説明

洗浄方法及び洗浄装置

【課題】基板上に発生した潮解性を有する汚染物質を簡便かつ確実に除去することができる洗浄方法、並びに装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る洗浄装置は、マスク基板11上に汚染物質として発生した潮解性の汚染物質15を除去する洗浄装置であって、汚染物質15の周辺の相対湿度を、汚染物質の臨界湿度以上100%未満に制御し、汚染物質を水滴化する冷却手段23と、水滴化した汚染物質15にレーザ光を照射する光源22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄方法及び洗浄装置に関し、特に詳しくは、光を照射することによって汚染物質を除去する洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ArFエキシマレーザ光等を用いた高エネルギー露光方法においてフォトマスクが使用された場合、マスクのパターン面に、ヘイズとして硫酸アンモニウムの結晶性異物などが成長することが知られている。現在、ヘイズが発生したマスクは、パターン面を保護するために設けられているペリクルを一旦はがして汚染物質を洗浄除去した後、ペリクルを新たに貼り付けなおしてから使用することが一般的である。そのため、短時間で汚染物質を除去できる簡便な洗浄方法が期待されている。
【0003】
従来から、マスクのパターン面の汚染物質に対してレーザ光を照射することにより洗浄することができるレーザクリーニング法が提案されている(特許文献1)。また、レーザクリーニング法の1つとしてスチームレーザクリーニング法が知られている(非特許文献1)。この方法は、基板表面に水等の液体を付加した後に、レーザ光を照射して液体を爆発的に蒸発させる。この爆発的蒸発の際に発生する液体分子の運動エネルギーを汚染物質に分与して、汚染物質を液体とともに基板表面から除去する方法である。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4987286号明細書
【非特許文献1】Andrew C. Tam et al. "Laser-cleaning Techniques for removal of surface particulates" J. Appl. Phys. 71(7), pp3515-3523, 1 April, 1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
爆発的に蒸発する液体として、特許文献1では毛管水が、非特許文献1では基板に付与した液体の膜が記載されている。しかしながら、物質と基板の隙間に存在する毛管水は、隙間が一定していないため、水の量は個々の付着状態によってバラバラである上、極めて僅かである。そのため、汚染物質が必ずしも除去されない場合がある。また、新たに液体を基板上に付与するには、液体供給機能が必要であり、装置構成が複雑化する。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、簡便かつ確実に汚染物質を除去することができる洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る洗浄方法は、基板上に汚染物質として発生した潮解性の汚染物質を除去する除去方法であって、前記汚染物質の周辺の相対湿度を、前記汚染物質の臨界湿度以上100%未満に制御し、前記汚染物質を水滴化するステップと、前記水滴化した汚染物質にレーザ光を照射するステップとを有する。これにより、基板上の汚染物質が発生した領域だけに水滴を付着させることができ、簡便かつ確実に汚染物質を基板から分離させることができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る洗浄方法は、上記の制御方法であって、前記基板の温度を下げることにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする。これにより、確実に汚染物質を水滴化することができ、汚染物質を基板から分離させることができる。
【0009】
本発明の第3の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記汚染物質の周辺を加湿することにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする。これにより、確実に汚染物質を水滴化することができ、汚染物質を基板から分離させることができる。
【0010】
本発明の第4の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記汚染物質の臨界湿度より高い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする。これにより、簡便に汚染物質の周辺の湿度を制御することができる。
【0011】
本発明の第5の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記汚染物質の臨界湿度より低い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液であり、前記基板よりも高い温度の飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする。これにより、簡便に汚染物質の周辺の湿度を制御することができる。
【0012】
本発明の第6の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記基板は、フォトマスク基板、シリコン基板、化合物半導体基板、FPD製造用基板、太陽電池製造用基板であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第7の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルが設けられており、前記ペリクルを介して、前記レーザ光を照射することを特徴とする。これにより、ペリクルをはずすことなく、簡便に汚染物質を基板から分離させることができる。
【0014】
