説明

洗浄水タンク装置

【課題】 洗浄水タンクの排水口端の水位まで洗浄水を排出できるとともに、排水弁の閉止音の発生をなくす。
【解決手段】 底部に排水口を形成した洗浄水を貯水するタンクと、前記排水口を開閉する弁体と、前記弁体に連結された連結部材と、この連結部材を引き上げて弁体を開弁し大流量洗浄及び小流量洗浄の操作を行なう操作手段と、前記弁体の閉弁動作を規制するために上下に移動可能に前記弁体と連携したピストン部を内挿し前記ピストン部が上下移動することにより前記タンクに貯水された洗浄水が流入排出する通水穴を有するシリンダー部と、前記大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合で前記ピストン部の下降速度を切替える下降速度切替手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】水洗式便器に洗浄水を供給するための洗浄水タンク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の洗浄水タンク装置の例を以下に示す。図12に大流量洗浄時の排水弁の挙動を、図13に小流量洗浄時の排水弁の挙動を示す。排水弁は洗浄水タンクの底部56に大流量洗浄用の大口径排水弁50と、この大口径排水弁50の上部に重畳して配設された小流量洗浄用の小口径排水弁51で構成している。大口径排水弁50、小口径排水弁51は各々異なった大用浮玉52と小用浮玉53を備え、図示しない洗浄操作レバーと各々玉鎖54、55と連結している。大流量洗浄時には洗浄操作レバーを大流量洗浄側に操作して、図12の(a)に示すように玉鎖54を引き上げて大口径排水弁50を開弁する。このとき、小口径排水弁51を大口径排水弁50の上に重畳した状態で共に引き上げる。その後洗浄タンク内の洗浄水が排出されるに伴って図12の(b)、(c)に示すように水位21が下降し、図12の(d)に示す位置まで下降して大口径排水弁50が閉弁状態となり、便器への洗浄水供給が停止する。小流量洗浄時には洗浄操作レバーを小流量洗浄側に操作して、図13の(a)に示すように玉鎖55を引き上げて小口径排水弁51のみを引き上げて開弁する。その後洗浄タンク内の洗浄水が排出されるに伴って図13の(b)、(c)に示すように水位21が下降し、図13の(d)に示す位置まで下降して小口径排水弁50が閉弁状態となり、便器への洗浄水供給が停止する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前述した従来例では、その排水弁の閉止機構は浮玉の浮力を利用したものであるため、洗浄水タンク内の水位が下がり浮力が低下すると排水弁が閉じてしまう。そのため排水口端までの水位の水を排出する前に排水弁が閉じるため、その際の水位は必ず排水口上端57より数十mm上部となる。そのため規定の排水量を確保するにはその分初期水位が高くなる。また排水弁が閉じる際、重力により勢いよく閉まるので閉止音が発生し使用者に不快を与えることがある。そこで、本発明は排水口端の水位までの水を排出できるとともに、閉止音の発生をなくした洗浄水タンク装置を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段および作用・効果】請求項1に記載の洗浄水タンク装置は、底部に排水口を形成した洗浄水を貯水するタンクと、前記排水口を開閉する弁体と、前記弁体に連結された連結部材と、この連結部材を引き上げて弁体を開弁する操作手段と、前記弁体の閉弁動作を規制するために上下に移動可能に前記弁体と連携したピストン部を内挿し前記ピストン部が上下移動することにより前記タンクに貯水された洗浄水が流入排出する通水穴を有するシリンダー部と、を備えたことを特徴とする。このような構造とすることで、洗浄操作後ピストン部がシリンダー部内の水を通水穴を介してタンク内に排出しながら下降し、それに伴って弁体が閉弁動作を行なう。このときシリンダー部に設けられた通水穴の面積を所定の面積に、またシリンダー部とピストン部との隙間を所定の隙間に調節することによりピストン部が下降する時間つまり弁体が降下する時間を制御でき、弁体が着座する排水口端位置までの水をすべて排出させることができる。タンク底部の貯水を有効に使えるため規定の洗浄水量を確保しようとするならばタンク洗浄水の初期水位を下げることができ、ローシルエット便器への対応が考えられる。また、弁体はピストン部との連結部材が張った状態でゆっくりと閉まるため弁体の閉止音は発生しない。
