁物200が除去された処理水が、ろ過器10から排出され、配管14及びバルブ15を介して流出される。
【0034】
このとき、バルブ12,15が開になっており、他のバルブ17a,17b,19が閉になっているため、ろ過器10へ原水が供給されるとともに、ろ過器10から配管14を介して処理水が排出され、他の不要な場所へ原水や処理水が排出されることがないように制御されている。
【0035】
このように、ろ過がされることによって、中空糸膜モジュール101の中空糸膜100には懸濁物200が蓄積され、図12(b)及び図13のBで上述したような差圧が高い状態になる。
【0036】
《逆洗時》
ろ過装置1aでは、ろ過が開始されてから所定時間が経過した後、所定量の原水を処理した後、又は差圧が所定値に達した時点で逆洗が行われ、中空糸膜100に蓄積された懸濁物200を除去する。
【0037】
逆洗時には、図7に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を開けて、ろ過器10内に残留する原水を排出する。このとき、他のバルブ12,15,17a,17bは、閉じている。
【0038】
ろ過器10内の原水が排出されると、図8に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を閉じるとともに、バルブ18a,18bを開け、逆洗水製造機16で製造された温水である逆洗用原水をろ過器10に供給する。逆洗の際には、バルブ17aのみを開けて配管18aからのみろ過器10に逆洗用原水を供給する方法、バルブ17bのみを開けて配管18bからのみろ過器10に逆洗用原水を供給する方法、バルブ17a,17bを開けて配管18a,18bからろ過器10に逆洗用原水を供給する方法がある。
【0039】
配管18aからのみ逆洗用原水を供給する場合、バルブ19は開いていてろ過器10を逆洗用原水で満たさなくてもよい。一方、配管18bから逆洗用原水を供給する場合、バルブ19は閉じており、中空糸膜モジュール102が逆洗用原水によって浸漬される程度にろ過器10内を逆洗用原水で満たす必要がある。このとき、バルブ12,15は閉じている。
【0040】
逆洗が終了すると、図9に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を開いてろ過器10内から、逆洗排水を排出する。このとき、バルブ12,15,17a,17bは閉じている。
【0041】
逆洗排水が排出されると、中空糸膜100に蓄積された懸濁物200が除去されたため、再びバルブ15,17a,17b,19が閉じるとともに、バルブ12が開けられ、図6で上述した状態となり、ろ過が開始される。
【0042】
図10を用いて、ろ過と逆洗を繰り返した場合の差圧変化について説明する。未処理の場合には、感温性の物質が重合されていない中空糸膜モジュール(α)と、重合された中空糸膜モジュール(β、γ)の差圧を比較すると、感温性の物質が重合された中空糸膜モジュール(β、γ)は、重合されていないモジュール(α)と比較して、差圧が高い。これは、感温性の分子鎖が膜表面の孔を狭めているためである。
【0043】
しかし、温水である逆洗用原水をろ過器10に供給し、感温性の分子鎖を重合した中空糸膜モジュールを疎水性に変化させて逆洗した場合、逆洗による差圧(β)の回復性が高いため、長期的にみると、感温性の分子鎖を重合していないモジュール(α)の場合よりも差圧の上昇率は低い。
【0044】
なお、感温性の分子鎖を重合した中空糸膜モジュールのであっても、高温の逆洗用原水を用いず、常温の逆洗用原水で親水性の状態で逆洗した場合、差圧(γ)の上昇は高くなる。これは、逆洗時にも膜表面は親水性の状態であるため、膜表面と懸濁物との間に結合ができており、懸濁物が十分に除去できないためである。
【0045】
上述したように、第1の実施形態に係るろ過装置1aでは、中空糸膜100に、常温時に親水性の性質を有し、高温時に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0046】
なお、ろ過装置1aでも従来と同様に薬品洗浄を行うこともできるし、薬品洗浄の際にろ過器に供給する薬品を逆洗用原水と同様に中空糸膜の膜表面が疎水性になるような高温の状態にすることで、洗浄効果を高めることができる。
【0047】
〈第2の実施形態〉
第2の実施形態に係るろ過装置で用いられる中空糸膜は、周囲環境のpH変化によって性質が変化する物質が重合されており、pH変化によって親水性/疎水性の変化を発現する。具体的には、中空糸膜に重合する物質は、pH7程度の中性領域では、親水性を発現しているが、酸性になるに従って疎水性を発現する物質であるのが望ましい。これは、原水がpH7程度の中性であることが一般的であるためである。なお、このような親水性/疎水性変化を発現する物質は、中性から酸性になるにしたがって、指数関数的に疎水性を発現する。
【0048】
図11を用いて、本発明の第2の実施形態に係るろ過装置1bについて説明する。図11に示すろ過装置1bにおいて、図5を用いて上述したろ過装置1aと同一の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0049】