本発明の第8の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内に前記飽和水溶液と平衡状態にある気体を導入することにより、前記汚染物質の周辺の湿度を制御することを特徴とする。これにより、汚染物質の周辺の湿度を短時間で制御することができ、基板の洗浄に係る時間を短縮することが可能となる。
【0015】
本発明の第9の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、前記ペリクル付きの前記フォトマスク基板をクリーンルーム内に放置することにより、前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内の絶対湿度を上昇させることを特徴とする。これにより、簡便にペリクル内空間の絶対湿度を上昇できる。
【0016】
本発明の第10の態様に係る洗浄方法は、上記の洗浄方法であって、前記汚染物質が、硫酸アンモニウムであることを特徴とする。
【0017】
本発明の第11の態様に係る洗浄装置は、基板上に汚染物質として発生した潮解性の汚染物質を除去する洗浄装置であって、前記汚染物質の周辺の相対湿度を、前記汚染物質の臨界湿度以上100%未満に制御し、前記汚染物質を水滴化する湿度制御部と、前記水滴化した汚染物質にレーザ光を照射する光源とを有するものである。
【0018】
本発明の第12の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記湿度制御部は、前記基板の温度を下げることにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とするものである。これにより、確実に汚染物質を水滴化することができ、汚染物質を基板から分離させることができる。
【0019】
本発明の第13の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記湿度制御部は、前記汚染物質の周辺を加湿することにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とするものである。これにより、確実に汚染物質を水滴化することができ、汚染物質を基板から分離させることができる。
【0020】
本発明の第14の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記湿度制御部は、前記汚染物質の臨界湿度より高い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とするものである。これにより、簡便に汚染物質の周辺の湿度を制御することができる。
【0021】
本発明の第15の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記湿度制御部は、前記汚染物質の臨界湿度より低い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液であり、前記基板よりも高い温度の飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とするものである。これにより、簡便に汚染物質の周辺の湿度を制御することができる。
【0022】
本発明の第16の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記基板は、フォトマスク基板、シリコン基板、化合物半導体基板、FPD製造用基板、太陽電池製造用基板であることを特徴とする。
【0023】
本発明の第17の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルが設けられており、前記ペリクルを介して、前記レーザ光を照射することを特徴とする。これにより、ペリクルをはずすことなく、簡便に汚染物質を基板から分離させることができる。
【0024】
本発明の第18の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、前記湿度制御部は、前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内に前記飽和水溶液と平衡状態にある気体を導入することにより、前記汚染物質の周辺の湿度を制御することを特徴とする。これにより、汚染物質の周辺の湿度を短時間で制御することができ、基板の洗浄に係る時間を短縮することが可能となる。
【0025】
本発明の第19の態様に係る洗浄装置は、上記の洗浄装置であって、前記汚染物質が、硫酸アンモニウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡便かつ確実に汚染物質を除去することができる洗浄方法及び洗浄装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施例について以下に図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施例を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものを実質的に同様の内容を示している。
【0028】
一般的なクリーンルームでの基板汚染の原因のひとつは、製造工程で使用されている硫酸や硝酸、塩酸、フッ酸等の酸分子や、APM(アンモニア過水)、或いはHMDS(ヘキサメチレンジシラザン)処理の副生物や、作業者の汗に含まれている塩基性アンモニア分子など、あるいはそれらと大気中に含まれている水蒸気や二酸化炭素との反応生成物、またはそれらの分子クラスタが本来不純物を含まないクリーンルームの空気中に微小な不純物として混在した結果であることが知られている。これらが製造工程で次の処置を待っている間に、あるいは処理中に、基板に付着して基板ヘイズを発生させる。
【0029】
従来は、これらの汚染が判明した段階で、あるいは汚染が発生する可能性がある製造工程で、ウエット洗浄工程を設けることが一般的であった。しかし、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、除去すべき汚染物質の化学的特性に潮解性があることを見出した。この潮解性を積極的に利用した洗浄方法は知られていない。本発明は、汚染物質の潮解性を利用することにより、従来のウエット洗浄方法と比較すると、単純な設備構造の準ドライ洗浄で基板表面の汚染物質を除去するものである。
【0030】
実施の形態1.