【0005】請求項2に記載の洗浄水タンク装置は、前記ピストン部の下降速度を調節する下降速度調節手段を備えたことを特徴とする。このような構成とすることで、弁体が弁座に着座する時間が制御でき便器に応じて最適な水量の洗浄水を供給することができる。
【0006】請求項3に記載の洗浄水タンク装置は、前記通水穴の開口面積を調節する開口面積調節手段を備えたことを特徴とする。このような構成とすることで、通水穴の面積を調節され容易にピストン部の下降速度が調節でき、弁体の閉止時間を調節することができる。
【0007】請求項4に記載の洗浄水タンク装置は、前記開口面積調節手段が前記通水穴内に進入後退可能なスライド部材で構成され、このスライド部材により前記通水穴の一部を閉塞することを特徴とする。このような構成とすることで、スライド部材を通水穴内に進入させて通水穴の一部を閉塞して簡単に通水穴の開口面積を可変でき、ピストン部の下降速度及び弁体の閉弁時間の調節が容易に行なえる。スライド部材の通水穴内への進入後退は、通水穴と対向する面から行なってもよいし、通水穴と並行する方向で行なってもよい。
【0008】請求項5に記載の洗浄水タンク装置は、前記スライド部材に前記通水穴の開口面積より小さく開口面積が異なる複数の開口部を設け、スライド部材が前記通水穴内に進入したときに前記複数の開口部のいずれかと前記通水穴とが連通することを特徴とする。このような構成とすることで、便器に応じてスライド部材に設けた複数の開口部のいずれかと前記通水穴を連絡することにより、前記便器に最適な洗浄水が供給される。
【0009】請求項6に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部に逆止弁を設け、前記ピストン部が上昇するときに前記逆止弁が開弁してシリンダ部内に洗浄水が流入し、前記ピストン部が下降するときに閉弁することを特徴とする。このような構成とすることで、ピストン部を引き上げるときにシリンダー部内に洗浄水の流入がスムースに行われ、引き上げる荷重すなわち操作手段の操作力が軽くなり、また、操作手段による引き上げ操作を開放した後、ピストン部が下降するときは逆流防止弁が閉弁するのでピストン部の下降速度への影響が少ない。
【0010】請求項7に記載の洗浄水タンク装置は、前記逆止弁を前記通水穴とこの通水穴を直接開放閉鎖するフラッパーで構成したことを特徴とする。このような構成とすることで、ピストン部を引き上げるときにフラッパーが開放され通水穴が開口されてシリンダー部内に洗浄水の流入がスムースに行われ、引き上げる荷重すなわち操作手段の操作力が軽くなり、また、操作手段による引き上げ操作を開放した後、ピストン部が下降するととともにフラッパーが通水穴を閉鎖する。ピストン部が下降するときシリンダー部内に流入した洗浄水は、ピストン部とシリンダー部の隙間から流出する。
【0011】請求項8に記載の洗浄水タンク装置は、底部に排水口を形成した洗浄水を貯水するタンクと、前記排水口を開閉する弁体と、前記弁体に連結された連結部材と、この連結部材を引き上げて前記弁体を開弁し大流量洗浄及び小流量洗浄の操作を行なう操作手段と、前記弁体の閉弁動作を規制するために上下に移動可能に前記弁体と連携したピストン部を内挿し前記ピストン部が上下移動することにより前記タンクに貯水された洗浄水が流入排出する通水穴を有するシリンダー部と、前記大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合で前記ピストン部の下降速度を切替える下降速度切替手段と、を備えたことを特徴とする。このような構成とすることで、大流量洗浄または小流量洗浄のいずれの場合も洗浄操作後ピストン部がシリンダー部内の水を通水穴を介してタンク内に排出しながら下降し、それに伴って弁体が閉弁動作を行なう。このときシリンダー部に設けられた通水穴の面積を所定の面積に、またシリンダー部とピストン部との隙間を所定の隙間に調節することによりピストン部が下降する時間つまり弁体が降下する時間を制御でき、弁体が着座する排水口端位置までの水をすべて排出させることができる。タンク底部の貯水を有効に使えるため規定の洗浄水量を確保しようとするならばタンク洗浄水の初期水位を下げることができ、ローシルエット便器への対応が考えられる。また、弁体はピストン部との連結部材が張った状態でゆっくりと閉まるため弁体の閉止音は発生しない。