ろ過装置1bのろ過器10内に内蔵される中空糸膜モジュール102は、上述したように、pH変化によって変化する分子鎖が重合される中空糸膜によって構成されている。そのため、ろ過装置1bは、酸性の逆洗用原水を生成する逆洗水製造機21を有している。具体的には、逆洗水製造機21は、逆洗時には、中空糸膜が疎水性を表わす程度に酸性の逆洗用原水を生成し、バルブ17a,17b及び配管18a,18bを介して、ろ過器10に供給する。
【0050】
ろ過装置1bで行われる処理も、図6乃至図9を用いて上述したように、中性の原水をろ過と、酸性の逆洗用原水を使用する逆洗とが繰り返される処理であるため、説明を省略する。したがって、ろ過の場合には中空糸膜は中性であって、弱い結合で懸濁物200を重合し、逆洗の場合には酸性の逆洗用原水を供給して懸濁物200と中空糸膜との結合を切ることで洗浄を行う。
【0051】
上述したように、第2の実施形態に係るろ過装置1bでは、中空糸膜100に、中性の場合に親水性の性質を有し、酸性の場合に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0052】
なお、上述した中空糸膜は、感温性物質を重合した例で説明したが、重合する代わりに感温性物質をコーティングしたり、感温性物質で膜を生成してもよい。
【0053】
また、ろ過装置1bでも従来と同様に薬品洗浄を行うこともできるし、中空糸膜が温度によっても疎水性/親水性の変化をする場合、薬品洗浄の際にろ過器に供給する薬品を逆洗用原水と同様に中空糸膜の膜表面が疎水性になるような温度にすることで、洗浄効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るろ過装置に使用される中空糸膜について説明する図である。
【図2】図1の中空糸膜の伸縮性について説明する図である。
【図3】図1の中空糸膜の疎水性/親水性変化について説明する図である。
【図4】図1の中空糸膜の疎水性/親水性変化によって懸濁物が蓄積し、除去される様子を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るろ過装置について説明する図である。
【図6】図5のろ過装置におけるろ過の処理について説明する図である。
【図7】図5のろ過装置においてろ過から逆洗へ切り替える処理について説明する図である。
【図8】図5のろ過装置における逆洗の処理について説明する図である。
【図9】図5のろ過装置においてろ過を終了した処理について説明する図である。
【図10】ろ過及び逆洗を繰り返す場合のろ過差圧の変化について説明する図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るろ過装置について説明する図である。
【図12】一般的な中空糸膜においてろ過及び逆洗を行う場合に蓄積される懸濁物の様子について説明する図である。
【図13】一般的な中空糸膜においてろ過及び逆洗を繰り返す場合のろ過差圧の変化について説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
1a,1b…ろ過装置
10…ろ過器
11…ポンプ
12,15,17a,17b,19…バルブ
13,14,18a,18b,20…配管
16,21…逆洗水製造機
100…中空糸膜
100a…分子鎖
100b…親水性表面
100c…疎水性表面
101,102…中空糸膜モジュール
200…懸濁物
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜を利用して表流水や廃液をろ過する洗浄方法及びろ過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
河川水や井戸水等の表流水を飲料水とするために行われる上水処理や一般産業で排出される廃液を処理する廃液処理には、膜(フィルタ)を使用して処理の対象である原水を処理する水処理装置が用いられている。中空糸膜は、膜の孔径を微細に加工することができるため、単位容量当たりに大きな膜面積を得ることができ、ろ過の対象である原水中の懸濁物や微生物等の捕集性能に優れている。中空糸膜はこのような特徴を有するため、水処理装置で多用されている。
【0003】
一方、水処理装置で使用される膜では、ろ過が繰り返されることによって膜表面に微小な懸濁物や微生物等が蓄積してフィルムを形成し、差圧上昇(定流量ろ過)や流量低下(定圧ろ過)等の問題が生じる。このように膜表面に蓄積された懸濁物等は、定期的に物理洗浄や薬品洗浄で除去される。
【0004】
たとえば、図12(a)に示すように、中空糸膜100を使用して原水をろ過する場合、原水中に含まれる懸濁物200が中空糸膜100の膜外面で捕集された後、懸濁物200が除去された原水は中空糸膜100の内側を通って排出される。なお、図12では、液体の流れを矢印で示している。
【0005】
未使用の中空糸膜100の膜表面には、懸濁物200は蓄積されていない。したがって、未使用の中空糸膜100は、通水直後には、膜の厚みや空孔構造に起因するろ過差圧(ろ材抵抗)を有しているが、このときの差圧は懸濁物200の影響を受けていない。
【0006】