実施の形態1に係る洗浄装置について図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る洗浄装置20の構成を模式的に示す図である。ここでは、洗浄処理対象である基板として、ペリクル13付きマスク10を構成するマスク基板11の洗浄を行う例について説明する。本実施の形態に係る洗浄装置20は、マスク基板11のパターン面に付着した汚染物質15を分離・除去する洗浄処理を行う。
【0031】
まず、洗浄処理対象となるマスク10の構成について説明する。マスク10は、半導体等の露光工程で使用されるフォトマスクである。マスク10は、マスク基板11、ペリクルフレーム12、ペリクル13を有する。マスク基板11上には、露光時に転写されるパターン14が形成されている。このパターン14は、石英などの透明基板上に形成されている。パターン14は、遮光パターンの他、ハーフトーンパターンや位相シフトパターンなどであってもよい。
【0032】
マスク基板11のパターン面には、枠状のペリクルフレーム12が装着されている。ペリクルフレーム12は、マスク基板11のパターン14が形成されている領域を囲むように貼着されている。ペリクルフレーム12のパターン面側と反対側には、ペリクル13が設けられている。ペリクルフレーム12を介してマスク基板11にペリクル13が装着される。
【0033】
従って、パターン面上の空間がマスク基板11、ペリクルフレーム12、及びペリクル13で囲まれている。これにより、外部から飛来する異物がパターン面に付着するのを防ぐことができる。マスク基板11、ペリクルフレーム12、及びペリクル13で囲まれた空間をペリクル空間とする。洗浄装置は、ペリクル13を装着した状態でマスク基板11上の汚染物質15を分離・除去する洗浄処理を行う。具体的には、レーザ光を照射することによって、パターン面上の汚染物質15をマスク基板11から取り除く。
【0034】
なお、汚染物質15は、潮解性を有するものである。例えば、硫酸アンモニウムである。このような汚染物質は、露光光の照射等によって徐々に成長していき、長時間経過後に異物となる。汚染物質15には、マスク基板11上で異物として光学的に検出することができるものだけでなく、光学的に検出することが困難である微小な物質が含まれる。
【0035】
このような微小な汚染物質15が成長していくと、露光に問題となってしまう。従って、汚染物質15が露光に問題となる大きさに成長する前に、汚染物質15を水滴化して、レーザ光を照射して汚染物質15をマスク基板11の表面から取り除く。あるいは、露光に問題となる大きさの汚染物質15を水滴化して、その水滴にレーザ光を照射して、汚染物質15をマスク基板11の表面から取り除く。これにより、汚染物質15が成長して露光に問題となるのを防ぐことができる。従って、マスク10の寿命を延ばすことができる。
【0036】
次に、洗浄装置20の構成について説明する。洗浄装置は、ステージ21、光源22、冷却手段23を備えている。ステージ21には、マスク10が載置される。マスク基板11のパターン面と反対面がステージ21に当接する。ステージ21は中空のXYステージであり、マスク基板11の端部を支持する。ステージ21を駆動すると、ステージ21上のマスク10が横方向に移動する。すなわち、マスク10がステージ21とともに、パターン面に沿った方向に移動する。そして、光の照射位置を汚染物質15が付着した箇所に位置合わせすることができる。
【0037】
また、マスク10の上方には、光源22が設けられている。光源22としては、水を爆発的に蒸発させるための光源であることが好ましい。すなわち、水に対する吸収係数の高い、あるいは基板材料に対する吸収係数の高い、波長の光を放射する光源であることが好ましい。
【0038】
マスク基板11のパターン面と反対側の面に、湿度制御部としての冷却手段23が設けられている。冷却手段23は、マスク基板11を冷却して当該マスク基板11の温度を下げることにより、汚染物質15の周辺の相対湿度を制御する。冷却手段23としては、コールドプレート、液体窒素ノズル、ボルテックスチューブなどを用いることができる。
【0039】
冷却手段23は、汚染物質15が付着した箇所の直下に配置されている。汚染物質15の存在する領域が部分的に冷却される。これにより、汚染物質15の周辺の相対湿度が上昇する。冷却手段23は、汚染物質15の周辺の相対湿度を、当該汚染物質15の臨界湿度以上100%未満に保持する。
【0040】
