説明

洗浄水の供給装置及び供給方法

【課題】切削加工後のワークを傷付けずに、ワーク表面の付着物を効果的に除去して、洗浄品質を向上させる。
【解決手段】ノズル41に接続した給水管45には、純水中にマイクロナノバブルBを発生させるマイクロナノバブル発生器49が接続され、ノズル41の先端はワークWの被洗浄部近傍に配置されている。ノズル41の吐出口部には圧力維持バルブ51が設けられ、マイクロナノバブル発生器49で生成した加圧過飽和状態のマイクロナノバブルBを含む洗浄水Cが、洗浄中にノズル41から吐出して、ワークWの被洗浄部に至近距離から供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水の供給装置及び供給方法に関し、特に、切削加工後のワーク(被洗浄物)に洗浄水を供給する洗浄水の供給装置及び供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置や電子部品が形成されたウェーハ等のワークに対して、切断や溝入れ加工を施すダイシング装置は、少なくともスピンドルによって高速に回転されるブレードと、ワークが支持固定(吸着保持)されるワークテーブルと、ワークテーブルとブレードとの相対的位置を変化させるX、Y、Z、θの各移動軸とが設けられている。ワークを加工する際には、ノズルより切削水をブレードとワークの切削加工点へ供給しながら、各移動軸の動作によってワークを加工している。
【0003】
ダイシング装置で切削加工されたワークには、切削により研削屑等のパーティクル(コンタミ、汚染物)が発生する。このパーティクルの一部は、切削水等を吹き付けても流されずに、ワーク上にそのまま滞留して品質低下を招く。そこで、切削加工後のワークは、一般にスピン洗浄装置によって洗浄される。例えば、切削加工後のワークをアンロード装置。
【0004】
又は人手でスピン洗浄装置に移動させて、ワークの洗浄を実施している。
【0005】
スピン洗浄装置は、ワークが載置固定(吸着保持)される回転テーブルと、ワーク表面に純水等の洗浄水を噴射するノズル等を備えている。このスピン洗浄装置において、ワークは回転テーブルとともに回転されながら、ノズルから噴射される洗浄水によって洗浄される(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−010267号公報
【特許文献2】特開2007−194367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、付き回り性の良くない純水をそのまま洗浄水としてワークに供給した場合は、所定以上の大きさのパーティクルに対しては、これを有効に除去できるものの、数μm〜数十μmの微細な切削屑等のパーティクルに対しては、これを除去することができない。結果として、長時間の洗浄などによりウェーハを傷付けたり静電気的にデバイスを破壊して洗浄品質や信頼性を低下させるという問題があった。
【0008】
特に、近年ではシリコンデバイスの高集積化に伴い、切削加工後のワークに対して洗浄品質の向上が要求されており、殊に、切削加工後のワーク表面に付着した微細なパーティクルに関して、これを如何にして効果的に除去するかが大きな課題になっている。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、切削加工後のワークを傷付けず、デバイスを静電気的にも破壊せず、ワーク表面の付着物を効果的に除去して、洗浄品質を向上させるために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、ワーク支持体上に固定された切削加工後のワークに、ノズルから吐出した洗浄水を供給する洗浄水の供給装置において、前記ノズルに接続した給水管には、純水中にマイクロナノバブルを発生させるマイクロナノバブル発生器が接続され、前記ノズルの先端はワークの被洗浄部の近傍に配置され、マイクロナノバブルを含む洗浄水をワークの被洗浄部に供給できるように構成したことを特徴とする洗浄水の供給装置を提供する。
【0011】
この構成によれば、マイクロナノバブルを含む洗浄水は、洗浄中、ワークの被洗浄部に至近距離から供給される。このマイクロナノバブルの気泡径は数nm〜数十μmと極微小であるため、数nm〜数十μmの微細なパーティクルに対しても、高い吸着作用や水面浮上作用を有する。そのため、微細なパーティクルがワーク表面に付着していても、ワーク表面から微細なパーティクルが有効に分離除去される。