【0012】請求項9に記載の洗浄水タンク装置は、前記下降速度切替手段が前記大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合とにより前記通水穴の開口面積を調節切替する開口面積調節切替手段であることを特徴とする。このような構成とすることで、大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合のそれぞれに応じて通水穴の面積を調節し容易にピストン部の下降速度が調節できる。また、大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合のそれぞれに応じて弁体の閉止時間を調節することができる。
【0013】請求項10に記載の洗浄水タンク装置は、前記開口面積調節切替手段が、前記シリンダー部を前記ピストン部の上下移動により振り子状に揺動可能に軸支して前記大流量洗浄の操作時と小流量洗浄の操作時とでの前記シリンダー部の揺動方向が異なる方向とし、前記シリンダー部が揺動することにより小流量洗浄操作時に前記通水穴を開放し、大流量洗浄操作時に前記通水穴を閉塞するか若しくはその開口面積を小流量洗浄時の前記開口面積より小さくするための閉塞部材を備えたことを特徴とする。このような構成とすることで、洗浄操作時においてシリンダー部が揺動するだけで大流量洗浄、小流量洗浄の切り替えができる。
【0014】請求項11に記載の洗浄水タンク装置は、前記開口面積調節切替手段を前記シリンダー部と前記閉塞部材で構成し、前記閉塞部材に前記タンク内と連通する連通孔を設け、前記小流量洗浄の場合に前記通水穴と前記連通孔とが連絡することを特徴とする。このような構成とすることで、簡単な構造で通水穴の開口面積を調節する機構が実現できる。
【0015】請求項12に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部の上方側部に上方に向って据え広がり状のスリット部を設けるとともに、前記ピストン部に前記スリット部に内装される突部を設けこの突部が前記ピストン部が上下移動するときに前記スリット部の左右側部のいずれかに当接して前記シリンダー部を揺動させることを特徴とする。このような構成とすることで、シリンダー部を揺動させるために特別な機構を必要とせずピストン部を上下移動だけでシリンダー部を容易に揺動させることができる。
【0016】請求項13に記載の洗浄水タンク装置は、前記通水穴内に進入後退可能なスライド部材を備え、このスライド部材により前記通水穴の一部を閉塞することを特徴とする。このような構成とすることで、スライド部材を通水穴内に進入させて簡単に通水穴の開口面積を可変でき、ピストン部の下降速度及び弁体の閉弁時間の調節が容易に行なえる。
【0017】請求項14に記載の洗浄水タンク装置は、前記スライド部材に前記通水穴の開口面積より小さく開口面積が異なる複数の開口部を設け、スライド部材が前記通水穴内に進入したときに前記複数の開口部のいずれかと前記通水穴とが連通することを特徴とする。このような構成とすることで、便器に応じてスライド部材に設けた複数の開口部のいずれかと前記通水穴を連絡することにより、前記便器に最適な洗浄水が供給される。
【0018】請求項15に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部に逆止弁を設け、前記ピストン部が上昇するときに前記逆止弁が開弁してシリンダ部内に洗浄水が流入し、前記ピストン部が下降するときに閉弁することを特徴とする。このような構成とすることで、ピストン部を引き上げるときにシリンダー部内に洗浄水の流入がスムースに行われ、引き上げる荷重すなわち操作手段の操作力が軽くなり、また、操作手段による引き上げ操作を開放した後、ピストン部が下降するときは逆流防止弁が閉弁するのでピストン部の下降速度への影響が少ない。
【0019】請求項16に記載の洗浄水タンク装置は、前記逆止弁を前記通水穴とこの通水穴を直接開放閉鎖するフラッパーで構成したことを特徴とする。このような構成とすることで、ピストン部を引き上げるときにフラッパーが開放され通水穴が開口されてシリンダー部内に洗浄水の流入がスムースに行われ、引き上げる荷重すなわち操作手段の操作力が軽くなり、また、操作手段による引き上げ操作を開放した後、ピストン部が下降するととともにフラッパーが通水穴を閉鎖する。ピストン部が下降するときシリンダー部内に流入した洗浄水は、ピストン部とシリンダー部の隙間から流出する。