上述したように汚染物質15は潮解性を有するものである。潮解性物質は、その臨界蒸気圧以上の相対湿度雰囲気では、水蒸気を吸収する性質がある。例えば、硫酸アンモニウムがマスク基板11上に結晶として発生していた場合、硫酸アンモニウムの臨界湿度である相対湿度81%以上の雰囲気であれば、潮解性により結晶の固体が水蒸気を吸収した硫酸アンモニウム水溶液の水滴になる。
【0041】
また、汚染物質15の周辺の相対湿度を100%未満に保持できれば、すなわちマスク基板11の温度を露点以下にしなければ、マスク基板11表面の潮解性の汚染物質15が存在する部分だけに水滴を発生させることができる。マスク10の一般的な保管環境は23度、相対湿度50%、絶対湿度0.009(kg/kg(DA)(DA:Dry Air))、露点12.3度である。
【0042】
ペリクル空間内の雰囲気がこの保管環境と同じ場合、マスク基板11の温度を15度に下げると、基板表面近傍の相対湿度が硫酸アンモニウムの臨界湿度である81%を超えるため潮解が始まる。マスク基板11の温度を12.3度まで下げない限り、マスク基板11の表面は結露しないで、硫酸アンモニウムが付着していた部分にだけ水滴を形成することができる。
【0043】
このように、汚染物質15の周辺の相対湿度が当該汚染物質15の臨界湿度以上100%未満の湿度雰囲気下では、汚染物質15は潮解し水滴化する。これにより、マスク基板11上では、汚染物質15が存在する領域のみに、汚染物質15が溶解した水滴が付着することとなる。従って、マスク基板11上の汚染物質が発生した領域以外の領域には水滴が付着しない。
【0044】
この汚染物質15を潮解する処理を行った後、硫酸アンモニウム等の汚染物質15が溶解した水滴にペリクル13を介してレーザを照射し、基板表面から汚染物質を離散・除去する。
【0045】
本発明においては、飛散した汚染物質15がマスク基板11の表面で結晶化したとしても、そのサイズはきわめて小さいものになる。すなわち、洗浄処理を行う前は、露光に問題となるサイズとして局在していた汚染物質15は、マスク基板11の表面やペリクルフレーム12、ペリクル13等に広く分散する。このため、マスク欠陥となる恐れがなく、露光工程に問題となることはない。
【0046】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る洗浄装置について図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係る洗浄装置20'の構成を模式的に示す図である。実施の形態1では、汚染物質15の周辺の相対湿度を制御する方法として、マスク基板11の温度を下げる例について説明した。本実施の形態では、これに代わり、汚染物質15の周辺を加湿することにより汚染物質15の周辺の相対湿度を制御する例について説明する。なお、図2において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付し説明を省略する。
【0047】
図2に示すように、本実施の形態に係る洗浄装置20'は、ステージ21、光源22、供給手段30、供給管31、排気管32、排気ポンプ33を備えている。また、ここでは、ペリクルフレーム12の側壁には、供給口16、排気口17が設けられている。供給口16、排気口17は、ペリクルフレーム12の側壁を貫通している。すなわち、供給口16及び排気口17は、ペリクル空間外からペリクル空間内に到達している。
【0048】
ペリクル空間は、供給口16、及び排気口17を除いて、閉じた空間となる。供給口16からペリクル空間内に気体が供給される。また、排気口17からは、ペリクル空間内の気体が排気される。供給口16には、供給管31を接続するためのジョイントやフィッティング等が設けられている。また、排気口17には、排気管32を接続するためのジョイントやフィッティング等が設けられている。すなわち、ジョイントなどの接続手段によって、ペリクルフレーム12に各配管が接続されている。
【0049】
供給管31には、湿度制御部としての供給手段30が接続されている。供給手段30は、供給管31を通じて、ペリクル空間内に一定の湿度を有する気体を導入して汚染物質15の周辺を加湿することにより、汚染物質15の周辺の相対湿度を制御する。これにより、汚染物質15の周辺の相対湿度を汚染物質15の臨界湿度以上100%未満に保持し、汚染物質15を水滴化する。
【0050】
再現性よく安定して一定の相対湿度を得る方法としては、湿度標準の飽和塩法として知られている塩化合物の飽和水溶液を利用することができる。固相の共存する飽和溶液上の密閉空間の相対湿度は安定して再現性がよい。代表的な物質例とその相対湿度(%)を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