【0012】
請求項2記載の発明は、上記ノズルの吐出口部近傍には、上記洗浄水の水圧を保持する圧力維持バルブが設けられていることを特徴とする請求項1記載の洗浄水の供給装置を提供する。
【0013】
この構成によれば、ノズルの吐出口部近傍に設けた圧力維持バルブにより、洗浄水の水圧が保持される。依って、マイクロナノバブル発生器で生成したマイクロナノバブルが加圧過飽和状態に維持されるので、小さな気泡の中に多量のガス成分が閉じ込められる。
【0014】
請求項3記載の発明は、上記圧力維持バルブの断面積は、上記ノズルの吐出口の断面積よりも小さく、前記圧力維持バルブの水圧が前記ノズルの水圧よりも高くなるように構成したことを特徴とする請求項2記載の洗浄水の供給装置を提供する。
【0015】
この構成によれば、圧力維持バルブの水圧が前記ノズルの水圧よりも高いことにより、ノズルから洗浄水が吐出する際に、洗浄水の圧力減少が急激になり、之に伴う気体溶解性の急低下により、加圧過飽和状態の溶質が一気に析出する。
【0016】
請求項4記載の発明は、ワーク支持体上に固定された切削加工後のワークに、ノズルから吐出した洗浄水を供給する洗浄水の供給方法において、前記洗浄水として、純水中にマイクロナノバブルを含ませたものを用い、洗浄中に、マイクロナノバブルを含む洗浄水を前記ノズルからワークの被洗浄部に至近距離から供給することを特徴とする洗浄水の供給方法を提供する。
【0017】
この方法によれば、洗浄中に、マイクロナノバブルを含む洗浄水をノズルからワークの被洗浄部に至近距離から供給する。この場合、マイクロナノバブルの気泡径は、数nm〜数十μmと極微小であるため、微細なパーティクルに対しても、高い吸着作用や水面浮上作用を有する。そのため、ワーク表面に微細なパーティクルが付着していても、ワーク表面から微細なパーティクルが効果的に分離除去される。
【0018】
請求項5記載の発明は、上記ワークが回転テーブル上に固定され、上記ノズルを前記回転テーブルの中心から径方向外側にスキャンさせながらワークを洗浄することを特徴とする請求項4記載の洗浄水の供給方法を提供する。
【0019】
この方法によれば、ノズルから吐出する洗浄水でワークを洗浄する際、ノズルは回転テーブルの中心から径方向外側に移動していく。依って、ワークの全面が隈なく洗浄される。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明は、マイクロナノバブルを含む洗浄水により、ワーク表面に微細なパーティクルが付着していても、之をワーク表面から効果的に分離除去できるので、ワークを傷付けることなく、洗浄品質を向上させることができる。
【0021】
又、気泡に生じたゼータ電位と、気泡消滅時のフリーラジカルの生成により、気泡表面がマイナス電位に帯電して、マイナス電荷にチャージされるので、前記付着物の除去効果が静電気的作用の観点からも増大する。
【0022】
請求項2記載の発明は、マイクロナノバブルの加圧過飽和状態を維持して、小さな気泡の中に多量のガス成分が閉じ込められるので、請求項1記載の発明の効果に加えて、微細なパーティクルに対する吸着作用、水面浮上作用及び静電気的吸引力作用の大きい高濃度のマイクロナノバブルを容易かつ安定して作製できる。
【0023】
請求項3記載の発明は、ノズルから洗浄水が吐出する際に、気体溶解性の急低下により、加圧過飽和状態の溶質が一気に析出して、より高濃度のマイクロナノバブルが生成されるので、請求項2記載の発明の効果に加えて、パーティクルに対する吸着作用、水面浮上作用及び静電気的吸引力作用並びにキャビテーション作用が相乗的に促進され、マイクロナノバブルの更なる高濃度化が図られ、微細なパーティクルに対する分離除去・抑制効果が一層著大になる。又、ノズルの吐出口部近傍に、断面積の小さい圧力維持バルブを取り付けたことにより、ノズルから吐出する切削水の直進性が向上する。
【0024】
請求項4記載の発明は、マイクロナノバブルを含む洗浄水により、ワーク表面に微細なパーティクルが付着していても、之をワーク表面から効果的に分離除去できるので、ワークを傷付けることなく、洗浄品質を向上させることができる。
【0025】