【0020】請求項17に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部を前記タンク内に配設したオーバーフロー管に係止することを特徴とする。このような構成とすることで、シリンダー部、ピストン部がタンク内に内装されタンクの外観を損なうことがない。
【0021】請求項18に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部を前記オーバーフロー管にスライド可能に係止することを特徴とする。このような構成とすることで、便器に供給する洗浄水供給量、タンク内の洗浄水の貯水水位に応じてシリンダー部を最適な位置に設置することが容易にできる。
【0022】請求項19に記載の洗浄水タンク装置は、前記シリンダー部を前記タンクの上端部に係止することを特徴とする。このような構成とすることで、例えばシリンダー部にタンクの上端部に引っ掛かるような部位を設け、その部位をタンクに引掛けるだけでタンクへの組み付けが簡単に行なえる。
【0023】請求項20に記載の洗浄水タンク装置は、前記連結部材が前記操作手段と直接連結され、前記ピストン部に前記連結部材の中途を係止することを特徴とする。このような構成とすることで、操作レバーハンドルと連結したアーム部などの操作手段とピストン部とを連結する玉鎖などの連結部材と、ピストン部と弁体とを連結する連結部材を別々に設ける必要がなく、構造が簡単で、組み立ても容易となる。
【0024】請求項21に記載の洗浄水タンク装置は、前記連結部材が前記操作手段と前記ピストン部とを連結する第1の連結部材と、前記ピストン部と前記弁体とを連結する第2の連結部材とで構成することを特徴とする。このような構造とすることで、操作手段と、ピストン部と、弁体の各々の配置に多少の変更があっても容易に対応できる。
【0025】請求項22に記載の洗浄水タンク装置は、前記連結部材を係止するために前記ピストン部に連結部材係止部を設けたことを特徴とする。このような構造とすることで、所定の位置への連結部材の係止が可能となる。
【0026】請求項23に記載の洗浄水タンク装置は、前記連結部材係止部が前記突部と兼用していることを特徴とする。このような構造とすることで、ピストンと連結部材の連結部をシリンダーの側面から外へ突起した部分に設けることができるので連結部材の接続が容易になると共に、連結部材の絡み、ねじれも防止することができる。
【0027】請求項24に記載の洗浄水タンク装置は、前記ピストン部が前記シリンダー部内を上下移動する際にシリンダー部に対して回転移動することを特徴とする。このような構成とすることで、ピストン部とシリンダー部との間隙に異物などが進入してもピストン部の上下回転移動によりシリンダー部内をセルフクリーニングすることとなる。
【0028】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実態の形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る一実施例の大流量洗浄と小流量洗浄の大小切替洗浄を行なう洗浄水タンク装置の初期状態を示す部分断面図である。図2は図1の右側面図である。図3は小流量洗浄の操作を行なった直後の洗浄水タンク装置の状態を示す部分断面図である。図4は大流量洗浄の操作を行なった後、弁体の閉止途中の洗浄水タンク装置の状態を示す部分断面図である。タンクの排水口部22に排水口筒部1とオーバーフロー筒部2とを備えた排水バルブ本体部3を固定している。排水バルブ本体部3には掛り部4を設け、この掛り部4に一端を支持しこれを中心にして回動するように浮力を有する排水弁(弁体)5が支持されている。オーバーフロー筒部2の所定の高さ位置に固定板7が固定部材7aを介して取り付けている。この固定板7の下部に貫通した連通孔6、上部に回転軸17を設けている。この回転軸17にシリンダー部12が紙面に対して前後方向に揺動するように軸支されている。
【0029】シリンダー部12はその内側に上下移動するピストン部16を隙間18を形成して内挿している。また、その下部先端部に通水穴10を穿設し、シリンダー部12の内側に通水穴10を開閉するフラッパー9を設けている。このフラッパー9はピストン部16が上昇することにより通水穴10を開放し下降することにより閉鎖するように作用する。また、シリンダー部12の下部でシリンダー部12がいずれか一方に傾いた時(本実施例においては、後述する小流量洗浄の時)に連通孔6と連絡する位置に通水穴8を穿設している。また、上部側面には逆三角形状のスリット11を開設している。