具体的には、供給手段30は、汚染物質15の臨界湿度よりも高い相対湿度を持つ物質の飽和水溶液を用いて加湿することができる。汚染物質15が、硫酸アンモニウムである場合には、臨界湿度は81%である。従って、これよりも高い84%の相対湿度を有する、未溶解結晶を含んだ塩化カリウムの飽和水溶液を用いて、汚染物質15の周辺の相対湿度を制御することができる。
【0053】
又は、汚染物質15の臨界湿度より低い相対湿度を持つ物質の飽和水溶液であり、マスク基板11よりも高い温度の飽和水溶液を用いて加湿することも可能である。例えば、マスク基板11の温度が23℃である場合、25℃の未溶解結晶を含んだ塩化ナトリウムの飽和水溶液を用いることにより、汚染物質15の周辺の相対湿度を85%にすることができる。これにより、汚染物質15である硫酸アンモニウムを潮解させることが可能である。その際、汚染物質15の周辺の相対湿度を100%未満に保持できれば、マスク基板11表面の潮解性物質が存在した部分だけに水滴を発生させることができる。
【0054】
このように、ペリクル空間内に飽和水溶液と平衡状態にある気体を導入することにより、汚染物質15の周辺の湿度を制御することにより、汚染物質15の水滴化にかかる時間を短縮することができる。なお、ペリクル13に供給口16、排気口17等を設けなくても、上記の一定湿度を与える飽和水溶液が存在する空間内にマスク10を放置することにより、ペリクル空間内の湿度を制御することも可能である。
【0055】
ペリクル空間内の絶対水蒸気圧がほとんどゼロであって、実施の形態1では汚染物質15の周辺の相対湿度を汚染物質15の臨界湿度まで上昇させることが困難な場合がある。このような場合には、実施の形態2あるいは次に述べる実施の形態3の加湿手段を用いることにより必要な相対湿度を実現することができる。
【0056】
この汚染物質15を潮解する処理を行った後、硫酸アンモニウム等の汚染物質15が溶解した水滴にペリクル13を介してレーザを照射し、基板表面から汚染物質を離散・除去する。
【0057】
排気管32には、ペリクル空間の気体を排出する排気ポンプ33が設けられている。排気ポンプ33としては、例えば、真空ポンプなどを用いることができる。排気ポンプ33は、排気管32を通じて、ペリクル空間内の気体をペリクル空間外に排出する。このように、汚染物質15を排気口17から吸引することで、マスク基板11から離脱した汚染物質15は、気体の流れによってペリクル空間の外側に排出される。これにより汚染物質15が成長して異物となるのを防ぐことができ、マスク10の長寿命化を実現することができる。
【0058】
本実施の形態においては、排気口17はペリクルフレーム12の供給口16が設けられている側壁とは反対側の側壁に形成されている。すなわち、枠状のペリクルフレーム12の対向する2辺の一方に排気口17が形成され、他方に供給口16が形成されている。従って、供給手段30よる供給及び排気ポンプ33による排気を行うと、ペリクル空間内には、パターン面に沿った方向に気体の流れが形成される。これにより、ペリクル空間内の気体を置換することができる。
【0059】
すなわち、ペリクル空間内に最初から存在していた気体が排気され、供給手段30から供給された一定湿度を有する気体がペリクル空間内に充満する。なお、排気口17と供給口16とは対向する位置に設けることが好ましい。さらに、平面方向において、マスク基板11の中心に対して点対称な位置に設けてもよい。これにより、付着箇所によらず汚染物質15を確実に除去することができる。もちろん、供給口16、排気口17をそれぞれ複数設けてもよい。
【0060】
なお、供給口16、排気口17、供給管31、排気管32にフィルタ等を設けることで、新たな異物や汚染物質が付着するのを防ぐことができる。また、供給管31、排気管32の途中に、排気、給気量を調整するための可変バルブ等を設けてもよい。また、ペリクル13が過度に膨らんだり、撓んだりする事を防ぐため、供給手段30、排気ポンプ33の動作を制御して、排気量、及び供給量を制御してもよい。
【0061】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3に係る洗浄装置について以下に説明する。実施の形態2では、加湿するための加湿気体を発生するための供給手段30が必要である。本実施の形態3は、このような加湿気体発生手段を必要とせず、ペリクル膜の特性を利用して簡便に所望の相対湿度を実現する方法である。
【0062】