又、気泡表面に生じたゼータ電位により、気泡がマイナス電位に帯電されることと、気泡消滅時に生成するラジカルの反応と分解により、気泡表面がマイナス電位(約−30mV乃至−40mV)に帯電して、マイナス電荷にチャージされるので、前記付着物の除去効果が静電気的作用の観点からも増大する。
【0026】
請求項5記載の発明は、ノズルは回転テーブルの中心から径方向外側にスキャンされることで、ワークの全面が隈なく洗浄されるので、請求項4記載の発明の効果に加えて、ワークが微小凹凸面を有していても、この微小凹凸面を含むワークの被洗浄面全域の付着物をより効率良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例が適用されたダイシング装置の斜視図。
【図2】図1のダイシング装置の加工部を説明する斜視図。
【図3】一実施例に係る洗浄水の供給装置を説明する斜視図。
【図4】洗浄水ノズルに接続したマイクロナノバブル発生器の設置例を説明する解説図。
【図5】洗浄水ノズルへの圧力維持バルブの取付例を説明する解説図、(a)はバブリングノズルの解説図、(b)はリンスノズルの解説図。
【図6】マイクロナノバブルの気液界面におけるイオンと電位の状態を示し、(a)はイオン分布を説明する解説図、(b)は電位変化を説明する解説図。
【図7】蒸留水中でのマイクロナノバブルのゼータ電位を説明するグラフ。
【図8】マイクロナノバブルのゼータ電位の上昇とフリーラジカルの発生を説明するグラフ。
【図9】マイクロナノバブルのゼータ電位とpHの関係を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、切削加工後のワークを傷付けずに、ワーク表面の付着物を効果的に除去して、洗浄品質を向上させるという目的を達成するため、ワーク支持体上に固定された切削加工後のワークに、ノズルから吐出した洗浄水を供給する洗浄水の供給装置において、前記ノズルに接続した給水管には、純水中にマイクロナノバブルを発生させるマイクロナノバブル発生器が接続され、前記ノズルの先端はワークの被洗浄部の近傍に配置され、マイクロナノバブルを含む洗浄水をワークの被洗浄部に供給できるように構成したことにより達成した。
【0029】
本発明では、洗浄水供給源から給水管内に洗浄水を供給し、ノズルから洗浄水をワークの被洗浄部に噴射するが、マイクロナノバブル発生器により洗浄水中にはマイクロナノバブルを含むことで、その表面積が増大して洗浄水の表面張力を低下させ、洗浄水の付き回り性が良くなる。これにより、洗浄水はワークの被洗浄部の細部まで浸透でき、洗浄時の微細なパーティクルに対する脱離作用を促進して、ワーク表面上における洗浄能力が向上する。
【0030】
又、マイクロナノバブルを含む洗浄水が被洗浄部に至近距離から供給されることで、微細なパーティクルに対する吸着包囲効果、水面浮上効果、キャビテーション効果並びに電気的吸引効果が相乗的に発揮される。結果として、洗浄水がワークの細部まで一層浸透して洗浄能力が格段にアップする。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の好適な実施例を図1乃至図8に基づいて説明する。図1は本実施例に係るダイシング装置10を示す斜視図である。同図に示すように、ダイシング装置10は、主にウェーハWを供給・回収する供給・回収部12と、ウェーハWを加工する加工部14と、加工後のウェーハWを洗浄する洗浄部16と、ウェーハWを搬送する搬送部18と、各種操作を行う操作パネル20と、全体の動作を制御する制御部21とで構成される。
【0032】
供給・回収部12は、ロードポート22を備え、ロードポート22にはウェーハWが多数枚格納されたカセットがセットされる。なお、ウェーハWは、所定のフレーム(ワーク支持体)FにダイシングテープTを介してマウントされた状態でカセットに格納される。
【0033】
加工部14は、図2に示すように、ウェーハWを吸着保持(載置固定)するワークテーブル24と、ワークテーブル24に保持されたウェーハWを切削する一対のブレード26A、26Bと、ブレード26A、26Bが取り付けられるスピンドル28A、28Bと、ウェーハWの表面を撮影するカメラ部20とで構成される。
【0034】