しかし、未使用の中空糸膜100は、ろ過が開始されて通水されることによって原水中の懸濁物200が中空糸膜100に捕集され、中空糸膜100の膜表面には懸濁物200が蓄積されていく。すなわち、ろ過時間が経過した場合や一定量の原水を処理した場合、中空糸膜100の膜表面に懸濁物200が蓄積して、懸濁物200の影響を受けた差圧が生じ、未使用の状態と比較してろ過差圧が上昇する。
【0007】
ろ過差圧が上昇すると、ろ過を停止し、図12(b)に示すように、ろ過差圧を回復させるためにろ過の際とは逆方向から懸濁物が含まれていない清澄な水を流し、中空糸膜100の膜表面に捕集され、蓄積された懸濁物200を除去する逆洗(物理洗浄)を行う。
【0008】
しかしながら、従来の方法で逆洗を行っても、図12(c)に示すように、膜表面には微量の懸濁物が残余したり、細孔内に微粒子が入ることで、未使用と同一の状態まで回復しないのが現状である。
【0009】
例えば、ろ過と逆洗を繰り返した場合のろ過差圧の一例を図13に示すが、中空糸膜100が未使用の状態(図13中のA)からろ過を開始して一定時間が経過した場合又は一定量の原水が処理された場合には、図12(b)で上述したように中空糸膜100の膜表面に懸濁物200が蓄積し、ろ過差圧が上昇する(図13中のB)。
【0010】
ろ過差圧が上昇した時点で逆洗を行うと、中空糸膜100から懸濁物200が除去されてろ過差圧はある程度低下するが(図13中のC)、図12(c)で上述したように、中空糸膜100に蓄積した全ての懸濁物200を除去することはできないため、未使用の状態(図13中のA)の差圧と比較すると差圧は上昇している。また、その後、ろ過と逆洗を繰り返したとき、中空糸膜100の膜表面から除去できない懸濁物200が増加したり、膜表面が劣化するため、差圧は時間経過又は処理量の増加に伴い、上昇していく。
【0011】
したがって、長期間に渡ってろ過を繰り返した場合、中空糸膜100の膜表面に蓄積された懸濁物200を除去するために強酸や強アルカリ溶液あるいは次亜塩素酸ソーダ等の酸化性溶液に浸漬して洗浄(薬品洗浄)するのが一般的である。
【0012】
一方、薬品洗浄は膜を劣化させるため、薬品洗浄を行う頻度を減らすことが望ましい。薬品洗浄の頻度を減らすため、ろ過差圧を上昇させないろ過装置の運転方法の改良、懸濁物の除去方法(物理洗浄)の改良、懸濁物の除去が容易な膜材質の改良等が行われてきた。例えば、膜の材質を改良したり、膜表面を改質することで、微小な懸濁物の蓄積を抑制する様々な技術が検討されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0013】
特許文献1では、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸から感温性を発現する膜を調製し、洗浄時に温水に浸漬して孔径を制御して懸濁物を効率よく洗い落とす方法や感温性分子鎖を膜表面にコーティングして孔径を制御することで洗浄効率を向上させて、差圧上昇や流量低下を抑制する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000‐176260号公報
【特許文献2】特開2002‐346560号公報
【特許文献3】特開平3‐32729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、膜表面に蓄積する懸濁物を除去するために行われる薬品洗浄を繰り返した場合、ろ過に用いられる膜が劣化し、洗浄の後に行われるろ過の効率や性能が低下する問題がある。
【0015】
本発明は、薬品洗浄の回数を減少させることで薬品洗浄の繰り返しによる膜の劣化に伴うろ過の効率の低下や性能の低下を軽減させることのできる洗浄方法及びろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る洗浄方法は、少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器を洗浄する洗浄方法であって、前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させるための逆洗用原水を生成する生成工程と、生成された前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給して前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗工程と、逆洗工程によって生じた逆洗排水を前記ろ過器から排出する排出工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るろ過装置は、少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器と、前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、前記逆洗用原水を前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗時に生成した前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給する逆洗水製造機とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、薬品洗浄の回数を減少させることで薬品洗浄の繰り返しによる膜の劣化を軽減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