ペリクル13の膜材料は、極薄のフッ素ポリマーである。フッ素ポリマーの水蒸気透過率は、高密度ポリエチレンとほぼ同程度であり、ペリクル13が実効的な水蒸気透過性を有している。クリーンルーム環境の相対湿度が通常45%である。乾燥空気環境設備等に保管されていたペリクル付きマスク10を、しばらくクリーンルーム環境に放置することで、特段の加湿気体発生手段を設けることなく、ほとんど水蒸気を含んでいなかったペリクル空間内に水蒸気を導入できる。水蒸気の導入後、マスク基板11を冷却することで、ペリクル空間にある汚染物質15近傍の相対湿度を所望の湿度に制御することができる。クリーンルームにマスク10を放置する時間が許容できる場合には、最も簡便で確実かつ低コストな洗浄方法である。
【0063】
実施形態1、2、3で記載した、臨界湿度などの数値は、好適な一例であり、特に記載した数値に限定されるものではない。また、上記の実施形態1、2、3を適宜組み合わせて使用してもよい。また、上記の洗浄方法を生産工程に組み込むことで、生産性を向上させることができる。すなわち、透明基板上にパターン14を形成して、マスク基板11を製造する。そのマスク基板11にペリクルフレーム12を介してペリクル13を装着する。そして、マスク10に対して、上記のように、汚染物質に対する処理を行う。
【0064】
汚染物質15の除去を行う場合、マスク基板11の汚染物質15が付着した箇所に光を照射して、汚染物質15をマスク基板11から離脱させる。これにより、汚染物質を確実に除去することができる。さらに、汚染物質15が除去されたマスク10を用いて露光を行う。これにより、汚染物質15が確実に除去されたマスク10を用いた露光が行われる。よって、半導体などのパターン基板の生産性を向上することができる。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、従来のように基板上に水膜を形成する機構等を有しなくても、湿度制御部を備えることにより汚染物質の潮解性を利用して汚染物質のみを水滴化することができる。このため、簡便かつ低コストで洗浄処理を行うことができる。また、設備的にも単純な構造であることから、既存の製造設備、例えば搬送設備等に組み込むことも容易である。このように、本発明にかかる洗浄方法は、洗浄装置のコストを低くする手段の提供だけでなく、製造時間を短縮する手段や製造ラインを簡素化する手段も提供できる洗浄方法である。
【0066】
なお、本実施形態に係る洗浄装置はペリクルが装着されていないマスクに対しても利用することができる。また、マスク以外の基板に付着した汚染物質に対して、処理を行ってもよい。例えば、シリコン基板、化合物半導体基板、FPD製造用基板、太陽電池製造用基板を洗浄処理することが可能である。基板のヘイズ等の潮解性の汚染物質の除去方法として、汚染物質の周辺の相対湿度を、当該汚染物質の臨界湿度以上100%未満に保持することにより、汚染物質のみを潮解させ水滴化することができる。そして、汚染物質が付着した箇所に形成された水滴に対してレーザ光を照射する。これにより、基板上の汚染物質に対する処理を簡便にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施形態1に係る洗浄装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施形態2に係る洗浄装置の構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10 マスク
11 マスク基板
12 ペリクルフレーム
13 ペリクル
14 パターン
15 汚染物質
16 供給口
17 排気口
20 洗浄装置
21 ステージ
22 光源
23 冷却手段
30 供給手段
31 供給管
32 排気管
33 排気ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に汚染物質として発生した潮解性の汚染物質を除去する除去方法であって、
前記汚染物質の周辺の相対湿度を、前記汚染物質の臨界湿度以上100%未満に制御し、前記汚染物質を水滴化するステップと、
前記水滴化した汚染物質にレーザ光を照射するステップと、
を有する洗浄方法。
【請求項2】