【0030】ピストン部16の上部にはスリット11からシリンダー部12の外側に突出する掛り突部15を設けている。この掛り突部15に排水弁5と図示しない操作レバーハンドル(操作手段)と連結されたアーム13とを連結する玉鎖14の中途を着脱自在に取り付けている。また、玉鎖14のアーム13と掛り突部15との間の長さおよび掛り突部15と排水弁5との間の長さは、所定の弛みを持たせたものとしている。アーム13は洗浄操作前の初期状態において、シリンダー部12の上位置をほぼ中心として左右に振り子状に揺動し、玉鎖14を左右の斜め上方に引上げられる位置にある。21はタンク内の洗浄水の水位である。
【0031】つぎに、大流量洗浄時のシリンダー部12とピストン部16の挙動を説明する。図5はシリンダー部12とピストン部16の挙動を示す断面図で、図6は図5の外観図である。図5、6の(a)は洗浄前の初期状態である。ピストン部16は最下点に位置しフラッパー9を押して通水穴10を閉鎖している。また、通水穴8と連通孔6とは非連通の状態である。ピストン16の上部に設けられ掛り突部15は逆三角形状のスリット11の最下部に位置している。
【0032】この状態から図示しない操作レバーハンドルを大流量洗浄側に操作するとアーム13が図2に示す矢印Xの方向に回転してピストン部16を斜め左上方に引上げる。すると図5の(b)に示すようにシリンダー部12は固定板7との回転軸17を中心に同方向にストッパー(図示しない)により定められた角度だけ傾斜する。図5の(a)から(b)に移行する間は掛か突部15と排水弁5との間の玉鎖14の部分は弛んだ状態にあり排水弁5は引き上げられない。また、シリンダー部12内にはフラッパー9が開き通水穴10より洗浄水が注入される。
【0033】さらにピストン部16を引き上げると掛り突部15をスリット11の左側縁部11aに沿わせシリンダー部12に対し右回りの回転を伴い引上げられ[図5R>5の(c)]、同時に排水弁5が開く。このときシリンダー部12内には引き続いて逆止弁9が開き通水穴10より洗浄水が注入される。シリンダー部12に設けられたもう一つの通水穴8は、固定板7に塞がれているため水の流出は殆どない。
【0034】ピストン部16が最上部まで引上げられた後[図5の(c)]、ピストン部16は自重でシリンダー部12内の水をピストン部16とシリンダー部12の隙間18を介してスリット11より排出しながら、且つピストン部16は掛り突部15をスリット11に沿わせシリンダー部12に対し左回りの回転を伴いながら下降し始める[図5の(d)]。このとき通水穴10はフラッパー9が閉じているため通水穴10からの排出はない。また当初排水弁5は浮力により浮いているためピストン部16への荷重は掛からないが(図2)、水位が下がり排水弁5に掛かる水頭圧と重力が浮力に勝り始めると排水弁5は下降し始め、ある時排水弁5とピストン部16を連結する鎖14が張り、ピストン部16は排水弁5の荷重も受け下降することになる。しかし、ピストン部16が下降する抵抗が大きいため排水弁5はピストン部16と連動してゆっくりと閉まり[図5の(e)]、その間に排水口筒部1の上端の水位までの水を排出完了する。
【0035】つぎに、小流量洗浄時のシリンダー部12とピストン部16の挙動を説明する。図7と図8は小洗浄時のシリンダー部12とピストン部16の挙動を示した断面図および外観図である。図7、8の(a)は洗浄前の初期状態である。ピストン部16は最下点に位置しフラッパー9を押して連通孔10を閉鎖している。また、通水穴8と連通孔6とは非連通の状態である。ピストン16の上部に設けられ掛り突部15は逆三角形状のスリット11の最下部に位置している。
【0036】この状態から図示しない操作レバーハンドルを小流量洗浄側に操作するとアーム13が図2に示す矢印Yの方向に回転してピストン部16を斜め右上方に引上げる。すると図7の(b)に示すようにシリンダー部12は固定板7との回転軸17を中心に同方向にストッパー(図示しない)により定められた角度だけ傾斜する。図7の(a)から(b)に移行する間は、掛り突部15と排水弁5との間の玉鎖14の部分は弛んだ状態にあり排水弁5は引き上げられない。また、シリンダー部12内にはフラッパー9が開き通水穴10から洗浄水が注入される。また、シリンダー部12が傾斜して連通孔6と通水穴8とが重なりあって連通した状態となる。