ワークテーブル24は、水平なX軸テーブル30及びθ軸テーブル38の上に設けられ、θ軸テーブル38に駆動されて、中心軸θ回りに回転する。X軸テーブル30は、リニアモータ36に駆動されて、X軸ガイド34、34上をX方向にスライドする。
【0035】
ブレード26A、26Bは、切削方向がワークテーブル24の移動方向Xと平行になるようにスピンドル28A、28Bの先端に取り付けられ、スピンドル28A、28Bに駆動されて回転する。ブレード26A、26Bの近傍には、不図示の切削ノズルが設けられ、切削加工中、該切削水ノズルから切削水がウェーハWの加工点に供給される。
【0036】
スピンドル28A、28Bは、ワークテーブル24の移動方向と直交するようにワークテーブル24の上方に互いに対向配置され、6,000rpm〜80,000rpmの高速で回転される。
【0037】
スピンドル28A、28Bは、それぞれ垂直に設置されたブレード用Z軸テーブル40A、40Bに取り付けられる。Z軸テーブル40A、40Bは、それぞれブレード用Y軸テーブル42A、42Bに設けたZ軸ガイド44、44上をスライド自在に駆動動作する。Y軸テーブル42A、42Bは、Y軸ベース46の取付面46aに設けられた一対のY軸ガイド48の上をスライド自在に駆動動作する。
【0038】
次に、ダイシング加工方法について説明する。多数枚のウェーハWを収納したカセットがロードポート22に載置されると、ウェーハWは搬送部18によってカセットから引出されてワークテーブル24に載置される。この後、ウェーハWがワークテーブル24上に吸引保持される。
【0039】
続いて、ワークテーブル24は、カメラ部20の直下まで移動し、制御部21等によるアライメントが終了したら、カメラ部20がY軸テーブル42A、42Bの上方に配設される。次いで、ストリートとブレード26A、26Bとの精密位置合わせ作業が行われた後、ブレード26A、26BをZ方向に切り込み送りして回転させると共に、ワークテーブル24が切削送り方向Xに移動することで、ウェーハWはブレード26A、26Bによりストリートに沿って切断される(切削工程)。
【0040】
この後、ワークテーブル24をY方向に割り出し送りし、再度切断作業を実施する。そして、ストリートの全てに沿って切断作業が行われたら、ワークテーブル24を90度回転させて、切削作業を実行することにより、ウェーハWが個々のチップに分割される。
【0041】
そして、ウェーハWは、ハンドリングロボット18Aを備えた搬送部18によって洗浄部16に搬送される。洗浄部16は、スピン洗浄装置16Aを備えており、このスピン洗浄装置16Aによって、ウェーハWをスピン洗浄して乾燥される。この後、ウェーハWは、搬送部18によって仮置きテーブル15に搬出され、供給・回収部12のカセットに収納される。
【0042】
ここで、スピン洗浄装置16Aについて説明すると、スピン洗浄装置16Aは、図示しないモータによって100rpmから2,500rpmで高速回転するスピン回転部43を有している。このスピン回転部43の上部には、ダイシングテープTに貼着されたウェーハWの部分を吸着するための、ポーラス材から成るスピンナー吸着盤52が設けられ、更に、フレームFの部分を載置するためのスピンナーフレーム受け54が設けられている。
【0043】
ウェーハが貼り付けたダイシングテープTは、塩化ビニール、ポリオリフィレン、ペット材などが材料で、回転なので生じる摩擦により静電気が発生しやすく、ポーラス材から成るスピンナー吸着盤52はセラミック製で、電気伝導度が低い。
【0044】
又、スピンナーフレーム受け54には、円周上4箇所の位置に、回転中心56Aを中心に回転自在な遠心力クランパ56、56、…が設けられ、これにフレームFを回転時に固定できるようになっている。遠心力クランパ56は、その先端側にフレームFを固定するクランプ部56Bを有し、回転中心56Aを挟んで反対側は重量部56Cになっている。遠心力クランパ56は、スピンナーテーブル(回転テーブル)59が高速回転することにより、遠心力で重量部56Cが持ち上がり、クランプ部56BでフレームFを固定するようになっている。
【0045】
更に、スピン洗浄装置16Aには、ウェーハWの上方から洗浄水Cを供給する洗浄ノズル41が設けられ、洗浄ノズル41を支持するアーム55は、不図示のモータで往復回転(揺動)するアーム回転部47Aに連結され、ウェーハWの上面に洗浄水Cを満遍なく供給できる。
【0046】