〈第1の実施形態〉
〈中空糸膜〉
本発明の最良の実施形態に係るろ過装置1aで用いられる中空糸膜100について図面を用いて説明する。
【0020】
図1(a)に中空糸膜100の概略図を示し、図1(b)に中空糸膜100の一部の模式図を示す。中空糸膜100には、環境変化に伴って変化する分子鎖100aが重合されている。具体的には、本発明の最良の実施形態に係る中空糸膜100には周囲環境の温度変化によって性質が変化する感温性の分子鎖100aが重合されており、温度変化によって分子鎖100aが伸縮する。
【0021】
例えば、N−イソプロピルアクリルアミドを重合した中空糸膜100の場合、周囲環境が常温である32℃以下では、図2(a)に示すように、分子鎖100aは伸びた状態である。また、周囲環境が高温である32℃以上になると、図2(b)に示すように、分子鎖100aは、収縮する特性を有している。
【0022】
また、この中空糸膜100の膜表面は、温度変化によって伸縮するとともに、親水性/疎水性の変化を発現する。具体的には、上述したN−イソプロピルアクリルアミドを重合した中空糸膜100の場合、32℃以下の常温の状態では、図3(a)に示すように、膜表面は親水性表面100bとなり、32℃以上の高温の状態では、図3(b)に示すように、膜表面は疎水性表面100cに変化する。
【0023】
膜表面での微小な懸濁物の蓄積による差圧の上昇を抑制するため、水中に存在する懸濁物と膜表面での結合を考慮することで、懸濁物の除去の効率を向上することができる。すなわち、水中に存在する多くの懸濁物はカルボキシル基、水酸基及びアミノ基等の親水性の官能基を有しており、膜表面が親水性の場合には、疎水性表面をもつ膜よりも水素結合などの弱い結合が生ずる。
【0024】
すなわち、ろ過時には中空糸膜100の膜表面を親水性表面100bとし、図4(a)に示すように弱い結合性(図4中の点線)で結合させて膜表面に懸濁物200を捕集する。また、逆洗時には中空糸膜100の膜表面を疎水性表面100cとすることで、図4(b)に示すように、膜表面や懸濁物200の間で生じている水素結合などの弱い結合を切った後に逆洗を行うため、除去の効率を向上させることができる。
【0025】
したがって、中空糸膜100に、原水の常温(例えば、5〜25℃程度)時に親水性の性質を有し、高温時に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0026】
なお、上述した中空糸膜100では、感温性物質を重合した例で説明したが、重合する代わりに感温性物質をコーティングしたり、感温性物質で膜を生成してもよい。
【0027】
〈ろ過装置〉
図5を用いて、本発明の第1の実施形態に係るろ過装置1aについて説明する。
【0028】
ろ過装置1aは、図5に示すように、原水をろ過するろ過器10と、ろ過の際に原水をろ過器10に供給するポンプ11と、ポンプ11によってろ過器10に原水を供給するバルブ12及び配管13と、ろ過器10でろ過された処理水を排出するための配管14及びバルブ15と備えている。
【0029】
このろ過器10内には、図1乃至図4を用いて上述した感温性の物質(分子鎖100a)が重合された中空糸膜100を用いて生成された中空糸膜モジュール101が内蔵されている。中空糸膜100に重合されている物質は、ろ過の対象となる常温の原水がろ過器10内に供給された場合に親水性となり、高温の逆洗用原水がろ過器10内に供給された場合に疎水性となる物質である。
【0030】
また、ろ過装置1aは、ろ過器10の逆洗に用いる逆洗用原水を製造する逆洗水製造機16と、逆洗水製造機16で製造された逆洗用原水をろ過器10に供給するバルブ17a,17b及び配管18a,18bとを備えている。この逆洗用原水は、ろ過器10に供給したときに感温性の物質が疎水性となる温度の温水である。例えば、中空糸膜100にN−イソプロピルアクリルアミドを重合している場合、逆洗水製造機16は、ろ過器10に供給したときに32℃〜37℃程度になるような逆洗用原水を製造する。
【0031】
さらに、ろ過装置1aは、逆洗が終了し、ろ過を開始する際に逆洗で使用して中空糸膜100の膜表面から懸濁物200を除去した後の逆洗排水を排出するためのバルブ19及び配管20を備えている。
【0032】
ろ過装置1aでは、バルブ12,15,17a,17b,19の開閉を制御して、ろ過器10内に原水や逆洗用原水を供給したり、ろ過器10から処理水や逆洗排水を排出することで、ろ過や逆洗を行う。
【0033】
《ろ過時》
ろ過時におけるろ過装置1aでは、従来と同様に、図6に示すように、ポンプ11の動作によってろ過器10へ原水が供給される。ろ過器10へ供給された原水は、中空糸膜モジュール101によってろ過される。その後、ろ過装置1aでは、ろ過によって原水中の懸濁物200が除去された処理水が、ろ過器10から排出され、配管14及びバルブ15を介して流出される。