【0037】さらにピストン部16を引き上げると掛り突部15をスリット11の右側縁部11bに沿わせシリンダー部12に対し左回りの回転を伴い引上げられ[図7R>7の(c)]、同時に排水弁5が開く。このときシリンダー部12内には引き続いてフラッパー9が開き通水穴10より洗浄水が注入されると共に、シリンダー部12に設けられた通水穴8からも水が注入される。
【0038】ピストン部16が最上部まで引上げられた後[図7の(c)]、ピストン部16は自重でシリンダー12内の水を開口した連通孔6、通水穴8と、ピストン部16とシリンダー部12との隙間18介してスリット11とから排出しながら、且つピストン16部は掛り突部15をスリット11に沿わせシリンダー部12に対し右回りの回転を伴いながら下降し始める[図7の(d)]。このとき通水穴10はフラッパー9が閉じているため通水穴10からの排出はない。また当初排水弁5は浮力により浮いているためピストン部16への荷重は掛からないが(図2)、水位が下がり排水弁5に掛かる水頭圧と重力が浮力に勝り始めると排水弁5は下降し始め、ある時排水弁5とピストン部16を連結する玉鎖14が張り、ピストン部16は排水弁5の荷重も受け下降することになる(図3)。ピストン部16が下降する抵抗は大流量洗浄時の抵抗に比べ小さく、排水弁5はピストン部16と連動して大流量洗浄時に比べ早く閉まり[図7の(e)]、少ない洗浄水量を便器に供給することになる。
【0039】大流量洗浄時及び小流量洗浄時の便器への洗浄水量は、ピストン部16とシリンダー部12の隙間18の大きさ、連通孔6、通水穴8の開口面積を調節することにより可能である。
【0040】図9、10、11に通水穴8の開口面積を調節する例を示す。図9は通水穴8にその開口面積を調節するスライド部材を挿入した状態を示す部分断面図である。図10は図9の右側面部分断面図である。図11はスライド部材の正面図である。19はスライド部材で複数の口径の異なる3ヶの貫通孔20a、20b、20cを穿設している。貫通孔20a、20b、20cの口径は、通水穴8の口径よりも小さく、連通孔6と通水穴8の口径はほぼ同口径としている。スライド部材19は図9の紙面に対して上下にスライドするようにしてシリンダー部12に挿入している。このような構成において、通水穴8とスライド部材19の貫通孔20a、20b、20cのいずれかと連通させることにより便器への洗浄水量を調節できる。前記スライド部材に設けた貫通孔も必要に応じてその口径、個数を変えることもできる。また、スライド部材19は固定板7側に挿入するようにしてもよい。また、シリンダー部12の動きに支障がなく連通孔6、通水穴8の開口面積を調節できる機構であれば上記に示す例には限定されない。
【0041】上記実施例においてはシリンダー部12を固定板7を介してオーバーフロー管2に取り付けているが、固定板7にタンクの側壁上端部に係止する係止部を設けてそれをタンクの側壁上端部に引掛けるようにすることもできる。
【0042】また、上記実施例においては大流量洗浄と小流量洗浄の大小切替洗浄を行なう洗浄水タンク装置で説明したが、大小切替洗浄を行なわない洗浄水タンク装置でも本発明は適用できる。この場合、上記実施例で説明した大流量洗浄または小流量洗浄のいずれか一方の機能を採用することにより実現することができるし、またはシリンダー部が回転しない機構でも実現できる。
【0043】また、上記実施例においてはアーム13、ピストン部16、排水弁5の相互を連結する連結部材として玉鎖を用いたが、リング鎖、線材、細長い板状部材などでもよい。また、前記連結部材の材質としては金属でもよいし樹脂でもよい。
【0044】
【発明の効果】本発明に係る洗浄水タンク装置によれば、タンクの排水口端の水位まで水を排出できるとともに排水弁の閉止音の発生をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る一実施例の大流量洗浄と小流量洗浄の大小切替洗浄を行なう洗浄水タンク装置の初期状態を示す部分断面図。
【図2】図1の右側面図である。
【図3】小流量洗浄の操作を行なった直後の洗浄水タンク装置の状態を示す部分断面図。
【図4】大流量洗浄の操作を行なった後、弁体の閉止途中の洗浄水タンク装置の状態を示す部分断面図である。
【図5】大流量洗浄時のシリンダー部12とピストン部16の挙動を説明する断面図。
【図6】図5の外観図。
【図7】小流量洗浄時のシリンダー部12とピストン部16の挙動を説明する断面図。
【図8】図7の外観図。
【図9】通水穴8にその開口面積を調節するスライド部材を挿入した状態を示す部分断面図。
【図10】図9の右側面部分断面図。
【図11】スライド部材の正面図。