次に、洗浄水供給システムについて詳述する。前述したように、洗浄ノズル41はウェーハWの上方に設けられ、洗浄ノズル41の先端は、ウェーハWの被洗浄部近傍にセットできるように配置されている。洗浄ノズル41にはフレキシブルな給水管45が接続され、この給水管45には、図4に示す洗浄水供給源47に接続され、洗浄水供給源47は純水タンクと圧送ポンプからなる。
【0047】
更に、給水管45の途中には、マイクロナノバブル発生器49が接続されている。マイクロナノバブル発生器49は、純水中にマイクロナノバブルBを発生させる。これにより、洗浄中に、マイクロナノバブルBを含む洗浄水Cが、給水管45を介して洗浄ノズル41側に供給されて、上記被洗浄部に向けて吐出される。
【0048】
又、図5に示すように、洗浄ノズル41の先端側吐出口部には、電磁弁である圧力維持バルブ51が設けられている。圧力維持バルブ51は、給水管45及び洗浄ノズル41を通過する洗浄水Cの水圧を保持する。圧力維持バルブ51の開閉動作は、制御装置21により制御される。圧力維持バルブ51の流出口の断面積dは、洗浄ノズル41の流入側及び吐出口側の断面積D1、D2よりも小さく、圧力維持バルブ51の水圧が、洗浄ノズル41の水圧よりも高くなるように形成されている。
【0049】
マイクロナノバブルBを含む洗浄水Cは、図6ないし図8に示すように、気液界面にゼータ電位が生じること、並びに気泡消滅時のフリーラジカルの生成により、気泡表面がマイナス電位に帯電して、気泡の界面がマイナス電荷にチャージされる。従って、ダイシングテープT及びスピンナー吸着盤42等のワーク支持部材がプラス電荷を帯びていた場合でも、前記マイナス電荷とプラス電荷が電気的に中和されるため、ウェーハWにおける付着物に対する除去・効果が静電気的にも著しく増大する。
【0050】
図6は、マイクロナノバブルBの気液界面におけるイオン分布と電位変化を示し、又、図7は、蒸留水中でのマイクロナノバブルBのゼータ電位の生成を示す。更に、図8は、マイクロナノバブルBのゼータ電位の上昇とフリーラジカルの発生の関係を説明するが、気泡の消滅とともにその消滅個数に比例して、気泡における電荷密度が上昇することで、濃縮したぜータ電位の電場が形成され、之を原因にフリーラジカルが発生する。発生したOH(水酸基ラジカル)などのフリーラジカルは、水溶液中に存在する様々な化学物質を分解、金属イオン等と反応することが可能である。
【0051】
また、図9に示すように、マイクロバブルのゼータ電位は水のpHの影響を強く受ける傾向にあり、アルカリ性では−100mVを超える値となり、pHが4以下の強い酸性ではややプラス側の電位を示す。水のpHにより、チャージ値を任意の値に変更することが可能である。
【0052】
図7、図8、図9で示すように、pH7近傍の液で泡径約10μmから約30μmの場合は、約−30mVから約−40mVに帯電する。
【0053】
本発明では、マイクロナノバブルBの表面がマイナス電荷に帯電することで、切削屑を含む汚染物質や、気泡と反対符号の電解質をもつイオン類(対イオン)及び金属イオン等の微細なパーティクルPを、静電気的な引力により気泡表面に引き付ける作用を生ずる。
【0054】
マイクロナノバブルBを含む洗浄水Cはイオン化しているため、液体の表面張力を低下させて、洗浄速度が向上するとともに洗浄品質が向上する。また、チャージ値のコントロールにより、バブリング洗浄などで生じる静電気破壊が改善される効果もある。
【0055】
上記洗浄水供給システムおいては、洗浄工程を開始する際、制御装置21から圧力維持バルブ51に開弁指令信号が送信されることで、圧力維持バルブ51が開放され、これにより、洗浄水Cが洗浄水ノズル41から一気に吐出される。そのため、洗浄水CがウェーハWの被洗浄部に供給され、当該被洗浄部の洗浄が行われる。この洗浄中に、洗浄ノズル41は、アーム回転部47Aの回りに揺動して、ウェーハWの径方向外方にスキャンされることによって、ウェーハWの全面が隈なく洗浄される。
【0056】
ここで、洗浄水Cは、マイクロナノバブルBを含むので、従来の純水のみによる洗浄と比べて高い洗浄効果を得ることができる。殊に、洗浄水ノズル41の吐出口部近傍に設けた圧力維持バルブ51により、洗浄水Cの水圧が保持される。依って、マイクロナノバブル発生器49で生成したマイクロナノバブルBの加圧過飽和状態が良好に維持される。そのため、小さな気泡の中に多量のガス成分が閉じ込められる。これにより、パーティクルPに対する吸着作用、水面浮上作用及び静電気的吸引力作用並びにキャビテーション作用が増大する。