【0034】
このとき、バルブ12,15が開になっており、他のバルブ17a,17b,19が閉になっているため、ろ過器10へ原水が供給されるとともに、ろ過器10から配管14を介して処理水が排出され、他の不要な場所へ原水や処理水が排出されることがないように制御されている。
【0035】
このように、ろ過がされることによって、中空糸膜モジュール101の中空糸膜100には懸濁物200が蓄積され、図12(b)及び図13のBで上述したような差圧が高い状態になる。
【0036】
《逆洗時》
ろ過装置1aでは、ろ過が開始されてから所定時間が経過した後、所定量の原水を処理した後、又は差圧が所定値に達した時点で逆洗が行われ、中空糸膜100に蓄積された懸濁物200を除去する。
【0037】
逆洗時には、図7に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を開けて、ろ過器10内に残留する原水を排出する。このとき、他のバルブ12,15,17a,17bは、閉じている。
【0038】
ろ過器10内の原水が排出されると、図8に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を閉じるとともに、バルブ18a,18bを開け、逆洗水製造機16で製造された温水である逆洗用原水をろ過器10に供給する。逆洗の際には、バルブ17aのみを開けて配管18aからのみろ過器10に逆洗用原水を供給する方法、バルブ17bのみを開けて配管18bからのみろ過器10に逆洗用原水を供給する方法、バルブ17a,17bを開けて配管18a,18bからろ過器10に逆洗用原水を供給する方法がある。
【0039】
配管18aからのみ逆洗用原水を供給する場合、バルブ19は開いていてろ過器10を逆洗用原水で満たさなくてもよい。一方、配管18bから逆洗用原水を供給する場合、バルブ19は閉じており、中空糸膜モジュール102が逆洗用原水によって浸漬される程度にろ過器10内を逆洗用原水で満たす必要がある。このとき、バルブ12,15は閉じている。
【0040】
逆洗が終了すると、図9に示すように、ろ過装置1aは、バルブ19を開いてろ過器10内から、逆洗排水を排出する。このとき、バルブ12,15,17a,17bは閉じている。
【0041】
逆洗排水が排出されると、中空糸膜100に蓄積された懸濁物200が除去されたため、再びバルブ15,17a,17b,19が閉じるとともに、バルブ12が開けられ、図6で上述した状態となり、ろ過が開始される。
【0042】
図10を用いて、ろ過と逆洗を繰り返した場合の差圧変化について説明する。未処理の場合には、感温性の物質が重合されていない中空糸膜モジュール(α)と、重合された中空糸膜モジュール(β、γ)の差圧を比較すると、感温性の物質が重合された中空糸膜モジュール(β、γ)は、重合されていないモジュール(α)と比較して、差圧が高い。これは、感温性の分子鎖が膜表面の孔を狭めているためである。
【0043】
しかし、温水である逆洗用原水をろ過器10に供給し、感温性の分子鎖を重合した中空糸膜モジュールを疎水性に変化させて逆洗した場合、逆洗による差圧(β)の回復性が高いため、長期的にみると、感温性の分子鎖を重合していないモジュール(α)の場合よりも差圧の上昇率は低い。
【0044】
なお、感温性の分子鎖を重合した中空糸膜モジュールのであっても、高温の逆洗用原水を用いず、常温の逆洗用原水で親水性の状態で逆洗した場合、差圧(γ)の上昇は高くなる。これは、逆洗時にも膜表面は親水性の状態であるため、膜表面と懸濁物との間に結合ができており、懸濁物が十分に除去できないためである。
【0045】
上述したように、第1の実施形態に係るろ過装置1aでは、中空糸膜100に、常温時に親水性の性質を有し、高温時に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0046】
なお、ろ過装置1aでも従来と同様に薬品洗浄を行うこともできるし、薬品洗浄の際にろ過器に供給する薬品を逆洗用原水と同様に中空糸膜の膜表面が疎水性になるような高温の状態にすることで、洗浄効果を高めることができる。
【0047】
〈第2の実施形態〉
第2の実施形態に係るろ過装置で用いられる中空糸膜は、周囲環境のpH変化によって性質が変化する物質が重合されており、pH変化によって親水性/疎水性の変化を発現する。具体的には、中空糸膜に重合する物質は、pH7程度の中性領域では、親水性を発現しているが、酸性になるに従って疎水性を発現する物質であるのが望ましい。これは、原水がpH7程度の中性であることが一般的であるためである。なお、このような親水性/疎水性変化を発現する物質は、中性から酸性になるにしたがって、指数関数的に疎水性を発現する。
【0048】
図11を用いて、本発明の第2の実施形態に係るろ過装置1bについて説明する。図11に示すろ過装置1bにおいて、図5を用いて上述したろ過装置1aと同一の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0049】