【図12】従来の洗浄水タンク装置の大流量洗浄時の排水弁の挙動を示す図。
【図13】従来の洗浄水タンク装置の小流量洗浄時の排水弁の挙動を示す図。
【符号の説明】
1…排水口筒部
1a…排水口上端
2…オーバーフロー筒部
3…排水バルブ本体部
4…掛り部
5…排水弁
6…連通孔
8、10、23…通水穴
7…固定板
7a…固定部材
9…フラッパー
11…スリット
12…シリンダー部
13…アーム
14…玉鎖
15…掛り突部
16…ピストン部
17…回転支持点
18…隙間
19…スライド部材
20a、20b、20c…貫通孔
21…水位
22…排水口部
50…大口径排水弁
51…小口径排水弁
52…大用浮玉
53…小用浮玉
54、55…玉鎖
56…洗浄タンクの底部
57…排水口上端

【特許請求の範囲】
【請求項1】 底部に排水口を形成した洗浄水を貯水するタンクと、前記排水口を開閉する弁体と、前記弁体に連結された連結部材と、この連結部材を引き上げて前記弁体を開弁する操作手段と、前記弁体の閉弁動作を規制するために上下に移動可能に前記弁体と連携したピストン部を内挿し前記ピストン部が上下移動することにより前記タンクに貯水された洗浄水が流入排出する通水穴を有するシリンダー部と、を備えたことを特徴とする洗浄水タンク装置。
【請求項2】 前記ピストン部の下降速度を調節する下降速度調節手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項3】 前記通水穴の開口面積を調節する開口面積調節手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項4】 前記開口面積調節手段が前記通水穴内に進入後退可能なスライド部材で構成され、このスライド部材により前記通水穴の一部を閉塞することを特徴とする請求項3に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項5】 前記スライド部材に前記通水穴の開口面積より小さく開口面積が異なる複数の開口部を設け、スライド部材が前記通水穴内に進入したときに前記複数の開口部のいずれかと前記通水穴とが連通することを特徴とする請求項4に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項6】 前記シリンダー部に逆止弁を設け、前記ピストン部が上昇するときに前記逆止弁が開弁してシリンダ部内に洗浄水が流入し、前記ピストン部が下降するときに閉弁することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項7】 前記逆止弁を前記通水穴とこの通水穴を直接開放閉鎖するフラッパーで構成したことを特徴とする請求項6に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項8】 底部に排水口を形成した洗浄水を貯水するタンクと、前記排水口を開閉する弁体と、前記弁体に連結された連結部材と、この連結部材を引き上げて前記弁体を開弁し大流量洗浄及び小流量洗浄の操作を行なう操作手段と、前記弁体の閉弁動作を規制するために上下に移動可能に前記弁体と連携したピストン部を内挿し前記ピストン部が上下移動することにより前記タンクに貯水された洗浄水が流入排出する通水穴を有するシリンダー部と、前記大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合で前記ピストン部の下降速度を切替える下降速度切替手段と、を備えたことを特徴とする洗浄水タンク装置。
【請求項9】 前記下降速度切替手段が前記大流量洗浄の場合と小流量洗浄の場合とにより前記通水穴の開口面積を調節切替する開口面積調節切替手段であることを特徴とする請求項8に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項10】 前記開口面積調節切替手段が、前記シリンダー部を前記ピストン部の上下移動により振り子状に揺動可能に軸支して前記大流量洗浄の操作時と小流量洗浄の操作時とでの前記シリンダー部の揺動方向が異なる方向とし、前記シリンダー部が揺動することにより小流量洗浄操作時に前記通水穴を開放し、大流量洗浄操作時に前記通水穴を閉塞するか若しくはその開口面積を小流量洗浄時の前記開口面積より小さくするための閉塞部材を備えたことを特徴とする請求項9に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項11】 