前記基板の温度を下げることにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記汚染物質の周辺を加湿することにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記汚染物質の臨界湿度より高い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする請求項3に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記汚染物質の臨界湿度より低い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液であり、前記基板よりも高い温度の飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする請求項3に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記基板は、フォトマスク基板、シリコン基板、化合物半導体基板、FPD製造用基板、太陽電池製造用基板であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルが設けられており、
前記ペリクルを介して、前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項1〜5に記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、
前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内に前記飽和水溶液と平衡状態にある気体を導入することにより、前記汚染物質の周辺の湿度を制御することを特徴とする請求項4又は5に記載の洗浄方法。
【請求項9】
前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、
前記ペリクル付きの前記フォトマスク基板をクリーンルーム雰囲気に放置することにより、前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内の絶対湿度を上昇させることを特徴とする請求項2に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記汚染物質が、硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項11】
基板上に汚染物質として発生した潮解性の汚染物質を除去する洗浄装置であって、
前記汚染物質の周辺の相対湿度を、前記汚染物質の臨界湿度以上100%未満に制御し、前記汚染物質を水滴化する湿度制御部と、
前記水滴化した汚染物質にレーザ光を照射する光源と、
を有する洗浄装置。
【請求項12】
前記湿度制御部は、前記基板の温度を下げることにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする請求項11に記載の洗浄装置。
【請求項13】
前記湿度制御部は、前記汚染物質の周辺を加湿することにより、前記汚染物質の周辺の相対湿度を制御することを特徴とする請求項11又は12に記載の洗浄装置。
【請求項14】
前記湿度制御部は、前記汚染物質の臨界湿度より高い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする請求項13に記載の洗浄装置。
【請求項15】
前記湿度制御部は、前記汚染物質の臨界湿度より低い臨界湿度を持つ物質の固体が共存する飽和水溶液であり、前記基板よりも高い温度の飽和水溶液を用いて加湿することを特徴とする請求項13に記載の洗浄装置。
【請求項16】
前記基板は、フォトマスク基板、シリコン基板、化合物半導体基板、FPD製造用基板、太陽電池製造用基板であることを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の洗浄装置。
【請求項17】
前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルが設けられており、
前記ペリクルを介して、前記レーザ光を照射することを特徴とする請求項11〜15に記載の洗浄装置。
【請求項18】
前記基板はフォトマスク基板であり、当該フォトマスク基板のパターン面上にペリクルフレームを介してペリクルが設けられ、
前記湿度制御部は、前記フォトマスク基板と前記ペリクルと前記ペリクルフレームとで囲まれた空間内に前記飽和水溶液と平衡状態にある気体を導入することにより、前記汚染物質の周辺の湿度を制御することを特徴とする請求項14又は15に記載の洗浄装置。
【請求項19】
前記汚染物質が、硫酸アンモニウムであることを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−112980(P2010−112980A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282916(P2008−282916)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】