【0057】
因みに、本発明は圧力維持バルブ51を設けたことにより、マイクロナノバブルBの加圧過飽和状態を100秒程度に維持できた。一方、圧力維持バルブ51を設けない場合は、マイクロナノバブル濃度が低下し、10秒程度でマイクロナノバブルBの加圧過飽和状態が消失した。
【0058】
実際に、マイクロナノバブルBを利用して、ウェーハWのダイシング加工及び洗浄を行った。表1にその加工条件を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
上記加工条件を共通にして、本発明のマイクロナノバブル発生器49を備えた実施例と、従来方式の二流体洗浄機構を備えた比較例とで、ウェーハWの洗浄品質を評価した。その結果、比較例では数μm乃至数十μmの微細なパーティクルPがウェーハW表面に一定量付着したのに対して、実施例では付着量は殆ど存在しなかった。
【0061】
又、マイクロナノバブル発生器49を備えた実施例と、マイクロナノバブル発生器49を備えない比較例とで、ウェーハW表面に残留するパーティクルPをカウントした。具体的には、リングなし+リンス+乾燥のみ、リンス(有り+乾燥のみ、バブリング+リンス+乾燥、バブリング(有り)+リンス(有り)+乾燥のそれぞれの場合につき評価した。その結果、実施例では比較例よりも洗浄品質が大幅に改善した。表2に洗浄品質の結果を示す。
【0062】
【表2】

【0063】
叙上の如く本発明によると、マイクロナノバブル発生器で生成されたマイクロナノバブルを含む洗浄水が、洗浄中に、被洗浄物に供給される。そして、このマイクロナノバブルの気泡径は、数nm〜数十μmと極微小であるため、数nm〜数十μmの微細なパーティクルであっても、之を吸着して水面浮上させ、加えて、マイクロナノバブルの衝突時の衝撃力やキャビテーション作用による洗浄効果も相乗的に発揮される。
【0064】
その結果、被洗浄物に付着した微細なパーティクルを浮上させて、微細なパーティクルが被洗浄物から有効に分離除去される。斯くして、被洗浄物における付着物の除去作用が有効に発揮して、被洗浄物の洗浄品質を向上することが可能になる。
【0065】
又、気泡にゼータ電位が生じ、気泡の界面がマイナス電荷にチャージされることと、気泡消滅時に生成されたフリーラジカルの反応、分解により、前記付着物に対する除去効果が静電気的にも著しく増大する。
【0066】
このことは、切削屑を含む汚染物質や、気泡と反対符号の電解質をもつイオン類(対イオン)、金属イオン等の微細なパーティクルが、静電気的な引力により気泡の表面に引き付けられることを意味する。依って、電気二重層を形成して気泡が安定し、被洗浄物に付着した微細なパーティクルの除去効果が更に増大する。例えば、被洗浄物の表面に微小凹凸が存在していても、当微小凹凸部における付着物除去効果が従来に比し格段にアップする。
【0067】
更に、加圧過飽和状態のマイクロナノバブルを含む洗浄水が、洗浄中に、ノズルから一気呵成に吐出して、被洗浄物の表面に供給される。この洗浄水中の気泡は、ヘンリーの法則の90%以上の飽和状態になり、洗浄水の吐出口の水圧よりも気泡の圧力が高くなる。
【0068】
加圧過飽和状態の洗浄水が圧力維持バルブを通過して、ノズル吐出口より被洗浄物の被洗浄部に向けて至近距離から吐出される際、圧力維持バルブにより、洗浄水の圧力が高くなり、微小なガス体の中に多量のガス分子を閉じ込めておくことができる。又、フレキシブルの給水管により、洗浄ノズルの取付位置の自由度が得られ、洗浄水供給装置全体の小
型化が図れる。しかも、洗浄ノズルの吐出口部近傍に圧力維持バルブを取り付けたことにより、一種の整流作用が形成されるため、洗浄ノズルから吐出する洗浄水の直進性が向上する。
【0069】
更に又、圧力維持バルブの流出部の断面積が洗浄ノズルの断面積がよりも小さいので、マイクロナノバブル発生器は、開放型でありながら循環型のものと同様に高濃度の気泡を生成して、洗浄水の吐出安定性を確保できる。以って、洗浄ノズルからの吐出圧が増大することで、洗浄ノズルから洗浄水が吐出する際の圧力減少が急激になり、之に伴う溶解性の急低下により、過飽和状態の溶質が一気に析出して、より高濃度のマイクロナノバブルが生成される。