前記開口面積調節切替手段を前記シリンダー部と前記閉塞部材で構成し、前記閉塞部材に前記タンク内と連通する連通孔を設け、前記小流量洗浄の場合に前記通水穴と前記連通孔とが連絡することを特徴とする請求項9に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項12】 前記シリンダー部の上方側部に上方に向って据え広がり状のスリット部を設けるとともに、前記ピストン部に前記スリット部に内装される突部を設けこの突部が前記ピストン部が上下移動するときに前記スリット部の左右側部のいずれかに当接して前記シリンダー部を揺動させることを特徴とする請求項10または11に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項13】 前記通水穴内に進入後退可能なスライド部材を備え、このスライド部材により前記通水穴の一部を閉塞することを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項14】 前記スライド部材に前記通水穴の開口面積より小さく開口面積が異なる複数の開口部を設け、スライド部材が前記通水穴内に進入したときに前記複数の開口部のいずれかと前記通水穴とが連通することを特徴とする請求項13に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項15】 前記シリンダー部に逆止弁を設け、前記ピストン部が上昇するときに前記逆止弁が開弁してシリンダ部内に洗浄水が流入し、前記ピストン部が下降するときに閉弁することを特徴とする請求項8乃至14のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項16】 前記逆止弁を前記通水穴とこの通水穴を直接開放閉鎖するフラッパーで構成したことを特徴とする請求項15に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項17】 前記シリンダー部を前記タンク内に配設したオーバーフロー管に係止することを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項18】 前記シリンダー部を前記オーバーフロー管にスライド可能に係止することを特徴とする請求項17に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項19】 前記シリンダー部を前記タンクの上端部に係止することを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項20】 前記連結部材が前記操作手段と直接連結され、前記ピストン部に前記連結部材の中途を係止することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項21】 前記連結部材が前記操作手段と前記ピストン部とを連結する第1の連結部材と、前記ピストン部と前記弁体とを連結する第2の連結部材とで構成することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項22】 前記連結部材を係止するために前記ピストン部に連結部材係止部を設けたことを特徴とする請求項1乃至21のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。
【請求項23】 前記連結部材係止部が前記突部と兼用していることを特徴とする請求項22に記載の洗浄水タンク装置。
【請求項24】 前記ピストン部が前記シリンダー部内を上下移動する際にシリンダー部に対して回転移動することを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載の洗浄水タンク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図11】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2002−212997(P2002−212997A)
【公開日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−10952(P2001−10952)
【出願日】平成13年1月19日(2001.1.19)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】