ろ過装置1bのろ過器10内に内蔵される中空糸膜モジュール102は、上述したように、pH変化によって変化する分子鎖が重合される中空糸膜によって構成されている。そのため、ろ過装置1bは、酸性の逆洗用原水を生成する逆洗水製造機21を有している。具体的には、逆洗水製造機21は、逆洗時には、中空糸膜が疎水性を表わす程度に酸性の逆洗用原水を生成し、バルブ17a,17b及び配管18a,18bを介して、ろ過器10に供給する。
【0050】
ろ過装置1bで行われる処理も、図6乃至図9を用いて上述したように、中性の原水をろ過と、酸性の逆洗用原水を使用する逆洗とが繰り返される処理であるため、説明を省略する。したがって、ろ過の場合には中空糸膜は中性であって、弱い結合で懸濁物200を重合し、逆洗の場合には酸性の逆洗用原水を供給して懸濁物200と中空糸膜との結合を切ることで洗浄を行う。
【0051】
上述したように、第2の実施形態に係るろ過装置1bでは、中空糸膜100に、中性の場合に親水性の性質を有し、酸性の場合に疎水性の性質を有する物質を重合させ、逆洗用原水を温水にすることで、ろ過時に表面に蓄積した懸濁物200の除去を容易にする。
【0052】
なお、上述した中空糸膜は、感温性物質を重合した例で説明したが、重合する代わりに感温性物質をコーティングしたり、感温性物質で膜を生成してもよい。
【0053】
また、ろ過装置1bでも従来と同様に薬品洗浄を行うこともできるし、中空糸膜が温度によっても疎水性/親水性の変化をする場合、薬品洗浄の際にろ過器に供給する薬品を逆洗用原水と同様に中空糸膜の膜表面が疎水性になるような温度にすることで、洗浄効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るろ過装置に使用される中空糸膜について説明する図である。
【図2】図1の中空糸膜の伸縮性について説明する図である。
【図3】図1の中空糸膜の疎水性/親水性変化について説明する図である。
【図4】図1の中空糸膜の疎水性/親水性変化によって懸濁物が蓄積し、除去される様子を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るろ過装置について説明する図である。
【図6】図5のろ過装置におけるろ過の処理について説明する図である。
【図7】図5のろ過装置においてろ過から逆洗へ切り替える処理について説明する図である。
【図8】図5のろ過装置における逆洗の処理について説明する図である。
【図9】図5のろ過装置においてろ過を終了した処理について説明する図である。
【図10】ろ過及び逆洗を繰り返す場合のろ過差圧の変化について説明する図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るろ過装置について説明する図である。
【図12】一般的な中空糸膜においてろ過及び逆洗を行う場合に蓄積される懸濁物の様子について説明する図である。
【図13】一般的な中空糸膜においてろ過及び逆洗を繰り返す場合のろ過差圧の変化について説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
1a,1b…ろ過装置
10…ろ過器
11…ポンプ
12,15,17a,17b,19…バルブ
13,14,18a,18b,20…配管
16,21…逆洗水製造機
100…中空糸膜
100a…分子鎖
100b…親水性表面
100c…疎水性表面
101,102…中空糸膜モジュール
200…懸濁物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器を洗浄する洗浄方法であって、
前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させるための逆洗用原水を生成する生成工程と、
生成された前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給して前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗工程と、
逆洗工程によって生じた逆洗排水を前記ろ過器から排出する排出工程と、
を備えることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が常温であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が前記常温よりも高温であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記生成工程では、前記高温の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が中性であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が酸性であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記生成工程では、前記酸性の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項4】
少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器と、