【0070】
即ち、マイクロナノバブル発生器で発生したマイクロナノバブルの加圧過飽和状態を旅行に維持し、加圧過飽和状態の溶解気体を一気に析出させ、高濃度のマイクロナノバブルがブレードと被洗浄物に向かって吐出される。従って、微細なパーティクルに対する浮上効果及びキャビテーション効果を一層高めることができる。
【0071】
さらに、ノズル先端部に数μm程度のメッシュ状の網を取り付ければ、数+μmの気泡が数μmの気泡に分割され、数μmの気泡が安定して発生する。
【0072】
ノズルを回転テーブルの中心から径方向外側に移動させる洗浄方法では、ワークの全面が隈なく洗浄されるので、被洗浄物が微小凹凸面を有していても、この微小凹凸面を含む被洗浄面全域に存する付着物に対し、之をより効率良く除去することができる。
【0073】
更に又、被洗浄物をダイシングテープに貼り付けダイシングテープを真空吸着で固定し、100rpmから25000rpmの高速で回転し、洗浄ノズルを回転テーブルの中心から径方向外側に移動させる洗浄方法では、洗浄中の回転や洗浄ノズルからのバブリングなので、電気的に胞弱なデバイスが静電気破壊を起こすことがある。
【0074】
pHやマイクロバブルのサイズで気泡に任意のゼータ電位が生じさせることにより、被洗浄物より効率よく電荷を除去し、静電気破壊を効率よく改善することができる。
【0075】
本発明は、上記の実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。例えば、洗浄ノズルの角度や位置等は、ワークの洗浄条件等に応じて各種の変形例が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ワークの洗浄時にノズルから洗浄水を供給するシステムであれば、被洗浄物や洗浄装置の種類や型式を問わず全て適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 ダイシング装置
14 加工部
16 洗浄部
16A スピン洗浄装置
21 制御部(制御装置)
41 洗浄ノズル
45 給水管
49 マイクロナノバブル発生器
51 圧力維持バルブ
55 アーム
59 スピンナーテーブル(回転テーブル)
W ワーク(被洗浄物)
F フレーム(ワーク支持体)
T ダイシングテープ(粘着テープ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク支持体上に固定された切削加工後のワークに、ノズルから吐出した洗浄水を供給する洗浄水の供給装置において、
前記ノズルに接続した給水管には、純水中にマイクロナノバブルを発生させるマイクロナノバブル発生器が接続され、前記ノズルの先端はワークの被洗浄部の近傍に配置され、マイクロナノバブルを含む洗浄水をワークの被洗浄部に供給できるように構成したことを特徴とする洗浄水の供給装置を提供。
【請求項2】
上記ノズルの吐出口部近傍には、上記洗浄水の水圧を保持する圧力維持バルブが設けられていることを特徴とする請求項1記載の洗浄水の供給装置。
【請求項3】
上記圧力維持バルブの断面積は、上記ノズルの吐出口の断面積よりも小さく、前記圧力維持バルブの水圧が前記ノズルの水圧よりも高くなるように構成したことを特徴とする請求項2記載の洗浄水の供給装置。
【請求項4】
ワーク支持体上に固定された切削加工後のワークに、ノズルから吐出した洗浄水を供給する洗浄水の供給方法において、
前記洗浄水として、純水中にマイクロナノバブルを含ませたものを用い、洗浄中に、マイクロナノバブルを含む洗浄水を前記ノズルからワークの被洗浄部に供給することを特徴とする洗浄水の供給方法。
【請求項5】
上記ワークが回転テーブル上に固定され、上記ノズルを前記回転テーブルの中心から径方向外側にスキャンさせながらワークを洗浄することを特徴とする請求項4記載の洗浄水の供給方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−115278(P2013−115278A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260992(P2011−260992)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【Fターム(参考)】