前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、前記逆洗用原水を前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗時に生成した前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給する逆洗水製造機と、
を備えることを特徴とするろ過装置。
【請求項5】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が常温であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が前記常温よりも高温であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記逆洗水製造機は、前記高温の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項4記載のろ過装置。
【請求項6】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が中性であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が酸性であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記逆洗水製造機は、前記酸性の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項4記載のろ過装置。
【請求項1】
少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器を洗浄する洗浄方法であって、
前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させるための逆洗用原水を生成する生成工程と、
生成された前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給して前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗工程と、
逆洗工程によって生じた逆洗排水を前記ろ過器から排出する排出工程と、
を備えることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が常温であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が前記常温よりも高温であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記生成工程では、前記高温の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が中性であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が酸性であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記生成工程では、前記酸性の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項4】
少なくとも供給される水の温度変化又はpH変化に伴って親水性又は疎水性に変化し、ろ過の対象である原水が供給されたときには親水性になる物質が膜表面に重合又はコーティングされた中空糸膜を内部に有するろ過器と、
前記中空糸膜の膜表面を疎水性に変化させる逆洗用原水を生成し、前記逆洗用原水を前記膜表面に付着した懸濁物を除去する逆洗時に生成した前記逆洗用原水を前記ろ過器に供給する逆洗水製造機と、
を備えることを特徴とするろ過装置。
【請求項5】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が常温であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が前記常温よりも高温であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記逆洗水製造機は、前記高温の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項4記載のろ過装置。
【請求項6】
前記物質は、前記ろ過器内に供給される水が中性であるときに親水性となり、前記ろ過器内に供給される水が酸性であるときに疎水性に変化する物質であって、
前記逆洗水製造機は、前記酸性の逆洗用原水を生成することを特徴とする請求項4記載のろ過装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−259995(P2008−259995A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106288(P2007−106288)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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